説明

X線異物検出装置

【課題】2つのX線画像上の被検査物の大きさの違いを、異物検出性能の低下が無視できる程度に低減することができるX線異物検出装置を提供すること。
【解決手段】X線管32をその鉛直軸上の位置を調整可能に支持する支持機構71と、第1のX線画像データにおける被検査物Wの幅方向の波形である第1の波形と第2のX線画像データにおける被検査物Wの幅方向の波形である第2の波形とを取得して比較し、第2の波形の幅が第1の波形の幅より大きいときは、X線管32の調整方向が鉛直軸上方であると判定するとともに、第2の波形の幅が第1の波形の幅より小さいときは、X線管32の調整方向が鉛直軸下方であると判定する調整判定部81と、調整判定部81により判定された調整方向を表示する表示器5と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉、魚、加工食品、医薬品等の被検査物中に混入した異物を検出するX線異物検出装置に関し、特に、複数本のX線ラインセンサからの画像を合成して異物を強調させた画像を得るエネルギーサブトラクション法を採用したX線異物検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線異物検出装置は、搬送路上を所定間隔で順次搬送されてくる各品種の被検査物(例えば、肉、魚、加工食品、医薬品など)にX線発生器からX線を照射し、この照射したX線の透過量から被検査物中に金属、ガラス、石、骨などの異物が混入しているか否かや被検査物の欠品などを検査するようになっている。
【0003】
従来、この種のX線異物検出装置では、管電圧の異なるX線源を用いてローエネルギーとハイエネルギーのX線画像ペアすなわちデュアルエネルギーX線画像を取得し、これら2つのX線画像を合成することで、被検査物の厚みによる影響を低減させ、被検査物をその中の異物とのコントラストを高めて異物を強調させた画像を得るエネルギーサブトラクション法を採用したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−91483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の技術では、一方のX線源とX線ラインセンサの組合せにより得たX線画像と、他方のX線源とX線ラインセンサの組合せにより得たX線画像のサイズが一致していないと、2つのX線画像を合成する際に、X線画像上の被検査物の境界の位置ずれも高コントラスト化により強調されてしまい、異物検出性能を大きく損なってしまうという問題があった。
【0006】
この種のX線異物検出装置ではX線画像のサイズがX線源と被検査物の搬送面とX線ラインセンサの3つの相互の位置関係により決定されるため、2つのX線画像の位置ずれは、一方のX線源とX線ラインセンサの組合せと他方のX線源とX線ラインセンサの組合せとの間で、組み付け誤差等によりこれらの位置関係がずれることにより発生する。
【0007】
また、X線画像のサイズのずれは数ピクセル程度と小さいものであり、画像処理によりX線画像を拡大または縮小してサイズを一致させることは、異物の情報も変わってしまって実質的に不可能であるため、他の手法が求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、前述のような従来の問題を解決するためになされたもので、2つのX線画像上の被検査物の大きさの違いを、異物検出性能の低下が無視できる程度に低減することができるX線異物検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るX線異物検出装置は、被検査物を搬送面上で搬送する搬送手段と、前記搬送面上を搬送される被検査物に互いに異なる強度のX線を照射する第1のX線源および第2のX線源と、前記搬送面を挟んで前記第1のX線源および前記第2のX線源と対向する位置に配置され、前記第1のX線源から照射され前記被検査物を透過するX線に応じた第1のX線画像データおよび前記第2のX線源から照射され前記被検査物を透過するX線に応じた第2のX線画像データをそれぞれ出力する第1のX線ラインセンサおよび第2のX線ラインセンサと、前記第1のX線画像データおよび第2のX線画