説明

dsRNA投与による神経疾患の処置

【課題】神経疾患の処置方法および慢性疼痛を処置するための医薬組成物の提供。
【解決手段】有効量の二本鎖(ds)RNAの髄腔内注射。このdsRNAは標的遺伝子の発現を阻害する。好ましい一実施形態では、慢性疼痛は慢性神経因性疼痛であり、別の好ましい一実施形態では、慢性疼痛は癌性疼痛、骨関節炎性疼痛、異痛または痛覚過敏症からなる群から選択される。また、好ましい一実施形態では、神経疾患はアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、統合失調症(schizophrenia)、癲癇、鬱病および疼痛からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は神経疾患の処置方法、および慢性疼痛を処置するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
特に標的mRNAに相補的な短い一本鎖オリゴヌクレオチドまたはオリゴリボヌクレオチドまたは改変オリゴヌクレオチドにより、遺伝子の発現を阻害する方法は「アンチセンス」として知られている。遺伝子機能を解明する助けとなるツールとしてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の使用は十分記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、多様な疾病の薬剤としても評価されている。
【0003】
アンチセンスの代わりとして、オリゴヌクレオチドを用いたmRNAの配列特異的分解もまた、RNA干渉(RNAi)機構による短いRNA二重らせんにより誘発され得る。RNA干渉は配列特異的、サイレンシングされた遺伝子と配列が相同な二本鎖RNAによって誘発される転写後遺伝子サイレンシングのプロセスである。該標的核酸の発現を阻害するオリゴリボヌクレオチドによる標的核酸の機能の調節は一般に「RNAi」または「RNA干渉」と呼ばれる。有効な標的遺伝子特異的阻害は通常、二重らせんの少なくとも第1鎖の末端におよそ2つのヌクレオチドのオーバーハングを有する短い二本鎖(ds)オリゴリボ-ヌクレオチドにより達成される。このような二本鎖オリゴリボヌクレオチドは短鎖干渉RNA(siRNA)として知られ、たとえば遺伝子機能の解明を助けるツールとして用いられている。
【0004】
治療用として、特定の標的遺伝子の発現を阻害するオリゴヌクレオチドの開発に多大な努力がなされている。出くわす問題の1つは、オリゴヌクレオチドの特定の特徴(たとえば、高分子量、負電荷が多い、代謝的に不安定など)のために、遊離型のオリゴヌクレオチドの標的組織への送達が一般に、罹患標的組織の多様性という点で、小分子阻害剤の場合よりも限られたものとなることであり、たとえば遊離型のオリゴヌクレオチドは患者に経口投与した場合にバイオアベラビリティーが低く、オリゴヌクレオチドの全身送達は、たとえば肝臓、脾臓および腎臓などの少数の臓器に高レベルの薬物が濃縮されることになり、その分布はオリゴヌクレオチドの形式に依存するなどである(Feng et al., in 2000, European Journal of Pharmaceutical Sciences 10, 179-186)。オリゴヌクレオチドの中枢神経系(CNS)への送達には、遊離型のオリゴヌクレオチドが渡ることができない血液脳関門(BBB)による特定の問題がある。オリゴヌクレオチドをCNSへ送達するための1つの手段は髄腔内送達である。しかし、求める治療効果を達成するには、オリゴヌクレオチドがCNSの標的細胞へ効率的にインターナライズされる必要もある。通常、ニューロン起原の細胞へのオリゴヌクレオチドの細胞内インターナリゼーションを助けるには、リポソーム、陽イオン脂質、ナノ粒子形成複合体などの試薬の送達が用いられる。しかし、もし、組織送達試薬を用いずに求める薬理作用を達成することができれば、薬物の開発に著しい経済的かつ技術的利点がある。これまでのところ、送達試薬の助けなしに哺乳類細胞へ入る短いdsRNAを記載したわずかな報告では効果が不十分であることが示されている(Milhaud, Pierre G. et al., J. Interferon Res. (1991), 11(5), 261-5)。本発明者らは今般、驚くべきことに、本発明によって、髄腔内送達されたsiRNAが効率的にCNS組織に入り、CNS系の細胞へ効率的にインターナライズされることを見出した。よって、本発明は今般初めて、siRNAをCNSへ送達することにより、インビボ(in vivo)でCNSにおいてdsRNAにより標的遺伝子を機能的にダウンレギュレートし、それにより病的表現型に影響を与える方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、神経疾患を処置または改善する方法であって、それを必要とする対象への有効量の二本鎖(ds)RNAの髄腔内注射を含み、該dsRNAが標的遺伝子の発現を阻害する方法に関する。好ましい一実施形態では、神経疾患はアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、統合失調症(schizophrenia)、癲癇、鬱病および疼痛からなる群から選択される。より好ましい一実施形態では、疾患は慢性疼痛、好ましくは慢性神経因性疼痛、癌性疼痛または骨関節炎性疼痛である。別の好ましい一実施形態では、疾患は異痛または痛覚過敏症である。あるいは、疾患は炎症性慢性疼痛である。別の好ましい一実施形態では、標的遺伝子はプリン受容体P1もしくはP2、ガラニンR1受容体、バニロイド受容体1、電位依存性カルシウムチャネル(N型)、テトロドトキシン抵抗性ナトリウムチャネルNav1.8(PN3/SNS)、TRPM8、IL-24、IL-20RαまたはIL-20Rβからなる群から選択される。特に好ましいものはP2受容体であり、最も好ましいものはP2X3またはP2X2である。さらに好ましい標的遺伝子としては、Mob-5またはMMP7がある。
【0006】
それを必要とする対象は好ましくは哺乳類である。本発明の一態様では、それを必要とする対象は齧歯類、好ましくはラットである。関連の態様では、対象はサルまたはヒトである。
【0007】
本発明の一態様によれば、髄腔内注射されるdsRNAの量は50μg〜1500μg、好ましくは180μgを超え、より好ましくは200μgを超え、300μgを超え、または400μgを超える。
【0008】
本発明の別の態様では、dsRNAは15〜25nt、好ましくは19ntの二本鎖領域を含む。関連の態様では、dsRNAは少なくとも1つのヌクレオチド、好ましくは1、2、3または4つのヌクレオチドのアンチセンスまたはセンス鎖または両鎖上に3’オーバーハングを含む。好ましい一実施形態では、このオーバーハングの末端前ヌクレオチドはmRNA標的鎖に相補的である。別の好ましい一実施形態では、このオーバーハングは少なくとも1つの改変ヌクレオチドを含み、好ましい改変は2-MOE改変である。さらに好ましい一実施形態では、このオーバーハングは少なくとも1つのUUおよび/またはdTdT基を含む。また、UUUUを含むオーバーハングまたはUUUUからなるオーバーハングも好ましい。なおさらに好ましい一実施形態では、dsRNAは少なくとも1つの改変結合を含み、好ましくは少なくとも1つのホスホロチオエート結合である。
【0009】
本発明の別の態様は、慢性疼痛の処置のためのdsRNAの使用に関する。このdsRNAは好ましくはそれを必要とする対象に髄腔内注射により投与され、標的遺伝子の発現を阻害する。好ましい一実施形態では、慢性疼痛は慢性神経因性疼痛であり、別の好ましい一実施形態では、慢性疼痛は癌性疼痛、骨関節炎性疼痛、異痛または痛覚過敏症からなる群から選択される。さらに好ましい一実施形態では、標的となる遺伝子はプリン受容体P1もしくはP2、ガラニンR1受容体、バニロイド受容体1、電位依存性カルシウムチャネル(N型)、テトロドトキシン抵抗性ナトリウムチャネルNav1.8(PN3/SNS)、TRPM8、IL-24、IL-20RαまたはIL-20Rβをコードする遺伝子であり、最も好ましくはP2X3 またはP2X2をコードする遺伝子である。さらなる好ましい遺伝子としては、Mob-5またはMMP7がある。
【0010】
本発明の別の態様は、有効量のdsRNAを含み、そのdsRNAが標的遺伝子の発現を阻害する医薬組成物に関する。これらの標的遺伝子は好ましくは慢性疼痛、好ましくは慢性神経因性疼痛において過剰発現する。好ましい標的遺伝子はプリン受容体P1もしくはP2、ガラニンR1受容体、バニロイド受容体1、電位依存性カルシウムチャネル(N型)、テトロドトキシン抵抗性ナトリウムチャネルNav1.8(PN3/SNS)、TRPM8、IL-24、IL-20RαまたはIL-20Rβである。特に好ましいものはP2受容体であり、最も好ましいものはP2X3またはP2X2である。さらなる好ましい標的遺伝子としてはMob-5またはMMP7がある。別の好ましい一実施形態では、有効量の二本鎖RNAを含む医薬組成物は配列番号5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16からなる群から選択される。
【0011】
本発明の他の目的、特徴、利点および態様は、当業者には以下の記載から明らかになろう。しかしながら、以下の記載および特定に実施例は本発明の好ましい実施形態を示すものながら、単に例として示されるものであると理解すべきである。開示されている発明の精神および範囲内の種々の変更および改変は、当業者であれば、以下の記載を読めば、また、本開示の他の部分を読めば、容易に明らかとなろう。
【0012】
発明の詳細な説明
本明細書に記載される発明は記載されている特定の方法論、プロトコール、および試薬に限定されず、可変であると考えられる。また、本明細書で用いる用語は単に特定の実施形態を記載するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではないと考えられる。
【0013】
特に断りのない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の熟練者に共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明を実施または試験する上で、本明細書に記載されているものと同様または同等の方法および材料のいずれを用いてもよいが、以下、好ましい方法、装置および材料を記載する。本明細書に記載の全ての刊行物は、本発明に関して用い得る、刊行物で報告されている材料および方法論を記載および開示する目的で出典明示により本明細書の一部とする。
【0014】
