説明

X線管配置

【課題】X線管の構成自体を変更することなく、既存のX線管をそのまま用い、X線管の配置自体を変更するだけで、既存の撮影系における解像力を向上させることができ、しかも低コスト、且つ後付け可能にせんとする
【解決手段】X線撮影装置において、X線管を焦点の中央を回転中心とし、X線管の管軸を、中心X線を照射する方向から見たときにフィラメント側を奥に、陽極部を手前になるように一定角度だけ傾けることにより、中心X線の照射する方向から見たときのX線管ターゲット角度が見かけ上小さくなり、X線撮影に際し、みかけの焦点、即ち実効焦点サイズを小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線撮影像の解像力を向上させるX線管配置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、診断用X線発生装置のX線管は、電子流発生用フィラメントを有する陰極と、X線発生用ターゲットを有する陽極とを所定の空間を介し対向して配置し、全体を真空密閉するとともに、発生するX線束を鉛等で遮蔽し、X線の照射口に絞りを設けて、必要な量のX線量を照射するようにしている。
【0003】
ターゲットの中で、電子流が衝突して、X線が発生する部分を焦点と称し、この焦点は小さいほど半影が小さくなり、X線撮影像の解像力が高くなる。しかし、焦点が小さくなるほどX線の発生に伴い、焦点の単位面積当たりの発熱量が多くなるので、焦点は適切な大きさに維持する必要がある。
【0004】
一般に、X線管には、大別して、以下に示すような2種類のX線管がある。即ち、入射する電子流に対して陽極をほぼ12〜20度傾斜させ、これにより実際に電子流の衝突する部分である実焦点の大きさをある程度の大きさに保ちながら、画像に対して有効な実効焦点の大きさを小さく抑えるようにした固定陽極型のX線管と、陽極を回転させて実焦点を円周上に設定し、発熱量を大きな実焦点に分散し、単位面積当たりの発熱量を小さくした回転陽極型X線管とがある。
【0005】
何れのX線管を用いたX線撮影装置においても、解像力を決定する要素としては、X線管の実効焦点サイズに基因する半影の影響による解像力の低下がある。この解像力を向上させるためには、X線管の焦点サイズを小さくしたり、幾何学的配置を変えなければならない。
【0006】
従来のX線撮影装置において、解像力を向上させる手段として、X線管の実効焦点サイズを小さくすること(焦点サイズは小さいほど良い)、記録系の解像力を向上させること(画素サイズは小さいほどよい)、および撮影の幾何学的配置を変更して拡大撮影を行う(実効焦点サイズの小さい場合に有効)等の手段が考えられるが、何れも高価であったり、設置スペースを広くする必要があるという問題がある。
【0007】
解像力を決定する焦点サイズを小さくするには、2通りの方法がある。1つは、電子流が陽極に衝突するサイズそのもの(実焦点サイズ)を小さくすることである。しかし、実焦点サイズを小さくすると前述したように、単位面積当たりの発熱量が大きくなり、焦点が溶けたり、フィラメントの破壊につながる。そこで、回転陽極型X線管があるが、医療に用いられている微少焦点サイズとして0.1mm×0.1mmまで小さいものがある。固定陽極型のX線管の焦点サイズは歯科用に利用されているものでは0.4mm〜1.0mmサイズである。焦点サイズを小さくする方法の他の1つは陽極の角度である。例えば、実焦点サイズが0.7mm×2.1mmであっても、陽極の角度を19度とすると、実焦点の2.1mmの中心X線方向からみた見かけの長さは2.1mm×sin19°=0.7mmとなり、撮影に当たり実効焦点サイズは0.7mm×0.7mmの焦点サイズとなる。
従って、陽極の角度が小さくなればなるほど実効焦点サイズの1辺を小さくすることができる。しかし、ここで、陽極の角度が小さくなればなるほど撮影に必要とされる照射野内での線量の不均一が発生する。これはヒールエフェクトと称され、増感紙フイルム系を用いて撮影が行なわれる場合には問題となる。
【0008】
X線撮影装置のX線管としては米国特許第2,671,867号(特許文献1)の第1図乃至第12図に記載されているものがある。この特許文献1には、入射する電子流に対して陽極をほぼ20度傾斜させた上述した種類のX線管が記載されており、その目的とするところは、陰極フィラメントから陽極ターゲットに照射された電子ビームによって陽極ターゲットからX線だけでなく逆放射ビームを陰極フィラメントに向けて反射させてフィラメントを破壊したり、フィラメントからさらに強力な電子ビームが発生されるのを防止するようにしたものであり、撮影画像の解像力を向上させるものではない。
【特許文献1】米国特許第2,671,867号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的はX線管の構成自体を変更することなく、既存のX線管をそのまま用い、X線管の配置自体を変更するだけで、既存の撮影系における解像力を向上させることができ、しかも低コスト、且つ後付け可能にせんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明X線管配置は、X線ヘッドに固定されているX線管の幾何学的配置を変えるに当たり、X線管の陰極に対する焦点の中央を回転中心とし、X線管をそのターゲット面から中心X線方向に向かう向きに一定角度だけ傾斜させ、中心X線の射出する方向から見たときのX線管焦点の角度を見かけ上小さくし、管軸と平行な方向について、みかけ上の焦点サイズを小さくし、即ち、実効焦点サイズを見かけ上小さく変化させるようにしたことを特徴とする。
【0011】
斯様に構成することによって、横又は縦方向の半影を小さくして、焦点によるボケ成分を低減し、解像力を向上させることができる。
【0012】
また、本発明X線管配置においては、中心X線方向からずれた面におけるX線強度が不均一な場合、即ち、撮影に際し、照射野内のX線強度の不均一な場合にX線の受光装置に、X線強度分布補正手段を設けるようにする。
【0013】
照射野内のX線強度分布が不均一な場合、その補正の他の手段として、X線発生装置側に補正フィルタを設けることによって、強度分布の不均一を解決することができる。このフィルタにはアルミニウム、銅等の金属やプラスチックなどの合成樹脂等がある。
【発明の効果】
【0014】
パノラマ撮影装置においては、スリットビームなので、横方向の解像力が向上し、診断上今までの装置で抽出できなかった組織や病巣等の画像情報を抽出して提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に示すように、従来のX線管は、陰極のフィラメント(1)に対して、これから或る距離離間して陽極(2)を配置し、そのフィラメント(1)との対向面(3)をフィラメント(1)のコイル接線に対して所定角度α(例えば20度)に設定し、この対向面(3)にターゲット(4)を設ける。
【0016】
従って、陰極フィラメント(1)から放出された電子ビームeは陽極ターゲット(4)に衝突してX線を放出する。斯様に放出されたX線束のうち実際に照射されるX線の照射野内の中心X線方向から見たときの見かけ上の実効焦点サイズをbで表わす。
【実施例1】
【0017】
本発明によれば、図1および図2に示すように、焦点サイズを見かけ上、2分の1にするためには、今、ターゲット角度をα、実効焦点サイズをb、X線管を傾ける角度をθ=α−α′、見かけのターゲット角度をα′、見かけの焦点サイズをb′=(1/2)b、とすると、次式が成立し、この式からX線管を傾ける角度θを導出することができる。
【0018】
【数1】

