説明

Z−およびE−異性体比が冷却性能のために最適化された1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含む組成物

約0.1重量パーセント〜約99.9重量パーセントのZ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(Z−1225ye)および約99.9重量パーセント〜約0.1重量パーセントのE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(E−1225ye)を含む共沸または擬共沸組成物が開示される。1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)についての冷凍能力の向上方法であって、E−異性体(E−1225ye)の量に対してZ−異性体(Z−1225ye)の量を増やす工程を含む方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Z−およびE−異性体の異性体比が冷却性能のために最適化された1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含む組成物に関する。特に本開示は、Z−およびE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含む共沸または近共沸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍およびエアコン業界は、高い地球温暖化係数(GWP)の既存冷媒の規制上の段階的廃止に対応して、新規な冷媒または伝熱組成物を特定することに関心がある。新規な冷媒または伝熱組成物は、低いGWP、低いオゾン破壊係数(ODP)を持ち、非毒性で、非引火性であり、現在使用されている材料に匹敵する冷凍能力およびエネルギー効率を提供しなければならない。
【0003】
より高いGWP冷媒および伝熱組成物に取って代わるための上記判定基準を全て満たす新規化合物を提供する必要性がある。
【0004】
フルオロオレフィンは、可能性のある新規な冷媒および伝熱組成物化合物として特定されてきた、特に、ある種のトリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、およびペンタフルオロプロペンは、必要とされる特性を全て有する。1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)は、新規な冷媒または伝熱組成物として良好な可能性を有すると明確に開示されてきた。HFC−1225yeは、Z−およびE−異性体である、2つの異なる立体異性体を含む。HFC−1225yeを製造するために用いられるいかなる方法もこれらの異性体の混合物を生成するであろう。
【0005】
本開示は、冷凍およびエアコン装置で優れた性能を提供するE−およびZ−HFC−1225yeを含む特定の組成物に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0106263 A1号明細書
【特許文献2】PCT特許出願第PCT/US07/19657号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、約0.1質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(Z−1225ye)および約99.9質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(E−1225ye)を含む共沸または近共沸組成物を提供する。
【0008】
本開示はまた、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)についての冷凍能力の向上方法であって、E−異性体(E−1225ye)の量に対してZ−異性体(Z−1225ye)の量を増やす工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye、CFCF=CHF)は、2つの立体異性体、E−異性体またはZ−異性体の1つであってもよい。Z−HFC−1225ye(本明細書ではZ−1225yeと呼ばれる;CAS登録番号[5528−43−8])およびE−HFC−1225ye(本明細書ではE−1225yeと呼ばれる;CAS登録番号[5525−10−8])の両方とも、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea、CFCHFCHF)の気相脱フッ化水素によって製造されてもよい。一般に、本発明の脱フッ化水素は、当該技術分野で公知の方法と同じような方法で実施されてもよい。特許文献1に記載されているなどの、任意の脱フッ化水素触媒を用いる方法が特に有用である。
【0010】
