説明

X線撮像装置

【課題】 感度を簡易に調整できるX線撮像装置、または、X線屈折量を簡易に抽出できるX線撮像装置を提供すること。
【解決手段】 第1エネルギーのX線と該第1エネルギーと異なる第2エネルギーのX線とを発生するX線源からのX線束を被測定物103に照射し、被測定物103の像を撮像するX線撮像装置は、減衰素子104と検出器105とを備える。減衰素子104は、被測定物103を透過したX線束を減衰させ、X線束の入射位置に応じてX線減衰量が異なるように構成されている。検出器105は、減衰素子104を透過したX線束を検出し、第1エネルギーのX線と第2エネルギーのX線とを検出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線透過像を撮像するX線撮像装置は、被測定物の内部構造を非破壊で可視化できるため、工業や医療などの様々な分野で使用されている。X線透過像のコントラストはX線の透過率の差に起因する。X線の透過率は、被測定物の構成元素、被測定物の密度および使用するX線のエネルギー(X線の波長)に依存する。したがって例えば、ソフトマテリアルや生体など、主に軽元素からなる被測定物ではX線の透過率が非常に大きく、周囲との密度差が小さい場合には、従来のX線撮像装置では視認性のある高コントラストの像を得難い。
【0003】
このような被測定物に対しても高コントラストの像を得るために、X線の位相差を検出するX線撮像方法が提案されている(非特許文献1)。位相差は、例えば物質の界面など密度差のある部分で屈折として現れる。非特許文献1記載の方法では、単色性の高いX線を被測定物に入射させ、被測定物を透過したX線の強度をX線減衰素子を介して検出している。非特許文献1記載の方法では、被測定物によるX線の屈折量の変化を検出強度の変化として捉えて位相差を検出している。非特許文献1記載の方法では、X線の位相情報(屈折量)を検出できるため、高コントラストの像を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yasushi KAGOSHIMA,「Scanning Differential−Phase−Contrast Hard X−Ray Microscopy with Wedge Absorber Detector。」,Japanese Journal of Applied Physics,Vol.43,No.11A,2004,pp.L1449−L1451
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1記載の方法では、単色性の高いX線を用いており、X線撮像装置の感度を簡易に調整できない。
【0006】
また、非特許文献1記載の方法では、被測定物でのX線の吸収が無視できるほど小さい場合を除き、検出されるX線強度は被測定物でのX線の吸収および屈折によって変化している。したがって、検出結果から屈折による変化(X線屈折量)を抽出する必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、感度を簡易に調整できるX線撮像装置、または、X線屈折量を簡易に抽出できるX線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としてのX線撮像装置は、第1エネルギーのX線と該第1のエネルギーと異なる第2エネルギーのX線とを発生するX線源からのX線束を被測定物に照射し、該被測定物の像を撮像するX線撮像装置であって、前記被測定物を透過した前記X線束を減衰させる減衰素子と、前記減衰素子を透過した前記X線束を検出する検出器と、を備え、前記減衰素子は、前記X線束の入射位置に応じてX線減衰量が異なるように構成されており、前記検出器は、前記第1エネルギーのX線と前記第2エネルギーのX線とを検出するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書における「第1エネルギーのX線と第2エネルギーのX線とを発生するX線源」は、第1エネルギーのX線および第2エネルギーのX線だけでなく、それ以外のエネルギーのX線も発生するX線源も含む。同様に、「第1エネルギーのX線と第2エネルギーのX線とを検出する検出器」は、第1エネルギーのX線および第2エネルギーのX線だけでなく、それ以外のエネルギーのX線の強度も検出する検出器を含む。
