説明

X線検査装置

【課題】X線検査を効率的に実施することができるX線検査装置を提供する。
【解決手段】対象物に欠陥を意図的に発生させたり、全ての検査位置(観察ポイント)に欠陥を持つ対象物を準備しなくとも、従来では固定であった基準画像に替えて、当該基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像としてステップS10で置き換えることで、必要最小限の構成により、基準画像としてより適切なX線画像が得られた段階で基準画像のデータを改善して、X線検査を効率的に実施することができる。さらに、好ましくは、評価値として欠陥度合い(気泡の面積比率等)を採用し、ステップS4,S7で画像を当該評価値として数値化することによりX線画像を評価し、評価値に最も近い画像を基準画像として置き換えることで、基準画像を自動的に置き換えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象物に対するX線検査を行うX線検査装置に係り、特に、対象物に対してX線透視撮影あるいはCT撮影を行うことでX線検査を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のX線検査装置は、X線検査の前に観察ポイント(すなわち検査位置)を予め設定して登録する「ティーチング」と呼ばれる機能を搭載している。このティーチングを予め行うことで、ティーチングで登録された観察ポイントにしたがってX線検査を行うことが可能となる。
【0003】
X線検査装置で同種類の観察ポイントを複数に検査する場合には、ティーチングの登録時に観察対象上の観察ポイントをシーケンスとして記録し、そのシーケンスにしたがってX線検査時には視野を変更して観察ポイントを順番に再現することで効率的な検査が可能な機能を搭載する装置も多く市販されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、ティーチングの登録時に各観察ポイントでX線画像を撮影し、登録時の後のX線検査時に観察ポイントを再現するときにティーチングの登録時での撮影済みのX線画像を基準画像として、X線検査によって得られたX線画像とともに同時に表示する機能を搭載した装置もある(例えば、非特許文献1参照)。このような同時表示の機能を搭載することによって、オペレータがX線検査の対象物(観察対象)の検査で得られたX線画像の良否を判定する場合に、ティーチング登録で得られた基準画像に基づいてその判定を支援することができる。
【0005】
図6では、ティーチングの登録時の対象物を「シリアル01」とし、ティーチングの登録後におけるX線検査時の対象物を「シリアル02」としたときの基準画像およびX線画像をそれぞれ撮影した例を示している。「シリアル01」でティーチング登録を行って、「シリアル02」でX線検査を行って観察対象でティーチングの再現を実施しているときに、X線検査で得られた「シリアル02」のX線画像の表示(図6の左側を参照)と併せて、ティーチングの登録で得られた撮影済みの「シリアル01」の基準画像を表示(図6の右側を参照)している。
【0006】
なお、X線検査の対象物としては、実装基板、多層基板のスルーホール/パターン/はんだ接合部、パレット上に配置された集積回路(IC: Integrated Circuit)のような実装前の電子部品、金属などの鋳物、ビデオデッキのような成型品などがある。
【0007】
ティーチングの再現(すなわちティーチングの登録後のX線検査)を実施しているときに基準画像を表示する場合、オペレータがX線画像の良否を判定するためには良の状態と否の状態との境界に当たる基準画像が表示されていることが理想である。このような境界に当たる基準画像があれば、オペレータはそれより良いか悪いかを判断することで良否を明確に判定することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C251−3464 「SMX−1000/SMX−1000L ―島津デジタルマイクロフォーカスX線テレビ透視装置― カタログ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ティーチングの登録の時点でそのような理想的な基準画像を撮影することができる観察対象を準備することは一般的に困難であるという問題がある。意図的に観察対象に欠陥を生じさせ、その欠陥状態を制御することは困難であることが多い。さらに、ティーチングでの観察ポイントは複数箇所存在する場合が一般的であるが、それらの全てに欠陥を含んだ観察対象を準備することは困難であることが多い。また、ティーチングの登録時には想定しなかった欠陥が後日に発生し、基準画像を変更することも考えられる。
