説明

X線照射装置及びX線照射方法

【課題】大規模な施設を要することなくMRT用のX線ビームを生成することができる。
【解決手段】子ビームが照射されると制動X線をX線ビームXとして出射する金属ターゲット5と、スリット状のX線透過部6aを有し、X線ビームXの一部分がX線透過部6aを透過し、X線透過部6a以外の領域に入射したX線ビームXを遮蔽するように、金属ターゲット5のX線ビームXの出射方向下流側に配置されたX線遮蔽体6と、出射されるX線ビームXの発生点の径がX線透過部6aの入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを金属ターゲット5に照射する電子ビーム発生装置と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を照射するX線照射装置及び当該X線照射装置におけるX線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの治療法として、X線ビームを幅がμm単位のスリットを透過させて得られるマイクロビームを生成し、このマイクロビームを腫瘍に対して照射する治療法(MRT;Microbeam Radiation Therapy)が提案されている。この治療法では、正常細胞を破壊せずにがん細胞のみを破壊することができるという優れた治療効果が得られることが様々な実験により報告されている。
【0003】
このMRTに関する技術として、非特許文献1及び2には、高エネルギーの電子等の荷電粒子が磁場中でローレンツ力により曲がるときに電磁波を放射する現象を利用し、この放射された電磁波である放射光(X線ビーム)を複数の線状の放射線遮蔽スリットを透過させることで、MRT用のX線ビームを生成する手法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献1には、電子ビームを加速する線形加速器において、電子ビームのビーム電流、ビーム速度及びビーム径を測定し、それらの測定値に応じてソレノイドコイルによる磁場を制御し、電子ビームを低エミッタンス化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−76991号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”スリット状マイクロビームに対する細胞致死効果とその回復現象におけるがん抑制遺伝子p53正常型がん細胞と以上型がん細胞の違い”、[online]、平成22年、[平成23年9月30日検索]、インターネット< URL :http://www.spring8.or.jp/pdf/ja/MBTU/H20/14.pdf>
【非特許文献2】” マイクロビーム治療に関する基礎研究”、放医研ニュース, No. 134,、[online]、平成20年、[平成23年9月30日検索]、インターネット< URL :http://www.nirs.go.jp/report/nirs_news/200801/hik10p.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1及び2に開示されている技術を実施するためには放射光を生成するための大規模な放射光施設が必要となるため、当該技術を実施できる場所が限定されてしまう。日本において最も多い死亡原因となっているがんの患者が、当該技術を利用したMRTを受けるためには、大規模な放射光施設に行かなければならず、不便である。そのため、MRT治療用の装置が一般病院に設置されることが望まれている。
【0008】
しかしながら、MRT用のX線ビームを生成するためには奥行きが長く幅の狭い放射線遮蔽スリットが用いられるが、上記放射光から得られる並行なX線ビーム等を除き、一般的な放射線源から得られるX線ビーム(コーンビーム)ではスリットの透過効率が減少するため、治療に供する線量を得るためには、莫大な線源出力を必要とし、発熱や遮蔽など、装置を構成するための問題が多く発生する。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、大規模な施設を要することなくMRT用のX線ビームを生成することができるX線照射装置及びX線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るX線照射装置は、請求項1に記載したように、電子ビームが照射されると制動X線をX線ビームとして出射する金属ターゲットと、スリット状のX線透過部を有し、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部を透過し、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームを遮蔽するように、前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側に配置されたX線遮蔽体と、出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを前記金属ターゲットに照射する電子ビーム発生装置と、を具備している。
【0011】
請求項1に記載のX線照射装置によれば、金属ターゲットにより、電子ビームが照射されると制動X線がX線ビームとして出射され、スリット状のX線透過部を有し前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側に配置されたX線遮蔽体により、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部で透過され、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームが遮蔽される。ここで、本発明では、電子ビーム発生装置により、出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームが前記金属ターゲットに照射される。
【0012】
このように、請求項1に記載のX線照射装置によれば、X線ビームの発生点の径がX線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを金属ターゲットに照射することによりX線ビームを生成し、当該X線ビームをスリット状のX線透過部に入射させているので、高線量の線状のX線ビームを生成することができる結果、大規模な施設を要することなくMRT用のX線ビームを生成することができる。
【0013】
ところで、上記X線遮蔽体を用いてX線ビームの形状を絞る場合、上記X線透過部の変換効率を高くするためには、X線ビームのX線発生点(以下、単に焦点とも言う。)の大きさを極力小さくすることが望ましい。
【0014】
しかし、現状では、入口部の幅が小さく奥行き方向に長いスリットを使用している等の理由により、当該変換効率を高くすることは難しいため、高輝度のX線ビームを発生させる必要が生じてしまう。この場合には、金属ターゲットにおけるX線の焦点での発熱が非常に大きくなり、ターゲットにおけるX線の焦点部分が破壊されてしまう場合があるという問題があった。
【0015】
