説明

cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体の製造法

本発明は、cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体を、安全性が高く、より緩和な条件で好収率及び高純度品を与える工業的に安価に製造する方法であって、下記式[I]
【化1】


(式中、Rはα−アミノ基の保護基を示し、Rはカルボキシル基の保護基を示す。)で表されるtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に、フッ化水素捕捉剤の存在下、N,N−ジエチル−N−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)アミンを反応させることを特徴とする、cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬・農薬の合成中間体として有用なcis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体は、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体の4位水酸基をフッ素化することによって製造することができるが、以下で説明する従来のフッ素化では種々な問題があった。
【0003】
一つ目の方法は、ジエチルアミノ硫黄トリフルオリド(DAST)を用いる方法である。この方法は、目的生成物を好収率で与えるが、DASTは、毒性が高く、熱安定性が悪く爆発性を有しており、かつ高価であるため、工業的な規模での利用に適さない(非特許文献1)。
【0004】
二つ目の方法は、4位水酸基を脱離基に変換した後にフルオロ基へ変換する方法である(非特許文献2)。この方法は、脱離基のβ脱離に起因するオレフィン体の副生により目的物の収率が低下し、実用性に乏しい。
【0005】
三つ目の方法は、N,N−ジエチル−N−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)アミン(以下、「石川試薬」という)を用いる方法である。この方法は爆発の危険性が低く、安価であり、1段階でフルオロ基を導入できる点で優良な方法と考えられるが、反応中に発生するフッ化水素が反応缶を腐食すること以外に、原料物質及び反応生成物質の分解を引き起こすため、目的化合物の収率が低くなる問題がある。また、特にα−アミノ酸のアミノ基の保護基として汎用性の高いウレタン型保護基を用いる場合には、この保護基がフッ化水素により分解され易いので、低温で長時間かけて反応をおこなうなど限定された反応条件が必須とされ、その収率等も満足いくものではなかった。
【非特許文献1】Luc Demange et al.,Tetrahedron Lett.,39,1169(1998).
【非特許文献2】G.Giardina et al.,Synlett,1,55(1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に適用されているフッ素化方法よりも、安全で工業的な規模での製造を可能にし、副反応を抑えつつ目的化合物を高収率で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に、フッ化水素捕捉剤の存在下、石川試薬を反応させることにより従来法よりも副反応を抑えながら、cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体を高立体選択的でかつ好収率で得る実用的製造方法を見出し、本発明を完成した。また本発明はα−アミノ基のウレタン型保護基を有するアミノ酸基質においても、副反応を高度に抑えつつ穏和な条件下で適用可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の1態様は、
式[I]
【0009】
【化1】

(式中、Rはα−アミノ基の保護基を示し、Rはカルボキシル基の保護基を示す。)で表されるtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に、フッ化水素捕捉剤の存在下、N,N−ジエチル−N−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)アミンを反応させることを特徴とする、式[II]
【0010】
【化2】

