説明

X線透過検査装置及びX線透過検査方法

【課題】 試料とX線検出器の距離の変化による異物検出についての誤検出を防ぐこと。
【解決手段】 検査対象試料元素にX線を試料に照射するX線管球11と、X線が試料を透過した際の透過X線を検出するX線検出器13と、透過X線の透過像からコントラスト像を得る演算部17と、試料と検出器間の距離を算出するセンサーと、X線検出器の位置を調整する機構を備え、試料とX線検出器間の距離を一定に保ちながらX線透過像を撮像する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の特定元素からなる異物を検出可能なX線透過検査装置及びX線透過検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、ハイブリッド車又は電気自動車等のバッテリーとして、ニッケル水素系バッテリーよりもエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池が採用されつつある。このリチウムイオン二次電池は、非水電解質二次電池の一種で、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担い、かつ金属リチウムを電池内に含まない二次電池であり、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話機では既に多く採用されている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、優れた電池特性を有しているが、製造工程中に電極にFe(鉄)等の異物が入ると発熱性や寿命等の電池特性が劣化する等の信頼性に影響が生じるため、今まで車載用への搭載が遅れていた。例えば、リチウムイオン二次電池の電極(正極)は、通常厚さ20μm程度のAl膜の両面にMn酸リチウム膜やCo酸リチウム膜が100μm程度形成されて構成されているが、図4の(b)に示すように、この中にFe(鉄)やSUS(ステンレス)の異物が混入する場合があり、その異物が数十μm以上であると、短絡が発生し、バッテリーの焼失や性能低下を引き起こす可能性がある。このため、リチウムイオン二次電池について、製造時に異物Xが混入したバッテリーを検査で迅速に検出し、予め除去することが求められている。
【0004】
一般に、試料中の異物等を検出する方法として、透過X線像を用いた方法が知られている。この手法を利用して、従来、例えば特許文献1に記載されているように、異物混入の有無を透過X線像によって検出する異物検出方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−269256号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来の異物検出方法では、異物存在箇所がX線検出器に近い場合と遠い場合で異物による像の鮮明さが異なってしまう。このため、従来の異物検出方法では、図2に示すように異物がX線検出器に近い場合と、図3に示すように異物がX線検出器に遠い場合とで、異物によるコントラストに大きな差が生じ、たとえ同じサイズで同じ材質の異物であったとしても取得される像が異なり、過検出や誤検出となってしまう不都合があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、同じサイズで同じ材質の異物による像のコントラストを忠実に再現して過検出及び誤検出を防ぐことができるX線透過検査装置及びX線透過検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線透過検査装置は、検査対象試料にX線を照射するX線管球と、前記X線が前記検査対象試料を透過した際の透過X線を受けてその強度を検出するX線検出器と、検出された前記透過X線の強度の分布を示す透過像を作成し、検査対象試料と検査装置間の距離を測定する距離センサーと前記X線検出器に前記X線検出器と検査対象試料間の距離を調節する機構が配されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のX線透過検査方法は、X線を検査対象試料に照射するステップと、検査対象試料と検査装置間の距離を測定するステップと、距離測定結果を受けてX線検出器と検査対象試料間の距離を調節するステップと前記X線が前記試料を透過した際の透過X線を受けてその強度を検出するステップと、検出された前記透過X線の強度の分布を示す透過像を作成することを特徴とする。
【0010】
これらのX線透過検査装置及びX線透過検査方法では、検査対象試料とX線検出器との距離を常に一定になるようにしながらX線透過像を取得するため、検査対象試料の位置に因らず検査対象内の異物によるコントラストを安定して取得する事ができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法によれば、検査対象試料と検査装置の距離が変化したとしても距離測定結果をもとにX線検出器の位置を調整する事によって検査対象試料とX線検出器の距離を一定に保つ事ができ、検査対象試料中の異物により透過X線像を安定して撮像する事が可能となり、異物サイズの再現性が高まり、異物検出における過検出及び誤検出を防ぐ事が可能となる。