本発明の実施において、分子生物学における多くの慣例技術が用いられる。これらの技術は周知のものであり、たとえば、Harlow, E. and Lane, eds., 1988, "Antibodies: A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I, II, and III, 1997 (F. M. Ausubel ed.); Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.; DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, 1985 (D. N. Glover ed.); Oligonucleotide Synthesis, 1984 (M. L. Gait ed.); Nucleic Acid Hybridization, 1985, (Hames and Higgins); Transcription and Translation, 1984 (Hames and Higgins eds.); Animal Cell Culture, 1986 (R. I. Freshney ed.); Immobilized Cells and Enzymes, 1986 (IRL Press); Perbal, 1984, A Practical Guide to Molecular Cloning; the series, Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, 1987 (J. H. Miller and M. P. Calos eds., Cold Spring Harbor Laboratory);およびMethods in Enzymology Vol. 154 and Vol. 155 (それぞれWu and Grossman, and Wu, eds.)で説明されている。
【0015】
本明細書において、また、添付の特許請求項において、単数形「a」、「an」および「the」は、そうではないことが明示されていない限り、複数形を含むものとする。
【0016】
本明細書において、「二本鎖リボ核酸(dsRNA)」とは、遺伝子もしくは合成起原またはベクターの発現から誘導されたオリゴリボヌクレオチドまたはポリリボヌクレオチド、改変または非改変、およびそのフラグメントまたは部分(これらは部分的に二本鎖であっても完全に二本鎖であってもよく、平滑末端であっても5’-および/または3’-オーバーハングを含んでいてもよく、また、それ自体再び折りたたまれて二本鎖領域が与えられた単一のオリゴリボヌクレオチドを含むヘアピン型のものであってもよい)を指す。
【0017】
本明細書において、「siRNA」は短い干渉RNAを表し、RNAiに有用な短い二本鎖リボ核酸をさす。
【0018】
本明細書において、遺伝子発現の「阻害」とは、その遺伝子の発現の少なくとも10%、33%、50%、90%、95%または99%の低下を意味する。
【0019】
本明細書において、オリゴヌクレオチドに関する「〜の形態」または「〜の形式」とは、オリゴリボヌクレオチドの種々の化学的性質、特に、たとえばリボース部分の化学的に改変された2’OH基、またはホスホチオエート結合のような改変されたヌクレオシド間結合、またはたとえば5-メチル-Cのような改変された核塩基など、天然のリボヌクレオチドに比べた場合の改変をさす。
【0020】
本明細書において、「対象」とは、任意のヒトまたは非ヒト生物をさす。哺乳類が好ましい。
【0021】
本明細書において、ヌクレオチドとは、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを意味し、オリゴヌクレオチドおよびオリゴリボヌクレオチドは互換的であり、文脈に応じてリボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドを含む改変または非改変オリゴヌクレオチドをさす。
【0022】
本発明は、髄腔内注射されたdsRNAが標的遺伝子の発現を阻害し、それによりインビボ(in vivo)において治療効果がもたらされ、したがって、dsRNAの投与により、神経疾患の治療的処置の成功が達成されたことを初めて示すという驚くべき発見に基づくものである。さらに、異痛におけるsiRNAからの薬理作用の大きさは、類似のアンチセンスオリゴヌクレオチドからのものよりずっと大きい。たとえば、アンチセンスオリゴヌクレオチドからの用量制限毒性では異痛に対する薬理作用を見込めないが、siRNAに使用からはこのような用量制限毒性は見られず、ASOよりもsiRNAを用いることの利点の可能性が示される。よって、本発明によってdsRNAは神経疾患の治療的処置に利用可能となる。
【0023】
本発明によれば、阻害に用いるリボ核酸は少なくとも部分的に二本鎖の特徴を持つが、全体的に二本鎖であってもよい。このRNAは自己相補的な一本鎖であっても、あるいは、2以上の別個の相補鎖を含んでもよい。
【0024】
本発明によれば、10〜50個のヌクレオチド、好ましくは15〜25個のヌクレオチド長の短い二本鎖RNA(siRNAとも呼ぶ)が特に好ましい。17〜21個のリボヌクレオチド長の二重らせんであるオリゴリボヌクレオチドからなるdsRNAがいっそう好ましい。19リボヌクレオチド長の二重らせんであるオリゴリボヌクレオチドがさらにいっそう好ましい。
【0025】
効率、すなわち、標的遺伝子の阻害の程度は、その標的配列に対するdsRNAの特異性をはじめとするいくつかの異なる因子に依存する。これに関しては、特異性とはホモロジー、すなわち、二重らせん領域のdsRNAと標的配列との間の配列同一性を意味する。当業者ならば、有意な阻害を達成するためには必ずしも100%の配列同一性は必要ないことが分かるであろう。通常、標的核酸の発現を阻害するには、dsRNAと標的配列の間には少なくとも75%の配列同一性があれば十分である。 少なくとも80%の配列同一性が好ましく、少なくとも90%の配列同一性がより好ましい。DsRNAと標的配列の間に少なくとも95%の配列同一性があれば最も好ましい。最良なのは明らかに100%である。目的の標的mRNAだけをターゲッティングするためには、siRNA試薬は標的mRNAに対して100%のホモロジーを、そして、その細胞または生物に存在する他の全ての遺伝子に対して少なくとも2つのミスマッチヌクレオチドを持たなければならない。特定の標的配列の発現を効率的に阻害するのに十分な配列同一性を有するdsRNAを分析および同定する方法は当技術分野で既知である。配列同一性は、当技術分野で既知の配列比較およびアライメントアルゴリズム(Gribskov and Devereux, Sequence Analysis Primer, Stockton Press, 1991およびそこに引用されている参照文献参照)、ならびにたとえば、デフォルトパラメーターを用いたBESTFITソフトウエアプログラム(たとえば、ウイスコンシン州立大学Genetic Computing Group)で実行されるようなSmith-Watermanアルゴリズムによるヌクレオチド配列間の差異のパーセンテージの算出により最適化することができる。RNAi試薬の効率に影響を及ぼすもう1つの因子は、標的mRNAの標的領域である。RNAi試薬による阻害に有効な標的mRNAの領域は実験により判定できる。最も好ましいmRNA標的領域はコード領域であろう。また、非翻訳領域、特に3’-UTR、スプライス部位も好ましい。これを目的に、たとえば、Elbashir et al. (2001)に記載されているようなトランスフェクションアッセイを行ってもよい。当業者に周知の他の好適なアッセイおよび方法もいくつか当技術分野に存在する。
【0026】
本発明のdsRNAはまた、改変ヌクレオチド残基を含み得る。薬物開発の分野の熟練者ならば、siRNAがTolen et al. 2002, Nucl. Acids Res. 30, 1757-1766; Elbashir S.M. et al, 2001 EMBO J., 20, 6877-6888; FEBS 2002, 521, 195-199; Current Biology 2001, 11, 1776-1780; Nature Biotech. 2002, 19, 497-500; Nature Biotech. 2002, 19, 505-508; Nucleic Acids Research 2002, 20, 1757-1766; Science 2002, 296, 5567, 550-553; Methods (San Diego, CA, United States) 2002, 26(2), 199-213に記載されるような種々の形式で存在し得ることが容易に分かるであろう。
【0027】
dsRNAは平滑末端化されていても、あるいは、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドからなるループ、または化学合成リンカー(WO 00/44895)のいずれかで末端において、または少なくとも一方の末端において連結されていてもよい。好ましい一実施形態では、このリボ核酸は、少なくとも1つのリボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチド、または改変ヌクレオチドのdsRNAのアンチセンス鎖および/またはセンス鎖上に3’末端ヌクレオチドオーバーハングを含む。1、2、3または4個のヌクレオチドを含むオーバーハングが好ましい。これらのオーバーハングはリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドの双方を含んでもよく、さらに改変された糖部分を含み得る。オーバーハングはいずれの配列であってもよいが、好ましい一実施形態では、オーバーハングは標的mRNA鎖に相補的である。別の好ましい一実施形態では、オーバーハングは少なくともUU基またはdTdT基を含む。別の好ましい一実施形態では、アンチセンス鎖上のオーバーハングはmRNA標的鎖に相補的な末端前オーバーハンギングヌクレオチドを有する。好ましくは、このようなオーバーハングは2-ヌクレオチドオーバーハングである。さらに好ましい一実施形態では、オーバーハングは4Uからなる。
【0028】
別の好ましい一実施形態では、siRNAの最3’位はヒドロキシル基である。さらに、その5’末端はヒドロキシル基またはリン酸基であってよい。
【0029】
