説明

cAMP分析

本発明は、サンプル中のcAMPを分析する方法の提供であり、前記方法は、未知cAMP含量のサンプルと、ポリペプチドcAMP結合剤、任意に標識化cAMPとを接触させる工程、および、cAMPまたは標識化cAMPと前記結合剤とのコンジュゲートを検出する工程を含み、前記結合剤が機能性cAPK cAMP B結合部位のみを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アデノシンモノホスフェート(cAMP)、他の環状ヌクレオチドおよび環状ヌクレオチド類似体の分析方法に関し、また、このような方法に使用するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
cAMPまたはアデノシン3',5'-環状モノホスフェートは、1位にプリン基が結合し、3'位および5’位にリン酸基が結合したリボフラノースモノサッカライドユニットを含む。cAMPは、ATPの環化により形成され、ホルモンの分布域で、ホルモン作用のメディエータとして機能する第2メセンジャーである。特に、プロテインキナーゼとして知られるキー酵素の活性化を担っている。
【0003】
cAMPは、体内に広く分布しており、例えば、甲状腺不全(thyroid malfunction)、カルシウム代謝欠損等、広い範囲でのコンディションとの関連において分析されている。
【0004】
cAMPの様々な分析が、商業的に利用可能となっており、特に英国のAmarsham plcより利用可能となっている。最も広く使用されている分析は、イミノグロブリンまたは天然に生じたcAMP結合タンパク質(特にcAMP依存型プロテインキナーゼイソエンザイムI型(cAPKI))のいずれか一方の高親和性の結合部位に対する、cAMPと、標識化(例えば、放射線標識化)cAMPまたはcAMP類似体との間における競合に基づくものである。
【0005】
現在このような分析が数十年間利用されているが、それにもかかわらず、これらは望まれる程度よりも正確さに欠ける。また、抗体に基づく分析は、分析が行われる前にcAMPが分解することを防ぐためにcAMP含有試料に添加される試薬(例えば、EDTA)にセンシティブである。
【発明の開示】
【0006】
このようにcAMPの改良された分析方法が必要とされている。
【0007】
我々は、このような改良分析方法が、cAMP結合剤として、cAMP依存プロテインキナーゼ(cAPK)のcAMP結合部位の一つのタイプのみの機能形態を含むポリペプチドを使用することによって達成できることを見出した。I型(cAPKI)およびII型(cAPKII)として存在するcAPKは、それぞれ、C末端付近、また、C末端に位置する制御(R)サブユニットに、2種類のcAMP結合サイト(A部位、B部位)を有する。このように、2量体であるcAPKIには、4つの結合部位(Aα、Aβ、BαおよびBβ)が存在する。αおよびβ鎖におけるA部位のアミノ酸配列末端は、αおよびβ鎖におけるB部位の配列と同様である。
【0008】
cAMP依存プロテインキナーゼは、例えば、Taylorらにおいて論じられている(非特許文献1:Taylor et al. Ann. Rev. Biochem. 59: 971 (1990), Doskeland et al. Biochim. Biophys. Acta 1178: 249-258 (1993)、非特許文献2:Francis et al. Ann. Rev. Physiol. 56: 237-272 (1994)、非特許文献3Johnson et al. Chem. Rev. 101: 2243-2270 (2001))。ポリペプチドRIα(cAMP依存プロテインキナーゼI型のα鎖における制御(R)サブユニット)のA部位およびB部位は、共結晶(co-crystallized)cAMPおよび完全なAおよびB部位で切断されたRIαが、Yuらによって述べられている(非特許文献4:Yu et al. in Science 269: 807-813 (1995))。RIは、二つの形態RIαおよびRIβを有しており、これらはcAMP結合ドメインにおけるアミノ酸配列末端が非常に類似している。cAMP依存型プロテインキナーゼII型のRサブユニット(例えば、RIIαおよびRIIβ)は、A部位およびB部位を有し、これらはRIαにおける相当する部位と類似している(非特許文献5:Diller et al. Structure 9: 73-82 (2001)参照)。
