説明

X線発生装置及びX線発生装置の制御方法

【課題】複数の異なるエネルギーのX線を放射すると共に、生成したX線のエネルギーのばらつきを抑制する。
【解決手段】X線検査装置10に備えられるX線発生装置14は、粒子加速装置20が複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成し、ターゲット22に荷電粒子ビームが照射されることによってX線を放射する。単一エネルギー制御装置は、ターゲット22に荷電粒子ビームが照射されることによって、ターゲット22に流れる電流の計測値及びターゲット22から放射されるX線の線量の計測値から求められる単位ターゲット電流当たりのX線線量に基づいて、異なるエネルギーのX線毎に粒子加速装置20を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置及びX線発生装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粒子加速装置によって発生された荷電粒子ビームを、モリブデン及びタングステン等の重金属であるターゲットに照射することによりX線を放射させるX線発生装置が開発されている。このようなX線発生装置で発生されるX線は、医療や非破壊検査による画像診断や断層撮影、及び結晶構造を調べるための回折等に用いられる。
より具体的には、例えば、輸出入における密輸品検査や爆発物等の不審物(検査対象物)をX線で検査するX線検査装置として、種々の物質の組成に適合して検査するために、複数の異なるエネルギーのX線を放射させるX線発生装置を用いたX線検査装置が提案されている。このような検査装置は、低原子数、低密度で透過性の高い物質(例えばプラスチック等)を検査するためには、比較的低エネルギーのX線(約500keV以下)を用い、高い原子数の物質(例えば核物質等)を検査するためには、photo-neutron(光中性子)が発生する高いエネルギーを有するX線(5〜10MeV程度)を用いる。
【0003】
特許文献1には、電子を加速させるために直列に接続された加速管へ供給するRFエネルギーを、高速に切り替え可能なパワーディバイダーやフェーズシフタで分配するパルス切り替え可能な、複数の異なるエネルギーのX線を生成する線形加速器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0211431号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている線形加速器では、複数の異なるエネルギーのX線を生成できるものの、時間的に安定したエネルギーのX線を生成させることができなかった。その結果、放射されるX線のエネルギースペクトルは、ブロードなスペクトルとなる、すなわち、生成されるX線のエネルギーにばらつきが生じていた。X線のエネルギーにばらつきが生じると、検査対象物に対する検査精度が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、複数の異なるエネルギーのX線を放射すると共に、生成したX線のエネルギーのばらつきを抑制することができるX線発生装置及びX線発生装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のX線発生装置及びX線発生装置の制御方法は以下の手段を採用する。
【0008】
すなわち、本発明に係るX線発生装置は、検査対象物へX線を照射するX線発生装置であって、複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成する粒子加速装置と、前記荷電粒子ビームが照射されることによって、X線を放射するターゲットと、前記ターゲットに前記荷電粒子ビームが照射されることによって、前記ターゲットに流れる電流を計測する電流計測手段と、前記ターゲットに前記荷電粒子ビームが照射されることによって、前記ターゲットから放射されるX線の線量を計測する線量計測手段と、前記電流計測手段による計測値及び前記線量計測手段による計測値から求められる単位電流当たりのX線線量に基づいて、前記異なるエネルギーのX線毎に前記粒子加速装置を制御する制御手段と、を備える。
【0009】
本発明によれば、検査対象物へX線を照射するX線発生装置は、粒子加速装置によって、複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームが生成され、ターゲットに荷電粒子ビームが照射されることによって、X線が放射される。
複数の異なるエネルギーのX線によって検査対象物を検査することによって、検査対象物を構成する種々の物質の組成に適合した検査が可能である。