【0010】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、X線検査を効率的に実施することができるX線検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、この発明に係るX線検査装置は、対象物に対してX線検査を行うX線検査装置であって、前記X線検査によって得られるX線画像の良否の判定基準となる基準画像を前記X線画像とともに表示する表示手段と、前記基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える基準画像置換手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]この発明に係るX線検査装置によれば、対象物(観察対象)に欠陥を意図的に発生させたり、全ての検査位置(観察ポイント)に欠陥を持つ対象物(観察対象)を準備しなくとも、従来では固定であった基準画像に替えて、当該基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える基準画像置換手段を備えることで、必要最小限の構成により、基準画像としてより適切なX線画像が得られた段階で基準画像のデータを改善して、X線検査を効率的に実施することができる。
【0013】
上述したX線検査装置において、基準画像置換手段によって置き換えられた新たなる基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を、基準画像置換手段は繰り返し行うのが好ましい。このように繰り返し行うことで、基準画像としてより適切なX線画像が得られた都度に基準画像のデータを改善することができる。
【0014】
上述したこれらのX線検査装置において、X線検査によって得られるX線画像を評価するX線画像評価手段を備え、そのX線画像評価手段での結果に基づいて、基準画像置換手段は演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定するのが好ましい。このようなX線画像評価手段を備え、X線画像評価手段での結果に基づいて、演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定することで、基準画像のデータを改善する際にオペレータの労力を軽減することとともに、操作忘れによって改善し損ねる可能性を低減させることができる。
【0015】
このようなX線画像評価手段を備えた場合において、X線画像評価手段は、所定の値を有する評価値に基づいてX線画像を評価し、基準画像置換手段は評価値に最も近い画像を基準画像として置き換えるのがより好ましい。このように画像を評価値として数値化することによりX線画像を評価し、評価値に最も近い画像を基準画像として置き換えることで、基準画像を自動的に置き換えることができる。
【0016】
上述したこれらのX線検査装置において、対象物を撮影することによりX線検査を行う撮影手段を備え、(最初に得られる)基準画像は、その撮影手段によって撮影されたX線画像である。すなわち、最初に得られる基準画像も、X線検査時に撮影手段によって撮影されたX線画像と同様に同じ撮影手段によって撮影することで、同じ撮影手段のみの構成で済み、X線検査時の再現性が高くなるという効果をも奏する。もちろん、同一の撮影手段に限定されず、最初に得られる基準画像のみ、別の撮影手段(例えば固体撮像素子(CCD: Charge Coupled Device)を用いたCCDカメラ)で撮影してもよい。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係るX線検査装置によれば、基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える基準画像置換手段を備えることで、基準画像としてより適切なX線画像が得られた段階で基準画像のデータを改善して、X線検査を効率的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例に係るX線検査装置の概略構成図およびブロック図である。
【図2】(a)〜(c)は、図1とは別の実施形態のX線検査の概略図である。
【図3】(a)、(b)は、図2の実施形態における観察ポイントの登録および走査を示す概略図である。
【図4】実施例に係るティーチングも含めた一連のX線検査の流れを示すフローチャートである。
