説明

X線検査装置

【課題】 X線画像における背景の部分を正確に特定して補正を行うことで高精度な異物検出を行うことが可能なX線検査装置を提供する。
【解決手段】 X線検査装置10では、制御コンピュータ20が、X線ラインセンサ14における検出結果に基づいてX線画像を形成し、このX線画像に基づいて異物混入の検査を行う装置において、全体のX線画像における各部の明るさを抽出して背景部分と思われる部分を特定する。制御コンピュータ20は、背景部分として特定された部分と、X線ラインセンサ14の1ライン分に相当するX線画像の部分の最大明るさとを比較して、その1ライン分に相当するX線画像の部分の補正の可否を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象となる物品に対してX線を照射して物品の検査を行うX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品などの商品の生産ラインにおいては、商品への異物混入や商品の割れ欠けがある場合にその不良商品が出荷されることを防止するために、X線検査装置を用いた商品不良検査が行われている。このX線検査装置では、搬送コンベアによって連続搬送されてくる被検査物に対してX線を照射し、そのX線の透過状態をX線受光部で検出して、被検査物中に異物が混入していないか、あるいは被検査物に割れ欠けが生じていたり被検査物内の単位内容物の数量が不足していたりしないかを判別する。また、X線検査装置によって、被検査物内の単位内容物の数量を数える検査が行われることもある。
【0003】
このようなX線検査装置では、検査対象となる商品に対してX線を照射する照射部において、経年劣化等により微小な放電が発生したり、出力が不安定になったりすることがある。このようなX線の出力の不安定化は、X線受光部における検出結果に基づいて作成されるX線画像に暗いスジとなって現れるため、このままX線画像に基づいて検査を行ったのではスジの部分を異物と判定してしまう等、検査を正確に行うことができなくなるおそれがある。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、ラインセンサ端部の検出素子のデータから補正係数を算出して、X線照射量の不安定化に伴うX線画像に現れる暗いスジ部分を補正して、高精度な検査を行うことが可能なX線検査装置が開示されている。
【特許文献1】特開平10−206350号公報(平成10年8月7日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のX線検査装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示されたX線検査装置では、ラインセンサの端部の検出素子のデータに基づいて補正を行うため、被検査物がコンベアの幅方向において偏った位置で搬送されて、そのラインセンサの端部上を通過した場合には、X線強度の変動を補正する基準となる適正な数値を得ることができない。また、このようなコンベア上における被検査物の偏りを検知するためには、余計な検出素子等が必要となる。
【0006】
本発明の課題は、X線画像における背景の部分を正確に特定して補正を行うことで高精度な異物検出を行うことが可能なX線検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係るX線検査装置は、物品に対してX線を照射し、その透過量を検出して物品の検査を行うX線検査装置であって、照射部と、ラインセンサと、画像形成部と、背景特定部と、補正部とを備えている。照射部は、物品に対してX線を照射する。ラインセンサは、照射部から物品に対して照射されたX線の透過量を検出する。画像形成部は、ラインセンサにおいて1ライン分ごとに得られたX線の透過量に基づいてX線画像を作成する。背景特定部は、1ライン分のX線画像を組み合わせた全体のX線画像における各部の明るさを抽出して背景部分を特定する。補正部は、背景特定部によって特定された背景部分の明るさに基づいてX線画像を1ライン分ごとに補正する。
【0008】
ここでは、ラインセンサにおいて検出したX線の透過量に基づいてX線画像を作成して物品の検査を行うX線検査装置において、画像形成部が作成したX線画像に基づいて検査を行う前にX線画像を補正する。
ここで、本発明のようにラインセンサにおけるX線の透過量の検出結果に基づいてX線画像を作成するX線検査装置では、X線照射器の劣化等によって微小な放電やX線の出力の不安定化が生じることがある。このようなX線の出力の不安定化は、一時的なX線照射量の減少に起因して発生するX線画像中にラインセンサの長手方向に延びる暗いスジとして現れ、検査精度の低下を招来する。