【発明の効果】
【0010】
感度を簡易に調整できるX線撮像装置、または、X線屈折量を簡易に抽出できるX線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】X線撮像装置の概略図
【図2】X線減衰素子104の概略図および透過率を表す図
【図3】X線減衰素子104aの概略図および透過率を表す図
【図4】X線減衰素子104bの概略図
【図5】X線検出器105の検出結果を表す図およびPF(Δy)を表す図
【図6】実施例4のX線撮像方法のフローチャート
【図7】実施例5のX線撮像方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
本発明の実施形態1のX線撮像装置を図1〜3を用いて説明する。図1は、実施形態1のX線撮像装置の概略図である。本実施形態のX線撮像装置は、X線源からのX線を被測定物に照射し、被測定物の像を撮像する装置である。本実施形態のX線撮像装置は、照射装置と、被測定物103を載置するステージ(不図示)と、X線減衰素子104と、X線検出器105と、コンピュータ(制御手段)とを備える。照射装置(照射ユニット)は、X線源101と、X線調整手段としての絞り102とを有する。コンピュータは、算出手段としての計算機106と表示手段としてのディスプレイ107とを有する。なお、図1における矢印は、X線を表している。
【0014】
X線源101は、互いに異なる少なくとも2つのエネルギーを持つX線を発生することができる(つまり、第1エネルギーのX線と第2エネルギーのX線とを発生できる。もちろん、更に第3のエネルギーのX線を発生できても良いし、第3および第4エネルギーのX線を発生できても良い。第1エネルギーと第2エネルギーとの差は、X線検出器105の分解能以上であることが好ましい。)。例えば、放射光のようにX線エネルギースペクトルが連続しているものや、X線管球を使用することができる。X線管球としては、制動X線、2つ以上の特性X線、または、制動X線および1つ以上の特性X線、を発生できるものを使用することができる。X線とは、波長が約0.01〜100Å(10−12〜10−8m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(λ=0.01〜1Å)を硬X線、波長の長いX線(λ=1〜100Å)を軟X線という。
【0015】
X線調整手段102は、X線源101から被測定物に投影されるX線の断面形状を調整するものであり、X線を空間的に制限または分割できる。X線調整手段102は、X線を遮蔽またはその目的に即して十分にX線を吸収する重金属等の吸収物質からなる遮蔽板に開口を設けることにより構成される。開口は、スリット状またはピンホール状であってもよく、それらを複数配列させたものであってもよい。或いは、X線調整手段として、ワイヤーグリッドと呼ばれる互いに間隔をおいて配置された多数の金属ワイヤ群を用いることもできる。X線調整手段102によって調整されたX線束は、被測定物103によって吸収および屈折を受け、X線減衰素子104に入射する。
【0016】
X線減衰素子104は、X線束の入射位置に応じて、X線減衰量が異なるように構成されている。したがって、被測定物103を透過する際の屈折によるX線の光路の位置ずれに応じて、X線減衰素子104を透過するX線の量が異なる。なお、本明細書において、「入射位置に応じてX線減衰量が異なる」とは、“少なくとも1方向における”入射位置に応じてX線の強度を減衰させる量が異なるという意味である。X線減衰素子104の具体的な実施例については後述する。
【0017】
X線検出器105は、第1エネルギー及び第2エネルギーのX線に対する感度を有するものであればよく、より好ましくは、X線のスペクトル分布を検出することができ、各エネルギーにおけるX線の強度を検出できるものであればよい。算出手段106は、X線検出器105で検出されたX線のエネルギーと強度の情報から、被測定物103に関する物理量を算出する。表示手段107は、算出手段106で算出された物理量を適宜表示する。X線検出器105としては、半導体検出器のようにX線のスペクトル分布を検出できる分光器を使用することができる。半導体検出器としては、例えばシリコンドリフト検出器を使用してもよい。