また、電流計測手段によって、ターゲットに荷電粒子ビームが照射されることによって、ターゲットに流れる電流が計測され、線量計測手段によって、ターゲットに荷電粒子ビームが照射されることによって、ターゲットから放射されるX線の線量が計測される。
そして、制御手段によって、電流計測手段による計測値及び線量計測手段による計測値から求められる単位電流当たりのX線線量に基づいて、異なるエネルギーのX線毎に粒子加速装置が制御される。
【0010】
このように、ターゲットに流れる電流値及びX線の線量値から求められる単位電流当たりのX線線量を指標として、すなわち、単位電流当たりのX線線量が一定となるように粒子加速装置を制御することによって、X線のエネルギーを切り替えても所望のX線のエネルギーを精度高く得ることができる。そのため、本発明は、複数の異なるエネルギーのX線を放射すると共に、生成したX線のエネルギーのばらつきを抑制することができる。
【0011】
また、本発明のX線発生装置は、複数の異なるエネルギーのX線を所定の時間間隔で周期的に繰り返し前記検査対象物へ照射してもよい。
本発明によれば、検査対象物の時間変化を精度高く評価することができる。
【0012】
また、本発明のX線発生装置は、前記ターゲットから放射され、前記検査対象物へ照射されるX線を遮る開閉可能なシャッタを備え、前記単位電流当たりのX線線量が予め定められた目標値を含む所定の範囲内となった場合に、前記シャッタが開かれてもよい。
本発明によれば、X線のエネルギーが一定範囲に安定していないX線が検査対象物へ照射されることを抑制することができるので、検査対象物に対する検査の精度を高くすることができる。
【0013】
また、本発明のX線発生装置は、前記単位電流当たりのX線線量が予め定められた目標値を含む所定の範囲内となった場合に、X線を用いた前記検査対象物の検査が行われてもよい。
本発明によれば、X線のエネルギーが一定範囲に安定していないX線によって検査対象物を検査することを抑制することができるので、検査対象物に対する検査の精度を高くすることができる。なお、ここでいう検査とは、検査対象物を透過又は散乱したX線を計測することによる検査、及びX線を検査対象物へ照射することにより放出される中性子を計測することによる検査が含まれる。
【0014】
また、本発明のX線発生装置は、前記目標値及び前記所定の範囲が、複数の異なるエネルギーのX線毎に設定可能とされてもよい。
本発明によれば、単位電流当たりのX線線量の目標値及び該目標値の範囲が、複数の異なるエネルギーのX線毎に設定可能とされているので、X線のエネルギー毎にその精度を調整することができ、X線発生装置の制御の自由度が向上する。
【0015】
また、本発明のX線発生装置は、前記目標値及び前記所定の範囲、並びに前記検査対象物を繰り返し検査する場合の周期が、前記検査対象物に応じて設定可能とされてもよい。
本発明によれば、単位電流当たりのX線線量の目標値及び該目標値の範囲、並びに検査対象物を繰り返し検査する場合の周期が、検査対象物に応じて設定可能となっているので、検査対象物を精度高く検査できる。
【0016】
また、本発明のX線発生装置は、前記制御装置が、前記単位電流当たりのX線線量に基づいて、前記粒子加速装置をフィードバック制御してもよい。
本発明によれば、単位電流当たりのX線線量に基づいて、粒子加速装置をフィードバック制御するので、生成したX線のエネルギーのばらつきをより抑制することができる。
【0017】
また、本発明のX線発生装置は、前記フィードバック制御が、連続的又は所定の時間間隔毎に行われてもよい。
本発明によれば、フィードバック制御が連続的又は所定の時間間隔毎に行われるので、粒子加速装置の連続した使用時間が長くなることに起因する、生成したX線のエネルギーのばらつきをより抑制することができる。
【0018】
また、本発明のX線発生装置は、前記制御装置が複数の異なるエネルギーのX線に応じて複数備えられ、X線のエネルギーに応じて切り替えられてもよい。
本発明によれば、複数の異なるエネルギーのX線に応じて、制御装置が切り替えられるので、X線のエネルギーに応じて適切なX線のエネルギーの制御が可能となる。
【0019】
一方、本発明に係るX線発生装置の制御方法は、複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成する粒子加速装置と、前記荷電粒子ビームが照射されることによって、X線を放射するターゲットと、を備え、検査対象物へX線を照射するX線発生装置の制御方法であって、前記ターゲットに前記荷電粒子ビームが照射されることによって、前記ターゲットに流れる電流の計測値及び前記ターゲットから放射されるX線の線量の計測値から求められる単位電流当たりのX線線量に基づいて、前記異なるエネルギーのX線毎に前記粒子加速装置を制御する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数