説明

ZAP−70相互作用分子の同定およびZAP−70の精製のための方法

本発明は、第一の局面において、(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、(c) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体を所与の化合物とともにインキュベーションする段階、および(d) 化合物が固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を分離できるかどうかを判定する段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法を提供する。第二の局面において、本発明は、(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、所与の化合物および固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、ならびに(c) 段階(b)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体を検出する段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法に関する。第三の局面において、本発明は、(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物の二つのアリコートを提供する段階、(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24と一方のアリコートを接触させる段階、(c) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、所与の化合物および固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24ともう一方のアリコートを接触させる段階、ならびに(d) 段階(b)および(c)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定する段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法を提供する。第四の局面において、本発明は、(a) リン酸化ZAP-70を含有する少なくとも一つの細胞をそれぞれ含む二つのアリコートを提供する段階、(b) 一方のアリコートを所与の化合物とともにインキュベーションする段階、(c) それぞれのアリコートの細胞を収集する段階、(d) タンパク質調製物を得るために細胞を溶解させる段階、(e) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、ならびに(f) 段階(e)においてそれぞれのアリコートで形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定する段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミノピリド-ピリミジンリガンド24をZAP-70のリガンドとして用いたZAP-70相互作用分子の同定法およびZAP-70の精製方法に関する。さらに、本発明は、例えば自己免疫疾患、炎症および移植拒絶反応のようなT細胞媒介性疾患の処置のための、前記の相互作用分子を含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼは、増殖因子、サイトカインまたはケモカインのような細胞外の介在物質または刺激に反応して細胞の活性化、増殖および分化を制御するシグナル伝達事象に関与している。一般に、これらのキナーゼは二つの群、つまりチロシン残基を選択的にリン酸化する群ならびにセリンおよび/またはスレオニン残基を選択的にリン酸化する群に分類される。チロシンキナーゼには、上皮増殖因子受容体(EGFR)のような膜貫通増殖因子受容体およびSrc、SykまたはZAP-70のような細胞質非受容体キナーゼが含まれる。
【0003】
不適切に高いプロテインキナーゼ活性は、がんおよび炎症性障害を含む多くの疾患に関与している。これは酵素の突然変異、過剰発現または不適切な活性化による制御機構の不全によって直接的にまたは間接的に引き起こされうる。これらの場合の全てで、キナーゼの選択的阻害は有益な効果を有するものと期待されている。
【0004】
プロテインチロシンキナーゼは、(受容体チロシンキナーゼも非受容体チロシンキナーゼもともに)免疫系の細胞の活性化および増殖に不可欠である。肥満細胞、T細胞およびB細胞での免疫受容体活性化によって検出可能な最も早い事象のなかには、非受容体チロシンキナーゼの刺激がある。高親和性IgE受容体(FcεRI)、T細胞抗原受容体(TCR)およびB細胞受容体のような免疫受容体は、抗原結合サブユニットおよびシグナル伝達サブユニットからなる。シグナル伝達鎖は免疫受容体チロシンに基づく活性化モチーフ(ITAMS)の一つまたは複数のコピーを含有する。TCR活性化の場合、CD3分子にあるITAMSが二つのSrcファミリーチロシンキナーゼLckおよびFynによってリン酸化された後に、チロシンキナーゼのSykファミリーの一員であるZAP-70が動員および活性化される。これらの活性化チロシンキナーゼが次いで、LAT (T細胞活性化のリンカー)およびSLP-76 (76 kDaのSH2ドメイン含有の白血球タンパク質)のような下流のアダプター分子をリン酸化する。この段階は誘導性T細胞キナーゼ(ITK)、PLCγ1およびPI3キナーゼのような、下流の複数のシグナル伝達分子の活性化を引き起こす(Wong, 2005, Current Opinion in Pharmacology 5, 1-8(非特許文献1))。
【0005】
ZAP-70 (70 kDaのゼータ関連タンパク質)はチロシンキナーゼのSykファミリーに属しており、T細胞受容体のゼータサブユニットと関連している(Chan et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9166-9170(非特許文献2); Weiss, 1993, Cell 73, 209-212(非特許文献3))。ZAP-70はT細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞において主に発現されており、TCRを通じたシグナル伝達において欠くことのできない役割を果たす。T細胞のTCR媒介性の活性化は免疫反応にとって重大である。T細胞活性化を十分に調節できないことで、アレルギーおよび自己免疫疾患につながりうる。それゆえ、ZAP-70はT細胞媒介性疾患のための免疫抑制剤の開発にとって魅力的な標的と考えられる。
【0006】
選択的ZAP-70阻害剤の同定のためのいくつかの手法が報告されている。Vuは、ZAP-70のタンデムSrc-相同性2 (SH2)ドメインのアンタゴニストの、構造に基づくデザインおよび合成を提案している(Vu, 2000, Curr. Med. Chem. 7(10), 1081-1100(非特許文献4))。NishikawaはZAP-70に結合する能力を求めてペプチドライブラリーをスクリーニングし、タンパク質基質と競合することによりZAPキナーゼ活性を阻害するペプチドを同定している(Nishikawa et al., 2000, Molecular Cell 6, 969-974(非特許文献5))。Moffatは非生理的基質polyGluTyrによるZAP-70キナーゼアッセイ法を使って、ZAP-70阻害剤を同定している(Moffat et al., 1999, Bioorg. Med. Chem. Letters 9, 3351-3356(非特許文献6))。さらに、スタウロスポリンとの複合体中のZAP-70キナーゼドメインの三次元構造が報告されており、構造に基づく阻害剤デザインの基礎として提案されている(Jin et al., 2004, J. Biol. Chem. 279(41), 42818-42825(非特許文献7))。
【0007】
ZAP-70およびTCRシグナル伝達でのその役割は1991年に既に発見されており(Chan et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9166-9170(非特許文献2))、そのすぐ後にT細胞媒介性疾患に対する必然の薬物標的として認識されているが、ZAP-70阻害剤は未だ薬物として承認されていない。選択的ZAP-70阻害剤を同定かつ開発できないことの理由の一つは、ZAP-70の生理型が活性化T細胞に存在する場合に、それと相互作用する化合物を同定するのに有効なアッセイ法がないことである。
【0008】
上記を考慮すると、ZAP-70相互作用化合物の同定に有効な方法およびZAP-70の精製に有効な方法を提供することが必要である。
【0009】
【非特許文献1】Wong, 2005, Current Opinion in Pharmacology 5, 1-8
【非特許文献2】Chan et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 9166-9170
【非特許文献3】Weiss, 1993, Cell 73, 209-212
【非特許文献4】Vu, 2000, Curr. Med. Chem. 7(10), 1081-1100
【非特許文献5】Nishikawa et al., 2000, Molecular Cell 6, 969-974
【非特許文献6】Moffat et al., 1999, Bioorg. Med. Chem. Letters 9, 3351-3356
【非特許文献7】Jin et al., 2004, J. Biol. Chem. 279(41), 42818-42825
【発明の開示】
【0010】
この需要に応じるため、本発明は第一の局面において、以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法を提供する:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、
(c) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体を所与の化合物とともにインキュベーションする段階、および
(d) 化合物が固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を分離できるかどうかを判定する段階。
【0011】
第二の局面において、本発明は以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法に関する:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、所与の化合物および固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、ならびに
(c) 段階(b)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体を検出する段階。
【0012】
第三の局面において、本発明は以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法を提供する:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物の二つのアリコートを提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24と一方のアリコートを接触させる段階、
(c) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、所与の化合物および固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24ともう一方のアリコートを接触させる段階、ならびに
(d) 段階(b)および(c)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定する段階。
【0013】
第四の局面において、本発明は以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定法に関する:
(a) リン酸化ZAP-70を含有する少なくとも一つの細胞をそれぞれ含む二つのアリコートを提供する段階、
(b) 一方のアリコートを所与の化合物とともにインキュベーションする段階、
(c) それぞれのアリコートの細胞を収集する段階、
(d) タンパク質調製物を得るために細胞を溶解させる段階、
(e) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、ならびに
(f) 段階(e)においてそれぞれのアリコートで形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定する段階。
【0014】
本発明の文脈において、驚いたことに、アミノピリド-ピリミジンリガンド24はリン酸化ZAP-70を好ましく認識するZAP-70リガンドであることが分かった(図2参照)。これによりスクリーニングアッセイでの、例えば、競合的スクリーニングアッセイでのおよびリン酸化ZAP-70の精製方法でのアミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用が可能になる。
【0015】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24の構造を図1に示す。この化合物(7-(4-アミノメチル-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン)は、置換アミノピリド-ピリミジン化合物である。アミノピリド-ピリミジンリガンド24は第一級アミノ基を介して適当な固体支持体材料に共有結合し、結合タンパク質の単離に使用されうる。アミノピリド-ピリミジンリガンド24の合成は実施例1に記述されている。本発明によれば、「アミノピリド-ピリミジンリガンド24」という表現は、コア、例えば、Klutchkoおよび同僚(Klutchko et al., 1998, J. Med. Chem. 41(17) :3276-3292)によって記述されているのと同一のピリド[2,3]ピリミジンコア構造を含むが、固体支持体への結合のため、環状構造の一部ではないアミノ基にカップリングされていることが好ましい、別のリンカーを有する化合物も含む。典型的には、リンカーは8、9または10原子の骨格を有する。リンカーはカルボキシ、ヒドロキシまたはアミノ活性基を含んでもよい。
【0016】
それゆえ、好ましくは「アミノピリド-ピリミジンリガンド24」という表現は、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボキシ基により置換されてもよい例えば1〜15個のC原子を有するアルキルにより7-フェニルアミノの4位で置換されてもよい、および、例えば1〜15個のC原子を有するアルキルにより1H-[1,6]ナフチリジン-2-オンのN原子の1H位でさらに置換されてもよい、同じ(7-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン)コアを有する化合物も含む。より好ましくは「アミノピリド-ピリミジンリガンド24」という表現は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボキシ基により置換されてもよい例えば1〜15個のC原子を有するアルキルにより7-フェニルアミノの4位、および例えば1〜15個のC原子を有するアルキルにより1H-[1,6]ナフチリジン-2-オンの1H位でしか置換されない、同じ(7-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン)コアを有する化合物も含む。
