説明

ZnO系半導体素子

【課題】ZnO系半導体からなるアクセプタドープ層を含む積層体を形成する場合に、アクセプタ元素の濃度を低下させずに、アクセプタドープ層又はアクセプタドープ層以降の層の平坦性が悪くなるのを抑制することができるZnO系半導体素子を提供する。
【解決手段】ZnO基板1上にn型MgZnO層2、アンドープMgZnO層3、MQW活性層4、アンドープMgZnO層5、アクセプタドープMgZnO層6が順に積層されている。アクセプタドープMgZnO(0≦Y<1)層6は、アクセプタ元素を少なくとも1種類含んでおり、この層に接してアンドープMgZn1−XO(0<X<1)層5が形成されている。このため、アクセプタドープ層にアクセプタ元素を十分取り込むことができるとともに、アクセプタドープ層の表面平坦性は良くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO又はMgZnOで構成されたアクセプタドープ層を積層構造に含むZnO系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ZnO系半導体は、照明やバックライト等用の光源として使用される紫外LED、高速電子デバイス、表面弾性波デバイス等への応用が期待されている。ZnO系半導体はその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されていながら、なかなか半導体デバイス材料として成長しなかった。その最大の難点は、アクセプタドーピングが困難で、P型ZnOを得ることができなかったことにある。
【0003】
しかし、近年、非特許文献1や非特許文献2に見られるように、技術の進歩により、P型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになってきた。p型ZnOを得るためのアクセプタとして窒素を用いることが提案されているが、K.Nakahara et al.,Journal of Crystal Growth 237-239(2002)p.503 に示されているように、アクセプタとして窒素をドーピングする場合は、窒素のドーピング効率は成長温度に強く依存し、窒素ドーピングを行うためには基板温度を下げる必要があるが、基板温度を下げると結晶性が低下し、アクセプタを補償するキャリア補償センターが形成されて、窒素が活性化しないので(自己補償効果)、p型ZnO層の形成そのものが非常に難しくなる。
【0004】
そこで、非特許文献2に示されるように、成長の主面を−C面とし、窒素ドーピング効率の温度依存性を利用して、400℃と1000℃との間の成長温度を行き来する反復温度変調法(Repeated Temperature Modulation:RTM)により高キャリア濃度のp型ZnO層を形成する方法がある。
【0005】
しかし、上記の方法では、絶え間ない加熱と冷却によって膨張・収縮を繰り返すために製造装置への負担が大きく、製造装置が大がかりになり、メンテナンス周期が短くなるといった問題があった。また、低温度部分がドープ量を決定するため、温度を正確に制御する必要があるが、400℃と1000℃を短時間に正確に制御するのは難しく、再現性・安定性が悪い。さらに、加熱源としてレーザを使用するため、大きい面積の加熱には不向きで、デバイス製造コストを下げるための多数枚成長も行いにくい。RTMが必要なのは、ZnO基板の−C面を結晶成長に用いると、低温度にしなければ窒素が入らないためであり、−C面成長に特有のものである。
【0006】
一方、成長用基板としてZnO基板の+C面を使用すると窒素が入り易くなることは、例えば、非特許文献3に示されるように、既に知られている。そこで、我々は+C面ZnO基板上にZnO系薄膜を+C面成長させる研究を行った結果、ZnO薄膜ではなく、MgZnO薄膜の方がp型化しやすいこと、RTMを使用せずに、一定温度の成長でもp型化が可能であることを見出しており、既に出願した特願2007−251482号等に詳く説明している。
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al.,JJAP 44(2005)L643
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al Nture Material 4(2005)42
