説明

ZnS−SiO2系光情報記録媒体用誘電保護膜及び該誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット

【要約書】
【課題】透過率に優れ、反射率の低下が少ないZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及び該誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット得ることを目的とする。
【解決手段】ZnS:30〜95mol%、SiO:5〜70mol%、Mn:0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.2を含有し、Mn<Si(原子比)であることを特徴とするZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜又はスパッタリングターゲット及びさらにS/(Zn+Mn)<1である上記ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜又はスパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過率に優れ、反射率の低下が少ないZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及び該誘電保護膜形成用スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ヘッドを必要とせずに書き換え可能な高密度光情報記録媒体である高密度記録光ディスク技術が開発され、急速に商品化されている。特に、CD−RWは、書き換え可能なCDとして1977年に登場し現在、最も普及している相変化光ディスクである。このCD−RWの書き換え回数は1000回程度である。
また、DVD用としてDVD−RWが開発され商品化されているが、このディスクの層構造は基本的にCD−RWと同じものである。この書き換え回数は1000〜10000回程度である。
【0003】
一般に、CD−RW又はDVD−RW等に使用される相変化光ディスクは、Ag−In−Sb−Te系又はGe−Sb−Te系等の記録薄膜層の両側を、ZnS・SiO系の高融点誘電体の保護層で挟み、さらに銀若しくは銀合金又はアルミニウム合金反射膜を設けた四層構造となっている。また、繰返し回数を高めるために、必要に応じてメモリ層と保護層の間に界面層を加えることなどが行われている。
反射層と保護層は、記録層のアモルファス部と結晶部との反射率の差を増大させる光学的機能が要求されるほか、記録薄膜の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件制御という機能が要求される(非特許文献1参照)。
【0004】
このように、高融点誘電体の保護層は昇温と冷却による熱の繰返しストレスに対して耐性をもち、さらにこれらの熱影響が反射膜や他の箇所に影響を及ぼさないようにし、かつそれ自体も薄く、低反射率でかつ変質しない強靭さが必要である。この意味において誘電体保護層は重要な役割を有する。
上記誘電体保護層は、通常スパッタリング法によって形成されている。このスパッタリング法は正の電極と負の電極とからなる基板とターゲットを対向させ、不活性ガス雰囲気下でこれらの基板とターゲットの間に高電圧を印加して電場を発生させるものであり、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩きだし、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
【0005】
従来、相変化光ディスク用保護層は可視光域での透過性や耐熱性等を要求されるため、ZnS−SiO等のセラミックスターゲットを用いてスパッタリングし、100〜1000Å程度の薄膜が形成されている。
上記ZnS−SiOターゲットに使用されるSiOは、通常4N以上の高純度で平均粒径が0.1〜20μmのものが使用されており、700〜1200°Cで焼結して製造されている。
【0006】
一方、ZnS−SiO系ターゲットを製造するために使用するZnS粉末の製造は、例えば予め硫酸亜鉛溶液に硫化水素を吹き込み反応沈殿させる等の方法でZnS粉末が製造されている。この場合、純粋なZnS粉末ならば特に問題はないが、硫酸根(SO)が残存し易く、この結果ZnS粉末に若干のSが含まれることになる。
最終的に製造されるZnS−SiO系ターゲットにも、それほど多くの量が残存するのではないが、無視できない量である。この残存した余剰Sは、スパッタリング後のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜にも含有されることになる。
上記の通り、反射膜として、銀若しくは銀合金又はアルミニウム合金反射膜が用いられることが多いが、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜にSが含有されると、例えば、銀反射膜を使用した場合は、Sは銀と反応して硫化銀(黒色)を形成し、反射率及び透過率を大きく減少させるという極めて深刻な問題を生ずる。また、アルミニウム合金反射膜を使用した場合もその影響は小さいが、異物としての存在は好ましいものではない。従来のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜にはこのような問題を包含しており、その有効な解決方法が必ずしも見出されていないのが現状である。
【0007】
従来の光ディスク保護膜形成用ターゲットとしては、硫酸根の含有量を200ppm以下に制限した硫化亜鉛を主成分とする焼結体からなる光記録媒体誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット及びそのために硫酸根の含有量を900ppm以下に制限した硫化亜鉛粉末(例えば、特許文献1参照)、添加物としてNa、K又はこれらの酸化物から選択した1種以上を0.001〜5wt%含有するZnS−SiOからなる光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲット(例えば、特許文献2参照)、ZnS−SiO系の焼結体ターゲット材において、焼結密度が3.4〜3.7g/ccであり、かつ最大気孔径が2〜4μm、熱膨張係数が3×10−6〜5×10−6/°Cである記録保護膜形成用焼結体ターゲットが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【非特許文献1】技術雑誌「光学」26巻1号、頁9〜15