の異なるエネルギーのX線を放射すると共に、生成したX線のエネルギーのばらつきを抑制することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線検査装置の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るX線検査処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態に係るX線検査装置において計測されたX線スペクトルの例である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る複数の異なるエネルギーのX線に対して、エネルギーの精度を異ならせた場合の、X線スペクトルの例である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るパルスX線の繰り返し照射の例である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るX線検査処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態に係るX線検査装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るX線発生装置及びX線発生装置の制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本第1実施形態に係るX線検査装置10の構成図である。
本第1実施形態に係るX線検査装置10は、検査対象物12へX線を照射するX線発生装置14、及び検査対象物12を透過、散乱したX線や、X線が検査対象物12へ照射されることによって放出される中性子(光中性子)を計測する放射線計測部16を備えることによって、検査対象物12を検査する。なお、光中性子は、高エネルギーのX線と原子との光核反応によって放出される中性子である。
【0025】
検査対象物12は、特に限定されず、例えば生物又は航空機で輸送される荷物等でもよい。また、検査対象物12の大きさも限定されず、例えば荷物であれば、手荷物程度の大きさからコンテナ程度の大きさであってもよい。
なお、本第1実施形態では、検査対象物12が、ベルトコンベアによって移動されながらX線が照射され、検査されるものとする。
【0026】
X線発生装置14は、複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成する粒子加速装置20(本第1実施形態では線形加速器)と、荷電粒子ビームが照射されることによってX線を放射するターゲット22と、ターゲット22に荷電粒子ビームが照射されることによって、ターゲットに流れる電流を計測する電流計測部24と、ターゲット22に荷電粒子ビームが照射されることによって、ターゲット22から放射されるX線の線量を計測する線量計測部26と、ターゲット22から放射され、検査対象物12へ照射されるX線を遮る開閉可能なX線シャッタ28を備える。
【0027】
粒子加速装置20は、加速管用電源30からサーキュレータ(不図示)や導波管(不図示)を介して荷電粒子加速管32へ電磁波が供給されることによって、荷電粒子源34によって生成された荷電粒子を加速する。なお、荷電粒子加速管32としてRF加速管を用いた場合、加速管用電源30としてクライストロン、マグネトロンなどが用いられる。
【0028】
また、荷電粒子としては、電子や負イオンの負電荷粒子(例えばカーボン)や正イオンである正電荷粒子(例えばプロトン)が用いられる。X線発生装置14は、荷電粒子を生成するための粒子線源用電源36を備えている。
粒子線源用電源36は、荷電粒子を電子とした場合、フィラメントを加熱するための電源や、電子ビームを引き出すための電極に電圧を印可するため電源として用いられ、荷電粒子を負イオン又は正イオンとする場合、イオン化させるガス等をプラズマ化させるための電源や、イオンビームを引き出すための電極に電圧を印可するため電源として用いられる。
なお、本実施形態に係る粒子加速装置20は、一例として、荷電粒子ビームを電子ビームとする。
【0029】
さらに、X線発生装置14は、エネルギー切替装置38及び単一エネルギー制御装置40A,40B,40Cを備える。
エネルギー切替装置38は、発生させるX線のエネルギーに応じて、荷電粒子ビームのエネルギーを切り替えるための切替指示信号を、単一エネルギー制御装置40A,40B,40Cへ送信する。なお、本第1実施形態に係るX線発生装置14は、一例として、3種類のエネルギー(本第1実施形態では0.5MeV、6MeV、9MeV)のX線を発生させる。そのため、単一エネルギー制御装置40A,40B,40Cは、各々0.5MeV用、6MeV用、及び9MeV用となる。このように、X線発生装置14は、低エネルギーから高エネルギーのX線を選択的に検査対象物12へ照射できるので、プラスチック等の低原子数、低密度で透過性の高い物質から、ウランやプルトニウム等の核物質等の高原子数の物質までX線検査によって判別することができる。