【0012】
したがって、このX線透過検査装置及びX線透過検査方法を用いれば、リチウムイオン二次電池等における特定元素の異物検出を高精度にかつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態を示す概略的な全体構成図である。
【図2】従来のX線透過検査装置及びX線透過検査方法において、X線を照射した際のコントラストの該略図である。
【図3】従来のX線透過検査装置及びX線透過検査方法において、X線を照射した際の他のコントラストの該略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態のX線透過検査装置は、図1に示すように、ある大きさをもったX線発生ポイント12を有するX線管球11と、X線が検査対象試料S1及び異物S2を透過した際の透過X線を受けてその強度を検出するX線検出器13と、検出された透過X線の強度の分布を示す透過像を表示する表示部18を備えている。
【0016】
また、このX線透過検査装置は、試料S1との距離を測定する距離測定センサー15とその測定結果をもとにX線検出器13の高さ方向の位置を調整するX線検出器位置調整機構14とそのフィードバック制御を行うX線検出器位置フィードバック制御部16を備えている。
【0017】
さらに前記各構成に接続されてそれぞれを制御する制御部17に接続されて前記コントラスト像などを表示するディスプレイ装置である表示部18を備えている。
【0018】
前記検査対象試料S1は、例えばリチウムイオン二次電池に使用される電極シートなどであり、それに混入する異物S2は、例えば電極に異物として混入が懸念されるFeやSUSである。
【0019】
X線管球11は、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速されターゲットに衝突して発生したX線を1次X線としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。通常ターゲットに電子が照射される領域がX線発生ポイント12となる。
【0020】
前記X線検出器13は、対応するX線管球11にそれぞれ対向して試料S1下方に配置されたX線ラインセンサである。このX線ラインセンサとしては、蛍光板によりX線を蛍光に変換して一列に並べた受光素子で電流信号に変換するシンチレータ方式や複数の半導体検出素子を一列に並べダイレクトに検出する半導体方式等が採用される。またこれらのX線センサーは一列のライン以外に二次元に受光素子が並んだX線エリアセンサーでも構わない。
【0021】
前記制御部17は、CPU等で構成されたコンピュータである。入力されるX線検出器13からの信号に基づいて画像処理を行って透過像を作成し、さらにその画像を表示部18に表示させる演算処理回路等を含む。また、表示部18は、制御部17からの制御に応じて種々の情報を表示可能である。
【0022】
前記距離測定センサー15は、主に三角法を利用した反射型のレーザーセンサーを利用して、試料S1に対向して設置される。同じ目的を達成できるその他の原理を利用した距離測定センサーでも構わない。前記距離測定センサーからの距離測定結果は前記X線検出器位置フィードバック制御部16に送られる。前記X線検出器位置フィードバック制御部16では距離測定センサー15からの情報により距離測定結果に変化があった場合は前記試料S1と前記X線検出器間の距離が変化したと判断し、前記試料S1とX線検出器13の距離が一定になるようにX線検出器位置調整機構14を駆動させる。X線検出器位置調整機構14はリニア駆動を行う駆動機構であれば、ねじ送り、リニアモーターなの種々の駆動機構が適用できる。
【0023】
次に、本実施形態のX線透過検査装置を用いたX線透過検査方法について、図1から図3を参照して説明する。このX線透過検査方法では、例えば、リチウムイオン二次電池における正極シートを検査対象試料とし、その中の異物を検出することを目的とする。
【0024】
まず、図示していない製造工程側の設備により、試料S1が対向するX線管球11とX線検出器13の間を流れている。この試料S1の厚みは試料S1とX線検出器13との距離に比して非常に小さいものとなる。
【0025】
そして、距離測定センサー15の結果から試料S1とX線検出器13の距離を計算する。距離の計算結果は、その初期値Dと比較して差を生じる場合は、X線検出器位置調整機構14を作動させて、試料S1とX線検出器13の距離が初期値Dとなるように計算した差分量をフィードバック制御部によりフィードバックし、その量に応じてX線検出器の位置を調整する。この場合、試料S1とX線検出器13の距離の計算値と初期値Dとの差分は、X線検出器位置調整機構14の作動判定基準となる閾値の設定も可能である。
【0026】