【特許文献1】特開2000−144397号公報
【特許文献2】特開2002−309367号公報
【特許文献3】特開2002−309368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、透過率に優れ、反射率の低下が少ないZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及び該誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、Mnを添加することが極めて有効であり、また保護膜としての特性も損なわず、透過率を維持し、反射率の低下を防止することが可能である材料を得ることができるとの知見を得た。
この知見に基づき、1)ZnS:30〜95mol%、SiO:5〜70mol%、Mn:0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28を含有し、Mn<Si(原子比)であることを特徴とするZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及びスパッタリングターゲットを提供する。
本願発明のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及びスパッタリングターゲットは、主成分とするZnS及びSiOの一部をMnに置換することにより含有させ、ZnS及びSiOの含有量の一部を形成する。この添加したMnは、ZnS−SiO系に含有する遊離Sと反応しMnSを形成する。さらに、Mn<Si(原子比)とする。これによって、非晶質安定性を向上させる役割を担う。以上によって、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜に含まれる遊離Sによる硫化銀等の発生を抑制し、隣接層との密着性を向上させることができ、保護膜としての特性を損なわず、透過率を維持し、反射率の低下を防止することが可能となる。
【0010】
ZnS:30mol%未満では、ターゲット密度が低下し、これに起因してスパッタ膜の膜質が劣化し、また成膜レートも低いという問題もあるので、30mol%以上とする必要がある。一方、ZnS:95mol%を超えると膜質が悪くなり、非晶質性が劣化するので、95mol%以下とする必要がある。
また、SiO:5mol%未満では膜質が悪くなり、非晶質性が劣化するので、5mol%以上とする必要がある。SiO:70mol%を超えると、同様に膜質が悪くなり、非晶質性が劣化するので、70mol%以下とする必要がある。また、Si以上にMnを含有すると、透過率が低下し、非晶質安定性が悪くなるので、Mn<Si(原子比)とする必要がある。
【0011】
Mnの添加は、Mn単体、MnO(これらの不定比化合物を含む)、MnSの形態でZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜中に又はターゲット中に含有させることが可能である。本願発明は、これらの態様も包含するものである。
本発明のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及びスパッタリングターゲットは、さらにこれらに含有するZnとMnの量を、S/(Zn+Mn)<1とすることが有効である。これによって遊離Sの存在をZnS又はMnSによって固定することが可能となる効果を有する。
一方、Mn比が0.001未満では、隣接層のS拡散防止効果がなく、またMn比が0.28を超えると透過率が低下し、膜質が低下する。したがって、Mnを0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28の範囲で添加する必要がある。
【発明の効果】
【0012】
以上によって、本発明はZnS−SiO系ターゲットを製造するために用いられるZnS粉末の製造工程において、必然的に含有する硫酸根(SO)の残存に起因する遊離Sの影響を減少させることが可能となる。この結果、銀反射膜を使用した場合において問題となるAgS(黒色)の形成を未然に防止することが可能となり、反射率及び透過率を大きく減少させることがないという大きな効果を生じる。また、アルミニウム合金反射膜を使用した場合にも、同様に異物としての存在がなくなり、同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のZnS粉末の製造は、例えば次の工程によって行う。予め硫酸亜鉛溶液に硫化水素を吹き込み反応沈殿させる等の方法で作製したZnS粉末に、Mnを0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28の範囲で添加し(但し、Mn<Si(原子比)とする)、さらに攪拌混合した後乾燥し、Mnが均一に分散したZnS粉末を得る。このMnの添加は、Mn単体、MnO(これらの不定比化合物を含む)の形態で添加することが可能である。
添加後、ZnS粉末中のMnの存在はMn単体、MnO(これらの不定比化合物を含む)の形態以外にMnSの形態で存在することも当然ながらあることを知るべきである。
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法に際しては、上記のMnを0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28の範囲で含有するZnS及び所定量のSiO等の原料粉末(但し、Mn<Si(原子比)とする)を均一に混合し、ホットプレス又は熱間静水圧プレスにより、温度800〜1300°Cに加熱し、面圧100kg/cm以上の条件で焼結する。
これによって、ZnS−SiOを主成分とするスパッタリングターゲットを製造することができる。この焼結によって、ZnSに存在する遊離Sは、MnによりMnSとして固定され、遊離Sが著しく減少したZnS−SiO系焼結体を得ることができる。
