説明

X線造影剤及び造影方法

【課題】容易且つ迅速にセンチネルリンパ節又は血管位置を検出可能な手法を提供すること
【解決手段】所定の粒径を有するコーティングされたヨウ化銀粒子を用いてX線造影を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規X線造影剤及び当該造影剤を用いたX線造影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腫瘍の早期発見率の向上に伴い、早期癌の切除手術が増加している。一般に、腫瘍細胞はリンパ管又は血管に侵入し、リンパ液又は血液の流れに乗って、リンパ節、更に他臓器に転移する傾向があるので、早期癌の手術においても、腫瘍細胞の転移を回避するために、腫瘍部分だけでなく当該腫瘍部分の周囲のリンパ節又は他組織(以下、「リンパ節等」という)をも切除することが多い。そして、切除したリンパ節等の病理検査によって、リンパ節等への腫瘍細胞の転移の有無を判定し、手術の成否及び治療方針の策定等が行われている。
【0003】
過去においては、リンパ節等への腫瘍細胞の転移の有無を確認する手段がなかったため、どの程度のリンパ節等を切除する必要があるかの判定が困難であった。そこで、腫瘍の転移のリスクを最小限とするために、腫瘍細胞周囲の多くのリンパ節等が切除されていた。多数のリンパ節等の切除は患者にとっての負担が大きいものであった。
【0004】
しかし、リンパ節への転移についていえば、最近になって、早期乳癌等の腫瘍の場合にはリンパ節への転移が少ないことが明らかとなった。そこで、現在では、センチネルリンパ節生検という新しい術式を採用することによってリンパ節の切除を最小限とする試みがなされている。例えば、乳癌の場合は、センチネルリンパ節生検の結果によっては、腫瘍細胞が最も転移しやすいと考えられている脇の下の腋窩リンパ節の切除等を省略することが提案されている。
【0005】
以下、センチネルリンパ節生検について説明する。センチネルリンパ節生検とは、例えば、癌の原発腫瘍からリンパ管に入った腫瘍細胞等が、生体のリンパ系に侵入した物体が最初に到達するリンパ節である、センチネルリンパ節に転移があるか否かを検出する検査法である。
【0006】
生体のリンパ系に侵入した物体が腫瘍細胞である場合を例に挙げてより具体的に説明する。腫瘍細胞がリンパ節に転移する場合はランダムに転移するのではなく、一定のパターンに従うことが最近明らかとなっている。具体的には、原発腫瘍からリンパ管への腫瘍細胞の侵入後に、当該リンパ管への侵入位置から最も近いリンパ節(センチネルリンパ節)への転移が発生し、更に、当該リンパ節に最も近い他のリンパ節への転移が発生する。そして、この転移が繰り返されるのである。したがって、腫瘍細胞がリンパ節に転移している場合には、必ず、センチネルリンパ節に転移があると考えられる。なお、「センチネル」とは「歩哨」、「前哨」又は「見張り」の意味である。
【0007】
したがって、例えば、早期癌の切除手術中にセンチネルリンパ節生検を行うことによってセンチネルリンパ節を発見・摘出し、これを直ちに病理検査することによって、リンパ節への腫瘍細胞の転移の有無を判定することができる。そして、センチネルリンパ節への腫瘍細胞の転移がなければ、追加のリンパ節の切除を回避することができる。例えば、乳癌の場合は腋窩リンパ節郭清(切除)を省略することができる。一方、センチネルリンパ節への腫瘍細胞の転移が確認される場合は、転移状況に応じて、センチネルリンパ節が含まれる生体領域、及び、さらにリンパ液流からみてセンチネルリンパ節の下流側の複数のリンパ節が含まれる生体領域が切除される。
【0008】
このように、センチネルリンパ節生検によって、リンパ節に腫瘍細胞が転移していない患者は無用なリンパ節切除を回避できるので手術の身体的負担が軽減される。この手法は、乳癌に限らず、他の臓器腫瘍の切除手術においても適用可能なものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、センチネルリンパ節生検は腫瘍摘出手術等の他の手術中に実施されるので、全手術時間の制限のために、センチネルリンパ節生検ではセンチネルリンパ節を容易且つ迅速に特定する必要がある。そこで、現在、大きく分けて2種類の検出方法がセンチネルリンパ節の特定に使用されている。
【0010】