そこで、本発明に係るX線照射装置において、請求項2に記載したように、前記電子ビーム発生装置により出射された前記電子ビームの形状を、前記金属ターゲットに照射される前段階で、前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った方向に長い形状になるように制御する制御手段をさらに具備するようにしても良い。これにより、金属ターゲットにおける電子エネルギーの集中を回避でき、金属ターゲットの破壊を防止することができる、という効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項3に記載したように、前記電子ビーム発生装置から出射される前記電子ビームを、前記金属ターゲットへの照射位置が、前記X線透過部の入口部の長手方向に対応する方向に移動するように制御する制御手段、または、請求項4に記載したように、前記電子ビーム発生装置から出射される前記電子ビームの出射角度を変化させることにより、前記電子ビームの前記金属ターゲットへの照射位置が移動するように制御する制御手段を備えるようにしても良い。
【0017】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項5に記載したように、前記制御手段は、前記電子ビームの出射角度を変化させる際、当該変化の速度に応じて電荷量が変化するように前記電子ビームを制御するようにしても良い。これにより、線量が均一な電子ビームを生成することができる、という効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項6に記載したように、前記金属ターゲットを、前記電子ビームが照射された場合に前記電子ビームにより前記金属ターゲットが損傷しない最小限の厚さとなるように形成するようにしても良い。これにより、金属ターゲット内での電子拡散の影響を低くすることができる結果、より変換効率を向上させることができる、という効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項7に記載したように、前記電子ビーム発生装置の筐体または外部筐体に熱結合され、前記金属ターゲットの少なくとも一部に接するように設けられた熱伝導部材をさらに具備するようにしても良い。これにより、ターゲットの高温化を抑制することができる結果、金属ターゲットの破壊を防止することができる、という効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項8に記載したように、前記熱伝導部材は、前記金属ターゲットにおいて前記X線ビームが照射される領域を囲むように設けられるようにしても良い。これにより、より効果的に金属ターゲットの破壊を防止することができる、という効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項9に記載したように、前記X線透過部は、入口部の幅が20μm以上1mm以下であるようにしても良い。これにより、MRTに適したX線ビームを生成することができる、という効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項10に記載したように、前記電子ビームの線量は、前記X線透過部を透過した前記X線ビームの線量が1Gy以上1000Gy以下となるとともに、前記X線遮蔽体の前記X線透過部以外の領域で遮蔽されずに透過した前記X線ビームの線量が前記X線透過部を透過した前記X線ビームの線量の1/1000以上1/10以下となるように決定されるようにしても良い。これにより、MRTに適したX線ビームを生成することができる、という効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項11に記載したように、前記金属ターゲットから出射されるX線ビームはコーン状に拡がるX線ビームであり、前記X線遮蔽体は、前記X線透過部の奥行き方向の延長上に前記X線ビームの発生点が位置するように各々異なる位置に前記X線透過部が複数設けられているようにしても良い。これにより、金属ターゲットから出射されたX線ビームから効率的にMRT用のX線ビームを生成することができる、という効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項12に記載したように、前記X線遮蔽体は、複数の平板状の遮蔽部材が組み合わされて形成されるようにしても良い。これにより、簡易にX線遮蔽体を製作することができる、という効果を奏する。
【0025】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項13に記載したように、前記複数の前記X線透過部の各々を、各々前記X線ビームが入射する入口部から出射される出口部に向かって徐々に広くなるように形成するようにしても良い。これにより、X線遮蔽体に入射したX線ビームのX線透過部における透過率を向上させることができる、という効果を奏する。
【0026】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項14に記載したように、前記複数の前記X線透過部の入口部の幅を調整する第1の調整手段をさらに備えるようにしても良い。これにより、X線ビームの線量等に応じてX線透過部の入口部の幅を調整することができる、という効果を奏する。
【0027】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項15に記載したように、前記X線ビームの発生点及び前記X線遮蔽体の前記複数の前記X線透過部の相互の位置関係を調整する第2の調整手段をさらに備えるようにしても良い。これにより、X線ビームの発生点及びX線透過部の相互の位置関係を調整することができる、という効果を奏する。
【0028】
また、本発明に係るX線照射装置において、請求項16に記載したように、隣り合う遮蔽部材の対応する面との間に前記X線透過部を形成する面を各々備えた複数の遮蔽部材を、形成されたX線透過部の各々の奥行き方向の延長上に前記X線ビームの発生点が位置するように配列して前記X線遮蔽体を構成するようにしても良い。これにより、簡易にX線遮蔽体を製作することができる、という効果を奏する。
【0029】
一方、上記目的を達成するために、請求項17に記載のX線照射方法は、電子ビームが照射されると制動X線をX線ビームとして出射する金属ターゲットと、前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側において前記X線ビームが入射する際のビーム径より入口部の幅が小さいスリット状のX線透過部を有し、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部を透過し、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームを遮蔽するX線遮蔽体と、前記電子ビームを前記金属ターゲットに照射する際、出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを前記ターゲットに照射する電子ビーム発生装置とを具備するX線照射装置におけるX線照射方法であって、前記電子ビーム発生装置により出射された電子ビームの形状を、前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った方向に長い形状になるように制御する制御ステップと、前記制御ステップにて形状が制御された前記電子ビームを、前記金属ターゲットに照射することで前記X線ビームを出射させる出射ステップと、前記出射ステップにて出射されたX線ビームを、前記X線透過部を透過させる透過ステップと、を備えたX線照射方法である。
