X線発生装置とX線発生装置群を用いたX線照射装置
【課題】透過形ターゲットから発生する後方散乱X線がX線発生装置から外部へ漏洩することを大幅に低減できる小形で軽量なX線発生装置とX線発生装置群を用いたX線照射装置を提供する。
【解決手段】透過形ターゲットの表面を囲むように筒状シールド管がターゲットホルダに固定された構成によって後方散乱X線を吸収する。これによって、シールド管を装着しない場合に比べて、後方散乱X線を1/20以下に低減することができ、X線発生装置全体を覆う鉛板の量を大幅に低減することが可能となる。本発明によるX線発生装置複数台と他の装置とを組み合わせて、X線治療に好適な小形で軽量なX線照射装置を提供することができる。
【解決手段】透過形ターゲットの表面を囲むように筒状シールド管がターゲットホルダに固定された構成によって後方散乱X線を吸収する。これによって、シールド管を装着しない場合に比べて、後方散乱X線を1/20以下に低減することができ、X線発生装置全体を覆う鉛板の量を大幅に低減することが可能となる。本発明によるX線発生装置複数台と他の装置とを組み合わせて、X線治療に好適な小形で軽量なX線照射装置を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過形ターゲットを用いたX線発生装置に係わり、特に、後方散乱X線を遮蔽し、その漏洩を低減するX線発生装置に関する。さらにこれらの装置群(2以上の装置を含む)と電子源と電子ビーム偏向手段とを組み合わせて、特定の照射野にX線ビーム群を照射するX線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置は、電子源(カソード)とターゲット(アノード)の間に高電圧を加えて、高速に加速した電子をターゲットに衝突させることでX線を発生させる。
放射線治療に用いるX線としては、数MeV以上の高エネルギーで加速した電子ビームを薄いターゲットに衝突させ、ターゲットの裏面側(前方)に放射される制動X線が用いられる。高速電子ビームがターゲットに衝突すると、ターゲット中で起きる散乱によって、電子ビームが入射した方向(後方)にもX線が放射される。この後方散乱X線は、漏洩対策が十分に施されていないとX線源から外部に漏れて、X線発生装置の使用者の健康に悪影響を及ぼす。
【0003】
そこで、従来、漏洩X線を遮蔽するため、X線源を鉛板によって覆っていた。しかし、鉛板は重量が重く、X線発生装置の小形化、軽量化の妨げとなっていた。
【0004】
特許文献1には本件発明者が開発した透過形ターゲットを用いた小形のX線発生装置が開示されている。図9は、特許文献1によるX線発生装置の一部を拡大して示した概略断面図である。ターゲット1は原子量が大きく、高融点、化学的に安定で熱放射性に優れたAu,W,Mo,Ptなどの金属であって、厚さ0.1mm程度の薄い膜である。高速の電子ビーム4がターゲット1に衝突するとターゲット1の裏面方向にX線6が発生する。発生したX線6は、直接X線ガイド7の出口開口部から外部へ放射されるが、一部のX線はX線ガイド7の内壁で全反射して、外部に放射される。
【0005】
特許文献2には、X線管のエンクロージャ内に、電子源のカソードとX線を発生するアノードターゲットとの間に遮蔽ディスクを配置して、反射形ターゲット表面から放射されるX線を選択的に遮断して、吸収するように形状付けられ、X線が窓以外から漏洩することを防止する方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、冷却器の部分からX線が漏れることを防止するため、X線管球を底板近傍に配置した容器の上部開口部に、伝熱フィンを下方に林立して突出させた伝熱板で閉止し、さらに伝熱板上に放熱フィンを上方に林立して突出させた放熱板を有し、この伝熱板と放熱板の間に金属製のX線遮蔽材を介在させて一体化したX線発生装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3871654号公報
【特許文献2】特表2006−523005号公報
【特許文献3】特開2007−26800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の装置では、高速電子がターゲット面に衝突した結果発生するX線の後方散乱による漏洩X線の対策は考慮されていない。
【0009】
特許文献2では、カソードに接続される高電圧ケーブルの接続部方向に漏れるX線を遮蔽ディスクで遮断し、吸収しようとするもので、従来に比べて高電圧ケーブル接続部近傍の鉛板の量を低減することはできるが、依然所望方向以外の漏洩X線を遮蔽するために鉛板を必要とする。
【0010】
特許文献3は、X線管球を収納したケースの放熱部からのX線の漏れを遮蔽し、しかも放熱能力は維持する発明であるが、X線管球自体をX線遮蔽材で十分に覆うことが必要である。
【0011】
特許文献2および特許文献3では、局所から漏れるX線の遮蔽手段としては効果的であるが、散乱X線は、あらゆる方向に放射されるので、依然として、X線源およびX線発生装置を鉛などのX線遮蔽材で十分に覆わなければならない。そのため、X線発生装置の小形化、軽量化の点でまだ問題が残る。
【0012】
本発明は、前述した問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、透過形ターゲットから発生する後方散乱X線を遮蔽し、吸収してX線源から漏れるX線を大幅に低減することができるX線発生装置を提供することにある。
さらに、ターゲットの放熱性を改善して、ターゲットの冷却機構を簡略化できるX線発生装置を提供することにある。
さらに、該X線発生装置を複数台並べて配置し電子源と偏向手段とを組み合わせることにより、X線治療において患部の形状に合わせて正確にX線を照射し、しかも高速に照射することができるX線治療に好適なX線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために本発明による請求項1記載のX線発生装置は、高速電子ビームを金属製ターゲットに衝突させることによって、前記ターゲットの裏面側よりX線を発生させるX線発生装置において、前記ターゲットの表面側に前記ターゲットを囲むように金属製の筒状シールド管を具備することを特徴とする。
【0014】
本発明による請求項2記載のX線発生装置は、請求項1に記載のX線発生装置において、前記ターゲットの有効形状(X線の発生に寄与する部分の形状)が楕円形又は長多角形(前記楕円形状の外接線により規定される多角形)であって、前記高速電子ビームの入射方向に対して、前記ターゲットが所定の角度をなすように配置されたことを特徴とする。
【0015】
本発明による請求項3記載のX線発生装置は、請求項1に記載のX線発生装置において、前記ターゲットの裏面側に金属製の筒状X線ガイドを備え、前記ターゲットの裏面側より発生するX線が前記X線ガイドの内壁を全反射して前記X線ガイドの出力開口部より放射されることを特徴とする。
