説明

X線管及びX線分析装置

【課題】小さい分析領域への高い強度のX線の照射を図ること。
【解決手段】電子ビーム2の衝突によりX線5を放出するアノードターゲット4と、アノードターゲット4に対向する位置に配置され、電子ビーム2を放出する複数のカソード電極1と、電子ビーム2の照射方向を制御する電子光学系と、アノードターゲット4とカソード電極1と電子光学系とを収容する外囲器と、を有するX線管を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードとアノードを備え、円筒形のエンベロープに収容されたX線管及び該X線管を備えたX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は試料の構成元素の特定やその濃度などを測定できる。X線管で発生された一次X線を試料に照射する。これにより試料に含まれる元素特有の蛍光X線が試料から発せられる。蛍光X線を検出し、エネルギーを分析することで元素を特定すること、また、その個数により濃度などを測定することが可能である。
【0003】
ここで測定時間に注目すると、一次X線強度や二次X線の検出効率の増大により測定時間を短縮できる。例えば、一次X線強度を増大させることを特徴とするX線管について開示されている(特許文献1参照)。開示されたX線管は、窓を支持する円錐形の軸方向端部とアノードパイプに隣接して配置されたアノードと電子光学装置とを備えている。X線発生源となるアノードと試料との距離を近づけることにより、一次X線強度を増大させている。一方、光源の半径は約0.5mmであり、サイドウィンド型や透過型のX線管と比べると非常に大きい。照射領域を制限するためにコリメータやX線導管が用いられる。光源半径が約0.5mmの場合、最適な分析領域の大きさは1mm程度である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−504988号公報
【特許文献2】特開平5−275035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料の小さい領域の分析を短時間で行うためには、分析領域に強度の大きい一次X線を照射することが必要である。
【0006】
しかしながら、分析領域が数百μmのオーダーになると、約0.5mmの光源半径では照射X線の角度広がりが大きいため、照射半径より小さな径のコリメータを用いる必要がある。一方、照射X線の強度はコリメータの径の大きさに依存する。従って小さな径のコリメータを用いると、大きな光源であっても、照射X線強度は小さくなってしまう。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、小さい分析領域であっても、高い強度のX線を照射可能なX線管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係るX線管は、電子ビームの衝突によりX線を放出するアノードターゲットと、アノードターゲットに対向する位置に配置され、電子ビームを放出する複数のカソード電極と、電子ビームの照射方向を制御する電子光学系と、アノードターゲットとカソード電極と電子光学系とを収容する外囲器と、を有する。これにより、アノードターゲットへの電子ビームの照射量を増大することができる。
【0009】
また、本発明に係るX線管は、外囲器の内壁に、アノードターゲットを囲む半球形電極を有する。これにより、電子ビームがアノードターゲットに向かって照射されるための電界をカソード電極とアノードターゲットの間に形成することができる。よって、電子ビームがアノードターゲットに集中的に照射される。
【0010】
また、本発明に係るX線管の電子光学系は、電子ビームの照射方向が半球形電極の面に略垂直になるよう制御する。これにより、複数のカソード電極から放出された電子ビームをアノードターゲットに向けて集中的に照射することができる。
【0011】
また、本発明に係るX線管のアノードターゲットは、前記X線を放出する方向に凹部を有する。これにより、凹部に電子ビームを集中させるための電界をアノードターゲット周辺に形成することができる。よって、凹部に電子ビームの照射を集中させることができる。
【0012】
また、本発明に係るX線管は、外囲器の内壁に、アノードターゲットに向かって突出した突出部を有する。これにより、電子ビームがアノードターゲット上の小さい領域に集中するための電界を外囲器の内部に形成することができる。また、突出部は、半球形電極の端部付近に配置することが好ましい。これにより、電子ビームをアノードターゲット上の小さい領域に集中させるより強い電界を形成することができる。
【0013】
