説明

X線異物検出装置

【課題】被検査物の重なり等により、被検査物の透過X線データ濃度が異物の透過X線データ濃度のほぼ同一になったとしても、確実に異物を検出するX線異物検出装置を提供する。
【解決手段】被検査物Pを透過した複数の異なるネルギー帯の透過量を検出するX線検出手段10によって得られる検出信号を異なるネルギー帯毎の透過画像として記憶する透過画像記憶手段21と、透過画像記憶手段21に記憶された複数の異なるエネルギー帯の透過画像から独立成分として異物画像を含む複数の分離画像を分離抽出する独立成分分析手段24を有する画像処理手段23を備え、独立成分分析手段24によって分離抽出された異物画像に基づいて被検査物Pの中に異物が含まれているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、生肉、魚、加工食品、医薬などの物品を対象とした被検査物の中に混入された異物を検出するX線異物検出装置に関し、特に、被検査物を透過した複数の異なるエネルギー帯のX線の透過データに基づいて異物を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば食品などの物品を検査対象とした被検査物に混入されている異物(金属、ガラス、殻、骨など)を検出するために、X線異物検出装置が用いられている。このような、従来のX線異物検出装置は、搬送される被検査物にX線を照射し、X線の照射に伴って被検査物を透過してくるX線をX線検出器によって検出し、このX線検出器が検出する透過X線データによって被検査物中に含まれる異物を検出するものである。
【0003】
この種の異物検出装置は、一般にX線を照射するX線源とX線検出器がそれぞれ単一で対をなして構成され、X線検出器が検出する透過X線データをデジタル化して画像データとして扱い、この画像データを基に異物を強調するためフィルタ等の種々の画像処理を施して異物を検出する異物検出装置がある。(例えば特許文献1参照)
【0004】
しかし、X線源とX線検出器がそれぞれ単一で対をなして構成されているため、X線の線質を1つに設定しなければならず、異なる種類の異物(例えば被検査物の物性に近い異物[骨、殻]と他の異物[金属])を同時に検出しようとした場合には、一方の異物を強調するようにX線の線質を設定すると、他方の異物が検出できないという問題がある。その問題を解決するために複数の線質のX線を検出し、線質ごとに検出される被検査物を透過した透過X線データに基づいて異物を検出する異物検出装置がある(例えば、特許文献2参照)
【0005】
また、異なるX線エネルギー(線質)を用いたX線異物検出装置には、他の異物が含まれる被検査物から異物のない被検査物を差し引いて被検査物の影響を軽減させて異物抽出するために、異なる2つのX線エネルギー(線質)よる同一被検査物の透過X線データを用いて被検査物の基準物質の厚さに変換し、厚さに変換された2つの変換データの差分を取ることにより異物を検出する異物検出装置もある。(特許文献3参照)
【0006】
【特許文献1】特開2001−307069号公報
【特許文献2】特開2002−168803号公報
【特許文献3】特開平10−318943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、被検査物が袋詰めされたウィンナーのように包装体に内容物が収容された被検査物では内容物が重なり合うことがあり、その内容物の重なり部分の透過X線データの濃度と異物の透過X線データの濃度がほぼ同一となることがある。このような場合、X線源とX線検出器がそれぞれ単一で対をなす構成において画像処理を施して異物を検出する異物検出装置、または複数の線質ごとに検出される透過X線データに基づいて異物を検出する異物検出装置では、被検査物とほぼ同一の透過X線データ濃度の異物を区別することができないことがある。
【0008】
また、異なる2つのX線エネルギー(線質)よる同一被検査物の透過X線データを用いて被検査物の基準物質の厚さに変換し、被検査物の厚さに変換された2つの変換データの差分を取ることにより異物を検出する異物検出装置であっても、被検査物の物性が一様でなくばらつく場合には変換される厚さにばらつきが生じてしまい、被検査物とほぼ同一の透過X線データ濃度の異物を区別することができないという課題が残っていた。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、被検査物の内容物の重なりなどによって被検査物の透過X線データ濃度が異物の透過X線データ濃度のほぼ同一となったとしても、内容物の重なりによる影響を受けずに確実に異物を検出するX線異物検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、物品に異物が含まれた被検査物に対してX線を照射して得られる被検査物のX線透過画像が、物品のX線透過画像と異物のX線透過画像の合成画像と同等であり、物品のX線透過画像と異物のX線透過画像のそれぞれが互いに統計的に独立した成分であることに着目し、独立成分分析を用いることによって被検査物のX線透過画像から異物のX線透過画像を導き出すことできると考え、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明のX線異物検出装置は、(1)搬送される被検査物にX線を照射し、前記被検査物を透過した複数の異なるエネルギー帯のX線の透過量を検出する検出手段10と、前記検出手段が出力する前記複数の異なるエネルギー帯毎の検出信号に基づいて前記被検査物中に異物が含まれているか否かを判定する判定手段22とを備えたX線異物検出装置1において、前記検出手段が出力する検出信号に基づく前記被検査物の前記複数の異なるエネルギー帯毎の透過画像を記憶する透過画像記憶手段21と、前記透過画像記憶手段に記憶された複数の異なるエネルギー帯の透過画像から独立成分として異物画像を含む複数の分離画像を分離抽出する独立成分分析手段24を有する画像処理手段23とを備え、前記判定手段は、前記独立成分分析手段によって分離抽出された異物画像に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かを判定することを特徴とする。
【0012】
この構成により、異なるエネルギー帯毎の透過画像から独立成分として分離抽出された複数の分離画像の内の異物画像に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かを判定するため、内容物が重なりによる影響や被検査物の濃度のばらつきによる影響を受けずに確実に異物を検出することができる。
【0013】
また、(1)に記載のX線異物検出装置においては、(2)前記画像処理手段は、独立成分分析手段によって分離抽出された異物画像に含まれ異物を強調するためのフィルタ処理手段25を有する構成としてもよい。
【0014】
この場合、独立成分分析手段によって分離抽出された異物画像にノイズが存在してもフィルタ処理手段によりノイズが除去された異物が強調された異物画像となるため、より確実に異物を抽出することができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0015】
また、(1)または(2)に記載のX線異物検出装置においては、(3)前記画像処理手段は、前記複数の分離画像の濃度分布に基づいて前記複数の分離画像の中から異物画像を識別する異物画像識別手段26を有する構成としてもよい。
【0016】
この場合、独立成分分析手段よって分離抽出された複数の分離画像について、各分離画像の濃度分布に基づいて異物画像を識別するので、分離画像の中から自動的に異物画像を識別することができ、効率よく異物検査を行うことができる。
【0017】
また、(3)に記載のX線異物検出装置においては、(4)前記異物画像識別手段は、前記透過画像記憶手段に記憶された透過画像に対する各分離画像のKullback−Leiblerダイバージェンスの値に基づいて異物画像を識別するようにしてもよい。
【0018】
この場合、独立成分分析手段よって分離抽出された複数の分離画像について、分離抽出される前の1つの透過画像に対するKullback−Leiblerダイバージェンスの値を用いた異物画像識別を行う。異物画像のヒストグラム分布と、分離抽出される前の透過画像のヒストグラム分布は大きく違っているので、分布間距離測定を行うことによって、複数の分離画像の中から確実に異物画像を識別することができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0019】
また、(1)〜(4)に記載のX線異物検出装置においては、(5)前記画像処理手段は、前記透過画像記憶手段に記憶された複数の異なるエネルギー帯の透過画像に含まれるノイズを除去した後に、前記独立成分分析手段によって独立成分として異物画像を含む複数の分離画像を分離抽出するためのエッジ保存平滑フィルタ手段27を有する構成としてもよい。
【0020】
この場合、複数の異なるエネルギー帯の透過画像に対し、急峻な濃度変動部分(エッジ)を保持しながら細かい変動のノイズを平滑化するエッジ保存平滑フィルタ手段よって細かい変動のノイズを予め除去した後に、独立成分分析手段によってノイズとは別成分の異物画像を確実に分離抽出するため、安定して異物画像の分離ができる。

