説明

X線放射装置

【課題】高エネルギーの電子蓄積リングのような大がかりな装置を用いることなく、所定値以上のエネルギー領域において特性X線の無い連続X線を発生することのできるX線放射装置を提供する。
【解決手段】X線放射装置は、炭素系冷陰極電子源、チタンよりも原子番号の小さい導電性軽元素ターゲットからなり、冷陰極電子源から放出された電子を入射するターゲット、及び、該ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を具備し、電子の入射方向に対して前方に放出するX線を利用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線吸収スペクトル分析などのX線を利用した計測・分析に使用するX線放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線吸収スペクトル等の分析では、高精度の測定を行うためにエネルギースペクトルにおいて特性X線等のピークが無く連続的なエネルギー分布を有する白色X線が望まれる。しかし、従来のX線管は、電子ビームを金属のターゲットに入射してX線を発生するため、連続的なスペクトルの制動放射X線に加えて鋭いピークを持つターゲット金属の特性X線が生じる。また、フィラメント・電子源に原子番号の大きな金属を用いており、高温でこれらが蒸発してターゲットに堆積し、特性X線のピークが現れる。連続X線を用いた分析においてこれらの特性X線は検出器を飽和させるなど悪影響を及ぼすため、広いエネルギー範囲において精度の高い測定は困難である。
【0003】
特性X線の無い連続X線を発生する方法としては、高エネルギーの電子蓄積リングからの放射光を用いる方法や高エネルギーの周回電子ビームを軽元素のワイヤーターゲットに入射してX線を発生する方法が知られているが、これらは1MeV以上の高エネルギー電子ビームを発生させる必要があるために装置が大きくなり、高価で設置場所が制限されるという問題があった。
【0004】
高エネルギーの電子蓄積リング等のような大がかりな装置を用いることなく、特性X線の無い連続X線を発生するX線放射装置は、従来、知られていなかったが、X線放射装置としては、様々なものが知られている。例えば、特許文献1には、冷陰極等の電子源により発生した電子ビームをX線ターゲットに衝突させ、該X線ターゲットの裏面に発生したX線を、多数の均一な連通孔を有するX線ガイドの孔に入射させ全反射により他面側に導き、極めて狭い角度のX線ビームにするX線発生装置が記載されている。しかしながら、ターゲットの材料は、原子量が大きく、高融点、化学的に安定性等に優れたAu、W、Mo、Pt、Reから選ばれるものであり、特性X線の無い連続X線を発生することについては全く意図されていないし、また、ターゲットで発生したX線以外のX線が、多数の均一な連通孔を有するX線ガイドによって遮蔽される旨についても全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-335419号公報
【特許文献2】特開2010-56062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような従来技術に存在する問題点を解決し、高エネルギーの電子蓄積リングのような大がかりな装置を用いることなく、所定値以上のエネルギー領域において特性X線の無い連続X線を発生することのできるX線放射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、X線装置などに適用される電子放出体(エミッタ)の研究過程で、次のような知見を得た。
(a)電子源として炭素系冷陰極を用い、ターゲットとして軽元素を用いれば、選択された該軽元素と炭素との特性X線のエネルギーを超えるエネルギー範囲で特性X線の無い連続X線が得られる可能性がある。
(b)ターゲットとして軽元素を用いた場合、入射した電子は重金属等の重元素ターゲットよりも内部に侵入し、X線の放出角依存性もエネルギーが高いほど前方のほうが多くなるため、ターゲットに垂直あるいは垂直に近い角度で入射し、入射方向に対して後方に放出されるX線を取り出す反射型の構造では十分なX線量を得ることができない。
(c)軽元素ターゲットは、X線吸収係数が重元素に比べて極めて低く、ターゲット内でのX線の自己吸収は少ない。さらに、エネルギーが表面に集中せず、局所的に温度が上がりにくく、比較的大きなX線量を得ることができる可能性がある。
(d)炭素は、融点が高く輻射率も高いので、出力の大きなX線を必要とする場合のターゲット材料に適している。
