説明

X線検査装置及びX線検査装置の管電圧管電流調整方法

【課題】 未知の被検体に対しても、管電圧と管電流を容易に設定できるX線検査装置を提供する。
【解決手段】 X線管と、このX線管の管電圧と管電流とを制御するX線制御部と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器とを有し、このX線検出器で得られた被検体の透過データから透過画像を作成するX線検査装置において、X線管の管電圧と管電流を設定する管電圧管電流設定部と、管電圧または管電流の設定を変えたときに表示部にリアルタイムで動画表示される透過画像の階調をリアルタイムで略一定に保ち表示させるようにする階調保持手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いて被検体の透過画像、断面像あるいは3次元画像を作成するX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品やアルミ鋳物等の工業製品の内部を検査するためのX線透視検査装置が市場に提供されている。
【0003】
このようなX線検査装置では、操作者がX線管の管電圧Vおよび管電流Iを手動で変化することができる。そのため、操作者は透過画像を観察しながら被検体にあわせた設定を行い、最適画像を得ている。
【0004】
具体的には、管電圧Vを増加させた場合、X線フォトンの1つ1つのエネルギーEが増大するとともに、フォトン数Nが増大する。また、管電流を増加させた場合、X線フォトンの1つ1つのエネルギーEは変わらず、フォトン数Nが増大する。
【0005】
X線検査装置において、X線検出器は、2次元の分解能でX線を検出するが、各検出素子の出力は各素子が受けるX線エネルギー総量(E×N)に比例する。そのため、透過画像は、各検出素子の出力に応じて、明暗を割り当てることで生成される。
【0006】
X線の透過能力はX線フォトンの1つ1つのエネルギーEが高くなるほど大きくなる。そこで、管電圧Vと管電流Iを手動で変更する場合、まず、被検体を透過させることのできる管電圧Vに比例するX線フォトンの1つ1つのエネルギーEを決定する。しかしながら、この管電圧Vに比例するエネルギーEが高すぎた場合、画像のコントラストが低下して最良の画像を得ることができない。
【0007】
そこで、管電圧Vを下げるが、このとき画像が暗くなるので管電流Iを増やして出力を補う。しかしながら、管電圧Vを下げすぎた場合、得られる画像は、コントラストが大きすぎて白とびや黒つぶれした画像となってしまう。
【0008】
そのため、従来、既知の被検体に関しては、管電圧Vまたは管電流Iの設定に、以前利用した管電圧Vまたは管電流Iのデータを利用して調整していた。
【0009】
これに対し、未知の被検体に対しても、その透過画像に基づいて、最適なX線条件である管電圧Vや管電流Iを自動設定できる技術もある(たとえば、特許文献1、2)。このような特許文献1や2に記載の技術では、透過画像の中で被検体の観察しようとする範囲が、目視に適した明るさ範囲になる管電圧Vまたは管電流Iが最適なX線条件であるとし、この条件に自動で設定している。
【特許文献1】特開2002−14059号公報
【特許文献2】特開2003−173895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したように、明るさ調整のために管電圧Vまたは管電流Iを自動設定した場合、画像の階調調整との分担に任意性がでてしまい、最適な管電圧Vや管電流Iが決まらない問題が生じる。具体的には、たとえば画像を明るくする際、管電圧Vを上げるか、あるいはウインドウレベルを下げるかを任意に選択して設定する。
【0011】
ここで、明るさやコントラストの調整は、画像の階調の調整で自由にできるため、管電圧Vまたは管電流Iは、明るさ調整に使うべきではないと考えることができる。そのため、管電圧Vまたは管電流Iは、観察部分の構造に対して最大のSN比(信号対雑音比)を与えるように設定すべきであると考えられる。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、未知の被検体に対しても、最大のSN比を与える管電圧Vと管電流Iを設定することができるX線検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
画像の階調調整との分担に任意性が生じることにより最適な管電圧Vおよび管電流Iが決まらないという課題を解決するため、発明者は鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
【0014】
