説明

X線透過検査装置及びX線透過検査方法

【課題】 異物起因のコントラストのみを明確に判別して過検出及び誤検出を防ぐこと。
【解決手段】 測定対象元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料Sに照射する第1のX線管球11と、元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を試料に照射する第2のX線管球12と、第1の特性X線及び第2の特性X線が試料を透過した際の第1の透過X線及び第2の透過X線を検出する第1のX線検出器13及び第2のX線検出器14と、第1の透過X線の第1の透過像と第2の透過X線の第2の透過像との差分からコントラスト像を得る演算部15と、を備え、試料と第1のX線管球との間に第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素の第1のフィルタF1を配すると共に、試料と第2のX線管球との間に第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素の第2のフィルタF2を配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の特定元素からなる異物を検出可能なX線透過検査装置及びX線透過検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、ハイブリッド車又は電気自動車等のバッテリーとして、ニッケル水素系バッテリーよりもエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池が採用されつつある。このリチウムイオン二次電池は、非水電解質二次電池の一種で、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担い、かつ金属リチウムを電池内に含まない二次電池であり、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話機では既に多く採用されている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、優れた電池特性を有しているが、製造工程中に電極にFe(鉄)等の異物が入ると発熱性や寿命等の電池特性が劣化する等の信頼性に影響が生じるため、今まで車載用への搭載が遅れていた。例えば、リチウムイオン二次電池の電極(正極)は、図7の(a)に示すように、通常厚さ20μmのAl膜1の両面にMn酸リチウム膜やCo酸リチウム膜2が100μm程度形成されて構成されているが、図7の(b)に示すように、この中にFe(鉄)やSUS(ステンレス)の異物Xが混入する場合があり、その異物Xが数十μm以上であると、短絡が発生し、バッテリーの焼失や性能低下を引き起こす可能性がある。このため、リチウムイオン二次電池について、製造時に異物Xが混入したバッテリーを検査で迅速に検出し、予め除去することが求められている。
【0004】
一般に、試料中の異物等を検出する方法として、透過X線像を用いた方法が知られている。この手法を利用して、従来、例えば特許文献1に記載されているように、リチウムイオン二次電池の負極として用いられる炭素系材料等への異物混入の有無を透過X線像によって検出する炭素質材料の異物検出方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−239776号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来の異物検出方法では、単に透過X線像の強度により異物の有無を検出しているだけのため、異物の原子番号が大きく異なれば明確なコントラストが得られるが、原子番号が近いとコントラストが弱く、判別がし難くなる問題がある。例えば、電極(正極板)の構成材に含まれるCoと異物とされるFeとでは、同じようなコントラストとなってしまう。このため、従来の異物検出方法では、図7の(a)に示すように、例えば試料Sである電極(正極板)の透過X線像Tにおいて、局所的に構成材が厚い部分2aのコントラストか、図7の(b)に示すように、異物Xによるコントラストかが判別できず、過検出や誤検出となってしまう不都合があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、異物起因のコントラストのみを明確に判別して過検出及び誤検出を防ぐことができるX線透過検査装置及びX線透過検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線透過検査装置は、測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料に照射する第1のX線管球と、前記元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を前記試料に照射する第2のX線管球と、前記第1の特性X線が前記試料を透過した際の第1の透過X線を受けてその強度を検出する第1のX線検出器と、前記第2の特性X線が前記試料を透過した際の第2の透過X線を受けてその強度を検出する第2のX線検出器と、検出された前記第1の透過X線の強度の分布を示す第1の透過像と検出された前記第2の透過X線の強度の分布を示す第2の透過像とを作成し、前記第1