説明

Zn含有合成雲母粉体、その製造方法、及びそれを含有する化粧料

【課題】白色で、柔らかくしっとりとした感触と高い耐酸性を有し、経済性にも優れる合成雲母粉体を提供する。
【解決手段】式(I):X1/3〜12〜3(Z10)F2×0.75〜2×1.0 で表されるZn含有合成雲母粉体(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオン;Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオン;Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオン;ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである)。このZn含有合成雲母粉体は四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを0.45〜2.0モル含有する合成雲母粉体原料を600〜1200℃で加熱処理することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成雲母粉体、特に、白色で、柔らかでしっとりとした良好な感触を有し、経済性にも優れる合成雲母粉体、その製造方法ならびに該合成雲母粉体を含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧料用雲母粉体として、セリサイト、白雲母、金雲母、合成金雲母等が使用されている。これら雲母粉体は、その添加により製品の伸展性、付着性、隠ぺい力、成型性等を向上させる目的で、ファンデーション、粉白粉、頬紅、アイシャドウ、口紅等の様々な化粧料に利用されている。
【0003】
合成雲母の一つである合成金雲母[理論式:KMg(AlSi10)F]は、天然金雲母[理論式:KMg(AlSi10)(OH)]のOH基がF原子で置き換えられた構造を有するフッ素金雲母(合成カリウム金雲母、フッ素カリウム金雲母ともいう)である。このフッ素金雲母は、鉄などの着色元素を含まないため白色度が高く、合成した際に比較的良い結晶を生成しやすいため透明性が高く、伸展性に優れるという性質を有している。しかしながら、結晶性が良いことから感触が硬く感じられ、柔らかくしっとりとした感触への改善が求められていた。
【0004】
特許文献1には、高周波誘導炉中で原料混合物を溶融することにより、不純物をほとんど含まない合成ナトリウム金雲母粉体が得られ、これは合成カリウム金雲母粉体などにはない、柔らかでしっとりとした非常に良好な感触を有するものであることが開示されている。
しかしながら、この合成ナトリウム金雲母粉体は、酸可溶物試験における酸可溶物量が30〜40%と非常に高く、耐酸性に問題があった。
【0005】
この問題を解決する方法として、特許文献2には、高周波誘導炉で溶融合成した合成ナトリウム金雲母粉体を、イオン半径が1.20Å以上の一価の陽イオンと接触させ、ナトリウム金雲母のナトリウムイオンの一部を陽イオンで置換することが開示されている。このような陽イオン溶液との接触処理により、接触させる以前の合成ナトリウム金雲母粉体の優れた感触を損わずに、耐酸性を改善することができる。
【0006】
しかしながら、耐酸性改善のためには接触処理を施す必要があるため、製造工程が煩雑となり、製造コストが上昇するという問題があった。
また、ナトリウム金雲母は膨潤性合成雲母であり、天然金雲母と同様に非膨潤性でしかも柔らかでしっとりとした感触を有する合成雲母も求められていた。
【0007】
一方、非特許文献1には、フッ素金雲母の理想式KMg(AlSi10)FのAlを亜鉛で置換した合成雲母を製造することを目的として、FKMg(Zn0.5Si3.510)の合成雲母組成となるように原料を混合し、この原料混合物を電気炉を用いて1,250℃で溶融合成したこと、その結果、F2.000.95Mg3.00Fe0.04(Al0.09Zn0.41Si3.4710.0)の化学式で示されるZn−雲母が得られたことが記載されている。
しかしながら、非特許文献1には、得られたZn−雲母の感触については全く記載されておらず、また、得られたZn−雲母を加熱処理することも全く記載されていない。
【0008】
また、特許文献3には、合成雲母を600〜1350℃で熱処理することにより、合成雲母中のフッ素のモル数を減少させ、フッ素イオン溶出量を低減することが記載されている。
しかしながら、Znイオンを結晶構造中に含有する合成雲母粉体を加熱処理することや、合成雲母粉体の柔らかさ、しっとり感については全く検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−75657号公報
【特許文献2】特開2005−187229号公報
【特許文献3】特公平7−115858号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大門信利ら、工業化学雑誌、55巻、第11冊、694−695(1952)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、用途の制限の少ない白色で、柔らかくしっとりとした感触と高い耐酸性を有し、経済性にも優れる合成雲母粉体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、合成雲母の四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを特定量含有する合成雲母粉体を加熱処理することにより、柔らかでしっとりとした感触に優れ、耐酸性も高い白色のZn含有合成雲母粉体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを0.45〜2.0モル含有する合成雲母粉体原料を加熱処理したZn含有合成雲母粉体であって、下記式(I)で表されることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する:
1/3〜12〜3(Z10)F2×0.75〜2×1.0 ・・・(I)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)。
【0014】
また、本発明は、前記Zn含有合成雲母粉体において、加熱処理温度が600〜1200℃であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体が、Na、K、Li、Ca、Rb、Sr、Mg、Ti、Al、Si、Ge、B、Znの酸化物、炭酸塩、及びフッ化物から選ばれる原料を混合した原料混合物を1300℃〜1500℃で溶融合成して得られた合成雲母の鉱塊を粉砕した合成雲母粉体原料を、600〜1200℃で加熱処理したものであって、
前記原料混合物中、Znを0.55〜2.3モル含み、Zn以外のX、Y及びZをそれぞれ下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して95〜105モル%含み、Fを下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して100〜120モル%含むことを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する:
1/3〜12〜3(Z10)F ・・・(II)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである)。
【0016】
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、XがKイオン、YがMgイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオン、ZがAlイオン、Siイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオンであり、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルであることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体の粉体測色値L*a*b*がそれぞれ下記の範囲であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する:
90≦L*≦100;
−0.5≦a*≦1.0;及び
−0.5≦b*≦1.5。
【0018】
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体のレーザー回折散乱式粒度分布測定におけるメジアン径が、0.2〜100μmであることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体が、酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下、100℃、1時間の熱水溶出試験におけるフッ素溶出量が20ppm以下であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、化粧料用であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体を提供する。
【0019】
また、本発明は、四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを0.45〜2.0モル含有する合成雲母粉体原料を加熱処理することを特徴とする前記式(I)で表されるZn含有合成雲母粉体の製造方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記製造方法において、Na、K、Li、Ca、Rb、Sr、Mg、Ti、Al、Si、Ge、B、Znの酸化物、炭酸塩、及びフッ化物から選ばれる原料を混合した原料混合物を調製する工程と、
この原料混合物を1300℃〜1500℃で溶融合成して得られた合成雲母の鉱塊を粉砕して、合成雲母粉体原料を得る工程と、
この合成雲母粉体原料を600〜1200℃で加熱処理してZn含有合成雲母粉体を得る工程とを備え、
前記原料混合物中、Znを0.55〜2.3モル含み、Zn以外のX、Y及びZをそれぞれ下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して95〜105モル%含み、Fを下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して100〜120モル%含むことを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法を提供する:
1/3〜12〜3(Z10)F ・・・(II)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである)。
【0021】
また、本発明は、前記何れかに記載の製造方法において、XがKイオン、YがMgイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオン、ZがAlイオン、Siイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオンであり、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルであることを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の製造方法において、前記加熱処理を酸化雰囲気中で行うことを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載のZn含有合成雲母粉体を含有することを特徴とする化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、合成雲母の八面体層イオンYの一部、及び/又は四面体層イオンZの一部をZnイオンで置換した合成雲母粉体原料を加熱処理することにより、肌上に塗布した際に非常に柔らかくてしっとりとした感触のZn含有合成雲母粉体が得られる。また、本発明のZn含有合成雲母粉体は、Feなどを用いていないため、その外観色は白色で透明感にも優れているため、用途の制限が少ない。また、本発明のZn含有合成雲母粉体は耐酸性にも優れているので、ナトリウム金雲母粉体のようにさらに耐酸性処理を行う必要がなく、経済性にも優れるものである。従って、本発明のZn含有合成雲母粉体は、特に化粧料用原料として好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のZn含有合成雲母粉体は、下記式(I)で示されるものである。