【0009】
そこで、本発明のX線検査装置では、このようなX線画像に現れるスジの部分を補正して、検査を行うX線画像を適正化する処理を行う。具体的には、まず、ラインセンサにおいて検出されたX線の透過量に基づいて作成されたX線画像を組み合わせた全体のX線画像に含まれる各部の明るさを抽出し、背景部分を特定する。次に、背景部分として特定された部分の明るさを基準にして、1ラインごとのX線画像の各部の明るさを上記基準となる明るさと比較する。ここで、基準の明るさよりも暗い場合には、そのX線画像の1ライン分については暗いスジが入っているものと判断して、X線画像におけるそのライン部分を明るくするように補正を行う。
【0010】
このように、X線画像の全体から背景部分を特定し、その背景部分の明るさと1ラインごとのX線画像から抽出される明るさとを比較することで、ラインセンサの配置に沿って全体のX線画像に現れる暗いスジの部分を適正な明るさまで補正することができる。この結果、照射部から検査対象となる物品に対して照射されるX線の出力が不安定で全体のX線画像に暗いスジが入るような場合でも、高精度な異物検出を行うことが可能になる。
【0011】
なお、ここでいう背景部分とは、検査対象となる物品に相当する部分を除いたX線画像における部分をいう。
第2の発明に係るX線検査装置は、第1の発明に係るX線検査装置であって、背景特定部は、全体のX線画像に含まれる部分のうち最大明るさの部分を背景部分として特定する。
【0012】
ここでは、X線画像における背景部分を特定する際に、X線画像全体の中から最も明るい部分(ピーク)を背景部分として特定する。
これにより、X線画像の中から背景部分を容易に特定することができる。
第3の発明に係るX線検査装置は、第1の発明に係るX線検査装置であって、背景特定部は、全体のX線画像に基づいて明るさのヒストグラムを作成し、ヒストグラムに現れる極大点のうち、最も明るい側の極大点となる明るさの部分を背景部分として特定する。
【0013】
ここでは、X線画像における背景部分を特定する際に、全体のX線画像における明るさのヒストグラムを作成し、ヒストグラムに現れる極大点の中から最も明るい側の極大点となる明るさの部分を背景部分として特定する。
ここで、X線画像における最も明るい部分を背景部分として特定する場合には、X線の照射量のばらつき等に起因して、この最も明るい部分もばらつくおそれがある。
【0014】
これに対して、本発明のX線検査装置のように、ヒストグラムにおける最も明るい側の極大点となる明るさの部分を背景部分として特定することで、X線画像における最も明るい部分よりもばらつきを少なくできる。よって、背景として特定される部分をより正確に特定し、高精度な補正を行うことが可能になる。
第4の発明に係るX線検査装置は、第1の発明に係るX線検査装置であって、背景特定部は、全体のX線画像に基づいて明るさのヒストグラムを作成し、最頻値となる明るさの部分を背景部分として特定する。
【0015】
ここでは、X線画像における背景を特定する際に、X線画像全体における明るさのヒストグラムを作成し、最も多い明るさの部分(最頻値)を背景として特定する。
ここで、X線画像全体における最も明るい部分を背景部分として特定する場合には、X線の照射量のばらつき等に起因して、この最も明るい部分もばらつくおそれがある。
これに対して、本発明のX線検査装置のように、X線画像全体における最も明るい部分よりもばらつきの少ないヒストグラムにおける最頻値の明るさの部分を背景部分として特定することで、背景として特定される部分をより正確に特定し、高精度な補正を行うことが可能になる。
【0016】
第5の発明に係るX線検査装置は、第1から第4の発明のいずれか1つに係るX線検査装置であって、補正部は、背景特定部において特定された背景部分の明るさと、1ラインごとのX線画像から抽出される明るさとを比較して補正を行う。
ここでは、X線画像を補正する際に、X線画像全体から背景部分として特定された明るさと、ラインセンサの1ラインごとに得られるX線画像から抽出される明るさとを比較して補正を行う。具体的には、背景特定部によって特定された背景部分の明るさと、1ラインごとのX線画像の最も明るい部分の明るさ、あるいは1ラインごとのX線画像の最頻値となる明るさ等と比較して補正を行う。
【0017】
これにより、特定された明るさを基準にしてそれよりも暗いラインについては明るくなるように補正を行うことができる。この結果、X線照射部における出力の不安定性に起因するスジが入ったラインの明るさを正常な状態まで戻した後、異物検出の検査を行うことで、高精度な検査を実施することが可能になる。
