説明

X線放射器/検出器システムにおける雑音低減

【課題】X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減する。
【解決手段】共通クロックが、X線放射器/検出器システムの少なくとも2つのサブシステムに接続され、X線放射器/検出器システム内の少なくとも2つのサブシステムに関連付けられる複数の雑音源が共通クロックと相関できるようになる。複数のタップを有する少なくとも1つの適応フィルタが、所望の信号及び相関雑音推定信号を受信すると共に誤差信号を出力するように構成される。更新アルゴリズムが、出力される誤差信号を最小にするように複数のタップの値を更新するために用いられ、それにより、X線放射器/検出器システム内の少なくとも1つの可変フィルタのそれぞれにおいて複数の雑音源のうちの少なくとも1つが実質的に除去され、X線放射器/検出器システムの出力のより正確な表示が与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施例は、X線放射器/検出器システムにおける雑音低減に関する。
【背景技術】
【0002】
最新のX線システムは一般的には、いくつかの個別のサブシステムから構成される。これらのサブシステムはそれぞれ、雑音の発生器又は雑音を気付かずに検出する検出器のいずれかである。たとえば、X線源は一般的には、高電圧のスイッチング電源によって駆動される。電源は、数十キロヘルツ〜数百キロヘルツの周波数において切り替わることができる。電源が切り替わり、数十キロボルトのバイアスが生成されると、多くの場合にいくつかの周波数において、機械場及び電磁界が放射される。
【0003】
X線検出器は極めて利得が高いので、その検出器は、数百キロヘルツの振動周波数になる、高電圧のスイッチング電源によって特徴的に生成される機械的な振動を検出するための無指向性広帯域マイクロホンとしての役割を果たす。さらに、使用者の環境における任意の機械的な雑音が、多くの場合にX線検出器によって拾われてしまう。X線検出器は電磁界に対しても極めて敏感に反応し、それらの電磁界は無指向性の種々の様態における検出器に結合される場合がある。これらの振動雑音信号又は電磁雑音信号のいずれかが、X線システム全体の実効解像度を下げる可能性がある。
【0004】
検出器システムのためのフロントエンド電子回路は、非常に低い信号対雑音比を有する、小さな信号レベルを取り扱う。それゆえ、フロントエンド電子回路も、不要な雑音を拾いやすい。
【0005】
X線システムにおいて生成され、且つX線システムによって検出される電磁的雑音及び機械的雑音の量を最小限に抑えるために、個々のサブシステムは一般的には別個のモジュールとして形成され、固有の機械的振動及び電磁放射を含むようにする。これらの別個のモジュールは、結果として形成されるシステムのコストを大幅に引き上げ、且つそのシステムを著しく複雑にする可能性がある。さらに、最新のX線システムパッケージングは、機械的雑音及び電気的雑音をさらに低減する上で、パッケージングの物理的な限界に近づいている。それらのサブシステムは、起こり得る結合モードの全てを完全に排除することはできない。種々の機械的結合モード及び電気的結合モードの全体的な影響は、理解するのが難しい可能性がある。たとえば、物理的な振動を低減するために1つのサブシステムのパッケージングを変更することによって、別のサブシステムにおいて結果として意図しない雑音が引き起こされる可能性がある。
【0006】
X線検出器が改良され続けているので、サブシステム結合機構が、瞬く間に、X線蛍光及びX線回折システム性能の制限要因になりつつある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するためのシステム及び方法が開示される。1つのシステムは、X線放射器/検出器システムの少なくとも2つのサブシステムに接続される共通クロックであって、X線放射器/検出器システム内の少なくとも2つのサブシステムに関連付けられる複数の雑音源が共通クロックと相関できるようにする、共通クロックと、複数のタップを有し、所望の信号及び相関雑音推定信号を受信すると共に誤差信号を出力するように構成される少なくとも1つの適応フィルタとを備える。出力される誤差信号を最小にするように複数のタップの値を更新するために更新アルゴリズムが用いられ、それにより、X線放射器/検出器システム内の少なくとも1つの可変フィルタにおいて複数の雑音源のうちの少なくとも1つが実質的に除去され、X線放射器/検出器システムの出力のより正確な表示が与えられる。
【0008】
X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するための別のシステムは、複数の適応フィルタを備える。本システムは、X線放射器/検出器システム内の信号上の第1の雑音源の第1の相関雑音推定値を備える。複数の適応フィルタのうちの第1の適応フィルタは、第1の相関雑音推定値を受信して第1の雑音源に関連する雑音が信号から実質的に除去されることを可能にすると共に、第1の雑音源に関連する雑音が実質的に無いフィルタリングされた信号を出力するように構成される。本システムはまた、X線放射器/検出器システム内の信号上のさらなる雑音源の付加的な相関雑音推定値を備える。複数の適応フィルタのうちの後続の適応フィルタは、フィルタリングされた信号と付加的な相関雑音推定値とを受信してさらなる雑音源に関連する雑音がフィルタリングされた信号から実質的に除去されることを可能にすると共に、さらなる雑音源が実質的に無いさらなるフィルタリングされた信号を出力するように構成され、複数の適応フィルタを用いて、X線放射器/検出器システムにおいて信号上の複数の雑音源が除去されることが可能となり、信号のより正確な表示が与えられる。
【0009】
X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するための方法も開示される。本方法は、X線放射器/検出器システムの少なくとも2つのサブシステムに接続される共通クロックを設ける操作を含み、X線放射器/検出器システム内の少なくとも2つのサブシステムに関連付けられる複数の雑音源が共通クロックと相関できるようにする。複数のタップを有し、所望の信号及び相関雑音推定信号を受信すると共に誤差信号を出力するように構成される適応フィルタを用いて、複数の雑音源のうちの少なくとも1つをフィルタリングする。出力される誤差信号を最小にするように更新アルゴリズムで複数のタップの値を更新し、それによりX線放射器/検出器システム内の適応フィルタにおいて少なくとも1つの雑音源を実質的に除去し、X線放射器/検出器システムの出力のより正確な表示を与える。
