説明

ZnO系薄膜及びZnO系半導体素子

【課題】意図しない不純物の混入を抑制し、p型不純物イオン濃度の制御性を良くしたZnO系薄膜を提供する。
【解決手段】
p型不純物を含むMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の結晶成長方向表面が、二乗平均粗さ(RMS)≦10nm、又は、粗さの最大幅(PV)≦100nmのいずれか一方を満たしているように作製する。このように形成することで、放電管内壁の元素等の意図しない不純物、例えばシリコン(Si)等の不純物の薄膜への混入は防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型不純物を含むZnO又はMgZnOで構成されたZnO系薄膜及び、これを用いたZnO系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
単体元素が気体であるような元素を含む化合物として、例えば、窒化物や酸化物等がある。酸化物はYBCOに代表される超伝導酸化物、ITOに代表される透明導電物質、(LaSr)MnOに代表される巨大磁気抵抗物質など、従来の半導体や金属、有機物質では不可能なほどの多様な物性を持っており、ホットな研究分野の一つである。
【0003】
ところで、多くの半導体素子がそうであるように、いくつか機能の違う薄膜を積層したりエッチングしたりすることにより、特異な機能を発現するデバイスができるのが通例であるが、酸化物は薄膜形成法がスパッタかPLD(パルスレーザーデポジション)などに限られており、半導体素子のような積層構造を作りにくい。スパッタは通常結晶薄膜を得るのが難しく、PLDは基本的に点蒸発であるので、2インチ程度であっても大面積化が困難である。
【0004】
半導体素子のような積層構造が形成できる手法としてプラズマを使った分子線エピタキシー法(Plasma Assisted Molecular Beam Epitaxy:PAMBE)が行われている。この分子線エピタキシー法を用いた研究で非常に注目されている酸化物の一つにZnOがある。
【0005】
ZnOはその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されていながら、なかなか半導体デバイス材料として成長しなかった。その最大の難点は、アクセプタードーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったためである。
【0006】
しかし、近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。
【0007】
上記のように、ZnO薄膜を作製する場合に気体元素である酸素を供給する際、あるいはp型ZnOを得るために気体元素である窒素をドーピングする際に、気体元素を供給する装置としてラジカル発生器が用いられている。
【0008】
ラジカル発生器(ラジカルセル)は、中空の放電管と放電管の外側周囲に巻き回された高周波コイル等で構成されており、高周波コイルに高周波電圧を印加することで放電管内部に導かれた気体をプラズマ化して放出する機器である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−14765号公報
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al., JJAP 44 (2005) L643
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al Nature Material 4 (2005) 42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、プラズマ粒子は高エネルギー粒子であるため、プラズマ粒子によってスパッタ現象が発生し、放電管内壁が常にスパッタリングされるので、放電管を構成する原子が叩きだされて、プラズマ粒子に混じり、高い純度の気体元素を得ることができないばかりか、汚染源にもなることも多く、望みの組成、ドーピングを得るのが難しいだけでなく、意図しない不純物の導入によってイオン濃度の制御性を困難にするという問題があった。