第1に、物理的に最適なX線条件である管電圧Vおよび管電流Iは、観察部分の構造に対して最大のSN比(信号対雑音比)を与える条件である。また、管電圧V及び管電流Iは、透過画像の見易さとなる階調の調整とは無関係である。そのため、観察部分の構造に対して最大のSN比を与えるように管電圧Vと管電流Iを設定することが主であり、このようにVI決めした画像が視覚的に見やすくなるよう階調変換を行うのが従である。
【0015】
第2に、手動で物理的に最適な管電圧Vと管電流Iを設定するときの最大の問題点は、観察部分の構造が追跡できなくなってしまうことにある。具体的には、管電圧V及び管電流Iを変化させ、たとえば観察部分の構造である鋳物の中のボイドなどが最大のSN比で見えるようにする際、VI変化により階調が変化することにより、ボイドの見え具合が追跡できなくなってしまう。そのため、VI調整を行う必要が生じ記憶に頼ってSN比を評価しなければならなくなり、時間がかかり、煩わしく精度も低下するものとなる。
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、X線管と、このX線管の管電圧と管電流とを制御するX線制御部と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器とを有し、このX線検出器で得られた被検体の透過データから透過画像を作成するX線検査装置において、X線管の管電圧と管電流を設定する管電圧管電流設定部と、管電圧または管電流の設定を変えたときに表示部にリアルタイムで動画表示される透過画像の階調をリアルタイムで略一定に保ち表示させるようにする階調保持手段とを有することを要旨としている。
【0017】
上記構成の請求項1にかかる本発明によれば、リアルタイムで階調が保持されるように透過画像を調整して管電圧V及び管電流Iを容易に設定することが可能である。
【0018】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載のX線検査装置において、階調保持手段は、X線検出器で得られた被検体の透過画像の略最大明度を予め定められる第1の値に保ち、X線検出器で得られた被検体の透過画像の略最小明度を予め定められる第2の値に保つよう階調変換することを要旨としている。
【0019】
上記構成の請求項2にかかる本発明によれば、リアルタイムで階調が保持される透過画像を、管電圧V及び管電流Iを調整することで、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部分の構造に対して管電圧V及び管電流Iを容易に設定することが可能である。
【0020】
さらに、請求項3記載の発明は、管電圧及び管電流を制御してX線管からX線を発生させて被検体に照射させ、被検体を透過したX線を検出して得られた透過データから被検体の透過画像を作成し、管電圧あるいは管電流が変化すると表示部に階調がリアルタイムで略一定に保たれて階調補正された透過画像が動画表示される際、表示部に表示される透過画像の観察部分の構造に対してSN比が最大となるX線管の管電圧及び管電流を調整することを要旨としている。
【0021】
上記構成の請求項3にかかる本発明によれば、リアルタイムで階調が保持される透過画像を、管電圧V及び管電流Iを調整することで、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部分の構造に対して最大のSN比を与える管電圧V及び管電流Iを容易に設定することが可能である。
【0022】
また、請求項4記載の発明は、請求項3に記載の管電圧管電流調整方法において、階調補正する際、作成された被検体の前記透過画像の略最大明度を予め定められる第1の値に保ち、X線検出器で得られた被検体の透過画像の略最小明度を予め定められる第2の値に保つように階調補正しながらX線管の管電圧及び管電流を調整ことを特徴とすることを要旨としている。
【0023】
上記構成の請求項4にかかる本発明によれば、リアルタイムで階調が保持される透過画像を、管電圧V及び管電流Iを調整することで、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部分の構造に対して最大のSN比を与える管電圧V及び管電流Iを容易に設定することが可能である。
【0024】
また、請求項5に記載に発明は、X線管と、このX線管の管電圧と管電流とを制御するX線制御部と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器とを有し、このX線検出器で得られた被検体の透過データから透過画像を作成するX線検査装置において、前記X線管の管電圧または管電流が変化したとき透過画像の階調を略一定に保つ階調保持手段と、前記X線制御部に管電圧または管電流を変更させ、このとき前記階調保持手段により階調が保たれた透過画像の画像ノイズを計算し、この画像ノイズが最小となる管電圧または管電流を選択して設定する自動管電圧管電流設定手段とを有することを要旨とする。
【0025】