【非特許文献3】M.Sumiya et al.,Applied Surface Science 223(2004)p.206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のような手法を用いた場合でも、まだ、問題が残されている。それは、半導体素子の積層構造を作製する場合に発生する。ZnO系薄膜を積層する場合は、薄膜の平坦性が重要になる。薄膜の平坦性が良くないとキャリアが薄膜中を移動するときの抵抗になったり、積層構造の上層になるほど、表面荒れが大きくなり、その表面荒れのためにエッチング深さの均一性が取れなかったり、表面荒れによる異方的な結晶面の成長が起こったり、といった問題が発生しやすく、半導体デバイスとしての所望の機能を発揮させるのが困難になりやすい。そのため、通常は薄膜表面はできるだけ平坦なことが望まれる。
【0008】
平坦なZnO系薄膜を積層するためには、既出願特願2008−5987や特願2007−27182に示したように、750℃以上の成長温度が必要であり、MgZnOになると、更に高温でなければ平坦な膜を形成することができない。一方、ZnO系薄膜を+C面成長させると窒素は入り易くなるが、成長温度依存性がなくなるわけではなく、高温になるほど、窒素は入り難くなる。
【0009】
ZnO系薄膜のn型層の場合は、高温で結晶成長させても、n型不純物のドープや膜の平坦性に問題が発生しない。ところが、アクセプタドープ層を作製するときには、アクセプタ元素のドープ濃度を高めるために、上記のように成長温度を下げることが必要である。しかし、成長温度を下げると、膜の表面荒れが発生する。このため、ZnO系薄膜を積層する場合、n型層作製後にアクセプタドープ層を積層するとアクセプタドープ層に表面荒れが発生し、一方、アクセプタドープ層を作製後にn型層を積層するとn型層にアクセプタドープ層の荒れが伝搬して表面平坦性が悪くなり、半導体デバイスとしての所望の機能を発揮できないという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、ZnO系半導体からなるアクセプタドープ層を含む積層体を形成する場合に、アクセプタ元素の濃度を低下させずに、アクセプタドープ層又はアクセプタドープ層以降の層の平坦性が悪くなるのを抑制することができるZnO系半導体素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、基板上にZnO系半導体を結晶成長より積層して形成されるZnO系半導体素子であって、MgZn1−YO(0≦Y<1)層で構成されアクセプタ元素を少なくとも1種類含むアクセプタドープ層を含み、前記アクセプタドープ層に接してアンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO(0<X<1)層が形成されていることを特徴とするZnO系半導体素子である。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、基板上にZnO系半導体を結晶成長より積層して形成されるZnO系半導体素子であって、MgZn1−YO(0≦Y<1)層で構成されアクセプタ元素を少なくとも1種類含むアクセプタドープ層と、ドナー元素を少なくとも1種類は含むn型MgZn1−ZO(0≦Z<1)層とを含み、前記アンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO層は、前記アクセプタドープ層とn型MgZn1−ZO層の間に位置するとともに、この2つの層のいずれか1方に接して形成されていることを特徴とするZnO系半導体素子である。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、前記アクセプタドープ層の方が基板に近い側に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、前記アンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO層のMg組成Xは、0<X≦0.5の範囲であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、前記アクセプタドープ層のアクセプタ元素の少なくとも1つは、窒素であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【0016】
また、請求項6記載の発明は、前記n型MgZn1−ZO層のドナー元素の少なくとも1つは、III族元素であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ZnO系半導体からなるアクセプタドープ層を含む積層体を形成する場合に、アクセプタドープ層に接してアンドープ又はドナードープMgZnO層を形成している。また、積層体にアクセプタドープ層とn型MgZn1−ZO層と含んでいる場合には、アンドープ又はドナードープMgZnO層は、アクセプタドープ層とn型MgZn1−ZO層の間に位置するとともに、この2つの層のいずれか1方に接して形成されている。したがって、MgZnO層の下地効果により、アクセプタドープ層のアクセプタ元素濃度を低下させずに、アクセプタドープ層又はアクセプタドープ層以降の層の平坦性の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明のZnO系半導体素子の積層構造の一例を示す。