【0010】
ZnO系薄膜のような酸化物の場合、ガス成分が酸素であるため、ラジカルセル内の放電管は、pBNのような酸化でぼろぼろになる材料ではなく、石英がよく使われる。石英を使うのは、今までのところ、これ以上に純度が高い絶縁材料が容易に手に入らないからである。しかしながら、この石英でさえも、上記プラズマ粒子のスパッタリングにより、構成元素のSi、Al、B等が飛散する。
【0011】
特に石英を構成する元素であるSiの飛散量が多く、原料ガスと同時に放電管の放出孔から、成長用基板表面へ直接供給され、ZnO系薄膜に取り込まれてしまう。SiがZnO中に入るとZnサイトを占めるであろうことが容易に考察でき、ドナーとして作用するため、p型化が一層困難となる。
【0012】
また、SiがZnO系薄膜に取り込まれると、ZnO系薄膜中を拡散する。図18は、ZnO基板上にMgZnO薄膜を形成した場合、ZnO基板とMgZnO薄膜との界面にSiが存在すると、どの程度MgZnO薄膜中にSiが拡散していくのかを示す図である。横軸は対数スケールで界面Si濃度を、縦軸は対数スケールでZnO薄膜中のSi濃度を示す。
【0013】
図18に示されるように、界面Si濃度が上昇するにしたがって、MgZnO薄膜中のSi濃度も上昇していくことがわかり、界面に存在するSi濃度が高くなれば、それだけ、MgZnO薄膜中に拡散していくSiも増加するので、p型化する場合や、デバイス作製時に問題となる。
【0014】
したがって、高品質なZnO系薄膜の形成には、放電管内壁の元素が意図しない不純物として極微量でも取り込まれることは素子特性に影響し、好ましくない。また、特にシリコン(Si)等の不純物はドナーとなりp型伝導を阻害するため、Si等の混入はできるだけ防止する必要がある。
【0015】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、意図しない不純物の混入を抑制し、p型不純物イオン濃度の制御性を良くしたZnO系薄膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、p型不純物を含むMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の結晶成長方向表面が、二乗平均粗さ(RMS)≦10nm、又は、粗さの最大幅(PV)≦100nmのいずれか一方を満たしていることを特徴とするZnO系薄膜である。
【0017】
また、請求項2記載の発明は、p型不純物を含むMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の結晶成長方向表面が、二乗平均粗さ(RMS)≦3nm、又は、粗さの最大幅(PV)≦30nmのいずれか一方を満たしていることを特徴とするZnO系薄膜である。
【0018】
また、請求項3記載の発明は、前記p型不純物は窒素であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系薄膜である。
【0019】
また、請求項4記載の発明は、結晶成長方向側の主面がC面を有するZnO基板に前記MgZn1−XO結晶成長薄膜(0≦X<1)が成膜されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系薄膜である。
【0020】
また、請求項5記載の発明は、前記主面の法線を基板結晶軸のm軸c軸平面に投影した投影軸が、m軸方向に3度以内の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項4記載のZnO系薄膜である。
【0021】
また、請求項6記載の発明は、前記主面の法線を基板結晶軸のa軸c軸平面に投影した投影軸がa軸方向にΦ度、前記主面の法線を前記主面におけるm軸c軸平面に投影した投影軸がm軸方向にΦ度傾斜し、前記Φ
70≦{90−(180/π)arctan(tan(πΦ/180)/tan(πΦ/180))≦110
を満たすZnO基板上に形成されていることを特徴とする請求項4記載のZnO系薄膜である。
【0022】