【0010】
本発明のさらなる特徴及び利点は、一例として本発明の特徴を合わせて示す添付の図面とともに取り上げられる、以下に記載される詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のX線放射器/検出器システムのブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による、サブシステム構成要素を接続するために、システムレベルにおいてマスタークロックを使用するX線放射器/検出器システムアーキテクチャの図である。
【図3】適応フィルタのブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態による、直列に接続される第1の適応フィルタ及び第2の適応フィルタを含むX線放射器/検出器システムの図である。
【図5】本発明の一実施形態による、複数の雑音源をフィルタリングするために複数の適応フィルタを組み込むX線放射器/検出器システムの図である。
【図6】本発明の一実施形態による、X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するための方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、図示される例示的な実施形態を参照する。それを説明するために、本明細書において特定の専門用語を用いる。それにもかかわらず、それによって、本発明の範囲を限定することを意図していないことは理解されよう。
【0013】
機械的雑音及び電磁的雑音を最小限に抑えるために、一般的なX線システムは別個のサブシステムに分割される。たとえば、図1は、少なくとも3つの別個のセクションに分割される従来のX線システム100の上位ブロック図を示す。第1のサブシステム102は一般的には、高電圧電源104及びX線管フィラメント電源108のような、高電圧の構成要素を含む。背景技術部分において上記で検討されたように、これらの構成要素は、標準動作中に、相対的に大量の機械的雑音及び電磁的雑音を発生させる可能性がある。このサブシステムでは、一般的には2つの発振器が用いられる。第1の発振器を用いて、一般的には100kHzの周波数において、高電圧乗算器電源を駆動する。第2の発振器を用いて、たとえば、約200kHzの周波数において、X線管内のフィラメントを駆動する。これらの周波数は、制御パラメータが変化するのに応じて変化することができる。
【0014】
第2のサブシステム110は、検出器電子構成要素を含む。これは一般的にはアナログ電子回路モジュールであるので、通常は内部クロック源を持たない。いくつかのタイプのシステムでは、ランプ信号112が非同期に生成される。ランプ信号は、1Hz未満から数キロヘルツに及ぶことができる。検出器モジュールにおいて受信され、電子信号に変換されるX線事象は、時間に関して非決定性である。
【0015】
第3のサブシステム115は、検出バイアス発生構成要素を含むことができる。X線検出器ダイオードは、この例では130ボルトのバイアス発生器を必要とする。一般的に、システム電子回路は、バイアスを生成するために、チャージポンプ及びフィードバック制御部118を含む。この制御部は一般的には、他のサブシステム内の構成要素とは非同期にクロックを供給される。
【0016】
第4のサブシステム120は、X線の生成及び検出において用いられる処理構成要素を含む。それらの構成要素は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)122、デジタルシグナルプロセッサ124、アナログ/デジタルコンバータ126及び中央処理装置128を含むことができる。これらの構成要素はそれぞれ、別個のクロック源で駆動することができる。
【0017】
システムアーキテクチャの観点から、一般的なX線放射器/検出器システム内には多数の非同期信号が存在するので、雑音源の周期を合わせるのが極めて難しくなる。それゆえ、機械的雑音及び電気的雑音を解消するために、種々のサブシステムを注意深くパッケージ化及びシールドして、雑音がシステム内の他の構成要素に伝播するのを最小限に抑えている。
【0018】
本明細書において用いられる場合、用語「雑音」は、不要な電気信号と定義される。たとえば、X線検出器信号は理論的には、1つ又は複数のX線事象の検出によって引き起こされる電気的応答のみを含むはずである。しかしながら、z線検出器によって、或いは、検出器配線への抵抗性結合、誘導性結合又は容量性結合を通じて、電気的雑音が拾われてしまう可能性がある。その雑音は、上記のシステムのいずれかから、及びX線放射器/検出器システムの外部の雑音源から検出又は結合され、電気的応答信号に付加される場合がある。さらに、機械的振動がX線検出器によって気付かずに検出され、意図しない電気信号に変換される可能性もある。これらの意図しない信号は、検出器において受信されるX線に関連付けられる実際の検出器信号のダイナミックレンジを低減する可能性がある。
【0019】
これらの意図しない雑音信号を低減するために、サブシステムは、X線検出器信号に変換される振動及び電気的雑音の量を低減するように注意深くパッケージされる。上記で検討されたように、そのようなパッケージングは、雑音を低減する際に事実上の限界がある。使用者にとって好都合のフォームファクタにおいてX線放出器/検出器システムをパッケージするために、システム内の或る程度の量の雑音は許容できると考えられている。
【0020】
X線放出器/検出器システムにおいて電気的雑音及び機械的雑音のレベルを低減するために、最新の適応フィルタリングアルゴリズムを用いることができる。たとえば、X線検出器信号内の意図しない雑音は、電気的雑音及び機械的雑音の両方によって引き起こされる可能性があり、それらの雑音は、検出器によって気付かずに検出され、X線検出器信号上で電気的雑音に変換される。適応フィルタリングアルゴリズムを適用して、検出器信号上の意図しない雑音を実質的に除去することができる。一実施形態では、適応フィルタリングアルゴリズムを使用することにより、X線放射器/検出器システムにおいて雑音を最小限に抑えるために現時点で用いられる、複雑で、費用がかかる機械的分離及び電気的分離の必要性を低減することができる。さらに、適応フィルタリングを用いて、機械的分離システム及び電気的分離システムを支援及び強化し、X線検出器信号上の雑音レベルをさらに低減することができ、それにより、より大きいダイナミックレンジで、且つより高い信号対雑音比でX線を測定できるようになる。
【0021】