【0009】
哺乳類のRサブユニットにおいて、A部位は、約143-260(RIα)または158-277(RIIβ)のアミノ酸残基を含み、B部位は、約260-374(RIα)または277-426(RIIβ)のアミノ酸残基を含む。
【0010】
このように本発明の一つの形態から考慮して、本発明は、試料中のcAMPを分析する方法であって、前記方法は、未知含有量のcAMPを含む試料に、ポリペプチドのcAMP結合剤および任意に標識化cAMPを接触させる工程と、cAMPまたは標識化cAMPと前記結合剤とのコンジュゲートを検出する工程とを含み、前記結合剤が機能性cAPK cAMP B-結合部位のみを含むことを特徴とする分析方法を提供する。
【0011】
前記機能性部位は、B部位であり、好ましくはRI B部位であり、特に好ましくはRIα B部位である。
【0012】
ここで「機能性部位」とは、結合部位が、天然ヒトcAPKにおける部位のKDに対して300%未満のKDでcAMPに結合できる部位であることを意味し、好ましくは200%未満、より好ましくは150%未満、特に好ましくは110%未満である(低いKD、高い結合親和性)。
【0013】
機能性cAMP結合部位の他に、結合剤は、非機能性cAMP結合部位(例えば、異なるタイプ)を含んでもよい。非機能性部位は、いくつかのまたはすべてのアミノ酸配列における天然cAMP結合部位に相当する部位を意味するが、これは、天然ヒトcAPKにおける相当する部位のKDに対して300%以上のAMP結合についてのKDを有し、より好ましくは500%以上、特に好ましくは10000%以上である。
【0014】
cAPK cAMP結合部位は、cAMPとの結合能力を有し、天然哺乳類cAPK cAMP結合部位配列と少なくとも60%のホモロジーを示す配列(好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも95%)を有するポリペプチド配列を意味する。本発明の分析方法に使用する前記結合剤におけるcAPK cAMP結合部位は、例えば、1つ以上のアミノ酸の挿入、欠損、置換または転移により、天然哺乳類cAPK cAMP結合部位と同一である必要はない。前記結合剤におけるcAPK cAMP結合部位は、ヒトおよびウシcAPKに共通するcAPK cAMP結合部位に相当するアミノ酸配列(例えば、配列の高保存部分)の少なくとも95%を含むことが好ましい。機能性cAPK cAMP結合部位という用語は、また、例えば、cAMP結合ポケット内において同じまたは同等の官能基(functional groups)で表される四次構造が類似する合成ポリペプチド配列のような、天然のcAPK cAMP結合部位と均等である機能性トポロジーを有するcAMP結合ポリペプチド配列に拡張すると考えられる。
【0015】
診断法における慣例として、分析物:結合剤コンジュゲートの検出は、直接的でも間接的であってもよい。このように、例えば、標識化cAMPが分析方法において使用される場合、標識化cAMP:結合剤コンジュゲートにおける標識からのシグナル(例えば、放射線放出)は、直接的に検出され、試料中のcAMP含量は、これから推測できる。また、非複合である標識化cAMPにおける標識からのシグナルは、直接的に検出でき、試料中のcAMP含量は、また、これから推測できる。さらに、cAMP:第1結合剤コンジュゲートまたは非複合である第1結合剤に結合し、直接的に検出可能なシグナルまたは現象の増加を与える第2結合剤が使用でき、検出されたシグナルから、試料中のcAMP含量が再度推測できる。このような分析物検出のシステムの全ては、本発明の分析方法により達成できる。
【0016】
本発明のさらなる形態は、cAMP分析用のキットを提供し、前記キットは、cAMPに結合可能なポリペプチド第1結合剤、任意に標識化cAMP、および、任意に第2結合剤を含み、前記第1結合剤が、機能性cAPK cAMP結合部位のみを含むことを特徴とする。本発明のキットは、前記分析方法の実施のための指示書を含むことが好ましい。
【0017】
本発明のさらなる形態は、機能性cAPK cAMP結合部位のみを含むポリペプチドcAMP結合剤、前記結合剤を含む組成物やアイテムを提供する。
