説明

invitro分化細胞に基づく薬物発見のための検定

【課題】心疾患に関する再生医療において、心機能を再構築する助けとなることのできる薬物を同定及び開発するための、細胞ベースの検定の技術を提供する。
【解決手段】推定上の薬物の治療効果又は毒性効果を、in vitroで幹細胞から分化し、治療しようとする疾患に似た表現型を示すように誘導された細胞でその活性を検定することに基づいて判定する検定系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある疾患の改善又は治療のための薬物を同定する及び/又は得るための、あるいは、ある化合物の毒性を判定するための、細胞ベースの検定の技術分野に関する。具体的には、本発明は、ある疾患の改善又は治療のための薬物を同定する及び/又は得るための、あるいは、ある化合物の毒性を判定するための、方法に関し、当該方法は、in vitro分化細胞を含む検査試料を、スクリーニング対象の検査物質と接触させるステップであって、前記細胞が、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように誘導される、ステップと;前記検査試料の表現型の応答性変化を判定するステップであって、罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、有用な薬物の指標であり、そして罹患表現型の発現又は進行を亢進する応答性変化は、前記化合物の毒性の指標である、ステップとを含む。本発明の方法は、好ましくは胚性幹細胞で用いられるとよく、また、いずれかの将来性ある治療的化合物の保護効果を明らかにするため、そして更に、ある化合物が、特定の疾患に苦しむ対象に対して有するかも知れない潜在的な副作用を判定するため、に広く応用することができる。本発明の検定は、心筋疾患を改善する上でのある物質の能力をスクリーニングするために特に適合される。更に、本発明は、本発明の細胞ベースの検定を行うため、そして、そのようにして得られた結果を分析するため、のキット及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心疾患は、西側世界で最も深刻な保健上の関心事の一つである。6100万人のアメリカ人(ほぼ5人の男性及び女性に1人)に一種以上の心臓血管疾患があると推定されている(National Health and Nutrition Examination Survey III, 1988-1994, Center of Disease Control and the American Heart Association)。広範な状況には、冠状動脈性心疾患(1240万人)、先天性の心臓血管の欠陥(100万人)、及びうっ血性心不全(470万人)がある。再生医療における研究の中心的な課題の一つは、これらの状況で心機能を再構築する助けとなることのできる薬物を同定及び開発することである。
【0003】
新薬の開発にとって、例えばミオパチー性の心臓細胞など、罹患組織に似た適した細胞ベースのin vitro系がないことが障害となっている。不死化した心筋細胞を得ようとする多種の試みがSen et al., J. Biol. Chem. 263 (1988), 19132-19136; Gartside and Hauschka in "The Development and Regenerative Potential of Cardiac Muscle”, eds. Oberpriller et al., Harwood, New York, 1991, 7941-7948; Jaffredo et al., Exp. Cell. Res. 192 (1991), 481-491; Wang et al., In vitro Cell Dev. Biol. 27 (1991), 63-74; Katz et al., Am. J. Physiol. 262 (1992), 1867-1876); Engelmann et al., J. Mol. Cell Cardiol. 25 (1993), 197-213; Borisov and Claycomb, Ann. NY Acad. Sci. 752 (1995), 80-91; Jahn et al., J. Cell Sci. 109 (1996), 397-407に解説されている。しかしながら、こうして得られた細胞の心臓表現型は安定でないか、あるいはこの細胞はそれらの増殖能を失っている。更に、マウスの不死化した心房心筋細胞の細胞株で、長期間にわたって分化という特徴及び増殖能を維持するものが解説されている(Claycomb et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998), 2979-2984)。
【0004】
非形質転換心筋細胞に基づくin vitro心疾患モデル系としては、しばしば、マウス又はラットから摘出された心臓細胞プレパラートが用いられる;Chlopcikova et al., Biomed. Pap. Med. Fac. Univ. Palacky Olomouc Czech. Repub. 145 (2001), 49-55を参照されたい。これらの細胞は、それらの分化した表現型を数日間しか、維持しない。更にこれらの初代培養株は均質ではなく、様々な細胞種を含有し、プレパラート毎にばらつきがある。具体的な問題の一つは、心筋細胞に、心臓に存在する他の細胞種、具体的には、休止期の心筋細胞とは対照的に、強く増殖し、培養株から完全には取り除くことのできない線維芽細胞が心筋細胞に混入していることである。いくつかの受容体は心筋細胞だけでなく非心筋細胞によっても発現されるが、心筋細胞は、非心筋細胞由来の受容体と相互作用する分子を分泌し、その反対に、非心筋細胞は、心筋細胞からの受容体に結合する分子を分泌する。
【0005】
従って、in vitroでの疾患表現型のモデル系として役立つかも知れない、組織又は器官の細胞の大変面倒な調製を鑑み、国際出願WO97/36477に解説された心不全の、又は、独国特許出願No.198 15 128に解説されたヒト心筋症の、トランスジェニック動物モデルなど、トランスジェニック動物モデルがまだ尚、用いられている。最近では、トランスジェニックマウスで、心臓肥大を生じるトランスジェニック動物モデルが米国特許6,657,104で解説されている。
【0006】
しかしながら、これらの検査法には、生きた哺乳動物、具体的にはラット及びマウス、の使用が必要であり、ハイスループットのスクリーニングには明らかになじまないという短所がある。
【0007】
このように、実施が容易で、信頼性ある結果を出すことのできる細胞ベースのin vitro検定系が求められている。前記の技術的問題の解決は、本請求項で特徴付けられ、更に以下に解説する実施態様を提供することにより達成される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ある疾患の改善又は治療のための薬物を同定する及び/又は得るための方法、あるいは、ある化合物の毒性を判定するための方法に関し、当該方法は、in vitro分化細胞を含む検査試料を、スクリーニング対象の検査物質と接触させるステップであって、前記細胞が、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように誘導される、ステップと;前記検査試料の表現型の応答性変化を判定するステップであって、前記罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、有用な薬物の指標であり、そして罹患表現型の発現又は進行を亢進する応答性変化は、前記化合物の毒性の指標である、ステップとを含む。
【0009】
更に、本発明は、心筋症を改善する能力について物質をスクリーニングする方法に関し、当該方法は、in vitro分化心筋細胞を含む検査試料を、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する、所定の罹患表現型を示すように前記細胞が誘導される前、誘導中、又は誘導後に、検査物質に接触させるステップと;心筋細胞中の心筋症パラメータを測定するステップと;そのようにして得られた測定値と、前記物質に曝されていない心筋細胞のそれと比較するステップであって、前記心筋細胞中の心筋症パラメータの測定値が、心臓肥大の減少と一致する、ステップと、を含む。
【0010】
更に本発明は、本発明のin vitro分化細胞ベースの検定を行うのに有用なキット又は組成物にも関し、当該キット又は組成物は、多能又は多分化能細胞、in vitro分化細胞、生理学的に活性な物質、及び付加的には培地、組換え核酸分子、及び/又は標準化合物、を含有する。
【0011】
本発明の目的は、ある疾患に関与する遺伝子又は遺伝子産物を、薬物ターゲットとして同定する及び/又は得る方法を提供することであり、当該方法は、ある罹患表現型の誘導前及び誘導後に、in vitro分化細胞の発現プロファイリングを行うステップであって、ある遺伝子又は遺伝子産物の示差的な発現は、潜在的な薬物ターゲットの指標である、ステップと、付加的に、同定された遺伝子又はその対応するcDNA又は断片をクローニングするステップとを含む。
【0012】