【0016】
本発明による請求項4記載のX線発生装置は、請求項3に記載のX線発生装置において、前記X線ガイドの中心孔の形状が円柱又は多角柱であることを特徴とする。
【0017】
本発明による請求項5記載のX線発生装置は、請求項3に記載のX線発生装置において、前記X線ガイドの中心孔の形状が、前記ターゲット裏面側の入口開口部の径より出口開口部の径が狭い円錐台または多角錐台の形状であることを特徴とする。
【0018】
本発明による請求項6記載のX線照射装置は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のX線発生装置を複数台隣接して配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、高速電子ビームを発生する電子源と、前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、前記X線発生装置群の各X線発生装置から互いに平行なX線を発生することを特徴とする。
【0019】
本発明による請求項7記載のX線照射装置は、請求項6に記載のX線照射装置において、前記各X線発生装置は一方向に配置され、前記偏向手段は第1偏向電磁石と第2偏向電磁石とを備え、前記偏向手段で選択されたX線発生装置のX線出力により前記X線発生装置群の照射野にX線の一次元強度分布を形成することを特徴とする。
【0020】
本発明による請求項8記載のX線照射装置は、請求項2に記載のX線発生装置を複数台放射状に配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、前記X線発生装置群の中の各X線発生装置は、放射するX線の方向が相互に一定の関係を持つように配置され、高速電子ビームを発生する電子源と、前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、前記X線発生装置群から放射される各X線が互いに平行に放射されるように、前記X線発生装置群の各々のターゲットが、前記各X線発生装置の中心軸に対して所定の角度に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のX線発生装置によれば、後方散乱したX線をターゲット表面側に設けた筒状シールドで遮蔽し、吸収するので、X線源から漏れるX線を大幅に低減することができる。その結果、X線源を覆う鉛板の厚みを低減することができる。
さらに、ターゲットの形状を楕円形または長多角形としてターゲットの実効面積を広げ、高速電子ビームの進行方向に対して傾きを持たせて配置することで、ターゲットで発生する熱の均一化と放熱性を高めることができる。
さらに、当該X線発生装置を複数台隣接して構成されるX線照射装置によれば、漏れX線を大幅に低減しつつ広い照射野を高速で照射できるので、小形、軽量でしかも高速のX線治療に好適なX線照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本発明によるX線発生装置の実施の形態1とその電子源を示す概略断面図である。
【図1B】本発明によるX線発生装置の実施の形態1を示す斜視図である。
【図1C】本発明によるX線発生装置の実施の形態1による放射X線の強度分布を示す図である。
【図2A】本発明によるX線発生装置の実施の形態2とその電子源を示す概略断面図である。
【図2B】本発明によるX線発生装置の実施の形態2による放射X線の強度分布を示す図である。
【図2C】本発明によるX線発生装置の実施の形態2における傾斜ターゲットの面積を説明する図である。
【図3A】本発明によるX線発生装置の実施の形態3とその電子源を示す概略断面図である。
【図3B】本発明によるX線発生装置の実施の形態3を示す斜視図である。
【図4】本発明によるX線発生装置の実施の形態4とその電子源を示す概略断面図である。
【図5】本発明による図4記載のX線発生装置を複数台中心軸を平行にして一列に配置したX線発生装置群と電子源と偏向手段からなるX線照射装置の実施の形態を示す概略断面図である。
【図6】図5に示すX線照射装置で高速電子ビームが偏向電磁石によって偏向される様子を説明する図である。
【図7A】図5に示すX線照射装置の照射野を示す説明図である。
【図7B】図7Aに示す照射野中の任意のX線発生装置の出力X線照射野幅と強度の関係を示す図である。
【図8】本発明によるさらに他のX線照射装置の実施の形態を示す概略断面図である。
【図9】従来のX線発生装置の一部を拡大して示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、図において、同一の機能をもつ部分については、同一の番号で示している。
本願明細書において、「X線発生装置」とは少なくとも金属製ターゲットと、前記ターゲットの表面側に前記ターゲットを囲むように設けられた金属製の筒状シールド管を具備するものである。「X線発生装置」と電子源その他を組み合わせて目的とする「照射野」をX線照射可能であるが、本願明細書において「X線照射装置」とは、「X線発生装置」複数台からなる「X線発生装置群」とその他の装置を結合して目的とする照射野(一次元または二次元領域)にX線を照射する装置の意味で用いている。
図1Aは、本発明のX線発生装置の実施の形態1の構成を示す概略断面図である。図1Bは、その斜視図を示す。ターゲット1は、原子量が大きく、高融点、化学的に安定、熱放射性に優れたAu,W,Mo,Ptなどの金属であって、厚さ0.1mm程度の薄い膜である。このターゲット1はターゲットホルダ2で支持される。ターゲットホルダ2は、ターゲットで発生する熱を逃がすために熱伝導率の高い銅などが適している。円筒形のシールド管3は、ターゲット1を囲むようにターゲットホルダ2に固定される。シールド管3は、ターゲット1より後方に散乱するX線5を吸収して、外部への漏れを抑制する。シールド管3の材質は、X線吸収の大きいPbやWなどが適している。
【0024】
電子源8から放射された高速電子ビーム4がターゲット1に衝突すると、制動放射によってターゲットの裏面より前方へX線6が放射される。図1Cは、高速電子ビーム4がターゲット1に対して直角に衝突した場合の制動放射X線の強度分布9を示す。高速電子ビーム4のエネルギーが増加するほど、前方向の強度が増加し、電子ビームのエネルギーが低くなるほど横方向の強度が増加する。また、ターゲット中の散乱によって、もとの方向(ターゲットの表面方向)に後方散乱X線5が放射される。シールド管3の内径Dを5mm程度、その長さLを50mm程度とし、シールド管3の厚みTを、後方散乱したX線5を十分に吸収できる厚さとすると、D/L=0.1の場合、tanθ=0.1を満たす角度θ=5.7°に比べて、例えばタングステンの全反射臨界角は0.6°程度であって、5.7°に比べて十分に小さいため、後方散乱X線5の95%はシールド管3の内壁に吸収され、残りの5%の後方散乱X線5がシールド管3の入口から外部へ漏れる。このように、シールド管3を装着することで、X線発生装置から外部へ漏れる後方散乱X線を1/20程度に低減することができる。