第6の発明に係るX線検査装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに係るX線検査装置であって、1ラインごとのX線画像から抽出される明るさが、特定された背景の明るさに対して所定の割合を下回る明るさである場合には、検査を中止するように制御する制御部を、さらに備えている。
【0018】
ここでは、制御部が、背景特定部によって特定された背景の明るさと1ラインごとのX線画像から抽出される明るさとを比較して、例えば、1ラインごとのX線画像から抽出される明るさが基準となる背景の明るさの1/2以下の明るさである場合には、検査を中止させる。
これにより、X線を照射する照射部の出力の不安定が大きい場合には、異常発生として認識して検査を中止して、X線源を交換する等の措置を採ることができる。
【0019】
第7の発明に係るX線検査装置は、第1から第6の発明のいずれか1つに係るX線検査装置であって、制御部が検査を中止するように制御すると検査不能である旨を表示する表示部をさらに備えている。
ここでは、異常発生時には検査不能である旨を表示部に表示させる。
これにより、作業者に対して異常発生を認識させて、早急に出力が不安定でない正常なX線源に交換する等の措置を採らせることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のX線検査装置によれば、照射部から検査対象となる物品に対して照射されるX線の出力が不安定でX線画像に暗いスジが入るような場合でも、高精度な異物検出を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係るX線検査装置について、図1〜図7を用いて説明すれば以下の通りである。
[X線検査装置全体の構成]
本実施形態のX線検査装置10は、図1に示すように、食品等の商品の生産ラインにおいて品質検査を行う装置の1つである。X線検査装置10は、連続的に搬送されてくる商品に対してX線を照射し、商品を透過したX線量に基づいて商品に異物が混入しているか否かの検査を行う。
【0022】
X線検査装置10の被検査物である商品Gは、図2に示すように、前段コンベア60によりX線検査装置10に運ばれてくる。商品Gは、X線検査装置10において異物混入の有無が判断される。このX線検査装置10での判断結果は、X線検査装置10の下流側に配置される振分機構70に送信される。振分機構70は、商品GがX線検査装置10において良品と判断された場合には商品Gをそのまま正規のラインコンベア80へと送る。一方、商品GがX線検査装置10において不良品と判断された場合には、下流側の端部を回転軸とするアーム70aが搬送路を遮るように回動する。これにより、不良品と判断された商品Gを、搬送路から外れた位置に配置された不良品回収箱90によって回収することができる。
【0023】
X線検査装置10は、図1に示すように、主として、シールドボックス11と、コンベア12と、遮蔽ノレン16と、タッチパネル機能付きのモニタ(表示装置)26と、を備えている。そして、その内部には、図3に示すように、X線照射器(照射部)13と、X線ラインセンサ14と、制御コンピュータ(制御部、画像形成部、背景特定部、補正部)20(図6参照)とを備えている。
【0024】
〔シールドボックス〕
シールドボックス11は、商品Gの入口側と出口側の双方の面に、商品を搬出入するための開口11aを有している。このシールドボックス11の中に、コンベア12、X線照射器13、X線ラインセンサ14、制御コンピュータ20などが収容されている。
また、開口11aは、図1に示すように、シールドボックス11の外部へのX線の漏洩を防止するために、遮蔽ノレン16によって塞がれている。この遮蔽ノレン16は、鉛を含むゴム製のノレン部分を有しており、商品が搬出入されるときには商品によって押しのけられる。
【0025】
また、シールドボックス11の正面上部には、モニタ26の他、キーの差し込み口や電源スイッチが配置されている。
〔コンベア〕
コンベア12は、シールドボックス11内において商品を搬送するものであって、図6の制御ブロックに含まれるコンベアモータ(駆動機構)12fによって駆動される。コンベア12による搬送速度は、作業者が入力した設定速度になるように、制御コンピュータ20によるコンベアモータ12fのインバータ制御によって細かく制御される。
【0026】
また、コンベア12は、図3に示すように、コンベアベルト12a、コンベアフレーム12bを有しており、シールドボックス11に対して取り外し可能な状態で取り付けられている。これにより、食品等の検査を行う場合においてシールドボックス11内を清潔に保つために、コンベアを取り外して頻繁に洗浄することができる。
