説明

X線断層撮影装置

【発明の詳細な説明】
【0001】〔発明の目的〕
【0002】
【産業上の利用分野】本発明はX線断層撮影装置に係り、特にX線の高速走査が可能であり、かつアーチファクトの発生が少なく鮮明な断層画像を形成することが可能なX線断層撮影装置に関する。
【0003】
【従来の技術】人体等の被検体周囲の多方向からX線を被検体に照射し、被検体を透過したX線の強度を検出器にて測定し、この測定値を計算機で処理して被検体の断層面のX線吸収係数分布を得るX線断層撮影装置(X線CT装置)が、病院等における診断設備として広く普及している。
【0004】今日一般に普及しているX線CT装置は、X線源およびX線検出器の配置構造の相違により、第3世代から第5世代までの種々の方式がある。
【0005】図3は、現在一般に広く普及している第3世代のX線CT装置の構成を示す概略正面図である。この第3世代のCT装置は、X線管1から被検体2全体を包み込むように扇状のX線ビーム3を照射し、被検体2を透過したX線ビーム3の強度を、対向位置に数百個のアレイ状に配置したX線検出器4に受信させ各角度から投影データを収集する装置である。X線管1とX線検出器4とは、被検体2をはさむようにして一体的に形成されており、被検体2を中心として一体に矢印方向に機械的に回転するように構成される。
【0006】図4は、第4世代のX線CT装置の構成を示す概略図である。この第4世代のCT装置は、被検体2の収容空間全周にX線検出器4aを配列固定し、X線管1aのみを回転させながらX線ビーム3を被検体2に照射し、被検体2の各方向からの投影データを収集する装置である。本方式ではX線管1aの回転動作のみで撮影が実施されるため、機械的に信頼度が高く、かつ撮影時間も1〜10秒程度に短縮される。
【0007】図5は第5世代方式のX線CT装置の構成例を示す断面図である。この第5世代方式の装置は、被検体周囲でのX線源の回転を機械的に行なわず、電子銃5から発射された電子ビーム6を集束装置7、偏向ヨーク8、静電偏向電極9によって加速偏向させて、リング状に配設したターゲット10の所定位置に衝突せしめX線ビーム3を発生させている。X線検出器4bは、リング状に形成されたターゲット10の内周にアーク状に配設される。またターゲット10から照射されたX線ビーム3を遮らないようにするため、X線検出器4bの中央部にX線ビーム3の通路が形成されたり、またはX線検出器4bとターゲート10とをオフセットして配置する構造が採用されている。
【0008】この方式によれば、機械的手段に頼ることなく、電子ビームを偏向させることによって電子的にX線源の位置をターゲット10上で移動する方式であるため、X線源の高速回転が可能であり、50mS程度の撮影時間と17scan/sec 程度のスキャン速度とが得られ、超高速撮影が可能となり、特に心臓などの動く臓器の撮影に極めて有効である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら従来の第3世代および第4世代のX線CT装置においては、X線管の構造強度上の問題からX線管を搭載した架台回転部の回転周期を1秒以下にすることは極めて困難であった。
【0010】すなわち、従来X線源としては、一般に負荷定格が高い回転陽極式X線管が使用されており、このX線管は、真空容器内に回転自在に保持された陽極としての円板状ターゲットと、このターゲットに対向して配置され、陰極としてのフィラメントとから構成される。フィラメントを通電加熱することによって陰極から放出された電子は陽極に衝突してX線を発生させる。ところで、この種のX線管においては、X線の発生効率を高めるために、タングステン(W)などの高熱容量を有する金属材で形成した高重量のターゲットを採用している。しかしX線に変換されない大部分の電子のエネルギーが熱に変換されターゲット部分は高温度に加熱される。このような高温度環境下で高重量のターゲットを高速回転自在に保持するシャフトやベアリングの耐性には限度があり、この高速回転体を内蔵するX線管全体を架台回転部とともに回転する場合にも、上記のシャフトおよびベアリングの強度が制約となって、回転周期を1秒以下とする高速回転が困難となっている。
【0011】一方第5世代方式のX線CT装置においては、図5に示すように、リング状に形成されたターゲット10の内周側にアーク状にX線検出器4bを配設する構造を有する。そのためX線源からのX線ビーム3を被検体2に照射するためには、X線源に近いX線検出器4bはX線ビーム3を遮らないように、各X線検出器4bの軸方向中心部にビームの通路を設けたり、またはX線検出器4bとターゲット10とをオフセット配置することが必須の要件となる。
