説明

c−MIRを利用したCD40の発現調節、及びそのスクリーニング方法

【課題】新規作用機序を有する医薬及びそれらを開発し得る種々の手段などを提供すること。
【解決手段】被験物がc−MIRの発現又は活性を調節(例、促進、抑制)し得るか否かを評価することを含む、CD40の発現を調節し得る物質、及び/又は免疫疾患(例、関節炎等の自己免疫疾患、免疫不全疾患)を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法;c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質を含む、CD40の発現調節剤、及び/又は免疫疾患の予防又は治療剤など。本願発明によれば、獲得免疫機能を抑制しない免疫疾患の予防・治療が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD40の発現調節剤又は免疫疾患の予防・治療剤、及びそれらのスクリーニング方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
c−MIRは、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスMIR1、2タンパク質の相同分子として発見されたE3ユビキチンリガーゼである。MIR1、2とc−MIRは、亜型RINGドメインを持ち、二次構造が類似した分子である。現在、c−MIR以外にもMIR1、2の相同分子の存在が知られており、c−MIRを含む相同分子群は、MIRファミリーと名付けたファミリーを形成している。E3ユビキチンリガーゼは標的分子にユビキチンを付加する最終反応を制御する酵素であり、標的分子の選択性を制御する分子である。MIRファミリーメンバーはそれぞれ異なる分子を標的とするが、全ての標的分子はレセプター、MHC分子等の膜局在分子である。
【0003】
本発明者らは、c−MIRが、抗原提示関連分子であるMHC II分子及びCD86(B7−2)分子等を標的とし、それらの分子の細胞表面における発現を負に制御することを報告している(特許文献1)。本発明者らはまた、c−MIRを樹状細胞等の抗原提示細胞に過剰発現するトランスジェニックマウスを作製し、それを用いた解析で、c−MIRの過剰発現によってMHC II分子の発現が低下することを報告している(特許文献2)。本発明者らはさらに、c−MIRトランスジェニックマウスにおいて、自己免疫疾患モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症が強く抑制されることを報告している(非特許文献1)。
【0004】
ところで、CD40は、B細胞や種々の抗原提示細胞上に発現している腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーに属する膜タンパク質である。CD40が活性化T細胞上のCD40Lと相互作用することによって、B細胞や抗原提示細胞の活性化を誘導するシグナルが伝達される。また、CD40はCD40Lとの相互作用によって、炎症性サイトカインの産生を誘導する事が知られている。
【0005】
しかしながら、c−MIRの外来的な発現調節により関節炎等の免疫疾患が予防又は治療され得ること、並びにこの予防又は治療効果がc−MIRによるCD40の発現調節により達成され得ることは、報告されていない。
【特許文献1】国際公開第2004/061106号パンフレット
【特許文献2】特開2005-192468号公報
【非特許文献1】Ohmura-Hoshino M et al., Journal of Immunology (米国), 2006年7月1日; 177(1): 341-54
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規作用機序を有する医薬及びそれらを開発し得る種々の手段などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、c−MIRの外来的な強制発現により関節炎が顕著に抑制されることを見出した。本発明者らはまた、c−MIRによる関節炎の抑制機構を検討した結果、c−MIRがCD40の発現を抑制し得る因子であること、並びに上述したような関節炎の抑制には、CD40の発現の抑制が関与し得ることを見出した。本発明者らはさらに、c−MIRが獲得免疫機能の調節能を有し得ないことを見出した。従って、c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質は、獲得免疫機能を調節することなく、CD40の発現の調節が所望される疾患、例えば免疫疾患(例、関節炎等の自己免疫疾患)を予防又は治療し得ると考えられる。また、c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質のスクリーニングは、上記特性を有する、CD40の発現の調節が所望される疾患に対する医薬等の開発などに有用であると考えられる。
【0008】
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである:
〔1〕被験物がc−MIRの発現又は活性を調節し得るか否かを評価することを含む、CD40の発現を調節し得る物質のスクリーニング方法。
〔2〕被験物がc−MIRの発現又は活性を促進し得るか否かを評価することを含む、CD40の発現を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、上記〔1〕の方法。
〔3〕被験物がc−MIRの発現又は活性を促進し得るか否かを評価することを含む、自己免疫疾患を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法。
〔4〕被験物がCD40の発現を抑制することを確認することをさらに含む、上記〔3〕のスクリーニング方法。