本発明の別の目的は、潜在的薬物ターゲットを評価する方法を提供することであり、当該方法は、in vitro分化細胞中の標的遺伝子の発現及び/又は前記標的遺伝子産物の活性を、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように前記細胞を誘導する前、誘導中、又は誘導後に、変化させるステップと;前記細胞の表現型の応答性変化を判定するステップであって、罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、活性化させるべき薬物ターゲットの指標であり、罹患表現型の発現又は進行を亢進させる応答性変化は、前記疾患の治療のために阻害すべき薬物ターゲットの指標である、ステップとを含む。
【0013】
別の局面では、本発明は、ターゲットの評価、薬物発見又は薬物動態学的もしくは薬理学的プロファイリングにおける、所定の罹患表現型を示すように誘導されるin vitro分化細胞の使用に関する。
【0014】
本発明の更に別の実施態様では、ターゲット発見事業を行う方法が提供され、当該方法は、本発明の細胞ベースの検定を提供するステップ、及び/又は、このような検定で、ある化合物の毒性及び/又は治療的プロファイリングを行うステップ、と;本発明の検定で同定された薬物の更なる薬物発見及び/又は販売のための権利を第三者に許諾するステップ、及び/又は、そのようにして得られたプロファイルに関する情報を提供するステップ、とを含む。
本発明の他の実施態様は、以下の解説から明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ES細胞由来心筋細胞が、エンドセリン-1及びフェニレフリンで刺激したときにサイズが増大することを示す。GFPを発現する心筋細胞を、不活性な胚性マウス線維芽細胞上で培養し、24時間、血清飢餓させた。その後、培養物を24時間、フェニレフリン(A;100μM)又はエンドセリン-1(B;100nM)で刺激した。Cは未処理細胞。
【図2】図2は、エンドセリン-1及びフェニレフリンによる刺激時のES細胞由来心筋細胞の筋小胞体組織化を示す。心筋細胞を、不活性な胚性マウス線維芽細胞上で培養し、24時間、血清飢餓させた。その後、培養物を24時間、フェニレフリン(A;200μM)又はエンドセリン-1(B;100nM)で刺激した。Cは未処理細胞。筋小胞体アルファ-アクチニンの免疫染色。
【図3】図3は、ES細胞由来心筋細胞におけるANF及びBNP発現の誘導を示す。ES細胞から分化させた心筋細胞を24時間、血清飢餓させ、その後エンドセリン-1(100nM;レーン1、6、11)、フェニレフリン(200μM;レーン2、7、11)又はアンジオテンシンII(100nM;レーン3、8、13)で刺激した。非刺激コントロールは、無血清培地(レーン4、9、14)又は血清を添加した培地(レーン5、10、15)で培養された。その後、RNAを抽出し、ランダム6量体プライミングを用いてcDNAを合成した。ANF、BNP、及びgapdh cDNAsを増幅し、PCR産物をアガロースゲル電気泳動法で分析した。Mはサイズマーカー。増幅パラメータは以下の通りである。cDNAsは、それぞれ94℃を1分間、56℃を1分間、及び72℃を1分間、から成る32(ANF及びBNP)又は26(gapdh)PCRサイクルで増幅した。以下のプライマを用いた:ANF-5’, 5’-CTCCTTCTCCATCACCCTG-3’(SEQ ID NO: 14);ANF-3’, 5’-TTTCCTCCTTGGCTGTTATC-3’(SEQ ID NO: 15);BNP-5’, 5’-CAGCTCTTGAAGGACCAAGG-3’(SEQ ID NO: 18);BNP-3’, 5’-AGACCCAGGCAGAGTCAGAA-3’(SEQ ID NO: 19);gapdh-5’,GTGTTCCTACCCCCAATGTG-3’(SEQ ID NO: 16);gapdh-3’, 5’-CTTGCTCAGTGTCCTTGCTG-3’(SEQ ID NO: 17)。予想されたPCR産物サイズは468bp (ANF)、242bp (BNP)、及び349bp (gapdh)だった。
【図4】図4は、構成的に活性なカルシニューリンが発現すると、ES細胞由来心筋細胞中のANF mRNAが増加することを示す。レーン1、PIGクローン(コントロール)、血清飢餓なしレーン2、PIGクローン(コントロール)、血清飢餓有りレーン3、MHC-Calci*-PIG、血清飢餓なしレーン4、MHC-Calci*-PIG、血清飢餓有りレーン5、cDNAなし左側、ANF mRNAの検出;右側gapdh mRNAの検出。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書において、用語「幹細胞」とは、それぞれ例えば胚性幹(ES)及び生殖(EG)細胞など、しかし成体幹細胞も含む幹細胞又は生殖細胞のいずれかであると言うことができる。最低限では、幹細胞は、増殖して2種以上の異なる表現型の細胞を形成する能力を有すると共に、同じ培養株の一部として又は異なる条件で培養されたときのいずれでも、自己更新することもできるものである。胚性幹細胞はまた、典型的には、テロメラーゼ陽性及びOCT-4陽性である。テロメラーゼ活性は、TRAP活性検定(Kim et al., Science 266 (1997), 2011)を用い、市販のキット(TRAPeze(R)XKテロメラーゼ検出キット、カタログ番号s7707;ニューヨーク州パーチェース、Intergen社;又はTeloTAGGG(TM)テロメラーゼ PCR ELISAplus、カタログ番号2,013,89;インディアナポリス州、 Roche Diagnostics社)を用いて、判定することができる。hTERT 発現を、RT-PCRによりmRNAレベルで評価することができる。LightCycler TeloTAGGG(TM) hTERT 定量キット(カタログ番号3,012,344; Roche Diagnostics社)は研究を目的として市販のものを入手できる。
【0017】
本発明においては、胚性幹(ES)細胞という用語には、受精後のいずれかの時点での前胚性、胚性、又は胎児組織を由来とすると共に、例えば8乃至12週齢のSCIDマウスで奇形腫を形成する能力など、標準的な当業で許容される検査によると、三つの胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)の全てを由来とする複数の異なる細胞種の後代を、適した条件下で形成することができるという特徴を有するあらゆる多能又は多分化能細胞が含まれる。「胚性生殖細胞」又は「EG」細胞は、始原生殖細胞を由来とする細胞である。用語「胚性生殖細胞」は、胚性多分化能細胞表現型を示す、本発明の細胞を言うために用いられている。用語「ヒト胚性生殖細胞(EG)」又は「胚性生殖細胞」は、ここで定義する通りの多分化能胚性幹細胞表現型を示す、本発明の哺乳動物、好ましくはヒト細胞、又はその細胞株、を言うために、ここでは交換可能に用いられている場合がある。従って、EG細胞は、外胚葉、内胚葉、及び中胚葉の細胞に分化することができる。EG細胞はまた、特定の抗体への結合により判明する特異的エピトープ部位に関係するマーカの有無と、特定の抗体への結合がないことで特定される特定のマーカがないこととで、特徴付けることができる。
【0018】
「多分化能」とは、生殖系を含む幅広い細胞系譜へ分化する発生上の潜在的可能性を保持した細胞を言う。用語「胚性幹細胞表現型」及び「胚性幹様細胞」もまた、未分化であり、従って多分化能細胞であり、また同じ動物の他の成体細胞から視覚的に判別することのできる細胞を言うために、ここでは交換可能に用いられている。
【0019】
ES細胞の定義には、Thomson et al.(Science 282 (1998), 1145)により解説されたヒト胚性幹細胞;アカゲザル幹細胞など、他の霊長類を由来とする胚性幹細胞(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995), 7844)、マーモセット幹細胞(Thomson et al., Biol. Reprod. 55 (1996), 254)及びヒト胚性生殖(hEG)細胞(Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998), 13726)を例とする、多種の胚性細胞が含まれる。他の種類の多分化能細胞も、この用語に含まれる。三つの基底層すべてを由来とする後代を生むことができれば、それらが胚性組織、胎児組織、又は他の源のいずれを由来としたかに関係なく、哺乳動物を起源とするいずれの細胞も、含まれる。本発明で用いられる幹細胞は、好ましくは(しかし必ずしもではないが)核型上、正常であるとよい。しかしながら、悪性の源を由来とするES細胞は用いないことが好ましい。
【0020】
「フィーダ細胞」又は「フィーダ」は、第二の種類の細胞が成長できる環境を提供するために、別の種類の細胞と同時培養されるある一種類の細胞を言うために用いられている。フィーダ細胞は、付加的には、それらが支持する相手の細胞と異なる種を由来とする。例えば、いくつかの種類のES細胞は、本開示で後述するように、初代マウス胚性線維芽細胞、不死化マウス胚性線維芽細胞(例えばマウスSTO細胞、例えばMartin and Evans, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72 (1975), 1441-1445)、又は、ヒトES細胞から分化させたヒト線維芽細胞様細胞により支持することができる。用語「STO」細胞とは、例えば市販ものを入手できるものなどの胚性線維芽マウス細胞を言い、ATCC CRL 1503で寄託されたものを含む。
