X線CT装置、画像処理装置及びプログラム
【課題】対象物内の物質を高い精度で特定可能なX線CT装置を提供する。
【解決手段】実施形態のX線CT装置は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて対象物内の画像を表示するものであり、生成部と、変換部と、画像形成部と、特定部とを有する。生成部は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換部は、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定部は、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【解決手段】実施形態のX線CT装置は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて対象物内の画像を表示するものであり、生成部と、変換部と、画像形成部と、特定部とを有する。生成部は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換部は、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定部は、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、X線CT装置、画像処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)は、対象物をX線ビームでスキャンして得られた投影データを再構成することにより、対象物の情報を表す画像を形成する技術である。
【0003】
X線CTの応用として、対象物に含まれる物質の種別を特定する技術がある。この技術においては、単一の管電圧によるX線ビームで得られた画像を基に物質を判別することは難しいため、異なる2つの管電圧によるエネルギーの異なる2つのX線ビームでそれぞれスキャンを行う手法が近年注目を集めている。この手法は「デュアル・エナジー・CT(Dual Energy CT)」と呼ばれる。
【0004】
非特許文献1には、異なる2つの管電圧を適用して2つの画像を形成し、これら画像のCT値の比を用いて物質を特定する技術が記載されている。なお、非特許文献1に記載された全ての事項は、この明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0005】
また、特許文献1には、異なる2つの管電圧を適用して得られた各投影データに示す線減弱係数を、2つの基準物質(たとえば水と骨)の線減弱係数の線形結合として表現することにより、各基準物質の分布を表す画像(基準物質画像)を形成する技術が記載されている。更に、特許文献1には、これら基準物質画像を組み合わせることにより、実効原子番号画像、密度画像及び単色X線画像を形成する手法も記載されている。なお、特許文献1に記載された全ての事項は、この明細書の一部を構成するものとして援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−261942号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Johnson TR. et al.、“Material differentiation by dual energy CT:initial experience”、Eur Radiol(2007)、17、1510−1517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CT値が管電圧に依存し、その結果CT値の比が管電圧の組み合わせに依存することを考慮すると、従来のデュアル・エナジー・CTにおいては、CT値比が近い物質を高い精度で判別することは困難であった。
【0009】
また、従来のデュアル・エナジー・CTにおいては、基準物質画像に基づいてその基準物質の含有量が多いか少ないかを把握することは可能であるが、その物質の種別を特定することは困難であった。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、対象物に含まれる物質を高い精度で特定することが可能なX線CT装置、画像処理装置及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態のX線CT装置は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて対象物内の画像を表示するものであり、生成部と、変換部と、画像形成部と、特定部とを有する。生成部は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換部は、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定部は、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係るX線CT装置の概略構成の一例を表すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図3】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図4】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図5】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図6】第1の実施形態に係るX線CT装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態に係るX線CT装置の概略構成の一例を表すブロック図である。
【図8】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図9A】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図9B】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図9C】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図10】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図11】第3の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表すブロック図である。
【図12】第3の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するための概略図である。
【図13】第3の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するための概略図である。
【図14】第3の実施形態に係るX線CT装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【図15A】X線CT装置の変形例を説明するための概略図である。
【図15B】X線CT装置の変形例を説明するための概略図である。
【図16】実施形態に係る画像処理装置の概略構成の一例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係るX線CT装置、画像処理装置及びプログラムについて図面を参照しつつ説明する。以下の実施形態では被検体(患者)を対象物とするが、対象物はこれに限定されるものではない。
【0014】
〈第1の実施形態〉
[構成]
この実施形態のX線CT装置の概略構成を図1に示す。このX線CT装置は、ガントリ1と、前処理部2と、再構成処理部3と、データ処理部4とを有する。なお、図示は省略するが、この実施形態のX線CT装置には、一般的なものと同様に、寝台、コンソール、高電圧発生装置などが設けられている。
【0015】
〔ガントリ1〕
ガントリ1は、被検体をX線でスキャンするために用いられる。ガントリ1には、一般的なものと同様に、互いに対向配置されたX線管及びX線検出器、これらを回転させる回転機構、スリップリング機構、傾斜(チルト)機構、データ収集部(Data Acqusition System:DAS)などが設けられている。ガントリ1は、X線管及びX線検出器を回転させつつ被検体をX線でスキャンする。X線検出器による検出データは、データ収集部によって収集され、前処理部2に送られる。
【0016】
ガントリ1は、特に、エネルギーの異なる2つのX線ビームでそれぞれスキャンを行う手法、つまりデュアル・エナジー・CTを実施することができる。X線のエネルギーは、高電圧発生装置がX線管に印加する電圧(管電圧)に依存する。デュアル・エナジー・CTの手法としては、Slow−kV Switching方式や、Dual Source方式や、Fast−kV Switching方式などがある。Slow−kV Switching方式とは、第1の管電圧でスキャンを行った後に、第2の管電圧でスキャンを行う方式(2回転方式)である。Dual Source方式とは、X線管を2つ備えたガントリを用い、これらX線管に異なる管電圧を印加してスキャンを行う方式(2管球方式)である。Fast−kV Switching方式とは、X線管及びX線検出器を回転させながらビューごとに管電圧を切り替える方式(高速スイッチ方式)である。
【0017】
〔前処理部2〕
前処理部2は、ガントリ1から送られた検出データに対して所定の前処理(画像再構成処理の前に行われる処理)を施す。この前処理としては、データの対数を計算する処理、リファレンス補正、水補正、ビームハードニング補正、体動補正などがある。前処理部2により生成されるデータは投影データと呼ばれる。前処理部2により生成された投影データは、再構成処理部3やデータ処理部4に送られる。ガントリ1及び前処理部2は「生成部」の一例として機能する。
【0018】
〔再構成処理部3〕
再構成処理部3は、前処理部2により生成された投影データに対して再構成処理を施すことにより、被検体の画像データを生成する。再構成処理は、投影データから被検体のX線吸収係数の分布を逆算する演算処理である。この演算処理としては、2次元フーリエ変換法、コンボリューション・バックプロジェクション法、ファンビーム・コンボリューション・バックプロジェクション法などがある。
【0019】
また、再構成処理部3は、データ処理部4により得られた投影データに再構成処理を施して画像データを生成するように構成されていてもよい。この処理については後述する。
【0020】
〔データ処理部〕
データ処理部4は、前処理部2により生成された投影データに対して所定のデータ処理を施すことにより、被検体に含まれる物質の種別を特定する。
【0021】
データ処理部4には、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とが設けられている。なお、投影データ変換部41は「変換部」の一例として、画像形成部42は「画像形成部」の一例として、そして物質特定部43は「特定部」の一例として、それぞれ機能する。
【0022】
(投影データ変換部41)
投影データ変換部41は、デュアル・エナジー・CTの手法により得られた第1及び第2の投影データを、あらかじめ決められた2つの基準物質に対応する2つの投影データに変換する。この処理の一例として、投影データ変換部41は、特許文献1に記載された手法を用いて、第1及び第2の投影データのそれぞれを、2つの基準物質に対応するあらかじめ決められた2つの基準値と、当該2つの投影データとからなる線形結合として表現する。つまり、この線形結合における2つの係数が、目的の2つの投影データとなる。この処理例の詳細については後述する。
【0023】
(画像形成部42)
画像形成部42は、投影データ変換部41により得られた2つの投影データをそれぞれ再構成することにより、2つの基準物質に対応する2つの基準物質画像を形成する。基準物質画像は、対象物内における線減弱係数の分布を表す。線減弱係数とは、入射X線が単一厚さの物質を通過するときに減衰するエネルギーの割合を示す。この再構成処理により得られる情報は、2つの基準値の係数がと2つの基準物質画像とからなる線形結合画像である。つまり、この線形結合画像における2つの係数が、目的の2つの基準物質画像(再構成画像)となる。
【0024】
この再構成処理は、再構成処理部3と同様の要領で行われる。なお、画像形成部42の代わりに再構成処理部3が当該再構成処理を行うようにしてもよい。その場合、画像形成部42は不要である。画像形成部42又は再構成処理部3が実行する処理の例の詳細については後述する。
【0025】
なお、2つの基準値は、投影データの線減弱係数を線形結合として表すために用いられる。2つの基準値は、2つの基準物質の線減弱係数であってよい。また、2つの基準値は任意の値であってもよい。
【0026】
(処理例)
上記の処理例として、特許文献1に記載された手法を説明する。前処理部2により生成された第1の投影データ(高エネルギー側)をgHで表し、第2の投影データ(低エネルギー側)をgLで表す。投影データ変換部41は、これら投影データgH、gLに対して次式(1)に示す変換を施すことで、2つの投影データL1、L2を生成する。
【0027】
【数1】
【0028】
ただし:
Dは、次式(2)の右辺の2×2行列の行列式;
〈μ〉1,2H,Lは、特許文献1に記載されたエネルギー平均化線減弱係数;
をそれぞれ示す。
【0029】
【数2】
【0030】
画像形成部42は、式(2)に示す2つの投影データL1、L2をそれぞれ再構成することにより、2つの基準物質に対応する2つの基準物質画像(次式(3)のc1、c2)を形成する。任意の物質の線減弱係数μは、次式(3)に示すように、2つの基準値μ1、μ2と、2つの基準物質画像c1、c2とを用いた線形結合(線形結合画像)として表現される。
【0031】
【数3】
【0032】
ただし:
Eは、X線のエネルギー;
μ1(E)は、エネルギーEにおける第1の基準物質の線減弱係数(基準値);
μ2(E)は、エネルギーEにおける第2の基準物質の線減弱係数(基準値);
c1(E,x,y)は、座標(x,y)に位置する画素における第1の基準物質の存在率;
c2(E,x,y)は、座標(x,y)に位置する画素における第2の基準物質の存在率;
をそれぞれ示す。
【0033】
基準物質画像(存在率)c1及びc2は、任意の物質の線減弱係数μを2つの基準物質の線減弱係数μ1及びμ2の関数として表したときの係数であり、この任意の物質が各基準物質にどれだけ類似しているかを示す指標である。
【0034】
以下、第1の基準物質が造影剤(ヨウ素濃度50[mgI/ml])であり、第2の基準物質が水である場合を例として特に説明する。
【0035】
(物質特定部43)
物質特定部43は、画像形成部42により形成された2つの基準物質画像の相関に基づいて対象物質の種別を特定する。なお、対象物質とは、この実施形態において種別の特定処理の対象とされる物質を示す。上記処理例を適用する場合、物質特定部43は、まず、所定の対象物質について、2つの基準値μ1及びμ2に基づきあらかじめ決められた座標系における、2つの基準物質画像c1及びc2に対応する座標を決定する。更に、物質特定部43は、所定の複数の物質についてあらかじめ得られた上記座標系における複数の座標と、前段の処理で決定された2つの基準物質画像c1及びc2に対応する座標とに基づいて、対象物質の種別を特定する。
【0036】
上記座標系については、任意にこれを設定することが可能である。その一例として、図2に示すような、2つの存在率c1及びc2を基底とする2次元座標系を適用できる。この座標系は、第1の基準物質としての造影剤の存在率c1を縦軸とし、第2の基準物質としての水の存在率c2を横軸としたものである。
【0037】
この座標系における座標については、縦軸の座標、横軸の座標の順で記載する。すなわち、この座標系における座標は(c1,c2)と記載される。縦軸における基準の座標P(1,0)、つまり縦軸方向における基底として、造影剤の存在率c1が100%に相当するベクトルを適用する。また、横軸における基準の座標Q(0,1)、つまり横軸方向における基底として、水の存在率c2が100%に相当するベクトルを適用する。
【0038】
物質特定部43は、画像形成部42により得られた線形結合画像における基準物質画像の組(c1,c2)を、この座標系の座標として扱う。
【0039】
なお、本例では、基準物質画像の組と座標とが同じ表現となるように座標系(基底)を設定しているが、これに限定されるものではない。たとえば、c1やc2に係数を掛けることにより、座標軸が伸縮された座標系を適用することができる。また、本例では、縦軸にc1を割り当て、横軸にc2を割り当てているが、これを逆にしてもよい。更に、本例のような直交座標系に代えて、斜交座標系等の他の座標系を用いることも可能である。すなわち、この実施形態における座標系は、線形結合画像における2つの基準物質画像の相関を表すことができるものであれば十分であり、その具体的な態様は任意である。
【0040】
物質特定部43による処理に供される上記「複数の物質」は、任意の物質でよい。また、その個数も任意である。図2に示す例では、造影剤と水が複数の物質に相当する。本例では、「複数の物質」と、基底の生成に用いられる物質とが同じであるが、これには限定されない。その一例として、造影剤と水の2つの物質を「基準物質」とし、造影剤、水、炭酸カルシウム、脂肪及び尿酸の5つの物質を「複数の物質」として適用する場合を後述する。
【0041】
複数の物質に対応する座標の取得方法についても任意である。その例として、その物質の測定を実際に行って座標を求める方法や、他の物質の線減弱係数をも考慮して座標を算出する方法などがある。
【0042】
前者の方法は、たとえば、その物質をX線でスキャンして投影データを生成し、これに基づく画素毎の線減弱係数を線形結合として表現し、その係数の組に対応する座標を決定することにより行われる。
【0043】
後者の方法について説明する。各物質の線減弱係数は既知であるから、異なる2つのエネルギーに対応する線減弱係数を上記の式(3)にそれぞれ代入することで、次の連立方程式(4a)、(4b)が得られる。
【0044】
【数4】
【0045】
ただし:
ELow、EHighは、2種類のX線エネルギー;
μ(ELow)は、低い側のエネルギーELowにおける当該物質の線減弱係数;
μ(EHigh)は、高い側のエネルギーEHighにおける当該物質の線減弱係数;
をそれぞれ示す。
【0046】
この連立方程式(4a)、(4b)において未知数はc1とc2の2つであるから、これを解くことにより、係数の組c1、c2を算出できる。そして、この係数の組に基づいて目的の座標が得られる。
【0047】