【0018】
被測定物103は、不図示の移動手段としてのステージ上に設けられている。被測定物103をステージで移動して被測定物103上をX線束で走査することにより、X線調整手段102によりX線束が1つしか形成されない場合でも、被測定物103全域を測定することができる。
【0019】
被測定物103の表面または内部において、密度、形状、または化学組成が変化する場合に、X線束は屈折する。したがって、被測定物103の存在によりX線束の光路がずれる。そのずれは、被測定物の密度変化、形状変化、化学組成変化、入射するX線のエネルギーなどに依存する。
【0020】
X線調整手段102からのX線束の強度をI、被測定物103を透過したX線束の強度をIとし、簡略化のため被測定物103の化学組成は一定であるとすると、式(1)のように表現できる。
(E,d)=I(E)・exp{−t(E)/les(E,d)} ・・・(1)
【0021】
ここでtは被測定物103を透過するX線の光路長、lesはX線の被測定物103に対する減衰長であり、指数項はX線の被測定物103に対する透過率である。またEはX線のエネルギー、dは被測定物103の密度である。被測定物103における屈折量Δθは、式(2)で表される。
Δθ(E,d)=Δ(δ(E,d)t(E)) ・・・(2)
【0022】
ここでδは被測定物103を構成する物質のX線に対する屈折率の1からのずれを示す。またδは、式(3)で表される。
δ(E,d)=(rλ/2π)Nf’(E) ・・・(3)
【0023】
ここでrは古典電子半径、λはX線の波長、Nは単位体積あたりの原子数、f’は原子散乱因子である。被測定物103が多種の原子で構成されている場合、Nf’は原子種ごとの足し合わせとなる。ここでλはエネルギーEと逆数の関係にあり、Nは密度dと線型関係にあるため、エネルギーEが低く密度dが高いほど屈折量は大きくなる。
【0024】
図2(a)にX線減衰素子104の概略図を示す。X線減衰素子104の位置において、被測定物103で屈折したX線束の光路203と、被測定物103が光路中に無い場合のX線束の光路202との間には位置のずれΔrが生じる。図2(b)に、X線減衰素子104のΔrに対する透過率の一例を示す。X線減衰素子104は、異なるΔrに対し異なる透過率を示すように構成されている。
【0025】
次に、算出手段106が行う計算について説明する。図2(b)に示すような関数をPFとする場合、X線検出器105により検出されるX線減衰素子104を透過したX線束の強度をIとすると式(4)のように表せる。
(E,d)=I(E)exp{−t(E)/les(E,d)}PF(Δr) ・・・(4)
したがって、Δrは、式(5)のように表せる。
Δr=PF−1(I(E,d)/{I(E)exp(−t(E)/les(E,d))}) ・・・(5)
ここでPF−1はPFの逆関数である。
【0026】
被測定物103による屈折量Δθは、被測定物103からX線減衰素子104までの距離をLとすると式(6)となる。また、位相変化量Δφは、式(7)から求めることができる。
Δθ = tan−1(Δr/L) ・・・(6)
Δφ = (2π/λ)Δθ ・・・(7)
被測定物103による吸収が無視できるほど小さい場合、式(4)の被測定物103による透過率の項(指数項)が1となる。よって、単色性の高い(単一エネルギーの)X線を用いる場合でも、式(5)から一義的にΔrを決定できる。Δrを決定できれば、式(6),(7)から屈折量,位相変化量を求めることができる。
【0027】