像データを合成して前記被検査物に対応する1つの画像データとして出力する画像合成手段と、前記画像合成手段が出力する画像データに基づいて前記被検査物中の異物の有無を判定する判定手段と、を備えるX線異物検出装置であって、前記第2のX線源をその鉛直軸上の位置を調整可能に支持する支持手段と、前記第1のX線画像データにおける前記被検査物の幅方向の波形である第1の波形と前記第2のX線画像データにおける前記被検査物の幅方向の波形である第2の波形とを取得して比較し、前記第2の波形の幅が前記第1の波形の幅より大きいときは、前記第2のX線源の調整方向が鉛直軸上方であると判定するとともに、前記第2の波形の幅が前記第1の波形の幅より小さいときは、前記第2のX線源の調整方向が鉛直軸下方であると判定する調整判定手段と、前記調整判定手段により判定された調整方向を表示する表示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成により、表示手段には、第2の波形と第1の波形のサイズ差に基づいて第2のX線源の調整方向が表示されるので、表示された調整方向に従って第2のX線源の鉛直位置を利用者が調整することにより、少ない調整回数で容易にX線画像データにおける被検査物の大きさを等しくすることができる。したがって、2つのX線画像上の被検査物の大きさの違いを、異物検出性能の低下が無視できる程度に低減することができる。
【0011】
また、本発明に係るX線異物検出装置は、前記調整判定手段が、前記第1の波形と前記第2の波形とを取得する際は、前記第1のX線源および前記第2のX線源を所定の調整用出力に設定することを特徴とする。
【0012】
この構成により、第1のX線源および第2のX線源が所定の調整用出力に設定されることで、第1のX線源と第1のX線ラインセンサから取得したX線画像と、第2のX線源と第2のX線ラインセンサから取得したX線画像と、の間で、被検査物の大きさ以外の差異が発生することを防止することができる。
【0013】
また、本発明に係るX線異物検出装置は、前記第2の波形の幅と前記第1の波形の幅のサイズ差と前記第2のX線源の要調整量との間の定数を予め記憶する定数記憶手段を備え、前記調整判定手段が、前記第2のX線源の調整方向を判定するとともに、前記サイズ差と前記定数記憶手段に記憶された定数に基づいて前記第2のX線源の要調整量を判定し、前記表示手段が、前記調整判定手段により判定された調整方向および要調整量を表示することを特徴とする。
【0014】
この構成により、第2のX線源の調整方向だけでなく、要調整量の判定および表示を行うことで、短時間または少ない試行回数で第2のX線源を適切な位置に調整することができる。
【0015】
また、本発明に係るX線異物検出装置は、前記支持手段に支持された前記第2のX線源の鉛直位置を変位させる位置変位手段と、前記調整判定手段により判定された調整方向および要調整用に応じて前記位置変位手段を駆動制御する駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成により、判定された調整方向および要調整用に応じて駆動制御手段が位置変位手段を駆動制御するので、自動的に第2のX線源を適切な位置に調整することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、2つのX線画像上の被検査物の大きさの違いを、異物検出性能の低下が無視できる程度に低減することができるX線異物検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るX線異物検出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るX線異物検出装置の側面および内部構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るX線異物検出装置のX線管、ベルト面、X線ラインセンサの位置関係を示す図である。