また、請求項7記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のZnO系薄膜を備えることを特徴とするZnO系半導体素子である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のZnO系薄膜によれば、結晶成長を行ったp型不純物を含むMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の表面が、二乗平均粗さ(RMS)≦10nm、又は、粗さの最大幅(PV)≦100nmのいずれか一方を満たすように作製し、膜の平坦性を良くしているので、シリコン等のZnO系薄膜への意図しない不純物の混入を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
まず、我々は成長条件を規定すれば、ラジカルセル等を使ってZnO系薄膜を結晶成長させても、Si等の意図しない不純物は排除できることを見出した。規定すべき成長条件とは、本発明では、ZnO系薄膜の表面平坦性である。ここで、ZnO系薄膜は、MgZn1−XO薄膜(0≦X<1)で構成した。
【0025】
特に、Siについては、前述したようにラジカルセル内の放電管の構成元素であり、最も多く混入するので、以下、Siを例にとって本発明について説明する。図10、11にMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す。この関連性を見るために、図17(a)のように、ZnO基板1上に窒素ドープのp型MgZnO層2をラジカルセルを有するMBE(Molecular Beam Epitaxy)装置によってエピタキシャル成長させて調べた。図10、11に内挿された画像は、このときのp型MgZnO層2の表面を原子間力顕微鏡(AFM)を用い、20μm四方の範囲でスキャンしたものである。また、MgZnO層2中のシリコン濃度、窒素濃度を二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)で測定した。
【0026】
図10、11ともに、左側縦軸がSi濃度又はN濃度、右側縦軸がMgO二次イオン強度を示し、グラフの中に内挿されている画像が、MgZnO層2表面の状態を表す。また、MgO二次イオン強度が出現している領域がMgZnO層2を、MgO2次イオン強度が0近くまで落ちている領域がZnO基板である。
【0027】
グラフに内挿されている画像を見ればわかるように、MgZnO薄膜の表面平坦性が良いのは、図10の方であり、表面平坦性の悪い(表面の荒れた)図11の方が薄膜中のSi混入濃度が高くなっていることがわかる。
【0028】
また、図10の測定に使用したサンプルAと図11の測定に使用したサンプルBとを各々CV測定してみた。CV測定は、図17(b)に示すような構成で行った。図17(a)のように積層したZnO系積層体のp型MgZnO層2上にSOG(Spin On Glass)層3を形成し、SOG層3上の中心に電極5を設け、電極5を取り囲むように電極4を形成する。電極4、5ともに、Ti/Auの多層金属膜を用いた。電極4、5間における電気的特性を測定した結果、サンプルAでは、過剰ドナー濃度=ND(ドナー濃度)−NA(アクセプタ濃度)が、1×1016cm−3であるのに対し、サンプルBでは5×1017cm−3まで上昇した。このように、SiがZnO中のドナーを増す方向に作用していることがわかる。
【0029】
次に、表面平坦性とSi混入濃度とのさらに詳しい関係を図1、2に示す。図1、2は、ZnO基板1上に結晶成長させた窒素ドープMgZnO薄膜(p型MgZnO層2)の表面粗さに関する異なる指標を測定してグラフ化したものである。ZnO基板1上に窒素ドープMgZnO薄膜2を作製する方法の一例を以下に示す。
【0030】
結晶成長面が+C面のZnO基板を希塩酸でエッチングし、純水洗浄の上、ドライ窒素で乾燥させる。次に、基板ホルダーに上記ZnO基板をセットし、ロードロックを通じてMBE装置内の成長室に入れる。基板温度を850℃に上げ、30分間1×10−7Pa程度の真空中で加熱し、サーマルクリーニングを行う。その後、基板温度を750℃まで下げ、NOガスを窒素ラジカルセルに、Oガスを酸素ラジカルセルに供給してプラズマを発生させ、予め所望の組成になるように調整したMg、Znと共に供給して窒素ドープMgZnO薄膜を作製する。
【0031】