コンベアベルト12aは、無端状ベルトであって、ベルトの内側からコンベアフレーム12bによって支持されている。そして、コンベアモータ12fの駆動力を受けて回転することで、ベルト上に載置された物体を所定の方向に搬送する。
【0027】
コンベアフレーム12bは、無端状のベルトの内側からコンベアベルト12aを支持するとともに、図3に示すように、コンベアベルト12aの内側の面に対向する位置に、搬送方向に対して直角な方向に長く開口した開口部12cを有している。開口部12cは、コンベアフレーム12bにおける、X線照射器13とX線ラインセンサ14とを結ぶ線上に形成されている。換言すれば、開口部12cは、コンベアフレーム12bにおけるX線照射器13からのX線照射領域に、商品Gを透過したX線がコンベアフレーム12bによって遮蔽されないように形成されている。
【0028】
〔X線照射器〕
X線照射器13は、図3に示すように、コンベア12の上方に配置されており、コンベアフレーム12bに形成された開口部12cを介して、コンベア12の下方に配置されたX線ラインセンサ(受光部、ラインセンサ)14に向かって扇形形状にX線を照射する(図3の斜線部参照)。
【0029】
〔X線ラインセンサ〕
X線ラインセンサ14は、コンベア12(開口部12c)の下方に配置されており、商品Gやコンベアベルト12aを透過してくるX線を検出する。このX線ラインセンサ14は、図3および図7に示すように、コンベア12による搬送方向に直交する向きに一直線に水平配置された複数の画素14aから構成されている。
【0030】
なお、図7には、X線検査装置10内におけるX線照射状態と、その時のラインセンサ14を構成する各画素14aにおいて検出されるX線量を示すグラフとがそれぞれ示されている。
〔モニタ〕
モニタ26は、フルドット表示の液晶ディスプレイである。また、モニタ26は、タッチパネル機能を有しており、初期設定や不良判断に関するパラメータ入力などを促す画面を表示する。
【0031】
また、モニタ26は、後述する画像処理が施された後のX線画像を表示する。これにより、商品Gに含まれる異物の有無、場所、大きさ等を、ユーザに対して視覚的に認識させることができる。
さらに、モニタ26は、後述するX線照射量の不安定化によってX線画像に形成される暗いスジ部分を補正する前後のX線画像や、X線照射器13の照射量の不安定化によって検査不能である旨の表示を行う。
【0032】
〔制御コンピュータ〕
制御コンピュータ(制御部、画像作成部、背景特定部、補正部)20は、CPU21において、制御プログラムに含まれる画像処理ルーチン、検査判定処理ルーチンなどを実行する。また、制御コンピュータ20は、CF(コンパクトフラッシュ(登録商標))25等の記憶部に、不良商品に対応するX線画像や検査結果、X線画像の補正用データ等を保存蓄積する。
【0033】
具体的な構成として、制御コンピュータ20は、図6に示すように、CPU21を搭載するとともに、このCPU21が制御する主記憶部としてROM22、RAM23、およびCF25を搭載している。CF25には、後述するX線画像を補正するための背景部分として特定された部分(画素14a)やその部分の明るさ等を記憶する補正用データ25a、検査画像や検査結果を記憶する検査結果ログファイル25bなどが収納されている。
【0034】
また、制御コンピュータ20は、モニタ26に対するデータ表示を制御する表示制御回路、モニタ26のタッチパネルからのキー入力データを取り込むキー入力回路、図示しないプリンタにおけるデータ印字の制御等を行うためのI/Oポート、外部接続端子としてのUSB24等を備えている。
そして、CPU21、ROM22、RAM23、CF25などは、アドレスバス,データバス等のバスラインを介して相互に接続されている。
【0035】
さらに、制御コンピュータ20は、コンベアモータ12f、ロータリエンコーダ12g、X線照射器13、X線ラインセンサ14、光電センサ15等と接続されている。
ロータリエンコーダ12gは、コンベアモータ12fに装着され、コンベア12の搬送速度を検出して制御コンピュータ20に送信する。
光電センサ15は、被検査物である商品GがX線ラインセンサ14の位置にくるタイミングを検出するための同期センサであり、コンベアを挟んで配置される一対の投光器および受光器から構成されている。
【0036】
<制御コンピュータによる商品不良の判断>
〔X線画像作成〕