物質特定部43は、このようにして取得された複数の物質についての複数の座標と、対象物質について物質特定部43により決定された座標とに基づいて、この対象物質の種別を特定する。この処理の一例として、物質特定部43は、(1)当該複数の座標に基づく座標系内の領域を求め、(2)この領域に対する対象物質の座標の位置に基づいて、対象物質の種別を特定する。以下、座標系内の領域として、複数の座標を結ぶグラフを用いる場合を説明する。ここで、特に必要な場合を除き、(1)で得られる領域(グラフ等)を実際に表示させる必要はない。以下の説明では、実施形態の理解を支援するために、表示されたグラフを用いているに過ぎない。それ以降に説明される座標系内の領域についても同様である。なお、座標系内の領域は当該座標系における座標の集合に相当し、グラフはこの領域自体やその外周線に位置する座標の集合に相当する。
【0048】
座標系内の領域としてのグラフを求める処理について説明する。図2に示す例では、上記複数の座標として、造影剤の座標と水の座標が適用されている。物質特定部43は、目的のグラフとして、これら座標を結ぶ線分L1を求める。
【0049】
一般に、線分の式は、2つの座標に基づいてこれらを通る直線の式(つまり傾きと切片)を算出し、この直線のうち当該2つの座標を両端とする部分を抽出することにより得られる。3つ以上の座標を考慮して2つ以上の線分を求める場合には、任意の2つの座標の組み合わせに対して同様の演算を行えばよい。
【0050】
さて、線分L1上の座標は、造影剤のヨウ素濃度に対応している。たとえば、線分L1上の座標P1、P2、P3、P4、P5は、ヨウ素濃度25[mgI/ml]、20[mgI/ml]、15[mgI/ml]、10[mgI/ml]、5[mgI/ml]にそれぞれ対応している。また、前述のように、座標Pは50[mgI/ml]に対応し、座標Qは0[mgI/ml](単なる水)に対応している。つまり、線分L1上において座標Pに近づくとヨウ素濃度が増加し、座標Qに近づくとヨウ素濃度が減少する。
【0051】
このように、複数の物質の1つとして水を採用することで、物質の濃度をグラフとして表すことができる。たとえば造影剤、水、炭酸カルシウム、脂肪及び尿酸の5つの物質が採用される場合におけるグラフの例を図3に示す。
【0052】
図3には、造影剤の座標Pと、水の座標Qと、炭酸カルシウムの座標Rと、脂肪の座標Sと、尿酸の座標Tが示されている。また、座標Pと座標Qとを結ぶ線分L1は造影剤のヨウ素濃度に相当し、座標Rと座標Qとを結ぶ線分L2は炭酸カルシウムの濃度に相当し、座標Sと座標Qとを結ぶ線分L3は脂肪の濃度に相当し、座標Tと座標Qとを結ぶ線分L4は尿酸の濃度に相当する。各線分L1〜L4において、座標Qに近づくほど濃度が低くなり、座標Qから遠ざかるほど濃度が高くなる。
【0053】
また、図3から分かるように、4つの線分L1〜L4は、互いに座標Qでのみ交差している。これは、濃度0(単なる水)に相当する座標Qを除いて、線分L1〜L4が互いに分離されていること、つまり4つの物質(造影剤、炭酸カルシウム、脂肪及び尿酸)に対応する座標が当該座標系において互いに分離されていることを示している。換言すると、当該座標系における線分の位置が異なれば、それに対応する物質も異なるということになる。
【0054】
このようなグラフを利用することにより、物質特定部43は、物質特定部43により決定された対象物質の座標とグラフとの位置関係に基づいて、この対象物質の種別を特定する。
【0055】
図3に示す線分L1〜L4をグラフとして利用する場合を例として説明すると、物質特定部43は、まず、対象物質の座標がこれら線分L1〜L4のいずれかの上に位置するか判断する。
【0056】
対象物質の座標が線分Li(i=1〜4のいずれか)上に位置すると判断された場合、物質特定部43は、この線分Liにおける当該座標の位置に基づいて、対象物質の種別を特定する。この種別には、対象物質の物質名だけでなく、その濃度(つまり対象物質と水との成分比)も含まれる。
【0057】
なお、物質名だけを特定するように構成することも可能である。その場合には、対象物質の座標が位置している線分Liを特定するだけでよい。
【0058】
一方、対象物質の座標がどの線分L1〜L4上にも位置しないと判断された場合、物質特定部43は、この対象物質はこれら線分L1〜L4に相当する物質のいずれにも該当しないとの結果を得る。
【0059】
3つ以上の基準物質について座標が得られている場合、座標系内の領域として、これら座標を結んでなる多角形を形成することができる。この多角形により規定される領域は、これら基準物質の混合物に相当する。なお、この混合物とは、各基準物質の成分比を0〜100%とし、全基準物質の成分比の和を100%とした場合に定義される物質を意味する。よって、この混合物には、3つ以上の基準物質のうちの1つ又は2つのみを成分とするものも含まれる。1つの基準物質のみを成分とするものは多角形の頂点に相当し、2つの基準物質のみを成分とするものは多角形の辺に相当する。
【0060】
3つ以上の基準物質を用いる場合の例として、造影剤と水と炭酸カルシウムの3つを基準物質とする場合について説明する。この場合、図4に示すように、造影剤、水、炭酸カルシウムに相当する座標P、Q、Rを頂点とする多角形(三角形)Aが得られる。多角形Aの辺PQ(線分L1)及びQR(線分L2)に相当する領域は、それぞれ前述のように造影剤の濃度及び炭酸カルシウムの濃度を表す。また、辺PR(線分L5)に相当する領域は、造影剤と炭酸カルシウムとの混合物における造影剤と炭酸カルシウムとの成分比を表す。辺PRにおいて、頂点Pに近づくほど造影剤の成分比が増大し、頂点Rに近づくほど炭酸カルシウムの成分比が増大する。
【0061】
また、多角形Aの内部領域、つまり多角形A上の領域から線分L1、L2、L5を除いた領域は、これら3つの基準物質全ての混合物に相当する。この内部領域中の座標についても、頂点Pに近づくほど造影剤の成分比が増大し、頂点Rに近づくほど炭酸カルシウムの成分比が増大する。そして、水に相当する頂点Qに近づくほど当該混合物の濃度が減少する。
【0062】
物質特定部43は、決定された対象物質の座標が多角形上に位置するか否か判断する。当該座標が多角形の外部に位置すると判断された場合、物質特定部43は、この対象物質は当該多角形に対応する混合物ではないと判断する。
【0063】
一方、当該座標が多角形上に位置すると判断された場合、物質特定部43は、この対象物質は当該混合物であると判断する。更に、物質特定部43は、この対象物質の座標の位置に基づいて、この対象物質を構成する3つ以上の基準物質の成分比を求める。
【0064】
なお、以上の例では、X線CT装置の測定誤差を考慮していないため、各物質に相当する座標が一意に決定されると仮定している。この測定誤差は、装置の機差(公差等)やノイズの混入などに起因する。以下、測定誤差を考慮する場合における処理について説明する。なお、測定誤差が十分に小さい場合などこれを許容できる場合には、上記の処理を適用すればよい。
【0065】
測定誤差を考慮する場合の一例について説明する。まず、様々な物質に対して繰り返し測定を行うことにより、各物質についての座標の分布を取得する。この分布情報は、たとえば、このX線CT装置により得られる投影データに混入するノイズの標準偏差情報である。この分布情報は物質特定部43に記憶される。
【0066】
造影剤、水及び炭酸カルシウムのそれぞれについての座標の分布の例を図5に示す。造影剤についての座標の分布範囲をPa、水についての座標の分布範囲をQa、炭酸カルシウムについての座標の分布範囲をRaでそれぞれ示す。
【0067】
物質特定部43は、標準偏差情報に基づいて、当該物質に対応するグラフを含む2次元領域を求める。この処理の一例を説明する。まず、物質特定部43は、分布範囲Paと分布範囲Qaとを結ぶ2本の線分L1a、L1bを求める。線分L1a、L1bとしては、たとえば、分布範囲Pa、Qaの双方に接し、かつ互いに交差しないものが用いられる。それにより、分布範囲Pa、Qa及び線分L1a、L1bで囲まれた領域Bが得られる。同様にして、分布範囲Ra、Qa及び線分L2a、L2bで囲まれた領域Cが得られる。
【0068】
領域Bは、測定誤差を反映した造影剤の濃度の座標の分布範囲として用いられる。領域Bにおいて線分L1上にない座標には、線分L1に基づいて濃度の値が対応付けられる。この対応付けの例として、線分L1上の各位置において線分L1に直交する直線を求め、この直線上に位置する座標の濃度を等しく設定することができる。測定誤差を反映した炭酸カルシウムの濃度の分布範囲を示す領域Cについても同様に濃度が設定される。
【0069】
物質特定部43は、決定された対象物質の座標と、領域B、Cとの位置関係に基づいて、この対象物質の種別を特定する。たとえば、対象物質の座標が領域B上に位置する場合、物質特定部43は、この対象物質は造影剤であると特定し、更に、当該座標と、領域B上の座標に設定された濃度とに基づいて、この対象物質の濃度を特定する。
【0070】
[動作]
この実施形態に係るX線CT装置の動作について説明する。このX線CT装置の動作例を図6に示す。なお、装置各部の動作の詳細については上述したので、ここでは簡単な説明にとどめる。
【0071】
(S1)
まず、ガントリ1でデュアル・エナジー・CTによる撮影を行う。前処理部2は、ガントリ1により収集されたデータを投影データに変換する。それにより、エネルギーが異なる第1及び第2の投影データが生成される。第1及び第2の投影データは、データ処理部4に送られる。
【0072】
(S2)
投影データ変換部41は、ステップ1で生成された各投影データに基づく画素毎の線減弱係数を2つの基準物質の線減弱係数の線形結合として表現することにより、2つの基準物質による各投影データの分解を行う。このステップ2により、第1及び第2の投影データが、2つの基準物質に対応する2つの投影データに変換される。
【0073】
(S3)
更に、画像形成部42は、ステップ2で得られた線形結合を再構成することにより線形結合画像を形成する。これにより、2つの基準物質画像が得られる。
【0074】
(S4)
物質特定部43は、ステップ3で得られた2つの基準物質画像の相関を求める。上記の例では、2つの基準物質画像の各画素(x、y)について、所定の2次元座標系における対応する座標(c1(x、y)、c2(x、y))が得られる。
【0075】
(S5)
物質特定部43は、ステップ4で得られた相関に基づいて、対象物質を2つの基準物質に分解する。上記の例では、対象物質が造影剤と水などに分解される。
【0076】
(S6)
物質特定部43は、ステップ5での分解結果に基づいて対象物質の種別を特定する。この特定結果は、たとえば図示しないディスプレイに表示される。また、この特定結果は、X線CT装置の記憶デバイスやネットワーク上の記憶デバイスに記憶される。
【0077】
[作用・効果]
この実施形態に係るX線CT装置の作用と効果について説明する。
【0078】
このX線CT装置は、ガントリ1及び前処理部2により投影データを生成する。特に、デュアル・エナジー・CT、つまり、エネルギーが異なる第1及び第2のX線でそれぞれ対象物をスキャンすることで、第1及び第2の投影データが生成される。
【0079】
更に、このX線CT装置は、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とを有する。投影データ変換部41は、第1及び第2の投影データを、あらかじめ決められた2つの基準物質に対応する2つの投影データ(新たな投影データ)に変換する。画像形成部42は、2つの投影データをそれぞれ再構成することで、2つの基準物質に対応する2つの基準物質画像を形成する。物質特定部43は、2つの基準物質画像の相関に基づいて対象物質の種別を特定する。
【0080】
投影データ変換部41が、上記の変換処理として、第1及び第2の投影データのそれぞれを、2つの基準物質に対応するあらかじめ決められた2つの基準値と、2つの投影データとからなる線形結合として表現するように構成されていてもよい。
【0081】
また、画像形成部42が、この線形結合を再構成することにより、2つの基準値と2つの基準物質画像とからなる線形結合画像を形成するように構成されていてもよい。
【0082】
また、物質特定部43が、対象物質について、2つの基準値に基づきあらかじめ決められた座標系における2つの基準物質画像に対応する座標を決定し、かつ、複数の物質についてあらかじめ得られた座標系における複数の座標と、決定された座標とに基づいて、この対象物質の種別を特定するように構成されていてもよい。
【0083】
なお、第1及び第2のX線のそれぞれのエネルギーについて、2つの基準値は、あらかじめ決められた2つの基準物質の線減弱係数であってよい。更に、座標系は、2つの基準物質の線減弱係数に基づく2つの基底により張られる2次元座標系であってよい。
【0084】
また、物質特定部43が、複数の座標に基づく座標系内の領域に対する対象物質の座標の位置に基づいて対象物質の種別を特定するように構成されていてもよい。
【0085】
また、複数の物質が第1及び第2の物質を含む場合において、物質特定部43が、座標系における第1の物質の座標と第2の物質の座標とを結ぶ線分を当該座標系内の領域として求め、かつ、対象物質の座標がこの線分上に位置する場合、当該位置に基づいて第1の物質と第2の物質との成分比を求めるように構成されていてもよい。
【0086】
また、複数の物質が3つ以上の物質を含む場合において、物質特定部43が、座標系における3つ以上の物質の座標を結ぶ多角形を上記座標系内の領域として求め、対象物質の座標がこの多角形上に位置する場合、当該位置に基づいて3つ以上の物質の成分比を求めるように構成されていてもよい。
【0087】
ここで、上記の例では、3つ以上の物質の座標を考慮する場合における上記座標系内の領域は、多角形には限定されない。この場合における上記座標系内の領域は、一般に、3つ以上の物質の座標に基づく図形、つまりこれら座標を考慮して形成された任意の図形でよい。たとえば、3つ以上の物質の座標を通過又は内包する図形を上記座標系内の領域として用いることができる。この例では、図形の外周線が直線である必要はなく、また物質の座標が当該図形の外周線上にある必要もない。対象物質の座標が図形上に位置する場合、当該位置に基づいて3つ以上の物質の成分比が算出される。
【0088】
また、複数の物質のうちの1つが水である場合において、物質特定部43が、第1及び第2の対象物質について決定された第1及び第2の座標のそれぞれと、水の座標とを結ぶ2つの線分を座標系内の領域として求め、これら線分の位置関係に基づいて第1の対象物質と第2の対象物質とが同種であるか否か特定するように構成されていてもよい。
【0089】
また、物質特定部43が、投影データに混入するノイズの標準偏差情報をあらかじめ記憶し、この標準偏差情報に基づいて座標系内の領域を含む2次元領域を求め、この2次元領域に対する対象物質の座標の位置に基づいてこの対象物質の種別を特定するように構成されていてもよい。
【0090】
このようなX線CT装置によれば、対象物質の特性を所定の座標系における座標として表現し、この座標と複数の物質についての複数の座標とに基づいて対象物質の種別を特定することができる。したがって、CT値比が近い物質であっても座標を参照することにより高い精度での識別が可能である。
【0091】
また、上記座標系内の領域を用いる構成を適用することにより、対象物質を構成する物質の成分比を求めることができる。更に、上記座標系内の領域を参照することにより、2つ以上の対象物質がそれぞれ同種であるか異種であるかを判別することができる。
【0092】
また、ノイズの影響を考慮する構成を適用することにより、より高精度、高確度での物質の特定、成分比の特定、対象物質の分離などが可能となる。
【0093】
〈第2の実施形態〉
この実施形態のX線CT装置の概略構成を図7に示す。このX線CT装置は、第1の実施形態で説明した構成を含んでいる。このX線CT装置は、ガントリ1と、前処理部2と、再構成処理部3と、データ処理部4と、制御部5と、表示部6と、操作部7とを有する。データ処理部4には、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とが設けられている。第1の実施形態と同じ構成部分は、特に言及しない限り第1の実施形態と同様の機能を有する。
【0094】
基準物質の1つは水であるとする。また、物質特定部43は、第1の実施形態で説明したように、対象物質の座標と水の座標とを結ぶ線分を求める(図2等を参照)。この線分は、対象物質と水との混合物における成分比、つまり対象物質の濃度を表すものである。
【0095】
データ処理部4は、対象物(被検体等)の撮影領域の各位置について第1の実施形態の処理を適用することにより、撮影領域における対象物質の分布を求める。この分布情報は再構成処理部3に入力される。なお、分布情報には、撮影領域における対象物質の存在位置を示す情報と、濃度を示す情報とが含まれている。
【0096】
分布情報と投影データを受けた再構成処理部3は、投影データにおける対象物質の分布領域に対して再構成処理を施すことで、対象物質の分布(たとえば濃度の分布)を表す分布画像を形成する。この処理の一例として、再構成処理部3は、分布情報に示す対象物質の存在位置に基づいて、この存在位置に対応する画素を特定する。そして、再構成処理部3は、投影データに基づいて、特定された画素についてのみ画像を再構成する。他の処理として、再構成処理部3は、投影データに基づいて通常の再構成処理を行い、それにより得られた画像のうち上記存在位置に対応する画素のみを抽出する。これら手法により得られる再構成画像が上記の分布画像である。
【0097】
制御部5は、対象物質の濃度を表す線分上における位置の指定を受けて、この指定位置に応じた態様で分布画像を表示部6に表示させる。この処理について以下に説明する。
【0098】
このX線CT装置には、対象物質の濃度を変更するためのユーザインターフェイスが設けられている。このユーザインターフェイスは、ソフトウェアに基づいて表示部6に表示されるものであってもよいし、ハードウェアであってもよい。ハードウェアとしてはダイヤルやスライドレバーなどがある。ソフトウェアを用いる場合、たとえば、ダイヤルやスライドレバーを模した画像を表示部6に表示させ、これを操作部7で操作するように構成できる。
【0099】
ソフトウェアを用いる場合の具体例として、制御部5は、図2に示すグラフに基づいて、図8に示す画像を表示部6に表示させる。この画像は、図2に示す座標系と、線分画像Dと、スライダEとを含む。座標系の座標軸には、物質名を示す文字列「造影剤」、「水」が付されている。線分画像Dは、線分L1を示している。スライダEは、線分画像D上を移動可能とされている(図中の両側矢印を参照)。スライダEは、たとえば操作部7のマウスによるドラッグ操作によって移動される。
【0100】
