説明

c−MET酵素活性を阻害し得る物質のスクリーニング方法

【課題】c−MET酵素活性を阻害し得る物質(例、抗癌剤)の簡便なスクリーニングを実現すること。
【解決手段】被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価することを含む、c−MET酵素活性を阻害し得る物質のスクリーニング方法。本発明のスクリーニング方法は、例えば、(a)培養培地において、被験物質を、c−MET発現細胞と接触させる工程、(b)培養培地中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程、および(c)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程を含んでいてもよい。本発明のスクリーニング方法はまた、(a’)被験物質を投与された哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程、(b’)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、c−MET酵素活性を阻害し得る物質(例、抗癌剤)のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的分子に対して特異的に作用する分子標的薬の開発は、当該標的分子の異常を原因とする癌に罹患した患者を治療するために重要である。したがって、標的分子の探索、および当該標的分子に対する分子標的薬の開発が、活発に行なわれている。開発が所望される分子標的薬の標的分子としては、例えば、癌遺伝子の一つであるc−MET(受容体型チロシンキナーゼ)が挙げられる。c−MET酵素活性を阻害することにより所定の癌の増殖を阻害することが可能であることが示されており(非特許文献1)、抗癌剤としてのc−MET阻害剤の開発が進められている。
【0003】
なお、c−MET遺伝子については、c−MET細胞外ドメインフラグメント(分泌型c−METまたは可溶性c−MET)を放出する現象である外部ドメイン排出(Ectodomain Shedding)が、報告されている(特許文献1)。また、c−MET細胞外ドメインフラグメントが癌に対するバイオマーカーとして使用し得ること(特許文献2)、および外部ドメイン排出が癌の悪性度と関連し得ること(非特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US 2007037209(A1)
【特許文献2】WO2007/056523
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cancer Res 2007;67:2081−2088.
【非特許文献2】Clin Cancer Res 2006;12:4154−4162.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、c−MET酵素活性を阻害し得る物質(例、抗癌剤)の簡便なスクリーニングを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、c−MET細胞外ドメインフラグメントの量の増加を指標としてc−MET酵素活性の阻害を評価できることを見出した。したがって、本発明者らは、被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価することにより、c−MET酵素活性を阻害し得る物質を簡便にスクリーニングできることを着想し、本発明を完成するに至った。上述した先行技術は、c−MET細胞外ドメインフラグメントの量とc−MET酵素活性との間の関係を記載も示唆もしていない。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価することを含む、c−MET酵素活性を阻害し得る物質のスクリーニング方法。
〔2〕c−MET酵素活性を阻害し得る物質が抗癌剤である、上記〔1〕のスクリーニング方法。
〔3〕以下の工程(a)〜(c)を含む、上記〔1〕のスクリーニング方法:
(a)培養培地において、被験物質を、c−MET発現細胞と接触させる工程;
(b)培養培地中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程;および
(c)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程。
〔4〕c−MET発現細胞が癌細胞である、上記〔3〕のスクリーニング方法。
〔5〕以下の工程(a’)および(b’)を含む、上記〔1〕のスクリーニング方法:
(a’)被験物質を投与された哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程;および
(b’)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程。
〔6〕哺乳動物が癌に罹患した哺乳動物である、上記〔5〕のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を指標としてc−MET酵素活性を阻害し得る物質を簡便にスクリーニングできる。従来の方法では、c−MET酵素活性を評価する場合、被験物質で処理した細胞の抽出液を調製した後、抽出液中のc−METの活性化を、リン酸化等を指標に評価する必要があった。しかし、このような手法は、手間と時間がかかる。一方、本発明によれば、細胞の培養上清中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定することにより、c−MET酵素活性を評価し得るので、簡便である。
また、本発明によれば、侵襲性の低い生体サンプル(例、血液、尿、唾液)を利用して、c−METに対する阻害活性を評価することができる。これは、細胞内に存在するタンパク質であるc−METに対する阻害活性を、細胞外に存在するc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を指標として評価できるためである。したがって、本発明は、例えば、臨床試験におけるc−METに対する阻害活性の評価を可能にする。
さらに、本発明によれば、c−MET酵素活性の阻害条件と非阻害条件との間で測定されるc−MET細胞外ドメインフラグメントの量に顕著な差が認められること、ならびにこのような顕著な差に起因してc−MET酵素活性の阻害を明確に把握し得ることから、被験物質がc−MET酵素活性を阻害し得るか否かを評価する上で、信頼性が高い。