図1に示される従来のアーキテクチャ例では、複数のサブシステムにおいて動作する多数の非同期クロックが、X線放射器/検出器システム内の多数の非同期の電気的雑音源及び機械的雑音源を作り出す。これらの雑音源はそれぞれ、スパー(spur)、高調波も放射する場合があり、パッケージング又は他の電子サブシステム内に付加的な共振周波数を引き起こす恐れもある。これらの周波数は、システムの温度が変化するのに応じてシフトする可能性がある。相対的に広い範囲の周波数にわたって結果として生じる多数の無相関の雑音源は、適応フィルタリングを用いて低減することが難しい可能性がある。これらの無相関の各周波数を追跡し、フィルタリングするために必要とされるフィルタリングシステムはかなりコストがかかり、複雑になる可能性があり、それにより、適応フィルタリングを用いてX線放射器/検出器システム内の雑音を低減する有効性が制限される。
【0022】
雑音源を、より、一意的に特定し易くなるようにシステムアーキテクチャを設計し直すことによって、適応フィルタリングがX線検出器信号内の雑音を除去する有効性を大幅に高めることができる。一実施形態では、X線検出器信号上に存在する雑音源は、X線放射器/検出器システム内で動作しているサブシステムのうちの少なくともいくつかを同期させることによって、より、一意的に特定し易くなる(be more deterministic)。
【0023】
たとえば、図2は、システムレベルにおいてマスタークロック202を利用する1つの例示的なX線放射器/検出器システムアーキテクチャ200を示す。別個の非同期クロックを用いる各サブシステム又は構成要素を有するのではなく、X線放射器/検出器システム内のサブシステム及び構成要素を駆動するマスタークロックを使用することによって、雑音源を周期的にできるようにし、適応フィルタリングを用いて、より除去しやすくすることができる。これは、後により十分に検討する。
【0024】
図2に示される例示的なシステムアーキテクチャでは、マスタークロック202は、100MHzのような選択された周波数において動作することができる。マスタークロック信号203は、X線放射器/検出器システム内でクロック源を必要としているサブシステム及び/又は構成要素のそれぞれに伝達することができる。代替的には、マスタークロック信号は、検出器信号において雑音を引き起こすもとになる雑音源であると見なされるサブシステム及び/又は構成要素にのみ伝達される場合がある。マスタークロック信号を分周、逓倍及び/又は位相同期して、選択されたサブシステム又は構成要素にとって望ましい周波数及び位相を有するクロックを達成することができる。
【0025】
たとえば、FPGA206又はCPUクロック218は500MHzにおいて動作することができる。マスタークロック信号203の周波数を5逓倍して、所望のクロック周波数を達成することができる。デジタルシグナルプロセッサ(DSP)210は50MHzで動作することができる。マスタークロック信号周波数を2分周して、DSPのためのクロックを与えることができる。アナログ/デジタルコンバータ(A/D)又はダイオードバイアス電源チャージポンプ234は、マスタークロック周波数において動作することができ、マスタークロック信号をサブシステム又は構成要素クロックに直に送信できるようになる。さらに、位相同期ループ220を用いて、高電圧スイッチング電源222、X線管フィラメント電圧224、及び検出器ダイオード226のためのバイアス電源のような種々のサブシステム又は構成要素が、マスタークロックに対して所望の周波数及び位相で動作するのを確実にすることができる。マスタークロック信号203は、図2に示されるように、サブシステム及び構成要素のそれぞれに伝達することができる。代替的には、理解されるように、クロック信号を、X線放射器/検出器システム全体を通じて、多数の構成要素及びサブシステムにデイジーチェーンで接続できる。
【0026】
マスタークロックを使用することによって、X線放射器/検出器システム内の種々の電気信号が、関連する周波数、及び場合によっては、関連する位相を有することができるようになる。このように関連付けることによって、X線検出器信号のような信号に結合する雑音を生成する雑音源を、より、一意的に特定し易くなる。全てのクロックが、より、一意的に特定し易くなるシステムでは、周期的な雑音源は、サンプリング及び処理ロジックに対しても周期的である。雑音の周期性を指示するために用いることができるサンプル雑音相殺信号を信号処理ロジックに与えることによって、又は種々のフィルタリング方法を用いて所望の信号から周期性雑音を分離することによって、時間領域/周波数領域減算方法、又は適応フィルタを用いる際に、雑音相殺を達成することができる。
【0027】
適応フィルタは、フィルタの伝達関数を調整するために用いることができる最適化アルゴリズムに基づいて自動的に調整することができるフィルタである。最適化アルゴリズムが複雑であることから、適応フィルタは一般的にはデジタルフィルタとして実現される。適応フィルタの性能は一般的には、デジタル信号処理を用いて、入力信号に基づいて適合される。静的フィルタは一般的には、静的なフィルタ係数を使用することを伴う。これらのフィルタ係数が、合わせて1つの伝達関数を形成する。適応フィルタでは、フィルタ係数は適応的である。所望の処理演算に基づくパラメータは予めわかっていない。適応フィルタからの所望の周波数応答を与えるために、フィードバック機構を用いて、フィルタ係数の値が精緻化される。
【0028】
図3は、適応フィルタの一般的なブロック図を示す。この図において、可変フィルタブロック302への入力x(n)は、所望の信号d(n)と、所望の信号上で生じる干渉雑音v(n)との和である。これは、以下のように示すことができる。
【0029】
x(n)=d(n)+v(n)
X線放射器/検出器システムでは、入力x(n)は、X線検出器信号とすることができる。X線検出器信号は、所望の、雑音のない検出器信号d(n)、及び検出器信号と干渉している雑音v(n)から構成されるであろう。
【0030】
可変フィルタ302は一般的には、有限インパルス応答(FIR)タイプのフィルタから構成されるが、状況によっては、無限インパルス応答タイプのフィルタを用いることもできる。FIRタイプフィルタの場合、インパルス応答はフィルタ係数に等しい。次数pのフィルタのための係数は以下のように定義される。
【0031】
=[ω(0),ω(1),ω(2),...,ω(P)]
ただし、Tは、用いられる更新アルゴリズムに基づいて選択される整数である。誤差信号e(n)は、所望の信号d(n)と、推定される信号d^(n)との間の差である。
【0032】
e(n)=d(n)−d^(n)
可変フィルタは、入力信号をインパルス応答で畳み込むことによって所望の信号を推定する。ベクトル表記では、これは以下のように表される。