【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、異なるエネルギー帯毎の透過画像から独立成分として分離抽出された異物画像に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かを判定するため、内容物が重なりによる影響や被検査物の濃度のばらつきによる影響を受けずに確実に異物を検出することができる。
【0022】
請求項2の発明によれば、さらに、分離抽出された異物画像が、フィルタ処理手段によりノイズの除去された異物が強調された異物画像となるため、より確実に異物を抽出することができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、さらに、分離抽出された複数の分離画像の濃度分布に基づいて異物画像を識別するので、複数の分離画像の中から自動的に異物画像を識別することができ、効率よく異物検査を行うことができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、さらに、異物画像を識別するために、分離抽出された複数の分離画像について、分離抽出される前の1つの透過画像に対するKullback−Leiblerダイバージェンスの値を用いた異物画像識別を行う。異物画像のヒストグラム分布と、分離抽出される前の透過画像のヒストグラム分布は大きく違っているので、分布間距離測定を行うことによって、複数の分離画像の中から異物画像を確実に識別することができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、さらに、複数の異なるエネルギー帯の透過画像に対し、急峻な濃度変動部分(エッジ)を保持しながら細かい変動のノイズを平滑化するエッジ保存平滑フィルタ手段よって細かい変動のノイズを予め除去した後に、独立成分分析手段によってノイズとは別成分の異物画像を確実に分離抽出するため、安定して異物画像の分離ができ、安定した異物検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
1.第1実施形態(図1〜図7)図1は、本発明の実施の形態を示す図である。まず、その構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態のX線異物検出装置は、例えば袋状の包装材や所定形状の包装容器中に複数個の内容物を収納した被検査物Pを検査する装置で、被検査物Pを透過したX線を検出する検出手段10(X線検出手段)と、被検査物Pを所定方向に搬送する搬送手段11とを備えている。
【0029】
検出手段10は、被検査物Pに向けてX線を照射するX線源13と、照射されたX線のうち被検査物Pを透過したX線を検出するX線検出部14とを含んで構成されている。
【0030】
X線源13は、例えば陰極フィラメントからの熱電子をその陰極と陽極の間の高電圧により陽極ターゲットに衝突させてX線を発生させるX線管を有しており、発生したX線を下方のX線検出部14に向けて搬送手段11の搬送方向と直交する方向(以下、幅員方向という)に広がる略円錐状に照射するようになっている。
【0031】
X線検出部14は、複数(本実施の形態では二つ)のX線センサ14a,14bを備えている。各X線センサ14a,14bは、ライン状に形成され、X線異物検出装置の本体をなす筐体5の下部にて、上記X線発生部13から略円錐状に照射されたX線を受ける範囲内で併設されている。
【0032】
各X線センサ14a,14bは、図示しないが、ライン状に配列された複数のフォトダイオードと、フォトダイオード上に設けられたシンチレータとを備えたアレイ状のラインセンサが用いられる。この種の構成では、搬送された被検査物Pに対してX線が照射された時、被検査物Pを透過してくるX線をシンチレータで受けて光に変換する。シンチレータで変換された光は、フォトダイオードによって受光される。各フォトダイオードは、受光した光を電気信号に変換して透過X線データを出力する。このX線センサ14a,14bによるそれぞれの電気信号は、制御部20に入力される。
【0033】
図1に示すように、X線センサ14a側には、X線のX線エネルギー(線質)を異ならせる線質可変体15が設けられている。この線質可変体15は、例えば、アルミニウムなどの金属や、カーボンや樹脂材が薄板状に形成されたフィルタをなしている。そして、線質可変体15は、X線センサ14aのX線を受けるべき部位であって、例えば上記シンチレータ上面、あるいは不図示のスリットを覆うように配される。線質可変体15は、X線センサ14aで受けるX線の透過量を減衰させる。これにより、X線センサ14aで受けるX線と、X線センサ14bで受けるX線のX線エネルギー(線質)を異ならせることとなる。なお、本実施の形態では、線質可変体15は、X線センサ14a側にのみ設けられているが、各X線センサ2a,2bにて受けるX線の線質が異なる別の種類の線質可変体15を各X線センサ14a,14bそれぞれに設けてもよい。
【0034】
搬送手段11は、X線源13からX線検出部14(X線センサ14a,14b)に向けて照射されたX線に被検査物Pを通過させるものである。図1に示すように、搬送方向の前後に配置されたローラに巻回された無端状の搬送ベルトで被検査物Pを搬送するようになっており、詳細を図示しない搬送駆動機構により同期してローラが回転駆動し、予め設定された一定の搬送速度で被検査物Pが搬送されるようになっている。