上記構成の請求項5にかかる本発明によれば、階調が保持された透過画像の画像ノイズを計算しながら管電圧と管電流を変更することで、画像ノイズが最小となる管電圧と管電流を選択して設定でき、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部分の構造に対して最大のSN比を与える管電圧と管電流を自動的に設定することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように本発明によれば、未知の被検体に対しても、管電圧と管電流を容易に設定できるX線検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、図面を用いて本発明について説明する。
【0028】
[第1の実施の形態]
図1に示すように、第1の実施の形態に係るX線検査装置1は、X線管11、X線検出器12、コンピュータ13、表示部14、X線制御部15及び高圧発生部16を有している。
【0029】
X線管11は、被検体21を透過させて透過画像を得るために用いるX線ビーム22を発生させる。
【0030】
X線検出器12は、X線管11から発生したX線ビーム22が被検体21を透過したX線を2次元分解能で検出する。このX線検出器12は、たとえば、X線I.I.(Image Intensifier)とテレビカメラより成り、検出したX線像を12bitのディジタル信号として、接続されるコンピュータ13に送信する。
【0031】
コンピュータ13は通常のコンピュータで、CPU、メモリ、ディスク、キーボード、マウス、各種インタフェース等を備えている。また、コンピュータ13は、図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るX線検査装置1を実現するため、ソフトウェア機能ブロックとして、画像のROI(関心領域)設定部13a、階調保持部13b及びVI(管電圧管電流)設定部13cを持つ。
【0032】
ROI設定部13aは、操作者からマウス等の入力手段により指定された領域を、透過画像中においてROIとして設定する。
【0033】
階調保持部13bは、X線検出器12で検出して得られた12bitの透過画像を8bitの透過画像に変換する。また、階調保持部13bは、変換した8bitの透過画像を表示部14に送る。なお、ここで検出された透過画像を12bitとし、変換された透過画像を8bitとしているが、必ずしもこれに限られるものではない。
【0034】
VI設定部13cは、操作者からマウス等の入力手段からの入力に基づいて、管電圧V及び管電流Iを設定する。また、VI設定部13cは、管電圧V及び管電流IをX線制御部15に送信する。
【0035】
表示部14は、階調保持部13bで変換された透過画像を表示画像として表示させる。
【0036】
X線制御部15は、VI設定部13cからの入力に基づいて、X線管11における管電圧Vと管電流Iを設定した値になるように高圧発生部16を制御する。
【0037】
高圧発生部16は、X線制御部15の制御に基づいて、X線を生成するための高電圧を発生させる。
【0038】
なお、図1に示すのは、X線検査装置1の概略図である。そのため、被検体を載置するテーブル、テーブルを移動させて視野や画像の倍率を変える機構部、また、X線の漏洩を防ぐ遮蔽箱等は省略している。
【0039】
管電圧V及び管電流Iの最適な設定について、以下に説明する。操作者は、観察を開始する場合、被検体21を設定してX線スイッチをONにする。X線スイッチがONにされると、X線管からX線が発生され、コンピュータ13は、被検体21の透過画像を動画像としてリアルタイムで表示部14に表示する。このとき、管電圧V及び管電流Iは最適でないため、得られる画像は見やすいものではない。
【0040】
操作者は、被検体21の観察部位が視野に入るように図示しない機構を調整し、観察部位としてたとえば試料中のボイド21aを含むようにROI(関心領域)を設定する。これらの操作は、マウスなどの入力手段を用いて行われる。ROI設定部13aは、操作者により、たとえば正方形の図形が入力されると、この入力を記憶するとともに、表示されている透過画像に重ねてROIを表示させる。階調保持部13bは、管電圧V及び管電流Iが変化したときも、このROI内の階調が常に不変になるように階調変換して動画表示させる。
【0041】
次に、階調変換処理について、図面を用いて具体的に説明する。図2は、階調保持部13bにおける階調保持処理を説明するフローチャートである。
【0042】
まず、階調保持部13bは、X線検出器12で検出したX線像である1フレーム分の透過画像を取得する(S01)。
【0043】
次に、階調保持部13bは、ROI内の画像にローパスフィルタを掛ける(S02)。このローパスフィルタは、たとえば、隣接する4画素の濃度値を平均する処理が挙げられる。
【0044】