【0033】
【数1】

ただし、
x(n)=[x(n),x(n−1),...,x(n−p)]
は入力信号ベクトルである。可変フィルタは、常に、以下のようにフィルタ係数を更新する。
【0034】
n+1=w+Δw
ただし、Δwはフィルタ係数のための補正係数である。適応更新アルゴリズム304は、入力信号x(n)及び誤差信号e(n)に基づいて、この補正係数を生成する。
【0035】
フィルタ係数を更新するために用いることができる種々の異なるタイプの適応アルゴリズムがある。一般的に用いられる更新アルゴリズムは、最小平均二乗(LMS)アルゴリズム及び再帰最小二乗アルゴリズム(RLS)を含む。別の更新アルゴリズムは、カルマンアルゴリズムである。適応フィルタとの関連で用いられることになる特定のアルゴリズムの選択は、アルゴリズムの特性、及びフィルタリングされることになる信号全体の特性によって決めることができる。
【0036】
たとえば、カルマンアルゴリズムは一般的には、適応アルゴリズムが迅速に収束して所望のフィルタリング応答を与えることができるようにする優れた性能を提供する。カルマンアルゴリズムの性能は、先験的な仮定が正確であるかによって決まる。その仮定が誤っている場合には、その性能は優れているとは言えない可能性がある。カルマンアルゴリズムは計算に関する要求も厳しい。そのアルゴリズムは、サンプル当たり[ω(p)]回の演算を必要とする(T=2の値)。これは、高速のリアルタイムアプリケーションにおけるカルマンフィルタの有用性を制限する可能性がある。
【0037】
対照的に、LMSアルゴリズムは、サンプル当たり[ω(p)]回の演算しか必要としないので(T=1の値)、カルマンアルゴリズムよりもはるかに効率的に動作できるようになる。さらに、LMSアルゴリズムの場合、信号を推定するのに、先験的な仮定は不要である。しかしながら、LMSアルゴリズムは、収束するのに時間がかかる可能性がある。高速アフィン射影(FAP)、高速トランスバーサルフィルタ(FTF)等の他のタイプの更新アルゴリズムを用いることもできる。
【0038】
本出願では、雑音が突然変化する可能性があるX線放射器/検出器システム内の1つ又は複数の適応フィルタ内の更新アルゴリズムとして、カルマンアルゴリズムを用いることができる。さらに、そのアルゴリズムは、特定のタイプのX線放射器/検出器の場合にも有用である場合がある。たとえば、X線回折用に設計されたシステムでは、短い周期にわたって、多数のX線が放射され、検出される場合がある。このように短い周期にわたってX線を生成することによって、システム内の電力及び温度が突然変化する場合があり、それにより、電気的雑音及び機械的雑音の周波数が変化する場合がある。カルマンアルゴリズムを用いて、雑音の変化により迅速に適応することができ、それにより、X線の大きなバーストがX線検出器信号上の雑音の変化を引き起こすときに、そのアルゴリズムが迅速に適応できるようにする。さらに、上記で検討されたように、システムクロックを使用することによって、大部分の雑音源がシステムクロックと直に相関を有することになるので、雑音に関して実質的に正確に先験的な仮定を行なうことができるようにすることができる。
【0039】
代替的には、LMSアルゴリズムは、計算能力が低いタイプのシステム、又は雑音源及びX線放射を比較的一定にすることができるX線蛍光システムのような他のタイプのシステムを含む、安価なシステムにとってより有用である場合がある。
【0040】
フィルタ長とも呼ばれる、フィルタ係数の数は一般的には、チャネル内の雑音の長さ(タイムスパン)に基づいて選択される。X線検出器、又はX線検出器に接続される配線若しくはケーブルによって拾われる電気的雑音の場合、X線検出器信号上の雑音の期間は、かなり短い可能性がある。たとえば、50MHz信号が、デジタルシグナルプロセッサに接続される配線によって気付かずに送信される場合がある。この信号は、X線検出器によって出力されるX線検出器信号と干渉するだけの十分な電力において拾われてしまう場合がある。この雑音源が反復性であり高周波性であることから、相対的に短いフィルタ長を有する適応フィルタを使用できるようになる。逆に、X線検出器によって検出される機械的雑音は、数十ヘルツから数百キロヘルツまでのはるかに低い周波数を有する場合がある。さらに、この機械的雑音は、スパー、エコー及び高調波を有する可能性がある。機械的雑音は、或る特定の周期にわたってシステム内で共振する場合がある。十分な数のフィルタ係数を選択して、機械的雑音によって引き起こされるX線検出器信号内の電気的雑音を除去することになるフィルタ長を与えることができる。そのフィルタ長は、機械的振動、エコー及び高調波の振幅をフィルタリングして、雑音振幅を所望の振幅まで低減できるように選択された周期にわたって機械的雑音を除去できるように設計することができる。
【0041】
適応フィルタのサンプリング周波数をFとすると、サンプリング時間は1/F又はTである。チャネル内の雑音タイムスパンはTchである。フィルタ長は以下のように定義することができる。
【0042】
len=Tch/T
その際、各フィルタの計算量はF*Flenである。たとえば、適応フィルタ内のサンプリング周波数が50MHzであるように選択され、30個のフィルタ係数から成るフィルタ長が選択される場合には、その適応フィルタは、毎秒15億回の積和演算を実行しなければならない。XilinxのようなFPGAは、毎秒数百億回の積和演算で計算を行なうように設計することができる。
【0043】
電気的な発生源によって引き起こされる高周波数の電気的雑音及び機械的な発生源によって引き起こされる低周波数の電気的雑音の両方を効率的にフィルタリングするために、複数の適応フィルタを用いることができる。雑音源が短い持続時間を有するほど、少ない数のフィルタ係数を有する複雑でない適応フィルタを使用することが効率的である場合がある。各適応フィルタは、1つ又は複数の雑音源をフィルタリングするように設計することができる。たとえば、図4は、直列に接続される第1の適応フィルタ402及び第2の適応フィルタ404を含むシステム400を示す。第1の適応フィルタを用いて、入力信号x1(n)内に含まれる第1の雑音源v1(n)をフィルタリングすることができる。第1の雑音源は、X線検出器によって検出され、不要な電気信号に変換されるシステム内の機械的振動によって引き起こされる、X線検出器信号内の電気的雑音とすることができる。システムの動作に応じて、同期信号を用いて、適応フィルタをブランキング又はトレーニング状態にすることができる。
【0044】