【0017】
より好ましくは「アミノピリド-ピリミジンリガンド24」と表される化合物は、(7-(4-アミノメチル-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン)からなる、ならびに、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボキシ基により置換されてもよい例えば1〜15個のC原子を有するアルキルにより7-フェニルアミノの4位および例えば1〜15個のC原子を有するアルキルにより1H-[1,6]ナフチリジン-2-オンの1H位でしか置換されない、同じ(7-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン)コアを有する化合物からなる群より選択される。
【0018】
ピリド[2,3]ピリミジン誘導体は、受容体チロシンキナーゼ(血小板由来増殖因子受容体、PDGFR; 線維芽細胞増殖因子受容体、FGFR; 上皮細胞増殖因子受容体、EGFR)および非受容体チロシンキナーゼc-Src (Klutchko et al., 1998, J. Med. Chem. 41(17): 3276-3292)のATP競合的阻害剤として最初に記述された。その後に、PD173955化合物はBcr-Abl融合タンパク質およびc-Kit受容体チロシンキナーゼを強力に阻害し(Wisniewski et al., 2002, Cancer Research 62, 4244-4255)、同様に未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)を強力に阻害した(Gunby et al., 2006, J. Med. Chem. 49(19):5759-5768)ことが報告されている。
【0019】
化学プロテオミクス研究において、固定化されたピリド[2,3-d]ピリミジンリガンドは30を超えるヒトプロテインキナーゼと相互作用し、かつp38キナーゼもRICKキナーゼもともに強力に阻害したことが分かっている(Wissing et al., 2004, Mol. Cell. Proteomics 3(12): 1181-1193)。独立したプロテオミクス研究において、固定化されたPD173955化合物はいくつかのエフリン受容体チロシンキナーゼと相互作用することが認められた(WO2006/056467A1)。さらに別の刊行物により、この化合物はエフリン受容体のキナーゼ活性を強力に阻害することが実証されている(Caligiuri et al., 2006, Chemistry & Biology 13, 711-722)。
【0020】
本発明によれば、「ZAP-70」という表現は、図4に示されるヒトタンパク質を意味するだけでなく、機能的に活性なその誘導体、または機能的に活性なその断片、もしくはその相同体、あるいは低ストリンジェントな条件の下で前記タンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸によってコードされる変異体も意味する。好ましくは、これらの低ストリンジェントな条件は、35%ホルムアミド、5×SSC、50 mMトリス-HCl (pH 7.5)、5 mM EDTA、0.02% PVP、0.02% BSA、100 μg/ml変性サケ精子DNAおよび10% (wt/vol)硫酸デキストランを含む緩衝液中40℃で18〜20時間のハイブリダイゼーション;2×SSC、25 mMトリス-HCl (pH 7.4)、5 mM EDTAおよび0.1% SDSからなる緩衝液中55℃で1〜5時間の洗浄;ならびに2×SSC、25 mMトリス-HCl (pH 7.4)、5 mM EDTAおよび0.1% SDSからなる緩衝液中60℃で1.5時間の洗浄を含む。
【0021】
本発明のいくつかの局面においては、最初に、リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する。本発明の方法は、リン酸化ZAP-70が調製物中で可溶化される限り、任意のタンパク質調製物を出発材料として用いることができる。例としてはいくつかのタンパク質の液体混合物、細胞溶解物、起源細胞に存在する全てのタンパク質を含有するわけではない部分的な細胞溶解物またはいくつかの細胞溶解物の組み合わせが挙げられる。
【0022】
関心対象のタンパク質調製物におけるリン酸化ZAP-70タンパク質種の存在は、ZAP-70リン酸化部位、例えば126位、292位、319位、492位または493位のリン酸化チロシン残基に対して特異的に作製された抗体によりプローブしたウエスタンブロットにて検出することができる(Watts et al., 1994, The Journal of Biological Chemistry 269(4), 29520-29529)。リン酸化セリンまたはスレオニンに対する抗体を使用することもできる。そのようなホスホ特異的抗ZAP-70抗体は商業的供給業者(例えばUpstateまたはCell Signaling)から得ることができる。リン酸化ZAP-70を検出するのにウエスタンブロット分析とともにそのような抗ホスホ抗体を使用することは、記述されている(Houtman et al., 2005, The Journal of Immunology 175(4), 2449-2458)。
【0023】
細胞小器官(例えば、核、ミトコンドリア、リボソーム、ゴルジなど)を最初に単離し、次いでこれらの小器官に由来するタンパク質調製物を調製することにより、細胞溶解物または部分的な細胞溶解物を得ることができる。細胞小器官の単離方法は当技術分野において公知である(「Current Protocols in Protein Science」, Editors: John.E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield; Wiley, ISBN: 0-471-14098-8中の第4.2章 Purification of Organelles from Mammalian Cells)。
【0024】
さらに、タンパク質調製物は、細胞質タンパク質または膜タンパク質のような特定タイプのタンパク質を濃縮する細胞抽出物の分画化により調製することができる(「Current Protocols in Protein Science」, Editors: John.E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield; Wiley, ISBN: 0-471-14098-8中の第4.3章 Subcellular Fractionation of Tissue Culture Cells)。
【0025】
さらに、体液由来のタンパク質調製物を使用することができる(例えば、血液、脳脊髄液、腹腔液および尿)。
【0026】
例えば、線虫(C. elegans)のようなモデル生物の規定の発達期または成虫期に由来する胚溶解物全体を使用することができる。さらに、マウスから切除された心臓のような臓器全体をタンパク質調製物の供給源とすることができる。タンパク質調製物を得るために、これらの臓器をインビトロで灌流することもできる。
【0027】
さらに、タンパク質調製物は、組換えにより産生されたリン酸化ZAP-70を含有する調製物であってもよい。原核細胞および真核細胞における組換えタンパク質の産生方法は、広く確立されている(「Current Protocols in Protein Science」, Editors: John. E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield; Wiley, 1995, ISBN: 0-471-14098-8中の第5章 Production of Recombinant Proteins)。
【0028】
本発明の方法の好ましい態様において、タンパク質調製物の提供には、リン酸化ZAP-70を含有する少なくとも一つの細胞を収集する段階および細胞を溶解させる段階が含まれる。
【0029】
ZAP-70タンパク質はTリンパ球およびナチュラルキラー(NK)細胞において選択的に発現される。それゆえ、末梢血から単離される細胞は、適当な生物材料の代表である。末梢血(PBL)から得られるヒトリンパ球およびリンパ球亜集団の調製および培養の手順は、広く知られている(Current Protocols in Cell Biology, 1998, John Wiley & Sons, Inc.中のW.E Biddison, 第2.2章「Preparation and culture of human lymphocytes」)。例えば、密度勾配遠心分離法は他の血球集団(例えば赤血球および顆粒球)からのリンパ球の分離方法である。ヒトリンパ球亜集団は、モノクローナル抗体によって認識されうるその特異的な細胞表面受容体を介して単離することができる。物理的分離法には、これらの抗体が結合する細胞の濃縮(正の選択)を可能にする磁気ビーズへのこれらの抗体試薬のカップリングが必要になる。単離したリンパ球細胞をさらに培養し、T細胞受容体またはCD-3のような共受容体に対する抗体を加えることにより刺激して、T細胞受容体シグナル伝達、引き続きZAP-70のリン酸化を惹起することができる(Houtman et al., 2005, The Journal of Immunology 175(4), 2449-2458)。
【0030】
初代ヒト細胞の代用として、培養細胞株(例えばJurkat細胞)を使用し、抗CD3抗体により同じように刺激して、リン酸化ZAP-70を得ることができる(Kim and White, 2006, The Journal of Immunology 176(5):2833-2843)。
【0031】
あるいは、ZAP-70をそのリン酸化状態で保持するために、リンパ球または細胞株をホスファターゼ阻害剤とともにインキュベーションすることも可能である。そのような方法は当技術分野において公知である(Current Protocols in Molecular Biology, 2003, John Wiley & Sons, Inc.中のD. C. Weiser and S. Shenolikar, 第18.10章)。
【0032】
好ましい態様において、細胞は細胞培養系の一部であり、細胞培養系からの細胞の収集方法は当技術分野において公知である(上記文献)。
【0033】
細胞の選択はZAP-70の発現に依るところが大きいであろう。なぜなら、前記タンパク質が選択細胞中に主に存在することが確実にされなければならないからである。所与の細胞が本発明の方法に適した出発系であるかどうかを判定するために、ウエスタンブロット法、PCRに基づく核酸検出法、ノザンブロット法およびDNAマイクロアレイ法(「DNAチップ」)のような方法は、所与の対象タンパク質が細胞に存在するかどうかを判定するのに適しているであろう。
【0034】
細胞の選択は研究の目的に影響されることもある。所与の薬物のインビボでの効力を分析する必要があるなら、所望の治療効果が現れる細胞または組織を選択することができる(例えばT細胞、NK細胞またはZAP-70陽性のCLL細胞)。対照的に、望ましくない副作用を仲介するタンパク質標的の解明の場合、副作用が認められる細胞または組織を分析することができる(例えば骨髄、胸腺)。
【0035】
さらに、リン酸化ZAP-70を含有する細胞は例えば生検により生物から得られることが、本発明の範囲内で想定される。対応する方法は当技術分野において公知である。例えば生検は、少量の組織を得るために用いられる診断手順であり、その組織を次いで、顕微鏡または生化学的方法により検査することができる。生検は疾患を診断、分類および病期分類するために重要であるが、薬物処置を評価およびモニターするためにも重要である。
【0036】
少なくとも一つの細胞の収集により、溶解が同時に行われることが本発明の範囲内で想定される。しかしながら、細胞をまず収集し、次いで別々に溶解させることも同様に好ましい。
【0037】
細胞の溶解方法は当技術分野において公知である(Karwa and Mitra: Sample preparation for the extraction, isolation, and purification of Nuclei Acids; 「Sample Preparation Techniques in Analytical Chemistry」中の第8章, Wiley 2003, Editor: Somenath Mitra, 印刷物ISBN: 0471328456; オンラインISBN: 0471457817)。異なる細胞型および組織の溶解は、ホモジナイザー(例えばPotterホモジナイザー)、超音波破砕器、酵素溶解、界面活性剤(例えばNP-40、Triton X-100、CHAPS、SDS)、浸透圧ショック、凍結融解の繰り返し、またはこれらの方法の組み合わせによって達成することができる。
【0038】
本発明の方法によれば、リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を、アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24と接触させる。
【0039】
本発明において、「アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体」という用語は、アミノピリド-ピリミジンリガンド24が、例えば共有結合により、または最も好ましくは非共有結合により、ZAP-70と相互作用している複合体を意味する。
【0040】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にするために、どの条件を適用できるかを当業者は承知しているであろう。
【0041】
本発明の文脈において、「複合体の形成を可能にする条件の下で」という用語は、このような形成、好ましくはこのような結合が可能である全ての条件を含む。これには、固定化相に固体支持体を有する可能性および溶解物をそれに流し込む可能性が含まれる。別の好ましい態様において、固体支持体が微粒子型であり、細胞溶解物と混合されることも含まれる。
【0042】
非共有結合の文脈において、アミノピリド-ピリミジンリガンド24とリン酸化ZAP-70との間の結合は、例えば、塩橋、水素結合、疎水性相互作用またはその組み合わせによるものである。
【0043】
好ましい態様において、アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成の段階は、本質的に生理学的な条件の下で行われる。細胞内のタンパク質の物理的条件はPetty, 1998 (Howard R. Petty1, Chapter 1, Unit 1.5: Juan S. Bonifacino, Mary Dasso, Joe B. Harford, Jennifer Lippincott-Schwartz, and Kenneth M. Yamada (eds.) Current Protocols in Cell Biology Copyright (著作権) 2003 John Wiley & Sons, Inc.中。無断複写・転載を禁ずる。DOI: 10.1002/0471143030.cb0101s00 オンライン郵送日: 2001年5月 印刷物刊行日: 1998年10月)に記述されている。
【0044】