【0030】
従って、請求項17に記載のX線照射方法によれば、請求項2に記載の発明と同様に作用するので、請求項2に記載の発明と同様に、大規模な施設を要することなくMRT用のX線ビームを生成することができると共に、金属ターゲットの破壊を防止することができる、という効果を奏する。
【0031】
また、上記目的を達成するために、請求項18に記載のX線照射方法は、電子ビームが照射されると制動X線をX線ビームとして出射する金属ターゲットと、前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側において前記X線ビームが入射する際のビーム径より入口部の幅が小さいスリット状のX線透過部を有し、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部を透過し、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームを遮蔽するX線遮蔽体と、前記電子ビームを前記金属ターゲットに照射する際、出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを前記ターゲットに照射する電子ビーム発生装置とを具備するX線照射装置におけるX線照射方法であって、前記電子ビーム発生装置により出射された前記電子ビームを、前記金属ターゲットへの照射位置が、前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った方向に移動するように制御する制御ステップと、前記制御ステップにて制御された前記電子ビームを、前記金属ターゲットに照射することで前記X線ビームを出射する出射ステップと、前記出射ステップにて出射されたX線ビームを、前記X線透過部を透過させる透過ステップと、を備えたX線照射方法である。
【0032】
従って、請求項18に記載のX線照射方法によれば、請求項3に記載の発明と同様に作用するので、請求項3に記載の発明と同様に、大規模な施設を要することなくMRT用のX線ビームを生成することができると共に、金属ターゲットの破壊を防止することができる、という効果を奏する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、大規模な施設を要することなくMRT用のX線ビームを生成することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態に係るX線照射装置の全体の構成を示す上面図である。
【図2】実施形態に係る遮蔽体を示す斜視図である。
【図3】(A)は、第1実施形態に係るX線照射装置において、遮蔽体を透過したX線ビームの位置と相対線量との関係を示すグラフであり、(B)は、第1実施形態に係るX線照射装置において、遮蔽体を透過したX線ビームの出射方向から見た形状を示す図である。
【図4】第1実施形態に係るX線照射装置1の要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。
【図5】第1実施形態に係るX線照射装置の要部を示す斜視図である。
【図6】(A)は、第1実施形態に係るX線照射装置における遮蔽体に入射する直前のX線ビームの出射方向から見た形状を示す図であり、(B)は、第1実施形態に係るX線照射装置における遮蔽体を透過した直後のX線ビームの出射方向から見た形状を示す図である。
【図7】第2実施形態に係るX線照射装置の要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。
【図8】第2実施形態に係るX線照射装置における偏向磁石の配置例を示す図である。
【図9】第2実施形態に係るX線照射装置の要部を示す斜視図である。
【図10】(A)は、第2実施形態に係るX線照射装置における遮蔽体に入射する直前のX線ビームの出射方向から見た形状を示す図であり、(B)は、第2実施形態に係るX線照射装置における遮蔽体を透過した直後のX線ビームの出射方向から見た形状を示す図である。
【図11】第3実施形態に係るX線照射装置の要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。
【図12】第3実施形態に係るX線照射装置における交流磁石の構成を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は側面概略図である。
【図13】本実施形態に係るX線照射装置により実行されるX線制御処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】第3実施形態に係るX線照射装置の要部を示す斜視図である。
【図15】(A)は、第3実施形態に係るX線照射装置における遮蔽体に入射する直前のX線ビームの出射方向から見た形状を示す図であり、(B)は、第3実施形態に係るX線照射装置における遮蔽体を透過した直後のX線ビームの出射方向から見た形状を示す図である。
【図16】第3実施形態に係るX線照射装置において、交流磁石に加える電圧の一例を示すグラフである。
【図17】(A)は、第4実施形態に係るX線照射装置のターゲットの構成を示す正面図であり、(B)は、第4実施形態に係るX線照射装置のターゲットの構成を示す拡大側面図である。
【図18】第5実施形態に係るX線照射装置の要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。
【図19】第5実施形態に係るX線照射装置の遮蔽体を示す斜視図である。
【図20】(A)は、第5実施形態に係るX線照射装置の要部を示す概略上面図であり、(B)は、第5実施形態に係るX線照射装置の要部の別例を示す概略上面図である。
【図21】(A)は、第5実施形態に係るX線照射装置において、遮蔽体を透過したX線ビームの位置と相対線量との関係を示すグラフであり、(B)は、第5実施形態に係るX線照射装置において、遮蔽体を透過したX線ビームの出射方向から見た形状を示す図である。
【図22】第5実施形態に係るX線照射装置において、遮蔽体を透過したX線ビームのビームプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係るX線照射装置について添付図面を用いて詳細に説明する。
【0036】
図1は、第1実施形態に係るX線照射装置1の全体の構成を示す上面図である。
【0037】
図1に示すように、X線照射装置1は、電子ビームeを生成する電子銃2a、生成された電子ビームeを低エミッタンス化しつつ加速させる低エミッタンス加速器2b、及び、加速された低エミッタンス電子ビーム(以下、単に電子ビームeとも言う。)を外部に誘導するビームダクト2を備えている。また、X線照射装置1は、制御装置3を備えていて、制御装置3は、電子銃2aによる電子ビームeの生成、低エミッタンス加速器2bにより加速される電子ビームeのビーム電流、ビーム速度及びビーム径の測定、及びそれらの測定値に応じたソレノイドコイルによる磁場調整等の制御を行う。