【0019】
成長用基板としてのZnO基板1上にn型MgZn1−ZO(0≦Z<1)層2、アンドープMgZnO層3、MQW活性層4、アンドープMgZn1−XO(0<X<1)層5、アクセプタドープMgZn1−YO(0<Y<1)層6が順に積層されている。ここで、n型MgZn1−ZO層2、アンドープMgZn1−XO層5、アクセプタドープMgZn1−YO層6等の表記を簡単にするために、各々、n型MgZnO層2、アンドープMgZnO層5、アクセプタドープMgZnO層6と記載する。以下、他の表記についても同様とする。
【0020】
また、ZnO系半導体又はZnO系薄膜というのは、ZnO又はZnOを含む化合物から構成されるものであり、具体例としては、ZnOの他、IIA族元素とZn、IIB族元素とZn、またはIIA族元素およびIIB族元素とZnのそれぞれの酸化物を含むものを意味する。
【0021】
MQW活性層4は、例えば、障壁層Mg0.15ZnOと井戸層ZnOを交互に積層した多重量子井戸構造に形成されている。アクセプタドープMgZnO層6は、アクセプタ元素を少なくとも1種類ドーピングされている。アクセプタ元素としては、窒素、燐、砒素、リチウム、銅等が用いられる。n型MgZnO層2に添加されるドナー元素には、III族元素のうちから、少なくとも1種類が選択される。したがって、2種類以上ドーピングしても良く、ドナー元素としては、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)等がある。
【0022】
また、アンドープMgZnO層5は、請求の範囲に記載したアンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO(0<X<1)層に相当するもので、ドナードープMgZnO層としても良い。この場合のドナー元素については、n型MgZnO層2の場合と同様に選択することができる。また、アンドープMgZnO層5については、上記のように、Mg組成が0<Xの範囲であり、Mgが必ず含まれたMgZnOで構成されている。一方、Mg組成の上限については、0<X≦0.5とすることが望ましい。これは、現在、均一なMgZnO混晶を作製できるMg組成比率は50%以下であるためで、より確実に均一なMgZnO混晶を作製するには、Mg組成比率は30%以下とすることがさらに好ましい。
【0023】
ここで、ZnO(酸化亜鉛)又はMgZnO(酸化マグネシウム亜鉛)にドナー元素をドープした場合には、通常、n型になるが、アクセプタ元素をドープした場合は、ドープ量にもよるが、自己補償効果等によりアクセプタ元素が必ずしも活性化せず、p型半導体にならない場合があるので、アクセプタドープ層とは、p型半導体及びi型半導体(真性半導体)を含むものである。
【0024】
図1の構造で特徴的な点は、アクセプタドープ層を作製するときに、アンドープMgZnO層を下地に用いていることである。このように、ZnO系半導体を積層する場合に、n型層からアクセプタドープ層までの間にアンドープMgZnO層を挿入することにより、アクセプタドープ層にアクセプタ元素を多く取り込むことができるとともに、アクセプタドープ層の表面荒れを防止することができる。
【0025】
以下、上記作用効果について説明する。まず、背景技術のところで述べたように、ZnO基板の+C面を用い、ZnO系薄膜を+C面成長させるとアクセプタ元素は入り易くなるが、成長温度依存性がなくなるわけではなく、高温になるほど、アクセプタ元素は入り難くなる。
【0026】
図5は、結晶成長温度(基板温度)とZnO薄膜中の窒素濃度との関係を示す。これは、ZnO基板の+C面上に、アクセプタ元素の一種である窒素をドーピングしながら、ZnO薄膜を成長させた結果である。縦軸は窒素をドープしたときにZnO薄膜に取り込まれる窒素濃度(cm−3)を示し、横軸は成長温度(基板温度:単位℃)を示す。図3に示すように、ZnO系薄膜では、+C面を用いてもアクセプタ元素の一種である窒素濃度に温度依存性があり、ドープされる窒素濃度は低温度ほど上昇する。したがって、十分窒素を取り込んで、ZnO系薄膜をp型化するには、基板温度を下げれば良いのであるが、基板温度を下げた場合には、以下のような表面平坦性の問題が発生する。