本質的に生理学的な条件の下での接触には、リガンド、細胞調製物(すなわち、特徴決定されるべき酵素)および任意で化合物の間の相互作用が、可能な限り自然条件を反映するという利点が有る。「本質的に生理学的な条件」とは、とりわけ元の未処理試料材料において見られる条件である。それらには生理学的タンパク質濃度、pH、塩濃度、緩衝能および関与するタンパク質の翻訳後修飾が含まれる。「本質的に生理学的な条件」という用語は、試料が由来する元の生きている生物における条件と同一の条件を要しないが、本質的には細胞様条件または細胞条件に近い条件を要する。当業者は、当然ながら、それほど細胞様でない条件を最終的にはもたらす実験設定によって、ある種の制約が生じうることを理解するであろう。例えば、生物から試料を採取および処理する際の細胞壁または細胞膜の最終的に必要な破壊には、生物に見出される生理学的条件と同一でない条件が必要とされることがある。本発明の方法を実践するのに適した生理学的条件の変動は、当業者には明らかであり、本明細書において用いられる「本質的に生理学的な条件」という用語によって包含される。要約すれば、「本質的に生理学的な条件」という用語は、例えば自然細胞に見出されるような生理学的条件に近い条件に関するが、しかしこれらの条件が同一であることを必ずしも必要としないことが理解されるべきである。
【0045】
例えば、「本質的に生理学的な条件」は50〜200 mM NaClまたはKCl、pH 6.5〜8.5、20〜45℃および0.001〜10 mM二価陽イオン(例えばMg++、Ca++); より好ましくは約150 mM NaClまたはKCl、pH 7.2〜7.6、5 mM二価陽イオンを含んでもよく、0.01〜1.0パーセントの非特異的タンパク質(例えばBSA)を含むことも多い。非イオン性界面活性剤(Tween、NP-40、Triton-X100)は、通常は約0.001〜2%、典型的には0.05〜0.2% (容積/容積)で存在できることが多い。一般的手引きについては、以下の緩衝水性条件が適用可能でありうる: 10〜250 mM NaCl、5〜50 mMトリスHCl、pH 5〜8、任意で二価陽イオンおよび/または金属キレート剤および/または非イオン性界面活性剤が加えられてもよい。
【0046】
好ましくは、「本質的に生理学的な条件」とは6.5〜7.5、好ましくは7.0〜7.5のpH、および/または10〜50 mM、好ましくは25〜50 mMの緩衝液濃度、および/または120〜170 mM、好ましくは150 mMの一価塩(例えばNaもしくはK)の濃度を意味する。二価塩(例えばMgまたはCa)はさらに、1〜5 mM、好ましくは1〜2 mMの濃度で存在してもよく、この場合に緩衝液はトリス-HClまたはHEPESからなる群より選択されることがより好ましい。
【0047】
本発明の文脈において、アミノピリド-ピリミジンリガンド24は固体支持体に固定化される。本発明の全体を通じて、「固体支持体」という用語は、小分子リガンドをその表面に固定化できるあらゆる非溶解支持体に関する。
【0048】
さらなる好ましい態様によれば、固体支持体は、アガロース、修飾アガロース、セファロースビーズ(例えば、NHS活性化セファロース)、ラテックス、セルロース、および強磁性粒子またはフェリ磁性粒子からなる群より選択される。
【0049】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24は固体支持体に共有結合または非共有結合してもよい。非共有結合には、ストレプトアビジンマトリックスに結合するビオチン親和性リガンドを介した結合が含まれる。
【0050】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24は固体支持体に共有結合することが好ましい。
【0051】
結合の前に、マトリックスは、アミノピリド-ピリミジンリガンド24との結合反応を可能にするようNHS、カルボジイミドなどの活性基を含有することができる。アミノピリド-ピリミジンリガンド24は直接的な結合により(例えば、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基およびケトン基のような官能基を用いて)ならびに間接的な結合により(例えば、ビオチン、アミノピリド-ピリミジンリガンド24に共有結合的に付着しているビオチンおよび直接的に固体支持体に結合しているストレプトアビジンへのビオチンの非共有結合を介して)固体支持体に結合することができる。
【0052】
固体支持体材料への連結には開裂性および非開裂性のリンカーを伴うこともできる。開裂は酵素的開裂または適当な化学的方法での処理によって達成することができる。
【0053】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24を固体支持体材料に結合させるのに好ましい結合界面は、C原子骨格を有するリンカーである。典型的には、リンカーは8、9または10原子の骨格を有する。リンカーはカルボキシまたはアミノ活性基のいずれかを含有する。
【0054】
本発明の方法の個々の段階の間に、洗浄段階が必要でありうることを当業者は理解するであろう。このような洗浄は当業者の知識の一部である。洗浄は細胞溶解物の非結合成分を固体支持体から除去する働きをする。低レベルの界面活性剤を加えることにより、または洗浄用緩衝液中の塩濃度を中程度に調整することにより非特異的(例えば、単純なイオン)結合相互作用を最小限にすることができる。
【0055】
本発明の同定法によれば、読出しの系は、リン酸化ZAP-70の検出もしくは測定(本発明の第一の局面)、アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の検出(本発明の第二の局面)、またはアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量の測定(本発明の第二、第三および第四の局面)のいずれかである。
【0056】
本発明の第一の局面による方法において、分離されたリン酸化ZAP-70の検出または測定は、化合物が固定化アミノピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を分離できるという事実を示していることが好ましい。この能力は各化合物がZAP-70と相互作用する、好ましくはZAP-70に結合することを示唆し、これによってその治療可能性が示される。
【0057】
本発明の第二の局面による方法の一つの態様において、本発明の方法の際に形成されるアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体が検出される。そのような複合体が形成されるという事実により、化合物が複合体の形成を完全には阻害しないことが示唆されるのが好ましい。その一方で、複合体が形成されないなら、化合物はおそらくZAP-70との強力な相互作用因子であり、これによってその治療可能性が示される。
【0058】
本発明の第二、第三および第四の局面の方法によれば、本方法の際に形成されるアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量が測定される。一般に、各化合物の存在下において形成される複合体が少ないほど、各化合物はリン酸化ZAP-70とそれだけ強力に相互作用し、これによってその治療可能性が示される。
【0059】
本発明の第二の局面によるアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の検出は、リン酸化ZAP-70に対する標識抗体および適当な読出し装置を用いることによって行うことができる。
【0060】
本発明の第二の局面の好ましい態様によれば、アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体は、その量を測定することによって検出される。
【0061】
本発明の第二、第三および第四の局面の過程では、アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定するためにリン酸化ZAP-70が固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24から分離されることが好ましい。
【0062】
本発明によれば、分離とはアミノピリド-ピリミジンリガンド24とリン酸化ZAP-70との間の相互作用を壊すあらゆる作用を意味する。これには、好ましい態様において、固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からのリン酸化ZAP-70の溶出が含まれる。
【0063】
溶出は以下で詳述されるように非特異的試薬(イオン強度、pH値、界面活性剤)を用いることにより達成することができる。さらに、関心対象の化合物がアミノピリド-ピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を特異的に溶出できるかどうかを試験することができる。そのようなZAP-70相互作用化合物を以下の項でさらに記述する。
【0064】
相互作用を壊すためのそのような非特異的方法は、当技術分野において主に公知であり、リガンド酵素相互作用の性質に依る。主として、イオン強度、pH値、温度の変化または界面活性剤とのインキュベーションは、標的酵素を固定化リガンドから解離させるのに適した方法である。溶出用緩衝液の適用では、pH値の極端化(高もしくは低pH; 例えば、0.1 Mクエン酸, pH 2〜3の使用によるpHの低下)、イオン強度の変化(例えばNaI、KI、MgCl2もしくはKClによる高塩濃度)、疎水性相互作用を壊す極性低下剤(例えば、ジオキサンもしくはエチレングリコール)または変性剤(カオトロピック塩もしくはドデシル硫酸ナトリウム、SDSのような界面活性剤; 総説: Subramanian A., 2002, Immunoaffinity chromatography)により結合パートナーを解離することができる。
【0065】
場合により、固体支持体は、好ましくは、放出された材料から分離されなければならない。これに関する個々の方法は固体支持体の性質に依り、当技術分野において公知である。支持体材料がカラム内に含有されるなら、放出された材料はカラムの素通りとして回収することができる。支持体材料が溶解物成分と混合される場合(いわゆるバッチ手順)では、穏やかな遠心分離のような、さらなる分離段階が必要になることもあり、放出された材料は上清として回収される。あるいは、磁気装置の使用によって試料からビーズを除去できるように、磁気ビーズを固体支持体として使用してもよい。
【0066】
本発明の第一の局面による方法の段階(d)において、リン酸化ZAP-70が固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24から分離されたかどうかが判定される。これにはリン酸化ZAP-70の検出またはリン酸化ZAP-70の量の測定を含むことができる。
【0067】
その結果、少なくとも本発明の全ての同定法の好ましい態様において、分離されたリン酸化ZAP-70の検出のためのまたはその量の測定のための方法が使用される。そのような方法は当技術分野において公知であり、物理化学的方法、例えばタンパク質配列決定(例えばエドマン分解)法、質量分析法による分析またはリン酸化ZAP-70に対する抗体を利用した免疫検出法を含む。
【0068】
好ましくは、質量分析法または免疫検出法により、リン酸化ZAP-70が検出されるか、またはリン酸化ZAP-70の量が測定される。
【0069】
質量分析法によるタンパク質の同定は当技術分野において公知であり(Shevchenko et al., 1996, Analytical Chemistry 68: 850-858, (Mann et al., 2001, Analysis of proteins and proteomes by mass spectrometry, Annual Review of Biochemistry 70, 437-473)、実施例の項でさらに例示する。
【0070】
好ましくは、質量分析法は、例えばiTRAQ技術(相対的および絶対的数量化のための同重体タグ)またはcICAT (開裂性同位体によってコードされた親和性タグ)の使用により、定量的に行われる(Wu et al., 2006. J. Proteome Res. 5, 651-658)。
【0071】
本発明のさらに好ましい態様によれば、質量分析(MS)法による特徴決定は、リン酸化ZAP-70のプロテオタイピックペプチドの同定によって行われる。リン酸化ZAP-70をプロテアーゼで消化し、生じたペプチドをMS法によって測定するという考えである。結果として、同じ供給源のタンパク質からのペプチドに対するペプチド頻度はかなり異なっており、このタンパク質の同定に「典型的に」寄与する、最も多く見られるペプチドが「プロテオタイピック(proteotypic)ペプチド」と呼ばれる。それゆえ、本発明において用いられるプロテオタイピックペプチドは、特定のタンパク質またはタンパク質アイソフォームを一意的に同定する、実験により多く認められるペプチドである。
【0072】
好ましい態様によれば、特徴決定は、本発明の方法を実践する過程で得られたプロテオタイピックペプチドを公知のプロテオタイピックペプチドと比較することにより行われる。MS法においてタンパク質を同定するためにプロテアーゼ消化によって調製された断片を用いる場合、通常は、同じプロテオタイピックペプチドが所与の酵素に対して認められるので、所与の試料に対して得られたプロテオタイピックペプチドを所与の酵素群の酵素に対して既知のプロテオタイピックペプチドと比較し、それによって試料中に存在している酵素を同定することが可能である。
【0073】
質量分析の代用として、リン酸化ZAP-70に対する特異抗体の使用により、好ましくはリン酸化ZAP-70の493位でのチロシンリン酸化を認識する抗体により、溶出したリン酸化ZAP-70 (共溶出した結合パートナーまたは足場タンパク質を含む)を検出することができ、またはその量を測定することができる。そのような抗体は当技術分野において公知である(Cell Signaling Technologies, #2704)。
【0074】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24はリン酸化ZAP-70を選択的に認識するので、ZAP-70の非リン酸化エピトープを認識する抗ZAP-70抗体を用いることも可能である。
【0075】
さらに、別の好ましい態様において、共溶出した結合パートナーの同一性が質量分析によって確立されたら、このタンパク質に対する特異抗体によりそれぞれの結合パートナーを検出することができる。
【0076】
抗体に基づく適当なアッセイ法はウエスタンブロット、ELISAアッセイ法、サンドイッチELISAアッセイ法および抗体アレイまたはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。このようなアッセイ法の確立は当技術分野において公知である(Chapter 11, Immunology, 11-1〜11-30頁: Short Protocols in Molecular Biology. Fourth Edition, F.M. Ausubel et al編, Wiley, New York, 1999中)。
【0077】
これらのアッセイ法は関心対象のZAP-70相互作用タンパク質(例えば、ZAP-70の基質であるLATのような別のキナーゼ)を検出かつ定量化するように構成されるだけでなく、ユビキチン修飾のような翻訳後修飾パターンを分析するように構成されることもできる。
【0078】
さらに、本発明の同定法は、ZAP-70相互作用化合物である能力について試験される化合物の使用を伴う。
【0079】
主として、本発明によれば、そのような化合物は、例えばアミノピリド-ピリミジンリガンド24へのZAP-70の結合を阻害することにより、ZAP-70と相互作用できるあらゆる分子でありうる。好ましくは、化合物はZAP-70に対する効果、例えば刺激効果または阻害効果を有する。
【0080】
好ましくは、前記化合物は、合成もしくは天然化合物または有機合成薬物、より好ましくは、小分子、有機薬物または天然小分子化合物からなる群より選択される。前記化合物は、このような化合物を含有するライブラリから始めて、同定されることが好ましい。次いで、本発明の過程において、そのようなライブラリをスクリーニングする。