HFC−236eaからのHFC−1225yeの製造では、E−およびZ−異性体の両方が生成する。生成物混合物中の各異性体の量は、触媒と温度、圧力および触媒接触時間などの反応変数とに依存して変わるかもしれない。異性体を分離するために、または両異性体の混合物をZ−1225ye異性体に富ませるために蒸留が用いられてもよい。かかる蒸留には、例えば、2007年9月7日出願の、特許文献2に記載されているような共沸蒸留が含まれてもよい。
【0011】
一実施形態では本開示は、約0.1質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1225yeおよび約99.9質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1225yeを含む共沸または近共沸組成物を提供する。
【0012】
別の実施形態では本開示は、約60質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1225yeおよび約40質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1225yeを含む組成物を提供する。
【0013】
別の実施形態では本開示は、約85質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1225yeおよび約15質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1225yeを含む組成物を提供する。
【0014】
さらに別の実施態様では本開示は、約95質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1225yeおよび約5質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1225yeを含む組成物を提供する。
【0015】
これらの組成物は、以下のような使用を含む、作動流体で様々な実用性を有する。これらの組成物は、数例を挙げると、発泡剤、溶剤、エアゾール噴射剤、消火剤、滅菌剤、気体誘電体、動力サイクル作動流体、または伝熱媒体(冷凍システム、冷蔵庫、エアコンシステム、ヒートポンプ、冷却装置などでの使用のための伝熱流体および冷媒など)を含む、作動流体で様々な実用性を有する。
【0016】
発泡剤は、ポリマーマトリックスを膨張させて気泡構造を形成する揮発性組成物である(例えば、ポリオレフィンおよびポリウレタンフォームのための)。
【0017】
溶剤は、基材から汚れを除去する、または材料を基材上へ沈着させる、または材料を運ぶ流体である。
【0018】
エアゾール噴射剤は、1気圧より大きい圧力をかけて物質を容器から追い出す1つ以上の成分の揮発性組成物である。
【0019】
消火剤は、火炎を消すまたは抑制する揮発性組成物である。
【0020】
滅菌剤は、生物活性物質などを滅ぼす揮発性の殺生物性流体または揮発性の殺生物性流体を含有するブレンドである。
【0021】
伝熱媒体(本明細書では伝熱流体、伝熱組成物または伝熱流体組成物とも呼ばれる)は、熱を熱源からヒートシンクに運ぶために使用される作動流体である。
【0022】
本明細書で用いるところでは、伝熱組成物は、輻射、伝導、または対流によって熱をある空間、場所、対象物または物体から異なる空間、場所、対象物または物体へ移す、移動させるまたは除去するために利用される組成物である。伝熱組成物は、液体または気体流体であってもよく、遠く離れた冷凍(または加熱)システムから冷却(または加熱)のための移送の手段を提供することによって二次クーラントとして機能してもよい。システムによっては、伝熱組成物は、移送プロセスの全体にわたって一定の状態のままであってもよい(すなわち、蒸発しないまたは凝縮しない)。あるいはまた、蒸発冷却プロセスは同様に伝熱流体を利用してもよい。
【0023】
本明細書で用いるところでは、熱源は、それから熱を移す、移動させるまたは除去することが望ましい任意の空間、場所、対象物または物体と定義されてもよい。熱源の例は、冷蔵庫またはスーパーマーケットでのフリーザーケースなどの、冷凍もしくは冷却を必要とする空間(開かれた空間または閉ざされた空間)、エアコンを必要とする建物空間、またはエアコンを必要とする自動車の客室であってもよい。ヒートシンクは、熱を吸収することができる任意の空間、場所、対象物または物体と定義されてもよい。蒸気圧縮冷凍システムは、かかるヒートシンクの一例である。
【0024】
冷媒は、組成物が液体から気体にそして元の液体に相変化を受けるサイクルで伝熱組成物として機能する化合物または化合物の混合物である。
【0025】
HFC−1225yeを生産するための方法は異性体の混合物を実際に製造するが、意外なことに、Z−1225yeのレベルがより高いZ−1225yeとE−1225yeとの混合物がより良好な冷凍能力を提供し、こうして冷媒または伝熱組成物としてより望ましいことが分かった。
【0026】