上記においては、Mnの添加をZnS粉末に事前に添加することを示したが、Mnの添加をZnS粉末とSiOの原料粉末の混合段階で添加することもできる。この場合も上記と同様に、Mn単体、MnO(これらの不定比化合物を含む)の形態で添加することが可能である。Sの固定は、上記と同様である。
【0015】
Mnを0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28の範囲(但し、Mn<Si(原子比)とする) で含有するZnS−SiOを主成分とするスパッタリングターゲットを基板上に成膜することにより、ターゲットと同一成分のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜を形成することができる。スパッタリング条件によってはターゲットとスパッタ膜とを同一成分としないようにすることも可能であるが、本願発明は、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜とスパッタリングターゲットの成分は同一であるように条件設定するものである。
これによって、銀等の反射膜とZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が接することがあっても、遊離Sが原因となる透過率の低下あるいは反射率の低下を効果的に抑制できるという著しい効果を有する。
【実施例】
【0016】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0017】
(実施例1〜6)
平均粒径5μmの純度4N(99.99%)であるZnS粉に、純度4N(99.99%)の平均粒径5μmの酸化ケイ素(SiO)粉、平均粒径10μmの純度3N(99.9%)であるMn粉及び又は平均粒径3μmの純度4NであるMnO粉を、表1の実施例1〜6に示す組成となるように添加し、均一に混合した。そして、この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150〜400kgf/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。
このようにして製造した各種スパッタリングターゲットを用いて、予め所定量のAg膜を形成したガラス基板上にスパッタ膜を形成した。そして、スパッタ膜の反射率の変化を測定した。これとは別に、ガラス基板上に500Åのスパッタ膜を形成し、透過率を測定した。これらの結果の一覧を表1に示す。
【0018】
反射率変化の試料は、0.7mmのガラス基板上に1000ÅのAgを被覆し、その上に実施例1−6に示すターゲットを用いて、各種のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜を形成したものである。
膜厚は1500Åとした。反射率変化の測定条件として、80°C、湿度80%、300時間保管したもので、反射率変化=(300時間保管後の反射率)−(環境試験前の反射率)で計算した。また、反射率測定には、光波長:405nmを用いた。
表1には、スパッタリングターゲットの相対密度、スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成及びMn/(Zn+Mn+Si)の組成も示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に基づき、実施例1〜6の結果について説明する。
実施例1については、ターゲット組成はZnS:91mol%,Mn:1mol%,SiO:8mol%であり、焼結バルク体の相対密度は97%となった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.99、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.01となり、本願発明の条件を満たしていた。また、ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は72%となり、反射率の変化は、1.0%となりわずかな低下が見られたが、問題となるレベルではなく、良好なZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が得られた。
【0021】
実施例2については、ターゲット組成はZnS:35mol%,Mn:0.5mol%,SiO:64.5mol%であり、焼結バルク体の相対密度は70%となった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.98、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.005となり、本願発明の条件を満たしていた。また、ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。膜の透過率(405nm波長光)は91%と良好であり、反射率の変化は、2%となりわずかな低下が見られたが、問題となるレベルではなく、良好なZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が得られた。
この実施例2については、環境試験前と環境試験後の、膜の外観の顕微鏡写真を、それぞれ図1及び図2に示す。図1は試験前なのできれいな外観を示している。図2はわずかな黒色斑点があるが極めて少量であることが分る。
【0022】
実施例3については、ターゲット組成はZnS:35mol%,MnO:23mol%,SiO:42mol%であり、焼結バルク体の相対密度は70%となり高密度ターゲットが得られた。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.6、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.23となり、本願発明の条件を満たしていた。また、ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は80%と良好であり、反射率の変化は2%となりわずかな低下が見られたが、問題となるレベルではなく、良好なZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が得られた。