ユーザは、スライダEを所望の位置に移動させることにより、造影剤の濃度の指定を行う。より具体的に説明すると、線分画像Dと線分L1とはあらかじめ対応付けられており、制御部5は、スライダEの位置に対応する線分L1の位置、つまり造影剤の濃度が指定される。制御部5は、指定された濃度に応じて分布画像の表示態様を変更する。表示態様の変更処理としては、画素値(輝度、色等)を変更するものや、模様を変更するものなどがある。
【0101】
分布画像が複数存在する場合には、各分布画像について濃度の指定を行うことが可能である。その場合、ユーザは、たとえばポインティングデバイスを用いて、所望の分布画像を指定する。制御部5は、指定された分布画像における所定の濃度に対応する位置にスライダEを表示させる。ユーザは、スライダEを所望の位置に移動させる。制御部5は、移動後のスライダEの位置に応じて当該分布画像の表示態様を変更する。
【0102】
濃度の変更処理として、数値を入力する方法を採用することも可能である。その場合、制御部5は、対象物質の濃度情報を入力するための入力領域を表示部6に表示させる。ユーザは、操作部7(たとえばキーボード)を用いて入力領域に所望の濃度の値を入力する。入力領域は、たとえばプルダウンメニューのように、濃度の複数の選択肢から所望のものを選択可能とするオブジェクトであってもよい。
【0103】
初期値よりも濃度を高めた場合の分布画像を強調画像と呼ぶことがある。また、初期値よりも濃度を低下させた場合の分布画像を抑制画像と呼ぶことがある。
【0104】
強調画像及び抑制画像の例を説明する。図9Aは、60keVの単色X線画像としての分布画像(原画像)G0を示す。なお、図9A(画像を示す以下の図も同様)においては、実際の画像と表示輝度が逆転されている。つまり、実際の画像では対象物質の濃度が高いほど表示輝度が高くなっているが、図9Aでは濃度が高いほど表示輝度が低くなっている。
【0105】
単色X線画像は次式(5)で定義される。
【0106】
【数5】
【0107】
ただし:
CT numberは、CT値;
μは、式(5)に示す対象物質の線減弱係数;
μwaterは、水の線減弱係数;
をそれぞれ示す。
【0108】
原画像G0には、様々な濃度の造影剤の分布画像H01、H02、H03、H04、H05が描写されている。分布画像H01、H02、H03、H04、H05は、それぞれ、濃度25[mgI/ml]、20[mgI/ml]、15[mgI/ml]、10[mgI/ml]、5[mgI/ml]に相当する。
【0109】
図9Bは、原画像G0に基づく強調画像G1を示す。強調画像G1には、原画像G0中の分布画像H01、H02、H03、H04、H05にそれぞれ対応する分布画像H11、H12、H13、H14、H15が描写されている。各分布画像H1i(i=1〜5)は、分布画像H0iに示す濃度を高めた状態を示している。
【0110】
図9Cは、原画像G0に基づく抑制画像G2を示す。抑制画像G2には、原画像G0中の分布画像H01、H02、H03、H04、H05にそれぞれ対応する分布画像H21、H22、H23、H24、H25が描写されている。各分布画像H2i(i=1〜5)は、分布画像H0iに示す濃度を低下させた状態を示している。
【0111】
このような強調画像G1及び抑制画像G2の生成方法を説明する。まず、制御部5は、造影剤の濃度を示す線分L1(図2参照)上に座標が位置する画素を特定する。次に、制御部5は、特定された各画素について、式(3)に示す造影剤の存在率c1を1000に設定し、水の存在率c2を0に設定し、これらを式(2a)、(2b)に代入することにより、強調画像G1を生成する。また、制御部5は、造影剤の存在率c1を0に設定し、水の存在率c2を1000に設定し、これらを式(2a)、(2b)に代入することにより、抑制画像G2を生成する。制御部5は、生成された強調画像G1や抑制画像G2を表示部6に表示させる。
【0112】
次に、濃度の算出方法の例を説明する。前述のように、座標系中の線分は、物質と水との混合物を表しており、線分上の位置が濃度に相当している。図2に示す場合において、造影剤の濃度を示す線分L1は、傾きが−1、切片が1の直線上にあるので、造影剤の濃度は次式で算出することができる。
【0113】
【数6】
【0114】
図10は、造影剤の濃度を示す線分L1上に座標が位置する係数c1(x,y)、c2(x,y)を抽出し、式(6)を用いて算出された濃度をカラー表示させた場合の表示態様の一例を模式的に表している。分布画像Gには5つの分布画像H1、H2、H3、H4、H5が描写されている。各分布画像Hi(i=1〜5)は、その濃度に応じた色で表示される。濃度と表示色との関係はカラーバーJにより示されている。なお、複数の物質の濃度をカラー表示させる場合には、物質毎に異なる色で分布画像を表示させるように構成することも可能である。
【0115】
この実施形態のX線CT装置の作用及び効果を説明する。
【0116】
この実施形態のX線CT装置は、第1の実施形態の作用に加えて、次に示す作用を有する。なお、物質の1つは溶剤(たとえば水)である。物質特定部43は、対象物質の座標と溶剤の座標とを結ぶ線分を求める。再構成処理部3は、投影データにおける対象物質の分布領域に対して再構成処理を施すことにより、対象物質の分布を表す分布画像を形成する。制御部5(表示画像生成部)は、線分上における位置の指定を受けて、当該指定位置に応じた態様の分布画像(表示画像)を生成して表示部6に表示させる。
【0117】
また、制御部5により線分を表す線分画像が表示部6に表示され、更に、この線分画像上の位置が操作部7を用いて指定されたことを受けて、制御部5が、当該指定位置に対応する線分上の位置を特定し、当該特定位置に応じた態様で分布画像を表示させるように構成することができる。
【0118】
また、物質の濃度情報を入力するための入力領域が表示部6に表示され、更に、操作部7を用いて対象物質の濃度情報が入力領域に入力されたことを受けて、制御部5(濃度算出部、表示画像生成部)が、当該濃度情報に対応する線分上の位置を特定し、当該特定位置に応じた態様の分布画像を生成して表示させるように構成することができる。
【0119】
また、制御部5が、線分上の指定位置に応じて分布画像の表示色を変更するように構成することが可能である。また、制御部5が、物質特定部43により特定された対象物質の種別に応じて分布画像の表示色を変更するように構成することが可能である。更に、制御部5が、対象物質の種別と線分上の指定位置の双方に応じて分布画像の表示色を変更するように構成することも可能である。
【0120】
このようなX線CT装置によれば、第1の実施形態の効果に加えて、強調画像や抑制画像を形成し表示することができる。また、物質の濃度を視覚的に表現することができるので、濃度の直感的な理解が可能となる。
【0121】
なお、上記の例では、対象物質の座標と溶剤の座標とを結ぶ線分を求めて対象物質の分布画像を形成する場合について説明したが、溶剤以外の物質を適用して同様の処理を行うことも可能である。たとえば、前述の「複数の物質」のうちの一の物質の座標と対象物質の座標とを結ぶ線分を求め、更に、投影データにおける対象物質の分布領域に対して再構成処理を施すことにより分布画像を形成する。この分布画像は対象物質及び一の物質の分布を表すものである。つまり、2つの物質の分布を表現する単一の分布画像が得られる。
【0122】
〈第3の実施形態〉
第1の実施形態で説明した方法では、第1の物質の座標と水の座標とを結ぶ第1の線分と、第2の物質の座標と水の座標とを結ぶ第2の線分とが近い場合、これら物質を判別することは困難である。一方、非特許文献1に記載された方法では、第1の物質のCT値と第2の物質のCT値とが近い場合、これら物質を判別することは困難である。
【0123】
そこで、この実施形態では、これら2つの方法を併用することにより、より確実な物質の判別を可能とする技術を提供する。また、この実施形態では、特許文献1に記載された技術を利用して、実効原子番号画像、密度画像及び単色X線画像を形成する処理についても説明する。
【0124】
この実施形態のX線CT装置の概略構成を図11に示す。このX線CT装置は、第1の実施形態で説明した構成を含んでいる。また、図示は省略するが、このX線CT装置は、第2の実施形態で説明した構成を更に含んでいてもよい。
【0125】
このX線CT装置は、ガントリ1と、前処理部2と、再構成処理部3と、データ処理部4と、画素値比算出部8と、物質特定部9と、特定画像形成部10と、特定制御部11とを有する。データ処理部4には、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とが設けられている。なお、物質特定部9と特定制御部11はそれぞれ「特定部」の一例として機能する。
【0126】
第1の実施形態と同じ構成部分は、特に言及しない限り第1の実施形態と同様の機能を有する。なお、第1の実施形態で説明した物質特定処理はデータ処理部4が実行し、非特許文献1に記載された物質特定処理は画素値比算出部8及び物質特定部9が実行する。
【0127】
再構成処理部3は、デュアル・エナジー・CTにより得られた第1及び第2の投影データのそれぞれに対して再構成処理を施すことにより第1及び第2の画像を形成する。
【0128】
画素値比算出部8は、非特許文献1に記載されているように、第1及び第2の画像における画素値(CT値)の比を算出する。この処理は、第1の画像と第2の画像との間で画素の対応付けを行い、対応付けられた2つの画素のCT値の比を算出するものである。
【0129】
物質特定部9は、非特許文献1に記載された方法を用いることで、画素値比算出部8により算出されたCT値比に基づいて、対象物質の種別を特定する。
【0130】
以下、具体例として、尿酸、軟骨及び軟組織が混在する状況において尿酸を特定する場合を説明する。これら物質について得られたCT値比の分布の例を図12に示す。本例では、管電圧80kV及び135kVでデュアル・エナジー・CTによる撮影を行うものとする。図12では、管電圧80kVでのCT値をx軸に、管電圧135kVでのCT値をy軸にとっている。したがって、原点と任意の座標とを通過する直線の傾きがCT値比に相当する。
【0131】
分布領域K1、K2、K3は、それぞれ尿酸、軟骨、軟組織についての分布を示している。分布領域K1、K2、K3の位置関係から分かるように、尿酸と軟骨とはCT値比が異なっており互いの判別が可能であるが、尿酸と軟組織ではCT値比が近いため判別が困難である。なお、直線M1、M2は、それぞれ尿酸のCT値比の最大値と最小値を表している。
【0132】
一方、図13は、第1の実施形態で説明した方法で得られた、尿酸、軟骨及び軟組織の座標の分布の例を示している。なお、縦軸及び横軸は、それぞれ造影剤及び水に基づき設定されている。分布領域N1、N2、N3は、それぞれ尿酸、軟骨、軟組織についての分布を示している。直線L6は、尿酸の座標の分布状態を示す直線である。また、直線L6a、L6bは、それぞれ、尿酸の分布領域の広がりに応じた直線の分布範囲の上限及び下限を示している(第1の実施形態を参照)。軟骨及び軟組織については直線の図示を省略しているが、その形態から直線の向きは容易に把握できる。分布領域N1、N2、N3の位置から分かるように、本例では、尿酸と軟骨では近い直線が得られるので物質相互の判別が困難であり、尿酸と軟組織では直線の向きが十分異なるので判別が可能である。
【0133】
以上の考察の下、第1の実施形態で説明した方法と非特許文献1に記載された方法とを併用する処理の一例を説明する(図14を参照)。まず、第1の実施形態と同様に、デュアル・エナジー・CTにより投影データを取得する(S21)。
【0134】
再構成処理部3,画素値比算出部8及び物質特定部9は、前述の要領で、図12に示すCT値比の分布情報、つまり分布領域K1、K2、K3を得る(S22)。また、データ処理部4は、前述の要領で、図13に示す座標の分布情報、つまり分布領域N1、N2、N3を得る(S23)。これら分布情報は特定制御部11に送られる。以下、CT値比の分布情報を第1の分布情報と呼び、座標の分布情報を第2の分布情報と呼ぶことがある。
【0135】
特定制御部11は、第1及び第2の分布情報に基づいて3つの物質をそれぞれ特定する。その処理の例として、特定制御部11は、まず、図12に示す直線M1、M2と、図13に示す直線L6a、L6bを求める。なお、直線M1、M2や直線L6a、L6bは、今回の測定により得られたデータから作成したものであっても、事前に得られた測定データや規定の値(理論値や標準的な値等)であってもよい。また、特定制御部11は、各物質について、そのCT値比の分布領域に基づく直線や、その座標の分布領域に基づく直線を求めてもよい。このようにして、直線M1、M2により挟まれた特定領域と、直線L6a、L6bにより挟まれた特定領域とが得られる(S24、S25)。
【0136】
続いて、特定制御部11は、軟骨及び軟組織のそれぞれのCT値比の分布領域K2、K3が、直線M1、M2により挟まれた特定領域に含まれているか判断する(S26)。この処理は、分布領域K2、K3自体が当該特定領域に含まれているか判断するものでもよいし、上記で直線を求めた場合にはその直線が当該特定領域に含まれているか判断するものでもよい。
【0137】
なお、前者の場合、分布領域K2、K3の全体が当該特定領域に含まれているか判断するようにしてもよいし、分布領域K2、K3の所定割合が当該特定領域に含まれているか判断するようにしてもよい。
【0138】
また、後者の場合、直線の長さによっては少しの傾きの違いでも直線が当該特定領域からはみ出すことが考えられる。その場合、直線の長さの範囲をあらかじめ決めておき、その範囲内において直線が当該特定領域に含まれているときに、この直線は当該特定領域に含まれていると判断するようにしてもよい。
【0139】
続いて、特定制御部11は、軟骨及び軟組織のそれぞれの座標の分布領域N2、N3が、直線L6a、L6bにより挟まれた特定領域に含まれているか判断する(S27)。この処理は、CT値比の場合と同様に実行できる。
【0140】
次に、特定制御部11は、CT値比の分布領域K2、K3が特定領域に含まれているかの判断結果と、座標の分布領域N2、N3が特定領域に含まれているか判断結果とに基づいて、尿酸、軟骨及び軟組織の判別を行う。
【0141】
その具体例として、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれており(S28:Yes)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれている(S29:Yes)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は尿酸であると判断する(S30)。
【0142】
また、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれており(S28:Yes)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれていない(S29:No)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は軟組織であると判断する(S31)。
【0143】
また、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれておらず(S28:No)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれている(S32:Yes)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は軟骨であると判断する(S33)。
【0144】
また、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれておらず(S28:No)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれていない(S32:No)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は尿酸でも軟骨でも軟組織でもないと判断する。以上で、この処理例の説明は終了となる。
【0145】
次に、特定画像形成部10について説明する。特定画像形成部10は、実効原子番号画像、密度画像、及び単色X線画像のうちの少なくとも1つ(特定画像と呼ぶことがある)を形成する。この処理は、第1の実施形態で説明した線形結合(式(3))における係数c1及びc2に基づいて形成される、各基準物質の分布を表す画像(基準物質画像)を、特許文献1に記載された方法で組み合わせることにより実行されるものである。
【0146】
なお、実効原子番号画像は、対象物における実効原子番号の分布を表す画像である。また、密度画像は、対象物質における物質の密度の分布を表す画像である。また、単色X線画像は、単一のエネルギーを有するX線で対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する画像である。これら画像を形成可能な特定画像形成部10は、「形成部」の一例として機能する。
【0147】
この実施形態の物質特定部43は、第1の実施形態で説明した処理で得られた複数の対象物質のそれぞれについての特定結果と、これら対象物質のそれぞれについて特定画像形成部10により形成された実効原子番号画像、密度画像、及び/又は単色X線画像に基づいて、これら対象物質の種別をそれぞれ特定することが可能である。なお、第1の実施形態で説明した処理は、複数の物質についてあらかじめ得られた座標系における複数の座標と、対象物質について物質特定部43により決定された座標とに基づいて、対象物質の種別を特定するものである。
【0148】
この実施形態のX線CT装置によれば、第1の実施形態の効果を得ることができるとともに、第1の実施形態と同様の座標系における各物質の座標の分布状態と、各物質のCT値比の分布状態の双方に基づいて、物質の種別を特定することができる。したがって、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。
【0149】
また、この実施形態のX線CT装置によれば、実効原子番号画像、密度画像、及び/又は単色X線画像を形成することができるので、物質の分布状態を視覚的に把握することが可能である。また、座標系を用いた物質特定処理とこれら画像を用いた物質特定処理を併用することにより、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。
【0150】
〈変形例〉
上記実施形態の変形例を説明する。
【0151】