【0018】
前記結合剤を含む組成物は、液体、半固体(例えば、ゲル)および固体(例えば、粉末)の組成物を含み、一般的に、さらに、液体もしくは固体キャリアーまたはゲル形成剤、防腐剤、pH調節剤等のような物質を含む。前記結合剤を含むアイテムは、例えば、前記結合剤でコーティングされた、または、前記結合剤を浸透させた、固体もしくは半固体構造を含み、例えば、前記結合剤が固定化されたビーズ、プレート、チューブ、メンブラン、ファイバー等である。
【0019】
本発明で使用する前記cAMP結合剤は、1つ以上(例えば、1,2,3)のcAPK cAMP結合部位を含む組換えタンパク質であることが好ましく、特に好ましくは、ウシcAPK cAMP結合部位であり、任意に、基質表面に結合可能な部分(表面結合領域)を含む融合タンパク質を含む。前記結合剤が2以上の機能性cAPK cAMP結合部位を含む場合、これらは同じタイプであり、例えば、両方もしくは全てが、RIα-B結合部位であってもよい。しかし、前記タンパク質は、必然的ではないが、機能しないcAPK cAMP結合部位を含んでもよい。ここで「機能しない(disabled)」とは、cAMP結合部位のアミノ酸配列が、部位のcAMP結合能を実質的に減少または消失する修飾(例えば、部位の四次構造または機能性トポロジーを変化するような1以上のアミノ酸の置換、挿入または欠損)をされたことを意味する。好ましい形態において、前記結合剤は、1つの機能性RI B部位および1つの機能しないA部位を有する。A部位の欠陥は、例えば、ヒトまたはウシのような哺乳類で高く保存されているRIαのGly残基(種に依存し、199、200または201残基)のGluによる突然変異置換で達成できる。これはPCRおよび標準変異キット(Strategene Quick Change)を用いて行うことができる。A部位欠陥の効力は、例えば、Hummelら(BBA 63: 530-532 (1962))の方法を使用した平衡結合により、または、さらに以下に示すように、トリチウムを含むcAMPの結合や硫酸アンモニウムとの沈殿により変化できる。前記結合剤は、特に好ましくは、1つ以上のcAPK B部位(特にRIα B部位)、および、特異的結合パートナー対の1つ(one member)であるポリペプチド領域(例えば、ストレプトアビジンのビオチン結合部位)もしくは表面結合伸長(extension)であるポリペプチド領域(例えば、Gly GLy CysまたはGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ))を有するキメラ融合タンパク質である。欠陥cAPK A部位および1つ以上のcAPK B部位を有するこのようなキメラ融合タンパク質は、例えば、使用可能なリーディングフレームが適当にコードされた核酸配列が挿入されたプラスミドをE.coliような細菌宿主へトランスフェクションする等の公知の方法によって容易に準備できる。本発明の特に好ましい形態において、前記結合剤は、Alaもしくはジスルフィド結合を形成できない他のアミノ酸残基でCysを置換することにより、天然哺乳類cAPK B部位に相当する修飾されたB部位を含む。これは、A部位の無力化に関する上述のような突然変異により行うことができる。Cys-freeのB部位を有するこのような結合剤は、保存の際、B部位にCys残基を有する結合剤よりも安定である。
【0020】
前記結合剤は、非酸化条件下において、水溶液として使用することが好ましく、一般的に前記溶液は、安定化剤としてEDTAやEGTAのような1以上のキレート剤およびDTE、DTT、2-メルカプトエタノールまたはグルタチオンのような還元剤を含んでもよい。
【0021】
本発明の分析方法は、サンプル中のcAMPと標識化cAMPとの間における結合競合に関連するが、標識がトリチウム(3H)であり、および/または、標識が8位の置換基(例えば、アデノシン環構造における置換基として)に結合していることが好ましい。8位が125Iで標識化されているcAMP(通常、リンカー基を介して結合される)は新規であり、本発明のさらなる形態となる。
【0022】
3H-cAMPは、アマシャム(英国)より商業的に入手できる。
【0023】