また、本発明に係るX線管のカソード電極は、外囲器の一部に設けられた溝部に設置されている。これにより、半球形電極側に複数のカソード電極を設置することができる。よって、アノードターゲットに大量の電子ビームを照射することができる。
【0014】
また、本発明に係るX線管の電子光学系は、半球形電極と略平行な面を有する引出電極を備える。これにより、カソード電極から放出された電子ビームをアノードターゲットに向けて照射することができる。
【0015】
本発明に係るX線分析装置は、上記のX線管と、試料を載置する試料台と、試料へのX線の照射量を制限するコリメータと、試料から放出された蛍光X線を検出する検出器と、を有する。これにより、小さい分析領域に、高い強度のX線を照射することができる。また、コリメータを通過したX線の広がり角を小さくすることができる。従って、例えば、凹凸の大きな試料を分析するために長い作用距離で分析する場合であっても、小さい分析領域に高い強度のX線を照射することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るX線管によれば、小さい分析領域に高い強度のX線を照射することができる。これにより、分析時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るX線管の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るX線管の電界シミュレーションの結果を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るアノードターゲットに衝突する電子の分布図である。
【図4】本発明の実施形態に係るX線分析装置の構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係るX線光源の半径とX線強度比の関係図である。
【図6】本発明の実施形態に係るX線管の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るX線管の実施形態について説明する。図1はX線管の構成図である。X線管は円筒形と半球形を連接した形状である。カソードフィラメント1は電子ビーム2を放出する。電子ビーム2はアノード電極3に連接されたアノードターゲット4に照射される。電子ビーム2の照射によりアノードターゲット4はX線5を放出する。X線5は、アノード電極3に対向する外囲器14の一部に設置された窓6からX線管の外に放出される。窓6は例えば125μmの厚さのベリリウム板である。
【0019】
外囲器14はアノードターゲット4を覆うように配置されている。特に、外囲器14は半球形状であり、その中心付近にアノードターゲット4を配置することが好ましい。カソードフィラメント1は外囲器14に設けられた複数の溝部8に設置されている。これにより、アノードターゲット4に向けて、複数のカソードフィラメント1を設置することができる。そして、半球形状の外囲器14にカソードフィラメント1が設置されることにより、半球形の中心のアノードターゲット4に電子ビーム2を集中照射することができる。よって、複数の大量の電子ビーム2をアノードターゲット4に照射することができる。
【0020】
また、外囲器14はアノード電極3側の外囲器15と連接している。X線管内は真空状態である。外囲器14、15の内壁にはそれぞれ内壁電極9、10を備えている。内壁電極9、10は接地されている。
【0021】
カソードフィラメント1とアノードターゲット4との間に、電子光学系として引出電極11が設置されている。引出電極11は外囲器14の内壁電極9の曲面と平行な面を有している。つまり、引出電極11は球面状の面を有している。
【0022】
カソードフィラメント1は、電流源16に接続されている。カソードフィラメント1を通電加熱し、カソードフィラメント1から電子を放出する。放出された電子は正に印加された引出電極11により引き出され、電子ビーム2が形成される。アノード電極3は電圧源17により高電圧が印加される。これにより電子ビーム2は、正に印加されたアノードターゲット4に向けて照射される。
【0023】
電子ビーム2は、引出電極11の面に対し略垂直に照射される。つまり、アノードターゲット4を覆うように配置された半球形状の内壁電極9に略平行な面を有する引出電極11の面に対し略垂直に電子ビーム2が照射される。よって、カソードフィラメント1から放出された電子をアノードターゲット4に向けて照射することができる。
【0024】
アノードターゲット4は、X線5を放出する側に凹部12を有する。これにより、電子ビーム2が凹部12に集まるような電界をアノードターゲット4の周辺に形成することができる。よって、電子ビーム2を凹部12に集中させることができる。