なお、以下の説明において、各単一エネルギー制御装置40を区別する場合は、符号の末尾にA〜Bの何れかを付し、各単一エネルギー制御装置40を区別しない場合は、A〜Bを省略する。
【0030】
そして、エネルギー切替装置38から送信された切替指示信号に応じた単一エネルギー制御装置40は、加速管用電源30及び粒子線源用電源36から出力させる電力を制御することにより、粒子加速装置20を制御する。また、単一エネルギー制御装置40A,40B,40Cは、X線シャッタ28の開閉も制御する。
【0031】
ターゲット22は、例えばモリブデン及びタングステン等の重金属であり、線量計測部26は例えば透過型線量計である。
【0032】
さらに、放射線計測部16は、検査対象物12の周囲に複数配置されており、X線や中性子を計測する計測装置である。放射線計測部16による計測結果を示す計測データは、診断装置42へ送信される。
【0033】
診断装置42は、放射線計測部16から送信された計測データに基づいて、検査対象物12を構成する組成の同定、検査対象物12の時間変化、及び空間分布評価等の検査評価を行う。
【0034】
また、X線検査装置10は、X線検査装置10全体の制御を司るコントローラ44を備えている。コントローラ44は、加速管用電源30及び粒子線源用電源36、並びに診断装置42の始動及び停止を制御すると共に、エネルギー切替装置38へX線発生装置14で発生させるX線のエネルギーを示す信号を送信する。また、単一エネルギー制御装置40からは、粒子加速装置20の制御状態を示す情報を受信する。
【0035】
図2は、本第1実施形態に係るX線検査処理の流れを示すフローチャート(制御アルゴリズム)である。
【0036】
まず、ステップ100では、コントローラ44によって検査対象物12へ照射するX線のエネルギーが選定される。
【0037】
次のステップ102では、エネルギー切替装置38によって選択されたX線のエネルギーに応じた単一エネルギー制御装置40A,40B,40Cの何れかがが選定される。これと共に、各X線のエネルギー毎に、電流計測部24による計測値(以下、「ターゲット電流値」という。)及び線量計測部26による計測値(以下、「線量値」という。)から求められる単位ターゲット電流当たりのX線線量Pの制御目標値A及び制御目標値Aの制御範囲Δが設定される。
【0038】
制御目標値Aは、例えば、X線のエネルギーが高くなるほど、また金属ターゲット物質の原子番号が大きいほど電子線からX線への変換効率が高くなる傾向があるため、制御目標値Aが高くなるように設定される。一方、制御範囲Δは、制御範囲Δを小さするほど発生させるX線のエネルギー変動幅を狭くし、X線エネルギー精度を向上させることができる。
さらに、制御目標値A及び制御範囲Δは、検査対象物12に応じても設定可能とされている。例えば、検査対象物12の質量数や密度、空間分解能い、密度(質量)分解能、ベルトコンベアによる移動速度、検査処理頻度等に応じて、制御目標値A及び制御範囲Δが設定可能とされる。より詳しくは、検査対象物12を構成する物質の原子数や密度を粗く分析する場合や、高速で多数の検査対象物12を検査する場合、制御範囲Δは、大きく設定される。逆に、検査対象物12を構成する物質の原子数や密度をより精密に分析する場合、制御範囲Δは、小さく設定される。
なお、制御目標値A及び制御範囲Δは、X線検査装置10のオペレータによる入力によって設定されてもよいし、予め記憶された制御目標値A及び制御範囲Δを読み出すことによって設定されてもよい。
【0039】
次のステップ104では、コントローラ44によって加速管用電源30及び粒子線源用電源36による電力(電圧及び電流)の出力が開始されることにより、荷電粒子が加速され、X線発生装置14によるX線の生成が開始される。なお、ステップ104では、X線シャッタ28は、閉じられており、ターゲット22から放射されるX線は検査対象物12へ照射されない。
【0040】
次のステップ106では、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となっているか否かが判定され、肯定判定となった場合は、ステップ110へ移行する。
【0041】
一方、ステップ106において否定判定となった場合は、ステップ108へ移行し、単一エネルギー制御装置40によって、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となるように、加速管用電源30及び粒子線源用電源36によって出力される電力が制御される。すなわち、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pに基づいて、粒子加速装置20がフィードバック制御される。