【0038】
ビームダクト2の内部に到達した電子ビームeは、電子出射窓4を介して外部に出射される。電子出射窓4は、Ti、Be等の薄い金属板で形成されている。ビームダクト2の内部は真空に保たれており、電子出射窓4は、ビームダクト2の内部に空気が進入して電子の動きを極力妨げないようにビームダクト2の内部と外界とを仕切っている。
【0039】
ビームダクト2の電子ビームeの出射方向の下流側には、ターゲット5が設けられている。ターゲット5は、W、Ta等の重金属で形成され、電子出射窓4を介して照射された電子ビームeが衝突した際に、当該衝突に応じて制動X線を発生させる。発生した制動X線は、衝突点の前方に円錐状に広がってX線ビームとして放射される。
【0040】
また、ターゲット5は、ビームダクト2から出射された電子ビームeが照射された場合に損傷しない最小限の厚さとなるように形成されている。これにより、ターゲット5内での電子拡散の影響を小さくすることでターゲット5の損傷を防止しつつ、ターゲット5の厚さを極力薄く形成することができる。
【0041】
ターゲット5のX線ビームXの出射方向の下流側には、X線ビームXの一部を透過させるスリット6aを有する遮蔽体6が設けられている。スリット6aは、入口部の幅が、X線ビームXのビーム径より小さくなるように形成されている。
【0042】
図2は、第1実施形態に係る遮蔽体6を示す斜視図である。図2に示すように、本実施形態に係る遮蔽体6は、概略直方体とされ、各々X線ビームXを遮蔽する能力が高い重金属(本実施形態では、W)で構成された複数(本実施形態では、2つ)の遮蔽ユニット6bが組み合わされて構成されている。
【0043】
本実施形態に係る遮蔽体6では、2つの遮蔽ユニット6bが、互いの1つの面が所定の間隙を空けて対向するように配置されており、当該間隙によってX線ビームXを透過させるスリット6aが形成されている。
【0044】
このように、本実施形態に係るX線照射装置1では、X線ビームXをスリット6aが形成された遮蔽体6に照射し、照射されたX線ビームXのうちのスリット6aを透過した線状のX線ビームXを患者に照射することにより、MRTに利用することができる。
【0045】
本発明者らの鋭意検討の結果、X線ビームXを用いてMRTを行う場合、照射するX線ビームの幅が20μm以上1mm以下とすると組織に破壊を発生させることなく細胞の核のみが消失する現象が発生することが判明しているので、スリット6aの幅を20μm以上1mm以下とすることが好ましい。
【0046】
また同様に、本発明者らの鋭意検討の結果、MRTを行う場合には、電子ビームeの線量は、スリット6aを透過したX線ビームXの線量が1Gy以上1000Gy以下となるとともに、遮蔽体6のスリット6a以外の領域で遮蔽されずに透過したX線ビームXの線量がスリット6aを透過したX線ビームXの線量の1/1000以上1/10以下となるように決定されると良いことが判明している。
【0047】
なお、遮蔽体6は、上記構成に限定されず、遮蔽ユニット6bが各々1つ以上の平面部(本実施形態では、図2の平面部6c)を有する形状で形成され、各々の遮蔽ユニット6bの平面部6cが略平行になるように対面し、かつ間隙ができるように配置されることによりスリット6aが形成されていれば良い。あるいは、遮蔽体6が1つの遮蔽ユニット6bで構成され、当該遮蔽ユニット6bに奥行き方向に貫通するスリットが設けられていても良い。
【0048】
また、スリット6aは、上記間隙に限定されず、X線に透過性を有する素材により形成されていても良い。この場合には、隣接する遮蔽ユニット6b間に、上記間隙の代わりに当該素材が配置される。
【0049】
図3(A)は、第1実施形態に係るX線照射装置1において、遮蔽体6を透過したX線ビームXの位置と相対線量との関係を示すグラフであり、図3(B)は、第1実施形態に係るX線照射装置1において、遮蔽体6を透過したX線ビームXの出射方向から見た形状の一例を示す図である。
【0050】
図3(A)に示すように、遮蔽体6に入射したX線ビームXは、スリット6aに入射したX線のみが透過するため、x方向におけるスリット6aが設けられている位置において鋭いピークを有し、図3(B)に示すように、スリット6aの入口部の形状に略合致した形状である線状となるX線ビームXが形成される。
【0051】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0052】
なお、本実施形態に係るX線照射装置1では、スリット6aを一つのみ有する遮蔽体6を用いて1本の線状のX線ビームXを生成し、患者の照射対象領域に対して位置をずらしつつ複数回照射することによりMRTを実施する場合について説明する。
【0053】
図4は、第1実施形態に係るX線照射装置1の要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。図4(A)及び(B)に示すように、ターゲット5により放射されたX線ビームXは、X線ビームXの下流に配置されている遮蔽体6に入射し、当該遮蔽体6に入射したX線ビームXは遮蔽体6によりx方向について絞られた後、これによって得られた線状のX線ビームXが腫瘍Cに照射される。
【0054】
図5は、第1実施形態に係るX線照射装置1の要部を示す斜視図である。また、図6(A)は、第1実施形態に係るX線照射装置1における遮蔽体6に入射する直前のX線ビームXの出射方向から見た形状を示す図であり、図6(B)は、第1実施形態に係るX線照射装置1における遮蔽体6を透過した直後のX線ビームXの出射方向から見た形状を示す図である。
【0055】
図5に示すように、ターゲット5に衝突することで放射されたX線ビームXは円錐状に拡がるため、図6(A)に示すように、遮蔽体6に入射する直前のX線ビームXの出射方向から見た形状は円状となる。一方、遮蔽体6に入射したX線ビームXは、遮蔽体6により線状に絞られるため、図6(B)に示すように、遮蔽体6に入射した直後のX線ビームXの出射方向から見た形状は線状となる。
【0056】
なお、本実施形態に係るX線照射装置1では、スリット6aを一つのみ有する遮蔽体6を用いて1本の線状のX線ビームXを生成し、患者の照射対象領域に対して位置をずらしつつ複数回照射することによりMRT実施する場合について説明したが、これに限定されず、スリットを複数有する遮蔽体を用いて複数本の線状のX線ビームを生成して、1度に広範囲の領域にX線ビームXを照射する形態としても良い。
【0057】
また、電子ビームを低エミッタンス化しない電子線加速器を使用した場合、電子ビームのビーム径が大きくなってしまうため、ターゲットにおける焦点が大きくなり、同一電荷の焦点輝度が低下し、スリットを透過するX線量が低下してしまう。
【0058】
そこで、本実施形態に係るX線照射装置1では、電子出射窓4から出射される電子ビームeのビーム径、すなわちこれに対応するX線ビームXの焦点の径がスリット6aの入口部の長手方向(y方向)に沿った長さより短くなるよう制御装置3により制御される。また、X線ビームXの焦点は、スリット6aの幅(短手方向すなわちx方向に沿った長さ)の2倍以下となるように制御されることが好ましい。これにより、同一電荷の焦点輝度が低下するのを防ぐことでスリットを透過するX線量の低下を防止でき、X線ビームXを患者に照射することにより優れた治療効果が得られる。