標識化cAMPにおける標識は、検出可能(例えば、放射線放射力または吸収)、または、検出可能な種や現象(例えば、酵素活性力により)を生じる様々な種があげられる。放射ラベル、発色団および蛍光団が、cAMP結合剤に結合する標識化cAMPの能力を邪魔しない、若しくは、最小限に邪魔しないように置換できるラベルとして好ましい。本発明の一形態において、標識化cAMPは、例えば、表面プラスモン共鳴による検出可能な表面結合cAMPへのcAMP結合剤の結合によって形成されたコンジュゲートとの表面結合cAMPである。このようなcAMPの表面結合は、例えば、表面カルボキシル基または活性化カルボキシル基を有する基質と、8-アミノアルカノイルアミノ-cAMP(例えば、8-アミノオクタノイルアミノ-cAMP、BioLog, Bremen, DE)との反応によって、生じてもよい。この形態において、表面(例えば、ポリマー基質のポリマー骨格)とペンダントcAMP基との間のリンカーは、好ましくは1000D以下の分子量であり、より好ましくは100〜500Dである(この場合、結合剤が表面に結合する際のSPRシグナル相違は最適化される)。本発明の他の形態において、標識化cAMPは、ペンダントcAMP基(好ましくは8位に結合)を有するポリマーである(例えば、デンドリマー)。標識化cAMP:結合剤コンジュゲートは、この形態において、光散乱により検出できる(例えば、比濁法または比濁分析)。標識化cAMPが放射ラベルされている場合、3H-cAMP(シンチレーションにより検出可能)または8-(125I-X)-cAMP(Xは、8位にヨウ素が結合するために、25原子以下の鎖である有機基、例えば、チロシン-アルカノイルアミノ基)が好ましい。また、32P-標識化cAMP(ICN Pharmaceuticals)が使用できる。標識化cAMPの調製は、公知の化学合成技術によって行うことができる。このように、例えば、8-アミノ-オクタノイル-アミノcAMP(BioLog, Bremen, DE)は、チロシン残基を8位に挿入するためにチロシンと反応させてもよい。これは、標準キットを用いて、125Iでヨウ素化してもよい(例えば、無機125I化合物を用いてペルオキシダーゼで触媒するヨウ素化)。8位の嵩高い置換は、cAPK cAMP結合物に対するcAMPの結合の阻害が見られない。
【0024】
特に好ましい本発明の一形態において、cAMPとcAMP結合剤とのコンジュゲートおよび標識化cAMPとcAMP結合剤とのコンジュゲートを沈殿させ、例えば、メンブランフィルター等のろ過によって回収できる。この形態において、コンジュゲート沈殿は、例えば、硫酸アンモニア溶液のような硫酸塩溶液を用いて容易に得られる。cAPKのcAMP結合部位は、cAMP交換(例えば、複合体分離)させ、沈殿物における標識化cAMPの量を“freeze(固定)”することが望ましい。これは、cAMPと硫酸塩の溶液を含む沈殿剤の使用により容易に行うことができる。前記溶液は、ほとんど硫酸塩で飽和されていることが好ましく、例えば、55‐95%飽和であり、より好ましくは75‐92%飽和であり、また、例えば、サンプルに添加されたサンプル中の過剰量標識化cAMP量であるcAMPを含むことが好ましい(例えば、0.1mM濃度)。一般に、この停止溶液は、低温で、サンプルに対して約20:1〜1:2、好ましくは約15:1〜5:1の範囲の体積比で添加される。一般に、停止溶液は、10℃以下の温度、例えば、0℃で添加され、停止溶液の添加と上清からの沈殿コンジュゲートの分離との間で遅延しても、サンプルは、遅延期間の間、冷却状態、例えば、0℃に保たれることが望ましい。停止溶液は、好ましくは緩衝液であり、例えば、pH7である。
【0025】
この実施形態において、続くコンジュゲート沈殿は、沈殿および上清をろ過、例えば、マイクロメータのポアサイズであるフィルター(0.45μmポアサイズ)を通して、分離することが好ましい。適当なフィルターメンブランは、Milliporeより商業的に入手可能である(例えば、HAWPまたはより好ましくはHAMKフィルター)。
【0026】
ろ過後、前記フィルターメンブランは、非複合標識化cAMPを除去するために洗浄することが好ましい。これは、ろ過後、迅速に行うことが好ましく、また、例えば、1または2回さらなる洗浄を繰り返すことが好ましい。希釈した停止溶液は、洗浄溶液として使用できるが、一般的にcAMPを含まないことが必要である。
【0027】
