ZnO系半導体及びZnO系半導体素子
【課題】自己補償効果を緩和し、p型化を行いやすくしたZnO系半導体及びZnO系半導体素子を提供する。
【解決手段】
窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体を、絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定を行って、スペクトル分布曲線を形成し、3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、(A/B)≧0.3 を満たすようにZnO系半導体が形成されているので、自己補償効果が低減されてp型化しやすくなる。
【解決手段】
窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体を、絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定を行って、スペクトル分布曲線を形成し、3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、(A/B)≧0.3 を満たすようにZnO系半導体が形成されているので、自己補償効果が低減されてp型化しやすくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素がドーピングされたMgZnO結晶体で構成されたZnO系半導体及びこのZnO系半導体を用いたZnO系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
照明、バックライト等用の光源として使われる紫外LEDや高速電子デバイス、表面弾性波デバイス等に酸化物の一種であるZnO系半導体素子を用いることが研究されている。ZnOはその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されていながら、なかなか半導体デバイス材料として成長しなかった。その最大の難点は、アクセプタドーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったためである。しかし、近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。
【0003】
p型ZnOを得るためのアクセプタとして窒素を用いることが提案されているが、K.Nakahara et al.,Journal of Crystal Growth 237-239(2002)p.503 に示されているように、アクセプタとして窒素をドーピングする場合は、窒素のドーピング効率は成長温度に強く依存し、窒素ドーピングを行うためには基板温度を下げる必要があるが、基板温度を下げると結晶性が低下し、アクセプタを補償するキャリア補償センターが形成されて、窒素が活性化しないので(自己補償効果)、p型ZnO層の形成そのものが非常に難しくなる。
【0004】
そこで、非特許文献2に示されるように、成長の主面を−C面とし、窒素ドーピング効率の温度依存性を利用して、400℃と1000℃との間の成長温度を行き来する反復温度変調法(Repeated Temperature Modulation:RTM)により高キャリア濃度のp型ZnO層を形成する方法がある。
【0005】
しかし、上記の方法では、絶え間ない加熱と冷却によって膨張・収縮を繰り返すために製造装置への負担が大きく、製造装置が大がかりになり、メンテナンス周期が短くなるといった問題があった。また、低温度部分がドープ量を決定するため、温度を正確に制御する必要があるが、400℃と1000℃を短時間に正確に制御するのは難しく、再現性・安定性が悪い。さらに、加熱源としてレーザを使用するため、大きい面積の加熱には不向きで、デバイス製造コストを下げるための多数枚成長も行いにくい。
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al., JJAP 44 (2005) L643
【非特許文献2】A. Tsukazaki et al Nature Material 4 (2005) 42
【非特許文献3】M.Sumiya et al.,Applied Surface Science 223(2004)p.206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、成長用基板としてZnO基板の+C面を使用すると窒素が入り易くなることは、例えば非特許文献3に示されるように、既に知られており、上記問題を解決するためには、この手法を用いることが考えられる。+C面を使用すると、基板温度を上げても窒素ドープ量は、確保されるため、上記RTM時に発生する問題は解決されるが、自己補償効果は残るため、窒素は完全に活性化せず、p型化することが難しい。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、自己補償効果を緩和し、p型化を行いやすくしたZnO系半導体及びZnO系半導体素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、(A/B)≧0.3を満たしていることを特徴とするZnO系半導体である。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、前記(A/B)は0.4以上であることを特徴とする請求項1に記載のZnO系半導体である。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、{A/(B−A)}≧1を満たしていることを特徴とするZnO系半導体である。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、前記積分強度Aを求める場合は、3.3eV以上の前記分布曲線をガウシアンカーブで近似し、該ガウシアンカーブを積分することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、前記3.3eV以上の分布曲線に発光ピークが複数存在する場合には、それぞれの発光ピークをガウシアンカーブで近似することを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体である。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、前記窒素ドープの濃度は1×1018cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0014】
また、請求項7記載の発明は、前記結晶体は、Mgの組成比率が異なるMgXnZn1−XnO(0≦Xn<1)が複数積層された積層体であって、少なくとも1つのMgZnO膜には、窒素が1×1018cm−3以上の濃度でドープされていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0015】
また、請求項8記載の発明は、前記結晶体は、結晶成長方向側の主面がC面を有するMgZnO基板と該MgZnO基板に形成されたMgYZn1−YO(0<Y<1)膜とで構成されており、前記主面の法線を基板結晶軸のm軸c軸平面に投影した投影軸が、m軸方向に3度以内の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0016】
また、請求項9記載の発明は、前記結晶体は、750℃以上の成長温度で結晶成長させることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のZnO系半導体を備えたZnO系半導体素子である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のZnO系半導体によれば、窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体を用いるとともに、この結晶体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定のスペクトル分布曲線で、3.3eV以上のスペクトル分布曲線の積分強度A、2.7eV以上のスペクトル分布曲線の積分強度Bとした場合、(A/B)≧0.3を満たすように形成されているので、自己補償効果が特に低減されて窒素を活性化し、p型MgZnOとして使用可能な結晶品質の高いMgZnO薄膜やMgZnO積層体を得ることができる。また、これを用いることにより、高性能なZnO系半導体素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、窒素を添加する場合、MgXZn1−XO(0<X<1)結晶体は、ZnOのみからなる結晶体と比較して自己補償効果の緩和作用を有しており、p型化が容易であることを見出し、さらには、p型化に必要な指標を見出した。ここで、MgXZn1−XO(0<X<1)結晶体とは、MgZnO膜単層、MgZnO膜を複数積層した多層膜積層体、MgZnO基板とMgZnO膜との積層体等を含むものである。
【0020】
これまでの研究ではZnO系半導体のp型化というと、ZnOのp型が研究されるのが専らであった。ZnO系半導体の代表格はCdZnOとMgZnOであるが、ナローギャップ材料のCdZnOはCdの毒性からその研究が忌避される傾向にあった。ワイドギャップ半導体のMgZnOはワイドギャップの通例の傾向としてアクセプタエネルギーの活性化エネルギーが大きくなる(すなわちホールが発生しにくくなる)こと、MgZnOは焼結体から作られることが多いため、純度があげにくいこと、以上のような理由からp型化の研究対象とはなっていなかった。
【0021】