【0059】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態に係るX線照射装置1Aについて添付図面を用いて詳細に説明する。第2実施形態に係るX線照射装置1Aは、第1実施形態に係るX線照射装置1におけるビームダクト2の周囲に偏向磁石7が設けられたものである。なお、第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0060】
図7は、第2実施形態に係るX線照射装置1Aの要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。図7(A)及び(B)に示すように、第2実施形態のX線照射装置1Aは、ビームダクト2の周囲に、偏向磁石7が設けられている。
【0061】
図8は、第2実施形態に係るX線照射装置1Aにおける偏向磁石7の配置例を示す図である。図8に示すように、偏向磁石7は、4重極電磁石であり、2つのN磁石7a、2つのS磁石7bを備えている。電子ビームeの出射方向に対して垂直な同一面上において、N磁石7aは、x方向から角度を45度傾けた方向で電子ビームeを挟んで各々対向するように配置されると共に、S磁石7bは、N磁石7aに対して垂直となる方向に電子ビームeを挟んで各々対向するように配置される。偏向磁石7により電子ビームeをx方向に収束させることにより、電子ビームeはy方向に引き伸ばされ、y方向に長い線状の形状となる。
【0062】
図9は、第2実施形態に係るX線照射装置1Aの要部を示す斜視図である。また、図10(A)は、第2実施形態に係るX線照射装置1Aにおける遮蔽体6に入射する直前のX線ビームXの出射方向から見た形状を示す図であり、図10(B)は、第2実施形態に係るX線照射装置1Aにおける遮蔽体6を透過した直後のX線ビームXの出射方向から見た形状を示す図である。
【0063】
図9に示すように、電子ビームeが偏向磁石7によりy方向に引き伸ばされた状態でターゲット5に衝突し、これによってターゲット5から放射されたX線ビームXは円錐状に拡がるため、図10(A)に示すように、遮蔽体6に入射する直前のX線ビームXの出射方向から見た形状は、y方向に引き伸ばされた楕円状となる。一方、遮蔽体6に入射したX線ビームXは、遮蔽体6により線状に絞られるため、図10(B)に示すように、遮蔽体6に入射した直後のX線ビームXの出射方向から見た形状は線状となる。
【0064】
このように、X線ビームXの焦点の径がスリット6aの入口部の長手方向に沿った長さより短くなるように調整された電子ビームeを、ターゲット5に衝突する手前でスリット6aの形状に合わせてy方向に引き伸ばすことにより、ターゲット5における電子エネルギーの集中が低減され、ターゲット5の損傷を防止することができる。
【0065】
また、X線ビームXの出射方向から見た形状を遮蔽体6のスリット6aの入口部の形状に近づけることにより、遮蔽ユニット6bに遮蔽されて無駄に捨てられるX線ビームXを少なくすることでスリット6aを透過するX線ビームXが増加する結果、より高線量のX線ビームXを腫瘍Cに照射させることができる。さらに、X線ビームXの焦点(電子ビームeのビーム径に対応)を小さく(本実施形態では、電子ビームeの径がスリット6aの長手方向に沿った長さより短い)することで、スリット6aを透過するX線ビームXの生成に寄与する電子ビームeの電子量を増加させることにより、単位時間当たりの電子密度を下げても平板ビーム変換効率を落とすことなく、高出力なX線ビームを発生させることができる。
【0066】
なお、第2実施形態に係るX線照射装置1Aでは、偏向磁石7として4極電磁石を有する物を適用したが、これに限定されず、偏向磁石7として永久磁石を有するものを適用しても良い。この場合、2つのN磁石及び2つのS磁石により上記と同様に構成される。
【0067】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態に係るX線照射装置1Bについて添付図面を用いて詳細に説明する。第3実施形態に係るX線照射装置1Bは、第2実施形態に係るX線照射装置1Aにおけるビームダクト2の周囲に、偏向磁石7の代わりに交流磁石8が設けられたものである。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0068】
図11は、第3実施形態に係るX線照射装置1Bの要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。図11(A)及び(B)に示すように、第2実施形態のX線照射装置1Bは、ビームダクト2の周囲に、制御装置3に接続された交流磁石8が設けられている。なお、制御装置3は、少なくともCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備えている。
【0069】
図12は、第3実施形態に係るX線照射装置1Bにおける交流磁石8の構成を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は側面概略図である。図12(A)及び(B)に示すように、交流磁石8は、制御装置3の制御に基づいてコイル8bに電流を流すことにより交流磁石8は磁化し、一方の端部がN極、他方の端部がS極の極性を帯びる。
【0070】
本実施形態に係るX線照射装置1Bの交流磁石8は、電子ビームeの出射方向に対して垂直な同一面において、双方の端部がy方向において電子ビームeを挟んで各々対向するように配置される。交流磁石8に電流が流れていない状態では、図12(B)に示す(a)のように、電子ビームeは入射方向に沿ってそのまま直進するが、制御装置3により交流磁石8の一方の端部がN極、他方の端部がS極になるようにコイル8bに電流が流れるように制御されると、図12(B)に示す(b)のように、電子ビームeの進行方向はフレミングの左手の法則に従って曲げられる。
【0071】
また、この状態から、制御装置3により上記一方の端部をN極からS極に、上記他方の端部がS極からN極になるようにコイル8bに流れる電流が変化するように制御させると、図12(B)に示す(c)のように、電子ビームeの進行方向は、フレミングの法則に従って入射方向に対して上記(b)の反対側に曲げられる。このように交流磁石8の極性を変化させることにより、電子ビームeの出射角度をy方向に掃引するように変化させ、電子ビームeのターゲット5における照射位置をy方向に掃引させる。
【0072】
ここで、本実施形態に係るX線照射装置1Bが、X線制御処理を行う際の流れについて説明する。図13は、本実施形態に係るX線照射装置1Bの交流磁石8の制御装置3のCPUにより実行されるX線制御処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは制御装置3に備えられた記録媒体であるROMの所定領域に予め記憶されている。
【0073】
