説明

X線発生装置

【課題】 高電圧発生部とX線管とを同一の絶縁油で満たされた高電圧タンクに封入実装するモノタンク型のX線発生装置の小型化を図るための実装技術を提供する。
【解決手段】 高電圧変圧器3と、多倍の電圧に昇圧して直流の高電圧に変換するコッククロフト・ウォルトン回路4と、陰極5bを接地してX線を発生するX線管5と、これらを絶縁油中の接地された高電圧タンク7に封入実装してモノタンク型の高電圧発生部およびX線発生部を構成する。前記コッククロフト・ウォルトン回路4をユニット4A、4B、4Cに分割してそれぞれ樹脂でモールドし、このモールドされたユニット4A、4B、4Cを積み重ねる。これらのユニットのうちの電位が最も低いユニット4Aを前記高電圧タンク7の内壁の近傍に、最も高い電位のユニット4Cを前記X線管5の陽極5aの近傍に配置して実装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用あるいは医療用のX線撮影装置などに好適なX線発生装置に係り、特に高電圧発生部とX線管とが同一の絶縁油タンク内に封入実装されたモノタンク型のX線発生装置の小型化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体を透過したX線の線量を測定し、その線量に基づいて画像を作成して、被検体の検査あるいは診断を行うX線装置は、工業用としては種々の製品の異物検査装置や欠陥検査装置などに、また医療用としてはX線透視装置やX線撮影装置などに広く利用されている。
このようなX線装置において、装置を移動や回転させるために高電圧発生部とX線管とを同一の絶縁油タンク内に収納したモノタンク型の高電圧タンクを備えたX線発生装置が知られている。例えば、工業用としては特許文献1に開示されているモノタンク型X線発生装置が、医療用としては特許文献2に開示されているモノタンク型X線発生装置が知られている。
【0003】
これらのモノタンク型のX線発生装置においては、高電圧タンクへ収納する高圧変圧器を小さくするために、直流電源から供給された電圧をインバータ回路を用いて高周波交流電圧に変換し、この高周波交流電圧を比較的小型の高電圧変圧器に入力して中間電圧へ昇圧し、この高電圧変圧器の出力電圧をコッククロフト・ウォルトン回路によって直流高電圧に変換するとともにさらに最終電圧へ昇圧しX線管へ印加する構成が採用されることが多い。
【0004】
【特許文献1】特開2003-317996号公報
【特許文献2】特開平6-76982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記モノタンク型のX線発生装置を用いたX線装置には、さらなる小型化の要望があり、このためにモノタンク型のX線発生装置も小型なものにする必要がある。すなわち、高電圧発生部とX線管とを収納する高電圧タンクを小型にすることが必須であり、このためには高電圧発生部と高電圧タンクとの絶縁距離を短縮するための実装技術が必要となる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2等にはタンクの小型化実装に関しては何等考慮されておらず、その問題提起もない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、高電圧発生部とX線管とを同一の絶縁油で満たされた高電圧タンクに封入実装するモノタンク型のX線発生装置の小型化を図るための実装技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、直流電源と、この直流電源の出力電圧を所定の周波数の交流電圧に変換する直流/交流変換手段と、この直流/交流変換手段の出力電圧を昇圧する高電圧変圧器と、コンデンサとダイオードによる倍化回路が所定段数直列接続されて成り、前記高電圧変圧器の出力電圧を昇圧するとともに直流電圧に変換するコッククロフト・ウォルトン回路と、このコッククロフト・ウォルトン回路の出力電圧が印加されてX線を発生するX線管と、前記高電圧変圧器とコッククロフト・ウォルトン回路とX線管とを絶縁油中に封入実装する高電圧タンクとを備えたX線発生装置において、前記コッククロフト・ウォルトン回路の所定段数の倍化回路を任意の段数毎に複数のユニットに分割し、各ユニットを前記高電圧タンク内に複数の面に沿って配置するとともに、前記複数のユニットのうちで最大電位が最小となるユニットを前記高電圧タンク内壁へ最接近させて配置したことを特徴とする。