サンプルは、高塩濃度であるため、沈殿後できるだけ早くろ過を行うことが望ましく、例えば、30分以内である。
【0028】
試験中のサンプルが低結合剤濃度である場合、沈殿を促進するために、停止溶液にカゼインを添加することが望ましい。試験中のサンプルが高結合剤濃度である場合、ガラスファイバープレフィルターを使用することが望ましい。
【0029】
沈殿と洗浄に続き、フィルターメンブランに残存する標識化cAMP量を検出してもよい。発色団もしくは蛍光団ラベル、またはシンチレーションカウンティングを必要とする以外の放射標識での標識化の場合、シグナルは、前記メンブランより測定でき、また、前記メンブランから放出したコンジュゲートもしくは標識化cAMPを測定できる。例えば、トリチウム標識化cAMPのように、シンチレーションカウンティングが関与する検出の場合、コンジュゲートまたは標識化cAMPは、メンブランから放出しなければならない。これは、メンブランに、ドデシル硫酸ナトリウム溶液等の水性界面活性剤溶液を接触させることにより行うことができ、一般に、1‐5%w/v溶液、このましくは2%w/v溶液である。溶液に放出された前記コンジュゲートまたは標識化cAMPは、それから、例えば、3H-cAMPの場合、シンチレーション流体の添加により(例えば、「Emulsifier safe for aqueous samples」、Packard)、溶液中で検出できる。
【0030】
診断用分析として、本発明における分析システムは、一般的に、既知cAMP濃度範囲の標準(例えば、cAMP溶液)に対するキャリブレーションが必要である。本発明の分析キットは、一般的に、試験サンプルのcAMP含量を決定するための標準として、キャリブレーション用の標準セットおよび/またはキャリブレーションチャートおよび/またはコンピュータープログラム、またはシグナル値からの補間若しくは補外のためのデータセットが補充されてもよい。
【0031】
本発明の方法を用いて試験するサンプルは、一般的に、生物学的または生物学的に発生する材料、例えば、微生物、細胞、組織、体液、体器官等である。特に興味深いのは、微生物、特に細菌および酵母、またはそれらから発生するサンプルである。また、多細胞生物、例えば、哺乳類、爬虫類、鳥類および魚類、特にヒト、またはそれらから発生するサンプルである。しかしながら、cAMP値は、一般に、体細胞中よりも、無細胞体サンプル中で低いことに留意する(例えば、細胞内液においてマイクロモルレベルであるのに対して、血清において約ナノモルレベル)。
【0032】
多くの生物学的サンプルにおいて、一度宿主種から除去されると、cAMP含量は迅速に減少する。このため、本発明の分析方法に使用するサンプルは、cAMP分解を減少または除くために前処理がなされる。一般に、これは、緩衝剤および/またはキレート剤(例えば、EDTA)の添加を伴ってもよい。体細胞や器官サンプルの分析のため、cAMPレベルは、サンプル抽出または患者の死亡もしくは患者のストレスへの暴露において、非常に迅速に減少するので、抽出後、出来るだけ早急にサンプルを凍結することが望ましい(例えば、液体窒素に投ずることにより)。さらに、サンプルは、例えば、分析実行前に、粉砕し(ground)、溶媒抽出等を行ってもよい。
【0033】
本発明の方法は、cAMP分析の方法である。これは、定量的、半定量的または定性的結果の発生に関わり、例えば、サンプル中のcAMP濃度、他の分析物に対する相対的なcAMP濃度、cAMP濃度のマルチバンド表示におけるバンド結果の配分(allocation)、所定の限界値以上(または以下)のようなcAMP濃度の表示(正常/異常または軽度/過酷な境界線)、または、予想結果の表示(例えば、輸液への使用に適している間、全血サンプルが冷却下で保存され続ける期間である)(後者にとって、検査サンプルは、一般に、溶血されたクエン酸全血または赤血球濃縮物)である。このようなcAMP含量の測定は、本発明の分析方法において行われるよう考慮される。
【0034】
cAMP分析の他に、本発明の分析方法は、cAPK cAMP結合部位に結合可能な、他の環状ヌクレオチド(例えば、cGMP)や環状ヌクレオチド類似体の分析に使用することもできる。このような分析が競合分析の場合、競合標識化分析物は、標識化cAMP、または、より好ましくは、所望の分析物の標識化物である。このような分析は、候補物または現実の環状ヌクレオチド(類似体)薬剤化合物もしくは前駆体の生体分布および薬物速度論の研究において特に重要である。