ステップS101において、制御装置3は、コイル8bの一方向に所定の電圧値の電圧を印加する。当該所定の電圧値は、予め定められた電圧値であり、当該電圧値を示す情報が制御装置3のROMに記憶されている。
【0074】
ステップS103において、制御装置3は、コイル8bの他方向に所定の電圧値の電圧を印加する。当該所定の電圧値は、予め定められた電圧値(本実施形態では、ステップS101における所定の電圧値と同一の値)であり、当該電圧値を示す情報が制御装置3のROMに記憶されている。
【0075】
ステップS105において、制御装置3は、電圧制御終了のタイミングが到来したか否かを判定する。本実施形態に係るX線照射装置1Bでは、電圧制御終了のタイミングは、患者に対してX線ビームXを照射する期間として予め定められた期間が予め設定されて制御装置3のROMに記憶されている。なお、電圧制御終了のタイミングは、これに限定されず、例えばユーザの指示入力に基づいて電圧制御終了のタイミングを特定しても良い。
【0076】
このように、本実施形態に係るX線照射装置1Bでは、上記ステップS101乃至S105の処理により、交流磁石8に磁場を発生させるとともに両端部の極性を連続的に切り替えることで、電子ビームeをy方向に掃引させる。
【0077】
図14は、第3実施形態に係るX線照射装置1Bの要部を示す斜視図である。また、図15(A)は、第3実施形態に係るX線照射装置1Bにおける遮蔽体6に入射する直前のX線ビームXの出射方向から見た形状を示す図であり、図15(B)は、第3実施形態に係るX線照射装置1Bにおける遮蔽体6を透過した直後のX線ビームXの出射方向から見た形状を示す図である。
【0078】
図14に示すように、電子ビームeが交流磁石8によりy方向に掃引された状態でターゲット5に衝突し、これによってターゲット5から放射されたX線ビームXは円錐状に拡がるため、図15(A)に示すように、遮蔽体6に入射する直前のX線ビームXの出射方向から見た形状は、円状の形状がy方向に掃引された形状となる。一方、遮蔽体6に入射したX線ビームXは、遮蔽体6により線状に絞られるため、図15(B)に示すように、遮蔽体6に入射した直後のX線ビームXの形状はスリット6aの入口の形状に合致した線状となる。
【0079】
このように、X線ビームXの焦点の径がスリット6aの入口部の長手方向に沿った長さより短くなるように調整された電子ビームeを、ターゲット5に衝突する手前でスリット6aの形状に合わせてy方向に掃引することにより、ターゲット5における電子エネルギーの集中が低減され、ターゲット5の損傷を防止することができる。
【0080】
また、第2実施形態と同様に、X線ビームXの出射方向から見た形状を遮蔽体6のスリット6aの入口部の形状に近づけることにより、遮蔽ユニット6bに遮蔽されて無駄に捨てられるX線ビームXを少なくすることでスリット6aを透過するX線ビームXが増加する結果、より高線量のX線ビームXを腫瘍Cに照射させることができる。さらに、X線ビームXの焦点を小さく(本実施形態では、電子ビームeの径がスリット6aの長手方向に沿った長さより短い)することで、スリット6aを透過するX線ビームXの生成に寄与する電子ビームeの電子量を増加させることにより、単位時間当たりの電子密度を下げても平板ビーム変換効率を落とすことなく、高出力なX線ビームを発生させることができる。
【0081】
ところで、電子ビームeをy方向に掃引した場合、一般的に、電子ビームeの掃引範囲における中心側が両端側に比べて電子密度が高くなる。一方で、コイル8bにサイン波の電圧を加えると、電子ビームeの掃引範囲における両端側の電子密度が高くなる。
【0082】
そこで、本実施形態に係るX線照射装置1Bでは、電子ビームeの出射角度の変化の速度に応じて電荷量が変化するように、コイル8bに三角波の電圧を加えることにより、y電子ビームeの掃引範囲において電子密度が均一になるように電子ビームeの掃引を行う。
【0083】
図16は、第3実施形態に係るX線照射装置1Bにおいて、交流磁石に加える電圧の一例を示すグラフである。図16に示すように、交流磁石8のコイル8bに、通常のサイン波ではなく三角波の電圧が加えられる。これにより、電子密度が均一な電子ビームeが得られる。
【0084】
〔第4実施形態〕
以下、第4実施形態に係るX線照射装置1について添付図面を用いて詳細に説明する。第4実施形態に係るX線照射装置1は、第1実施形態に係るX線照射装置1におけるターゲット5に熱伝導部材9が設けられたものである。なお、第1実施形態乃至第3実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0085】
図17(A)は、第4実施形態に係るX線照射装置1のターゲット5の構成を示す正面図であり、図17(B)は、第4実施形態に係るX線照射装置1のターゲット5の構成を示す拡大側面図である。
【0086】
図17(A)に示すように、ターゲット5における電子ビームeが照射される領域の周囲を囲むように、熱伝導部材9が設けられている。熱伝導部材9は、熱伝導率が高いCu、Ag、AuまたはAl等で形成されている。また、図17(B)に示すように、熱伝導部材9は、例えばターゲット5の端部の一部を挟み込むようにしてターゲット5とともに鋳込まれることにより、ターゲット5と一体的に形成される。また、熱伝導部材9は、外部筐体(本実施形態では、低エミッタンス加速器2bまたはビームダクト2)に熱結合されることにより、ターゲット5に発生した熱を吸収して外部筐体に逃がすことでターゲット5の高熱化を抑制する。
【0087】
このように、第4実施形態に係るX線照射装置1Bは、熱伝導部材9によってターゲット5の高熱化を抑制することにより、ターゲット5の損傷を防止することができる。
【0088】
〔第5実施形態〕
以下、第5実施形態に係るX線照射装置1Cについて添付図面を用いて詳細に説明する。第5実施形態に係るX線照射装置1Cは、第1実施形態に係るX線照射装置1において、単一のスリット6aを有する遮蔽体6の代わりに、複数のスリット6aを有する遮蔽体6Aを設けたものである。なお、第1実施形態乃至第4実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0089】
図18は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cの要部を示す概略図であり、(A)は上面概略図であり、(B)は側面概略図である。図18(A)及び(B)に示すように、ターゲット5により放射されたX線ビームXは、下流にある遮蔽体6Aに入射し、当該遮蔽体6Aに入射したX線ビームXは遮蔽体6の複数のスリット6aによりx方向において絞られ、スリット6aに入射し遮蔽体6を透過した複数の線状のX線ビームXが腫瘍Cに照射される。
【0090】
図19は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cの遮蔽体6Aを示す斜視図である。図19に示すように、遮蔽体6Aは、W等のX線に対する遮蔽能力に優れた重金属で形成された複数(本実施形態では、6つ)の遮蔽ユニット6bで構成されている。遮蔽体6Aでは、当該複数の遮蔽ユニット6bが各々間隙ができるように配置されることにより、複数のスリット6aが形成されている。遮蔽体6に入射したX線ビームXのうちのスリット6aに入射したX線ビームXは、遮蔽体6を透過して遮蔽体6の背部に到達するが、遮蔽体6に入射したX線ビームXのうちの遮蔽ユニット6bに入射したX線ビームXは、当該遮蔽ユニット6bに遮蔽されるため遮蔽体6の背部まで到達しない。