【0035】
制御部20は、詳細なハードウェア構成を図示しないが、例えばCPU、ROM、RAMおよびI/Oインターフェースを有するマイクロコンピュータと、フラッシュメモリ等の補助記憶装置、各機能部のドライバ回路等を含んで構成されており、ROM等に予め格納された制御プログラムに従って、CPUがRAMとの間でデータを授受しながら所定の演算処理を実行することで、X線検出部14からの検出信号を基にX線透過画像を作成して被検査物P中の異物の有無を判定するようになっている。
【0036】
この制御部20は、機能的には、図1に示すように、X線検出部14から出力される検出信号に基づく被検査物Pの異なるエネルギー帯毎の透過画像を記憶する透過画像記憶手段21と、透過画像記憶手段21に記憶された透過画像に基づいて画像処理を実施する画像処理手段23と、画像処理手段23によって処理された結果画像に基づき公知の所定の判定処理プログラムを実行して被検査物P中の異物の有無を判定する判定手段22とを含んで構成されており、判定手段22の判定結果に対応する検査結果情報を表示器30へ出力するようになっている。表示器30は、例えばフラットパネルディスプレイで構成された表示手段である。
【0037】
透過画像記憶手段21は、X線検出部14から出力される検出信号から、複数(本実施の形態では二つ)の異なるエネルギー帯毎の透過X線データを取得し、各透過X線データから得られる透過画像が重なるように各透過X線データをスケーリングし、グレースケールにデジタル化された透過画像(X線透過画像)を記憶するようになっている。
【0038】
ここで、透過画像記憶手段21に記憶されるX線透過画像は、被検査物Pを透過してX線検出部が検出するX線透過量または被検査物Pが吸収するX線吸収量である。
X線の照射量I、X線の透過量をIとすると、
T=(lnI― lnI )
として求められるTをX線透過画像として扱い、ここでは、TをX線吸収量とよぶ。また、X線の照射量Iは被検査物PのX線吸収量TがゼロであるときのX線の透過量であり、搬送ベルト上に被検査物Pが無い状態で検出したX線の透過量をX線の照射量Iとして求めることができる。
【0039】
画像処理手段23は、透過画像記憶手段21に記憶された複数のX線透過画像を異物画像と異物を含まない被検査物の画像をそれぞれ重み付けして合成された観測画像とみなして独立成分分析を行い、特定の異物を含まない被検査物の画像(以後、分離物品画像とよぶ)と特定の異物のみからなる画像の異物画像(分離異物画像)に分離抽出する独立成分分析手段24と、分離抽出された複数の分離画像の中から異物画像を識別する異物画像識別手段26と、分離抽出された異物画像に対しさらに異物を強調するフィルタ処理手段25と、から構成され、異物のみの画像を生成するようになっている。
なお、独立成分分析手段24の詳細については後述する。
【0040】
フィルタ処理手段25は、独立成分分析手段24によって分離抽出された異物画像に対し、必要に応じて判定手段22で判定がより確実になるように異物を強調する。例えば、平滑化フィルタなどのフィルタ処理を行うようになっている。
なお、フィルタ処理手段25は判定がより確実になるようにするためのものであり、フィルタ処理手段25が無い構成としても別段問題はない。
【0041】
判定手段22は、画像処理手段23によって得られるグレースケールの分離抽出された異物画像を基に、その異物画像の濃度の最大値が予め設定された閾値を超える場合に異物が有ると判定するようになっている。
【0042】
以上、本実施形態のX線異物検出装置の構成について説明したが、線質可変体を設けず、X線検出器と対となるようにX線のX線エネルギーを異ならせた複数のX線源を設ける構成としてもよい。
【0043】
次に、独立成分分析手段24で用いられる独立成分分析について説明する。
図2に、独立成分分析の概念についての説明図を示す。
【0044】
独立成分分析とは、互いに独立なN種類の情報源から発生した信号が線形に重ね合わされたN種類の観測情報を得たとき、それら観測情報から元の独立な情報を分離抽出する手法であり、N種類の情報源が互いに独立し、情報源のうち2つ以上が正規分布に従わない場合に、観測情報から元の独立な情報を推定することが可能である手法である。
【0045】
ここで、N=2としてX線異物検査装置に対応させて考えてみると、図2に示すように、N種類の情報源は、1つの異物画像S1と1つの異物を含まない被検査物S2の画像であり、それらが重み付けをされて重ね合わされた1つの観測情報を生み出す。そして、この観測情報は、異物を含む被検査物にX線を照射して得られるX線透過画像として得ることができる。そしてさらに、異なるエネルギー帯のX線透過画像を得ることによりN種類の観測情報を得ることができる。すなわち、異なるエネルギー帯のX線透過画像を得ることは、1つの異物画像S1と1つの異物を含まない被検査物の画像S2に対し重み付けを変えて重ね合わされた複数の観測情報を得るのと同等である。
なお、情報源が画像なので、以後、情報源の画像を原画像S、観測情報を観測画像X、観測画像Xから分離抽出された画像を分離画像Yと呼ぶことにする。
ただし、原画像S、観測画像X、分離画像Yは、