【0009】
前記複数のユニットのうちで最大電位が最大となるユニットはX線管の陽極又は陰極の近傍へ配置されることが望ましい。
【0010】
また、前記複数のユニットは、X線管の陽極又は陰極に対向した前記高電圧タンクの1つの内壁面に沿った複数の面に積上げ配置されることが望ましい。また、この場合、前記複数のユニットは、つづら折り状に各段の電位が増大するように接続されることが望ましい。
前記複数のユニットは、X線管の陽極又は陰極に対向した前記高電圧タンクの1つの内壁面と他の内壁面との複数の面に沿って分割配置されてもよい。
前記複数のユニットは、ユニット毎に樹脂モールドを施されることが望ましい。
前記複数のユニットは、樹脂モールドにてユニット間に空隙を有して一体に形成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コッククロフト・ウォルトン回路を複数のユニットに分割し、前記複数のユニットを高電圧タンクとの間の絶縁距離が各ユニットの電位に応じた絶縁距離を保つような位置へ配置し、または、各ユニットを前記高電圧タンク内に複数の面に沿って配置するとともに出力電圧が最大となるユニットを前記X線管の陽極又は陰極へ近付けて配置するので、コッククロフト・ウォルトン回路と高電圧タンク間の絶縁距離を短縮できる。これによって、モノタンク型X線発生装置の小型化が達成され、それを用いたX線発生装置も小型化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明のX線発生装置の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
なお、本発明の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符合を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明に係るX線発生装置の全体構成図である。図1において、本発明のX線発生装置は、直流電源1と、この直流電源1の電圧を所定の周波数の交流電圧に変換するインバータ回路(直流/交流変換手段)2と、このインバータ回路2の交流電圧を昇圧する高電圧変圧器3と、この高電圧変圧器3の出力電圧をさらに多倍に昇圧して直流の高電圧に変換するコッククロフト・ウォルトン回路4と、このコッククロフト・ウォルトン回路4で変換された直流高電圧が印加されてX線を発生するX線管5と、前記高電圧変圧器3とコッククロフト・フォルトン回路4とX線管5とを絶縁油中に封入実装する高電圧タンク7とを備えて構成される。
【0014】
前記直流電源1は、図示省略の商用交流電源電圧を直流電圧に変換して得られる直流電源、あるいはバッテリーによる直流電源等、どのような直流電源でも良い。また、前記商用交流電源電圧を直流電圧に変換する回路形態も、前記商用交流電源電圧を全波整流回路で全波整流する形態、あるいは前記全波整流して得られた直流電圧をチョッパ回路で調整する形態や前記全波整流回路に電圧可変機能を備えた形態等、その変換形態に限定されるものではない。
【0015】
このように構成されたX線発生装置において、1次巻線3a及び2次巻線3bを備えた前記高電圧変圧器3とコッククロフト・ウォルトン回路4とで高電圧発生回路6が構成され、この高電圧発生回路6の出力電圧が前記X線管5の陽極5aと陰極5b間に印加されてX線が発生する。
【0016】
前記X線管5の陰極5b及び前記高電圧タンク7が接地されるため、該高電圧タンク7の内壁面と前記高電圧変圧器3、コッククロフト・ウォルトン回路4及びX線管5との間には電位差が生じる。
【0017】
本発明は、前記コッククロフト・ウォルトン回路4を複数に分割し、この分割された回路を前記電位差に対応して配置し、これによって前記高電圧タンク7の内壁と電気部品との絶縁距離及び前記電気部品間の絶縁距離を短縮することによって小型化を図るものである。ここでは前記X線管5に特許文献1に開示されているマイクロフォーカスX線管を、前記コッククロフト・ウォルトン回路4に国際公開番号WO2004/103033号公報に開示されている全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路を用いた例について説明する。
【0018】