【0023】
実施例4については、ターゲット組成はZnS:50mol%,MnO:5mol%,SiO:45mol%であり、焼結バルク体の相対密度は80%となり高密度ターゲットが得られた。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.91、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.05となり、本願発明の条件を満たしていた。また、ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は90%と良好であり、反射率の変化は、0.5%となりわずかな低下が見られたが、問題となるレベルではなく、良好なZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が得られた。
【0024】
実施例5については、ターゲット組成はZnS:60mol%,MnO:12mol%,SiO:28mol%であり、焼結バルク体の相対密度は85%となった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.83、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.12となり、本願発明の条件を満たしていた。また、ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は79%となり、反射率の変化は、0.7%となりわずかな低下が見られたが、問題となるレベルではなく、良好なZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が得られた。
【0025】
実施例6については、ターゲット組成はZnS:72mol%,MnO:4.5mol%,Mn:0.5mol%,SiO:23mol%であり、焼結バルク体の相対密度は90%となった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.93、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.05となり、本願発明の条件を満たしていた。また、ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は90%となり、反射率の変化は、0.3%となりわずかな低下が見られたが、問題となるレベルではなく、良好なZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜が得られた。
【0026】
(比較例1〜6)
次に、比較例1〜6について説明する。実施例と同様に、平均粒径5μmの純度4N(99.99%)であるZnS粉に、純度4N(99.99%)の平均粒径5μmの酸化ケイ素(SiO)粉、及びMnO粉無添加の場合、本願発明の条件を外れるMn粉又はMnO粉(いずれの粉末も、平均粒径及び純度は実施例と同一)を添加した場合について、それぞれ均一に混合した。
そして、この混合粉を実施例と同様に、グラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150〜400kgf/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。表1に比較例1〜6の成分組成を示す。
このようにして製造した比較例の各種スパッタリングターゲットを用いて、予め所定量のAg膜を形成したガラス基板上にスパッタ膜を形成した。そして、スパッタ膜の透過率及び反射率の変化を測定した。これらの結果の一覧を表1に示す。
測定用試料の作製及び測定条件は、実施例と同様である。
【0027】
比較例1については、ターゲット組成はZnS:25mol%,MnO:5mol%,SiO:70mol%である。この例では、ZnSの含有量が本願発明の規定量に達していない。焼結バルク体の相対密度は55%となり、密度の低下が著しかった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.83、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.05であった。ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかったが、密度の低下に起因するスパッタ膜の膜質の劣化があり、成膜レートも低かった。
膜の透過率(405nm波長光)は90%であったが、反射率の変化は41%となり大きく低下した。ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜としては十分な機能を有していなかった。この比較例1については、環境試験前と環境試験後の、膜の外観の顕微鏡写真を、図3に示す。
この図3に示すように、黒色模様がかなりの範囲で存在している。この黒色の模様は、ZnSに含有される遊離Sにより、AgSが形成されと考えられる。この黒色の模様は反射率の低下の大きな原因と考えられる。
【0028】
比較例2については、ターゲット組成はZnS:40mol%,MnO:40mol%,SiO:20mol%であり、焼結バルク体の相対密度は65%となり、低かった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.5、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.4である。ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかったが、Mnの量が規定量よりも多すぎ、またMn量がSi量(原子比)よりも多くなっているため、膜の透過率(405nm波長光)は61%と大きく低下し、反射率の変化も22%と悪くなった。このように、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜としては十分な機能を有していなかった。
【0029】