とする。
【0046】
観測画像Xと分離画像Yの関係を考えてみると、図2のように観測画像Xと原画像Sの関係は行列Aを用いてX=ASと表現することができる。したがって分離画像Yを求めるには、Aの逆変換A-1を用いれば観測画像から原画像Sと同等の分離画像Yが得られるはずである。しかし行列Aは未知であるため、Y=WXのような適当な行列Wを用いて観測画像Xを変換し、原画像Sに近づくように行列Wを修正しながら分離画像Yを求める。ここで、原画像Sは互いに独立し正規分布に従わない場合を想定しているので、分離画像Yの各画像が互いに独立になるように行列Wを逐次的に修正していく。このように分離画像Yの各画像が互いに独立になるように行列Wを逐次的に修正していく処理が独立成分分析と呼ばれ、修正していく行列Wが分離行列Wと呼ばれており、分離行列Wは、

となる。また、分離行列Wを更新して分離画像Yを独立にしていくことをここでは学習と呼ぶことにする。
【0047】
独立成分分析を行う方法についてはいろいろ研究されているが、本実施の形態の独立成分分析では、分離画像Yの各画像が互いに独立になるまでの収束が速いFastICA(Fast Independent Component Analysis : 高速独立成分分析)処理を行っている。このFastICA処理は、前処理として白色化を実行し、白色化された画像に対し、不動点法を用いたFPICA(Fixed-Point
ICA)処理を行っている。
【0048】
FastICA処理のアルゴリズムは、統計学の中心極限定理により、「一般に、いくつかの互いに独立な情報源から発生した信号を線形に重ねるとその分布はガウス分布に近づく」という事実を逆に考えて、独立成分分析に用いている。つまり、観測画像Xから非ガウス性が最大になるような分離画像Yを求めれば、それらは、情報源であろうと考えるのである(ただし、Yはガウス分布に従わないという仮定は必要である)。そこで、Y=WXの非ガウス性を最大化することを考える。もし、ベクトル[
w1 w2]が図2に示すような係数a1、a2、a3、a4からなる2×2の行列の逆行列A−1 のある一行に等しければ、

となり、S1またはS2のどちらかを求めることができる。
【0049】
ここで、はじめに、ベクトル[ w1 w2]の各成分の値は、アルゴリズム上では、ランダムな値で初期化を行う。そして、独立性の指標となる非ガウス性を用いて、ベクトル[w1
w2]を更新し、分離行列W の各行を求めていくのである。
この非ガウス性であるが、ガウス性とは、その分布がどれだけガウス分布に近いかを表し、「ガウス性= その分布とガウス分布の近さ」であり、「非ガウス性=
その分布とガウス分布の遠さ」を表していると考える。そして、非ガウス性を測る基準としては尖度やネゲントロピーなどがある。
【0050】
ここで、尖度(kurtosis)は、kurt(y)と表し、信号を確率変数y、標準偏差をσ とすると、例えば式(1)のようになる。

kurt(y):= (E(y)/σ)−3 (1)

ただし、yは平均値0の確率変数とし、E(式)は、式の期待値を表すものとする。
尖度は、信号の分布がどれだけ尖っているかを表し、ガウス分布であれば尖度は0 になる。そして、尖度が正であればガウス分布より尖っていて(supergaussian) 、尖度が負であればガウス分布より平坦である(subggaussian)。
【0051】
また、ネゲントロピー(negentoropy)とは、ある確率変数yの確率密度関数がガウス分布のときに、分散が等しい確率密度関数の中で、最大のエントロピーを持つことを利用した、式(2)のように表される統計量であり、ガウス分布のときには0となり、それ以外では正となる。

J(x)= H(ygauss)− H(y) (2)

ただし、 H(y) = -∫p(y)log p(y)dy
H(y)は確率密度関数p(y)を持つ連続的な確率変数yのエントロピーである。
gaussは yと等しい分散共分散行列を持ったガウス分布に従う確率変数である。

【0052】
このような非ガウス性を測る基準を用いて、非ガウス性が最大となるように分離行列W
の各行を求めていく分析法がFastICAのアルゴリズムであり、例えば、ネゲントロピーを評価基準とした、式(3)のような更新則によって、独立成分を求めていく。
【0053】
Wu←orthog(W+D・(L−p’(y)y)・W) (3)