図2に全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路を示す。この回路は、前記高電圧変圧器3の2次巻線3bを中性点タップ付きとし、この2次巻線3bの出力電圧をコンデンサとダイオードを用いてM倍の直流高電圧に変換するもので、図2は昇圧段数が16段の場合である。
【0019】
この16段の全波16倍型コッククロフト・ウォルトン回路は、コンデンサ411a、411b、412とダイオード413a、413b、414a、414bとから成る1段目の第1の全波整流昇圧回路41と、コンデンサ421a、421b、422とダイオード423a、423b、424a、424bとから成る2段目の第2の全波整流昇圧回路42と、同様にコンデンサ4161a、4161b、4162とダイオード4163a、4163b、4164a、4164bとから成る16段目の第16の全波整流昇圧回路416とから成る。
【0020】
ここで、前記マイクロフォーカスX線管の陽極と陰極間の定格電圧を100kVとすると、前記全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の昇圧段数が16段であるので、1段当たりの全波整流電圧は100kV/16段=6.25kVとなる。そして、前記第16段目の正の直流出力端子Aを前記X線管の陽極5aに、前記第1段目の負の直流出力端子Kを前記X線管の陰極5bに接続すると、前記X線管の陽極5aと陰極5b間には100kVの電圧が印加される。
【0021】
図3は、全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の第1の分割形態を示している。図3(a)に示すように、従来は、コッククロフト・ウォルトン回路は1つの基板上に1段目から(n+m)段目までが直列接続状態で形成されている。この場合各段の高電圧タンクとの間の絶縁距離は1段目が最小のdminで、(n+m)段目が最大のdmaxとなる。このため、従来はdmaxを目安としてコッククロフト・ウォルトン回路を高電圧タンク内に配置していた。
【0022】
本発明は、図3(a)に示す1段目から(n+m)段までの複数段からなるコッククロフト・ウォルトン回路を図3(b)に示すように複数のユニットに分割し、分割された基板に入力端子と出力端子を設け、各ユニットの入力・出力端子間を導線で接続する。コッククロフト・ウォルトン回路の分割は、例えば、1段〜n段をユニットU1、(n+1)段〜(n+i)段をU2、・・・・・、(n+k)段〜(n+m)段をUmというように、各ユニットを任意の複数段で構成するように、コッククロフト・ウォルトン回路を分割する。このようにコッククロフト・ウォルトン回路を分割することで各ユニットの前記絶縁距離の最大dmaxと最小dminとの差を小さくすることができる。したがって、前記複数のユニットを高電圧タンクとの間の絶縁距離が各ユニットの電位に応じた絶縁距離を保つような位置へ配置することが可能となる。なお、本第1の分割形態を採用したコッククロフト・ウォルトン回路の高電圧タンクへの実装例は後に簡単に説明する。
【0023】
図4は、全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の第2の分割形態を示している。全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の分割態様の第二の実施形態は、図3に示す例と同様に1段目から(n+m)段目までの複数段から成るコッククロフト・ウォルトン回路(図4(a)参照)を、1段〜n段をユニットU1、(n+1)段〜(n+i)段をU2、・・・・・、(n+k)段〜(n+m)段をUmというように、各ユニットを任意の複数段で構成するように分割し(図4(b)参照)、その後各ユニットU1、U2、…、Umを高電圧タンクに封入される絶縁油よりも絶縁強度の高い樹脂、例えばエポキシ樹脂でモールドし、モールドされた各ユニットに入力・出力端子を設け、各ユニットを導線で接続する。この実施形態によれば、図3に示す分割形態に比較して、各ユニットを実装した場合にも電気部品はエポキシ樹脂で覆われることから、前記絶縁距離がさらに短縮される。なお、本第2の分割形態を採用したコッククロフト・ウォルトン回路の高電圧タンクへの実装例は後に詳細に説明する。
【0024】