(e)ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を設けることにより、特性X線を含む散乱X線等が遮蔽でき、所定値以上のエネルギー領域において特性X線の無い連続X線を得ることができる。
【0008】
本発明は、以上のような知見に基づくものであり、次のような特徴を有するものである。
(1)炭素系冷陰極電子源、チタンよりも原子番号の小さい導電性の軽元素からなり、冷陰極電子源から放出された電子を入射する板状ターゲット、及び、該ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を具備し、X線は該ターゲットの電子の入射面と反対の面から放出させ、電子の入射方向に対し前方に放出するX線を利用することを特徴とするX線放射装置。
(2)炭素系冷陰極電子源、チタンよりも原子番号の小さい導電性の軽元素からなり、冷陰極電子源から放出された電子を入射するターゲット、及び、該ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を具備し、電子を該ターゲットの入射面に対して45度以下の角度で入射し、この入射面から電子の入射方向に対して前方に放出するX線を利用することを特徴とするX線放射装置。
(3)ターゲットが、炭素、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、又は、これらの複合化物あるいは化合物で、導電性を有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のX線放射装置。
(4)炭素系冷陰極がカーボンナノ構造体を含むものである上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のX線放射装置。
(5)ターゲットは、可動に構成されていて、冷陰極電子源からターゲットへの電子の入射位置が時間的に変動することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のX線放射装置。
(6)ターゲットは、回転可能に構成されていることを特徴とする上記(5)に記載のX線放射装置。
【発明の効果】
【0009】
炭素系冷陰極電子源、軽元素ターゲット、ターゲット以外からのX線を遮蔽するコリメータ等の遮蔽部材を用いることにより、広範囲のエネルギー領域において特性X線の無いX線の発生が可能になる。炭素系冷陰極電子源は、室温で動作することから、従来のヒーターやフィラメントを用いた熱陰極のように陰極の物質が蒸発してターゲットに堆積することは無い。真空が悪い場合、イオン衝撃によってスパッタリングされる可能性もあるが、陰極表面の構成物質が炭素であるため、ターゲットに炭素以外の特性X線が生じる物質が堆積することは無い。さらに、ターゲットも軽元素で構成されるため、選択した軽元素の種類に応じた所定値以上のエネルギー領域において特性X線のピークの無い連続的なX線スペクトルのX線を発生することができる。この発生したX線以外の散乱X線等をコリメータ等の遮蔽部材で遮蔽することによって、X線吸収スペクトルの分析などに利用できる白色X線を得ることができる。
軽元素ターゲットは、重金属ターゲットよりも内部に電子が侵入するが、X線の吸収が少なく、X線の放射も前方が多いため前方に放射したX線を利用することによって効率的にX線を利用できる。ターゲットとして摂氏2000度以上でも安定で輻射率・熱伝導率の高い炭素系材料を用いるとともに、ターゲットを回転等の可動構造とし大電流の電子ビームをターゲットに入射すれば、出力の高い連続X線の発生も可能である。軽元素ターゲットは、重金属ターゲットより電子が内部に侵入するため、エネルギーが表面に集中せず、局所的に温度が上がりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】透過型の軽元素ターゲットを用いる本発明のX線放射装置を示す図面。
【図2】反射型の軽元素ターゲットを用いる本発明のX線放射装置を示す図面。
【図3】熱電子源を用いる従来のX線管を示す図面。
【図4】炭素板固定ターゲットを用いる本発明のX線放射装置を示す図面。
【図5】図4の構成のX線源からのX線エネルギースペクトルを示す図面。
【図6】X線コリメータが無い場合のX線エネルギースペクトルを示す図面。
【図7】斜め入射炭素板固定透過ターゲットを用いる本発明のX線放射装置を示す図面。
【図8】炭素板固定反射ターゲットを用いる本発明のX線放射装置を示す図面。