ここで、m種類の観測情報を得て、nをサンプリング数とすると、更新前の分離行列Wはm×mの行列になり、更新された分離行列Wuはm×mの行列になる。
A・Bは行列Aと行列Bの積を示している。
(i=1,・・・m)は要素がn個の列ベクトルを示し、
またyは以下のようなm×nの行列になっている。
y= (y,・・・・・・・・・・,y
式(3)のyは上述したyの転置を示す。
式(3)のp’(y)は
p’(y)=(q’(y),・・・・・・・・・,q’(y))
でm×nの行列であり、
q’(y)は関数q(y)の微分を表し、n個の列ベクトルである。
また、
q”(y)は関数q’(y)の微分を表し、n個の列ベクトルである。
関数q’(y)としては
q’(y)=tanh(a) 但し1≦ a ≦ 2の定数
q’(y)=ya2
但し a2 = (−y/2)
q’(y)=y
がよく使用される。
式(3)のDは(E[ q”(y)]−λ−1 (i=1,・・・・,m)で表され、m種類の観測情報ごとの上記式の値を対角要素に持つm×mの対角行列であり、
E[式]は式の平均値を表すものである。
ここで
λi=E[y*q’(y)](i=1,・・・・,m)
であり、C*DはベクトルCとベクトルDの要素ごとの積を示す。
式(3)のLはλi (i=1,・・・・,m)で表され、
m種類の観測情報ごとの上記式の値を対角要素に持つm×mの対角行列である。
式(3)のorthog(式)は式の直交行列を表す。
【0054】
本実施の形態の独立成分分析であるFastICA処理は、分離画像Yの各画像が互いに独立になるまでの収束が速いFPICA処理を行う前に、さらに、その探索範囲を大きく限定させ、学習時間の高速化を図るために前処理を行っている。独立成分分析の前処理として主成分分析があり、確率変数xの分散共分散行列 C=E[(x−m)(x−m]を対角化する変換y=Pxを求める手法である。上記のmはxの平均値であるが、x←x-E[x]のような中心化が行われ、C=E[xx]と簡略化される。
【0055】
ここでxの分散共分散行列を対角化する行列Pは、xの分散共分散行列のすべての固有ベクトルを行ベクトルに持つ行列となり、yの分散共分散行列E[yy]は、E[xx]の固有値を対角要素に持つ対角行列Λとなり。例えば式(4)のような変換を行うと、E[x’x’]は単位行列となる。
x’ = PΛ−1/2Px (4)
このように、変換後の分散共分散行列が単位行列になるように観測画像Xを変換することを白色化と呼んでいる。
【0056】
次に、観測画像Xを白色化してFPICA処理を行うFastICA処理について独立成分分析の処理として説明する。
図3は、独立成分分析処理の概略の流れを示すフローチャートである。
同図のフローの開始に先立って、異なる複数の観測画像X(x1、x2)が、m(画像数)×n(画素数)の行列として設定されているものとする。例えば、その行列は、画像総数が2枚、画像サイズが800[H]×500[V])の画像の場合、x=[2×400000]の行列のように設定されている。
【0057】
同図において、まず、行列データの各行ごとにxの平均値が0となるように各データの中心化が行われ、中心化されたxの分散共分散行列データから、固有値からなる対角行列Λと、対応する固有ベクトルからなる行列Vが求められる。そして、各行列Λ,Vから式(4)を用いて、x’= VΛ−1/2Vxを演算し、白色化を行う。(ステップS101)。
【0058】
次いで、分離行列Wを2×2の単位行列に設定し分離行列Wを初期化し(ステップS102)、白色化された観測画像x’に対し分離行列Wを用いて行列演算して分離画像Y=W・x’を生成する(ステップS103)。
【0059】
次いで、分離画像Yが互いに独立性が収束しているかを分離画像間のクロスキュムラントを用いて評価を行い、独立性が収束している場合には独立成分分析処理を終了する。(ステップS104)。評価式は、例えば、分離画像Yの要素をそれぞれ y, yとすると、
cc= (c[y]+c[y]
)+(c[y21]+c[y21]

の式から算出して、限りなく0に近い値なった場合(例えば、0.00001未満の場合)に、互いに独立しており、独立性が収束していると判断する。
【0060】
次いで、独立性が収束していないと判断されると(ステップS104:NO)、独立成分分析の式(3)を用いて直交化前の更新行列Wuを作成する(ステップS105)。
更新行列Wuは 関数q(y)を y とおくと、
q’(y)= 4y 、q”(y)= 12y となり、
Wu = W+D・(L−B/n)・W とすることができる。
ただし、q’、q’’、yはここでは1×400000の行ベクトルである。( i = 1、2 )
また、B、L、Dは、2×2の行列であり、それぞれ