【図5】(a)〜(c)は、気泡の面積比率の算出に関する説明に供する概略図である。
【図6】X線画像および基準画像の表示態様を示す概略図である。
【実施例】
【0019】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るX線検査装置の概略構成図およびブロック図であり、図2は、図1とは別の実施形態のX線検査の概略図であり、図3は、図2の実施形態における観察ポイントの登録および走査を示す概略図である。本実施例では、対象物(観察対象)の中に気泡が発生する場合のX線検査を例に採って説明するとともに、X線画像上で気泡の面積比率がある一定値を超えるか否かで良否を判定することを例に採って説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施例に係るX線検査装置1は、対象物Oを撮像する撮像部2と、対象物Oを載置するステージ3と、そのステージ3を駆動させるステージ駆動部4と、撮像部2を駆動させる撮像駆動部5と、撮像部2のX線管21に管電流や管電圧を与えるために高電圧を発生させる高電圧発生部6と、撮像部2のX線検出器22によって得られたX線検出信号に対して各種の画像処理を行ってX線透視像を出力する画像処理部7とを備えている。撮像部2は、この発明における撮影手段に相当する。
【0021】
撮像部2は、対象物OにX線を照射するX線管21と、X線管21から照射され対象物Oを透過したX線を検出するX線検出器22とを備えている。X線検出器22については、イメージインテンシファイア(I.I)やフラットパネル型X線検出器(FPD: Flat Panel Detector)などに例示されるように、特に限定されない。本実施例では、X線検出器22としてフラットパネル型X線検出器(FPD)を例に採って説明する。
【0022】
FPDは、画素に対応して縦横に並べられた複数の検出素子からなり、X線を検出素子が検出して、検出されたX線のデータ(電荷信号)をX線検出信号として出力する。このようにして、X線管21からX線を対象物Oに向けて照射し、FPDからなるX線検出器22がX線を検出してX線検出信号を出力することで、X線管21およびX線検出器22からなる撮像部2は対象物Oを撮像する。
【0023】
ステージ駆動部4は、図示を省略するモータや駆動軸などから構成され、ステージ3を図中のX,Y方向に水平移動、Z方向に昇降移動、あるいはZ軸心周りに水平面内で回転させる。ステージ3の移動によって対象物Oも移動して、対象物Oを撮像位置にまで移動させて撮像部2により撮像を行ってX線検査を行う。図1では、ティーチングで登録された観察ポイントにしたがってX線検査を行う場合には、撮像部2を固定させた状態で、その観察ポイントが撮像位置に位置するようにステージ3とともに対象物Oを移動させる。
【0024】
なお、図1のようなX線検査に限定されず、図2に示すように対象物Oをステージ3に載せ換えることで、X線検査を順番に行ってもよい。図2に示すように、図6でも述べたようにティーチングの登録時の対象物Oを「シリアル01」(図2ではs01で表記)とし、図6でも述べたようにティーチングの登録後におけるX線検査時の対象物Oを「シリアル02」(図2ではs02で表記)とする。図2(a)に示すように「シリアル01」(s01)でティーチング登録を行い、ティーチング登録後に図2(b)に示すように「シリアル01」(s01)から「シリアル02」(s02)に載せ換える。そして、図2(c)に示すように「シリアル02」でX線検査を行う。図2のように対象物Oをステージ3に載せ換えてX線検査を行う場合には、図3(a)に示すように「シリアル01」(s01)上で観察ポイントS,S,Sの順にシーケンスとしてティーチングファイル8a(図1を参照)に記録する。すると、X線検査時においても図3(b)に示すように「シリアル02」(s02)上で観察ポイントS,S,Sの順にX線検査(走査)を行うように、ティーチングのシーケンス再現を行う。図1の実施形態の場合も同様である。
【0025】
図1の説明に戻って、撮像駆動部5は、ステージ駆動部4と同様に、図示を省略するモータや駆動軸などから構成され、撮像部2を図中のX,Y方向に水平移動、Z方向に昇降移動、あるいはZ軸心周りに水平面内で回転させる。X線検出器22にX線管21が対向するようにそれぞれを移動させてからX線検査を行う。また、X線管21またはX線検出器22を鉛直方向(Z方向)に昇降移動させて、X線検査における拡大率・縮小率を変更することも可能である。また、X線管21またはX線検出器22を傾斜させて、斜め方向から撮像することも可能である(図中の二点鎖線を参照)。図1では、ティーチングで登録された観察ポイントにしたがってX線検査を行う場合には、撮像部2を固定させた状態でステージ3とともに対象物Oを移動させる。もちろん、図2や図3のように、ステージ3とともに対象物Oを固定させた状態でX線管21およびX線検出器22を移動させてよく、その場合には観察ポイントにX線管21およびX線検出器22が移動してX線検査を行うことになる。
