説明

ZnO系半導体層の製造方法、ZnO系半導体発光素子の製造方法、及びZnO系半導体発光素子

【課題】p型ZnO系半導体層を形成するための新規な技術を提供する。
【解決手段】ZnO系半導体層の製造方法は、(a)下地層上方に、Zn、必要に応じてMg、O、N、及びTeを供給して、NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成する工程と(b)MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上に、Zn及びMgの少なくとも一方、Te、及びNを供給して、NがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体層の製造方法、ZnO系半導体発光素子の製造方法、及びZnO系半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の薄膜結晶成長技術の進歩に伴い、ZnO系材料の半導体としての応用を目指した研究が盛んになってきた。ZnOは、室温で3.37eVのバンドギャップを有している直接遷移型の半導体であることから、単結晶薄膜を利用した発光及び受光素子など、光半導体材料として、注目されている。
【0003】
また励起子の束縛エネルギーが60meVと従来の半導体(ZnSe:18meV、 GaN:24meV)に比べて大きく、室温で励起子発光過程を利用した高効率な紫外発光素子として期待されている。
【0004】
また屈折率が2.0と他の短波長半導体材料(ZnSe:2.6、 GaN:2.6)に比べて小さく光取り出し効率が高いことから、高効率な短波長(紫外〜青色)発光ダイオード(LED)材料や、蛍光体と組み合わせることにより高効率・高演色な白色LED材料としても期待されている。
【0005】
これらのデバイスを実現するためには、伝導性の制御が必要不可欠となる。ZnOはアンドープでもn型伝導性を示すものの、薄膜結晶成長技術の進歩に伴い、残留キャリア濃度はかなり低減された高品質な結晶が得られてきている。AlやGaなどのIII族元素はZnサイトを置換することによりドナーとして働き、これらをドーパントとして添加することにより、キャリア濃度を制御したn型結晶を得ることは容易である。
【0006】
一方、p型化については、主にOサイトを置換させるNなどのV族元素が研究されているが、まだキャリア濃度が低く、再現性や安定性なども含め、十分な品質が得られていないのが現状である。
【0007】
特許文献1は、アンドープZnOとNドープZnTeとを交互に複数層形成することによりp型II−VI族化合物半導体結晶を成長させる方法を開示する。
【0008】
また非特許文献1は、ZnO中にTeとNを共ドープすることにより、p型ZnO層が得られることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3492551号公報
【非特許文献1】Applied Physics Express 3 (2010) 031103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一目的は、p型ZnO系半導体層を形成するための新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、(a)下地層上方に、Zn、必要に応じてMg、O、N、及びTeを供給して、NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成する工程と(b)前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上に、Zn及びMgの少なくとも一方、Te、及びNを供給して、NがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を形成する工程とを有するZnO系半導体層の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上に、NがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を形成することにより、p型ZnO系半導体層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、MBE装置の例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、第1実験によるZnO膜サンプルそれぞれのRHEEDパターンである。
【図3】図3A〜図3Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるサンプルの構造を示す概略断面図である。
【図4】図4A〜図4Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるp型ZnO系半導体層の成長方法を示すタイミングチャートであり、図4Dは、第1実施例の変形例によるp型ZnO系半導体層の成長方法を示すタイミングチャートである。
【図5】図5A〜図5Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるサンプルのRHEEDパターンである。
【図6】図6は、第1実施例の交互成長層におけるZnO:[N+Te]層及びZnTe:N層のRHEEDパターンである。
【図7】図7A及び図7Bは、それぞれ、第1比較例及び第1実施例によるサンプルの、2θ/ωスキャンによるX線回折パターンである。
【図8】図8A〜図8Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるサンプルのN濃度及びTe濃度のSIMSデプスプロファイルである。
【図9】図9A〜図9Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例のデバイスのI−V特性である。
【図10】図10A及び図10Bは、第2実施例のサンプルの2θ/ωスキャンによるX線回折パターンである。
【図11】図11A〜図11Cは、第2実施例のサンプルのRHEEDパターンである。
【図12】図12A及び図12Bは、それぞれ、第3実施例によるOリッチ条件及びZnリッチ条件のサンプルのI−V特性である。
【図13】図13は、第2実験によるZnTe:N膜の成長速度の成長温度依存性を示すグラフである。
【図14】図14A〜図14Dは、第4実施例による交互成長層の成長方法を示すタイミングチャートである。
【図15】図15Aは、第1応用例による発光素子の構造を示す概略断面図であり、図15Bは、変形例による活性層構造を示す概略断面図である。
【図16】図16は、第2応用例による発光素子の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、ZnO系半導体層等の成長に用いられる結晶製造装置について説明する。結晶製造方法として、以下に説明する比較例、実施例等では、分子線エピタキシ(MBE)を用いる。ここで、ZnO系半導体はZnとOとを含む。
【0015】
図1は、MBE装置の例を示す概略断面図である。真空チャンバ101が、Znソースガン102、Mgソースガン103、Teソースガン104、Oソースガン105、及び、Nソースガン106を備える。
【0016】