となる。
【0061】
次いで、更新行列Wuに対しQR分解(直交三角分解)を行って直交成分Qを求め(ステップS106)、直交成分Qを分離行列Wとして分離行列Wを更新する(ステップS107)。
【0062】
そして、分離行列Wを更新する回数(学習回数)が所定の回数(例えば10回)に達したか否か判断し、学習回数が所定の回数に達していない場合には、ステップS103に戻ってステップS107で更新された分離行列Wに基づいて分離画像Yを再び生成し、学習回数が所定の回数に達している場合には、独立成分分析処理を終了する。(ステップS108)。
【0063】
なお、独立成分分析処理において、観測画像Xに対し白色化を行ってから分離行列Wを推定するフローとしているが、白色化を行わなくても図4の(b)のように独立性が収束していくので、白色化を行わずにFPICA処理を実行するようにしてもよい。
【0064】
図4は、2つの観測画像Xに対しFPICA処理を実行したときの分離画像Yの独立性が収束するシミュレーションを示す。なお、図4の縦軸は独立性を見るための指標となるクロスキュムラントを表し、横軸は分離行列Wの学習回数を表している。
【0065】
図4の(a)は、前処理として白色化を用いない場合のシミュレーション結果であり、図4の(b)は、前処理として白色化を用いた場合のシミュレーション結果である。
前処理として白色化を用いない場合の収束するまでの回数、すなわちほぼ0になるまで(例えば、0.00001になるまで)の回数が5回に対し、前処理として白色化を用いた場合には2〜3回で収束していることが判る。
【0066】
次に、本実施形態のX線異物検出装置において、独立成分分析を用いた異物検出動作について説明する。図5は、本実施形態にX線異物検出装置の制御部20における独立成分分析を用いた異物検出処理の概略の流れを示すフローチャートである。
【0067】
まず、X線検出部14から出力される検出信号に基づく被検査物Pの低エネルギー帯および高エネルギー帯の透過画像が記憶された透過画像記憶手段21から、エネルギー帯毎の二つ透過画像を観測画像X(例えば、画像複数画像が2×400000(画素数)の行列)として設定する(ステップS201)。
【0068】
次いで、設定された二つの観測画像Xに対し上述した図3に示す処理の流れに沿って独立成分分析が実行される。(ステップS202)。
【0069】
次いで、独立成分分析によって二つに分離抽出された分離画像Yから各画像の濃度ヒストグラムに基づいて分離物品画像が認識され、分離画像Yの内で分離物品画像と認識されなかった画像が分離抽出された異物画像として識別される。(ステップS203)。
【0070】
分離画像Yから分離物品画像を認識する方法は、観測画像Xの濃度ヒストグラム分布状態と分離画像Yの各画像における濃度ヒストグラムの分布状態とを比較し、分布状態の違いが一番小さいものを分離物品画像と認識する。そしてその基準は、例えば、Kullback-Leiblerダイバージェンスを尺度として判断することができる。なお、Kullback-Leiblerダイバージェンスを用いた異物画像の識別方法は後述する。
【0071】
また、分離画像Yから物品分離画像を認識する方法は、上記方法に限らず、物品のみの画像に比べ異物のみの画像の方がその濃度が一様に近くなることから分散量の違いを基準とし、或いは、被検査物の大きさに対応したヒストグラムの形状等を基準として認識するようにしても良い。
【0072】
次いで、識別された異物画像に対し、ノイズを低減し異物が強調されるような画像フィルタを実行し、異物強調画像が生成される。(ステップS204)。
このノイズを低減し異物が強調されるような画像フィルタは、例えば異物画像を平滑化処理することによって細かいノイズ成分を除去し、異物画像の背景に対し異物が強調されるようになる。なお、異物が強調されるような画像フィルタは、収縮・膨張によって細かいノイズ成分を除去した後にラプラシアン等の異物エッジを強調するようなフィルタであってもよく、また、平滑化処理した後にエッジを強調するようなフィルタ処理としてもよい。
【0073】
そして、画像フィルタによって異物が強調された異物強調画像に対し、予め設定された閾値と比較し、異物の有無が判定される(ステップS205)。
異物の有無が判定は、異物強調画像の中に閾値を超える部分があった場合に異物有と判定される。なお、独立成分分析手段24によって分離抽出された異物画像の異物と背景のコントラストが充分ある場合には画像フィルタを行わず、分離抽出された異物画像に対し、予め設定された閾値と比較し、異物の有無が判定されるようにしても良い。
【0074】
このように、独立成分分析を用いた異物検出動作は、エネルギーの異なる複数の画像を独立成分分析によって得られる分離画像Yから異物画像を識別し、異物が強調されるようなフィルタ処理を行ってから異物の判定を行うようになっている。
【0075】
次に、本実施形態のX線異物検出装置において、Kullback-Leiblerダイバージェンスを用いた異物画像の識別処理について説明する。図6は、
Kullback-Leiblerダイバージェンス(以下、KL情報量)を用いて異物画像を識別処理する概略の流れを示すフローチャートである。
【0076】
まず、二つの観測画像Xのうち、低エネルギー帯の透過画像の濃度ヒストグラムを作成し、度数合計値が1となるように正規化を行う。そして、正規化された濃度ヒストグラムを確率密度分布f(x)として取得する(ステップS301)。
【0077】
次いで、独立成分分析手段24によって分離抽出された複数の分離画像Yについて、1つの画像(以下、分離画像1)の濃度の最小値と最大値が0〜最大階調(例えば255階調)となるように正規化し、正規化された濃度ヒストグラムを確率密度分布g1(x)として取得する(ステップS302)。ここで、正規化を行うのは、分離抽出された分離画像Yでは、濃度の大きさに任意性があるので、観測画像Xの濃度分布に近い濃度ヒストグラムが得られないからである。
【0078】
次いで、分離画像1の白黒反転(濃度の階調反転)を行った画像(以下、反転分離画像1のヒストグラムを確率密度分布g1inv(x)として取得する(ステップS303)。ここで、反転画像を用いるのは、独立成分分析手段24によって得られる分離行列Wは、0°方向と180°方向は同一のものとして処理されるので、分離抽出された分離画像Yの濃度の大きさの方向に任意性が生じるからである。
【0079】
次いで、分離抽出された複数の分離画像Yについて、他の画像(以下、分離画像2)をステップS302と同様に正規化し、正規化されたヒストグラムを確率密度分布g2(x)として取得し(ステップS304)、分離画像2の白黒反転を行った画像(以下、反転分離画像2)のヒストグラムを確率密度分布g2inv(x)として取得する(ステップS305)
【0080】
次いで、確率密度分布f(x)を基準とし、分離画像Yについて求めた各確率密度分布が基準の確率密度分布f(x)からどれぐらい離れているかについてKL情報量を用いて調べるために、式(5)を用いて、基準の分布f(x)に対する分布g(x)のKL情報量をステップS302〜ステップS305で取得したg1(x)、g1inv(x)、g2(x)、g2inv(x)について算出する(ステップS306)。

KL(f(x)||g(x))=∫f(x)log(f(x)/g(x))dx (5)