第1の変形例を説明する。対象物質に未知の成分が含まれている場合、図5に示す線分Liのような直線的な相関関係が得られず、領域B等を適当に決定し難いことがある。たとえば図15Aに示すように、3つの対象物質について、3つの座標V1、V2、V3が得られたものとする。これら座標V1、V2、V3は、同一の直線上に位置しない。その場合、この座標系と、座標V1、V2、V3を表示部に表示させる。ユーザは、表示された座標系及び座標V1、V2、V3を参照し、操作部を用いて当該座標系内に領域を任意に設定する。このとき、たとえば図15Bに示すように、座標V1、V2、V3を含むように領域Wが設定される。
【0152】
領域Wは、対象物の未知の成分などに起因する誤差を反映した造影剤の濃度の座標の分布範囲として用いられる。領域Wにおいて座標(c1,c2)=(1,0)と座標(c1,c2)=(0,1)とを結ぶ線分(図5の線分L1に相当する)上にない座標に対しては、当該線分に基づいて濃度の値が対応付けられる。この対応付けは、たとえば図5に示す場合と同様にして行われる。物質特定部43は、たとえば図5に示す場合と同様の手法により、決定された対象物質の座標と、領域Wとの位置関係に基づいて、この対象物質の種別を特定する。
【0153】
この変形例によれば、対象物質に未知の成分が含まれている等の誤差要因が介在する場合であっても、ユーザの判断によって物質の特定を高い精度で行うことができる。
【0154】
第2の変形例を説明する。上記実施形態では、エネルギーが異なる2つのX線を用いるデュアル・エナジー・CTの手法が適用されているが、実施形態はこれに限定されるものではない。
【0155】
たとえば、エネルギーが異なる3以上のX線を用いてスキャンを行うことが可能なX線CT装置においては、生成部は、エネルギーが異なるN(3以上)のX線でそれぞれ対象物をスキャンしてN個の投影データを生成する。変換部は、これらN個の投影データを、N個の基準物質に対応するN個の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換したN個の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、N個の基準物質に対応するN個の基準物質画像を形成する。特定部は、N個の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【0156】
この場合に実行される処理においては、上記実施形態では2つである線形結合の基底の個数がN個となり、上記実施形態では2次元である座標系の次元がN次元となる。つまり、エネルギーが異なるX線の数が2である場合と3以上である場合との間に、実質的な相違はない。よって、上記実施形態は、エネルギーが異なる複数(2以上)のX線を用いる場合として、次のように一般化できる。
【0157】
実施形態に係るX線CT装置は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて、対象物内の画像を表示する装置であって、生成部と、変換部と、画像形成部と、特定部とを有する。生成部は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換部は、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定部は、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【0158】
このようなX線CT装置によれば、上記実施形態と同様に、対象物に含まれる物質を高い精度で特定することが可能である。更に、エネルギーが異なる3以上のX線を用いることで、2つのX線を用いる上記実施形態よりも高い精度での物質特定が可能となる。
【0159】
上記実施形態で説明した任意の構成や処理についても同様の一般化を行うことができる。その場合、上記実施形態と同様の効果が得られるとともに、物質特定の精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0160】
〈物質特定方法〉
実施形態に係る物質特定方法は、たとえば上記実施形態に係るX線CT装置により実行される。実施形態の物質特定方法は、生成ステップと、変換ステップと、画像形成ステップと、特定ステップを含む。生成ステップでは、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換ステップでは、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成ステップでは、変換ステップで変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定ステップでは、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【0161】
特定ステップは、複数の基準物質画像における対応する画素の値が、予め設定された相関を有するかを判定することにより、対象物質を特定するものであってよい。
【0162】
変換ステップは、基準物質に対応するX線減弱係数を含む計算式を用いて、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換するものであってよい。
【0163】
特定ステップにより特定された対象物質の領域を識別可能にした対象物内の画像を生成する表示画像生成ステップを更に含んでいてもよい。
【0164】
特定ステップにより特定された対象物質の領域の画素を、他の領域の画素に比べて、強調または抑制した表示画像を生成する表示画像生成ステップを更に含んでいてもよい。
【0165】
予め記憶された計算式に基づいて、複数の基準物質画像における対応する画素の値から、対象物質の濃度情報を求める濃度算出ステップを更に含んでいてもよい。
【0166】
濃度情報を表した表示画像を生成する表示画像生成ステップを更に含んでいてもよい。
【0167】
画像形成ステップにおいて、複数の投影データを再構成して得られた複数のエネルギー画像を生成し、かつ、特定ステップにおいて、複数のエネルギー画像の複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定してもよい。
【0168】
基準物質画像に基づいて、対象物における実効原子番号の分布を表す実効原子番号画像、対象物質における物質の密度の分布を表す密度画像、及び、単一のエネルギーを有するX線で対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する単色X線画像のうちの少なくとも1つを形成する形成ステップを更に含み、かつ、特定ステップにおいて、形成ステップで形成された画像に基づいて、対象物質の特定を行ってもよい。
【0169】
このような物質特定方法によれば、第1の実施形態と同様に、CT値比が近い物質であっても座標を参照することにより高い精度での識別が可能である。また、対象物質を構成する物質の成分比を求めることや、2つ以上の対象物質がそれぞれ同種であるか異種であるかを判別することができる。また、第1の実施形態のようにノイズの影響を考慮した物質特定方法を適用することにより、より高精度、高確度での物質の特定、成分比の特定、対象物質の分離などが可能となる。
【0170】
また、実施形態に係る物質特定方法によれば、第2の実施形態と同様に、上記効果に加えて、強調画像や抑制画像を形成し表示することができる。また、物質の濃度を視覚的に表現することができるので、濃度の直感的な理解が可能となる。
【0171】
また、実施形態に係る物質特定方法によれば、第3の実施形態と同様に、上記効果に加えて、各物質の座標の分布状態と各物質のCT値比の分布状態の双方に基づいて、物質の種別を特定することにより、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。また、実効原子番号画像、密度画像、及び/又は単色X線画像を形成することができるので、物質の分布状態を視覚的に把握することが可能である。また、座標系を用いた物質特定処理とこれら画像を用いた物質特定処理を併用することにより、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。
【0172】
〈画像処理装置〉
実施形態に係る画像処理装置について説明する。実施形態に係る画像処理装置の構成例を図16に示す。画像処理装置100は、院内LAN等のネットワークを介して画像保管装置300に接続されている。画像保管装置300は、X線CT装置200により形成された画像を記憶している。
【0173】
X線CT装置200は、たとえば第1の実施形態のX線CT装置(図1参照)から物質特定部43を除いた構成を有する。つまり、X線CT装置200は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて、前記対象物内の画像を表示する装置であって、次の機能を有する:エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する生成機能;複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する変換機能;変換機能で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する画像形成機能。X線CT装置200は、形成された複数の基準物質画像を、院内LAN等のネットワークを介して画像保管装置300に送る。画像保管装置300は、たとえば、画像保存通信システム(Picture Archiving and Communication Systems;PACS)である。
【0174】
画像処理装置100は、X線CT装置200により形成されて画像保管装置300に記憶された画像を処理する。なお、他のルートを経由して画像処理装置100に画像を入力することも可能である。他のルートの例として、画像が記憶されたDVD等の記録媒体がある。
【0175】
画像処理装置100は、外部から画像を取得する処理を行う画像取得部101を有する。画像保管装置300に記憶された画像を取得する場合、画像取得部101は、ネットワークを介して画像保管装置300と通信する通信部を含む。更に、画像取得部101は、たとえば、取得する画像を選択するためのユーザインターフェイス(表示部、操作部等)と、選択された画像を取得するための信号を生成し、通信部を制御してこの信号を画像保管装置300に送信させる通信制御部を含む。記録媒体を介して画像を取得する場合、画像取得部101は、この記録媒体に記録された情報を読み取り可能な読み取り部(ドライブ装置等)を含む。
【0176】
画像取得部101により取得された画像は、記憶部102に記憶される。記憶部102は、ハードディスクドライブ等の記憶装置を含んで構成される。この実施形態では、X線CT装置200が上記の要領で形成した画像が記憶部102に記憶される。この画像は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして生成された複数の投影データを、複数の基準物質に基づき変換して得られた複数の新たな投影データを、それぞれ再構成することで形成された、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像である。
【0177】
物質特定部103は、記憶部102に記憶された複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。この処理は、たとえば第1の実施形態の物質特定部43と同様にして実行される。物質特定部103は「特定部」の一例として機能する。
【0178】
画像処理装置100が表示部を有する場合、物質特定部103による処理結果が表示部に表示される。また、画像処理装置100がたとえばネットワーク上のサーバである場合、画像処理装置100は、物質特定部103による処理結果を、ネットワークを介して所定のユーザ端末に送信する機能(送信部)を有する。また、画像処理装置100は、物質特定部103による処理結果を記録媒体に記録する記録部(ドライブ装置等)を有していてもよい。
【0179】
このような画像処理装置100によれば、対象物に含まれる物質を高い精度で特定することが可能である。なお、画像処理装置100は、上記実施形態に係るX線CT装置の任意の機能を有していてもよい。以下のいずれかの構成が適用される場合、上記実施形態において説明した、当該構成に対応する作用及び効果が奏される。
【0180】
たとえば、物質特定部103は、複数の基準物質画像における対応する画素の値が、予め設定された相関を有するかを判定することにより、対象物質を特定するものであってよい。
【0181】
また、画像処理装置100は、物質特定部103により特定された対象物質の領域を識別可能にした対象物内の画像を生成する表示画像生成部を備えていてもよい。
【0182】
また、画像処理装置100は、物質特定部103により特定された対象物質の領域の画素を、他の領域の画素に比べて、強調または抑制した表示画像を生成する表示画像生成部を備えていてもよい。
【0183】
また、画像処理装置100は、予め記憶された計算式に基づいて、複数の基準物質画像における対応する画素の値から、対象物質の濃度情報を求める濃度算出部を備えていてもよい。これに加え、画像処理装置100は、濃度情報を表した表示画像を生成する表示画像生成部を備えていてもよい。
【0184】
また、物質特定部103は、複数のエネルギー画像の複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定するものであってよい。
【0185】
また、画像処理装置100は、基準物質画像に基づいて、対象物における実効原子番号の分布を表す実効原子番号画像、対象物質における物質の密度の分布を表す密度画像、及び、単一のエネルギーを有するX線で対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する単色X線画像のうちの少なくとも1つを形成する形成部を更に備え、かつ、物質特定部103が、形成部により形成された画像に基づいて対象物質の特定を行うように構成されていてもよい。
【0186】
〈プログラム及び記憶媒体〉
上記実施形態で説明した処理を、X線CT装置又はこれに含まれるコンピュータに実行させるためのプログラムを構成することができる。また、上記実施形態で説明した処理を、画像処理装置(コンピュータ)に実行させるためのプログラムを、たとえばDVD等の記憶媒体に記憶させることができる。また、インターネットやLAN等のネットワークを介して、これらプログラムのいずれかを送信するシステムを構築することができる。
【0187】
この発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0188】
1 ガントリ
2 前処理部
3 再構成処理部
4 データ処理部
41 投影データ変換部
42 画像形成部
43 物質特定部
5 制御部
6 表示部
7 操作部
8 画素値比算出部
9 物質特定部
10 特定画像形成部
11 特定制御部
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、X線CT装置、画像処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)は、対象物をX線ビームでスキャンして得られた投影データを再構成することにより、対象物の情報を表す画像を形成する技術である。
【0003】
X線CTの応用として、対象物に含まれる物質の種別を特定する技術がある。この技術においては、単一の管電圧によるX線ビームで得られた画像を基に物質を判別することは難しいため、異なる2つの管電圧によるエネルギーの異なる2つのX線ビームでそれぞれスキャンを行う手法が近年注目を集めている。この手法は「デュアル・エナジー・CT(Dual Energy CT)」と呼ばれる。
【0004】
非特許文献1には、異なる2つの管電圧を適用して2つの画像を形成し、これら画像のCT値の比を用いて物質を特定する技術が記載されている。なお、非特許文献1に記載された全ての事項は、この明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0005】
また、特許文献1には、異なる2つの管電圧を適用して得られた各投影データに示す線減弱係数を、2つの基準物質(たとえば水と骨)の線減弱係数の線形結合として表現することにより、各基準物質の分布を表す画像(基準物質画像)を形成する技術が記載されている。更に、特許文献1には、これら基準物質画像を組み合わせることにより、実効原子番号画像、密度画像及び単色X線画像を形成する手法も記載されている。なお、特許文献1に記載された全ての事項は、この明細書の一部を構成するものとして援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−261942号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Johnson TR. et al.、“Material differentiation by dual energy CT:initial experience”、Eur Radiol(2007)、17、1510−1517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CT値が管電圧に依存し、その結果CT値の比が管電圧の組み合わせに依存することを考慮すると、従来のデュアル・エナジー・CTにおいては、CT値比が近い物質を高い精度で判別することは困難であった。
【0009】
また、従来のデュアル・エナジー・CTにおいては、基準物質画像に基づいてその基準物質の含有量が多いか少ないかを把握することは可能であるが、その物質の種別を特定することは困難であった。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、対象物に含まれる物質を高い精度で特定することが可能なX線CT装置、画像処理装置及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態のX線CT装置は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて対象物内の画像を表示するものであり、生成部と、変換部と、画像形成部と、特定部とを有する。生成部は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換部は、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定部は、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係るX線CT装置の概略構成の一例を表すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図3】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図4】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図5】第1の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するためのグラフである。