図5は、図4に示す全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の第2の分割形態をモノタンク型X線発生装置へ実装した例を示す。この例のマイクロフォーカスX線管は特許文献1に開示されているように、陽極5a、陰極5b、及び3つのグリッド電極(図示省略)、並びに陽極回転用巻線5cを備えた3極X線管で、本実施形態のX線発生装置は、直流電源から供給された直流電圧を高周波交流電圧に変換するインバータ回路の出力電圧が供給される高電圧変圧器3と、コッククロフト・ウォルトン回路4と、前記X線管5と、管電圧・管電流検出回路8と、前記グリッド電極へグリッド電圧を供給するグリッド電源9(9a〜9c)とが絶縁油10を封入された高電圧タンク7に一体収納されたモノタンク型X線発生装置を備えている。なお、X線管5は、その固定部5dにおいて高電圧タンク7のX線管取付部7aに固定されている。
【0025】
高電圧タンク7は、例えば金属の板状体から構成された直方体の筐体で、内壁面の必要な部分にはX線防護のために鉛板などのX線遮蔽体が貼付されている。この高電圧タンク7の上方の内壁部近傍には、X線管5のグリッド電極を含む陰極5bが配置され、X線管5の陽極5aと高電圧タンク7の下方の内壁部近傍との管軸方向に、複数のユニット4A、4B、4Cに分割されたコッククロフト・ウォルトン回路4がそれぞれ異なった面、好ましくは平面に沿って3段に積層して配置されている。また、高電圧タンク7の左側内壁面とX線管5の陽極5aとの間の空きスペース部分にはグリッド電極用電源9が配置され、高電圧タンク7の下方の左側内壁面近傍とコッククロフト・ウォルトン回路4との間に高電圧変圧器3が、高電圧タンク7の下方の右側内壁面近傍とコッククロフト・ウォルトン回路4との間に管電圧・管電流検出回路8が配置されている。
【0026】
図6は、図5におけるコッククロフト・ウォルトン回路4の詳細を説明する図である。図6において、コッククロフト・ウォルトン回路4は前記図4に示す第2の分割形態が採用されたもの、すなわち分割された各ユニットが樹脂でモールドされている。実装に当たって、各ユニットは異なる複数の面に沿って積上げ配置されるとともに、各ユニットは各ユニット間に所定の空隙を有して配置され、入出力端部において樹脂モールドで一体成形されている。
【0027】
図6は、前記マイクロフォーカスX線管5の陽極5aと陰極間5bの定格電圧を100kVとし、前記全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路4の昇圧段数を16段とした場合の例を示す。この図6においては、全16段で構成されたコッククロフト・ウォルトン回路4は、図示左から右へ配列された1段目から6段目までを第1ユニット4A、1段目から6段目とは逆に(つづら折り状に)図示右から左へ配列された7段目から12段目までを第2ユニット4B、そして7段目から12段目とは逆に(つづら折り状に)図示左から右へ配列された残りの13段目から16段目までを第3ユニット4Cとして3つのユニットに分割されている。これらの分割された第1ユニット4A、第2ユニット4Bの接続端子は両端樹脂部に、第3ユニット4Cの接続端子は左端と上面に設けられている。第1ユニット4Aの入力端子には高電圧変圧器3が接続され、第3ユニット4Cの出力端子にはX線管5の陽極が接続され、各ユニットは図6(a)、図6(c)に示すように両端樹脂部で導線により接続されている。
このように分割された第1ユニット4Aの最大電位は、(100kV÷16段)×6段=37.5kV、第2ユニット4Bの最大電位は、37.5kV+6.25kV×6段=75kV、第3ユニット4Cの最大電位は75kV+6.25kV×4段=100kVとなる。
【0028】
前記高電圧タンク7に収容された電気部品間の電位は異なり、この異なる電位の電気部品と接地された高電圧タンク7の内壁面との絶縁距離も高電圧タンク7内の場所によって異なる。例えば上記のように、X線管5の陽極5aと陰極5b間の定格電圧を100kV、またコッククロフト・ウォルトン回路を取り囲む媒体の絶縁破壊強度を、例えば10kV/mmとすれば、従来の直列接続一体型コッククロフト・ウォルトン回路の最大電位は100kVであるから、コッククロフト・ウォルトン回路と高電圧タンク内壁面との間の絶縁距離は100kV/(10kV/mm)=10mm必要となる。
【0029】
このように、段毎に必要な絶縁距離が異なるコッククロフト・ウォルトン回路を従来のように一体にして実装すると、コッククロフト・ウォルトン回路の最終段の最大電位に対して高電圧タンク内壁との絶縁距離を設定しなければならず、必要以上に絶縁距離を大きくしなければならない。しかし、本実施形態によれば高電圧タンク内壁とコッククロフト・ウォルトン回路の絶縁距離は、第1段目の最大電位によって設定すれば良くなる。