Znソースガン102、Mgソースガン103、Teソースガン104は、それぞれ、Zn固体ソース(例えば純度7N)、Mg固体ソース(例えば純度6N)、及びTe固体ソース(例えば純度6N)の収容されたパイロリティック・ボロン・ナイトライド(PBN)製るつぼを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Teビームを出射する。
【0017】
Oソースガン105、Nソースガン106は、それぞれ、例えば13.56MHzのラジオ周波(RF)を用いた無電極放電管を含み、Oガス(例えば純度6N)、Nガス(例えば純度6N)をプラズマ化して、Oラジカルビーム、Nラジカルビームを出射する。放電管材料として、PBNもしくは高純度石英が使用される。
【0018】
なお、ZnO系半導体にドープされるn型不純物として、例えばGa等が用いられる。必要に応じて、Gaソースガン等を追加することができる。
【0019】
真空チャンバ101内に、ヒータを含むステージ107が配置され、ステージ107が、基板108を保持する。基板108上に、所望のビームを供給することにより、所望の結晶層を成長させることができる。
【0020】
ソースガン102〜106は、それぞれセルシャッタ109を備え、セルシャッタ109の開閉状態を切り替えることにより、各ソースガンから基板108にビームが照射される状態と照射されない状態とが切り替えられる。
【0021】
基板108のソースガン側手前に、基板シャッタ110が備えられている。基板シャッタ110の開閉状態を切り替えることにより、基板108にビームが照射される状態と照射されない状態とが切り替えられる。
【0022】
本MBE装置は、また、反射高速電子回折(RHEED)用のガン111、及びRHEED像を映すスクリーン112を備える。RHEED像から、成長した結晶層の結晶性を評価できる。単結晶が2次元的に成長し表面が平坦である場合は、RHEED像がストリークパターンを示し、単結晶が3次元的に成長し表面が平坦でない場合は、RHEED像がスポットパターンを示す。
【0023】
ZnOにMgを添加することにより、バンドギャップを広げることができる。ただし、ZnOはウルツ鉱構造(六方晶)で、MgOは岩塩構造(立方晶)であるため、Mg組成が高すぎると相分離を起こしてしまう。MgZnOのMg組成をxと明示したMgZn1−xOにおいて、Mg組成xは、ウルツ鉱構造を保つため0.6以下とするのが好ましい。ここで、Mg組成x=0も含めることにより、MgZn1−xOという表記に、Mgの添加されていないZnOも含める。
【0024】
MgZn1−xO(0≦x≦0.6)結晶成長におけるVI/IIフラックス比について説明する。Znビームのフラックス強度をJZnと表し、Mgビームのフラックス強度をJMgと表し、Oラジカルビームのフラックス強度をJと表す。金属材料であるZnあるいはMgのビームは、原子、または複数個の原子を含むクラスターのZnあるいはMgを含み、原子及びクラスターのいずれも結晶成長に有効である。ガス材料であるOのビームは、原子ラジカルや中性分子を含むが、ここでは、結晶成長に有効な原子ラジカルのフラックス強度を考える。
【0025】
結晶へのZnの付着しやすさを示す付着係数をkZnとし、Mgの付着しやすさを示す付着係数をkMgとし、Oの付着しやすさを示す付着係数をkとする。Znの付着係数kZnとフラックス強度JZnとの積kZnZn、Mgの付着係数kMgとフラックス強度JMgとの積kMgMg、及び、Oの付着係数kとフラックス強度Jとの積kは、それぞれ、基板の単位面積に単位時間当たりに付着するZn原子、Mg原子、及びO原子の個数に対応する。
【0026】
ZnZnとkMgMgの和に対するkの比であるk/(kZnZn+kMgMg)を、VI/IIフラックス比と定義する。VI/IIフラックス比が1より小さい場合をII族リッチ条件(Mgを含まない場合は単にZnリッチ条件)と呼び、VI/IIフラックス比が1に等しい場合をストイキオメトリ条件と呼び、VI/IIフラックス比が1より大きい場合をVI族リッチ条件(あるいはOリッチ条件)と呼ぶ。
【0027】
なお、+c面(Zn面)での結晶成長においては、基板表面温度850℃以下であれば、付着係数kZn、kMg、及びkを1と見なすことができ、VI/IIフラックス比をJ/(JZn+JMg)と表せる。
【0028】
VI/IIフラックス比は、具体的には例えば以下のような手順で算出することができる。ZnOの成長を例として説明する。Znフラックスは、水晶振動子を用いた膜厚モニタによる、室温でのZnの蒸着速度FZn(nm/s)として測定される。Znフラックスの単位は、FZn(nm/s)からJZn(atoms/cms)に換算される。
【0029】
一方、Oラジカルフラックスは、以下のように求められる。Oラジカルビーム照射条件一定(例えば、O流量2sccm/RFパワー300W)の下で、Znフラックスを変化させてZnOを成長し、ZnOの成長速度のZnフラックス依存性を実験的に求める。その結果を、ZnO成長速度GZnOの近似式:GZnO=[(kZnZn−1+(k−1−1を用いてフィッティングすることにより、その条件でのOラジカルフラックスJが算出される。このようにして得られたZnフラックスJZn及びOラジカルフラックスJから、VI/IIフラックス比を算出することができる。
【0030】
次に、第1実験について説明する。第1実験では、以下に説明するように、アンドープ、Nドープ、Teドープ、及び、NとTeの共ドープ(N+Te共ドープ)のZnO単膜を形成し、NとTeのサーファクタント効果について確認した。
【0031】
Zn面ZnO(0001)基板上に、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wの条件で、Znビーム及びOラジカルビームを照射して、ZnOバッファー層を厚さ30nm成長した。900℃でアニールを行い、バッファー層の結晶性及び表面平坦性の改善を行なった。その後、基板温度を500℃まで下げて、バッファー層上に、アンドープZnO膜、NドープZnO(ZnO:N)膜、TeドープZnO(ZnO:Te)膜、あるいはN+Te共ドープZnO(ZnO:[N+Te])膜を成長した。
【0032】
成長温度は500℃とし、Znフラックス0.12nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wの条件で、Znビーム及びOラジカルビームを照射した。これらの条件は、どのZnO膜サンプルについても共通とした。
【0033】
Nドープのサンプルは、N流量1sccm/RFパワー100WとしてNラジカルビームを照射した。Teドープのサンプルは、Teフラックス0.003nm/s〜0.01nm/sとしてTeビームを照射した。N+Te共ドープのサンプルは、N流量1sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.003nm/s〜0.01nm/sとして、Nラジカルビーム及びTeビームを照射した。
【0034】
図2は、第1実験によるZnO膜サンプルそれぞれのRHEEDパターンである。各サンプルについて、[11−20]方向と[1−100]方向のRHEEDパターンを示す。上段に、Nがドープされたサンプル、つまり、Nドープのサンプル及びN+Te共ドープのサンプルを示す。下段に、Nがドープされていないサンプル、つまり、アンドープのサンプル及びTeドープのサンプルを示す。上段、下段とも、左側から、Teフラックスが0nm/s(Teアンドープ)、0.003nm/s、0.006nm/s、及び0.01nm/sのサンプルを示す。