制御コンピュータ20は、光電センサ15からの信号を受けて、商品Gが扇状のX線照射部(図3に示す斜線部分参照)を通過するときに、X線ラインセンサ14によるX線透視像信号(図7参照)を細かい時間間隔で取得する。そして、制御コンピュータ20は、画像形成部として、それらのX線透視像信号に基づいて、X線ラインセンサ14の1ラインごとに商品Gとその背景部分とを含むX線画像を作成する。すなわち、X線ラインセンサ14の各画素14aから細かい時間間隔をあけて各時刻のデータを得て、それぞれのデータからX線画像が作成される。そして、これら複数のX線画像を時間経過順に組み合わせることで、図4(a)および図4(b)に示すように、商品Gの全体とその背景部分とを含む全体の2次元画像が形成される。
【0037】
〔X線画像の補正〕
本実施形態のX線検査装置10では、制御コンピュータ20によって形成された2次元画像に対して所定の補正を行う。
すなわち、X線照射器13によるX線照射量は、X線照射器13内のX線管の経年劣化によって放電が発生したり、X線照射量の不安定化を招いたりすることがある。このような照射量の不安定は、制御コンピュータ20によって形成される全体のX線画像の一部に暗いスジとなって現れ(図4(b)参照)、この暗いスジの部分を異物と判定してしまう等、高精度な異物検出を行うための障害となるおそれがある。なお、このような暗いスジは、X線照射量が一時的に減少することで、X線ラインセンサ14の1ライン分のX線画像の全体が暗くなることで、全体のX線画像の一部に暗いスジとして現れるものである。このため、図4(b)に示すように、X線ラインセンサ14の1ライン分に対応する暗いスジが図中の縦方向に現れる。
【0038】
そこで、本実施形態のX線検査装置10では、全体のX線画像の一部にX線ラインセンサ14の配置に沿って現れる暗いスジ部分を1ライン分ごとに補正して適正なX線画像を形成した後、異物混入の検査を実施している。
具体的には、まず、制御コンピュータ20は、背景特定部として、X線ラインセンサ14において検出されたX線量に基づいて形成される全体のX線画像から、各画素14a、各時間の明るさを抽出する。そして、図5に示すヒストグラムを作成して、最も明るい側の極大点(または最頻値)となる明るさ(BG)の部分(画素14a)を背景部分として特定する。
【0039】
なお、この背景部分とは、X線画像に含まれる商品Gに相当する部分を除くX線画像の部分に相当する。本実施形態では、X線画像の全体から特定される背景部分の明るさを基準として、1ラインごとのX線画像の背景部分と比較することで、暗くなった1ライン分のX線画像を各ラインごとに補正している。
次に、制御コンピュータ20は、全体のX線画像から背景部分として特定した画素14aに相当するX線画像の部分の明るさと、X線ラインセンサ14の1ライン分のX線画像から抽出される最も明るい部分の明るさ(背景部分)とを比較する。この結果、最も明るい部分の明るさが、制御コンピュータ20が背景部分として特定した部分の明るさと同程度の明るさである場合、換言すれば、全体のX線画像の背景部分が、1ライン分のX線画像における背景部分と明るさが同程度である場合には、このラインは暗いスジ部分ではないと認識して、このラインについては補正しない。
【0040】
一方、最も明るい部分の明るさが、制御コンピュータ20が背景部分として特定した部分の明るさよりも暗い場合には、このラインについては一時的にX線照射量が少なくなったためにX線画像中に現れた暗いスジの部分であると認識して、このライン全体を補正により明るくする。この場合における補正係数r(y)は、以下の関係式(1)〜(3)によって得ることができる。
【0041】
各画素14aに対応するX線画像の部分の明るさをf(x,y)、その部分の補正後の明るさをg(x,y)とし、コンベア12の幅方向をx方向、搬送方向をy方向、X線画像のX方向における最大値投影結果をp(y)、X線画像の全体から特定された背景部分の明るさをBGとすると、各1ラインごとの最大値投影結果は以下の関係式(1)によって得られる。
【0042】
p(y)=peek{f(x,y):0≦x≦画像幅} ・・・・・(1)
なお、上記peekとは、X線画像における明るさのヒストグラムにおいて、最も明るい側の極大点または最頻値となる明るさ(BG)の部分をいう。
次に、このp(y)を用いて、以下の関係式(2)から補正係数r(y)を導出する。
r(y)=p(y)/BG ・・・・・(2)
そして、上記関係式(2)によって得られた補正係数r(y)を用いて、以下の関係式(3)によって各画素14aにおける明るさf(x,y)から補正後の明るさg(x,y)を得ることができる。
【0043】
g(x,y)=f(x,y)/r(y) ・・・・・(3)