1/3〜12〜3(Z10)F2×0.75〜2×1.0 ・・・(I)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)
【0024】
本発明のZn含有合成雲母粉体においては、式(I)で示されるように、Znイオンが合成雲母の結晶構造中の八面体層イオンYの一部、及び/又は四面体層イオンZの一部に入っている必要がある。単に合成雲母表面に付着しているのでは本発明の効果は発揮されない。
【0025】
式(I)において、Znイオン含有モル数が0.45モルより少ない場合には、柔らかで、しっとりとした感触が不十分となることがある。よって、Znイオン含有モル数は0.45モル以上、さらには0.55モル以上、特に0.6モル以上であることが好ましい。一方、Znイオン含有モル数が過剰になると、雲母の結晶性が低下して合成雲母が得られないことがある。よって、Znイオン含有モル数は2.0モル以下、さらには1.5モル以下、特に1.0モル以下であることが好ましい。
【0026】
式(I)において、ZnイオンはY(八面体層イオン)、及び/又はZ(四面体層イオン)の少なくとも一部として配位する。
【0027】
本発明のZn含有合成雲母粉体は、前記式(I)で表されるように、フッ素モル数が合成雲母の化学量論組成の75%以上である。75%未満であると結晶構造が形成されず合成雲母とはならないことがある。好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0028】
本発明のZn含有合成雲母粉体は、四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを0.45〜2.0モル含有する合成雲母粉体原料を600〜1200℃で加熱処理することにより得られる。好適な方法の一例として、次の(1)〜(3)の工程を含む方法が挙げられる。
【0029】
(1)原料混合物の調製:
合成雲母粉体原料を合成するための原料混合物は、通常、目的とする合成雲母理論式組成に応じて、Na、K、Li、Ca、Rb、Sr、Mg、Ti、Al、Si、Ge、B、Znの酸化物、炭酸塩、及びフッ化物から選ばれる原料を混合することにより調製できる。
原料混合物には、次の(2)雲母の合成において、合成雲母結晶構造中にZnが0.45〜2.0モル含有されるようにZn含有物質を混合する。好ましくは、前記原料混合物中にZnが0.55〜2.3モル含まれるようにZn含有原料を混合する。Znが少なすぎると目的とする合成雲母粉体原料が得られないことがあり、多すぎると合成雲母自体が合成できないことがある。
【0030】
Zn以外のX、Y及びZについてはそれぞれ、原料混合物中、下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して95〜105モル%含むことができる。これは、Zn以外のX、Y及びZについては、下記式(II)の合成雲母理論式組成から換算した各原料の量に対して5モル%程度の変動は許容範囲だからである。
また、Fについては、原料混合物中、下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して100モル%以上、さらには105モル%以上含むことが好適である。これは、フッ素のように揮発性の高い元素については、溶融合成中の揮発分を考慮して式(II)の組成から換算した原料の量に対して過剰に混合することが好ましいからである。一方、原料混合物中のフッ素含有量が著しく過剰になると、得られたZn含有合成雲母粉体のフッ素イオン溶出量が多くなる場合があるので、フッ素については、原料混合物中、式(II)の組成から換算した原料の量に対して120モル%以下、さらには110モル%以下含むことが好ましい。
【0031】
1/3〜12〜3(Z10)F ・・・(II)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)
【0032】
前記式(II)の好ましい例の一つは、XがKイオン、YがMgイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオン、ZがAlイオン、Siイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオンであり、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである場合である。これは、フッ素金雲母理論式組成[KMg(AlSi10)F]のMg、Al、Siの1種以上のイオンの少なくとも一部がZnイオンで置換された組成に相当する。このような組成に基づいて調製した原料混合物を用いた場合には、Znを含有していても溶融合成で結晶性のよい鉱塊が得られる。
【0033】
ここで、Na、K、Li、Ca、Rb、Sr、Mg、Ti、Al、Si、Ge、Bの酸化物、炭酸塩、又はフッ化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化ゲルマニウム、酸化ホウ素等の酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸ルビジウム、炭酸ストロンチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ケイフッ化カリウム、フッ化リチウム、ケイフッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化ルビジウム等のフッ化物が挙げられる。