【0026】
高電圧発生部6は、高電圧を発生させて管電流や管電圧をX線管21に与えることで、X線管21からX線が発生して、X線を照射する。画像処理部7は、ゲイン補正やラグ補正や階調補正等の画像処理をX線検出信号に施すことで、対象物Oに関するX線透視像を出力する。このようにして、撮像部2で撮像されたX線検出信号(すなわちX線検出器22から出力されたX線検出信号)に対して画像処理部7が画像処理を行ってX線透視像を出力することで、対象物Oに対してX線透視撮影を行う。そして、対象物Oに対するX線検査を行う。
【0027】
その他に、X線検査装置1は、メモリ部8と入力部9と出力部10とコントローラ11とを備えている。出力部10は、この発明における表示手段に相当し、コントローラ11は、この発明におけるX線画像評価手段および基準画像置換手段に相当する。
【0028】
メモリ部8は、コントローラ11を介して、画像処理部7で得られたX線透視像などのデータを書き込んで記憶し、適宜必要に応じて読み出して、コントローラ11を介して、X線透視像を出力部10に送り込んで出力する。メモリ部8は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)やハードディスクなどに代表される記憶媒体で構成されている。本実施例では、メモリ部8は、ティーチングファイル8aを有しており、複数の観察ポイントをティーチングファイル8aに記憶して、X線検査時に読み出して、コントローラ11を介して、ステージ駆動部4を制御することにより、観察ポイントが撮像位置に位置するようにステージ3とともに対象物Oを移動させる、あるいは撮像駆動部5を制御することにより、観察ポイントにX線管21およびX線検出器22を移動させる。
【0029】
入力部9は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ11に送り込む。入力部9は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。本実施例では、欠陥度合いの目標値を入力する機能などを入力部9が有している。これらの機能については後述する。
【0030】
出力部10は、モニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。本実施例では、撮像部2での撮像結果を出力部10のモニタに表示する。具体的には、X線検査によって得られるX線画像(本実施例ではX線透視像)の良否の判定基準となる基準画像(本実施例ではX線透視像)をX線画像とともに出力部10のモニタに表示する。モニタの具体的な構成についても後述する。
【0031】
コントローラ11は、X線検査装置1を構成する各部分を統括制御する。上述の画像処理部7やコントローラ11は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。画像処理部7で得られたX線透視像などのデータを、コントローラ11を介して、メモリ部8に書き込んで記憶、あるいは出力部10に送り込んで出力する。出力部10が表示部の場合には出力表示し、出力部10がプリンタの場合には出力印刷する。
【0032】
本実施例では、基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える基準画像置換手段の機能、基準画像置換手段の機能によって置き換えられた新たなる基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を繰り返し行う機能、X線検査によって得られるX線画像を評価するX線画像評価手段の機能およびそのX線画像評価手段の機能での結果に基づいて演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定する機能などをコントローラ11が有している。これらの機能についても後述する。
【0033】
次に、本実施例に係る入力部9や出力部10やコントローラ11の具体的な構成について、図4〜図6を参照して説明する。図4は、実施例に係るティーチングも含めた一連のX線検査の流れを示すフローチャートであり、図5は、気泡の面積比率の算出に関する説明に供する概略図であり、図6は、X線画像および基準画像の表示態様を示す概略図である。