【0027】
ZnO薄膜を形成する場合の表面平坦性と成長温度との関係については、既出願の特願2008−5987に詳しいのであるが、要点を再度説明する。基板温度(成長温度)を変化させて、MgZnO基板上にZnO薄膜を結晶成長させ、基板温度毎のZnOの表面の平坦性を数値として表し、それらをグラフにしたものが図7である。図7の縦軸Ra(単位はnm)は、膜表面の算術平均粗さを表す。算術平均粗さRaとは、粗さ曲線から求められる。
【0028】
粗さ曲線は、例えば、AFM(原子間力顕微鏡)測定等により観察された膜表面の凹凸を、所定のサンプリングポイントで測定し、凹凸の大きさをこれらの凹凸の平均値とともに示したものである。そして、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して、平均した値のことである。算術平均粗さRa=(1/l)×∫|f(x)|dx(積分区間は0〜lまで)と表される。このようにすることで、1つの傷が測定値に及ぼす影響が非常に小さくなり、安定した結果が得られる。なお、算術平均粗さRa等の表面粗さのパラメータは、JIS規格で規定されているものであり、これらを用いている。
【0029】
以上のように算出された算術平均粗さRaを縦軸にし、基板温度を横軸にして表示したのが図7である。図7の黒三角(▲)は、基板温度が750℃未満のデータを示し、黒丸(●)は基板温度が750℃以上のデータを示す。図7からもわかるように、基板温度が750℃を境にして基板温度が高くなれば、急激に表面の平坦性が向上していることがわかる。
【0030】
図8は、図7と同じ測定データから、膜表面の二乗平均粗さRMSを求めたものである。二乗平均粗さRMSは、粗さ曲線の平均線から測定曲線までの偏差の二乗を合計し、平均した値の平方根を表す。算術平均粗さRaを算出する際の基準長さlを用いて、
RMS={(1/l)×∫(f(x))dx}1/2(積分区間は0〜lまで)となる。
【0031】
図8は縦軸に二乗平均粗さRMSを、横軸に基板温度を示したものである。ここで、黒三角(▲)は、基板温度が750℃未満のデータを示し、黒丸(●)は基板温度が750℃以上のデータを示す。基板温度については、図7と同様、750℃を境にして基板温度が高くなれば、急激に表面の平坦性が向上していることがわかる。
【0032】
したがって、ZnO系材料層上にZnO系薄膜を成長させる場合は、基板温度を750℃以上にしてエピタキシャル成長させれば、平坦性の良い膜が得られ、積層構造の最上層においても平坦な膜が得られる。
【0033】
しかし、図5のように、+C面成長であっても、窒素ドープ量は成長温度に依存しており、窒素ドープ量を十分に得る場合には、ZnO系薄膜の成長温度を750℃未満にしなければならないことになるが、図7、8より750℃未満では表面平坦性が極端に悪くなる。加えて、MgZnOのステップフロー成長温度は、ZnOよりも高温である。
【0034】
図6は、MgZnOのステップフロー成長温度が高くなることを示しており、図6(a)は、ZnO基板上に成長させたZnO薄膜表面をAFMを用い、2μm四方の範囲でスキャンした画像、図6(b)は、ZnO基板上に成長させたMgZnO薄膜表面をAFMを用い、2μm四方の範囲でスキャンした画像である。
【0035】
図6(a)のZnO薄膜は、成長温度790℃、図6(b)のMgZnO薄膜の成長温度880℃である。MgZnO薄膜では成長温度880℃程度で表面平坦性が保たれているが、ZnO薄膜では790℃でも表面平坦性は維持されている。このように、MgZnO薄膜の方がZnO薄膜よりも高温での成長が必要であり、窒素ドープ濃度を高めるために成長温度を低温にした場合、MgZnO薄膜の表面平坦性に与える影響はより大きいと考えられる。
【0036】
既出願の特願2007−221198でも説明したが、ZnO系半導体において、表面荒れは意図しない不純物ドープの原因になり、p型化の障害になる。不純物のうち、特に、Siについては、Oをプラズマ化して活性酸素をつくるラジカルセル内の放電管の構成元素であり、最も多く混入する。Siは取り込まれると、ドナーとして働くので、Si混入濃度が高くなると、p型化が困難になる。したがって、膜表面を平坦化しておくことは重要である。
【0037】
そこで、図1のように、アクセプタドープ層を作製するときに、アンドープ又はドナードープMgZnO層を下地に用いることで、アクセプタドープ層の表面平坦性を改善する。アクセプタドープ層を作製するときにMgZnO層を下地に用いた場合と用いなかった場合との効果の違いを示すのが図2である。図2(a)は、ZnO基板41上に、GaドープMgZnO層42、アンドープMgZnO層43、積層体44、アンドープZnO層45、窒素ドープMgZnO層46と順に形成した。GaドープMgZnO層42〜アンドープZnO層45までは、成長温度900℃で成長させ、窒素ドープMgZnO層46は、窒素濃度を高めるために低温の成長温度830℃で成長させた。