また、Znの酸化物、炭酸塩、又はフッ化物としては、例えば、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、フッ化亜鉛等が挙げられる。この中で、安全性、安定性等から酸化亜鉛が好適である。
【0034】
(2)雲母の合成:
上記原料混合物を用いて雲母の合成を行い、得られた結晶鉱塊を粉砕して、合成雲母結晶構造中にZnイオンを0.45〜2.0モル含有した合成雲母粉体原料を得る。
雲母の合成方法としては、溶融合成、水熱合成、固相反応等の公知の方法が挙げられるが、好ましくは溶融合成法である。
溶融合成法としては、原料混合物の入った坩堝を電気炉中で溶融温度まで加熱し溶融を行う外熱式溶融法や、カーボン電極や鉄電極を用い通電することにより溶融を行う内熱式溶融法などがあるが、生産性が高いという理由から、内熱式溶融法が特に好ましい。
【0035】
原料混合物は約1300〜1500℃、好ましくは1350〜1450℃で溶融し、この溶融体を冷却して結晶を析出させる。得られた合成雲母鉱塊を粉砕し、合成雲母粉体原料を得る。この合成雲母粉体原料は次の(3)加熱処理に供されるが、合成雲母粉体原料を、所望の粒径に分級した後、加熱処理してもよい。なお、合成雲母粉体原料が微細な場合(例えば5μm以下)には、加熱処理により多少粒径が大きくなるかもしれないが、通常は加熱処理による粒径の変化はほとんどない。また、この合成雲母粉体原料は、酸可溶物量が2.0%以下と耐酸性が非常に高く、これは、加熱処理した後も維持される。
【0036】
(3)加熱処理
上記合成雲母粉体原料を加熱処理することにより、柔らかでしっとりとした感触を有する本発明のZn含有合成雲母粉体が得られる。加熱処理なしでは、このような感触は得られない。また、合成雲母粉体原料のZn含有モル数が低い場合には、加熱処理しても柔らかでしっとりとした使用感は得られない。なお、加熱処理によって、合成雲母粉体中の組成はほとんど変化しないが、比容積が増大する傾向がある。
加熱処理によって感触が改善される理由は定かではないが、一つの要因として、Znによるモル凝固点降下により、加熱処理で雲母単位層同士の集合状態に変化を生じることが考えられる。
【0037】
また、上記の合成雲母粉体原料は、場合によっては外観色が白色以外の有彩色である場合がある。しかし、このような合成雲母粉体原料でも加熱処理することによって白色のZn含有合成雲母粉体とすることができる。
【0038】
本発明のZn含有合成雲母粉体の外観色は白色であり、粉末セル法で測定した粉体測色値Lとしては通常下記の範囲である。
90≦L≦100
−0.5≦a≦1.0
−0.5≦b≦1.5
【0039】
値が小さすぎると明度が低くなり、汎用性が低下するので、90以上、さらには93以上が好ましい。a値が小さすぎる場合や大きすぎる場合には、緑味、あるいは赤味が強くなるので、−0.5〜1.0、さらには−0.3〜0.5の範囲が好ましい。b値が小さすぎる場合や大きすぎる場合には、青味、あるいは黄味が強くなるので、−0.5〜1.5、さらには−0.3〜1.3の範囲が好ましい。
【0040】
加熱処理温度は、合成雲母粉体原料の粒径などによって適宜設定すればよいが、通常は600〜1200℃、好ましくは700〜1150℃、さらに好ましくは900〜1100℃である。600℃より低い温度では、長時間加熱処理しても柔らかでしっとりとした感触が得られず非現実的であり、1200℃より高い温度では合成雲母粉体原料が分解してしまうことがある。
加熱処理時間は、合成雲母粉体の粒径や加熱処理温度などによって適宜設定すればよいが、通常は10分〜12時間、好ましくは30分〜6時間、さらに好ましくは1時間〜4時間である。
【0041】
加熱処理装置としては、例えば、外熱式加熱炉、内熱式加熱炉、ロータリーキルン等の公知の加熱装置が用いられる。また、加熱処理雰囲気としては、酸化雰囲気、還元雰囲気、不活性ガス雰囲気、アンモニアガス雰囲気中、常圧〜真空条件下で行うことができるが、酸化雰囲気で行うことは経済性の観点から好適である。
【0042】
なお、加熱処理は、粗粉砕の合成雲母粉体原料よりも微粉砕した合成雲母粉体原料に対して行う方が、低温・短時間でその効果が発揮される傾向がある。
加熱処理によって粒径はほとんど変化しないが、もし加熱処理後に粉体粒子同士の凝集を生じたとしても、解砕すれば凝集を容易にほぐすことができる。また、必要であれば加熱処理後に洗浄、乾燥等を行うこともできる。
【0043】
本発明の合成雲母粉体のレーザー回折散乱式粒度分布測定におけるメジアン径は、用途によって適宜決定されるが、0.2〜100μmが好ましい。特に、化粧料に配合する場合には通常1〜60μmが好ましく、更に好ましくは、5〜40μmである。メジアン径が0.2より小さい場合には、雲母の特徴である、延展性が不足し、また、100μmを超える場合には、粒状感が強くなり好ましくない。また、粉体粒子の厚さは0.05〜2μmが好ましい。
【0044】
本発明のZn含有合成雲母粉体は、酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下と耐酸性に優れるものであるが、前記加熱処理によって、100℃、1時間の熱水溶出試験におけるフッ素イオン溶出量も20ppm以下とすることができる。
従って、白色度が高く感触の良好な本発明のZn含有合成雲母粉体は、安全性の点からも、化粧料原料として好適である。
【0045】
本発明のZn含有合成雲母粉体は、公知の化粧料に配合することが可能であり、例えば、ファンデーション、化粧下地、頬紅、マスカラ、口紅、ネイルエナメル等のメークアップ化粧料の他、日焼け止め化粧料、毛髪化粧料等が挙げられる。特に、パウダリーファンデーション、フェースパウダー、アイシャドー、アイブロウ等の粉末化粧料は、本発明のZn含有合成雲母粉体の柔らかさやしっとり感が十分に発揮できるという点で好適である。
【実施例】
【0046】
次に、具体例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、用いた測定方法、評価方法は以下の通りである。