【0081】
次いで、ステップS306で算出した各分布のKL情報量のうち、最も小さい値の分布が基準の分布f(x)に近いことを示すので、その最も小さい値の分布をもつ分離画像を分離物品画像とし、他の分離画像を異物画像として識別する(ステップS307)。
すなわち、g1(x)またはg1inv(x)のKL情報量が最小の時に、分離画像1が分離物品画像であり、分離画像2が分離異物画像であると識別し、g2(x)またはg2inv(x)のKL情報量が最小の時に、分離画像2が分離物品画像であり、分離画像1が分離異物画像であると識別する。
【0082】
このように、独立成分分析を用いた異物検出動作は、エネルギーの異なる複数の画像を独立成分分析によって得られる分離画像Yから異物画像を識別し、異物が強調されるようなフィルタ処理を行ってから異物の判定を行うようになっている。
【0083】
図7は、本実施形態にX線異物検出装置における独立成分分析を用いた異物検出処理を実施した場合の観測画像Xおよび分離画像Yである。図7の(a)、(b)は異なるエネルギー帯の透過X線データに基づいた異物を含んだ観測画像Xであり、図7の(a)は低エネルギー帯の画像を示し、図7の(b)は高エネルギー帯の画像を示す。また、図7の(c)、(d)は独立成分分析手段24によって分離抽出された分離画像Yを示す。
【0084】
図7の(c)は、観測画像Xの濃度ヒストグラム分布状態と分離画像Yの各画像における濃度ヒストグラムの分布状態の違いが小さい分離物品画像であり、また、図7の(d)は、異物を独立成分として反映した分離異物画像である。この分離異物画像は、物品のウィンナーが無くなり異物だけの画像となっていることが判る。
【0085】
以上のように、本実施形態では、独立成分分析を用いて、異なるエネルギー帯の透過画像から独立成分として分離された異物画像(分離異物画像)に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かを判定するため、内容物の重なりによる影響や被検査物の濃度のばらつきによる影響を受けずに確実に異物を検出することができる。また、独立成分分析に入力される透過画像を白色化してFPICA処理を行うFastICA処理を実行することにより分離画像を高速に生成することができるため、検査能力の向上を図ることもできる。さらに、独立成分として分離された異物画像がフィルタ処理手段によりノイズ除去され、異物画像の背景に対して異物が強調されるため、より確実に異物を抽出することができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0086】
また、独立成分として分離された異物画像を各分離画像の濃度分布に基づいて識別するので、分離画像Yの中から自動的に異物画像を識別することができ、効率よく異物検査を行うことがでる。さらにその識別方法が、各分離画像の濃度分布について、分離抽出される前の1つの透過画像に対するKullback−Leiblerダイバージェンスの値を用いて分布間距離測定を行って識別するので、確実に異物画像を識別することができる。
【0087】
ところで、本実施形態では、独立成分分析手段24の独立成分分析方法としてFastICAについて説明したが、独立成分分析手段の独立成分分析の方法は、FastICAに限らず他の方法であってもよい。例えば、他の独立成分分析方法としては、独立性の評価量が最も増す方向を探索し分離行列Wを逐次更新する勾配法、観測データの出現確率を最大にする分離行列Wを推定値として選ぶ最尤推定法、分離画像Yの独立性の尺度としての各要素間の平均相互情報量が最小化するよう分離行列Wを更新する平均相互情報量最小化法等がある。
【0088】
また、本実施形態では、複数の異なるエネルギー帯について二つの場合を説明してきたが、三以上の異なるエネルギー帯の透過画像を処理する場合も同様である。この場合、三以上の異なるエネルギー帯の透過画像を観測画像Xとし、観測画像Xと同数の互いに独立した成分を持つ分離画像Yが分離抽出される。そしてこの分離画像は、例えば、分離物品画像と異物の種類に応じた複数の異物画像に分離され、異物の種類毎に異物の有無判定が可能となるので、より確実に異物を抽出することができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0089】
また、本実施形態では、複数の異なるエネルギー帯の透過画像を観測画像Xとし、観測画像Xから分離抽出された分離異物画像に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かの判定を行うようにしているが、単一の透過画像から検出できる異物に関しては従来の異物検出処理を併用して異物を検出することは言うまでもなく、観測画像Xから分離抽出された分離物品画像を用いて分離異物画像に含まれない他の異なる種類の異物について画像処理を施して異物を検出する異物検出処理を併用するようにしても良い。
【0090】
2.第2実施形態(図8,図9)
本実施の形態は、第1実施形態の画像処理手段23において、独立成分分析手段25の前処理としてのエッジ保存平滑フィルタ手段27が付加されたものである。その他の構成に関しては、第1実施形態と同様なので、エッジ保存平滑フィルタ手段27について説明し、その他の構成に関しては、第1実施形態と対応する部分には図中に第1実施形態と同様の符号を付し、第1実施形態の説明を援用して再度の説明を省略するものとする。
【0091】
図8に示すように、本実施形態のX線異物検出装置は、画像処理手段23は、複数の異なるエネルギー帯の透過画像のノイズを除去させるエッジ保存平滑フィルタ手段27を有している。
【0092】
エッジ保存平滑フィルタ手段27は、透過画像のノイズの除去を目的とした平滑フィルタであるが、一般的な平滑化フィルタは、画像に含まれるノイズを除去すると同時に対象物のエッジ(急峻な濃度の変動)情報を滑らかにしまうため、異物が含まれる透過画像に適用すると異物が被検査物に埋もれてしまうことがある。そこで、本実施の形態ではノイズなどの細かい変動のみを平滑化するエッジ保存平滑フィルタ処理を行っている。
【0093】
本実施の形態では、エッジ保存平滑フィルタ処理としてバイラテラルフィルタを用いている。バイラテラルフィルタは、注目画素からの距離に応じたガウス分布による重みに加えて、注目画素との濃度差が大きいところは重みを小さくするような注目画素との濃度差に応じたガウス分布による重みで平滑化を行うフィルタであり、式(6)で表される。
このとき、エッジを強く残す場合は、式(6)に示す分散を小さくするように設定する。