しかし、我々はMgZnOにそれまで知られていなかった自己補償効果を低減する効果があることを見出した。図3に、MgZnOが特に自己補償効果を低減、緩和する作用があることを示す。図3は、絶対温度12K(ケルビン)で測定された窒素ドープZnOと窒素ドープMgZnOのフォトルミネッセンス(PL)測定によるスペクトル分布を示す。PL測定は、窒素ドープMgZnOについては、図17(a)に示すように、ZnO基板1上に窒素ドープMgZnO層2を結晶成長させたものを用い、窒素ドープZnOについては、図17(a)で窒素ドープMgZnO層2の替わりに窒素ドープZnOを結晶成長させたものを用いた。
【0022】
また、フォトルミネッセンス測定装置は、図18に示される構成の装置を使用した。励起光源31としてAr(アルゴン)レーザ又はHe−Cd(ヘリウムカドニウム)レーザが使用可能であるが、本実施例ではHe−Cdレーザを使用し、He−Cdレーザの出力は30〜32mWとした。励起光源31から発生した励起光強度は、1〜10W/cm2程度、試料35直前の励起光出力は、250〜400μW程度となった。分光器37の焦点距離は50cm、分光器37の回折格子の刻線本数1200本/mm、ブレーズ波長(回折効率最大の波長)330nmである。回折格子からの回折光を特定の波長λの集光とするために、回折格子を回転させるギア機構が備わっており、その回転を与えるためにパルスモータ41が接続されている。冷凍機34の冷凍温度は絶対温度10〜200ケルビンに設定可能となっている。光検出器38は、CCD検出器による構成で1024ch、液体窒素冷却方式である。分光器と光検出器とを含めた全体のシステムは、SPECTRUM1システム(HORIBA JOVIN YVON社製)と呼ばれるものを用いた。
【0023】
測定結果は、白丸(○)で描かれている曲線が窒素ドープZnOで、他の2本の曲線が、窒素ドープMgZnOである。ZnOは、窒素ドープ濃度を2×1019cm−3に形成し、MgZnOは、Mg0.1ZnOについては窒素ドープ濃度2×1019cm−3、Mg0.11ZnOについては窒素ドープ濃度7×1018cm−3に形成して測定した。図3の横軸は発光エネルギー(単位:eV)を、縦軸はPL強度を示し、PL測定のときに通常用いられる任意単位(対数スケール)で表す。
【0024】
また、図5は、図3のグラフの横軸のスケールを3.05〜3.65eVの範囲から2.1〜3.7eVの範囲に拡大した図を、図4は、図3のグラフの横軸のスケールを2.7〜3.7に拡大した図を表わす。図3〜図5に示されているP1、P2、P3は、各々バンド端発光を表わす。
【0025】
窒素ドープZnOについては、これまでに知られているように、図3〜図5のP1に示されるバンド端発光ピークエネルギーより低エネルギー側にドナー・アクセプタペア(Donor-Acceptor Pair:DAP)と呼ばれる、アクセプタドープ時特有の発光ピークが現れる。図15は、DAP発光の作用を示す模式図であるが、DAP発光の位置というのは、以下のように決まる。
【0026】
DAP発光のエネルギーをEDAP、最低励起エネルギーをEG、ドナー準位をED、アクセプタ準位をEA、ドナーとアクセプタとの距離をrDA、真空誘電率ε0、比誘電率εr、電子の電荷をe、プランク定数をh、LO(Longitudinal Optical)フォノンの振動数をωLOとすると、
EDAP=EG−ED−EA+(e2/4πε0εrrDA)−(mhωLO/2π)
となる。ここで、mは0以上の整数である。
DAPの発光ピーク位置というのは、上記式のように決定されるので、通常はドナー、アクセプタの種類、およびその濃度が決まれば、決定されるものである。
【0027】
3.3eVをバンド端発光領域とDAP発光領域との境界とすると、3.3eVよりも低エネルギー側にDAP発光領域が現われている。一方、図5に示されるように、DAP領域よりもさらに低エネルギー側では、エネルギーが低下するほどにPL強度が上がっていく領域が存在し、窒素ドープ特有の深い準位発光が見られる。図に示すA付近のエネルギー領域になると、ZnOでは、この深い準位発光強度が非常に大きくなる。他方、MgZnOでは深い準位発光強度は、一桁以上小さくなり、MgZnOの著しい特徴が見られる。
【0028】
DAP発光はPLの励起光密度を上げていくと発光ピークがブルーシフトすることが良く知られており、主にこの現象を用いて同定される。実線と破線の曲線はMgZnOのものであるが、MgZnOがワイドギャップであるため、MgZnOの曲線上で、ZnOのバンド端発光ピークP1と同じ位置にZnOのバンド端発光ピークと同じピークが少し見えている。これを見ると、窒素ドープZnOについては、3.3eVを境にしてDAP発光がZnOバンド端発光に比べて強いことがすぐにわかる。アクセプタドープ時にバンド端発光が弱まり、DAP発光が強くなるのはZnSe、GaNでも普通に見られることであり、特別異常なことではない。この事実の裏づけがあるため、ZnOでp型化を試みるのが一般的になっていた。
【0029】
ところが、図3〜図5に示されるように、MgZnOでは全く振る舞いが異なる。図の破線と実線が窒素ドープMgZnOであるが、どちらも、DAP発光よりも、バンド端発光P2、P3近傍の発光の方が強い。特に実線のデータはZnOの曲線と窒素濃度が全く同じであるにも関わらず、DAP発光が非常に弱い。これはMgZnOの著しい特徴であり、自己補償効果が低減されているものと考えられる。
【0030】
同時にDAP発光が弱い窒素ドープMgZnOとZnO基板とを接合すると、強い発光が見られることを確認できた。したがって、DAP発光が弱い窒素ドープMgZnOを形成することが、p型化の指標であることが分かった。
【0031】
次に、PL測定の発光スペクトル領域を2つの領域に分けて、この2つの領域の発光強度を比較することにより、p型化の指標を数値化する。まず、図3〜図5から、DAP発光領域と深い準位発光との境界を2.7eVとし、前述したようにDAP発光領域とバンド端発光領域との境界を3.3eVとする。
【0032】
図17(a)のように、窒素ドープ濃度を変えた窒素ドープMgZnO層2をZnO基板1上に形成し、各素子毎に前述の条件でPL測定を行った。また、これらの窒素ドープMgZnOをp型層に用い、ZnO系半導体素子として紫外LEDを作製して、発光が見られることを確認した。この発光素子は、例えば、図16のように構成される。ZnO基板12上に、アンドープZnO層13、窒素ドープのp型MgZnO層14を順に結晶成長させた後、p電極15とn電極11とを形成した。p電極15は図示されているように、Au(金)152とNi(ニッケル)151との多層金属膜で構成し、n電極11はIn(インジウム)で構成した。窒素ドープMgZnO層14が、本発明の窒素ドープMgZnO結晶体である。
【0033】
窒素ドープ濃度を変えた窒素ドープMgZnO毎のPL測定のスペクトル分布曲線について、3.3eV以上のエネルギー領域でPL発光がなくなる領域までPL強度を積分し、この積分値をAとする。この場合、図3〜5からわかるように、積分区間は、3.3eV〜3.6eVとなる。また、上記積分値Aを精度良く算出するために、バンド端ピークP2、P3等をガウシアンカーブでフィッティングした後、該ガウシアンカーブを積分することにより求めても良い。ガウシアンカーブは、良く知られているように、
f(x)={K/(2π)1/2}×exp{−(x−m)2/2σ2}
で表わされる。ここで、mは平均又は中央値、σは標準偏差、Kは定数を示す。
【0034】
したがって、上記のガウシアンカーブのm、σ、Kを変えて、最もバンド端発光ピークの形状に近いカーブを算出して、そのカーブから3.3eV〜3.6eVの範囲の積分値Aを求めれば良い。ガウシアンカーブによるフィッティングは、特にバンド端ピークが複数存在する場合に便利である。例えば、図17(b)のように、窒素ドープMgZnO層2が窒素ドープ濃度が異なるMgZnO膜の積層体で構成されている場合は、窒素ドープMgZnO層2全体から測定されるバンド端ピークは1つではなく、複数存在する。2層が積層されている場合には、例えば、図3のP2とP3とが足しあわされたような波形になる。
【0035】
より詳しく説明すると、図17(b)のように、窒素ドープMgZnO膜が、21〜2nまでn層積層され、各層がMgX1ZnO、MgX2ZnO、・・・、MgXnZnO(X1〜Xnは、全て異なる数値で、0≦Xn<1)で形成されて窒素濃度が異なる場合は、n個のバンド端発光ピークが混在することになる。この場合には、個々のピークを上記ガウシアンカーブでフィッティング(近似)していき、そのフィッティングカーブをf(z1)、f(z2)、・・・、f(zn)とすると、バンド端ピークは、n個のガウシアンカーブの和、すなわちf(z1)+f(z2)+・・・+f(zn)=f(z)で表わされる。このf(z)を3.3eV〜3.6eVの区間で積分してAを求める。
【0036】
積分値Aはバンド端発光領域における積分値という意味で、バンド端積分強度と呼ぶことにする。次に、深い準位発光領域とDAP発光領域との境界である2.7eV以上のエネルギー領域でPL発光がなくなる領域までPL強度を積分し、この積分値をBとする。この場合、図3〜5からわかるように、積分区間は、2.7eV〜3.6eVとなる。積分値BはDAP発光領域とバンド端発光領域とを含むということで、トータル積分強度と呼ぶことにする。そして、DAP発光領域の積分強度Cを、C=B−Aとする。積分値CはDAP積分強度と呼ぶことにする。
【0037】
以上のように、窒素濃度を変えたMgZnO及びZnOのPL測定を行い、A/B、すなわちバンド端積分強度/トータル積分強度(縦軸)を算出してプロットしたグラフを図1に示す。一方、図2は、A/C、すなわちバンド端積分強度/DAP積分強度(縦軸)のグラフを表わす。図1、2ともに、横軸はドープされた窒素濃度(cm−3)を表わし、窒素濃度範囲は、1×1018cm−3以上、1×1021cm−3以下となった。
【0038】
図1、2のデータに関するAの算出については、ガウシアンカーブによるフィッティングを行った。また、比較のために窒素ドープZnOのPL測定についても、上記同様の計算を行って、バンド端積分強度/トータル積分強度、及び、バンド端積分強度/DAP積分強度を算出し、図1、2にプロットした。白丸(○)が窒素ドープZnOのデータを、黒丸(●)が窒素ドープMgZnOのデータを表わす。