【図6】第1の実施形態に係るX線CT装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態に係るX線CT装置の概略構成の一例を表すブロック図である。
【図8】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図9A】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図9B】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図9C】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図10】第2の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表す概略図である。
【図11】第3の実施形態に係るX線CT装置が表示する画像の一例を表すブロック図である。
【図12】第3の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するための概略図である。
【図13】第3の実施形態に係るX線CT装置が実行する処理を説明するための概略図である。
【図14】第3の実施形態に係るX線CT装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【図15A】X線CT装置の変形例を説明するための概略図である。
【図15B】X線CT装置の変形例を説明するための概略図である。
【図16】実施形態に係る画像処理装置の概略構成の一例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係るX線CT装置、画像処理装置及びプログラムについて図面を参照しつつ説明する。以下の実施形態では被検体(患者)を対象物とするが、対象物はこれに限定されるものではない。
【0014】
〈第1の実施形態〉
[構成]
この実施形態のX線CT装置の概略構成を図1に示す。このX線CT装置は、ガントリ1と、前処理部2と、再構成処理部3と、データ処理部4とを有する。なお、図示は省略するが、この実施形態のX線CT装置には、一般的なものと同様に、寝台、コンソール、高電圧発生装置などが設けられている。
【0015】
〔ガントリ1〕
ガントリ1は、被検体をX線でスキャンするために用いられる。ガントリ1には、一般的なものと同様に、互いに対向配置されたX線管及びX線検出器、これらを回転させる回転機構、スリップリング機構、傾斜(チルト)機構、データ収集部(Data Acqusition System:DAS)などが設けられている。ガントリ1は、X線管及びX線検出器を回転させつつ被検体をX線でスキャンする。X線検出器による検出データは、データ収集部によって収集され、前処理部2に送られる。
【0016】
ガントリ1は、特に、エネルギーの異なる2つのX線ビームでそれぞれスキャンを行う手法、つまりデュアル・エナジー・CTを実施することができる。X線のエネルギーは、高電圧発生装置がX線管に印加する電圧(管電圧)に依存する。デュアル・エナジー・CTの手法としては、Slow−kV Switching方式や、Dual Source方式や、Fast−kV Switching方式などがある。Slow−kV Switching方式とは、第1の管電圧でスキャンを行った後に、第2の管電圧でスキャンを行う方式(2回転方式)である。Dual Source方式とは、X線管を2つ備えたガントリを用い、これらX線管に異なる管電圧を印加してスキャンを行う方式(2管球方式)である。Fast−kV Switching方式とは、X線管及びX線検出器を回転させながらビューごとに管電圧を切り替える方式(高速スイッチ方式)である。
【0017】
〔前処理部2〕
前処理部2は、ガントリ1から送られた検出データに対して所定の前処理(画像再構成処理の前に行われる処理)を施す。この前処理としては、データの対数を計算する処理、リファレンス補正、水補正、ビームハードニング補正、体動補正などがある。前処理部2により生成されるデータは投影データと呼ばれる。前処理部2により生成された投影データは、再構成処理部3やデータ処理部4に送られる。ガントリ1及び前処理部2は「生成部」の一例として機能する。
【0018】
〔再構成処理部3〕
再構成処理部3は、前処理部2により生成された投影データに対して再構成処理を施すことにより、被検体の画像データを生成する。再構成処理は、投影データから被検体のX線吸収係数の分布を逆算する演算処理である。この演算処理としては、2次元フーリエ変換法、コンボリューション・バックプロジェクション法、ファンビーム・コンボリューション・バックプロジェクション法などがある。
【0019】
また、再構成処理部3は、データ処理部4により得られた投影データに再構成処理を施して画像データを生成するように構成されていてもよい。この処理については後述する。
【0020】
〔データ処理部〕
データ処理部4は、前処理部2により生成された投影データに対して所定のデータ処理を施すことにより、被検体に含まれる物質の種別を特定する。
【0021】
データ処理部4には、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とが設けられている。なお、投影データ変換部41は「変換部」の一例として、画像形成部42は「画像形成部」の一例として、そして物質特定部43は「特定部」の一例として、それぞれ機能する。
【0022】
(投影データ変換部41)
投影データ変換部41は、デュアル・エナジー・CTの手法により得られた第1及び第2の投影データを、あらかじめ決められた2つの基準物質に対応する2つの投影データに変換する。この処理の一例として、投影データ変換部41は、特許文献1に記載された手法を用いて、第1及び第2の投影データのそれぞれを、2つの基準物質に対応するあらかじめ決められた2つの基準値と、当該2つの投影データとからなる線形結合として表現する。つまり、この線形結合における2つの係数が、目的の2つの投影データとなる。この処理例の詳細については後述する。
【0023】
(画像形成部42)
画像形成部42は、投影データ変換部41により得られた2つの投影データをそれぞれ再構成することにより、2つの基準物質に対応する2つの基準物質画像を形成する。基準物質画像は、対象物内における線減弱係数の分布を表す。線減弱係数とは、入射X線が単一厚さの物質を通過するときに減衰するエネルギーの割合を示す。この再構成処理により得られる情報は、2つの基準値の係数がと2つの基準物質画像とからなる線形結合画像である。つまり、この線形結合画像における2つの係数が、目的の2つの基準物質画像(再構成画像)となる。
【0024】
この再構成処理は、再構成処理部3と同様の要領で行われる。なお、画像形成部42の代わりに再構成処理部3が当該再構成処理を行うようにしてもよい。その場合、画像形成部42は不要である。画像形成部42又は再構成処理部3が実行する処理の例の詳細については後述する。
【0025】
なお、2つの基準値は、投影データの線減弱係数を線形結合として表すために用いられる。2つの基準値は、2つの基準物質の線減弱係数であってよい。また、2つの基準値は任意の値であってもよい。
【0026】
(処理例)
上記の処理例として、特許文献1に記載された手法を説明する。前処理部2により生成された第1の投影データ(高エネルギー側)をgHで表し、第2の投影データ(低エネルギー側)をgLで表す。投影データ変換部41は、これら投影データgH、gLに対して次式(1)に示す変換を施すことで、2つの投影データL1、L2を生成する。
【0027】
【数1】
【0028】
ただし:
Dは、次式(2)の右辺の2×2行列の行列式;
〈μ〉1,2H,Lは、特許文献1に記載されたエネルギー平均化線減弱係数;
をそれぞれ示す。
【0029】
【数2】
【0030】
画像形成部42は、式(2)に示す2つの投影データL1、L2をそれぞれ再構成することにより、2つの基準物質に対応する2つの基準物質画像(次式(3)のc1、c2)を形成する。任意の物質の線減弱係数μは、次式(3)に示すように、2つの基準値μ1、μ2と、2つの基準物質画像c1、c2とを用いた線形結合(線形結合画像)として表現される。
【0031】
【数3】
【0032】
ただし:
Eは、X線のエネルギー;
μ1(E)は、エネルギーEにおける第1の基準物質の線減弱係数(基準値);
μ2(E)は、エネルギーEにおける第2の基準物質の線減弱係数(基準値);
c1(E,x,y)は、座標(x,y)に位置する画素における第1の基準物質の存在率;
c2(E,x,y)は、座標(x,y)に位置する画素における第2の基準物質の存在率;
をそれぞれ示す。
【0033】
基準物質画像(存在率)c1及びc2は、任意の物質の線減弱係数μを2つの基準物質の線減弱係数μ1及びμ2の関数として表したときの係数であり、この任意の物質が各基準物質にどれだけ類似しているかを示す指標である。
【0034】
以下、第1の基準物質が造影剤(ヨウ素濃度50[mgI/ml])であり、第2の基準物質が水である場合を例として特に説明する。
【0035】
(物質特定部43)
物質特定部43は、画像形成部42により形成された2つの基準物質画像の相関に基づいて対象物質の種別を特定する。なお、対象物質とは、この実施形態において種別の特定処理の対象とされる物質を示す。上記処理例を適用する場合、物質特定部43は、まず、所定の対象物質について、2つの基準値μ1及びμ2に基づきあらかじめ決められた座標系における、2つの基準物質画像c1及びc2に対応する座標を決定する。更に、物質特定部43は、所定の複数の物質についてあらかじめ得られた上記座標系における複数の座標と、前段の処理で決定された2つの基準物質画像c1及びc2に対応する座標とに基づいて、対象物質の種別を特定する。
【0036】
上記座標系については、任意にこれを設定することが可能である。その一例として、図2に示すような、2つの存在率c1及びc2を基底とする2次元座標系を適用できる。この座標系は、第1の基準物質としての造影剤の存在率c1を縦軸とし、第2の基準物質としての水の存在率c2を横軸としたものである。
【0037】
この座標系における座標については、縦軸の座標、横軸の座標の順で記載する。すなわち、この座標系における座標は(c1,c2)と記載される。縦軸における基準の座標P(1,0)、つまり縦軸方向における基底として、造影剤の存在率c1が100%に相当するベクトルを適用する。また、横軸における基準の座標Q(0,1)、つまり横軸方向における基底として、水の存在率c2が100%に相当するベクトルを適用する。
【0038】
物質特定部43は、画像形成部42により得られた線形結合画像における基準物質画像の組(c1,c2)を、この座標系の座標として扱う。
【0039】
なお、本例では、基準物質画像の組と座標とが同じ表現となるように座標系(基底)を設定しているが、これに限定されるものではない。たとえば、c1やc2に係数を掛けることにより、座標軸が伸縮された座標系を適用することができる。また、本例では、縦軸にc1を割り当て、横軸にc2を割り当てているが、これを逆にしてもよい。更に、本例のような直交座標系に代えて、斜交座標系等の他の座標系を用いることも可能である。すなわち、この実施形態における座標系は、線形結合画像における2つの基準物質画像の相関を表すことができるものであれば十分であり、その具体的な態様は任意である。
【0040】
物質特定部43による処理に供される上記「複数の物質」は、任意の物質でよい。また、その個数も任意である。図2に示す例では、造影剤と水が複数の物質に相当する。本例では、「複数の物質」と、基底の生成に用いられる物質とが同じであるが、これには限定されない。その一例として、造影剤と水の2つの物質を「基準物質」とし、造影剤、水、炭酸カルシウム、脂肪及び尿酸の5つの物質を「複数の物質」として適用する場合を後述する。
【0041】
複数の物質に対応する座標の取得方法についても任意である。その例として、その物質の測定を実際に行って座標を求める方法や、他の物質の線減弱係数をも考慮して座標を算出する方法などがある。
【0042】
前者の方法は、たとえば、その物質をX線でスキャンして投影データを生成し、これに基づく画素毎の線減弱係数を線形結合として表現し、その係数の組に対応する座標を決定することにより行われる。
【0043】
後者の方法について説明する。各物質の線減弱係数は既知であるから、異なる2つのエネルギーに対応する線減弱係数を上記の式(3)にそれぞれ代入することで、次の連立方程式(4a)、(4b)が得られる。
【0044】
【数4】
【0045】
ただし:
ELow、EHighは、2種類のX線エネルギー;
μ(ELow)は、低い側のエネルギーELowにおける当該物質の線減弱係数;
μ(EHigh)は、高い側のエネルギーEHighにおける当該物質の線減弱係数;
をそれぞれ示す。
【0046】
この連立方程式(4a)、(4b)において未知数はc1とc2の2つであるから、これを解くことにより、係数の組c1、c2を算出できる。そして、この係数の組に基づいて目的の座標が得られる。
【0047】
物質特定部43は、このようにして取得された複数の物質についての複数の座標と、対象物質について物質特定部43により決定された座標とに基づいて、この対象物質の種別を特定する。この処理の一例として、物質特定部43は、(1)当該複数の座標に基づく座標系内の領域を求め、(2)この領域に対する対象物質の座標の位置に基づいて、対象物質の種別を特定する。以下、座標系内の領域として、複数の座標を結ぶグラフを用いる場合を説明する。ここで、特に必要な場合を除き、(1)で得られる領域(グラフ等)を実際に表示させる必要はない。以下の説明では、実施形態の理解を支援するために、表示されたグラフを用いているに過ぎない。それ以降に説明される座標系内の領域についても同様である。なお、座標系内の領域は当該座標系における座標の集合に相当し、グラフはこの領域自体やその外周線に位置する座標の集合に相当する。
【0048】
座標系内の領域としてのグラフを求める処理について説明する。図2に示す例では、上記複数の座標として、造影剤の座標と水の座標が適用されている。物質特定部43は、目的のグラフとして、これら座標を結ぶ線分L1を求める。
【0049】
一般に、線分の式は、2つの座標に基づいてこれらを通る直線の式(つまり傾きと切片)を算出し、この直線のうち当該2つの座標を両端とする部分を抽出することにより得られる。3つ以上の座標を考慮して2つ以上の線分を求める場合には、任意の2つの座標の組み合わせに対して同様の演算を行えばよい。
【0050】
さて、線分L1上の座標は、造影剤のヨウ素濃度に対応している。たとえば、線分L1上の座標P1、P2、P3、P4、P5は、ヨウ素濃度25[mgI/ml]、20[mgI/ml]、15[mgI/ml]、10[mgI/ml]、5[mgI/ml]にそれぞれ対応している。また、前述のように、座標Pは50[mgI/ml]に対応し、座標Qは0[mgI/ml](単なる水)に対応している。つまり、線分L1上において座標Pに近づくとヨウ素濃度が増加し、座標Qに近づくとヨウ素濃度が減少する。
【0051】
このように、複数の物質の1つとして水を採用することで、物質の濃度をグラフとして表すことができる。たとえば造影剤、水、炭酸カルシウム、脂肪及び尿酸の5つの物質が採用される場合におけるグラフの例を図3に示す。
【0052】
図3には、造影剤の座標Pと、水の座標Qと、炭酸カルシウムの座標Rと、脂肪の座標Sと、尿酸の座標Tが示されている。また、座標Pと座標Qとを結ぶ線分L1は造影剤のヨウ素濃度に相当し、座標Rと座標Qとを結ぶ線分L2は炭酸カルシウムの濃度に相当し、座標Sと座標Qとを結ぶ線分L3は脂肪の濃度に相当し、座標Tと座標Qとを結ぶ線分L4は尿酸の濃度に相当する。各線分L1〜L4において、座標Qに近づくほど濃度が低くなり、座標Qから遠ざかるほど濃度が高くなる。
【0053】
また、図3から分かるように、4つの線分L1〜L4は、互いに座標Qでのみ交差している。これは、濃度0(単なる水)に相当する座標Qを除いて、線分L1〜L4が互いに分離されていること、つまり4つの物質(造影剤、炭酸カルシウム、脂肪及び尿酸)に対応する座標が当該座標系において互いに分離されていることを示している。換言すると、当該座標系における線分の位置が異なれば、それに対応する物質も異なるということになる。
【0054】
このようなグラフを利用することにより、物質特定部43は、物質特定部43により決定された対象物質の座標とグラフとの位置関係に基づいて、この対象物質の種別を特定する。
【0055】
図3に示す線分L1〜L4をグラフとして利用する場合を例として説明すると、物質特定部43は、まず、対象物質の座標がこれら線分L1〜L4のいずれかの上に位置するか判断する。
【0056】
対象物質の座標が線分Li(i=1〜4のいずれか)上に位置すると判断された場合、物質特定部43は、この線分Liにおける当該座標の位置に基づいて、対象物質の種別を特定する。この種別には、対象物質の物質名だけでなく、その濃度(つまり対象物質と水との成分比)も含まれる。
【0057】
なお、物質名だけを特定するように構成することも可能である。その場合には、対象物質の座標が位置している線分Liを特定するだけでよい。
【0058】
一方、対象物質の座標がどの線分L1〜L4上にも位置しないと判断された場合、物質特定部43は、この対象物質はこれら線分L1〜L4に相当する物質のいずれにも該当しないとの結果を得る。
【0059】
3つ以上の基準物質について座標が得られている場合、座標系内の領域として、これら座標を結んでなる多角形を形成することができる。この多角形により規定される領域は、これら基準物質の混合物に相当する。なお、この混合物とは、各基準物質の成分比を0〜100%とし、全基準物質の成分比の和を100%とした場合に定義される物質を意味する。よって、この混合物には、3つ以上の基準物質のうちの1つ又は2つのみを成分とするものも含まれる。1つの基準物質のみを成分とするものは多角形の頂点に相当し、2つの基準物質のみを成分とするものは多角形の辺に相当する。
【0060】