【0034】
(ステップS1)欠陥度合いの目標値の入力
理想的な基準画像に対応する欠陥の度合いをオペレータが入力設定できるように構成する。先ず、その度合い(目標値)を入力部9により予め入力する。入力された度合い(目標値)をメモリ部8(図1を参照)に記憶する。
【0035】
(ステップS2)ティーチング登録
「シリアル01」の対象物O上に、図3(a)のように各々の観察ポイントを順に設定して登録して、これらの観察ポイントをメモリ部8(図1を参照)のティーチングファイル8a(図1を参照)に記憶する。このように記憶することで、ティーチングの登録を行う。
【0036】
(ステップS3)基準画像の撮影
ティーチングの登録時の「シリアル01」の対象物OにX線管21(図1を参照)からX線を照射し、「シリアル01」の対象物Oを透過したX線をX線検出器22(図1を参照)が検出してX線検出信号を出力し、さらに画像処理部7(図1を参照)が各種の画像処理をX線検出信号に施すことでX線透視像を出力する。この出力されたX線透視像を「シリアル01」の基準画像とすることで、基準画像の撮影を行う。このとき、ステップS2でティーチング登録された観察ポイントにしたがって基準画像の撮影を行う。
【0037】
(ステップS4)基準画像の欠陥度合いの数値化
ステップS3で撮影された基準画像を評価するために、コントローラ11(図1を参照)は基準画像の欠陥度合いを数値化する。なお、ステップS3で撮影された段階で画像処理部7(図1を参照)が各種の画像処理を行う際に、画像処理部7が基準画像の欠陥度合いを数値化してもよい。数値化された欠陥度合いを、ステップS2でティーチング登録された観察ポイントと対応づけてメモリ部8(図1を参照)に記憶する。
【0038】
ここで、後述するステップS6で撮影されるX線画像と同様に、本実施例において基準画像の欠陥度合いを数値化する場合には、図5に示すように気泡の面積比率を求めて、気泡が多いほど品質が悪いと想定し、気泡の面積比率が大きいほど欠陥の度合いが大きいとして、気泡の面積比率を欠陥度合いとして求める。面積比率[%]=気泡の面積/計測範囲全体の面積×100で表される。
【0039】
図5(a)では、ステップS2でティーチング登録された観察ポイントでの画像における計測範囲を点線で示している。観察ポイントでの画像全体と計測範囲との間にマージン(余白)があるのは、誤差による位置ズレにより計測範囲が観察ポイントから外れるのを防止するためである。もちろん、マージンを必ずしも設ける必要はない。図5(b)で、その点線で示す計測範囲の全体を抽出して、計測範囲全体の面積を求め、一方で、図5(c)で、点線で示す計測範囲から気泡のみを抽出して、気泡の面積を求める。気泡のある部分は、他の部分と比較して画素値(あるいは輝度値)が大きいので、所定値よりも大きい部分を気泡のある部分と認定し、所定値を超えない部分を気泡のない部分と認定すればよい。
【0040】
(ステップS5)ティーチング再現
次に、オペレータはティーチング再現のコマンドを入力部9により入力する。
【0041】
(ステップS6)X線画像の撮影
X線検査時の「シリアル02」の対象物OにX線管21(図1を参照)からX線を照射し、「シリアル02」の対象物Oを透過したX線をX線検出器22(図1を参照)が検出してX線検出信号を出力し、さらに画像処理部7(図1を参照)が各種の画像処理をX線検出信号に施すことでX線透視像を出力する。この出力されたX線透視像を「シリアル02」のX線画像とすることで、X線検査時におけるX線画像の撮影を行う。このとき、ステップS2でティーチング登録された観察ポイントにしたがってX線画像の撮影を行ってX線検査を行う。X線検査時の「シリアル03」以降の対象物Oに対しても同様である。
【0042】
(ステップS7)X線画像の欠陥度合いの数値化
ステップS6で撮影されたX線画像を評価するために、コントローラ11(図1を参照)はX線画像の欠陥度合いを数値化する。ステップS4での基準画像の欠陥度合いの数値化でも述べたように、ステップS6で撮影された段階で画像処理部7(図1を参照)が各種の画像処理を行う際に、画像処理部7がX線画像の欠陥度合いを数値化してもよい。数値化された欠陥度合いを、ステップS2でティーチング登録された観察ポイントと対応づけてメモリ部8(図1を参照)に記憶する。
【0043】
上述したステップS3で撮影された基準画像と同様に、本実施例においてX線画像の欠陥度合いを数値化する場合には、図5に示すように気泡の面積比率を欠陥度合いとして求めればよい。
【0044】
(ステップS8)基準画像の欠陥度合いの方が目標値に近い?