【図4】(a)は、基準被検査物の幅方向の形状を示す断面図であり、(b)は、第1の波形および第2の波形の幅方向のサイズ差を示す図であり、(c)は、サイズ差異により生じてしまうエッジを示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係るX線異物検出装置の他の例を示す図であり、X線管の鉛直位置をモータで自動調整する構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
まず構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、X線異物検出装置1は、搬送部2と検出部3とを筐体4の内部に備え、表示器5を筐体4の前面上部に備えている。
【0022】
搬送部2は、被検査物Wを所定間隔をおいて順次搬送するものである。この搬送部2は、例えば筐体4内部で水平に配置されたベルトコンベアにより構成されている。搬送部2は、図1に示す駆動モータ6の駆動により予め設定された搬送速度で搬入口7から搬入された被検査物Wを搬出口8側(図中X方向)に向けて搬送面としてのベルト面2a上を搬送させるようになっている。筐体4内部においてベルト面2a上を搬入口7から搬出口8まで貫通する空間は搬送路21を形成している。
【0023】
検出部3は、順次搬送される被検査物Wに対し、搬送路21の途中の検査空間22においてX線を照射するとともに被検査物Wを透過するX線を検出するものであり、搬送路21途中の検査空間22の上方に所定高さ離隔して配置されたX線発生器9と、搬送部2内にX線発生器9と対向して配置されたX線検出器10を備えている。
【0024】
X線発生器9は、不図示の筺体の内部に円筒状のX線源としてのX線管30を備えた構成で、筺体とX線管30は絶縁油または絶縁樹脂等により絶縁されている。本実施の形態では、X線管30として、2つのX線管31、32を備え、その内の一方は、後述する高さ調整機構により高さ方向に移動可能となっている。X線管31、32の陰極からの電子ビームを陽極のターゲットに照射させてX線を生成している。X線管31、32は、その長手方向が被検査物Wの搬送方向(X方向)となるよう配置されている。X線管31、32により生成されたX線は、下方のX線検出器10に向けて、図示しないスリットにより略三角形状のスクリーン状となって搬送方向(X方向)を横切るように照射されるようになっている。
【0025】
ここで、X線管31、32が発生するX線の強度は、X線管31、32の陽極と陰極との間に流す電流(管電流)に比例して変化するとともに、発生するX線の波長がX線管31、32の陽極と陰極との間に印加する電圧(管電圧)に応じて短くなり透過力が強くなる。すなわち、X線管31、32から発生されるX線の線質は、X線管31、32の管電流および管電圧に応じて変化する。本実施の形態では、X線管31が発生するX線の強度とX線管31が発生するX線の強度を異ならせており、例えば、X線管31を高出力(高エネルギーの線質のX線を出力)、X線管32を低出力(低エネルギーの線質のX線を出力)としている。
【0026】
なお、X線管31、32が発生するX線の強度は、必ずしも一定値に固定されるものではなく、検出対象とする異物および被検査物Wの種類や搬送速度に応じて、X線管31、32の管電流または管電圧が調整されるようになっている。
【0027】
X線検出器10は、搬送される被検査物Wの搬送方向(X方向)の平面上で搬送方向と直交するY方向に複数の検出素子を直線状に並べたX線ラインセンサ50を備えている。本実施の形態では、X線ラインセンサ50として、2つのX線ラインセンサ51、52を被検査物Wの搬送方向に備え、X線ラインセンサ51は、高出力のX線管31から照射されて被検査物Wを透過した検出信号(濃度データの画像)を出力し、X線ラインセンサ52は、高出力のX線管32から照射されて被検査物Wを透過した検出信号(濃度データの画像)を出力するようになっている。
【0028】
なお、X線ラインセンサ51、52は、X線を受けて光(蛍光)を発する図示しないシンチレータおよびこのシンチレータからの光を受光する受光素子を備えている。
【0029】
ここで、本実施の形態では、X線検出器10は、内蔵する図示しないA/D変換部によりX線ラインセンサ51、52の検出信号(輝度値データ)をデジタルデータに変換して濃度データとして出力するようになっているが、X線検出器10の外部にA/D変換部を備える構成としたり、A/D変換前の輝度値データのまま後段の総合制御部40に出力する等の構成としてもよく、デジタルデータである濃度データに変換することは必須要件ではない。
