説明

X線透視装置及びX線透視方法

【課題】従来よりも空間分解能の高い透視画像を生成することを目的とする。
【解決手段】逆コンプトン散乱X線を透視対象物に走査して照射するX線照射手段と、前記透視対象物で発生する後方散乱X線光子を検出するX線検出部と、該X線検出部のX線光子のうち、所定の評価範囲内のエネルギーに属するX線光子を抽出する抽出手段と、該抽出手段の抽出結果に基づいて透視対象物の透視画像を作成する透視画像作成手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線透視装置及びX線透視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、被検査物から離れた位置であっても後方散乱X線を高いS/N比で検出して透視画像を生成することができる遠隔X線透視装置及び遠隔X線透視方法が開示されている。この遠隔X線透視装置は、広がり角が十分小さい高指向性のパルスX線を周期的に発生するX線源(逆コンプトン散乱X線源)と、パルスX線を被検査物に走査状に照射するX線走査装置と、被検査物で発生する後方散乱X線を検出する後方散乱X線検出器と、被検査物で散乱された後方散乱X線のみを検出するように、パルスX線の発生と同期させて後方散乱X線を検出する検出制御装置とを備える。このような遠隔X線透視装置は、被検査物から離れた位置(10メートル程度)で後方散乱X線を検出する場合であっても、後方散乱X線を高いS/N比で検出できるので十分な品質の透視画像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−002940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記遠隔X線透視装置は、後方散乱X線をパルスX線の発生と同期させて検出するのみであり、被検査物から1回の散乱で返ってきたX線(1回散乱X線)と多数回散乱の後に返ってきたX線(多数回散乱X線)とを分別していない。上記1回散乱X線は、1次X線ビーム軸上にある被検査物の部位の情報を持つのに対し、多数回散乱X線は、1次X線ビーム軸から外れた部位の影響を受けている。したがって、上記従来技術では、多数回散乱X線の影響で被検査物の透視画像の空間分解能が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも空間分解能の高い透視画像を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、X線透視装置に係る第1の解決手段として、逆コンプトン散乱X線を透視対象物に走査して照射するX線照射手段と、前記透視対象物で発生する後方散乱X線光子を検出するX線検出部と、該X線検出部のX線光子のうち、所定の評価範囲内のエネルギーに属するX線光子を抽出する抽出手段と、該抽出手段の抽出結果に基づいて透視対象物の透視画像を作成する透視画像作成手段とを具備するという手段を採用する。
【0007】
本発明では、X線透視装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、X線検出部は、後方散乱X線のエネルギーを検出し、抽出手段は、所定の光子エネルギー範囲のX線光子のみを抽出結果とするという手段を採用する。
【0008】
本発明では、X線透視装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、X線検出部は、カドミウムテルライドからなる検出素子を用いるという手段を採用する。
【0009】
本発明では、X線透視装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、前記X線検出部の検出面は、2次元状に形成されるという手段を採用する。
【0010】
また、本発明では、X線透視方法に係る解決手段として、逆コンプトン散乱X線が照射されて透視対象物を走査するX線照射工程と、前記透視対象物で発生する後方散乱X線光子が検出されるX線検出工程と、該X線検出工程のX線光子のうち、所定の評価範囲内のエネルギーに属するX線光子が抽出される抽出工程と、該抽出工程の抽出結果に基づいて透視対象物の透視画像が作成される透視画像作成工程とを具備するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透視対象物で発生する後方散乱X線のうち、所定の評価範囲内のエネルギーに属する後方散乱X線のみを検出するので、逆コンプトン散乱X線のビーム軸から外れた部位から得られる多数回散乱X線、つまり上記評価範囲を逸脱するエネルギーの後方散乱X線を排除し、逆コンプトン散乱X線のビーム軸から得られる1回散乱X線のみに基づいて透視画像を生成することが可能となる。