【0021】
用語「胚様体」(EB)は、「凝集体」と同義の当業用語である。この用語は、ES細胞が単層培養株で成長し過ぎたとき、又は、懸濁培養に維持されたときに現れる分化及び未分化細胞の凝集体を言う。胚様体は、典型的にはいくつかの胚葉からできた、形態学的基準で判別の可能な異なる細胞種の混合物である。更に下記も参照されたい。ここで用いられる「胚様体」、「EB」又は「EB細胞」は、典型的には、細胞集団からなる形態学的構造を言い、その大半は、分化を経た胚性幹(ES)細胞を由来とする。
【0022】
EB形成に適した培養条件(白血病阻害因子、又は、類似の遮断因子の除去など)下では、ES細胞は増殖して細胞塊を形成するがこの細胞塊が分化を始める。通常ヒトの場合、分化の1日目ないし4日目に相当する分化の第一段階では、細胞の小さな塊が内胚葉性の細胞層を外側の層に形成し、「単純胚様体」とみなされる。通常ヒトの場合、分化後約3日目乃至20日目に相当する第二段階では、外胚葉性及び中胚葉性の細胞や、由来組織の広範な分化を特徴とする「複合胚様体」が形成される。ここで用いられる場合の用語「胚様体」又は「EB」は、文脈から他に要さない限り、単純及び複合胚様体の両者を包含するものである。胚様体がES細胞培養株中でいつ形成されたかの判断は、慣例的に、例えば形態の視覚検査などにより、当業者により行われる。約20個以上の細胞の浮遊する塊は胚様体であるとみなされる;例えばSchmitt et al., Genes Dev. 5 (1991), 728-740; Doetschman et al., J. Embryol. Exp. Morph. 87 (1985), 27-45を参照されたい。更に、用語「胚様体」、「EB」、又は「EB細胞」は、ここで用いられる場合、その大半が、適した条件下で培養されたときに異なる細胞系譜に発達していくことのできる多分化能細胞である、一細胞集団を包含するものとも、理解されている。ここで用いられる場合のこの用語は、胚性生殖腺領域から抽出される原始的な細胞である始原生殖細胞を由来とする同等の構造を言う;例えば上記のShamblott, et al. (1998)を参照されたい。始原生殖細胞は時には当業でEG細胞又は胚性生殖細胞とも呼ばれ、適した因子で処理されたときに多分化能ES細胞を形成し、この多分化能ES細胞から、胚様体を得ることができる;例えば米国特許5,670,372;上記のShamblott, et al.を参照されたい。
【0023】
用語「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」とは、いずれかの長さのヌクレオチドの重合体を言う。遺伝子及び遺伝子断片、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、単離されたDNA及びRNA、核酸プローブ、並びにプライマが含まれる。本開示で用いられる場合、ポリヌクレオチドという用語は、二重鎖及び一本鎖分子を交換可能に言う。他に明示するか、あるいは必要でない限り、ポリヌクレオチドであれば、本発明のいずれの実施態様も両方の二本鎖型を包含し、その二本の相補的な一本鎖の各々が、二本鎖型を構成することが公知又は予測される。ホスホールアミデート及びチオホスホールアミデートなどの核酸類似体も含まれる。
【0024】
あるポリヌクレオチドが、ある細胞に、人工的操作のいずれかの適した手段により移されたとき、あるいは、当該細胞が、当該ポリヌクレオチドを受け継いだ最初に変更された細胞の後代である場合、その細胞は「遺伝子改変された」、「トランスフェクトされた」又は「遺伝子的に形質転換した」と言う。当該のポリヌクレオチドは、しばしば、当該細胞が当該タンパク質をより高いレベルで発現できるようにする、目的のタンパク質をコードする転写可能な配列を含むであろう。遺伝子改変は、改変後の細胞の後代が同じ改変を有する場合に、「遺伝性である」といわれる。
【0025】
「調節配列」又は「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、複写、転写、スプライシング、ポリアデニレーション、翻訳、又は変性など、あるポリヌクレオチドの機能調節に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。転写制御配列には、プロモータ、エンハンサ、及びリプレッサがある。
【0026】
「αMHC」又は「コラーゲン」プロモータなど、プロモータと呼ばれる特定の遺伝子配列は、機能的に連結している遺伝子発現産物の転写を促進する、言及された遺伝子を由来とするポリヌクレオチド配列である。上流やイントロン非翻訳遺伝子配列の多様な部分が、いくつかの場合にプロモータ活性に寄与すること、そしてこれらの部分の全部又はいずれかの下位部分が、言及された遺伝子操作後のコンストラクトに存在するであろうことが、認識されている。プロモータは、明らかに禁止されていない限り、当該遺伝子を有するいずれかの種の遺伝子配列に基づいていてもよく、また、標的組織における転写促進が可能である限り、所望のいずれの追加、置換又は欠失を取り入れていてもよい。ヒトの治療用にデザインされた遺伝子コンストラクトは、典型的には、ヒト遺伝子のプロモータ配列に少なくとも90%同一なセグメントを含む。
【0027】
本発明では、用語「細胞-及び/又は発生依存的プロモータ」は、細胞培養(胚様体)と本発明によるES細胞を由来とする非ヒトトランスジェニック哺乳動物の両方において、特定の細胞種においてのみ、及び/又は、特定の細胞発生段階においてのみ、そのプロモータ活性を示すようなプロモータを意味するものと、意図されている。加えて、例えば神経細胞、心臓の細胞、ニューロン、グリア細胞、造血細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、軟骨細胞、線維芽細胞及び上皮細胞用に、いずれか他の公知の細胞特異的プロモータを利用することもできる。
【0028】
遺伝子因子同士がある構造上の関係にあるために、それらに期待された機能に従った態様で作動できる場合、それらは「機能的に連結している」と言う。例えば、あるプロモータが、コーディング配列の転写開始に役立つ場合、そのコーディング配列を、そのプロモータに作動的に連結している(又は制御下にある)と言うことができる。この機能的関係が維持される限り、プロモータとコーディング領域との間に介在する配列があってもよい。
【0029】
コーディング配列、プロモータ及び他の遺伝子因子の文脈において、用語「異種の」とは、その因子が、比較の対象となった実体の他の部分のそれとは遺伝子型上別個の実体を由来とすることを指す。例えば、遺伝子操作技術により、異なる種の動物に導入されたプロモータ又は遺伝子は、異種ポリヌクレオチドである、といわれる。「内因性の」遺伝子因子とは、それが天然で存在する染色体中の同じ位置にある因子であるが、他の因子を、隣接する位置に人工的に導入してもよい。
【0030】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本開示では、いずれかの長さのアミノ酸の重合体を言うために交換可能に用いられている。この重合体は、修飾されたアミノ酸を含んでいてもよく、それは直線状でも、又は分枝状でもよく、またそれは非アミノ酸を途中に有していてもよい。
【0031】
そうでないと記載されていない場合、用語「化合物」、「物質」及び「(化学的)組成物」はここで交換可能に用いられており、限定はしないが、治療的作用物質(又は潜在的治療的作用物質)、食品添加剤及び栄養医薬品、神経毒素、肝臓毒素、造血細胞の毒素、ミオトキシン、カルシノーゲン、催奇形因子、又は一種以上の生殖器官に対する毒素などの公知の毒性物質を含む。当該の化学的組成物は、更に、例えば殺虫剤、殺カビ剤、殺線虫剤、及び肥料などの農業用化学物質、いわゆる「美容薬」を含む化粧品、工業廃棄物又は副産物、あるいは環境汚染物質であってもよい。またそれらは動物用治療薬又は潜在的な動物用治療薬であってもよい。本発明の方法で検査することのできる工業製品の例には、漂白剤、化粧せっけん、日焼け止め、液体洗浄剤、粉末及び液体せっけん、布用コンディショナー、窓、オーブン、床、浴室、台所及びカーペット用クリーナ、食器洗浄機用洗剤及びすすぎ薬剤、硬水軟化剤、鱗剥がし剤、染み取り、磨き剤、油性製品、ペンキ、ペンキ剥離剤、接着剤、溶媒、ニス剤、空気清浄剤、防虫剤、並びに殺虫剤、がある。家庭用製品の新しい成分が常に開発されており、検査の必要がある。例えば、近年では、(染みを消化するための)新しい酵素及び(洗濯物をより白く見せる)「光学的増白剤」が、洗濯用粉末及び液体での使用に向けて開発されてきた。(染み込んだ汚れを落とすために油分に透過する)新しい界面活性剤や(硬水軟化剤として作用して、界面活性剤がより効果的に働けるようにする)化学的「ビルダー」が、洗濯用粉末及び液体、すすぎ用液体及び多様な清浄剤での使用に向けて開発されてきた。また、新しい充填用ポリマ、合金、及び対生物活性セラミックなどの歯科用材料など、医療用材料も検査の必要がある。更に、例えばカテーテル、電極、接着剤、ペースト、ゲル又はクリームなどの器具のいずれの部分の化学的組成を、様々な濃度で、そして存在する成分及び不純物を様々にして、検査してもよい。スクリーニング対象の化合物を、ランダム又はコンビナトリアルペプチド又は非ペプチドライブラリなど、多様性ライブラリから得てもよい。