ステップS1で入力された欠陥度合いの目標値を目標値Aとし、ステップS4で数値化された基準画像の欠陥度合い(気泡の面積比率)を欠陥度合いBとし、ステップS7で数値化されたX線画像の欠陥度合い(気泡の面積比率)を欠陥度合いCとする。そして、観察ポイント毎に目標値Aに対して欠陥度合いBおよび欠陥度合いCを比較する。
【0045】
ステップS4で数値化された基準画像の欠陥度合いBの方が、X線画像の欠陥度合いCよりもステップS1で入力された欠陥度合いの目標値Aに近い場合には、次のステップS9に進む。ステップS7で数値化されたX線画像の欠陥度合いCの方が、基準画像の欠陥度合いBよりもステップS1で入力された欠陥度合いの目標値Aに近い場合には、ステップS10に進む。目標値Aとの比較については、目標値Aと欠陥度合いBとの差分の絶対値と、目標値Aと欠陥度合いCとの差分の絶対値とを比較して、絶対値が小さい方の欠陥度合いが目標値Aに近いと判定すればよい。この判定についてはコントローラ11(図1を参照)が行う。
【0046】
(ステップS9)現在の基準画像の保持
ステップS8での判定結果に基づいて、基準画像の欠陥度合いBの方が、X線画像の欠陥度合いCよりも目標値Aに近い場合には、置き換えずに現在の基準画像を保持する。
【0047】
(ステップS10)基準画像の置換
ステップS8での判定結果に基づいて、X線画像の欠陥度合いCの方が、基準画像の欠陥度合いBよりも目標値Aに近い場合には、ステップS6で撮影されたX線画像を新たに基準画像として置き換える。このとき、ステップS4で数値化された基準画像の欠陥度合いBについても、ステップS6で撮影されてステップS7で数値化されたX線画像の欠陥度合いCの値に更新して、基準画像の欠陥度合いBの値をCの値に書き換える。そして、Cの値に書き換えられた値を新たに基準画像の欠陥度合いBの値とする。なお、置き換える必要が生じた場合においても置き換えるか否かをオペレータが確認するように構成してもよい。
【0048】
(ステップS11)X線画像および基準画像の表示
図6に示すように、ステップS6で撮影されたX線画像を出力部10(図1を参照)のモニタに表示するとともに、そのX線画像の表示(図6の左側を参照)と併せて、ステップS9で保持された現在の基準画像あるいはステップS10で置き換えられた新たなる基準画像を出力部10のモニタに表示(図6の右側を参照)する。図6では、X線画像を基準画像に対して拡大表示しているが、基準画像に対して縮小表示してもよいし、基準画像と同じサイズで表示してもよい。また、ステップS3で撮影された時点で基準画像を表示し、ステップS6で撮影された時点でX線画像を基準画像とともに表示してもよい。
【0049】
(ステップS12)検査対象の対象物があるか?