【0047】
<合成雲母組成分析>
(1)Si(SiO−重量法)
試料0.2gをニッケルるつぼに正確に量りとり(Wg)、約1gのほう酸と約3gの過酸化ナトリウムを加え電気炉(600℃)で融解する。
放冷後、水でビーカーに移し(200mlコニカルビーカーの中にるつぼごと入れる)塩酸10ml及び過塩素酸20mlを加えホットプレート上で過塩素酸の白煙が約10分間程度発生するまで加熱する。
放冷後、水約100ml加え加熱し、数分間煮沸する。
放冷後、ろ紙パルプ少量を加え、ろ過し(5A)、ろ紙を水で十分に洗浄した後、白金るつぼに移し約900℃で灰化する。デシケーター中で放冷し、秤量する(W1g)。
るつぼに硫酸数滴及びフッ化水素酸約10mlを加え硫酸の白煙が発生するまで加熱する。るつぼを電気炉(約900℃)で加熱後デシケーター中で放冷し、秤量する(W2g)。Si(%)は、下記式により算出する。
SiO(%)=(W1−W2)/W×100
Si(%)=SiO(%)/2.1393
【0048】
(2)Mg,Al,K,Zn(ICP発光分光分析法)
試料約0.1gを白金るつぼに正確に量りとり、過塩素酸5ml及びフッ化水素酸10mlを加え電熱器上で加熱する。
過塩素酸の白煙を十分出させた後、冷却し、水でビーカーに移し塩酸2mlを加えて加熱し、溶解させる。放冷後、メスフラスコに移し定量とし、ICP発光分光分析計により定量する。
【0049】
(3)F(過酸化ナトリウム融解−イオンクロマトグラフ分析)
試料約100mgを正確にニッケルるつぼに量りとり、過酸化ナトリウム約3gを加え650℃で融解する。冷却後、水でビーカーに移す。
融解物を蒸留フラスコに移し、二酸化ケイ素1g、りん酸1ml、硫酸30mlを加え145±5℃で水蒸気蒸留をし、イオンクロマトグラフ分析計にて定量する。
各表の組成は、各実測値から、Siを3モルに固定して組成を算出した。Oは全電荷がゼロとなるように計算した。
【0050】
<メジアン径(d50)>
レーザー回折散乱式粒度分布計((株)セイシン企業製、LMS−30)を用い測定した。
【0051】
<粉体測色値L***
試料1gを採取し、これをミノルタ製色彩色差計(CR−200)の粉末セルに入れて測定した。
【0052】
<比容積>
篩かけした試料2gを採取し、これを目盛り付き試験管にいれ、タッピング装置(アイバ比容積試験器)で400回タッピングする。タッピング後の粉体の容積(試験管の目盛り)から、比容積を測定した。
【0053】
<酸可溶物量>
化粧品安全基準に則り、被験粉体1gに23.6vol%の希塩酸20mlを加え、50℃で15分かき混ぜながら加温した後、水を加えて正確に50mlとし、濾過した。初めの濾液15mlを除き、次の濾液25mlを正確にとり、水浴上で蒸発乾固し、恒量になるまで強熱し、デシケーター中で冷却した後、その重量を測定することで、被験粉体質量に対する酸可溶物量を算出した。
【0054】
<フッ素イオン溶出量>
水100mlに対し、被験粉体5gを添加し、100℃で1時間煮沸処理した後、イオンクロマトグラフィー分離にて水中の陰イオンをフッ素イオンのみとし、電気伝導度を測定することで、被験粉体質量に対するフッ素イオン溶出量を算出した。
【0055】
<柔らかさ、しっとり感>
30名の専門パネルによって、被験粉体を肌上に塗布したときに柔らかさ及びしっとり感の各項目ごとに、下記1−5の5段階の官能評価を行った。
1・・・悪い
2・・・やや悪い
3・・・普通
4・・・やや良い
5・・・良い
結果は30名の5段階評価の平均値として、下記のようにして評価した。
◎・・・4.5−5.0
○・・・3.5−4.4
□・・・2.5−3.4
△・・・1.5−2.4
×・・・1.0−1.4
【0056】
製造例1
(1)原料混合物の調製:
ケイフッ化カリウム17.1重量%、炭酸カリウム4.6重量%、酸化マグネシウム26.9重量%、酸化アルミニウム3.4重量%、二酸化ケイ素35.4重量%及び酸化Zn12.7重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のAlの1モルをZnで0.7モルだけ置換した原料混合物)を得た。
【0057】
(2)雲母の合成:
この原料混合物を、カーボン電極をセットした内燃式電気抵抗炉内中に投入し、約2時間通電すると、溶融体を生成した。溶融体の温度は、1400℃であった。その後、鋳型に取り出し、徐冷し、Znを0.6モル含有するZn含有雲母結晶塊を得た。この雲母結晶を粗粉砕、微粉砕、分級し、メジアン径12μmの雲母粉体を得た。
【0058】
(3)加熱処理:
この雲母粉体を1000℃で1時間加熱処理後、水洗、脱水、乾燥、解砕して目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
得られたZn含有合成雲母粉体について、メジアン径、粉体測色値、酸可溶物、フッ素溶出量、柔らかさおよびしっとり感を評価した。
【0059】
製造例2
ケイフッ化カリウム16.8重量%、炭酸カリウム4.5重量%、酸化マグネシウム20.3重量%、酸化アルミニウム11.1重量%、二酸化ケイ素34.8重量%及び酸化Zn12.4重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のMgの3モルをZnで0.7モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0060】
製造例3
ケイフッ化カリウム15.1重量%、炭酸カリウム4.1重量%、酸化マグネシウム7.9重量%、酸化アルミニウム10.0重量%、二酸化ケイ素31.2重量%及び酸化Zn31.8重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のMgの3モルをZnで2.0モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0061】
製造例4