【0025】
図2Aは、本発明のX線発生装置の実施の形態2の構成を示す概略断面図である。実施の形態1のターゲット1は、その形状が円形又は多角形であって、ターゲット1に入射した電子ビーム4に対して直角な角度をなしているが、実施の形態2のターゲット1は、その形状が楕円形又は長多角形であって、高速電子ビーム4の進行方向に対して所定の傾きをもっている。実施の形態2のターゲット1の場合、制動放射X線のX線の強度分布9の方向は、図2Bに示すように、中心軸からずれる。実施の形態2のターゲット1の形状は楕円形又は長多角形であるため、実施の形態1のターゲット1に比べてその有効面積が増え、熱分布の均一化と放熱性が増大するという効果がある。図2Cは、楕円形のターゲット1が水平軸に対してθの角度で傾いて配置されている場合を示している。図2Cにおいて、円形のターゲット1が垂直に設置された場合のターゲット面積(S0 )はπa2 であり、これに対して、θが30°の場合、ターゲットの面積(S)はπab=πa2 /sin30°=2πa2 となり、S0 の2倍の面積になる。このように、ターゲット1に傾きをもたせて配置することによって、ターゲット1の有効面積を拡げることができ、その放熱性を改善することができる。ターゲット1は、高速電子ビーム4が衝突することによって、そのエネルギーの大半が熱エネルギーに変換されるため、ターゲット1は高温になり、その冷却が必要である。実施の形態2のターゲット1の場合、実施の形態1のターゲット1に比べて、放熱性が高いので、冷却機構を簡略化し、小形で軽量なX線発生装置を提供することができる。
【0026】
図3Aは、本発明のX線発生装置の実施の形態3の構成を示す概略断面図である。図3Bは、その斜視図を示す。図3Aおよび図3Bに示すように、ターゲット1の裏面側にX線ガイド7が配置されている。ターゲット1から放射されたX線6は、このX線ガイド7によって、X線6の拡がりを抑えられ、その照射野を絞ることができる。この機能は、従来のX線治療装置などでX線の照射野を調整するために使用されているコリメータと同様の機能を果たす。X線ガイド7をターゲット1の間近に配置することで、X線線量の損失を抑えることができる。X線ガイド7の材質は、Au,W,Mo,Ptなどが適している。X線ガイド7の中心孔の形状は、円柱または多角柱である。
【0027】
図4は、本発明のX線発生装置の実施の形態4の構成を示す概略断面図である。この実施の形態4のX線ガイド7の中心孔の形状は、円錐台または多角錐台である。図4において、X線ガイド7の出口開口部の径(Do)は、入口開口部の径(Di)に比べて狭くなっているので(Di>Do)、細いX線ビームを放射することができる。本発明によるX線発生装置をX線治療装置に適用すると、複雑な形状をした腫瘍に沿って正確にX線を照射することができるので、健全な組織に対する損傷を抑えることができる。
【0028】
図5は本発明によるX線照射装置の実施の形態を示す概略断面図である。本発明によるX線照射装置は照射野に線状にX線ビームを略平行に提供することができる。
このX線照射装置は、前述した実施の形態4のX線発生装置を縦列にn台隣接するように並べたX線発生装置群10と、電子源8と、高速電子ビーム4が任意のX線発生装置の中心軸に対して平行に入射するように、高速電子ビーム4の軌道を偏向する第1偏向電磁石20と第2偏向電磁石21を具備している。図5において、高電圧で加速された高速電子ビーム4は、第1偏向電磁石20と第2偏向電磁石21によって目標とするX線発生装置10−i(iは整数)のターゲット1に水平に直進するように偏向される。第1偏向電磁石20および第2偏向電磁石21は、それぞれ平行平板電磁石であって、第1偏向電磁石20は、高速電子ビーム4の進行方向を目標とするX線発生装置10−iの方向に曲げるように作用する。第2偏向電磁石21は、高速電子ビーム4が目標とするX線発生装置10−iの中心軸に対して平行に入射し、ターゲット1に向かって直進するようにその進行方向を偏向する。本実施の形態によれば、高速電子ビーム4を偏向するだけで、帯状にX線を照射することができる。この実施の形態のX線照射装置をX線治療装置に適用すると、X線ヘッドの移動、回転などの機械的な移動時間を低減できるので、X線治療装置の高速化を図ることができる。図5に示す実施の形態のX線照射装置は、X線発生装置群10に、前述した実施の形態4のX線発生装置を適用した例を示しているが、その他の実施の形態に示すX線発生装置を適用しても同様の効果があることは明らかである。
【0029】
図6は、前述したX線照射装置の実施の形態に含まれる第1偏向電磁石20と第2偏向電磁石21によって高速電子ビーム4が偏向される様子を説明する図である。矩形領域20aは、第1偏向電磁石20によって発生する磁束密度B1 の磁場であり、矩形領域21aは、第2偏向電磁石21によって発生する磁束密度B2 の磁場を示す。磁場20aの磁界の向きは、XY面に垂直なZ軸の正方向(紙面の裏から表方向)になるように設定され、磁場21aの磁界の向きはその反対方向(紙面の表から裏方向)に設定されている。いま、高速の電子が、この磁束密度B1 の磁場のP0 (0,0)点に進入すると、ローレンツ力が、電子に働き、電子は半径r1 の円軌道上を等速運動する。電子が磁場20aの端を横切る点の座標をP1 (l1 ,dl1 )とすると、P1 点におけるX軸に対する電子の運動方向の偏向角度θ1 は、以下の式で表わすことができる。
【数1】
【0030】
磁場のない領域では、電子の運動は、XY平面に平行な直線等速運動になるので、P1 (l1 ,dl1 )点を通過した電子は、直線方向に走行し、P2 点に到達する。P2 点に達した電子は、磁束密度B2 の磁場により、C2 点を中心とする半径r2 の円軌道上を等速運動する。P2 点におけるX軸に対する電子の運動方向の偏向角度をθ2 とすると、以下の式が成り立つ。
【数2】
【0031】
ΔX=0のとき、つまりP3 点が円の中心C2 点と同じX座標上にある場合は、円軌道上のP3 点における接線は、θ2 =0となり、X軸と平行になる。すなわち、電子は、X軸に平行にターゲット1に向かって直進し、X線を発生させ照射野にX線ビームを線状に略平行に提供する。
【0032】
図7Aは、図5の実施の形態のX線照射装置から放射されるX線の照射野を示す。本発明のX線照射装置は、IMRT(強度変調放射線治療)に好適なX線治療装置に利用できる。IMRTは、病巣部の3次元形状に合わせてX線の強度を制御し、X線ビームを多方向から照射するもので、病巣部のみにX線を集中照射して治療する画期的な新照射技術である。これによって、従来の方法に比べて腫瘍制御率の向上や合併症の軽減が期待されている。