【0025】
外囲器15は、アノードターゲット4に向かい突出する突出部13を有する。これにより、電子ビーム2がアノードターゲット4に集まるような電界を形成することができる。よって、電子ビーム2をアノードターゲット4に集中させることができる。
【0026】
図2は本発明の実施形態のX線管の電界シミュレーションの結果を示す図である。シミュレーションの設定寸法は次の通りである。内壁電極9の窓6側とアノードターゲット4との距離は5mmである。外囲器15の内壁電極10の直径は、8.2mmである。アノード電極3の直径は3mmである。アノードターゲット4の凹部12の突出部分の高さは1mmである。凹部12の底部分の直径は1.2mmである。ここで、凹部の突出した部分には円錐形状を用いている。突出部13の高さ、つまり、X線管の法線方向の長さは、0.7mmである。突出部13の幅、つまり、X線管の長手方向の長さは、1mmである。
【0027】
上記の設定寸法で電圧印加した場合に形成される電界を等電位線21で示した。内壁電極9および引出電極11の形状により、内壁電極9および引出電極11付近の電界は、アノードターゲット4を中心とする半球形状の電界を形成している。
【0028】
また、突出部13の形状により、突出部13と引出電極11との間に、アノードターゲット4に向かうように電子ビーム2に作用する電界を形成する。これにより、アノードターゲット4に電子ビーム2を集中照射することができる。ここで、理想的な電界を形成するためには、突出部13は内壁電極9の端部付近、すなわち内壁電極9と内壁電極10の連接部付近に設置することが望ましい。一方、突出部13がない場合は、引出電極11から内壁電極10付近の電界は、アノードターゲット4よりもアノード電極3側に電子ビーム2が照射されるように電子ビーム2に作用する電界となり、電子ビーム2をアノードターゲット4に集中させることができない。
【0029】
さらに、アノードターゲット4の凹部12は、電子ビーム2の集中効果を補強する。電子ビーム2は内壁電極9および引出電極11が形成する電界により、半球の中心に向かい照射される。しかしながら、アノードターゲット4が有限な大きさを持つことにより、アノードターゲット4と内壁電極9により生成される電界で、電子ビーム2の集束効果を弱めてしまう。そこで、アノードターゲット4に凹部12を設ける。これにより、アノードターゲット4周辺に電子ビーム2が凹部12の底部分に集中する電界が形成される。従って、電子ビーム2をアノードターゲット4上の小さい領域に集中照射させることができる。
【0030】
図3は電界シミュレーションを実施したX線管で電子ビーム2を照射し、アノードターゲット4に衝突した電子31の分布図である。本発明の実施形態のX線管を用いることによりアノードターゲット4の半径0.2mmの小さな領域に電子ビーム2を集中的に照射させることができる。
【0031】
図4は、本発明の実施形態のX線管を搭載したX線分析装置の構成図である。本発明の実施形態のX線管を搭載したX線照射部41はX線43を照射する。X線43はコリメータ42により照射量、照射領域が制限される。X線43は、試料台44に載置された試料45に照射される。これにより、試料45から蛍光X線46が放出される。蛍光X線46は検出部47で検出される。検出部47は検出信号を処理部48に出力する。処理部48は入力された検出信号を処理し、検出結果を表示部49に表示させる。
【0032】
図5はX線光源の半径とX線強度比の関係図である。関係図はシミュレーションの結果である。X線照射部41のX線光源とコリメータ42との距離は50mm、コリメータ42と試料45との距離は10mmである。X線強度比は、X線光源の半径が0.5mmのときのX線強度を基準とした。照射ビーム径はX線強度を算出する領域である。コリメータ42により制限され、試料45上に照射されたX線43の広がりである。
【0033】
X線光源の半径を小さくするとX線強度は増加する。特に照射ビーム径が0.2mmの場合、X線光源の半径を小さくするとX線強度は大きく増加する。つまり、大きい径のコリメータ42により制限された照射ビーム径0.5mmの場合では、X線強度の半径を小さくすることにより増加するX線強度は小さい。これは、コリメータ42の径が大きいため線光源の半径を変化させても試料45に到達するX線の量は大きく変化しないということである。一方、小さい径のコリメータ42により制限された照射ビーム径0.2mmの場合では、X線強度の半径を小さくすることにより増加するX線強度は大きい。これは、コリメータ42の径が小さいためX線光源の半径が大きいと試料45に到達するX線の量が少なくなるためである。従って、小さい径を有するコリメータ42を用いて、試料45の小さい領域に強度の高いX線を照射するためには、半径の小さいX線光源を用いる必要がある。