ところで、非特許文献1記載の方法のように単一エネルギーのX線を用いる場合、透過したX線束の位置ずれに対する感度を変化させるためには、距離L、X線減衰素子104の形状またはX線減衰素子104の材料のいずれかを変更することが考えられる。これに対して、本実施形態のX線撮像装置は、複数のエネルギーを持つX線を発生するX線源と当該複数のエネルギーを持つX線を検出するX線検出器とを使用している。また、そのX線検出器は複数のエネルギーのX線のそれぞれの強度を区別して検出できるだけのエネルギー分解能を持っている。そして、被測定物を透過したX線の屈折量はX線のエネルギーにより変化する。このため、本実施形態のX線撮像装置によれば、算出手段で用いるX線束のエネルギーを変更すれば、透過したX線の位置ずれに対する感度を変化させることができる。
【0028】
被測定物103による吸収が無視できないほど大きい場合、式(4)の被測定物103による透過率の項が1とならない。そのため、単一エネルギーのX線を用いる場合には、式(5)から一義的にΔrを決定できない。しかし、本実施形態のX線撮像装置では、複数のエネルギーのX線を測定に使用しているため、それぞれのエネルギーのX線に対して式(5)が得られる。また、被測定物103によるX線の屈折量は微小であり、エネルギーEの変化に応じた光路長tの変化は、非常に密度変化の大きい場合を除きほぼ無視してよいため、t(E)はエネルギーによらず一定とできる。したがって、2つ以上のEに対するI(E,d)を測定して、式(5)を連立させてΔr(E)、t(被測定物の厚みに相当する)およびdを求めることが可能である。またΔr(E)を求めることで、式(6),(7)から屈折量,位相変化量などの位相情報を算出できる。なお、以下のようにX線撮像装置の検出感度を簡易に変更することが可能である。すなわち、これらの物理量を算出するときに、より低いエネルギーEについてのI(E)を用いることで、同じ被測定物103に関してΔr(E)が大きくなる条件を設定し、感度を高くすることができる。
【0029】
以上、本実施形態のX線撮像装置によれば、X線束の光路の位置ずれに対する感度を簡易に調整できる。また、本実施形態のX線撮像装置によれば、被測定物103によるX線の吸収が無視できない場合にも、被測定物103によるX線の屈折量を簡易に抽出できる。更に、本実施形態のX線撮像装置では、X線源101で2つ以上のエネルギーを持つX線を発生し、X線検出器105でその2つ以上のエネルギーのX線のそれぞれの強度を同時に検出することができる。つまり、本実施形態のX線撮像装置によれば、2つ以上のEに対するI(E)の測定を一度に行うことが可能であり、別途吸収量を測定する必要がない。
【0030】
上述した実施形態以外にも、本発明に用いられるX線減衰素子としては、ライン状又は2次元行列状に配列された各領域毎に、その領域におけるX線束の入射位置に応じてX線減衰量が異なるように構成された素子を用いてもよい。このような素子はX線減衰素子アレイとみなすこともできる。
【0031】
同様に、本発明に用いられるX線検出器としては、第1エネルギー及び第2エネルギーのX線に対する感度を有するものであればよい。従って、当該X線をよりエネルギーの低い蛍光に変換する蛍光体と、当該蛍光を検出できる光検出器と、を組み合わせたX線検出器であってもよい。この場合、光検出器としては、単結晶シリコンを用いたCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサであってもよく、非単結晶シリコンを用いた薄膜フラットパネルイメージセンサであってもよい。
【0032】
上述したX線減衰素子アレイの場合の各領域と、上記イメージセンサの画素とは、1対1、1対多、又は多対1の関係をもって空間的に配置され得る。
【実施例1】
【0033】
本実施形態のX線撮像装置の実施例1について図3(a),図3(b)を用いて以下に説明する。
【0034】
本実施例では、X線源101としてターゲットがモリブデンである回転対陰極を用いている。また、X線調整手段102として、遮蔽板の材料がタンタルであり、開口のサイズが50μm×50μmである絞りを2つ用いている。この2つの絞りを光路に沿って配置することで、X線源からのX線を所定の断面を持つX線束に整形している。
【0035】
本実施例におけるX線減衰素子104aの断面形状を図3(a)に示す。図3(a)に示すX線減衰素子104aの形状は四角柱であり、X線減衰素子104aはタンタルからなる。なお、本実施例では、X線減衰素子104aの材料としてタンタルを用いたが、X線を十分に遮蔽する他の物質を用いてもよい。本実施例でも、被測定物103で屈折したX線束の光路402と、被測定物103が光路中に無い場合のX線束の光路403とには、位置ずれΔyが生じている。