糖部分は改変されていなくとも改変されていてもよい。好ましい改変糖部分オリゴヌクレオチドは2’位に下記:F;O-、S-、またはN-アルキル;O-、S-またはN-アルケニル;O-、S-またはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル(ここで、アルキル、アルケニルおよびアルキニルは置換または非置換C1〜C10アルキルまたはC2〜C10アルケニルおよびアルキニルであり得る)のうちの1つを含む。特に好ましいのは、O[(CH2)n O]m CH3、O(CH2)n OCH3、O(CH2)n NH2、O(CH2)n NR2、O(CH2)n CH3、O(CH2)n ONH2、およびO(CH2)n ON[(CH2)n CH3)]2(ここで、nおよびmは1〜約10である)である。その他の好ましいオリゴヌクレオチドは2’位に下記:C1〜C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリール(alkaryl)、アラルキル、O-アルカリールまたはO-アラルキル、SH、SCH3、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2 CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリール、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA開裂基、リポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物動態特性を改良する基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学的特性を改良する基、および同様の特性を有する他の置換基のうち1つを含む。好ましい改変は、2’-メトキシエトキシ(2’-O--CH2 CH2 OCH3、2’-O--(2-メトキシエチル)または2’-MOEとしても知られる)(Martin et al., Helv. Chim. Acta, 1995, 78, 486-504)、すなわち、アルコキシアルコキシ基を含む。さらに好ましい改変としては、2’-ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわち、O(CH2)2 ON(CH3)2基(2’-DMAOEとしても知られる)、2’-メトキシ(2’-O--CH3)、2’-アミノプロポキシ(2’-OCH2 CH2 CH2 NH2)を含む。このカテゴリーのさらに好ましい改変として、Rajwanshi et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 1656-1659に記載されているようにひとまとめにしてLNA(Locked Nucleic Acids)として知られている二環式種の改変がある。当業者ならば常法を用いてこのような糖構造を改変することができる。このような改変された糖構造物の製造を教示する代表的な米国特許としては、限定されるものではないが、米国特許第4,981,957号、同第5,118,800号、同第5,700,920号および同第5,969,116号が挙げられ、各々、出典明示によりその全開示内が本明細書の一部とされる。
【0030】
dsRNAのヌクレオシド間結合は「通常の」3’→5’ホスホジエステル結合であってもよいし、あるいは、少なくとも1つの化学的に改変された結合を含んでもよい。好ましい一実施形態では、少なくとも1つのオーバーハンギングヌクレオチドは1以上の改変結合を含むが、オリゴヌクレオチドの二本鎖部分はホスホジエステルヌクレオシド間結合を含む。好ましい改変結合としては、限定されるものではないが、たとえば、米国特許第3,687,808号、同第4,469,863号および同第5,625050号(各々、出典明示によりその全開示内容を本明細書の一部とする)に開示されているものが挙げられる。好ましい一実施形態では、これらの結合はホスホロチオエート、キラルホスホロチオエートまたはホスホロジチオエートである。上記のような改変された結合を有するオリゴヌクレオチドを含む化合物の合成のための技術は常法を用いて達成でき、当業者に知られている。
【0031】
これらのオリゴリボヌクレオチドは、当業者に公知のいくつかの異なる化学法を用い、市販の、または自家製のオリゴヌクレオチド合成装置での化学合成(Micura R., Angewandte Chemie, International Edition (2002), 41(13), 2265-2268)により製造することができる。これらのオリゴヌクレオチドはまた、たとえば、AmbionのSilencer(商標)siRNA構築キットなどの市販のキットを用い、好適な鋳型のインビトロ(in vitro)転写によって製造することもできる。あるいは、これらのオリゴリボヌクレオチドは一時的または安定的トランスフェクションの双方による、プラスミドからの細胞内siRNAの転写により合成することもできる(Paddison PJ et al., 2002, Genes and Development 16, 948-958, Paul et al., 2002, Nat. Biotech 29, 505-508)。
【0032】
遺伝子発現に対するdsRNAの作用の結果、典型的には標的遺伝子の発現が、本発明にしたがって処理しなかった細胞に比べ、少なくとも10%、33%、50%、90%、95%または99%阻害される。投与する材料を低用量にする、細胞内のdsRNAを低濃度にする、かつ/またはdsRNAの投与後の時間を長くすると、もっと低レベルで、かつ/またはもっと小さい細胞画分で(たとえば、標的細胞の少なくとも10%、20%、50%、75%、90%または95%)で阻害が起こり得る。しかし、求める結果を得るために条件を適合させることは当業者の範囲内である。遺伝子発現の定量化は、細胞内の標的遺伝子産物の量を評価することにより確立することができる。たとえば、標的遺伝子から転写された任意のmRNAをハイブリダイゼーションプローブ、またはRT-PCRに基づく方法論を用いて検出してもよいし、あるいは、翻訳されたポリペプチドをコードされているポリペプチドに対して惹起された抗体を用いて検出してもよい。
【0033】
dsRNAは本願に従い、髄腔内注射(すなわち、脳および脊髄組織を満たしている髄液への注入)により送達される。SiRNAの髄液への髄腔内注射はボーラス注射として、または皮膚下に埋植でき、髄液へのsiRNAの規則的かつ一定の送達を与えるミニポンプによって行うことができる。それが産生される脈絡膜叢から、脊髄および背根神経節を下り、次に、小脳を上昇し、皮質を経て、クモ膜顆粒(ここで、髄液はCNSへ流出することができる)へと向かう髄液の循環は、注入された化合物の大きさ、安定性、および溶解度に依存するが、髄腔内送達された分子はCNS全域のいたるところで標的と出会い得る。
【0034】
髄腔内注射されるdsRNAの量は標的遺伝子によって異なり、適用すべき適当な量は標的遺伝子ごとに個々に決めなければならない。典型的には、この量は10μg〜2mg、好ましくは50μg〜1500μg、より好ましくは100μg〜1000μgの範囲である。本発明によれば、用量制限毒性はsiRNAに関するものよりASOに関するオリゴリボヌクレオチドのほうがずっと低い量であったことが見出された。たとえば、ラットモデルにおける用量制限毒性はASOに関しては180μg/日で見られたが、siRNAに関しては、このような用量制限毒性は400μg/日でもまだ存在しなかった。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、髄腔内注射されるsiRNAの用量は少なくとも50μg、より好ましくは少なくとも100μg、より好ましくは少なくとも150μg/日、より好ましくは少なくとも180μg、より好ましくは少なくとも200μg、より好ましくは少なくとも300μg、最も好ましくは少なくとも400μgである。髄腔内注射されるdsRNAの用量は他の生物では適宜調節しなければならないことは当業者には明らかであり、ヒトにとって適当な用量はたとえばかなり高いものであろう。
【0035】
本発明によれば、阻害される遺伝子はCNSで発現される。標的遺伝子は常にというわけではないが、多くの場合、調節されない遺伝子、多くはある病態においてアップレギュレートされる遺伝子である。CNSで発現される遺伝子の例としては、サイトカインの遺伝子、アルツハイマー病またはパーキンソン病または多発性硬化症などの神経変性または再生の原因となる遺伝子、CNSに感染するウイルスに由来するウイルス遺伝子、統合失調症、癲癇または鬱病の原因となる遺伝子がある。好ましい一実施形態では、遺伝子は疼痛の原因となるものである。
【0036】
疼痛は、ある一定領域の慢性状態を含む言葉である。急性痛は組織損傷の状態の可能性に対する生理的警報として働く。慢性疼痛は刺激と疼痛が無関連の場合に起こり、この疼痛はもはや防護的機構とはいえない。慢性疼痛状態はいくつかの臨床的特徴により特徴づけられる。内発的な疼痛同様、患者は痛覚過敏(有害な機械的、温度、または化学的刺激に応答して著しく誇張される)、および異痛(従来無害であった刺激が疼痛として知覚される)を示すことがある。これらの特徴は全て、末梢の感覚神経の機能および脊髄および脳の感覚情報の処理における変化を含む一連の複雑な事象によるものである。これらの変化はニューロンの損傷に応答して起こるか、または組織損傷または炎症中に放出されるメディエーターに応答して起こる。広く言えば、慢性疼痛症候群は炎症性(侵害としても知られる)または神経性として定義することができる。慢性的な炎症性の疼痛はその名の通り、慢性関節リウマチ、火傷、筋損傷、または外科創傷など、基礎に炎症がある症状で起こることを示唆している。炎症痛の基礎にある機構に関する知見は近年著しく進展してきており、種々のメディエーター、ならびに感覚神経の末梢端の活性化および増感、ならびにその結果としての脊髄ニューロンの反応性の長期的変化を含むことが知られている。慢性神経因性疼痛は一次病巣または神経系の不全が存在するところで起こり、たとえば、三叉神経痛、糖尿病性神経障害、疱疹後神経痛、切断または物理的神経損傷などの症状で起こる。慢性神経因性疼痛は外傷による、糖尿病、帯状疱疹、または後期癌(下記参照)などの疾病による、あるいは化学的傷害による(たとえば、数種の抗HIV薬)神経の損傷によるものである。また、それは切断(乳房切除術を含む)後にも起こることがあり、腰痛にも関連する。慢性神経因性疼痛の機構は十分理解されていないが、ある種のイオンチャネルの新たな発現による感覚神経の内発的発火、感覚繊維の、脊髄の種々の層への出芽、ならびに感覚神経および脊髄における種々の神経伝達物質および受容体の発現の変化を含むと思われる。従来、慢性神経因性疼痛は難治性であり、標準的な非ステロイド系およびオピエート系鎮痛薬に耐性があることが分かっている。よって、このタイプの疼痛を処置するための新たな鎮痛薬の、未検討の臨床的必要性があるのは明らかである。癌性疼痛は最も一般的な慢性疼痛症候群である(おそらく炎症性成分と神経性成分を有する)。特に乳癌、前立腺癌、および肺癌では、進行した癌を有する患者の3分の1が骨格転移を起こすと見積もられる。転移性の骨疾患では一般に、通常離れた領域に存在する骨の疼痛を生じ、刺すような痛みの発現を伴った痛みと焼けるような深く突き刺される感覚であると言われる。骨癌性疼痛の原因となる機構はまだ分かっていないが、おそらく構造的損傷、骨膜の刺激、および神経陥入を含む。正常な骨代謝の破壊ならびに炎症性プロスタグランジンおよびサイトカインの産生の証拠がある。骨癌性疼痛の現行の処置はオピエート類に頼っているが、必要な用量では許容されない副作用が生じ、患者の少なくとも20%ではなお痛みが制御できない。これらの患者の生活の質を最適にするには、十分許容され、かつ、有効な新規な鎮痛薬が望まれる(Coleman RE (1997) Cancer 80; 1588-1594)。骨関節炎性疼痛は、人々が一般医を訪れる最も一般的な形態の慢性神経因性疼痛である(おそらく炎症性成分と神経性成分を有する)。骨関節炎は関節組織、特に軟骨、滑膜および肋軟骨下の骨における進行性の構造的変化を含む慢性疾患である。典型的には、関節接合部が軟骨の浮腫およびびらん、肋軟骨下の骨および滑膜の肥厚、ならびに骨増殖体の形成を示し、これらは全て関節表面の変形の原因となる。骨関節炎の主たる臨床症状は疼痛であるが、この症状における慢性神経因性疼痛の基礎にある機構は分かっていない。