【0030】
すなわち、本実施形態では、第1ユニット4Aの最大電位は37.5KVとなるので、前記絶縁距離は37.5kV/(10kV/mm)=3.75mmとなる。したがって、本実施形態ではコッククロフト・ウォルトン回路を従来技術よりも高電圧タンク内壁へ6.25mm近付けて配置することができる。また、コッククロフト・ウォルトン回路は3分割して積み上げられるので、高電圧タンクの平面視方向の投影面積を小さくする(小型化)場合に特に大きなメリットがもたらされる。
【0031】
このように電気部品を配置して収納したX線発生装置において、前記分割されたコッククロフト・ウォルトン回路4は、第1ユニット4Aから第3ユニット4Cをつづら折り状に積み重ねて該ユニットを直列接続する構成であるので、第1ユニット4Aは最大でも37.5kVの電位となり、最大で75kVが印加される第2ユニット4Bや最大で100kVが印加される第3ユニット4Cよりも高電圧タンク7との絶縁距離は短くて済み、接地された高電圧タンク7の内壁面付近に配置して実装することができる。
【0032】
そして、第3ユニット4Cは81.25kVから100kVの高電位となるために、100kVの電位となるX線管5の陽極5aに近い場所に配置され、第2ユニット4Bは第1ユニット4Aと第3ユニット4Cとの間の電位となるためにそれらのユニット4A、4B間に配置される。
【0033】
上記のように積み重ねられた第1ユニット4Aの1段目と第2ユニット4Bの12段目の間には、75kV-6.25kV=68.75kVの電位差が生じ、第2ユニット4Bの12段目と第3ユニット4Cの16段目の間には、100kV−56.25kV=43.75kVの電位差が生じるために、その分の絶縁距離をとる必要があるが、本発明の実施形態では、分割されたユニットを樹脂モールドして前記絶縁距離が最短になるようにしている。これにより、分割された各ユニットは適切な場所に配置することができるので、実装の自由度が向上し、高電圧タンク7全体では小型なものとすることができる。
【0034】
また、分割及び樹脂モールドされた各ユニットは所定の空隙を有して一体化されているので、この空隙(空間)は絶縁油が対流する経路となって該絶縁油が流れるので、モールド材の誘電体損失による発熱に対しても効率良く冷却がなされる。
【0035】
なお、誘電体損失による発熱が問題にならない場合は、第1ユニット4Aと第2ユニット4Bを一体にしてモールドし、これと第3ユニット4Cとは分割する構成としても良い。このようコッククロフト・ウォルトン回路4を二つに分割することにより、絶縁油よりも絶縁破壊強度が高い樹脂モールドの部分を大きくすることができるので、前記のように3ユニットに分割するよりもユニット間の絶縁距離が短くなって、さらなる小型化が可能となる。
【0036】
さらに、分割されたユニットをモールドしているために、モールド材がコッククロフト・ウォルトン回路全体に浸透し易くなり、絶縁の信頼性が向上する。
【0037】
さらにまた、分割された各ユニットには入力用と出力用の端子を設けたので、X線発生装置の仕様が異なっても、前記ユニット数を前記仕様に対応して変更すれば良い。例えば、X線管の陽極と陰極間に印加する電圧(以下、管電圧と記す)の定格が70kVの場合は図4又は図6において第3ユニット4Cを無くして二つのユニット4Aとユニット4Bで構成する。逆に、定格電圧が130kVの場合は、前記ユニット4A又はユニット4Bを追加すれば良い。このように、本実施形態は装置の仕様に対して容易に対応できる。
【0038】
なお、本実施形態においては、前記コッククロフト・ウォルトン回路4は4A、4B、4Cの三つのユニットに分割されているが、二つ又は四つ以上に分割して配置する構成としても良く、本発明はその分割数に限定されるものではない。
【0039】
上記図5の実施形態は、X線管の陰極を接地した場合の例であるが、図7に示すように陽極を接地したX線発生装置にも適用できる。
この場合は、高電圧タンク72のX線管支持部72aによって支持されたX線管5の陽極5aと陰極5bと高電圧タンク7側面及び底面に囲まれたスペースに前記ユニット4A、4B、4Cに分割されたコッククロフト・ウォルトン回路4の第1ユニット4Aが高電圧タンク72の側面内壁に対面するように配置される。また、コッククロフト・ウォルトン回路4とX線管5の陽極5aとの間の空きスペース部分にはグリッド電極用電源9(9a〜9c)が配置され、高電圧タンク72の上方部の左側内壁面とX線管5の陰極5bとの間に高電圧変圧器3及び管電圧・管電流検出回路8が配置される。