【0012】そのため、X線源の位置を代えた場合におけるスライス面が同一にならず、アーチファクトが発生し易く、鮮明で高精度の断層画像が得られにくいという問題点がある。
【0013】本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、X線の高速走査が可能であり、かつアーチファクトの発生が少なく、鮮明な断層画像を形成することが可能なX線断層撮影装置を提供することを目的とする。
〔発明の構成〕
【0014】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明に係るX線断層撮影装置は、略360度の角度範囲にアーク状に配置され、電子ビームを衝突させることにより発生したX線ビームをアークの中心部に配置した被検体方向に照射するターゲットと、このターゲット上の電子ビーム照射点を中心とする円弧状に配置され、上記被検体を透過したX線量を検出するX線検出器と、アーク状に配置されたターゲットのアーク中心を回転中心にして、上記X線検出器を機械的に回転させる回転機構と、前記X線検出器の回転角度と前記X線ビームの発生位置とを関連付けて前記電子ビームの照射状態を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
【作用】上記構成に係るX線断層撮影装置によれば、アーク状に配置されたターゲットに電子ビームを衝突させることにより、ターゲット上のX線発生点の軌道運動を電磁気的に制御する方式を採用しているため、従来のようなX線管を走査方向に回転移動する必要がなく、ターゲットに対する電子ビームの衝突位置に対向するようにX線検出器を回転機構によって機械的に回転することにより被検体の異なる方位からの透過X線量を測定することができる。すなわち機械的に回転させる対象にX線管は含まれないことから、従来のX線管のベアリングシャフトの強度に制約されず、X線検出器を高速度で回転させることが可能になり、撮影時間を飛躍的に短縮することができる。
【0016】またX線検出器は、X線源を遮ることなく回転する構造となるため、従来の第5世代方式のようにX線検出器とターゲットとをオフセット配置する必要がなく、X線源のターゲットの円周方向のいずれの位置に設定した場合においてもスライス面は同一となる。そのためアーチファクトが少なく、鮮明で高精度の断層画像を再構成することができる。
【0017】
【実施例】次に本発明の一実施例について添付図面を参照して説明する。図1は本発明装置の一実施例の具体的な構成を示す装置全体図、図2は本発明装置の一実施例の構成を示す断面図である。なお、図5に示す従来例と同一要素には同一符号を付している。
【0018】すなわち本実施例に係るX線断層撮影装置は、360゜の角度範囲にアーク状に配置され、電子ビーム6を衝突させることにより発生したX線ビーム3をアークの中心部に配置した被検体2方向に照射するターゲット10と、このターゲット10上の電子ビーム照射点Fを中心とする円弧上に配置され、上記被検体2を透過したX線量を検出するX線検出器4cと、アーク状に配置されたターゲットのアーク中心Cを回転中心にして、上記X線検出器4cを回転させる回転機構11と、X線検出器4cの回転位置を検出し、その回転位置に対向するターゲット10の定位置に電子ビーム3の焦点が形成されるように、電子ビーム3の衝突位置を制御する制御機構12と、X線検出器4cからのX線ビーム強度信号をデジタル電気信号に変換するデータ収集装置13と、デジタル電気信号に基づいて、断層画像を再構成するデータ処理装置14とを備えて構成される。
【0019】また上記制御機構12は、X線検出器4cの回転角度θを検知し、その回転角度θに対応する電子ビーム6の照射位置F′を信号として出力する機構制御ユニット15と、機構制御ユニット15からの出力信号に基づき、電子ビーム6の焦点がX線検出器4cと対向するターゲットの定位置に形成されるように、電子ビーム6を電磁的に偏向制御しX線発生点を制御するX線制御ユニット16とから構成される。
【0020】さらにリング状のターゲット10が配置された面と、上記X線検出器4cが配置された面とが、同一平面となるように構成されている。