【0039】
図1から、バンド端積分強度/トータル積分強度については、0.3〜0.5の値を境にして、窒素ドープMgZnOデータと窒素ドープZnOデータとが分離しており、最も緩い条件であると、0.3以上、やや緩い条件であると0.4以上、厳しい条件だと0.5以上とすれば良いことがわかる。
【0040】
一方、図2から、バンド端積分強度/DAP積分強度は、1以上とすれば良いことがわかる。これは、図1でバンド端積分強度/トータル積分強度が0.5以上の条件としたことに等しい。図1及び図2に示された黒丸(●)のデータに用いられた窒素ドープMgZnOと同条件のものをp型層とし、前述した図16に示すような発光素子を形成して発光状態を測定した。その測定結果を図6に示す。
【0041】
図6のX1が本発明の窒素ドープMgZnOを用いたものであり、X2(非特許文献1からの引用)とX3(非特許文献2からの引用)は、従来の窒素ドープMgZnOを用いて測定したスペクトルである。X1では、紫外領域波長の光が十分強い発光を示しているのに対し、従来の構成のX2とX3では、紫外領域波長の光が、全体のスペクトル分布の中に埋もれてしまっており、十分な発光が見られない。
【0042】
図1、2のデータを得るために、前述したように、図17(a)の積層体を作製してPL測定を行ったのであるが、ここで、図17(a)の積層体の製造方法を説明する。ZnO基板1の+C面を塩酸でエッチングし、純水洗浄の上、ドライ窒素で乾燥させる。次に、基板ホルダーにZnO基板1をセットし、ロードロックを通じてMBE装置に入れる。そして、900℃、30分間、1×10−7Pa程度の真空中で加熱する。次に、基板温度を、例えば800℃まで下げ、NOガス、O2ガスをプラズマ管に供給してプラズマを発生させ、予め所望の組成になるように調整したMg分子線、Zn分子線を共に照射して窒素が添加されたMgZnO層2を形成する。後述するが、750℃以上という条件を満たす800℃はZnO系半導体の表面を平坦にするのに必要な温度であり、表面を平坦化することにより、Si等の不純物を排除でき、高純度のMgZnOを作製することができる。
【0043】
次に、p型化を行うためには、自己補償効果を低減することだけではなく、上述したドナーとして作用するSi等不純物がMgZnO膜中に取り込まれないようにすることも必要である。MgZnO薄膜を作製する場合に気体元素である酸素を供給する際、あるいはアクセプタとして気体元素である窒素をドーピングする際に、気体元素を供給する装置としてラジカル発生器が用いられている。
【0044】
ラジカル発生器(ラジカルセル)は、中空の放電管と放電管の外側周囲に巻き回された高周波コイル等で構成されており、高周波コイルに高周波電圧を印加することで放電管内部に導かれた気体をプラズマ化して放出する機器である。
【0045】
ところが、プラズマ粒子は高エネルギー粒子であるため、プラズマ粒子によってスパッタ現象が発生し、放電管内壁が常にスパッタリングされるので、放電管を構成する原子が叩きだされて、プラズマ粒子に混じる。
【0046】
MgZnO薄膜のような酸化物の場合、ガス成分が酸素であるため、ラジカルセル内の放電管は、pBNのような酸化でぼろぼろになる材料ではなく、石英がよく使われる。石英を使うのは、今までのところ、これ以上に純度が高い絶縁材料が容易に手に入らないからである。しかしながら、この石英でさえも、上記プラズマ粒子のスパッタリングにより、構成元素のSi、Al、B等が飛散する。
【0047】
特に石英を構成する元素であるSiの飛散量が多く、原料ガスと同時に放電管の放出孔から、成長用基板表面へ直接供給され、MgZnO薄膜に取り込まれてしまう。SiがMgZnO中に入るとZnサイトを占めるであろうことが容易に考察でき、ドナーとして作用するため、p型化が一層困難となる。
【0048】
この問題を解決するために、ZnO系薄膜の表面平坦性が良ければ、ラジカルセル等を使ってZnO系薄膜を結晶成長させても、Si等の意図しない不純物は排除できることを見出ており、既出願の特願2007−221198で説明している。この説明のうち、表面平坦性によってSi等の不純物の混入に相違があることを示すのが、図11、12である。ここで、ZnO系薄膜又はZnO系半導体層におけるZnO系とは、ZnOをベースとした混晶材料であり、Znの一部をIIA族もしくはIIB族で置き換えたもの、Oの一部をVIB族で置き換えたもの、またはその両方の組み合わせを含むものである。ここでは、MgZnO薄膜を例にする。
【0049】
特に、Siについては、ラジカルセル内の放電管の構成元素であり、最も多く混入するので、Siを例にとって説明する。図11、12にMgXZn1−XO薄膜(0<X<1)の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す。この関連性を見るために、図17(a)のように、ZnO基板1上に窒素ドープのMgZnO層2をラジカルセルを有するMBE(Molecular Beam Epitaxy)装置によってエピタキシャル成長させて調べた。図11、12に内挿された画像は、このときの窒素ドープMgZnO層2の表面を原子間力顕微鏡(AFM)を用い、20μm四方の範囲でスキャンしたものである。また、MgZnO層2中のシリコン濃度、窒素濃度を二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)で測定した。
【0050】
図11、12ともに、左側縦軸がSi濃度又はN濃度、右側縦軸がMgO二次イオン強度を示し、グラフの中に内挿されている画像が、MgZnO層2表面の状態を表す。また、MgO二次イオン強度が出現している領域がMgZnO層2を、MgO2次イオン強度が0近くまで落ちている領域がZnO基板である。
【0051】
グラフに内挿されている画像を見ればわかるように、MgZnO薄膜の表面平坦性が良いのは、図11の方であり、表面平坦性の悪い(表面の荒れた)図12の方が薄膜中のSi混入濃度が高くなっていることがわかる。
【0052】
したがって、Si等の不純物の混入は、MgZnO薄膜の表面平坦性に依存するのであるが、ZnO基板1上に形成されたMgZnO薄膜の平坦性は、ZnO基板1の結晶成長側表面の法線方向と基板結晶軸の一つであるc軸とのオフ角に依存することを、以下に説明する。
【0053】
ZnO系化合物はGaNと同様、ウルツァイトと呼ばれる六方晶構造を有する。C面やa軸という表現は、いわゆるミラー指数により表すことができ、例えば、C面は(0001)面と表される。ZnO基板上にMgZnO薄膜を結晶成長させる場合、結晶成長面側のZnO基板主面の法線方向と基板結晶軸のc軸とは、一致させなければ、例えば、図7に示されるように、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から角度Φ傾斜し、かつ法線Zを基板結晶軸のc軸m軸a軸の直交座標系におけるc軸m軸平面に投影した投影軸がm軸の方へ角度Φm、c軸a軸平面に投影した投影軸がa軸の方へ角度Φa傾斜しているのが通常である。
【0054】
ここで、特に、基板主面の法線Zが基板結晶軸のc軸m軸平面内に存在する場合を考える。ZnO系材料層上にZnO系薄膜を成長させる場合には、通常C面(0001)面で行われるが、C面ジャスト基板を用いた場合、図8(a)のようにウエハ主面の法線方向Zがc軸方向と一致する。しかし、C面ジャストMgZnO基板上にZnO系薄膜を成長させても膜の平坦性が良くならないことが知られている。加えて、バルク結晶は、その結晶がもつ劈開面を使用しないかぎり、ウエハ主面の法線方向がc軸方向と一致することがなく、C面ジャスト基板にこだわると生産性も悪くなる。
【0055】
そこで、MgZnO基板10(ウエハ)の主面の法線方向をc軸方向と一致させずに、ウエハ主面のc軸から法線方向Zがc軸m軸平面内で傾き、オフ角を有するようにする。図8(b)に示されるように、基板主面の法線Zが、例えばc軸からm軸方向にのみθ度傾斜していると、基板10の表面部分(例えばT1領域)の拡大図である図8(c)に表されるように、平坦な面であるテラス面1aと、傾斜させることにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bとが生じる。
【0056】
ここで、テラス面1aがC面(0001)となり、ステップ面1bはM面(10−10)に相当する。図のように、形成された各ステップ面1bは、m軸方向にテラス面1aの幅を保ちながら、規則的に並ぶことになる。図4(c)に示すように、テラス面1aと垂直なc軸は、Z軸からθ度傾斜していることになる。また、ステップ面1bのステップエッジとなるステップライン1eは、m軸方向と垂直の関係を保ちながら、テラス面1aの幅を取りながら並行に並ぶようになる。
【0057】
このように、ステップ面をM面相当面となるようにすれば、主面上に結晶成長させたZnO系半導体層においては平坦な膜とすることができる。主面上にはステップ面1bによって段差部分が発生するが、この段差部分に飛来した原子は、テラス面1aとステップ面1bの2面との結合になるので、テラス面1aに飛来した場合よりも原子は強く結合ができ、飛来原子を安定的にトラップすることができる。
【0058】
表面拡散過程で飛来原子がテラス内を拡散するが、結合力の強い段差部分や、この段差部分で形成されるキンク位置にトラップされて結晶に組み込まれることによって結晶成長が進む沿面成長により安定的な成長が行われる。このように、基板主面の法線が少なくともm軸方向に傾斜した基板上に、ZnO系半導体層を積層させると、ZnO系半導体層はこのステップ面1bを中心に結晶成長が起こり、平坦な膜を形成することができる。
【0059】
すなわち、m軸方向にステップライン1eが規則的に並んでおり、m軸方向とステップライン1eが垂直の関係になっていることが、平坦な膜を作製する上で必要なことであり、ステップライン1eの間隔やラインが乱れると、前述した沿面成長が行われなくなるので、平坦な膜が作製できなくなる。