【0037】
よって、本発明の別の実施形態では、この遺伝子は慢性疼痛の原因となるものである。疼痛の原因となる遺伝子は、たとえば、以下に記載の動物モデルを用いて決定することができる。さらに、種々の遺伝子が慢性疼痛に関連することが分かっている。たとえば、バニロイド受容体 1のメンバー(NM_080706、NM_080705、NM_080705、 NM_080704)、または電位依存性カルシウムチャネル(N型)、特にα2δ1サブユニットa2d1(NM_000722)およびa1Bサブユニット(M94172およびM94173)、または代謝型グルタミン酸受容体1(mGluR1)(Fundytus M.E. et al., British Journal of Pharmacology (2001), 132(1), 354-367)またはテトロドトキシン抵抗性ナトリウムチャネルNav1.8(PN3/SNS)(Yoshimura N. et al., Journal of Neuroscience (2001), 21(21), 8690-8696)をコードする遺伝子がある。
【0038】
本発明の好ましい一実施形態では、この遺伝子はプリン受容体P1またはP2のファミリーのメンバー(Ralevic & Burnstock, Pharmacological Reviews 50 (1998), 413-492)、好ましくはP2YまたはP2Xサブクラスのメンバーをコードする。より好ましいのはP2X3またはP2X2遺伝子である。好ましい遺伝子のその他の例としては、限定されるものではないが、カテプシンS(NM_004079)、TrpM8(NM_024080)、ガラニンR1受容体(Jacoby AS et al., Genomics (1997) 45:3 496-508, NM_012958、NM_008082、NM_001480)または米国特許出願第60/369893号に記載の遺伝子、たとえばIL-24(NM_006850)、IL-20RαまたはIL-20Rβ(NM_014432およびAAZ20504)が挙げられる。
【0039】
別の好ましい一実施形態では、この遺伝子はMob-5ファミリーのメンバーをコードする。本明細書において「Mob-5」とは、Mob-5、Genbank # AAF75553ならびにこのタンパク質のヒトオルトログであるインターロイキン24(Genbank # AAA91780)をさす。ラットMob-5のヒトオルトログがまたhMDA-7ならびに発癌性16の抑制としても知られている(Jiang,H et al., Oncogene 11, 2477-2486,1995)。上記遺伝子の定義には、限定されるものではないが、ヒトまたは他のいずれかの種に由来する、変異体、部分形態、イソ型、前駆体形態、全長ポリペプチド、融合タンパク質または上記のいずれかのフラグメントをはじめ、これらのポリペプチドのいずれか、また全ての形態が含まれる。Mob-5の明らかな変異体としては、たとえばc49a Genbank, 受託番号NM; AAB69171が挙げられる。当業者に明らかな上記遺伝子のホモログも本定義に含まれることを意味する。また、この用語は、ゲノムDNAライブラリーなどのいずれかの種の天然供給源、ならびに発現系を含む遺伝子操作された宿主細胞から単離されるか、あるいはたとえば自動ペプチド合成装置またはそのような方法の組み合わせを用いて化学合成により作出される上記遺伝子もさすものと考えられる。このようなポリペプチドを単離および調製する手段は当技術分野においては十分理解されている。
【0040】
別の好ましい一実施形態では、この遺伝子はマトリックスメタロプロテイナーゼであるMMP7(マトリライシン)をコードする。「MMP7」とは、限定されるものではないが、ヒトまたは他のいずれかの種に由来する、変異体、部分形態、イソ型、前駆体形態、全長ポリペプチド、MMP7 配列を含む融合タンパク質、または上記のいずれかのフラグメントをはじめ、このポリペプチドのいずれか、または全ての形態をさす。ラットMMP7の配列はGenbank, 受託番号NM_012864に見出せる。当業者に明らかなMMP7のホモログおよびオルトログも本定義に含まれることを意味する。また、この用語は、ゲノムDNAライブラリーなどのいずれかの種の天然供給源、ならびに発現系を含む遺伝子操作された宿主細胞から単離されるか、あるいはたとえば自動ペプチド合成装置またはそのような方法の組み合わせを用いて化学合成により作出されるMMP7もさすものと考えられる。このようなポリペプチドを単離および調製する手段は当技術分野においては十分理解されている。
【0041】
好ましい一実施形態では、ターゲッティングされる遺伝子は哺乳類起原のものであり、より好ましい一実施形態では、この遺伝子は齧歯類の遺伝子であり、最も好ましいのはラットの遺伝子である。別の好ましい一実施形態では、この遺伝子はサルまたはヒトの遺伝子である。
【0042】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象において疼痛の原因となる遺伝子の発現を、慢性疼痛を処置するのに有効な量で阻害する有効量の二本鎖RNAを含む医薬組成物を提供する。好ましい一実施形態では、この遺伝子は慢性神経因性疼痛モデルにおいて調節される。より好ましい一実施形態では、これらの遺伝子はP1もしくはP2プリン受容体、より好ましくはP2YまたはP2Xサブクラスの受容体をコードする。最も好ましいのはP2X3またはP2X2遺伝子である。好ましい遺伝子の他の例としては、限定されるものではないが、バニロイド受容体1、電位依存性カルシウムチャネル(N型)、テトロドトキシン抵抗性ナトリウムチャネルNav1.8(PN3/SNS)、TRPM8、ガラニンR1受容体、または米国特許出願第60/369893号に記載の遺伝子、たとえばIL-24、IL-20RαもしくはIL-20Rβが挙げられる。
【0043】
慢性神経因性疼痛をはじめとする慢性疼痛を処置および/または改善するのに有用な本明細書で開示される医薬組成物は、このような疾患を処置および/または改善するのに治療上有効な用量で患者に投与される。治療上有効な量とは、たとえばMcGillペインスコア(Melzack, R. Pain (1975) Sept. 1(3):277-299)の使用に基づいた、慢性疼痛の痛み症状の改善をもたらすに十分な化合物の量をさす。
【0044】
髄腔内投与のための組成物および製剤としては、滅菌水溶液が挙げられ、これらはバッファー、希釈剤、および限定されるものではないが、浸透促進剤、担体化合物およびその他の医薬上許容される担体または賦形剤といった他の好適な添加剤も含み得る。
【0045】
本発明の医薬組成物としては、限定されるものではないが、溶液、エマルション、およびリポソーム含有製剤が挙げられる。本発明の医薬製剤は製薬業において周知の常法にしたがって調製することができる。このような技術としては、有効成分と医薬担体または賦形剤とを会合させるステップを含む。一般にこれらの製剤は有効成分と担体とを均一かつ緊密に会合させることにより調製される。
【0046】
本発明の組成物は多くの適当な投与形のいずれに製剤化してもよい。本発明の組成物はたとえば水媒または混合媒中の懸濁液として製剤化してもよい。水性懸濁液はさらに、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランをはじめ、懸濁液の粘度を高める物質を含んでもよい。また、この懸濁液は安定剤を含んでもよい。
【0047】
本発明における使用に好適な医薬組成物としては、有効成分が意図する目的を達成するに有効な量で含まれている組成物が挙げられる。有効用量の決定は十分当業者の能力の範囲内である。
【0048】
治療上有効な用量とは、慢性疼痛の病的作用を処置および/または改善するに有用な有効成分、すなわち、本発明の二本鎖RNAの量をさす。治療効力および毒性は細胞培養または試験動物における標準的な薬学的手順、たとえばED50(集団の50%に治療上有効な用量)およびLD50(集団の50%に致死的な用量)により判定することができる。毒性作用と治療作用との用量比が治療指数(therapeutic index)であり、LD50/ED50比で表すことができる。大きな治療指数を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータはヒト用途の用量範囲を処方する上で使用される。このような組成物に含まれる用量はほとんど、または全く毒性なく、ED50を含む一定範囲の循環濃度内にあることが好ましい。用量は、用いる投与形、患者の感受性および投与経路に応じ、この範囲内で変更する。
【0049】
正確な用量は処置の必要な対象に関連する因子に照らして、医師が判断する。用量および投与は十分なレベルの有効部分を与えるよう、または目的の作用を維持するように調節する。考慮すればよい因子としては、病態の重篤度、対象の健康状態、対象の齢、体重および性別、食餌、投与時間および投与頻度、薬物の組み合わせ、反応感受性、ならびに療法に対する耐性/応答が挙げられる。特定の用量および送達方法についての指針は文献に示されており、当技術分野の医師であれば通常入手可能である。
【0050】
本発明の別の態様は、慢性疼痛の処置用の薬剤を製造するための二本鎖RNAの使用を提供する。好ましくは、この二本鎖RNAはプリン受容体P1もしくはP2、またはガラニンR1受容体、またはIL-24もしくはIL-20RαもしくはIL-20RβまたはMMP7、より好ましくはMob-5またはP2X3またはP2X2を阻害する。該慢性疼痛は好ましくは癌性疼痛または骨関節炎性疼痛、より好ましくは痛覚過敏症、最も好ましくは異痛である。
【0051】
以下、実施例を示し、本発明をさらに説明する。これらの実施例は例示のために示すものであり、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
以下の実施例により本発明を説明する。
【0053】
材料および方法
P2X3またはMOB-5をターゲッティングするオリゴヌクレオチドの合成
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)
P2X3およびGAPDHに対するASOは、2’-MOE基で改変した3’末端に9個のヌクレオチドを有する完全にホスホロチオエート化された18マーであり、ホスホルアミダイト化学(欧州特許出願EP992506 A2)を用いて合成し、HPLC精製し、エレクトロスプレー質量分析およびキャピラリーゲル電気泳動により同定されたものである。ミスマッチを含む対照オリゴヌクレオチドについては、マッチオリゴヌクレオチドのおよその塩基組成を維持するものであった(表1)。
【0054】
【表1】