【0081】
そのような小分子は、タンパク質または核酸でないことが好ましい。好ましくは、小分子は1000 Da未満、より好ましくは750 Da未満、最も好ましくは500 Da未満の分子量を示す。
【0082】
本発明による「ライブラリ」とは、異なる個々の実体の迅速な機能分析(スクリーニング)も同時にライブラリを形成する個々の実体の迅速な同定もともに可能にする、分類された形で供与される(多数の)異なる化学的実体の(たいていは大きな)コレクションに関する。例としては、高処理の様式で、相互作用する可能性のある一つまたは複数の規定のパートナーとの反応の中に添加されうる化合物を含有する試験管またはウェルまたは表面上のスポットのコレクションが挙げられる。両パートナーの望ましい「正の」相互作用の同定後に、ライブラリ構築によって各化合物を迅速に同定することができる。当業者は合成および天然起源のライブラリを購入することもまたはデザインすることもできる。
【0083】
ライブラリの構築の例は、例えば、Breinbauer R, Manger M, Scheck M, Waldmann H. Natural product guided compound library development. Curr Med Chem. 2002 Dec;9(23):2129-45に示されており、その中には組み合わせライブラリ設計のための生物学的に確証された出発点である天然産物が記述されているが、これはそれらが生物学的関連性の記録の証明を有するからである。医薬品化学および化学生物学における天然産物のこの特別な役割を、構造生物学および生物情報学によって得たタンパク質のドメイン構造に関する新たな洞察の観点から解釈することができる。ドメインファミリー内の個々の結合ポケットの特定要件を満たすためには、化学的変動により天然産物の構造を最適化することが必要になるかもしれない。固相化学はこの最適化過程に有効な手段になると言われており、この分野における最近の進歩はこの総説のなかで強調されている。他の関連する参考文献のなかにはEdwards PJ, Morrell AI. Solid-phase compound library synthesis in drug design and development. Curr Opin Drug Discov Devel. 2002 Jul;5(4):594-605.; Merlot C, Domine D, Church DJ. Fragment analysis in small molecule discovery. Curr Opin Drug Discov Devel. 2002 May;5(3):391-9. Review; Goodnow RA Jr. Current practices in generation of small molecule new leads. J Cell Biochem Suppl. 2001 ;Suppl 37:13-21があり; 多くの製薬会社での現行の創薬過程では高処理スクリーニングアッセイ法で用いる高品質なリード構造のコレクションが大きくかつ増え続けている必要があるとしている。多様な構造および「薬物様」特性を有する小分子のコレクションは、これまで、以下のいくつかの手段により: これまでの内部でのリード最適化の努力の記録により、化合物供給元からの購入により、および会社合併に続く別々のコレクションの統合により、獲得されてきた。高処理/組み合わせ化学は、新たなリード創出の過程における重要な要素であると記述されているが、合成用のライブラリ設計の選択およびそれに続くライブラリメンバーの設計は新たな難易度および重要度に進展している。複数の生物学的標的に対して複数の小分子化合物のライブラリ設計をスクリーニングすることの潜在的な利益により、新たなリード構造を発見する実質的な機会が得られる。
【0084】
本発明の第二の局面の好ましい態様において、リン酸化ZAP-70をまず化合物と、次いで固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24とインキュベーションする。
【0085】
好ましくは、リン酸化ZAP-70をまず化合物と4℃〜37℃、より好ましくは4℃〜25℃、最も好ましくは4℃の温度で10〜60分間、より好ましくは30〜45分間、インキュベーションする。好ましくは、化合物を1 μM〜1 mM、好ましくは10〜100 μMに及ぶ濃度で使用する。固定化リガンドと接触させる第二の段階は、4℃で10〜60分間行われることが好ましい。
【0086】
さらに、本発明の第二の局面の段階(a)〜(c)は、異なる化合物を試験するためにいくつかのタンパク質調製物で行われてもよい。この態様は中処理スクリーニングまたは高処理スクリーニングに関連してとりわけ興味深い(下記参照)。
【0087】
第三または第四の局面による本発明の方法の好ましい態様において、段階(c)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を段階(b)において形成された量と比べる。
【0088】
第三または第四の局面による本発明の方法の好ましい態様において、段階(b)に比べて段階(c)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量が減少したことにより、リン酸化ZAP-70が化合物の標的であることが示唆される。これは、本発明の本方法の段階(c)において、化合物がリン酸化ZAP-70の結合に関してリガンドと競合するという事実に起因する。化合物とともにインキュベーションされたアリコートにおいてリン酸化ZAP-70の存在量が少ないならば、このことは好ましくは、化合物が酵素との相互作用に関して阻害剤と競合しており、かつしたがってこれは該酵素の直接的な標的であり、逆の場合もまた同様であることを意味する。
【0089】
好ましくは、本発明の同定法は中処理スクリーニングまたは高処理スクリーニングとして行われる。
【0090】
本発明により同定された相互作用化合物は、これがZAP-70活性に対する、例えばそのキナーゼ活性に対する効果を有するかどうかを測定することによってさらに特徴決定することができる(Isakov et al., The Journal of Biological Chemistry 271(26), 15753-15761)。
【0091】
本発明により同定された相互作用化合物がT細胞受容体(TCR)シグナル伝達に対する効果を有するかどうかを、T細胞株または初代T細胞を用いた細胞に基づくアッセイ法において測定することによって、これを特徴決定することもできる。TCRシグナル伝達によって惹起される細胞の活性化は、CD3ゼータ(CD3ζ)鎖のチロシンリン酸化、ZAP-70の動員、ホスホリパーゼガンマ(PLCγ)のリン酸化、イノシトール1,4,5-三リン酸の産生および小胞体から細胞質へのカルシウム貯蔵物の放出を含む一連の分子事象の結果として起こる。TCR刺激後に細胞質カルシウムに対する蛍光指示薬を用いて細胞内カルシウム放出を測定する方法が記述されている(Meinl et al., 2000, J. Immunol. 165(7):3578-3583)。
【0092】
古典的なTCRシグナル伝達モデルによれば、CD3ζ鎖およびZAP-70はLckキナーゼの基質であり、その一方でSLP76、LATおよびPLCガンマはZAP-70の下流にある(Schwartzberg et al. 2005, Nat. Rev. Immunology 5, 284-295)。ZAP-70の活性は下流の標的の特異的なリン酸化事象を特異的な抗ホスホ-チロシン抗体で検出することにより評価することができる。例えばZAP-70は「T細胞活性化のリンカー」(LAT)タンパク質を191位のチロシン残基でリン酸化し、これを抗pTyr 191抗体によって検出することができる(Houtman et al., 2005, J. Immunol. 175(4): 2449-2458)。このアッセイ法は、ZAP-70活性の読出しとしてまたはキナーゼZAP-70活性に対するZAP-70相互作用化合物の効果を測定するのに使用することができる。
【0093】
本発明により同定された化合物をさらに最適化(リード最適化)してもよい。そのような化合物の引き続くこの最適化は、これらのリード創出ライブラリにコードされる構造-活性相関(SAR)情報のために迅速化されることが多い。引き続き行われる合成に対して高処理化学(HTC)法を素早く適用できるので、リード最適化は促進されることが多い。
【0094】
そのようなライブラリおよびリード最適化の一例は、Wakeling AE, Barker AJ, Davies DH, Brown DS, Green LR, Cartlidge SA, Woodburn JR. Specific inhibition of epidermal growth factor receptor tyrosine kinase by 4-anilinoquinazolines. Breast Cancer Res Treat. 1996;38(1):67-73に記述されている。
【0095】
本発明はさらに、以下の段階を含む、薬学的組成物の調製法に関する:
(a) 上記のZAP-70相互作用化合物を同定する段階、および
(b) 相互作用化合物を薬学的組成物へと製剤化する段階。
【0096】
それゆえ、本発明は、被験体に有効量で投与されうる薬学的組成物の調製法を提供する。好ましい局面において、治療剤は実質的に精製されている。処置される被験体は好ましくは、限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物を含む動物であり、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
【0097】
本発明により同定された化合物は、ZAP-70が関与する疾患、例えば、Tリンパ球によって媒介される免疫または自己免疫疾患または障害の予防または処置に有用である。そのような疾患または障害は喘息、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)、多発性硬化症および臓器または組織同種移植片または異種移植片の急性または慢性拒絶反応を含む。
【0098】
さらに、本発明の化合物は、ZAP-70陽性のB細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)を処置するために使用することができる。
【0099】
一般に、本発明の薬学的組成物は、治療上有効量の治療剤および薬学的に許容される担体を含む。特定の態様において、「薬学的に許容される」という用語は、連邦もしくは州政府の規制当局により認可されていること、あるいは米国薬局方または、動物、より具体的にはヒトで用いるその他一般に承認された薬局方に掲載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療剤とともに投与される希釈剤、補助剤、賦形剤または媒体を指す。そのような薬学的担体は、落花生油、大豆油、鉱油、胡麻油などを含むがこれらに限定されない、石油由来、動物由来、植物由来または合成由来のものを含む、油および水などの無菌の液体でありうる。薬学的組成物が経口的に投与される場合、好ましい担体は水である。薬学的組成物が静脈内に投与される場合、好ましい担体は生理食塩水およびデキストロース水溶液である。生理食塩水溶液ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液は、好ましくは、注射液用の液体担体として利用される。適当な薬学的賦形剤にはデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。本組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有することができる。これらの組成物は溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤などの形態を取ることができる。本組成物は、従来の結合剤およびトリグリセリドのような担体とともに、坐剤として製剤化されてもよい。経口製剤は薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含むことができる。適当な薬学的担体の例は、E.W. Martinにより「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記述されている。このような組成物は患者への適切な投与に向けた形態を供与するため適当な量の担体とともに、治療上有効量の治療剤を、好ましくは精製された形態で含有するであろう。製剤は投与方法に適合すべきである。
【0100】
好ましい態様において、本組成物は、日常的手順にしたがい、ヒトへの静脈内投与に適した薬学的組成物として製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は無菌等張性緩衝水溶液である。必要ならば、本組成物は、可溶化剤および注射部位での疼痛を緩和するためにリドカインのような局所麻酔剤を含んでもよい。一般的に、成分は別々にまたは単位剤形中で一緒に混合されて、例えば、活性剤の量が表示されるアンプルもしくは小袋(sachette)のような密封容器中の凍結乾燥粉末もしくは無水濃縮物として供給される。組成物が点滴により投与される場合、これは無菌の薬学的等級の水または生理食塩水を含有する点滴ボトルを用いて投薬されてもよい。組成物が注射により投与される場合、投与前に成分を混合できるように注射用の無菌の水または生理食塩水のアンプルが提供されてもよい。
【0101】
本発明の治療剤は中性または塩の形態として製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどの遊離カルボキシル基を用いて形成されるもの、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離アミン基を用いて形成されるもの、ならびに、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムおよび水酸化第二鉄などに由来するものが含まれる。
【0102】
特定の障害または状態の処置において有効である本発明の治療剤の量は、障害または状態の性質に依り、標準的な臨床技術によって判定することができる。さらに、最適な投与量範囲を特定する助けとするためにインビトロアッセイ法を任意で利用してもよい。製剤において利用される的確な用量は、投与経路、および疾患または障害の重症度にも依り、専門家の判断および各患者の環境にしたがって決定されるべきである。しかしながら、静脈内投与に適した投与量範囲は一般に、体重1 kgあたり活性化合物約20〜500 μgである。鼻腔内投与に適した投与量範囲は一般に、約0.01 pg/kg体重〜1 mg/kg体重である。有効な用量はインビトロまたは動物モデルの試験系に由来する用量反応曲線から外挿されてもよい。一般的に、坐剤は活性成分を0.5重量%〜10重量%の範囲で含有してもよく; 経口製剤は10%〜95%の活性成分を含有することが好ましい。
【0103】