冷凍能力は、循環される冷媒の1ポンド当たりのエバポレーターにおける冷媒のエンタルピーの変化、すなわち、所与の時間当たりエバポレーターにおいて冷媒によって除去される熱を定義するための用語である。冷凍能力は、冷却を行う冷媒または伝熱組成物の能力の尺度である。それ故、この能力が高ければ高いほど、行われるかもしれない冷却はより大きくなる。
【0027】
本明細書に開示される組成物は共沸または近共沸組成物であるべきであることが分かっている。共沸組成物とは、単一物質として挙動する2つ以上の物質の定沸点混合物を意味する。共沸組成物を特徴づける一方法は、液体の部分蒸発または蒸留によって生み出された蒸気が、それがそれから蒸発するまたは蒸留される液体と同じ組成を有する、すなわち、混合物が組成変化なしに蒸留される/還流することである。定沸点組成物は、同じ化合物の非共沸混合物のそれと比べて、それらが最高沸点か最低沸点かのどちらかを示すので、共沸として特徴づけられる。共沸組成物は、システムの効率を低下させるかもしれない、運転中に冷凍またはエアコンシステム内で分別蒸留しないであろう。さらに、共沸組成物は冷凍またはエアコンシステムからの漏洩時に分別蒸留しないであろう。混合物の1成分が引火性である状況では、漏洩中の分別蒸留は、システム内かシステム外かのどちらかで引火性組成物につながり得るであろう。
【0028】
近共沸組成物(一般に「共沸様組成物」とも呼ばれる)は、本質的に単一物質として挙動する2つ以上の物質の実質的に定沸点の液体混合物である。近共沸組成物を特徴づける一方法は、液体の部分蒸発または蒸留によって生み出された蒸気が、それがそれから蒸発したまたは蒸留された液体と実質的に同じ組成を有する、すなわち、混合物が実質的な組成変化なしに蒸留される/還流することである。近共沸組成物を特徴づける別の方法は、ある特定の温度での組成物のバブルポイント蒸気圧および露点蒸気圧が実質的に同じものであることである。本明細書では、組成物の50質量パーセントが蒸発またはボイリングオフなどによって除去された後に、元の組成物と元の組成物の50質量パーセントが除去された後に残る組成物との間の蒸気圧の差が約10パーセント未満である場合に組成物は近共沸である。
【0029】
共沸または近共沸組成物は、装置からの漏洩中に大きく分別蒸留する傾向がない。ある装置では、冷媒または伝熱組成物は、軸封、ホース連結部、はんだ接続部および破線での漏洩によって装置運転中に、または装置修理および保守中に失われ、伝熱組成物が大気中へ放出される結果になるかもしれない。装置中の冷媒または伝熱組成物が純成分、共沸組成物、または共沸様組成物でない場合、伝熱組成物は、装置から大気に漏洩するかまたは排出するときに変化するかもしれない。組成の変化は、組成物の伝熱性能を低下させるかもしれない。
【0030】
本明細書に開示される組成物は、フルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボン、炭化水素、ジメチルエーテル、CFI、二酸化炭素(CO)、およびアンモニアからなる群から選択される他の化合物をさらに含有してもよい。
【0031】
本明細書に開示される組成物に含められてもよいフルオロオレフィンは、炭素、フッ素および場合により水素を含有する不飽和化合物を含む。かかるフルオロオレフィンには、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFCF=CHまたはHFC−1234yf);1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFCH=CHFまたはHFC−1234ze);3,3,3−トリフルオロプロペン(CFCH=CHまたはHFC−1243zf);および1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(CFCH=CHCFまたはHFC−1336mzz)、ならびに2006年10月30日出願の、米国特許出願第11/589,588号明細書に記載されているような他のものが含まれてもよい。
【0032】
本明細書に開示される組成物に含められてよいようなフルオロオレフィン化合物は、異なる立体配置異性体または立体異性体として存在してもよい。本発明は、全ての単一立体配置異性体、単一立体異性体またはそれらの任意の組み合わせもしくは混合物を含むことを意図される。例えば、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(またはHFC−1234ze)は、Z−異性体、E−異性体、または任意の比での両異性体の任意の組み合わせもしくは混合物を表すことを意図される。
【0033】