ケイフッ化カリウム17.3重量%、炭酸カリウム4.7重量%、酸化マグネシウム27.1重量%、酸化アルミニウム5.1重量%、二酸化ケイ素35.7重量%及び酸化Zn10.0重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のAlの1モルをZnで0.55モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理(だたし、加熱処理は1050℃で8時間)を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0062】
製造例5
ケイフッ化カリウム16.1重量%、炭酸カリウム4.3重量%、酸化マグネシウム19.4重量%、酸化アルミニウム3.2重量%、二酸化ケイ素33.2重量%及び酸化Zn23.8重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のMgの3モルをZnで0.7モル、さらにAlの1モルをZnで0.7モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0063】
製造例6
ケイフッ化カリウム17.2重量%、炭酸カリウム1.5重量%、炭酸ナトリウム2.4重量%、酸化マグネシウム27.0重量%、酸化アルミニウム3.4重量%、二酸化ケイ素35.6重量%及び酸化Zn12.7重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のKの1モル部をNaで0.2モルだけ置換し、さらにAlの1モルをZnで0.7モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0064】
製造例7
ケイフッ化カリウム17.2重量%、炭酸カリウム4.6重量%、酸化マグネシウム26.9重量%、酸化アルミニウム4.0重量%、二酸化ケイ素35.5重量%及び酸化Zn11.8重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のAlの1モルをZnで0.65モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理(だたし、加熱処理は1000℃で4時間)を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0065】
比較製造例1
ケイフッ化カリウム17.4重量%、炭酸カリウム4.7重量%、酸化マグネシウム27.2重量%、酸化アルミニウム5.7重量%、二酸化ケイ素35.8重量%及び酸化Zn9.2重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のAlのム1モルをZnで0.5モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0066】
比較製造例2
ケイフッ化カリウム17.2重量%、炭酸カリウム4.6重量%、酸化マグネシウム22.4重量%、酸化アルミニウム11.3重量%、二酸化ケイ素35.4重量%及び酸化Zn9.1重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のMgの3モルをZnで0.5モルだけ置換した原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0067】
比較製造例3
ケイフッ化カリウム14.5重量%、炭酸カリウム3.9重量%、酸化マグネシウム3.8重量%、酸化アルミニウム9.6重量%、二酸化ケイ素29.9重量%及び酸化Zn38.3重量%の割合の原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成のMgの3モルをZnで2.5モルだけ置換した原料混合物)を得た。
この原料混合物を用いて、製造例1と同様に(2)雲母合成を行ったが、得られた鉱塊の結晶は針状をしており、板状の雲母結晶は得られなかった。
【0068】
比較製造例4
ケイフッ化カリウム18.0重量%、炭酸カリウム4.8重量%、酸化マグネシウム28.2重量%、酸化アルミニウム11.9重量%及び二酸化ケイ素37.1重量%の割合で原料を十分混合し、原料混合物(フッ素金雲母理論組成の原料混合物)を得た。
以下、製造例1と同様に(2)雲母合成及び(3)加熱処理を行って、フッ素金雲母粉体を得た。
【0069】
比較製造例5
製造例1において(3)加熱処理を行わなかった以外は同様にして、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0070】
比較製造例6
製造例2において(3)加熱処理を行わなかった以外は同様にして、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0071】
比較製造例7
比較製造例1において(3)加熱処理を行わなかった以外は同様にして、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0072】
比較製造例8
比較製造例2において(3)加熱処理を行わなかった以外は同様にして、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0073】
比較製造例9
製造例1において(3)1300℃、0.5時間加熱処理を行った以外は同様にして、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。しかし、得られた粉体には、一部分解、融着したZn含有合成雲母塊が混在しており、目的とするZn含有合成雲母粉体を得られなかった。
【0074】
比較製造例10
製造例1において(3)500℃、24時間加熱処理を行った以外は同様にして、目的とするZn含有合成雲母粉体を得た。
【0075】
製造例及び比較製造例の原料混合物組成及び加熱処理条件を表1に、得られたZn含有合成雲母粉体の組成分析結果を表2にそれぞれ示す。
表2からわかるように、製造例1〜7で得られたZn含有合成雲母粉体は何れもZnイオンを0.45〜2.0モル含有するものであった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