【0040】
このように、図7の実施形態は前記モールドされた複数ユニットを前記高電圧タンクの内壁とX線管の陽極と陰極とに囲まれたスペースへ、垂直方向に異なる複数の面へ沿って配置したものである。この実施形態によれば、高電圧タンクの高さを短縮する(小型化)場合にメリットがもたらされる。
【0041】
図8は、X線管が2極X線管であるモノタンク型X線発生装置に本発明を適用した例である。図8に示すX線発生装置は、直流電源から供給された直流電圧を高周波交流電圧に変換するインバータ回路の出力電圧が供給される高電圧変圧器3と、コッククロフト・ウォルトン回路40と、2極X線管50と、管電圧・管電流検出回路8と、絶縁油10を封入された高電圧タンク74に一体収納されたモノタンク型X線発生装置を備えている。なお、X線管50は、図示を省略された固定部において高電圧タンク74のX線管取付部に固定されている。
【0042】
高電圧タンク74は、図5に示す実施例と同様に、例えば金属の板状体から構成された直方体の筐体で、内壁面の必要な部分にX線防護用の鉛板が貼付されている。この高電圧タンク74の上方に図示横方向に細長い形状の2極X線管50が配置されている。このX線管50と高電圧タンク74の下方内壁面との間にスペース11が、またX線管50の陽極50aと高電圧タンク74の右側内壁面との間にスペース12が設けられている。これらのスペース11,12は、X線管50の陽極50aと陰極50b間を絶縁する絶縁物を考慮し、かつ分割されたコッククロフト・ウォルトン回路40と、高電圧変圧器3と、管電圧・管電流検出回路8とを収納できるように設定されている。
【0043】
そして、前記スペース11には、高電圧変圧器3と分割されたコッククロフト・ウォルトン回路40のモールド化されたユニット40Dを、またスペース12には、管電圧・管電流検出回路8とコッククロフト・ウォルトン回路40のモールド化されたユニット40Eが実装配置される。コッククロフト・ウォルトン回路40のユニット40Dは高電圧タンク74の下方内壁面に沿った面に配置され、一方ユニット40EはX線管50の陽極に対面する高電圧タンク74の側方内壁面に沿った面に配置される。前記ユニット40Dの入力端子は高電圧変圧器の出力端子へ接続され、ユニット40Eの出力端子はX線管50の陽極50aへ接続され、ユニット40Dとユニット40Eは直列接続される。
【0044】
図8に示すコッククロフト・ウォルトン回路40は昇圧段数を11段とした場合の実装例である。X線管50の定格電圧を100KVとすると、1段目から7段目で構成されるユニット40Dの最大電位は、(100KV÷11段)×7段≒63.7KV、またユニット40Eの最大電位は、63.7KV+9.09KV×4段=100KVとなる。
【0045】
したがって、図5で説明したようにコッククロフト・ウォルトン回路を取り囲む媒体の絶縁破壊強度を10KV/mmと仮定すると、ユニット40Dは高電圧タンク74の内壁面より6.37mm、ユニット40Eは高電圧タンク74の内壁面より10mm離せば良いことになり、コッククロフト・ウォルトン回路を直列接続の一体物で構成した場合に比べ、高電圧タンクの幅方向及び高さ方向のサイズを小さくすることができる。
【0046】
このように、高電圧タンク74の内壁面との絶縁距離が短くて済む比較的低電位までのユニット40Dをスペース11に配置し、最大電位を含むユニット40Eをスペース12に配置することにより、高電圧タンク74内のスペースが無駄なく、かつ適切な絶縁距離を確保して実装できるので、モノタンク型X線発生装置の小型化が可能となる。
【0047】
上記図8の実施形態は、2極X線管の陰極を接地した場合の例であるが、陽極を接地する場合に変形することができる。
この場合の図示は省略するが、図8のX線管50の陽極50aと陰極50bとの位置を180°回転して入れ替えるとともに、ユニット40Eの出力端子を陰極50bへ、そして陽極50aを高電圧タンク74を介して接地すれば良い。
【0048】
以上、本発明を図面に基づいて実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、上記図5、図7、図8に示す実施形態では、分割されたコッククロフト・ウォルトン回路の各ユニットをエポキシ樹脂でモールドした例を挙げて説明したが、図3に示すように分割された各ユニットを基板のまま上記各実施形態へ適用しても良い。