【0035】
N及びTeアンドープのZnO膜は、スポットパターンを示し3次元成長している。NアンドープでTeドープのZnO:Te膜では、Teフラックス依存性が観測される。Teフラックス0.003nm/sまではスポットパターンを示し3次元成長するのに対し、Teフラックス0.006nm/s以上ではストリークパターンを示し2次元成長することがわかる。つまり、Te照射によるサーファクタント効果が確認される。
【0036】
NドープでTeアンドープのZnO:N膜は、ストリークにスポットが載ったRHEEDパターンを示し、N及びTeアンドープ膜に比べて、若干表面マイグレーションが促進され、平坦性が改善されている。N照射によっても、サーファクタント効果が得られることがわかる。
【0037】
N及びTeがドープされたZnO:[N+Te]膜は、微量のTeフラックス(0.003nm/s)でもストリークパターンを示し2次元成長している。NとTeとの共ドープにより、サーファクタント効果が促進されていることがわかる。
【0038】
次に、第1比較例、第2比較例、及び本発明による第1実施例について説明する。図3A〜図3Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるサンプルの構造を示す概略断面図である。図4A〜図4Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるp型ZnO系半導体層の成長方法を示すタイミングチャートであり、Znソースガン、Oソースガン、Nソースガン、及びTeソースガンのセルシャッタの開閉状態を示す。
【0039】
まず、図3Aを参照して、第1比較例について説明する。Zn面ZnO(0001)基板1上に、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wで、Znビーム及びOラジカルビームを照射して、ZnOバッファー層2を厚さ30nm成長した。900℃でアニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行なった。
【0040】
ZnOバッファー層2上に、成長温度900℃、Znフラックスビーム0.3nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wで、Znビーム及びOラジカルビームを照射して、n型ZnO層3を厚さ100nm成長した。その後、基板温度を500℃まで下げて、第1比較例のp型ZnO層系半導体層4Aを形成した。
【0041】
図4Aも参照して説明を進める。第1比較例のp型ZnO層系半導体層4Aとして、アンドープZnO成長工程と、ZnTe:N成長工程とを交互に20回繰り返すことにより、アンドープZnO/ZnTe:N交互成長層を厚さ100nm成長した。最上層は、アンドープZnO層とした。
【0042】
アンドープZnO成長工程では、Znフラックス0.10nm/s、O流量2.0sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射した。ZnTe:N成長工程では、Znフラックス0.10nm/s、Teフラックス0.05nm/s、N流量1.0sccm/RFパワー100Wとして、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームを同時照射した。
【0043】
第1比較例のアンドープZnO成長工程において、ZnフラックスFZn=0.1nm/sは、JZn=6.6×1014atoms/cmsであり、O流量2.0sccm/RFパワー300WにおけるOラジカルフラックスは、J=8.9×1014atoms/cmsとなる。VI/IIフラックス比(O/Znフラックス比)は、1.35となり、Oリッチ条件である。
【0044】
第1比較例による交互成長におけるアンドープZnO成長工程は、Oリッチ条件で行うことが好ましい。Znリッチ条件で成長を行うと、Nソースガンのセルシャッタが閉じられていても、窒素プラズマ中の原子状Nラジカルが基板に到達して、ZnO層に取り込まれやすいためである。
【0045】
次に、図3Bを参照して、第2比較例について説明する。ZnO基板1上にZnOバッファー層2を形成し、ZnOバッファー層2のアニールを行い、ZnOバッファー層2上にn型ZnO層3を形成する工程までは、第1比較例と同様である。その後、基板温度を(900℃から)500℃まで下げて、第2比較例のp型ZnO層系半導体層4Bを形成した。
【0046】
図4Bも参照して説明を進める。第2比較例のp型ZnO層系半導体層4Bとして、Znフラックス0.15nm/s、O流量2.0sccm/RFパワー300W、N流量1.0sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.0006nm /sで、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームを同時照射し、ZnO:[N+Te]層を厚さ100nm成長した。
【0047】
次に、図3Cを参照して、第1実施例について説明する。ZnO基板1上にZnOバッファー層2を形成し、ZnOバッファー層2のアニールを行い、ZnOバッファー層2上にn型ZnO層3を形成する工程までは、第1比較例と同様である。その後、基板温度を(900℃から)500℃まで下げて、第1実施例のp型ZnO層系半導体層4を形成した。
【0048】
図4Cも参照して説明を進める。第1実施例のp型ZnO層系半導体層4として、ZnO:[N+Te]成長工程と、ZnTe:N成長工程とを交互に20回繰り返すことにより、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層を厚さ約100nm成長した。1層当たりの層厚は、ZnO:[N+Te]層が5nm、ZnTe:N層が0.36nmである。最上層は、ZnO:[N+Te]層とした。
【0049】
ZnO:[N+Te]成長工程では、Znフラックス0.15nm/s、O流量2.0sccm/RFパワー300W、N流量1.0sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.0006nm /sとして、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームを同時照射した。ZnTe:N成長工程では、Znフラックス0.15nm/s、Teフラックス0.0006nm/s、N流量1.0sccm/RFパワー100Wとして、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームを同時照射した。
【0050】
第1実施例の交互成長のZnO:[N+Te]成長工程において、ZnフラックスFZn=0.15nm/sは、JZn=9.9×1014atoms/cmsであり、O流量2.0sccm/RFパワー300WにおけるOラジカルフラックスは、J=8.9×1014atoms/cmsとなる。VI/IIフラックス比(O/Znフラックス比)は、0.9となり、Znリッチ条件である。
【0051】