続いて、階調保持部13bは、ローパスフィルタ掛けされたROI内の画像について、画素値の最大値Bmaxと最小値Bminを求める(S03)。
【0045】
次に、階調保持部13bは、ステップS01で取得されたローパスフィルタ掛け前の透過画像について、画素値Bから画素値B’への階調変換を行う(S04)。たとえば、図3に示すように、最大値Bmaxを画素値180に、最小値Bminを画素値80になるようにし、12bitの画素値Bを8bitの画素値B’に変換する。ここで、変換式は、たとえば下記の式(1)を用いる。
【0046】
B’=(B−Bmin)/(Bmax−Bmin)・(180−80)+80 ・・・(1)
ここで、変換は、全画面について行うが、ROI内だけとしてもよい。
【0047】
その後、階調変換された8bitの透過画像を表示画像として表示部14に送り、表示画像を更新させる(S05)。
【0048】
続いて、階調保持部13bは、終了命令がされたか否かを判定する(S06)。ここで、終了の指令がされた場合、階調変換処理を終了する。一方、終了の指令がなかった場合、ステップS01に戻り、次の透過画像についてもステップS01〜S05の同様の処理が繰り返される。
【0049】
画像が更新され続ける動画像の状態と並行して、VI設定部13cは、操作者に管電圧Vと管電流Iがマウスやキーボードなどの入力手段を用いて入力されると、この管電圧V及び管電流Iの値を、X線制御部15に送る。X線制御部15は、高圧発生部16を介してX線管11の管電圧Vと管電流Iを設定した値になるように制御する。ここでVIが変更されたときに、表示される画像は階調が80と180の間におさまるように階調保持される。
【0050】
一般的に、毎秒30フレームで画像の更新をする場合、動画像として観察できる。しかし、多少のちらつきが許されれば、毎秒15フレーム程度で画像を更新し、動画像とすることもできる。
【0051】
操作者は、動画像である表示部14の透過画像を目視しながら、最良画像になるように管電圧V及び管電流Iを調整する。具体的には、ボイド21a等の観察部位のSN比が最大になるように管電圧V及び管電流Iを設定する。
【0052】
図4は、管電圧V及び管電流Iを管電流上限で変化させた場合のSN比の変化を説明する模式図である。ここで、X線制御部15は、通常どおりにX線管11の保護のため、各管電圧Vに対してそれぞれ管電流Iの上限を設けている。ここでは、この予め定められる管電流Iの上限ラインに沿って管電圧V及び管電流Iを変化させることを想定している。なお、管電流Iの上限は通常イソワットで制限される。イソワット制限とは、V×Iの値を一定に制限することである。なお、VIの変化させ方はこれに限られるものではない。
【0053】
図4は、管電圧Vを横軸にしてボイド21aのプロファイルの変化を管電圧Vが過小な場合を(a)で、最適な場合を(b)で、過大な場合を(c)で示している。管電圧V及び管電流Iを変えたときにも、リアルタイムで階調が保持される。具体的には、画素値が目視に適した明度範囲である画素値80ないし画素値180となるため、画像を目視しながら容易にSN比が最大になる最適な管電圧V及び管電流Iを設定できる。
【0054】
ここで、プロファイルに現れるノイズはほとんどがX線フォトンの揺らぎによるノイズである。管電圧Vが小さすぎると透過率が落ち、X線フォトン数が減ることでSN比が低下する。一方、管電圧Vが大きすぎるとコントラストが低下することでシグナルSが小さくなり、SN比が低下する。
【0055】
なお、図2で示す階調変換処理のステップS02において、ローパスフィルタ掛けを行うのは、最大値Bmax及び最小値Bminを求める際、画像ノイズの影響を受けにくくし、表示画像のちらつきを少なくするためである。
【0056】
上述した第1の実施の形態に係るX線検査装置1によれば、リアルタイムで階調が保持される透過画像を目視しながら管電圧V及び管電流Iを調整することで、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部分の構造に対して最大のSN比を与える管電圧Vと管電流Iを容易に設定することができる。
【0057】
[第2の実施の形態]
図5は、第2の実施の形態に係るX線検査装置2の概略構成図である。図1と同じ構成要素は同じ番号を付し、説明は省略する。
【0058】
X線検査装置2は、X線管11、X線検出器12、コンピュータ13、表示部14、X線制御部15及び高圧発生部16を有している。X線検査装置2は、X線検査装置1と比較して、キャプチャーボード17を有している点で異なる。また、X線検査装置2のコンピュータ13は、階調保持部13bに代えて階調保持部13dを有している点で異なる。
【0059】