機械的振動によって引き起こされる検出器信号内の電気的雑音を実質的に除去するだけの十分なフィルタ長を有する適応フィルタを設計することができる。適応フィルタへの入力として、雑音推定値を用いることができる。雑音推定値は、システム内の雑音と線形相関を有する信号である。たとえば、スイッチング周波数において高電圧電源が膨張及び収縮するによって、機械的雑音が引き起こされる場合がある。一実施形態では、雑音推定値として、スイッチング周波数を駆動するために用いられるクロックを用いることができる。その際、所望の更新アルゴリズムを用いて、適応フィルタ内の係数を更新することができる。
【0045】
一実施形態では、各適応フィルタに同じタイプの更新アルゴリズムを用いることができる。代替的には、理解されるように、フィルタリングしている信号のタイプ、利用可能である処理電力の量、及び他のシステム設計制約に基づいて、更新アルゴリズムのタイプを選択できる。上記の例において、検出器信号内の雑音は、X線検出器によって検出される機械的振動によって引き起こされる。この雑音が実質的に一定である場合には、LMSアルゴリズムのような簡単な更新アルゴリズムを用いて、フィルタ係数を更新することができる。代替的には、機械的振動によって引き起こされる検出器信号上の雑音がかなり不規則であるか、又はさらには擬似ランダムである場合には、フィルタ係数を更新するために、カルマンアルゴリズム又は別の更新アルゴリズムのようなより複雑な更新アルゴリズムを選択することができる。適当に選択された更新アルゴリズムによって、適応フィルタを、スイッチング電源によって引き起こされるX線検出器信号上の雑音を実質的に除去できるようにすると共に、1つ又は複数の機械的振動源によって引き起こされる電子的雑音が実質的にない信号e(n)を出力できるようにすることができる。
【0046】
その後、第1の適応フィルタ402の出力e(n)を、第2の適応フィルタ404の入力x2(n)として用いることができる。第2の適応フィルタの入力は、スイッチング電源によって引き起こされる機械的雑音を実質的に含まないようにすることができる。しかしながら、上記で検討されたように、その入力信号x2(n)は依然として、他の機械的又は電気的な発生源によって引き起こされるかなりの電気的雑音を有する場合がある。X線検出器から1つ又は複数の付加的な雑音源をフィルタリングするために、選択された数のフィルタ係数及び所望の更新アルゴリズムを用いて第2の適応フィルタを設計することができる。一連の各フィルタにおいて1つ又は複数の雑音源を除去するために、付加的な適応フィルタを直列に接続することができる。フィルタの数は、X線放射器/検出器のシステム要件に基づいて選択することができる。たとえば、フィルタの数は、システム内の雑音源の数、雑音源間の相関の量、X線検出器信号の所望の信号対雑音比(SNR)等に基づくことができる。所望のSNRを与えるために、適応フィルタリングを用いて、検出器から十分な雑音を除去することができる。
【0047】
一実施形態では、各適応フィルタは、制御モジュール406、407を備えることができる。制御モジュールを用いて、適応フィルタをトレーニングすることができる。各適応フィルタは、出力がフィードバックループe(n)、e2(n)を用いて所望の信号に収束するのに、或る特定の期間を要する。フィードバックループによって、更新アルゴリズムは、誤差信号を最小にするためにフィルタ係数を更新できるようになり、それにより、適応フィルタによってフィルタリングされた雑音を引いた所望の信号を出力できるようになる。トレーニング期間は選択することができ、その間、X線放射器/検出器システムは、適応フィルタが収束できるようにするために、実際には重要な測定を実行していない。このトレーニング期間は、数マイクロ秒程度の短い時間から、数百ミリ秒程度の長い期間までにすることができる。たとえば、X線放射器/検出器システムにおいて、検出器は一般的には漏れ電流を有する。その漏れ電流は、−2ボルトから約+2ボルトまでの範囲でランプ電圧を上昇させる。この時点で、検出器はリセットされ、ランプ電圧は−2ボルト範囲に戻る。一実施形態では、リセット時間は12マイクロ秒を要する。この時間中に、適応フィルタは、検出器の動作中に、適応フィルタが収束し、所望の信号を出力できるようにするだけの十分な長さにわたって動作することができる。
【0048】
種々の他のトレーニング時間を用いることもできる。たとえば、X線放射器/検出器システムは、システムからのX放射のエミッタンスを保護するために用いられる金属シャッタを備えることができる。金属シャッタが閉じている間に、或る特定の時間にわたってX線源を起動できるように、システムを設計することができる。システムが起動されている間に、且つ金属シャッタを開いて、X線放射が意図した線源に向けられるようにする前に、X線検出器信号内の雑音を除去するために用いられる複数の適応フィルタをトレーニングすることができる。
【0049】
時間領域において適応フィルタリングを使用するための例を提供してきたが、適応フィルタリングは、周波数領域及びウェーブレット領域においても達成することができる。たとえば、更新アルゴリズムは、離散フーリエ変換、離散コサイン変換、離散ウェーブレット変換等に基づくことができる。周波数領域又はウェーブレット領域におけるフィルタリングは、時間領域フィルタリングに勝る大きな利点を提供することができる。たとえば、時間領域では、適応フィルタが50MHzにおいて動作するときに、毎秒5000万サンプルがある。これらの5000万サンプルはそれぞれ、等しい処理時間を与えられる。しかしながら、実際には、それらのサンプルのうちのごくわずかのパーセンテージだけが、信号から雑音をフィルタリングする際に有用な情報を含む。ウェーブレット領域では、どの係数が信号のエネルギーを含むかを求めることができる。一般的は信号では、信号のエネルギーの大部分はウェーブレット係数のわずかな部分によって表される。たとえば、エネルギーの99.9%が、ウェーブレット係数の10パーセントの中に含まれる場合がある。その計算量は、(サンプリングレート)×(所定の量のエネルギーを含むウェーブレット係数のパーセンテージ)×(サンプル当たりの演算回数)として計算することができる。こうして、上記の例における計算量は、ウェーブレット係数のわずか10パーセントが所定のレベルよりも大きな電力を含む場合、サンプル当たり1回の演算では、毎秒わずかに500万サンプルである。それゆえ、ウェーブレット領域では、時間領域において一般的に可能である計算量よりもかなり少ない計算量で、より複雑な形の適応フィルタリング及び/又はより多くの雑音源の適応フィルタリングを達成することができる。
【0050】