表3は、Zn含有合成雲母粉体の評価結果である。
表3のように、合成雲母粉体原料を加熱処理して得られたZn含有合成雲母粉体(製造例1〜7)は、従来のフッ素金雲母粉体(比較製造例4)に比べて、肌上に塗布した場合の柔らかさやしっとり感において非常に優れていた。また、合成雲母粉体原料を加熱処理して得られたZn含有合成雲母粉体(製造例1〜7)は、同じ粒径のフッ素金雲母粉体(比較製造例4)に比べて比容積が非常に大きいものであった。
【0080】
これに対して、Znイオンを0.4モル程度含有するZn含有合成雲母粉体(比較製造例1〜2)では、加熱処理しているにもかかわらず、柔らかでしっとりした感触は得られず、その感触は従来のフッ素金雲母粉体(比較製造例4)と感触に大差はなかった。また、比較製造例7〜8(比較製造例1〜2の加熱処理なしの場合)と比較製造例1〜2の感触もほとんど同じであった。このことから、Znイオン含有モル数が0.45モルより小さい合成雲母粉体原料を加熱処理しても、柔らかでしっとりした使用感は得られないことが理解される。
【0081】
また、比較製造例5〜6(製造例1〜2で加熱処理なしの場合)の結果からもわかるように、加熱処理なしでは、たとえZnイオン含有モル数が0.45〜2.0モルであったとしても柔らかでしっとりした使用感は得られなかった。
さらに、比較製造例9〜10(製造例1の加熱処理温度が範囲外の場合)の結果からもわかるように、加熱処理温度が高すぎる場合には、得られた粉体には、一部分解、融着したZn含有合成雲母塊が混在し、目標とするZn含有合成雲母粉体が得られない場合がある。また、低すぎる場合には、短時間の加熱処理の効果が十分発現せず、加熱処理しているにもかかわらず、その感触は従来のフッ素金雲母粉体(比較製造例4)と感触に大差はなく、柔らかでしっとりした感触を得るには更に長時間の加熱処理が必要で、生産効率上好ましくない。
【0082】
また、製造例1〜6のZn含有合成雲母粉体の外観色は白色であり、粉体測色値は90≦L*≦100、0.0≦a*≦0.5、−0.1≦b*≦0.8の範囲であった。これらは、比較製造例4のフッ素金雲母粉体の粉体測色値と比べても遜色ないものである。
比較製造例5(製造例1で加熱処理なしの場合)の粉体はa値が高く、薄ピンク色の粉体であったが、これを加熱処理した製造例1のZn含有合成雲母粉体は白色であった。このことからもわかるように、加熱処理により白色度が向上したZn含有合成雲母粉体を得ることができる。
【0083】
また、表3からわかるように、本発明のZn含有合成雲母粉体は特に耐酸性処理をせずとも酸可溶物2.0%以下であり、高い耐酸性を有する。また、フッ素溶出量も20ppm以下と非常に低い。
【0084】
試験例1〜5
製造例1の(2)において、合成雲母粉体のメジアン径を6μm、20μm、60μm、100μm及び150μmとし、これを合成雲母粉体原料として用いた以外は製造例1と同様にして、それぞれメジアン径が6μm、20μm、60μm、100μm及び150μmのZn含有合成雲母粉体を得た。評価結果を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表4からもわかるように、粒径が大きすぎるとカサツキ感を生じて柔らかさやしっとり感が相殺されてしまう傾向があったが、メジアン径が100μm、さらには60μmでも、従来のフッ素金雲母の同粒径品との比較すれば、柔らかさやしっとり感は優れていた。柔らかさやしっとり感が高いほど、比容積が大きい傾向があった。
このようなことから、本発明のZn含有合成雲母粉体のメジアン径は0.2〜100μm、さらには1〜60μm、特に5〜40μmであることが好適である。
【0087】
さらに、Zn含有合成雲母粉体を実際に化粧料(パウダーファンデーション)に配合してその使用感を調べた。被験処方は次の通り。
【0088】
<処方>
(1)Zn含有合成雲母粉体 55質量部
(2)酸化チタン 7
(3)白雲母 3
(4)タルク 20
(5)ナイロンパウダー 2
(6)赤色酸化鉄 0.5
(7)黄色酸化鉄 1
(8)黒色酸化鉄 0.1
(9)シリコーンオイル 1
(10)パルチミン酸2−エチルヘキシル 9
(11)セスキオレイン酸ソルビタン 1
(12)防腐剤 0.3
(13)香料 0.1
【0089】
<製法>
上記成分(1)〜(8)をヘンシェルミキサーで混合し、この混合物に加熱溶解混合した成分(9)〜(13)を添加混合した後、パルベライザーで粉砕し、これを150kg/cmの圧力で直径53mmの中皿に成形して、パウダーファンデーションを得た。
【0090】
【表5】

【0091】
表5からわかるように、製造例1〜7及び試験例1〜4で得られたZn含有合成雲母粉体は、化粧料に配合した場合でも柔らかさ、しっとり感を発揮した。
以上のように、本発明のZn含有合成雲母粉体は従来の合成金雲母粉体が使用されている各種分野において使用可能であるが、白色で使用感がよく、酸可溶物量、フッ素イオン溶出量も非常に低いので、特に化粧料原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを0.45〜2.0モル含有する合成雲母粉体原料を加熱処理したZn含有合成雲母粉体であって、下記式(I)で表されることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
1/3〜12〜3(Z10)F2×0.75〜2×1.0 ・・・(I)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)
【請求項2】
請求項1記載のZn含有合成雲母粉体において、加熱処理温度が600〜1200℃であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
【請求項3】
請求項1又は2記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体が、Na、K、Li、Ca、Rb、Sr、Mg、Ti、Al、Si、Ge、B、Znの酸化物、炭酸塩、及びフッ化物から選ばれる原料を混合した原料混合物を1300℃〜1500℃で溶融合成して得られた合成雲母の鉱塊を粉砕した合成雲母粉体原料を、600〜1200℃で加熱処理したものであって、
