説明

X線検出システム

【課題】電子線を照射した試料からの特性X線を回折させてスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトルの各ピークが、測定対象であるか、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかの情報を提供する。
【解決手段】試料に対して電子線を照射する電子線照射部10と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子50と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサ60と、前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向として前記イメージセンサに隣接して配置され、エネルギー設定範囲において前記回折X線を検出するシンチレーションカウンタ70と、前記イメージセンサで検出された前記回折X線のスペクトルを分析すると共に、前記シンチレーションカウンタの検出結果を参照し、前記スペクトルのピークの内容を分析する分析部80とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0003】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0004】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備えて構成されている。
【0005】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のようなX線検出システムにより、酸化物・窒素物等の化合物を試料として電子線を照射すると、特性X線以外に、特性X線とは波長が異なるカソードルミネッセンス(CL)と呼ばれる発光が発生することがある。また、波長分散型の分光器であるため、高次線による複合ピークなども存在する。これら、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークなどの存在により、イメージセンサで得られる採取スペクトルの分析が困難になっている。
【0008】
しかし、イメージセンサで得られる採取スペクトルの各ピークが、測定対象の回折X線(軟X線)であるか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかは、イメージセンサの受光結果からは判別することができないため、これらを判断可能なシステムは存在していなかった。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトルの各ピークが、測定対象のX線であるか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかの情報を提供することができるX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0011】
(1)この発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向として前記イメージセンサに隣接して配置され、エネルギー設定範囲において前記回折X線を検出するシンチレーションカウンタと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線のスペクトルを分析すると共に、前記シンチレーションカウンタの検出結果を参照し、前記スペクトルのピークの内容を分析する分析部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
(2)この発明は、上記(1)において、前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向に移動可能に構成されており、前記イメージセンサにおいて前記回折X線を検出している期間において、前記測定長手方向を移動しつつ前記回折X線を検出する、ことを特徴とする。
【0013】
(3)この発明は、上記(2)において、前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向の移動中に、エネルギー設定範囲が変更される、ことを特徴とする。
【0014】
(4)この発明は、上記(2)において、前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向の移動を、エネルギー設定範囲を異なる状態に設定にして繰り返し移動する、ことを特徴とする。
【0015】
(5)この発明は、上記(2)において、前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向の移動中にエネルギー設定範囲が変更され、さらに、エネルギー設定範囲を異なる状態に設定にして繰り返し移動する、ことを特徴とする。
【0016】
(6)この発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向として前記イメージセンサに隣接して配置され、前記回折X線の各エネルギー分散位置におけるスペクトルを検出する半導体放射線検出器と、前記イメージセンサで検出された前記回折X線のスペクトルを分析すると共に、前記半導体放射線検出器の検出結果を参照し、前記スペクトルのピークの内容を分析する分析部と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
(7)この発明は、上記(6)において、前記半導体放射線検出器は、前記測定長手方向に移動可能に構成されており、前記イメージセンサにおいて前記回折X線を検出している期間において、前記測定長手方向を移動しつつ前記回折X線を検出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0019】
(1)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、エネルギー設定範囲において回折X線を検出するシンチレーションカウンタが回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向としてイメージセンサに隣接して配置されており、分析部がイメージセンサで検出された回折X線のスペクトルを分析すると共に、シンチレーションカウンタの検出結果を参照してスペクトルのピークの内容を分析する。