X線検査において検査対象の対象物(観察対象)があるか否かを判断する。
【0050】
観察対象が存在する場合には、ステップS5あるいはステップS6に戻って、「シリアル03」以降の対象物Oに対するX線検査時におけるX線画像の撮影を行う(図4のフローチャートではステップS6に戻る場合を図示)。そして、ステップS7〜S12を繰り返し行うことで、ステップS9で保持された現在の基準画像あるいはステップS10で置き換えられた新たなる基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を繰り返し行う。「シリアル03」以降の対象物Oについては、「シリアル02」の対象物Oと同様にステップS7〜S12を繰り返し行うので、その説明を省略する。
【0051】
観察対象が存在しない場合には、ティーチングも含めた一連のX線検査が全て終了したとして、一連のステップS1〜S12を終了する。
【0052】
上述の構成を備えた本実施例に係るX線検査装置によれば、対象物(観察対象)に欠陥を意図的に発生させたり、全ての検査位置(観察ポイント)に欠陥を持つ対象物(観察対象)を準備しなくとも、従来では固定であった基準画像に替えて、当該基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える基準画像置換手段の機能をコントローラ11が備えることで、必要最小限の構成により、基準画像としてより適切なX線画像が得られた段階で基準画像のデータを改善して、X線検査を効率的に実施することができる。
【0053】
本実施例では、基準画像置換手段の機能によって置き換えられた新たなる基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を繰り返し行っている(図4のフローチャートのステップS7〜S12を参照)。このように繰り返し行うことで、基準画像としてより適切なX線画像が得られた都度に基準画像のデータを改善することができる。
【0054】
本実施例では、X線検査によって得られるX線画像を評価するX線画像評価手段の機能をコントローラ11が備え、そのX線画像評価手段の機能での結果に基づいて、基準画像置換手段の機能は演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定している。具体的には、本実施例の場合、図4のフローチャートのステップS7での数値化による評価に基づいて、ステップS10で新たに基準画像として置き換えるか、あるいはステップS9で現在の基準画像のままで保持するかを決定している。このようなX線画像評価手段の機能を備え、X線画像評価手段の機能での結果に基づいて、演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定することで、基準画像のデータを改善する際にオペレータの労力を軽減することとともに、操作忘れによって改善し損ねる可能性を低減させることができる。
【0055】
本実施例のようなX線画像評価手段の機能を備えた場合において、X線画像評価手段の機能は、所定の値を有する評価値に基づいてX線画像を評価し、基準画像置換手段の機能は評価値に最も近い画像を基準画像として置き換えている。具体的には、本実施例の場合、評価値として欠陥度合い(気泡の面積比率)を採用し、欠陥度合いの目標値Aに最も近い画像を基準画像として置き換えている。そして、基準画像の欠陥度合いBの方が、X線画像の欠陥度合いCよりも目標値Aに近い場合には、置き換えずに現在の基準画像を保持し、X線画像の欠陥度合いCの方が、基準画像の欠陥度合いBよりも目標値Aに近い場合には、ステップS6で撮影されたX線画像を新たに基準画像として置き換えている。このように画像を評価値として数値化することによりX線画像を評価し、評価値に最も近い画像を基準画像として置き換えることで、基準画像を自動的に置き換えることができる。
【0056】
本実施例では、対象物を撮影することによりX線検査を行う撮像部2を備え、(最初にティーチング登録で得られる)基準画像(すなわちステップS3で撮影された基準画像)は、その撮像部2によって撮影されたX線画像である。すなわち、最初に得られる基準画像(本実施例ではティーチング登録で得られる基準画像)も、X線検査時に撮像部2によって撮影されたX線画像と同様に同じ撮像部2によって撮影することで、同じ撮像部2のみの構成で済み、X線検査時の再現性が高くなるという効果をも奏する。
【0057】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0058】
(1)対象物としてはX線検査の対象となり得るものであれば、特に限定されない。上述したように、実装基板、多層基板のスルーホール/パターン/はんだ接合部、パレット上に配置された集積回路(IC)のような実装前の電子部品、金属などの鋳物、ビデオデッキのような成型品などに例示されるように、対象物に対してX線検査を行うのであればよい。
【0059】
(2)上述した実施例では、対象物に対してX線透視撮影を行うことで対象物に対するX線検査を行ったが、対象物に対してCT撮影を行うことで対象物に対するX線検査を行う場合に適用してもよい。また、X線透視撮影およびCT撮影を組み合わせてX線検査を行う場合に適用してもよい。
【0060】
(3)上述した実施例では、対象物の中に気泡が発生する場合のX線検査を例に採って説明したが、対象物が基板の場合におけるダイボンドやはんだペーストの濡れ性のX線検査に例示されるように、検査の種類としては特に限定されない。