キャプチャーボード17は、X線検出器12で検出されたX線像であるアナログ透過画像を1フレームごとに8bitのディジタル透過画像に変換する。また、キャプチャーボード17は、変換したディジタル信号を階調保持部13dと表示部14に送る。このキャプチャーボード17は、階調保持部13dからの入力に基づいて、オフセット値Ofとゲイン値gを変えることで透過画像の階調を変えている。
【0060】
階調保持部13dは、コンピュータ13のソフトウェア機能ブロックである。この階調保持部13dは、上述した階調保持部13bと異なる。具体的には、階調保持部13dは、8bit透過画像を入力すると、キャプチャーボード17のオフセット値Of及びゲイン値gをROI部の階調を保持するように制御する。
【0061】
図6に示すのは、階調保持部13dにおける階調保持処理を説明するフローチャートである。まず、階調保持部13dは、X線検出器12で検出したX線像である1フレーム分の透過画像を取得する(S11)。次に、階調保持部13dは、ROI内の画像にローパスフィルタを掛ける(S12)。続いて、階調保持部13dは、ローパスフィルタ掛けされたROI内の画像について画素値の最大値Bmaxと最小値Bminを求める(S13)。ここまでの処理は、第1の実施例と同様である。
【0062】
次に、階調保持部13dは、現在のオフセット値Of及びゲイン値gから、修正後のオフセット値Of’及びゲイン値g’を求める(S14)。具体的な求め方としては、図7に示す方法がある。横軸をアナログの画素値Pとし、縦軸を8bitの画素値Bとする。アナログの画素値Pはキャプチャーボード17への入力(ボルト値)であり、8bitの画素値Bは出力である。また、キャプチャーボード17の特性を表すのが、オフセット値Ofとゲイン値gである。
【0063】
画素値Bと画素値Pには、以下の(2)式の関係がある。
【0064】
B=g・(P−Of) ・・・(2)
ここで、現在のオフセット値Ofとゲイン値gに対して最大値Bmaxと最小値Bminが分かっている。これを用いて、最大値を180にし、最小値を80になるように、修正したオフセット値Of’及びゲイン値g’を計算する。導出については省略するが、具体的には下記の(3)式から(6)式を計算することで、オフセット値Of’とゲイン値g’が求められる。
【0065】
Pmax=Bmax/g+Of ・・・(3)
Pmin=Bmin/g+Of ・・・(4)
g’=(180−80)/(Pmax−Pmin) ・・・(5)
Of’=(180・Pmin−80・Pmax)/(180−80) ・・・(6)
その後、階調保持部13dは、求められたオフセット値Of’及びゲイン値g’をキャプチャーボード17に送り、オフセット値、ゲイン値を更新させる(S15)。
【0066】
続いて、階調保持部13dは、終了指令があるか否かを判定し(S16)、終了の指令がされた場合、終了する。一方、終了の指令がなかった場合、ステップS11に戻り、次の透過画像について、同様の処理が繰り返される。
【0067】
次のフレームでは、画素値Bmaxが画素値180に、また、画素値Bminが画素値80に合わされることになり、操作者が管電圧V及び管電流Iを変更した場合、1フレーム遅れて階調が保持される。管電圧Vと管電流Iを急速に変更しない限り、階調は一定に保たれる。
【0068】
上述した第2の実施の形態に係るX線検査装置2によれば、リアルタイムで階調が保持される透過画像を目視しながら管電圧V及び管電流Iを調整することで、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部分の構造に対して最大のSN比を与える管電圧Vと管電流Iを容易に設定することができる。
【0069】
[変形例]
階調変換は、上述した実施の形態に限られるものではない。たとえば、最大値Bmaxの変換後の値を画素値180とし、最小値Bminの変換後の値を画素値80としたが、これらの値に限られるものではなく、目視に適した範囲であればよい。
【0070】
また、最大値をBmaxとし、最小値をBminとしたが、別の求め方で求めても良い。図8は、別の方法でBmax及びBminを求める場合の一例を示している。図8に示す例は、ROI内のヒストグラムであり、横軸を画素値Bとし、縦軸を画素数とした各画素値の頻度を示している。図8に示すヒストグラムで、面積で上から10%の位置をBmaxとし、下から10%の位置をBminとしている。なお、図8に示す例では10%でなく、任意の値を設定することができる。この求め方によれば、画像ノイズの影響を受けにくく、安定してBmax及びBminを求めることができ、表示画像のちらつきをさらに減少させることができる。
【0071】
また、階調変換は実施例では線型変換であったが非線型変換としてもよい。特に対数変換を用いると被検体の厚さに比例した明るさ表示となり好ましい。
【0072】
さらに、階調変換処理範囲を全画面でなく、ROIのみとし、処理速度を上げることもできる。また、ROIの設定は自由で、画面全体をROIとすることも可能である。
【0073】