の透過像と前記第2の透過像との差分からコントラスト像を得る演算部と、を備え、前記試料と前記第1のX線管球との間に前記第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタが配されていると共に、前記試料と前記第2のX線管球との間に前記第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタが配されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のX線透過検査方法は、測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料に照射するステップと、前記元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を前記試料に照射するステップと、前記第1の特性X線が前記試料を透過した際の第1の透過X線を受けてその強度を検出するステップと、前記第2の特性X線が前記試料を透過した際の第2の透過X線を受けてその強度を検出するステップと、検出された前記第1の透過X線の強度の分布を示す第1の透過像と検出された前記第2の透過X線の強度の分布を示す第2の透過像とを作成し、前記第1の透過像と前記第2の透過像との差分からコントラスト像を得るステップと、を有し、前記試料と前記第1のX線管球との間に前記第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタを配すると共に、前記試料と前記第2のX線管球との間に前記第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタを配することを特徴とする。
【0010】
これらのX線透過検査装置及びX線透過検査方法では、測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料に照射して取得した第1の透過像と元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を試料に照射して取得した第2の透過像との差分からコントラスト像を得るので、特定の元素について明確なコントラスト像を得ることができる。すなわち、白色X線等の種々のエネルギーが混在したX線ではなく、上記元素のX線吸収端の前後であってX線吸収端によって透過X線検出量に差が生じる異なるエネルギーの特性X線(第1の特性X線及び第2の特性X線)を別々に照射することで、原子番号が近い他の元素があっても測定対象の元素の明確なコントラスト像を得ることが可能になる。
【0011】
さらに、試料と第1のX線管球との間に第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタを配すると共に、試料と第2のX線管球との間に第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタを配するので、第1のX線管球及び第2のX線管球から第1の特性X線又は第2の特性X線だけでなく、これらよりも高いエネルギーの特性X線やバックグランドのX線も出射されている場合、これらを第1のフィルタ及び第2のフィルタでカットすることができる。したがって、所望の第1の特性X線又は第2の特性X線だけが抽出されて試料に対して照射可能になるため、測定対象の元素のコントラストがより鮮明になる。
【0012】
また、本発明のX線透過検査装置は、前記元素がFeであり、前記第1のX線管球が、Coターゲット管球であると共に、前記第2のX線管球が、Niターゲット管球であり、前記第1のフィルタが、Fe箔であると共に、前記第2のフィルタが、Co箔であることを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、Feを測定対象の元素としたとき、FeのX線吸収端の前後にエネルギーが位置するCoの特性X線を出射可能なCoターゲット管球とNiの特性X線を出射可能なNiターゲット管球とを使用することで、安価なX線管球によりFeの異物を明確なコントラスト像で検出することができる。
また、第1のフィルタがFe箔であると共に、第2のフィルタがCo箔であるので、FeのX線吸収端(7.111keV)によりCo−Kα特性X線(6.93keV)だけを抽出すると共に、CoのX線吸収端(7.709keV)によりNi−Kα特性X線(7.477keV)だけを抽出することができる。
【0013】
また、本発明のX線透過検査装置は、前記元素がCrであり、前記第1のX線管球が、Crターゲット管球であると共に、前記第2のX線管球が、Feターゲット管球であり、前記第1のフィルタが、V(バナジウム)箔であると共に、前記第2のフィルタが、Mn箔であることを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、Crを測定対象の元素としたとき、CrのX線吸収端の前後にエネルギーが位置するCrの特性X線を出射可能なCrターゲット管球とFeの特性X線を出射可能なFeターゲット管球とを使用することで、安価なX線管球によりCrが含まれるSUS等の異物を明確なコントラスト像で検出することができる。
また、第1のフィルタがV箔であると共に、第2のフィルタがMn箔であるので、VのX線吸収端(5.463keV)によりCr−Kα特性X線(5.414keV)だけを抽出すると共に、MnのX線吸収端(6.537keV)によりFe−Kα特性X線(6.403keV)だけを抽出することができる。