(式中、R及びRは前記と同意義を示す。)で表されるcis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体の製造方法に関する。
【0011】
本発明の他の態様によると、α−アミノ基の保護基が、芳香族ウレタン型保護基、脂肪族ウレタン型保護基、シクロアルキルウレタン型保護基、アシル型保護基、スルホニル型保護基またはアルキル型保護基であり、カルボキシル基の保護基が、ハロゲン原子で置換されてもよいC−Cアルキル基、C−Cアルコキシ基;C−Cアルキル基;ニトロ基;及びハロゲン原子から選択される置換基によって置換されてもよいベンジル基、アリル基、フェナシル基またはベンズヒドリル基である、上記製造方法を提供する。
【0012】
本発明の他の態様によると、α−アミノ基の保護基がベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、ホルミル基、アセチル基、フタロイル基又はトリチル基であり、カルボキシル基の保護基がメチル基、エチル基、tert−ブチル基、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−ニトロベンジル基、アリル基、フェナシル基、トリクロロエチル基又はベンズヒドリル基である上記製造方法を提供する。
【0013】
本発明の他の態様によると、フッ化水素捕捉剤がフッ素のアルカリ金属塩である、上記いずれかの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の他の態様によると、フッ化水素捕捉剤がフッ化ナトリウムである、上記いずれかの製造方法を提供する。
【0015】
本発明の他の態様によると、反応溶媒が不活性溶媒である、上記いずれかの製造方法を提供する。
【0016】
本発明の他の態様によると、反応溶媒がジクロロメタンである、上記いずれかの製造方法を提供する。
【0017】
trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体の4位水酸基の石川試薬単独によるフッ素化においては、前述のごとく発生するフッ化水素が原料物質及び反応生成物質の分解反応を引き起こす。特にα−アミノ基のウレタン型保護基(tert−ブトキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基等)は分解されやすく、収率及び純度が大幅に低下する。本発明は、当該反応で発生するフッ化水素を捕捉することによって、反応缶の腐食を回避することだけでなく、上記反応を高度に抑制することを目的に、フッ化水素捕捉剤の存在下に石川試薬を用いてtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体の4位水酸基をフッ素化することを特徴としている。
【0018】
本発明による副反応抑制効果により、石川試薬を単独で用いる場合には困難であった室温及び室温以上の温度においてもtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体の4位水酸基のフッ素化反応が可能となった。反応温度の上昇に伴い反応時間の短縮も可能となり、また、石川試薬を減量しても、cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体を高立体選択的、好収率で得ることに成功した。反応条件を最適化することによって、目的化合物を非常に効率よく高収率に得ることが可能である。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが例示されたものに特に限定されない。
【0020】
α−アミノ基の保護基とは、各反応において保護基として働く基であればよく、ウレタン型、アシル型、スルホニル型等の保護基を示し、芳香族ウレタン型保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基(Z)、2−クロロ−ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、イソニコチニルオキシカルボニル基、及び4−メトキシベンジルオキシカルボニル基)、脂肪族ウレタン型保護基(例えば、tert−ブトキシカルボニル基(Boc)、t−アミルオキシカルボニル(Aoc)、イソプロピルオキシカルボニル基、2−(4−ビフェニル)−2−プロピルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、メチルスルホニルエトキシカルボニル基)、シクロアルキルウレタン型保護基(例えば、アダマンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基及びイソボニルオキシカルボニル基)、アシル型保護基又はスルホニル型保護基(例えば、トリフルオロアセチル、o−ニトロフェニルスルフェニル基、ホルミル基、アセチル基、フタロイル基)、アルキル型保護基〔例えば、トリチル基、ジフェニルメチル基、C−Cアルキル基(例えば、メチル基、t−ブチル基)〕等が挙げられ、好ましくはベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基である。
【0021】
カルボキシル基の保護基とは、各反応において保護基として働く基であればよく、ハロゲン原子で置換されてもよいC−Cアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、トリクロロエチル基)、C−Cアルコキシ基;C−Cアルキル基;ニトロ基;及びハロゲン原子から選択される置換基によって置換されてもよいベンジル基(例えば、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−ニトロベンジル基)、アリル基、フェナシル基またはベンズヒドリル基が挙げられ、好ましくはC−Cアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、tert−ブチル基)である。
【0022】
フッ化水素捕捉剤は、好ましくはフッ素のアルカリ金属塩であり、その例としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化ルビジウムが挙げられ、より好ましくはフッ化ナトリウムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
原料であるtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体は、例えばTetrahedron Letters 31(51),7403−7406(1990)、Tetrahedron Letters 39(10),1169−1172(1998)などに記載されている製法を参考に合成することができる。
【0024】
本発明において、cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体は、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に、フッ化水素捕捉剤の存在下、N,N−ジエチル−N−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)アミン(「石川試薬」)を反応させることによって得ることができる。ここで、フッ化水素捕捉剤及び石川試薬の添加は、フッ化水素捕捉剤を先に添加した後に、石川試薬を加えることが好ましく、これらの試薬の添加は、好ましくは冷却下で行い、その後に適当な反応温度に上げる。
【0025】
反応溶媒としては、反応に関与しない溶媒である不活性溶媒が好ましく、例えば、ハロゲン系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン)、炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル)、アセトニトリル等があげられる。より好ましい溶媒は、ジクロロメタンである。反応温度としては、0℃から反応溶媒還流温度までの間から適宜選定すればよい。好ましい温度は0〜40℃、より好ましい温度は、10〜30℃であり、さらに好ましい温度は、20〜30℃である。
【0026】
石川試薬の量は、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に対し、1当量以上3当量以下、望ましくは1.1〜1.9当量であり、より望ましくは1.1〜1.3当量である。フッ化水素捕捉剤の量は、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に対し、1当量以上3当量以下、望ましくは1.1〜1.9当量であり、より望ましくは1.1〜1.3当量である。フッ化水素捕捉剤の量は、石川試薬に対し等量以上であることが好ましい。
【0027】
反応の終点は、原料であるtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体の消失を薄層クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーで観察することにより決定されることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の方法をより具体的に説明するが、例示されたものに特に限定されない。石川試薬とはN,N−ジエチル−N−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)アミンである。
【0029】
実施例1
(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−フルオロピロリジン−2−カルボン酸メチルの合成
【0030】
【化3】