その後、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例のサンプルそれぞれに電極を形成してデバイスを作製した。ZnO基板の裏面にn側電極を形成し、p型ZnO系半導体層上にp側電極を形成し、p側電極上にボンディング電極を形成した。n側電極は、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAl層を積層して形成した。p側電極は、300μm□で厚さ0.5nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成し、ボンディング電極は、100μmφで厚さ500nmのAu層で形成した。
【0052】
図5A〜図5Cは、それぞれ、第1比較例による交互成長層における最表面のアンドープZnO層、第2比較例によるZnO:[N+Te]層、及び、第1実施例による交互成長層における最表面のZnO:[N+Te]層のRHEEDパターンである。
【0053】
第1比較例のアンドープZnO層は、スポットパターンを示し3次元成長していることがわかる。これは第1実験で示したように、アンドープZnOが3次元成長するためと考えられる。
【0054】
一方、第2比較例及び第1実施例のZnO:[N+Te]層は、ストリークパターンを示し2次元成長していることがわかる。これは、NとTeの共ドープ(NとTeの共照射)によるサーファクタント効果によるものと考えられる。
【0055】
図6は、第1実施例による交互成長層におけるZnO:[N+Te]層と、ZnTe:N層のRHEEDパターンである。
【0056】
ZnO:[N+Te]層は、(2×3)のストリークパターンを示し、ZnTe:N層は、(1×1)のストリークパターンを示し、交互に成長した20回、このようなパターン変化が繰り返し観察された。ZnTe:N層では、ZnO:[N+Te]層よりも、約5.7%内側にストリークパターンが現れている。
【0057】
図7A及び図7Bは、それぞれ、第1比較例及び第1実施例によるサンプルの、2θ/ωスキャンによるX線回折パターンである。
【0058】
第1比較例では、アンドープZnO層とZnTe:N層とを交互に成長したにもかかわらず、サテライトピークが観測されない。これは、3次元成長に起因して、ZnO/ZnTe界面が凸凹となり、積層構造が形成されていないためと考えられる。一方、第1実施例では、明瞭なサテライトピークが観測され、積層構造が形成されていることがわかった。
【0059】
図8A〜図8Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例によるサンプルのN濃度及びTe濃度の2次イオン質量分析(SIMS)デプスプロファイルである。第1比較例では、周期構造が見られないが、第1実施例では、N濃度及びTe濃度ともに明瞭な周期構造が見られる。このことからも、第1実施例では均一な積層構造が形成されていることがわかる。また、第2比較例では、N濃度及びTe濃度は深さ方向で均一である。
【0060】
第1実施例の周期構造において、N濃度の山とTe濃度の山とが揃い、N濃度の谷とTe濃度の谷とが揃っている。N濃度及びTe濃度の山の部分は、ZnTe:N層に対応し、N濃度及びTe濃度の谷の部分は、ZnO:[N+Te]層に対応する。
【0061】
なお、SIMS分析においては、1ポイントで少なくとも2nm程度の深さ方向の情報が含まれている。第1実施例のサンプルでは、1層当たりの層厚は、ZnO:[N+Te]層が5nm、ZnTe:N層が0.36nmである。
【0062】
ZnTe:N層は、SIMSの分解能に比べて薄いので、N濃度及びTe濃度の山の部分の濃度は、ZnTe:N層とZnO:[N+Te]層の両方の情報が混ざった値となる。これに起因して、山の部分のTe濃度は、ZnTe:N層のみにおけるTe濃度よりも低く測定され、N濃度よりも低い値となっている(ZnTe:N層が、SIMSの分解能以上に充分に厚ければ、Te濃度がN濃度よりも高くなるはずである)。一方、ZnO:[N+Te]層は、SIMSの分解能以上に充分に厚いので、N濃度及びTe濃度の谷の部分では、ZnO:[N+Te]層からのみの濃度情報が得られている。
【0063】
ZnO:[N+Te]層におけるサーファクタント効果を高めかつ結晶性低下を抑制するために、N濃度及びTe濃度は、それぞれ、1020cm−3以上1021cm−3以下の範囲であることが好ましい。1021cm−3を超える濃度では、混晶となり、価数の違う元素が混晶レベルまで入ると、結晶性が低下すると考えられる。
【0064】
図9A〜図9Cは、それぞれ、第1比較例、第2比較例、及び第1実施例のデバイスのI−V特性である。各サンプルについて、下方にリニアスケールで表したI−V特性、上方にログスケールで表したI−V特性を示す。併せて発光状態も示す。
【0065】
第1比較例は、ダイオード特性の閾値電圧が見られず、オーミック〜ショットキー特性を示した。また、全く発光も得られず、アンドープZnO/ZnTe:N交互成長層がn型となっていることが示唆される。
【0066】
第2比較例は、ダイオード特性を示したが、閾値電圧が10V以上と高く、また発光は点発光であった。12Vあたりに見られる電流値の変化は、トンネル電流によるものと考えられ、ZnO:[N+Te]層の抵抗が高い、すなわちキャリア濃度が低いことが示唆される。
【0067】
第1実施例は、閾値電圧が7V程度に下がっており、また発光も全面から得られた。7V付近の電流値の傾き変化は、pn接合による拡散電流によるものと考えられ、ZnO:[N+Te]層の抵抗が下がった(キャリア濃度が上がった)ことが示唆される。
【0068】
このように、第1実施例によるZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層は、第1比較例によるアンドープZnO/ZnTe:N交互成長層や、第2比較例によるZnO:[N+Te]単層に比べて、p型ZnO系半導体層として優れた特性を持つことがわかった。
【0069】
次に、第1実施例の変形例によるZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層の成長方法について説明する。
【0070】
図4Dは、本変形例によるZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層の成長方法を示すタイミングチャートであり、Znソースガン、Oソースガン、Nソースガン、Teソースガンのセルシャッタの開閉状態、及び、基板シャッタの開閉状態を示す。
【0071】
本変形例では、Znソースガン、Nソースガン及びTeソースガンのセルシャッタは開状態のまま保たれる。Oソースガンのセルシャッタが、ZnO:[N+Te]成長工程で開状態にされ、ZnTe:N成長工程で閉状態にされる。基板シャッタが、ZnO:[N+Te]成長工程とZnTe:N成長工程のそれぞれで開状態にされ、両成長工程間で閉状態にされる。このようにして、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長のビーム照射を制御することもできる。
【0072】
次に、第2実施例について説明する。Zn面ZnO(0001)基板上に、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wで、Znビーム及びOラジカルビームを照射して、ZnOバッファー層を厚さ30nm成長した。900℃でアニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行なった。その後、基板温度を500℃まで下げ、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層を形成した。