【0091】
本実施形態に係る遮蔽体6は、各々X線ビームXを遮蔽する能力が高い重金属(本実施形態では、W)で形成された2つの略板状の遮蔽ユニット6bが組み合わされて構成されている。
【0092】
図20(A)は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cの要部を示す概略上面図である。図20(A)に示すように、遮蔽体6Aの各々のスリット6aは、スリット面の延長面上にX線ビームXの焦点が位置するように各々異なる位置に設けられることで、遮蔽体6Aは全体として扇状に形成されている。このようにX線ビームの放射方向に合わせてスリット6aが設けられることにより、X線ビームXがコーン状に拡がっていても、平行ビームと同等の板状ビーム変換効率が得られる。
【0093】
また、図19及び図20(A)に示すように、遮蔽体6Aの各々のスリット6aは、X線ビームXの出射方向において、X線ビームXが入射する入口部からX線ビームX出射する出口部に向かってスリット6aの広さが広く(短手方向における長さが長く)なるように形成されている。これにより、スリット6aに入射したX線ビームXの一部がスリット6a内を進むにつれて入射時の直進方向から逸れる場合であっても、当該逸れたX線もスリット6aを透過できる可能性が高くなるため、極力多くのX線についてスリット6aを透過させることができる。
【0094】
なお、本実施形態に係るX線照射装置1Cでは、複数のスリット6aが、各々隣接する遮蔽ユニット6bの平面部6cにより形成される間隙である例を示したが、これに限定されない。
【0095】
特に、X線ビームを放射線がん治療に利用するためには透過性の高い高エネルギーのX線ビームXが必要となり、MRT用の板状ビームを生成するためにタングステンなどの重金属を用いても厚さ10cm程度の遮蔽体が必要となる。その厚みを幅100μm以下で通り抜けるスリットを製作することは非常に難しい。そこで、この問題を解決するために、以下に示すような複数の平板を組み合わせる製作法を用いると良い。
【0096】
図20(B)は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cの要部の別例を示す概略上面図である。図20(B)に示すように、遮蔽体6Aは、平板状の遮蔽ユニット6dと平板状の補助部材6eとを複数組み合わせることで、形成されても良い。補助部材6eは、X線に対する遮蔽効果が低い素材で形成されていて、遮蔽体6Aのうちの補助部材6eが設けられた領域に入射したX線ビームXは、遮蔽されずに遮蔽体6Aの背部に到達する。これにより、より簡易に遮蔽体6Aを製作することができる。
【0097】
図21(A)は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cにおいて、遮蔽体6Aを透過したX線ビームXの位置と相対線量との関係を示すグラフであり、図21(B)は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cにおいて、遮蔽体6Aを透過したX線ビームXの形状を示す図である。
【0098】
図21(A)に示すように、遮蔽体6Aに入射したX線ビームXは、スリット6aに入射したX線ビームXのみが透過するため、x方向においてスリット6aが設けられている複数の位置において鋭いピークを有し、図21(B)に示すように、スリット6aの入口部の形状に略合致した複数の線状のX線ビームXが形成される。
【0099】
図22は、第5実施形態に係るX線照射装置1Cにおいて、遮蔽体6Aを透過したX線ビームXのビームプロファイルの一例を示す図である。一例として図22に示すように、遮蔽体6Aを透過した後の複数の線状のX線ビームXにおいて、各ピークの幅は25μm、各ピーク間のピッチは200μm、X線ビームXにおける最小の線量(遮蔽体6Aにより遮蔽された領域の線量)がピークの線量の1%となる。
【0100】
なお、本実施形態に係るX線照射装置1Cでは、遮蔽体6Aにおける遮蔽ユニット6dが固定されているが、これに限定されず、X線ビームXの線量や最終的に生成したいX線ビームXの形状に応じて各々の遮蔽ユニット6dの位置を調整する調整手段を備えていても良い。これにより、各々のスリット6aの位置、及び各々のスリット6aのX線ビームの入口部の幅等が調整される。
【0101】
また、各スリット6aの延長上にX線ビームXの焦点が位置するように、ターゲット5におけるX線ビームXの焦点の位置、及び、各遮蔽ユニット6bの位置を調整できるようにしても良い。これにより、X線ビームXの焦点の位置、及び各々のスリット6aの位置が調整される。
【0102】
MRTに必要な平板状のX線ビームは、太いX線ビームを遮蔽体のスリットを通すことによって生成される。板状のX線ビームを効率よく生成するためには、スリットのマルチ化が考えられる、通常のX線ビームはコーン状に拡がるが、複数のスリットが各々平行になるように設けられたマルチスリットを用いた場合には、中央側に位置するスリットはX線を透過させるが、両端側に位置するスリットはX線を透過できないため、マルチスリットの利点を有効活用できなかった。
【0103】
本実施形態に係るX線照射装置1では、各スリット6aのX線ビームXの奥行き方向を、X線ビームのコーン状の拡がりに合わせて決定することで、中央側に位置するスリット6aのみならず両端側に位置するスリット6aがX線を透過させるため、マルチスリットの利点を有効活用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1、1A乃至1C…X線照射装置,2…ビームダクト,2a…電子銃,2b…低エミッタンス加速器,3…制御装置,4…電子出射窓,5…ターゲット,6、6A…遮蔽体,6a…スリット,6b、6d…遮蔽ユニット,6c…平面部,6e…補助部材,7…偏向磁石,7a…N磁石,7b…S磁石,8…交流磁石,8b…コイル,9…熱伝導部材,C…腫瘍,e…電子ビーム,X…X線ビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームが照射されると制動X線をX線ビームとして出射する金属ターゲットと、
スリット状のX線透過部を有し、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部を透過し、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームを遮蔽するように、前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側に配置されたX線遮蔽体と、
出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを前記金属ターゲットに照射する電子ビーム発生装置と、
を具備するX線照射装置。
【請求項2】