【0035】
前述のような従来のcAMP分析とは異なり、本発明の分析方法は、このような化合物を検出するのに十分に感度および精度に優れる。このような方法において、所望の場合、サンプルに、妨害するcAMP含量を減少または除去する処理を行ってもよく、例えば、cAMPが結合するが、候補物質または薬剤が結合せず、cAPK cAMP結合部位に結合しない種にcAMPを変換するために働く作用物質、例えば、cAMP(候補物または薬物ではない)をcAPK cAMP結合部位に結合しない種に変換するホスホジエステラーゼ活性を有する酵素またはcAMPに結合するが、候補物や薬剤には結合しない抗体で、サンプルを処理してもよい。
【0036】
この方法で分析できる環状ヌクレオチドおよび類似体の例は、8-アミノヘキシルアミノ-cAMP、8-ブロモ-cAMP、8-クロロ-cAMP、8-クロロフェニルチオ-cAMP、N6-モノブチリル-cAMPおよびcGMPが含まれる。
【0037】
本発明のさらなる形態として、環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体の分析方法があげられ、前記方法は、サンプルに、前記環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体と結合可能なポリペプチド結合剤、および、任意に、前記結合剤に結合可能な標識化競争種を接触させる工程と、前記結合剤と前記環状ヌクレオチドもしくは環状ヌクレオチド類似体または前記競争種とのコンジュゲートを検出する工程とを含み、前記結合剤が機能性cAPK cAMP B結合部位のみを含むことを特徴とする。
【0038】
また、本発明のさらなる分析は、環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体の分析用キットを提供し、前記キットは、前記環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体に結合可能なポリペプチド第1結合剤、任意に前記結合剤に結合可能な標識化競争種、および任意に第2結合剤を含み、前記第1結合剤が、機能性cAPK cAMP B結合部位のみを含むことを特徴とする。
【0039】
このキットおよび分析方法は、好ましくは、cAMP分析およびキットと関連して上述した特徴を利用できる。
【0040】
本発明の分析方法は、抗体に基づく分析である先行技術とは異なり、比較的高濃度(例えば、10mM)の2価金属イオン存在下で反応しない。このような金属イオン(例えば、Ca2+およびMg2+)の不安定な濃度は、分析を行う前に、サンプル中のcAMP濃度の安定化に必要であるキレート剤の存在により強く影響をうけるため重要である。
【0041】
ここで述べる全ての文献は、この方法で参照により組み込まれる。
【0042】
本発明の分析方法を、さらに以下の制限されない実施例の参照により述べる。
【実施例1】
【0043】
cAMP結合剤の調製
GSTの融合ポリペプチドに対するcDNAのNcoIブラントエンド断片、および、GSTとRIαの間にトロンビン切断部位を含む非変異化ヒトRIαを、プラスミドpGEX-KGのNcoI-HindIII部位に挿入した。挿入は、公知配列のヌクレオチド103〜1474に相当する。
【0044】
突然変異には、QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を使用した。RIαをコードする二本鎖プラスミドと、所望の変異を有する二つの合成オリゴヌクレオチドプライマーとをアニールし、Pfu DNAポリメラーゼによって伸長させた。合成オリゴヌクレオチドプライマーは、5'-GGAGGGAGCTTTGAAGAACTTGCTTTG および 3'-CCTCCCTCGAAACTTCTTGAACGAAACである。温度サイクルの後、parent DNAテンプレートをDpn1を用いて切断した。変異DNAは、Epicurian Coli XL1-Blue supercompetent cellsに導入した。変異はシーケンシングにより確認した(ABI Prism 3700)。
【0045】