【0014】
また、本発明のX線透過検査装置は、前記元素がCrであり、前記第1のX線管球が、Mnターゲット管球であると共に、前記第2のX線管球が、Feターゲット管球であり、前記第1のフィルタが、Cr箔であると共に、前記第2のフィルタが、Mn箔であることを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、Crを測定対象の元素としたとき、CrのX線吸収端の前後にエネルギーが位置するMnの特性X線を出射可能なMnターゲット管球とFeの特性X線を出射可能なFeターゲット管球とを使用することで、安価なX線管球によりCrが含まれるSUS等の異物を明確なコントラスト像で検出することができる。
また、第1のフィルタがCr箔であると共に、第2のフィルタがMn箔であるので、CrのX線吸収端(5.988keV)によりMn−Kα特性X線(5.898keV)だけを抽出すると共に、MnのX線吸収端(6.537keV)によりFe−Kα特性X線(6.403keV)だけを抽出することができる。
【0015】
また、本発明のX線透過検査装置は、前記演算部が、前記コントラスト像と前記元素の質量吸収係数及び密度とから前記元素の厚みを算出することを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、演算部が、コントラスト像と元素の質量吸収係数及び密度とから元素の厚みを算出するので、測定対象の元素の検出だけでなく、その厚みも算出することで、この元素を含む異物の三次元的なサイズも把握することが可能になる。したがって、この検査で得られた異物のサイズから、二次電池等として問題となる異物か否かの振り分けが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法によれば、測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料に照射して取得した第1の透過像と元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を試料に照射して取得した第2の透過像との差分からコントラスト像を得るので、特定の元素について明確なコントラスト像を得ることができる。さらに、試料と第1のX線管球との間に第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタを配すると共に、試料と第2のX線管球との間に第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタを配するので、所望の第1の特性X線又は第2の特性X線だけを抽出して照射可能になり、測定対象の元素のコントラストがより鮮明になる。
したがって、このX線透過検査装置及びX線透過検査方法を用いれば、リチウムイオン二次電池等における特定元素の異物検出を高精度にかつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態を示す概略的な全体構成図である。
【図2】本実施形態において、Co酸リチウムだけの場合とこれにFe異物が入っている場合とに対するX線透過率を示すグラフである。
【図3】本実施形態において、Niターゲット管球から第2の特性X線を照射した際に、局所的に厚い部分がある場合(a)とFe異物が入っている場合(b)との第2の透過像を示す説明図である。
【図4】本実施形態において、Coターゲット管球から第1の特性X線を照射した際に、局所的に厚い部分がある場合(a)とFe異物が入っている場合(b)との第1の透過像を示す説明図である。
【図5】本実施形態において、Ni酸リチウムだけの場合とこれにFe異物が入っている場合とに対するX線透過率を示すグラフである。
【図6】本実施形態において、Al(アルミニウム)及びC(グラファイト)だけの場合とこれにFe異物が入っている場合とに対するX線透過率を示すグラフである。
【図7】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の従来例において、X線を照射した際に、局所的に厚い部分がある場合(a)とFe異物が入っている場合(b)との透過像を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。
【0019】
本実施形態のX線透過検査装置は、図1に示すように、測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料Sに照射する第1のX線管球11と、上記元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を試料Sに照射する第2のX線管球12と、第1の特性X線が試料Sを透過した際の第1の透過X線を受けてその強度を検出する第1のX線検出器13と、第2の特性X線が試料Sを透過した際の第2の透過X線を受けてその強度を検出する第2のX線検出器14と、検出された第1の透過X線の強度の分布を示す第1の透過像と検出された第2の透過X線の強度の分布を示す第2の透過像とを作成し、第1の透過像と第2の透過像との差分からコントラスト像を得る演算部15と、を備えている。
【0020】