【0020】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトルの各ピークが、測定対象の回折X線(軟X線)であるか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかの情報を提供することが可能になる。
【0021】
(2)この発明では、シンチレーションカウンタは、測定長手方向に移動可能に構成されており、イメージセンサにおいて回折X線を検出している期間において、測定長手方向を移動しつつ回折X線を検出することにより、イメージセンサでのスペクトルの採取に合わせて、そのスペクトルについての情報を収集することが可能になる。
【0022】
(3)この発明では、シンチレーションカウンタは、測定長手方向の移動中に、エネルギー設定範囲が変更されることにより、イメージセンサでのスペクトルの採取に合わせて、そのスペクトルについての情報を収集の精度を向上させることが可能になる。
【0023】
(4)この発明では、シンチレーションカウンタは、測定長手方向の移動を、エネルギー設定範囲を異なる状態に設定にして繰り返し移動することにより、イメージセンサでのスペクトルの採取に合わせて、そのスペクトルについての情報を収集の精度を向上させることが可能になる。
【0024】
(5)この発明では、シンチレーションカウンタは、測定長手方向の移動中にエネルギー設定範囲が変更され、さらに、エネルギー設定範囲を異なる状態に設定にして繰り返し移動することにより、イメージセンサでのスペクトルの採取に合わせて、そのスペクトルについての情報を収集の精度を向上させることが可能になる。
【0025】
(6)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、回折X線の各エネルギー分散位置におけるスペクトルを検出する半導体放射線検出器が回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向としてイメージセンサに隣接して配置されており、分析部がイメージセンサで検出された回折X線のスペクトルを分析すると共に、半導体放射線検出器の検出結果を参照してスペクトルのピークの内容を分析する。
【0026】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、イメージセンサでのスペクトルの採取に合わせて、そのスペクトルについての情報を収集することが可能になり、採取スペクトルの各ピークが、回折X線であるか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかの情報を提供することが可能になる。
【0027】
(7)この発明では、半導体放射線検出器は、測定長手方向に移動可能に構成されており、イメージセンサにおいて回折X線を検出している期間において、測定長手方向を移動しつつ回折X線を検出することにより、イメージセンサでのスペクトルの採取に合わせて、そのスペクトルについての情報を収集することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0030】
〈第1実施形態〉
まず図1〜図3を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0031】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した斜視図の状態でX線検出システムを示している。また、図2では、ブロック図に近い状態でX線検出システムを示している。そして、図3は、回折X線を検出する構造を拡大して示している。
【0032】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0033】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラー34aと34bとで集光させて回折格子50に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。なお、ここでは、説明のため、ミラー34aと34bとがむき出しの状態になっているが、これに限定されず、ミラー34aと34bとを一体保持するミラー外部筐体のような筒状の構造体が存在していてもよい。
【0034】
回折格子50は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子50は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度)で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ60の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。なお、この第1実施形態においては、イメージセンサ60の受光面と、隣接するシンチレーションカウンタ70とを含む平面に、回折光の焦点を結ぶように設計される。
【0035】
イメージセンサ60は、回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ60は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0036】
シンチレーションカウンタ70は、回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向として、イメージセンサ60に隣接して配置され、エネルギー設定範囲において回折X線を検出する。なお、このシンチレーションカウンタ70は、上記イメージセンサ60と共に、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。また、シンチレーションカウンタ70は、駆動機構71によって検出素子72が測定長手方向(回折X線のエネルギー分散方向)に移動可能に構成されている。
【0037】
分析部80は、イメージセンサ60で検出された回折X線を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成する波形分析装置である。また、分析部80は、シンチレーションカウンタ70の検出結果を参照し、エネルギー分布スペクトルのピークの内容を分析する機能を有する。
【0038】
表示部90は分析部80での分析結果であるエネルギー分布スペクトルやその他の各種情報を視覚的に表示するディスプレイである。
【0039】
なお、分析部80と表示部90とは、コンピュータ装置及びエネルギー分布スペクトルを算出するコンピュータプログラムとで構成することも可能である。
【0040】