図7Aにおいて、X方向は、図5の上下方向に対応し、X線発生装置群10から放射されるX線の照射野を示し、Y方向は、X線照射装置(8,20,21,10)を移動させることによって形成される照射野を示す。
図7Bに、図7Aに示す照射野中の任意のX線発生装置の出力X線照射野幅と強度の関係を示してある。各々の照射野は、照射強度が1/2に減少する線が隣同士で重なり合うように調整される。照射野の円形パターンは、X線ガイド7の開口面の形状が円形の場合であって、開口面を正方形にすれば、その照射野のパターンは、ほぼ正方形となる。X線ガイド7の開口面の形状は適宜変更することができる。
【0033】
図7Aに示す照射野のパターン例は、X線発生装置群10が10台のX線発生装置を単列に隣接して配置した構成の場合である。X1〜X10は、X線発生装置群10を構成する10台のX線発生装置によって形成される照射野を示す。Y5の照射野パターンは、X1とX10に相当するX線発生装置がX線の照射を停止した場合を示す。このように、X線発生装置群10を構成する各々のX線発生装置の照射を制御することで、細いX線ビームによって治療対象部位の形状に合わせて正確に照射することが可能となる。また、電子ビーム4のエネルギーを制御することによって、各々のX線発生装置より照射されるX線の強度を制御することができるので、患部の3次元形状に合わせた適切なX線治療が可能となる。
【0034】
図8は、本発明のX線照射装置の他の実施の形態の構成を示す概略断面図であり、本発明のX線発生装置の実施の形態2に示すX線発生装置を放射状に配置してなるX線発生装置群10と、電子源8および偏向電磁石20から構成されている。
偏向電磁石20によって放射状に偏向された高速電子ビーム4が、X線発生装置の中心軸に対して平行に入射するように、X線発生装置は、放射状に配置される。放射状に配置された各々のX線発生装置のターゲット1の角度をその水平軸に対して適切に設定することで、各々のX線発生装置から放射されるX線を全て水平に放射することができる。
このX線照射装置によれば、1台の偏向電磁石で広い照射野に水平なX線を照射することができる。さらに各々のX線発生装置のターゲット1は、その形状が楕円形または長多角形であって、高速電子ビーム4の進行方向に対して所定の傾きをもって設置されるので、ターゲットの実効面積が拡がり、放熱性が改善され、ターゲット1の冷却機構を軽減することができる。したがって、小形で軽量なX線発生装置を提供することができる。
【0035】
以上の説明においては、X線照射装置のX線発生装置群10は、X線発生装置を単列に配置した場合を説明したが、X線発生装置群の構成は、適宜変更することができる。たとえば、X線発生装置をn×m(n、mはそれぞれ整数)のマトリックス状に並べて構成することもできる。このように、X線発生装置群をマトリックス状に構成することによって、X線治療装置のX線ヘッドの移動動作を減らすことができるので、一層高速に治療することが可能となり、患者の負担を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るX線発生装置およびそれを用いたX線治療用のX線照射装置は、医療の分野においては、IMRTに好適なX線治療装置として提供することができる。本発明に係るX線発生装置は、工業の分野においては、非破壊検査装置やX線分析装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ターゲット
2 ターゲットホルダ
3 シールド管
4 高速電子ビーム
5 後方散乱X線
6 照射X線
7 X線ガイド
8 電子源
9 X線強度分布
10 X線発生装置群
10−i i番目のX線発生装置
20 第1偏向電磁石
20a 第1偏向電磁石が形成する磁場
21 第2偏向電磁石
21a 第2偏向電磁石が形成する磁場
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過形ターゲットを用いたX線発生装置に係わり、特に、後方散乱X線を遮蔽し、その漏洩を低減するX線発生装置に関する。さらにこれらの装置群(2以上の装置を含む)と電子源と電子ビーム偏向手段とを組み合わせて、特定の照射野にX線ビーム群を照射するX線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置は、電子源(カソード)とターゲット(アノード)の間に高電圧を加えて、高速に加速した電子をターゲットに衝突させることでX線を発生させる。
放射線治療に用いるX線としては、数MeV以上の高エネルギーで加速した電子ビームを薄いターゲットに衝突させ、ターゲットの裏面側(前方)に放射される制動X線が用いられる。高速電子ビームがターゲットに衝突すると、ターゲット中で起きる散乱によって、電子ビームが入射した方向(後方)にもX線が放射される。この後方散乱X線は、漏洩対策が十分に施されていないとX線源から外部に漏れて、X線発生装置の使用者の健康に悪影響を及ぼす。
【0003】
そこで、従来、漏洩X線を遮蔽するため、X線源を鉛板によって覆っていた。しかし、鉛板は重量が重く、X線発生装置の小形化、軽量化の妨げとなっていた。
【0004】
特許文献1には本件発明者が開発した透過形ターゲットを用いた小形のX線発生装置が開示されている。図9は、特許文献1によるX線発生装置の一部を拡大して示した概略断面図である。ターゲット1は原子量が大きく、高融点、化学的に安定で熱放射性に優れたAu,W,Mo,Ptなどの金属であって、厚さ0.1mm程度の薄い膜である。高速の電子ビーム4がターゲット1に衝突するとターゲット1の裏面方向にX線6が発生する。発生したX線6は、直接X線ガイド7の出口開口部から外部へ放射されるが、一部のX線はX線ガイド7の内壁で全反射して、外部に放射される。
【0005】
特許文献2には、X線管のエンクロージャ内に、電子源のカソードとX線を発生するアノードターゲットとの間に遮蔽ディスクを配置して、反射形ターゲット表面から放射されるX線を選択的に遮断して、吸収するように形状付けられ、X線が窓以外から漏洩することを防止する方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、冷却器の部分からX線が漏れることを防止するため、X線管球を底板近傍に配置した容器の上部開口部に、伝熱フィンを下方に林立して突出させた伝熱板で閉止し、さらに伝熱板上に放熱フィンを上方に林立して突出させた放熱板を有し、この伝熱板と放熱板の間に金属製のX線遮蔽材を介在させて一体化したX線発生装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3871654号公報
【特許文献2】特表2006−523005号公報