本明細書に開示される組成物に含められてもよいハイドロフルオロカーボンは、炭素、水素、およびフッ素を含有する飽和化合物を含む。1〜7個の炭素原子を有し、かつ、−90℃〜80℃の標準沸点を有するハイドロフルオロカーボンが特に有用である。ハイドロフルオロカーボンは、E.I.du Pont de Nemours and Company,Fluoroproducts,Wilmington,DE,19898,USAなどの多数の製造業者から入手可能な市販製品であるか、または当該技術分野で公知の方法によって製造されてもよい。代表的なハイドロフルオロカーボン化合物には、フルオロメタン(CHF、HFC−41)、ジフルオロメタン(CH、HFC−32)、トリフルオロメタン(CHF、HFC−23)、ペンタフルオロエタン(CFCHF、HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF、HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(CFCHF、HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(CFCH、HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(CHFCH、HFC−152a)、フルオロエタン(CHCHF、HFC−161)、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロプロパン(CFCFCHF、HFC−227ca)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(CFCHFCF、HFC−227ea)、1,1,2,2,3,3,−ヘキサフルオロプロパン(CHFCFCHF、HFC−236ca)、1,1,1,2,2,3−ヘキサフルオロプロパン(CFCFCHF、HFC−236cb)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(CFCHFCHF、HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(CFCHCF、HFC−236fa)、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(CHFCFCHF、HFC−245ca)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(CFCFCH、HFC−245cb)、1,1,2,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHFCHFCHF、HFC−245ea)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(CFCHFCHF、HFC−245eb)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(CFCHCHF、HFC−245fa)、1,2,2,3−テトラフルオロプロパン(CHFCFCHF、HFC−254ca)、1,1,2,2−テトラフルオロプロパン(CHFCFCH、HFC−254cb)、1,1,2,3−テトラフルオロプロパン(CHFCHFCHF、HFC−254ea)、1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(CFCHFCH、HFC−254eb)、1,1,3,3−テトラフルオロプロパン(CHFCHCHF、HFC−254fa)、1,1,1,3−テトラフルオロプロパン(CFCHCHF、HFC−254fb)、1,1,1−トリフルオロプロパン(CFCHCH、HFC−263fb)、2,2−ジフルオロプロパン(CHCFCH、HFC−272ca)、1,2−ジフルオロプロパン(CHFCHFCH、HFC−272ea)、1,3−ジフルオロプロパン(CHFCHCHF、HFC−272fa)、1,1−ジフルオロプロパン(CHFCHCH、HFC−272fb)、2−フルオロプロパン(CHCHFCH、HFC−281ea)、1−フルオロプロパン(CHFCHCH、HFC−281fa)、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン(CHFCFCFCHF、HFC−338pcc)、1,1,1,2,2,4,4,4−オクタフルオロブタン(CFCHCFCF、HFC−338mf)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(CFCHCHF、HFC−365mfc)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−ドデカフルオロペンタン(CFCHFCHFCFCF、HFC−43−10mee)、および1,1,1,2,2,3,4,5,5,6,6,7,7,7−テトラドデカフルオロヘプタン(CFCFCHFCHFCFCFCF、HFC−63−14mee)が含まれるが、それらに限定されない。
【0034】