なお、ターゲット22にて計測されたターゲット電流値及び線量計測部26で計測された線量値を示す計測データが、エネルギー切替装置38を介して単一エネルギー制御装置40に送信されることによって、単一エネルギー制御装置40によって、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となっているか否かが判定される。
【0042】
ここで、制御量である単位ターゲット電流当たりのX線線量Pを制御目標値A±制御範囲Δで一定とするような、加速管用電源30のフィードバック制御としては、下記(1)〜(3)のような方法がある。
(1)クライストロン等のRF電源をフィードバック制御して、荷電粒子加速管32に供給される高周波電力のパルスの出力電力を更新する。
(2)クライストロン等のRF電源をフィードバック制御して、荷電粒子加速管32に供給される高周波電力のパルスのパルス幅を更新する。
(3)クライストロン等のRF電源をフィードバック制御して、荷電粒子加速管32に供給される高周波電力のパルスの出力電力とパルスのパルス幅の両方を更新する。
【0043】
また、制御量である単位ターゲット電流当たりのX線線量Pを制御目標値A±制御範囲Δで一定とするような、粒子線源用電源36(本第1実施形態では粒子線源が電子銃)のフィードバック制御としては、下記(4)〜(6)のような方法がある。
(4)電子銃のカソードに供給される電力を更新する。
(5)電子銃のグリッドに印加される電圧を更新する。
(6)電子銃のカソードに供給される電力とグリッドに印加される電圧との両方を更新する。
【0044】
一方、粒子線源がイオン源の場合、下記(7)〜(9)のような方法がある。
(7)イオン源の放電プラズマ生成電源に供給される電力を更新する。
(8)イオン源のグリッドに印加される電圧を更新する。
(9)イオン源の放電プラズマ生成電源に供給される電力とグリッドに印加される電圧との両方を更新する。
【0045】
ここで、X線発生装置が、エネルギー切替装置38及び単一エネルギー制御装置40を備えない場合、粒子加速装置による荷電粒子のエネルギーは、印加されるRF電力をパワーディバイダーやフェーズシフタで電力分配を調整されることにより調整される、又は複数の荷電粒子加速管を組み合わせて発生させたり、一部をフィルタリングして発生させたりするので、X線のエネルギー毎に適切な粒子加速装置、すなわちX線のエネルギーの制御が困難となる。
しかし、本第1実施形態に係るX線発生装置14の様に、エネルギー切替装置38を備えることによって、X線のエネルギー毎に単一エネルギー制御装置40が選定されるので、選定されたX線のエネルギー毎に適切なX線のエネルギーの制御が可能となる。
【0046】
ステップ110では、X線シャッタ28が開かれることによって、検査対象物12にX線が照射される。
このように、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となるように制御された後に、X線シャッタ28を開いて検査対象物12にX線を照射することにより、X線のエネルギーが一定範囲に安定していないX線が検査対象物12へ照射されることを抑制することができるので、検査対象物12に対する検査の精度を高くすることができる。
【0047】
次のステップ112では、放射線計測部16による計測が行われる。
このように、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となるよう、制御された後に、放射線計測部16による計測を行うことにより、X線のエネルギーが一定範囲に安定していないX線によって検査対象物12を検査することを抑制することができるので、検査対象物12に対する検査の精度を高くすることができる。
【0048】
ステップ114では、放射線計測部16による計測データが診断装置42へ送信され、診断装置42によってX線のエネルギーに応じた検査評価が行われ、検査評価結果が記憶される。
【0049】
次のステップ116では、必要全エネルギー(0.5MeV、6MeV、9MeV)による計測が終了したか否かを判定し、肯定判定となった場合は、ステップ118へ移行し、否定判定となった場合は、ステップ100へ戻り、実行していないX線のエネルギーが新たに選定される。
【0050】
次のステップ118では、全て検査評価が終了したか否かを判定し、肯定判定となった場合は、本処理を終了し、否定判定となった場合は、ステップ100へ戻り、実行していない評価を行うためのX線のエネルギーが新たに選定される。
【0051】
図3は、本第1実施形態に係るX線検査装置10において計測されたX線スペクトルの例である。図3は、横軸がX線のエネルギーを示し、縦軸がX線の線量を示す。