【特許文献3】特開2007−26800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の装置では、高速電子がターゲット面に衝突した結果発生するX線の後方散乱による漏洩X線の対策は考慮されていない。
【0009】
特許文献2では、カソードに接続される高電圧ケーブルの接続部方向に漏れるX線を遮蔽ディスクで遮断し、吸収しようとするもので、従来に比べて高電圧ケーブル接続部近傍の鉛板の量を低減することはできるが、依然所望方向以外の漏洩X線を遮蔽するために鉛板を必要とする。
【0010】
特許文献3は、X線管球を収納したケースの放熱部からのX線の漏れを遮蔽し、しかも放熱能力は維持する発明であるが、X線管球自体をX線遮蔽材で十分に覆うことが必要である。
【0011】
特許文献2および特許文献3では、局所から漏れるX線の遮蔽手段としては効果的であるが、散乱X線は、あらゆる方向に放射されるので、依然として、X線源およびX線発生装置を鉛などのX線遮蔽材で十分に覆わなければならない。そのため、X線発生装置の小形化、軽量化の点でまだ問題が残る。
【0012】
本発明は、前述した問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、透過形ターゲットから発生する後方散乱X線を遮蔽し、吸収してX線源から漏れるX線を大幅に低減することができるX線発生装置を提供することにある。
さらに、ターゲットの放熱性を改善して、ターゲットの冷却機構を簡略化できるX線発生装置を提供することにある。
さらに、該X線発生装置を複数台並べて配置し電子源と偏向手段とを組み合わせることにより、X線治療において患部の形状に合わせて正確にX線を照射し、しかも高速に照射することができるX線治療に好適なX線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために本発明による請求項1記載のX線発生装置は、高速電子ビームを金属製ターゲットに衝突させることによって、前記ターゲットの裏面側よりX線を発生させるX線発生装置において、前記ターゲットの表面側に前記ターゲットを囲むように金属製の筒状シールド管を具備することを特徴とする。
【0014】
本発明による請求項2記載のX線発生装置は、請求項1に記載のX線発生装置において、前記ターゲットの有効形状(X線の発生に寄与する部分の形状)が楕円形又は長多角形(前記楕円形状の外接線により規定される多角形)であって、前記高速電子ビームの入射方向に対して、前記ターゲットが所定の角度をなすように配置されたことを特徴とする。
【0015】
本発明による請求項3記載のX線発生装置は、請求項1に記載のX線発生装置において、前記ターゲットの裏面側に金属製の筒状X線ガイドを備え、前記ターゲットの裏面側より発生するX線が前記X線ガイドの内壁を全反射して前記X線ガイドの出力開口部より放射されることを特徴とする。
【0016】
本発明による請求項4記載のX線発生装置は、請求項3に記載のX線発生装置において、前記X線ガイドの中心孔の形状が円柱又は多角柱であることを特徴とする。
【0017】
本発明による請求項5記載のX線発生装置は、請求項3に記載のX線発生装置において、前記X線ガイドの中心孔の形状が、前記ターゲット裏面側の入口開口部の径より出口開口部の径が狭い円錐台または多角錐台の形状であることを特徴とする。
【0018】
本発明による請求項6記載のX線照射装置は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のX線発生装置を複数台隣接して配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、高速電子ビームを発生する電子源と、前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、前記X線発生装置群の各X線発生装置から互いに平行なX線を発生することを特徴とする。
【0019】
本発明による請求項7記載のX線照射装置は、請求項6に記載のX線照射装置において、前記各X線発生装置は一方向に配置され、前記偏向手段は第1偏向電磁石と第2偏向電磁石とを備え、前記偏向手段で選択されたX線発生装置のX線出力により前記X線発生装置群の照射野にX線の一次元強度分布を形成することを特徴とする。
【0020】
本発明による請求項8記載のX線照射装置は、請求項2に記載のX線発生装置を複数台放射状に配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、前記X線発生装置群の中の各X線発生装置は、放射するX線の方向が相互に一定の関係を持つように配置され、高速電子ビームを発生する電子源と、前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、前記X線発生装置群から放射される各X線が互いに平行に放射されるように、前記X線発生装置群の各々のターゲットが、前記各X線発生装置の中心軸に対して所定の角度に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のX線発生装置によれば、後方散乱したX線をターゲット表面側に設けた筒状シールドで遮蔽し、吸収するので、X線源から漏れるX線を大幅に低減することができる。その結果、X線源を覆う鉛板の厚みを低減することができる。
さらに、ターゲットの形状を楕円形または長多角形としてターゲットの実効面積を広げ、高速電子ビームの進行方向に対して傾きを持たせて配置することで、ターゲットで発生する熱の均一化と放熱性を高めることができる。
さらに、当該X線発生装置を複数台隣接して構成されるX線照射装置によれば、漏れX線を大幅に低減しつつ広い照射野を高速で照射できるので、小形、軽量でしかも高速のX線治療に好適なX線照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本発明によるX線発生装置の実施の形態1とその電子源を示す概略断面図である。
【図1B】本発明によるX線発生装置の実施の形態1を示す斜視図である。
【図1C】本発明によるX線発生装置の実施の形態1による放射X線の強度分布を示す図である。
【図2A】本発明によるX線発生装置の実施の形態2とその電子源を示す概略断面図である。
【図2B】本発明によるX線発生装置の実施の形態2による放射X線の強度分布を示す図である。
【図2C】本発明によるX線発生装置の実施の形態2における傾斜ターゲットの面積を説明する図である。
【図3A】本発明によるX線発生装置の実施の形態3とその電子源を示す概略断面図である。
【図3B】本発明によるX線発生装置の実施の形態3を示す斜視図である。
【図4】本発明によるX線発生装置の実施の形態4とその電子源を示す概略断面図である。
