説明

hERGカリウムイオンチャネルに関する無標識方法

ここに開示されているのは、無標識(Label-free)バイオセンサ(biosensor)を使用してヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(hERG)のイオンチャネル変調剤(modulator)を分類する方法である。ここに開示されているのは、無標識の共鳴導波路回折格子型(RWG)バイオセンサを使用して、3種類の細胞株(内因的にhERGを発現する天然細胞株、hERGを含まない天然細胞株、及び安定的にhERGを発現した人工細胞株)におけるhERG変調剤のDMRシグナルのパターンを明らかにすることであり、さらに、マーカ/細胞のパネル上で作用するhERG活性剤(activator)に対する変調剤分子の対応する変調インデックス、特に上記2つのhERG発現性細胞株における既知の活性剤であるマロトキシン(mallotoxin)のDMRシグナルを明らかにすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年12月31日に出願された米国仮出願第61/291731号の米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(human ether-a-go-go related gene (hERG))は、電位依存性カリウムチャネル(KV11.1)における細孔を形成するαサブユニットをコード化する。hERGチャネルは、心筋細胞、ニューロン、膵臓β細胞、平滑筋、及びいくつかの癌細胞を含む様々な組織内において発現される。
【0003】
hERG電流は、活動電位の再分極において重要な心臓内の遅延整流電流Ikrの主要な成分として最もよく知られている。hERGチャネルにおける遺伝子の突然変異は、突然死を引き起こし得る病気である遺伝性QT延長症候群(LQT)の原因となることが知られている。hERG電流を遮断することができる薬剤、すなわちhERGチャネルのタンパク質輸送を阻害することができる薬剤は後天性(acquired)LQTを引き起こし得る。薬物誘発性の心リスクを最小化するために、研究新薬(Investigational New Drug)(IND)の申請を検討している全ての化合物は、ICH S7Aガイドライン及びICH S7Bガイドラインに従ってかつGLP原則を遵守してhERG相互作用について試験されなければならない。一方、hERGチャネルタンパク質の突然変異はQT延長症候群を引き起こすことも報告された。
【0004】
ここに開示されているのは、hERGチャネル上の分子の作用、さらにhERGチャネルを活性化又は阻害する所望の分子を同定する組成物及び方法である。
【発明の概要】
【0005】
ここに開示されているのは、無標識(Label-free)バイオセンサ(biosensor)を使用してヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(hERG)のイオンチャネル変調剤(modulator)を分類する方法である。ここに開示されているのは、無標識の共鳴導波路回折格子型(RWG)バイオセンサを使用して、3種類の細胞株(内因的にhERGを発現する天然細胞株、hERGを含まない天然細胞株、及び安定的にhERGを発現した人工細胞株)におけるhERG変調剤のDMRシグナルのパターンを明らかにすることであり、さらに、マーカ/細胞のパネル上で作用するhERG活性剤(activator)に対する変調剤分子の対応する変調インデックス、特に上記2つのhERG発現性細胞株における既知の活性剤であるマロトキシン(mallotoxin)のDMRシグナルを明らかにすることである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1A−図1Dは無標識RWGバイオセンサを用いた細胞アッセイによってhERG変調剤を評価及び分類する方法を示している。(A)は大腸癌の細胞株であるHT29におけるhERG活性剤のマロトキシンDMRシグナルであり、(B)は安定的にhERGを発現した人工のHEK293細胞株(HEK−hERG)におけるhERG活性剤のマロトキシンDMRシグナルであり、(C)は天然のHEK293細胞におけるhERG活性剤のマロトキシンDMRシグナルであり、(D)はHT29細胞株及びHEK−hERG細胞株の両方におけるマロトキシンDMRシグナルに対するマロトキシンの変調インデックスである。マロトキシンは16マイクロモルであった。グラフA、B、及びCには、それぞれ、賦形剤(すなわちバッファ)に対応する細胞の正味ゼロのDMRシグナルのみがネガティブコントロールとして含まれた。各々平均化された反応を起こさせるために少なくとも2つの複製物が使用され、これは図2−図5についても同様である。
【図2】図2A−図2Dは無標識RWGバイオセンサを用いた細胞アッセイによってhERG変調剤を評価及び分類する方法を示している。(A)は大腸癌の細胞株であるHT29における抗炎症性薬剤のフルフェナム酸のDMRシグナルであり、(B)は安定的にhERGを発現した人工のHEK293細胞株(HEK−hERG)におけるフルフェナム酸のDMRシグナルであり、(C)は天然のHEK293細胞におけるフルフェナム酸のDMRシグナルであり、(D)はHT29細胞株及びHEK−hERG細胞株の両方におけるマロトキシンDMRシグナルに対するフルフェナム酸の変調インデックスである。フルフェナム酸は全ての細胞において10マイクロモルにてアッセイされ、マロトキシンは16マイクロモルであった。グラフA、B、及びCには、それぞれ、賦形剤(すなわちバッファ)に対応する細胞の正味ゼロのDMRシグナルのみがネガティブコントロールとして含まれた。
【図3】図3A−図3Dは無標識RWGバイオセンサを用いた細胞アッセイによってhERG変調剤を評価及び分類する方法を示している。(A)は大腸癌の細胞株であるHT29におけるプロスタグランジンシンテターゼ阻害剤(inhibitor)のジフルニサルのDMRシグナルであり、(B)は安定的にhERGを発現した人工のHEK293細胞株(HEK−hERG)におけるジフルニサルのDMRシグナルであり、(C)は天然のHEK293細胞におけるジフルニサルのDMRシグナルであり、(D)はHT29細胞株及びHEK−hERG細胞株の両方におけるマロトキシンDMRシグナルに対するジフルニサルの変調インデックスである。ジフルニサルは全ての細胞において10マイクロモルにてアッセイされ、マロトキシンは16マイクロモルであった。グラフA、B、及びCには、それぞれ、賦形剤(すなわちバッファ)に対応する細胞の正味ゼロのDMRシグナルのみがネガティブコントロールとして含まれた。
【図4】図4A−図4Dは無標識RWGバイオセンサを用いた細胞アッセイによってhERG変調剤を評価及び分類する方法を示している。(A)は大腸癌の細胞株であるHT29におけるERK2阻害剤のAG−126のDMRシグナルであり、(B)は安定的にhERGを発現した人工のHEK293細胞株(HEK−hERG)におけるAG−126のDMRシグナルであり、(C)は天然のHEK293細胞におけるAG−126のDMRシグナルであり、(D)はHT29細胞株及びHEK−hERG細胞株の両方におけるマロトキシンDMRシグナルに対するAG−126の変調インデックスである。AG−126は全ての細胞において10マイクロモルにてアッセイされ、マロトキシンは16マイクロモルであった。グラフA、B、及びCには、それぞれ、賦形剤(すなわちバッファ)に対応する細胞の正味ゼロのDMRシグナルのみがネガティブコントロールとして含まれた。
【図5】図5A−図5Dは無標識RWGバイオセンサを用いた細胞アッセイによってhERG変調剤を評価及び分類する方法を示している。(A)は大腸癌の細胞株であるHT29における強力なEGF受容体阻害剤のチルホスチン51のDMRシグナルであり、(B)は安定的にhERGを発現した人工のHEK293細胞株(HEK−hERG)におけるチルホスチン51のDMRシグナルであり、(C)は天然のHEK293細胞におけるチルホスチン51のDMRシグナルであり、(D)はHT29細胞株及びHEK−hERG細胞株の両方におけるマロトキシンDMRシグナルに対するチルホスチン51の変調インデックスである。チルホスチン51は全ての細胞において10マイクロモルにてアッセイされ、マロトキシンは16マイクロモルであった。グラフA、B、及びCには、それぞれ、賦形剤(すなわちバッファ)に対応する細胞の正味ゼロのDMRシグナルのみがネガティブコントロールとして含まれた。
【図6】図6A−図6Bは2つの異なる濃度のKClの下でHEK−hERG細胞を用いた場合のhERG変調剤のRbフラックス測定結果を示している。(A)は5mMのKClであり、(B)は40mMのKClである。KClが5mMに保たれていた際には、当該変調剤は10マイクロモル又は50マイクロモルにおいてアッセイされた。KClが40mMに保たれていた際には、当該変調剤は10mMのみにおいてアッセイされた。
【図7】図7A−図7BはHEK−hERG細胞におけるマロトキシンの用量依存性DMRシグナルを示している。(A)はリアルタイムの動的反応である。(B)は刺激後18分における振幅に基づいて計算されたマロトキシンDMRシグナルであり、マロトキシンの用量の関数としてプロットされた。
【図8】図8A−図8Bにおいて、(A)は3つの異なるhERG遮断剤(blocker)であるシサプリド、アステミゾール、及びセルチンドールの各々の非存在下(コントロール)及び存在下における16μMのマロトキシンに対するHEK−hERG細胞のDMRシグナルを示している。各化合物は30μMであり、30分間細胞を前処理するのに使用された。(B)はアステミゾールによるマロトキシンDMRシグナルの用量依存性阻害結果を示している。
【図9】図9はHEK−hERG細胞におけるマロトキシンのロバストなDMRシグナルを示している。16マイクロモルのマロトキシンによって誘発された場合の平均化された細胞DMR反応がネガティブコントロール(「バッファ」)と比較された。平均化された反応を計算するのに32の複製物が使用された。
【図10】図10A−図10BはHEK−hERG細胞の電流におけるhERG変調剤の効果を示す電気生理学的ダイアグラムである。(A)はニフルム酸であり、(B)はフルフェナム酸である。各分子は50マイクロモルにてアッセイされた。グレーの曲線は変調剤の添加前におけるHEK−hERG細胞の電気生理学的記録を示し、黒の曲線は対応する変調剤の添加後における当該細胞の電気生理学的記録を示した。
【図11】図11A−図11BはHEK−hERG細胞の電流におけるhERG変調剤の効果を示す電気生理学的ダイアグラムである。(A)はチルホスチンであり、(B)はジフルニサルである。各分子は50マイクロモルにてアッセイされた。グレーの曲線は変調剤の添加前におけるHEK−hERG細胞の電気生理学的記録を示し、黒の曲線は対応する変調剤の添加後における当該細胞の電気生理学的記録を示した。
【図12】図12はHEK−hERG細胞の電流におけるAG126の効果を示す電気生理学的ダイアグラムである。AG126は50マイクロモルにてアッセイされた。グレーの曲線はAG126の添加前におけるHEK−hERG細胞の電気生理学的記録を示し、黒の曲線はAG126の添加後における当該細胞の電気生理学的記録を示した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
「組成物及び方法」
「hERG」
ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(hERG)製品は、心筋活動電位の再分極を調節する遅延整流性K+チャネルの急速成分(rapid component)における細孔を形成するサブユニットをコード化する。hERGは電位依存性イオンチャネルであり、かつ細胞の原形質膜においてカリウムイオンの移動を制御するのに関与する。科学文献においてhERGの機能はイオン移動の制御及びそれによる細胞の生態の文脈内において大いに議論され記載されている。hERGイオンチャネルは大きな四量体のタンパク質であり、細胞背景によっては他のタンパク質と錯体を形成し得る。従って、当該細胞背景はhERGの変調を観察するアッセイに影響を与えることがある。ここに開示されたアッセイは、3種類の細胞及び細胞株、すなわち、天然のhERG発現細胞株、hERGを発現しない天然の細胞株、及びhERGを発現するように操作された人工の細胞株を使用する。無標識バイオセンサの細胞アッセイは光学バイオセンサを用いたDMRシグナル又は電気バイオセンサを用いたインピーダンスシグナルなどの汎用の読み出し情報に依存しており、かつ当該バイオセンサのシグナルはしばしば対象となる標的(例えばhERGチャネル)におけるシステム細胞生態情報を含んでいるため、単一のhERG発現細胞を用いたスクリーニング検査結果には高い確率で偽陽性のものが存在し得る。3つの細胞型を結合して無標識バイオセンサを用いたhERG変調を検出することは、偽陽性を大きく減少させるだけでなく、同定されたhERG変調電位の質を高めることができる。さらに、当該3つの細胞株を使用することによって、hERG特有の変調剤の高い分解能の評価が作成される。また、ここに開示されたアッセイはマロトキシンなどのhERG活性剤を使用し、これによってhERGを発現する細胞株の両方におけるhERG活性剤に誘発されたDMRシグナルに対する分子の変調インデックスを生成する。当該変調インデックスはhERGチャネル又はhERGチャネルのシグナル伝達錯体上において作用する分子の作用モードを分類することに使用されることもできる。
【0008】
心筋細胞において重要な役割を果たす一方、hERGチャネルの発現レベルが白血病、大腸癌、胃癌、乳癌、及び肺癌の細胞を含むいくつかの種類の癌細胞内において上昇したことを示す証拠が増えてきている。なぜ癌細胞内においてhERGチャネルが多く発現されるかは明らかではないが、hERGチャネルが癌細胞の増殖に影響を与えることが示された。
【0009】
hERGチャネルの機能はプロテインキナーゼA及びプロテインキナーゼCに関する経路によって変調される。hERGタンパク質がcAMP依存性PKAの活性化によってリン酸化された際にhERG電流は急性的に阻害される。cAMPレベルの上昇及びPKA活性の延長もhERGタンパク質の発現を増大させることがある。さらに、hERG電流はPKA及びPKCを介してアドレナリン受容体によって変調されることがある。
【0010】
hERGチャネルは様々な構造のチャネル遮断剤を収容することができる特有の細孔領域を有している。比較的大きな内部空洞及び当該チャネルの内部(S6)へリックスにおける特定の芳香族アミノ酸残基(Y652及びF656)の存在は、hERGに異なる薬剤を収容及び結合させる重要な特徴である。
【0011】
様々なhERGチャネル遮断剤に加えて、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、マロトキシン、及びA−935142を含む7つのhERGチャネル活性剤が同定された(Su, Z., et al. Electrophysiologic characterization of a novel hERG channel activator. Biochem Pharm 77:1383, 2009を参照)。これらhERG活性剤は異なる化学構造を有しており、かつ異なるメカニズムによってhERGチャネルの活性を強化する。その中で、マロトキシン及びA−935142は電位依存性のチャネル活性化をシフトして脱分極電位を小さくすることができる。電気生理の研究は、10マイクロモルのMTXが最大活性電位の半分の電位(V1/2)を25mVの過分極方向へシフトすることを示した。これら既知のhERG活性剤の中で、PD−118057、NS3623、及びRPR260243は、心室内AP期間及びQT間隔の両方を短くすることが示された。RPR260243及びPD−118057はドフェチリド(dofetilide)のAP延長効果を逆行させることがある。これらチャネル活性剤の作用メカニズムは様々である。NS1643及びNS3623はhERGの電位依存性を右方向へシフトすることによってhERGの不活性化を一次的に低減するが、両方の化合物はS5−ポア(pore)のリンカ(linker)と相互作用するように構成されておらず、hERGチャネルとの作用部位は未知である。マロトキシンは活性化曲線を大きく左方向へシフトするだけでなく非活性化を遅延させ、かつ不活性化への小さな効果を有している。
【0012】
「hERGアッセイ」
薬剤の安全性の問題におけるhERGチャネルの重要性により、hERG機能のアッセイに対する様々な手法が開発されてきた。電気生理のマニュアルパッチクランプ法(manual patch clamp)は常にhERG研究における最適基準(gold standard)とされてきた。しかし、マニュアルパッチクランプは経験豊富な電気生理学者かつ大きな労力を必要とする。近年、hERGチャネル機能における化合物効果の高いスループットの試験を媒体に許容する自動化されたパッチクランプ法(例えばモレキュラーデバイス社のIonWorksなど)が開発されている。単一の破裂細胞(ruptured cell)からhERG活性を測定するパッチクランプとは異なり、蛍光膜電位のアッセイすなわちRbフラックスアッセイは複数の細胞からhERGチャネルの反応を測定する。さらに、生物化学的アッセイを使用してhERGタンパク質に親和性を結合する化合物が測定されてきた。しかし、特に高いスループットの生理学的かつ機能的なアッセイの読み出し情報の欠如は、イオンチャネルに関する創薬においてボトルネックとされている。
【0013】
無標識のバイオセンサ、特に光学バイオセンサの細胞アッセイは、その検知領域すなわち検出領域内における物質の再分配に敏感であるため、これらバイオセンサの細胞アッセイはイオンチャネルの活性を直接監視するのには適していないと一般に考えられている。しかし、少なくとも多くの癌細胞において、hERGは非常に大きなイオンチャネルであるため、大きなシグナル伝達錯体を形成する受容体チロシンキナーゼ及び/又はインテグリンを含むいくつかの他のシグナル伝達分子が共存しているはずである。hERGチャネルが細胞シグナル伝達に関与することを示す証拠が存在する。さらに、異なるメカニズムが介在しているが、最近発見されたいくつかのhERG活性剤は生理学的状態又はそれに近い状態のhERGチャネルの活性化を引き起こすことができる。従って、我々は、無標識のRWGバイオセンサの細胞アッセイが、細胞に電位を付加することなく、当該活性化及びそれに続くhERGチャネルのシグナル伝達を直接アッセイすることができると推測した。
【0014】
無標識の細胞アッセイは、バイオセンサの読み出しすなわち得られる出力シグナルの統合的かつ一般的な性質の故に、特異的ではないと広く考えられている。化合物に誘発されたバイオセンサの所定の出力シグナルは、候補となる異なる細胞プロセスすなわちシグナル伝達事象に由来するものである。さらに、ほぼ全ての化合物に共通して、複合薬理(polypharmacology)を有する化合物はこれらバイオセンサの細胞アッセイによって観測される化合物の作用モードの判定を複雑にする可能性がある。これに対処するために、hERG変調剤をより特異的かつ確実に特性化する方法、同定する方法、及びスクリーニング検査する方法がここに開示されている。
【0015】
例えばトール様(toll-like)受容体などの他のイオンチャネルのような他のタンパク質は、ここに開示された方法に従って同様にスクリーニング検査されかつ特性化されることができる。
【0016】
特定の無標識の細胞アッセイ方法において、その1つは細胞株、標的、活性剤(すなわち変調剤)、及びマーカを有している。これらの組合せは様々な変調剤のアレイのアッセイに使用されることができる(例えば、国際公開第2006108183号(発明者Fang, Y., et al.、発明の名称「Label-free biosensors and cells」)を参照)。
【0017】
典型的な無標識の細胞アッセイ標的法は偽陽性を導出することが多い。これは、標的受容体のバイオセンサシグナルにおける統合的性質の故に無標識の細胞アッセイがしばしば経路レベルで分子のプロファイル作成を行う(profiling)(対象の標的だけでなく当該標的に関する経路上で作用する変調剤が共にスクリーニング検査によって検出されることを意味している)ためである。その結果、典型的な無標識の細胞アッセイ標的法はこれらに関与する経路及び標的に関する情報を導出するが、しばしば標的レベルでの特異性は低いものである。ここに開示された方法は、無標識の標的アッセイ及び経路アッセイから得られる情報を使用して標的レベルにおいて高い特異性のスクリーニング検査結果を実現する。
【0018】
ここに開示された方法は、特定の標的上において作用する変調剤の、従来の無標識の統合された薬理方法よりも高い分解能の評価を提供し、当該従来の方法は例えば米国出願第12/623,693号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods for Characterizing Molecules」、出願日2009年11月23日)及び米国出願第12/623,708号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods of creating an index」、出願日2009年11月23日)に開示されている。米国出願第12/623,693号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods for Characterizing Molecules」、出願日2009年11月23日)及び米国出願第12/623,708号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods of creating an index」、出願日2009年11月23日)は、少なくとも無標識のアッセイ及び方法に関する材料について、参照することより本願に組み込まれているものとする。米国出願第12/623,693号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods for Characterizing Molecules」、出願日2009年11月23日)及び米国出願第12/623,708号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods of creating an index」、出願日2009年11月23日)に開示されている方法においては、マーカパネルが選択されてアッセイされており、この情報は当該マーカに接続された細胞の経路に関する情報を提供する。ここに開示された方法は、特定の標的における適切な経路に基づいて同定された細胞を使用する。特定の実施例において、米国出願第12/623,693号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods for Characterizing Molecules」、出願日2009年11月23日)及び米国出願第12/623,708号(発明者はFang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E、発明の名称は「Methods of creating an index」、出願日2009年11月23日)に開示された方法に使用されている情報は、ここに開示された方法に使用されることができる情報及び同定された細胞を提供するのに使用されることができる。