3つ以上の基準物質を用いる場合の例として、造影剤と水と炭酸カルシウムの3つを基準物質とする場合について説明する。この場合、図4に示すように、造影剤、水、炭酸カルシウムに相当する座標P、Q、Rを頂点とする多角形(三角形)Aが得られる。多角形Aの辺PQ(線分L1)及びQR(線分L2)に相当する領域は、それぞれ前述のように造影剤の濃度及び炭酸カルシウムの濃度を表す。また、辺PR(線分L5)に相当する領域は、造影剤と炭酸カルシウムとの混合物における造影剤と炭酸カルシウムとの成分比を表す。辺PRにおいて、頂点Pに近づくほど造影剤の成分比が増大し、頂点Rに近づくほど炭酸カルシウムの成分比が増大する。
【0061】
また、多角形Aの内部領域、つまり多角形A上の領域から線分L1、L2、L5を除いた領域は、これら3つの基準物質全ての混合物に相当する。この内部領域中の座標についても、頂点Pに近づくほど造影剤の成分比が増大し、頂点Rに近づくほど炭酸カルシウムの成分比が増大する。そして、水に相当する頂点Qに近づくほど当該混合物の濃度が減少する。
【0062】
物質特定部43は、決定された対象物質の座標が多角形上に位置するか否か判断する。当該座標が多角形の外部に位置すると判断された場合、物質特定部43は、この対象物質は当該多角形に対応する混合物ではないと判断する。
【0063】
一方、当該座標が多角形上に位置すると判断された場合、物質特定部43は、この対象物質は当該混合物であると判断する。更に、物質特定部43は、この対象物質の座標の位置に基づいて、この対象物質を構成する3つ以上の基準物質の成分比を求める。
【0064】
なお、以上の例では、X線CT装置の測定誤差を考慮していないため、各物質に相当する座標が一意に決定されると仮定している。この測定誤差は、装置の機差(公差等)やノイズの混入などに起因する。以下、測定誤差を考慮する場合における処理について説明する。なお、測定誤差が十分に小さい場合などこれを許容できる場合には、上記の処理を適用すればよい。
【0065】
測定誤差を考慮する場合の一例について説明する。まず、様々な物質に対して繰り返し測定を行うことにより、各物質についての座標の分布を取得する。この分布情報は、たとえば、このX線CT装置により得られる投影データに混入するノイズの標準偏差情報である。この分布情報は物質特定部43に記憶される。
【0066】
造影剤、水及び炭酸カルシウムのそれぞれについての座標の分布の例を図5に示す。造影剤についての座標の分布範囲をPa、水についての座標の分布範囲をQa、炭酸カルシウムについての座標の分布範囲をRaでそれぞれ示す。
【0067】
物質特定部43は、標準偏差情報に基づいて、当該物質に対応するグラフを含む2次元領域を求める。この処理の一例を説明する。まず、物質特定部43は、分布範囲Paと分布範囲Qaとを結ぶ2本の線分L1a、L1bを求める。線分L1a、L1bとしては、たとえば、分布範囲Pa、Qaの双方に接し、かつ互いに交差しないものが用いられる。それにより、分布範囲Pa、Qa及び線分L1a、L1bで囲まれた領域Bが得られる。同様にして、分布範囲Ra、Qa及び線分L2a、L2bで囲まれた領域Cが得られる。
【0068】
領域Bは、測定誤差を反映した造影剤の濃度の座標の分布範囲として用いられる。領域Bにおいて線分L1上にない座標には、線分L1に基づいて濃度の値が対応付けられる。この対応付けの例として、線分L1上の各位置において線分L1に直交する直線を求め、この直線上に位置する座標の濃度を等しく設定することができる。測定誤差を反映した炭酸カルシウムの濃度の分布範囲を示す領域Cについても同様に濃度が設定される。
【0069】
物質特定部43は、決定された対象物質の座標と、領域B、Cとの位置関係に基づいて、この対象物質の種別を特定する。たとえば、対象物質の座標が領域B上に位置する場合、物質特定部43は、この対象物質は造影剤であると特定し、更に、当該座標と、領域B上の座標に設定された濃度とに基づいて、この対象物質の濃度を特定する。
【0070】
[動作]
この実施形態に係るX線CT装置の動作について説明する。このX線CT装置の動作例を図6に示す。なお、装置各部の動作の詳細については上述したので、ここでは簡単な説明にとどめる。
【0071】
(S1)
まず、ガントリ1でデュアル・エナジー・CTによる撮影を行う。前処理部2は、ガントリ1により収集されたデータを投影データに変換する。それにより、エネルギーが異なる第1及び第2の投影データが生成される。第1及び第2の投影データは、データ処理部4に送られる。
【0072】
(S2)
投影データ変換部41は、ステップ1で生成された各投影データに基づく画素毎の線減弱係数を2つの基準物質の線減弱係数の線形結合として表現することにより、2つの基準物質による各投影データの分解を行う。このステップ2により、第1及び第2の投影データが、2つの基準物質に対応する2つの投影データに変換される。
【0073】
(S3)
更に、画像形成部42は、ステップ2で得られた線形結合を再構成することにより線形結合画像を形成する。これにより、2つの基準物質画像が得られる。
【0074】
(S4)
物質特定部43は、ステップ3で得られた2つの基準物質画像の相関を求める。上記の例では、2つの基準物質画像の各画素(x、y)について、所定の2次元座標系における対応する座標(c1(x、y)、c2(x、y))が得られる。
【0075】
(S5)
物質特定部43は、ステップ4で得られた相関に基づいて、対象物質を2つの基準物質に分解する。上記の例では、対象物質が造影剤と水などに分解される。
【0076】
(S6)
物質特定部43は、ステップ5での分解結果に基づいて対象物質の種別を特定する。この特定結果は、たとえば図示しないディスプレイに表示される。また、この特定結果は、X線CT装置の記憶デバイスやネットワーク上の記憶デバイスに記憶される。
【0077】
[作用・効果]
この実施形態に係るX線CT装置の作用と効果について説明する。
【0078】
このX線CT装置は、ガントリ1及び前処理部2により投影データを生成する。特に、デュアル・エナジー・CT、つまり、エネルギーが異なる第1及び第2のX線でそれぞれ対象物をスキャンすることで、第1及び第2の投影データが生成される。
【0079】
更に、このX線CT装置は、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とを有する。投影データ変換部41は、第1及び第2の投影データを、あらかじめ決められた2つの基準物質に対応する2つの投影データ(新たな投影データ)に変換する。画像形成部42は、2つの投影データをそれぞれ再構成することで、2つの基準物質に対応する2つの基準物質画像を形成する。物質特定部43は、2つの基準物質画像の相関に基づいて対象物質の種別を特定する。
【0080】
投影データ変換部41が、上記の変換処理として、第1及び第2の投影データのそれぞれを、2つの基準物質に対応するあらかじめ決められた2つの基準値と、2つの投影データとからなる線形結合として表現するように構成されていてもよい。
【0081】
また、画像形成部42が、この線形結合を再構成することにより、2つの基準値と2つの基準物質画像とからなる線形結合画像を形成するように構成されていてもよい。
【0082】
また、物質特定部43が、対象物質について、2つの基準値に基づきあらかじめ決められた座標系における2つの基準物質画像に対応する座標を決定し、かつ、複数の物質についてあらかじめ得られた座標系における複数の座標と、決定された座標とに基づいて、この対象物質の種別を特定するように構成されていてもよい。
【0083】
なお、第1及び第2のX線のそれぞれのエネルギーについて、2つの基準値は、あらかじめ決められた2つの基準物質の線減弱係数であってよい。更に、座標系は、2つの基準物質の線減弱係数に基づく2つの基底により張られる2次元座標系であってよい。
【0084】
また、物質特定部43が、複数の座標に基づく座標系内の領域に対する対象物質の座標の位置に基づいて対象物質の種別を特定するように構成されていてもよい。
【0085】
また、複数の物質が第1及び第2の物質を含む場合において、物質特定部43が、座標系における第1の物質の座標と第2の物質の座標とを結ぶ線分を当該座標系内の領域として求め、かつ、対象物質の座標がこの線分上に位置する場合、当該位置に基づいて第1の物質と第2の物質との成分比を求めるように構成されていてもよい。
【0086】
また、複数の物質が3つ以上の物質を含む場合において、物質特定部43が、座標系における3つ以上の物質の座標を結ぶ多角形を上記座標系内の領域として求め、対象物質の座標がこの多角形上に位置する場合、当該位置に基づいて3つ以上の物質の成分比を求めるように構成されていてもよい。
【0087】
ここで、上記の例では、3つ以上の物質の座標を考慮する場合における上記座標系内の領域は、多角形には限定されない。この場合における上記座標系内の領域は、一般に、3つ以上の物質の座標に基づく図形、つまりこれら座標を考慮して形成された任意の図形でよい。たとえば、3つ以上の物質の座標を通過又は内包する図形を上記座標系内の領域として用いることができる。この例では、図形の外周線が直線である必要はなく、また物質の座標が当該図形の外周線上にある必要もない。対象物質の座標が図形上に位置する場合、当該位置に基づいて3つ以上の物質の成分比が算出される。
【0088】
また、複数の物質のうちの1つが水である場合において、物質特定部43が、第1及び第2の対象物質について決定された第1及び第2の座標のそれぞれと、水の座標とを結ぶ2つの線分を座標系内の領域として求め、これら線分の位置関係に基づいて第1の対象物質と第2の対象物質とが同種であるか否か特定するように構成されていてもよい。
【0089】
また、物質特定部43が、投影データに混入するノイズの標準偏差情報をあらかじめ記憶し、この標準偏差情報に基づいて座標系内の領域を含む2次元領域を求め、この2次元領域に対する対象物質の座標の位置に基づいてこの対象物質の種別を特定するように構成されていてもよい。
【0090】
このようなX線CT装置によれば、対象物質の特性を所定の座標系における座標として表現し、この座標と複数の物質についての複数の座標とに基づいて対象物質の種別を特定することができる。したがって、CT値比が近い物質であっても座標を参照することにより高い精度での識別が可能である。
【0091】
また、上記座標系内の領域を用いる構成を適用することにより、対象物質を構成する物質の成分比を求めることができる。更に、上記座標系内の領域を参照することにより、2つ以上の対象物質がそれぞれ同種であるか異種であるかを判別することができる。
【0092】
また、ノイズの影響を考慮する構成を適用することにより、より高精度、高確度での物質の特定、成分比の特定、対象物質の分離などが可能となる。
【0093】
〈第2の実施形態〉
この実施形態のX線CT装置の概略構成を図7に示す。このX線CT装置は、第1の実施形態で説明した構成を含んでいる。このX線CT装置は、ガントリ1と、前処理部2と、再構成処理部3と、データ処理部4と、制御部5と、表示部6と、操作部7とを有する。データ処理部4には、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とが設けられている。第1の実施形態と同じ構成部分は、特に言及しない限り第1の実施形態と同様の機能を有する。
【0094】
基準物質の1つは水であるとする。また、物質特定部43は、第1の実施形態で説明したように、対象物質の座標と水の座標とを結ぶ線分を求める(図2等を参照)。この線分は、対象物質と水との混合物における成分比、つまり対象物質の濃度を表すものである。
【0095】
データ処理部4は、対象物(被検体等)の撮影領域の各位置について第1の実施形態の処理を適用することにより、撮影領域における対象物質の分布を求める。この分布情報は再構成処理部3に入力される。なお、分布情報には、撮影領域における対象物質の存在位置を示す情報と、濃度を示す情報とが含まれている。
【0096】
分布情報と投影データを受けた再構成処理部3は、投影データにおける対象物質の分布領域に対して再構成処理を施すことで、対象物質の分布(たとえば濃度の分布)を表す分布画像を形成する。この処理の一例として、再構成処理部3は、分布情報に示す対象物質の存在位置に基づいて、この存在位置に対応する画素を特定する。そして、再構成処理部3は、投影データに基づいて、特定された画素についてのみ画像を再構成する。他の処理として、再構成処理部3は、投影データに基づいて通常の再構成処理を行い、それにより得られた画像のうち上記存在位置に対応する画素のみを抽出する。これら手法により得られる再構成画像が上記の分布画像である。
【0097】
制御部5は、対象物質の濃度を表す線分上における位置の指定を受けて、この指定位置に応じた態様で分布画像を表示部6に表示させる。この処理について以下に説明する。
【0098】
このX線CT装置には、対象物質の濃度を変更するためのユーザインターフェイスが設けられている。このユーザインターフェイスは、ソフトウェアに基づいて表示部6に表示されるものであってもよいし、ハードウェアであってもよい。ハードウェアとしてはダイヤルやスライドレバーなどがある。ソフトウェアを用いる場合、たとえば、ダイヤルやスライドレバーを模した画像を表示部6に表示させ、これを操作部7で操作するように構成できる。
【0099】
ソフトウェアを用いる場合の具体例として、制御部5は、図2に示すグラフに基づいて、図8に示す画像を表示部6に表示させる。この画像は、図2に示す座標系と、線分画像Dと、スライダEとを含む。座標系の座標軸には、物質名を示す文字列「造影剤」、「水」が付されている。線分画像Dは、線分L1を示している。スライダEは、線分画像D上を移動可能とされている(図中の両側矢印を参照)。スライダEは、たとえば操作部7のマウスによるドラッグ操作によって移動される。
【0100】
ユーザは、スライダEを所望の位置に移動させることにより、造影剤の濃度の指定を行う。より具体的に説明すると、線分画像Dと線分L1とはあらかじめ対応付けられており、制御部5は、スライダEの位置に対応する線分L1の位置、つまり造影剤の濃度が指定される。制御部5は、指定された濃度に応じて分布画像の表示態様を変更する。表示態様の変更処理としては、画素値(輝度、色等)を変更するものや、模様を変更するものなどがある。
【0101】
分布画像が複数存在する場合には、各分布画像について濃度の指定を行うことが可能である。その場合、ユーザは、たとえばポインティングデバイスを用いて、所望の分布画像を指定する。制御部5は、指定された分布画像における所定の濃度に対応する位置にスライダEを表示させる。ユーザは、スライダEを所望の位置に移動させる。制御部5は、移動後のスライダEの位置に応じて当該分布画像の表示態様を変更する。
【0102】
濃度の変更処理として、数値を入力する方法を採用することも可能である。その場合、制御部5は、対象物質の濃度情報を入力するための入力領域を表示部6に表示させる。ユーザは、操作部7(たとえばキーボード)を用いて入力領域に所望の濃度の値を入力する。入力領域は、たとえばプルダウンメニューのように、濃度の複数の選択肢から所望のものを選択可能とするオブジェクトであってもよい。
【0103】
初期値よりも濃度を高めた場合の分布画像を強調画像と呼ぶことがある。また、初期値よりも濃度を低下させた場合の分布画像を抑制画像と呼ぶことがある。
【0104】
強調画像及び抑制画像の例を説明する。図9Aは、60keVの単色X線画像としての分布画像(原画像)G0を示す。なお、図9A(画像を示す以下の図も同様)においては、実際の画像と表示輝度が逆転されている。つまり、実際の画像では対象物質の濃度が高いほど表示輝度が高くなっているが、図9Aでは濃度が高いほど表示輝度が低くなっている。
【0105】
単色X線画像は次式(5)で定義される。
【0106】
【数5】
【0107】
ただし:
CT numberは、CT値;
μは、式(5)に示す対象物質の線減弱係数;
μwaterは、水の線減弱係数;
をそれぞれ示す。
【0108】
原画像G0には、様々な濃度の造影剤の分布画像H01、H02、H03、H04、H05が描写されている。分布画像H01、H02、H03、H04、H05は、それぞれ、濃度25[mgI/ml]、20[mgI/ml]、15[mgI/ml]、10[mgI/ml]、5[mgI/ml]に相当する。
【0109】
図9Bは、原画像G0に基づく強調画像G1を示す。強調画像G1には、原画像G0中の分布画像H01、H02、H03、H04、H05にそれぞれ対応する分布画像H11、H12、H13、H14、H15が描写されている。各分布画像H1i(i=1〜5)は、分布画像H0iに示す濃度を高めた状態を示している。
【0110】
図9Cは、原画像G0に基づく抑制画像G2を示す。抑制画像G2には、原画像G0中の分布画像H01、H02、H03、H04、H05にそれぞれ対応する分布画像H21、H22、H23、H24、H25が描写されている。各分布画像H2i(i=1〜5)は、分布画像H0iに示す濃度を低下させた状態を示している。
【0111】
このような強調画像G1及び抑制画像G2の生成方法を説明する。まず、制御部5は、造影剤の濃度を示す線分L1(図2参照)上に座標が位置する画素を特定する。次に、制御部5は、特定された各画素について、式(3)に示す造影剤の存在率c1を1000に設定し、水の存在率c2を0に設定し、これらを式(2a)、(2b)に代入することにより、強調画像G1を生成する。また、制御部5は、造影剤の存在率c1を0に設定し、水の存在率c2を1000に設定し、これらを式(2a)、(2b)に代入することにより、抑制画像G2を生成する。制御部5は、生成された強調画像G1や抑制画像G2を表示部6に表示させる。
【0112】
次に、濃度の算出方法の例を説明する。前述のように、座標系中の線分は、物質と水との混合物を表しており、線分上の位置が濃度に相当している。図2に示す場合において、造影剤の濃度を示す線分L1は、傾きが−1、切片が1の直線上にあるので、造影剤の濃度は次式で算出することができる。
【0113】
【数6】
【0114】
図10は、造影剤の濃度を示す線分L1上に座標が位置する係数c1(x,y)、c2(x,y)を抽出し、式(6)を用いて算出された濃度をカラー表示させた場合の表示態様の一例を模式的に表している。分布画像Gには5つの分布画像H1、H2、H3、H4、H5が描写されている。各分布画像Hi(i=1〜5)は、その濃度に応じた色で表示される。濃度と表示色との関係はカラーバーJにより示されている。なお、複数の物質の濃度をカラー表示させる場合には、物質毎に異なる色で分布画像を表示させるように構成することも可能である。
【0115】
この実施形態のX線CT装置の作用及び効果を説明する。
【0116】
この実施形態のX線CT装置は、第1の実施形態の作用に加えて、次に示す作用を有する。なお、物質の1つは溶剤(たとえば水)である。物質特定部43は、対象物質の座標と溶剤の座標とを結ぶ線分を求める。再構成処理部3は、投影データにおける対象物質の分布領域に対して再構成処理を施すことにより、対象物質の分布を表す分布画像を形成する。制御部5(表示画像生成部)は、線分上における位置の指定を受けて、当該指定位置に応じた態様の分布画像(表示画像)を生成して表示部6に表示させる。