また、シンチレーションカウンタ70は、分析部80からの指示に基づいて、イメージセンサ60において回折X線を検出している期間において、測定長手方向を移動しつつ回折X線を検出する機能を有する。更に、シンチレーションカウンタ70は、測定長手方向を移動する際に、分析部80によってエネルギー設定範囲が変更される機能を有している。
【0041】
また、シンチレーションカウンタ70は、回折格子50からの回折X線が確実に結像するように位置調整がなされていてもよいが、イメージセンサ60に結像する回折X線の一部がシンチレーションカウンタ70に入射するような位置関係であってもよい。
【0042】
なお、以上の試料20、X線集光ミラー部30、回折格子50、イメージセンサ60、およびシンチレーションカウンタ70は、図示されていないが、真空ポンプで排気された分光器室に設けられ、ゲートバルブを介して走査型電子顕微鏡の鏡筒に取り付けられているものとする。
【0043】
また、このX線検出システムにおける回折格子50およびその周辺の構成の詳細については、本件出願人が別途特許出願した特開2002−329473号公報に記載されている。また、イメージセンサ60で得られた回折X線の処理システムについては、既知のものを使用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0044】
以上のようなX線検出システムでは、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させる。そして、回折格子50は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。そして、この回折X線は、イメージセンサ60で露光処理される。
【0045】
以上の電子線照射に基づく露光処理は、イメージセンサ60で十分な信号レベルとなるように、数秒〜数十秒の所定の露光時間が定められている。
【0046】
そして、分析部80は、イメージセンサ60の出力を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成し、表示部90に表示する。
【0047】
一方、駆動機構71は分析部80から露光時間のデータあるいは移動指示を得て、この数秒〜数十秒の所定の露光時間において、シンチレーションカウンタ70の検出素子72は所定のエネルギーフィルタが適用された状態で、エネルギー分散方向を片道1移動あるいは往復移動する。
【0048】
この状態では、イメージセンサ60に結像する回折X線の一部がシンチレーションカウンタ70の検出素子72に入力することになる。この検出素子72の検出結果は分析部80に伝達される。
【0049】
ここで、エネルギーフィルタとしては、分析部80からの指示に基づいて、軟X線のエネルギー、軟X線以外(以上あるいは以下)のエネルギー、軟X線以外の特定の既知線のエネルギー、など、いずれかに設定する。なお、検出素子72が1往復移動あるいはそれ以上の移動をする場合には、1移動毎に異なるエネルギーフィルタの設定として、異なるエネルギーを検出することも可能である。
【0050】
そして、分析部80は、イメージセンサ60の出力(図4(a))を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトル(図4(b))を生成し、表示部90に表示する。
【0051】
また、これと並行して、分析部80は、シンチレーションカウンタ70の検出結果を参照し、エネルギー分布スペクトルのピークの内容を分析する。
【0052】
すなわち、分析部80は、エネルギー分布スペクトルの各ピークが、測定対象である軟X線によるものか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線などの他の成分の影響を受けたものか、それら他の成分の影響をどの程度受けたものか、を分析する。
【0053】
図4(c)は、エネルギー分布スペクトルの各ピークが、どのようなスペクトルを含んでいるかを模式的に示す特性図であり、手前横軸は図4(b)の横軸と同じであり、奥行き方向は各ピークのスペクトルを表している。
【0054】
この場合、分析部80からの指示に基づいて、シンチレーションカウンタ70の検出素子72のエネルギー設定範囲として、軟X線のエネルギー、軟X線以外(以上あるいは以下)のエネルギー、軟X線以外の特定の既知線のエネルギー、など、いずれかを設定し、検出素子72を片道1移動、あるいは、1往復移動させつつ、検出を行う。
【0055】
なお、シンチレーションカウンタ70の検出素子72がどのようなエネルギー設定範囲であるかにより、図4(c)の表示は異なるが、最低1種類のエネルギー設定範囲であっても、エネルギー分布スペクトルの各ピークと、シンチレーションカウンタ70のエネルギー設定範囲のスペクトルとの影響について明らかになる。
【0056】
なお、以上の説明では、移動開始前にシンチレーションカウンタ70の検出素子72がどのようなエネルギー設定範囲であるかを定めるようにしているが、検出素子72の移動中において、分析部80からの指示によりエネルギー設定範囲を設定あるいは設定変更することも可能である。この場合には、たとえば、各ピーク毎に異なる設定にすることも可能であり、スペクトル解析が正確にできるため、電子状態分布情報をより正確に得られるようになる。
【0057】
なお、軟X線領域光にエネルギー設定範囲を定め(図5(b))、軟X線領域光とXESの全体とを差し引くことで、軟X線領域外光(妨害光)を求めることができ、図5(a)のように軟X線と妨害光とを切り分けることも可能になる。
【0058】
また、シンチレーションカウンタ70の検出素子72を複数のエネルギー設定範囲に変更して、露光時間内にそれぞれ何度か移動(何度かの片道移動、あるいは、何度かの往復移動)させて検出を行うことで、図4(d)のように、エネルギー分布スペクトルの各ピークと、シンチレーションカウンタ70のエネルギー設定範囲の複数のスペクトルとの影響について明らかになる。ここでは、エネルギー設定範囲を変えた検出を増やす毎に、図4(d)のスペクトル方向の特性表示が増えることになる。そして、この場合には、カソードルミネッセンスや高次線など、いくつかの成分の影響を受けているかが明らかになる。
【0059】
なお、得られたXESに対して既知線でエネルギー設定範囲を複数設定すれば(図6の既知光#1〜#3)、図6の大きく分けて3つのピークの内の2番目のピークが複合ピークであることが知りうる。
【0060】
ただし、露光時間内に行うため、シンチレーションカウンタ70のエネルギー設定範囲を増やすと、1設定当たりの検出時間が短くなって、測定精度が低下する恐れがあるため、必要なエネルギー設定範囲に限ることが望ましい。