【0019】
ここに開示されているのは従来未知であった活性を有する分子である。ここに開示されているのはhERGイオンチャネルアッセイ及び無標識バイオセンサアッセイにおいて試験された3000を超える化合物である。これら化合物は、BioMol 640というFDA承認済み薬剤ライブラリ、BioMol 80というキナーゼ阻害剤ライブラリ、BioMol ActiComライブラリ、コーニング社内部参照の化合物ライブラリ、及びコーニング社の内部化合物ライブラリを含む。ここに開示された方法に従って、これら化合物のサブセットはhERG変調剤として同定され、hERG変調剤は、hERG電流への影響の有無にかかわらずhERGシグナル伝達を活性化するhERGシグナル伝達活性剤、hERG阻害剤、及びhERG活性剤の3つのクラスに分類されることができる。
【0020】
従来のhERGイオンチャネルアッセイは、イオン吸収アッセイを使用してRbフラックスなどのイオンフラックスをアッセイすること、すなわちパッチクランプ法を用いてhERG電流を直接アッセイすることを含む。従来から、Rbフラックス及び/又はhERG電流を増加させる分子はhERG活性剤と称され、Rbフラックス及び/又はhERG電流を阻害する分子はhERG阻害剤と称されている。ここに開示された方法は、hERGイオンチャネル活性剤及びhERG経路活性剤を含むhERG活性剤の異なるクラスを同定した。これらhERG活性剤は無標識バイオセンサの細胞アッセイを用いた場合の細胞における検出可能なバイオセンサシグナルとなる場合とならない場合がある。hERGシグナル伝達錯体又はhERGを介したhERG発現細胞において検出可能なバイオセンサシグナルとなるhERG活性剤は無標識バイオセンサのhERG活性剤とも称される。hERG経路活性剤は、細胞内においてhERG又はhERGに関するシグナル伝達錯体を介してもたらされる細胞シグナル伝達を引き起こす分子である。これらhERG経路活性剤はhERGシグナル伝達活性剤とも称される。hERG経路活性剤は、従来的には、hERGイオンフラックス及び/又はhERG電流を増強するものについてはhERG活性剤、阻害するものについてはhERG阻害剤とすることができる。
【0021】
本願のデータが開示するのは、従来は未知であった、hERGチャネルを介したイオンチャネルフラックス活性に依存するhERGの細胞シグナル伝達活性又は依存しないhERGの細胞シグナル伝達活性が存在するということである。hERG経路活性剤は、hERGチャネルの直下又はhERGチャネルに関するシグナル伝達錯体の下流にある特定の経路の活性化を導出し、そして細胞内の検出可能なバイオセンサシグナルを誘発することができる。これら経路は、プロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼC(PKC)、MAPキナーゼ(MAPK)の経路、インテグリン経路、又はこれら経路の組合せを含み得る。
【0022】
本願のデータが明示するものの1つは、プロドラッグ及び薬剤が、従来のhERG活性剤として、またhERG経路活性剤として、hERGチャネルに異なった影響を及ぼし得るということである。
【0023】
マロトキシンは市販されており、無標識のhERG経路活性剤であり(図1)、強力なhERGイオンフラックス活性剤であり(図6)、強力なhERG電流活性剤である(データは示されていない)。
【0024】
さらに同定されたのは、フルフェナム酸がhERG経路活性剤であり(図2)、弱いhERGイオンフラックス活性剤であり(図6)、弱いhERG電流活性剤である(図10B)ことである。
【0025】
さらに同定されたのは、ジフルニサルがhERG経路活性剤であり(図3)、弱いhERGイオンフラックス活性剤であり(図6)、hERG電流阻害剤である(図11B)ことである。
【0026】
さらに同定されたのは、AG126が、特にHT29の内因性hERGチャネル錯体におけるhERG経路活性剤であり(図4)、hERGイオンフラックスに対する非エフェクタ(non-effector)であり(図6)、hERG電流に対する非エフェクタである(図12)ことである。
【0027】
さらに同定されたのは、チルホスチン51がhERG経路活性剤であり(図5)、弱いhERGイオンフラックス活性剤であり(図6)、hERG電流阻害剤である(図11A)ことである。
【0028】
さらに同定されたのは、ニフルム酸がhREG経路活性剤であり(図示せず)、hERG電流活性剤である(図10A)ことである。
【0029】
さらに同定されたのは、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、A−935142、フルフェナム酸、ニフルム酸、及びジフルニサルが無標識バイオセンサのhERG活性剤であることである。
【0030】
ここに開示されているのは、hERG変調剤、hERG活性剤、無標識バイオセンサのhERG活性剤、hERG経路活性剤、hERGイオンチャネル活性剤、hERG阻害剤、hERG経路阻害剤、及びhERGイオンチャネル阻害剤である。これらクラス及び各々の特定の例は例えばここに開示された方法において使用されることができる。
【0031】
ここに開示された方法、並びに当該方法において使用される組成物及び化合物は、材料、物質、分子、及びリガンドなどの複数の異なるクラスから生ずることができる。さらに、例えばhERG活性化用のマーカとしてのマロトキシンなど、マーカと呼ばれる無標識バイオセンサアッセイ特有のこれらクラスの特定のサブセットも開示されている。
【0032】
さらに、分子混合物などのこれらクラスの混合物も開示されており、かつここに開示された方法に使用される。
【0033】
特定の方法において、未知の分子、試験分子、薬剤候補分子、及び既知の分子が使用される。
【0034】
特定の方法又は状況において、変調が行われ又は変調剤がその機能を果たす。同様に、既知の変調剤が使用される。
【0035】
特定の方法及び組成物において、細胞が関与しており、細胞が培養され、本明細書に記載しているように細胞培養物が使用される。
【0036】
ここに開示された方法はバイオセンサを使用するアッセイを含む。特定のアッセイにおいて、バイオセンサはアゴニズムモード又はアンタゴニズムモードにおいて実行される。しばしば、当該アッセイは、材料、物質、又は分子などの1つ以上のクラスで細胞を処理することを含む。本明細書に記載しているように、物質はさらに処理されることができる。
【0037】
特定の方法において、例えば細胞と分子とを接触させるステップが実行されることができる。ここに開示された方法において、DMR反応などのバイオセンサ反応として表現される細胞反応などの反応が検出されることができる。これらの反応及び他の反応はアッセイされることができる。特定の方法において、バイオセンサからのシグナルはロバストなバイオセンサシグナルすなわちロバストなDMRシグナルである。
【0038】
ここに開示された方法は、無標識バイオセンサを使用して、一次プロファイル、二次プロファイル、及び変調プロファイルなどのプロファイルを生成することができる。これらプロファイル及び他のプロファイルは、分子に関するマーキング判定に使用されることができ、例えば本明細書に記載されているクラスに対して使用されることができる。
【0039】
さらに、ここに開示されているのは、分子、細胞、材料、又はここに開示された物質などの化合物又は組成物のライブラリ及びパネルである。さらに、マーカパネル及び細胞パネルなどの特定のパネルが開示されている。
【0040】
ここに開示された方法は様々な特徴を使用し、当該特徴は、バイオセンサシグナル、DMRシグナル、正規化すること、コントロール、ポジティブコントロール、変調比較、インデックス、バイオセンサインデックス、DMRインデックス、分子バイオセンサインデックス、分子DMRインデックス、分子インデックス、変調剤バイオセンサインデックス、変調剤DMRインデックス、分子変調インデックス、既知の変調剤バイオセンサインデックス、既知の変調剤DMRインデックス、マーカバイオセンサインデックス、マーカDMRインデックス、マーカのバイオセンサインデックスを変調すること、DMRシグナルを変調すること、増強すること、及びインデックスの類似性である。
【0041】
ここに開示されている組成物、化合物、又は他のものはここに開示されている方法によって特性化されることができる。
【0042】
ここに開示されているのは、増強、阻害、及びこれらと同様の用語のような特性化に依存する方法である。
【0043】
特定の方法においては、受容体すなわち細胞標的が使用される。特定の方法はシグナル伝達経路、分子処理された細胞、及び他の細胞プロセスに関する情報を提供することができる。
【0044】
特定の実施例においては、特定の効能又は有効性が特性となり、その直接の作用(例えば薬剤候補分子)がアッセイされることができる。
【0045】
ここに開示された方法は、サンプル上で又はサンプルと共に実行されることができる。
【0046】
ここに開示されているのは、無標識バイオセンサの細胞アッセイを使用して、hERGイオンチャネルを介して直接作用する変調剤又はhERGに関するシグナル伝達錯体を介して間接的に作用する変調剤を特性化する方法である。ここに開示されているのは、hERG変調剤を特性化するために、3つの細胞型、すなわち、内因的にhERGイオンチャネルを発現する癌細胞株、内因性hERGチャネルを含まない天然の細胞株、及び過剰にhERGチャネルを発現する人工の細胞株を使用することである。さらに、ここに開示されているのは、hERG変調剤の作用モードをさらに裏付ける読み出しとしてマロトキシン又他のhERG活性剤を使用することである。また、ここに開示されているのは、例えばRb+アッセイ、膜電位蛍光アッセイ、又はパッチクランプアッセイなどのイオンフラックスアッセイのようなさらなるアッセイを用いる方法である。
【0047】
内因的にhERGチャネルを発現する天然の細胞株は、白血病細胞株のHL60、胃癌細胞株のSGC7901及びMGC803、神経芽腫細胞株のSH−SY5Y、乳癌細胞株のMCF−7、並びにヒト大腸癌細胞のHT−29、HCT8、及びHCT116を含むが、これらに限定されない。hERGを含まない天然の細胞株は、ヒト胚性腎臓細胞株のHEK−293、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞株のCHO−K1を含むが、これらに限定されない。過剰にhERGを発現する人工の細胞株は、HEK−hERG及びCHO−hERG細胞を含むが、これらに限定されない。内因性hERGチャネルを有する一次細胞を含む心血管細胞又は神経細胞が使用されることもできる。
【0048】
hERG活性剤は、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、及びA−935142を含むが、これらに限定されない。
【0049】
ここに開示されているのはhERG活性を変調する分子を分類する方法であり、当該方法は、a.内因的にhERGを発現する天然の細胞、安定的にhERGを発現する人工の細胞、及びその親であるhERGを発現しない細胞からなる3つの細胞型を用いて分子を個別に培養するステップと、b.無標識バイオセンサの細胞アッセイによって各細胞型における分子に誘発された細胞反応を監視するステップと、を含む。
【0050】
さらに、ここに開示されている方法は、c.当該分子の存在下において各細胞型を用いて無標識バイオセンサのhERG活性剤を培養するステップと、d.当該分子の存在下において各細胞型における当該無標識バイオセンサのhERG活性剤に誘発された細胞反応を監視するステップと、e.当該2つのhERGを発現する細胞型における当該無標識バイオセンサのhERG活性剤に誘発されたバイオセンサシグナルに対する分子のバイオセンサ変調インデックスを生成するステップと、をさらに含む。
【0051】
さらに、ここに開示されている方法において、当該無標識バイオセンサのhERG活性剤はhERGイオンチャネル活性剤又はhERG経路活性剤であり、当該hERG活性剤は、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、A−935142、フルフェナム酸、ニフルム酸、及びジフルニサルからなる群から選択され、当該hERGを発現する天然の細胞株は、白血病細胞株、胃癌細胞株、神経芽腫細胞株、乳癌細胞株、ヒト大腸癌細胞株、心血管細胞株、及び神経細胞株からなる群から選択され、当該hERGを発現する天然の細胞株は、細胞株HL60、細胞株SGC7901、細胞株MGC803、細胞株SH−SY5Y、細胞株MCF−7、細胞株HT−29、HCT8、及び細胞株HCT116からなる群から選択され、当該hERGを発現しない天然の細胞株はヒト胚性腎臓細胞株及びチャイニーズハムスター卵巣細胞株からなる群から選択され、当該hERGを発現しない天然の細胞株は細胞株HEK−293及び細胞株CHO−K1からなる群から選択され、当該hERGを操作された細胞株はHEK−hERG又はCHO−hERGから選択され、当該分子のバイオセンサ変調インデックスは、当該分子の存在下における当該無標識バイオセンサのhERG活性剤のバイオセンサシグナルを、当該分子の非存在下における当該無標識バイオセンサのhERG活性剤のバイオセンサシグナルに対して正規化することによって生成され、上記特徴は1つの方法又はその任意の組合せに含まれ得るものである。
【0052】
さらに、ここに開示されている方法は、当該分子の効果とhERGの既知の変調剤の効果とを比較するステップをさらに含む。
【0053】
ここに開示された方法において、当該hERG変調剤は、hERG活性剤、hERGイオンチャネル活性剤、hERG経路活性剤、hERG遮断剤、又はhERG経路阻害剤であり、当該hERG変調剤は、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、A−935142、AG−126、フルフェナム酸、ジフルニサル、ドフェチリド、チルホスチン51、シサプリド、アステミゾール、又はセルチンドールからなる群から選択され、上記特徴は1つの方法又はその任意の組合せに含まれ得るものである。
【0054】
ここに開示された方法は、当該分子がhERG変調剤であるかどうかを判定するステップと、当該分子がhERG変調剤に類似したバイオセンサインデックスを有している場合にhERG変調剤を同定するステップと、当該分子が既知のhERG活性剤に類似したバイオセンサインデックスを有している場合にhERG活性剤を同定するステップと、当該分子がhERG阻害剤に類似したバイオセンサインデックスを有している場合にhERG阻害剤を同定するステップと、hERGイオンフラックスアッセイ試験において当該分子をアッセイするステップと、をそれぞれさらに含み、上記特徴は1つの方法又はその任意の組合せに含まれ得るものである。
【0055】
さらに、ここに開示された方法において、当該イオンフラックスアッセイはRbイオンフラックスアッセイ、又は電気生理パッチクランプを用いたhERG電流アッセイであり、無標識バイオセンサアッセイにおいてhERG活性剤として同定される分子は、当該hERGイオンフラックスアッセイにおけるその作用に関わらずhERG活性剤と判定され、無標識バイオセンサアッセイにおいて活性剤として同定されるがhERGイオンフラックスアッセイにおいては活性剤として同定されない分子はhERG経路活性剤と判定され、無標識バイオセンサアッセイにおいて活性剤として同定され、かつhERGイオンフラックスアッセイにおいても活性剤として同定される分子はhERGイオンチャネル活性剤と判定され、上記特徴は1つの方法又はその任意の組合せに含まれ得るものである。
【0056】
定義
ここに開示されている様々な実施例は、図がある場合には図を参照して詳細に説明される。様々な実施例に対する参照物は本開示の範囲を限定するものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、本明細書に記載されている例は限定的なものではなく、特許請求の範囲の実施可能な多くの実施例のいくつかを記載しているに過ぎない。
【0057】
「不定冠詞、単数形(A)」
本明細書及び特許請求の範囲に使用されている「a」、「an」、及び「the」等の単数系の用語は明示されない限り複数の対象を含む。従って、例えば「薬剤担体」は2つ以上の担体の混合物等を含む。
【0058】
「省略形(Abbreviation)」
当業者には広く知られている省略形が使用されることがある(例えば、時間に対する「h」又は「hr」、グラムに対する「g」又は「gm」、ミリリットルに対する「mL」、室温に対する「rt」、ナノメートルに対する「nm」、モルに対する「M」など)。
【0059】
「約(About)」
例えば、組成物内の成分数、濃度、体積、処理温度、処理時間、収率、流速、圧力などの値、及びその範囲であって本開示の実施例に記載されているものに「約」が修飾されている場合、その数量は変化することを示し、当該変化は、例えば、化合物、組成物、濃縮物、又は使用する製剤を作製するのに使用される典型的な測定手順及び取扱手順によって、これら手順における故意でない間違いによって、製品、原料、出発材料の純度、又は本方法を実施するのに使用される成分の差によって、及びこれらと同様の要因によって生じ得る。さらに、用語「約」は特定の初期濃度又は初期混合における組成物又は製剤の老化によって変化する量及び特定の初期濃度又は初期混合における組成物又は製剤の混合又は処理によって変化する量を含む。用語「約」が修飾されているかに関わらず、特許請求の範囲はこれら数量に均等なものを含む。
【0060】
「アッセイすること(Assaying)」
アッセイすること、アッセイする等の用語は細胞又は分子などの物質の特性を判定するための分析をいい、当該特性は例えばリガンド又はマーカなどの1つ以上の外因性刺激剤に刺激された際の細胞の光学反応又は生体インピーダンス反応の有無、量、範囲、速度、動態、又は種類である。刺激剤に対する細胞反応のバイオセンサシグナルを生成することがアッセイであってもよい。
【0061】
「反応をアッセイすること(Assaying the response)」
「反応をアッセイすること」等の用語は、当該反応を特性化する手段を使用することを意味する。例えば、分子が細胞に接触させられる場合、当該分子にさらされた当該細胞の反応をアッセイするのにバイオセンサが使用されることができる。
【0062】
「アゴニズムモード及びアンタゴニズムモード(Agonism and antagonism mode)」
アゴニズムモード等の用語は、例えばDMRシグナルなどのバイオセンサシグナルのきっかけとなる分子の能力を判定するために細胞が分子にさらされるようなアッセイをいい、一方、アンタゴニズムモードは、マーカに反応する細胞のバイオセンサシグナルを変調する分子の能力を判定するために細胞が分子の存在するマーカにさらされるようなアッセイをいう。
【0063】
「バイオセンサ(Biosensor)」
バイオセンサ等の用語は、生物学的成分に物理化学的検出成分を組み合わせた検体を検出するデバイスをいう。典型的な場合バイオセンサは3つの部分からなり、当該部分は、生物学的成分又は要素(例えば、組織、微生物、病原体、細胞、又はこれらの組合せ)、検出要素(光学的、圧電的、電気化学的、温度的、又は磁気的などの物理化学的手法において機能するもの)、及び両成分に関するトランスデューサである。当該生物学的成分又は要素は、例えば、生細胞、病原体、又はこれらの組合せであることができる。実施例において、光学バイオセンサは、生細胞、病原体、又はこれらの組合せにおける分子認識事象又は分子刺激事象を定量化可能なシグナルへ変換する光学トランスデューサを含み得る。
【0064】
「バイオセンサ反応(Biosensor response)」
「バイオセンサ反応」、「バイオセンサ出力シグナル」、「バイオセンサシグナル」等の用語は、細胞を有するセンサシステムの細胞反応に対する応答をいう。バイオセンサは細胞反応を定量化可能なセンサ反応へ変換する。バイオセンサ反応は、RWG又はSPRなどの光学バイオセンサによって測定された刺激に対する光学反応又は電気バイオセンサによって測定された刺激に対する細胞の生体インピーダンス反応である。本開示の実施例において、バイオセンサ反応は刺激に対する細胞反応に直結しているため、当該バイオセンサ及び当該細胞反応は同じ意味で使用され得る。
【0065】
「バイオセンサシグナル(Biosensor signal)」
「バイオセンサシグナル」等の用語は、バイオセンサを用いて測定された細胞のシグナルであって、刺激に対する細胞の反応によって生成されたものをいう。
【0066】
「細胞(Cell)」
細胞等の用語は、半透膜によって外部を囲まれた原形質の小さく通常は顕微鏡でしか見ることができない原形質のかたまりをいい、細胞は選択的に1つ以上の核及び様々なオルガネラを含み、細胞は生命体の全ての基本的な働きを単独で又は他の同様のかたまりと相互作用して行うことができ、細胞は独立して働くことができる生命体の最小の構造単位を形成し、細胞は人工の細胞構造、細胞モデルシステム、及び同様の人工細胞系を含む。
【0067】