【図9】炭素円板回転ターゲットを用いる本発明のX線放射装置を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のX線放射装置は、炭素系冷陰極電子源、チタンよりも原子番号の小さい軽元素からなり、冷陰極電子源から放出された電子が入射面に入射され、入射方向に対して前方にX線を放出させるターゲット、及び、該ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を具備する
【0012】
本発明における炭素系冷陰極電子源は、室温においてもカーボンナノ構造体の先端部から電界放出現象により電子を放出するものである。そのような炭素系冷陰極電子源としては、特に限定するものではないが、特許文献2に記載のものが好適に使用できる。
【0013】
本発明におけるターゲットは、チタンよりも原子番号の小さい導電性の軽元素からなり、冷陰極電子源から放出された電子が入射面に入射され、入射方向に対して前方にX線を放出する。通常の重金属ターゲットを用いるX線管は、図3のように電子をターゲットの入射面に垂直または垂直に近い角度で入射し入射面からX線を取り出す反射型の構造をしている。軽元素ターゲットの場合、同じ入射エネルギーで入射した電子は重金属ターゲットよりも内部に侵入し、X線の放出角依存性もエネルギーが高いほど前方のほうが多くなるため、図3のように電子をターゲットの入射面に垂直または垂直に近い角度で入射し入射方向に対し後方に放出するX線を利用する反射型の構造では十分なX線量を得ることができない。重金属ターゲットで反射型の構造を用いているのは、透過型にするとターゲット内でのX線自己吸収が多く効率が悪いという理由もある。それに対して、軽元素ターゲットは、X線吸収係数が重金属に比べて極めて低く、ターゲット内での自己吸収は少ない。そこで、本発明では、図1のように透過型のターゲット構造を用いて電子の入射方向に対して前方に放出されるX線を用いるか、図2のように入射面に対して45度以下(より好ましくは20度以下)の浅い角度で反射型ターゲットに電子を入射し入射方向に対して前方に放出されるX線を用いる構成とする。どちらの場合も利用するX線の放出角は、好適には電子の入射方向に対して45度以下の角度が良い。また、どちらの場合も電子の入射方向とターゲットの入射面のなす角よりX線の放出方向とターゲットの放出面とのなす角を小さくすれば、実効的な焦点サイズを小さくできる。
【0014】
ターゲットを構成するチタンよりも原子番号の小さい軽元素としては、好適には、炭素、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素等が挙げられ、それらの元素は、それぞれ単独で用いても良いし、また、張り合わせやコーティングなど複合化物として用いても良いし、さらに、炭化ケイ素等の化合物として用いることもできる。ダイヤモンドやケイ素の結晶は、純度が高い場合は導電性が低いが、ドーピングにより導電性を高めることができる。X線の出力が小さい場合はベリリウムなどを用いることができるが、出力の大きなX線を必要とする場合は融点が高く輻射率も高い炭素が適している。炭素はグラファイト・ダイヤモンド・アモルファス・ダイヤモンドライクカーボン構造などさまざまな構造を取ることができる。これら単体でもターゲットとして使用できるが、ダイヤモンドは高い熱伝導率を有し、グラファイトは高い導電率を有するという異なった特徴があることから、これらを複合化してターゲットを構成しても良い。
【0015】
本発明の透過型のターゲットは、板状体として構成され、その厚みは、入射面と反対の面から必要なX線量が放出されるように設定される。その厚みの数値は、特に限定するものではないが、通常、0.1〜5mm(好適には、0.2〜1mm)とすることができる。透過ターゲットの場合電子ビームの入射方向は、入射面に対し垂直でも前方にX線を出し本発明の効果が得られるが、入射面に対して低角度で入射すれば、電子ビームのサイズに対してターゲットへの入射面積を大きくでき、冷却が容易になる。本発明の反射型のターゲットは、厚みは限定しない。
【0016】
ターゲットは、冷陰極電子源に対し固定していても良いが、使用中に冷却されやすいように、可動に構成することもできる。例えば、ターゲットが静止している固定のカーボンターゲットの場合、電子ビーム出力が数百から1kW程度までは熱伝導及び熱輻射によって電子ビーム入射によって発生した熱を除去できるが、kW以上のオーダーの出力のX線源では固定ターゲットでは冷却が追い付かない。この場合、ターゲットを可動構造とし、可動している間に熱輻射によって熱を除去すれば出力の高いX線を発生させることができる。そのような可動の態様としては、往復直線移動でも良いし、移動軌跡が円や楕円を描くものでも良い。また、ターゲットを回転可能に構成することもできる。