最初の検出方法は、手術時に、イソスルファンブルー等の色素を腫瘍の周囲に局所注入する方法(いわゆる「色素法」)である。注入は経皮的な注射、内視鏡等を用いて行うことができる。注入された色素は注入部位からリンパ管に侵入し、数分乃至十数分でセンチネルリンパ節に到達する。したがって、最初に染色されたリンパ節を視認することによって、センチネルリンパ節を同定することができる。
【0011】
しかし、リンパ節は脂肪等の生体組織に覆われていることが多く、生体組織の剥離を行いながらセンチネルリンパ節を捜索することがある。この場合、捜索に時間を要すると、その間に色素がセンチネルリンパ節より下流のリンパ節に到達してしまい、センチネルリンパ節の検出が困難となるおそれがある。また、この方法では、体外からセンチネルリンパ節を同定することはできない。したがって、10%前後存在するといわれているリンパ経路の破格症例に対しては無力である。さらに、色素の種類によっては、稀であるが、患者にアレルギー反応が起こることもある。
【0012】
第2の検出方法は、手術前に、テクネシウム等の寿命の短いラジオアイソトープ(放射性同位元素:RI)を腫瘍周囲に少量局所注入する方法(いわゆる「アイソトープ法」)である。最初の方法と同様に、注入は経皮的な注射、内視鏡等を用いて行うことができる。注入されたラジオアイソトープは注入部位からリンパ管に侵入し、一定時間センチネルリンパ節に留まる。したがって、手術中に、ガンマプローブを用いてガンマ線量を測定することにより、放射ガンマ線量の最も多いリンパ節をセンチネルリンパ節として同定することができる。
【0013】
この方法では、ラジオアイソトープが短時間でセンチネルリンパ節を通過することはなく、また、生体組織に覆われたセンチネルリンパ節を検出することも可能なので、センチネルリンパ節検出の精度が高い。しかしながら、高価なラジオアイソトープ及びガンマプローブを使用するために手術システムが複雑となり、RIを取り扱うこのとのできる大規模な病院以外での実施が困難である。また、ガンマプローブによる検出では、放射線の放射状態を画像化できないために、手探りの状態でリンパ節を検査する必要があり手間を要する。
【0014】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決することをその課題とする。具体的には、体外からのセンチネルリンパ節の同定が可能で、且つ、上記色素法及びアイソトープ法に比較してセンチネルリンパ節をより容易且つ迅速に特定することの可能な検出剤及び当該検出剤を用いたセンチネルリンパ節の検出方法を提供することを目的とするものである。
【0015】
また、本発明は、単一の製剤を用いて、センチネルリンパ節の同定のみならず、血管造影をも可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、コーティング層を有するヨウ化銀粒子を用いてセンチネルリンパ節生検又は血管造影を行うことによって達成される。
【0017】
例えば、ヒトの場合は、200nm以上1000nm以下の粒径の、コーティング層を有するヨウ化銀微粒子をX線造影剤として使用し、ヒト以外の小型哺乳動物の場合は40nm以上200nm未満の粒径の、コーティング層を有するヨウ化銀微粒子をX線造影剤として使用する。
【0018】
前記X線造影剤を使用してX線撮影を行うことにより生体内のリンパ管、特にセンチネルリンパ節を検出することができる。なお、前記コーティング層の少なくとも一部がシリカ又はシリコーンから構成されてもよい。
【0019】
具体的には、本発明のリンパ管又は血管の造影方法は、
40nm以上200nm未満の粒径の、コーティング層を有するヨウ化銀微粒子を小型哺乳動物(ヒトを除く)の生体内に注入する工程;
前記小型哺乳動物にX線を照射する工程;及び
前記小型哺乳動物を透過するX線を検出する工程
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のX線造影剤を使用することにより、生体を切開することなく、体外からセンチネルリンパ節を確認することができるので、長期の経験を積んだ医師でなくとも容易にセンチネルリンパ節を同定することができる。特に、短時間内でセンチネルリンパ節を同定する必要がある色素法とは異なり、本発明ではセンチネルリンパ節の同定により多くの時間を利用することができるので、同定作業を容易且つ確実に行うことができる。
【0021】