例えば化学合成されたライブラリ、組換え(例えばファージディスプレイライブラリ)、及びin vitro翻訳バースのライブラリなど、用いることのできる多くのライブラリが当業で公知である。化学合成されたライブラリの例が、Fodor et al., Science 251 (1991), 767-773; Houghten et al., Nature 354 (1991), 84-86; Lam et al., Nature 354 (1991), 82-84; Medynski, Bio/Technology 12 (1994), 709-710; Gallop et al., J. Medicinal Chemistry 37(9), (1994), 1233-1251; Ohlmeyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993), 10922-10926; Erb et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994), 11422-11426; Houghten et al., Biotechniques 13 (1992), 412; Jayawickreme et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994), 1614-1618; Salmon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993), 11708-11712; 国際出願 WO93/20242; 及び Brenner and Lerner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992), 5381-5383に解説されている。ファージディスプレイライブラリの例は、Scott and Smith, Science 249 (1990), 386-390; Devlin et al., Science 249 (1990), 404-406; Christian et al., J. Mol. Biol. 227 (1992), 711-718; Lenstra, J. Immunol. Meth. 152 (1992), 149-157; Kay et al., Gene 128 (1993), 59-65; 及び国際出願 WO94/18318に解説されている。in vitro翻訳ベースのライブラリには、限定はしないが、国際出願WO91/05058;及びMattheakis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994), 9022-9026に解説されたものがある。非ペプチドライブラリの例としては、ベンゾジアゼピンライブラリ(例えばBunin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91(1994), 4708-4712を参照されたい))を用途に適合させることができる。ペプチドライブラリ(Simon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992), 9367-9371)も用いることができる。ペプチド中のアミド官能基を過メチル化させて化学変換したコンビナトリアルライブラリを生じさせた、用いることのできるライブラリの別の例は、Ostresh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 (1994),11138-11142に解説されている。前記ライブラリのスクリーニングは、多種の公知の方法のいずれによっても達成することができる;例えば、ペプチドライブラリのスクリーニングを開示した以下の参考文献を参照されたい:Parmley and Smith, Adv. Exp. Med. Biol. 251 (1989), 215-218; Scott and Smith, Science 249 (1990), 386-390; Fowlkes et al., BioTechniques 13 (1992), 422-427; Oldenburg et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992), 5393-5397; Yu et al., Cell 76 (1994), 933-945; Staudt et al., Science 241 (1988), 577-580; Bock et al., Nature 355 (1992), 564-566; Tuerk et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992), 6988-6992; Ellington et al., Nature 355 (1992), 850-852;米国特許No. 5,096,815, 米国特許 No. 5,223,409,及び米国特許No. 5,198,346; Rebar and Pabo, Science 263 (1993), 671-673;及び国際出願WO94/18318。
【0032】
ここで用いられる場合の、ある化学的組成物又は化合物の「プロファイル」又は「プロファイリング」とは、当該化学的組成物に接触させたES細胞、胚様体、組織等を、培地のみに接触させた同様の細胞、胚様体又は組織に比較したときの、遺伝子もしくはタンパク質発現又は両者の、あるいは生理的特性の変化のパターンを言う。
【0033】
分化とは、比較的に特化していない(例えば幹細胞)が、成熟細胞に特徴的な特化した構造上及び/又は機能上の特徴を獲得するプロセスである。同様に、「分化する」とは、このプロセスを言う。典型的には、分化中、細胞構造が変化して組織特異的タンパク質が現れる。
【0034】
用語「罹患した」は、ここでは、ある疾患又は病理により引き起こされる、又は変化させられる、あるいは顕れる、細胞、組織又は器官を示すために用いられる。例えば、「罹患心筋細胞」は、「筋障害性の」心筋細胞、即ち、心筋症に罹患した心筋細胞であってもよい。用語「罹患表現型」は、ここでは、その他の点では罹患細胞とはみなされない細胞が、罹患組織又は器官をもともとの由来とせず、前記罹患細胞と同じ表現型を実質的に示すようにin vitroで誘導されたことを指すために用いられる。用語「病的」又は「病理学的」は、用語「罹患した」と交換可能に用いられている場合がある。
【0035】
一般的技術
本発明の実施において有用な一般的技術の更なる詳細については、医業医は、細胞生物学、組織培養、胎生額、及び心臓生理学の標準的な教本及びレビューを参照することができる。
【0036】
組織培養及び胚性幹細胞に関しては、Teratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach (Robertson, ed., IRL Press Ltd. 1987); Guide to Techniques in Mouse Development (Wasserman et al. eds. , Academic Press 1993); Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro (Wiles, Meth. Enzymol. 225 (1993), 900); Properties and uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy (Rathjen et al., Reprod. Fertil. Dev. 10 (1998), 31). With respect to the culture of heart cells, standard references include The Heart Cell in Culture (Pinson ed., CRC Press 1987); Isolated Adult Cardiomyocytes (Vols. I & II, Piper & Isenberg eds., CRC Press 1989);及びHeart Development (Harvey & Rosenthal, Academic Press 1998)を参照することができる。
【0037】
分子及び細胞性化学の概略的方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., Harbor Laboratory Press 2001); Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al. eds., John Wiley & Sons 1999); Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996); Non-viral Vectors for Gene Therapy (Wagner et al. eds., Academic Press 1999); Viral Vectors (Kaplitt & Loewy eds., Academic Press 1995); Immunology Methods Manual (Lefkovits ed., Academic Press 1997); and Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology (Doyle & Griffiths, John Wiley & Sons 1998) などの標準的教本に見ることができる。本開示で言及された遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター及びキットは、例えばBioRad社、Stratagene社、Invitrogen社、Sigma-Aldrich社、及びClonTech社などの販売業者から入手することができる。