【0034】
本発明の実施形態のX線管を搭載したX線分析装置によれば、照射ビーム径を小さくした場合でもX線光源の半径が小さいため、強度の高いX線を試料に照射することができる。よって、試料の測定時間を短縮することができる。
【0035】
本発明に係るX線管の別の実施形態は、カソードフィラメント1の代わりにフィールドエミッション型の電子源を用いる。図6は、フィールドエミッション型の電子源として、カーボンナノチューブアレイ61を用いたX線管である。カーボンナノチューブアレイ61は、アノードターゲット4に向かってカーボンナノチューブを配向させたアレイである。引出電極11を設置しなくても、カーボンナノチューブは配向された方向に電子ビーム2を照射することができる。これにより溝部8を設けることなく、外囲器14の内壁にカーボンナノチューブアレイ61を設置することができる。よって、外囲器14の内壁に複数のカーボンナノチューブアレイ61を設置し、アノードターゲット4に大量の電子ビーム2を照射することができる。また、カーボンナノチューブアレイ61はカーボンナノチューブ先端から電子ビーム2を照射することができるので、放出電子密度の高い電子源である。従って、アノードターゲット4に大量の電子ビーム2を照射することができる。
【0036】
本発明の実施形態の別のX線管を搭載したX線分析装置によれば、アノードターゲットに大量の電子ビームを集中的に照射することができるので、強度の高いX線を試料に照射することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…カソードフィラメント
2…電子ビーム
3…アノード電極
4…アノードターゲット
5…X線
6…窓
8…溝部
9、10…内壁電極
11…引出電極
12…凹部
13…突出部
14、15…外囲器
16…電流源
17…電圧源
21…等電位線
31…衝突した電子
41…X線照射部
42…コリメータ
43…X線
44…試料台
45…試料
46…蛍光X線
47…検出部
48…処理部
49…表示部
61…カーボンナノチューブアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームの衝突によりX線を放出するアノードターゲットと、
前記アノードターゲットに対向する位置に配置され、前記電子ビームを放出する複数のカソード電極と、
前記電子ビームの照射方向を制御する電子光学系と、
前記アノードターゲットと前記カソード電極と前記電子光学系とを収容する外囲器と、を有するX線管。
【請求項2】
前記外囲器の内壁に、前記アノードターゲットを囲む半球形電極を有する請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記電子光学系は、前記電子ビームの照射方向が前記半球形電極の面に略垂直になるよう制御する請求項1または2に記載のX線管。
【請求項4】
前記アノードターゲットは、前記X線を放出する方向に凹部を有する請求項1から3のいずれか一つに記載のX線管。
【請求項5】
前記外囲器の内壁に、前記アノードターゲットに向かって突出した突出部を有する請求項1から4のいずれか一つに記載のX線管。
【請求項6】
前記突出部は、前記半球形電極の端部に配置された請求項1から5のいずれか一つに記載のX線管。
【請求項7】
前記カソード電極は、前記外囲器の一部に設けられた溝部に設置された請求項1から6のいずれか一つに記載のX線管。
【請求項8】
前記電子光学系は、前記半球形電極と略平行な面を有する引出電極を備える請求項1から7のいずれか一つに記載のX線管。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一つに記載のX線管と、
試料を載置する試料台と、
前記試料への前記X線の照射量を制限するコリメータと、
前記試料から放出された蛍光X線を検出する検出器と、を有するX線分析装置。
【請求項10】
電子ビームの衝突によりX線を放出するアノードターゲットと、
前記アノードターゲットに対向する位置に配置され、前記電子ビームを放出する複数のカーボンナノチューブからなるカソード電極と、
前記アノードターゲットと前記カソード電極とを収容する外囲器と、を有するX線管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−204156(P2012−204156A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68037(P2011−68037)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】