図3に示すように、各X線のエネルギー毎に単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが、制御目標値A±制御範囲Δで一定値となるように粒子加速装置20を制御することにより、例えば、X線のスペクトル幅が0.02〜0.1MeVとなり、X線のエネルギーのばらつきを抑制した、エネルギーの精度が高い安定制御が可能となった。
【0052】
また、本第1実施形態に係るX線発生装置14は、エネルギー切替装置38及び単一エネルギー制御装置40を備え、X線のエネルギー毎に制御を行うので、エネルギーの精度が高いことが必要なX線(例えば6MeV、9MeV)、エネルギーの精度が高くなくてもよいX線(例えば0.5MeV)を、例えば検査対象物12や検査の頻度等に応じて使い分けできる。このような使い分けを行うたには、精度が高いことが必要なX線のエネルギーに対しては、制御範囲Δが小さく設定され、精度が高くなくてもよいX線のエネルギーに対しては、制御範囲Δが大きく設定される。
図4は、複数の異なるエネルギーのX線に対して、エネルギーの精度を異ならせた場合の、X線スペクトルの例である。図4は、エネルギーが0.5MeVのX線を他のエネルギーのX線に比べて制御範囲Δを小さくして発生された例である。これにより、本第1実施形態に係るX線発生装置14は、必要な制御のみを重点的に取り込むことができるので、制御の自由度が向上する。
【0053】
なお、本第1実施形態に係るX線検査装置10は、複数の異なるエネルギーのX線を所定の時間間隔で周期的に繰り返し検査対象物12へ照射する、すなわち、複数の異なるエネルギーのX線をパルス的に検査対象物12へ繰り返し照射する。
図5は、パルスX線の繰り返し照射の例である。なお、各X線パルスの時間間隔は、例えば数10〜数100ms程度であり、照射繰り返し周期Tは数100ms〜数秒程度とする。このように、各エネルギーのパルスX線を周期的に繰り返し照射することにより、検査対象物12の時間変化を評価することができる。
なお、上述したように、本第1実施形態に係るX線発生装置14は、X線のエネルギーの切り替えを行っても、X線のエネルギーのばらつきを抑制することができるため、このような、パルスX線の繰り返し照射による検査対象物12の時間変化の評価を、高精度に行うことができる。
【0054】
さらに、照射繰り返し周期Tは、検査対象物12に応じて設定可能とされている。例えば、検査対象物12の移動速度が速い場合、短い時間刻みでの処理が必要になるので、照射繰返し周期Tは短く設定される。一方、検査対象物12の移動速度が遅い場合、長い時間刻みでの処理が必要になるので、照射繰返し周期Tが長く設定される。照射繰返し周期Tが長いほど、検査精度は高くなるため、重要度の高い検査対象物12に応じて照射繰返し周期Tを長くしてもよい。
また、検査対象物12の検査処理の頻度が短い場合、短い時間刻みでの処理が必要になるので、繰返し周期Tは短く設定され、検査対象物12の検査処理の頻度が長い場合、長い時間刻みでの処理が必要になるので、繰返し周期Tは長く設定される。
【0055】
また、X線発生装置14、特に粒子加速装置20は、例えば、連続使用時間が長くなることに起因して、荷電粒子ビームのエネルギーが変化する場合がある。この理由は、例えば自身が発生する熱による膨張によって、荷電粒子の加速に用いる電極間の距離等が変化するためである。このような場合には、生成されるX線のエネルギーにずれが生じる可能性がある。また、他の原因により、生成されるX線のエネルギーにずれが生じる可能性がある。
このため、上述したフィードバック制御は、検査対象物12に対する検査の開始前に行われるのみならず、連続的又は所定の時間間隔毎に行われてもよい。これにより、検査対象物12に対してX線を照射している状態においても、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pを、常に制御目標値A±制御範囲Δで一定値とすることができるため、検査対象物12に対する検査の精度を高くすることができる。
【0056】
以上説明したように、本第1実施形態に係るX線検査装置10に備えられるX線発生装置14は、粒子加速装置20が複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成し、ターゲット22に荷電粒子ビームが照射されることによってX線を放射する。そして、単一エネルギー制御装置40は、ターゲット22に荷電粒子ビームが照射されることによって、ターゲット22に流れる電流の計測値及びターゲット22から放射されるX線の線量の計測値から求められる単位ターゲット電流当たりのX線線量に基づいて、異なるエネルギーのX線毎に粒子加速装置20を制御する。