ここで、MgZnO薄膜を平坦に形成するには、成長温度750℃以上にする必要があることがわかっており(特願2007−27182参照)、例えば800℃にすれば、平坦なMgZnO薄膜が得られる。そして、成長温度を600℃等の低温にすれば、図11のように、作製されたMgZnO薄膜表面の荒れが大きくなる。
【0032】
そこで、成長温度を順次変化させてMgZnO薄膜の結晶成長を行い、そのときのMgZnO薄膜表面の平坦性を数値として表し、また、Si混入濃度を二次イオン質量分析法により測定して、それらをグラフにしたものが図1、2である。まず、図1について説明する。図1の縦軸はSi濃度(cm−3)を、RMS(単位はnm)は、膜表面の二乗平均粗さを表す。
【0033】
二乗平均粗さRMSとは、図3に示すような測定された粗さ曲線から求められる。粗さ曲線は、例えば、図10、11の内挿されたAFM像のように、観察された膜表面の凹凸を、所定のサンプリングポイントで測定し、凹凸の大きさをこれらの凹凸の平均値とともに示したものである。二乗平均粗さRMSは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差f(x)の二乗を合計し、平均した値の平方根を表す。基準長さlとすると、
RMS={(1/l)×∫(f(x))dx}1/2(積分区間は0〜lまで)となる。
なお、二乗平均粗さRMS等の表面粗さのパラメータは、JIS規格で規定されているものであり、これらを用いている。
【0034】
図1からわかるように、膜のRMSが10nmを境にして急激にSi混入濃度が高くなっている。したがって、まず、MgZn1−XO薄膜の二乗平均粗さRMS≦10nmであれば、Si混入濃度は、図18からもわかるように検出限界以下となるので、この平坦度が基準になることがわかる。
【0035】
さらに、Si混入濃度が検出限界以下となる1017cm−3付近に集合しているデータをグループ化してみると、RMSが3nm以下で分布している。したがって、より厳しく基準を設定する場合は、RMS≦3nmとするのが望ましい。
【0036】
一方、図2は、粗さの最大幅であるPV(Peak to valley)を測定したものである。PVとは、図3のような粗さ曲線における平均線と、粗さ曲線上の測定点との差、例えば、R1.R2等の平均線からの変動幅のうち、最も絶対値が大きいもの、すなわち粗さの最大幅のことを言う。
【0037】
図2からわかるように、膜のPVが100nmを境にして、Si混入濃度が激増しているが、一方、PV≦100nmであればSi濃度が検出限界以下になる1017cm−3のあたりで一定に留まっており、このPVも膜の平坦性の基準になることがわかる。また、図1同様、Si混入濃度が検出限界以下となる1017cm−3付近に集合しているデータをグループ化してみると、PVが30nm以下で分布している。したがって、より厳しく基準を設定する場合は、PV≦30nmとするのが望ましい。
【0038】
上記RMS、PVの差による実際のMgZnO薄膜表面の表面形態の代表的な特徴パターンを図5に示す。図5は、20μm四方のAFM像である。表面形態Aはステップ構造&テラス構造といわれ、かつステップ高さが1分子層の、最も理想的な形態の表面であり、当然のことながら一番「平ら」である。
【0039】
表面形態Bはステップバンチングと呼ばれる表面で、基本的にはステップ構造&テラス構造なのであるが、ステップ高さが1分子層よりも高く、ステップの束ね合い(バンチング)を起こしている表面であるため、ステップバンチングと呼ばれる。表面形態Aに比べればミクロでみると凸凹なのであるが、マクロに見ればこれも「平ら」な部類に入る。
【0040】
表面形態CとDは本発明の範囲から外れる形態、すなわちRMS>10nm、またはPV>100nmを満たしている状態であり、表面形態CはInGaNによく見られる表面形態で、うねうねとして帯状アイランドが粗い表面を持つ凹部で隔てられたような形態である。表面形態Dは細かいピットが大量にあるもので、ZnOの低温成長でよく見られる。
【0041】