すなわち、上記関係式(2)では、全体のX線画像の中で暗いスジ部分となっていない1ライン分のX線画像については、p(y)とBGとが同程度となるため、r(y)≒1となるはずである。よって、この場合には、上記関係式(3)によって、f(x,y)≒g(x,y)となる。一方、暗いスジ部分となった1ライン分のX線画像については、p(y)がBGよりも小さくなるため、r(y)<1となる。よって、この場合には、上記関係式(3)によって、f(x,y)<g(x,y)となり、補正後の明るさg(x,y)を補正前の明るさf(x,y)よりも明るくすることができる。
【0044】
このような補正の結果、X線照射器13によるX線照射量の不安定化に起因してX線画像中に現れる暗いスジの部分を、X線照射量が適正であれば得られたX線画像の明るさに近づくように補正することができる。よって、この補正後のX線画像に基づいて異物混入の検査を実施することで、X線照射量の不安定に影響を受けることなく、高精度な異物検出を行うことが可能になる。
【0045】
なお、このようなX線画像の補正において、r(y)<0.5という条件を満たす場合には、X線照射器13によるX線照射量の不安定度が大きすぎるものと考えられる。よって、この場合には、制御コンピュータ20は、X線照射器13からのX線の照射を停止させて検査を禁止するとともに、モニタ26に検査不能状態である旨を表示させる。
〔異物混入検査〕
制御コンピュータ20では、CPU21で実施される異物検査ルーチンとして、上記のようにして暗いスジ部分を補正により除去された後のX線画像を画像処理して、複数の判断方式によって商品の良・不良(異物が混入していないかどうか)を判断する。判断方式には、例えば、トレース検出方式、2値化検出方式、マスク2値化検出方式などがある。これらの判断方式で判断した結果、1つでも不良と判断するもの(図7に示す異物像)があれば、その商品Gは不良品と判断される。
【0046】
トレース検出方式及び2値化検出方式は、画像のマスクされていない領域に対して判断を行う。一方、マスク2値化方式は、画像のマスクされている領域に対して判断を行う。マスクは、商品Gの容器部分などに対して設定される。
トレース検出方式は、被検出物の大まかな厚さに沿って基準レベル(閾値)を設定し、像がそれよりも暗くなったときに商品G内に異物が混入していると判断する方式である。この方式では、比較的小さな異物を検出して商品不良を検出することができる。
【0047】
なお、制御コンピュータ20は、被検査物が軽量で遮蔽ノレン16を設置できない場合におけるX線漏洩防止のために、X線照射量を制限する制限手段として機能する。
これにより、X線出力の制限手段をハードウェアとして実現し、X線源側に制限手段を設けることができる。例えば、X線出力をディップスイッチで設定してX線出力をアナログ電圧で制御する場合には、その設定に対するハード的なX線源のアナログ電圧の入力制限に加えて、X線出力をコントロールする。このとき、ホスト側に対してもそのX線の照射量に関する制限情報を送信してソフトウェアでも認識できるようにすることで操作時における人為的な設定ミスによるX線漏洩を防止することができる。また、X線ラインセンサ14における検出値によって照射量を制御したり、リファレンス用テーブルを参照して明らかな出力オーバーの場合にもX線出力異常としてX線照射器13からのX線照射を停止させる。
【0048】
このように、X線漏洩に対する多重の安全対策を採ることで、ホスト側における上限設定によって設定ミスを防止することができるとともに、ホスト側の暴走により異常制御がされた場合でもX線照射器13の側でプロテクトすることができる。また、X線照射器13の異常により過度なX線を照射した場合でも、直ちに停止させることができ、安全性の高いX線検査装置10を提供できる。
【0049】
[X線検査装置の特徴]
(1)
本実施形態のX線検査装置10では、制御コンピュータ20が、X線ラインセンサ14における検出結果に基づいてX線画像を形成し、このX線画像に基づいて異物混入の検査を行う装置において、全体のX線画像における各部の明るさを抽出して背景部分と思われる部分を特定する。そして、この背景部分として特定された部分と、X線ラインセンサ14の1ライン分に相当するX線画像の部分の最大明るさとを比較して、その1ライン分に相当するX線画像の部分の補正の可否を決定する。
【0050】
これにより、X線照射器13によるX線照射量が不安定化してX線画像に暗いスジが現れるような場合でも、この暗いスジの部分に相当する1ライン分のX線画像を補正によって明るくして正常な全体のX線画像を得ることができる。この結果、X線照射部13からのX線照射量が不安定な場合でも、高精度な異物検出を行うことが可能になる。
(2)