さらに、本発明によれば、c−MET酵素活性の阻害条件下で多量のc−MET細胞外ドメインフラグメントが認められること、ならびにこのような多量のc−MET細胞外ドメインフラグメントの測定は容易であることから、c−MET酵素活性の阻害を容易に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、c−MET阻害剤で処理された細胞の培養上清における、c−MET細胞外ドメインフラグメント(可溶性c−MET)量の増加を示す図である。略号:IP(免疫沈降);pY Blot(抗リン酸化チロシン抗体によるウエスタンブロッティング);EGFR Blot(抗EGFR抗体によるウエスタンブロッティング);c−MET Blot(抗c−METβ鎖抗体(14G9)によるウエスタンブロッティング);可溶性c−MET(非還元および還元条件下でのSDS−PAGE、続いて抗c−METα鎖抗体(EP1454Y)によるウエスタンブロッティング)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、c−MET酵素活性を阻害し得る物質のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価することを含み得る。
【0012】
c−METは、肝細胞増殖因子(HGF)の受容体チロシンキナーゼであり、リガンドであるHGFが結合することにより細胞内シグナル伝達を活性化する。c−METは、c−METの前駆体(プロc−MET)が切断されることにより生じるα鎖およびβ鎖からなり、ジスルフィド結合により二量体を形成する。c−METは、細胞膜を貫通する受容体であり、α鎖の全体およびβ鎖の一部が細胞外に存在している。c−METは、その活性化に伴い自身のチロシン残基(例、Y1234、Y1235、Y1349、Y1356)をリン酸化することが知られている(例えば、Markら,The Journal of Biological Chemistry,1992,Vol.267,No.36,pp.26166−26171;医学のあゆみ,2008,Vol.224,No.1,pp.51−55を参照)。また、ヒトc−METならびにそのα鎖およびβ鎖については、GenBankアクセッション番号:NP_000236.2を参照のこと。
【0013】
本明細書中で用いられる場合、用語「c−MET細胞外ドメインフラグメント」とは、外部ドメイン排出(Ectodomain Shedding)により排出されるc−MET細胞外ドメインのポリペプチドまたはそのポリペプチドの分解産物をいう。c−MET細胞外ドメインフラグメントは、可溶性c−METまたは分泌型c−METと同義である。
【0014】
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。被験物質はまた、所定の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターであってもよい。
【0015】
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、c−MET発現細胞、または哺乳動物から採取された生体サンプルを用いて行なわれ得る。
【0016】
c−MET発現細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)培養培地において、被験物質を、c−MET発現細胞と接触させる工程;
(b)培養培地中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程;および
(c)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程。
【0017】
工程(a)では、被験物質がc−MET発現細胞と接触条件下におかれる。c−MET発現細胞に対する被験物質の接触は、培養培地中で行われ得る。
【0018】
c−MET発現細胞とは、c−METを発現する細胞であって、外部ドメイン排出によりc−MET細胞外ドメインフラグメントを生じる細胞をいう。c−MET発現細胞としては、例えば、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株が挙げられる。c−MET発現細胞はまた、哺乳動物に由来する細胞であり得る。哺乳動物としては、例えば、霊長類、愛玩動物、使役動物が挙げられる。具体的には、哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウサギ、マウス、ラットが挙げられるが、好ましくは、ヒトである。
【0019】
一実施形態では、c−MET発現細胞は、癌細胞である。癌細胞は、c−MET遺伝子の増幅を伴っていてもよい。したがって、癌細胞は、c−MET阻害剤に対する感受性を示す細胞であってもよい。このような癌細胞としては、例えば、癌に罹患している哺乳動物から単離された初代培養癌細胞、および癌細胞株が挙げられる。癌細胞は、上述した哺乳動物に由来し得る。
【0020】
癌細胞はまた、c−MET阻害剤以外の抗癌剤に対する耐性を示す細胞であってもよい。このような癌細胞としては、例えば、c−MET阻害剤以外の抗癌剤により治療されている哺乳動物から単離された初代培養癌細胞、およびc−MET阻害剤以外の抗癌剤で処理された癌細胞株が挙げられる。c−MET阻害剤以外の抗癌剤としては、例えば、EGFR阻害剤、ALK阻害剤、PDGFR阻害剤、c−KIT阻害剤が挙げられる。EGFR阻害剤としては、例えば、ゲフィチニブ(gefitinib)、エルロチニブ(erlotinib)、セツキシマブ(cetuximab)、ラパチニブ(lapatinib)、ZD6474、CL−387785、HKI−272、XL647、PD153035、CI−1033、AEE788、BIBW−2992、EKB−569、PF−299804が挙げられる。ALK阻害剤としては、例えば、WHI−P154、TAE684、PF−2341066が挙げられる。PDGFR阻害剤としては、例えば、グリーベック(Gleevec)、デサチニブ(Desatinib)、ヴァラチニブ(Valatinib)、パゾパニブ(Pazopanib)が挙げられる。c−KIT阻害剤としては、例えば、イマチニブ(Imatinib)、スニチニブ(Sunitinib)、ヴァラチニブ(Valatinib)、デサチニブ(Desatinib)、マシチニブ(Masitinib)、モテサニブ(Motesanib)、パゾパニブ(Pazopanib)が挙げられる。
【0021】
本明細書中で用いられる場合、用語「癌」(例、癌細胞における「癌」、抗癌剤における「癌」)とは、任意の癌をいい、例えば、肺癌(例、扁平上皮がん、腺がんおよび大細胞がん等の非小細胞癌、ならびに小細胞癌)、消化器系癌(例、胃癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌)、膵臓癌、腎臓癌、肝臓癌、胸腺癌、脾臓癌、甲状腺癌、副腎癌、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌(例、子宮内膜癌、子宮頚癌)、骨癌、皮膚癌、脳腫瘍、肉腫、黒色腫、芽細胞腫(例、神経芽細胞腫)、腺癌、扁平細胞癌、固形癌、上皮性癌、中皮腫が挙げられる。