【0060】
一方、図8(b)で傾斜角度(オフ角)θを大きくしすぎると、ステップ面1bのステップ高さtが大きくなりすぎることがあり、平坦に結晶成長しなくなるので、m軸方向のオフ角を一定の角度に制限する必要がある。図9、10は、m軸方向への傾斜角度によって、成長膜の平坦性が変わることを示すものである。図9は、傾斜角度θを1.5度として、このオフ角を有するMgXZn1−XO基板の主面上にZnO系半導体を成長させたものである。一方、図10は、傾斜角度θを3.5度として、このオフ角を有するMgXZn1−XO基板の主面上にZnO系半導体を成長させたものである。図9、10ともに、結晶成長後に、AFMを用いて、1μm四方の範囲でスキャンした画像である。図9の方は、ステップの幅が揃った状態で、綺麗な膜が生成されているが、図10の方は、凹凸が散在しており、平坦性が失われている。以上のことより、0度を越える範囲で、かつ3度以下(0<θ≦3)とするのが望ましく、このようにすることで、Si等のドナー不純物の混入を防ぐことができる。
【0061】
一方、MgZnO膜の平坦性は、成長温度にも依存し、成長温度条件については、既出願の特願2007−27182で詳述したが、再度要点を以下に説明する。MgZnO基板上にZnO薄膜を結晶成長させてZnO薄膜の表面の凹凸を測定した。ZnO薄膜の結晶成長温度を細かく変化させてそのときのZnOの表面の平坦性を数値として表し、それらをグラフにしたものが図13、14である。図13の縦軸Ra(単位はnm)は、膜表面の算術平均粗さを表す。算術平均粗さRaとは、粗さ曲線から求められる。
【0062】
粗さ曲線は、例えば、図11、12の内挿図のように観測された膜表面の凹凸を、所定のサンプリングポイントで測定し、凹凸の大きさをこれらの凹凸の平均値とともに示したものである。そして、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して、平均した値のことである。算術平均粗さRa=(1/l)×∫|f(x)|dx(積分区間は0〜lまで)と表される。このようにすることで、1つの傷が測定値に及ぼす影響が非常に小さくなり、安定した結果が得られる。なお、算術平均粗さRaや後述する二乗平均粗さRMS等の表面粗さのパラメータは、JIS規格で規定されているものであり、これらを用いている。
【0063】
以上のように算出された算術平均粗さRaを縦軸にし、基板温度を横軸にして表示したのが図13である。図13の黒三角(▲)は、基板温度が750℃未満のデータを示し、黒丸(●)は基板温度が750℃以上のデータを示す。図13からもわかるように、基板温度が750℃を境にして基板温度が高くなれば、急激に表面の平坦性が向上していることがわかる。またこのときの算術平均粗さRaの境界値は、Raを緩めに取ると1.5nm、厳しく取ると1.0nm程度になることがわかる。
【0064】
図14は、図13と同じ測定データから、膜表面の二乗平均粗さRMSを求めたものである。二乗平均粗さRMSは、粗さ曲線の平均線から測定曲線までの偏差の二乗を合計し、平均した値の平方根を表す。算術平均粗さRaを算出する際の基準長さlを用いて、
RMS={(1/l)×∫(f(x))2dx}1/2(積分区間は0〜lまで)となる。
【0065】
図14は縦軸に二乗平均粗さRMSを、横軸に基板温度を示したものである。ここで、黒三角(▲)は、基板温度が750℃未満のデータを示し、黒丸(●)は基板温度が750℃以上のデータを示す。基板温度については、図13と同様、750℃を境にして基板温度が高くなれば、急激に表面の平坦性が向上していることがわかる。一方、二乗平均粗さRMSについては、境界値を緩く取ると2.0nm、厳しく取ると1.5nm程度となっていることがわかる。
【0066】
したがって、MgZnO基板上にZnO系薄膜を成長させる場合は、基板温度を750℃以上にしてエピタキシャル成長させれば、平坦性の良い膜が得られる。また、MgZnO基板上にMgZnO膜等のZnO系薄膜を繰り返して積層する場合でも、基板温度を750℃以上に保つことにより、最上層まで、平坦な膜を積層することができ、Si等のドナー不純物の混入を防ぐことができる。
【0067】
図16の素子については、既に述べたが、上記オフ角を有するZnO基板12上に、ZnO系半導体層を積層すれば、平坦性が保たれた積層体が形成できる。具体的には、結晶成長面をZnO基板12の+C面を有する主面とし、この主面の法線方向がc軸からm軸方向に少し傾斜するように形成し、ZnO基板12上に、アンドープZnO層13、窒素ドープのp型MgZnO層14を順に結晶成長させる。窒素ドープMgZnO層14が、本発明のZnO系半導体であるが、成長温度を800℃程度として、表面平坦性をさらに良くなるようにした。もちろん、デバイス構造としては、これだけではなく、図16のZnO系積層体の部分を、MgZnO基板/アンドープZnO層/窒素ドープMgZnO層としたり、活性層を別途設け、この活性層をMgZnOとZnOを交互に積層した多重量子井戸構造(MQW)としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】MgZnOとZnOに関し、バンド端積分強度/トータル積分強度と窒素濃度との関係を示す図である。
【図2】MgZnOとZnOに関し、バンド端積分強度/DAP積分強度と窒素濃度との関係を示す図である。
【図3】窒素が添加されたMgZnOとZnOのPL発光スペクトルを示す図である。
【図4】窒素が添加されたMgZnOとZnOのPL発光スペクトルを示す図である。
【図5】窒素が添加されたMgZnOとZnOのPL発光スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の窒素ドープMgZnOを用いた場合と、従来の窒素ドープMgZnOを用いた場合との発光強度の比較を示す図である。
【図7】基板主面法線と基板結晶軸であるc軸、m軸、a軸との関係を示す図である。
【図8】基板主面法線Zがm軸方向にのみオフ角を有する場合のZnO基板表面を示す図である。
【図9】基板主面法線Zがm軸方向にオフ角を有するMgZnO基板上に成膜した表面を示す図である。
【図10】基板主面法線Zがm軸方向にオフ角を有するMgZnO基板上に成膜した表面を示す図である。
【図11】窒素ドープMgZnO薄膜の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す図である。
【図12】窒素ドープMgZnO薄膜の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す図である。
【図13】ZnO系薄膜表面の算術平均粗さと基板温度との関係を示す図である。
【図14】ZnO系薄膜表面の二乗平均粗さと基板温度との関係を示す図である。
【図15】DAP発光の作用を示す模式図である。
【図16】本発明のZnO系半導体を用いて構成したZnO系半導体素子の一例を示す図である。
【図17】窒素ドープMgZnO層を形成する場合の基本的構造を示す図である。
【図18】PL測定装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ZnO基板
2 窒素ドープMgZnO層
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素がドーピングされたMgZnO結晶体で構成されたZnO系半導体及びこのZnO系半導体を用いたZnO系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
照明、バックライト等用の光源として使われる紫外LEDや高速電子デバイス、表面弾性波デバイス等に酸化物の一種であるZnO系半導体素子を用いることが研究されている。ZnOはその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されていながら、なかなか半導体デバイス材料として成長しなかった。その最大の難点は、アクセプタドーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったためである。しかし、近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。
【0003】
p型ZnOを得るためのアクセプタとして窒素を用いることが提案されているが、K.Nakahara et al.,Journal of Crystal Growth 237-239(2002)p.503 に示されているように、アクセプタとして窒素をドーピングする場合は、窒素のドーピング効率は成長温度に強く依存し、窒素ドーピングを行うためには基板温度を下げる必要があるが、基板温度を下げると結晶性が低下し、アクセプタを補償するキャリア補償センターが形成されて、窒素が活性化しないので(自己補償効果)、p型ZnO層の形成そのものが非常に難しくなる。
【0004】
そこで、非特許文献2に示されるように、成長の主面を−C面とし、窒素ドーピング効率の温度依存性を利用して、400℃と1000℃との間の成長温度を行き来する反復温度変調法(Repeated Temperature Modulation:RTM)により高キャリア濃度のp型ZnO層を形成する方法がある。
【0005】
しかし、上記の方法では、絶え間ない加熱と冷却によって膨張・収縮を繰り返すために製造装置への負担が大きく、製造装置が大がかりになり、メンテナンス周期が短くなるといった問題があった。また、低温度部分がドープ量を決定するため、温度を正確に制御する必要があるが、400℃と1000℃を短時間に正確に制御するのは難しく、再現性・安定性が悪い。さらに、加熱源としてレーザを使用するため、大きい面積の加熱には不向きで、デバイス製造コストを下げるための多数枚成長も行いにくい。