【0055】
特に断りのない限り、ヌクレオチド間結合はホスホジエステル、N=デオキシリボヌクレオシド、n=2’-O-(2-メトキシエチル)リボヌクレオシド、c=2’-O-(2-メトキシエチル)5-メチルシチジン、t=2’-O-(2-メトキシエチル)5-メチルウリジン、s=ホスホロチオエートである。
【表2】

【0056】
オリゴヌクレオチドは全て、完全なホスホジエステル18マーであり、Nはデオキシリボヌクレオシド、n=2’-O-(2-メトキシエチル)リボヌクレオシド、c=2’-O-(2-メトキシエチル)5-メチルシチジン、t=2’-O-(2-メトキシエチル)5-メチルウリジンである。
【0057】
オリゴリボヌクレオチド(siRNA)
本発明に記載される改変された合成オリゴリボヌクレオチドおよび改変されたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、インビトロ(in vitro)用としてはABI394またはExpedite/Moss Synthesizers (Applied Biosystems)にて、また、in vivo用としてはOligoPilot II (Amersham Pharmacia Biotech)にて、標準的なホスホルアミダイト化学を用いて製造する。ホスホルアミダイトはアセトニトリルに0.05M濃度(Oligopilot IIでは0.2M)で溶かし、アセトニトリル中ベンジミダゾリウムトリフレートの0.2M溶液よりホスホルアミダイトを活性化させることでカップリングを行う。カップリング時間は通常3〜6分の間である。最初のキャッピングは標準的なキャッピング試薬を用いて行う。硫化はN-エチル、N-フェニル-5-アミノ-1,2,4-ジチアゾール-3-チオンの0.05M溶液を用いて2分間行う(EP-A-0992506に記載)。酸化はTHF/ピリジン/水(1:1:1)中0.1Mのヨウ素溶液により2分間行う。2回目のキャッピングは酸化または硫化の後に行う。次のカップリングのため、オリゴヌクレオチド成長鎖をジクロロメタンまたはジクロロエタン中2%のジクロロ酢酸により脱トリチル化する。配列が完成した後、支持体に結合した化合物を切断し、オリゴリボヌクレオチドに関しては35℃で6時間、メチルアミン溶液(41%水性メチルアミン/33%エタノール性メチルアミン1:1 v/v)による、また、アンチセンスオリゴヌクレオチドに関しては、55℃で16時間、32%アンモニア水溶液による「トリチル・オン(Trityl-on)」のようにして脱保護する。得られた懸濁液を凍結乾燥により乾固させる。オリゴリボヌクレオチドに関しては、1Mフッ化テトラブチルアンモニウムで50℃にて10分間、さらに35℃にて6時間処理すると、2’-O-シリル基が除去される。得られた粗溶液をそのままRP-HPLCで精製する。精製した脱トリチル化化合物をエレクトロスプレー質量分析およびキャピラリーゲル電気泳動で分析し、それらの吸光係数に従い、UV 260nMにより定量する。ラットP2X3およびMOB-5に対するオリゴリボヌクレオチドおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド、ならびにそれらの対照をそれぞれ表3および4に示す。
【表3】

【0058】
RNA NAS-8646とNAS-8647、NAS-7556とNAS-7557、NAS-4882とNAS-4883、NAS-4884とNAS-4885、NAS-7127と7126、およびNAS-10104とNAS-10105をアニーリングしてsiRNAを得る。NAS-8646とNAS-8647、およびNAS-10104と10105はオリゴリボヌクレオチドの3’末端に2’-MOEリボヌクレオチドを有し、配列NAS 8647は標的遺伝子に完全に相補的である。NAS-7556とNAS-7557はオリゴリボヌクレオチドの3’末端に2’-MOE-Aリボヌクレオチドを有し;NAS-4882とNAS-4883はオリゴリボヌクレオチドの3’末端に2-dTデオキシリボヌクレオチドを有し;NAS-4884とNAS-4885はオリゴリボヌクレオチドの3’末端に2-dTデオキシリボヌクレオチドを有する。オリゴリボヌクレオチドNAS-7126と7127は無関連の遺伝子をターゲッティングする。特に断りのない限り、ヌクレオチド間結合はホスホジエステル、N=リボヌクレオシド、n=2’-O-(2-メトキシエチル)リボヌクレオシド、c=2’-O-(2-メトキシエチル)5-メチルシチジン、t=2’-O-(2-メトキシエチル)5-メチルウリジン、dN=デオキシリボヌクレオシド、s=ホスホロチオエートである。
【表4】