【0038】
発明の詳細な説明
本発明は、ある疾患の改善又は治療のための薬物を同定する及び/又は得るための、又は、ある化合物の毒性を判定するための、方法に関し、当該方法は、(a)in vitro分化細胞を含む検査試料を、スクリーニング対象の検査物質と接触させるステップであって、前記細胞が、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように誘導される、ステップと;(b)前記検査試料の表現型の応答性変化を判定するステップであって、(i)罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、有用な薬物の指標であり、そして(ii)罹患表現型の発現又は進行を亢進する応答性変化は、前記化合物の毒性の指標である、ステップとを含む。
【0039】
本発明は、胚性幹細胞由来のin vitro分化心筋細胞は、ホルモン刺激時に、新生児ラットから摘出された対応する処理をされた心臓細胞と実質的に同じ態様で挙動するという観察に基づく;実施例1を参照されたい。具体的には、罹患表現型を、罹患成体心臓細胞について観察される表現型を模倣しつつ、in vitro分化細胞で誘導することができよう。このように、本発明では、驚くべきことに、in vitro分化細胞は、心臓から得られる心筋症細胞に替えるために適切かつ適当であること、従って、例えばホルモン刺激時の心筋細胞の応答に影響するなどの物質をスクリーニングするために用いることができること、が示された。
【0040】
理論に縛られるつもりはないが、本発明に従って行われた実験のおかげで、多能細胞を由来とする、特に胚性幹細胞を由来とする細胞をin vitroで分化させて特定の細胞又は組織種にしたものを、ある疾患に罹患した対象から得られる細胞及び組織の罹患表現型を実質的に模倣する所定の罹患表現型を示すように誘導することができると考えられる。このように、薬物及び他の化合物のそれぞれ治療的及び毒性効果を研究するために用いることができる、信頼性ある細胞供給源が初めて提供される。具体的には、ある推定上の薬物が、ある疾患の発症を妨げることが、あるいはその進行を少なくとも減衰させることができるかどうかをin vitro細胞ベースの検定で判定することが今や可能である;実施例3を参照されたい。
【0041】
標準化した細胞プレパラートを容易に入手できることの他に、in vitro分化細胞の使用の更なる利点は、in vitro分化の開始材料として役立つ胚性幹細胞などの多能細胞を操作するなど、多様な方法により、細胞を容易に遺伝子操作することができる点にある。動物から得られる心筋細胞も有効に遺伝子改変できよう(Sen et al., J. Biol. Chem. 263 (1988),19132-19136; Bonci et al., Gene Ther. 10 (2003), 630-636)。しかしながら、このような改変は、各細胞プレパラートについて行われねばならず、あるいはトランスジェニック動物を、in vitro分析用の細胞を得るために所望の改変毎に作製しなければならない。対照的に、本発明は、産業スケールのスクリーニングシステムにもなじむ複数のin vitro分化細胞の効率的及び迅速な作製を可能にするものである。このように、例えば、in vitro分化細胞を用いた検定の読み取りを容易にするために、胚性幹細胞を、レポータ遺伝子を発現するように改変してもよい。
【0042】
このように、本発明は、ある疾患の改善又は治療のための薬物を同定する及び/又は得るための、又は、ある化合物の毒性を判定するための、方法を提供するものであり、当該方法は、(a)in vitro分化細胞を含む検査試料を、スクリーニング対象の検査物質と接触させるステップであって、前記細胞が、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように誘導される、ステップと;(b)前記検査試料の表現型の応答性変化を判定するステップであって、(i)罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、有用な薬物の指標であり、そして(ii)罹患表現型の発現又は進行を亢進する応答性変化は、前記化合物の毒性の指標である、ステップとを含む。
【0043】
in vitro分化細胞に対する検査化合物の効果を評価するためには、前記細胞を、好ましくは、この検査化合物の添加前に枯渇培地に維持するとよい;更に実施例1乃至3を参照されたい。いくつかの非限定的な例では、単離されたin vitro分化細胞を、例えば前記表現型を誘導することのできる生理学的活性物質の添加による、及び/又は、当該検査化合物の添加による罹患表現型の誘導前に、約6時間乃至約4日間、好ましくは約12時間乃至約2日間、そして最も好ましくは約24時間、無血清培地中に維持する;実施例1及び3を参照されたい。
【0044】
本発明に従って罹患表現型を示すように誘導したin vitro分化細胞を用いて、このような細胞の表現型変化を引き起こす因子(例えば溶媒、低分子薬物、ペプチド、オリゴヌクレオチド)又は環境条件(例えば培養条件又は操作)を探すスクリーニングを行うことができる。スクリーニングは、当該化合物が細胞に対して薬理学的効果を有するようにデザインされているため、あるいは、他の効果を有するようにデザインされた化合物が、この組織種の細胞に対して意図しない副作用を有する可能性があるため、のいずれを理由として行ってもよい。スクリーニングは、本発明のin vitro分化細胞のいずれを用いても行うことができる。
【0045】
概略的には、標準的な教本In vitro Methods in Pharmaceutical Research, Academic Press, 1997, 及び米国特許No. 5,030, 015を参照することができる。候補医薬化合物の活性評価は、一般的には、本発明の分化細胞を候補化合物に、単独で、又は他の薬物と組み合わせて、配合することを含む。調査者は、当該化合物に起因する、細胞の形態、マーカ表現型、又は機能的活性のいずれかの変化を(未処理の細胞か、又は、不活性な化合物で処理された細胞に比較して)判定した後、この化合物の効果を、観察された変化に相関付ける。罹患表現型や、ある作用物質に接触させたin vitro分化細胞に対して検査化合物が及ぼした表現型変化は、当業者に公知のいずれの手段によっても、評価することができる。ある実施態様では、形態を調べるが、例えば(電子)顕微鏡を用いて細胞の(超)構造を評価する;実施例1及び図1を参照されたい。評価に適したパラメータには、限定はしないが、心筋細胞など、接触させた細胞同士の間のギャップ結合の評価がある。他の実施態様では、免疫組織化学的又は免疫蛍光技術を用いて表現型を評価する;実施例1及び図2を参照されたい。更に別の実施態様では、罹患細胞中に発現した特異的mRNA分子の分析発現により表現型変化を評価する。適した検定系には、限定はしないが、RT-PCR、in situハイブリダイゼーション、ノーザン分析、又はRNaseプロテクションアッセイがある;実施例1乃至3や図3及び4を参照されたい。更なる実施態様では、分化細胞中に発現したポリペプチドのレベルを検定する。使用されるポリペプチド検定の具体的な非限定的例には、ウェスタンブロット分析、ELISAアッセイ、又は免疫蛍光がある。代替的には、下に解説するように初期カルシウム変化を測定する。本検定を用いて、例えば心筋細胞機能など、ある細胞の機能に対する作用物質の効果をスクリーニングすることができる。当業者に公知のいずれの方法を利用しても心機能を評価することができる。ある実施態様では、拍動を増す又は減らす作用物質を特定するために、心筋細胞の拍動速度を検定する。拍動を評価する方法の一つは、顕微鏡下での拍動の観察である。この態様でスクリーニングすることのできる作用物質には、交感神経興奮薬などの変力性薬剤を含む。ある実施態様では、当該の作用物質に接触させた細胞をコントロールと比較する。適したコントロールには、作用物質に接触させていない細胞、又は、賦形剤のみに接触させた細胞がある。標準値をコントロールとして用いることもできる。
【0046】
細胞障害性は、細胞の増殖率、生存率、形態、並びに特定のマーカ及び受容体の発現に対する効果により、決定することができる。染色体DNAに対するある薬物の効果は、DNA合成又は修復を測定することにより、判定することができる。[3H]-チミジン又はBrdUの取り込み、特に細胞周期中の時期はずれな時点での取り込みや、細胞複製に要するより高いレベルでの取り込みは、薬物の効果と一致する。望ましくない効果には、更に、分裂中期の長さで判断される姉妹染色分体の異常な交換速度があるであろう。その更なる解説についてはA. Vickers (375-410) in In vitro Methods in Pharmaceutical Research, Academic Press, 1997)を参照することができる。
【0047】