複数の雑音源をフィルタリングするために複数の適応フィルタを組み込むX線放射器/検出器システム500の1つの例示的な図が図5に示される。そのシステムは、検出器モジュール502及びX線モジュール504を含む。検出器モジュールは、検出器アナログ信号506を出力することができる。検出器アナログ信号は、X線検出器によって出力される信号である。その信号は、電磁スペクトルのX線部分において検出器で受信される光子に対する検出器の電気的応答を含むことができる。また、その信号は、上記で検討されたように、機械的振動及び電磁干渉によって引き起こされる不要な電気的雑音を含む可能性もある。
【0051】
アナログ検出器信号506は、ローパスフィルタ508を用いてフィルタリングし、510においてデジタル信号512s(t)に変換することができる。ローパスフィルタを用いて、特にアンチエイリアシングを制限することができる。その後、デジタル信号は、第1の適応フィルタモジュール514に送信される。この例示的な実施形態では、第1の適応フィルタモジュールを用いて、X線管を駆動するために用いられる高電圧電源から生じる機械的振動及び電磁干渉によって引き起こされるX線検出器信号上の電気的雑音を除去する。高電圧電源は、X線モジュール504に含まれる場合がある。
【0052】
高電圧電源によって引き起こされる電気的雑音と相関がある高電圧雑音サンプル信号505を、X線モジュール504から出力することができる。たとえば、そのサンプル信号は、高電圧電源のスイッチング周波数と相関があるか、又は同期している正弦波とすることができる。電源のスイッチング周波数は、電源のタイプ及びその電源にかかる負荷条件に応じて、数十キロヘルツから数百キロヘルツまで変化する場合がある。サンプル信号505は、ローパスフィルタ516でフィルタリングされ、518でデジタル信号に変換され、可変遅延部520を通じて送信することができる。可変遅延部を用いて、サンプル信号が検出器信号内の雑音と実質的に位置合わせされるようにサンプル信号を時間的に調整することができる。サンプル信号を雑音と時間的に位置合わせすることによって、適応フィルタ内のタップの数(すなわち、適応フィルタの長さ)を減らすことができ、それにより、適応フィルタ及び更新アルゴリズムの計算量を減らすことができる。
【0053】
可変遅延部520の出力は雑音サンプル信号n(t)522を含み、それは、デジタル検出器信号s(t)512上の雑音と時間的に実質的に位置合わせされる。高電圧電源適応フィルタモジュール514に2つの信号が入力される。LMS、RLS又はカルマンアルゴリズムのような更新アルゴリズムを用いて、適応フィルタ内のフィルタ係数を更新することができる。適応フィルタは、フィルタリングされた信号s^(t)及び誤差信号e(t)を出力することができる。その誤差信号は、適応信号へのフィードバックとして用いられる。フィルタ係数の値を調整して、誤差信号を最小にし、X線検出器信号を含むフィルタリングされた信号s^(t)を与える。高電圧電源と相関がある雑音は、その検出器信号から実質的にフィルタリング除去されている。
【0054】
高電圧電源と相関がある雑音はいくつかの発生源を含む場合があり、その中には、検出器信号と電源との電気的干渉によって引き起こされる種々の電気的雑音、電源から出力される電気信号、並びにこれらの電気信号の種々のスパー及び高調波とともに、スイッチングされるときの高電圧電源の膨張及び収縮に関連付けられる機械的雑音が含まれる。これらの電気的信号はそれぞれ、おそらく、スイッチング周波数と強い相関を有することになるので、デジタルX線検出器信号512が雑音サンプル信号n(t)522と相関できるようになり、それにより、適応フィルタが、信号s(t)512から、高電圧電源に関連する相関雑音を実質的に除去できるようになる。
【0055】
図5に示される例示的な実施形態では、第2の適応フィルタモジュールを用いて、機械的振動によって引き起こされるX線検出器信号上の電気的雑音を除去する。これらの機械的振動は、X線放射器/検出器システムの内部又は外部にある発生源によって引き起こされる場合がある。その機械的振動は、ランダム又は擬似ランダムである場合があり、それにより、その振動を予測するのが難しくなる。
【0056】
その振動を予測する1つの方法は、マイクロホニックス検出器を使用することによる。マイクロホニックスは、電子デバイス内の特定の構成要素が機械的振動を望ましくない電気信号に変換する現象である。図5に示される例では、検出器モジュール502内のX線検出器は、機械的振動を不要な電気的雑音に変換する1つの電子デバイスである。加速度計、ジャイロスコープ又は広帯域マイクロホンのような少なくとも1つの付加的なマイクロホニックス検出器を、X線検出器付近の検出器モジュール502内に配置することができる。マイクロホニックス検出器を用いて、X線検出器において検出されるのと同じ機械的振動を検出し、その振動を、機械的振動によって引き起こされるX線検出器信号上の雑音と相関することができる電子的信号に変換することができる。
【0057】
マイクロホニックス検出器信号530は、ローパスフィルタ532を用いてフィルタリングし、アナログ/デジタル変換器534でデジタル信号に変換し、可変遅延部536を通じて送信することができる。可変遅延部を用いて、X線検出器信号内の雑音と位置合わせされるようにマイクロホニックス検出器信号を時間的に調整することができる。マイクロホニックス検出器(複数可)及びX線検出器が物理的に離れていることに起因して、それらの信号間に遅延が存在する場合がある。実際のタイミング差は、X線放射器/検出器システム内の音速によって決まる可能性がある。マイクロホニックス信号をX線検出器信号上の雑音と時間的に位置合わせすることによって、適応フィルタ内のタップの数(すなわち、適応フィルタの長さ)を減らすことができ、それにより、検出器マイクロホニックス適応フィルタモジュール540内の適応フィルタ及び更新アルゴリズムの計算量を減らすことができる。マイクロホニックス信号をX線検出器信号上の雑音と時間的に位置合わせすることによって、雑音のある環境において、フィルタ収束時間を改善することもできる。
【0058】
可変遅延部536の出力は、フィルタリングされたX線デジタル検出器信号e(t)526上の雑音と時間的に実質的に位置合わせされる機械的雑音サンプル信号nm(t)538を含む。高電圧電源適応フィルタモジュール514の出力e(t)526は、検出器マイクロホニックス適応フィルタモジュール540内の入力信号d(t)とすることができる。機械的雑音サンプル信号nm(t)及びフィルタリングされたX線デジタル検出器信号d(t)は、検出器マイクロホニックス適応フィルタモジュールへ入力される。LMS、RLS又はカルマンアルゴリズムのような更新アルゴリズムを用いて、適応フィルタ内のフィルタ係数を更新することができる。適応フィルタは、誤差信号e(t)を出力することができる。その誤差信号は、適応信号へのフィードバックとして用いられる。フィルタ係数の値を調整して、誤差信号を最小にし、X線検出器信号を含むフィルタリングされた信号e(t)を与える。マイクロホニックス検出器と相関がある雑音は、X線検出器信号から実質的にフィルタリング除去されている。