また、このX線透過検査装置は、試料Sを載置して水平方向に移動可能な試料ステージであるベルトコンベア16と、上記各構成に接続されてそれぞれを制御する制御部17と、演算部15に接続されて上記コントラスト像などを表示するディスプレイ装置である表示部18と、を備えている。
さらに、X線透過検査装置では、試料Sと第1のX線管球11との間に第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタF1が配されていると共に、試料Sと第2のX線管球12との間に第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタF2が配されている。
【0021】
また、上記演算部15は、コントラスト像と上記元素の質量吸収係数及び密度とから上記元素の厚みを算出する機能を有している。
上記試料Sは、例えばリチウムイオン二次電池に使用される電極などであり、上記測定対象の元素は、例えば電極に異物として混入が懸念されるFeやSUS中のCrである。
【0022】
測定対象の元素をFeとしたとき、上記第1のX線管球11は、Coターゲットを有するCoターゲット管球が採用されると共に、第2のX線管球12は、Niターゲットを有するNiターゲット管球が採用される。上記Coターゲット管球の第1のX線管球11からは、例えばFeのK吸収端(7.111keV)よりも低いエネルギーの第1の特性X線として、Co−Kα特性X線(6.93keV)が出射される。また、上記Niターゲット管球の第2のX線管球12からは、例えばFeのK吸収端(7.111keV)よりも高いエネルギーの第2の特性X線として、Ni−Kα特性X線(7.477keV)が出射される。
また、このとき、第1のフィルタF1はFe箔が採用されると共に、第2のフィルタF2はCo箔が採用される。
【0023】
また、測定対象の元素をCrとしたとき、上記第1のX線管球11は、Crターゲットを有するCrターゲット管球又はMnターゲットを有するMnターゲット管球が採用されると共に、上記第2のX線管球12は、Feターゲットを有するFeターゲット管球が採用される。
上記Crターゲット管球の第1のX線管球11からは、例えばCrのK吸収端(5.988keV)よりも低いエネルギーの第1の特性X線として、Cr−Kα特性X線(5.414keV)が出射される。また、上記Mnターゲット管球の第1のX線管球11からは、例えばCrのK吸収端(5.988keV)よりも低いエネルギーの第1の特性X線として、Mn−Kα特性X線(5.898keV)が出射される。さらに、上記Feターゲット管球の第2のX線管球12からは、例えばCrのK吸収端(5.988keV)よりも高いエネルギーの第2の特性X線として、Fe−Kα特性X線(6.403keV)が出射される。
【0024】
また、第1のX線管球11がCrターゲット管球であると共に第2のX線管球12がFeターゲット管球であるとき、第1のフィルタF1はV箔が採用されると共に、第2のフィルタF2はMn箔が採用される。
また、第1のX線管球11がMnターゲット管球であると共に第2のX線管球12がFeターゲット管球であるとき、第1のフィルタF1はCr箔が採用されると共に、第2のフィルタF2はMn箔が採用される。
【0025】
なお、測定対象の元素をFe又はCrとした場合について、第1の特性X線及び第2の特性X線として採用可能な特性X線のエネルギー例と第1のフィルタF1及び第2のフィルタF2として採用可能な元素のX線吸収端のエネルギー例とを、以下の表1に示す。
【表1】

【0026】
これら第1のX線管球11及び第2のX線管球12とされるX線管球は、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速されターゲットに衝突して発生したX線を1次X線(第1の特性X線及び第2の特性X線)としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0027】
上記第1のX線検出器13及び第2のX線検出器14は、対応する第1のX線管球11及び第2のX線管球12にそれぞれ対向してベルトコンベア16下方に配置されたX線ラインセンサである。このX線ラインセンサとしては、蛍光板によりX線を蛍光に変換して一列に並べた受光素子で電流信号に変換するシンチレータ方式や複数の半導体検出素子を一列に並べた半導体方式等が採用される。また、これらのX線センサーは、一列のライン以外に二次元に受光素子が並んだX線エリアセンサーでも構わない。
なお、第1のX線検出器13と第2のX線検出器14を一つのX線検出器で兼用して、このX線検出器を第1のX線管球11と第2のX線管球12とのそれぞれ対向位置に移動可能にし、第1の透過X線及び第2の透過X線をそれぞれ検出するようにしても構わない。
【0028】
上記制御部17は、CPU等で構成されたコンピュータである。
また、演算部15は、制御部17を介して入力される第1のX線検出器13及び第2のX線検出器14からの信号に基づいて画像処理を行って第1の透過像と第2の透過像とを作成し、これらを差分処理することでコントラスト像を作成し、さらにその画像を表示部18に表示させる演算処理回路等である。なお、上記制御部17内に演算部15の処理回路を設けて両者を一体化しても構わない。また、表示部18は、制御部17からの制御に応じて種々の情報を表示可能である。
【0029】