【0017】
本発明のX線源は、電子源、ターゲット共に軽元素を用いるため、軽元素の種類に応じた所定値(ターゲットの軽元素として炭素を選択した場合は300eV、ケイ素を選択した場合は1900eV)以上のエネルギー領域において特性X線のピークの無い白色X線がターゲットから放出される。
【0018】
しかし、X線源の中では、電子はターゲットに入射した後散乱されてX線管の容器に当たり、特性X線を生じたり、ターゲットで発生したX線が容器に当たって蛍光X線を生じたりするものもある。これらのターゲット以外で生じるX線が照射方向へ放射されないように遮蔽するための遮蔽部材を設ける。
【0019】
該遮蔽部材は、ターゲットで発生したX線のみが本発明のX線放射装置の照射域に到達し、ターゲット以外で生じるX線で生じたX線は本発明のX線放射装置の照射域に到達しないように構成されている。
そのような遮蔽部材としては、例えば、モリブデン等のX線吸収係数の高い元素からなり、貫通孔を形成したコリメータを用いることができる。貫通孔としては、径が変化しない直孔であっても良いし、径が変化するテーパ孔であっても良い。適宜のテーパ孔を選択することにより、照射域における照射範囲を適宜に調整することもできる。
【0020】
貫通孔を形成したコリメータ等の遮蔽部材は、ターゲットと照射域との間に設けられ、ターゲットで発生したX線が該貫通孔を通って照射域に到達するように、貫通孔の位置や方向が設定されている。例えば、冷陰極電子源からの電子線はターゲットの入射側表面に垂直に衝突し、その裏面からX線が出射する場合には、該貫通孔の軸線が電子線の進行方向の延長線上になるように該貫通孔が設けられる。そのような設定により、ターゲット以外で生じた前記特性X線や蛍光X線は、該貫通孔に入りにくくなっているし、仮に、該貫通孔に入ることができたとしても、該貫通孔の途中で減衰してしまったりして該貫通孔を通り抜けることが困難となっている。また、仮に、該貫通孔を出る特性X線や蛍光X線があったとしても、その照射方向が該貫通孔の軸線と大きく外れるため、照射域の照射範囲に到達できない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0022】
(実施例1)
図4に透過型の固定炭素ターゲットの場合の実施例を示す。この実施例は、炭素系冷陰極電子源と透過型の板状軽元素固定ターゲット、X線真空窓を有する真空容器、コリメータで構成され、真空中で電子をターゲットに入射面に対して垂直に入射して反対側からX線をコリメータを通して取り出す。図5に電子のエネルギー70keV、カーボンターゲットでカーボンの厚さ0.5mm、0.25mmのベリリウム製の真空窓から出たX線をモリブデン製コリメータを通しSDD(Silicon Drift Detector)検出器により測定したエネルギースペクトルを示す。また、図6にはコリメータが無い場合のエネルギースペクトルを示す。コリメータが無い場合は真空容器で生じた特性X線が観測されるが、コリメータを付けると、特性X線のピークの無いなだらかなエネルギースペクトルのX線が得られる。
【0023】
(実施例2)
図7に透過型の固定炭素ターゲットの第二の実施例を示す。この実施例は、構成部品は実施例1と同じだが、炭素板固定ターゲットへの電子ビームの入射方向と入射面とのなす角θ1を45度以下とし、X線の出射面と利用するX線の出射方向のなす角θ2はθ1よりも小さな角度にする。θ1を45度以下にすることによって、電子ビームを垂直に入射するよりもターゲットに電子ビームがあたる面積が大きくなり、実施例1よりもX線の出力を上げることができる。さらに、θ2をθ1よりも小さな角度にすることによりコリメータを通した後のX線の実効的なターゲットの焦点サイズを電子ビームの径よりも小さくできる。θ2を小さくすると、ターゲット内においてX線の発生点から出射点までの距離が長くなるため低エネルギー領域のX線の自己吸収の割合が増えるという欠点もあることから、最適なθ2は使用する条件によって異なる。
【0024】
(実施例3)
図8に反射型の固定炭素ターゲットの実施例を示す。反射型のターゲットでは、電子ビームとターゲットの入射面とのなす角θ1を45度以下に小さくすることにより、実施例2と同様にターゲットに電子ビームがあたる面積が大きくなるという効果のほかに、X線の発生位置が浅くなりX線の自己吸収による強度低下を抑えることができる効果もある。さらに、θ2をθ1よりも小さな角度にすることにより実施例2と同様にコリメータを通した後のX線の実効的なターゲットの焦点サイズを入射電子ビームの径よりも小さくできる。