【0036】
X線調整手段102からのX線束の断面サイズが、X線束の光路のずれに対し非常に小さい場合、関数PF(Δy)の形状は図3(b)の点線のように階段状となる。ただし、一般的には屈折によるX線束の光路のずれは非常に小さい。したがって、本実施例のようにX線束の断面サイズが光路のずれに対し十分に小さくない場合には、図3(b)の実線のようになる。したがって、本実施例のX線撮像装置では、図3(b)の実線における光路の位置ずれに対し透過率が一義的に変化する領域εにおいて、図3(a)に示すY軸方向の位置ずれΔyを検出し、前述したように被測定物103に関する物理量を算出することができる。なお、本実施例では、X線のY方向の入射位置に応じて、X線の強度を減衰させる量が異なるX線減衰素子104aを用いている。しかし、X方向およびY方向に垂直なZ方向の屈折量も求めたい場合には、X線のY方向およびZ方向の入射位置に応じて、X線の強度を減衰させる量が異なるX線減衰素子を用いてもよい。また、X線減衰素子104aをX軸(X線撮像装置の光軸)に関して90°回転させて別途測定をしてもよい。
【0037】
光路のずれが大きくなりすぎると透過率に変化が生じなくなり、ずれを検出できなくなる。このような場合には、X線検出器105の検出結果のうち高エネルギーのX線に関するものを算出手段106による計算に用いることで、感度を調整し、ずれを検出することができる。高エネルギーのX線の場合、被測定物103による屈折量が小さくなり、光路のずれが小さくなるためである。
【0038】
X線撮像装置の光路中にフィルタ(金属フィルタ、多層膜ミラーなど)を配置することで、算出手段106による計算に用いないエネルギー域のX線を除去しても良い。X線源101と被測定物103との間にフィルタを配置することで、余分なX線が被測定物103へ照射されることを避けることができ、被測定物103のX線による損傷を軽減できる。また、X線検出器105でのS/N比を向上させるため、散乱X線を除去できるグリッドなどの散乱X線除去手段をX線撮像装置に設けてもよい。
【0039】
なお、算出手段106による算出に用いるX線のエネルギーは3つ以上でもあってもよい。この場合、X線検出器105の検出値I(E)に含まれるノイズの影響などにより、算出された被測定物103の物理量が一定値を示さないことがある。このような場合には算出された物理量の集合に対し重心値を求めるなどの処理を施し、物理量の最適値を算出してもよい。
【実施例2】
【0040】
本実施形態のX線撮像装置の実施例2について図4〜図5を用いて以下に説明する。
【0041】
本実施例のX線撮像装置は、X線減衰素子105として図4に断面形状を示すようなX線減衰素子104bを用いている点において実施例1のX線撮像装置と異なる。X線減衰素子104bは、X線の吸収能があるステンレス鋼からなる。図4に示す破線602は、被測定物103がない場合のX線束の光路を示している。実線603は、被測定物103で屈折したX線束の光路を示している。X線減衰素子104bを透過するX線束の光路長を比べると、実線603で示した光路における光路長のほうが、破線602で示した光路における光路長よりも短くなっている。この場合にX線減衰素子104bを透過したX線束の強度を検出すると、破線602を光路とするX線束の強度よりも実線603を光路とするX線束の強度の方が強く検出される。実線605で示した光路にX線束が屈折された場合には、同様に光路長の違いにより、その強度は弱く検出される。本実施例において光路の位置ずれを検出できる方向は、位置ずれに対し透過率が変化する図4のY軸の方向である。
【0042】
光路の位置ずれΔyに対し、自身を透過するX線束の光路長が変化するようなX線減衰素子を用いる場合、さらにX線束の断面サイズがΔyより十分小さい場合、検出値Iは式(8)のように表すことができる。
(E,d)=I(E)・exp{−t(E)/les(E,d)}・exp{−l(E)/lep(E)} ・・・(8)