次に、本実施形態のX線透過検査装置を用いたX線透過検査方法について、図1から図6を参照して説明する。このX線透過検査方法では、例えば、Co酸リチウム電極における異物Xとして測定対象の元素をFeとし、第1のX線管球11としてCoターゲット管球を採用すると共に第2のX線管球12としてNiターゲット管球を採用する。
【0030】
まず、ベルトコンベア16上に試料Sをセットし、制御部17によりベルトコンベア16で第1のX線管球11に対向する位置まで試料Sを移動させる。
次に、Coターゲット管球の第1のX線管球11から第1の特性X線としてCo−Kα特性X線を試料Sに照射すると共に、第1のX線検出器13で試料Sを透過した第1の透過X線を検出する。この際、ベルトコンベア16で試料Sを移動させることで全体をスキャンし、第1の透過X線について全体の強度分布を取得する。
【0031】
このとき、Coターゲット管球の第1のX線管球11から出射されているX線のうち、FeのX線吸収端(7.111keV)よりも高いエネルギーの特性X線(Co−Kβ特性X線(7.649keV)等)やバックグランドのX線が、Fe箔の第1のフィルタF1に吸収されてカットされ、第1の特性X線とされるCo−Kα特性X線(6.93keV)だけが試料Sに照射される。
【0032】
次に、ベルトコンベア16により第2のX線管球12に対向する位置まで試料Sを移動させる。
そして、Niターゲット管球の第2のX線管球12から第2の特性X線としてNi−Kα特性X線を試料Sに照射すると共に、第2のX線検出器14で試料Sを透過した第2の透過X線を検出する。この際、ベルトコンベア16で試料Sを移動させることで全体をスキャンし、第2の透過X線について全体の強度分布を取得する。
【0033】
このとき、Niターゲット管球の第2のX線管球12から出射されているX線のうち、CoのX線吸収端(7.709keV)よりも高いエネルギーの特性X線(Ni−Kβ特性X線(8.264keV)等)やバックグランドのX線が、Co箔の第2のフィルタF2で吸収されカットされ、第2の特性X線とされるNi−Kα特性X線(7.477keV)だけが試料Sに照射される。
【0034】
このように得た第1の透過X線の強度分布と第2の透過X線の強度分布とを、演算部15が画像処理して第1の透過像と第2の透過像とを作成する。
なお、Co酸リチウム電極に対するX線透過率は、異物がない場合に比べて、例えば20μmのFeの異物が入っている場合、図2に示すように、FeのX線吸収端に相当するエネルギーでX線透過率が低下する。また、第1の特性X線であるCo−Kα特性X線と第2の特性X線であるNi−Kα特性X線とは、それぞれFeのX線吸収端の前後にそれぞれ相当するエネルギーを有している。
【0035】
このため、図3の(a)に示すように、試料Sの構成材(Al膜1の両面にCo酸リチウム膜2が積層された電極材)に局所的に厚い部分2aがある場合、Niターゲット管球の第2のX線管球12による第2の透過像T2には、局所的に厚い部分2aに対応した部分に明確なコントラストが示される。また、図3の(b)に示すように、試料SにFeの異物Xがある場合、Niターゲット管球の第2のX線管球12による第2の透過像T2には、異物Xに対応した部分に明確なコントラストが示される。すなわち、FeのX線吸収端より高いエネルギーのNi−Kα特性X線は、Feの異物Xに対してX線透過率が低くなるため、異物Xの部分を透過する量が他の部分を透過する量より低下して暗部となり、コントラストが生じる。
【0036】
一方、図4の(a)に示すように、試料Sに局所的に厚い部分2aがある場合、Coターゲット管球の第1のX線管球11による第1の透過像T1には、局所的に厚い部分2aに対応した部分に明確なコントラストが示される。しかしながら、図4の(b)に示すように、試料SにFeの異物Xがある場合、Coターゲット管球の第1のX線管球11による第1の透過像T1には、異物Xに対応した部分に明確なコントラストが示されない。すなわち、FeのX線吸収端より低いエネルギーのCo−Kα特性X線は、Feの異物Xに対してX線透過率がCo酸リチウムと変わらず、異物Xの部分を透過する量と他の部分を透過する量とがほぼ同じであるため、明確なコントラストが生じ難い。
【0037】
次に、演算部15は、上記のように得られた第1の透過像T1と第2の透過像T2との差分を取ってコントラスト像を作成し、表示部18に表示する。すなわち、それぞれ単色X線による透過像である第1の透過像T1と第2の透過像T2との差分を取ることによって、局所的に厚い部分2aと区別されてFeの異物Xに対応する部分が強調されたコントラスト像が得られる。
【0038】
さらに、演算部15は、上記2つの透過像の差分から得られたコントラスト像と測定対象の元素の質量吸収係数及び密度とから元素の厚み、すなわち異物Xの厚みを算出する。すなわち、予め演算部15に測定対象の元素(Fe)に関する質量吸収係数μ及び密度ρが設定されており、コントラスト像のうち異物Xの部分に対応したコントラストの強い部分の透過X線強度(異物部透過X線強度)IFeと異物Xがない部分に対応したコントラストの弱い部分の透過X線強度(非異物部透過X強度)ICoとから、以下の式に基づいて異物Xの平均厚みDを算出する。
【0039】
【数1】

Fe:Coによる異物部透過X線強度
Co:Coによる非異物部透過X線強度
μ:異物(Fe)の質量吸収係数
ρ:異物(Fe)の密度
D:異物(Fe)の平均厚み