【0021】また図2に示すように、装置本体左端には、電子ビーム6を放射する電子銃5が配設され、この電子銃5は真空容器17の一端と接続されている。この真空容器17は、この真空容器の器壁に設けられた排気孔に接続されたL型排気管を通して、真空ポンプ18によって約10-7Torr程度の真空度に保たれている。真空容器17の細くくびれ部分の位置に、電子銃5に近い側から集束装置7としての集束コイル19と偏向装置、即ちビーム偏向ヨーク8とが設けられている。電子銃5の開孔から引き出された電子ビーム6は前記集束コイル19によって細く絞られた後前記ビーム偏向ヨーク8によって所定の角度だけ偏向され、かつ同一立体角を保ちながらコーン状に回転される。この電子ビーム6は真空容器17内にリング状に設けられた補助偏向装置、即ち静電偏向電極9によって再び偏向され真空容器17の他端付近にリング状に並置されたターゲット10の所定の電子ビーム照射点F、即ち、X線発生点に衝突しX線ビーム3を放出する。このターゲット10には、金属パイプ20が付設されており、この金属パイプ20内に、油、水などの冷却媒体を流通せしめることにより、電子ビーム6の衝突によって、ターゲット10から放出される熱が系外に排出されるように構成される。
【0022】電子銃5から放射された電子ビーム6は、リング状に形成された金属板から成るターゲット10に衝突することにより、その衝突点、すなわち電子ビーム照射点FからX線ビーム3が放出される。放出されたX線ビーム3は、被検体2を包含する撮影領域21を十分にカバーし得る角度範囲に配置されたX線検出器4cによって放出される。X線検出器4cは、機構制御ユニット15の制御に従って、リング状ターゲット10のアーク中心Cを回転中心にして、回転周期が1秒以下の高速度で回転し、各回転位置における透過X線量を検出する。また機構制御ユニット15は、X線検出器4cの回転角度θを検知し、その回転角度θにあるX線検出器4cに対向するターゲット10の定位置に電子ビーム6の焦点がくるようにX線制御ユニット16に信号を出力する。X線制御ユニット16は、電子ビーム6の焦点がターゲット10上の定位置に形成されるように、集束装置7、偏向ヨーク8、静電偏向電極9を電磁的に制御する。この場合にも、ターゲット10上の焦点位置Fが移動する平面と、X線検出器4cの受光面が回転移動する平面とが同一平面になるように制御される。
【0023】X線検出器4cで検出されたX線ビーム強度(X線透過量)は、電気信号に変換され、データ収集装置13にてデジタル変換された後に、データ処理装置14に送信される。データ処理装置14は、被検体2の周囲のあらゆる方向から照射されたX線の透過強度の測定値を基礎にし、画像再構成法を用いて被検体2の断層面(スライス面)のX線吸収係数を計算し、その結果を断層画像として、図示しない表示装置に表示する。
【0024】以上のように本実施例に係るX線断層撮影装置によれば、アーク状に配置されたターゲット10に電子ビーム6を衝突させることにより、X線発生点Fの軌道運動を電磁気的に制御し、任意の位置でX線を発生させる方式を採用しているため、従来のようなX線管を走査方向に回転移動する必要がなく、ターゲットに対する電子ビームの衝突位置に対向するようにX線検出器4cを回転機構11によって機械的に回転することにより被検体2の異なる方位からの透過X線量を測定することができる。すなわち機械的に回転させる部位はX線検出器4cのみであるから、従来のX線管のベアリングシャフトの強度に制約されず、X線検出器4cを高速度で回転させることが可能になり、撮影時間を飛躍的に短縮することができる。
【0025】またX線検出器4cは、X線源を遮ることなく回転する構造となるため、従来の第5世代方式のようにX線検出器とターゲットとをオフセット配置する必要がなく、X線源のターゲットの円周方向のいずれの位置に設定した場合においてもスライス面は同一となる。そのためアーチファクトが少なく、鮮明で高精度の断層画像を再構成することができる。
【0026】また本実施例装置によれば、架台(ガントリー)の回転機構11にはX線検出器4cのみを搭載し、X線管を搭載する必要がないため、架台の回転部と固定部とを接続する高圧スリップリングおよびX線発生用の高周波発生器(HFG)などの高重量設備を搭載する必要がなくなり、装置のシステム構成が大幅に簡素化される。
【0027】