【0073】
ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長において、ZnO:[N+Te]層厚を一定として、ZnTe:N成長時間を変化させた第1種のサンプルと、ZnO:[N+Te]層厚を変化させて、ZnTe:N成長時間を一定とした第2種のサンプルとを形成した。
【0074】
第1種のサンプル形成では、1回当たりのZnO:[N+Te]成長工程(Znフラックス0.15nm/s、O流量2.0sccm/RFパワー300W、N流量1.0sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.0006nm /s)の層厚を5nm一定とした。
【0075】
そして、1回当たりのZnTe:N成長工程(Znフラックス0.15nm/s、Teフラックス0.0006nm/s、N流量1.0sccm/RFパワー100W)の成長時間を、5秒、20秒、1分、2分、5分と変えた。ZnO:[N+Te]成長工程とZnTe:N成長工程とを交互に20回繰り返し、厚さ100nm〜140nm程度のZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層を成長した。
【0076】
第2種のサンプル形成では、1回当たりのZnO:[N+Te]成長工程(Znフラックス0.15nm/s、O流量2.0sccm/RFパワー300W、N流量1.0sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.0006nm /s)の層厚を1nm、2.5nm、5nm、10nmと変えた。
【0077】
そして、1回当たりのZnTe:N成長工程(Znフラックス0.15nm/s、Teフラックス0.0006nm/s、N流量1.0sccm/RFパワー100W)の成長時間を1分一定とした。ZnO:[N+Te]成長工程とZnTe:N成長工程とを交互に10回〜100回繰り返し、厚さ約100nmのZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層を成長した。
【0078】
図10A及び図10Bは、それぞれ、第2実施例による第1種のサンプル及び第2種のサンプルの2θ/ωスキャンによるX線回折パターンである。
【0079】
図10Aは、第1種のサンプルについて、上方から、ZnTe:N成長時間5秒、20秒、1分、2分、5分のX線回折パターンを示す。成長時間20秒以上でサテライトピークが観測され、積層構造が形成されていることがわかる。ここで、成長時間1分のサンプルのサテライトピークから見積もられるZnTe:N層の厚みは、0.36nmと1分子層であることがわかった。
【0080】
ただし、5分成長させたものは、サテライトピークが二重になっており、積層構造界面がきれいでなくなり揺らいでいるものと考えられる。これは、ZnTe:N層が薄い間は、コヒーレントにエピタキシャル成長が起こるが、厚みが増すに従い、本来のZnTeの原子間隔となるように格子緩和が起こるためと考えられる。
【0081】
図10Bは、第2種のサンプルについて、上方から、ZnO:[N+Te]層厚1nm、2.5nm、5nm、10nmのX線回折パターンを示す。ZnO:[N+Te]層厚が変化するとともにサテライトピークの間隔が変化し、ZnO膜厚に対応した変化が観測された。
【0082】
図10Bに示した測定結果では、ZnO:[N+Te]層厚2.5nm、5nm、及び10nmでサテライトピークが観察されており、積層構造が形成されていることがわかる。なお、ZnO:[N+Te]層厚1nmでも、積層構造は形成されているものと思われるが、サテライトピークが測定範囲外に位置しているものと思われる。
【0083】
図11A〜図11Cは、第1種のサンプルについて、それぞれ、ZnTe:N層の1層の厚さ0.36nm(成長時間1分)、0.72nm(成長時間2分)、及び1.8nm(成長時間5分)で交互成長したサンプルのRHEEDパターンである。
【0084】
サテライトピークがきれいに見えていた層厚0.36nm(成長時間1分)及び0.72nm(成長時間2分)のサンプルは、ストリークパターンを示し2次元成長しており、各界面はきれいに形成されているものと考えられる。一方層厚1.8nm(成長時間5分)のサンプルは、スポットパターンを示し3次元成長しており、それぞれの界面に凹凸が形成されていると考えられる。このように、X線回折の結果と対応するRHEEDパターンが得られた。
【0085】
以上の結果より、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層において、ZnTe:N層の1層当たりの厚さは、0.12nm(1/3分子層)〜0.72nm(2分子層)の範囲であることが好ましいといえる。また、ZnO:[N+Te]層の1層当たりの厚さは、2.5nm〜10nmの範囲であることが好ましいといえる。
【0086】
次に第3実施例について説明する。ZnO基板1上にZnOバッファー層2を形成し、ZnOバッファー層2のアニールを行い、ZnOバッファー層2上にn型ZnO層3を形成する工程までは、第1実施例と同様である。その後、基板温度を500℃まで下げ、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層であるp型ZnO層系半導体層4を形成した。
【0087】
ZnO:[N+Te]成長工程とZnTe:N成長工程とを交互に20回繰り返すことにより、厚さ100nmのp型ZnO層系半導体層4を形成した。第3実施例では、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長において、ZnO:[N+Te]成長工程をZnリッチ(II族リッチ)条件としたサンプルと、Oリッチ(VI族リッチ)条件としたサンプルとを形成した。成長条件は以下のようなものである。
Znリッチ条件:
・ZnO:[N+Te]層(Znフラックス0.15nm/s、O流量2sccm/RFパワー300W、N流量1sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.003nm/s)
・ZnTe:N層(Znフラックス0.15nm/s、Teフラックス0.003nm/s、N流量1sccm/RFパワー100W)
Oリッチ条件:
・ZnO:[N+Te]層(Znフラックス0.08nm/s、O流量2sccm/RFパワー300W、N流量1sccm/RFパワー120W、Teフラックス0.01nm/s)
・ZnTe:N層(Znフラックス0.08nm/s、Teフラックス0.01nm/s、N流量1sccm/RFパワー120W)
Znリッチ条件のプロセスにおけるZnフラックスFZn=0.15nm/sは、JZn=9.9×1014atoms/cmsであり、Oリッチ条件のプロセスにおけるZnビームフラックスは0.08nm/sは、JZn=5.3×1014atoms/cmsである。
【0088】
Oラジカルフラックスは、Znリッチ条件及びOリッチ条件のプロセスとも等しく、O流量2sccm/RFパワー300Wにおいて、J=8.9×1014atoms/cmsとなる。
【0089】