【0030】
X線ラインセンサ51、52を備えるX線検出器10からは、後述する総合制御部40(図2参照)での異物混入の有無の判定に必要なX線画像データを出力するようになっている。
【0031】
図2に示すように、搬送路21内の天井部21aには、搬送方向(X方向)に沿って複数箇所にX線遮蔽用の遮蔽カーテン16が吊り下げ配置されている。遮蔽カーテン16は、X線を遮蔽する鉛粉を混入したゴムシートをのれん状(上部が繋がっており下部が帯状に分割された状態)に加工したものから構成されており、検査空間22から搬送路21を介してX線が筐体4の外部に漏えいすることを防止するものである。
【0032】
遮蔽カーテン16は、本実施の形態では、搬入口7と検査空間22との間、および検査空間22と搬出口8との間にそれぞれ2枚ずつ設けられており、1つの遮蔽カーテン16が被検査物Wと接触して弾性変形して隙間が生じた場合でも、他の遮蔽カーテン16がX線を遮蔽するので漏えい基準量を超えることなくX線の漏えいを防止できるようになっている。
【0033】
なお、検査空間22の上面にはスリットが配置され、検査空間22の下面、側面は、X線の遮蔽のために筐体4等により略閉塞されている。搬送路21における遮蔽カーテン16、スリット、および筺体4等により囲まれた内側の空間が検査空間22を構成している。
【0034】
X線異物検出装置1は、X線検出器10から受け取った濃度データに基づく被検査物W中の異物の有無の判定を含む総合的な制御を行う総合制御部40を備えている。
【0035】
総合制御部40は、X線異物検出装置1の総合的な制御を行うものであり、X線ラインセンサ51、52からの濃度データを検出して所定のタイミングの濃度データをそれぞれ有効化するデータ検出部61、62と、データ検出部61、62からの濃度データをそれぞれ複数記憶する記憶部43と、X線ラインセンサ51、52からの濃度データの画像(以下、単に画像という)に対して合成処理、フィルタ処理等の画像処理を施す画像処理部44と、画像処理部44で画像処理が施された画像に対して被検査物Wと異物との判別を行って異物の混入の有無を判定する判定部48とを備えている。判定部48による判定結果は表示器5に表示されるようになっている。
【0036】
データ検出部60は、本実施の形態では2つのデータ検出部61、62からなり、X線ラインセンサ51、52からの濃度データに対して所定のタイミングで入力された濃度データ、すなわち、所定のデータ有効化入力タイミングの範囲のデータだけをそれぞれ有効化するようになっている。
【0037】
記憶部43は、X線ラインセンサ51、52から出力されたデータのうち、データ検出部61、62で有効化されたデータを一時的に記憶するものであり、画像を高速に記憶および読み出しが可能なメモリから構成されている。
【0038】
画像処理部44は、X線ラインセンサ51、52からの濃度データの画像に対して合成処理、フィルタ処理等の画像処理を施すようになっている。
【0039】
判定部48は、画像処理部44で画像処理が施された画像に対して、画像上の被検査物Wの中から異物を検出し、異物の混入の有無を判定するようになっている。
【0040】
また、X線異物検出装置1は、X線発生器9のX線出力、被検査物Wの搬送速度、X線検出器10の検査パラメータの設定操作、選択操作が行われる設定部49を備えており、この設定部49は、筐体4の前面上部の表示器5の隣に配置されている。
【0041】
ここで、X線異物検出装置1においては、図3に示すように、X線画像における被検査物Wのサイズは、X線源であるX線管31、32と、検査対象である被検査物Wと、X線ラインセンサ51、52との位置関係で決まる。
【0042】
ここで、搬送面であるベルト面2aからX線源であるX線管31までの距離をA1、ベルト面2aからX線ラインセンサ51の受光面までの距離をB1、ベルト面2aからX線源であるX線管32までの距離をA2、ベルト面2aからX線ラインセンサ52の受光面までの距離をB2とすると、被検査物Wの搬送方向上流側(図中左側)に配置された1組目のX線管31(X線源)とX線ラインセンサ51におけるX線画像の拡大率は、(A1+B1)/A1で表され、被検査物Wの搬送方向下流側(図中右側)に配置された2組目のX線管32(X線源)とX線ラインセンサ52におけるX線画像の拡大率は、(A2+B2)/A2で表されるが、これら2組のX線画像の拡大率は、次式に示す通り、組み付け誤差等により等しくはならない。