lは被測定物103により屈折したX線束の光路においてX線減衰素子を透過する光路長、lepはX線減衰素子を構成する物質のX線に対する減衰長である。
【0043】
図4に示したようにX線減衰素子104bの頂角をαとし、光路602であるときのX線束のX線減衰素子104bでの光路長をlとするとき、光路長l(E)は式(9)のように表せる。
l(E)=tan(α)・{lcot(α)−Δy(E)} ・・・(9)
ΔyとIの関係は、式(8)より式(10)のように表すことができる。
(E,d)=I(E)・exp{−t(E)/les(E,d)}・exp[−tan(α)・{lcot(α)−Δy(E)}/lep(E)] ・・・(10)
なお、lは装置に依存し、被測定物103がない状態での測定により、式(11)から求めることができる。
=−lep(E)・ln{I(E)/I(E)} ・・・(11)
【0044】
実際の測定では、被測定物103による屈折量が非常に小さいため、X線束の断面サイズをΔyよりも十分に小さくすることは難しい。また、X線調整手段102からのX線束は、その断面方向に強度分布や角度発散を持つ。さらにX線減衰素子の加工誤差なども検出値Iに影響を与えうる。それらの影響を考慮してPFを補正しても良いが、以下で説明するようにPF(Δy)を実測しても良い。
【0045】
まず、被測定物103がX線撮像装置の光路中に無い状態でX線減衰素子104bをY軸方向へ移動(並進走査)した場合にX線検出器105で得られる強度情報を、X線減衰素子104bの位置とともに図5(a)に示す。X線減衰素子104bの位置変化量は図4のΔyに相当する。これらの強度情報のうち特定のEに関するもののΔyに対する変化を求めることでPF(Δy)を得ることができる。ただし、図5(a)においてAで示したようなエネルギー領域ではX線の検出強度が小さく、強度情報のS/N比が低下することが予想される。このような場合には、強度情報について特定のエネルギー領域の区間和のΔyに対する変化からPF(Δy)を求めてもよい。エネルギー領域Aの強度の区間和をΔyに対しプロットしたものが図5(b)に示した測定値(実線)であり、規格化して表示している。また、X線束の断面サイズがΔyと比べて非常に小さい場合の、Δyに対する透過率曲線を計算値1(点線)として図5(b)に示す。図5(b)より、測定値(実線)は透過率曲線がΔy方向に引き伸ばされたものであることが分かる。このように透過率曲線が引き伸ばされる場合も、位置ずれに対する強度変化があれば、IからΔyを求めることが可能でありX線減衰素子として用いることができる。ここで図5(b)における測定値が示す変化はPF(Δy)に相当する。また図5(b)には、測定値(実線)に対するフィッティング曲線の値を計算値2として示している。この計算値2のように、良好に測定値を再現できるフィッティング関数をPF(Δy)として用いてよい。
【0046】
図5(a)のエネルギー領域A〜DのIの区間和をそれぞれΔyに対しプロットしたものを図5(c)に示す。図5(c)における強度が示す変化は、それぞれのエネルギー領域に対するPF(Δy)に相当する。すなわち本実施例2では、PF(Δy)の形状はEにも依存し、PF=PF(E,Δy)となる。したがって式(4),(5)は、式(12),(13)のように表される。
(E,d)=I(E)exp{−t(E)/les(E,d)}PF(E,Δy) ・・・(12)
Δy=PF−1(E,I(E,d)/{Iexp(−t(E)/les(E,d))}) ・・・(13)
【0047】
本実施例のX線減衰素子104bは、X線束の断面サイズ以上に光路がずれても、透過率の変化をX線検出器105で検出できるため、実施例1のX線減衰素子104aに比べて光路の位置ずれに対する感度域を広げることができる。なお、X線検出器105において検出された強度情報のS/N比が良い場合には、上記のように区間和をとらなくてよい。またS/N比が悪い場合には、上記のように区間和をとることにより、X線源101で発生するX線の強度が低い場合でもS/N比を向上させることができる。ただし、和をとる区間は、区間両端におけるエネルギーにおいて、被測定物103による屈折量の最大値の差が、X線調整手段102により調整されたX線束の発散角度を超えないような範囲にした方がよい。これは、エネルギーが幅をもつことによる収差が画質へ与える影響を低減するためである。