【0038】
一方、図2(b)は、ZnO基板41上に、GaドープMgZnO層42、アンドープMgZnO層43、積層体44、アンドープMgZnO層50、窒素ドープMgZnO層46と順に形成した。GaドープMgZnO層42〜アンドープMgZnO層50までは、成長温度900℃で成長させ、窒素ドープMgZnO層46は、窒素濃度を高めるために低温の成長温度830℃で成長させた。
【0039】
積層体44は、超格子層であり、アンドープZnOとアンドープMgZnOとを交互に10周期積層した積層体で構成している。また、GaドープMgZnO層42がn型MgZnO層に、窒素ドープMgZnO層46がアクセプタドープ層(MgZnO層)に、アンドープMgZnO層50がアンドープ又はドナードープされたMgZnO層に該当する。
【0040】
図2の(a)と(b)では、窒素ドープMgZnO層46の下地にアンドープZnO層45を用いているか、アンドープMgZnO層50を用いているかの違いだけで、他の層構造や成長温度等も同じである。これらの最上層の表面状態の比較を示すのが図3である。図3(a)が図2(a)の最上層の窒素ドープMgZnO層46の表面を、図3(b)が図2(b)の最上層の窒素ドープMgZnO層46の表面を示す。これらは、AFM測定でスキャンされた画像である。図3(b)の方が、荒れがなく綺麗な表面となっており、図2(b)で窒素ドープMgZnO層46の下地にアンドープMgZnO層50を用いたことによる効果であると考えられる。
【0041】
次に、図1の構造のZnO系半導体素子の製造方法を説明する。+C面ZnO基板1をpH3以下の酸性溶液でウエットエッチングし、研磨ダメージ層を除去する。ロードロック室を介して、5×10−7パスカル程度のバックグランド真空を有するMBE装置にZnO基板1を導入する。サーモグラフィで温度計測しながら、ZnO基板1を700℃〜1000℃で加熱し、大気中で付着したHO、炭化水素系有機物を昇華させる(サーマルクリーニング)。
【0042】
成長温度900℃で、n型MgZnO層2としてGaドープMgZnO層を用い、GaドープMgZnO層/アンドープMgZnO層/MQW活性層を成長させる。MQW活性層4は、例えば、井戸層ZnOを膜厚1.5nm、障壁層Mg0.15ZnOを膜厚6nmで5周期程度繰り返して形成する。このとき、MQW活性層4にZnO層が含まれていても良いが、MQW活性層4の最終層がZnO層となる場合には、図1のように、MQW活性層4上に例えばアンドープMgZnO層5としてアンドープMg0.05ZnO層を成長温度900℃で形成する。次に、成長温度を850℃に下げ、NO(一酸化窒素)ガスをプラズマクラッキングして導入し、アクセプタドープMgZnO層6として窒素ドープMg0.15ZnOを成長させる。
【0043】
以上のように、アクセプタドープ層の下地にアンドープMgZnO層を用いると、アクセプタドープ層形成時に、成長温度を下げても表面平坦性を良くできるので、アクセプタ元素を十分取り込むことができる。このことを応用すれば、上述した発光素子の場合以外の素子、例えば、MOS型やMIS型のFET(電界効果型トランジスタ)やHEMT(高電子移動度トランジスタ)等にも適用できる。
【0044】
例えば、トレンチタイプのMOSFETを作製する場合には、p型層をチャネル層とするNPN構造のものもある。NPN構造を製造する場合には、p型層からn型層へ成長過程が移行する際、基板温度を上昇させるが、このときにp型ZnOがp型層の最終層であると、p型ZnOは、高温度で欠陥が生じやすいため、p型ZnOが表面荒れを起こし、さらに、その上に形成されるn型層にも表面荒れが伝搬して表面平坦性が悪化する。この場合も、p型層の上層をアンドープMgZnO又はドナードープMgZnOを形成しておくことにより、その後のn型層を表面荒れなく形成することができる。
【0045】
MOS型のトランジスタには、NPN構造が用いられるが、その層構造のみを示したのが図4(a)である。ZnO基板21上にn型MgZnO層22、アクセプタドープZnO層23、アンドープMgZnO層24、n型MgZnO層25が形成されている。アクセプタドープMgZnO層23がp型層になり、NPN構造を形成する。ドナードープされたMgZn1−XO層に相当するn型MgZnO層22を下地としてアクセプタドープ層に相当するアクセプタドープMgZnO層23が形成されているので、アクセプタ元素のドープ量を確保できるとともに、アクセプタドープMgZnO層23の表面平坦性は良くなる。仮に、アクセプタドープMgZnO層23の表面平坦性が悪くなったとしても、アンドープMgZnO層24を下地としてn型MgZnO層25が作製されているので、n型MgZnO層25にまで、表面荒れは伝搬しない。