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al., JJAP 44 (2005) L643
【非特許文献2】A. Tsukazaki et al Nature Material 4 (2005) 42
【非特許文献3】M.Sumiya et al.,Applied Surface Science 223(2004)p.206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、成長用基板としてZnO基板の+C面を使用すると窒素が入り易くなることは、例えば非特許文献3に示されるように、既に知られており、上記問題を解決するためには、この手法を用いることが考えられる。+C面を使用すると、基板温度を上げても窒素ドープ量は、確保されるため、上記RTM時に発生する問題は解決されるが、自己補償効果は残るため、窒素は完全に活性化せず、p型化することが難しい。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、自己補償効果を緩和し、p型化を行いやすくしたZnO系半導体及びZnO系半導体素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、(A/B)≧0.3を満たしていることを特徴とするZnO系半導体である。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、前記(A/B)は0.4以上であることを特徴とする請求項1に記載のZnO系半導体である。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、{A/(B−A)}≧1を満たしていることを特徴とするZnO系半導体である。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、前記積分強度Aを求める場合は、3.3eV以上の前記分布曲線をガウシアンカーブで近似し、該ガウシアンカーブを積分することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、前記3.3eV以上の分布曲線に発光ピークが複数存在する場合には、それぞれの発光ピークをガウシアンカーブで近似することを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体である。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、前記窒素ドープの濃度は1×1018cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0014】
また、請求項7記載の発明は、前記結晶体は、Mgの組成比率が異なるMgXnZn1−XnO(0≦Xn<1)が複数積層された積層体であって、少なくとも1つのMgZnO膜には、窒素が1×1018cm−3以上の濃度でドープされていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0015】
また、請求項8記載の発明は、前記結晶体は、結晶成長方向側の主面がC面を有するMgZnO基板と該MgZnO基板に形成されたMgYZn1−YO(0<Y<1)膜とで構成されており、前記主面の法線を基板結晶軸のm軸c軸平面に投影した投影軸が、m軸方向に3度以内の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0016】
また、請求項9記載の発明は、前記結晶体は、750℃以上の成長温度で結晶成長させることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のZnO系半導体である。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のZnO系半導体を備えたZnO系半導体素子である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のZnO系半導体によれば、窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体を用いるとともに、この結晶体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定のスペクトル分布曲線で、3.3eV以上のスペクトル分布曲線の積分強度A、2.7eV以上のスペクトル分布曲線の積分強度Bとした場合、(A/B)≧0.3を満たすように形成されているので、自己補償効果が特に低減されて窒素を活性化し、p型MgZnOとして使用可能な結晶品質の高いMgZnO薄膜やMgZnO積層体を得ることができる。また、これを用いることにより、高性能なZnO系半導体素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、窒素を添加する場合、MgXZn1−XO(0<X<1)結晶体は、ZnOのみからなる結晶体と比較して自己補償効果の緩和作用を有しており、p型化が容易であることを見出し、さらには、p型化に必要な指標を見出した。ここで、MgXZn1−XO(0<X<1)結晶体とは、MgZnO膜単層、MgZnO膜を複数積層した多層膜積層体、MgZnO基板とMgZnO膜との積層体等を含むものである。
【0020】
これまでの研究ではZnO系半導体のp型化というと、ZnOのp型が研究されるのが専らであった。ZnO系半導体の代表格はCdZnOとMgZnOであるが、ナローギャップ材料のCdZnOはCdの毒性からその研究が忌避される傾向にあった。ワイドギャップ半導体のMgZnOはワイドギャップの通例の傾向としてアクセプタエネルギーの活性化エネルギーが大きくなる(すなわちホールが発生しにくくなる)こと、MgZnOは焼結体から作られることが多いため、純度があげにくいこと、以上のような理由からp型化の研究対象とはなっていなかった。
【0021】
しかし、我々はMgZnOにそれまで知られていなかった自己補償効果を低減する効果があることを見出した。図3に、MgZnOが特に自己補償効果を低減、緩和する作用があることを示す。図3は、絶対温度12K(ケルビン)で測定された窒素ドープZnOと窒素ドープMgZnOのフォトルミネッセンス(PL)測定によるスペクトル分布を示す。PL測定は、窒素ドープMgZnOについては、図17(a)に示すように、ZnO基板1上に窒素ドープMgZnO層2を結晶成長させたものを用い、窒素ドープZnOについては、図17(a)で窒素ドープMgZnO層2の替わりに窒素ドープZnOを結晶成長させたものを用いた。
【0022】
また、フォトルミネッセンス測定装置は、図18に示される構成の装置を使用した。励起光源31としてAr(アルゴン)レーザ又はHe−Cd(ヘリウムカドニウム)レーザが使用可能であるが、本実施例ではHe−Cdレーザを使用し、He−Cdレーザの出力は30〜32mWとした。励起光源31から発生した励起光強度は、1〜10W/cm2程度、試料35直前の励起光出力は、250〜400μW程度となった。分光器37の焦点距離は50cm、分光器37の回折格子の刻線本数1200本/mm、ブレーズ波長(回折効率最大の波長)330nmである。回折格子からの回折光を特定の波長λの集光とするために、回折格子を回転させるギア機構が備わっており、その回転を与えるためにパルスモータ41が接続されている。冷凍機34の冷凍温度は絶対温度10〜200ケルビンに設定可能となっている。光検出器38は、CCD検出器による構成で1024ch、液体窒素冷却方式である。分光器と光検出器とを含めた全体のシステムは、SPECTRUM1システム(HORIBA JOVIN YVON社製)と呼ばれるものを用いた。
【0023】
測定結果は、白丸(○)で描かれている曲線が窒素ドープZnOで、他の2本の曲線が、窒素ドープMgZnOである。ZnOは、窒素ドープ濃度を2×1019cm−3に形成し、MgZnOは、Mg0.1ZnOについては窒素ドープ濃度2×1019cm−3、Mg0.11ZnOについては窒素ドープ濃度7×1018cm−3に形成して測定した。図3の横軸は発光エネルギー(単位:eV)を、縦軸はPL強度を示し、PL測定のときに通常用いられる任意単位(対数スケール)で表す。
【0024】
また、図5は、図3のグラフの横軸のスケールを3.05〜3.65eVの範囲から2.1〜3.7eVの範囲に拡大した図を、図4は、図3のグラフの横軸のスケールを2.7〜3.7に拡大した図を表わす。図3〜図5に示されているP1、P2、P3は、各々バンド端発光を表わす。
【0025】
窒素ドープZnOについては、これまでに知られているように、図3〜図5のP1に示されるバンド端発光ピークエネルギーより低エネルギー側にドナー・アクセプタペア(Donor-Acceptor Pair:DAP)と呼ばれる、アクセプタドープ時特有の発光ピークが現れる。図15は、DAP発光の作用を示す模式図であるが、DAP発光の位置というのは、以下のように決まる。
【0026】
DAP発光のエネルギーをEDAP、最低励起エネルギーをEG、ドナー準位をED、アクセプタ準位をEA、ドナーとアクセプタとの距離をrDA、真空誘電率ε0、比誘電率εr、電子の電荷をe、プランク定数をh、LO(Longitudinal Optical)フォノンの振動数をωLOとすると、
EDAP=EG−ED−EA+(e2/4πε0εrrDA)−(mhωLO/2π)
となる。ここで、mは0以上の整数である。
DAPの発光ピーク位置というのは、上記式のように決定されるので、通常はドナー、アクセプタの種類、およびその濃度が決まれば、決定されるものである。
【0027】
3.3eVをバンド端発光領域とDAP発光領域との境界とすると、3.3eVよりも低エネルギー側にDAP発光領域が現われている。一方、図5に示されるように、DAP領域よりもさらに低エネルギー側では、エネルギーが低下するほどにPL強度が上がっていく領域が存在し、窒素ドープ特有の深い準位発光が見られる。図に示すA付近のエネルギー領域になると、ZnOでは、この深い準位発光強度が非常に大きくなる。他方、MgZnOでは深い準位発光強度は、一桁以上小さくなり、MgZnOの著しい特徴が見られる。