次にX線管球11からX線を試料S1に照射すると共に、X線検出器13で試料S1及び異物S2を透過した透過X線を検出する。この際、図示していない製造工程側の設備により試料Sを移動させることで全体をスキャンし、透過X線について全体の強度分布を取得する。
【0027】
このように得た透過X線の強度分布を、演算部15が画像処理して透過像を作成する。
このとき、異物S2が存在する部位は存在していない部分と比べてX線の透過量が異なるため、図2に示すように異物存在部位のコントラストがそれ以外と異なる。この結果をもとに異物が存在していることを検出する。
【0028】
一方、仮に製造設備側で保有する試料送り装置の都合により試料S1が上方に移動しX線検出器13との間の距離が大きくなると、X線発生ポイントの大きさがあることを理由に、異物によるコントラスト及び強度分布が異なり、図3に示すように異物によるコントラストの強弱が判りにくく、検出できなくなる。
【0029】
このため、本発明では距離測定センサー15を利用し、常時、試料S1とX線検出器の距離を測定している。その距離測定結果が前記初期値Dに対してある一定値S以上の差が生じた場合は、その差に応じて適切にX線検出器位置調整機構14を利用し、X線検出器の位置を調整し、試料S1とX線検出器13の距離が初期値D±Sに入るように調整する。
【0030】
このように本実施形態のX線透過検査装置及びX線検査方法では、検査対象試料とX線検出器間の距離を略一定に保ちながらX線透過像の撮像が可能になるため、異物によるX線透過像上のコントラストを安定して得られる事ができる。すなわち同じサイズ・材質の異物から得られるコントラストが安定しているため、異物の誤検出及び過検出を防ぐ事が可能になる。
【0031】
したがって、このX線透過検査装置及びX線透過検査方法を用いれば、リチウムイオン二次電池等における特定元素の異物検出を高精度にかつ迅速に行うことができる。
【0032】
また前記実施例では距離測定センサー15をX線検出器側に配置したが、X線管球11側に配置したとしても、結果として試料S1とX線検出器13間の距離を計算する事は可能となる。 なお、本発明の技術範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
11…X線管球
12…X線発生ポイント
13…X線検出器
14…X線検出器位置調整機構
15…距離測定センサー
16…X線検出器位置フィードバック制御部
17…制御部
18…表示部
S1…検査対象試料
S2…異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する検査対象試料にX線を照射するX線管球と、
前記X線が前記試料を透過した際の透過X線を受けてその強度を検出するX線検出器と、
検出された前記透過X線の強度の分布を示す透過像とからコントラスト像を得る演算部と、
を備えたX線透過検査装置において、
前記検査対象試料とX線検出器との距離を測定する距離測定部と、
該距離測定部の測定結果に基づいて前記試料と前記X線検出器との距離を相対的に調整する距離調整機構と、
を更に備えたことを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項2】
更に、予め設定・記憶した前記試料と前記X線検出器間の基準距離と、実際の前記距離測定部の測定値との差分量をフィードバック量とし、該フィードバック量を調整量として前記距離調整機構にフィードバックするフィードバック制御部を備えた請求項1に記載のX線透過検査装置。
【請求項3】
前記基準距離が、測定開始前又は開始時の前記距離測定部による測定値である請求項2に記載のX線透過検査装置。
【請求項4】
移動する検査対象試料にX線を照射するX線照射ステップと、
前記X線が前記試料を透過した際の透過X線をX線検出器で受けてその強度を検出する透過X線検出ステップと、
検出された前記透過X線の強度の分布を算定する演算ステップと、
該演算ステップによる演算結果に基づいて透過のコントラスト像を表示する透過像表示ステップと、
からなるX線透過検査方法において、
更に、前記検査対象試料と前記X線検出器との距離を測定する距離測定ステップと、
前記透過のコントラスト像が適正に表示されるように該距離測定ステップにおける測定距離に基づいて前記試料と前記X線検出器との距離を調整する距離調整ステップと、
を更に含んだことを特徴とするX線透過検査方法。
【請求項5】
予め設定・記憶した前記試料と前記X線検出器間の基準距離と、実際の前記距離測定部の測定値との差分量を調整量としてフィードバックするフィードバックステップを更に含み、
該フィードバック量だけ前記距離調整ステップにて調整する請求項4に記載のX線透過検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−191212(P2011−191212A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58426(P2010−58426)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】