【0040】
なお、上記では、Co酸リチウム電極における異物Xを検出するX線透過検査方法を例示したが、リチウムイオン二次電池に使用される電極材料として、正極板に使用されるNi酸リチウムにおける異物の検査や、負極板に使用されるAl(アルミニウム)とC(グラファイト)との積層材料における異物の検査にも同様に適用可能である。
上記Ni酸リチウムに対するX線透過率のグラフと、Al(アルミニウム)とC(グラファイト)との積層材料に対するX線透過率のグラフと、を異物(Fe)の有る場合と無い場合について、図5及び図6に示す。
【0041】
これら材料に対するX線透過率についても、Feの異物Xが有る場合にはFeのX線吸収端でいずれもX線透過率が低下していることがわかる。したがって、これら材料中の異物Xを検出する場合でも、FeのX線吸収端の前後に位置するエネルギーの第1の特性X線(例えば、Coターゲット管球からのCo−Kα特性X線)及び第2の特性X線(例えば、Niターゲット管球からのNi−Kα特性X線)を用いることで、2つのX線透過像の差分から異物Xの部分が強調されたコントラスト像及び異物Xの厚みを得ることができる。
【0042】
このように本実施形態のX線透過検査装置及びX線透過検査方法では、測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料Sに照射して取得した第1の透過像T1と元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を試料Sに照射して取得した第2の透過像T2との差分からコントラスト像を得るので、特定の元素について明確なコントラスト像を得ることができる。すなわち、白色X線等の種々のエネルギーが混在したX線ではなく、上記元素のX線吸収端の前後であってX線吸収端によって透過X線検出量に差が生じる異なるエネルギーの特性X線(第1の特性X線及び第2の特性X線)を別々に照射することで、原子番号が近い他の元素があっても測定対象の元素の明確なコントラスト像を得ることが可能になる。
【0043】
さらに、試料Sと第1のX線管球11との間に第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタF1を配すると共に、試料Sと第2のX線管球12との間に第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタF2を配するので、第1のX線管球11及び第2のX線管球12から第1の特性X線又は第2の特性X線だけでなく、これらよりも高いエネルギーの特性X線やバックグランドのX線も出射されている場合、これらを第1のフィルタF1及び第2のフィルタF2でカットすることができる。したがって、所望の第1の特性X線又は第2の特性X線だけが抽出されて試料Sに対して照射可能になるため、測定対象の元素のコントラストがより鮮明になる。
【0044】
また、Feを測定対象の元素としたとき、FeのX線吸収端の前後にエネルギーが位置するCoの特性X線を出射可能なCoターゲット管球の第1のX線管球11とNiの特性X線を出射可能なNiターゲット管球の第2のX線管球12とを使用することで、安価なX線管球によりFeの異物Xを明確なコントラスト像で検出することができる。
また、第1のフィルタがFe箔であると共に、第2のフィルタがCo箔であるので、FeのX線吸収端(7.111keV)によりCo−Kα特性X線(6.93keV)だけを抽出すると共に、CoのX線吸収端(7.709keV)によりNi−Kα特性X線(7.477keV)だけを抽出することができる。すなわち、FeのX線吸収端(7.111keV)によりCo−Kβ特性X線(7.649keV)等がカットされると共に、CoのX線吸収端(7.709keV)によりNi−Kβ特性X線(8.264keV)がカットされる。
【0045】
また、Crを測定対象の元素としたとき、CrのX線吸収端の前後にエネルギーが位置するCr又はMnの特性X線を出射可能なCrターゲット管球又はMnターゲット管球の第1のX線管球11とFeの特性X線を出射可能なFeターゲット管球の第2のX線管球12とを使用することで、安価なX線管球によりCrが含まれるSUS等の異物Xを明確なコントラスト像で検出することができる。
【0046】
また、第1のX線管球11がCrターゲット管球であると共に、第2のX線管球12がFeターゲット管球であるとき、第1のフィルタF1がV箔であると共に、第2のフィルタF2がMn箔であるので、VのX線吸収端(5.463keV)によりCr−Kα特性X線(5.414keV)だけを抽出すると共に、MnのX線吸収端(6.537keV)によりFe−Kα特性X線(6.403keV)だけを抽出することができる。すなわち、VのX線吸収端(5.463keV)によりCr−Kβ特性X線(5.946keV)等がカットされると共に、MnのX線吸収端(6.537keV)によりFe−Kβ特性X線(7.057keV)がカットされる。
【0047】
また、第1のX線管球11がMnターゲット管球であると共に、第2のX線管球12がFeターゲット管球であるとき、第1のフィルタF1がCr箔であると共に、第2のフィルタF2がMn箔であるので、CrのX線吸収端(5.988keV)によりMn−Kα特性X線(5.898keV)だけを抽出すると共に、MnのX線吸収端(6.537keV)によりFe−Kα特性X線(6.403keV)だけを抽出することができる。すなわち、CrのX線吸収端(5.988keV)によりMn−Kβ特性X線(6.49keV)等がカットされると共に、MnのX線吸収端(6.537keV)によりFe−Kβ特性X線(7.057keV)がカットされる。