【0043】
(A1+B1)/A1 ≠ (A2+B2)A2・・・(式1)
2組のX線画像の拡大率を等しくするために、例えば、A1=A2、且つ、B1=B2となるように2組目のX線管32、X線ラインセンサ52の2つの部材の位置をそれぞれ調整することが考えられるが、この場合、位置を調整する部材の数が2つとなるため、X線管32とX線ラインセンサ52の両方に位置調整機構を設ける必要があり構造が複雑化してしまう恐れがあり、さらに、X線管32とX線ラインセンサ52の両方を位置調整する必要があるので調整作業に時間を要してしまう恐れがある。
【0044】
そこで、本実施の形態では、後述するように、X線管32の高さを調整する機構を備えることで、ベルト面2aからX線管32までの距離A2を、適切な距離A2´に調整することにより、次式に示す通り、ベルト面2aからX線ラインセンサ52の受光面までの距離B2の値に関わらず2組のX線画像の拡大率を等しくすることができるようになっている。
【0045】
(A1+B1)/A1 = (A2´+B2)A2´・・・(式2)
本実施の形態では、X線管32の高さを調整する機構として、X線管32を支持する支持機構71を備えている。この支持機構71は、内部にX線管32を備えたX線ユニット34を保持する保持部材72と、この保持部材72に挿通されて保持部材72を鉛直上下方向にスライド移動可能に支持する支持レール73と、筺体4に回転可能に軸支されて保持部材72に螺合して回転することにより保持部材72を鉛直上下方向に移動させる回転軸74と、筺体4の上部外側であって回転軸74の上端部に固定された回転ハンドル75とから構成されている。なお、保持部材72が保持するX線ユニット34は、高電圧発生部を含んだモノタンク型の構成としてもよいし、高電圧発生部を別ユニットとした構成としてもよい。
【0046】
そして、支持機構71においては、利用者が回転ハンドル75を把持して回転軸74を回転させると、回転軸74と螺合する保持部材72およびこの保持部材72が保持するX線管32が、支持レール73上を案内されて、回転軸74の回転方向および回転量に応じて鉛直上下方向に移動する。
【0047】
また、本実施の形態では、X線画像が比較的濃く出力されるポリエチレンブロック等からなるとともに高さの低い、すなわち厚みの薄い被検査物Wを基準被検査物Wsとして用い、1組目のX線管31とX線ラインセンサ51から取得したX線画像と、2組目のX線管32とX線ラインセンサ52から取得したX線画像と、における基準被検査物Wsの大きさを比較し、2つのX線画像の大きさが等しくなるようなX線管32の移動方向(鉛直上方、または鉛直下方)を求めることで、この距離A2を前述の適切な距離A2´に設定できるようになっている。X線画像における基準被検査物Wsの大きさとしては、図4(b)に示すように、基準被検査物Wsの幅方向(図1のY方向)の濃度波形の幅を用いることができる。
【0048】
総合制御部40は、距離A2を前述の適切な距離A2´に設定するためのX線管32の調整方向を求める手段として、調整判定部81を備えている。この調整判定部81は、図4(a)に示す幅方向の形状を有する基準被検査物Wsを対象として、図4(b)に示す、1組目のX線管31とX線ラインセンサ51で取得したX線画像における基準被検査物Wsの幅方向の濃度波形である第1の波形と、2組目のX線管32とX線ラインセンサ52で取得したX線画像における基準被検査物Wsの幅方向の濃度波形である第2の波形とを比較し、第2の波形の幅D2が第1の波形の幅D1より大きいときは、第2のX線源の調整方向が鉛直軸上方であると判定するとともに、図4(b)のように、第2の波形の幅D2が第1の波形の幅D1より小さいときは、第2のX線源の調整方向が鉛直軸下方であると判定するようになっている。
【0049】