Znリッチ条件のプロセスでのVI/IIフラックス比(O/Znフラックス比)は、0.9(Znリッチ条件)となり、Oリッチ条件のプロセスでのVI/IIフラックス比(O/Znフラックス比)は、1.7(Oリッチ条件)となる。
【0090】
その後、Znリッチ条件及びOリッチ条件のサンプルに、それぞれ、第1実施例と同様に電極を形成した。
【0091】
図12A及び図12Bは、それぞれ、Oリッチ条件及びZnリッチ条件のサンプルのI−V特性である。Oリッチ条件で成長したサンプルは、リーク電流が大きく、pn接合による拡散電流が明確には観測されない。一方、Znリッチ条件で成長したサンプルは、6V〜7V付近にpn接合による拡散電流による傾きの変化が明瞭に観測された。このことから、交互成長時におけるZnO:[N+Te]層の成長条件としては、Znリッチ条件が好ましいことがわかった。
【0092】
なお、交互成長層全体の平均濃度として、Oリッチ条件のサンプルのN濃度は1.3×1020cm−3、Te濃度は5.5×1019cm−3であり、Znリッチ条件のサンプルのN濃度は3.6×1020cm−3、Te濃度は1.2×1020cm−3であった。
【0093】
次に、第2実験について説明する。第2実験では、ZnTe:N膜の成長速度の成長温度依存性について調べた。Zn面ZnO(0001)基板上に、Znフラックス0.1nm/s、Teフラックス0.08nm/s、N流量1sccm/RFパワー120Wとして、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームを照射し、ZnTe:N膜を成長した。成長温度を300℃〜600℃の範囲で変化させた。
【0094】
図13は、ZnTe:N膜の成長速度の成長温度依存性を示すグラフである。成長温度とともに成長速度が減少し、600℃を超えるとエピタキシャル成長膜が得られなかった。このことからZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長におけるZnTe:N層の成長温度は、600℃未満とすることが好ましいといえる。
【0095】
プロセス全体の成長時間の短縮、及び、ZnTe:N層成長時におけるZnの酸化防止の観点からは、ZnTe層の成長速度はある程度速い方がよく、成長温度は550℃以下がより好ましい。ZnTeの成長速度が遅いと、チャンバ中の酸素とZnとが反応し、ZnTe:NではなくZnOTe:Nのような混晶となりやすい。
【0096】
なお、ZnO:[N+Te]層の成長温度は800℃程度以下であればよいが、ZnO:[N+Te]層成長工程とZnTe:N層成長工程とは、温度変更の手間がかからないという観点から、同じ温度で実施することが好ましい。この観点からは、ZnO:[N+Te]層及びZnTe:N層の成長温度を、600℃未満とすることが好ましいといえる。
【0097】
なお、上記実施例では、p型ZnO系半導体層として、ZnO:[N+Te]/ZnTe:N交互成長層を形成した。交互成長層において、ZnO:[N+Te]層の替わりに、結晶構造を変えない範囲でMgを添加したMgZnO:[N+Te]層を用いることもできると考えられる。Mgが添加される場合と添加されない場合をまとめて表すと、MgZn1−xO:[N+Te](0≦x≦0.6)層を用いることができる。
【0098】
なお、Mgの添加されたMgZnO:[N+Te]層についても、第1実施例での検討を踏まえ、N濃度及びTe濃度は、それぞれ、1020cm−3以上1021cm−3以下の範囲であることが好ましいであろう。また、第2実施例での検討を踏まえ、1層当たりの厚さは2.5nm〜10nmの範囲とすることが好ましいであろう。また、第3実施例での検討を踏まえ、MgZnO:[N+Te]層成長は、VI/IIフラックス比をII族リッチとすることが好ましいであろう。
【0099】
交互成長層において、また、ZnTe:N層の替わりに、MgZnTe:N層、あるいは、MgTe:N層を用いることもできると考えられる。なお、Mgを含む場合と含まない場合をまとめて、MgZn1−yTe:N(0≦y≦1)層と表すことができる。
【0100】
六方晶ウルツ鉱構造のZnOの格子定数はa=0.324982nm、c=0.520661nmで、立方晶閃亜鉛鉱構造のZnTeの格子定数はa=0.6089nmである。ZnO(0001)上ZnTe膜のエピタキシャル成長方位関係は、ZnTe(111)//ZnO(0001)、ZnTe[1−10]//ZnO[11−20]となる。ここでZnTe(111)//ZnO(0001)における横方向の原子間隔はZnTeが0.403557nmであるのに対し、ZnOは0.324982nmとなり、格子ミスマッチは32.5%となる。一方MgTeとZnTeの格子ミスマッチは約4%であり、ZnOとの格子ミスマッチ量に比べて小さく、MgTeやMgZnTeを用いてもコヒーレント長には変化がなく、成長厚みに対して同様の成長が得られるものと考えられる。
【0101】
またMgZnTeにおいては、MgはZnより沸点が高く(Mg:1091℃、Zn:907℃)、すなわち付着係数が高く、ZnよりMgの方が結晶中に取り込まれやすいと考えられる。従って、成長温度としてはZnTeの場合に比べ高くできる可能性があるものの、Nの取り込み効率などを考えると、成長温度はZnTeと同様に600℃未満が望ましいと考えられる。
【0102】
次に、第4実施例として、交互成長層にMgを用いる場合の成長方法について説明する。
【0103】
図14A〜図14Dは、第4実施例によるMgZn1−xO:[N+Te](0<x≦0.6)/MgZn1−yTe:N(0≦y≦1)交互成長層の成長方法を示すタイミングチャートであり、Mgソースガン、Znソースガン、Oソースガン、Nソースガン、及びTeソースガンのセルシャッタの開閉状態を示す。図14Dは、さらに、基板シャッタの開閉状態を示す。
【0104】
図14Aを参照して、第1の成長方法について説明する。第1の成長方法では、Mgビーム、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームが同時照射されるMgZnO:[N+Te]成長工程と、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームが同時照射されるZnTe:N成長工程とが交互に繰り返される。
【0105】
図14Bを参照して、第2の成長方法について説明する。第2の成長方法では、Mgビーム、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームが同時照射されるMgZnO:[N+Te]成長工程と、Mgビーム、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームが同時照射されるMgZnTe:N成長工程とが交互に繰り返される。
【0106】
図14Cを参照して、第3の成長方法について説明する。第3の成長方法では、Mgビーム、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームが同時照射されるMgZnO:[N+Te]成長工程と、Mgビーム、Teビーム、及びNラジカルビームが同時照射されるMgTe:N成長工程とが交互に繰り返される。
【0107】
以上の第1〜第3の成長方法では、各ソースガンのセルシャッタの開閉状態切り替えにより、交互成長工程が切り替えられる。
【0108】