【0061】
(4)図2や図3では、観察ポイントを任意に登録するランダム送り方式であったが、対象物の縦横に対して一定間隔の送り量で観察ポイントを登録するステップ送り方式に適用してもよい。
【0062】
(5)上述した実施例では、ティーチング登録の後にX線検査を行ったが、必ずしもティーチング登録を行う必要はない。ティーチング登録を行わずにX線検査を行う場合に適用してもよい。
【0063】
(6)上述した実施例では、最初に得られる基準画像をティーチング登録で得たが、ティーチング登録の如何に関わらず、X線検査で得られた1つ目あるいは2つ目以降のX線画像を基準画像としてもよい。
【0064】
(7)上述した実施例では、基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換えるのをコントローラ11が行うことにより自動で行ったが、ステップS10でも述べたように、基準画像をX線画像とともに表示した後に、置き換える必要が生じた場合においても置き換えるか否かをオペレータが確認して入力操作するように例えば入力部9により手動で行ってもよい。
【0065】
(8)上述した実施例では、置き換えられた新たなる基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を繰り返し行ったが、基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を一回のみ行う場合に適用してもよい。
【0066】
(9)上述した実施例では、X線画像の評価結果に基づいて、演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定したが、必ずしもX線画像の評価を行う必要はない。変形例(7)やステップS10でも述べたように、基準画像をX線画像とともに表示した後に、置き換えるか否かをオペレータが確認して入力操作するように例えば入力部9により手動で行ってもよい。
【0067】
(10)上述した実施例では、X線画像を評価するための評価値として欠陥度合い(気泡の面積比率)を採用したが、変形例(3)で述べた濡れ性を表す指標(例えば表面積の比率)に例示されるように、X線画像を評価するための評価値であれば特に限定されない。
【0068】
(11)上述した実施例では、(最初に得られる)基準画像は、X線検査時に撮影手段(実施例では撮像部2)によって撮影されたX線画像と同様に同じ撮影手段によって撮影されたX線画像であったが、同一の撮影手段に限定されず、最初に得られる基準画像のみ、別の撮影手段(例えば固体撮像素子(CCD: Charge Coupled Device)を用いたCCDカメラ)で撮影してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 … X線検査装置
2 … 撮像部
10 … 出力部
11 … コントローラ
A … 目標値
B,C … 欠陥度合い(気泡の面積比率)
O … 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対してX線検査を行うX線検査装置であって、
前記X線検査によって得られるX線画像の良否の判定基準となる基準画像を前記X線画像とともに表示する表示手段と、
前記基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える基準画像置換手段と
を備えることを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線検査装置において、
前記基準画像置換手段によって置き換えられた新たなる基準画像よりも後に得られるX線画像を新たに基準画像として置き換える作業を、前記基準画像置換手段は繰り返し行うことを特徴とするX線検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のX線検査装置において、
前記X線検査によって得られるX線画像を評価するX線画像評価手段を備え、
そのX線画像評価手段での結果に基づいて、前記基準画像置換手段は演算により新たに基準画像として置き換えるか否かを決定することを特徴とするX線検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線検査装置において、
前記X線画像評価手段は、所定の値を有する評価値に基づいて前記X線画像を評価し、
前記基準画像置換手段は前記評価値に最も近い画像を基準画像として置き換えることを特徴とするX線検査装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線検査装置において、
前記対象物を撮影することにより前記X線検査を行う撮影手段を備え、
前記基準画像は、その撮影手段によって撮影されたX線画像であることを特徴とするX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−108081(P2012−108081A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259036(P2010−259036)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】