【0046】
図4(b)は、アクセプタドープ層が2層形成されている場合の積層構造例を示す。ZnO基板31上にアクセプタドープZnO層32、アンドープMgZnO層33、n型ZnO層34、アクセプタドープZnO層35、アンドープMgZnO層36、n型MgZnO層37が形成されている。アクセプタドープMgZnO層32、35の各上層には、各々アンドープMgZnO層33、36(アンドープMgZn1−XO層に相当)が形成されており、アクセプタドープ層の表面荒れが上層に伝搬しないようになっている。
【0047】
このように、アクセプタドープ層を作製するまでの層やアクセプタドープ層よりも後の層にアンドープMgZnO層又はドナードープMgZnO層を用いることによって、アクセプタドープ層やこれよりも上層の平坦性の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のZnO系半導体素子の積層構造の一例を示す図である。
【図2】アクセプタドープ層の下地にMgZnOとZnOを用いた場合の積層構造の違いを示す図である。
【図3】図2の各積層構造に対応したアクセプタドープ層表面の状態を示す図である。
【図4】本発明のZnO系半導体素子の積層構造の他の例を示す図である。
【図5】窒素濃度の成長温度依存性を示す図である。
【図6】平坦なMgZnOとZnOを作製する場合の成長温度の違いを示す図である。
【図7】ZnO系薄膜表面の算術平均粗さと基板温度との関係を示す図である。
【図8】ZnO系薄膜表面の二乗平均粗さと基板温度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ZnO基板
2 n型MgZnO層
3 アンドープMgZnO層
4 MQW活性層
5 アンドープMgZnO層
6 アクセプタドープMgZnO層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にZnO系半導体を結晶成長より積層して形成されるZnO系半導体素子であって、
MgZn1−YO(0≦Y<1)層で構成されアクセプタ元素を少なくとも1種類含むアクセプタドープ層を含み、前記アクセプタドープ層に接してアンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO(0<X<1)層が形成されていることを特徴とするZnO系半導体素子。
【請求項2】
基板上にZnO系半導体を結晶成長より積層して形成されるZnO系半導体素子であって、
MgZn1−YO(0≦Y<1)層で構成されアクセプタ元素を少なくとも1種類含むアクセプタドープ層と、ドナー元素を少なくとも1種類は含むn型MgZn1−ZO(0≦Z<1)層とを含み、前記アンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO層は、前記アクセプタドープ層とn型MgZn1−ZO層の間に位置するとともに、この2つの層のいずれか1方に接して形成されていることを特徴とするZnO系半導体素子。
【請求項3】
前記アクセプタドープ層の方が基板に近い側に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項4】
前記アンドープ又はドナードープされたMgZn1−XO層のMg組成Xは、0<X≦0.5の範囲であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項5】
前記アクセプタドープ層のアクセプタ元素の少なくとも1つは、窒素であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。
【請求項6】
前記n型MgZn1−ZO層のドナー元素の少なくとも1つは、III族元素であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のZnO系半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−212139(P2009−212139A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50906(P2008−50906)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】