プラスミドをE. coli BL21に導入し、0.4mM IPTGで発現を誘導する前に、2時間プレインキュベートした。細菌のインキュベーは、25℃で行った。
【0046】
発現したGST hRIα融合タンパク質は、メーカーのプロトコールに従って、グルタチオン-アガロース(Pharmacia)への結合により精製した。融合タンパク質は、さらにSuperdex 200ゲルろ過カラム(Pharmacia FPLC system)で精製した。GST-tagは、トロンビンにより切断し、続いて、付加的なFPLCサイズ排除クロマトグラフィーを行った。
【0047】
GST-hRIa融合タンパク質のSDS-PAGE移動度は、キャリブレーション用の、ウシ血清アルブミン、雌鶏オバルブミンおよびBio-Rad high molecular weight standardsを用いた予想値81kDaに相当した。トロンビン切断タンパク質は、51kDaのSDS-PAGE移動度を示した。
【実施例2】
【0048】
分析操作
サンプル調製
オスWistarラット(120-400 g)に麻酔をかけて肝臓を暴露し、液体窒素で予冷したWollenberger tongの金属クランプ間で、生体材料を急激に凍結させた。凍結組織を粉砕した(パウダーは、cAMP分解なしに液体窒素内で数ヶ月間保存できた)。cAMPを抽出するため、前記パウダーを氷冷した5%(w/v)水性トリクロロ酢酸を含む0.1M HCl内で沈殿させた(1ml/50mg組織パウダー)。そして、10分間遠心した(平均20,000xg)。トリクロロ酢酸は、少なくとも4倍の水飽和ジエチルエーテルで抽出を繰り返すこと(4×)により、上清から除去した。サンプルは、20μlの10M NaOHの添加により中和した。
【0049】
分析操作
100μlのサンプルを、50μlの3nM 3H-cAMP(Amersham plc, 米国)と混合し、それから、50mM HEPES(リン酸2カリウムでpH7.4に調整され、20mM EDTA、3mM EGTA、0.5mg/ml血清アルブミン、0.2mg/mlダイズトリプシンインヒビターおよび0.5mM DTEを含む)中の前記実施例1におけるトロンビン切断された結合剤50μl(cAMP結合部位1.2nM)と混合した。混合物を2〜18時間インキュベートし、それから1mlの氷冷80%飽和硫酸アンモニウムと勢いよく混合した。
【0050】
2×2mlの氷冷65%硫酸アンモニウムを直径25mmメンブランフィルター(孔径0.45μm、例えば、MilliporeのHAMK)を通し、その後、沈殿したサンプルを同じフィルターに吸引して通した。サンプルを通した後、迅速に、氷冷した65%飽和硫酸アンモニウム2mlを供し、続いて、さらに2mlの氷冷65%飽和硫酸アンモニウム2mlで2回洗浄した。
【0051】
前記フィルターを、1mlの2% w/v水性ドデシル硫酸ナトリウム溶液を含むシンチレーションバイアルに移した。沈殿は、10分間のミキシングにより溶解させた。それから、7mlのシンチレーション流体("Emulsifier Safe for aqueous samples" from Packard)を添加し、前記バイアルを、少なくとも4分間ベータカウンターでカウントした。
【0052】
同じ分析工程と50mM HEPES(リン酸2カリウムでpH7.4に調整し、20mM EDTA、3mM EGTA、0.5mg/ml血清アルブミン、0.2mg/mlダイズトリプシンインヒビターおよび0.5mM DTEを含む)中のcAMP標準溶液を用いて作成した検量線を、サンプルのcAMP含量を測定するために使用した。
【実施例3】
【0053】
分析操作
サンプルが、インキュベーション後、結合剤を解離できる少量のcAMPまたは高濃度(例えば、10mM)の弱い結合基質(例えば、ATPまたはAMP)を含む場合、実施例2の分析は、3H-cAMPの開始インキュベートを省き、代わりに10nM 3H-cAMPの存在下、1時間のポストインキュベートを行うことにより実行できる。