HFC−32、HFC−125、HFC−134a、HFC−143a、HFC−152a、HFC−227ea、HFC−236fa、HFC−245fa、およびHFC−365mfcからなる群から選択される少なくとも1つのハイドロフルオロカーボンを含有する本明細書に開示されるような組成物が特に注目すべきである。
【0035】
本明細書に開示される組成物に含められてもよい炭化水素は、炭素および水素のみを有する化合物を含む。3〜7個の炭素原子を有する化合物が特に有用である。炭化水素は、多数の化学薬品供給業者によって商業的に入手可能である。代表的な炭化水素には、プロパン、n−ブタン,イソブタン、シクロブタン、n−ペンタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルプロパン、シクロペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、3−メチルペンタン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、およびシクロヘプタンが含まれるが、それらに限定されない。
【0036】
本明細書に開示される組成物に含められてもよい他の化合物は、DME(ジメチルエーテル)、ヨードトリフルオロメタン(CFI)、二酸化炭素(CO)、およびアンモニア(NH)からなる群から選択される少なくとも1つを含む。これらの化合物の全ては商業的に入手可能であるか、または公知の方法によって製造されてもよい。
【0037】
様々な他の成分または添加剤が本明細書に開示されるような組成物中に存在してもよい。これらの他の成分には、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリオールエステル(POE)、ポリビニルエーテル(PVE)、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンを含む、冷凍およびエアコンシステムに典型的に使用される潤滑油が含まれる。さらに、水捕捉剤、酸捕捉剤、酸化防止剤および他のものなどの安定剤が、本明細書に開示される組成物中に存在してもよい。
【0038】
一実施形態では、本開示は、HFC−1225yeについての冷凍能力の向上方法であって、E−異性体の量に対してZ−異性体の量を増やす工程を含む方法を提供する。Z−1225yeとE−1225yeとの混合物中に存在するE−1225yeの量は、製造プロセスに用いられるプロセス変数に依存するであろう。E−1225yeの量は、米国仮特許出願第60/843,020号明細書に記載されているような共沸蒸留などの蒸留によって低減されてもよい。このように、Z−1225yeとE−1225yeとの混合物中に存在するE−1225yeの量をコントロールし、それによって上記混合物により生成される冷凍能力を微調整することが可能である。
【0039】
蒸気−圧縮冷凍、エアコン、またはヒートポンプシステムには、エバポレーター、圧縮機、凝縮器、および膨張デバイスが含まれる。蒸気−圧縮サイクルは、一工程で冷却効果、そして異なる工程で加熱効果をもたらす多段工程で冷媒を再使用する。サイクルは次の通り簡単に説明することができる。液体冷媒は膨張デバイスを通ってエバポレーターに入り、液体冷媒はエバポレーターにおいて低温で沸騰してガスを形成し、冷却を行う。低圧ガスは圧縮機に入り、そこでガスは圧縮されてその圧力および温度を上げる。より高い圧力の(圧縮された)ガス状冷媒は次に凝縮器に入り、そこで冷媒は凝縮し、その熱を周囲に吐出する。冷媒は膨張デバイスに戻り、それによって液体は凝縮器におけるより高い圧力レベルからエバポレーターにおける低い圧力レベルに膨張し、このようにサイクルを繰り返す。
【0040】
本発明はさらに、冷却されるべき物体の近傍で本発明の組成物を蒸発させる工程と、その後前記組成物を凝縮させる工程とを含む冷却を行うための方法に関する。
【0041】
本発明はさらに、加熱されるべき物体の近傍で本発明の組成物を凝縮させる工程と、その後前記組成物を蒸発させる工程とを含む熱を産生させるための方法に関する。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、発泡体の製造での使用について本明細書に記載されるような本発明のフルオロオレフィン含有組成物を含む発泡剤組成物に関する。他の実施形態では、本発明は、発泡性組成物、好ましくはポリウレタンおよびポリイソシアネート発泡体組成物、ならびに発泡体の製造方法を提供する。かかる発泡体実施形態では、本発明フルオロオレフィン含有組成物の1つまたは複数が発泡性組成物に発泡剤として含まれ、その組成物は好ましくは、適切な条件下に反応し、発泡して発泡体または気泡質構造体を形成することができる1つまたは複数の追加成分を含む。Saunders、Frisch、「Polyurethanes Chemistry and Technology」、第IおよびII巻、John Wiley and Sons(New York,N.Y.)、1962年に記載されているものなどの、当該技術分野で周知の方法のいずれかが本発明の発泡体実施形態に従った使用のために用いられるかまたは構成されてもよい。