【0061】
以上のように、この第1実施形態によれば、エネルギー分布スペクトルの各ピークが、測定対象の回折X線(軟X線)であるか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかの情報を提供することが可能になる。
【0062】
すなわち、エネルギー分布スペクトルについて妨害光による誤認の可能性が減り、より正確なスペクトル解析が可能になる。
【0063】
また、スペクトル解析が正確にできるため、電子状態分布情報をより正確に得られるようになる。
【0064】
さらに、イメージセンサ60単体ではほぼ不可能であったピークの重なりについても、図4に示す各スペクトルから正確に分離することも可能になる。
【0065】
また、この第1実施形態では、露光時間を用いてシンチレーションカウンタ70によるスペクトル検出を行っているため、従来と同じ時間で処理を進めることが可能である。
【0066】
〈第2実施形態〉
以上の第1実施形態の構成において、シンチレーションカウンタ70を、エネルギー方向にスキャン可能な半導体放射線検出器に置き換える。この場合、シンチレーションカウンタ70の検出素子72の部分を、半導体放射線検出器に置き換える形になる。その他の構成、および、基本的動作は第1実施形態と同じである。
【0067】
この場合、露光時間内にイメージセンサ60のエネルギー分散方向に半導体放射線検出器を1移動させるだけで、第1の実施形態でシンチレーションカウンタ70の検出素子72を複数のエネルギー設定範囲で露光時間内に何度か移動させて検出を行った場合と同様あるいはそれ以上のデータが得られる。
【0068】
すなわち、イメージセンサ60のエネルギー分散方向に半導体放射線検出器を1移動させるだけで、図4(d)のように、エネルギー分布スペクトルの各ピークと、半導体放射線検出器で検出された複数のスペクトルとの影響について明らかになる。
【0069】
そして、この場合には、半導体放射線検出器の測定可能エネルギー範囲に応じて、カソードルミネッセンスや高次線など、いくつかの成分の影響を受けているかが明らかになる。
【0070】
以上のように、この第2実施形態によれば、エネルギー分布スペクトルの各ピークが、測定対象の回折X線(軟X線)であるか、あるいは、カソードルミネッセンスや高次線の複合ピークであるかの情報を提供することが可能になる。すなわち、エネルギー分布スペクトルについて妨害光による誤認の可能性が減り、より正確なスペクトル解析が可能になる。
【0071】
また、スペクトル解析が正確にできるため、電子状態分布情報をより正確に得られるようになる。さらに、イメージセンサ60単体ではほぼ不可能であったピークの重なりについても、図4に示す各スペクトルから正確に分離することも可能になる。
【0072】
また、この第2実施形態では、露光時間を用いて半導体放射線検出器を1移動させてスペクトル検出を行っているため、従来と同じ時間で処理を進めることが可能である。さらに、この第2実施形態の半導体放射線検出器では、第1実施形態のようなエネルギー設定が不要であるため、検出素子を何度も移動させる必要が無く、精度の高い測定と分析とが可能になる。
【符号の説明】
【0073】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 X線集光ミラー調整部
50 回折格子
60 イメージセンサ
70 シンチレーションカウンタ
71 駆動機構
72 検出素子
80 分析部
90 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向として前記イメージセンサに隣接して配置され、エネルギー設定範囲において前記回折X線を検出するシンチレーションカウンタと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線のスペクトルを分析すると共に、前記シンチレーションカウンタの検出結果を参照し、前記スペクトルのピークの内容を分析する分析部と、
を備えたことを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向に移動可能に構成されており、
前記イメージセンサにおいて前記回折X線を検出している期間において、前記測定長手方向を移動しつつ前記回折X線を検出する、
ことを特徴とする請求項1記載のX線検出システム。
【請求項3】
前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向の移動中に、エネルギー設定範囲が変更される、
ことを特徴とする請求項2記載のX線検出システム。
【請求項4】
前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向の移動を、エネルギー設定範囲を異なる状態に設定にして繰り返し移動する、
ことを特徴とする請求項2記載のX線検出システム。
【請求項5】
前記シンチレーションカウンタは、前記測定長手方向の移動中にエネルギー設定範囲が変更され、さらに、エネルギー設定範囲を異なる状態に設定にして繰り返し移動する、
ことを特徴とする請求項2記載のX線検出システム。
【請求項6】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向を測定長手方向として前記イメージセンサに隣接して配置され、前記回折X線の各エネルギー分散位置におけるスペクトルを検出する半導体放射線検出器と、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線のスペクトルを分析すると共に、前記半導体放射線検出器の検出結果を参照し、前記スペクトルのピークの内容を分析する分析部と、
を備えたことを特徴とするX線検出システム。
【請求項7】
前記半導体放射線検出器は、前記測定長手方向に移動可能に構成されており、
前記イメージセンサにおいて前記回折X線を検出している期間において、前記測定長手方向を移動しつつ前記回折X線を検出する、
ことを特徴とする請求項6記載のX線検出システム。

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−58147(P2012−58147A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203409(P2010−203409)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】