細胞は異なる細胞型を含むことができ、当該細胞型は例えば、特定の疾患に関する細胞、特定の起源に由来する細胞型、特定の標的に関する細胞型、又は特定の生理機能に関する細胞型である。さらに、細胞は、天然の細胞、人工の細胞、形質転換細胞、不死化細胞、一次細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞、癌幹細胞、又は細胞から派生した幹細胞であってもよい。
【0068】
ヒトは約210の既知の異なる細胞型からなる。どのように細胞が準備されるか(例えば、人工的に作り出された、形質転換された、不死化された、又はヒトの体から新鮮分離されたなど)、及び、どこで(例えば、異なる年齢のヒトの体又は異なる病期のヒトの体など)細胞が得られたかを考慮すると、当該細胞型の数はほぼ無限である。
【0069】
「細胞培養する(Cell culture)」
「細胞培養する」又は「細胞培養すること」は、管理された状況下において原核細胞又は真核細胞が培養されるプロセスをいう。「細胞培養する」は、多細胞真核生物、特に動物細胞から派生した細胞を培養することだけでなく、複合組織及び複合器官を培養することもいう。
【0070】
「細胞パネル(Cell panel)」
「細胞パネル」等の用語は、少なくとも2つの細胞型を含むパネルをいう。当該細胞はここに開示されたものの任意の組合せであり得る。
【0071】
「細胞反応(Cellular Response)」
「細胞反応」等の用語は、刺激に対する細胞の応答をいう。
【0072】
「細胞プロセス(Cellular process)」
「細胞プロセス」等の用語は細胞内において又は細胞によって起こる応答をいう。細胞プロセスの例は、増殖、アポトーシス、壊死、分化、細胞シグナル変換、極性変化、移動、又は形質転換を含むが、これらに限定されない。
【0073】
「細胞標的(Cellular target)」
「細胞標的」等の用語はタンパク質又は核酸などのバイオポリマであって、当該バイオポリマの活性が外部刺激によって変形されることができるものをいう。細胞標的は、酵素、キナーゼ、イオンチャネル、及び受容体のような最も普及しているタンパク質である。
【0074】
「特性化すること(Characterizing)」
「特性化すること」等の用語は、リガンド、分子、マーカ、又は細胞などの物質の特徴に関する情報を収集することをいい、例えばリガンド、分子、又は細胞に対するプロファイルを得ることをいう。
【0075】
「含む(Comprise)」
本明細書及び特許請求の範囲を通して、単語「含む」、「含んでいる」、及びその変形は、「含むがこれに限定されない」という意味であり、例えば他の添加物、成分、整数、又はステップを除外するという意味ではない。
【0076】
「基本的に構成されている(Consisting essentially of)」
実施例において、「基本的に構成されている」とは、例えば、表面組成、バイオセンサ表面上における表面組成、製剤又は組成物を構成又は使用する方法、及び本開示の物質、デバイス、又は装置について説明するものであり、これらが、特許請求の範囲に記載された成分又はステップに加えて、ここに開示されている組成物、物質、装置、及び方法を作製・構成及び使用することに関する基礎的かつ新規な特徴に大きな影響を与えない他の成分又はステップを含み得ることをいい、当該他の成分又はステップは、例えば、特定の反応剤、特定の添加剤若しくは材料、特定の作用物質、特定の細胞若しくは細胞株、特定の表面改質剤若しくは表面調節剤、特定のリガンド候補、又はこれらと同様の変更可能な構造体、材料、若しくはプロセスである。当該本開示の成分又はステップの基礎的な特徴に大きな影響を与え得る項目又は本開示に望ましくない特性を与え得る項目は、例えば、バイオセンサ表面に対する細胞の親和性低下、細胞表面受容体又は細胞内受容体に対する刺激剤の親和性異常、リガンド候補又は同様の刺激剤に対する異常な細胞活性又は逆の細胞活性、及びこれらと同様の特性を含む。
【0077】
「成分(Components)」
ここに開示されているのは、開示された組成物を準備するのに使用される成分と、本明細書に開示された方法に使用される組成物自体と、である。これら及び他の材料は本明細書に開示されており、かつ、これら材料の組合せ、サブセット、相互作用、グループ等が開示されている場合において、これら分子の各々、集合的組合せ、及びその置換のうちの特定のものが明確に開示されていなくても、その各々は詳細に検討されて本明細書に記載されているものとする。従って、分子クラスA、B、及びCと分子クラスD、E、及びFとが開示され、分子の組合せ例A−Dが開示されているならば、各々が個別に記載されていない場合であってもその各々は個別かつ集合的に検討されており、すなわち組合せA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−E、及びC−Fも開示されていることを意味する。同様にこれらのサブセット又は組合せも開示されているものとする。従って、例えば、A−E、B−F、及びC−Eのサブグループも開示されているものとする。このコンセプトは、ここに開示された組成物を作製及び使用する方法におけるステップ(これらに限定されない)を含む本願の全ての特徴に適用される。従って、実行されることができる様々な追加ステップが存在するならば、これら追加ステップの各々は開示された方法の任意の特定の実施例又は実施例の組合せに伴って実行されることができるものとする。
【0078】
「接触させること(Contacting)」
接触させること等の用語は、少なくとも2つのもの、例えば分子、細胞、マーカ、化合物若しくは組成物、少なくとも2つの組成物、又は製品若しくは機械を含むこれらの任意のものの間に分子相互作用が起こり得る場合において、分子相互作用が起こり得るように近接させることを意味する。例えば、接触させることは、少なくとも2つの組成物、分子、製品、又は物質を、接触させるすなわちこれらが近接して混合又は触れるような状態にさせることをいう。例えば、組成物Aの溶液と培養された細胞Bとを有しており、組成物Aの溶剤を培養された細胞B上に注入することは、組成物Aを細胞培養物Bに接触させることである。細胞をリガンドに接触させることは、リガンドを、当該細胞に対して、当該細胞が当該リガンドへのアクセスを有する状態を保証させることである。
【0079】
ここに開示されている全てのものは、他のものに接触することができるものとする。例えば、細胞は、マーカすなわち分子、バイオセンサ等に接触することができる。
【0080】
「化合物及び組成物(Compounds and compositions)」
化合物及び組成物は当該技術分野におけるその標準的な意味を有している。特定の指定物、例えば分子、物質、マーカ、細胞、又は試薬であってこれら指定物を含むもの、これら指定物で構成されているもの、及びこれら指定物で基本的に構成されているものが開示されているものとする。従って、特定の指定マーカが使用される場合、当該マーカを含む組成物、当該マーカで構成されている組成物、又は当該マーカで基本的に構成されている組成物も開示されているものとする。特定の指定物が作製される場合、当該指定物の化合物も開示されているものとする。例えば、EGFなどの特定の生物学的材料が開示されているならば、化合物の形態をとったEGFも開示されているものとする。
【0081】
「コントロール(Control)」
「コントロール」、「コントロールレベル」、又は「コントロール細胞」等の用語は、変化が測定される基準として定義されるものをいい、例えば、コントロールは実験によるものではなく所定のパラメータセットによるものであり、又はコントロールは前処理レベル若しくは後処理レベルに基づくものである。これらは試験の実行と同時、試験の実行前、若しくは試験の実行後に実行されるものであるか、又は予め決められた基準であり得る。例えば、コントロールは、並行試験として主体物、客体物、試薬等が試験手順、試験用の作用物質、試験変数等の不備・不作為を除いて処理される場合の試験結果、及び、試験効果の判断における比較基準として使用される試験結果をいう。従って、コントロールは、手順、作用物質、変数等に関する効果を判定するのに使用されることができる。例えば、細胞上の試験分子の効果が対象であるならば、a)当該分子の存在下における当該細胞の特性を記録し、b)aを実行した後に既知の活性若しくは活性不足を備えたコントロール分子又はコントロール組成物(例えばアッセイバッファ溶液(賦形剤))を追加してその効果を記録し、そして試験分子のコントロールに対する効果を比較することができる。特定の状況においては、一旦コントロールが実行されると当該コントロールは基準として使用されることができ、再度コントロール実験が行われる必要はなく、他の状況においては、コントロール実験は比較が行われる度に毎回実行されなければならない。
【0082】
「化学用語(Chemistry terms)」
「アルキル(alkyl)」
本明細書で使用されている用語「アルキル」は、分岐型又は非分岐型の飽和炭化水素部分をいう。「非分岐型」又は「分岐型」アルキルは、非環状であり、飽和しており、かつ直鎖又は分岐鎖の炭化水素部分であって、1−24個の炭素、1−12個の炭素、1−6個の炭素、又は1−4個の炭素原子を有するものを含む。このようなアルキルラジカルの例は、メチル(methyl)、エチル(ethyl)、プロピル(propyl)、ブチル(butyl)、ペンチル(pentyl)、ヘキシル(hexyl)、ヘプチル(heptyl)、オクチル(octyl)、n−プロピル、イソプロピル(iso-propyl)、ブチル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、アミル(amyl)、t−アミル、n−ペンチルなどを含む。低級アルキル(lower alkyl)は、非環状であり、飽和しており、かつ直鎖又は分岐鎖の炭化水素残基であって、1−4個の炭素原子を有するもの、すなわちC−Cアルキルを含む。
【0083】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲に亘って使用されている用語「アルキル」は、「非置換(unsubstituted)アルキル」と「置換(substituted)アルキル」の両方を含み、後者は上記のアルキルラジカルに類似したものであって、1つ以上の有機又は無機の置換基にさらに置換されたものを意味する。適切な置換基は、水素、アルキル、アルケニル(alkenyl)、アルキニル(alkynyl)、ヒドロキシル(hydroxyl)、シクロアルキル(cycloalkyl)、ヘテロシクリル(heterocyclyl)、アミノ(amino)、モノ置換(mono-substituted)アミノ、ジ置換(di-substituted)アミノ、非置換若しくは置換アミノ、カルボニル(carbonyl)、ハロゲン(halogen)、スルフヒドリル(sulfhydryl)、スルホニル(sulfonyl)、スルホナト(sulfonato)、スルファモイル(sulfamoyl)、スルホンアミド(sulfonamide)、アジド(azido)、アシルオキシ(acyloxy)、ニトロ(nitro)、シアノ(cyano)、カルボキシ(carboxy)、カルボアルコキシ(carboalkoxy)、アルキルカルボキサミド(alkylcarboxamido)、置換アルキルカルボキサミド、ジアルキルカルボキサミド(dialkylcarboxamido)、置換ジアルキルカルボキサミド、アルキルスルホニル(alkylsulfonyl)、アルキルスルフィニル(alkylsulfinyl)、チオアルキル(thioalkyl)、チオハロアルキル(thiohaloalkyl)、アルコキシ(alkoxy)、置換アルコキシ、ハロアルコキシ(haloalkoxy)、ヘテロアリール(heteroaryl)、置換ヘテロアリール、アリール(aryl)、又は置換アリールを含むが、これらに限定されない。当業者であれば、「アルコキシ」がエステル(ester)を形成するカルボニル置換「アルキル」の置換基であり得ることを理解するであろう。2つ以上の置換基が存在する場合、それらは同一のもの又は異なるものである。有機置換部分は、1−12個の炭素原子、1−6個の炭素原子、又は1−4個の炭素原子を含み得る。当業者であれば、「アルキル」鎖上で置換された部分それ自体が上記したように必要に応じて置換されることができることを理解するであろう。
【0084】
「アルケニル(alkenyl)」
本明細書で使用されている用語「アルケニル」は、上記アルキルの残基であって、炭化水素鎖の主鎖において少なくとも1つの炭素間二重結合を含むものをいう。その例は、ビニル(vinyl)、アリル(allyl)、2−ブテニル(2-butenyl)、3−ブテニル、2−ペンテニル(2-pentenyl)、3−ペンテニル、4−ペンテニル、2−ヘキセニル(2-hexenyl)3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル、2−ヘプテニル(2-heptenyl)、3−ヘプテニル、4−ヘプテニル、5−ヘプテニル、6−ヘプテニル等を含むが、これらに限定されない。用語「アルケニル」は直鎖及び分岐鎖のジエン(dienes)及びトリエン(trienes)を含む。
【0085】
「アルキニル(alkynyl)」
本明細書で使用されている用語「アルキニル」は上記アルキルの残基であって、炭化水素鎖の主鎖において少なくとも1つの炭素間三重結合を含むものをいう。その例は、エチニル(ethynyl)、1−プロピニル(1-propynyl)、2−プロピニル、1−ブチニル(1-butynyl)、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル(1-pentynyl)、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル(1-hexnyl)、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル等を含むが、これらに限定されない。用語「アルキニル」はジイン(diynes)及びトリイン(triynes)を含む。
【0086】
「シクロアルキル(cycloalkyl)」
本明細書で使用されている用語「シクロアルキル」は、飽和炭化水素構造であってその構造が少なくとも1つの環(ring)を形成するように閉じているものをいう。シクロアルキルは典型的な場合3−8個の環炭素を含む環状ラジカルであり、例えばシクロプロピル(cyclopropyl)、シクロブチル(cyclobutyl)、シクロペンチル(cyclypentyl)、シクロペニル(cyclopenyl)、シクロヘキシル(cyclohexyl)、シクロヘプチル(cycloheptyl)等である。シクロアルキルラジカルは多環(multicyclic)のものであってもよく、合計3−18個の炭素、好ましくは4−12個の炭素、又は5−8個の炭素を含み得る。その例は、デカヒドロナフチル(decahydronapthyl)、アダマンチル(adamantyl)等のラジカルを含む多環シクロアルキルである。
【0087】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲に亘って使用されている用語「シクロアルキル」は、「非置換シクロアルキル」と「置換シクロアルキル」の両方を含み、後者は上記のシクロアルキルラジカルに類似したものであって、1つ以上の有機又は無機の置換基にさらに置換されたものを意味する。シクロアルキルは、ヒドロキシル、シクロアルキル、アミノ、モノ置換アミノ、ジ置換アミノ、非置換アミノ若しくは置換アミノ、カルボニル、ハロゲン、スフルヒドリル(sulfhydryl)、スルホニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、アジド、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルボアルコキシ、アルキルカルボキサミド、置換アルキルカルボキサミド、ジアルキルカルボキサミド、置換ジアルキルカルボキサミド、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、チオアルキル、チオハロアルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、ハロアルコキシ、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリール、又は置換アリールを含むが、これらに限定されない。シクロアルキルが2つ以上の置換基に置換される場合、それらは同一のもの又は異なるものである。当該有機の置換基は1−12個の炭素原子、1−6個の炭素原子、又は1−4個の炭素原子を含み得る。
【0088】
「シクロアルケニル(cycloalkenyl)」
本明細書で使用されている用語「シクロアルケニル」は、上記シクロアルキルラジカルであって、少なくとも1つの炭素間二重結合を含むものをいう。その例は、シクロプロペニル(cyclopropenyl)、1−シクロブテニル(cyclobutenyl)、2−シクロブテニル、1−シクロペンテニル(cyclopentenyl)、2−シクロペンテニル、3−シクロペンテニル、1−シクロヘキシル、2−シクロヘキシル、3−シクロヘキシル等を含むが、これらに限定されない。
【0089】
「アルコキシ(alkoxy)」
本明細書で使用されている用語「アルコキシ」は、上記アルキルの残基であって、酸素原子に直接結合して他の部分に結合するものをいう。その例は、メトキシ(methoxy)、エトキシ(ethoxy)、n−プロポキシ(propoxy)、イソプロポキシ、n−ブトキシ(butoxy)、t−ブトキシ、イソブトキシ等を含むが、これらに限定されない。
【0090】
「モノ置換アミノ(mono-substituted amino)」
本明細書で使用されている用語「モノ置換アミノ」は、置換アルキル、シクロアルキル、アリール、又はアリールアルキル(arylalkyl)(これらに限定されない)を含む1つの有機置換基に置換されたNHラジカルを含む部分をいう。モノ置換アミノ基の例は、メチルアミノ(methylamino)(−NH−CH)、エチルアミノ(ethylamino)(−NHCHCH)、ヒドロキシエチルアミノ(hydroxyethylamino)(−NH−CHCHOH)等を含む。
【0091】
「ジ置換アミノ(di-substituted amino)」
本明細書で使用されている用語「ジ置換アミノ」は、アリール、置換アリール、アルキル、置換アルキル、又はアリールアルキル(これらに限定されない)から選択された同一又は異なる2つの有機ラジカルに置換された窒素原子を含む部分をいい、用語の定義はここに記載されているものと同じである。そのいくつかの例はジメチルアミノ(dimethylamino)、メチルエチルアミノ(methylethylamino)、ジエチルアミノ(diethylamino)等を含む。
【0092】
「アジド(azide)」
本明細書で使用されている用語「アジド(azide)」、「アジド基(azido)」、及びその変形した用語は、一価の基−N又は一価のイオン−Nを含む部分又は化合物をいう。
【0093】
「ハロアルキル(haloalkyl)」
本明細書で使用されている用語「ハロアルキル」は、上記アルキルの残基であって、1つ以上のハロゲン、好ましくはフッ素、例えばトリフルオロメチル(trifluoromethyl)、ペンタフルオロエチル(pentafluoroethyl)等に置換されたものをいう。
【0094】
「ハロアルコキシ(haloalkoxy)」
本明細書で使用されている用語「ハロアルコキシ」は、上記ハロアルキルの残基であって、酸素に直接結合してトリフルオロメトキシ(trifluoromethoxy)、ペンタフルオロエトキシ(pentafluoroethoxy)等を形成するものをいう。
【0095】
「アシル(acyl)」
本明細書で使用されている用語「アシル」は1−8個の炭素を含むR基を有するR−C(O)−残基をいう。その例は、ホルミル(hormyl)、アセチル(acetyl)、プロピオニル(propionyl)、ブタノイル(butanoyl)、イソブタノイル、ペンタノイル(pentanoyl)、ヘキサノイル(hexanoyl)、ヘプタノイル(heptanoyl)、ベンゾイル(benzoyl)、天然アミノ酸若しくは非天然アミノ酸などを含むが、これらに限定されない。
【0096】
「アシルオキシ(acyloxy)」
本明細書で使用されている用語「アシルオキシ」は上記アシルラジカルが酸素に直接結合してR−C(O)O−残基を形成したものをいう。その例はアセチルオキシ(acetyloxy)、プロピオニルオキシ(propionyloxy)、ブタノイルオキシ(butanoyloxy)、イソブタノイルオキシ、ベンゾイルオキシ(benzoyloxy)等を含むが、これらに限定されない。
【0097】
「アリール(aryl)」
本明細書で使用されている用語「アリール」は6−18個の炭素、好ましくは6−12個の炭素を含む環ラジカルであって、その中に少なくとも1つの芳香族残基を含むものをいう。当該アリールラジカルの例はフェニル(phenyl)、ナフチル(naphthyl)、及びイソクロマン(isochroman)ラジカルを含む。さらに、本明細書及び特許請求の範囲に亘って使用されている用語「アリール」は「非置換アリール」と「置換アリール」の両方を含み、後者は上記アリール環ラジカルであって1つ以上、好ましくは1−3個の有機又は無機の置換基に置換されたものを意味する。当該置換基は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシル、シクロアルキル、アミノ、モノ置換アミノ、ジ置換アミノ、非置換若しくは置換アミノ、カルボニル、ハロゲン、スルフヒドリル、スルホニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、アジド、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルボアルコキシ、アルキルカルボキサミド、置換アルキルカルボキサミド、ジアルキルカルボキサミド、置換ジアルキルカルボキサミド、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、チオアルキル、チオハロアルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、ハロアルコキシ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、複素環(heterocyclic ring)を含むが、これらに限定されない。環の用語はここに定義されている。当該有機の置換基は1−12個の炭素原子、1−6個の炭素原子、又は1−4個の炭素原子を含み得る。当業者であれば、上記したように、「アリール」上で置換された部分それ自体が必要に応じて置換されることができることを理解するであろう。