【0059】
検出器マイクロホニックス適応フィルタモジュール540の出力544は、X線検出器信号を含み、高電圧電源及びマイクロホニックス検出器と相関がある電子的雑音は大きく低減されている。その後、出力信号は1つ又は複数の付加的な適応フィルタモジュールに送信することができ、そのモジュールにおいて、特定のタイプの電気的雑音を出力信号上の雑音と相関させ、フィルタリングすることができる。その後、使用者がX線検出器信号を解析できるようにするために、出力信号を増幅することができる。たとえば、X線検出器の増幅された出力は、ディスプレイ550上で視認することができる。表示する前に、X線検出器信号をさらに処理し、増幅することが必要な場合もある。意図しない信号を低減し、増幅器のダイナミックレンジが、検出器信号よりも著しく大きい場合がある雑音ではなく、実際のX検出器信号に基づくことができるようにすることにより、信号上の雑音を低減して、より鮮明な表示を与えることができる。これにより、使用者に対して、X線検出器信号をはるかに良好に表示できるようになる。
【0060】
たとえば、1つ又は複数のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)チップ、デジタル信号処理(DSP)チップ、特定用途向け集積回路(ASIC)、又はこれらのチップ若しくは他のマイクロプロセッシングアーキテクチャの或る組み合わせを用いて、図5の例示的な実施形態において示される、適応フィルタモジュール514、540及び他の電気的構成要素を構成することができる。X線放射器/検出器システム500は、ソフトウエア、ファームウエア、ハードウエア又は或る組み合わせによって作成することができる。理解されるようにX線検出器からの所望の応答を達成するために、X線検出器信号の付加的なフィルタリング及び処理も提供できる。
【0061】
別の実施形態では、図6に示される流れ図に示されるように、X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するための方法600が開示される。その方法は、X線放射器/検出器システムの少なくとも2つのサブシステムに接続される共通クロックを与えて、X線放射器/検出器システム内の少なくとも2つのサブシステムに関連付けられる複数の雑音源が共通クロックと相関できるようにする演算(610)を含む。複数の雑音源のうちの少なくとも1つは、複数のタップを有する適応フィルタを用いてフィルタリングされる(620)。そのフィルタは、所望の信号及び相関雑音推定信号を受信すると共に誤差信号を出力するように構成される。出力される誤差信号を最小にするために、複数のタップの値が更新アルゴリズムで更新される(630)。出力される誤差信号を最小にし、それにより、X線放射器/検出器システム内の適応フィルタにおいて少なくとも1つの雑音源を実質的に除去し、X線放射器/検出器システムの出力のより正確な表示を与える。たとえば、X線放射器/検出器システム内の1つ又は複数の雑音源によって引き起こされるX線検出器信号上の雑音を、1つ又は複数の適応フィルタを用いて、実質的に除去することができる。その雑音源は、システムの外部で引き起こされる振動のように、X線放射器/検出器システムの外部にある場合もある。X線検出器上の雑音の量を低減することによって、検出器信号を、より正確に増幅し、表示することができ、それにより、X線放射器/検出器システムを用いて、所望の物体のX線応答のより正確な画像を生成することができる。
【0062】
上記の例は1つ又は複数の特定の用途における本発明の原理の例示であるが、発明の才能を発揮することなく、且つ本発明の原理及び概念から逸脱することなく、実施態様の形態、使用法及び細部において数多くの変更を行なうことができることは当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって限定される場合を除いて、限定されることは意図していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線放射器/検出器システムのための信号雑音低減システムであって、
前記X線放射器/検出器システムの少なくとも2つのサブシステムに接続される共通クロックであって、該X線放射器/検出器システム内の該少なくとも2つのサブシステムに関連付けられる(associated with)複数の雑音源が該共通クロックと相関できる(to be correlated with)ようにする、共通クロックと、
複数のタップを有し、所望の信号及び相関雑音推定信号(correlated noise estimate signal)を受信すると共に誤差信号を出力するように構成される少なくとも1つの適応フィルタと、
前記出力される誤差信号を最小にするように前記複数のタップの値を更新するために用いられる更新アルゴリズム(update algorithm)であって、それにより、前記X線放射器/検出器システム内の少なくとも1つの可変フィルタ(variable filters)において前記複数の雑音源のうちの少なくとも1つを実質的に除去し、前記X線放射器/検出器システムの出力のより正確な表示を与える、更新アルゴリズムとを備える、X線放射器/検出器システムのための信号雑音低減システム。
【請求項2】
前記少なくとも2つのサブシステムは、高電圧スイッチング電源、X線管フィラメント電源、ダイオードバイアス電源チャージポンプ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、デジタルシグナルプロセッサ、アナログ/デジタルコンバータ及びコンピュータ処理装置から成る群から選択される、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項3】
前記可変フィルタは、有限インパルス応答フィルタ及び無限インパルス応答フィルタのうちの1つである、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項4】
前記共通クロックによって出力されるクロック信号に選択された値を乗算して、該選択された値だけ前記クロック信号周波数を増大させる、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項5】