表面形態で分けたときのRMS、PVの値を図6に示す。横軸にRMSを、縦軸にPVをとり、表面形態A、B、C、DにおけるRMSとPVの計測値をプロットしたものである。○(白丸)のデータが表面形態Aに、●(黒丸)データが表面形態Bに、×(バツ)データが表面形態Cに、△(白三角)データが表面形態Dに対応している。また、図6(a)は縦軸及び横軸がリニアスケールで、図6(b)は縦軸及び横軸が対数スケールで表わされている。
【0042】
図6からわかるように、表面形態A、Bと表面形態C、DとはRMS及びPVのデータの存在領域が、PV100nm及びRMS10nmを境界として明確に分離されている。薄膜を積層する半導体デバイスでは表面形態A、Bが良好であることはわかっていたのであるが、図6及び図1、2よりSi混入を防ぐためには、表面形態A、Bまでが限界であることがわかる。表面形態A、Bのように、MgZnO薄膜表面を平坦性の良いものにするためには、成長温度の観点からは、上述したように成長温度を800℃以上にすることが必要となり、このようにすることでSiを排除できる。
【0043】
この現象のメカニズムについては、現在のところ、はっきり分かっていないが、次のように考えられる。MgZnO薄膜のピット(結晶欠陥)がある表面を塩酸で軽くエッチングしてその表面からSEMで見た図が図9である。明確な六角形形状をしており、ピットが結晶面で構成されている。この斜めの結晶面は主面とはSi等の金属不純物の付着係数が違うはずであり、このことが綺麗に面が出るとSiが排除される原因であると考えられる。
【0044】
次に、ZnO系化合物の膜の平坦性を形成するための条件を、成長温度とは別の観点、すなわち結晶構造から考える。ZnO系化合物はGaNと同様、ウルツァイトと呼ばれる六方晶構造を有する。C面やa軸という表現は、いわゆるミラー指数により表すことができ、例えば、C面は(0001)面と表される。ZnO系材料層上にZnO系薄膜を成長させる場合には、通常C面(0001)面が行われるが、C面ジャスト基板を用いた場合、図4(a)のようにウエハ主面の法線方向Zがc軸方向と一致する。しかし、C面ジャストZnO基板上にZnO系薄膜を成長させても膜の平坦性が良くならないことが知られている。加えて、バルク結晶は、その結晶がもつ劈開面を使用しないかぎり、ウエハ主面の法線方向がc軸方向と一致することがなく、C面ジャスト基板にこだわると生産性も悪くなる。
【0045】
そこで、ZnO基板1(ウエハ)の主面の法線方向をc軸方向と一致させずに、ウエハ主面のc軸から法線方向Zが傾き、オフ角を有するようにする。図4(b)に示されるように、基板主面の法線Zが、例えばc軸からm軸方向にのみθ度傾斜していると、基板1の表面部分(例えばT1領域)の拡大図である図4(c)に表されるように、平坦な面であるテラス面1aと、傾斜させることにより生じる段差部分に等間隔で規則性のあるステップ面1bとが生じる。
【0046】
ここで、テラス面1aがC面(0001)となり、ステップ面1bはM面(10−10)に相当する。図のように、形成された各ステップ面1bは、m軸方向にテラス面1aの幅を保ちながら、規則的に並ぶことになる。図4(c)に示すように、テラス面1aと垂直なc軸は、Z軸からθ度傾斜していることになる。また、ステップ面1bのステップエッジとなるステップライン1eは、m軸方向と垂直の関係を保ちながら、テラス面1aの幅を取りながら並行に並ぶようになる。
【0047】
このように、ステップ面をM面相当面となるようにすれば、主面上に結晶成長させたZnO系半導体層においては平坦な膜とすることができる。主面上にはステップ面1bによって段差部分が発生するが、この段差部分に飛来した原子は、テラス面1aとステップ面1bの2面との結合になるので、テラス面1aに飛来した場合よりも原子は強く結合ができ、飛来原子を安定的にトラップすることができる。
【0048】
表面拡散過程で飛来原子がテラス内を拡散するが、結合力の強い段差部分や、この段差部分で形成されるキンク位置にトラップされて結晶に組み込まれることによって結晶成長が進む沿面成長により安定的な成長が行われる。このように、基板主面の法線が少なくともm軸方向に傾斜した基板上に、ZnO系半導体層を積層させると、ZnO系半導体層はこのステップ面1bを中心に結晶成長が起こり、平坦な膜を形成することができる。
【0049】