細胞機能の効果は、心筋細胞の表現型又は活性、例えば細胞培養株におけるマーカ発現、受容体結合、収縮活動、又は電気生理など、を観察するいずれかの標準的検定を用いて評価することができる。薬剤候補を、例えばこれらが収縮の程度又は頻度を増加させるか、又は低下させるかなど、収縮活動に対するそれらの効果について検査することもできる。効果が観察された場合、この化合物の濃度を力価測定して、平均有効用量を決定することができる。
【0048】
検定は、コントロールに比較して応答性変化があるかどうかを判定する簡単な「イエス/ノー」検定であってもよい。その検査化合物、又は複数の検査化合物に、検査細胞、好ましくは胚様体を、様々な濃度又は一連の希釈度にして、好ましくは、相当する種類の検査化合物の生理的レベルに相当する用量で、曝すこともできる。従って、WO00/34525に解説されたものと同様な目的を持って、化合物プロファイルを容易に作成することが可能である。例えば、二種以上の検定を用いてもよく、及び/又は、パラメータを評価してもよい。このような検定/パラメータを、並行して又は順次行う/評価することができ;あるいは一つの検定の結果を、他で行われた対応する検定の結果と比較してもよい。検査化合物の分子プロファイルが決定されたら、それを、所定の生物活性を持つ化学的組成物、又は好ましくは所定の生物活性を持つ化学的組成物の分子プロファイルのライブラリ、のそれと比較することができる。このような比較の結果は、検査化合物が薬物としての可能性を有するか、又は毒性であるか、どのような種類の毒性か、そして他の公知の毒性組成物に比較してそれがどのくらい毒性であるか、を予測するための情報となる。
【0049】
本発明のある具体的な実施態様では、前記検査化合物を、罹患表現型の発現を誘導する前又は誘導中に前記検査試料に曝す。本発明の方法の実施は、動物由来の細胞プレパラートを用いて、当業で公知のスクリーニング法に従って行うことができる。例えば、細胞内初期カルシウム変化に対するドキソルビシン(DOX)の効果や、カルシウム拮抗薬によるDOX誘導性カルシウム処理障害に対する心臓保護効果が、新生児ラット培養心筋細胞で調べられている;Maeda et al., Jpn. Circ. J. 63 (1999), 123-129を参照されたい。そこでは、新生児ウィスター京都ラットから摘出された培養心筋細胞がDOXで24時間、処理された。単個心筋細胞中の電界刺激による初期カルシウム変化を、イソプロテレノールの存在下又は非存在下で、fura-2/AMを用いて測定した。初期カルシウム変化は、カルシウム拮抗薬ベニジピンで予備処理された心筋細胞にDOXを添加した後にも測定された。本発明では、in vitro分化心筋細胞が、心臓保護化合物のスクリーニングに用いられる。Ichiba et al., J. Mol. Cell. Cardiol. 30 (1998), 1105-1114は、カルシウム及びマグネシウムによる細胞内カルシウム濃度の調節に関する実験を解説しており、心臓麻痺性の溶液はラットの新生児心筋細胞を刺激性虚血から保護する。同様に、in vitro分化細胞を本発明に従って刺激性虚血を起こさせ、心臓麻痺性の溶液の心臓保護効果に影響する化合物及び因子を同定するために用いられている。心筋細胞肥大症におけるホスホリパーゼC-ベータアイソザイムの示差的調節が、Schnabel et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 275 (2000), 1-6で解説されている。そこでは、PLCベータアイソザイムサブファミリの発現パターンが、様々な心臓肥大性刺激後の新生児ラット心筋細胞で調査され、IGF-I受容体拮抗薬などの多様な化合物の効果が、当該化合物による心筋細胞のプレインキュベーションにより検査された。本発明では、このような化合物の検査は、今や、in vitro分化心筋細胞で容易かつ高い信頼性で、行うことができる。
【0050】
通常、前記in vitro分化細胞は、多分化能又は多能細胞から、好ましくは胚性幹(ES)細胞から得られるが、最も好ましくは前記多能又は多分化能細胞はマウス又はラットから、あるいは特にヒトから得られるとよい。
本発明は、いずれの脊椎動物種の幹細胞を用いても実施することができる。ヒト由来の幹細胞や、非ヒト霊長類、家畜家禽、家畜、及び他の非ヒト哺乳動物が含まれる。本発明での使用に適した幹細胞の中には、例えば胚盤胞など、妊娠後に形成される組織を由来とする霊長類多分化能幹細胞、又は、妊娠後のいずれかの時点で採取される胎児又は胚組織がある。非限定的な例は、胚性幹細胞の初代培養株又は樹立株である。更に本発明は成体幹細胞にも応用することができる。これらの細胞の抽出及び培養が解説されたAnderson et al., Nat. Med. 7 (2001), 393-395; Gage, Science 287 (2000), 433-438, and Prockop, Science 276 (1997), 71-74の文献に言及されている。
【0051】
幹細胞を単離し、増殖させるための培地は、得られた細胞が所望の特徴を有し、更に増殖が可能である限り、複数の様々な処方のいずれをも有することができる。適した源には、イスコーブ改良ダルベッコ培地(IMDM)、Gibco社の#12440-053;ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)、Gibco社#11965-092;ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地(KO DMEM)、Gibco社#10829-018;200mM L-グルタミン、Gibco社#15039-027;非必須アミノ酸溶液、Gibco社11140-050;[ベータ]-メルカプトエタノール、Sigma社#M7522;ヒト組換え塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、Gibco社#13256-029がある。例示的な血清含有ES 培地や、幹細胞の培養条件は公知であり、細胞種に応じて適宜、最適化することができる。本項で言及された特定の細胞種の培地及び培養技術は、ここで引用された参考文献に提供されている。
【0052】
前述したように、ES細胞のいくつかの源は当業者の恣意であり、その中でも、本発明の実施態様の大半にとってヒト幹細胞が好適である。ヒト胚性幹細胞と、様々な細胞及び組織種を調製するためのそれらの使用は、Reprod. Biomed. Online 4 (2002), 58-63にも解説されている。胚性幹細胞は、霊長類種のメンバーの胚盤胞から単離することができる(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995), 7844)。ヒト胚性生殖(EG)細胞は、最後の月経期間から約8乃至11週後に採取されたヒト胎児材料中に存在する始原生殖細胞から調製することができる。適した調製法はShamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998), 13726に解説されている。ヒト胚の生殖隆起からなど、ヒト胚組織から単離された始原生殖細胞から得られ、形態及び多分化能性の点で胚性幹細胞又は胚性生殖細胞に似た細胞を作製する方法は、米国特許No.6,245,566に解説されている。
【0053】
最近、比較的に入手し易い組織である脱落後のヒト脱落性歯が、神経細胞、脂肪細胞、及び造歯細胞を含む多種の細胞種に分化することのできる、増殖性の高いクローン原性細胞の集団であろうことが判明した多分化能幹細胞を含有することが報告された;Miura et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100 (2003), 5807-5812を参照されたい。in vivoへの移植後、これらの細胞は、骨形成を誘導して象牙質を生じさせ、神経マーカの発現と共にマウス脳内で生存することができることが見出されている。更に、分裂中期II卵母細胞を由来とするホモ接合型の幹細胞が多系譜である可能性がLin et al. in Stem Cells 21 (2003), 152-161で解説されている。生後の筋肉中の多様な前駆細胞の供給源や、in vivoで新しい骨格筋及び心筋の形成への幹細胞の参与を高めるであろう因子の供給源が、Grounds et al. J. Histochem. Cytochem. 50 (2002), 589-610でレビューされている。骨髄に帰る数少ない造血系幹細胞(HSC)を均質になるまで精製する方法はUS2003/0032185に解説されている。これらの成体骨髄細胞は、肝臓、胃腸管、及び皮膚の上皮細胞にも分化していくことができるため、膨大な分化能を有すると記載されている。この発見は、遺伝子疾患の臨床治療や組織修復に寄与するであろう。更に、二倍体のドナーの核を、除核したMII卵母細胞に移植するといった、胚を再構築するための核移植などの技術を用いてもよい。レシピエントのそれと遺伝的に同一であるカスタム化した胚性幹(ES)細胞株の樹立に役立つ他の手法とこの技術を併せる方法がColman and Kind, Trends Biotechnol. 18 (2000), 192-196でレビューされている。移植時に同種又は異種細胞に関連する移植片拒絶を避けるためには、同系又は自己由来の細胞及びレシピエントを、本発明の対応する実施態様で用いることが好ましい。骨髄及び歯からなど、幹細胞の最近、発見された供給源を鑑みると、胚性細胞及び組織に頼る必要なく、この要求を達成することが可能なはずである。代替的には、関係する移植抗原を抑制するように細胞を遺伝子操作してもよい。更に下記も参照されたい。免疫抑制剤を用いてもよい。幹細胞技術の分野はKiessling and Anderson, Harvard Medical School, in Human Embryonic Stem Cells: An Introduction to the Science and Therapeutic Potential; (2003) Jones and Bartlett Publishers; ISBN: 076372341Xでレビューされている。