【0117】
また、制御部5により線分を表す線分画像が表示部6に表示され、更に、この線分画像上の位置が操作部7を用いて指定されたことを受けて、制御部5が、当該指定位置に対応する線分上の位置を特定し、当該特定位置に応じた態様で分布画像を表示させるように構成することができる。
【0118】
また、物質の濃度情報を入力するための入力領域が表示部6に表示され、更に、操作部7を用いて対象物質の濃度情報が入力領域に入力されたことを受けて、制御部5(濃度算出部、表示画像生成部)が、当該濃度情報に対応する線分上の位置を特定し、当該特定位置に応じた態様の分布画像を生成して表示させるように構成することができる。
【0119】
また、制御部5が、線分上の指定位置に応じて分布画像の表示色を変更するように構成することが可能である。また、制御部5が、物質特定部43により特定された対象物質の種別に応じて分布画像の表示色を変更するように構成することが可能である。更に、制御部5が、対象物質の種別と線分上の指定位置の双方に応じて分布画像の表示色を変更するように構成することも可能である。
【0120】
このようなX線CT装置によれば、第1の実施形態の効果に加えて、強調画像や抑制画像を形成し表示することができる。また、物質の濃度を視覚的に表現することができるので、濃度の直感的な理解が可能となる。
【0121】
なお、上記の例では、対象物質の座標と溶剤の座標とを結ぶ線分を求めて対象物質の分布画像を形成する場合について説明したが、溶剤以外の物質を適用して同様の処理を行うことも可能である。たとえば、前述の「複数の物質」のうちの一の物質の座標と対象物質の座標とを結ぶ線分を求め、更に、投影データにおける対象物質の分布領域に対して再構成処理を施すことにより分布画像を形成する。この分布画像は対象物質及び一の物質の分布を表すものである。つまり、2つの物質の分布を表現する単一の分布画像が得られる。
【0122】
〈第3の実施形態〉
第1の実施形態で説明した方法では、第1の物質の座標と水の座標とを結ぶ第1の線分と、第2の物質の座標と水の座標とを結ぶ第2の線分とが近い場合、これら物質を判別することは困難である。一方、非特許文献1に記載された方法では、第1の物質のCT値と第2の物質のCT値とが近い場合、これら物質を判別することは困難である。
【0123】
そこで、この実施形態では、これら2つの方法を併用することにより、より確実な物質の判別を可能とする技術を提供する。また、この実施形態では、特許文献1に記載された技術を利用して、実効原子番号画像、密度画像及び単色X線画像を形成する処理についても説明する。
【0124】
この実施形態のX線CT装置の概略構成を図11に示す。このX線CT装置は、第1の実施形態で説明した構成を含んでいる。また、図示は省略するが、このX線CT装置は、第2の実施形態で説明した構成を更に含んでいてもよい。
【0125】
このX線CT装置は、ガントリ1と、前処理部2と、再構成処理部3と、データ処理部4と、画素値比算出部8と、物質特定部9と、特定画像形成部10と、特定制御部11とを有する。データ処理部4には、投影データ変換部41と、画像形成部42と、物質特定部43とが設けられている。なお、物質特定部9と特定制御部11はそれぞれ「特定部」の一例として機能する。
【0126】
第1の実施形態と同じ構成部分は、特に言及しない限り第1の実施形態と同様の機能を有する。なお、第1の実施形態で説明した物質特定処理はデータ処理部4が実行し、非特許文献1に記載された物質特定処理は画素値比算出部8及び物質特定部9が実行する。
【0127】
再構成処理部3は、デュアル・エナジー・CTにより得られた第1及び第2の投影データのそれぞれに対して再構成処理を施すことにより第1及び第2の画像を形成する。
【0128】
画素値比算出部8は、非特許文献1に記載されているように、第1及び第2の画像における画素値(CT値)の比を算出する。この処理は、第1の画像と第2の画像との間で画素の対応付けを行い、対応付けられた2つの画素のCT値の比を算出するものである。
【0129】
物質特定部9は、非特許文献1に記載された方法を用いることで、画素値比算出部8により算出されたCT値比に基づいて、対象物質の種別を特定する。
【0130】
以下、具体例として、尿酸、軟骨及び軟組織が混在する状況において尿酸を特定する場合を説明する。これら物質について得られたCT値比の分布の例を図12に示す。本例では、管電圧80kV及び135kVでデュアル・エナジー・CTによる撮影を行うものとする。図12では、管電圧80kVでのCT値をx軸に、管電圧135kVでのCT値をy軸にとっている。したがって、原点と任意の座標とを通過する直線の傾きがCT値比に相当する。
【0131】
分布領域K1、K2、K3は、それぞれ尿酸、軟骨、軟組織についての分布を示している。分布領域K1、K2、K3の位置関係から分かるように、尿酸と軟骨とはCT値比が異なっており互いの判別が可能であるが、尿酸と軟組織ではCT値比が近いため判別が困難である。なお、直線M1、M2は、それぞれ尿酸のCT値比の最大値と最小値を表している。
【0132】
一方、図13は、第1の実施形態で説明した方法で得られた、尿酸、軟骨及び軟組織の座標の分布の例を示している。なお、縦軸及び横軸は、それぞれ造影剤及び水に基づき設定されている。分布領域N1、N2、N3は、それぞれ尿酸、軟骨、軟組織についての分布を示している。直線L6は、尿酸の座標の分布状態を示す直線である。また、直線L6a、L6bは、それぞれ、尿酸の分布領域の広がりに応じた直線の分布範囲の上限及び下限を示している(第1の実施形態を参照)。軟骨及び軟組織については直線の図示を省略しているが、その形態から直線の向きは容易に把握できる。分布領域N1、N2、N3の位置から分かるように、本例では、尿酸と軟骨では近い直線が得られるので物質相互の判別が困難であり、尿酸と軟組織では直線の向きが十分異なるので判別が可能である。
【0133】
以上の考察の下、第1の実施形態で説明した方法と非特許文献1に記載された方法とを併用する処理の一例を説明する(図14を参照)。まず、第1の実施形態と同様に、デュアル・エナジー・CTにより投影データを取得する(S21)。
【0134】
再構成処理部3,画素値比算出部8及び物質特定部9は、前述の要領で、図12に示すCT値比の分布情報、つまり分布領域K1、K2、K3を得る(S22)。また、データ処理部4は、前述の要領で、図13に示す座標の分布情報、つまり分布領域N1、N2、N3を得る(S23)。これら分布情報は特定制御部11に送られる。以下、CT値比の分布情報を第1の分布情報と呼び、座標の分布情報を第2の分布情報と呼ぶことがある。
【0135】
特定制御部11は、第1及び第2の分布情報に基づいて3つの物質をそれぞれ特定する。その処理の例として、特定制御部11は、まず、図12に示す直線M1、M2と、図13に示す直線L6a、L6bを求める。なお、直線M1、M2や直線L6a、L6bは、今回の測定により得られたデータから作成したものであっても、事前に得られた測定データや規定の値(理論値や標準的な値等)であってもよい。また、特定制御部11は、各物質について、そのCT値比の分布領域に基づく直線や、その座標の分布領域に基づく直線を求めてもよい。このようにして、直線M1、M2により挟まれた特定領域と、直線L6a、L6bにより挟まれた特定領域とが得られる(S24、S25)。
【0136】
続いて、特定制御部11は、軟骨及び軟組織のそれぞれのCT値比の分布領域K2、K3が、直線M1、M2により挟まれた特定領域に含まれているか判断する(S26)。この処理は、分布領域K2、K3自体が当該特定領域に含まれているか判断するものでもよいし、上記で直線を求めた場合にはその直線が当該特定領域に含まれているか判断するものでもよい。
【0137】
なお、前者の場合、分布領域K2、K3の全体が当該特定領域に含まれているか判断するようにしてもよいし、分布領域K2、K3の所定割合が当該特定領域に含まれているか判断するようにしてもよい。
【0138】
また、後者の場合、直線の長さによっては少しの傾きの違いでも直線が当該特定領域からはみ出すことが考えられる。その場合、直線の長さの範囲をあらかじめ決めておき、その範囲内において直線が当該特定領域に含まれているときに、この直線は当該特定領域に含まれていると判断するようにしてもよい。
【0139】
続いて、特定制御部11は、軟骨及び軟組織のそれぞれの座標の分布領域N2、N3が、直線L6a、L6bにより挟まれた特定領域に含まれているか判断する(S27)。この処理は、CT値比の場合と同様に実行できる。
【0140】
次に、特定制御部11は、CT値比の分布領域K2、K3が特定領域に含まれているかの判断結果と、座標の分布領域N2、N3が特定領域に含まれているか判断結果とに基づいて、尿酸、軟骨及び軟組織の判別を行う。
【0141】
その具体例として、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれており(S28:Yes)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれている(S29:Yes)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は尿酸であると判断する(S30)。
【0142】
また、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれており(S28:Yes)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれていない(S29:No)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は軟組織であると判断する(S31)。
【0143】
また、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれておらず(S28:No)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれている(S32:Yes)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は軟骨であると判断する(S33)。
【0144】
また、特定制御部11は、CT値比の分布領域が特定領域に含まれておらず(S28:No)、かつ、座標の分布領域が特定領域に含まれていない(S32:No)と判断された場合、これら分布領域に対応する物質は尿酸でも軟骨でも軟組織でもないと判断する。以上で、この処理例の説明は終了となる。
【0145】
次に、特定画像形成部10について説明する。特定画像形成部10は、実効原子番号画像、密度画像、及び単色X線画像のうちの少なくとも1つ(特定画像と呼ぶことがある)を形成する。この処理は、第1の実施形態で説明した線形結合(式(3))における係数c1及びc2に基づいて形成される、各基準物質の分布を表す画像(基準物質画像)を、特許文献1に記載された方法で組み合わせることにより実行されるものである。
【0146】
なお、実効原子番号画像は、対象物における実効原子番号の分布を表す画像である。また、密度画像は、対象物質における物質の密度の分布を表す画像である。また、単色X線画像は、単一のエネルギーを有するX線で対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する画像である。これら画像を形成可能な特定画像形成部10は、「形成部」の一例として機能する。
【0147】
この実施形態の物質特定部43は、第1の実施形態で説明した処理で得られた複数の対象物質のそれぞれについての特定結果と、これら対象物質のそれぞれについて特定画像形成部10により形成された実効原子番号画像、密度画像、及び/又は単色X線画像に基づいて、これら対象物質の種別をそれぞれ特定することが可能である。なお、第1の実施形態で説明した処理は、複数の物質についてあらかじめ得られた座標系における複数の座標と、対象物質について物質特定部43により決定された座標とに基づいて、対象物質の種別を特定するものである。
【0148】
この実施形態のX線CT装置によれば、第1の実施形態の効果を得ることができるとともに、第1の実施形態と同様の座標系における各物質の座標の分布状態と、各物質のCT値比の分布状態の双方に基づいて、物質の種別を特定することができる。したがって、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。
【0149】
また、この実施形態のX線CT装置によれば、実効原子番号画像、密度画像、及び/又は単色X線画像を形成することができるので、物質の分布状態を視覚的に把握することが可能である。また、座標系を用いた物質特定処理とこれら画像を用いた物質特定処理を併用することにより、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。
【0150】
〈変形例〉
上記実施形態の変形例を説明する。
【0151】
第1の変形例を説明する。対象物質に未知の成分が含まれている場合、図5に示す線分Liのような直線的な相関関係が得られず、領域B等を適当に決定し難いことがある。たとえば図15Aに示すように、3つの対象物質について、3つの座標V1、V2、V3が得られたものとする。これら座標V1、V2、V3は、同一の直線上に位置しない。その場合、この座標系と、座標V1、V2、V3を表示部に表示させる。ユーザは、表示された座標系及び座標V1、V2、V3を参照し、操作部を用いて当該座標系内に領域を任意に設定する。このとき、たとえば図15Bに示すように、座標V1、V2、V3を含むように領域Wが設定される。
【0152】
領域Wは、対象物の未知の成分などに起因する誤差を反映した造影剤の濃度の座標の分布範囲として用いられる。領域Wにおいて座標(c1,c2)=(1,0)と座標(c1,c2)=(0,1)とを結ぶ線分(図5の線分L1に相当する)上にない座標に対しては、当該線分に基づいて濃度の値が対応付けられる。この対応付けは、たとえば図5に示す場合と同様にして行われる。物質特定部43は、たとえば図5に示す場合と同様の手法により、決定された対象物質の座標と、領域Wとの位置関係に基づいて、この対象物質の種別を特定する。
【0153】
この変形例によれば、対象物質に未知の成分が含まれている等の誤差要因が介在する場合であっても、ユーザの判断によって物質の特定を高い精度で行うことができる。
【0154】
第2の変形例を説明する。上記実施形態では、エネルギーが異なる2つのX線を用いるデュアル・エナジー・CTの手法が適用されているが、実施形態はこれに限定されるものではない。
【0155】
たとえば、エネルギーが異なる3以上のX線を用いてスキャンを行うことが可能なX線CT装置においては、生成部は、エネルギーが異なるN(3以上)のX線でそれぞれ対象物をスキャンしてN個の投影データを生成する。変換部は、これらN個の投影データを、N個の基準物質に対応するN個の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換したN個の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、N個の基準物質に対応するN個の基準物質画像を形成する。特定部は、N個の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【0156】
この場合に実行される処理においては、上記実施形態では2つである線形結合の基底の個数がN個となり、上記実施形態では2次元である座標系の次元がN次元となる。つまり、エネルギーが異なるX線の数が2である場合と3以上である場合との間に、実質的な相違はない。よって、上記実施形態は、エネルギーが異なる複数(2以上)のX線を用いる場合として、次のように一般化できる。
【0157】
実施形態に係るX線CT装置は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて、対象物内の画像を表示する装置であって、生成部と、変換部と、画像形成部と、特定部とを有する。生成部は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換部は、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成部は、変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定部は、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【0158】
このようなX線CT装置によれば、上記実施形態と同様に、対象物に含まれる物質を高い精度で特定することが可能である。更に、エネルギーが異なる3以上のX線を用いることで、2つのX線を用いる上記実施形態よりも高い精度での物質特定が可能となる。
【0159】
上記実施形態で説明した任意の構成や処理についても同様の一般化を行うことができる。その場合、上記実施形態と同様の効果が得られるとともに、物質特定の精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0160】
〈物質特定方法〉
実施形態に係る物質特定方法は、たとえば上記実施形態に係るX線CT装置により実行される。実施形態の物質特定方法は、生成ステップと、変換ステップと、画像形成ステップと、特定ステップを含む。生成ステップでは、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する。変換ステップでは、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する。画像形成ステップでは、変換ステップで変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する。特定ステップでは、複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。
【0161】
特定ステップは、複数の基準物質画像における対応する画素の値が、予め設定された相関を有するかを判定することにより、対象物質を特定するものであってよい。
【0162】
変換ステップは、基準物質に対応するX線減弱係数を含む計算式を用いて、複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換するものであってよい。
【0163】
特定ステップにより特定された対象物質の領域を識別可能にした対象物内の画像を生成する表示画像生成ステップを更に含んでいてもよい。
【0164】