ところで、図5の表面形態における説明とも一致するのであるが、m軸方向にステップライン1eが規則的に並んでおり、m軸方向とステップライン1eが垂直の関係になっていることが、平坦な膜を作製する上で必要なことであり、図5の表面形態C、Dのように、ステップライン1eの間隔やラインが乱れると、前述した沿面成長が行われなくなるので、平坦な膜が作製できなくなる。
【0050】
一方、図4(b)で傾斜角度(オフ角)θを大きくしすぎると、ステップ面1bのステップ高さtが大きくなりすぎることがあり、平坦に結晶成長しなくなるので、m軸方向のオフ角を一定の角度に制限する必要がある。図7、8は、m軸方向への傾斜角度によって、成長膜の平坦性が変わることを示すものである。図7は、傾斜角度θを1.5度として、このオフ角を有するMgZn1−xO基板の主面上にZnO系半導体を成長させたものである。一方、図8は、傾斜角度θを3.5度として、このオフ角を有するMgZn1−xO基板の主面上にZnO系半導体を成長させたものである。図7、8ともに、結晶成長後に、AFMを用いて、1μm四方の範囲でスキャンした画像である。図7の方は、ステップの幅が揃った状態で、綺麗な膜が生成されているが、図8の方は、凹凸が散在しており、平坦性が失われている。以上のことより、0度を越える範囲で、かつ3度以下(0<θ≦3)とするのが望ましい。したがって、図3の傾斜角Φについても同様のことが言えるので、0度を越える範囲で、かつ3度以下(0<Φ≦3)が最適である。
【0051】
以上のように、基板主面の法線方向Zをc軸からm軸方向にのみ傾斜させ、その傾斜角度を0度を越える範囲で、かつ3度以下とすることが、最も望ましいのであるが、より実際的には、m軸方向のみ傾斜させて切り出す場合に限定することは困難で、生産技術としては、a軸への傾きも許容し、その許容度を設定することが必要となる。例えば、図14に示されるように、基板主面の法線Zが、基板結晶軸のc軸から角度Φ傾斜し、かつ法線Zを基板結晶軸のc軸m軸a軸の直交座標系におけるc軸m軸平面に投影した投影軸がm軸の方へ角度Φ、c軸a軸平面に投影した投影軸がa軸の方へ角度Φ傾斜している場合を考える。
【0052】
図14のように、基板主面法線Zが傾斜している状態を、さらにわかりやすく、c軸m軸a軸の直交座標系と法線Zとの関係について表わしたものが、図15(a)である。図14とは基板主面法線Zの傾斜する方向が変わっているだけであり、Φ、Φ、Φの意味するところは図14と同じであり、基板主面法線Zをc軸m軸a軸の直交座標系におけるc軸m軸平面に投影した投影軸A、c軸a軸平面に投影した投影軸Bが表わされている。
【0053】
また、基板結晶軸であるc軸m軸a軸の直交座標系のa軸m軸平面に基板主面法線Zを投影した投影軸の方向をL方向として表す。このとき、図4に示す平坦な面であるテラス面1cと、傾斜させることにより生じる段差部分にステップ面1dが生じる。ここで、テラス面がC面(0001)となるが、図4の場合とは異なり、図15(a)より、法線Zはテラス面と垂直なc軸から角度Φ傾斜していることになる。
【0054】
基板主面の法線方向は、m軸方向だけでなく、a軸方向にも傾斜しているために、ステップ面が斜めに出て、ステップ面は、L方向に並ぶことになる。この状態は、図15(a)及び(b)に示されるようにm軸方向へのステップエッジ配列となって現われるが、M面が熱的、化学的に安定面であるため、a軸方向の傾斜角度Φによっては、斜めステップが綺麗には保たれず、ステップ面1dに凹凸ができ、ステップエッジの配列に乱れが生じて、主面上に平坦な膜を形成できなくなる。上記M面が熱的、化学的に安定であるということは、発明者らが見出したものであり、既出願の特願2006−160273に詳しく説明した。
【0055】
図16に、成長面(主面)における法線Zが、m軸方向のオフ角に加えて、a軸方向のオフ角を有する場合に、ステップエッジやステップ幅がどのように変化するかを示す。図15(a)で説明したm軸方向のオフ角Φを0.4度に固定して、a軸方向のオフ角Φを大きくなるように変化させて比較した。これは、MgZn1−xO基板の切り出し面を変えることにより実現させた。
【0056】