【0048】
算出手段106での算出に用いる強度情報として区間和した強度情報を使用する場合、単色X線での取り扱いのように被測定物103およびX線減衰素子104bの減衰長は一定とならない。そのため、和をとるエネルギー区間および光路長に応じて補正した減衰長を代わりに用いるとよい。ただし、被測定物103およびX線減衰素子104bにおける光路長が小さい場合には、減衰長を一定値として用いてよい。特に、X線検出器105で検出された強度情報のノイズ比よりも、被測定物103の減衰長の変化量の減衰長の中央値に対する比のほうが小さい場合には、減衰長を一定値として用いてよい。
【0049】
なお、本実施例ではX線減衰素子として、X線の入射位置に応じて形状(厚み)が変化する素子を使用した。しかし、X線減衰素子としては、X線の入射位置に応じてX線の透過率が変化する素子を用いれば良く、例えば、X線の入射位置に応じて密度分布または化学組成分布が変化する素子を用いても良い。例えば、X線の吸収能に違いのある2つの金属でX線減衰素子を構成し、その2つの金属の組成をX線の入射位置に応じて変化させてもよい。また、例えば、X線減衰素子をポーラス構造にして、そのポーラスの大きさまたは密度をX線の入射位置に応じて変化させてもよい。
【実施例3】
【0050】
本実施例のX線撮像装置は、X線調整手段102と、X線減衰素子104と、X線検出器105が実施例1と異なる。本実施例では、X線調整手段102として、タンタルからなる遮蔽板に複数のピンホール(直径60 μm)を2次元的に配列させた絞りを用いている。X線減衰素子104としては、実施例1または実施例2のX線減衰素子を2次元的に複数配列させた素子を用いている。X線検出器105としても、X線のスペクトル分布を検出することができるX線検出器を2次元的に複数配列させた検出器を用いている。
【0051】
X線源101からのX線は、X線調整手段102で複数のX線束に分割され、被測定物103に入射する。被測定物103を透過および屈折した複数のX線束のそれぞれは、X線減衰素子104の複数の素子のそれぞれを透過し、複数の検出器のそれぞれに入射する。
【0052】
本実施例のX線撮像装置によれば、X線調整手段102により分割されたX線束の数に応じて、被測定物上の複数の点に関する情報をX線検出器105で一度に検出することができる。したがって、本実施例のX線撮像装置は、実施例1または2のX線撮像装置と比べて、短時間で被測定物を測定できる。
【0053】
なお、本実施例においては、X線減衰素子104とX線検出器105とのX線撮像装置の光軸に垂直な方向の位置が合っている必要があるため、X線減衰素子104とX線検出器105との間隔を開けずにこれらを一体的に構成してもよい。
【実施例4】
【0054】
次に本実施形態のX線撮像装置を用いたX線撮像方法の実施例について説明する。図6は、実施例4のX線撮像方法のフローチャートである。
【0055】
まず、被測定物103を用意し、X線撮像装置のステージ上に配置する(ステップ101、以下S101)。X線調整手段102からのX線束を被測定物103に照射し、被測定物103およびX線減衰素子104を透過したX線束をX線検出器105で検出し、X線スペクトル分布を取得する(S102)。X線撮像装置のステージを移動して、被測定物103をX線束で走査し、被測定物103の各位置に対応するX線スペクトル分布を取得する。なお、ステージを移動せずX線束を動かすことによって、被測定物103をX線束で走査してもよい。
【0056】
次に、X線検出器105で検出したX線スペクトル分布のうち、所定エネルギーを持つX線の強度情報に基づいて、算出手段106により被測定物の像を算出(生成)する(S103)。そして、算出手段106の算出結果に基づいて、表示手段107で被測定物の像を表示する(S104)。または、あらかじめ様々なエネルギーの強度情報に基づき、算出手段106により被測定物の像を算出し、それぞれの像を表示手段107で一覧表示させても良い。
【0057】