【0098】
「ヘテロアリール(heteroaryl)」
本明細書で使用されている用語「ヘテロアリール」は、上記アリール環ラジカルであって、少なくとも環炭素のうちの1つ、好ましくはアリール芳香族環の1−3個の炭素が、窒素、酸素、及び硫黄原子(これらに限定されない)を含むヘテロ原子に置換されたものをいう。ヘテロアリール残基の例は、ピリジル(pyridyl)、ビピリジル(bipyridyl)、フラニル(furanyl)、及びチオフラニル(thiofuranyl)残基を含む。置換された「ヘテロアリール」残基は、1つ以上の有機又は無機の置換基、好ましくはアリール基において上記した1−3個の置換基を有することができ、芳香族複素環の炭素原子となる。当該有機の置換基は1−12個の炭素原子、1−6個の炭素原子、又は1−4個の炭素原子を含み得る。
【0099】
「ヘテロシクリル(heterocyclyl)」
本明細書で使用されている用語「ヘテロシクリル」又は「ヘテロシクリル基」は、3−16個のメンバ(member)、好ましくは4−10個のメンバを有する非芳香族の単環又は多環のラジカル構造であって、少なくとも1つの環構造が1−4個のヘテロ原子(例えばO、N、S、P等)を含むものをいう。ヘテロシクリル基は、例えば、ピロリジン(pyrrolidine)、オキソラン(oxolane)、チオラン(thiolane)、イミダゾール(imidazole)、オキサゾール(oxazole)、ピペリジン(piperidine)、ピペラジン(piperazine)、モルホリン(morpholine)、ラクトン(lactones)、ラクタム(lactams)、アゼチジノン(azetidinones)、ピロリジノン(pyrrolidinones)、スルタム(sultams)、スルトン(sultones)等を含む。さらに、本明細書及び特許請求の範囲に亘って使用されている用語「ヘテロシクリル」は、「非置換アルキル」と「置換アルキル」の両方を含み、後者は上記アリール環ラジカルであって1つ以上、好ましくは1−3個の有機又は無機の置換基に置換されたものを意味する。当該置換基は、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヒドロキシル、シクロアルキル、アミノ、モノ置換アミノ、ジ置換アミノ、非置換若しくは置換アミノ、カルボニル、ハロゲン、スルフヒドリル、スルホニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、アジド、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルボアルコキシ、アルキルカルボキサミド、置換アルキルカルボキサミド、ジアルキルカルボキサミド、置換ジアルキルカルボキサミド、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、チオアルキル、チオハロアルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、ハロアルコキシ、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、複素環を含むが、これらに限定されない。環の用語はここに定義されている。当該有機の置換基は1−12個の炭素原子、1−6個の炭素原子、又は1−4個の炭素原子を含み得る。当業者であれば、上記したように、「ヘテロシクリル」上で置換された部分それ自体が必要に応じて置換されることができることを理解するであろう。
【0100】
「ハロゲン(halogen)又はハロ(halo)」
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、フルオロ(fluoro)、クロロ(chloro)、ブロモ(bromo)、又はヨード(iodo)基をいう。
【0101】
「部分(moiety)」
「部分」は分子(又は化合物、又は類似物質等)の一部をいう。「官能基(functional group)」は分子における特定の原子群である。部分は官能基であるか、1つ以上の官能基を含み得る。
【0102】
「エステル(ester)」
本明細書で使用されている用語「エステル」は式C(O)OAで表されるものをいい、式中のAは、上記した、アルキル、ハロゲン化(halogenated)アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル(cycloalkenyl)、ヘテロシクロアルキル(heterocycloalkyl)、又はヘテロシクロアルケニル(heterocycloalkenyl)基であり得る。
【0103】
「炭酸塩基(carbonate group)」
本明細書で使用されている用語「炭酸塩基」は式OC(O)ORで表されるものをいい、式中のRは、上記した、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル(aralkyl)、シクロアルキル、ハロゲン化アルキル、又はヘテロシクロアルキル基であり得る。
【0104】
「ケト基(keto group)」
本明細書で使用されている用語「ケト基」は式C(O)Rで表されるものをいい、式中のRは、上記した、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、ハロゲン化アルキル、又はヘテロシクロアルキル基であり得る。
【0105】
「アルデヒド(aldehyde)」
本明細書で使用されている用語「アルデヒド」は式C(O)Hで表されるものをいう。
【0106】
「カルボン酸(carboxylic acid)」
本明細書で使用されている用語「カルボン酸」は式C(O)OHで表されるものをいう。
【0107】
「カルボニル基(carbonyl group)」
本明細書で使用されている用語「カルボニル基」は式C=Oで表されるものをいう。
【0108】
「エーテル(ether)」
本明細書で使用されている用語「エーテル」は式AOAで表されるものをいい、式中のA及びAは、それぞれ無関係に、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、又はヘテロシクロアルケニル基(これらは上記されている)であり得る。
【0109】
「ウレタン(urethane)」
本明細書で使用されている用語「ウレタン」は式OC(O)NRR´で表されるものをいい、式中のR及びR´は、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、ハロゲン化アルキル、又はヘテロシクロアルキル基(これらは上記されている)であり得る。
【0110】
「シリル基(silyl group)」
本明細書で使用されている用語「シリル基」は式SiRR´R´´で表されるものをいい、式中のR、R´、R´´は、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、又はヘテロシクロアルキル基(これらは上記されている)であり得る。
【0111】
「スルホオキソ基(sulfo-oxo group)」
本明細書で使用されている用語「スフホオキソ基」は式S(O)R、OS(O)R、又はOS(O)ORで表されるものをいい、式中のRは、上記した、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、ハロゲン化アルキル、又はヘテロシクロアルキル基であり得る。
【0112】
「検出する(Detect)」
検出する等の用語は、本開示の装置及び方法の能力であって、分子又はマーカに誘発された細胞反応を発見又は検知し、かつ異なる分子に対する当該検知された反応を区別する能力をいう。
【0113】
「(薬剤候補分子の)直接作用(Direct action)」
「直接作用」等の用語は、細胞上において独立して作用する(薬剤候補分子の)結果をいう。
【0114】
「DMRシグナル(DMR signal)」
「DMRシグナル」等の用語は、光学バイオセンサを用いて測定された細胞のシグナルであって、刺激の際に細胞の反応によって生成されたものをいう。
【0115】
「DMR反応(DMR response)」
「DMR反応」等の用語は、光学バイオセンサを用いたバイオセンサ反応をいう。DMRは動的質量再分布すなわち動的な細胞物質の再分布をいう。P−DMRはポジティブなDMR反応であり、N−DMRはネガティブなDMR反応であり、PR−DMRは回復した(recovery)P−DMR反応である。
【0116】
「薬剤候補分子(Drug candidate molecule)」
薬剤候補分子等の用語は、薬剤又はファーマコフォアとして機能する能力を試験される試験分子をいう。この分子は鉛分子と考慮されてもよい。
【0117】
「効能(Efficacy)」
効能等の用語は、理想的又は最適な条件下での所望の効果の大きさを生成する能力をいう。効能は、現実の条件下での変化に関するものである有効性(effectiveness)に関する概念とは区別されるものである。効能は、分子レベル、細胞レベル、組織レベル、又は系レベルにおける反応を起こす能力と受容体占有率との間の関係である。
【0118】
「hERG変調剤(hERG modulator)」
hERG変調剤は、直接的又は間接的にhERGイオンチャネルの活性を変調することができる分子である。hERGチャネルの活性を直接変調するhERG変調剤は、hERGチャネルに結合して、hERG電流、hERGを介したイオンフラックス、及び/又はhERGを介した細胞シグナル伝達などのhERG活性に変化を起こす分子である。hERGチャネルの活性を間接的に変調するhERG変調剤は、細胞内のhERGに関するシグナル伝達錯体に結合して、hERG電流、hERGを介したイオンフラックス、及び/又はhERGチャネル若しくはhERGに関するシグナル伝達錯体を介した細胞シグナル伝達などのhERG活性に変化を起こす分子である。hERG活性の変化については、変調剤の非存在下での細胞におけるhERGチャネル又はhERGに関するシグナル伝達錯体の基礎活性が参照される。
【0119】
「hERG活性剤(hERG activator)」
hERG活性剤は、適切な印加電圧においてhERGチャネルを介した電流を増大させる分子、及び/又は適切なKCl濃縮物の存在下においてhERGチャネルを介したイオンフラックスを増大させる分子、及び/又はhERGチャネル又は細胞内のhERGに関するシグナル伝達錯体を介した細胞シグナル伝達を引き起こす分子である。その例は、マロトキシン、フルフェナム酸、及びニフルム酸である。
【0120】
「hERG経路活性剤(hERG pathway activator)」
hERG経路活性剤はhERGチャネル又は細胞内のhERGに関するシグナル伝達錯体を介した細胞シグナル伝達を引き起こす分子である。hERG経路活性剤は、hERG電流の変化及び/又はhERGチャネルを介したイオンフラックスの変化を引き起こす場合とそうでない場合がある。当該変化は増大する場合と減少する場合がある。例としてはジフルニサル、AG126、及びチルホスチン51がある。
【0121】
「hERGイオンチャネル活性剤(hERG ion channel activator)」
hERGイオンチャネル活性剤は、hERGチャネルに直接結合してhERGチャネルを活性化し、これによってhERG電流の増加、及び/又はhERGイオンフラックスの増加、及び/又はhERGチャネルを介した細胞シグナル伝達を導く分子である。その例はマロトキシン、フルフェナム酸、及びニフルム酸である。hERGイオンチャネル活性剤は細胞シグナル伝達を引き起こす場合と引き起こさない場合とがある。
【0122】
「無標識バイオセンサのhERG活性剤(label-free biosensor hERG activator)」
無標識バイオセンサのhERG活性剤等の用語は、hERG活性剤であって、無標識バイオセンサの細胞アッセイによってhERG発現細胞における検出可能なバイオセンサシグナルのきっかけとなることができる分子をいう。当該バイオセンサのhERG活性剤は、hERG活性剤、hERG経路活性剤、又はhERGイオンチャネル活性剤であり得る。その例は、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、A−935142、フルフェナム酸、ニフルム酸、又はジフルニサルである。
【0123】
「hERG阻害剤(hERG inhibitor)」
hERG阻害剤は、hERGチャネル又はhERGに関するシグナル伝達錯体に結合してhERG電流及び/又はhERGイオンフラックスを阻害する分子である。
【0124】
「hERG経路阻害剤(hERG pathway inhibitor)」
hERG経路阻害剤は、hERGに関するシグナル伝達錯体に結合してhERG電流及び/又はhERGイオンフラックスを阻害する分子である。その例はチロシン51を含む。
【0125】
「hERGイオンチャネル阻害剤(hERG ion channel inhibitor)」
hERGイオンチャネル阻害剤は、hERGチャネルに直接結合してhERG電流及び/又はhERGイオンフラックスを阻害する分子である。その例はドフェチリドを含む。
【0126】
「より高い(Higher)、阻害する(inhibit)等の単語」
より高い、増大する(increase)、上昇する(elevate)、上昇(elevation)等の用語、又はこれらの変形は、例えばコントロールと比較して、基礎レベルよりも大きく(高く)増大(上昇)することをいう。低い(low)、より低い(lower)、低下する(reduce)、減少する(decrease)、低下(reduction)等の用語、又はこれらの変形は、例えばコントロールと比較して、基礎レベルよりも小さく(低く)減少(低下)することをいう。例えば、基礎レベルは、アゴニスト又はアンタゴニストなどの分子を細胞に加える前すなわち当該分子の非存在下における通常の生体内レベルである。阻害する、阻害形態等の用語は低下させる又は抑制することをいう。
【0127】
「分子の存在下(In the presence of the molecule)」
「分子の存在下」等の用語は、培養された細胞が分子に接触又はさらされていることをいう。当該接触又はさらすことは刺激剤が細胞に接触する前又は同時に行われ得る。
【0128】
「インデックス(Index)」
インデックス等の用語はデータの集合をいう。例えば、インデックスは1つ以上の変調プロファイルを含む一覧、表、ファイル、又はカタログであり得る。インデックスはデータの組合せから生成されることもできる。例えば、DMRプロファイルは、P−DMR、N−DMR、及びRP−DMRを含み得る。インデックスは、完成したプロファイルのデータ、P−DMRデータ、N−DMRデータ、RP−DMRデータ、これらの任意のデータ点、又はこれら若しくは他のデータの組合せを用いて生成され得る。インデックスはこのような情報の集合である。典型的な場合、インデックスを比較する際のインデックスは同様のデータ(すなわちP−DMRとP−DMRデータ)である。
【0129】
「バイオセンサインデックス(Biosensor index)」
「バイオセンサインデックス」等の用語は、バイオセンサデータの集合からなるインデックスをいう。バイオセンサインデックスは、一次プロファイル又は二次プロファイルなどのバイオセンサプロファイルの集合であり得る。当該インデックスは任意の種類のデータを含み得る。例えば、プロファイルのインデックスは、N−DMRデータ点、P−DMRデータ点、その両方、又はインピーダンスデータ点からなることができる。当該インデックスはプロファイル曲線に関する全てのデータ点であってもよい。
【0130】
「DMRインデックス(DMR index)」
「DMRインデックス」等の用語はDMRデータの集合からなるバイオセンサインデックスをいう。
【0131】
「既知の分子(Known molecule)」
既知の分子等の用語は、既知の薬理学的/生物学的/生理学的/病態生理学的な活性を有する分子をいい、その正確な作用モードは既知の場合未知の場合がある。
【0132】
「既知の変調剤(Known modulator)」
既知の変調剤等の用語は、標的の内の少なくとも1つが既知であり既知の親和性を有する変調剤をいう。例えば、既知の変調剤は、PI3K阻害剤、PKA阻害剤、GPCRアンタゴニスト、GPCRアゴニスト、PTK阻害剤、抗体を中和させる上皮成長因子受容体、ホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase)阻害剤、PKC阻害剤、又はPKC活性剤であり得る。
【0133】
「既知の変調剤のバイオセンサインデックス(Known modulator biosensor index)」
「既知の変調剤のバイオセンサインデックス」等の用語は、既知の変調剤に対して収集されたデータによって生成された変調剤のバイオセンサインデックスをいう。例えば、既知の変調剤のバイオセンサインデックスは、細胞パネル上において作用する既知の変調剤のプロファイル、及びマーカパネルに対する既知の変調剤の変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネル内の細胞用である。
【0134】
「既知の変調剤のDMRインデックス(Known modulator DMR index)」
「既知の変調剤のDMRインデックス」等の用語は、既知の変調剤に対して収集されたデータによって生成されたDMRインデックスをいう。例えば、既知の変調剤のDMRインデックスは、細胞パネル上において作用する既知の変調剤のプロファイル、及びマーカパネルに対する既知の変調剤の変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネル内の細胞用である。
【0135】
「リガンド(Ligand)」
リガンド等の用語は、物質、組成物、又は分子であって、生物学的目的を果たす生体分子に結合して当該分子との錯体を形成することができるものをいう。リガンドとその標的分子との間の実際の不可逆的な共有結合は生物系においては希少である。受容体に結合するリガンドは化学的配座すなわち受容体タンパク質の立体形状を変化させる。受容体タンパク質の配座状態は受容体の機能状態を決定する。結合傾向すなわち結合強度は親和性と呼ばれている。リガンドは、基質、遮断剤、阻害剤、活性剤、及び神経伝達物質を含む。放射性リガンドは放射標識付きリガンドであり、一方、蛍光リガンドは蛍光標識付きリガンドであり、その両方は、受容体生物学及び受容体生物化学の研究用のトレーサとしてしばしば使用されるリガンドと考慮されてもよい。リガンドと変調剤はほぼ同じ意味で使用される。
【0136】
「ライブラリ(Library)」
ライブラリ等の用語は集合をいう。ライブラリはここに開示された全てものの集合であり得る。例えば、インデックスの集合であるインデックスライブラリ、プロファイルの集合であるプロファイルライブラリ、DMEインデックスの集合であるDMRインデックスライブラリ、分子の集合である分子ライブラリ、細胞の集合である細胞ライブラリ、及びマーカの集合であるマーカライブラリであってもよい。ライブラリは、例えば、ランダム又は非ランダムのもの、判定された又は未判定のものであってもよい。例えば、ここに開示されているのは既知の変調剤のバイオセンサインデックス又はDMRインデックスのライブラリである。
【0137】
「マーカ(Marker)」
マーカ等の用語は、バイオセンサの細胞アッセイにおけるシグナルを生成するリガンドをいう。さらに、当該シグナルは、少なくとも1つの特定の細胞シグナル伝達経路及び/又は少なくとも1つの特定の標的介した少なくとも1つの特定の細胞プロセスの特性でなければならない。当該シグナルは、ポジティブ若しくはネガティブ、又はその組合せ(振動)であり得る。マロトキシンなどのhERGチャネル活性剤は、hERGチャネルが安定して発現される又は細胞毎に内因的に発現されるHEK−hERG細胞又はHT29細胞に対するマーカであり得る。
【0138】
「マーカパネル(Marker panel)」
「マーカパネル」等の用語は、少なくとも2つのマーカを含むパネルをいう。当該マーカは異なる経路、同一の経路、異なる標的、又は同一の標的に対するものであり得る。例えば、マロトキシンは、HEK−hERG細胞とHT29細胞の両方に対する単一のマーカとして使用されることができる。従って、hERGチャネル変調剤の同定及び区別において、マロトキシンは効果的なマーカパネルとして機能する。
【0139】
「マーカバイオセンサインデックス(Marker biosensor index)」
「マーカバイオセンサインデックス」等の用語は、マーカに対して収集されたデータによって生成されたバイオセンサインデックスをいう。例えば、マーカバイオセンサインデックスは、細胞パネル上で作用するマーカのプロファイル、及びマーカパネルに対するマーカの変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネルにおける細胞用である。hERGチャネル変調剤の同定及び区別において、マーカバイオセンサインデックスは、3つの異なる細胞(例えば、HEK293細胞、HEK−hERG細胞、及びHT29細胞)におけるマロトキシンの一次プロファイルと、HEK−hERG細胞及びHT29細胞におけるマロトキシンDMRシグナルに対するマロトキシンの変調インデックスと、を含み、これらは図1に例示されている。
【0140】
「マーカDMRインデックス(Marker DMR index)」
「マーカDMRインデックス」等の用語は、マーカに対して収集されたデータによって生成されたバイオセンサのDMRインデックスをいう。例えば、マーカDMRインデックスは、細胞パネル上で作用するマーカのプロファイル、及びマーカパネルに対するマーカの変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネルにおける細胞用である。
【0141】
「材料(Material)」
材料は、物理的客体物の構造に進入するもの(化学的なもの、生物化学的なもの、生物学的なもの、又はその混合物)の有形部分である。