したがって、本発明によれば、上記評価範囲による強度制限を行わない従来技術よりも空間分解能の高い透視画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線透視装置Aの概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るX線透視装置AのX線検出部3の概略構成及び透視対象物Cで発生する後方散乱X線を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るX線透視装置Aにおいて、1回散乱X線X1a,X1b及び多数回散乱X線Xnの光子エネルギーを例示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
最初に、本実施形態に係るX線透視装置Aの概略構成について、図1を参照して説明する。X線透視装置Aは、図1に示すように車両Bに搭載されている。このような車両搭載型のX線透視装置Aでは、X線透視装置Aを容易に移動させることができるので、透視対象物Cの検査の際に、透視対象物Cとの距離を最適距離(約10m)に容易に設定することができる。なお、車両Bは、例えばトレーラまたはトラック等である。
【0014】
このようなX線透視装置Aは、図1に示すように、X線源1、X線走査部2、X線検出部3、カウンタ4及び制御演算部5から構成されている。X線源1及びX線走査部2は、本実施形態におけるX線照射手段を構成し、カウンタ4及び制御演算部5は、本実施形態における抽出手段を構成し、また制御演算部5は、本実施形態における透視画像作成手段である。
【0015】
X線源1は、制御演算部5の制御の下、加速器で加速した高エネルギーの電子ビームとレーザー光とを衝突(逆コンプトン散乱)させ、逆コンプトン散乱X線Xzを発生する逆コンプトン散乱X線源である。X線源1が発生した逆コンプトン散乱X線源は、X線走査部2によって透視対象物Cに走査状に照射される。この逆コンプトン散乱X線Xzは、準単色性という特徴、つまり強度スペクトルが極めて急峻であるという特徴を持つ。また、逆コンプトン散乱X線Xzは、高指向性かつ短パルスであるという特徴も持つ。
【0016】
例えば、X線源1は、パルス周期10pps以上であり、パルス幅が1μs以下であり、広がり角が1mrad以下であり、10光子/cm/shot以上のX線光子を発生する。逆コンプトン散乱X線Xzの広がり角が1mrad以下、例えば0.5mradの場合、逆コンプトン散乱X線Xzのビーム径は、X線源1から10m離れた位置で10mm以下になる。
【0017】
X線走査部2は、X線走査光学系であり、制御演算部5の制御の下、X線源1が発生した逆コンプトン散乱X線Xzを透視対象物Cに走査状に照射する。X線走査部2は、走査間隔がビーム径の半分(例えば5mm)である場合に、パルス周期が10ppsであるとすると、50mm/sの速度で透視対象物C上を逆コンプトン散乱X線Xzで走査する。従って、透視対象物Cの大きさが例えば250mm×250mmの場合、水平走査(5秒)を5mmピッチで50回繰り返すことにより、透視対象物Cの全面を250秒(約4分)で走査する。
【0018】
X線検出部3は、透視対象物Cに正対するように配置され、逆コンプトン散乱X線Xzが照射された透視対象物Cで発生する後方散乱X線のエネルギーを検出するものである。このX線検出部3は、約1mm平方程度の検出素子が縦に並んで形成される帯状の検出器3aを横方向に複数隣接するように並べたものであり、図2に示すように2次元状の検出面を形成する。上記検出素子は、X線のエネルギー(X線光子個々のエネルギー)に応じた電流を発生するカドミウムテルライド(CdTe)から形成されたものである。
【0019】
上記各検出器3aは、上記各検出素子と、各検出素子が出力する電流を電圧に変換して増幅する増幅器と、該増幅器から出力される電圧信号をデジタル信号(光子検出信号)に変換するA/D変換器とからなる。上記カドミウムテルライドは、X線(光子)が当たると結晶の結合が分離して正孔と電子との対を発生するものであり、X線(光子)のエネルギーに比例した個数の電子の流れ、つまり電流を出力する。
なお、このような検出器3aから構成されるX線検出部3は、自然放射線によるノイズを低減するために、透視対象物Cに対向しない方向からの自然放射線を遮断するシールドを備えている。