〔5〕自己免疫疾患が関節炎である、上記〔3〕の方法。
〔6〕c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質を含む、CD40の発現調節剤。
〔7〕c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質がc−MIR発現ベクターである、上記〔6〕の剤。
〔8〕c−MIRの発現又は活性を促進し得る物質を含む、自己免疫疾患の予防又は治療剤。
〔9〕自己免疫疾患が関節炎である、上記〔8〕の剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の剤は、例えば、CD40の発現の調節が所望される疾患(例、免疫疾患)に対する医薬、並びに所定の作用を有する食品、飲料水等として有用であり得る。特に、本発明の剤は、獲得免疫機能を調節し得ないことから、生体の正常な免疫機能を維持しつつ、CD40の発現の調節が所望される疾患の予防・治療を実現し得るという利点を有する。
本発明の方法は、例えば、上述の疾患に対する医薬、及び所定の作用を有する食品、飲料水等の開発に有用であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、CD40の発現調節剤、及び/又は免疫疾患の予防又は治療剤を提供する。本発明の剤は、c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質を含み得る。本発明はまた、c−MIRの発現又は活性を調節し得る、このような物質を提供する。
【0011】
一実施形態では、本発明の剤は、CD40の発現抑制剤であり得る。この場合、本発明の剤は、c−MIRの発現又は活性を促進し得る物質を含み得る。
【0012】
c−MIRの発現とは、c−MIRをコードする遺伝子から翻訳産物(即ち、タンパク質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。なお、本明細書中で使用される場合、c−MIRの発現の促進としては、c−MIRタンパク質自体の補充をも含むものとする。
【0013】
c−MIRの発現又は活性を促進し得る物質としては、例えば、上記のc−MIR及びその発現ベクターなどが挙げられる。
【0014】
c−MIRは、天然タンパク質又は組換えタンパク質であり得る。c−MIRは、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)c−MIRを含む生体試料から構成因子を回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にc−MIR発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるc−MIRを回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりc−MIRを合成してもよい。c−MIRは、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、CBM複合体の構成因子抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
【0015】
別の実施形態では、本発明の剤は、CD40の発現促進剤であり得る。この場合、本発明の剤は、c−MIRの発現又は活性を抑制し得る物質を含み得る。
【0016】
c−MIRの発現を抑制し得る物質としては、例えば、アンチセンス核酸(例、DNA、RNA、又は修飾ヌクレオチド、あるいはそれらのキメラ分子)、リボザイム、RNAi誘導性核酸(細胞内に導入されることによりRNAi効果を誘導し得るポリヌクレオチド、好ましくはRNA:例、siRNA)、並びにそれらの発現ベクターが挙げられる。
【0017】
c−MIRの活性を抑制し得る物質としては、例えば、抗体(例、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体)、ドミナントネガティブ変異体、アプタマー、並びにそれらの発現ベクターが挙げられる。
【0018】
c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質が、核酸分子又はタンパク質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子又はタンパク質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である生体の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。本発明の発現ベクターが含み得るプロモーターは、その制御下にある因子の発現を可能とする限り特に限定されず、因子の種類により適宜選択され得るが、例えば、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)、哺乳動物用プロモーター(例、CMVプロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター)が挙げられる。
【0019】
本発明の発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0020】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり得る。特に、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0021】
本発明の剤は、c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0022】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0023】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。本発明の剤はまた、関節等の特定部位への適用に好適に用いられ得る。