前記原料混合物中、Znを0.55〜2.3モル含み、Zn以外のX、Y及びZをそれぞれ下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して95〜105モル%含み、Fを下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して100〜120モル%含むことを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
1/3〜12〜3(Z10)F ・・・(II)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、XがKイオン、YがMgイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオン、ZがAlイオン、Siイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオンであり、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルであることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体の粉体測色値L*a*b*がそれぞれ下記の範囲であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
90≦L*≦100
−0.5≦a*≦1.0
−0.5≦b*≦1.5
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体のレーザー回折散乱式粒度分布測定におけるメジアン径が、0.2〜100μmであることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、前記Zn含有合成雲母粉体が、酸可溶物試験における酸可溶物量が2.0%以下、100℃、1時間の熱水溶出試験におけるフッ素溶出量が20ppm以下であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載のZn含有合成雲母粉体において、化粧料用であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体。
【請求項9】
四面体層イオン及び/又は八面体層イオンとしてZnイオンを0.45〜2.0モル含有する合成雲母粉体原料を加熱処理することを特徴とする下記式(I)で表されるZn含有合成雲母粉体の製造方法。
1/3〜12〜3(Z10)F2×0.75〜2×1.0 ・・・(I)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)
【請求項10】
請求項9記載の製造方法において、加熱処理温度が600〜1200℃であることを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の製造方法において、Na、K、Li、Ca、Rb、Sr、Mg、Ti、Al、Si、Ge、B、Znの酸化物、炭酸塩、及びフッ化物から選ばれる原料を混合した原料混合物を調製する工程と、
この原料混合物を1300℃〜1500℃で溶融合成して得られた合成雲母の鉱塊を粉砕して、合成雲母粉体原料を得る工程と、
この合成雲母粉体原料を600〜1200℃で加熱処理してZn含有合成雲母粉体を得る工程とを備え、
前記原料混合物中、Znを0.55〜2.3モル含み、Zn以外のX、Y及びZをそれぞれ下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して95〜105モル%含み、Fを下記式(II)で示される合成雲母理論式組成に対して100〜120モル%含むことを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法。
1/3〜12〜3(Z10)F ・・・(II)
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca、Rb及びSrからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
Yは、Mg、Al、Li、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上のイオンを表す;
Zは、Al、Si、Ge、B、Ti及びZnからなる群より選ばれる1種以上の元素のイオンを表す;
ただし、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルである。)
【請求項12】
請求項9〜11の何れかに記載の製造方法において、XがKイオン、YがMgイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオン、ZがAlイオン、Siイオン及びZnイオンから選ばれる1種以上のイオンであり、Y及びZの少なくとも一方はZnイオンを含み、Znイオン含有モル数は0.45〜2.0モルであることを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12の何れかに記載の製造方法において、前記加熱処理を酸化雰囲気中で行うことを特徴とするZn含有合成雲母粉体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8の何れかに記載のZn含有合成雲母粉体を含有することを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2012−246206(P2012−246206A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121886(P2011−121886)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】