なお、第1の波形の幅D1と第2の波形の幅D2が等しくない場合は、画像処理部44で2つのX線画像を合成処理する際に、図4(c)に示すように、基準被検査物Wsの輪郭に相当する位置に判定部48での異物混入の判定に悪影響を与えるエッジ90(濃淡の変化が顕著な部分)が発生してしまう。
【0050】
本実施の形態では、距離A1、A2、B1、B2の実測値をセンサ等で求めていないため、距離A2を前述の適切な距離A2´に設定するためのX線管32の要調整量(距離)を上記の式(2)から求めることはできないが、1組目のX線管31とX線ラインセンサ51から取得したX線画像と、2組目のX線管32とX線ラインセンサ52から取得したX線画像と、における基準被検査物Wsのサイズ差△Wsと、距離A2を前述の適切な距離A2´にするための要調整量△A2との間には定数Cが存在するため、予め定数Cを求めて記憶しておくことにより、調整判定部81に△A2=C△Wsの式から要調整量を算出させるようにすると好適である。
【0051】
総合制御部40は、距離A2を前述の適切な距離A2´にするための要調整量△A2との間には定数Cを記憶する手段として、定数記憶部80を備え、調整判定部81は、定数記憶部80に記憶されている定数と、基準被検査物Wsのサイズ差△Wsとに基づいて要調整量を調整するようになっている。
【0052】
定数Cは、X線管32を意図的に所定距離移動させて、このときの2組目のX線管32とX線ラインセンサ52から取得したX線画像における基準被検査物Wsのサイズ変化量から求めることができる。
【0053】
また、調整判定部81は、判定結果を表示器5に出力するようになっている。表示器5には、例えば、"調整方向:下方"または"調整方向:下方、調整量:5mm"等のメッセージが表示される。
【0054】
調整方向のみを判定および表示するように構成した場合は、利用者は、基準被検査物Wsを用いた画像の取得と、表示器5に表示された調整方向に従ったX線管32の目安距離分の調整とを数回繰り返すことにより、X線管32を適切な位置に調整することができる。
【0055】
また、調整方向と要調整量を判定および表示するように構成した場合は、利用者は、基準被検査物Wsを用いた画像の取得と、表示器5に表示された調整方向および要調整量方向に従ったX線管32の調整とを行うことにより、概ね1回の調整作業でX線管32を適切な位置に調整することができる。
【0056】
調整判定部81によりX線管32の調整方向の判定をするために基準被検査物Wsを撮像する際には、X線管31とX線管32を調整用の出力に設定することが好ましい。このようにすることで、1組目のX線管31とX線ラインセンサ51から取得したX線画像と、2組目のX線管32とX線ラインセンサ52から取得したX線画像と、の間で、基準被検査物Wsの大きさ以外の差異が発生することを防止することができる。
【0057】
具体的には、調整判定部81の制御により、X線管31とX線管32を、調整用の出力として、管電圧および管電流を等しくして、X線管31とX線管32から照射されるX線の線質(波長、強度)が可能な限り等しい出力とする。
【0058】
なお、管電圧および管電流を等しくすることに加えて、または、管電圧および管電流を等しくすることに代えて、X線管31とX線管32の何れか一方に、図2に示すように、フィルタ70を手動または自動で挿入するように構成することで、X線管31とX線管32から照射されるX線の線質が可能な限り等しい出力となるようにしてもよい。
【0059】
なお、距離A2の代わりに、ベルト面2aからX線ラインセンサ52までの距離B2を調整するように構成することも可能ではあるが、本実施の形態のX線異物検出装置1および一般的なX線異物検出装置においては、ベルト面2aからX線管31、32までの距離A1、A2は、その設計値が400mm程度と相対的に大きな値であるのに対して、ベルト面2aからX線ラインセンサ51、52までの距離B1、B2は、その設計値が15mm程度と相対的に小さな値となっており、距離A1、A2の設計値と距離B1、B2の設計値との間には30倍以上の差異がある。
【0060】
このため、調整機構に遊び(バックラッシ等)があることを考慮すると、距離B2を調整する構成よりも、距離A2を調整する構成の方が、調整作業または調整制御を容易に行うことができるため好ましい。
【0061】