【0048】
さらに、演算部15が、コントラスト像と元素の質量吸収係数及び密度とから元素の厚みを算出するので、測定対象の元素の検出だけでなく、その厚みも算出することで、この元素を含む異物Xの三次元的なサイズも把握することが可能になる。したがって、この検査で得られた異物Xのサイズから、二次電池等として問題となる異物Xか否かの振り分けが可能になる。
【0049】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
11…第1のX線管球、12…第2のX線管球、13…第1のX線検出器、14…第2のX線検出器、15…演算部、16…ベルトコンベア、17…制御部、18…表示部、F1…第1のフィルタ、F2…第2のフィルタ、S…試料、T1…第1の透過像、T2…第2の透過像、X…異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料に照射する第1のX線管球と、
前記元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を前記試料に照射する第2のX線管球と、
前記第1の特性X線が前記試料を透過した際の第1の透過X線を受けてその強度を検出する第1のX線検出器と、
前記第2の特性X線が前記試料を透過した際の第2の透過X線を受けてその強度を検出する第2のX線検出器と、
検出された前記第1の透過X線の強度の分布を示す第1の透過像と検出された前記第2の透過X線の強度の分布を示す第2の透過像とを作成し、前記第1の透過像と前記第2の透過像との差分からコントラスト像を得る演算部と、を備え、
前記試料と前記第1のX線管球との間に前記第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタが配されていると共に、前記試料と前記第2のX線管球源との間に前記第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタが配されていることを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線透過検査装置において、
前記元素がFeであり、
前記第1のX線管球が、Coターゲット管球であると共に、前記第2のX線管球が、Niターゲット管球であり、
前記第1のフィルタが、Fe箔であると共に、前記第2のフィルタが、Co箔であることを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線透過検査装置において、
前記元素がCrであり、
前記第1のX線管球が、Crターゲット管球であると共に、前記第2のX線管球が、Feターゲット管球であり、
前記第1のフィルタが、V箔であると共に、前記第2のフィルタが、Mn箔であることを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線透過検査装置において、
前記元素がCrであり、
前記第1のX線管球が、Mnターゲット管球であると共に、前記第2のX線管球が、Feターゲット管球であり、
前記第1のフィルタが、Cr箔であると共に、前記第2のフィルタが、Mn箔であることを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のX線透過検査装置において、
前記演算部が、前記コントラスト像と前記元素の質量吸収係数及び密度とから前記元素の厚みを算出することを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項6】
測定対象の元素のX線吸収端より低いエネルギーの第1の特性X線を試料に照射するステップと、
前記元素のX線吸収端より高いエネルギーの第2の特性X線を前記試料に照射するステップと、
前記第1の特性X線が前記試料を透過した際の第1の透過X線を受けてその強度を検出するステップと、
前記第2の特性X線が前記試料を透過した際の第2の透過X線を受けてその強度を検出するステップと、
検出された前記第1の透過X線の強度の分布を示す第1の透過像と検出された前記第2の透過X線の強度の分布を示す第2の透過像とを作成し、前記第1の透過像と前記第2の透過像との差分からコントラスト像を得るステップと、を有し、
前記試料と前記第1のX線管球との間に前記第1の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第1のフィルタを配すると共に、前記試料と前記第2のX線管球との間に前記第2の特性X線よりも高いエネルギーのX線吸収端を有する元素で形成された第2のフィルタを配することを特徴とするX線透過検査方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286406(P2010−286406A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141467(P2009−141467)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】