【図5】本発明による図4記載のX線発生装置を複数台中心軸を平行にして一列に配置したX線発生装置群と電子源と偏向手段からなるX線照射装置の実施の形態を示す概略断面図である。
【図6】図5に示すX線照射装置で高速電子ビームが偏向電磁石によって偏向される様子を説明する図である。
【図7A】図5に示すX線照射装置の照射野を示す説明図である。
【図7B】図7Aに示す照射野中の任意のX線発生装置の出力X線照射野幅と強度の関係を示す図である。
【図8】本発明によるさらに他のX線照射装置の実施の形態を示す概略断面図である。
【図9】従来のX線発生装置の一部を拡大して示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、図において、同一の機能をもつ部分については、同一の番号で示している。
本願明細書において、「X線発生装置」とは少なくとも金属製ターゲットと、前記ターゲットの表面側に前記ターゲットを囲むように設けられた金属製の筒状シールド管を具備するものである。「X線発生装置」と電子源その他を組み合わせて目的とする「照射野」をX線照射可能であるが、本願明細書において「X線照射装置」とは、「X線発生装置」複数台からなる「X線発生装置群」とその他の装置を結合して目的とする照射野(一次元または二次元領域)にX線を照射する装置の意味で用いている。
図1Aは、本発明のX線発生装置の実施の形態1の構成を示す概略断面図である。図1Bは、その斜視図を示す。ターゲット1は、原子量が大きく、高融点、化学的に安定、熱放射性に優れたAu,W,Mo,Ptなどの金属であって、厚さ0.1mm程度の薄い膜である。このターゲット1はターゲットホルダ2で支持される。ターゲットホルダ2は、ターゲットで発生する熱を逃がすために熱伝導率の高い銅などが適している。円筒形のシールド管3は、ターゲット1を囲むようにターゲットホルダ2に固定される。シールド管3は、ターゲット1より後方に散乱するX線5を吸収して、外部への漏れを抑制する。シールド管3の材質は、X線吸収の大きいPbやWなどが適している。
【0024】
電子源8から放射された高速電子ビーム4がターゲット1に衝突すると、制動放射によってターゲットの裏面より前方へX線6が放射される。図1Cは、高速電子ビーム4がターゲット1に対して直角に衝突した場合の制動放射X線の強度分布9を示す。高速電子ビーム4のエネルギーが増加するほど、前方向の強度が増加し、電子ビームのエネルギーが低くなるほど横方向の強度が増加する。また、ターゲット中の散乱によって、もとの方向(ターゲットの表面方向)に後方散乱X線5が放射される。シールド管3の内径Dを5mm程度、その長さLを50mm程度とし、シールド管3の厚みTを、後方散乱したX線5を十分に吸収できる厚さとすると、D/L=0.1の場合、tanθ=0.1を満たす角度θ=5.7°に比べて、例えばタングステンの全反射臨界角は0.6°程度であって、5.7°に比べて十分に小さいため、後方散乱X線5の95%はシールド管3の内壁に吸収され、残りの5%の後方散乱X線5がシールド管3の入口から外部へ漏れる。このように、シールド管3を装着することで、X線発生装置から外部へ漏れる後方散乱X線を1/20程度に低減することができる。
【0025】
図2Aは、本発明のX線発生装置の実施の形態2の構成を示す概略断面図である。実施の形態1のターゲット1は、その形状が円形又は多角形であって、ターゲット1に入射した電子ビーム4に対して直角な角度をなしているが、実施の形態2のターゲット1は、その形状が楕円形又は長多角形であって、高速電子ビーム4の進行方向に対して所定の傾きをもっている。実施の形態2のターゲット1の場合、制動放射X線のX線の強度分布9の方向は、図2Bに示すように、中心軸からずれる。実施の形態2のターゲット1の形状は楕円形又は長多角形であるため、実施の形態1のターゲット1に比べてその有効面積が増え、熱分布の均一化と放熱性が増大するという効果がある。図2Cは、楕円形のターゲット1が水平軸に対してθの角度で傾いて配置されている場合を示している。図2Cにおいて、円形のターゲット1が垂直に設置された場合のターゲット面積(S0 )はπa2 であり、これに対して、θが30°の場合、ターゲットの面積(S)はπab=πa2 /sin30°=2πa2 となり、S0 の2倍の面積になる。このように、ターゲット1に傾きをもたせて配置することによって、ターゲット1の有効面積を拡げることができ、その放熱性を改善することができる。ターゲット1は、高速電子ビーム4が衝突することによって、そのエネルギーの大半が熱エネルギーに変換されるため、ターゲット1は高温になり、その冷却が必要である。実施の形態2のターゲット1の場合、実施の形態1のターゲット1に比べて、放熱性が高いので、冷却機構を簡略化し、小形で軽量なX線発生装置を提供することができる。
【0026】
図3Aは、本発明のX線発生装置の実施の形態3の構成を示す概略断面図である。図3Bは、その斜視図を示す。図3Aおよび図3Bに示すように、ターゲット1の裏面側にX線ガイド7が配置されている。ターゲット1から放射されたX線6は、このX線ガイド7によって、X線6の拡がりを抑えられ、その照射野を絞ることができる。この機能は、従来のX線治療装置などでX線の照射野を調整するために使用されているコリメータと同様の機能を果たす。X線ガイド7をターゲット1の間近に配置することで、X線線量の損失を抑えることができる。X線ガイド7の材質は、Au,W,Mo,Ptなどが適している。X線ガイド7の中心孔の形状は、円柱または多角柱である。
【0027】
図4は、本発明のX線発生装置の実施の形態4の構成を示す概略断面図である。この実施の形態4のX線ガイド7の中心孔の形状は、円錐台または多角錐台である。図4において、X線ガイド7の出口開口部の径(Do)は、入口開口部の径(Di)に比べて狭くなっているので(Di>Do)、細いX線ビームを放射することができる。本発明によるX線発生装置をX線治療装置に適用すると、複雑な形状をした腫瘍に沿って正確にX線を照射することができるので、健全な組織に対する損傷を抑えることができる。
【0028】
図5は本発明によるX線照射装置の実施の形態を示す概略断面図である。本発明によるX線照射装置は照射野に線状にX線ビームを略平行に提供することができる。