図14Dを参照して、第4の成長方法について説明する。第4の成長方法では、第1の成長方法と同様に、Mgビーム、Znビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームが同時照射されるMgZnO:[N+Te]成長工程と、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームが同時照射されるZnTe:N成長工程とが交互に繰り返される。
【0109】
ただし、第4の成長方法では、第1実施例の変形例と同様に、Znソースガン、Nソースガン及びTeソースガンのセルシャッタは開状態のまま保たれる。そして、Oソースガンのセルシャッタ、及びMgソースガンのセルシャッタが、MgZnO:[N+Te]成長工程で開状態にされ、ZnTe:N成長工程で閉状態にされる。基板シャッタが、MgZnO:[N+Te]成長工程とZnTe:N成長工程のそれぞれで開状態にされ、両成長工程間で閉状態にされる。
【0110】
次に、上記実施例によるp型ZnO系半導体層を応用した第1応用例及び第2応用例による発光素子について説明する。
【0111】
図15Aは、第1応用例による発光素子の構造を示す概略断面図である。n型導電性を持つZn面ZnO(0001)基板11上に、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを照射し、厚さ30nmのZnOバッファー層12を成長させる。900℃でアニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行なう。
【0112】
ZnOバッファー層12上に、成長温度900℃、Znフラックス0.3nm/s、O流量1sccm/RFパワー250Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを照射し、厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させる。
【0113】
n型ZnO層13上に、成長温度900℃、Znフラックス0.1nm/s、Mgフラックス0.03nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを照射し、厚さ30nmのn型MgZnO層14を成長させる。
【0114】
n型MgZnO層14上に、成長温度900℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを照射し、厚さ10nmのZnO活性層15を成長させる。
【0115】
なお、図15Bに示す変形例のように、活性層15は単層構造に限らず、例えば、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wとを交互に積層した量子井戸構造とすることもできる。
【0116】
その後、基板温度を例えば500℃まで下げて、MgZnO:[N+Te]層成長工程とZnTe:N層成長工程とを交互に例えば20回繰り返すことにより、活性層15上に、例えば厚さ100nmのp型ZnO系半導体層16を成長させる。
【0117】
MgZnO:[N+Te]層成長工程は、例えば、Znフラックス0.15nm/s、Mgフラックス0.04nm/s、O流量2.0sccm/RFパワー300W、N流量1.0sccm/RFパワー100W、Teフラックス0.0006nm /sとして、Znビーム、Mgビーム、Oラジカルビーム、Nラジカルビーム、及びTeビームを照射する。
【0118】
ZnTe:N層成長工程は、例えば、Znフラックス0.15nm/s、Teフラックス0.0006nm/s、N流量1.0sccm/RFパワー100Wとして、Znビーム、Teビーム、及びNラジカルビームを照射する。
【0119】
その後、ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、p型ZnO系半導体層16上にp側電極17pを形成し、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。n側電極17nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAl層を積層して形成する。p側電極17pは、300μm□で厚さ0.5nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成し、ボンディング電極18は、100μmφで厚さ500nmのAu層で形成する。このようにして、第1応用例による発光素子が作製される。
【0120】
図16は、第2応用例による発光素子の構造を示す概略断面図である。絶縁性基板であるc面サファイア基板21上に、極性制御層としてMgOバッファー層22を成長させる。MgOバッファー層22は、成長温度650℃、Mgフラックス0.05nm/s、O流量2sccm/RFパワー300WでMgビーム及びOラジカルビームを照射し、厚さ約10nm成長させる。
【0121】
MgOバッファー層22上に、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを照射し、厚さ約30nmの低温ZnOバッファー層23を成長させる。結晶性及び表面平坦性改善のため、900℃で30分のアニールを施す。MgOバッファー層22の極性制御作用により、ZnOバッファー層23は、Zn極性面(+c面)で成長させることができる。
【0122】
ZnOバッファー層23上に、成長温度900℃、Znフラックス0.05nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを照射するとともに、Gaビームを照射して、Gaがドープされた厚さ約1.5μmのn型ZnO層24を成長させる。
【0123】
n型ZnO層24上に、成長温度900℃、Znフラックス0.1nm/s、Mgフラックス0.03nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを照射し、厚さ30nmのn型MgZnO層25を成長させる。
【0124】
n型MgZnO層25上に、成長温度900℃、Znフラックス0.1nm/s、O流量2sccm/RFパワー300Wとして、Znビーム及びOラジカルビームを照射し、厚さ10nmのZnO活性層26を成長させる。なお、第1応用例と同様に、量子井戸構造の活性層26とすることもできる。
【0125】
その後、基板温度を例えば500℃まで下げて、MgZnO:[N+Te]層成長工程とZnTe:N層成長工程とを交互に例えば20回繰り返すことにより、例えば厚さ100nmのp型ZnO系半導体層27を成長させる。MgZnO:[N+Te]層の成長条件及びZnTe:N層の成長条件は、例えば第1応用例のそれと同様である。
【0126】
第2応用例の基板は絶縁性のため、第1応用例のようには、基板上下に電極を形成できない。そこで上面側より両電極を取るため、n側電極形成領域を、p型ZnO系半導体層27の上面から、n型ZnO層24が露出する深さまでエッチングし、露出したn型ZnO層24上にn側電極28nを形成する。
【0127】
p型ZnO系半導体層27上にp側電極28pを形成し、p側電極28p上にボンディング電極29を形成する。n側電極28nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAl層を積層して形成する。p側電極28pは、厚さ0.5nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成し、ボンディング電極29は、厚さ500nmのAu層で形成する。このようにして、第2応用例による発光素子が作製される。