【0024】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約5.0gである。
【0025】
本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、免疫疾患の予防・治療に有用であり得る。免疫疾患としては、例えば、自己免疫疾患、免疫不全疾患、アレルギー疾患が挙げられる。
【0026】
詳細には、本発明の剤は、c−MIRの発現又は活性を促進し得る物質を含む場合、CD40の発現の抑制が所望される疾患の予防又は治療に有用であり得る。CD40は、炎症性サイトカイン産生の誘導、B細胞、マクロファージ、線維芽細胞等の細胞の活性化等の作用を担う分子であることが知られている。したがって、CD40の発現抑制により、このような作用を抑えることができる。CD40の発現の抑制が所望される疾患としては、自己免疫疾患(例、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎等の関節炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、様々な膠原病)、アレルギー疾患(例、アレルギー性鼻炎、花粉症、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、喘息、食物・薬物アレルギーなど)が挙げられる。
【0027】
一方、本発明の剤は、c−MIRの発現又は活性を抑制し得る物質を含む場合、CD40の発現の促進が所望される疾患の予防又は治療に有用であり得る。本発明者らは、c−MIRがCD40の発現を抑制し得る因子であることを見出した。従って、c−MIRの発現又は活性を抑制し得る物質は、c−MIRによるCD40の発現抑制を解除し得る(即ち、CD40の発現を相対的に促進し得る)と考えられる。CD40の発現の促進が所望される疾患としては、免疫不全疾患(例、複合免疫不全症など)が挙げられる。
【0028】
本発明はまた、CD40の発現を調節し得る物質、及び/又は免疫疾患を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
【0029】
スクリーニング方法に供される被験物は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリ、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリ、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
【0030】
本発明の方法は、被験物がc−MIRの発現又は活性を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明の方法では、細胞、動物又は再構成系を用いて、c−MIRの発現又は活性が評価され得る。
【0031】
より詳細には、c−MIRの発現を評価するスクリーニング方法(方法論I)は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物の存在下において、c−MIRの発現を解析可能な細胞でのc−MIRの発現量を測定する工程;
(b)該発現量を、被験物の不在下における対照細胞でのc−MIRの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、c−MIRの発現量を調節し得る被験物を選択する工程。
【0032】
c−MIRの発現を解析可能な細胞とは、c−MIRの産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。c−MIRの産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、c−MIRの発現細胞であり得、一方、c−MIRの産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、c−MIR遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。
【0033】
c−MIRの発現細胞は、c−MIRを潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。また、c−MIRの発現細胞としては、樹状細胞、骨髄細胞などが知られているので、本発明ではこのような細胞が好適に使用される。
【0034】
c−MIRをコードする遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、c−MIRをコードする遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。c−MIR遺伝子の転写調節領域は、c−MIRの発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各c−MIRをコードする遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのc−MIRの転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0035】
c−MIR遺伝子の転写調節領域、及び当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、c−MIR遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、c−MIRに対する生理的な転写調節因子を発現し、c−MIRの発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、c−MIRの発現細胞が好ましい。