比較例3については、ターゲット組成はZnS:70mol%,MnO:20mol%,SiO:10mol%であり、焼結バルク体の相対密度は80%となった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は0.78、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.2である。ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかったが、Mn量がSi量(原子比)よりも多くなっているため、膜の透過率(405nm波長光)は60%となり、大きく低下し、反射率の変化も15%となり、悪くなった。
特に、Mn量がSi量(原子比)以上になると、透過率が低下し、非晶質性が悪くなる傾向にある。比較例3の条件も、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜としては十分な機能を有していなかった。
【0030】
比較例4については、ターゲット組成はZnS:90mol%,Mn:0.05mol%,SiO:9.95mol%であり、焼結バルク体の相対密度は95%であった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は1、Mn/(Zn+Mn+Si)は0.0005である。ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は72%であったが、Sの量が規定量よりも少し多く、またMn量が規定量よりも少ないために、反射率の変化が11%と悪くなった。
これは、隣接層へのS拡散防止効果がないことが原因と考えられる。このため、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜としては十分な機能を有していなかった。
【0031】
比較例5については、ターゲット組成はZnS:80mol%,Mn又はMnO:0mol%,SiO:20mol%であり、焼結バルク体の相対密度は95%であった。スパッタ膜のS/(Zn+Mn)の組成は1、Mn/(Zn+Mn+Si)は0である。ターゲットの成分組成とスパッタ膜の成分組成に実質的に差異はなかった。
膜の透過率(405nm波長光)は75%であったが、Sの量が規定量よりも少し多く、またMn量が全くないために、反射率の変化が14%と悪くなった。
これは、隣接層へのS拡散防止効果がないことが原因と考えられる。このため、ZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜としては十分な機能を有していなかった。
【0032】
以上から明らかなように、ZnS:30〜95mol%、SiO:5〜70mol%を含有するZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜において、Mnの添加は透過率及び反射率低下を抑制するために非常に有効であり、特にMnを0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28の範囲で添加するのが望ましい。また、Mn<Si(原子比)であることも、透過率を維持し、非晶質安定性を図るために必要である。
これによって、薄膜を製造するためのターゲットを製造する工程、特にターゲット原料となるZnS粉末の製造工程において含まれる遊離SをMnで固定することにより、Ag等の反射膜の変質を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、透過率に優れ、反射率の低下が少ないZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜及び該誘電保護膜形成用スパッタリングターゲットを得ることができ、高融点誘電体の保護層は昇温と冷却による熱の繰返しストレスに対して耐性をもち、さらにこれらの熱影響が反射膜や他の箇所に影響を及ぼさないようにし、かつそれ自体も薄く、低反射率でかつ変質しない強靭さが必要である誘電体保護層として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例2に示すZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜の環境試験前の外観を示す顕微鏡写真である。
【図2】実施例2に示すZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜の環境試験後の外観を示す顕微鏡写真である。
【図3】比較例1に示すZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜の環境試験後の外観を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnS:30〜95mol%、SiO:5〜70mol%、Mn:0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28を含有し、Mn<Si(原子比)であることを特徴とするZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜。
【請求項2】
S/(Zn+Mn)<1である請求項1記載のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜。
【請求項3】
ZnS:30〜95mol%、SiO:5〜70mol%、Mn:0.001≦Mn/(Zn+Mn+Si)≦0.28を含有し、Mn<Si(原子比)であることを特徴とするZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
S/(Zn+Mn)<1である請求項3記載のZnS−SiO系光情報記録媒体用誘電保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−302920(P2007−302920A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130151(P2006−130151)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】