【0128】
なお、実施例の方法で得られるZnO系半導体層は、例えば、短波長(紫外〜青)の発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)に利用でき、また、これらの応用製品(各種インジケータ、LEDディスプレイ等、CV/DVD用光源)に利用できる。また、白色LEDやその応用製品(照明器具、各種インジケータ、ディスプレイ、各種表示器のバックライト等)に利用できる。また、紫外センサに利用できる。
【0129】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0130】
101 真空チャンバ
102 Znソースガン
103 Mgソースガン
104 Teソースガン
105 Oソースガン
106 Nソースガン
107 ステージ
108 基板
109 セルシャッタ
110 基板シャッタ
111 RHEED用ガン
112 スクリーン
1 ZnO基板
2 ZnOバッファー層
3 n型ZnO層
4 p型ZnO系半導体層
11 ZnO基板
12 ZnOバッファー層
13 n型ZnO層
14 n型MgZnO層
15 活性層
16 p型ZnO系半導体層
17n n側電極
17p p側電極
18 ボンディング電極
21 サファイア基板
22 MgOバッファー層
23 ZnOバッファー層
24 n型ZnO層
25 n型MgZnO層
26 活性層
27 p型ZnO系半導体層
28n n側電極
28p p側電極
29 ボンディング電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下地層上方に、Zn、必要に応じてMg、O、N、及びTeを供給して、NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成する工程と、
(b)前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上に、Zn及びMgの少なくとも一方、Te、及びNを供給して、NがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を形成する工程と
を有するZnO系半導体層の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を、II族リッチ条件で形成する請求項1に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)で形成される前記MgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜の厚さが、0.12nm〜0.72nmの範囲である請求項1または2に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)で形成される前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜の厚さが、2.5nm〜10nmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)及び前記工程(b)は、成長温度600℃未満で、前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜及び前記MgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を成長させる請求項1〜4のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)で形成される前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜のN濃度及びTe濃度が、それぞれ、1020cm−3以上1021cm−3以下の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)で形成される前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜は、RHEED像が(2×3)ストリークパターンを示し、前記工程(b)で形成される前記MgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜は、RHEED像が(1×1)ストリークパターンを示す請求項1〜6のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)と前記工程(b)とを交互に繰り返して、NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜と、NがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜とを交互に積層する請求項1〜7のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)及び前記工程(b)は、MBEにより、前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜及び前記MgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を成長する請求項1〜8のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項10】
基板上方に、n型ZnO系半導体層を形成する工程と、
前記n型ZnO系半導体層上方に、p型ZnO系半導体層を形成する工程と
を有し、前記p型ZnO系半導体層を形成する工程は、
(a)前記n型ZnO系半導体層上方に、Zn、必要に応じてMg、O、N、及びTeを供給して、NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成する工程と、
(b)前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上に、Zn及びMgの少なくとも一方、Te、及びNを供給して、NがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜を形成する工程と
を有するZnO系半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
基板と、
前記基板上方に形成されたn型ZnO系半導体層と、
前記n型ZnO系半導体層上方に形成され、NとTeが共ドープされたMgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜とNがドープされたMgZn1−yTe(0≦y≦1)単結晶膜との積層構造を含むp型ZnO系半導体層と
を有するZnO系半導体発光素子。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−84859(P2013−84859A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225236(P2011−225236)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】