特定ステップにより特定された対象物質の領域の画素を、他の領域の画素に比べて、強調または抑制した表示画像を生成する表示画像生成ステップを更に含んでいてもよい。
【0165】
予め記憶された計算式に基づいて、複数の基準物質画像における対応する画素の値から、対象物質の濃度情報を求める濃度算出ステップを更に含んでいてもよい。
【0166】
濃度情報を表した表示画像を生成する表示画像生成ステップを更に含んでいてもよい。
【0167】
画像形成ステップにおいて、複数の投影データを再構成して得られた複数のエネルギー画像を生成し、かつ、特定ステップにおいて、複数のエネルギー画像の複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定してもよい。
【0168】
基準物質画像に基づいて、対象物における実効原子番号の分布を表す実効原子番号画像、対象物質における物質の密度の分布を表す密度画像、及び、単一のエネルギーを有するX線で対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する単色X線画像のうちの少なくとも1つを形成する形成ステップを更に含み、かつ、特定ステップにおいて、形成ステップで形成された画像に基づいて、対象物質の特定を行ってもよい。
【0169】
このような物質特定方法によれば、第1の実施形態と同様に、CT値比が近い物質であっても座標を参照することにより高い精度での識別が可能である。また、対象物質を構成する物質の成分比を求めることや、2つ以上の対象物質がそれぞれ同種であるか異種であるかを判別することができる。また、第1の実施形態のようにノイズの影響を考慮した物質特定方法を適用することにより、より高精度、高確度での物質の特定、成分比の特定、対象物質の分離などが可能となる。
【0170】
また、実施形態に係る物質特定方法によれば、第2の実施形態と同様に、上記効果に加えて、強調画像や抑制画像を形成し表示することができる。また、物質の濃度を視覚的に表現することができるので、濃度の直感的な理解が可能となる。
【0171】
また、実施形態に係る物質特定方法によれば、第3の実施形態と同様に、上記効果に加えて、各物質の座標の分布状態と各物質のCT値比の分布状態の双方に基づいて、物質の種別を特定することにより、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。また、実効原子番号画像、密度画像、及び/又は単色X線画像を形成することができるので、物質の分布状態を視覚的に把握することが可能である。また、座標系を用いた物質特定処理とこれら画像を用いた物質特定処理を併用することにより、対象物に含まれる物質の特定精度の更なる向上を図ることが可能である。
【0172】
〈画像処理装置〉
実施形態に係る画像処理装置について説明する。実施形態に係る画像処理装置の構成例を図16に示す。画像処理装置100は、院内LAN等のネットワークを介して画像保管装置300に接続されている。画像保管装置300は、X線CT装置200により形成された画像を記憶している。
【0173】
X線CT装置200は、たとえば第1の実施形態のX線CT装置(図1参照)から物質特定部43を除いた構成を有する。つまり、X線CT装置200は、対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて、前記対象物内の画像を表示する装置であって、次の機能を有する:エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する生成機能;複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する変換機能;変換機能で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する画像形成機能。X線CT装置200は、形成された複数の基準物質画像を、院内LAN等のネットワークを介して画像保管装置300に送る。画像保管装置300は、たとえば、画像保存通信システム(Picture Archiving and Communication Systems;PACS)である。
【0174】
画像処理装置100は、X線CT装置200により形成されて画像保管装置300に記憶された画像を処理する。なお、他のルートを経由して画像処理装置100に画像を入力することも可能である。他のルートの例として、画像が記憶されたDVD等の記録媒体がある。
【0175】
画像処理装置100は、外部から画像を取得する処理を行う画像取得部101を有する。画像保管装置300に記憶された画像を取得する場合、画像取得部101は、ネットワークを介して画像保管装置300と通信する通信部を含む。更に、画像取得部101は、たとえば、取得する画像を選択するためのユーザインターフェイス(表示部、操作部等)と、選択された画像を取得するための信号を生成し、通信部を制御してこの信号を画像保管装置300に送信させる通信制御部を含む。記録媒体を介して画像を取得する場合、画像取得部101は、この記録媒体に記録された情報を読み取り可能な読み取り部(ドライブ装置等)を含む。
【0176】
画像取得部101により取得された画像は、記憶部102に記憶される。記憶部102は、ハードディスクドライブ等の記憶装置を含んで構成される。この実施形態では、X線CT装置200が上記の要領で形成した画像が記憶部102に記憶される。この画像は、エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして生成された複数の投影データを、複数の基準物質に基づき変換して得られた複数の新たな投影データを、それぞれ再構成することで形成された、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像である。
【0177】
物質特定部103は、記憶部102に記憶された複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する。この処理は、たとえば第1の実施形態の物質特定部43と同様にして実行される。物質特定部103は「特定部」の一例として機能する。
【0178】
画像処理装置100が表示部を有する場合、物質特定部103による処理結果が表示部に表示される。また、画像処理装置100がたとえばネットワーク上のサーバである場合、画像処理装置100は、物質特定部103による処理結果を、ネットワークを介して所定のユーザ端末に送信する機能(送信部)を有する。また、画像処理装置100は、物質特定部103による処理結果を記録媒体に記録する記録部(ドライブ装置等)を有していてもよい。
【0179】
このような画像処理装置100によれば、対象物に含まれる物質を高い精度で特定することが可能である。なお、画像処理装置100は、上記実施形態に係るX線CT装置の任意の機能を有していてもよい。以下のいずれかの構成が適用される場合、上記実施形態において説明した、当該構成に対応する作用及び効果が奏される。
【0180】
たとえば、物質特定部103は、複数の基準物質画像における対応する画素の値が、予め設定された相関を有するかを判定することにより、対象物質を特定するものであってよい。
【0181】
また、画像処理装置100は、物質特定部103により特定された対象物質の領域を識別可能にした対象物内の画像を生成する表示画像生成部を備えていてもよい。
【0182】
また、画像処理装置100は、物質特定部103により特定された対象物質の領域の画素を、他の領域の画素に比べて、強調または抑制した表示画像を生成する表示画像生成部を備えていてもよい。
【0183】
また、画像処理装置100は、予め記憶された計算式に基づいて、複数の基準物質画像における対応する画素の値から、対象物質の濃度情報を求める濃度算出部を備えていてもよい。これに加え、画像処理装置100は、濃度情報を表した表示画像を生成する表示画像生成部を備えていてもよい。
【0184】
また、物質特定部103は、複数のエネルギー画像の複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定するものであってよい。
【0185】
また、画像処理装置100は、基準物質画像に基づいて、対象物における実効原子番号の分布を表す実効原子番号画像、対象物質における物質の密度の分布を表す密度画像、及び、単一のエネルギーを有するX線で対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する単色X線画像のうちの少なくとも1つを形成する形成部を更に備え、かつ、物質特定部103が、形成部により形成された画像に基づいて対象物質の特定を行うように構成されていてもよい。
【0186】
〈プログラム及び記憶媒体〉
上記実施形態で説明した処理を、X線CT装置又はこれに含まれるコンピュータに実行させるためのプログラムを構成することができる。また、上記実施形態で説明した処理を、画像処理装置(コンピュータ)に実行させるためのプログラムを、たとえばDVD等の記憶媒体に記憶させることができる。また、インターネットやLAN等のネットワークを介して、これらプログラムのいずれかを送信するシステムを構築することができる。
【0187】
この発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0188】
1 ガントリ
2 前処理部
3 再構成処理部
4 データ処理部
41 投影データ変換部
42 画像形成部
43 物質特定部
5 制御部
6 表示部
7 操作部
8 画素値比算出部
9 物質特定部
10 特定画像形成部
11 特定制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて、前記対象物内の画像を表示するX線CT装置において、
エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する生成部と、
前記複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する変換部と、
前記変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する画像形成部と、
前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する特定部と、
を備えるX線CT装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記複数の基準物質画像における対応する画素の値が、予め設定された相関を有するかを判定することにより、前記対象物質を特定するものであることを特徴とする請求項1記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記変換部は、前記基準物質に対応するX線減弱係数を含む計算式を用いて、前記複数の投影データを、前記複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記特定部により特定された前記対象物質の領域を識別可能にした前記対象物内の画像を生成する表示画像生成部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記特定部により特定された前記対象物質の領域の画素を、他の領域の画素に比べて、強調または抑制した表示画像を生成する表示画像生成部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項6】
予め記憶された計算式に基づいて、前記複数の基準物質画像における対応する画素の値から、前記対象物質の濃度情報を求める濃度算出部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項7】
前記濃度情報を表した表示画像を生成する表示画像生成部を備えることを特徴とする請求項6記載のX線CT装置。
【請求項8】
前記画像形成部は、前記複数の投影データを再構成して得られた複数のエネルギー画像を生成するものであり、
前記特定部は、前記複数のエネルギー画像の前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項9】
前記基準物質画像に基づいて、前記対象物における実効原子番号の分布を表す実効原子番号画像、前記対象物質における物質の密度の分布を表す密度画像、及び、単一のエネルギーを有するX線で前記対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する単色X線画像のうちの少なくとも1つを形成する形成部を更に備え、
前記特定部は、前記形成部により形成された画像に基づいて、前記対象物質の特定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項10】
エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして生成された複数の投影データを、複数の基準物質に基づき変換して得られた複数の新たな投影データを、それぞれ再構成することで形成された、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する特定部と、
を備える画像処理装置。
【請求項11】
エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして生成された複数の投影データを、複数の基準物質に基づき変換して得られた複数の新たな投影データを、それぞれ再構成することで形成された、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を記憶する記憶部を有するコンピュータを、
前記記憶部に記憶された前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する特定部として機能させるプログラム。
【請求項1】
対象物をスキャンして得られた投影データに基づいて、前記対象物内の画像を表示するX線CT装置において、
エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして複数の投影データを生成する生成部と、
前記複数の投影データを、複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換する変換部と、
前記変換部で変換した複数の新たな投影データをそれぞれ再構成することで、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を形成する画像形成部と、
前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する特定部と、
を備えるX線CT装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記複数の基準物質画像における対応する画素の値が、予め設定された相関を有するかを判定することにより、前記対象物質を特定するものであることを特徴とする請求項1記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記変換部は、前記基準物質に対応するX線減弱係数を含む計算式を用いて、前記複数の投影データを、前記複数の基準物質に対応する複数の新たな投影データに変換するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記特定部により特定された前記対象物質の領域を識別可能にした前記対象物内の画像を生成する表示画像生成部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記特定部により特定された前記対象物質の領域の画素を、他の領域の画素に比べて、強調または抑制した表示画像を生成する表示画像生成部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項6】
予め記憶された計算式に基づいて、前記複数の基準物質画像における対応する画素の値から、前記対象物質の濃度情報を求める濃度算出部を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項7】
前記濃度情報を表した表示画像を生成する表示画像生成部を備えることを特徴とする請求項6記載のX線CT装置。
【請求項8】
前記画像形成部は、前記複数の投影データを再構成して得られた複数のエネルギー画像を生成するものであり、
前記特定部は、前記複数のエネルギー画像の前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定するものである、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項9】
前記基準物質画像に基づいて、前記対象物における実効原子番号の分布を表す実効原子番号画像、前記対象物質における物質の密度の分布を表す密度画像、及び、単一のエネルギーを有するX線で前記対象物質をスキャンした場合を模擬的に再現する単色X線画像のうちの少なくとも1つを形成する形成部を更に備え、
前記特定部は、前記形成部により形成された画像に基づいて、前記対象物質の特定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項10】
エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして生成された複数の投影データを、複数の基準物質に基づき変換して得られた複数の新たな投影データを、それぞれ再構成することで形成された、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する特定部と、
を備える画像処理装置。
【請求項11】
エネルギーが異なるX線でそれぞれ対象物をスキャンして生成された複数の投影データを、複数の基準物質に基づき変換して得られた複数の新たな投影データを、それぞれ再構成することで形成された、複数の基準物質に対応する複数の基準物質画像を記憶する記憶部を有するコンピュータを、
前記記憶部に記憶された前記複数の基準物質画像の画素の値の相関に基づいて対象物質を特定する特定部として機能させるプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【公開番号】特開2013−81765(P2013−81765A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206419(P2012−206419)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
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