【0142】
「模倣する(Mimic)」
本明細書で使用されている「模倣する」等の用語は、対象となる客体物の1つ以上の機能を実行することをいう。例えば、分子模倣体は分子の1つ以上の機能を実行する。
【0143】
「変調する(Modulate)」
変調すること又はその変形は、細胞標的を介した細胞活性を増大、減少、又は維持することを意味する。これらの単語の内の1つが使用されている場合、コントロールから1%、5%、10%、20%、50%、100%、500%、若しくは1000%増加する、又はコントロールから1%、5%、10%、20%、50%、若しくは100%減少し得ることが開示されているものとする。
【0144】
「変調剤(Modulator)」
変調剤等の用語は、細胞標的の活性を制御するリガンドをいう。変調剤は標的タンパク質などの細胞標的に結合するシグナル変調分子である。
【0145】
「変調比較(Modulation comparison)」
「変調比較」等の用語は、一次プロファイル及び二次プロファイルを正規化した結果をいう。
【0146】
「変調剤のバイオセンサインデックス(Modulator biosensor index)」
「変調剤のバイオセンサインデックス」等の用語は、変調剤に対して収集されたデータによって生成されたバイオセンサインデックスをいう。例えば、変調剤のバイオセンサインデックスは、細胞パネル上で作用する変調剤のプロファイル、及びマーカパネルに対する変調剤の変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネルにおける細胞用である。図2−図5に例示されているように、hERG変調剤のバイオセンサインデックスは、3種類の細胞(例えば、HT29、HEK−hERG、及びHEK293)における一次DMRシグナルと、HT29細胞及びHEK−hERG細胞におけるマロトキシンDMRシグナルに対する変調剤の変調DMRインデックスと、を含む。
【0147】
「変調剤のDMRインデックス(Modulator DMR index)」
「変調剤のDMRインデックス」等の用語は、変調剤に対して収集されたデータによって生成されたDMRインデックスをいう。例えば、変調剤のDMRインデックスは、細胞パネル上で作用する変調剤のプロファイル、及びマーカパネルに対する変調剤の変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネルにおける細胞用である。図1d−図5dに例示されているように、hERG変調剤のDMRインデックスは、変調剤によるHT29細胞及びHEK−hERG細胞におけるマロトキシンDMRシグナルの変調率である。
【0148】
「マーカのバイオセンサシグナルを変調する(Modulate the biosensor signal of a marker)」
「マーカのバイオセンサシグナルを変調する」等の用語は、マーカを用いた刺激に対する細胞のバイオセンサシグナル又はプロファイルの変化を引き起こすことをいう。
【0149】
「DMRシグナルを変調する(Modulate the DMR signal)」
「DMRシグナルを変調する」等の用語は、マーカを用いた刺激に対する細胞のDMRシグナル又はプロファイルの変化を引き起こすことをいう。
【0150】
「分子(Molecule)」
本明細書で使用されている「分子」等の用語は、生物学的、生物化学的、又は化学的存在であって、確定的な分子量を有する分子又は化学分子の形態をとって存在するものをいう。分子等の用語は、化学的、生物化学的、又は生物学的分子をいい、そのサイズは問わない。
【0151】
いくつかの分子は炭素を含まない(酸素分子などの単純な気体分子及びいくつかの硫黄ベースのポリマなどのより複雑な分子を含む)が、多くの分子は有機分子と呼ばれる形態をとるもの(炭素原子を含む分子であり、特に共有結合によって接続されているもの)である。一般用語の「分子」は、タンパク質、核酸、炭水化物、ステロイド、有機薬剤、小さな分子、受容体、抗体、及び脂質などの分子における多数の記述的クラス又はグループを含む。適切な場合は、1つ以上のこれらのより記述的な用語(タンパク質などの多くのものは分子のグループと重複して記載されている)が、分子のサブグループに対する本方法の用途のために、分子がタンパク質などのサブクラスと一般クラスとしての「分子」との両方を示すことなく、本明細書において使用される。明記されない限り、単語「分子」は、特定の分子及びその塩(例えば薬剤学的に許容できる塩)を含む。
【0152】
「分子混合物(Molecule mixture)」
分子混合物等の用語は、少なくとも2つの分子を含む混合物をいう。当該2つの分子は、構造的に異なるもの(すなわち光学異性体(enantiomers))、組成的に異なるもの(例えば、プロテインアイソフォーム、グリコフォーム、又は異なるポリ(エチレングリコール)(PEG)の変形物を有する抗体など)、又は構造的及び組成的に異なるもの(例えば、未浄化の天然抽出物又は未浄化の合成化合物)であり得るが、これらに限定されない。
【0153】
「分子のバイオセンサインデックス(Molecule biosensor index)」
「分子のバイオセンサインデックス」等の用語は、分子に対して収集されたデータによって生成されたバイオセンサインデックスをいう。例えば、分子のバイオセンサインデックスは、細胞パネル上で作用する分子のプロファイル、及びマーカパネルに対する分子の変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネルにおける細胞用である。
【0154】
「分子のDMRインデックス(Molecule DMR index)」
「分子のDMRインデックス」等の用語は、分子に対して収集されたデータによって生成されたDMRインデックスをいう。例えば、分子のDMRインデックスは、細胞パネル上で作用する分子のプロファイル、及びマーカパネルに対する分子の変調プロファイルからなることができ、各マーカパネルは細胞パネルにおける細胞用である。
【0155】
「分子インデックス(Molecule index)」
「分子インデックス」等の用語は分子に関するインデックスをいう。
【0156】
「分子処理された細胞(Molecule-treated cell)」
分子処理された細胞等の用語は、分子にさらされた細胞をいう。
【0157】
「分子変調インデックス(Molecule modulation index)」
「分子変調インデックス」等の用語は、細胞パネル上で作用するマーカパネルのバイオセンサ出力シグナルを変調する分子の能力を表示するインデックスをいう。当該変調インデックスは、分子の存在下におけるマーカを用いた刺激の際の細胞反応の特定のバイオセンサ出力シグナルのパラメータを、分子の非存在下におけるものに対して正規化することによって生成される。
【0158】
「分子薬理(Molecule pharmacology)」
「分子薬理」等の用語は、システム細胞生態(systems cell biology)又はシステム細胞薬理(systems cell pharmacology)をいい、すなわち細胞上で作用する分子の作用モードである。分子薬理は、毒性、特定の細胞プロセス(例えば、増殖、分化、活性酸素種シグナル伝達)に影響を与える能力、又は特定の細胞標的(例えば、hERGチャネル、hERGに関するシグナル伝達錯体、PI3K、PKA、PKC、PKG、JAK2、MAPK、MEK2、若しくはアクチン)を変調する能力(これらに限定されない)によってしばしば特性化される。
【0159】
「正規化すること(Normalizing)」
正規化すること等の用語は、例えば少なくとも1つの共通変数を除去するために、データ、プロファイル、又は反応を調節することを意味する。例えば、2つの反応が生成され、その一方が細胞上で作用するマーカに対するものであり、他方が細胞上で作用するマーカ及び分子に対するものである場合、正規化することとは、分子の非存在下におけるマーカ誘発された反応と分子の存在下における当該反応とを比較してマーカのみによる反応を除去することをいい、これによって正規化された反応はマーカに対する分子の変調による反応を示すこととなる。変調比較はマーカの一次プロファイル及び分子の存在下におけるマーカの二次プロファイル(変調プロファイル)を正規化することによって得られる。
【0160】
「任意の(Optional)」
「任意の」、「任意で」等の用語は、その後に記載されている事象又は状況が発生する場合と発生しない場合があることを意味し、かつ当該記載が当該事象又は状況の発生する例と発生しない例とを含むことを意味する。例えば、「任意で組成物は組合せを含む」との表現は、当該組成物が異なる分子の組合せを含む場合と組合せを含まない場合とがあることを意味し、この表現は当該組合せと当該組合せではないこと(すなわち当該組合せの個別のメンバ)との両方を含む。
【0161】
「又は(Or)」
本明細書で使用されている「又は」等の用語は、特定の一覧の中の1のメンバ及び当該一覧のメンバの任意の組合せを含むことを意味する。
【0162】
「プロファイル(profile)」
プロファイル等の用語は、細胞などの組成物に対して収集されたデータをいう。プロファイルは上記したように無標識バイオセンサによって収集され得る。
【0163】
「一次プロファイル(Primary profile)」
「一次プロファイル」等の用語は、バイオセンサ反応又はバイオセンサ出力シグナルであり、すなわち分子が細胞に接触した際に得られたプロファイルをいう。典型的な場合、一次プロファイルは、最初の細胞反応を正味ゼロ(すなわち基準線(baseline))のバイオセンサシグナルに対して正規化した後に得られる。
【0164】
「二次プロファイル(Secondary profile)」
「二次プロファイル」等の用語は、分子の存在下におけるマーカに対する細胞のバイオセンサ反応又はバイオセンサ出力シグナルをいう。二次プロファイルは、マーカ誘発された細胞反応すなわちバイオセンサ反応を変調する分子の能力を示すものとして使用されることができる。
【0165】
「変調プロファイル(Modulation profile)」
「変調プロファイル」等の用語は、分子の存在下におけるマーカの二次プロファイルと分子の非存在下におけるマーカの一次プロファイルとの間の比較をするものである。当該比較物は、例えば、二次プロファイルから一次プロファイルを差し引くこと又は一次プロファイルから二次プロファイルを差し引くこと、すなわち一次プロファイルに対して二次プロファイルを正規化することによるものである。
【0166】
「パネル(Panel)」
パネル等の用語は、所定の組の試料(例えば、マーカ、細胞、又は経路)をいう。パネルはライブラリから試料を選定して作成され得る。
【0167】
「ポジティブコントロール(Positive control)」
「ポジティブコントロール」等の用語は、データ収集条件がデータ収集を導き得ることを示すコントロールをいう。
【0168】
「増強する(Potentiate)」
増強する、増強された等の用語は、分子によって引き起こされた細胞内のマーカのバイオセンサ反応の特定のパラメータを増大することをいう。分子の存在下における同一の細胞内におけるマーカの二次プロファイルと同一のマーカの一次プロファイルとを比較することによって、当該分子による細胞のマーカ誘発されたバイオセンサ反応の変調を計算することができる。ポジティブな変調は、マーカに誘発されたバイオセンサシグナルを増大させる分子を意味する。
【0169】
「効力(Potency)」
効力等の用語は、所定の強度の効果を得るのに必要な量で表された分子活性の測定結果をいう。例えば、高効力薬剤は少ない濃度でも大きな反応を引き起こす。効力は親和性及び効能に比例する。親和性は受容体に結合する薬剤分子の能力である。
【0170】
「刊行物(Publications)」
本願を通して、様々な刊行物が参照されている。これら刊行物の開示内容は、当該技術分野の状況をより完全に説明するために、その全てにおいて、参照することにより本願に組み込まれているものとする。開示された参照物は、当該参照物の属する文中において記載されている材料においても、個別かつ詳細に参照することにより本明細書に組み込まれているものとする。
【0171】
「受容体(Receptor)」
受容体等の用語は、細胞の原形質膜又は細胞質に組み込まれているタンパク質分子であって、可動性のシグナル伝達分子(又は「シグナル」分子)が結合し得るものをいう。受容体に結合する分子は「リガンド」と呼ばれ、ペプチド(神経伝達物質など)、ホルモン、調合薬、又は毒素であることができ、さらに受容体は、当該結合が起きた際に、通常は細胞反応を開始する構造変化に進入する。しかし、いくつかのリガンドは反応を誘発することなく受容体を遮断するのみである(例えばアンタゴニスト)。受容体におけるリガンド誘発された変化は、当該リガンドの生物学的活性を構成する生理学的変化を引き起こす。
【0172】
「ロバストなバイオセンサシグナル(Robust biosensor signal)」
「ロバストなバイオセンサシグナル」はバイオセンサシグナルであって、その振幅がノイズレベル又はネガティブコントロール反応よりも十分に(例えば、3倍、10倍、20倍、100倍、又は1,000倍)大きいシグナルである。しばしば、当該ネガティブコントロール反応はアッセイバッファ溶液(すなわち賦形剤)を加えた後の細胞のバイオセンサ反応である。当該ノイズレベルは他の溶液を加えない場合の細胞のバイオセンサシグナルである。細胞が他の溶液を加える前から溶液に浸されているのは影響しない。
【0173】
「ロバストなDMRシグナル(Robust DMR signal)」
「ロバストなDMRシグナル」等の用語は「ロバストなバイオセンサシグナル」のDMRの形態をとったものをいう。
【0174】
「範囲(Ranges)」
範囲は、1の「約」に修飾された特定の値から、及び/又は他の「約」に修飾された特定の値まで、として本明細書において表現されることができる。このように範囲が表現された場合、他の実施例は、一方の特定の値から他方の特定の値までか、一方の特定の値以上か、又は他方の特定の値以下を含む。同様に、値が、先行詞「約」を使用することによって、近似値として表現された場合、この特定の値は他の実施例を形成する。さらに、当該範囲の終点の各々は、その他の終点に関連してかつ当該他の終点とは独立して重要なものである。さらに、本明細書には多数の値が開示されており、当該値の各々は、その値に加えて「約」に修飾された特定の値として本明細書に開示されているものとする。例えば、値「10」が開示されているならば、「約10」も開示されているものとする。さらに、当業者に適切に理解されるように、1の値が当該値「以下」と開示されている場合、「当該値以上」及びその値間の可能な範囲も開示されているものとする。例えば、値「10」が開示されているならば、「10以下」及び「10以上」も開示されているものとする。さらに、本願を通して、データは多数の異なる形式で与えられており、このデータは、終点、始点、及び当該データ点の任意の組合せを表すものであるとする。例えば、特定のデータ点「10」及び特定のデータ点15が開示されているならば、10より大きい、15より大きい、10以上、15以上、10未満、15未満、10以下、15以下、10、及び15が10と15との間と同様に考慮され開示されているものとする。さらに、2つの特定の単位間の各単位も開示されているものとする。例えば、10及び15が開示されているならば、11、12、13、及び14も開示されているものとする。
【0175】
「反応(Response)」
反応等の用語は刺激に対する応答をいう。
【0176】
「サンプル(Sample)」
サンプル又はこれと同様の用語は動物、植物、真菌などであって、天然物、天然抽出物等、動物由来の組織若しくは器官、細胞(対象物内のもの、対象物から直接取出したもの、又は培養状態を維持している細胞若しくは培養された細胞株由来の細胞)、細胞溶解物(又は溶解物の一部)若しくは細胞抽出物、又は細胞若しくは細胞材料(例えば、ポリペプチド又は核酸)から派生した1つ以上の分子を含む溶液をいい、これらは本明細書に記載されているようにアッセイされる。サンプルは体液又は排出物(例えば、血液、尿、便、唾液、涙、胆汁であるがこれらに限定されない)であって細胞又は細胞成分を含むものであってもよい。
【0177】
「シグナル伝達経路(Signaling pathway)」
「定義された経路を」等の用語は、シグナル(例えば外因のリガンド)を受信することから細胞の応答(例えば細胞標的の発現増大)までの細胞の経路である。場合によっては、受容体に結合するリガンドによって生じる受容体活性化は、リガンドに対する細胞反応に直結する。例えば、神経伝達物質GABAは、イオンチャネルの部分である細胞表面受容体を活性化することができる。ニューロン上のGABA A受容体に結合するGABAは、当該受容体の一部である塩化物選択性イオンチャネルを開く。GABA A受容体の活性化は、負の電荷を帯びた塩化物イオンが、ニューロンへ進入して活動電位を生成するニューロンの能力を阻害することを可能にする。しかし、多くの細胞表面受容体において、リガンド−受容体相互作用は細胞の応答に直結していない。活性化された受容体は、細胞の挙動におけるリガンドの最終的な生理学的効果が生成される前に、まず細胞内部の他のタンパク質と相互作用しなければならない。しばしば、いくつかの相互作用する細胞タンパク質の鎖の挙動は受容体の活性化に従って変更される。受容体活性化によって誘発された細胞変化のすべてのセットはシグナル伝達機序すなわちシグナル伝達経路と呼ばれる。当該シグナル伝達経路は比較的単純であるか非常に複雑であり得る。
【0178】
「インデックスの類似性(Similarity of indexes)」
「インデックスの類似性」等の用語は、インデックスのパターン及び/又はスコアのマトリクスに基づいて、分子に対する2つのインデックス間又は少なくとも3つのインデックスの間の類似性を表現する用語である。当該スコアのマトリクスはその比較対象・比較相手となるもの(counterparts)に大きく関係しており、当該比較対象・比較相手は、例えば、対応する細胞内における異なる分子の一次プロファイルの特徴と、各マーカに対する異なる分子の変調プロファイルの性質及び割合と、である。例えば、より高いスコアはより類似する特性に対して与えられ、より低い又はネガティブのスコアはあまり類似していない特性に対して与えられる。分子変調インデックスに見られる変調はポジティブ、ネガティブ、及びニュートラルの3種類であるため、類似性マトリクスは比較的単純である。例えば、単純なマトリクスにおいて、同一の変調(例えばポジティブ変調)には+1のスコアが割り当てられ、同一でない変調には−1のスコアが割り当てられる。
【0179】
代替として、異なるスコアが異なるスケールの変調タイプに与えられることもできる。例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、100%、200%等のポジティブ変調に、それぞれ、+1、+2、+3、+4、+5、+6、+20、+20のスコアの与えられることができる。一方、ネガティブ変調に対しては、同様であるが反対のスコアが与えられることができる。この手法に従うと、図2dに示されているように、2つの細胞におけるマロトキシンに対するフルフェナム酸の変調インデックスは、フルフェナム酸が当該2つの細胞におけるマロトキシンに誘発されたバイオセンサ反応を別々に変調することを示しており、すなわちHT29(−90%)とHEK−hERG(約12%)である。従って、フルフェナム酸の変調インデックスのスコア座標には、(−9,1)と割り当てられることができる。同様に、ジフルニサルに対するスコア座標は(−9,1)である。フルフェナム酸とジフルニサルとの間のスコアを比較することによって、両方の分子がhERGチャネルにおいて同様の作用モードを示すことがわかる。
【0180】
「安定した(Stable)」
医薬組成物に関して使用される場合、「安定した」等の用語は、当業者の間では、特定の保存条件下での所定期間の活性材料の喪失が特定の量未満、通常は10%未満であることを意味する。組成物が安定していると考慮されるのに必要な時間は、製品の用途に関係しており、かつ製品の生産、品質管理及び検査のための保管、最終的な使用の前に再度保管される卸売業者への輸送又は消費者への直接の輸送における商業的実用性によって定められる。数ヶ月の安全率を含めると、医薬品の最低製品寿命は通常1年であり、18ヶ月よりも長いのが好ましい。本明細書で使用されている用語「安定した」は、これら市場の実情と、2度から8度の間の冷蔵状態などの容易に達成可能な環境条件で製品を保管及び輸送する能力と、を考慮している。
【0181】
「物質(Substance)」
物質等の用語は任意の物理的客体物をいう。材料は物質である。分子、リガンド、マーカ、細胞、タンパク質、及びDNAは物質と考えられる。機械又は製品は、物質そのものではなく、物質から作られているものと考えられる。
【0182】
「対象物(Subject)」
本願を通して使用されている対象物等の用語は固体を意味する。従って、「対象物」は、例えば、犬、猫などの家畜化された動物、家畜類(牛、馬、豚、羊、ヤギなど)、実験動物(マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)、哺乳類、ヒト以外の哺乳類、霊長類、ヒト以外の霊長類、齧歯動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、及び他の動物を含むことができる。1つの対象物の態様は、霊長類又はヒトなどの哺乳類である。対象物はヒト以外であってもよい。
【0183】
「試験分子(Test molecule)」
試験分子等の用語は、当該試験分子に関するいくつかの情報を得る手法において使用される分子をいう。試験分子は未知の分子又は既知の分子であることができる。
【0184】
「処理・治療すること(Treating)」
処理すること、処理等の用語は少なくとも2つの意味で使用されることができる。第1に、処理すること、処理等の用語は投与すなわち対象物に向けてとられる行為をいう。第2に、処理すること、処理等の用語は2つのものを混合することをいい、当該2つのものは例えば分子及び細胞などの2つ以上の物質である。この混合は、当該少なくとも2つの物質を接触し得る状態にさせる。
【0185】