本発明のX線造影剤はアイソトープとは異なり放射能を有さず取り扱いが容易なので、センチネルリンパ節生検用の大規模な設備が不要である。したがって、大規模病院以外であってもセンチネルリンパ節生検を利用した腫瘍摘出手術を行うことができる。このように、センチネルリンパ節生検を利用することにより、不要な生体組織(リンパ節など)摘出を回避して、腫瘍摘出手術時の患者の負担を著しく減少させることができる。
【0022】
本発明でX線造影剤として使用されるコーティングされたヨウ化銀粒子は、リンパ管を容易に移動することが可能で、且つ、最初に到達したリンパ節を通過できない程度の所定の粒径を有するので、センチネルリンパ節に確実に滞留する。したがって、通常のX線造影操作によってセンチネルリンパ節を確実に同定することができる。
【0023】
また、本発明で使用されるヨウ化銀粒子はコーティングされているので、ヨウ素又はヨウ素化合物による毒性から生体を保護することができる。特に、コーティング層がシリカ又はシリコーンからなる場合は生体からヨウ化銀を良好に隔絶することができる。
【0024】
そして、本発明のX線造影剤はセンチネルリンパ節の確認のみならず、血管造影にも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のX線造影剤は、所定範囲内の粒径を有し、且つ、被覆されたヨウ化銀微粒子であり、ヒト又は小型哺乳動物(ヒトを除く)の生体内リンパ液流又は血流に導入され、当該粒子が最初に到達するリンパ節がセンチネルリンパ節として同定され、また、当該粒子が滞留する血管がX線によって造影される。なお、本発明において小型哺乳動物とはヒト以下のサイズを有する哺乳動物を指し、例えば、ラット、犬、猫、猿、豚、ヤギ、兎、羊等を挙げることができる。
【0026】
ヒト及び小型哺乳動物(ヒトを除く)体内のリンパ系は、動物種に応じて固有の物質運搬及びフィルター機能を備えたリンパ管及びリンパ節を有しており、ヒトの場合は約200nm以上、ヒト以外の小型哺乳動物(例えばラット)の場合は約40nm以上の粒径を有する物体はリンパ節をそのまま短時間に通過することができない。したがって、生体内のリンパ液流によってあるリンパ節に到達したものの、そこを通過できない巨大粒子は当該リンパ節に貯留することになる。
【0027】
したがって、例えばヒトの場合は、ヒト体内の腫瘍周囲に200nm以上の粒径を有する粒子を注入し、そのリンパ液流による移動を追跡し、当該粒子の貯留しているリンパ節を検出すれば、当該リンパ節をセンチネルリンパ節として同定することができる。ヒト以外の小型哺乳動物の場合は、粒子の粒径を減少させ、40nm以上とすることによって、同様に、センチネルリンパ節の検出を行うことができる。200nm未満(ヒト)或いは40nm未満(ヒト以外の小型哺乳動物)のサイズの粒子を使用すると、当該粒子は生体内のリンパ節に貯留せずに、短時間でリンパ液の下流側に流出するので手術時間中十分にセンチネルリンパ節を検出することができない(なお、この場合であっても、リンパ管及び血管の造影については可能である)。
【0028】
ただし、生体のリンパ系に導入される粒子の粒径が過大であると、リンパ管内の粒子の移動に時間を要し、短時間でセンチネルリンパ節の検出を行うことが困難となるので、X線造影剤としての粒子の粒径には自ずと上限が存在する。この上限値は、ヒトの場合は約1000nm以下であり、ヒト以外の小型哺乳動物では約200nm未満である。
【0029】
したがって、本発明のX線造影剤の粒子径は、小型哺乳動物(ヒトを除く)の場合は約40nm以上約200nm未満であり、ヒトの場合は約200nm以上約1000nm以下である。ヒトの場合、上記粒子径は、好ましくは300nm以上800nm以下、より好ましくは400nm以上700nm以下、特に好ましくは500nm以上600nm以下である。一方、ヒト以外の小型哺乳動物では、上記粒子径は、好ましくは40nm以上150nm以下、より好ましくは40nm以上100nm以下、特に好ましくは40nm以上80nm以下である。なお、本発明において「粒子」とは完全な球体以外に、楕円球等の不完全な球体形状を有する物体をも含む。完全な球体以外の粒子の場合、粒径とは、当該粒子の最長サイズ方向長さを意味する。
【0030】
本発明のX線造影剤の粒子は、全ての粒子が均一の粒径を有していてもよく、或いは、上記の粒径範囲内で所定の粒度分布を有していてもよい。ただし、前記粒子のセンチネルリンパ節到達時間は粒径に依存するので、到達時間の制御のためには、全ての粒子がほぼ均一の粒径を備えることが好ましい。
【0031】