【0028】
DAP発光はPLの励起光密度を上げていくと発光ピークがブルーシフトすることが良く知られており、主にこの現象を用いて同定される。実線と破線の曲線はMgZnOのものであるが、MgZnOがワイドギャップであるため、MgZnOの曲線上で、ZnOのバンド端発光ピークP1と同じ位置にZnOのバンド端発光ピークと同じピークが少し見えている。これを見ると、窒素ドープZnOについては、3.3eVを境にしてDAP発光がZnOバンド端発光に比べて強いことがすぐにわかる。アクセプタドープ時にバンド端発光が弱まり、DAP発光が強くなるのはZnSe、GaNでも普通に見られることであり、特別異常なことではない。この事実の裏づけがあるため、ZnOでp型化を試みるのが一般的になっていた。
【0029】
ところが、図3〜図5に示されるように、MgZnOでは全く振る舞いが異なる。図の破線と実線が窒素ドープMgZnOであるが、どちらも、DAP発光よりも、バンド端発光P2、P3近傍の発光の方が強い。特に実線のデータはZnOの曲線と窒素濃度が全く同じであるにも関わらず、DAP発光が非常に弱い。これはMgZnOの著しい特徴であり、自己補償効果が低減されているものと考えられる。
【0030】
同時にDAP発光が弱い窒素ドープMgZnOとZnO基板とを接合すると、強い発光が見られることを確認できた。したがって、DAP発光が弱い窒素ドープMgZnOを形成することが、p型化の指標であることが分かった。
【0031】
次に、PL測定の発光スペクトル領域を2つの領域に分けて、この2つの領域の発光強度を比較することにより、p型化の指標を数値化する。まず、図3〜図5から、DAP発光領域と深い準位発光との境界を2.7eVとし、前述したようにDAP発光領域とバンド端発光領域との境界を3.3eVとする。
【0032】
図17(a)のように、窒素ドープ濃度を変えた窒素ドープMgZnO層2をZnO基板1上に形成し、各素子毎に前述の条件でPL測定を行った。また、これらの窒素ドープMgZnOをp型層に用い、ZnO系半導体素子として紫外LEDを作製して、発光が見られることを確認した。この発光素子は、例えば、図16のように構成される。ZnO基板12上に、アンドープZnO層13、窒素ドープのp型MgZnO層14を順に結晶成長させた後、p電極15とn電極11とを形成した。p電極15は図示されているように、Au(金)152とNi(ニッケル)151との多層金属膜で構成し、n電極11はIn(インジウム)で構成した。窒素ドープMgZnO層14が、本発明の窒素ドープMgZnO結晶体である。
【0033】
窒素ドープ濃度を変えた窒素ドープMgZnO毎のPL測定のスペクトル分布曲線について、3.3eV以上のエネルギー領域でPL発光がなくなる領域までPL強度を積分し、この積分値をAとする。この場合、図3〜5からわかるように、積分区間は、3.3eV〜3.6eVとなる。また、上記積分値Aを精度良く算出するために、バンド端ピークP2、P3等をガウシアンカーブでフィッティングした後、該ガウシアンカーブを積分することにより求めても良い。ガウシアンカーブは、良く知られているように、
f(x)={K/(2π)1/2}×exp{−(x−m)2/2σ2}
で表わされる。ここで、mは平均又は中央値、σは標準偏差、Kは定数を示す。
【0034】
したがって、上記のガウシアンカーブのm、σ、Kを変えて、最もバンド端発光ピークの形状に近いカーブを算出して、そのカーブから3.3eV〜3.6eVの範囲の積分値Aを求めれば良い。ガウシアンカーブによるフィッティングは、特にバンド端ピークが複数存在する場合に便利である。例えば、図17(b)のように、窒素ドープMgZnO層2が窒素ドープ濃度が異なるMgZnO膜の積層体で構成されている場合は、窒素ドープMgZnO層2全体から測定されるバンド端ピークは1つではなく、複数存在する。2層が積層されている場合には、例えば、図3のP2とP3とが足しあわされたような波形になる。
【0035】
より詳しく説明すると、図17(b)のように、窒素ドープMgZnO膜が、21〜2nまでn層積層され、各層がMgX1ZnO、MgX2ZnO、・・・、MgXnZnO(X1〜Xnは、全て異なる数値で、0≦Xn<1)で形成されて窒素濃度が異なる場合は、n個のバンド端発光ピークが混在することになる。この場合には、個々のピークを上記ガウシアンカーブでフィッティング(近似)していき、そのフィッティングカーブをf(z1)、f(z2)、・・・、f(zn)とすると、バンド端ピークは、n個のガウシアンカーブの和、すなわちf(z1)+f(z2)+・・・+f(zn)=f(z)で表わされる。このf(z)を3.3eV〜3.6eVの区間で積分してAを求める。
【0036】
積分値Aはバンド端発光領域における積分値という意味で、バンド端積分強度と呼ぶことにする。次に、深い準位発光領域とDAP発光領域との境界である2.7eV以上のエネルギー領域でPL発光がなくなる領域までPL強度を積分し、この積分値をBとする。この場合、図3〜5からわかるように、積分区間は、2.7eV〜3.6eVとなる。積分値BはDAP発光領域とバンド端発光領域とを含むということで、トータル積分強度と呼ぶことにする。そして、DAP発光領域の積分強度Cを、C=B−Aとする。積分値CはDAP積分強度と呼ぶことにする。
【0037】
以上のように、窒素濃度を変えたMgZnO及びZnOのPL測定を行い、A/B、すなわちバンド端積分強度/トータル積分強度(縦軸)を算出してプロットしたグラフを図1に示す。一方、図2は、A/C、すなわちバンド端積分強度/DAP積分強度(縦軸)のグラフを表わす。図1、2ともに、横軸はドープされた窒素濃度(cm−3)を表わし、窒素濃度範囲は、1×1018cm−3以上、1×1021cm−3以下となった。
【0038】
図1、2のデータに関するAの算出については、ガウシアンカーブによるフィッティングを行った。また、比較のために窒素ドープZnOのPL測定についても、上記同様の計算を行って、バンド端積分強度/トータル積分強度、及び、バンド端積分強度/DAP積分強度を算出し、図1、2にプロットした。白丸(○)が窒素ドープZnOのデータを、黒丸(●)が窒素ドープMgZnOのデータを表わす。
【0039】
図1から、バンド端積分強度/トータル積分強度については、0.3〜0.5の値を境にして、窒素ドープMgZnOデータと窒素ドープZnOデータとが分離しており、最も緩い条件であると、0.3以上、やや緩い条件であると0.4以上、厳しい条件だと0.5以上とすれば良いことがわかる。
【0040】
一方、図2から、バンド端積分強度/DAP積分強度は、1以上とすれば良いことがわかる。これは、図1でバンド端積分強度/トータル積分強度が0.5以上の条件としたことに等しい。図1及び図2に示された黒丸(●)のデータに用いられた窒素ドープMgZnOと同条件のものをp型層とし、前述した図16に示すような発光素子を形成して発光状態を測定した。その測定結果を図6に示す。
【0041】
図6のX1が本発明の窒素ドープMgZnOを用いたものであり、X2(非特許文献1からの引用)とX3(非特許文献2からの引用)は、従来の窒素ドープMgZnOを用いて測定したスペクトルである。X1では、紫外領域波長の光が十分強い発光を示しているのに対し、従来の構成のX2とX3では、紫外領域波長の光が、全体のスペクトル分布の中に埋もれてしまっており、十分な発光が見られない。
【0042】
図1、2のデータを得るために、前述したように、図17(a)の積層体を作製してPL測定を行ったのであるが、ここで、図17(a)の積層体の製造方法を説明する。ZnO基板1の+C面を塩酸でエッチングし、純水洗浄の上、ドライ窒素で乾燥させる。次に、基板ホルダーにZnO基板1をセットし、ロードロックを通じてMBE装置に入れる。そして、900℃、30分間、1×10−7Pa程度の真空中で加熱する。次に、基板温度を、例えば800℃まで下げ、NOガス、O2ガスをプラズマ管に供給してプラズマを発生させ、予め所望の組成になるように調整したMg分子線、Zn分子線を共に照射して窒素が添加されたMgZnO層2を形成する。後述するが、750℃以上という条件を満たす800℃はZnO系半導体の表面を平坦にするのに必要な温度であり、表面を平坦化することにより、Si等の不純物を排除でき、高純度のMgZnOを作製することができる。
【0043】
次に、p型化を行うためには、自己補償効果を低減することだけではなく、上述したドナーとして作用するSi等不純物がMgZnO膜中に取り込まれないようにすることも必要である。MgZnO薄膜を作製する場合に気体元素である酸素を供給する際、あるいはアクセプタとして気体元素である窒素をドーピングする際に、気体元素を供給する装置としてラジカル発生器が用いられている。
【0044】
ラジカル発生器(ラジカルセル)は、中空の放電管と放電管の外側周囲に巻き回された高周波コイル等で構成されており、高周波コイルに高周波電圧を印加することで放電管内部に導かれた気体をプラズマ化して放出する機器である。
【0045】
ところが、プラズマ粒子は高エネルギー粒子であるため、プラズマ粒子によってスパッタ現象が発生し、放電管内壁が常にスパッタリングされるので、放電管を構成する原子が叩きだされて、プラズマ粒子に混じる。
【0046】
MgZnO薄膜のような酸化物の場合、ガス成分が酸素であるため、ラジカルセル内の放電管は、pBNのような酸化でぼろぼろになる材料ではなく、石英がよく使われる。石英を使うのは、今までのところ、これ以上に純度が高い絶縁材料が容易に手に入らないからである。しかしながら、この石英でさえも、上記プラズマ粒子のスパッタリングにより、構成元素のSi、Al、B等が飛散する。
【0047】
特に石英を構成する元素であるSiの飛散量が多く、原料ガスと同時に放電管の放出孔から、成長用基板表面へ直接供給され、MgZnO薄膜に取り込まれてしまう。SiがMgZnO中に入るとZnサイトを占めるであろうことが容易に考察でき、ドナーとして作用するため、p型化が一層困難となる。