このX線照射装置は、前述した実施の形態4のX線発生装置を縦列にn台隣接するように並べたX線発生装置群10と、電子源8と、高速電子ビーム4が任意のX線発生装置の中心軸に対して平行に入射するように、高速電子ビーム4の軌道を偏向する第1偏向電磁石20と第2偏向電磁石21を具備している。図5において、高電圧で加速された高速電子ビーム4は、第1偏向電磁石20と第2偏向電磁石21によって目標とするX線発生装置10−i(iは整数)のターゲット1に水平に直進するように偏向される。第1偏向電磁石20および第2偏向電磁石21は、それぞれ平行平板電磁石であって、第1偏向電磁石20は、高速電子ビーム4の進行方向を目標とするX線発生装置10−iの方向に曲げるように作用する。第2偏向電磁石21は、高速電子ビーム4が目標とするX線発生装置10−iの中心軸に対して平行に入射し、ターゲット1に向かって直進するようにその進行方向を偏向する。本実施の形態によれば、高速電子ビーム4を偏向するだけで、帯状にX線を照射することができる。この実施の形態のX線照射装置をX線治療装置に適用すると、X線ヘッドの移動、回転などの機械的な移動時間を低減できるので、X線治療装置の高速化を図ることができる。図5に示す実施の形態のX線照射装置は、X線発生装置群10に、前述した実施の形態4のX線発生装置を適用した例を示しているが、その他の実施の形態に示すX線発生装置を適用しても同様の効果があることは明らかである。
【0029】
図6は、前述したX線照射装置の実施の形態に含まれる第1偏向電磁石20と第2偏向電磁石21によって高速電子ビーム4が偏向される様子を説明する図である。矩形領域20aは、第1偏向電磁石20によって発生する磁束密度B1 の磁場であり、矩形領域21aは、第2偏向電磁石21によって発生する磁束密度B2 の磁場を示す。磁場20aの磁界の向きは、XY面に垂直なZ軸の正方向(紙面の裏から表方向)になるように設定され、磁場21aの磁界の向きはその反対方向(紙面の表から裏方向)に設定されている。いま、高速の電子が、この磁束密度B1 の磁場のP0 (0,0)点に進入すると、ローレンツ力が、電子に働き、電子は半径r1 の円軌道上を等速運動する。電子が磁場20aの端を横切る点の座標をP1 (l1 ,dl1 )とすると、P1 点におけるX軸に対する電子の運動方向の偏向角度θ1 は、以下の式で表わすことができる。
【数1】
【0030】
磁場のない領域では、電子の運動は、XY平面に平行な直線等速運動になるので、P1 (l1 ,dl1 )点を通過した電子は、直線方向に走行し、P2 点に到達する。P2 点に達した電子は、磁束密度B2 の磁場により、C2 点を中心とする半径r2 の円軌道上を等速運動する。P2 点におけるX軸に対する電子の運動方向の偏向角度をθ2 とすると、以下の式が成り立つ。
【数2】
【0031】
ΔX=0のとき、つまりP3 点が円の中心C2 点と同じX座標上にある場合は、円軌道上のP3 点における接線は、θ2 =0となり、X軸と平行になる。すなわち、電子は、X軸に平行にターゲット1に向かって直進し、X線を発生させ照射野にX線ビームを線状に略平行に提供する。
【0032】
図7Aは、図5の実施の形態のX線照射装置から放射されるX線の照射野を示す。本発明のX線照射装置は、IMRT(強度変調放射線治療)に好適なX線治療装置に利用できる。IMRTは、病巣部の3次元形状に合わせてX線の強度を制御し、X線ビームを多方向から照射するもので、病巣部のみにX線を集中照射して治療する画期的な新照射技術である。これによって、従来の方法に比べて腫瘍制御率の向上や合併症の軽減が期待されている。
図7Aにおいて、X方向は、図5の上下方向に対応し、X線発生装置群10から放射されるX線の照射野を示し、Y方向は、X線照射装置(8,20,21,10)を移動させることによって形成される照射野を示す。
図7Bに、図7Aに示す照射野中の任意のX線発生装置の出力X線照射野幅と強度の関係を示してある。各々の照射野は、照射強度が1/2に減少する線が隣同士で重なり合うように調整される。照射野の円形パターンは、X線ガイド7の開口面の形状が円形の場合であって、開口面を正方形にすれば、その照射野のパターンは、ほぼ正方形となる。X線ガイド7の開口面の形状は適宜変更することができる。
【0033】
図7Aに示す照射野のパターン例は、X線発生装置群10が10台のX線発生装置を単列に隣接して配置した構成の場合である。X1〜X10は、X線発生装置群10を構成する10台のX線発生装置によって形成される照射野を示す。Y5の照射野パターンは、X1とX10に相当するX線発生装置がX線の照射を停止した場合を示す。このように、X線発生装置群10を構成する各々のX線発生装置の照射を制御することで、細いX線ビームによって治療対象部位の形状に合わせて正確に照射することが可能となる。また、電子ビーム4のエネルギーを制御することによって、各々のX線発生装置より照射されるX線の強度を制御することができるので、患部の3次元形状に合わせた適切なX線治療が可能となる。
【0034】
図8は、本発明のX線照射装置の他の実施の形態の構成を示す概略断面図であり、本発明のX線発生装置の実施の形態2に示すX線発生装置を放射状に配置してなるX線発生装置群10と、電子源8および偏向電磁石20から構成されている。
偏向電磁石20によって放射状に偏向された高速電子ビーム4が、X線発生装置の中心軸に対して平行に入射するように、X線発生装置は、放射状に配置される。放射状に配置された各々のX線発生装置のターゲット1の角度をその水平軸に対して適切に設定することで、各々のX線発生装置から放射されるX線を全て水平に放射することができる。
このX線照射装置によれば、1台の偏向電磁石で広い照射野に水平なX線を照射することができる。さらに各々のX線発生装置のターゲット1は、その形状が楕円形または長多角形であって、高速電子ビーム4の進行方向に対して所定の傾きをもって設置されるので、ターゲットの実効面積が拡がり、放熱性が改善され、ターゲット1の冷却機構を軽減することができる。したがって、小形で軽量なX線発生装置を提供することができる。
【0035】
以上の説明においては、X線照射装置のX線発生装置群10は、X線発生装置を単列に配置した場合を説明したが、X線発生装置群の構成は、適宜変更することができる。たとえば、X線発生装置をn×m(n、mはそれぞれ整数)のマトリックス状に並べて構成することもできる。このように、X線発生装置群をマトリックス状に構成することによって、X線治療装置のX線ヘッドの移動動作を減らすことができるので、一層高速に治療することが可能となり、患者の負担を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るX線発生装置およびそれを用いたX線治療用のX線照射装置は、医療の分野においては、IMRTに好適なX線治療装置として提供することができる。本発明に係るX線発生装置は、工業の分野においては、非破壊検査装置やX線分析装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ターゲット
2 ターゲットホルダ
3 シールド管
4 高速電子ビーム
5 後方散乱X線
6 照射X線
7 X線ガイド
8 電子源
9 X線強度分布
10 X線発生装置群
10−i i番目のX線発生装置
20 第1偏向電磁石
20a 第1偏向電磁石が形成する磁場
21 第2偏向電磁石
21a 第2偏向電磁石が形成する磁場