本発明のX線造影剤はヨウ化銀微粒子からなり、その表面はコーティングされている。ヨウ化銀は若干の毒性があり、僅かではあるがアレルギーを惹起することはあるので、アレルギー性体質又は喘息の既往のある哺乳動物にはそのまま投与できない場合がある。そこで、本発明では、ヨウ化銀微粒子の表面をコーティングすることによって、ヨウ化銀と生体とを完全に隔絶して、ヨウ化銀による毒性を遮断している。
【0032】
前記コーティング層を構成する物質の種類としては特に限定されるものではなく、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ガラス等の無機系物質;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のラジカル重合型ポリマー;ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート等の重縮合型ポリマー;ポリウレタン等の重付加型ポリマー;ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等のシリコーン等を挙げることができる。これらの物質のうち、物理的・化学的に安定であり、生体内で分解・変性されにくいシリカ(SiO)又はシリコーンが特に好ましい。シリカ又はシリコーンは前記コーティング層の少なくとも一部を構成することが好ましく、コーティング層の全部を構成することが特に好ましい。
【0033】
コーティング層の構成成分としてシリカを使用した場合は、本発明のX線造影剤は親水性となり、生体組織との親和性が高い。一方、コーティング層の構成成分としてシリコーンを使用した場合は、本発明のX線造影剤は疎水性となり、生体内での安定性が特に高まる。なお、前記コーティング層の少なくとも一部をシリカから構成し、残りの部分をシリコーンから構成してもよい。
【0034】
前記コーティング層は当該技術分野で周知・慣用の手法により容易にヨウ化銀微粒子の表面に形成することができる。例えば、ヨウ化銀の懸濁液にコーティング源(テトラエチルオルトシリケート、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等)を添加して所定の温度下で撹拌することにより容易にコーティングされたヨウ化銀微粒子を得ることができる(例えば、小林芳男らの「Silica-coating of AgI semiconductor nanoparticles」(Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 251(2004)197-201)を参照のこと)。コーティング層の厚みはヨウ化銀に対するコーティング源の添加量を調整することより制御可能であり、また、本発明のX線造影剤の粒径はコーティング層の厚みを調整することにより、容易に制御することができる。
【0035】
本発明のX線造影剤は、コーティング層に蛍光体を導入することにより、励起エネルギーの照射後に蛍光を発する性質を有する蛍光粒子とすることができる。この場合、蛍光部位を視認することにより、例えば、手術中にもセンチネルリンパ節の位置を容易に確認することができる。
【0036】
励起エネルギーの種類としては特に制限はなく、熱、磁場、光等を挙げることができるが、特に光が好ましく、特に、蛍光波長より短波長のレーザー光を照射することが好ましい。レーザー光としては、ダイオードレーザー、He−Neレーザー等からのレーザー発振装置からの発振光を使用することができる。
【0037】
前記蛍光体から発せられる前記蛍光の波長は600〜900nmの範囲が好適である。600nmより蛍光波長が短いと生体内に自然に存在する蛍光物質(ポルフィリン等)が発する蛍光(自家蛍光)の波長と重複するので高感度測定が困難となる。一方、900nmより蛍光波長が長いと、利用可能な蛍光粒子の種類が僅かとなり実用上好ましくない。なお、好ましい蛍光波長は620〜800nmであり、より好ましい蛍光波長は650〜700nmであり、特に好ましい蛍光波長は660〜680nmである。
【0038】
したがって、前記蛍光体の蛍光波長が600〜900nmの範囲の場合は、励起エネルギー光の波長は600nm未満が好ましい。同様に、蛍光波長が620〜800nmの範囲の場合は、励起エネルギー光の波長は620nm未満が好ましく、また、蛍光波長が650〜700nmの範囲の場合は、励起エネルギー光の波長は650nm未満が好ましく、そして、蛍光波長が660〜680nmの範囲の場合は、励起エネルギー光の波長は660nm未満が好ましい。一般に、蛍光ピーク波長より20〜30nm短い波長に励起エネルギー光の吸収ピークが存在するが、検出される蛍光と励起エネルギー光との重複を回避して蛍光検出を容易に行うためには、さらに短い波長で蛍光物質の励起を行うことが好ましい。