【0059】
RNA NAS-11535とNAS-11536、NAS-11537とNAS-11538をアニーリングしてsiRNAを得る。ASO NAS-4660は無関連の遺伝子をターゲッティングする。特に断りのない限り、ヌクレオチド間結合はホスホジエステル、N=リボヌクレオシド、dN=デオキシリボヌクレオシド、n=2’-O(メトキシエチル)リボヌクレオシド、s=ホスホロチオエートである。
【0060】
ラット-P2X3を発現するCHO細胞系統(rP2X3-CHO)の作出
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1, ATCC CCL61)を、ベクターpRK7(John Woodから厚意により入手; Chen, C.C et al. (1995). Nature 377, 428-430)中の完全ラットP2X3 cDNA配列で安定的にトランスフェクトした。トランスフェク細胞の選択を可能とするため、ベクターを10倍過剰の、ネオマイシン耐性遺伝子を含むpMC1neo (Stratagene)で同時エレクトロポレーションした。細胞を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)、2mMグルタミン、および10.000IU/500mlペニシリン/ストレプトマイシンを添加したMinimal Essential Mediumα(MEMα)で培養した。
【0061】
ラットP2X3/P2X2(rP2X3/2-CHO)を発現するCHO細胞系統の作出
rP2X3インサートを、鋳型としてラットDRG RNA由来のRTを用い、以下に挙げたオリゴを用いてPCRにより得た。
P2X3-Hind-F: CGCAAGCTTGGCTGTGAGCAGTTTCTCAGTATGAACTTG(配列番号17)
P2X3- SacI-R: CTTGAGCTCGGGAAGAGGCCCTAGTGACCAATAG(配列番号18)
注:下線の配列はP2X3相補的オリゴに付加されたHindIII制限酵素部位である。リバースプライマーにおけるSacI部位はクローニングには用いなかった。
【0062】
このPCR産物をAdvantage-HF2ポリメラーゼを用い、熱周期94℃30秒、62℃60秒、および68℃180秒を6サイクル、94℃30秒、および68℃240秒をさらに29サイクルにて増幅した。このPCRフラグメントをpGEM T-Easy (Promega)にクローニングし、T7およびM13リバースプライマーを用いて配列決定した。このクローンは受託番号X91167のGenbank cDNAと同じ配列を持っていた。
【0063】
rP2X3インサートをpGEM T-Easyから、NotIでの消化により切り出し、NotIで線状化して脱リン酸化したpcDNA5/FRTへサブクローニングした。
【0064】
クローンのBamHIおよびXhoIでの消化によりrP2X2を得た(上記参照)。rP2X2を同じ酵素で切断したpcDNA5/FRT-Neoにサブクローニングした。
【0065】
各2.5μgのDNAを用い、FuGENE6試薬を用いて、2つのFRT部位が組み込まれたCHO Flp-In細胞をトラスフェクトした。rP2X2でトランスフェクトされた細胞をGeneticin 500μg/mlで選択した後、rP2X3でトランスフェクトし、ハイグロマイシン-B 200μg/mlで選択し、二重トランスフェクト物を得た。
【0066】
ラットMOB-5を発現する細胞系統のトランスフェクション
用いた細胞系統はRBA (ATCC番号1747)であった。これは、ラット皮膚に由来し、平板状に極めて強固に結合して増殖し、皮膚様の形態で、本来rasおよびmob-5(rasの下流にあることが知られている)を発現する。
【0067】
トランスフェクションの24時間前、2×105細胞を2ml/ウェルの量で6ウェルプレートにプレーティングし、70〜80%の密集度とした。トランスフェクション当日、トランスフェクター溶液の2倍原液を、リポフェクチン(登録商標)を血清フリーOptiMEM (GIBCO-BRL, Gaitherburg, MDの両所)に希釈し(配合:1ml OptiMEM中に、3μlリポフェクチン/所望の最終オリゴヌクレオチド濃度100Nm)、室温で15分間インキュベートすることにより調製した。次に、この溶液を、OptiMEM中にASOの所望の最終量の2倍を含む2倍ASO溶液と1:1で合わせた。このトランスフェクション混合物を室温で15分間インキュベートしてトランスフェクション複合体を形成させた後、事前に吸引した各ウェルの細胞に2mlを加えた。リポフェクチン試薬のみの対照および通常細胞対照(処理なし)も含めた。37℃で4時間インキュベート下後、MEMα中50%のFBS 500μlを各ウェルに加え、最終FBS濃度10%とした。これらの培養物を5% CO2の加湿インキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした後、mRNAを回収した。
【表5】