(2S,4R)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボン酸メチル(4.91g,0.020mol)とフッ化ナトリウム(1.01g,0.024mol)をジクロロメタン(50mL)に懸濁し、氷冷下、石川試薬(4.35mL,0.024mol)を加え、ゆっくり室温まで昇温した後、20時間撹拌した。反応後、反応液を氷冷飽和重曹水(70mL)に注ぎ、次いで有機層と水層を分離した。水層を酢酸エチルで抽出し、この抽出液と先ほど得た有機層とを合せ、10%硫酸水素カリウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液にて順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥後、溶媒及び石川試薬の分解物(N,N−ジエチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオンアミド)を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜0:1)に付し、表題化合物(4.61g、無色油状物)を得た。
ESI−MS:m/z 270([M+Na]).
H−NMR(CDCl):δ(ppm)5.21(dm,J=52.5Hz,1H),4.60−4.35(m,1H),3.74(s,3H),3.95−3.35(m,2H),2.60−2.10(m,2H),1.50(s,minor conformer)and 1.42(s,major conformer)(9H).
実施例2
(2S,4S)−1−ベンジルオキシカルボニル−4−フルオロピロリジン−2−カルボン酸メチルの合成
【0031】
【化4】

(2S,4R)−1−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボン酸メチル(306mg,0.00108mol)とフッ化ナトリウム(55mg,0.00131mol)をジクロロメタン(1.8mL)に懸濁し、氷冷下、石川試薬(293mg,0.00131mol)を加え、ゆっくり室温まで昇温した後、20時間撹拌した。反応後、反応液を氷冷飽和重曹水(5mL)に注ぎ、次いで有機層と水層を分離した。水層を酢酸エチルで抽出し、この抽出液と先ほど得た有機層とを合せ、10%硫酸水素カリウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液にて順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥後、溶媒及び石川試薬の分解物(N,N−ジエチル−2,3,3,3−テトラフルオロプロピオンアミド)を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜0:1)に付し、表題化合物(227mg、無色油状物)を得た。
ESI−MS:m/z 304([M+Na]).
H−NMR(CDCl):δ(ppm)7.41−7.25(m,5H),5.33−5.06(m,3H),4.65−4.50(m,1H),3.75(s,1.5H)and 3.65(s,1.5H),3.97−3.60(m,2H),2.61−2.21(m,2H).
比較例
【0032】
以下に、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体である(2S,4R)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−ヒドロキシピロリジン−2−カルボン酸メチルの4位フッ素化について、石川試薬単独を用いた場合、石川試薬及びフッ化水素捕捉剤を用いた場合の製造方法の比較検討の結果を示す。下記表の条件以外は、実施例1の方法と同様におこなった。参考までに、ジエチルアミノ硫黄トリフルオリドを用いた場合の同化合物のフッ素化の収率は81%である(Tetrahedron Letters 39(10),1169−1172(1998))。
【0033】
【表1】