【0022】
被験物質とc−MET発現細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などが挙げられる。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約150時間である。
【0023】
工程(b)では、被験物質を接触させた細胞の培養上清におけるc−MET細胞外ドメインフラグメントの量が測定される。c−MET細胞外ドメインフラグメントの量の測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、測定は、c−MET細胞外ドメインフラグメントに対して親和性を有する物質を用いて行うことができる。測定はまた、免疫学的手法により行なわれてもよい。このような免疫学的手法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫クロマト法、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、ウエスタンブロット法、ラテックス凝集法が挙げられる。c−MET細胞外ドメインフラグメントの量の測定を可能とする上記以外の方法としては、例えば、LC−MSが挙げられる。
【0024】
本明細書中で用いられる場合、用語「c−MET細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質」とは、c−MET細胞外ドメインフラグメントに結合する能力を有する物質をいう。c−MET細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質は、c−METのα鎖全体からなるポリペプチドまたはその部分ペプチドに親和性を有する物質、あるいはc−METのβ鎖の細胞外領域からなるポリペプチドまたはその部分ペプチドに親和性を有する物質であり得る。c−MET細胞外ドメインフラグメントに親和性を有する物質としては、例えば、c−MET細胞外ドメインフラグメントに対する抗体、c−MET細胞外ドメインフラグメントに対するアプタマー(例、WO01/009159を参照)、ならびに肝細胞増殖因子(HGF)およびc−METに結合する能力を保持するHGF変異体が挙げられる。
【0025】
工程(c)では、c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質が選択される。被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かは、例えば、被験物質を接触させた細胞の培養上清におけるc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を、被験物質を接触させない対照細胞の培養上清におけるc−MET細胞外ドメインフラグメントの量と比較することにより決定され得る。被験物質を接触させない対照細胞の培養上清におけるc−MET細胞外ドメインフラグメントの量は、被験物質を接触させた細胞の培養上清におけるc−MET細胞外ドメインフラグメントの量の測定に対し、事前に測定されたものであっても、同時に測定されたものであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した量であることが好ましい。c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質は、c−MET酵素活性を阻害し得ることから、抗癌剤等の医薬、または試薬として有用である。抗癌剤としては、例えば、上述した癌に対する抗癌剤が挙げられる。
【0026】
哺乳動物から採取された生体サンプルを用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a’)および(b’)を含み得る:
(a’)被験物質を投与された哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程;および
(b’)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程。
【0027】
工程(a’)では、上述した哺乳動物が用いられ得るが、癌に罹患した哺乳動物が好ましい。被験物質は、上述したものと同様である。生体サンプルは、c−MET細胞外ドメインフラグメントが存在するサンプルである限り特に限定されず、例えば、血液、尿、唾液、腹水、組織試料、細胞試料、組織抽出液、細胞抽出液が挙げられる。なお、侵襲性の低さの観点からは、上記のうち、血液、尿、唾液が好ましい。必要に応じて、生体サンプルは、測定前に、事前に処理されてもよい。このような処理としては、例えば、遠心分離、抽出、濃縮、分画、細胞固定、組織固定、組織凍結、組織薄片化が挙げられる。
【0028】
本発明の利点の一つは、細胞内に存在するタンパク質であるc−METに対する阻害活性を、細胞外に存在するc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を指標として測定できることにある。c−METは、細胞内に存在するタンパク質であるため、c−METに対する阻害活性を直接的に評価するためには細胞サンプルを入手する必要がある。しかし、細胞サンプルの入手は、哺乳動物に対して侵襲性が高い。したがって、特に、哺乳動物としてヒトからの細胞サンプルの入手は、困難である。一方、本発明によれば、侵襲性の低い生体サンプル(例、血液、尿、唾液)を利用して、c−METに対する阻害活性を間接的に評価することができる。したがって、本発明は、例えば、臨床試験においてc−METに対する阻害活性を評価することを可能にするという点で、有用である。
【0029】
本発明のスクリーニング方法は、工程(a’)の代わりに、(a1’)被験物質を哺乳動物に投与する工程、(a2’)被験物質を投与した哺乳動物から生体サンプルを採取する工程、および(a3’)採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程のうちの1つ、2つまたは全ての工程を含んでいてもよい。被験物質の哺乳動物への投与、および哺乳動物からの生体サンプルの採取は、自体公知の方法により行われ得る。
【0030】