治療すること、治療等の用語が疾病に関する文脈において使用される場合、これらは例えば治癒又は症状の軽減を暗示するものではない。治療学的用語又はこれと同様の用語が治療すること、治療等の用語に伴って使用される場合、基礎疾患の症状が軽減すること及び/又は基礎的な1つ以上の細胞的原因、生理学的原因、若しくは生物化学的原因、若しくは症状を起こす機序が軽減されることを意味する。この文脈において使用される軽減とは、単に疾病の生理学的状態だけでなく、疾病の分子状態を含む疾病の状態が比較的低減されることを意味する。
【0186】
「トリガ(Trigger)」
トリガ等の用語は反応などの事象を起こす又は開始する動作・作用をいう。
【0187】
「値(Values)」
組成物、要素、添加物、細胞型、マーカなどの態様及びそれらの範囲のために開示された特定かつ好ましい値は、説明のためだけのものであり、それらは、定義された他の値又は定義された範囲中の他の値を除外するものではない。本開示の組成物、装置及び方法は、それらが有するどんな値又は値のどんな組み合わせ、特定の値、さらなる特定の値及びここに開示された好ましい値のものも含む。
【0188】
従って、ここに開示された方法、組成物、製品及び機械は、本明細書に記載された様々な成分、ステップ、分子及び組成物等を含み、これらで構成され、又は本質的にこれらで構成されるような態様にて結合され得る。それらは、例えば、ここに定義したようなリガンドを含む分子を特性化する方法、ここに定義したようなインデックスを生成する方法、又は、ここに定義したような創薬の方法において使われることができる。
【0189】
「未知の分子(Unknown molecule)」
未知の分子等の用語は、未知の生物学的、薬理学的、生理学的、病態生理学的な活性を有する分子をいう。
【0190】
「電位依存性イオンチャネル」
電位依存性イオンチャネルは、心臓及び神経などの興奮組織内における細胞表面膜に亘るタンパク質である。チャネルを通過するイオンは心筋活動電位の基礎を形成する。NAイオン及びCA2+イオンの各々の流入は、脱分極の立ち上がり及び活動電位のプラトー相を制御する。Kイオンの流出は、細胞膜を再分極し、活動電位を終端し、かつ筋肉の弛緩を可能にする。再分極電流の急速成分は、ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(hERG)によってコード化されたKチャネルを通過する。再分極障害は、活動電位の持続時間を延長し、弛緩を遅らせ、かつ心拍障害を進めることがある。活動電位の延長は、心電図(ECG)上で測定されるQT間隔の長期化として臨床的に検出される。薬剤誘発性のQT延長は再分極障害による薬剤の深刻な合併症であり、これは致死の心室性不整脈のリスクの増大に関連する。薬剤誘発性のQT延長は、ほぼhERGのKチャネルの遮断に関連している。メタンスルホンアニリド、ドフェチリド、MK−499、及びE−4031などの薬剤の大量のものは、影響を受けやすい患者に対して命に関わる心臓発作及び心室性不整脈を起こすような心臓のhERGなどのKイオンチャネルを遮断することが知られている。残念ながら、薬剤誘発性の心室性不整脈の発生率は低く、臨床試験では検出されない。
【0191】
テルフェナジン(抗ヒスタミン剤)、アステミゾール(抗ヒスタミン剤)、及びシサプリド(胃運動促進剤)などの非心血管性薬剤によってhERGチャネルが遮断されることによる突然死は、市場からのこれら薬剤の撤退のきっかけとなった。近年、バイオックス(Vioxx)等の薬剤も危険な心臓副作用に関する懸念のために市場から撤退した。一方、Kチャネルに関する心臓への安全性は監督機関の大きな懸念事項となっている。高い損耗率を抑えるために、創薬において、リード化合物(lead compounds)におけるhERGチャネルの阻害活性をできるだけ早く選別して排除することが最優先となっている。
【0192】
薬剤分子のhERG遮断活性に対する特性を試験する現在の方法はいくつかの制限を有している。細胞ベースのパッチクランプ型電気生理学的試験すなわち動物試験に基づく手法は、心臓安全試験における正確さ及び出力の要求を満たすものではなく、技術的に困難である。他のアッセイは、結合の定量化及び検出に、放射性標識マーカ、蛍光マーカ、染料結合マーカ、又はビオチン化マーカを使用する。しかし、これらマーカの多くは標識後に活性を低下させる。さらに、放射性物質は、放射性化合物を取り扱う複雑なインフラ及びライセンスの必要性などの実施上の制限をもたらす。本明細書ではhERG Kチャネル、hERG、hERGイオンチャネル、又はhERGチャネルと呼ばれるこのチャネルの無差別な性質は、多様な化学構造(Cavalli, A., et al., J.Med. Chem. 2002, 45(18), 3844-53)との結合を導き、その相互作用によって致死的結果となる可能性を伴う。このことは、全ての新薬候補が天然型又は組み換え型で発現されたヒトのhERGタンパク質(Bode, G., et al., Fundam. Clin. Pharmacol. 2002, 16(2), 105-18)を用いた機能的パッチクランプアッセイの試験を受ける米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration)及び国際調和会議(International Congress of Harmonization)からの勧告をもたらした。自動化された高いスループットのパッチクランプ法が近年開発されたが、当該システムは専門のオペレータ、生細胞、及び多額の設備投資を必要とする(Bridgland-Taylor, M., et al., J. Pharmacol. Toxicol. Methods 2006, 54(2), 189-99; Dubin, A., et al., J. Biomol. Screen. 2005, 10(2), 168-81)。従って、薬剤候補などの分子とhERGチャネルとの結合を特性化及び定量化する新規な組成物及び方法を開発する必要がある。
【0193】
KCNH2すなわちヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(hERG)はKv11.1カリウムイオンチャネルを形成するために結合するKv11.1のαサブユニットをコード化する。当該hERG遺伝子は、小胞体においてはコアグリコシル化された未成熟の135kDaタンパク質(Kv11.1)と訳され、ゴルジ体においては複雑にグリコシル化された成熟の155kDaタンパク質に変換される。(Warmke, J.W.ら(Proc. Nat. Acad. Sci. USA 1994, 91(8), 3438-3442、参照することにより組み込まれている)は、hERG遺伝子の配列及び構造とその野生型翻訳生成物のKv11.1とを開示している。hERGタンパク質の配列はSEQ ID NO: NP_000229に開示されている。hERG遺伝子の配列はSEQ ID NO: NM_000238に開示されている。
【0194】
「アッセイ」
「高いスループットの機能的hERGイオンチャネルアッセイ」
ここに開示されているのは、高いスループット及び高い分解能で、内因的に過剰発現したhERGイオンチャネル及び安定的に過剰発現したhERGイオンチャネルをアッセイしてhERG変調剤をスクリーニング検査する方法である。無標識バイオセンサの細胞アッセイは、生細胞における受容体の生態の研究及び機能的読み出し(例えば動的質量再分布シグナル)の提供を可能にするものであると示されている。得られるDMRシグナルは統合された細胞反応であり、イオンチャネル活性の全ての進化に従う。リアルタイムの動態は、イオンチャネル及びその調節タンパク質上で作用する変調剤の作用モードの分類を可能にする。
【0195】
無標識RWGバイオセンサはイオンチャネル変調剤を用いた刺激の際の細胞の統合された動態反応を測定するため、ここに開示されたバイオセンサアッセイはhERG変調剤を分類する新規な手法、特にhERGチャネル又はhERGに関するシグナル伝達錯体を介したシグナル伝達を活性化することができる変調剤に対する手法を提供するが、hERG電流及び/又はhERGチャネルを介したイオンフラックスに影響を与えるものと与えないものがある。
【0196】
hERG活性剤(例えばマロトキシン)の非存在下又は存在下における異なる細胞の多重化された無標識読み出しを結合することは、hERG変調剤を異なる区分に分類する効果的な手法を提供する。
【0197】
本方法及び本組成物は無標識バイオセンサの細胞アッセイに関するものである。細胞アッセイ用の無標識バイオセンサは、生物学的成分(すなわち生細胞)、検出要素、及び上記2つの要素に関するトランスデューサの3つの要素・部材からなるデバイスである。使用されるトランスデューサの種類に応じて、全ての細胞検知用の無標識バイオセンサは音響、電気、及び光学バイオセンサの3つの区分に大きく分類されることができる。
【0198】
「バイオセンサ」
「音響バイオセンサ」
水晶共振器などの音響バイオセンサは音波を用いて細胞反応を特性化する。音波は圧電物質を用いて一般的に生成されて受信される。しばしば音響バイオセンサは共振センサ構成にて操作するように構成される。典型的な構成においてこの石英ディスクは2つの金電極間に挟まれる。電極のACシグナルは高感度共振回路として機能する結晶の励起及び振動を導く。出力センサシグナルは共振周波数及び運動抵抗である。バイオセンサ表面が固定されている場合、当該共振周波数の大部分は吸収された材料の全質量の線形関数である。液体環境下では音響センサ反応は、結合分子の質量だけでなく、形成された分子錯体又は生細胞の帯電及び粘弾性特性の変化にも敏感である。結晶に関する細胞の運動抵抗及び共振周波数を測定することによって、細胞付着及び細胞毒性を含む細胞プロセスがリアルタイムで調査されることができる。
【0199】
「電気バイオセンサ」
電気バイオセンサはインピーダンスを用いて細胞付着を含む細胞反応を特性化する。典型的な構成において、生細胞は統合された電極アレイが組み込まれたバイオセンサ表面に接触する。一定電圧かつ高周波数の小さなACパルスが電極間に電場を生成するのに使用され、これは細胞の存在によって妨害される。当該電気パルス統合された電気回路を用いて当該回路内に生成され、回路を流れる電流は時間に従う。得られるインピーダンスは細胞層の導電性の変化の尺度である。細胞原形質膜は細胞間及び細胞下に電流を流れさせる絶縁材として機能する。インピーダンスベースの測定は、細胞付着、細胞拡散、細胞の微細動作、細胞の形態変化、細胞死、及び細胞シグナル伝達を含む幅広い細胞事象の研究に応用されている。
【0200】
「光学バイオセンサ」
光学バイオセンサは表面に結合した電磁波を一次的に使用して細胞反応を特性化する。当該表面結合波は、光に励起された表面プラズモンを用いて金基板上において得られる(表面プラズモン共鳴(SPR))か、又は回折格子に結合された導波モード共鳴を用いて誘電体基板上において得られる(共鳴導波路回折格子(RWG))ことができる。SPRにおいて、読み出しは発生する反射光の強度が最小の共鳴角度である。同様に、RWGバイオセンサにおいて、読み出しは得られる光取り込み(incoupling)効率が最大の共鳴角度又は共鳴波長である。当該共鳴角度又は共鳴波長はセンサ表面又はその近傍における局所屈折率の関数である。アッセイにおいて数個のフローチャネルに限られるSPRとは異なり、RWGバイオセンサは、機器及びアッセイの近年の進歩によって、ハイスループットスクリーニング(HTS)及び細胞アッセイを受け入れる余地がある。典型的なRWGにおいて、細胞は、高屈折率の材料を含むバイオセンサが組み込まれたマイクロタイタープレートのウェルに直接配置される。局所的な屈折率変化は、刺激された生細胞の動的質量再分布(DMR)シグナルを導出する。これらバイオセンサは、受容体の生態、リガンドの薬理、及び細胞付着を含む様々な細胞プロセスの研究に使用されている。
【0201】
本発明は、好ましくは、コーニングEpic(登録済み)システムなどの共鳴導波路回折格子型バイオセンサを使用する。Epic(登録済み)システムは、市販の波長統合システムである角度インタロゲーションシステム又は波長走査型画像化システム(swept wavelength imaging system)(コーニング社、コーニング、NY)を含む。当該市販のシステムは、温度管理ユニット、光学検出ユニットから構成されており、さらにロボットを備えたオンボードの液体操作ユニットを含むか、又はロボットを備えた外部の液体補助システムを含む。当該検出ユニットは統合されたファイバ光学系の中央に設けられ、細胞反応の約7又は15秒間隔での動態測定を可能にする。化合物溶液は当該オンボードの液体操作ユニット又は外部の液体補助システム(共に従来の液体操作システムを使用する)を用いて導入された。
【0202】
「バイオセンサとバイオセンサアッセイ」
無標識の細胞ベースアッセイは、一般的にバイオセンサを用いて生細胞における分子誘発性の反応を監視する。当該分子は天然のもの又は人工のものであることができ、精製されている又は浄化されていない混合物であることができる。典型的な場合、バイオセンサは、光学的トランスデューサ、電気的トランスデューサ、熱量的トランスデューサ、音響的トランスデューサ、磁気的トランスデューサなどのトランスデューサを用いて、バイオセンサに接触した細胞における分子認識事象又は分子誘発性の変化を定量化可能なシグナルに変換する。これら無標識のバイオセンサは分子相互作用の分析に使用されることができ、当該分析は、どのように分子錯体が形成及び分離するかを経時的に特性化すること、又は細胞反応についてはどのように細胞が刺激に対して反応するかを特性化することを含む。本方法に適用可能なバイオセンサは、例えば、表面プラズモン共鳴型(SPR)バイオセンサ及び共鳴導波路回折格子型(RWG)バイオセンサ、共鳴ミラー、エリプソメータなどの光学バイオセンサシステム、及び生体インピーダンスシステムなどの電気バイオセンサシステムを含む。
【0203】
「SPRバイオセンサとそのシステム」
SPRは入射光の範囲をカバーするプリズムに依存しており、プリズムは、くさび状の偏光された光を、導電性金属フィルム(例えば金)を含む平面ガラス基板に導き、これによって表面プラズモンを励起する。発生するエバネセント波は金層内の自由電子雲と相互作用して吸収され、電子電荷密度波(すなわち表面プラズモン)を生成し、反射光の強度を低下させる。この発生する強度が最小の共鳴角度は、センサ表面の反対の面にある金層に近接した溶液の屈折率の関数である。
【0204】
「RWGバイオセンサとそのシステム」
RWGバイオセンサは、例えば、基板(例えばガラス)、回折格子又は周期構造が組み込まれた導波路薄膜、及び細胞層を含み得る。RWGバイオセンサは、回折格子による光の導波路への共鳴結合を使用して溶液と表面との接触面における全反射を導き、これによって当該接触面において電磁場を生成する。この電磁場の性質は一過性のものであり、これは当該電磁場がセンサ表面から急激に減衰することを意味し、当該電磁場が初期値の1/eに減衰する距離は侵入深さとして知られており、侵入深さは特定のRWGバイオセンサ構成の関数であるが、典型的な場合約200nmである。このタイプのバイオセンサはエバネセント波を利用してバイオセンサ表面又はその近傍における細胞層のリガンド誘発性変化を特性化する。
【0205】
RWG機器は角度シフト又は波長シフトの測定に基づいたシステムへさらに分割されることができる。波長シフトの測定において、一定の角度の入射波長の範囲をカバーする偏光された光が使用されて導波路を照射し、特定の波長の光は当該導波路に結合されかつ当該導波路に沿って伝播する。一方、角度シフトの機器において、センサは単色光を用いて投射され、当該光が共鳴的に結合される角度が測定される。
【0206】
共鳴条件はバイオセンサの表面に直接接触している細胞層(例えば、細胞密度、細胞付着、及び細胞状態)の影響を受ける。リガンド又は検体が生細胞における細胞標的(例えば、GPCR、イオンチャネル、キナーゼ)と相互作用した場合、細胞層内の局所的な屈折率の変化は共鳴角度(又は波長)のシフトとして検出されることができる。
【0207】
コーニング(登録済み)Epic(登録済み)システムは、無標識の生物化学的すなわち細胞ベースのアッセイのためにRWGバイオセンサを使用する(コーニング社、コーニング、NY)。Epic(登録済み)システムは、RWGプレートリーダ及びSBS(生体分子スクリーニング協会)標準のマイクロタイタープレートで構成されている。当該プレートリーダにおける検出システムは、細胞のリガンド誘発性変化を受けると、統合されたファイバ光学系を用いて入射光の波長シフトを測定する。一組の照射−検出ヘッドは直線的に設けられ、これによって反射スペクトルは384ウェルのマイクロプレートのコラム内のウェルの各々から同時に収集される。プレート全体が走査され、センサの各々が複数回アドレス指定され、コラムの各々が順次アドレス指定される。入射光の波長は分析用に収集されかつ使用される。温度管理ユニットが機器に含まれることができ、これによって温度変化による入射波長の擬似シフトが最小限にする。測定された反応は細胞の集団の平均的な反応を表している。当該システムの様々な機能が自動化されることができ(例えばサンプルローディング)、また、多重化されることができる(例えば96ウェル又は386ウェルのマイクロタイタープレート)。液体操作はオンボードの液体操作部又は外部の付属液体操作部によって行われる。特に、分子溶液は、下部に培養された細胞を含んでいる細胞アッセイプレートのウェルへ直接付加又はピペッティングされる。当該細胞アッセイプレートは細胞を覆う特定のアッセイバッファ溶液の領域を含む。さらに、特定の回数のピペッティングによる単純な混合ステップは分子付加ステップに組み込まれることができる。
【0208】
「電気バイオセンサとそのシステム」
電気バイオセンサは、基板(例えばプラスチック)、電極、及び細胞層で構成されている。この電気的検出方法において、細胞は基板上に設けられた小さな金電極上において培養され、システムの電気インピーダンスは時間に従う。当該インピーダンスは細胞層の導電性の変化の尺度である。典型的な場合、固定又は変更された周波数における小さな一定の電圧が電極又は電極アレイに加えられ、回路の電流が経時的に監視される。電流のリガンド誘発性変化は細胞反応の尺度を提供する。全ての細胞検知に対するインピーダンス測定は1984年に初めて実現された。それ以降、インピーダンスベースの測定は、細胞付着、細胞拡散、細胞の微細動作、細胞の形態変化、及び細胞死を含む幅広い細胞事象の研究に用いられている。従来のインピーダンスシステムは、小さな検出電極及び大きな基準電極を使用したため、大きなアッセイのばらつきに悩まされている。このばらつきを克服するために、CellKeyシステム(MDS Sciex社、南サンフランシスコ、CA)、RT-CES(ACEA Biosciences社、サンディエゴ、CA)などの最新世代のシステムは、微小電極アレイを有する集積回路を使用する。
【0209】
「高い空間分解能のバイオセンサ画像化システム(High Spatial Resolution Biosensor Imaging System)」
SPR画像化システム、エリプソメトリ画像化システム、及びRWG画像化システムを含む光学バイオセンサ画像化システムは、高い空間分解能を提供し、本開示の実施例に使用されることができる。例えば、SPRイメージャ(登録済み)2(GWC Technologies社)は、プリズムに結合したSPRを使用し、固定入射角度にてSPR測定を行い、CCDカメラを用いて反射光を収集する。表面の変化は反射率変化として記録される。従って、SPR画像化は、すべてのアレイの要素に対する測定結果を同時に収集する。
【0210】
画像化ベースの用途にはRWGバイオセンサに基づいた波長走査型光学インタロゲーションシステムが用いられることができる。このシステムにおいて、センサすなわちマイクロプレート型のRWGバイオセンサのアレイに投射するのに高速の調節可能レーザ源が使用される。当該センサのスペクトルは、当該センサから反射された光学パワーをレーザ波長が走査する際の時間の関数として検出することによって解釈されることができ、コンピュータ化された共鳴波長インタロゲーションモデリングを用いた測定データの分析は、固定化受容体又は細胞層を有するバイオセンサの空間分解された画像の説明を与える。画像センサの使用は、画像化ベースのインタロゲーション構成につながる。二次元の無標識画像は部品を移動することなく得られることができる。
【0211】
一方、横磁場モードすなわちp−偏光されたTMモードの角度インタロゲーションシステムが使用されることもできる。このシステムは、約200μmx3000μm又は200μmx2000μmの大きさのRWGセンサに照射するような各光ビームアレイを生成する投光システムと、これらセンサから反射された光ビームの角度の変化を記録するCCDカメラベースの受光システムと、で構成されている。アレイ化された光ビームは、回折光学レンズと組み合わせたビームスプリッタを用いて得られることができる。このシステムは、最大49センサ(7x7ウェルセンサアレイ内)が3秒ごとに同時にサンプリングされること又は全384ウェルのマイクロプレートが10秒毎に同時にサンプリングされることを可能にする。
【0212】
さらに、波長走査型インタロゲーションシステムが使用されることもできる。このシステムにおいて、一定の角度の入射波長の範囲をカバーする偏光された光が導波路回折格子型バイオセンサに亘って照射及び走査されるのに使用され、各位置における反射光が同時に記録されることができる。走査中にバイオセンサにおける高分解能画像が得られることもできる。
【0213】
「生細胞における動的質量再分布(DMR)シグナル」
細胞標的を介した刺激に対する細胞反応は、下流シグナル伝達網(downstream signaling networks)の空間的及び時間的動態によってコード化されることができる。このため、統合された細胞シグナル伝達をリアルタイムで監視することは、細胞の生態及び生理の理解に有益な生理的情報を提供することができる。
【0214】
共鳴導波路回折格子(RWG)型バイオセンサを含む光学バイオセンサは、細胞物質の動的再分布に関する統合された細胞反応を検出し、細胞シグナル伝達の研究ための非侵襲的手段を提供することができる。全ての光学バイオセンサに共通することは、これらがセンサ表面又はそのごく近傍における局所屈折率の変化を測定するということである。原理上は、エバネセント波を用いて細胞内のリガンド誘発性変化を特性化することができれば、ほぼ全ての光学バイオセンサが細胞検知に適用可能である。エバネセント波は溶液−表面間の接触面における光の全反射によって作り出される電磁場であり、エバネセント波は、典型的な場合短い距離(約数百ナノメートル)だけ伸び、これは侵入深さ又は検知領域と呼ばれる溶液の特定の深さである。