【0054】
少なくとも特定の状況下では正当化できるように思われるが、例えばヒトの胚を幹細胞のドナーとして用いることを避けるには、非ヒトトランスジェニック動物、特に哺乳動物、を、胚性幹細胞の供給源として用いてもよいであろう。例えば、異種移植片ドナーとして用いるトランスジェニックブタを作成するための組成物及び方法が米国特許No.5,523,226に解説されている。同様に、WO97/12035は、異種移植用のトランスジェニック動物を作製する方法を解説している。更に、ヒトの患者に異種移植するのに適した、免疫適合性のある動物組織がWO01/88096に解説されている。ブタ由来の胚性生殖細胞を作製する方法は、例えば米国特許6,545,199に解説されている。ヒトに対して免疫適合性ある細胞を、本発明の目的のために用いることもできる。
【0055】
幹細胞は、分化を促進することなく増殖を促進するような培養条件の組み合わせを用いて、培養で継続的に増殖させることができる。伝統的には、幹細胞は、しばしば胚性又は胎児組織を由来とする、典型的には線維芽種の細胞であるフィーダ細胞の層上で培養される。これらの細胞株をコンフルエント近くまでプレートし、通常は増殖を防ぐために放射線照射した後、特定の細胞で調整された培地で培養された場合(例えばKoopman and Cotton, Exp. Cell 154 (1984), 233-242; Smith and Hooper, Devel. Biol. 121 (1987), 1-91)、あるいは、白血病阻害因子(LIF)の外因的な添加により、支持に用いられる。このような細胞は、適した培養条件を用いれば、分化を起こさせることなく比較的に無限に成長させることができる。
【0056】
フィーダ細胞、外因性白血病阻害因子(LIF)、又は調整培地の非存在下では、ES又はEG細胞は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉のそれぞれに見られる細胞を含め、多様な細胞種に自発的に分化していく。しかしながら、適切な組み合わせの成長因子及び分化因子があれば、細胞分化を制御することができる。例えば、マウスES及びEG細胞は、in vitroで造血系譜の細胞を生じることができる(Keller et al., Mol. Cell. Biol. 13 (1993), 473-486; Palacios et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 92 (1995), 7530-7534; Rich, Blood 86 (1995), 463-472)。加えて、マウスES細胞は、ニューロン(Bain et al., Developmental Biology 168 (1995), 342-357; Fraichard et al., J. Cell Science 108(1995), 3161-3188)、心筋細胞(心臓の筋肉の細胞)(Klug et al., Am. J. Physiol. 269 (1995), H1913-H1921)、骨格筋細胞 (Rohwedel et al., Dev. Biol. 164 (1994), 87-101)、血管細胞(Wang et al., Development 114 (1992), 303-316)のin vitro培養株を作製するために用いられてきた。米国特許No.5,773,255は、糖応答性インシュリン分泌性膵臓ベータ細胞株に関し、米国特許No.5,789,246は肝細胞前駆細胞に関する。マウス胚性幹細胞の肝臓分化もJones et al., Exp. Cell Res. 272 (2002), 15-22に解説されている。
【0057】
該当する他の前駆細胞には、限定はしないが、軟骨細胞、骨芽細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛嚢細胞、腎管上皮細胞、平滑及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、並びに血管内皮細胞、がある。in vitroにおける心臓発生、筋肉発生、神経発生や、上皮及び血管平滑筋細胞分化の胚性幹細胞分化モデルが、Guan et al., Cytotechnology 30 (1999), 211.226に概略的に解説されている。
【0058】
in vitro分化心筋細胞、神経細胞、肝細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞及び骨芽細胞は米国特許出願2002/142457に解説されている。ヒト多分化能幹細胞から生じる心筋細胞系譜の細胞の調製は、国際出願WO03/006950に解説されている;更にここで引用された参考文献も参照されたい。Spoc細胞と呼ばれる特定の幹細胞からin vitro分化心筋細胞を生じさせる方法は、国際出願WO03/035838に解説されている。心筋細胞を濃縮した細胞プレパラートの作製や、同プレパラートを得るための方法及び材料は国際出願WO01/68814に解説されている。
【0059】
本発明のいくつかの実施態様では、未分化細胞の成長を促進する、あるいは分化の阻害剤として作用する、一種以上の培地成分を取り除くことにより、分化を促進する。このような成分の例には、いくつかの成長因子、マイトジェン、白血球阻害因子(LIF)、及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、がある。更に、所望の系譜に向かって分化を促進する、あるいは、望ましくない特徴を持つ細胞の成長を阻害する、培地成分を添加することによって、分化を促進してもよい。
【0060】
細胞が、特定の薬物スクリーニング及び治療上の用途で複製能を有し、心筋細胞及びそれらの前駆細胞などのin vitro分化細胞の作製のための取り起き分となることが好ましい場合もあろう。付加的には、本発明の細胞を、それらが成長して限定された発生上の系譜細胞になるか、あるいは最終的に分化細胞になる前又は後のいずれかに、テロメア化してそれらの複製能を高めることもできる。テロメア化されるES細胞は、以前に解説した分化経路で採取してもよく;あるいは分化後の細胞を直接テロメア化することもできる。細胞は、適したベクターのトランスフェクション又は形質導入、相同組換え、又は適した技術により、典型的には、テロメラーゼ発現を内因性のプロモータ下で起きる点を越えて増加させる異種のプロモータ下で、細胞がテロメラーゼ触媒成分(TERT)を発現するように、それらの遺伝子改変することにより、テロメア化される。特に適切なのは、国際出願WO98/14592に紹介されたヒトテロメラーゼ(hTERT)の触媒成分である。いくつかの用途では、マウスTERT(WO99/27113)などの種相同体を用いることもできる。ヒト細胞でのテロメラーゼのトランスフェクション及び発現はBodnar et al., Science 279 (1998), 349,及びJiang et al., Nat. Genet. 21 (1999), 111に解説されている。別の例では、hTERTクローン(WO98/14592)が、hTERTコーディング配列の供給源として用いられ、PBBS212ベクターのEcoRI部位でMPSVプロモータの制御下に、又は、市販のpBABEレトロウィルスベクターのEcoRI部位でLTRプロモータの制御下に、スプライシングされる。その後それらを、hTERT発現についてRT-PCRで、テロメラーゼ活性について(TRAP検定)、hTERTに関する免疫細胞化学染色法で、又は複製能について、検定することができる;更に上記も参照されたい。
【0061】
継続的に複製中のコロニーは、増殖を支援する条件下で更に培養することにより濃縮されるが、望ましい表現型を持つ細胞を、選択に応じて限界希釈により、クローニングすることができる。細胞に意図された用途によっては、例えば細胞をmyc、SV40ラージT抗原、又はMOT-2をコードするDNAで形質転換する(米国特許No.5,869,243;国際出願WO97/32972及びWO01/23555など)、他の不死化の方法も許容できよう。
【0062】
本発明によれば、当該の検定で用いられる分化細胞の集団は、好ましくは、所望の細胞種及び/又は特定の発生段階で当該遺伝子を優先的に発現させる調節配列の制御下で、不要の細胞及び細胞種にとって致死的な淘汰系を用い、即ち、特定の細胞種の細胞を、外的作用物質の致死効果に対して耐性にする選択マーカを発現させることにより、比較的に未分化の細胞及び/又は不要な細胞種を枯渇させておくとよい。これを達成するには、細胞を治療用に向けた所望の系譜に分化させるために用いられるプロセスの前に、当該細胞が、所望の第一細胞種に特異的な第一細胞種特異的調節配列に作動的に連結した選択マーカを含むように、細胞を遺伝子改変しておく。
【0063】