【0048】
この問題を解決するために、ZnO系薄膜の表面平坦性が良ければ、ラジカルセル等を使ってZnO系薄膜を結晶成長させても、Si等の意図しない不純物は排除できることを見出ており、既出願の特願2007−221198で説明している。この説明のうち、表面平坦性によってSi等の不純物の混入に相違があることを示すのが、図11、12である。ここで、ZnO系薄膜又はZnO系半導体層におけるZnO系とは、ZnOをベースとした混晶材料であり、Znの一部をIIA族もしくはIIB族で置き換えたもの、Oの一部をVIB族で置き換えたもの、またはその両方の組み合わせを含むものである。ここでは、MgZnO薄膜を例にする。
【0049】
特に、Siについては、ラジカルセル内の放電管の構成元素であり、最も多く混入するので、Siを例にとって説明する。図11、12にMgXZn1−XO薄膜(0<X<1)の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す。この関連性を見るために、図17(a)のように、ZnO基板1上に窒素ドープのMgZnO層2をラジカルセルを有するMBE(Molecular Beam Epitaxy)装置によってエピタキシャル成長させて調べた。図11、12に内挿された画像は、このときの窒素ドープMgZnO層2の表面を原子間力顕微鏡(AFM)を用い、20μm四方の範囲でスキャンしたものである。また、MgZnO層2中のシリコン濃度、窒素濃度を二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)で測定した。
【0050】
図11、12ともに、左側縦軸がSi濃度又はN濃度、右側縦軸がMgO二次イオン強度を示し、グラフの中に内挿されている画像が、MgZnO層2表面の状態を表す。また、MgO二次イオン強度が出現している領域がMgZnO層2を、MgO2次イオン強度が0近くまで落ちている領域がZnO基板である。
【0051】
グラフに内挿されている画像を見ればわかるように、MgZnO薄膜の表面平坦性が良いのは、図11の方であり、表面平坦性の悪い(表面の荒れた)図12の方が薄膜中のSi混入濃度が高くなっていることがわかる。
【0052】
したがって、Si等の不純物の混入は、MgZnO薄膜の表面平坦性に依存するのであるが、ZnO基板1上に形成されたMgZnO薄膜の平坦性は、ZnO基板1の結晶成長側表面の法線方向と基板結晶軸の一つであるc軸とのオフ角に依存することを、以下に説明する。
【0053】
ZnO系化合物はGaNと同様、ウルツァイトと呼ばれる六方晶構造を有する。C面やa軸という表現は、いわゆるミラー指数により表すことができ、例えば、C面は(0001)面と表される。ZnO基板上にMgZnO薄膜を結晶成長させる場合、結晶成長面側のZnO基板主面の法線方向と基板結晶軸のc軸とは、一致させなければ、例えば、図7に示されるように、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から角度Φ傾斜し、かつ法線Zを基板結晶軸のc軸m軸a軸の直交座標系におけるc軸m軸平面に投影した投影軸がm軸の方へ角度Φm、c軸a軸平面に投影した投影軸がa軸の方へ角度Φa傾斜しているのが通常である。
【0054】
ここで、特に、基板主面の法線Zが基板結晶軸のc軸m軸平面内に存在する場合を考える。ZnO系材料層上にZnO系薄膜を成長させる場合には、通常C面(0001)面で行われるが、C面ジャスト基板を用いた場合、図8(a)のようにウエハ主面の法線方向Zがc軸方向と一致する。しかし、C面ジャストMgZnO基板上にZnO系薄膜を成長させても膜の平坦性が良くならないことが知られている。加えて、バルク結晶は、その結晶がもつ劈開面を使用しないかぎり、ウエハ主面の法線方向がc軸方向と一致することがなく、C面ジャスト基板にこだわると生産性も悪くなる。
【0055】
そこで、MgZnO基板10(ウエハ)の主面の法線方向をc軸方向と一致させずに、ウエハ主面のc軸から法線方向Zがc軸m軸平面内で傾き、オフ角を有するようにする。図8(b)に示されるように、基板主面の法線Zが、例えばc軸からm軸方向にのみθ度傾斜していると、基板10の表面部分(例えばT1領域)の拡大図である図8(c)に表されるように、平坦な面であるテラス面1aと、傾斜させることにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bとが生じる。
【0056】
ここで、テラス面1aがC面(0001)となり、ステップ面1bはM面(10−10)に相当する。図のように、形成された各ステップ面1bは、m軸方向にテラス面1aの幅を保ちながら、規則的に並ぶことになる。図4(c)に示すように、テラス面1aと垂直なc軸は、Z軸からθ度傾斜していることになる。また、ステップ面1bのステップエッジとなるステップライン1eは、m軸方向と垂直の関係を保ちながら、テラス面1aの幅を取りながら並行に並ぶようになる。
【0057】
このように、ステップ面をM面相当面となるようにすれば、主面上に結晶成長させたZnO系半導体層においては平坦な膜とすることができる。主面上にはステップ面1bによって段差部分が発生するが、この段差部分に飛来した原子は、テラス面1aとステップ面1bの2面との結合になるので、テラス面1aに飛来した場合よりも原子は強く結合ができ、飛来原子を安定的にトラップすることができる。
【0058】
表面拡散過程で飛来原子がテラス内を拡散するが、結合力の強い段差部分や、この段差部分で形成されるキンク位置にトラップされて結晶に組み込まれることによって結晶成長が進む沿面成長により安定的な成長が行われる。このように、基板主面の法線が少なくともm軸方向に傾斜した基板上に、ZnO系半導体層を積層させると、ZnO系半導体層はこのステップ面1bを中心に結晶成長が起こり、平坦な膜を形成することができる。
【0059】
すなわち、m軸方向にステップライン1eが規則的に並んでおり、m軸方向とステップライン1eが垂直の関係になっていることが、平坦な膜を作製する上で必要なことであり、ステップライン1eの間隔やラインが乱れると、前述した沿面成長が行われなくなるので、平坦な膜が作製できなくなる。
【0060】
一方、図8(b)で傾斜角度(オフ角)θを大きくしすぎると、ステップ面1bのステップ高さtが大きくなりすぎることがあり、平坦に結晶成長しなくなるので、m軸方向のオフ角を一定の角度に制限する必要がある。図9、10は、m軸方向への傾斜角度によって、成長膜の平坦性が変わることを示すものである。図9は、傾斜角度θを1.5度として、このオフ角を有するMgXZn1−XO基板の主面上にZnO系半導体を成長させたものである。一方、図10は、傾斜角度θを3.5度として、このオフ角を有するMgXZn1−XO基板の主面上にZnO系半導体を成長させたものである。図9、10ともに、結晶成長後に、AFMを用いて、1μm四方の範囲でスキャンした画像である。図9の方は、ステップの幅が揃った状態で、綺麗な膜が生成されているが、図10の方は、凹凸が散在しており、平坦性が失われている。以上のことより、0度を越える範囲で、かつ3度以下(0<θ≦3)とするのが望ましく、このようにすることで、Si等のドナー不純物の混入を防ぐことができる。
【0061】
一方、MgZnO膜の平坦性は、成長温度にも依存し、成長温度条件については、既出願の特願2007−27182で詳述したが、再度要点を以下に説明する。MgZnO基板上にZnO薄膜を結晶成長させてZnO薄膜の表面の凹凸を測定した。ZnO薄膜の結晶成長温度を細かく変化させてそのときのZnOの表面の平坦性を数値として表し、それらをグラフにしたものが図13、14である。図13の縦軸Ra(単位はnm)は、膜表面の算術平均粗さを表す。算術平均粗さRaとは、粗さ曲線から求められる。
【0062】
粗さ曲線は、例えば、図11、12の内挿図のように観測された膜表面の凹凸を、所定のサンプリングポイントで測定し、凹凸の大きさをこれらの凹凸の平均値とともに示したものである。そして、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して、平均した値のことである。算術平均粗さRa=(1/l)×∫|f(x)|dx(積分区間は0〜lまで)と表される。このようにすることで、1つの傷が測定値に及ぼす影響が非常に小さくなり、安定した結果が得られる。なお、算術平均粗さRaや後述する二乗平均粗さRMS等の表面粗さのパラメータは、JIS規格で規定されているものであり、これらを用いている。
【0063】
以上のように算出された算術平均粗さRaを縦軸にし、基板温度を横軸にして表示したのが図13である。図13の黒三角(▲)は、基板温度が750℃未満のデータを示し、黒丸(●)は基板温度が750℃以上のデータを示す。図13からもわかるように、基板温度が750℃を境にして基板温度が高くなれば、急激に表面の平坦性が向上していることがわかる。またこのときの算術平均粗さRaの境界値は、Raを緩めに取ると1.5nm、厳しく取ると1.0nm程度になることがわかる。
【0064】
図14は、図13と同じ測定データから、膜表面の二乗平均粗さRMSを求めたものである。二乗平均粗さRMSは、粗さ曲線の平均線から測定曲線までの偏差の二乗を合計し、平均した値の平方根を表す。算術平均粗さRaを算出する際の基準長さlを用いて、
RMS={(1/l)×∫(f(x))2dx}1/2(積分区間は0〜lまで)となる。
【0065】
図14は縦軸に二乗平均粗さRMSを、横軸に基板温度を示したものである。ここで、黒三角(▲)は、基板温度が750℃未満のデータを示し、黒丸(●)は基板温度が750℃以上のデータを示す。基板温度については、図13と同様、750℃を境にして基板温度が高くなれば、急激に表面の平坦性が向上していることがわかる。一方、二乗平均粗さRMSについては、境界値を緩く取ると2.0nm、厳しく取ると1.5nm程度となっていることがわかる。