第1及び第2の実施の形態では、手動でVIを調整しているが、自動とすることができる。この場合、コンピュータ5にはソフトウェア機能ブロックとしてVI設定部13cに替えて、自動VI設定部13eが設けられる。
【0074】
自動VI設定部13eは階調保持部13bまたは13dからの階調が変換された透過画像(階調保持画像)を入力する。また、自動VI設定部13eは、電圧Vと電流IをX線制御部15に送信する。
【0075】
図9に示すのは、自動VI設定部13eにおけるVI設定処理を説明するフローチャートである。
【0076】
まず、X線管11からX線が発生すると(S21)、自動VI設定部13eは、X線制御部15を操作し、管電圧V及び管電流Iを予め定められた初期値に設定する(S22)。
【0077】
ステップS22で管電圧V及び管電流Iが初期値に設定されると、自動VI設定部13eは、階調保持部13bまたは13dからNフレームの階調保持画像を取得する(S23)。取得した階調保持画像を記憶させる(S24)。
【0078】
ここで、Nフレームの画像とは、例えば10フレームの画像であるが、これに限られず、任意の数に設定される。またこのとき、階調保持部13bではNフレームの透過画像が同一の階調変換を施されて、自動VI設定部13eに入力される。具体的には、1フレーム目ではステップS01〜S05に示す処理により階調変換されるが、2フレーム目からはステップS02及びS03の処理は省略し、1フレーム目で求められた最大値Bmax及び最小値Bminを使用する。また、階調保持部13dでも同様に、Nフレームが同一の階調変換を施される。具体的には0フレーム目でステップS11〜S15に示す処理によりオフセット値、ゲイン値が設定され、1〜Nフレームの画像はS12ないしS15の処理が省略され、そのまま自動VI設定部13eに送られる。
【0079】
自動VI設定部13eは、Nフレームの階調保持画像を取得すると(S25)、これらの画像によりノイズが計算される(S26)。
【0080】
このノイズは、例えば、下記の式(7)及び式(8)により計算される。
【0081】
画素ijのノイズ
=√{(B’(ij)−B’(ij)のフレーム間平均)2のフレーム間平均}・・・(7)
画像ノイズ=(画素ijのノイズ)のROI内平均・・・(8)
ここで、B’(ij)は画素ijでの画素値である。S23では、電圧V値、電流I値と求めた画像ノイズを記憶する。
【0082】
ステップS26でノイズが計算されると、処理終了されるか否かが確認され(S27)、次の電圧V及び電流Iを設定してステップS23からの処理を繰り返す(S28)。
【0083】
ステップS28で次の電圧V及び電流Iを設定する方法としては、例えば電圧Vを一定間隔でステップ上昇させ、電流Iは各電圧Vに対する上限値をとるように変化させる方法が考えられる。しかし、これに限られるものではない。
【0084】
また、ステップS27で処理が終了されることが確認されると、ノイズが最小であった電圧V及び電流Iを選択し、この電圧V及び電流Iの値を最適の電圧V値及び電流I値とする(S29)。
【0085】
図9に示す例では、予め定めた電圧V及び電流Iの組み合わせの全てに対して順番にノイズを計算し、ノイズが最小となる電圧V及び電流Iを最適な電圧V及び電流Iとしている。しかしながら、最適な電圧V及び電流Iの求め方についてはこのような方法に限られるものではない。例えば、はじめに粗いステップ間隔でいくつかの電圧V及び電流Iの組み合わせ組に対してノイズを計算してノイズの小さな電圧V値及び電流I値の領域を選び、このノイズの小さな領域について細かいステップで電圧V値及び電流I値を変化させてノイズを計算して段階的に最適な電圧V及び電流Iを求める方法であってもよい。また、一般的によく知られている計算されたノイズを用いて電圧V及び電流Iの変化を求める計算方法などを用いれば、最適な電圧V及び電流Iをより短時間で求めることが可能である。
【0086】
また、図9に示す例では、ステップS24及びS25でNフレームの画像記憶を行っているが、Nフレームの画像記憶を必要とするものではない。例えば、一般的によく知られているように、1フレームを次々に上書きするような構成であっても、1パス方式で式(7)及び式(8)と等価な画像ノイズの計算が可能である。
【0087】
さらに、式(8)で用いるROIは階調保持処理で用いるROIと同じROIであってもよいが、新たに設定した別のROIであってもよい。
【0088】
上述した変形例によれば、階調が保持されることでシグナル(図4のS)が一定に保たれつつ、ノイズ(図4のN)を最小とすることができ、未知の被検体に対しても、その透過データに基づいて観察部位の構造に対して最大のSN比を与える電圧Vと電流Iを自動的に設定することができる。
【0089】