本実施形態のX線検査装置10では、制御コンピュータ20が、X線ラインセンサ14における各画素14aの検出結果に基づいて作成された全体のX線画像における各部の明るさのデータからヒストグラムを作成し(図5参照)、最も明るい側の極大点となる明るさを有する部分を背景部分として特定する。
【0051】
これにより、X線画像における最も明るい部分を背景部分として特定する従来のX線検査装置と比較して、背景部分として特定される明るさのばらつきを小さくすることができる。よって、背景として特定される部分をより正確に特定し、高精度な補正を行うことが可能になる。
(3)
本実施形態のX線検査装置10では、制御コンピュータ20が、全体のX線画像から背景部分として特定した部分の明るさと、X線画像における1ラインごとの最大明るさとを比較して補正の可否を決定する。
【0052】
これにより、背景部分として特定された部分よりも、1ラインごとのX線画像の部分の最大明るさの方が暗い場合には、この1ライン分が暗いスジになっているものと認識して、この部分に対して明るくするための補正を行うことができる。この結果、X線照射量の不安定化に起因する暗いスジ部分がX線画像に現れるような場合でも、このスジ部分を明るくなるように補正することで、常に高精度な異物混入の検出を行うことができる。
【0053】
(4)
本実施形態のX線検査装置10では、制御コンピュータ20が、1ラインごとのX線画像の最大明るさ(p(y))が背景部分として特定した部分の明るさ(BG)の半分に満たない場合(r(y)<0.5)には、X線照射部13の照射量異常として検査を中止させる。
【0054】
これにより、X線照射器13から照射されるX線量のばらつきが大きい場合には検査を中止して、X線照射器13を修理、交換する等の措置を講ずることができる。よって、X線管の異常を早急に認識して措置を講ずることで、常に安定した異物混入の検査を行うことが可能になる。
(5)
本実施形態のX線検査装置10では、上述したように、制御コンピュータ20が、X線照射器13からの照射量異常と判定した場合(r(y)<0.5の条件を満たす状態)には、モニタ26に検査不能状態である旨を表示する。
【0055】
これにより、作業者に対してX線管の異常を早急に知らせることができるため、作業者は、すぐにX線管を交換する等の措置を講ずることが可能になる。
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0056】
(A)
上記実施形態では、X線画像の補正を行う際において、X線画像に基づいて明るさのヒストグラムを作成し、このヒストグラムに現れる極大点のうち、最も明るい側の極大点となる明るさの部分を背景部分として特定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
例えば、より単純な方法として、X線画像に含まれる部分のうち最大明るさの部分(ピーク)を背景部分として特定する方法であってもよい。この場合でも、上記と同様に、X線画像の中から背景部分を特定して適正にX線画像の補正を行うことができる。
ただし、上記実施形態のようにヒストグラムを作成して最も明るい極大点の明るさの部分を背景として特定する方法は、統計的データを用いて背景部分を特定することになるため、比較的ばらつきの大きい最大明るさの部分を背景として特定する方法と比較して、ばらつきの少ない正確な補正を実施することができる点でより好ましい。
【0058】
(B)
上記実施形態では、X線画像の各部における明るさに基づいてヒストグラムを作成し、その最も明るい側の極大点となる明るさに相当する部分を背景部分として特定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ヒストグラムにおける最頻値となる明るさの部分を背景部分として特定してもよい。この場合でも、上記実施形態のX線検査装置10と同様の効果を得ることができる。ただし、ヒストグラムの最頻値となる明るさの部分を背景部分として特定した場合には、X線画像の大部分が物品に相当するような場合には、最頻値の明るさの部分は背景部分よりも暗い物品に相当する部分になってしまうため、適切な背景部分の特定ができなくなるおそれがある。よって、物品の大きさに関係なく正確な背景部分の特定を行うことを考慮すれば、上記実施形態のように、最も明るい側の極大点に相当する明るさの部分を背景部分として特定することがより好ましい。
【0059】
(C)
上記実施形態では、X線画像の補正において、r(y)<0.5という条件を満たす場合に、制御コンピュータ20が、X線照射器13からのX線の照射を停止させて検査を禁止するとともに、モニタ26に検査不能状態である旨を表示させる例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