工程(b’)では、c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質が選択される。被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かは、例えば、被験物質を投与された哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を、被験物質を投与していない対照哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量と比較することにより決定され得る。被験物質を投与していない対照哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量は、被験物質を投与された哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量の測定に対し、事前に測定されたものであっても、同時に測定されたものであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した量であることが好ましい。c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質は、c−MET酵素活性を阻害し得ることから、抗癌剤等の医薬、または試薬として有用である。抗癌剤としては、例えば、上述した癌に対する抗癌剤が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
ゲフィチニブ耐性細胞株(c−MET遺伝子増幅を示す)は、Science 2007;316:1039−1043に開示された方法に従い、ゲフィチニブ感受性細胞株HCC827(ヒト非小細胞肺癌由来、Clin Cancer Res 2006;12:7117−7125.)をゲフィチニブ含有培地にて3ヶ月継代することにより樹立した。ゲフィチニブ耐性細胞を、EGFR阻害剤であるゲフィチニブあるいはc−MET阻害剤であるPHA−665752又はSU11274(例、Science,2007,vol.316,p1039−1043、Cancer Research,2005,vol.65,p1479−1488を参照)を1μM含有した10%ウシ胎児血清入りRPMI−1640培地で5日間培養した後、同じ濃度の阻害剤を含有した無血清RPMI−1640培地に交換して24時間培養を継続した。細胞に対してはNP−40含有緩衝液により細胞抽出液を調製し、培養上清に対しては限外ろ過膜により濃縮した。細胞抽出液に対しては抗EGFR抗体あるいは抗c−METβ鎖抗体(14G9、Santa Cruzより入手)により免疫沈降を行い、同抗体によるウエスタンブロットあるいは抗リン酸化チロシン抗体によるブロットを行った。濃縮した培養上清に対しては、還元SDS−PAGEあるいは非還元SDS−PAGEで展開したものをPVDF膜に転写し、抗c−METα鎖抗体(EP1454Y、abcamより入手)によりウエスタンブロットした。抗c−METβ鎖抗体(14G9)は、未成熟c−MET(プロc−MET)および成熟c−MET(未切断型c−MET)のβ鎖を認識する。一方、抗c−METα鎖抗体(EP1454Y)は、α鎖(β鎖中の細胞外ドメインとジスルフィド結合を介して結合しており、細胞外に存在する)の部分ペプチドを抗原として用いて調製されたモノクローナル抗体であり、したがって、未成熟c−MET(プロc−MET)および成熟c−MET(未切断型c−MET)のα鎖を認識し、また、c−MET細胞外ドメインのフラグメント(即ち、分泌型c−MET)のα鎖を認識し得る。
この結果、無処理サンプル(DMSO)またはEGFR阻害剤処理サンプル(ゲフィチニブ)の細胞抽出液中に検出されたc−METのリン酸化は、c−MET阻害剤であるPHA−665752又はSU11274で処理した場合に完全に消失した(図1,cMET IP:pYBlotを参照)。さらにそれに伴い、濃縮培養上清中に検出されるc−MET細胞外ドメインフラグメント(可溶性c−MET)の量は、c−MET阻害剤で顕著に増加していた(図1,可溶性c−MET:非還元および還元を参照)。このことは、c−MET細胞外ドメインフラグメント(可溶性c−MET)の量の増加を指標としてc−MET酵素活性の阻害を評価できることを示す。
以上より、被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価することにより、c−MET酵素活性を阻害し得る物質をスクリーニングできることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、例えば、c−MET酵素活性を阻害し得る物質(例、抗癌剤等の医薬、または試薬)の開発に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質がc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させるか否かを評価することを含む、c−MET酵素活性を阻害し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
c−MET酵素活性を阻害し得る物質が抗癌剤である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
以下の工程(a)〜(c)を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a)培養培地において、被験物質を、c−MET発現細胞と接触させる工程;
(b)培養培地中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程;および
(c)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程。
【請求項4】
c−MET発現細胞が癌細胞である、請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
以下の工程(a’)および(b’)を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a’)被験物質を投与された哺乳動物から採取された生体サンプル中のc−MET細胞外ドメインフラグメントの量を測定する工程;および
(b’)c−MET細胞外ドメインフラグメントの量を増加させる被験物質を選択する工程。
【請求項6】
哺乳動物が癌に罹患した哺乳動物である、請求項5記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−215091(P2011−215091A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85721(P2010−85721)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】