【0025】
(実施例4)
図9に回転ターゲットの場合の実施例を示す。回転ターゲットを用いることにより、電子入射位置の温度上昇を抑えることができ、より大電流の電子をターゲットに入射して強度の高いX線を発生させることができる。回転ターゲットにおいても、電子ビームの入射方向やX線の出射方向を変えることにより、固定ターゲットと同様に斜め方向からの電子ビーム入射による入射面積の増大やX線出射面と出射方向のなす角を小さくすることによる実効焦点サイズの縮小ができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のX線放射装置は、ターゲットの軽元素の種類に応じた所定値(例えば、カーボンターゲットの場合には、300eV)以上のエネルギー領域において特定X線のない連続スペクトル分布を持つ白色X線が得られるので、X線吸収スペクトル測定に用いるのに適しており、SDDなどエネルギー分散型検出器を用いて、吸収端の測定を行うことにより、非破壊で元素別定量が簡便にできるようになることが考えられる。
また、本発明のX線放射装置では、分光器を用いる場合にも特性X線の妨害を受けないので、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)測定の制限がなくなる。
本発明のX線放射装置は、装置を小型化することが可能であるし、また、電子ビームのエネルギーや電流を上げることによって高い強度のX線を得ることができるので、材料製造プロセス等における種々の工程において、希土類元素等の各種元素の電子状態、配位構造等をその場で測定する測定装置等に応用することが考えられる。
本発明のX線放射装置は、パルス電源を用いることにより、パルスX線を発生させることも可能であるので、検出系を工夫することによりある程度の動的計測にも対応できる可能性がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系冷陰極電子源、チタンよりも原子番号の小さい導電性の軽元素からなり、冷陰極電子源から放出された電子を入射する板状ターゲット、及び、該ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を具備し、X線は該ターゲットの電子の入射面と反対の面から放出させ、電子の入射方向に対し前方に放出するX線を利用することを特徴とするX線放射装置。
【請求項2】
炭素系冷陰極電子源、チタンよりも原子番号の小さい導電性の軽元素からなり、冷陰極電子源から放出された電子を入射するターゲット、及び、該ターゲットで発生したX線以外のX線を遮蔽する遮蔽部材を具備し、電子を該ターゲットの入射面に対して45度以下の角度で入射し、この入射面から電子の入射方向に対して前方に放出するX線を利用することを特徴とするX線放射装置。
【請求項3】
ターゲットが、炭素、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、又は、これらの複合化物あるいは化合物で、導電性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のX線放射装置。
【請求項4】
炭素系冷陰極がカーボンナノ構造体を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のX線放射装置。
【請求項5】
ターゲットは、可動に構成されていて、冷陰極電子源からターゲットへの電子の入射位置が時間的に変動することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のX線放射装置。
【請求項6】
ターゲットは、回転可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載のX線放射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−133897(P2012−133897A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282515(P2010−282515)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究「材料創成に資する動的その場解析のためのX線吸収測定装置に関する調査研究」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】