例えば、リポソーム、微粒子およびマイクロカプセルにおける封入; 治療剤を発現できる組換え細胞の使用、受容体を介した飲食作用の使用(例えばWu and Wu, 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432); レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての治療用核酸の構築など、さまざまな送達系が公知であり、本発明の治療剤を投与するために使用可能である。導入の方法は皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口の経路を含むが、これらに限定されるものではない。化合物は任意の好都合な経路により、例えば点滴により、ボーラス注射により、上皮内層または粘膜内層(例えば、口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収により投与されてもよく、他の生物学的に活性な薬剤とともに投与されてもよい。投与は全身性または局所性であってよい。さらに、本発明の薬学的組成物は、脳室内および髄腔内注射を含む、任意の適当な経路によって中枢神経系に導入することが望ましい場合もあり; 脳室内注射は、例えば、Ommayaリザーバのような、リザーバに取り付けられた脳室内カテーテルによって促進されうる。例えば、吸入器または噴霧器、およびエアロゾル化剤を含む製剤の使用により、肺内投与を利用することもできる。
【0104】
特定の態様において、本発明の薬学的組成物を、治療の必要な部分に局所的に投与することが望ましい場合もある。これは例えば、限定するものではないが、外科手術中の局所点滴によって、例えば、外科手術後の創傷包帯と併せた、局所適用によって、注射によって、カテーテルを用いて、坐剤を用いて、またはインプラントを用いて達成されてもよく、前記インプラントは、シラスティック膜のような膜または繊維を含む、多孔質、非多孔質またはゼラチン質の材料からなる。一つの態様において、投与は悪性腫瘍または新生物もしくは前新生物組織の部位(または元の部位)での直接注射によってもよい。
【0105】
別の態様において、治療剤を媒体、具体的にはリポソームの中で送達することができる(Langer, 1990, Science 249:1527-1533)。
【0106】
さらに別の態様において、治療剤は制御放出系を介して投与することができる。一つの態様において、ポンプを使用することができる(Langer, 上記)。別の態様において、制御放出系を治療標的、すなわち、脳の近位に配してもよく、したがって全身用量のほんの一部しか必要にならない。
【0107】
本発明はさらに、以下の段階を含む、リン酸化ZAP-70の精製方法に関する:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、および
(c) 固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を分離する段階。
【0108】
上記のように、驚いたことに、アミノピリド-ピリミジンリガンド24はリン酸化ZAP-70を認識するリガンドであることが分かった。これによりリン酸化ZAP-70の効率的な精製方法が可能になる。
【0109】
リン酸化ZAP-70、リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物、アミノピリド-ピリミジンリガンド24、固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24、アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体と接触させるための条件、固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からのリン酸化ZAP-70の分離、およびリン酸化ZAP-70の検出またはその量の測定に関して、本発明の同定法の場合に上記で定義した態様が本発明の精製方法にも当てはまる。
【0110】
好ましい態様において、本発明の精製方法は段階(c)の後に、リン酸化ZAP-70に結合できるタンパク質の同定をさらに含む。これは、複合体の形成が本質的に生理学的な条件の下で行われる場合にとりわけ興味深い。何故なら、結合パートナー、酵素サブユニットまたは翻訳後修飾の存在を含む、酵素の自然条件を保つことが可能であり、それらを質量分析(MS)法の助けによって同定できるからである。
【0111】
その結果、好ましい態様において、本発明の精製方法は段階(c)の後に、リン酸化ZAP-70が、例えばユビキチン修飾により、さらに翻訳後に修飾されるかどうかの判定をさらに含む。
【0112】
本発明はさらに、ZAP-70相互作用化合物の同定のためのおよびリン酸化ZAP-70の精製のためのアミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用に関する。上記で定義した態様が本発明の使用にも当てはまる。
【0113】
ZAP-70は、B細胞悪性腫瘍を代表する慢性リンパ性白血病(CLL)の予後診断マーカーであることが記述されている(Hamblin and Hamblin, 2005, Expert Opinion in Therapeutic Targets 9(6):1165-1178)。当初、CLLサブタイプは免疫グロブリン可変領域遺伝子の突然変異状態によって区別されていたが、現在、CLLサブタイプはZAP-70の発現によって識別できることが確立されている。ZAP-70キナーゼはB細胞よりもT細胞において通常発現されているが、これは、より侵襲性の高いCLLサブタイプにおいて異常に発現されている。したがって、アミノピリド-ピリミジンリガンド24は、CLLサブタイプの重要な診断手段、またはCLL患者が末期疾患を患う可能性を判定することによる、疾患進行の重要な予後診断手段である。
【0114】
それゆえ、さらなる局面において、本発明は、慢性リンパ性白血病(CLL)の診断薬(diagnosticum)の調製のためのアミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用にも関する。
【0115】
本発明はさらに、ZAP-70の全量に関連して試料中のリン酸化ZAP-70の存在/量を測定する段階を含む、CLLの診断/予後診断の方法であって、CLL患者由来の試料中のZAP-70 (非リン酸化に加えてリン酸化ZAP-70)の全量に比べてリン酸化ZAP-70の量が増加したことによって侵襲型のCLLの可能性がより高いことが示される方法に関する。
【0116】
この文脈において、試料は、被験体に由来するタンパク質調製物である。したがって、被験体に由来するタンパク質調製物に関して上記に論じた全ての態様が本発明のこの局面にも当てはまる。
【0117】
本発明の診断法の好ましい態様において、試料中のリン酸化ZAP-70および全ZAP-70の存在または量を、上記の方法により、例えばMS法によりまたは特異抗体の助けにより測定する。その後、各量を比較する。
【0118】
本発明によれば、「被験体」とは、任意の哺乳動物、好ましくはヒトを意味する。
【0119】
リン酸化ZAP-70の量は上記のように測定することができる。
【0120】
本発明の文脈において、「診断」とは、既存の疾患の診断、および、所与の被験体が各疾患を発現する可能性が50%を上回るという予後診断のどちらも意味する。
【0121】
本発明を以下の図面および実施例によってさらに例示するが、これは本出願の特許請求の範囲から与えられる保護の範囲を限定するものとみなされない。
【0122】
実施例1: 親和性マトリックスの調製
本実施例は、細胞溶解物からキナーゼを親和性捕捉するための親和性マトリックスの調製を例示する。アミノ官能基による共有結合を通じて、捕捉用リガンドを固体支持体に共有結合的に固定化した。この親和性マトリックスを実施例2および実施例3のなかで使用した。
【0123】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24: 7-(4-アミノメチル-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オンの合成
合成の最初の7段階はKlutchko, S.R. et al., 1998, Journal of Medicinal Chemistry 41, 3276-3292に記述されているように行った。残りの段階は下記のように行った。
【0124】
段階1〜7:
J. Med. Chem. 1998, 41, 3276-3292中の手順に従って、6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-メタンスルホニル-8-メチル-8H-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンを4-クロロ-2-メチルスルファニル-5-ピリミジンカルボキシレートエチルエステルから合成した。
【0125】
段階8: {4-[3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-[1,6]ナフチリジン-7-イルアミノ]ベンジル}-カルバミン酸tert-ブチルエステル
6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-メタンスルホニル-8-メチル-8H-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン(0.100 g, 0.2 mmol)および3-(N-Boc-メチルアミノ)アニリン(0.421 g, 2.0 mmol)を固形物として混合し、30分間140℃に加熱した。粗反応混合物をジクロロメタンに溶解し、2 N HCl (aq)で2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し濃縮した。粗生成物を熱酢酸エチルから再結晶化して、{4-[3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-[1,6]ナフチリジン-7-イルアミノ]ベンジル}-カルバミン酸tert-ブチルエステルを黄色の固形物(0.031 g- 25%)として得た。1H NMR (DMSO-d6) δ 10.18 (s, 1H); 8.83 (s, 1H); 7.76 (d, 2H); 7.58 (d, 2H); 7.46 (dd, 1H); 7.32 (brt, 1H); 7.23 (d, 2H); 4.10 (d, 2H); 3.66 (s, 3H); 1.40 (s, 9H)。LCMS: 方法A, RT = 5.60分。
【0126】
段階9: 7-(4-アミノメチル-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン
{4-[3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-[1,6]ナフチリジン-7-イルアミノ]ベンジル}-カルバミン酸tert-ブチルエステル(0.026 g, 0.05 mmol)をメタノール(3 ml)に溶解し、塩酸(ジオキサン中4 N, 1.2 ml)を加えた。反応物を1.5時間室温で撹拌し、その時点では、HPLCから残存する出発材料は示されなかった。溶媒を真空で除去した。残留物を水に溶解し、溶液を炭酸ナトリウム(sat., aq.)で塩基性化した。得られた沈殿物を回収し乾燥して、7-(4-アミノメチル-フェニルアミノ)-3-(2,6-ジクロロ-フェニル)-1-メチル-1H-[1,6]ナフチリジン-2-オン(0.021 g -100%)を黄色の固形物として得た。1H NMR (DMSO-d6) δ 10.20 (brd, 1H); 8.83 (d, 1H); 7.90 (d, 1H); 7.76 (d, 1H); 7.72 (d, 1H); 7.60 (dd, 2H); 7.47 (ddd, 1H); 7.33 (d, 1H); 7.24 (d, 1H); 4.07 (d, 2H); 3.66 (s, 3H)。LCMS: 方法A, RT = 4.44分, [MH+=426]。
【0127】
反応は全て不活性雰囲気下で行った。NMRスペクトルはBruker dpx400にて得た。LCMSはzorbax SBC-18, 4.6 mm×150 mm-5μカラムを用いAgilent 1100にて行った。カラム流速は1 ml/分であり、使用した溶媒は注入量10 μlで水およびアセトニトリル(0.1% TFA)であった。波長は254および210 nmであった。方法は以下に記述する。
【0128】
(表1)分析方法

【0129】
(表2)化学プロトコルにおいて使用した略語

【0130】
アミン基を含有するリガンドの固定化
NHS-活性化Sepharose 4 Fast Flow (Amersham Biosciences, 17-0906-01)を無水DMSO (ジメチルスルホキシド, Fluka, 41648, H20 <= 0.005%)で平衡化した。沈降したビーズ1 mlを15 mlのFalcon試験管に入れ、化合物貯蔵液(通常はDMFまたはDMSO中100 mM)を加えた(終濃度0.2〜2 μmol/mlビーズ)ほか、トリエチルアミン(Sigma, T-0886, 純度99%) 15 μlも加えた。ビーズを回転振盪器(Roto Shake Genie, Scientific Industries Inc.)上で暗所中室温にて16〜20時間インキュベーションした。カップリング効率はHPLCにより判定する。回転振盪器上で室温にてアミノエタノールと終夜インキュベーションすることにより、未反応のNHS基を遮断した。ビーズをDMSO 10 mlで洗浄し、イソプロパノール中にて-20℃で保存した。これらのビーズを実施例2および実施例3のなかで親和性マトリックスとして使用した。上記のようにアミノエタノールとのインキュベーションによってNHS基を遮断することにより、対照ビーズ(リガンドの固定化なし)を作出した。
【0131】
実施例2: 固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24を用いたZAP-70リン酸化型の薬物プルダウン
本実施例はヒトT細胞株(Jurkat細胞)の細胞溶解物からのZAP-70の同定に向けた固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用を実証する。この目的を達成するため、無処理および処理Jurkat細胞の溶解物を実施例1に記述した親和性マトリックスと接触させた。アミノピリド-ピリミジンリガンド24に結合するタンパク質をウエスタンブロットおよび質量分析(MS)により同定した。
【0132】
ウエスタンブロット分析の場合、結合タンパク質を親和性マトリックスから溶出し、引き続きSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離した。ZAP-70を、このタンパク質の非リン酸化アミノ末端部に結合する通常のモノクローナル抗体により、およびさらにホスホ特異抗体により検出した(図2)。
【0133】
ウエスタンブロット分析の結果から、固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24はZAP-70のリン酸化型を選択的にプルダウンすることが明らかである。リン酸化ZAP-70は無処理の溶解物と比べて処理Jurkat細胞溶解物から有意に検出されただけであった。
【0134】
質量分析によるタンパク質およびホスホペプチドの同定の場合、親和性マトリックスにより捕捉されたタンパク質を溶出し、引き続きSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離した。適当なゲルバンドを切り出し、トリプシンによるゲル内タンパク質分解消化に供した。次いで、リン酸化ペプチドを固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)により濃縮した。保持されたホスホ-ペプチドおよび非結合ペプチドをLC-MS/MS質量分析によって別々に分析した。
【0135】
ZAP-70のペプチド配列被覆度を図4に示す。全部で9つのZAP-70ホスホペプチドを質量分析によって同定した(表4)。
【0136】
1. 細胞培養