【0066】
したがって、MgZnO基板上にZnO系薄膜を成長させる場合は、基板温度を750℃以上にしてエピタキシャル成長させれば、平坦性の良い膜が得られる。また、MgZnO基板上にMgZnO膜等のZnO系薄膜を繰り返して積層する場合でも、基板温度を750℃以上に保つことにより、最上層まで、平坦な膜を積層することができ、Si等のドナー不純物の混入を防ぐことができる。
【0067】
図16の素子については、既に述べたが、上記オフ角を有するZnO基板12上に、ZnO系半導体層を積層すれば、平坦性が保たれた積層体が形成できる。具体的には、結晶成長面をZnO基板12の+C面を有する主面とし、この主面の法線方向がc軸からm軸方向に少し傾斜するように形成し、ZnO基板12上に、アンドープZnO層13、窒素ドープのp型MgZnO層14を順に結晶成長させる。窒素ドープMgZnO層14が、本発明のZnO系半導体であるが、成長温度を800℃程度として、表面平坦性をさらに良くなるようにした。もちろん、デバイス構造としては、これだけではなく、図16のZnO系積層体の部分を、MgZnO基板/アンドープZnO層/窒素ドープMgZnO層としたり、活性層を別途設け、この活性層をMgZnOとZnOを交互に積層した多重量子井戸構造(MQW)としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】MgZnOとZnOに関し、バンド端積分強度/トータル積分強度と窒素濃度との関係を示す図である。
【図2】MgZnOとZnOに関し、バンド端積分強度/DAP積分強度と窒素濃度との関係を示す図である。
【図3】窒素が添加されたMgZnOとZnOのPL発光スペクトルを示す図である。
【図4】窒素が添加されたMgZnOとZnOのPL発光スペクトルを示す図である。
【図5】窒素が添加されたMgZnOとZnOのPL発光スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の窒素ドープMgZnOを用いた場合と、従来の窒素ドープMgZnOを用いた場合との発光強度の比較を示す図である。
【図7】基板主面法線と基板結晶軸であるc軸、m軸、a軸との関係を示す図である。
【図8】基板主面法線Zがm軸方向にのみオフ角を有する場合のZnO基板表面を示す図である。
【図9】基板主面法線Zがm軸方向にオフ角を有するMgZnO基板上に成膜した表面を示す図である。
【図10】基板主面法線Zがm軸方向にオフ角を有するMgZnO基板上に成膜した表面を示す図である。
【図11】窒素ドープMgZnO薄膜の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す図である。
【図12】窒素ドープMgZnO薄膜の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す図である。
【図13】ZnO系薄膜表面の算術平均粗さと基板温度との関係を示す図である。
【図14】ZnO系薄膜表面の二乗平均粗さと基板温度との関係を示す図である。
【図15】DAP発光の作用を示す模式図である。
【図16】本発明のZnO系半導体を用いて構成したZnO系半導体素子の一例を示す図である。
【図17】窒素ドープMgZnO層を形成する場合の基本的構造を示す図である。
【図18】PL測定装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ZnO基板
2 窒素ドープMgZnO層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、
前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、
3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、
2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、
(A/B)≧0.3を満たしていることを特徴とするZnO系半導体。
【請求項2】
前記(A/B)は0.4以上であることを特徴とする請求項1に記載のZnO系半導体。
【請求項3】
窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、
前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、
3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、
2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、
{A/(B−A)}≧1を満たしていることを特徴とするZnO系半導体。
【請求項4】
前記積分強度Aを求める場合は、3.3eV以上の前記分布曲線をガウシアンカーブで近似し、該ガウシアンカーブを積分することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項5】
前記3.3eV以上の分布曲線に発光ピークが複数存在する場合には、それぞれの発光ピークをガウシアンカーブで近似することを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体。
【請求項6】
前記窒素ドープの濃度は1×1018cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項7】
前記結晶体は、Mgの組成比率が異なるMgXnZn1−XnO(0≦Xn<1)が複数積層された積層体であって、少なくとも1つのMgZnO膜には、窒素が1×1018cm−3以上の濃度でドープされていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項8】
前記結晶体は、結晶成長方向側の主面がC面を有するMgZnO基板と該MgZnO基板に形成されたMgYZn1−YO(0<Y<1)膜とで構成されており、前記主面の法線を基板結晶軸のm軸c軸平面に投影した投影軸が、m軸方向に3度以内の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項9】
前記結晶体は、750℃以上の成長温度で結晶成長させることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のZnO系半導体を備えたZnO系半導体素子。
【請求項1】
窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、
前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、
3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、
2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、
(A/B)≧0.3を満たしていることを特徴とするZnO系半導体。
【請求項2】
前記(A/B)は0.4以上であることを特徴とする請求項1に記載のZnO系半導体。
【請求項3】
窒素がドープされたMgXZn1−XO(0<X<1)結晶体で構成されたZnO系半導体であって、
前記ZnO系半導体の絶対温度12ケルビンにおけるフォトルミネッセンス測定によるスペクトル分布曲線で、
3.3eV以上の前記分布曲線の積分強度A、
2.7eV以上の前記分布曲線の積分強度Bとした場合、
{A/(B−A)}≧1を満たしていることを特徴とするZnO系半導体。
【請求項4】
前記積分強度Aを求める場合は、3.3eV以上の前記分布曲線をガウシアンカーブで近似し、該ガウシアンカーブを積分することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項5】
前記3.3eV以上の分布曲線に発光ピークが複数存在する場合には、それぞれの発光ピークをガウシアンカーブで近似することを特徴とする請求項4記載のZnO系半導体。
【請求項6】
前記窒素ドープの濃度は1×1018cm−3以上であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項7】
前記結晶体は、Mgの組成比率が異なるMgXnZn1−XnO(0≦Xn<1)が複数積層された積層体であって、少なくとも1つのMgZnO膜には、窒素が1×1018cm−3以上の濃度でドープされていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項8】
前記結晶体は、結晶成長方向側の主面がC面を有するMgZnO基板と該MgZnO基板に形成されたMgYZn1−YO(0<Y<1)膜とで構成されており、前記主面の法線を基板結晶軸のm軸c軸平面に投影した投影軸が、m軸方向に3度以内の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項9】
前記結晶体は、750℃以上の成長温度で結晶成長させることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のZnO系半導体。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のZnO系半導体を備えたZnO系半導体素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−78959(P2009−78959A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251482(P2007−251482)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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