【0019】
上式から明らかなように、X線管を傾ける角度θを計算することができ、実際に、この角度θだけX線管を傾斜させることによって、見かけの焦点サイズb′を、これまでの実効焦点サイズb の1/2とすることができ、従って、撮影画像の解像力を記録系の解像力が十分大きな場合は、2倍に向上させることができる。
【0020】
また、本発明において、中心X線方向からずれた面におけるX線強度が不均一な場合には、X線の受光装置やX線発生装置部において、X線強度分布補正手段を設けるようにする。
【0021】
上述したように、本発明によれば、X線撮影装置において、X線管を焦点の中央を回転中心とし、X線管をX線管ターゲット面から中心X線方向に向かう向きに一定角度だけ傾けることにより、中心X線の照射する方向から見たときのX線管ターゲット角度が見かけ上小さくなり、実効焦点サイズが小さくなる。
【0022】
X線管をX線発生装置内で横又は縦方向に配置することにより受光面では横又は縦方向の半影が小さくなり、焦点によるボケ成分が低減し、X線管焦点による半影の影響を低減し、解像力を向上させることができる。斯様に解像力が上がれば、今までの装置で抽出できなかった組織や病巣が抽出でき、診断能を向上させることが可能となる。
【0023】
さらに本発明X線管配置によれば、X線管自体は既存のものをそのまま使用することができるため、極めて低廉価に構成することができ、極めて経済的である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本例では、X線装置に使用するX線管を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、非破壊検査装置やX線CT装置のX線管にも適用し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ターゲットを有する陽極とフィラメントを有する陰極より成る従来のX線管の配置を示す説明図である。
【図2】本発明によるX線管の配置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 陰極フィラメント
2 陽極
3 陽極のターゲット設置面
4 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線ヘッドに固定されているX線管の幾何学的配置を変えるに当たり、X線管の陰極と陽極とを結ぶ線を管軸とすると、焦点の中央を回転中心とし、X線管を中心X線方向から焦点方向を見た時、陰極部を奥に、陽極部を手前方向に一定角度だけ回転させ、回転後の中心X線の照射する方向から見たときのX線管ターゲットの角度を見かけ上小さくすることで、実効焦点サイズを見かけ上小さくしたことを特徴とするX線管配置。
【請求項2】
X線撮影に当たり、照射野内におけるX線強度分布が不均一な場合は、受光装置やX線発生装置にX線強度分布補正手段を設けるようにしたことを特徴とするX線管配置。

【図1】
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【図2】
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