Jurkat細胞(ATCCのクローンE6-1, 番号TIB-152)を1リットルのSpinnerフラスコ(Integra Biosciences, #182101)中、0.15×106細胞/ml〜1.2×106細胞/mlの密度で、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen)を補充したRPMI 1640培地(Invitrogen, #21875-034)中にて浮遊状態で増殖させた。刺激実験の場合、細胞を1時間およそ1.0×106細胞/mlの密度で30 μM過バナジン酸(pervanadate)(終濃度)により処理し、引き続き遠心分離によって収集した。1×PBS緩衝液(Invitrogen, #14190-094)での激しい洗浄の後、細胞ペレットを液体窒素中で凍結し、その後-80℃で保存した。
【0137】
刺激実験の場合、タンパク質チロシンホスファターゼを阻害するために、細胞をH2O2処理オルトバナジン酸ナトリウムにより処理した(Current Protocols in Molecular Biology, 2003, John Wiley & Sons, Inc.中のD. C. Weiser and S. Shenolikar, 第18.10章)。細胞処理のため、混合液3 30 mlを培地10リットルに加え、終濃度30 μMの過バナジン酸を得た。Jurkat細胞を1時間0.8〜1.2×106細胞/mlの密度で維持し、その後に収集した。
【0138】
過バナジン酸溶液の調製
無菌蒸留水に終濃度100 mMでオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma, #6508)を溶解し、0.1 M NaOHにより溶液のpH値をpH 10.0に調整する。溶液が澄むまたは半透明になるまで、溶液を沸騰水浴に入れておく。必要なら、pHを10.0に再調整し、この貯蔵液を-20℃で保存する。貯蔵液の頻回の凍結融解は避ける。
30% H2O2 (Sigma, カタログ番号H1009) 500 μlおよび1×PBS 375 μlを混合する(混合液1)。
100 mMバナジン酸溶液(pH 10.0) 3.5 mlを1×PBS 31.5 mlと混合する(混合液2)。
混合液1 650 μlおよび混合液2 32.5 mlを混合する(混合液3)。細胞培養液に適用する前に混合液3を室温で10分間インキュベーションする。
【0139】
2. 細胞溶解物の調製
Jurkat細胞を溶解用緩衝液: 50 mM Tris-HCl, 0.8% NP40, 5%グリセロール, 150 mM NaCl, 1.5 mM MgCl2, 25 mM NaF, 1 mMバナジン酸ナトリウム, 1 mM DTT, pH 7.5中、Potter Sホモジナイザー内でホモジナイズした。緩衝液25 mlあたり1つの完全EDTA不含錠(プロテアーゼ阻害剤カクテル, Roche Diagnostics, 1 873 580)を加えた。この材料を機械化POTTER Sにより10回ダウンスし、50 mlのファルコン試験管に移し、氷上で30分間インキュベーションし、4℃で20,000 g (予冷したSorvall SLA600中で10,000 rpm)にて10分間スピンダウンした。上清を超遠心分離機(UZ)-ポリカーボネート試験管(Beckmann, 355654)に移し、4℃で100.000 g (予冷したTi50.2中で33.500 rpm)にて1時間回転した。上清を新しい50 mlファルコン試験管に再び移し、タンパク質濃度をBradfordアッセイ(BioRad)法により測定し、アリコートあたりタンパク質50 mgを含有する試料を調製した。試料は実験にすぐに用いるか、または液体窒素中で凍結し、-80℃で凍結保存した。
【0140】
3. 化合物プルダウン実験
固定化された化合物を有するSepharoseビーズ(プルダウン実験1回につきビーズ100 μl)を溶解用緩衝液中で平衡化し、回転振盪器(Roto Shake Genie, Scientific Industries Inc.)上で4℃にて2時間、タンパク質50 mgを含有する細胞溶解物試料とともにインキュベーションした。ビーズを回収し、Mobicol-カラム(MoBiTech 10055)に移し、0.5% NP40界面活性剤を含有する溶解用緩衝液10 mlで洗浄し、引き続き0.25%界面活性剤を含む溶解用緩衝液5 mlで洗浄した。結合タンパク質を溶出するため、2×SDS試料用緩衝液60 μlを加え、カラムを50℃で30分間加熱し、溶出液を遠心分離により微量遠心管に移した。次いで、タンパク質をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)によって分離した。
【0141】
4. ウエスタンブロット分析によるタンパク質検出
ウエスタンブロットを標準的な手順にしたがって行い、製造元によって提供された使用説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. 2004年5月LI-COR Biosciences刊行, www.licor.com)にしたがって特異的な抗ホスホZAP-70抗体(一次抗体)、蛍光標識二次抗体およびLI-COR Biosciences (Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線撮像システムを用いることによりZAP-70タンパク質を検出し、定量化した。
【0142】
ホスホ-ZAP-70抗体(pTyr493, ウサギポリクローナル, Cell Signaling #2704)はZAP-70を、チロシン残基493の位置でリン酸化されている場合にだけ検出する。通常のZAP-70抗体(L1E5, マウスモノクローナル抗体, Cell Signaling #2709)はヒトZAP-70のアミノ-末端に対して作製されている。
【0143】
5. 質量分析によるタンパク質同定
5.1 質量分析前のタンパク質消化
ゲル分離したタンパク質を、Shevchenko et al., 1996, Anal. Chem. 68:850-858により記述されている手順に本質的にはしたがってゲル内で還元し、アルキル化し、消化した。手短に言えば、ゲル分離したタンパク質をきれいな外科用メスによってゲルから切り出し、10 mM DTT (5 mM重炭酸アンモニウム中, 54℃, 45分)によって還元し、引き続き暗所中室温で55 mMヨードアセトアミド(5 mM重炭酸アンモニウム中)によりアルキル化した(30分)。還元されアルキル化されたタンパク質をブタトリプシン(Promega)により、5 mM重炭酸アンモニウム中12.5 ng/μlのプロテアーゼ濃度にてゲル内で消化した。消化を37℃で4時間進行させ、その後、5%ギ酸5 μlを用いて反応停止した。
【0144】
5.2 質量分析による分析前の試料調製
ゲルプラグを1% TFA 20 μlで2回抽出し、酸性化された消化上清とプールした。試料を真空遠心分離機中で乾燥し、0.1%ギ酸10 μlに再懸濁した。乾燥した試料を250 mM酢酸、30%アセトニトリルおよび4 μlのPHOS-select Iron Affinityビーズ(Sigma, P9740; IMAC材料)を含有する水30 μlに再懸濁し、穏やかに水平振盪しながら室温で2時間インキュベーションした。その後、このスラリーを、IMAC材料を制止するためのくびれを含有するゲルローダーチップに負荷した。ビーズを少しの間沈降させてから、溶媒をP10ピペットによってカラムに通し、Eppendorf試験管に回収した。250 mM酢酸、30%アセトニトリルを含有する水溶液20 μlでIMACカラムを2回洗浄した。溶出した画分を合わせ、真空遠心分離機中で乾燥した。この画分を非結合画分(NBF)と呼ぶ。400 mMアンモニアおよび30%アセトニトリルを含有する水溶液20 μlを用いてIMACカラムからホスホ-ペプチドを溶出した。この溶出を2回繰り返し、溶出した画分を合わせ、真空遠心分離機中で乾燥した(結合画分, BF)。LC-MS/MS分析の前に両画分(NBFおよびBF)を0.1%ギ酸10 μlに再懸濁した(Pozuelo Rubio et al., 2005, Biochemical Journal 392(Part 1), 163-172)。
【0145】
5.3 質量分析データ収集
ペプチド試料を、四重極TOF質量分析計(QT0F2, QTOF Ultima, QTOF Micro, Micromass)またはイオントラップ(LCQ Deca XP)質量分析計のいずれかに直結したナノLCシステム(CapLC, WatersまたはUltimate, Dionex)に注入した。ペプチドを水性溶媒および有機溶媒の勾配によりLCシステムにて分離した(下記参照)。溶媒Aは0.5%ギ酸中5%のアセトニトリルであり、溶媒Bは0.5%ギ酸中70%のアセトニトリルであった。
【0146】
(表3)LCシステムから溶出したペプチドを質量分析計で部分的に配列決定した。

【0147】
5.4. タンパク質同定
LC-MS/MS実験において生じたペプチド質量データおよび断片化データは、NCBI (NCBInr、dbESTならびにヒトおよびマウスゲノムの場合)および欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI; ヒト、マウス、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)および線虫プロテオームデータベースの場合)で維持され定期的に更新されるfastaフォーマットのタンパク質およびヌクレオチド配列データベースの問い合わせに使用した。タンパク質はペプチド質量および断片化の測定データを、ソフトウェアツールMascot (Matrix Science; Perkins et al., 1999. Probability-based protein identification by searching sequence databases using mass spectrometry data. Electrophoresis 20, 3551-3567)によってデータベース中のエントリから計算した同じデータと相関させることにより同定した。検索基準は、どの質量分析計を分析に用いたかに応じて違った。
【0148】
5.5 ホスホペプチド同定
リン酸化ペプチドの同定はセリン、スレオニンおよびチロシン残基でのリン酸化をMascot検索パラメータ中の可変修飾(variable modification)として許可することにより、引き続き配列の割り当てのためスペクトルを人手で検査することにより達成した。
【0149】
(表4)ZAP-70のホスホ-ペプチド
ヒトZAPタンパク質配列(IPI00329789.5, 628アミノ酸)の質量分析によって同定されたホスホ-ペプチドを示す(観測値: 測定された質量対電荷比; Mr(exp.): 「観測値」×電荷)。

【0150】
実施例3: ZAP-70相互作用化合物の同定のためのアッセイ法
アミノピリド-ピリミジンリガンド24親和性マトリックスの調製は、実施例1に記述したように行った。96ウェルプレート中で最大80種の化合物をスクリーニングするため、溶出実験を下記のように行う。
【0151】
溶出アッセイ法
親和性マトリックス(ビーズ1600 μl)を1×DP緩衝液30 mlで2回洗浄した。各洗浄段階の後、ビーズをHeraeus遠心分離機中、4℃にて1300 rpmでの4分間の遠心分離により回収した。上清を捨てた。最後に、ビーズを結合用緩衝液(1×DP緩衝液/0.4% NP40) 50 ml中で平衡化し、4℃でROTO SHAKE GENIE (Scientific Industries, Inc.)上にて30〜45分間回転させた。このインキュベーション時間の後、ビーズを回収し、タンパク質濃度5 mg/mlの、過バナジン酸で活性化した清澄化済Jurkat細胞溶解物45 mlと混合した。溶解物の調製は実施例2に記述したように行った。ビーズおよび溶解物を4℃で2時間インキュベーションした。溶解物とのインキュベーション後、ビーズを記述のように遠心分離によって回収し、結合用緩衝液25 mlで3回洗浄した。各洗浄段階の間、ビーズを4℃でROTO SHAKE GENIE (Scientific Industries, Inc.)上にて8分間インキュベーションした。3回目の洗浄の後、ビーズを2 mlのカラム(MoBiTec, #S10129)に移し、1×DP緩衝液/0.2% NP40 20 mlで洗浄した。洗浄用緩衝液がカラムを完全に通過したら、カラムに残ったビーズの容量を計算した(およそ1000 μl)。ビーズを4倍過剰の1×DP緩衝液/0.2% NP40 (4 ml)に再懸濁して、1:4のスラリーを作出した。化合物溶出試験のため、この懸濁液50 μlを96ウェルプレート(Millipore MultiScreenHTS, MSBVN1210, ふたおよび1.2 μmの親水性低タンパク質結合性Durapore膜付き)の各ウェルに加えた。残存緩衝液を除去するため、96ウェルプレートをアセンブルフィルタおよび回収プレートとアセンブルし、このサンドイッチアセンブリを遠心分離機中にて800 rpmで10秒間スピンダウンした。その後、試験化合物を補充した溶出用緩衝液(1×DP緩衝液/0.2% NP40) 40 μlをビーズに加えた。試験化合物は、それらをDMSO中40倍濃縮の貯蔵液から始めて、希釈用緩衝液に希釈することにより調製した。プレートを回収プレート上にアセンブルし、Eppendorfインキュベータに取り付け、振盪数650 rpmで4℃にて30分間インキュベーションした。溶出液を回収するため、96ウェル回収用プレート上にアセンブルした96ウェルフィルタプレートを卓上遠心分離機(Heraeus)中、4℃にて800 rpmで1分間遠心分離した。溶出液の典型的な容量はおよそ35 μlである。溶出液を-8O℃で保存した。ドットブロット手順を用いることにより、ZAP-70が存在するかどうか溶出液を調べた。
【0152】
試験化合物として、アミノピリド-ピリミジンリガンド24 (実施例1参照)、スタウロスポリン(Sigma S4400)、JNK阻害剤SP600125 (Calbiochem 420119)およびp38阻害剤SB 202190 (Tocris 1264)を使用した。典型的には、全ての化合物を濃度100 mMで100% DMSO (Fluka, カタログ番号41647)に溶解させる。あるいは、DMSOに溶解しえない化合物には100% DMF (Fluka, カタログ番号40228)が使用されてもよい。化合物は-20℃で保存する。溶出実験のための試験化合物の希釈: 100% DMSOで100 mM貯蔵液を1:1希釈することにより、50 mM貯蔵液を調製する。溶出実験のため、化合物を溶出用緩衝液(1×DP緩衝液, 0.2% NP40)でさらに希釈する。
【0153】
緩衝液の調製
(表5)5×DP緩衝液の調製

【0154】
5×DP緩衝液を、0.22 μmフィルタを通してろ過し、-80℃にて40 mlのアリコートで保存する。これらの溶液は以下の供給業者から得た: 1.0 Mトリス/HCl pH 7.5 (Sigma, T-2663)、87%グリセロール(Merck, カタログ番号04091.2500); 1.0 M MgCl2 (Sigma, M-1028); 5.0 M NaCl (Sigma, S-5150)。
【0155】
溶出したZAP-70の検出
製造元によって提供された使用説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. 2004年5月LI-COR Biosciences刊行, www.licor.com)にしたがって特異的な抗ホスホZAP-70抗体(一次抗体)、蛍光標識二次抗体およびLI-COR Biosciences (Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線撮像システムを用いたドットブロット手順により、溶出したZAP-70タンパク質を検出し、定量化した。
【0156】