【0039】
前記蛍光体は、好ましくは上記の波長範囲の、蛍光を発することが可能な物質を含む限り、無機又は有機系の任意の物質から構成されてもよい。
【0040】
無機系蛍光物質としては、例えば、3〜16族の金属元素からなる蛍光物質、特に希土類金属の化合物が挙げられるが、その蛍光強度の強さから3価のユウロピウム、3価のテルビニウム、3価のサマリウム、3価のジスプロシウム、2価のユウロピウム等の化合物が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用しても良い。なお、無機系蛍光物質は蛍光波長よりかなり短い波長で励起可能であるため励起光と蛍光が重なりにくい特長を有する。そのため励起波長特性の点では無機系蛍光物質が好ましい。
【0041】
有機系蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン、アクリフラビン、ローダミン、ヨウ化3,3−ジエチルトリカルボシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン、5−カルボキシフルオレセイン、5−(2'−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、アントラニルアミド、クマリン、シアニン染料、BODIPY染料等の各種染料が挙げられる。具体的には、酸性フクシン、アクリジンオレンジ、アクリジンレッド、アクリジンイエロー、アクリフラビン、アリザリンレッド、アロフィコシアニン、アミノアクチノマイシンD、7−アミノアクチノマイシンD−AAD、アストラゾン ブリリアント レッド 4G、アストラゾン レッド 6B、アストラゾン オレンジ、アミノクマリン、ステアリン酸アントリル、アタブリン、オーラミン、オーロフォスフィン、オーロフォスフィンG、ベルベリンスルフェート、ビスベンズアミド、CY3.18、CY5.18、CY7、エリスロシンITC、エチディウムブロミド、フラゾオレンジ、FM1−43、ゲナクリル ブリリアント レッドB、ゲナクリル ピンク3G、リサミン ローダミン B200、リソトラッカー イエロー、リソトラッカー レッド、マグダラ レッド、マグネシウム オレンジ、マイスラマイシン、ナイル レッド、ニトロベンゾキサジドール、パラロサニリン、フォスフィン3R、フォスフィンR、ポントクローム ブルー ブラック、プリムリン、プロシオン イエロー、ヨウ化プロピジウム、ピロナインB、R−フィコエリシン、ローダミン5 GLD、ローダミン 6G、ローダミン B、ローダミン B200、ローダミン Bエキストラ、ローズベンガル、セロトニン、セブロン ブリリアント レッド2B、スルホローダミン Gエキストラ、チアジン レッドR、チオフラビンS、ウルトラライト、キシレンオレンジ等を挙げることができる。
【0042】
本発明のX線造影方法は、ヒト又は小型哺乳動物(ヒトを除く)のいずれを対象とするかによって、X線造影剤の粒径を上記の異なる数値範囲から選択し、所定の粒径を有するX線造影剤を生体内に注入し、次に、注入箇所付近にX線を照射し、当該生体を透過するX線を検出することによって実施することができる。
【0043】
体内に注入されるX線造影剤は粒径が大きい程、センチネルリンパ節への到達時間が長くなるために、短時間での検査が必要な場合は、比較的粒径の小さいX線造影剤を使用することが好ましい。
【0044】
本発明のX線造影剤のコーティング層が蛍光を発する場合は、体外から励起エネルギーを照射することにより皮膚上から肉眼で蛍光を観測可能である。したがって、単に蛍光の存在箇所を確認することにより、容易かつ迅速にセンチネルリンパ節を同定することが可能である。もちろん、皮膚を切開した状態で蛍光粒子の発光を追跡することも可能であり、その場合は、より強い蛍光を直接確認することにより、センチネルリンパ節の同定をより容易に行うことができる。
【0045】
センチネルリンパ節捜索領域を限定するために、X線造影剤の体内注入前に、リンフォシンチグラフィを実施してもよい。リンフォシンチグラフィーにより、事前に、センチネルリンパ節存在領域をある程度予測できるので、当該存在予測領域にX線照射を制限することにより、生体への影響を最小限とし、且つ、センチネルリンパ節検出をより迅速且つ確実に行うことが可能となる。