第1及び第2の実施の形態に係るX線検査装置の最適な管電圧V及び管電流Iの調整は、他にもたとえば、断層撮影装置等の他の装置にも適応させることもできる。断層撮影装置に適応させた場合、断層撮影装置は、円軌道、円弧軌道、直線軌道、多軌道など何れの方式を用いていても良い。また、コンピュータ断層撮影装置(CT)であってもよい。この場合、スキャン中に最も透過が悪くなるX線パスについて、最適なVI調整を行うようにすれば良い。
【0090】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るX線検査装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る階調保持処理を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る階調変換を説明する図である。
【図4】管電圧Vと管電流Iをイソワット変化させた場合のSN比変化の模式図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るX線検査装置の概略構成図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る階調保持処理を説明するフローチャートである。
【図7】オフセット値Of’とゲイン値g’の求め方を説明する図である。
【図8】本発明の変形例に係る階調変換を説明する図である。
【図9】本発明の変形例に係る自動VI設定のフローチャートである。
【符号の説明】
【0092】
1,2…X線検査装置
11…X線管
12…X線検出器
13…コンピュータ
13a…ROI設定部
13b,13d…階調保持部
13c…VI設定部
14…表示部
15…X線制御部
16…高圧発生部
17…キャプチャーボード
21…被検体
22…X線ビーム
21a…ボイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管と、このX線管の管電圧と管電流とを制御するX線制御部と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器とを有し、このX線検出器で得られた被検体の透過データから透過画像を作成するX線検査装置において、
前記X線管の管電圧と管電流を設定する管電圧管電流設定部と、
管電圧または管電流の設定を変えたときに表示部にリアルタイムで動画表示される透過画像の階調をリアルタイムで略一定に保ち表示させるようにする階調保持手段と、
を有することを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線検査装置において、
前記階調保持手段は、前記X線検出器で得られた被検体の透過画像の略最大明度を予め定められる第1の値に保ち、前記X線検出器で得られた被検体の透過画像の略最小明度を予め定められる第2の値に保つように、階調変換することを特徴とするX線検査装置。
【請求項3】
管電圧および管電流を制御してX線管からX線を発生させて被検体に照射させ、被検体を透過したX線を検出して得られた透過データから被検体の透過画像を作成し、管電圧あるいは管電流が変化すると表示部に階調がリアルタイムで略一定に保たれて階調補正された透過画像が動画表示される際、
前記表示部に表示される透過画像の観察部分の構造に対してSN比が最大となる前記X線管の管電圧および管電流を調整するX線検査装置の管電圧管電流調整方法。
【請求項4】
請求項3に記載のX線検査装置の管電圧管電流調整方法において、
階調補正する際、作成された被検体の前記透過画像の略最大明度を予め定められる第1の値に保ち、前記X線検出器で得られた被検体の透過画像の略最小明度を予め定められる第2の値に保つように階調補正しながら前記X線管の管電圧および管電流を調整ことを特徴とするX線検査装置の管電圧管電流調整方法。
【請求項5】
X線管と、このX線管の管電圧と管電流とを制御するX線制御部と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器とを有し、このX線検出器で得られた被検体の透過データから透過画像を作成するX線検査装置において、
前記X線管の管電圧または管電流が変化したとき透過画像の階調を略一定に保つ階調保持手段と、
前記X線制御部に管電圧または管電流を変更させ、このとき前記階調保持手段により階調が保たれた透過画像の画像ノイズを計算し、この画像ノイズが最小となる管電圧または管電流を選択して設定する自動管電圧管電流設定手段と、
を有することを特徴とするX線検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−105861(P2006−105861A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294936(P2004−294936)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】