a軸方向のオフ角Φを大きくなるように変化させると、ステップエッジとm軸方向のなす角θも大きくなる方向に変化するので、図16には、θの角度を記載した。図16(a)は、θ=85度の場合であるが、ステップエッジもステップ幅も乱れていない。図16(b)は、θ=78度の場合であるが、やや乱れがあるものの、ステップエッジやステップ幅を確認することができる。図16(c)は、θ=65度の場合であるが、乱れが酷くなっており、ステップエッジやステップ幅を確認することができない。図16(c)の表面状態の上にZnO系半導体層をエピタキシャル成長させれば、前述した沿面成長が行われなくなるので、平坦な膜が形成できない。この図16(c)の場合は、a軸方向への傾きΦに換算すると0.15度に相当する。以上のデータにより、70度≦θ≦90度の範囲が望ましいことがわかる。
【0057】
このように、斜めステップが綺麗には保たれず、ステップ面に凹凸ができ、ステップエッジの配列に乱れが生じる角度としては、θ=70度となり、例えばΦ=0.5度とすれば、これをa軸方向への傾きΦに換算すると0.1度に相当する。
【0058】
ところで、θについては、主面法線Zの投影軸Bがa軸方向にΦ度傾斜している場合だけでなく、図15(a)において−a軸方向に傾斜している場合も対称性により等価なので考慮する必要がある。この傾斜角度を−Φとし、ステップ面による段差部分をm軸a軸平面に投影すると、図15(c)のように表される。ここで、m軸とステップエッジとのなす角θの条件についても、上記70度≦θ≦90度が成立する。θ=180度−θの関係が成立するので、θの最大値としては、180度−70度=110度となり、最終的に70度≦θ≦110度の範囲が、平坦な膜を成長させることができる条件となる。
【0059】
次に、角度の単位をラジアン(rad)として、図15に基づき、θをΦ、Φを用いて表すと以下のようになる。図15より、角度αは
α=arctan(tanΦ/tanΦ) と表され、
θ=(π/2)−α=(π/2)−arctan(tanΦ/tanΦ)となる。
ここで、θをラジアンから度(deg)に変換すると
θ=90−(180/π)arctan(tanΦ/tanΦ)となるので、
70≦{90−(180/π)arctan(tanΦ/tanΦ)}≦110 と表せる。ここで、良く知られているように、tanは、正接(tangent)を表し、arctanは逆正接(arctangent)を表す。なお、θ=90度の場合が、a軸方向への傾きがなく、m軸方向にのみ傾いている場合である。また、Φ、Φの角度の単位をラジアンでなく、Φ度、Φ度とした場合には、上記不等式は、次のように表わされる。
70≦{90−(180/π)arctan(tan(πΦ/180)/tan(πΦ/180))≦110
【0060】
最後に本発明のp型不純物を含むMgZn1−XO膜(0≦X<1)を用いた紫外LEDの例を図12に示す。結晶成長面をZnO基板12の+C面を有する主面とし、この主面の法線方向がc軸からm軸方向に少し傾斜するように形成し、ZnO基板12上に、アンドープZnO層13、窒素ドープのp型MgZnO層14を順に結晶成長させた後、p電極15とn電極11とを形成した。p電極15は図示されているように、Au(金)152とNi(ニッケル)151との多層金属膜で構成し、n電極11はIn(インジウム)で構成した。窒素ドープMgZnO層14が、本発明のZnO系薄膜であり、成長温度を800℃程度として、表面粗さの指標であるRMSを10nm以下、PVを100nm以下になるように作製した。このように、紫外LEDを作製した後、PL(フォトルミネッセンス)発光、EL(エレクトロルミネッセンス)発光を測定した。
【0061】
図13(a)は、波長300nm〜700nmにおけるPL発光とEL発光のスペクトル分布を示し、図13(b)は、波長350nm〜450nmの領域を拡大して、PL発光とEL発光のスペクトル分布を示したものである。EL発光はZnOのPL発光と略同じスペクトルであり、かつ窒素ドープMgZnO層14に特徴的な630nm近傍の発光を持たない。これは窒素ドープMgZnO層14からホール注入が行われ、かつアンドープZnO層13側から窒素ドープMgZnO層14へ電子が漏れ出していないことを示す。したがって、本発明により、シリコン(Si)が取り込まれないようにしたため、p型伝導が阻害されていないことがよくわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】膜表面のRMSとSi混入濃度との関係を示す図である。