【0215】
近年、理論的数学モデルが開発され、当該モデルは、リガンドを用いた刺激に反応する生細胞内において測定された光学シグナルのパラメータ及び性質を説明するものである。既知の細胞生物物理と組み合わせた3層の導波路システムに基づいたこれらモデルは、リガンド誘発性の光学シグナルを、受容体を仲介した特定の細胞プロセスへ結び付ける。
【0216】
バイオセンサは入射光による照射エリアに位置する細胞の平均的な反応を測定するため、高密度の細胞層が最適なアッセイ結果を得るのに使用され得る。バイオセンサの短い侵入深さに比べて細胞の寸法は大きいため、センサ構成は、基板、回折格子構造を有する導波路膜、及び細胞層の従来にない3層システムと考えられるものである。従って、リガンド誘発性の効果的な屈折率変化(すなわち検出シグナル)は、一次的には、細胞層の下部の屈折率変化に正比例する。
【0217】
【数1】

【0218】
式中のS(C)は細胞層に対する感度であり、△nはバイオセンサに検知された細胞層のリガンド誘発性の局所屈折率の変化である。細胞内の所定の領域の屈折率は主にタンパク質などの生体分子の濃度によって決まるため、Δnは検知領域内の分子集合体又は細胞標的の局所的な濃度のリガンド誘発性変化に正比例するとみなされることができる。バイオセンサ表面から離れて伸びるエバネセント波が急激に減衰する性質を考慮すると、リガンド誘発性の光学シグナルは以下の式によって与えられる。
【0219】
【数2】

【0220】
式中の△Zは細胞層への侵入深さであり、αは特定の屈折増分(タンパク質では約0.18/mL/g)であり、zは質量の再分布が起こる距離であり、dは細胞層内の想像上のスライス厚である。ここでは細胞層は垂直方向において等間隔なスライスへ分割される。上記の式は、リガンド誘発性の光学シグナルがセンサ表面からの異なる距離において発生する質量再分布の総和であり、その各々が全体の反応に対して同じでない寄与を伴うことを示している。さらに、波長シフト又は角度シフトに関する検出シグナルは、主にセンサ表面に対して垂直に発生する質量再分布に一次的に敏感である。その動的性質により、当該シグナルは動的質量再分布(DMR)シグナルとも呼ばれる。
【0221】
「細胞とバイオセンサ」
細胞は、受け取った情報を処理、コード化、及び統合する多数の細胞経路又は細胞機構に依存している。特にタンパク質標的への検体の結合を測定する光学バイオセンサを用いた親和性分析とは異なり、生細胞は非常に複雑かつ活発である。
【0222】
細胞シグナル伝達を研究するために、細胞培養によって得られる得る細胞はバイオセンサの表面に接触させられる。これら培養された細胞は3つの接触タイプを用いて細胞表面へ貼付けられ、当該接触タイプは焦点接触、密着接触、及び細胞外マトリクス接触であり、各々は当該表面からの特定の分離距離を有している。その結果、基礎の細胞膜は概して当該表面から約10−100ナノメートル離れている。浮遊細胞については、細胞は、細胞表面受容体の共有結合、細胞表面受容体の特定の結合、又は重力による単純な沈下によってバイオセンサ表面に接触させられ得る。このため、バイオセンサは細胞の下部を検知することができる。
【0223】
多くの場合、細胞は表面に依存した付着及び増殖を見せる。ロバストな細胞アッセイを達成するために、バイオセンサ表面は細胞付着及び細胞増殖を促進するコーティングを必要とする。しかし、表面特性は細胞の生態に直接の影響を与え得る。例えば、表面結合されたリガンドは細胞の反応に影響を与える場合があり、例えば細胞によって与えられた力の下でどのように変形するかに影響する基板材料の機械的適合性に影響を与える。培養条件(時間、血清濃度、密度など)が異なるために、得られた細胞状態は1の表面と他の表面とでは異なるものであり、さらに1の条件と他の条件とでは異なるものである場合がある。従って、バイオセンサベースの細胞アッセイを発達させるためには細胞状態を管理する特別な工夫が必要である。
【0224】
細胞は典型的な場合数十ミクロンの比較的大きい寸法を有する動的対象物である。刺激をしない場合でも、細胞は常に微細動作しており、これは、細胞より小さい分解能の微速度撮影の顕微鏡検査及びナノメートルレベルの生体インピーダンス測定によって組織培養において観測される動的変動及び細胞構造の再モデル化である。
【0225】
未刺激の条件下では、細胞は、概して、RWGバイオセンサを用いて検査された際に正味ゼロのDMR反応を生成する。これは、レーザスポットのサイズが大きいこと及び結合された光の伝播距離が長いことによる光学バイオセンサの空間分解能の低さが部分的に起因している。レーザスポットのサイズは調査されるエリアのサイズを決定し、通常は1度に1つの分析ポイントのみが追跡されることができる。従って、当該バイオセンサは、典型的な場合、光の入射領域に位置する大きな細胞集団の平均的な反応を測定する。細胞は単一細胞レベルで微細動作するが、検査された大きな細胞集団は平均的に正味ゼロのDMR反応を生じさせる。さらに、細胞内の巨大分子は、哺乳類の細胞の適切な場所に対して高度に組織化されかつ空間的に制限されている。細胞上及び細胞内のタンパク質の厳しく管理されている局在化は特定の細胞機能を判定しかつ反応する。なぜなら当該局所化は、細胞が、適切な相手と相互作用するタンパク質の特異性及び効率を制限し、かつタンパク質の活性構造及び失活構造を空間的に分離することを可能にする。この制御のために、未刺激の条件下では、検知領域内の細胞の局所的な質量密度は平衡状態に達し、正味ゼロの光学反応を導くこととなる。一貫した光学反応を得るために、分析される細胞は、従来の培養条件下において所定期間において培養され、これによってほとんどの細胞が単一の分裂周期を完了している。
【0226】
生細胞は、外因性シグナルを検知しそれに反応する優れた能力を有している。以前は、細胞シグナル伝達は、環境信号が単一の特定反応をもたらす反応の線状鎖を引き起こし得る線状の経路を介した機能と考えられていた。しかし、外部刺激に対する細胞反応がより複雑であるということが調査で示された。細胞が受信する情報が、シグナル伝達タンパク質の位相的再配置及びリン酸化反応の複雑な時間的及び空間的パターンへコード化及び処理され得ることが明らかになった。適切な場所に対するタンパク質の空間的及び時間的な標的化は、タンパク質間の相互作用の特異性及び効率を制限し、かつ細胞シグナル伝達及び細胞反応のタイミング及び強度を判定するのに極めて重要である。細胞骨格再構築、細胞周期チェックポイント及びアポトーシスなどの重要な細胞の判定は、活性化されたシグナル伝達物質の正確な時間管理及び相対的な空間的分散に依存する。従って、Gタンパク質結合受容体(GPCR)などの細胞標的を介した細胞シグナル伝達は、典型的な場合、規則的かつ調節された状態において進められ、一組の空間的及び時間的事象で構成されており、これらの多くは局所的な質量密度の変化すなわち細胞の局所的な細胞物質の再分布を導く。検知領域内において発生するこれら変化すなわち再分布は、光学バイオセンサを用いてリアルタイムで直接追跡されることができる。
【0227】
「DMRシグナルは生細胞の生理的反応である」
受容体の生態を研究する従来の薬理的手法との比較を通して、リガンドが細胞系において発現された受容体に特有のものである場合において、リガンド誘発性のDMRシグナルが受容体特有のものであり、用量依存性のものであり、かつ可飽和のものであることが示されている。多くのGタンパク質結合受容体(GPCR)リガンドにおいて、従来の方法を用いて測定されたのとほぼ同一の効能(EC50値によって測定されたもの)が見られた。さらに、DMRシグナルは、脱感作(desensitization)及び再感作(re-sensitization)が全てのDPCRに共通である場合、期待される脱感作パターンを示す。また、DMRシグナルはGPCRリガンドの忠実度を維持し、これは従来技術を用いて得られるものに類似している。さらに、バイオセンサは、完全アゴニスト、部分的アゴニスト、逆アゴニスト、アンタゴニスト、及びアロステリック変調剤を識別することができる。総合すると、これらの研究成果は、DMRが生細胞の生理的反応を監視できることを示している。
【0228】
「DMRシグナルは生細胞内のリガンド−受容体の対のシステム細胞生態情報を含む」
リガンドを用いた細胞の刺激は一組の空間的及び時間的事象を導き、当該事象の非制限的な例は、リガンド結合、受容体活性化、タンパク質補充、受容体内在化、受容体再循環、二次メッセンジャーの変化、細胞骨格の再構成、遺伝子発現、及び細胞付着変化を含む。細胞事象の各々は特性(例えば、動態、持続時間、振幅、質量移動)を有しており、かつバイオセンサは検知領域内の質量再分布を含む細胞事象に一次的に敏感であるため、これら細胞事象はDMRシグナル全体に別々に寄与し得る。リガンド誘発性のDMRシグナルに対する細胞機序を解明するために、化学生物学的、細胞生物学的、及び生物物理学的手法が使用されることができる。近年、特定の細胞シグナル伝達成分における介入用の化学物質を直接使用する化学生物学が、生物学的課題に取り組むのに使用されている。これは、多くの異なる細胞標的の活性を具体的に制御する多くの変調剤を同定することによって可能となっている。この手法は、上皮成長因子(EGF)受容体、Gq結合受容体及びGs結合受容体を含む受容体を介したシグナル伝達及びそのネットワーク相互作用を解読するのに採用されている。
【0229】
EGFRは受容体チロシンキナーゼのファミリに属する。EGFは、EGFRの内因性のタンパク質チロシンキナーゼ活性に結合してそれを刺激し、主にMAPK、Akt、及びJNK経路を含むシグナル伝達カスケードを開始する。EGF刺激中は、EGFRを内因的に過剰発現する細胞株であるA431細胞における質量再分布を導く多くの事象が存在する。EGFRシグナル伝達は細胞状態に依存することが知られている。その結果、EGF誘発性のDMRシグナルは細胞状態にも依存する。0.1%のウシ胎児血清内において20時間の培養によって得られた静止細胞において、EGF刺激は、(i)シグナルが増加するポジティブ段階(P−DMR)、(ii)遷移段階、及び(iii)減衰段階(N−DMR)の3つの異なる連続的段階のDMRシグナルを導く。化学生物学及び細胞生物学の研究が示していることは、EGF誘発性のDMRシグナルが、MEKを介して進み細胞分離を導くRas/MAPK経路に一次的に関連していることである。以下の2つの証拠が示すのは、P−DMRが、細胞表面において活性化された受容体に対する細胞内標的の補充に大きく起因することである。第1に、ダイナミン活性又はクラスリン活性の遮断はP−DMR事象の大きさにほとんど影響を与えない。EGFR活性化の2つの下流成分であるダイナミン及びクラスリンは、EGFRの内在化及びシグナル伝達の実行に重要な役割を果たすものである。第2に、MEK活性の遮断はP−DMR事象を部分的に減衰させる。MEKはMAPK経路内の重要な成分であり、受容体を用いた内在化に従って、EGF刺激後にまず細胞質から細胞膜へ移行する。
【0230】
一方、N−DMR事象は細胞分離及び受容体内在化に起因する。蛍光画像が示すのはEGF刺激が大量の内在化された受容体及び細胞分離を導くことである。受容体内在化又はMEK活性の遮断は細胞分離を妨害し、受容体内在化はダイナミン及びクラスリンの両方を必要とすることが知られている。これが示すことは、ダイナミン活性又はクラスリン活性の遮断が受容体内在化及び細胞分離の両方を阻害し、一方MEK活性の遮断が細胞付着のみを阻害して受容体内在化を阻害しないということである。予想通り、ダイナミン阻害剤又はクラスリン阻害剤はEGF誘発性のN−DMRを完全に(約100%)阻害し、一方MEK阻害剤はN−DMRを部分的に(約80%)減衰させる。さらに、蛍光画像は、ダイナミンの活性の遮断が受容体内在化を減衰させ、MEKではそうならないことを裏付ける。
【0231】
「DMRシグナルは生細胞上で作用するリガンドのシステム細胞薬理情報を含む」
DMRシグナルは細胞の下部にある細胞物質の動的再分布を含む多くの細胞事象における寄与からなる統合された細胞反応であるため、DMRシグナルなどのリガンド誘発性のバイオセンサシグナルはシステム細胞薬理情報を含んでいる。GPCRはしばしば細胞内の強い挙動を示すことが知られており、かつ多くのリガンドは細胞構造の特定の部分を優先して有効なバイアスを誘発して経路バイアスされた効能を示すことが知られている。従って、どのように受容体の下流の細胞事象が測定されかつリガンド薬理に対する読み出しとして使用されるかに応じて、リガンドが複数の効能を有し得る可能性は十分ある。実際、ほとんどが経路バイアスされたものであり単一のシグナル伝達事象のみをアッセイする従来の細胞アッセイでは、GPCRリガンドのシグナル伝達能力を体系的に示すことは困難である。しかし、無標識バイオセンサの細胞アッセイは細胞シグナル伝達の予備知識を必要とせず、経路バイアスされておらず、かつ経路に敏感なため、これらバイオセンサの細胞アッセイはリガンド選択性シグナル伝達及びリガンドのシステム細胞薬理の研究を受け入れる余地がある。
【0232】
「バイオセンサパラメータ」
RWGバイオセンサ又は生体インピーダンスバイオセンサなどの無標識バイオセンサはリガンド誘発性の細胞反応をリアルタイムで追跡することができる。非侵襲的かつ操作不要のバイオセンサの細胞アッセイは細胞シグナル伝達の予備知識を必要としない。得られるバイオセンサシグナルはリガンド薬理及び受容体シグナル伝達に関する高度な情報を含む。多重パラメータは刺激された細胞の動的バイオセンサ反応から抽出されることができる。これらパラメータは動態全体、段階、シグナル振幅、を含み、さらに1の段階から他の段階への遷移時間を含む動的パラメータ、及び各段階の動態を含むが、これらに限定されない(Fang, Y., and Ferrie, A.M. (2008) “label-free optical biosensor for ligand-directed functional selectivity acting on β2 adrenoceptor in living cells”. FEBS Lett. 582, 558-564; Fang, Y., et al., (2005) “Characteristics of dynamic mass redistribution of EGF receptor signaling in living cells measured with label free optical biosensors”. Anal. Chem., 77, 5720-5725; Fang, Y., et al., (2006) “Resonant waveguide grating biosensor for living cell sensing”. Biophys. J., 91, 1925-1940 を参照)。
【実施例】
【0233】
【実施例1】
【0234】
無標識バイオセンサの細胞アッセイによる既知のhERG活性剤マロトキシンの特性
材料及び方法
細胞培養
全ての細胞培養試薬はインビトロジェンギブコ社(Invitrogen GIBCO)から購入した細胞培養である。HEK293細胞は、ATCCの指示に従って、10%のウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを含んだMEM-GlutoMax内に保存された。HT29細胞は10%のウシ胎児血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを含んだMcCoy5A培地内に保管された。hERG安定発現HEK細胞株(HEK−hERG)はSunら(J. Biol. Chem. 2006, 281, 5877)に従って保管された。細胞は週当たり1−2回二次培養され(subcultured)、15未満の通過細胞が全ての実験に使用された。
【0235】
化合物
マロトキシン、AG−126、ニフルム酸、フルフェナム酸、ジフルニサル、ドフェチリド、及びチルホスチン51はエンゾライフサイエンス社(Enzo Lifesciences)から購入された。シサプリド、アステミゾール、セルチンドール、フィブロネクチンはシグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)から購入された。ドフェチリドはフィッシャーサイエンティフィック社(Fisher Scientific)から購入された。
【0236】
無標識バイオセンサの細胞アッセイ
Epic(登録済み)波長インタロゲーションシステム(コーニング社、コーニング、NY)が全ての細胞検知に使用された。このシステムは、温度管理ユニット、光学検出ユニット、及びオンボードのロボット付き液体操作ユニットで構成されている。当該検出ユニットは統合されたファイバ光学系の中央に設けられており、約15秒間隔での細胞反応の動的測定を可能にする。
【0237】
細胞は、アッセイ前は、384ウェルのEpic(登録済み)細胞培養処理プレート(Corning Cat#5040)に16−20時間プレート化(plated)された(HEK293細胞及びHEK−hERG細胞はウェル当たり15000細胞、HT29細胞はウェル当たり30000細胞)。HEK−hERG細胞及びその親のHEK293細胞については、それぞれ10μlの5μg/mlフィブロネクチンに覆われた。アッセイ前の1時間、細胞は、20mMのヘペス(Hepes)を含むハンクス平衡塩類溶液(HBSS)を含有するBioTek ELx405セレクトウォッシャによって2回洗浄された。細胞は、Epicシステム内における28度のウェル当たり40μlのHBSS内において1時間培養された。各アッセイにおいては、10μlの化合物溶液(5倍)の添加後2分を基準線として開始され、細胞反応が1時間連続で記録された。
【0238】
全ての調査は管理された温度(28度)において実施された。少なくとも2つの独立した実験が、各々少なくとも3つの複製物に対して行われた。アッセイの変動係数は10%未満であった。全ての用量依存性反応がグラフパッドプリズム5(GraphPad Prism 5)を用いた非線形回帰法によって分析された。
【0239】
Rbフラックスアッセイ
Rbフラックスアッセイは上記文献(Sun, H., et al, J. Biol. Chem. 2006, 281, 5877)に記載してあるようにHEK−hERG細胞を用いて実施された。つまり、96ウェルの組織培養処理プレート内においてウェル当たり50,000の細胞がアッセイ前に20時間プレート化された。翌日、細胞は、5mMのRbClを含む完全細胞培地を用いて、5%の二酸化炭素と共に37度で3時間培養された。その後、HBSS内で希釈された化合物(10倍)が細胞培地に添加され、細胞はさらに1時間、5%の二酸化炭素と共に37度で培養された。細胞はRb+のない細胞培地を用いて2回洗浄され、異なる濃度のKClを含むウェル当たり180μlの細胞培地を用いて厳密に10分間培養された。各ウェルにおける浮遊物は新しい96ウェルのプレートに直ちに移動された。細胞はHBSS内においてウェル当たり180μlの0.5%トリトン100に溶解した。各サンプルのRb濃度がICR8000(Aurora Biomed社製)によって判定された。
【0240】
e.IonWorksを用いた自動パッチクランプ記録
hERGチャネルを安定して発現するCHO−K1細胞(CHO−hERG)がT175フラスコ内において約70%の密集度まで培養された。細胞はPBSを用いて2回洗浄され、2.5mlの0.25%トリプシン/EDTAが2.5mlのPBSに混合され、T175フラスコへ加えられた。細胞は希釈されたトリプシン/EDTA溶液を用いて37度で2分間培養され、その後室温で約3分間連続して培養された。20mlの新鮮培地(fresh medium)が懸濁された細胞に加えられ、50mlのチューブに移動された。細胞は750rpmにおいて5分間遠心分離された。余分な培地は除去され、細胞は6mlの外部バッファ(137mMのNaCl、4mMのKCl、1.8mMのCaCl、1mMのMgCl、10mMのヘペス、10mMのグルコース、pH7.4)に懸濁された。その後細胞は450rpmにおいてさらに5分間遠心分離された。最後に、細胞は4mlの外部バッファに懸濁され、血球計算機(hemacytometer)を用いて細胞数がカウントされた。細胞懸濁液は外部バッファを用いてml当たり2.5x10細胞まで希釈された。4mlの再懸濁された細胞がIonWorks内の細胞リザボに加えられた。40mMのKCl、100mMのグルコン酸カリウム、3.2mMのMgCl、2mMのCaCl、5mMのヘペス、pH7.25(KOHを用いて調節されたもの)を含む内部溶液が使用された。200μlのDMSOストックからの5mgのアンフォテリシンBが65mlの内部溶液に加えられ、ウェルが混合され、パッチプレート上の細胞の内部への電気接続を得た。
【0241】
化合物は10mMのDMSOストックから準備され、外部バッファ内において希釈され、3倍の化合物溶液を作製した。ウェル当たり60μlの3倍化合物溶液は384ウェルのプレートの列A、B、C、及びDに移動された。hERGチャネル活性剤と報告されているPD11857(シグマアルドリッチ社)が活性剤ポジティブコントロールとして使用された(最終濃度は30μM及び50μM)。hERG遮断剤のドフェリチドは遮断剤ポジティブコントロールとして使用された(最終濃度は100nM)。IonWorks Quattro PatchPlate PPCプレート(Cat#9000-0902, モレキュラーデバイス社)の最終DMSO濃度は0.5%であった。最終化合物濃度は50μMであった。各化合物は1つのPPCプレートの4つのウェルに加えられた。
【0242】
hERG電流はIonWorks Quattro(モレキュラーデバイス社)に記録された。hERG電流を記録するために、細胞はまず−80mVにてクランプされ、次に+40mVにて5秒間脱分極され、チャネルが活性化された。−35mVへの回帰を確保している間のテール電流が測定された。データ分析はIonWorks Quttro(登録済み)システムソフトウェアのバージョン2.0.4.4を用いて行われた。ウェルからのデータの50MΩ未満のシール抵抗のもの又は0.1nA未満のhERGテール電流のものは除外された。hERGテール電流比率(後化合物/前化合物)が平均的なDMSOコントロールの平均値+2SD(標準偏差(standard deviation))よりも大きい場合に活性剤のヒットが選択された。hERGテール電流比率(後化合物/前化合物)が平均的なDMSOコントロールの平均値−2SD未満である場合に阻害剤のヒットが選択された。