前記共通クロックによって出力されるクロック信号を選択された値で除算して、該選択された値だけ前記クロック信号周波数を低減する、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項6】
前記共通クロックによって出力されるクロック信号は、少なくとも1つの位相同期ループに接続され、前記少なくとも2つのサブシステムが前記共通クロックと実質的に同じ位相で動作できるようにする、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの適応フィルタのそれぞれに同じタイプの更新アルゴリズムが用いられる、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項8】
少なくとも2つの異なるタイプの更新アルゴリズムを用いて、少なくとも2つの適応フィルタをそれぞれ更新する、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項9】
前記誤差信号が所望のしきい値未満になり、前記適応フィルタが収束し、所望の信号を出力できるようになるまで、前記更新アルゴリズムが前記少なくとも1つの適応フィルタ内の前記複数のタップの値を更新できるようにするために選択される長さを有するトレーニング期間をさらに含む、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項10】
前記トレーニング期間は、前記X線放射器/検出器システムが実際には重要な測定を実行していない時間と一致するように選択される、請求項9に記載の信号雑音低減システム。
【請求項11】
前記更新アルゴリズムは、時間領域、周波数領域及びウェーブレット領域のうちの少なくとも1つにおいて実行される、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項12】
前記適応フィルタのタップ数を低減し、それにより、前記適応フィルタ及び前記更新アルゴリズムの計算量を低減するために、X線検出器信号上の雑音に対してサンプル雑音信号を時間的に調整するために用いられる少なくとも1つの可変遅延部をさらに備える、請求項1に記載の信号雑音低減システム。
【請求項13】
X線放射器/検出器システムのための信号雑音低減システムであって、
複数の適応フィルタと、
前記X線放射器/検出器システム内の信号上の第1の雑音源の第1の相関雑音推定値と、
前記第1の相関雑音推定値を受信して前記第1の雑音源に関連する雑音が前記信号から実質的に除去されるようにすると共に、該第1の雑音源に関連する該雑音が実質的に無いフィルタリングされた信号を出力するように構成される、前記複数の適応フィルタのうちの第1の適応フィルタと、
前記X線放射器/検出器システム内の前記信号上のさらなる雑音源の付加的な相関雑音推定値と、
前記フィルタリングされた信号と前記付加的な相関雑音推定値とを受信して前記さらなる雑音源に関連する雑音が前記フィルタリングされた信号から実質的に除去されるようにすると共に、該さらなる雑音源が実質的に無いさらなるフィルタリングされた信号を出力するように構成される、前記複数の適応フィルタのうちの後続の適応フィルタとを備え、前記複数の適応フィルタを用いて、前記X線放射器/検出器システムにおいて前記信号上の複数の雑音源が除去されるようにし、前記信号のより正確な表示を与える、X線放射器/検出器システムのための信号雑音低減システム。
【請求項14】
前記信号はX線検出器信号である、請求項13に記載の信号雑音低減システム。
【請求項15】
前記複数の適応フィルタは、前記X線検出器信号から単一の雑音源をフィルタリングするように動作することができる、請求項14に記載の信号雑音低減システム。
【請求項16】
前記複数の適応フィルタのうちの少なくとも1つは、前記X線検出器信号から複数の雑音源をフィルタリングするように動作することができる、請求項14に記載の信号雑音低減システム。
【請求項17】
前記複数の適応フィルタはそれぞれ、所望の信号をフィルタリングするために選択された数のタップを含み、各該タップの値は各前記適応フィルタに関連付けられる誤差信号を最小にするように構成される更新アルゴリズムで更新され、該更新アルゴリズムはそれぞれ、選択された時間内に前記誤差信号を最小にするように選択される、請求項13に記載の信号雑音低減システム。
【請求項18】
前記第1の適応フィルタは、高電圧電源に関連付けられる信号雑音をフィルタリングするように動作することができ、前記後続の適応フィルタは、検出器マイクロホニックスで検出される機械的振動によって引き起こされる信号雑音をフィルタリングするように動作することができる、請求項13に記載の信号雑音低減システム。
【請求項19】
X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するための方法であって、
前記X線放射器/検出器システムの少なくとも2つのサブシステムに接続される共通クロックを与えることであって、該X線放射器/検出器システム内の該少なくとも2つのサブシステムに関連付けられる複数の雑音源が該共通クロックと相関できるようにする、与えること、
複数のタップを有し、所望の信号及び相関雑音推定信号を受信すると共に誤差信号を出力するように構成される適応フィルタを用いて、前記複数の雑音源のうちの少なくとも1つをフィルタリングすること、及び
前記出力される誤差信号を最小にするように更新アルゴリズムで前記複数のタップの値を更新することであって、それにより前記X線放射器/検出器システム内の前記適応フィルタにおいて前記少なくとも1つの雑音源を実質的に除去し、前記X線放射器/検出器システムの出力のより正確な表示を与える、更新することを含む、X線放射器/検出器システム内の信号雑音を低減するための方法。
【請求項20】
前記更新アルゴリズムで前記複数のタップのそれぞれの値を更新することをさらに含み、前記更新アルゴリズムは、時間領域、周波数領域及びウェーブレット領域のうちの少なくとも1つにおいて実行される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−96760(P2010−96760A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235900(P2009−235900)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(501218636)モックステック・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】