【0043】
本発明はさらに、(a)本発明のフルオロオレフィン含有組成物を発泡性組成物に加える工程と、(b)発泡体を形成するのに有効な条件下に発泡性組成物を反応させる工程とを含む発泡体の形成方法に関する。
【0044】
本発明の別の実施形態は、スプレー可能な組成物での噴射剤としての使用のための本明細書に記載されるようなフルオロオレフィン含有組成物の使用に関する。さらに、本発明は、本明細書に記載されるようなフルオロオレフィン含有組成物を含むスプレー可能な組成物に関する。不活性成分、溶剤および他の物質と一緒にスプレーされるべき活性成分もまた、スプレー可能な組成物中に存在してもよい。好ましくは、スプレー可能な組成物はエアゾールである。スプレーされるべき好適な活性物質には、無制限に、抗喘息および抗口臭薬剤などの医薬物質だけでなく脱臭剤、香料、ヘアスプレー、クリーナー、および艶出剤などの化粧品物質が含まれる。
【0045】
本発明はさらに、本明細書に記載されるようなフルオロオレフィン含有組成物をエアゾール容器中の活性成分に加える工程を含むエアゾール製品の製造方法であって、前記組成物が噴射剤として機能する方法に関する。
【0046】
さらなる態様は、火炎の抑制方法であって、火炎を本開示のフルオロオレフィン含有組成物を含む流体と接触させる工程を含む方法を提供する。火炎を本発明の組成物と接触させるための任意の好適な方法が用いられてもよい。例えば、本開示のフルオロオレフィン含有組成物は火炎上へスプレーされても、かけられるなどされてもよく、または火炎の少なくとも一部が火炎抑制組成物中に浸けられてもよい。本明細書での教示を考慮に入れると、当業者は、様々な従来の装置および火炎抑制の方法を本開示での使用のために容易に構成することができるであろう。
【0047】
さらなる実施形態は、本開示のフルオロオレフィン含有組成物を含む試剤を提供する工程と、該試剤を加圧吐出システムに配置する工程と、該試剤をある区域へ吐出して当該区域で火を消すまたは抑制する工程とを含むトータル−フラッド(total−flood)用途での火の消火または抑制方法を提供する。
【0048】
別の実施形態は、本開示のフルオロオレフィン含有組成物を含む試剤を提供する工程と、該試剤を加圧吐出システムに配置する工程と、該試剤をある区域へ吐出して火災または爆発が起こるのを防ぐ工程とを含む火災または爆発を防止するための区域の不活性化方法を提供する。
【0049】
用語「消火」は通常火の完全な排除を意味するために用いられるが、「抑制」はしばしば、火災または爆発の減少を意味するために用いられるが、それらの完全排除を必ずしも意味しない。本明細書で用いるところでは、用語「消火」および「抑制」は同じ意味で用いられるであろう。4つの一般的なタイプのハロカーボン火災および爆発防護用途がある。(1)トータル−フラッド消火および/または抑制用途では、試剤は、既存の火を消すまたは抑制するのに十分な濃度を達成するために空間へ吐出される。トータルフラッディング用途には、航空機エンジン室および車両でのエンジン室などの特殊な、しばしば占有されていない空間だけでなくコンピュータ室などの閉鎖された、潜在的に占有された空間の防護が含まれる。(2)ストリーミング用途では、試剤は火上へまたは火の領域へ直接適用される。これは通常、手動操作のホイール付きまたは持ち運びできるユニットを用いて成し遂げられる。ストリーミング用途として含まれる第2の方法は、試剤を1つまたは複数の固定ノズルから火に向けて吐出する「局在化」システムを用いる。局在化システムは手動でかまたは自動的にかのどちらかで活性化されてもよい。(3)爆発抑制では、本開示のフルオロオレフィン含有組成物は、既に開始した爆発を抑制するために吐出される。用語「抑制」は、爆発が通常自己限定的であるのでこの用途で一般に用いられる。しかしながら、この用語の使用は、爆発が試剤によって消滅されないことを必ずしも暗示しない。本出願では、検出器が通常爆発からの火柱の拡大を検出するために用いられ、試剤が爆発を抑制するために迅速に吐出される。爆発抑制は、防御用途で主として、しかし専らではなく用いられる。(4)不活性化(inertion)では、本開示のフルオロオレフィン含有組成物がある空間へ吐出されて爆発または火災が開始されるのを防ぐ。しばしば、トータル−フラッド消火または抑制のために用いられるものに類似のまたは同一のシステムが用いられる。通常、危険な状態(例えば、引火性または爆発性ガスの危険な濃度)の存在が検出され、本開示のフルオロオレフィン含有組成物が次に吐出されて状態が改善され得るまで爆発または火災が起こるのを防ぐ。
【0050】