【0068】
哺乳類細胞のエレクトロポレーション
標準的な電気トランスフェクション(Bioradキュベット0.4cm中、106細胞/125μl、250V、0.3μF、無限抵抗)を用い、CHO-rP2X2/3細胞を0.15、0.3、0.6または1.2ナノモルのASOまたはsiRNA二重らせんでトランスフェクトした。エレクトロポレーション後、すぐ、サンプルを6mlの培養培地と合わせた。結果として、ASOまたはsiRNA試薬の対応する最終濃度は10、50、100または200nMとなった。細胞を非被覆96ウェルプレート(Costar, カタログ番号#3904)にプレーティングし、37℃で24時間または48時間インキュベートした後、それぞれRNAまたはタンパク質を抽出した。
【0069】
全RNAの単離と定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)のよるアッセイ
RNeasy96キット(Qiagen)を用い、全RNAを抽出および精製した。リアルタイムPCRのためのプライマー対およびFAM標識TaqManプローブはPrimer Express v2.0プログラム(ABI PRISM, PE Biosystems)を用いてデザインした。Q-PCR反応のためには、TaqMan PCR試薬キットプロトコール(Eurogentec)に従い、50ngの全RNAを、全量25μl中、5’および3’プライマー(各10μM)、TaqManプローブ(5μM)、MuLV逆転写酵素6.25u, PE Biosystems)、RNアーゼOut RNアーゼ阻害剤(10u, Life Technologies)およびTaqMan PCR試薬キット(Eurogentec)の成分と混合した。逆転写およびリアルタイムPCRを下記のようにGeneAmp Sequence Detector 5700 (PE Biosystems)にて行った:50℃で2分の逆転写、95℃で10分の変性、その後、95℃で15秒の変性および60℃で1分のアニーリングおよび伸張を50サイクル。遺伝子発現の相対数値はABI PRISM 7700ユーザー会報#2 (PE Biosystems)に記載のようにして算出した。
【0070】
ウエスタンブロッティング
6ウェルプレートで増殖させた細胞をPBSで洗浄し、141mM NaCl、5mM KCl、2.5mM Tris pH7.4、50nM Va3VO4、0.1%(v/v)Nonidet P-40(100%)、および0.06gプロテアーゼ阻害剤/100mlを含むバッファーで溶解させた。溶解物を14000rpmで10分遠心分離した。上清中の可溶化タンパク質に対し、NOVEX(商標)Mini-CellシステムにてNuPAGE(商標)4〜12% Bis-TrisゲルでSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、PVDFメンブラン(Millipore)に移した。これらのフィルターを、ECFウエスタンブロッティングキット(Amersham Pharmacia Biotech)に含まれているブロッキングバッファーで1時間ブロッキングし、0.05% Tween 20を含む1×PBS, pH7.4中で数回洗浄し、1:5000希釈の一次抗P2X3抗体(Neuromicsから購入)とともに1時間インキュベートした。その後、これらのフィルターを、間に数回洗浄しながら、製造業者の指示に従い、ECFウエスタンブロッティングキットの二次抗体、三次抗体およびECF基質とともにインキュベートした。可視化されたバンドの定量はソフトウエアImageQuant(商標)(Molecular Dynamics)により行った。
【0071】
FLIPRアッセイ-FLIPRデータの作成と分析
FLIPR実験は次のようにして行った。要するに、2.5mMプロベニシドの存在下で30〜45分間細胞にfluo-4 AMを加え、HBSS(Gibco)+20mM HEPESで2回洗浄し、蛍光リーダー(FLIPR, Molecular Devices)に移した。薬物のプレートは5倍の最終濃度で調製した。Fluo-4の蛍光は0.5Hzで3分測定した。20ポイントのベースラインが検出されたところでアゴニストを添加した。
【0072】
FLIPR配列ファイルをIgor Pro (Wavemetrics)を用いて分析した。ベースラインを薬物添加前の20ポイントの平均値に設定し、薬物添加後の50のデータポイント中の最大シグナルとしてピークを検出した。蛍光の相対変化(dF/F)を、(ピーク−ベースライン)/(ベースライン)として求めた。これらの値の平均をとり、濃度応答分析に関しては、データにS字曲線方程式を当てはめることでさらに分析した。データは平均値+/- S.E.M.またはEC50平均値として表されている(95%信頼区間)。
【0073】
慢性疼痛の動物モデル
慢性神経因性疼痛のインビボ(in vivo)動物モデルには次のものが含まれる。
Seltzerモデル
Seltzerモデル(Seltzer et al. (1990) Pain 43: 205-218)では、ラットを麻酔し、一方の大腿(通常は左)の正中を上方に小さく切開し、坐骨神経を露出させる。後大腿二頭筋半腱様筋神経が総坐骨神経を分岐する点から少し離れた転子付近の部位で、この神経の周囲の結合組織を注意深く取り除く。7-0縫合糸を、3/8カーブのリバースカッティングミニニードル(reversed-cutting mini-needle)で神経に挿入し、神経の厚みの背側1/3〜1/2が結紮内に保持されるようにしっかり結紮する。縫合糸とクリップで筋肉と皮膚を閉じ、傷口に抗生物質粉末を塗布する。擬似手術動物では、座骨神経を露出させるが、結紮はせず、擬似手術動物の場合と同様、傷口を閉じる。
【0074】
慢性絞扼神経損傷(Chronic Constriction Injury, CCI)モデル
CCIモデル(Bennett, G.J. and Xie, Y.K. Pain (1988) 33: 87-107)では、ラットを麻酔し、一方の大腿(通常は左)の正中を上方に小さく切開し、坐骨神経を露出させる。この神経の周囲の結合組織を取り除き、この神経を約1mm間隔で4箇所、4/0腸線縫合糸で、神経の表面がわずかにくびれるように軽く結紮する。上記のように縫合糸とクリップで傷口を閉じる。擬似手術動物では、座骨神経を露出させるが、結紮はせず、擬似手術動物の場合と同様、傷口を閉じる。
【0075】
Chungモデル
末梢神経に対する損傷を含むSeltzerおよびCCIモデルに対し、Chungモデルは脊髄神経の結紮を含む(Kim, S.O. and Chung, J.M. Pain (1992): 50:355-363)。このモデルでは、ラットを麻酔し、腹臥位に置き、脊髄の左側をL4-S2レベルで切開する。坐骨神経は分岐してL4、L5およびL6脊髄神経を形成しているが、傍脊柱筋を深く切り、L4-S2レベルで脊髄突起から筋肉を分離すると坐骨神経の一部が現れる。L6横突起を小さな骨鉗子で注意深く取り除くと、これらの脊髄神経が見える。L5脊髄神経を単離し、7-0縫合糸でしっかり結紮する。傷口を一重の筋縫合糸(6-0シルク)および1または2個の皮膚縫合クリップで閉じ、抗生物質粉末を塗布する。擬似手術動物では、L5神経を露出させるが、結紮はせず、上記と同様に傷口を閉じる。
【0076】
軸索切断(Axotomy)モデル
軸索切断モデルは坐骨神経の完全切断と結紮を含む。これらの神経終末は神経小丘を形成するが、この神経は再生できないので、このモデルでは挙動相関が見られず、脚は恒常的に麻痺する(Kingery and Vallin, Pain 38, 321-32, 1989)。
【0077】
高度坐骨神経損傷(High Sciatic Lesion)モデル
このモデルでは、坐骨神経を腸骨弓の領域で穿孔する。神経に対する顕在的な損傷は見られないが、局部的な腫脹が、神経が腸骨弓の下を通っているので、神経に対する圧力を高める。このモデルは腸骨でしばしば見られる症状を模倣したものである。
【0078】
慢性炎症性疼痛モデル
フロイントの完全アジュバントにより誘発される機械的痛覚過敏症を慢性炎症性疼痛のモデルとして用いることができる(Stein, C. et al. Pharmacol. Biochem. Behav. (1988) 31 :445-451)。このモデルでは、典型的には、雄のSprague-DawleyまたはWistarラット(200〜250g)の片方の後脚に25μlのフロイントの完全アジュバントを足底内注射する。この後脚に著しい炎症が起こる。一般に、炎症発生から24時間後、機械的痛覚過敏症が十分確立されたとみなされた際に薬物を投与して効力を評価する。
【0079】
挙動指数(Behavioral index)
全ての慢性疼痛モデル(炎症性および神経因性)で、機械的痛覚過敏症は、Analgesymeter (Ugo-Basile, Milan)を用いて段階的に高まる圧力刺激に対する両後脚の引っ込め閾値(withdrawal threshold)を測定することにより評価する。機械的異痛は、両後脚の足底表面にvon Frey hairで適用する無害の機械的刺激に対する引っ込め閾値を測定することにより評価する。熱的痛覚過敏症は、各後脚の裏面に適用する無害の熱刺激に対する引っ込め閾値を測定することにより評価する。全てのモデルで、機械的痛覚過敏症および異痛ならびに熱的痛覚過敏症は外科術後1〜3日以内に発症し、少なくとも50日間持続する。本明細書に記載のアッセイでは、外科術前後に薬物を適用し、特に外科術後約14日目に痛覚過敏症の発症に対する効果を評価し、確立された痛覚過敏症を反転させるそれらの能力を決定することができる。
【0080】
痛覚過敏症の反転パーセンテージは以下のように算出する:
【数1】

【0081】
本明細書で開示される実施例では、上記の慢性神経因性疼痛モデルにおいてWistarラット(雄)を用いる。ラットは外科術時約120〜140グラムの体重である。外科術は全てエンフルラン/O2吸入麻酔下で行う。
【0082】
完全切断モデル以外の全てのモデルでは、明らかな機械的および熱的痛覚過敏症および異痛が発症し、脚の引っ込め閾値に低下が見られ、触覚刺激、圧力刺激または熱刺激に対する後脚の反射的引っ込め応答が高くなる。また、外科術後、動物は処置された脚に特徴的な変化を示す。大多数の動物で、処置された後脚の指が合わせて握られ、脚がわずかに一方へ曲がり、また、中には足指が下へ巻き込んでいるラットもいる。結紮したラットの歩行は様々であるが、跛行はあまりない。中には、処置された後脚をケージの床面から浮かせたり、捕まえた時に後脚を不自然にこわばらせて伸ばしたりするラットもいる。ラットは接触に極めて敏感となる傾向があり、鳴き声を上げることもある。その他のラットの健康状態および症状は良好である。
【0083】
慢性疼痛の動物モデルの処置
動物モデルに用いたオリゴヌクレオチド試薬には次のような名称が付けられている:ASO: NAS-6798(配列番号5)、MSO: NAS-6799(配列番号6)、P2X3 RNAi: NAS-8646およびNAS-8647(それぞれ、配列番号7および8)、P2X3 RNAiミスセンス: NAS-10104およびNAS-10105(それぞれ、配列番号19および20)。
【0084】
siRNAの髄腔内送達
dsRNAをバッファー(100mM KA 2mM MgAc、0.1749g HEPES遊離酸(M=238.3)、0.2102g NaCl/100ml RNアーゼフリー水; KOHで20℃にてpH 7.63)中、留置カニューレを通じて髄腔内投与した。ラットを麻酔し、正中のすぐ側部、腹側腸骨棘より尾側へ約10mmの背中の皮膚を切開した。無菌カテーテル(ポリエチレンPE10チューブ)をガイドカニューレ(20ゲージニードル)を通じて挿入し、髄腔内を頭部側へ3cmほぼL1レベルまで前進させた。次に、このカテーテルを、左または右側腹部に皮下挿入し、P2X3受容体またはMOB-5受容体 siRNA、ミスセンスsiRNAまたは生理食塩水(1μl/時、7日)を送達するオスモティックミニポンプ(Alzet)に接続した。創傷クリップで切開部を閉じ、抗生物質粉末を塗布した。実験から180ならびに220μg/日であれば毒性の徴候がないものと判定された。機械的痛覚過敏症は、α,β-メチレン-ATP(Me-ATP)の投与前は1日目と6日目、そしてMe-ATP投与1時間後に、Analgesymeter (Ugo-Basile, Milan)を用いて、高まる圧力刺激に対する両後脚の引っ込め閾値を測定することで評価した。限界値を250gに設定し、終点を引っ込め、鳴き声、または明らかな身もだえとした。各動物を無作為の順番で、一度だけ試験した。異なる試験動物群から得られた機械的痛覚過敏症データの統計学的有意性はANOVAの後にTukeyのHSD検定を用いて分析した。試験の最終日には、1.0μmol(10μl)のMe-ATPを対側の後脚に足底内(ipl)投与した。投与から10人看護、機械的痛覚過敏症に対する脚の引っ込め閾値を測定した。
【0085】
実施例1
ラットP2X3を発現する細胞系統へのsiRNAのトランスフェクション
【表6】