ニトロセルロース膜を5秒間20%エタノールで処理し、その後1×PBS緩衝液で洗浄した。溶出液(上記)を4×SDS負荷用緩衝液(200 mMトリス-HCl pH 6.8, 8% SDS, 40%グリセロール, 0.04%ブロモフェノールブルー) 10 μlと混ぜ合わせ、BioRadドットブロット装置(BioRad, #170-6545)によりニトロセルロース膜に適用し、1×PBS緩衝液で1回洗浄した。
【0157】
ZAP-70タンパク質の検出のため、Odysseyブロッキング用緩衝液との1時間のインキュベーションにより、膜を最初にブロッキングした。ブロッキングした膜を、0.1% Tween 20および0.02% SDSを補充したOdysseyブロッキング用緩衝液に1000分の1希釈した、リン酸化チロシン残基493 (pTyr493, ウサギポリクローナル, Cell Signaling #2704)を認識する、一次抗体のウサギ抗ホスホZAP-70抗体とともに4℃で16時間インキュベーションした。
【0158】
0.01% Tween 20を含有する1×PBS緩衝液で5分間4回膜を洗浄した後、膜を検出用抗体(0.1% Tween 20および0.02% SDSを補充したOdysseyブロッキング用緩衝液に10 000分の1希釈した、LI-CORのヤギ抗ウサギIRDye 800CW抗体)とともに1時間インキュベーションした。その後、膜を1×PBS緩衝液/0.1% Tween 20で5分間4回および1×PBS緩衝液で5分間1回洗浄した。その後、膜をOdyssey読取装置でスキャンし、データを分析した。
【0159】
実施例4: 化合物を細胞溶解物または生細胞に添加することによるZAP-70相互作用化合物の化合物プロファイリング
本実施例では、試験化合物が細胞溶解物の中に直接加えられるか、または生細胞とともにインキュベーションされる競合的結合アッセイ法を実証する。細胞溶解物の競合的結合アッセイ法の場合、さまざまな濃度の試験化合物を溶解物試料に加え、溶解物試料中に含有されるタンパク質に結合させた。その後、試験化合物に結合していないタンパク質を捕捉するために、固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24を含有する親和性マトリックスを加えた。インキュベーション時間の後、捕捉タンパク質を有するビーズを、遠心分離により溶解物から分離した。次いで、結合タンパク質を溶出し、特異抗体およびOdyssey infrared検出システムを用いてZAP-70の存在を検出し、定量化した(図6A)。化合物CZC15497の用量反応曲線を作出し、IC50値1.72 μMを得た(図6B)。
【0160】
あるいは、Jurkat生細胞のアリコートを各種濃度の化合物とともに30分間まず最初にインキュベーションし、その後、30 μM過バナジン酸でさらに30分間処理した。細胞を収集し、細胞溶解物を調製し、試験化合物に結合していないタンパク質を捕捉するために親和性マトリックスを加えた。親和性マトリックスとの細胞溶解物の90分のインキュベーション後、捕捉タンパク質を有するビーズを、遠心分離により溶解物から分離した。次いで、結合タンパク質を溶出し、特異抗体およびOdyssey infrared検出システムを用いて上記のようにZAP-70の存在を検出し、定量化した(図7A)。化合物CZC15497の用量反応曲線を作出し、IC50値0.65 μMを得た(図7B)。
【0161】
両手法の結果(図6および7; 溶解物に加えた化合物 対 細胞とともにインキュベーションした化合物)の比較から、CZC15497化合物およびZAP-70キナーゼに対する類似のIC50値が得られた。さらに、この化合物はZAP-70キナーゼと特異的に相互作用したが、Lckとは相互作用しなかった。
【0162】
親和性マトリックスの洗浄
実施例1に記述の親和性マトリックス(乾燥容量0.3 ml)を1×DP緩衝液15 mlで2回洗浄し、その後0.4% NP40を含有する1×DP緩衝液15 mlで洗浄し、最後に0.4% NP40を含有する1×DP緩衝液0.3 mlに再懸濁した(50%ビーズスラリー)。
【0163】
試験化合物の調製
溶解物中での競合の場合、所望の最終試験濃度に比べて200倍高い濃度に相当する試験化合物の貯蔵液をDMSO中で調製した(例えば、最終試験濃度5 μMの場合には1 mMの貯蔵液を調製した)。この希釈スキームにより、DMSOの終濃度は0.5%となる。対照実験(試験化合物なし)の場合、全ての試験試料に0.5% DMSOが含まれるように、0.5% DMSOを含有する緩衝液を使用した。
【0164】
細胞溶解物の希釈
細胞溶解物を過バナジン酸処理Jurkat細胞から実施例2に記述したように調製した。典型的な実験の場合、タンパク質50 mgを含有する溶解物の1アリコートを37℃の水浴中で融解し、その後、4℃で保持した。この溶解物に、NP40終濃度0.4%が達成されるように、プロテアーゼ阻害剤緩衝液を含有する1×DP 1容量(プロテアーゼ阻害剤1錠を1×DP緩衝液25 mlまたは0.4% NP40含有の1×DP緩衝液25 mlに溶解; EDTA不含錠のプロテアーゼ阻害剤カクテル Roche Diagnostics, カタログ番号41647)を加えた。タンパク質終濃度5 mg/mlが達成されるように、0.4% NP40およびプロテイナーゼ阻害剤を含有する1×DP緩衝液を加えることによって、溶解物をさらに希釈した。
【0165】
試験化合物および親和性マトリックスとの細胞溶解物のインキュベーション
Jurkat溶解物(タンパク質5 mgを含有する) 1 mlに、化合物CZC15497 (DMSOに希釈) 5 μlを加え、4℃で45分間インキュベーションした。その後、固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24を有する親和性マトリックス20 μlを加え、4℃でもう1時間インキュベーションした。遠心分離による溶解物からのビーズの分離後、結合タンパク質を2×濃縮試料用緩衝液50 μl (4×NuPAGE LDS試料用緩衝液, Invitrogen, NP0007 25 μl; 1 Mジチオスレイトール(DTT) 2.5 μl; H2O 22.5 μl)で溶出した。
【0166】
ZAP-70の検出および定量化
ウエスタンブロットを標準的な手順にしたがって行い、製造元によって提供された使用説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. 2004年5月LI-COR Biosciences刊行, www.licor.com)にしたがって特異的な抗ZAP-70抗体(一次抗体)、蛍光標識二次抗体およびLI-COR Biosciences (Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線撮像システムを用いることによりZAP-70タンパク質を検出し、定量化した。Lckの検出の場合、抗Lck抗体を使用した(Upstate 3A5)。
【0167】
タンパク質溶出液をSDS-ポリアクリルアミドゲル中で分離し、次いでPVDF膜に転写した。この膜をOdyssey緩衝液とともに室温で1時間インキュベーションして、非特異的結合をブロッキングした。洗浄後、膜を抗ZAP-70抗体(Abcamから得たホスホTyr292に対するウサギポリクローナル抗体; 0.2% Tween 20を含むOdyysey緩衝液中で1000分の1に希釈)とともに4℃で16時間インキュベーションした。Lckの検出の場合、抗Lck抗体を使用した(Upstate 3A5)。膜をその後、0.1% Tween 20を補充したPBS緩衝液で5分間4回洗浄した。蛍光色素で標識した検出用二次抗体をOdyssey赤外線撮像システムと関連して用い、タンパク質バンドを可視化し、定量化した(0.2% Tween 20, 0.02% SDSを含むOdyssey緩衝液中で10000分の1に希釈したIRDye 800 nm抗ウサギ抗体(Licor)、室温で1時間のインキュベーション)。この場合も先と同様に、膜を、0.1% Tween 20を補充したPBS緩衝液で5分間4回洗浄し、最後にPBS緩衝液で手短に洗浄して、Tween 20を除去した。用量反応曲線をXLフィットプログラム(XLfit4 Excel Add-In Version 4.2.0 Build 13; IDBS, Guilford, UK)により計算した。
【0168】
試験化合物との細胞のインキュベーション、細胞溶解物の調製、親和性マトリックスとのインキュベーションおよびタンパク質の検出
細胞処理のため、試験化合物の貯蔵液を、所望の最終試験濃度に比べて5000倍高い濃度で調製した。細胞培地中のDMSO終濃度は0.02% DMSOであった。
【0169】
Jurkat細胞培養液(1リットル容量、細胞密度1.15×106細胞/ml)を各種濃度(5.0 μM、1.0 μM、0.33 μM、0.11 μM、0.037 μMおよび0.012 μM)の化合物CZC15497により37℃で30分間処理し、引き続き30 μM過バナジン酸によりさらに30分間処理した(過バナジン酸溶液の調製は、実施例2を参照のこと)。その後、細胞を収集し、細胞溶解物を上記のように調製し、試験化合物に結合していないタンパク質を捕捉するために、親和性マトリックスを加えた。4℃での親和性マトリックスとの細胞溶解物の90分のインキュベーション後、捕捉タンパク質を有するビーズを、遠心分離により溶解物から分離した。ビーズに結合したタンパク質を2×濃縮試料用緩衝液50 μl (4×NuPAGE LDS試料用緩衝液, Invitrogen, NP0007 25 μl; 1 Mジチオスレイトール(DTT) 2.5 μl; H2O 22.5 μl)で溶出した。特異抗体およびOdyssey infrared検出システムを用いて溶出液中のZAP-70の存在を検出し、定量化した(図7A)。Lckの検出の場合、抗Lck抗体を使用した(Upstate 3A5)。ZAP-70との化合物CZC15497の相互作用の用量反応曲線を作出し、IC50値0.65 μMを得た(図7B)。
【0170】
実施例5: Jurkat細胞でのカルシウム放出アッセイ法
ZAP-70阻害剤として作用するCZC15497と一致して、本発明者らは、その化合物がIC50値0.24 μMで抗CD3抗体刺激Jurkat T細胞におけるカルシウム放出を阻害することを見出した(図8)。
【0171】
アッセイ法原理
蛍光プローブの開発によって、単一生細胞での細胞内遊離カルシウムイオン濃度を測定することが可能になる。細胞に、細胞透過性Ca2+-感受性色素を最初に負荷し、次いで試験化合物を加える。最後に、フローサイトメーターでのデータ収集の直前に抗CD3抗体によりT細胞受容体を通じて細胞を活性化する。Ca2+の放出を細胞刺激後の時間に応じて測定する。本プロトコルではJurkat細胞中の細胞内Ca2+濃度を測定するためにFluo-3およびFluo-4色素を用いるフローサイトメトリー法について記述する(Minta et al., 1989, J. Biol. Chem. 264(14): 8171-8178) (同様にJune et al., 1997, Measurement of intracellular calcium ions by flow cytometry. In: Current Protocols in Cytometry (1997) Unit 9.8.1-9.8.19, John Wiley & Sons, Inc.を参照のこと)。
【0172】
Ca2+放出アッセイ法のプロトコル
一般に、細胞をできるだけ短時間で取り扱って、その安定性を確保するべきである。それゆえ、全ての材料を予め調製するのは当然ながら、次の段階(例えば、化合物の希釈液を調製する段階またはフローサイトメーターを開始する段階)を準備するのにいずれかのインキュベーションまたは遠心分離時間を使うことも大いに推奨される。
1) 対照を含む、分析する試料の数を示す作業計画を準備する。
2) 細胞収集: Jurkat細胞培養液50〜100 mlを1100 rpmで5分間遠心分離する。上清を捨て、再懸濁した細胞ペレットを単一の50 mlファルコン試験管の中にプールし、50 mlまでPBS-CaCl2 (FCSなし)を入れる。試料を何度も遠心分離する。
3) 細胞ペレットをPBS-CaCl2 (FCSなし)により再懸濁して、10×106細胞/ml以上の濃度を達成する。十分な希釈液を調製して、細胞濃度を評価し細胞をカウントする。
4) 50 mlファルコン試験管中で、負荷するのに必要な細胞の量(例えば20試料に対して107細胞)を分離する。107細胞に対して900 μlまでPBS-CaCl2を入れる。
5) 暗所中でFLUO-4 (1 mM) + Pluronic F-127 (20%)の1:1混合液を調製する。107細胞あたりFluo-4 5 μlが必要とされる。
6) PBS-CaCl2によりこの混合物の10分の1希釈液を調製する(暗所中; 例えばFluo-4 5 μl + F-127 5 μlを100 μlにする)。
7) 色素溶液を細胞に加える。1試験管あたり30×106細胞を超えて負荷してはいけない。
8) 細胞インキュベータ(37℃, 5% CO2)中で30分間試料をインキュベーションする。時々混合する。
9) この間に十分な試験化合物希釈液をPBS-CaCl2 (10% FCSを含む)中で調製する。この溶液は所望の終濃度よりも10倍以上濃縮されるべきである。各希釈液をボルテックスする。同様に抗体希釈液: 抗CD3 (1/200)および抗GAM (1/25)を調製する。
10) FACS試験管にラベルを付け、対応する試験管の中に化合物希釈液30 μlまたは対照試験管には緩衝液のみを分注する。
11) 30分のインキュベーション後、細胞をPBS-CaCl2 (10% FCSを含む)中で2回洗浄する。洗浄段階の間、レーザーを温めるためにフローサイトメーターが既に「動作中」であることを確認する。
12) PBS-CaCl2 (10% FCSを含む)に細胞ペレットを濃度1.5×106細胞/mlで懸濁する。
13) 細胞懸濁液300 μlをFACS試験管の中に分注し、穏やかに混合する。化合物のインキュベーションは始まっている。試料を暗所中にて室温で保持する。
14) サイトメーターの設定を開く。全ての測定にすぐ使えるテンプレートを持つよう勧める。機械の設定は同様に、実験ごとで同じとすべきであり、これにより細胞調製の再現性を評価することができる。
15) セットアップ様式のなかで、サイトメーター上の細胞調製物を制御する。細胞は所定のゲートに適合すべきである。
16) 化合物のインキュベーション時間の間に、予想通り細胞が抗CD3活性化に反応していることも調べる。タイマーを8秒にセットする。抗CD3希釈液(最終0.2 μg/ml) 6 μlを加え、穏やかに混合する。GAM希釈液(最終0.75 μg/ml) 1 μlを加え、穏やかに混合する。タイマー開始と同時に、試料を37℃の水浴中でインキュベーションする。8秒のインキュベーションの後、中速で200秒間データを収集する。明らかな蛍光増大が1分後に現れる。
17) FACSデータ収集の15分前に細胞が室温で平衡化し休止していることを確認する。
18) データ収集: 比較する試料は連続して測定するべきである。
19) より良好な再現性のため、負荷細胞のデータを2時間以内に得ることを確実にする。
20) FlowJo (登録商標)ソフトウェア(Tree Star, Inc.)を用いることによりデータを分析する。
【0173】
細胞培養
Jurkat細胞株J77はAmerican Type Cell Collection (ATCC)から得た。Jurkat細胞株は熱不活化ウシ胎仔血清(Gibco, ref. 10270-106. FCSは水浴中56℃で45分間により熱不活化される)を補充したRPMI 1640培地(Gibco, ref. 21875-034)中で維持した。
【0174】
試薬
Fluo-3, AM (Molecular Probes, F14218, DMSO中1 mMの既製溶液1 mlとして供給されており、-20℃にて5 μlまたは7.5 μlのアリコートで保存する)。