前記電子ビーム発生装置により出射された前記電子ビームの形状を、前記金属ターゲットに照射される前段階で、前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った方向に長い形状になるように制御する制御手段をさらに具備する
請求項1記載のX線照射装置。
【請求項3】
前記電子ビーム発生装置から出射される前記電子ビームを、前記金属ターゲットへの照射位置が、前記X線透過部の入口部の長手方向に対応する方向に移動するように制御する制御手段をさらに具備する
請求項1記載のX線照射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電子ビーム発生装置から出射される前記電子ビームの出射角度を変化させることにより、前記電子ビームの前記金属ターゲットへの照射位置が移動するように制御する
請求項3記載のX線照射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記電子ビームの出射角度を変化させる際、当該変化の速度に応じて電荷量が変化するように前記電子ビームを制御する
請求項4記載のX線照射装置。
【請求項6】
前記金属ターゲットを、前記電子ビームが照射された場合に前記電子ビームにより前記金属ターゲットが損傷しない最小限の厚さとなるように形成した
請求項1乃至5の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項7】
前記電子ビーム発生装置の筐体または外部筐体に熱結合され、前記金属ターゲットの少なくとも一部に接するように設けられた熱伝導部材をさらに具備する
請求項1乃至6の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項8】
前記熱伝導部材は、前記金属ターゲットにおいて前記X線ビームが照射される領域を囲むように設けられた
請求項7記載のX線照射装置。
【請求項9】
前記X線透過部は、入口部の幅が20μm以上1mm以下である
請求項1乃至8の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項10】
前記電子ビームの線量は、前記X線透過部を透過した前記X線ビームの線量が1Gy以上1000Gy以下となるとともに、前記X線遮蔽体の前記X線透過部以外の領域で遮蔽されずに透過した前記X線ビームの線量が前記X線透過部を透過した前記X線ビームの線量の1/1000以上1/10以下となるように決定される
請求項1乃至9の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項11】
前記金属ターゲットから出射されるX線ビームはコーン状に拡がるX線ビームであり、
前記X線遮蔽体は、前記X線透過部の奥行き方向の延長上に前記X線ビームの発生点が位置するように各々異なる位置に前記X線透過部が複数設けられている
請求項1乃至10の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項12】
前記X線遮蔽体は、複数の平板状の遮蔽部材が組み合わされて形成される
請求項11記載のX線照射装置。
【請求項13】
前記複数の前記X線透過部の各々を、各々前記X線ビームが入射する入口部から出射される出口部に向かって徐々に広くなるように形成した
請求項11または12記載のX線照射装置。
【請求項14】
前記複数の前記X線透過部の入口部の幅を調整する第1の調整手段をさらに備えた
請求項11乃至13の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項15】
前記X線ビームの発生点及び前記X線遮蔽体の前記複数の前記X線透過部の相互の位置関係を調整する第2の調整手段をさらに備えた
請求項11乃至14の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項16】
隣り合う遮蔽部材の対応する面との間に前記X線透過部を形成する面を各々備えた複数の遮蔽部材を、形成されたX線透過部の各々の奥行き方向の延長上に前記X線ビームの発生点が位置するように配列して前記X線遮蔽体を構成した
請求項11乃至15の何れか1項記載のX線照射装置。
【請求項17】
電子ビームが照射されると制動X線をX線ビームとして出射する金属ターゲットと、前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側において前記X線ビームが入射する際のビーム径より入口部の幅が小さいスリット状のX線透過部を有し、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部を透過し、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームを遮蔽するX線遮蔽体と、前記電子ビームを前記金属ターゲットに照射する際、出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを前記ターゲットに照射する電子ビーム発生装置とを具備するX線照射装置におけるX線照射方法であって、
前記電子ビーム発生装置により出射された電子ビームの形状を、前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った方向に長い形状になるように制御する制御ステップと、
前記制御ステップにて形状が制御された前記電子ビームを、前記金属ターゲットに照射することで前記X線ビームを出射させる出射ステップと、
前記出射ステップにて出射されたX線ビームを、前記X線透過部を透過させる透過ステップと、
を備えたX線照射方法。
【請求項18】
電子ビームが照射されると制動X線をX線ビームとして出射する金属ターゲットと、前記金属ターゲットの前記X線ビームの出射方向下流側において前記X線ビームが入射する際のビーム径より入口部の幅が小さいスリット状のX線透過部を有し、前記X線ビームの一部分が前記X線透過部を透過し、前記X線透過部以外の領域に入射したX線ビームを遮蔽するX線遮蔽体と、前記電子ビームを前記金属ターゲットに照射する際、出射される前記X線ビームの発生点の径が前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った長さより短い電子ビームを前記ターゲットに照射する電子ビーム発生装置とを具備するX線照射装置におけるX線照射方法であって、
前記電子ビーム発生装置により出射された前記電子ビームを、前記金属ターゲットへの照射位置が、前記X線透過部の入口部の長手方向に沿った方向に移動するように制御する制御ステップと、
前記制御ステップにて制御された前記電子ビームを、前記金属ターゲットに照射することで前記X線ビームを出射する出射ステップと、
前記出射ステップにて出射されたX線ビームを、前記X線透過部を透過させる透過ステップと、
を備えたX線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−98090(P2013−98090A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241520(P2011−241520)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】