【0046】
本発明のX線造影剤を利用した手術、例えば腫瘍摘出手術、は、以下のように行うことができる。
【0047】
患者の腫瘍周囲又は腫瘍直上皮下に、上記のX線造影剤の所定濃度の懸濁液を所定量注入する。原発腫瘍内に注入すると、それによって腫瘍細胞が周囲の臓器に拡散するおそれがあるので好ましくない。注入手段としては、注射器を好適に使用することができる。必要に応じて、X線造影剤の注入前にリンフォシンチグラフィを腫瘍の周囲で実施してもよい。
【0048】
適当な時間、例えば10〜30分、の経過後、患者のセンチネルリンパ節生検を開始する。まず、X線撮影を行い、患者のX線透過画像から腫瘍存在部位またはセンチネルリンパ節部位を検出する。
【0049】
次に、患者の腫瘍周囲を切開し、検出されたセンチネルリンパ節を摘出し、直ちに、組織検査を行う。次に、腫瘍摘出が行われるが、組織検査により腫瘍細胞の転移が陰性と判断された場合は腫瘍及びその周囲組織のみを摘出し、切開部位を縫合し、手術を終了する。一方、組織検査により腫瘍細胞の転移が陽性と判断された場合は、腫瘍と共に、腫瘍周囲のリンパ節の一部又は全部を摘出した上で切開部位を縫合し、手術を終了する。
【0050】
なお、X線造影剤のコーティング層が蛍光体を含む場合には、腫瘍付近の生体組織にレーザー等の励起エネルギーを照射し、これと同時に、蛍光部位を走査することによりセンチネルリンパ節を直接確認してもよい。なお、皮膚癌、乳癌等のように腫瘍が比較的皮下近くに存在する場合は、切開の前にレーザー等の励起エネルギーを腫瘍付近の皮膚に照射し、蛍光部位を確認してもよい。
【実施例】
【0051】
実施例1
1匹のラット(Donryu種;雄;6〜8週齢)に脱脂綿に染み込ませて気化させたジエチルエーテル6mlの吸入により麻酔を施した。50nmの平均粒径を有する、シリカでコーティングされたヨウ化銀微粒子の2重量%水性懸濁液の1mlを尾の静脈内に注射した。ラットの尾静脈内注射前、注射直後、5分後に、(株)東芝製X線ヘリカルCT(Asteion)を用いてX線撮影を行い、背部皮下および鼠径部へのヨウ化銀の集積状態を観察した。結果を図1に示す。
【0052】
図1から、シリカ被覆ヨウ化銀微粒子の生体内での局在をX線撮影にて十分確認することができる。したがって、本発明のシリカ被覆ヨウ化銀微粒子はセンチネルリンパ節生検に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1で得られたCT画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング層を有するヨウ化銀微粒子からなる哺乳動物用X線造影剤。
【請求項2】
200nm以上1000nm以下の粒径の、コーティング層を有するヨウ化銀微粒子からなるヒト用X線造影剤。
【請求項3】
40nm以上200nm未満の粒径の、コーティング層を有するヨウ化銀微粒子からなる小型哺乳動物(ヒトを除く)用X線造影剤。
【請求項4】
前記コーティング層の少なくとも一部がシリカ又はシリコーンからなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のX線造影剤。
【請求項5】
40nm以上200nm未満の粒径の、コーティング層を有するヨウ化銀微粒子を小型哺乳動物(ヒトを除く)の生体内に注入する工程;
前記小型哺乳動物にX線を照射する工程;及び
前記小型哺乳動物を透過するX線を検出する工程
を含むことを特徴とする小型哺乳動物(ヒトを除く)のリンパ管又は血管の造影方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−225346(P2006−225346A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42634(P2005−42634)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 日本癌学会発行の「第63回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【出願人】(503092490)
【出願人】(505062592)
【出願人】(503009498)
【出願人】(503008963)
【出願人】(596106179)
【出願人】(503009410)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】