消火方法は、火を取り囲む閉鎖区域へ組成物を導入することによって実施することができる。導入の公知方法のいずれかを、適切な量の組成物が適切な間隔で閉鎖区域へ計量供給されるという条件で利用することができる。例えば、組成物は、火を取り囲む閉鎖区域へ組成物を、例を挙げると、通常の持ち運びできる(または固定の)消火機器を用いて、ストリーミングすることによって、噴霧することによって、またはフラッディングすることによって、例を挙げると、放出することによって(適切な配管、バルブおよびコントロールを用いて)導入することができる。組成物は場合により、利用されるストリーミングまたはフラッディング機器からの組成物の吐出の速度を上げるために、不活性の噴射剤、例を挙げると、窒素、アルゴン、グリシジルアジドポリマーの分解生成物または二酸化炭素と組み合わせることができる。
【0051】
好ましくは、消火プロセスは、本開示のフルオロオレフィン含有組成物を火または火炎を消すのに十分な量で火または火炎に導入することを含む。当業者は、特定の火を消すために必要とされる火炎抑制剤の量は危険の性質および程度に依存することを認めるであろう。火炎抑制剤がフラッディングによって導入されるべきであるとき、カップバーナー試験データがある特定タイプおよびサイズの火を消すために必要とされる火炎抑制剤の量および濃度を決定するのに有用である。
【0052】
トータル−フラッド用途または火不活性化において火の消火または抑制と併せて使用されるときにフルオロオレフィン含有組成物の有効濃度範囲を測定するために有用な実験室試験は、例えば、米国特許第5,759,430号明細書に記載されている。
【実施例】
【0053】
実施例1
炭素質触媒上でのHFC−1225ye(E−およびZ−異性体)へのHFC−236eaの脱フッ化水素
HastelloyTMニッケル合金反応器(2.54cm外径×2.17cm内径×24.1cm長さ)に、実質的に米国特許第4,978,649号明細書に記載されているように製造した14.32g(25mL)の球形(8メッシュ)3次元マトリックス多孔性炭素質材料を装入した。反応器の充填部分を、反応器の外側に固定した5インチ×1インチのセラミックバンドヒーターによって加熱した。反応器壁とヒーターとの間に配置した熱電対が反応器温度を測定した。反応器に炭素質材料を装入した後、窒素(10ml/分、1.7×10−7/秒)を反応器に通し、温度を1時間の間に200℃に上げ、この温度にさらに4時間維持した。反応器温度を次に所望の操作温度に上げ、HFC−236eaおよび窒素の流れを、反応器を通して開始した。
【0054】
全反応器流出物の一部を、質量選択検出器を備えたガスクロマトグラフ(GC−MS)を用いる有機生成物分析のためにオンラインサンプリングした。結果を表1にまとめる。有機生成物およびまたHFなどの無機酸を含有する反応器流出物の大部分は、中和のために苛性水溶液で処理した。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2
冷却性能データ
表2は、純Z−1225yeと比べてE−1225yeとZ−1225yeとの様々な混合物についての冷却性能を示す。表2において、Evap Presはエバポレーター圧力であり、Cond Presは凝縮器圧力であり、Comp Disch Tは圧縮機吐出温度である。データは次の条件に基づいている。
エバポレーター温度: 40.0°F(4.4℃)
凝縮器温度: 110.0°F(43.3℃)
サブクール量: 10.0°F(5.5℃)
リターンガス温度: 60.0°F(15.6℃)
圧縮機効率は: 100%である。
過熱は冷却能力に含められていることに留意されたい。
【0057】
【表2】

【0058】
上のデータは、約40質量パーセント未満のE−1225yeの組成物が約10%未満の能力の損失を有することを示唆する。さらに、約15質量パーセント未満のE−1225yeの組成物は約3%未満の能力の損失を示す。最後に、約5質量パーセント未満のE−1225yeの組成物は約1%未満の能力の損失を有する。
【0059】
実施例3
蒸気漏洩の影響
25℃の温度で初期組成物を装入し、組成物の初期蒸気圧を測定する。初期組成物の50質量パーセントが除去されるまで、温度を一定に保持しながら、組成物を容器から漏洩させ、その時点で容器に残っている組成物の蒸気圧を測定する。算出された結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
元の組成物と50質量パーセントが除去された後に残った組成物との間の蒸気圧の差は、本発明の組成物について約10パーセント未満である。これは、約0.1質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1225yeおよび約99.9質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1225yeを含む組成物が共沸または近共沸組成物であることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約0.1質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンおよび約99.9質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含むA組成物を含む共沸または近共沸組成物。