図5に示すように、X線管32の高さを調整可能に支持する支持機構71に加えて、X線管32の高さを調整する駆動源としてのモータ76を筺体の上面に取り付けステー77を介して設けるとともに、調整判定部81が判定した調整方向、要調整量に応じて、モータ76を駆動制御する駆動制御部82を総合制御部40に設けるように構成してもよい。
【0062】
図5の例では、駆動制御部82は、調整判定部81が判定した調整方向、要調整量に応じて、モータ76の駆動パルスを決定し、その駆動パルスによりモータ76を駆動するよう構成される。
【0063】
また、モータ76は、パルス駆動するステッピングモータおよび図示しない減速機構等から構成されるとともにその出力軸が回転軸74に連結されている。このように構成することで、このモータ76の回転角度、回転数に応じてX線管32の高さを所望の調整方向に要調整量だけ調整することができる。
【0064】
以上のように、本実施の形態に係るX線異物検出装置1は、X線管32をその鉛直軸上の位置を調整可能に支持する支持機構71と、第1のX線画像データにおける被検査物Wの幅方向の波形である第1の波形と第2のX線画像データにおける被検査物Wの幅方向の波形である第2の波形とを取得して比較し、第2の波形の幅が第1の波形の幅より大きいときは、X線管32の調整方向が鉛直軸上方であると判定するとともに、第2の波形の幅が第1の波形の幅より小さいときは、X線管32の調整方向が鉛直軸下方であると判定する調整判定部81と、調整判定部81により判定された調整方向を表示する表示器5と、を備えたことを特徴とする。
【0065】
この構成により、表示器5には、第2の波形と第1の波形のサイズ差に基づいてX線管32の調整方向が表示されるので、表示された調整方向に従ってX線管32の鉛直位置を利用者が調整することにより、少ない調整回数で容易にX線画像データにおける被検査物Wの大きさを等しくすることができる。したがって、2つのX線画像上の被検査物Wの大きさの違いを、異物検出性能の低下が無視できる程度に低減することができる。
【0066】
また、本実施の形態に係るX線異物検出装置1は、調整判定部81が、第1の波形と第2の波形とを取得する際は、X線管31およびX線管32を所定の調整用出力に設定することを特徴とする。
【0067】
この構成により、X線管31およびX線管32が所定の調整用出力に設定されることで、X線管31とX線ラインセンサ51から取得したX線画像と、X線管32とX線ラインセンサ52から取得したX線画像と、の間で、被検査物Wの大きさ以外の差異が発生することを防止することができる。
【0068】
また、本実施の形態に係るX線異物検出装置1は、第2の波形の幅と第1の波形の幅のサイズ差とX線管32の要調整量との間の定数を予め記憶する定数記憶部80を備え、調整判定部81が、X線管32の調整方向を判定するとともに、サイズ差と定数記憶部80に記憶された定数に基づいてX線管32の要調整量を判定し、表示器5が、調整判定部81により判定された調整方向および要調整量を表示することを特徴とする。
【0069】
この構成により、X線管32の調整方向だけでなく、要調整量の判定および表示を行うことで、短時間または少ない試行回数でX線管32を適切な位置に調整することができる。
【0070】
また、本実施の形態に係るX線異物検出装置1は、支持機構71に支持されたX線管32の鉛直位置を変位させるモータ76と、調整判定部81により判定された調整方向および要調整用に応じてモータ76を駆動制御する駆動制御部82と、を備えたことを特徴とする。
【0071】
この構成により、判定された調整方向および要調整用に応じて駆動制御部82がモータ76を駆動制御するので、自動的にX線管32を適切な位置に調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明に係るX線異物検出装置は、2つのX線画像上の被検査物の大きさの違いを、異物検出性能の低下が無視できる程度に低減することができるという効果を有し、複数本のX線ラインセンサからの画像を合成して異物を強調させた画像を得るエネルギーサブトラクション法を採用したX線異物検出装置として有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 X線異物検出装置