例えば、検査を禁止するための閾値としては0.5に限定されるものではなく、検査の精度や検査対象である商品GのX線画像を形成した場合の特性等に応じて自由に設定変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のX線検査装置は、X線照射量の不安定化によってX線画像に暗いスジが形成されるような場合でも、このスジ部分を補正して適正なX線画像を形成した後に異物検出の検査を行うことができるという効果を奏することから、X線を照射して検査を行う各種検査装置に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線検査装置の外観斜視図。
【図2】X線検査装置の前後の構成を示す図。
【図3】X線検査装置のシールドボックス内部の簡易構成図。
【図4】(a)は、図1のX線検査装置において作成されたX線画像の全体を示す図。
【0063】
(b)は、図1のX線検査装置において作成されたX線画像にX線照射量の不安定化による暗いスジが現れた図。
【図5】X線画像に基づいて作成されたヒストグラムを示す図。
【図6】制御コンピュータのブロック構成図。
【図7】X線検査の原理を示す模式図。
【符号の説明】
【0064】
10 X線検査装置
11 シールドボックス
11a 開口
12 コンベア
12a コンベアベルト
12b コンベアフレーム
12c 開口部
12e スリット
12f コンベアモータ
12g ロータリエンコーダ
13 X線照射器(照射部)
14 X線ラインセンサ(受光部、ラインセンサ)
14a 画素
15 光電センサ
16 遮蔽ノレン
20 制御コンピュータ(制御部、画像形成部、背景特定部、補正部)
21 CPU
22 ROM(記憶部)
23 RAM(記憶部)
24 USB(外部接続端子)
25 CF(コンパクトフラッシュ(登録商標)、記憶部)
26 モニタ(表示部)
G 商品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に対してX線を照射し、その透過量を検出して前記物品の検査を行うX線検査装置であって、
前記物品に対してX線を照射する照射部と、
前記照射部から前記物品に対して照射されたX線の透過量を検出するラインセンサと、
前記ラインセンサにおいて1ライン分ごとに得られた透過量に基づいてX線画像を作成する画像形成部と、
前記1ライン分のX線画像を組み合わせた全体のX線画像における各部の明るさを抽出して背景部分を特定する背景特定部と、
前記背景特定部によって特定された背景部分の明るさに基づいて前記X線画像を1ライン分ごとに補正する補正部と、
を備えているX線検査装置。
【請求項2】
前記背景特定部は、前記全体のX線画像に含まれる部分のうち最大明るさの部分を背景部分として特定する、
請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記背景特定部は、前記全体のX線画像に基づいて明るさのヒストグラムを作成し、前記ヒストグラムに現れる極大点のうち、最も明るい側の極大点となる明るさの部分を背景部分として特定する、
請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項4】
前記背景特定部は、前記全体のX線画像に基づいて明るさのヒストグラムを作成し、最頻値となる明るさの部分を背景部分として特定する、
請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記背景特定部において特定された背景部分の明るさと、1ラインごとのX線画像から抽出される明るさとを比較して補正を行う、
請求項1から4のいずれか1項に記載のX線検査装置。
【請求項6】
前記1ラインごとのX線画像から抽出される明るさが、前記特定された背景の明るさに対して所定の割合を下回る明るさである場合には、検査を中止するように制御する制御部を、
さらに備えた、
請求項1から5のいずれか1項に記載のX線検査装置。
【請求項7】
前記制御部が検査を中止するように制御すると検査不能である旨を表示する表示部を、さらに備えている、
請求項6に記載のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−71423(P2006−71423A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254533(P2004−254533)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000147833)株式会社イシダ (859)
【Fターム(参考)】