【請求項2】
約60質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンおよび約40質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
約85質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンおよび約15質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
約95質量パーセント〜約99.9質量パーセントのZ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンおよび約5質量パーセント〜約0.1質量パーセントのE−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
フルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボン、炭化水素、ジメチルエーテル、CFI、二酸化炭素(CO)、およびアンモニアからなる群から選択される追加の化合物をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ハイドロフルオロカーボンが、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1,−ジフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、および1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
フルオロオレフィンが、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン;1,3,3,3−テトラフルオロプロペン;3,3,3−トリフルオロプロペン;および1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリオールエステル(POE)、ポリビニルエーテル(PVE)、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択される潤滑油をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペンについての冷凍能力の向上方法であって、E−異性体の量に対してZ−異性体の量を増やすことを含む方法。
【請求項10】
冷却しようとする物体の近傍で、請求項1に記載の組成物を蒸発させること、その後上記組成物を凝縮させることを含む冷却を生成させる方法。
【請求項11】
加熱しようとする物体の近傍で、請求項1に記載の組成物を凝縮させること、その後上記組成物を蒸発させることを含む、加熱を生成させる方法。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物を含む気泡発泡剤。
【請求項13】
(a)請求項1に記載の組成物を発泡性組成物に添加すること、
(b)気泡を形成するのに有効な条件下に発泡性組成物を反応させること
を含む気泡の形成方法。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物を含むスプレー可能な組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の組成物をエアゾール容器中の活性成分に加えることを含むエアゾール製品の製造方法であって、上記組成物が噴射剤として機能する方法。
【請求項16】
火炎を請求項1に記載の組成物を含む流体と接触させる工程を含む火炎の抑制方法。
【請求項17】
(a)請求項1に記載の組成物を含む試剤を備えること、
(b)該試剤を加圧吐出システムに配置すること、
(c)上記試剤をある区域へ吐出して当該区域で火を消すかまたは抑制すること
を含むトータル−フラッド適用における火の消火または抑制方法。
【請求項18】
(a)請求項1に記載の組成物を含む試剤を備えること、
(b)該試剤を加圧吐出システムに配置すること、
(c)上記試剤をある区域へ吐出して火災または爆発が起こるのを防ぐこと
を含む火災または爆発を防止するための区域の不活性化方法。

【公表番号】特表2010−513595(P2010−513595A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541355(P2009−541355)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/025383
【国際公開番号】WO2008/076272
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】