CHO-rP2X3細胞のオリゴフェクタミン媒介トランスフェクションにより送達された種々のsiRNAによるP2X3 mRNA阻害の効力。Q-PCR分析。OF:オリゴフェクタミン単独を用いた対照;mmNAS-7558/7559:ミスマッチを含む対照;NAS-7556/7557:最適化された(NAS-5037として)配列と非相補的moe/psオーバーハングを有するsiRNA;NAS-8646/8647:mRNA相補的オーバーハングを有すること以外はNAS-7556/7557と同様;NAS-4882/4883:最適化された(NAS-5037として)配列と非相補的dTdTオーバーハングを有するsiRNA;NAS-4884/4885:Harborth, J. et al. (2001). J. Cell Science 114: 4557-4565に記載の基準にしたがってデザインされた配列を有するsiRNA。
【0086】
実施例2
【表7】

siRNA NAS-7556/7557によるP2X3タンパク質阻害を%としてプロットしたもの。SDS-PAGEの後、タンパク質をブロットし、抗P2X3抗体(Neuromics)で免疫検出し、ブロットバンドをImageQuant(商標)ソフトウエアで定量し、発現レベルを対照siRNAに対する%としてプロットした。
【0087】
実施例3
【表8】

siRNA NAS-8646/8647とそのアンチセンス類似体NAS-5037との、4回投与時のP2X3発現のmRNA阻害の比較。組換えP2X3と組換えP2X2を発現するCHO細胞系統の エレクトロポレーション。MRNAはリアルタイム定量的PCRで測定した。
【0088】
実施例4
【表9】

FLIPR機能アッセイ。アゴニスト処置の48時間前、10、50、100および200nMの濃度でCHO-r P2X2/P2X3細胞系統へASO-NAS-5037およびsiRNA NAS-8646/8647をトランスフェクトすることによる、10μM Me-ATPアゴニストに対する機能的応答の、無処置対照およびミスマッチ対照(MSO-5655およびsiRNA NAS-7557/7558)と比べた場合のダウンレギュレーション。
【0089】
実施例5
アゴニスト誘発性の疼痛を有するラットにおける痛覚過敏症に対するP2X3 siRNAの効果
【表10】

機械的異痛に対する、ナイーブラットに6日にわたる髄腔内注入として投与したP2X3 RNAiの効果。6日目:1μmol Me-ATPのipl注射およびこれらの処置ラットのVon Frey閾値の測定。ビヒクル:等張バッファー、n=6/処置群。
【0090】
実施例6
アゴニスト誘発性疼痛を有するラットにおける異痛に対するP2X3 siRNAの効果
【表11】

機械的異痛に対する、ナイーブラットに6日にわたる髄腔内注入として投与したP2X3 RNAiの効果。6日目:1μmol Me-ATPのipl注射およびこれらの処置ラットのVon Frey閾値の測定。ビヒクル:等張バッファー、n=6/処置群。
【0091】
実施例7
神経因性疼痛を有するラットにおける機械的痛覚過敏症に対するP2X3 siRNAの効果(Seltzerモデル)
【表12】

0日目に4つのラット群の左後脚を結紮し、毎日ベースラインの機械的痛覚過敏症を測定した。付加的に、非結紮群(ナイーブ)を対照として設けた。11日目にラットにカニューレ留置を行い、ビヒクル、RNAi、RNAiミスセンスまたはASOをさらに6日間注入した。脚の引っ込め閾値(左脚)を毎日測定した。ビヒクル:等張バッファー、n=8/処置群。
【0092】
実施例8
神経因性疼痛を有するラットにおける機械的異痛に対するP2X3 siRNAの効果(Seltzerモデル)
【表13】

0日目に4つのラット群の左後脚を結紮し、毎日ベースラインの機械的痛覚過敏症を測定した。付加的に、非結紮群(ナイーブ)を対照として設けた。
【0093】
11日目にラットにカニューレ留置を行い、ビヒクル、RNAi、RNAiミスセンスまたはASOをさらに6日間注入した。左脚でVon Frey閾値を毎日測定した。ビヒクル:等張バッファー、n=8/処置群。
【0094】
実施例9
神経因性疼痛を有するラットにおける機械的痛覚過敏症に対するMOB-5 siRNAの効果(Seltzer モデル)
【表14】

0日目に4つのラット群の左後脚を結紮し、毎日ベースラインの機械的痛覚過敏症を測定した。付加的に、非結紮群(ナイーブ)を対照として設けた。10日目にラットにカニューレ留置を行い、ビヒクル、RNAiまたはミスセンスをさらに6日間注入した。脚の引っ込め閾値(左脚)を毎日測定した。ビヒクル:等張バッファー、n=8/処置群。各群で右脚でも測定したが、脚の引っ込め閾値はナイーブ動物と違いがなかった。
【0095】
実施例10
神経因性疼痛を有するラットにおける機械的異通に対するMOB-5 siRNAの効果 (Seltzerモデル)
【表15】

0日目に4つのラット群の左後脚を結紮し、ベースラインの機械的胃痛を測定した。付加的に、非結紮群(ナイーブ)を対照として設けた。10日目にラットにカニューレ留置を行い、ビヒクル、RNAiまたはミスセンスをさらに6日間注入した。左脚でVon Frey閾値を毎日測定した。ビヒクル:等張バッファー、n=8/処置群。各群で右脚でも測定したが、脚の引っ込め閾値はナイーブ動物と違いがなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする対象において慢性疼痛を処置するのに有効な量でP2X3またはP2X2の発現を阻害する有効量の二本鎖RNAを含む、医薬組成物。
【請求項2】
有効量の少なくとも1つの二本鎖RNAを含み、該二本鎖RNAが配列番号7、9、11、13、15、17および22からなる群から選択される配列の一鎖を含む、医薬組成物。
【請求項3】
慢性疼痛の処置用の薬剤の製造のための二本鎖RNAの使用であって、該二本鎖RNAがP2X3、P2X2およびMob-5から選択される標的遺伝子を標的とすることを特徴とする、使用。
【請求項4】
二本鎖RNAがプリン受容体P1もしくはP2、またはガラニンR1受容体、またはIL-24もしくはIL-20RαもしくはIL-20Rβ、Mob-5もしくはMMP7、またはP2X3もしくはP2X2を阻害する、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
該慢性疼痛が癌性疼痛または骨関節炎性疼痛または異痛または痛覚過敏症である、請求
項3に記載の使用。
【請求項6】
siRNAを含む組成物であって、
(a)該siRNAが遺伝子P2X3を標的とし、ここで該siRNAが配列番号7〜10または13〜16の配列のいずれかを有する二本鎖RNAのものと対応するP2X3遺伝子配列を標的とするか;または
(b)該siRNAがMob-5遺伝子を標的とし、ここで該siRNAが配列番号21および22の配列を有する二本鎖RNAのものと対応するMob-5遺伝子配列を標的とする、
組成物。
【請求項7】
siRNAが15〜25ntの二本鎖領域を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
siRNAが少なくとも1つのヌクレオチドの、アンチセンスもしくはセンス鎖、または両鎖上に3’オーバーハングを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
3’オーバーハングが少なくとも1つの改変ヌクレオチドを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
3’オーバーハングが少なくとも1つの2’−MOE改変ヌクレオチドを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
3’オーバーハングが4ウラシルを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
siRNAが少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む、請求項6〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
遺伝子P2X3および/または遺伝子Mob-5がヒトのものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
有効量の二本鎖(ds)RNAを含む薬剤であって、該dsRNAが請求項6に記載のsiRNAである、髄腔内注射によりそれを必要とする対象における疼痛を処置または改善するための薬剤。
【請求項15】
該疼痛が慢性神経因性疼痛である、請求項14に記載の薬剤。
【請求項16】
該疼痛が癌性疼痛、骨関節炎性疼痛、異痛および痛覚過敏症からなる群から選択される、請求項14に記載の薬剤。
【請求項17】
dsRNAを含む疼痛の処置または改善用薬剤であって、髄腔内注射により投与することを特徴とする、薬剤。

【公開番号】特開2011−178783(P2011−178783A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34713(P2011−34713)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【分割の表示】特願2004−533463(P2004−533463)の分割
【原出願日】平成15年9月3日(2003.9.3)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】