【発明の効果】以上説明の通り本発明に係るX線断層撮影装置によれば、アーク状に配置されたターゲットに電子ビームを衝突させることにより、ターゲット上のX線発生点の軌道運動を電磁気的に制御する方式を採用しているため、従来のようなX線管を走査方向に回転移動する必要がなく、ターゲットに対する電子ビームの衝突位置に対向するようにX線検出器を回転機構によって機械的に回転することにより被検体の異なる方位からの透過X線量を測定することができる。すなわち機械的に回転させる対象にX線管は含まれないことから、従来のX線管のベアリングシャフトの強度に制約されず、X線検出器を高速度で回転させることが可能になり、撮影時間を飛躍的に短縮することができる。
【0028】またX線検出器は、X線源を遮ることなく回転する構造となるため、従来の第5世代方式のようにX線検出器とターゲットとをオフセット配置する必要がなく、X線源のターゲットの円周方向のいずれの位置に設定した場合においてもスライス面は同一となる。そのためアーチファクトが少なく、鮮明で高精度の断層画像を再構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るX線断層撮影装置の一実施例の具体的な構成を示す装置全体図。
【図2】本発明装置の一実施例を示す概略断面図。
【図3】第3世代のX線断層撮影装置の構成例を示す概略図。
【図4】第4世代のX線断層撮影装置の構成例を示す概略図。
【図5】第5世代のX線断層撮影装置の構成例を示す概略図。
【符号の説明】
1,1a…X線管(X線源)
2 被検体
3 X線ビーム
4,4a,4b,4c…X線検出器
5 電子銃
6 電子ビーム
7 集束装置
8 偏向ヨーク
9 静電偏向電極
10 ターゲット
11 回転機構
12 制御機構
13 データ収集装置
14 データ処理装置
15 機構制御ユニット
16 X線制御ユニット
17 真空容器
18 真空ポンプ
19 集束コイル
20 金属パイプ
21 撮影領域
F,F′ 電子ビーム照射点(X線発生点)
C ターゲットのアーク中心(X線検出器の回転中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 略360度の角度範囲にアーク状に配置され、電子ビームを衝突させることにより発生したX線ビームをアークの中心部に配置した被検体方向に照射するターゲットと、このターゲット上の電子ビーム照射点を中心とする円弧状に配置され、上記被検体を透過したX線量を検出するX線検出器と、アーク状に配置されたターゲットのアーク中心を回転中心にして、上記X線検出器を機械的に回転させる回転機構と、前記X線検出器の回転角度と前記X線ビームの発生位置とを関連付けて前記電子ビームの照射状態を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするX線断層撮影装置。
【請求項2】 前記ターゲットが配置された面と、前記X線検出器が配置された面とが、同一平面であることを特徴とする請求項1記載のX線断層撮影装置。
【請求項3】 前記制御手段は、前記X線検出器の回転位置に応じて、前記ターゲットにおける前記電子ビームの衝突位置を変更することを特徴とする請求項1記載のX線断層撮影装置。
【請求項4】 前記制御手段は、前記X線検出器の回転位置を検出し、その回転位置にあるX線検出器に対向するターゲットの定位置に電子ビームの焦点が形成されるように、電子ビームの衝突位置を制御することを特徴とする請求項1記載のX線断層撮影装置。
【請求項5】 前記制御手段は、前記ターゲットにおいて前記X線検出器の円弧の中心となる位置に電子ビームの焦点が形成されるように、電子ビームの衝突位置を制御することを特徴とする請求項4記載のX線断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3210357号(P3210357)
【登録日】平成13年7月13日(2001.7.13)
【発行日】平成13年9月17日(2001.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−82518
【出願日】平成3年4月15日(1991.4.15)
【公開番号】特開平4−314433
【公開日】平成4年11月5日(1992.11.5)
【審査請求日】平成10年1月23日(1998.1.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【参考文献】
【文献】特開 昭53−46295(JP,A)
【文献】特開 昭56−41659(JP,A)