【0036】
方法論Iの工程(a)では、被験物がc−MIRの発現を解析可能な細胞と接触条件下におかれ得る。接触は、培地中で行われ得る。このような条件下で、細胞におけるc−MIRの発現量が測定される。発現量の測定は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、c−MIR遺伝子の転写産物の発現量は、生体サンプルからの総RNAの調製後、自体公知の定量方法により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、生体サンプルからの抽出液の調製後、免疫学的手法により測定され得る。また、c−MIRの発現を解析可能な細胞として、c−MIR転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0037】
方法論Iの工程(b)では、被験物の存在下の細胞におけるc−MIRの発現量が、被験物の不在下の対照細胞におけるc−MIRの発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。対照細胞におけるc−MIRの発現量は、被験物の存在下の細胞におけるc−MIRの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0038】
方法論Iの工程(c)では、c−MIRの発現を調節し得る被験物が選択される。例えば、c−MIRの発現を促進し得る被験物は、CD40の発現の抑制が所望される上述の疾患の予防又は治療に有用であり得る。また、c−MIRの発現を抑制し得る被験物は、CD40の発現の促進が所望される上述の疾患の予防又は治療に有用であり得る。
【0039】
c−MIRの活性を評価するスクリーニング方法(方法論II)は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物の存在下において、c−MIRの活性を測定する工程;
(b)該活性を、被験物の不在下におけるc−MIRの活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、c−MIRの活性を調節し得る被験物を選択する工程。
【0040】
方法論IIの工程(a)では、被験物がc−MIR発現細胞又はc−MIRと接触条件下におかれ得る。接触は、培地又は反応液中で行われ得る。c−MIR発現細胞が用いられる場合、該細胞は、タンパク質レベルでのc−MIRのアッセイが可能な程度にc−MIRを発現し得る細胞であり得る。このようなc−MIR発現細胞の特に好ましい例としては、c−MIR発現ベクターがトランスフェクトされた細胞が挙げられる。反応系中に、基質(ユビキチン)、ユビキチン化される標的分子が適宜補充される。活性の測定は、293T細胞等の細胞系又は非細胞系(再構成系)を用いて、自体公知の方法により行われ得る(例、J. Biol. Chem. 278:14657-14668 (2003) を参照のこと)。
【0041】
方法論IIの(b)における活性の比較は、方法論Iの(b)で述べたような比較と同様に行われ得る。
【0042】
方法論IIの工程(c)では、活性を調節し得る被験物が選択される。例えば、c−MIRの活性を促進し得る被験物は、CD40の発現の抑制が所望される上述の疾患の予防又は治療に有用であり得る。また、c−MIRの活性を抑制し得る被験物は、CD40の発現の促進が所望される上述の疾患の予防又は治療に有用であり得る。
【0043】
また、本発明の方法は、以下の工程を含むものであり得る(方法論III):
(a)被験物を投与した動物におけるc−MIRの発現又は活性を測定する工程;
(b)該発現又は活性を、被験物を投与しない対照動物におけるc−MIRの発現又は活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、c−MIRの発現又は活性を調節し得る被験物を選択する工程。
【0044】
方法論IIIで用いられ得る動物は、例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスター等の哺乳動物であり得る。また、方法論IIIの工程(a)〜(c)は、方法論I及びIIと同様に行われ得る。
【0045】
本発明の方法はまた、(d)(i)被験物がCD40の発現を調節(例、抑制、促進)し得ることを確認する工程、(ii)被験物がCD40の発現調節に伴い変化し得る表現型を調節し得ることを確認する工程、並びに(iii)被験物が免疫疾患の予防又は治療効果を奏し得ることを確認する工程、から選ばれる1以上の工程をさらに含むことができる。本工程(d)は、例えば、正常な動物、免疫疾患モデル動物等の動物、並びに任意のCD40発現細胞(例、細胞株、初代培養細胞)を用いて行われ得る。
【0046】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0047】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1:c−MIR発現アデノウイルスの作製
adeno−X(登録商標)ベクター(Clontech)にc−MIR cDNAをサブクローニングし、293細胞に導入した。細胞上清を、さらに293細胞に感染させ、最終アデノウイルスを作成した。ウエスタンブロット法にてc−MIRの発現を確認した(図1)。さらに、RAW細胞にアデノウイルスを感染させ、IFN−γを投与し、CD86(B7−2)、MHC IIの発現を調べたところ、c−MIR発現アデノウイルス感染細胞にてCD86、MHC IIの顕著な発現抑制が確認された(図2)。
【0049】
実施例2:c−MIR発現ベクターの投与による関節炎の改善