【0094】
次に、本実施形態のX線異物検出装置において、エッジ保存平滑フィルタ手段27を用いた場合の異物検出動作について説明する。
図9は、
エッジ保存平滑フィルタ手段27を用いた場合における異物検出処理の概略の流れを示すフローチャートである。
【0095】
まず、X線検出部14から出力される検出信号に基づく被検査物Pの低エネルギー帯および高エネルギー帯の透過画像が記憶された透過画像記憶手段21から、エネルギー帯毎の二つの透過画像それぞれについて、エッジ保存平滑フィルタが実行され、細かい変動のノイズが除去された透過画像を生成する(ステップS401)。
【0096】
次いで、エッジ保存平滑フィルタ処理された二つの透過画像を観測画像X(例えば、画像複数画像が2×400000(画素数)の行列)として各行ごとに1つの画像情報が入るように設定する(ステップS402)。
【0097】
以後、第1の実施形態と同様の処理が実行される。すなわち、設定された二つの観測画像Xに対し上述した図3に示す処理の流れに沿って独立成分分析が実行され(ステップS403)、独立成分分析によって二つに分離抽出された分離画像Yから各画像の濃度ヒストグラムに基づいて分離物品画像が認識され、分離画像Yの内で分離物品画像と認識されなかった画像が分離抽出された異物画像として識別される。(ステップS404)。
【0098】
次いで、識別された異物画像に対し、ノイズを低減し異物が強調されるような画像フィルタを実行し、異物強調画像が生成され(ステップS405)、画像フィルタによって異物が強調された異物強調画像に対し、予め設定された閾値と比較し、異物の有無が判定される(ステップS406)。
【0099】
このように、エッジ保存平滑フィルタ手段27を用いた場合の異物検出動作は、エネルギーの異なる複数の画像に対してエッジ保存平滑フィルタを実行し、エッジ保存平滑フィルタ処理後の画像に対して独立成分分析によって得られる分離画像Yから異物画像を識別し、異物が強調されるようなフィルタ処理を行ってから異物の判定を行うようになっている。
【0100】
以上のように、本実施形態では、複数の異なるエネルギー帯の透過画像に対し、急峻な濃度変動部分(エッジ)を保持しながら細かい変動のノイズを平滑化するエッジ保存平滑フィルタ手段よって細かい変動のノイズを予め除去した後に、独立成分分析手段によってノイズとは別成分の異物画像を異物画像を分離抽出するため、複数の異なるエネルギー帯の透過画像に異物として誤検出されるような細かい変動のノイズがあった場合でも安定して異物画像の分離ができ、安定した異物検査を行うことができる。
【0101】
ところで、本実施形態では、エッジ保存平滑フィルタ処理としてバイラテラルフィルタについて説明したが、エッジ保存平滑フィルタ処理は、バイラテラルフィルタに限らず他の方法であってもよい。例えば、エッジ保存平滑フィルタとしては、注目画素の周りのN×N画素の中の中央値を出力するメディアンフィルタがあり、このフィルタはスパイク状のノイズ除去に有効なフィルタである。
【0102】
また、他のエッジ保存平滑フィルタとしては、注目画素の周りに注目画素を含む複数の局所領域を用意し、各局所領域内の濃度分散が最小となる局所領域を選択し、その選択された局所領域について平滑フィルタを実行する方法がある。この場合、エッジが含まれる局所領域は濃度分散が高いので、平滑フィルタは実行されずエッジの保存が可能となる。
【0103】
また、他のエッジ保存平滑フィルタとしては、注目画素の近傍領域中で濃度が近い画素を一定数(k画素)選出し、その選出された画素の濃度の平均値を出力するk最近隣平均化フィルタがある。この場合、注目画素の濃度に近い画素が選出されて平滑化されるので、急峻な濃度変動部分の平滑化を避けることができ、エッジの保存が可能となる。
【0104】
また、他のエッジ保存平滑フィルタとしては、注目画素の近傍領域内の濃度分散が小さいときだけ平滑フィルタを実行するようにしても良い。この場合、エッジが含まれる場合には近傍領域内の濃度分散が高くなるので、平滑フィルタは実行されずエッジの保存が可能となる。
【0105】
また、本実施形態では、エネルギー帯毎の二つ透過画像それぞれについて、エッジ保存平滑フィルタが実行されるようにしたが、エネルギー帯毎の透過画像のうち、特にノイズが多い透過画像に対してのみにエッジ保存平滑フィルタを実行するようにしても良いことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように本発明は、異なるエネルギー帯毎の透過画像を独立成分分析して得られる独立成分として分離された異物画像に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かを判定するため、異なるエネルギー帯の透過X線データを出力する検出手段を備えたX線異物検出装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線異物検出装置の概略構成を示す図である。
【図2】独立成分分析の概念を説明するための説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る独立成分分析処理の概略の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る独立成分分析処理をシミュレーションした処理結果の例である。
【図5】本発明の第1実施形態実施の形態に係るX線異物検出装置における異物検出処理の動作を示したフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態に係るKullback-Leiblerダイバージェンス用いた異物画像の識別処理の動作を示したフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係るX線異物検出装置における異物検出処理の処理結果の例である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るX線異物検出装置の概略構成を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るX線異物検出装置における異物検出処理の動作を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
10 X線検出手段(検出手段)
11 搬送手段
13 X線源
14 X線検出部
14a、14b X線センサ
15 線質可変体
20 制御部
21 透過画像記憶手段
22 判定部
23 画像処理手段
24 独立成分分析手段
25 フィルタ処理手段
26 異物画像識別手段
27 エッジ保存平滑フィルタ手段
30 表示器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被検査物にX線を照射し、前記被検査物を透過した複数の異なるエネルギー帯のX線の透過量を検出する検出手段(10)と、
前記検出手段が出力する前記複数の異なるエネルギー帯毎の検出信号に基づいて前記被検査物中に異物が含まれているか否かを判定する判定手段(22)とを備えたX線異物検出装置(1)において、
前記検出手段が出力する検出信号に基づく前記被検査物の前記複数の異なるエネルギー帯毎の透過画像を記憶する透過画像記憶手段(21)と、
前記透過画像記憶手段に記憶された複数の異なるエネルギー帯の透過画像から独立成分として異物画像を含む複数の分離画像を分離抽出する独立成分分析手段(24)を有する画像処理手段(23)とを備え、
前記判定手段は、前記独立成分分析手段によって分離抽出された異物画像に基づいて被検査物中に異物が含まれているか否かを判定することを特徴とするX線異物検出装置。
【請求項2】
前記画像処理手段は、前記独立成分分析手段によって分離抽出された異物画像に含まれる異物を強調するためのフィルタ処理手段(25)を有することを特徴とする請求項1に記載のX線異物検出装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、前記複数の分離画像の濃度分布に基づいて前記複数の分離画像の中から異物画像を識別する異物画像識別手段(26)を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線異物検出装置。
【請求項4】
前記異物画像識別手段は、前記透過画像記憶手段に記憶された透過画像に対する各分離画像のKullback−Leiblerダイバージェンスの値に基づいて異物画像を識別することを特徴とする請求項3に記載のX線異物検出装置。
【請求項5】
前記画像処理手段は、前記透過画像記憶手段に記憶された複数の異なるエネルギー帯の透過画像に含まれるノイズを除去した後に、前記独立成分分析手段によって独立成分として異物画像を含む複数の分離画像を分離抽出するためのエッジ保存平滑フィルタ手段(27)を有することを特徴とする請求項1〜請求項4に記載のX線異物検出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−192519(P2009−192519A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130168(P2008−130168)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(302046001)アンリツ産機システム株式会社 (238)
【Fターム(参考)】