【0020】
このようなX線検出部3は、上記光子検出信号をカウンタ4に出力する。カウンタ4は、光子検出信号に基づいて後方散乱X線の所定のエネルギー範囲毎の到達後方散乱X線光子をカウントし、その光子数を制御演算部5に出力する。このカウンタ4は、自然放射線をできるだけ除外して透視対象物Cで発生する後方散乱X線の光子数をカウントするために、制御演算部5から入力される同期信号に基づいてX線源1における逆コンプトン散乱X線Xzの発生に同期させて光子数をカウントする。
【0021】
制御演算部5は、例えばデスクトップ型またはノート型のパーソナルコンピュータであり、キーボード等の操作部から入力された操作指示に基づいてX線透視装置Aの全体の動作を制御すると共に、上記光子数に基づいて透視対象物Cの透視画像を作成(生成)する。具体的には、制御演算部5は、同期信号をX線源1及びカウンタ4に出力し、この結果としてカウンタ4から入力された光子数に基づいて透視画像を作成してディスプレイに表示する。
【0022】
例えば、X線源1がパルス幅1μsの逆コンプトン散乱X線Xzを発生する場合、カウンタ4は、逆コンプトン散乱X線Xzのパルスの発生に同期させながら1μsの間に光子数をカウントする。これにより、カウンタ4は、自然放射線の光子をカウントすることを避けることができる。すなわち、本X線透視装置Aでは、このようなカウンタ4によって逆コンプトン散乱X線Xzのパルスの発生に同期させて光子の数をカウントするので、大地および宇宙からの自然放射線の影響を大幅に低減することができる。
【0023】
また、制御演算部5は、総光子数をそのまま用いて透視対象物Cの透視画像を作成するのではなく、所定の評価エネルギー範囲に属する光子のみを抽出して透視画像を作成する。このような制御演算部5の処理の詳細については後述するが、この光子のエネルギー値を評価範囲に限定する処理は、本X線透視装置Aの主な特徴点である。
【0024】
次に、このように構成された本X線透視装置Aの動作について、詳しく説明する。
まず、X線透視装置Aで透視対象物Cを透視検査しようとする場合、ユーザは、制御演算部5の操作部から透視開始指示を入力する。制御演算部5は、透視開始指示を受け付けると、X線源1に逆コンプトン散乱X線Xzを発生させ、X線走査部2に当該逆コンプトン散乱X線Xzで透視対象物C上を走査させる。
【0025】
一方、透視対象物Cでは逆コンプトン散乱X線Xzが照射されると、後方散乱X線が発生する。図2に示すように、透視対象物Cでは後方散乱X線として、1回の散乱でX線透視装置Aに返るX線(1回散乱X線光子X1a, X1b)と、多数回の散乱でX線透視装置Aに返るX線(多数回散乱X線光子Xn)とが発生する。
【0026】
1回散乱X線光子X1a, X1bは、逆コンプトン散乱X線Xzのビーム軸上における透視対象物Cの部位の情報を持つのに対し、多数回散乱X線光子Xnは、逆コンプトン散乱X線Xzのビーム軸から外れた透視対象物Cの部位の影響を受けている。1回散乱X線光子X1a, X1bと多数回散乱X線光子Xnとにおいて、多数回散乱X線光子Xnは、散乱回数が多い分だけ1回散乱X線光子X1a, X1bよりも多くのエネルギーを失っている。
【0027】
本X線透視装置Aでは、X線検出部3が1回散乱X線光子X1a, X1b及び多数回散乱X線光子Xnを検出すると、各後方散乱X線の光子のエネルギーに比例した光子検出信号をカウンタ4に出力する。
カウンタ4は、X線検出部3から光子検出信号が入力されると、光子検出信号に基づいて、1回散乱X線光子X1a, X1b及び多数回散乱X線光子Xnの光子のエネルギーを算出し、各後方散乱X線の所定のエネルギー範囲毎の到達後方散乱X線光子数を制御演算部5に出力する。
【0028】
制御演算部5は、各後方散乱X線の光子エネルギー値が所定の評価範囲に属するか否か判定する。上記評価範囲は、予め1回散乱X線の光子のエネルギーを理論的に計算し、当該計算結果に基づいて決定された範囲(誤差を含む)である。すなわち、光子エネルギー値が上記評価範囲内に属する後方散乱X線は、1回散乱X線である可能が高い。
【0029】
図3は、本実施形態に係るX線透視装置Aの制御演算部5に入力された1回散乱X線光子X1a, X1b及び多数回散乱X線光子Xnの光子エネルギー値を例示したグラフである。
制御演算部5は、1回散乱X線光子X1a, X1b及び多数回散乱X線光子Xnの光子エネルギー値が図3に示すものである場合に、上記評価範囲に属する1回散乱X線光子X1a, X1bを抽出し、多数回散乱X線光子Xnを除外する。そして、制御演算部5は、抽出した1回散乱X線光子X1a, X1bの光子数に基づいて透視対象物Cの透視画像を作成し、当該透視画像をディスプレイに表示する。