本発明により、副反応を抑制し、好収率かつ穏和な条件で目的とするcis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体を得ることが出来た。したがって、本方法は、従来法と比較して、cis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体を高収率かつ工業的規模での供給を可能にする優れた方法である。
参考例
【0034】
以下に本発明により得られた(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−フルオロピロリジン−2−カルボン酸メチルを出発原料に用いて、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)阻害活性を有するシアノピロリジン誘導体(2S,4S)−4−フルオロ−1−{[(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)アミノ]アセチル}ピロリジン−2−カルボニトリルモノベンゼンスルホン酸塩の合成例を参考として記載する。
【0035】
I.(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−フルオロピロリジン−2−カルボン酸の合成
(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−フルオロピロリジン−2−カルボン酸メチル(5.00g)をメタノール(30mL)に溶解し、氷冷攪拌下、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液(12mL)を徐々に滴下した。室温にて2時間攪拌後、メタノールを減圧留去し、得られた残渣をジエチルエーテルで洗浄した後、10%硫酸水素カリウム水溶液(70mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水及び飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣にジイソプロピルエーテル(20mL)を加え、析出結晶を濾取し、表題化合物(3.91g、白色粉末)を得た。
融点:158−159℃.
ESI−MS:m/z 256([M+Na]).
H−NMR(DMSO−d):δ(ppm)12.55(brs,1H),5.24(dm,J=54.4Hz,1H),4.27(dd,J=9.3,9.0,1H),3.69−3.47(m,2H),2.61−2.31(m,2H),2.30−2.15(m,1H),1.41(s,minor conformer)and 1.36(s,major conformer)(9H).
【0036】
II.(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−2−カルバモイル−4−フルオロピロリジンの合成
(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−フルオロピロリジン−2−カルボン酸(70.0g)をテトラヒドロフラン(700mL)に溶解した後、−11℃に冷却し、トリエチルアミン(33.4g)、クロロ炭酸エチル(35.8g)をゆっくり加え、−15℃で30分攪拌した。続いて、反応溶液に28%アンモニア水(73mL)を加え、−10℃で40分攪拌した後、酢酸エチルとテトラヒドロフランの混合液(4:1,1400mL)、及び水(230mL)を加え攪拌した。有機層と水層を分液し、水層を更に酢酸エチルとテトラヒドロフランの混合液(4:1,350mL)で抽出した後、有機層を合せ、10%硫酸水素カリウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液にて順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗結晶をアセトニトリル−ジイソプロピルエーテル混合溶媒から再結晶し、表題化合物(57.7g、白色粉末)を得た。
融点:172−173℃.
ESI−MS:m/z 255([M+Na]).
H−NMR(DMSO−d):δ(ppm)7.21(brs,major conformer)and 7.15(brs,minor conformer)(1H),6.94(brs,1H),5.21(dm,J=54.1Hz,1H),4.13(d,J=9.6Hz,1H),3.70−3.45(m,2H),2.56−2.24(m,1H),2.24−2.08(m,1H),1.41(s,minor conformer)and 1.36(s,major conformer)(9H).
【0037】
III.(2S,4S)−2−カルバモイル−4−フルオロピロリジン塩酸塩の合成
(2S,4S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−2−カルバモイル−4−フルオロピロリジン(122g)を酢酸エチル(400mL)に懸濁し、氷冷攪拌下、4mol/L塩酸−酢酸エチル(525mL)をゆっくり滴下した。氷冷で30分、室温で3時間攪拌した後、析出結晶を濾取し、表題化合物(85.9g、白色粉末)を得た。
融点:237−239℃(分解).
ESI−MS:m/z 155([M+Na]).
H−NMR(DMSO−d):δ(ppm)9.75(brs,2H),8.14(s,1H),7.72(s,1H),5.39(dm,J=52.4Hz,1H),4.30(dd,J=10.5,3.8Hz,1H),3.66−3.22(m,2H),2.80−2.22(m,2H).
【0038】
IV.(2S,4S)−1−クロロアセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリルの合成
(2S,4S)−2−カルバモイル−4−フルオロピロリジン塩酸塩(2.00g)をジメチルホルムアミド(20mL)に懸濁し、氷冷下、クロロアセチルクロリド(1.48g)及びトリエチルアミン(2.53g)を順次加え、氷冷で30分攪拌した。続いて塩化シアヌル(1.33g)を加え、氷冷で30分、室温で30分攪拌した。反応液を氷水にあけ、10分攪拌した後、析出結晶を濾取し、表題化合物(1.76g、白色粉末)を得た。
融点:173−175℃.
ESI−MS:m/z 213([M+Na]).
H−NMR(DMSO−d):δ(ppm)5.50(dm,J=51.9Hz,1H),5.05−4.94(m,1H),4.52 and 4.39(ABq,J=14.3Hz,2H),3.97(dd,J=24.8,12.3Hz,1H),3.75(ddd,J=39.2,12.4,3.3Hz,1H),2.64−2.22(m,2H).
【0039】
V.(2S,4S)−4−フルオロ−1−{[(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)アミノ]アセチル}ピロリジン−2−カルボニトリルの合成
(2S,4S)−1−クロロアセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル(75.5g)をイソプロピルアルコール(1360mL)に懸濁し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(88.0g)を加えた。反応液を約65℃で5.5時間、室温で1晩攪拌した後、析出結晶を濾取し、表題化合物(66.6g、白色粉末)を得た。
融点:146−148℃.
ESI−MS:m/z 266([M+Na]).
H−NMR(DMSO−d):δ(ppm)5.48(dm,J=51.9Hz,1H),5.00−4.90(m,1H),4.65−4.55(m,1H),3.93(dd,J=24.7,12.5Hz,1H),3.72(ddd,J=39.7,12.5,3.4Hz,1H),3.38 and 3.25(ABq,J=16.5Hz,2H),3.20−3.12(m,2H),2.58−2.32(m,2H),1.92(brs,1H),0.94(s,3H),0.93(s,3H).
【0040】
VI.(2S,4S)−4−フルオロ−1−{[(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)アミノ]アセチル}ピロリジン−2−カルボニトリル モノベンゼンスルホン酸塩の合成
(2S,4S)−4−フルオロ−1−{[(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)アミノ]アセチル}ピロリジン−2−カルボニトリル(222g)をメタノール(3330mL)に懸濁し、室温攪拌下、ベンゼンスルホン酸・一水和物(169g)のメタノール溶液を徐々に滴下した。反応液を室温にて15分攪拌した後イソプロピルエーテル(3670mL)を加え、室温にて2.5時間攪拌した。析出結晶を濾取し、表題化合物(345g、白色粉末)を得た。
融点:220−221℃.
ESI−MS:m/z 266([M+Na])(free base).
H−NMR(DMSO−d):δ(ppm)8.61(brs,2H),7.63−7.57(m,2H),7.36−7.28(m,3H),5.61−5.45(m,1H),5.47(d,J=5.2Hz,1H),5.06(d,J=8.5Hz,1H),4.10 and 3.88(ABq,J=16.6Hz,2H),4.08(dd,J=24.4,11.9Hz,1H),3.78(ddd,J=39.6,11.9,3.4Hz,1H),3.47(d,J=5.2Hz,1H),2.68−2.35(m,2H),1.23(s,3H),1.22(s,3H).
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、安全及び緩和な条件下、好収率かつ高立体選択的にプロリン誘導体4位水酸基をフルオロ基に変換することが可能となった。また本発明により汎用性の高いα−アミノ基のウレタン型保護基をもつアミノ酸基質においてもフッ素化が好収率におこり、フッ素化化合物を工業的規模で供給可能な製造方法を提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]
【化1】