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速電子ビームを金属製ターゲットに衝突させることによって、前記ターゲットの裏面側よりX線を発生させるX線発生装置において、
前記ターゲットの表面側に前記ターゲットを囲むように金属製の筒状シールド管を具備することを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記ターゲットの有効形状が楕円形又は長多角形であって、前記高速電子ビームの入射方向に対して、前記ターゲットが所定の角度をなすように配置されたことを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記ターゲットの裏面側に金属製の筒状X線ガイドを備え、前記ターゲットの裏面側より発生するX線が前記X線ガイドの出力開口部より放射されることを特徴とするX線発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線発生装置において、
前記X線ガイドの中心孔の形状が円柱又は多角柱であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項5】
請求項3に記載のX線発生装置において、
前記X線ガイドの中心孔の形状が、前記ターゲット裏面側の入口開口部の径より出口開口部の径が狭い円錐台または多角錐台の形状であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のX線発生装置を複数台隣接して配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、
高速電子ビームを発生する電子源と、
前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、
前記X線発生装置群の各X線発生装置から互いに平行なX線を発生することを特徴とするX線照射装置。
【請求項7】
請求項6に記載のX線照射装置において、
前記各X線発生装置は一方向に配置され、
前記偏向手段は第1偏向電磁石と第2偏向電磁石とを備え、
前記偏向手段で選択されたX線発生装置のX線出力により前記X線発生装置群の照射野にX線の一次元強度分布を形成することを特徴とするX線照射装置。
【請求項8】
請求項2に記載のX線発生装置を複数台放射状に配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、
前記X線発生装置群の中の各X線発生装置は、放射するX線の方向が相互に一定の関係を持つように配置され、
高速電子ビームを発生する電子源と、
前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、
前記X線発生装置群から放射される各X線が互いに平行に放射されるように、前記X線発生装置群の各々のターゲットが、前記各X線発生装置の中心軸に対して所定の角度に設定されることを特徴とするX線照射装置。
【請求項1】
高速電子ビームを金属製ターゲットに衝突させることによって、前記ターゲットの裏面側よりX線を発生させるX線発生装置において、
前記ターゲットの表面側に前記ターゲットを囲むように金属製の筒状シールド管を具備することを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記ターゲットの有効形状が楕円形又は長多角形であって、前記高速電子ビームの入射方向に対して、前記ターゲットが所定の角度をなすように配置されたことを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記ターゲットの裏面側に金属製の筒状X線ガイドを備え、前記ターゲットの裏面側より発生するX線が前記X線ガイドの出力開口部より放射されることを特徴とするX線発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線発生装置において、
前記X線ガイドの中心孔の形状が円柱又は多角柱であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項5】
請求項3に記載のX線発生装置において、
前記X線ガイドの中心孔の形状が、前記ターゲット裏面側の入口開口部の径より出口開口部の径が狭い円錐台または多角錐台の形状であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のX線発生装置を複数台隣接して配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、
高速電子ビームを発生する電子源と、
前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、
前記X線発生装置群の各X線発生装置から互いに平行なX線を発生することを特徴とするX線照射装置。
【請求項7】
請求項6に記載のX線照射装置において、
前記各X線発生装置は一方向に配置され、
前記偏向手段は第1偏向電磁石と第2偏向電磁石とを備え、
前記偏向手段で選択されたX線発生装置のX線出力により前記X線発生装置群の照射野にX線の一次元強度分布を形成することを特徴とするX線照射装置。
【請求項8】
請求項2に記載のX線発生装置を複数台放射状に配置したX線発生装置群を用いたX線照射装置であって、
前記X線発生装置群の中の各X線発生装置は、放射するX線の方向が相互に一定の関係を持つように配置され、
高速電子ビームを発生する電子源と、
前記X線発生装置群の中の任意のX線発生装置の中心軸と平行に入射するように前記高速電子ビームを偏向する偏向手段とを設け、
前記X線発生装置群から放射される各X線が互いに平行に放射されるように、前記X線発生装置群の各々のターゲットが、前記各X線発生装置の中心軸に対して所定の角度に設定されることを特徴とするX線照射装置。
【図1C】
【図2B】
【図2C】
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図2B】
【図2C】
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−138203(P2012−138203A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288379(P2010−288379)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(599008285)株式会社エーイーティー (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(599008285)株式会社エーイーティー (8)
【Fターム(参考)】
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