【図2】膜表面のPVとSi混入濃度との関係を示す図である。
【図3】表面平坦性の指標であるRMSとPVを説明する図である。
【図4】基板主面法線Zがm軸方向にのみオフ角を有する場合のZnO基板表面を示す図である。
【図5】膜の表面形態の代表的なパターンを表わすAFM像を示す図である。
【図6】図5の表面形態を表面粗さにより分類した図である。
【図7】基板主面法線がm軸方向にオフ角を有するMgZn1−xO基板上に成膜した表面を示す図である。
【図8】基板主面法線がm軸方向にオフ角を有するMgZn1−xO基板上に成膜した表面を示す図である。
【図9】薄膜に存在するピットの形態を示す図である。
【図10】窒素ドープMgZnO薄膜の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す図である。
【図11】窒素ドープMgZnO薄膜の表面平坦性とSiの混入濃度との関連性を示す図である。
【図12】本発明のZnO系薄膜を用いて構成したZnO系半導体素子の一例を示す図である。
【図13】図10のZnO系半導体素子のPL発光、EL発光を示す図である。
【図14】基板主面法線と基板結晶軸であるc軸、m軸、a軸との関係を示す図である。
【図15】ZnO基板表面の法線の傾斜状態及びステップエッジとm軸との関係を示す図である。
【図16】基板主面法線のa軸方向のオフ角が異なるMgZn1−xO基板表面状態を示す図である。
【図17】本発明のZnO系薄膜を形成する場合の基本的構造を示す図である。
【図18】基板とZnO系薄膜との間の界面に存在するSi濃度とZnO系薄膜中へ拡散するSi濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ZnO基板
2 p型MgZnO層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型不純物を含むMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の結晶成長方向表面が、二乗平均粗さ(RMS)≦10nm、又は、粗さの最大幅(PV)≦100nmのいずれか一方を満たしていることを特徴とするZnO系薄膜。
【請求項2】
p型不純物を含むMgZn1−XO薄膜(0≦X<1)の結晶成長方向表面が、二乗平均粗さ(RMS)≦3nm、又は、粗さの最大幅(PV)≦30nmのいずれか一方を満たしていることを特徴とするZnO系薄膜。
【請求項3】
前記p型不純物は窒素であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のZnO系薄膜。
【請求項4】
結晶成長方向側の主面がC面を有するZnO基板に前記MgZn1−XO結晶成長薄膜(0≦X<1)が成膜されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のZnO系薄膜。
【請求項5】
前記主面の法線を基板結晶軸のm軸c軸平面に投影した投影軸が、m軸方向に3度以内の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項4記載のZnO系薄膜。
【請求項6】
前記主面の法線を基板結晶軸のa軸c軸平面に投影した投影軸がa軸方向にΦ度、前記主面の法線を前記主面におけるm軸c軸平面に投影した投影軸がm軸方向にΦ度傾斜し、前記Φ
70≦{90−(180/π)arctan(tan(πΦ/180)/tan(πΦ/180)}≦110
を満たすZnO基板上に形成されていることを特徴とする請求項4記載のZnO系薄膜。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のZnO系薄膜を備えることを特徴とするZnO系半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−54849(P2009−54849A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221198(P2007−221198)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】