(式中、Rはα−アミノ基の保護基を示し、Rはカルボキシル基の保護基を示す。)で表されるtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体に、フッ化水素捕捉剤の存在下、N,N−ジエチル−N−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)アミンを反応させることを特徴とする、式[II]
【化2】

(式中、R及びRは前記と同意義を示す。)で表されるcis−4−フルオロ−L−プロリン誘導体の製造方法。
【請求項2】
α−アミノ基の保護基が、芳香族ウレタン型保護基、脂肪族ウレタン型保護基、シクロアルキルウレタン型保護基、アシル型保護基、スルホニル型保護基またはアルキル型保護基であり、カルボキシル基の保護基が、ハロゲン原子で置換されてもよいC−Cアルキル基、C−Cアルコキシ基;C−Cアルキル基;ニトロ基;及びハロゲン原子から選択される置換基によって置換されてもよいベンジル基、アリル基、フェナシル基またはベンズヒドリル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
α−アミノ基の保護基がベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、ホルミル基、アセチル基、フタロイル基又はトリチル基であり、カルボキシル基の保護基がメチル基、エチル基、tert−ブチル基、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−ニトロベンジル基、アリル基、フェナシル基、トリクロロエチル基又はベンズヒドリル基である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
フッ化水素捕捉剤がフッ素のアルカリ金属塩である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
フッ化水素捕捉剤がフッ化ナトリウムである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
反応溶媒が不活性溶媒である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
反応溶媒がジクロロメタンである請求項6に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/016880
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513202(P2005−513202)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011827
【国際出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】