DBA/1Jマウス(8週令、雄)にウシ関節由来II型コラーゲンとCFA(完全フロイントアジュバント)からなるエマルジョンを尾根部皮内に投与し、さらに21日後にII型コラーゲンを再投与し、関節炎の発症を有するマウスを作製した。このように作製されたマウスの後肢(膝、足首、足根内)において、II型コラーゲン再投与後、3、7、14日目に10/μLのc−MIR発現アデノウイルスを感染させた(投与量 膝:10μL、足首:5μL、足根:5μL)。別途、生理食塩水、あるいはLacZ発現アデノウイルスをマウスの後肢に投与し、比較に用いた。関節炎の程度は、Rosloniec, E. F. et al. 1996. Collagen-induced arthritis. In Current Protocols in Immunology. p. 15.5.1.の基準にて、経時的に評価した。
その結果、c−MIR発現アデノウイルスを後肢に投与する事により、後肢の関節炎スコアが改善し、II型コラーゲンによって誘導される関節炎を顕著に抑制する事ができた(図3)。
以上より、c−MIRが関節炎の改善に有効であることが示された。
【0050】
実施例3:II型コラーゲン特異的T細胞の評価
関節炎を発症させたマウス(実施例2で作製されたマウス)から調製した脾臓細胞(免疫後49日目)に10分間ボイルしたII型コラーゲンを加え、細胞の増殖をチミジンの取り込みを指標に検討した。
その結果、c−MIR発現アデノウイルス投与群とコントロールアデノウイルス投与群との間で、II型コラーゲンに特異的に反応するT細胞の出現頻度に大きな差は認められなかった(図4)。このことは、上述したMHC II、CD86の抑制が関節炎の改善に関与していないことを示す。なぜなら、MHC II、CD86の抑制がその原因であれば、抗原特異的T細胞の出現頻度が減少すると考えられるためである。また、上記の結果より、c−MIRによる改善は抗原提示機能の抑制によるものではないことから、c−MIRを抑制しても獲得免疫は損なわれないと考えられる。
【0051】
実施例4:マクロファージにおける細胞表面分子の発現レベルの検討
DBA/1Jマウス(8週令、雄)由来の骨髄細胞を用いて、マクロファージを作製した。作製したマクロファージにc−MIR発現レトロウイルスを感染させ、300U/ml IFN−γにて2日間処理をし、細胞表面分子の発現レベルをFACSにて調べた。
その結果、コントロールレトロウイルスを感染させた場合と比較して、c−MIR発現レトロウイルスを感染させた場合に、顕著なCD40の発現抑制が認められた(図示せず)。同様に、マウスB細胞株A20を用いて同様の実験を行ったところ、マウスB細胞株A20でもCD40の発現抑制が認められた(図示せず)。
以上より、c−MIRによる関節炎の改善は、CD86、MHC IIの機能抑制による免疫抑制ではなく、関節腔内におけるCD40発現抑制による炎症反応の抑制に起因することが示唆された。CD40の発現抑制は、自己免疫疾患の予防・治療に有効であり得ることが報告されている。したがって、c−MIRの発現を調節し得る物質は、CD40の発現調節を介して、関節炎のみならず、自己免疫疾患等の他の免疫疾患もまた予防・治療し得る。また、c−MIRの発現を調節しても獲得免疫機能に影響を及ぼし得ないことから、c−MIRの発現を調節し得る物質は、獲得免疫機能を抑制することなく、免疫疾患を予防・治療し得ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】抗V5−tag−HRP抗体を用いて、c−MIR(V5−tag融合タンパク質)を検出した。lane1:adeno−c−MIR、lane2:adeno−LacZ、矢印:c−MIRを示す。
【図2】抗CD86抗体、抗MHC class II抗体、抗actin抗体を用いて検出した。lane1:adeno−LacZ、lane2:adeno−c−MIRを示す。
【図3】遺伝子治療での後肢の関節炎スコアを示す。
【図4】免疫後49日目の脾臓T細胞のII型コラーゲンに対する増殖反応を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物がc−MIRの発現又は活性を調節し得るか否かを評価することを含む、CD40の発現を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
被験物がc−MIRの発現又は活性を促進し得るか否かを評価することを含む、CD40の発現を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験物がc−MIRの発現又は活性を促進し得るか否かを評価することを含む、自己免疫疾患を予防又は治療し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験物がCD40の発現を抑制し得ることを確認することをさらに含む、請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
自己免疫疾患が関節炎である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質を含む、CD40の発現調節剤。
【請求項7】
c−MIRの発現又は活性を調節し得る物質がc−MIR発現ベクターである、請求項6記載の剤。
【請求項8】
c−MIRの発現又は活性を促進し得る物質を含む、自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【請求項9】
自己免疫疾患が関節炎である、請求項8記載の剤。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297272(P2008−297272A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146706(P2007−146706)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】