ここで、検出感度が悪く、所望の像が得られない場合には、算出手段106による算出に用いるX線のエネルギーを、S102で取得したX線スペクトル分布の中で変更する(S106)。そして、再度、先のS103のときと異なるエネルギーのX線の強度分布に基づいて、算出手段106で被測定物の像を算出(生成)し(S103)、算出結果に基づいて、表示手段107で被測定物の像を表示する(S104)。本実施例のX線撮像方法によれば、検出器で検出した少なくとも2つ以上のX線の検出結果のうちいずれか1つに基づいて像を生成することで、X線束の光路の位置ずれに対する感度を簡易に調整できる。
【実施例5】
【0058】
次に本実施形態のX線撮像装置を用いたX線撮像方法の別の実施例について説明する。図7は、実施例5のX線撮像方法のフローチャートである。
【0059】
まず、被測定物103を用意し、X線撮像装置のステージ上に配置する(S201)。X線調整手段102からのX線束を被測定物103に照射し、被測定物103およびX線減衰素子104を透過したX線束をX線検出器105で検出し、X線スペクトル分布を取得する(S202)。X線撮像装置のステージを移動して、被測定物103をX線束で走査し、被測定物103の各位置に対応するX線スペクトル分布を取得する。なお、ステージを移動せずX線束を動かすことによって、被測定物103をX線束で走査してもよい。
【0060】
次に、X線検出器105で検出したX線スペクトル分布のうち、所定の2つ以上のエネルギーのX線の強度に基づいて、算出手段106で被測定物の物理量を算出する。具体的には、前述したように2つ以上のエネルギーのX線の強度Iのそれぞれを式(5)に代入して、2つ以上の方程式を取得し(S203)、その2つ以上の方程式から位置ずれΔr、被測定物の密度dおよび厚みtを算出する(S204)。Δrが分かれば、式(6)または式(7)から、屈折量Δθまたは位相変化量Δφを算出する(S205)。なお、この際、被測定物103の各位置において算出されたΔr、Δθ、Δφなどの分布を表示手段107で表示してもよい。本実施例のX線撮像方法によれば、被測定物103によるX線の吸収が無視できない場合にも、被測定物103によるX線の屈折量を簡易に抽出できる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
101 X線源
102 X線調整手段
103 被測定物
104 X線減衰素子
105 X線検出器
106 算出手段
107 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エネルギーのX線と該第1エネルギーと異なる第2エネルギーのX線とを発生するX線源からのX線束を被測定物に照射し、該被測定物の像を撮像するX線撮像装置であって、
前記被測定物を透過した前記X線束を減衰させる減衰素子と、
前記減衰素子を透過した前記X線束を検出する検出器と、を備え、
前記減衰素子は、前記X線束の入射位置に応じてX線減衰量が異なるように構成されており、
前記検出器は、前記第1エネルギーのX線と前記第2エネルギーのX線とを検出するように構成されている
ことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記検出器は、前記X線束のスペクトル分布を検出する分光器である
ことを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記検出器で検出した前記第1エネルギーのX線の検出結果および前記第2エネルギーのX線の検出結果のいずれかに基づいて前記像を生成することで、該X線撮像装置の感度を調整する制御手段を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記検出器で検出した前記第1エネルギーのX線の検出結果および前記第2エネルギーのX線の検出結果に基づいて、前記被測定物による前記X線束の位置ずれを算出する算出手段を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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