【0030】
以上のような本実施形態に係るX線透視装置Aでは、X線走査部2が逆コンプトン散乱X線Xzで透視対象物Cを走査し、X線検出部3が透視対象物Cで発生する後方散乱X線を検出する。そして、X線検出部3は、検出素子がカドミウムテルライドであり、各後方散乱X線光子のエネルギーに比例した光子検出信号をカウンタ4に出力する。
【0031】
カウンタ4は、光子検出信号が入力されると、当該光子検出信号に基づいて後方散乱X線の所定のエネルギー範囲毎の到達後方散乱X線光子数をカウントし、所定のエネルギー範囲毎の光子数を制御演算部5に出力する。制御演算部5は、所定のエネルギー範囲毎の光子数情報が入力されると、評価範囲に属する光子数、すなわち1回散乱X線である可能性の高い後方散乱X線を抽出し、当該後方散乱X線の光子数に基づいて透視画像を作成する。このように、X線透視装置Aでは、逆コンプトン散乱X線ビーム軸から外れた領域の影響を受けている多数回散乱X線を除去し、1回散乱X線の数に基づいて透視画像を作成することで、従来よりも空間分解能の高い透視画像を作成すことができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、X線検出部3の検出面は、2次元状に形成されているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、X線検出部3の検出面を1次元状、すなわちライン状に形成するようにしてもよい。ただし、X線検出部3の検出面の面積が大きいほど、より確実に後方散乱X線を検出することができるため、2次元状であることが好ましい。
【0033】
(2)上記実施形態では、X線検出部3の検出素子は、カドミウムテルライドから構成されているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、X線検出部3の検出素子を、カドミウムテルライドの代わりにカドミウムテルル亜鉛(CZT)で構成するようにしてもよい。すなわち、X線検出部3は、X線のエネルギーを検出できるものであればよい。
【符号の説明】
【0034】
A…X線透視装置、B…車両、C…透視対象物、1…X線源(X線走査部2とともにX線照射手段を構成)、2…X線走査部(X線源1とともにX線照射手段を構成)、3…X線検出部、3a…検出器、4…カウンタ(制御演算部5とともに抽出手段を構成)、5…制御演算部(カウンタ4とともに抽出手段を構成、透視画像作成手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆コンプトン散乱X線を透視対象物に走査して照射するX線照射手段と、
前記透視対象物で発生する後方散乱X線光子を検出するX線検出部と、
該X線検出部のX線光子のうち、所定の評価範囲内のエネルギーに属するX線光子を抽出する抽出手段と、
該抽出手段の抽出結果に基づいて透視対象物の透視画像を作成する透視画像作成手段と
を具備することを特徴とするX線透視装置。
【請求項2】
X線検出部は、後方散乱X線のエネルギーを検出し、
抽出手段は、所定の光子エネルギー範囲のX線光子のみを抽出結果とする請求項1に記載のX線透視装置。
【請求項3】
X線検出部は、カドミウムテルライドからなる検出素子を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のX線透視装置。
【請求項4】
前記X線検出部の検出面は、2次元状に形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のX線透視装置。
【請求項5】
逆コンプトン散乱X線が照射されて透視対象物を走査するX線照射工程と、
前記透視対象物で発生する後方散乱X線光子が検出されるX線検出工程と、
該X線検出工程のX線光子のうち、所定の評価範囲内のエネルギーに属するX線光子が抽出される抽出工程と、
該抽出工程の抽出結果に基づいて透視対象物の透視画像が作成される透視画像作成工程と
を具備することを特徴とするX線透視方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−128007(P2011−128007A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286628(P2009−286628)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】