従って、本第1実施形態に係るX線発生装置14は、複数の異なるエネルギーのX線を放射すると共に、生成したX線のエネルギーのばらつきを抑制することができる。
【0057】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0058】
なお、本第2実施形態に係るX線検査装置10の構成は、図1に示す第1実施形態に係るX線検査装置10の構成と同様であるので説明を省略するが、本第2実施形態に係るX線検査装置10は、X線シャッタ28を動作させない又はX線シャッタ28を備えない。
【0059】
図6は、本第2実施形態に係るX線検査処理の流れを示すフローチャート(制御アルゴリズム)である。なお、図6における図2と同一のステップについては図2と同一の符号を付して、その説明を一部又は全部省略する。
【0060】
ステップ106では、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となっているか否かが判定され、肯定判定となった場合は、ステップ200へ移行する。
ステップ200では、単一エネルギー制御装置40からコントローラ44へX線の制御が完了したことを示す制御完了信号を送信する。
次のステップ202では、コントローラ44から診断装置42へX線の計測の開始を指示する開始指示信号を送信し、ステップ112へ移行する。
【0061】
ステップ112では、放射線計測部16による計測が行われる。
【0062】
以上説明したように、本第2実施形態では、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δで一定値となった場合に、コントローラ44から診断装置42へX線の計測の開始を指示する開始指示信号を送信するので、検査対象物12へX線が照射されることを遮るX線シャッタ28を不要とする。
【0063】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態について説明する。
【0064】
図7は、本第3実施形態に係るX線検査装置10の構成を示す。なお、図7における図1と同一の構成部分については図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。
本第3実施形態に係るX線検査装置10は、X線のエネルギー毎に粒子加速装置20A,20B,20Cを備えると共に、粒子加速装置20A,20B,20C毎に加速管用電源30A,30B,30C及び粒子線源用電源36A,36B,36C、並びにターゲット22A,22B,22C及びX線シャッタ28A,28B,28Cを備える。
【0065】
これにより、X線のエネルギーを切り替える毎に加速管用電源30及び粒子線源用電源36を調整する必要がなくなる。
また、粒子加速装置20A,20B,20Cが常に荷電粒子ビームを生成することによって、複数の異なるエネルギーのX線が放出することとなる。このため、X線のエネルギー毎のX線シャッタ28A,28B,28Cを開閉することによって、移動してくる検査対象物12へのX線の照射を選択することができ、検査対象物12の検査時間をより短縮することができる。
【0066】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
例えば、上記各実施形態では、X線のエネルギーを3種類に切り替え可能とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、X線のエネルギーを2種類又は4種類以上に切り替え可能とする形態としてもよい。
【0068】
また、上記各実施形態では、X線のエネルギー毎に単一エネルギー制御装置40を備える形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、複数のエネルギーに対して一つのエネルギー制御装置を備え、複数の異なるエネルギーのX線毎に応じて、該エネルギー制御装置が、加速管用電源30及び粒子線源用電源36から出力させる電力を調整する形態としてもよい。
【0069】
また、上記各実施形態では、線量計測部26を透過型する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、線量計測部26を非透過型とすると共に、X線シャッタ28の機能を兼用させる形態としてもよい。
【0070】
また、上記各実施形態では、粒子加速装置として線形加速器を用いる形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、粒子加速装置として静電加速器や円形加速器等、他の粒子加速装置を用いる形態としてもよい。