【0050】
また、上記実施形態では、コッククロフト・ウォルトン回路に全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路を用いたが、コッククロフト・ウォルトン回路は半波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路等の他の回路形態のものを用いても良い。
さらに、X線管の接地方式も陽極接地及び陰極接地に限定されることはなく、中性点接地方式でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るX線発生装置の全体の概略構成を示すブロック図。
【図2】全波多倍型コッククロフト・ウォルトン回路の回路構成を示す図。
【図3】コッククロフト・ウォルトン回路を分割し、複数ユニット化する例を示す図。
【図4】コッククロフト・ウォルトン回路を分割し、複数ユニット化した後、モールド化する例を示す図。
【図5】本発明のX線発生装置に適用するモノタンク型X線発生装置の第1の実施形態の内部構成を示す図。
【図6】図5中のコッククロフト・ウォルトン回路の構成を示す図。
【図7】本発明のX線発生装置に適用するモノタンク型X線発生装置の第2の実施形態の内部構成を示す図。
【図8】本発明のX線発生装置に適用するモノタンク型X線発生装置の第3の実施形態の内部構成を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1 直流電源、2 インバータ回路、3 高電圧変圧器、4,40 コッククロフト・ウォルトン回路、5,50 X線管、7,70 高電圧タンク、8 管電圧・管電流検出回路、9 グリッド電極用電源、10 絶縁油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、この直流電源の出力電圧を所定の周波数の交流電圧に変換する直流/交流変換手段と、この直流/交流変換手段の出力電圧を昇圧する高電圧変圧器と、コンデンサとダイオードによる倍化回路が所定段数直列接続されて成り、前記高電圧変圧器の出力電圧を昇圧するとともに直流電圧に変換するコッククロフト・ウォルトン回路と、このコッククロフト・ウォルトン回路の出力電圧が印加されてX線を発生するX線管と、前記高電圧変圧器とコッククロフト・ウォルトン回路とX線管とを絶縁油中に封入実装する高電圧タンクとを備えたX線発生装置において、
前記コッククロフト・ウォルトン回路の所定段数の倍化回路を任意の段数毎に複数のユニットに分割し、各ユニットを前記高電圧タンク内に複数の面に沿って配置するとともに、前記複数のユニットのうちで最大電位が最小となるユニットを前記高電圧タンク内壁へ最接近させて配置したことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記複数のユニットのうちで出力電位が最大となるユニットを前記X線管の陽極又は陰極の近傍へ配置したことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記複数のユニットは、X線管の陽極又は陰極に対向した前記高電圧タンクの1つの内壁面に沿った複数の面に積上げ配置されていることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記積上げ配置された複数のユニットは、つづら折り状に各段の電位が増大するように接続されていることを特徴とする請求項3に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記複数のユニットは、X線管の陽極又は陰極に対向した前記高電圧タンクの1つの内壁面と他の内壁面との複数の面に沿って分割配置されていることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記複数のユニットは、ユニット毎に樹脂モールドを施されていることを特徴とする請求項2乃至5に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記複数のユニットは、樹脂モールドにてユニット間に空隙を有して一体に形成されていることを特徴とする請求項2乃至4に記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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