2 搬送部(搬送手段)
2a ベルト面(搬送面)
3 検出部
4 筐体
5 表示器(表示手段)
6 駆動モータ
7 搬入口
8 搬出口
9 X線発生器
10 X線検出器
11 箱体
16 遮蔽カーテン
21 搬送路
21a 天井部
22 検査空間
30 X線管
31 X線管(第1のX線源)
32 X線管(第2のX線源)
40 総合制御部
43 記憶部
44 画像処理部(画像合成手段)
48 判定部(判定手段)
49 設定部
51 X線ラインセンサ(第1のX線ラインセンサ)
52 X線ラインセンサ(第2のX線ラインセンサ)
61、62 データ検出部
70 フィルタ
71 支持機構(支持手段)
76 モータ(位置変位手段)
80 定数記憶部(定数記憶手段)
81 調整判定部(調整判定手段)
82 駆動制御部(駆動制御手段)
W 被検査物
Ws 基準被検査物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物を搬送面(2a)上で搬送する搬送手段(2)と、
前記搬送面上を搬送される被検査物に互いに異なる強度のX線を照射する第1のX線源(31)および第2のX線源(32)と、
前記搬送面を挟んで前記第1のX線源および前記第2のX線源と対向する位置に配置され、前記第1のX線源から照射され前記被検査物を透過するX線に応じた第1のX線画像データおよび前記第2のX線源から照射され前記被検査物を透過するX線に応じた第2のX線画像データをそれぞれ出力する第1のX線ラインセンサ(51)および第2のX線ラインセンサ(52)と、
前記第1のX線画像データおよび第2のX線画像データを合成して前記被検査物に対応する1つの画像データとして出力する画像合成手段(44)と、
前記画像合成手段が出力する画像データに基づいて前記被検査物中の異物の有無を判定する判定手段(48)と、を備えるX線異物検出装置(1)であって、
前記第2のX線源をその鉛直軸上の位置を調整可能に支持する支持手段(71)と、
前記第1のX線画像データにおける前記被検査物の幅方向の波形である第1の波形と前記第2のX線画像データにおける前記被検査物の幅方向の波形である第2の波形とを取得して比較し、前記第2の波形の幅が前記第1の波形の幅より大きいときは、前記第2のX線源の調整方向が鉛直軸上方であると判定するとともに、前記第2の波形の幅が前記第1の波形の幅より小さいときは、前記第2のX線源の調整方向が鉛直軸下方であると判定する調整判定手段(81)と、
前記調整判定手段により判定された調整方向を表示する表示手段(5)と、を備えたことを特徴とするX線異物検出装置。
【請求項2】
前記調整判定手段が、前記第1の波形と前記第2の波形とを取得する際は、前記第1のX線源および前記第2のX線源を所定の調整用出力に設定することを特徴とする請求項1に記載のX線異物検出装置。
【請求項3】
前記第2の波形の幅と前記第1の波形の幅のサイズ差と前記第2のX線源の要調整量との間の定数を予め記憶する定数記憶手段(80)を備え、
前記調整判定手段が、前記第2のX線源の調整方向を判定するとともに、前記サイズ差と前記定数記憶手段に記憶された定数に基づいて前記第2のX線源の要調整量を判定し、
前記表示手段が、前記調整判定手段により判定された調整方向および要調整量を表示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線異物検出装置。
【請求項4】
前記支持手段に支持された前記第2のX線源の鉛直位置を変位させる位置変位手段(76)と、
前記調整判定手段により判定された調整方向および要調整用に応じて前記位置変位手段を駆動制御する駆動制御手段(82)と、を備えたことを特徴とする請求項3に記載のX線異物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−194100(P2012−194100A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59128(P2011−59128)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(302046001)アンリツ産機システム株式会社 (238)
【Fターム(参考)】