また、加速された荷電粒子ビームのエネルギーを弁別するエネルギー弁別器を粒子加速装置が備えてもよい。これにより、ターゲット22へ照射される荷電粒子ビームのエネルギーの精度が高められるので、生成されるX線のエネルギーの精度をより高くすることができる。
【0071】
また、上記各実施形態で説明したX線検査処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0072】
例えば、X線シャッタ28を開き、検査対象物12へX線を照射しているときに、単位ターゲット電流当たりのX線線量Pが制御目標値A±制御範囲Δからずれた場合、X線シャッタ28を閉じることで検査対象物12へのX線の照射を停止するステップを、X線検査処理に追加してもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 X線検査装置
12 検査対象物
14 X線発生装置
16 X線計測部
20 粒子加速装置
22 ターゲット
24 電流計測部
26 線量計測部
28 X線シャッタ
40 単一エネルギー制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物へX線を照射するX線発生装置であって、
複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成する粒子加速装置と、
前記荷電粒子ビームが照射されることによって、X線を放射するターゲットと、
前記ターゲットに前記荷電粒子ビームが照射されることによって、前記ターゲットに流れる電流を計測する電流計測手段と、
前記ターゲットに前記荷電粒子ビームが照射されることによって、前記ターゲットから放射されるX線の線量を計測する線量計測手段と、
前記電流計測手段による計測値及び前記線量計測手段による計測値から求められる単位電流当たりのX線線量に基づいて、前記異なるエネルギーのX線毎に前記粒子加速装置を制御する制御手段と、
を備えたX線発生装置。
【請求項2】
複数の異なるエネルギーのX線を所定の時間間隔で周期的に繰り返し前記検査対象物へ照射する請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記ターゲットから放射され、前記検査対象物へ照射されるX線を遮る開閉可能なシャッタを備え、
前記単位電流当たりのX線線量が予め定められた目標値を含む所定の範囲内となった場合に、前記シャッタが開かれる請求項1又は請求項2記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記単位電流当たりのX線線量が予め定められた目標値を含む所定の範囲内となった場合に、X線を用いた前記検査対象物の検査を行う請求項1から請求項3の何れか1項記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記目標値及び前記所定の範囲が、複数の異なるエネルギーのX線毎に設定可能とされている請求項3又は請求項4記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記目標値及び前記所定の範囲、並びに前記検査対象物を繰り返し検査する場合の周期が、前記検査対象物に応じて設定可能とされている請求項3から請求項5の何れか1項記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記単位電流当たりのX線線量に基づいて、前記粒子加速装置をフィードバック制御する請求項1から請求項6の何れか1項記載のX線発生装置。
【請求項8】
前記フィードバック制御は、連続的又は所定の時間間隔毎に行われることを特徴とする請求項7記載のX線発生装置。
【請求項9】
前記制御装置は、複数の異なるエネルギーのX線に応じて複数備えられ、X線のエネルギーに応じて切り替えられる請求項1から請求項8の何れか1項記載のX線発生装置。
【請求項10】
複数の異なるエネルギーのX線を発生させるための荷電粒子ビームを生成する粒子加速装置と、前記荷電粒子ビームが照射されることによって、X線を放射するターゲットと、を備え、検査対象物へX線を照射するX線発生装置の制御方法であって、
前記ターゲットに前記荷電粒子ビームが照射されることによって、前記ターゲットに流れる電流の計測値及び前記ターゲットから放射されるX線の線量の計測値から求められる単位電流当たりのX線線量に基づいて、前記異なるエネルギーのX線毎に前記粒子加速装置を制御するX線発生装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209119(P2012−209119A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73600(P2011−73600)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】