その工程は変化しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のcAMPを分析する方法であって、未知含有量のcAMPを含む試料に、ポリペプチドのcAMP結合剤および任意に標識化cAMPを接触させる工程、および、cAMPまたは標識化cAMPと前記結合剤とのコンジュゲートを検出する工程を含み、前記結合剤が、機能性cAPK cAMP B-結合部位のみを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記結合剤が、機能しない(disabled)A-結合部位を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記結合部位が、RIα B-部位である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記標識化cAMPが、ヨウ素-125により8位が標識されている請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記標識化cAMPが、8位において基質表面に結合する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記cAMPコンジュゲートが、表面プラズモン共鳴を用いて検出される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記標識化cAMPが、トリチウムで標識されている請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記結合部位が、天然ヒトcAPKにおける部位のKDに対して300%未満のKDで、cAMPと結合可能である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記結合部位が、天然ヒトcAPKにおける部位のKDに対して110%未満のKDで、cAMPと結合可能である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
cAMP分析用のキットであって、前記キットが、cAMPに結合可能なポリペプチドの第1結合剤、任意に標識化cAMP、および、任意に第2結合剤を含み、前記第1結合剤が、機能性cAPK cAMP B-結合部位のみを含むことを特徴とするキット。
【請求項11】
機能性cAPK cAMP B-結合部位のみを含むポリペプチドのcAMP結合剤、および前記結合剤を含む組成物ならびにアイテム。
【請求項12】
ヨウ素-125により8位が標識化されたcAMPおよびその組成物。
【請求項13】
cAMPの分析方法における、ヨウ素-125により8位が標識化されたcAMPの使用。
【請求項14】
cAMPの分析方法における、基質表面に8位で結合したcAMPの使用。
【請求項15】
環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体の分析方法であり、サンプルに、前記環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体に結合可能なポリペプチドの結合剤、および、任意に前記結合剤に結合可能な標識化競争種を接触させる工程、および、前記結合剤と、前記環状ヌクレオチドもしくは環状ヌクレオチド類似体または前記競争種とのコンジュゲートを検出する工程を含み、前記結合剤が機能性cAPK cAMP B-結合部位のみを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項16】
環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体の分析用キットであり、前記環状ヌクレオチドまたは環状ヌクレオチド類似体に結合可能なポリヌクレオチドの第1結合剤、任意に、前記結合剤と結合可能な標識化競争種、および任意に第2結合剤を含み、前記第1結合剤が機能性cAPK cAMP B-結合部位のみを含むことを特徴とするキット。

【公表番号】特表2006−500021(P2006−500021A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537303(P2004−537303)
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004044
【国際公開番号】WO2004/027094
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(505104928)キン セラピューティクス エーエス (1)
【Fターム(参考)】