Fluo-4, AM (Molecular Probes, F14217, DMSO中1 mMの既製溶液1 mlとして供給されており、-20℃にて5 μlまたは7.5 μlのアリコートで保存する)。
Pluronic F-127 (Molecular Probes, P3000MP, DMSO中20%の既製溶液1 mlとして供給されている)。
PBS-CaCl2-MgCl2 (Gibco, 14040-91)。
抗CD3抗体(Calbiochem, 217570, 1 mg/mlで供給されている)。
ヤギ抗マウスIgG抗体(GAM; Sigma, M8890, 6 mg/mlで供給されている)。
【0175】
器具
フローサイトメーター(Becton-Dickinson, FACSCalibur)およびFlowJo (登録商標)ソフトウェア(Tree Star, Inc.)。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】アミノピリド-ピリミジンリガンド24の構造。遊離第一級アミノ基を固体支持体材料への共有結合的なカップリングに使用することができる。
【図2】固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24での薬物プルダウン実験およびウエスタンブロット分析。生物材料として非処理または過バナジン酸処理Jurkat細胞から調製された細胞溶解物を使用した。薬物プルダウン実験は実施例2に記述のように、タンパク質50 mgを含有する溶解物試料で行った。投入溶解物、素通り(非結合画分)およびSDS-溶出液(結合画分)をSDS-ポリアクリルアミドゲルにて分離し、膜に転写した。ブロットを通常の抗ZAP-70抗体(2A)で最初に、抗ホスホ-ZAP-70抗体(2B)で次にプローブした。検出用二次抗体をOdyssey赤外線撮像システムでの検出のため蛍光色素で標識した。非処理Jurkat細胞由来の溶解物(レーン1〜3):レーン1: 薬物プルダウン実験に供されていない、溶解物対照レーン2: 素通り(非結合画分)レーン3: 溶出液(SDSで溶出された結合画分)過バナジン酸処理Jurkat細胞由来の溶解物(レーン4〜6):レーン4: 薬物プルダウン実験に供されていない、溶解物対照レーン5: 素通り(非結合画分)レーン6: 溶出液(SDSで溶出された結合画分)2A: 上側のブロットは通常のZAP-70抗体(L1E5、ヒトZAP-70のアミノ末端部周辺の残基に対するマウスモノクローナル抗体、Cell Signaling #2709)でプローブした。2B: 下側のブロットはホスホ-ZAP-70抗体(ホスホ-ZAP-70 Tyr493、Cell Signaling #2704)でプローブした。
【図3】タンパク質およびホスホペプチドの質量分析のための固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24での薬物プルダウン実験。固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24に結合したタンパク質をSDS試料用緩衝液で溶出し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分析した。クマシーブルー染色後のタンパク質ゲルを示す。表示のゲル域をゲルスライスとして切り出し、タンパク質を質量分析法による分析に供した。ZAP-70タンパク質はゲルスライス10および10aにある。
【図4】ZAP-70の同定ペプチド。ヒトZAP-70配列(IPI00329789.5, 628アミノ酸)の質量分析により同定されたペプチドを太字および下線で示す。
【図5】ZAP-70相互作用化合物の同定のためのアッセイ法。実施例3に記述のように実験を行った。ZAP-70タンパク質をJurkat細胞(過バナジン酸処理Jurkat細胞)溶解物から固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24によって捕捉し、表示の化合物によって溶出した。溶出物をニトロセルロース膜に転写し、ZAP-70をOdyssey赤外線撮像システムで検出した。一次抗体: 抗ホスホZAP-70 (Tyr493)。二次抗体: ヤギ抗ウサギIrdye800CW。相対的Odyssey単位が示してある。溶出用の化合物: SDS、最大溶出用の陽性対照; DMSO、溶媒対照; リガンド24、アミノピリド-ピリミジンリガンド24; スタウロスポリン; JNK阻害剤SP600125; p38阻害剤SB 202190。
【図6】化合物を細胞溶解物に添加することによる化合物のプロファイリング(実施例4)。試験化合物をさまざまな濃度でJurkat細胞溶解物に加え、その後、親和性マトリックスとのインキュベーションおよび捕捉タンパク質の分析を行った。A: 特異抗体およびOdyssey撮像システムを用いてZAP-70およびLckタンパク質を検出し、定量化した。細胞溶解物25 μgを対照として使用した。B: 試験化合物CZC15497の用量反応曲線。
【図7】化合物を生細胞とともにインキュベーションすることによる化合物のプロファイリング(実施例4)。Jurkat細胞を各種濃度の試験化合物とともに30分間インキュベーションし、その後、細胞を過バナジン酸で30分間処理した。細胞溶解物を調製し、親和性マトリックスと混合し、捕捉タンパク質を分析した。A: 特異抗体およびOdyssey撮像システムを用いてZAP-70およびLckタンパク質を検出し、定量化した。細胞25 μgを対照として使用した。B: 試験化合物CZC15497の用量反応曲線。
【図8】細胞に基づくカルシウム放出アッセイ法における化合物CZC15497の試験。抗CD3抗体で活性化されたJurkat細胞(密度1.5×106細胞/ml)を用いてフローサイトメトリーアッセイ法により実時間でカルシウム放出を測定した。カルシウム放出の阻害を化合物濃度に対してプロットする。IC50値0.24 μMを得た。実施例5に記述したように実験を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定のための方法:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、
(c) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体を所与の化合物とともにインキュベーションする段階、および
(d) 化合物が固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を分離できるかどうかを判定する段階。
【請求項2】
段階(d)が、分離されたリン酸化ZAP-70の検出または分離されたリン酸化ZAP-70の量の測定を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
好ましくはリン酸化ZAP-70に対する抗体を用いる、好ましくはリン酸化ZAP-70の493位でのリン酸化を認識する抗体を用いる、質量分析法または免疫検出法により、分離されたリン酸化ZAP-70が検出されるかまたは分離されたリン酸化ZAP-70の量が測定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定のための方法:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、所与の化合物および固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、ならびに
(c) 段階(b)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体を検出する段階。
【請求項5】
段階(c)において検出がアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定することにより行われる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
段階(a)〜(c)が、異なる化合物を試験するためにいくつかのタンパク質調製物を用いて行われる、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定のための方法:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物の二つのアリコートを提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24と一方のアリコートを接触させる段階、
(c) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、所与の化合物および固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24ともう一方のアリコートを接触させる段階、ならびに
(d) 段階(b)および(c)において形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定する段階。
【請求項8】
以下の段階を含む、ZAP-70相互作用化合物の同定のための方法:
(a) リン酸化ZAP-70を含有する少なくとも一つの細胞をそれぞれ含む、二つのアリコートを提供する段階、
(b) 一方のアリコートを所与の化合物とともにインキュベーションする段階、
(c) それぞれのアリコートの細胞を収集する段階、
(d) タンパク質調製物を得るために細胞を溶解させる段階、
(e) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、ならびに
(f) 段階(e)においてそれぞれのアリコートで形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量を測定する段階。
【請求項9】
化合物とともにインキュベーションされなかったアリコートに比べて、化合物とともにインキュベーションされたアリコートにおいて形成されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量が減少したことにより、ZAP-70が化合物の標的であることが示される、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の量が、固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からのリン酸化ZAP-70の分離、および、分離されたリン酸化ZAP-70のその後の検出または分離されたリン酸化ZAP-70の量のその後の測定によって測定される、請求項5〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
好ましくはリン酸化ZAP-70に対する抗体を用いる、好ましくはリン酸化ZAP-70の493位でのリン酸化を認識する抗体を用いる、質量分析法または免疫検出法により、リン酸化ZAP-70が検出されるかまたはZAP-70の量が測定される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
中処理スクリーニングまたは高処理スクリーニングとして行われる、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
化合物が、合成化合物、または有機合成薬物、より好ましくは小分子有機薬物および天然小分子化合物からなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
ZAP-70相互作用化合物がZAP-70阻害剤である、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
固体支持体がアガロース、修飾アガロース、セファロースビーズ(例えば、NHS活性化セファロース)、ラテックス、セルロース、および強磁性粒子またはフェリ磁性粒子からなる群より選択される、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24が固体支持体に共有結合する、請求項1〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
以下の段階を含む、薬学的組成物の調製のための方法:
(a) 請求項1〜16のいずれか一項記載のZAP-70相互作用化合物を同定する段階、および
(b) 相互作用化合物を薬学的組成物へと製剤化する段階。
【請求項18】
以下の段階を含む、リン酸化ZAP-70の精製のための方法:
(a) リン酸化ZAP-70を含有するタンパク質調製物を提供する段階、
(b) アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成を可能にする条件の下で、固体支持体に固定化されたアミノピリド-ピリミジンリガンド24とタンパク質調製物を接触させる段階、および
(c) 固定化アミノピリド-ピリミジンリガンド24からリン酸化ZAP-70を分離する段階。
【請求項19】
段階(c)の後に、リン酸化ZAP-70に結合できるタンパク質の同定をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
段階(c)の後に、リン酸化ZAP-70の翻訳後修飾の判定をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
段階(c)の後に、リン酸化ZAP-70および/またはリン酸化ZAP-70に結合できるタンパク質のいずれかを質量分析法または免疫検出法によって特徴決定する、請求項18〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
タンパク質調製物の提供が、リン酸化ZAP-70を含有する少なくとも一つの細胞を収集する段階および細胞を溶解させる段階を含む、請求項1〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
アミノピリド-ピリミジンリガンド24-リン酸化ZAP-70複合体の形成の段階が本質的に生理学的な条件の下で行われる、請求項1〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
ZAP-70相互作用化合物の同定のためのアミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用。
【請求項25】
リン酸化ZAP-70の精製のためのアミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用。
【請求項26】
慢性リンパ性白血病(CLL)用の診断薬(diagnosticum)の調製のためのアミノピリド-ピリミジンリガンド24の使用。
【請求項27】
ZAP-70の全量に関連して試料中のリン酸化ZAP-70の存在/量を測定する段階を含む、CLLの診断/予後診断のための方法であって、CLL患者由来の試料中のZAP-70 (非リン酸化ZAP-70およびリン酸化ZAP-70)の全量に比べてリン酸化ZAP-70の量が増大したことにより、侵襲型CLLの可能性がより高いことが示される、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−539081(P2009−539081A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512504(P2009−512504)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004880
【国際公開番号】WO2007/137867
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(505000022)セルゾーム アーゲー (7)
【Fターム(参考)】