【0243】
結果
ヒト大腸癌細胞株HT29、HEK293、及びその人工のHEK−hERG細胞株の3種類の細胞が使用された。HT−29は内因的にhERGチャネルを発現することが知られている。HEK293は内因的に発現されたhERGチャネルを含まない天然の細胞株であり、一方HEK−hERGは安定的に発現されたhERGチャネルを有する人工のHEK293細胞である。最近発見されたhERG活性剤であるマロトキシンは、生理的条件(すなわち1倍のHBSSのバッファ条件)又はそれに近い条件においてhERGチャネルを活性化するのに使用された。
【0244】
図1に示されているように、16マイクロモルの既知のhERG活性剤のマロトキシンは、HT29細胞及びHEK−hERG細胞(それぞれ図1A及び図1B)においてロバストなDMRシグナルを引き起こすだけでなく、HEK293細胞(図1C)においてネガティブコントロールに近い正味ゼロのDMRシグナルを生じさせた。16マイクロモルのマロトキシンを用いたHT29細胞及びHEK−hERG細胞の前処理は、16マイクロモルのマロトキシンを用いた後続の刺激に対する両細胞の脱感作を完全に生じさせた。DMR変調インデックスは、化合物(すなわちマロトキシン)の存在下における細胞株のマロトキシンDMRシグナルを、当該化合物の非存在下における対応するDMRシグナルに対して正規化することによって生成され、その変調比率は特定の時間(それぞれ、HEK−hERG細胞に対しては刺激後約18分、HT29細胞に対しては刺激後約50分)におけるマロトキシンDMRシグナルの大きさに基づいていた。マロトキシンは複合薬理を表示することが知られている。さらに、マロトキシンはプロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤となることが知られており、PKCはhERG活性化の下流シグナル伝達成分である。従って、細胞株が無標識バイオセンサ(すなわちEpic(登録済み)システム)を用いて個別にアッセイされる場合、マロトキシンがhERG活性剤となる作用モードを特定することは困難又はほぼ不可能である。実際、図2−図5に示したものを含む多くの化合物は、HT29細胞、HEK−hERG細胞、又はその両方においてロバストなDMRシグナルを導出するのみならず、両細胞株においてマロトキシンを変調する特定のパターンを生じさせた。しかし、HT29細胞及びHEK293細胞におけるマロトキシン反応に対する化合物の変調インデックスを用いて試験された3つの細胞株に亘って化合物の一次DMRプロファイルを結合することは、当該化合物がhERG活性剤か否かを正確に同定することが可能である。図1に示されている結果は、マロトキシンがhERG活性剤であることと、hERGの活性化が2つのhERG発現細胞株において検出可能なバイオセンサ反応をもたらし得ることと、を確かに示している。
【0245】
これらの発見を裏付けるために、いくつかの追跡調査が行われた。第1に、マロトキシンがHEK−hERG細胞において用量依存性DMRシグナルを生じさせることが示され、刺激後18分におけるその振幅は可飽和であり、これは明らかな約25μMのEC50を導出している。興味深いことに、マロトキシンの用量が増えると、その光学反応は複雑になり、細胞の毒性成分を含む複雑なプロファイルへの用量依存性の切り替わりを見せた。実際、顕微鏡画像で確認すると(データは示されていない)、これら高用量のマロトキシンは細胞アポトーシスを引き起こした(データは示されていない)。
【0246】
第2に、マロトキシンンがhERG活性剤であることをHEK−hERG細胞を用いたRbフラックスアッセイが裏付けた。図6aに示されているように、細胞が5mMのKClを含むバッファ溶液に保管された場合において、10μM又は50μMのマロトキシンはRbシグナル伝達を大きく増大させた。同様に、細胞が40mMのKClに保管された場合、10μMのマロトキシンはRbシグナルを明らかに増大させた。一方、既知のhERG遮断剤のドフェチリドは、全ての3つのアッセイ条件下において、HEK−hERG細胞のRbシグナルを抑制した。
【0247】
第3に、3つの既知のHERK遮断剤であるシサプリド、アステミゾール、及びセルチンドールのそれぞれを用いたHEK−hREG細胞の前処理は、マロトキシンDMRシグナルの用量依存性の抑制を導いた(図8、データは示されていない)。一方、2つの大コンダクタンスカリウム(BK)イオンチャネル遮断剤のパキシリン(paxilline)及びペニトレムA(penitrem A)はHEK−hERG細胞のマロトキシンDMRシグナルに影響を与えなかった(データは示されていない)。マロトキシンはBKチャネルを活性化することも知られている。しかし、これらの結果が示すことは、HEK−hERG細胞におけるマロトキシンDMRシグナルがhERGチャネルの活性化に大きく起因しているということである。
【0248】
第4に、マロトキシンがhERG電流及びhERGテール電流(データは示されていない)を著しく増大させることを、CHO−hERG細胞を用いたhERG電流の自動パッチクランプ記録が示した。
【0249】
同様に重要なことは、マロトキシンDMRシグナルが非常にロバストかつ高度に再現性のあるものであることであり(図9)、これは、かかるバイオセンサによる細胞アッセイが高いスループットのスクリーニング検査に応用可能であることを示している。これは、hERGチャネルに対する生理的かつ機能的HTSアッセイを示す。
【0250】
同様に、低作用hERG活性剤のNS1643はHEK−hERG細胞において検出可能なDMRシグナルを誘発したが、その親のHEK−293細胞においては誘発しなかった(データは示されていない)。
【実施例2】
【0251】
無標識バイオセンサの細胞アッセイによるhERG活性を変調する化合物の能力特性
以下はマロトキシン及びNS1643に対する実施例1に開示された方法と同じ方法であり、いくつかのよく知られている分子におけるhERG活性を変調する能力が調査されたものである。10μMの非ステロイド系抗炎症薬剤であるフルフェナム酸はHT−29細胞及びHEK−hERG細胞(それぞれ図2A及び図2B)においてロバストなDMRシグナルを導いたが、HEK293細胞(図2C)においては導かなかった。フルフェナム酸はHT−29細胞においてマロトキシンDMRシグナルを選択的に減衰させたが、HEK−hERG細胞(図2D)においては減衰させなかった。両方のhERG発現細胞株におけるフルフェナム酸のDMRシグナルは対応するマロトキシンDMRシグナルとは大きく異なるが、これら結果が示すことはフルフェナム酸が弱いhERG活性剤として機能することである。Rbフラックスアッセイによる追跡調査は、HEK−hERGが5mMのKCl内においてアッセイされた場合に、フルフェナム酸が小さくかつ用量依存的にRbシグナルを増大させたことを示した(図6A)。さらに、異種発現したhERGチャネルを有する卵母細胞内のパルスを脱分極することによって誘発された外向き電流の大きさをフルフェナム酸(100から500μM)が強化することを文献調査が示した。また、0mVまでの正電位において、初期の過渡成分はフルフェナム酸の存在下に表れていた。フルフェナム酸はhERGチャネルの活性化速度を速め、不活性化を遅延させた。心筋活動電位を模倣する電位プロトコルを用いると、フルフェナム酸は、安定期中及び段階3の活動電位再分極中の両方における外向き電流を増大させた(Malykhina, A.P., et al., European Journal of Pharmacology 2002, 452, 269-277)。図10Bに示されているように、これら発見に一致して、我々のパッチクランプ記録は同様の結果を導いた。曲線1030はフルフェナム酸を加える前のhERG電流を示しており、曲線1040はフルフェナム酸を加えた後のhERG電流を示している。
【0252】
ニフルム酸についても同様の結果が見られた(図10A)。曲線1010はニフルム酸を加える前のhERG電流を示しており、曲線1020はニフルム酸を加えた後のhERG電流を示している。hERG電流はIonWorks Quattroに記録された。hERG電流を記録するために、細胞はまず−80mVにてクランプされ、次に+40mVにて5秒間脱分極され、チャネルが活性化された(図10Aの段階a)。−35mVへの回帰を確保している間のテール電流が2秒間測定された(図10Aの段階b)。最終保持電位は−70mVにおけるものであった(図10Bの段階c)。フルフェナム酸及びニフルム酸の両方はテール電流を著しく増大させた(段階b)。ニフルム酸がhERG活性剤であることは文献には報告されていなかった。
【0253】
同様に、10μMのプロスタグランジン合成酵素の阻害剤であるジフルニサルもHT−29においてロバストなDMRシグナルを生じさせ(図3A)、かつHEK−hERG細胞において抑制されたDMRシグナルを生じさせた(図3B)が、HEK293細胞においては生じさせることはなかった(図3C)。ジフルニサルを用いた細胞の前処理は、マロトキシン(16μM)に対してHT29細胞を完全に脱感作させたが、HEK−hERG細胞においてはそうではなかった(図3D)。50μMのジフルニサルのみがHEK−hERG細胞を維持した5mMのKClにおいてRbフラックスシグナルを検出可能なように増大させた(図6A)。しかし、パッチクランプ記録はジフルニサルがhERG遮断剤として機能することを示し、これはhERGテール電流の抑制からも明らかである(図11B)。これら結果は、ジフルニサルが弱いhERG経路活性剤として機能するが、hERG電流阻害剤としても機能することを示している。
【0254】
一方、ERK2阻害剤のAG−126もHT29においてDMRシグナルを生じさせ、これは対応するジフルニサルのDMRに類似している(図4A)が、AG−126はHEK−hERG細胞及びHEK−293細胞(それぞれ図4B及び図4C)においてはDMRを生じさせなかった。さらに、AG−126はHT−29細胞のマロトキシンDMRシグナルを部分的に減衰させたが、HEK−293細胞ではそうでなかった(図4D)。また、AG126はhERGイオンフラックス(図6)及びhERG電流(図12)の両方にほとんど又は全く影響を与えない。これら結果は、AG−126がhERGシグナル伝達経路変調剤として機能することを示している。
【0255】
興味深いことに、強力なEGFR阻害剤のチルホスチン51は、試験した3つ全ての細胞においてロバストであるが異なるDMRシグナルを生じさせ(図5A−図5C)、HT29細胞におけるマロトキシンDMRシグナルを部分的に減衰させた(図5D)。チルホスチン51は複合薬理的化合物である。チルホスチンはそのEGFRへの阻害効果の他、ホスホジエステラーゼ4及びPKCの活性を抑制する(データは示されていない)。チルホスチン51はhERGイオンフラックスにほとんど影響を与えない(図6)が、hERGテール電流を大きく抑制する(図11A)。これら結果は、チルホスチン51がhERGチャネルシグナル伝達経路変調剤及びhERG電流阻害剤として機能することを示している。
【0256】
興味深いことに、旧知のhERG遮断剤のセルチンドールは、試験された3つ全ての細胞株においてDMRシグナルを生じさせなかった(データは示されていない)が、HT29細胞及びHEK−hERG細胞におけるマロトキシンDMRシグナルを用量依存的に減衰させた(図8)。さらに、セルチンドールは、HEK−hERG細胞におけるhERGを介したRb+イオンフラックスと、CHO−hERG細胞におけるhERG電流と、を阻害した。これら結果は、セルチンドールが旧知のhERG遮断剤であることを示唆している。
【0257】
これらの例は、3つの異なる細胞型における分子の一次プロファイルと、2つのhERG発現細胞上で作用するマロトキシン対分子のDMR変調インデックスと、を結合することによって、ここに開示された方法が、潜在するhERG変調剤を異なる分類へ分類する高分解能アッセイを提供することを明らかにした。同定されたこれらhERG変調剤のクラスは、hERG活性剤(hERG電流を増大させかつhERGを介したシグナル伝達を生じさせる分子であり、例えば、マロトキシン、フルフェナム酸、及びニフルム酸)、hERG経路活性剤(hERG又はhERG関連の錯体を介したシグナル伝達を生じさせる分子であるが、hERG電流又はhERGイオンフラックスに影響を与えるものと与えないものとがあり、例えば、ジフルニサル及びチルホスチン51)、hERG経路遮断剤(hERGシグナル伝達を変調するがhERG電流又はhERGイオンフラックスを阻害する分子であり、例えばAG126)、hERGチャネル遮断剤(hERG電流及びhERGを介したシグナル伝達を阻害する分子であり、例えば、セルチンドール、ドフェチリド、アステミゾール、シサプリド)を含むが、これらに限定されない。
【0258】
参考文献
1.国際公開第2006108183号、発明者:Fang, Y., Ferrie, A.M., Fontaine, N.M., Yuen, P.K. and Lahiri, J.、発明の名称「Optical biosensor and cells」
2.米国出願第12/623,693号、発明者:Fang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E.、発明の名称「Methods for Characterizing Molecules」、出願日:2009年11月23日
3.米国出願第12/623,708号、発明者:Fang, Y., Ferrie, A.M., Lahiri, J., and Tran, E.、発明の名称「Methods for creating an index」、出願日:2009年11月23日
4.Malykhina, A.P., et al., “Fenamate-induced enhancement of heterologously expressed hERG currents in Xenopus oocytes”. European Journal of Pharmacology 2002, 452, 269-277
5.Sun, H., et al., “Chronic inhibition of cardiac Kir2.1 and hERG potassium channels by celastrol with dual effects on both ion conductivity and protein trafficking”. J. Biol. Chem. 2006, 281, 5877-5884
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図6A】

【図6B】

【図7A】

【図7B】

【図8A】

【図8B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
hERG活性を変調する分子を分類する方法であって、
a.内因的にhERGを発現する天然の細胞、安定してhERGを発現する人工の細胞、及びその親であるhERGを発現しない細胞の少なくとも3つの異なる細胞型を用いて個別に分子を培養するステップと、
b.各細胞型上の分子によって誘発された細胞反応を無標識バイオセンサの細胞アッセイによって監視するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
c.無標識バイオセンサのhERG活性剤を、前記分子の存在下の各細胞型を用いて培養するステップと、
d.前記分子の存在下における各細胞型上の前記無標識バイオセンサのhERG活性剤によって誘発された細胞反応を監視するステップと、
e.当該2つのhERGを発現する細胞型における前記無標識バイオセンサのhERG活性剤によって誘発されたバイオセンサシグナルに対する分子のバイオセンサ変調インデックスを生成するステップと、
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記無標識バイオセンサのhERG活性剤は、hERG活性剤、hERGイオンチャネル活性剤、又はhERG経路活性剤であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記hERG活性剤は、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、A−935142、フルフェナム酸、ニフルム酸、及びジフルニサルからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記hERGを発現する天然の細胞株は、白血病細胞株、胃癌細胞株、神経芽腫細胞株、乳癌細胞株、ヒト大腸癌細胞株、心血管細胞株、及び神経細胞株からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記hERGを発現する天然の細胞株は、細胞株HL60、細胞株SGC7901、細胞株MGC803、細胞株SH−SY5Y、細胞株MCF−7、細胞株HT−29、HCT8、及び細胞株HCT116からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記hERGを発現しない天然の細胞株は、ヒト胚性腎臓細胞株及びチャイニーズハムスター卵巣細胞株からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記hERGを発現しない天然の細胞株は、細胞株HEK−293及び細胞株CHO−K1からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、
前記hERGを操作された細胞株は、HEK−hERG又はCHO−hERGから選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項2に記載の方法であって、
前記分子のバイオセンサ変調インデックスは、前記分子の存在下における前記無標識バイオセンサのhERG活性剤のバイオセンサシグナルを、前記分子の非存在下における前記無標識バイオセンサのhERG活性剤のバイオセンサシグナルに対して正規化することによって生成されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、
前記分子の効果とhERGの既知の変調剤の効果とを比較するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記hERG変調剤は、hERG活性剤、hERGイオンチャネル活性剤、hERG経路活性剤、hERG遮断剤、又はhERG経路阻害剤であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、
前記hERG変調剤は、マロトキシン、RPR260243、NS1643、NS3623、PD−118057、PD−307243、A−935142、AG−126、フルフェナム酸、ジフルニサル、ドフェチリド、チルホスチン51、シサプリド、アステミゾール、又はセルチンドールからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、
前記分子がhERG変調剤であるかどうかを判定するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記分子がhERG変調剤に類似したバイオセンサインデックスを有している場合にhERG変調剤を同定するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法であって、
前記分子が既知のhERG活性剤に類似したバイオセンサインデックスを有している場合にhERG活性剤を同定するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法であって、
前記分子がhERG阻害剤に類似したバイオセンサインデックスを有している場合にhERG阻害剤を同定するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、
hERGイオンフラックスアッセイ試験において前記分子をアッセイするステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記イオンフラックスアッセイはRbイオンフラックスアッセイ、又は電気生理パッチクランプを用いたhERG電流アッセイであることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項14に記載の方法であって、
無標識バイオセンサアッセイにおいてhERG活性剤として同定される分子は、当該hERGイオンフラックスアッセイにおけるその作用に関わらずhERG活性剤と判定されことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項14に記載の方法であって、
無標識バイオセンサアッセイにおいて活性剤として同定されるがhERGイオンフラックスアッセイにおいては活性剤として同定されない分子はhERG経路活性剤と判定されことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項14に記載の方法であって、
無標識バイオセンサアッセイにおいて活性剤として同定され、かつhERGイオンフラックスアッセイにおいても活性剤として同定される分子はhERGイオンチャネル活性剤と判定されることを特徴とする方法。

【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−516173(P2013−516173A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547112(P2012−547112)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/060688
【国際公開番号】WO2011/081973
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】