この目的にはいずれの適した発現ベクターも用いることができる。本発明に従って改変された幹細胞を作製するのに適したウィルスベクター系は、市販のウィルス成分を用いて調製することができる。一個又は複数のベクターコンストラクトの胚性幹細胞への導入は、例えばトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションにより、あるいはウィルスベクターを役立てるなど、公知の態様で行われる。エフェクタ遺伝子を含むウィルスベクターは、概略的ではあるが、最後の項で引用された公開文献に解説されている。代替的には、エレクトロポレーションにより、又は脂質DNA複合体を用いることで、ベクタープラスミドを細胞内に導入することもできる。例は、Gibco/Life Technologies社から市販されている調合物リポフェクタミン2000(TM)である。別の試薬例は、Roche Diagnostics Corporation社から入手できる、非リポソーム型の脂質と他の化合物を80%エタノールに入れた混合物である、FuGENE(TM)6 Transfection Reagentである。好ましくは、WO02/051987で解説されたベクターコンストラクト及びトランスフェクション法を用いるとよい;引用をもってその開示内容をここに援用することとする。
【0064】
耐性遺伝子自体は公知である。それらの例は、ヌクレオシド及びアミノグリコシド-抗生物質耐性遺伝子であり、例えばピューロマイシン(ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ)、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、又はハイグロマイシンである。耐性遺伝子の更なる例は、アミノプテリン及びメトトレキセートに対する耐性をもたらすデヒドロ葉酸レダクターゼや、例えばビンブラスチン、ドキソルビシン及びアクチノマイシンDなど、数多くの抗生物質に対する耐性をもたらす多剤耐性遺伝子である。
【0065】
本発明の特に好適な実施態様では、前記選択マーカは、ピューロマイシンに対する耐性をもたらすものである。ピューロマイシンは、トランスジェニックEBの接着性培養株中で非心臓細胞を素早く除去させるのに特に適している;更に実施例も参照されたい。更に、心臓細胞の薬物選抜は、トランスジェニックEBの懸濁培養株中で完全に実施することができる。従って、精製済みのES由来心筋細胞は、未処理の対応する細胞よりも、培養で遥かに長く生き延びることも示すことができよう。更に、薬物選抜プロセス中の未分化ES細胞の除去自体が、このような分化ES由来細胞の心筋細胞として生存率及び長寿に明らかな正の効果を有することが示されている。加えて、驚くべきことに、周囲の未分化の細胞から解放されることが、心筋細胞の増殖を誘導するということが示されている。このように、薬物選抜は、精製効果及び増幅効果の両方を持つのである。
【0066】
本発明のある好適な実施態様では、前記ES細胞由来第一細胞種の前記ES細胞がレポータ遺伝子を含み、この場合の前記レポータは、前記第一細胞種に特異的な細胞種特異的調節配列に作動的に連結している。この種類のベクターは、分化の視覚化、薬物選択開始時点の定義、薬物選択の視覚化、及び、レシピエントの組織に移植された精製済み細胞の運命の追跡を可能にするという長所を有する。本発明の方法に従って用いることが好ましいこのようなベクターがWO02/051987に解説されている。通常、当該レポータ遺伝子の前記細胞種特異的調節配列は、マーカ遺伝子の前記第一細胞種特異的調節配列と実質的に同じである。これは、好ましくは前記マーカ遺伝子及び前記レポータ遺伝子を同じシストロン上に含有させるように、前記マーカ遺伝子及び前記レポータ遺伝子を同一の組換え核酸分子、即ち、幹細胞トランスフェクションに用いられたベクターに入れることにより、有利に達成することができる。
【0067】
レポータは、当該細胞にとって損傷を与えず、観察可能又は測定可能な表現型をもたらす限り、いずれの種類のものであってもよい。本発明によれば、クラゲ、エクオレア-ビクトリア(原語:Aequorea victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)(WO95/07463、WO96/27675及びWO95/21191に解説されている)及びその誘導体「Blue GFP」(Heim et al., Curr. Biol. 6 (1996), 178-182及び「Redshift GFP」(Muldoon et al., Biotechniques 22 (1997), 162-167)を用いることができる。特に好適なのは、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)である。更なる実施態様は、高感度黄色及びシアン蛍光タンパク質(それぞれEYFP及びECFP)並びに赤色蛍光タンパク質(DsRed、HcRed)である。更なる蛍光タンパク質が当業者に公知であり、当該細胞を損傷させない限り、本発明に従って用いることができる。蛍光タンパク質の検出は、それ自体公知の蛍光検出法により、行われる;例えばKolossov et al., J. Cell Biol. 143 (1998), 2045-2056を参照されたい。蛍光タンパク質の代わりに、特にin vivo用途では、他の検出可能なタンパク質、特定にそのようなタンパク質のエピトープ、も用いることができる。それ自体では細胞自体を損傷し得るが、そのエピトープは細胞を損傷しないようなタンパク質のエピトープを用いることもできる;更にWO02/051987を参照されたい。
【0068】
安定にトランスフェクトしたES細胞の選抜のために、ベクターコンストラクトは、ネオマイシンなどの抗生物質に対する耐性などをもたらす更なる選択マーカ遺伝子を含有する。もちろん、他の公知の耐性遺伝子や、蛍光タンパク質をコードする遺伝子に関連して上述した耐性遺伝子なども用いることができる。安定にトランスフェクトしたES細胞を選抜するための選抜遺伝子は、検出可能なタンパク質の発現の制御を調節するものとは異なるプロモータの制御下にある。しばしば、例えばPGK-プロモータなど、構成的に活性なプロモータが用いられる。第二の選抜遺伝子を用いることは、そもそも連続的にトランスフェクトした(効率は比較的に低い)クローンを特定できる点で有利である。さもなければ、非トランスフェクトES細胞が大半になってしまい、分化中にEGFP陽性細胞が全く検出されないということになりかねない。本発明の更なる実施態様では、特定の組織は形成されないように細胞を付加的に操作することができる。これは、例えばドキシサイクリン誘導性リプレッサ因子など、リプレッサ因子を挿入することにより、行うことができる。それにより、所望の分化細胞に、多分化能性の、潜在的に腫瘍形成性の細胞が紺有する可能性を除外することができる。
【0069】
幹細胞が分化して欲しい所望の細胞種は、いずれの種類でもよく、その中には、限定はしないが、ニューロン細胞、グリア細胞、心筋細胞、糖応答性インシュリン分泌性膵臓ベータ細胞、肝細胞、星状細胞、突起神経膠細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、樹状細胞、毛嚢細胞、腎管上皮細胞、血管内皮細胞、精巣前駆細胞、平滑筋及び骨格筋細胞、がある;更に上記を参照されたい。
【0070】
本発明のある特に好適な実施態様では、前記in vitro分化細胞は心筋細胞である。この実施態様の場合、前記細胞種特異的調節配列は、好ましくは心房及び/又は心室特異的である。対応する調節配列、即ち心臓特異的プロモータは、従来技術に解説されている;更に上記を参照されたい。例えば、それぞれ大変初期の心筋細胞及び中胚葉前駆細胞に特異的なNkx-2.5(Lints et al., Development 119 (1993), 419-431);ヒト組織に特異的なヒト心臓α-アクチン、(Sartorelli et al., Genes Dev. 4 (1990), 1811-1822)、及び心室の心筋細胞に特異的なMLC-2V(O'Brien et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 90 (1993), 5157 5161; Lee et al., Mol. Cell. Biol. 14 (1994), 1220-1229; Franz et al., Circ Res. 73 (1993), 629-638 and WO96/16163)である。心臓特異的アルファ-ミオシン重鎖プロモータがPalermo et al., Cell. Mol. Biol. Res. 41 (1995), 501-519 and Gulick et al., J. Biol. Chem. 266 (1991), 9180-91855に解説されている。発生中のニワトリ心臓における心房特異的ミオシン重鎖AMHC1の発現や、前後極性の確立がYutzey et al., Development 120 (1994), 871-883で解説されている。
【0071】
もう一つの細胞種は、本発明の方法に従ってES細胞からde novoで作製することができる線維芽細胞である。このように、ES細胞に、マーカ及び付加的にはレポータ遺伝子を、細胞種特異的調節配列、即ち、骨細胞でも活性ではあるがa2(I)コラーゲンプロモータなどの線維芽細胞特異的プロモータ、などに作動的に連結させて含む組換え核酸分子をトランスフェクトする;Lindahl et al., Biol. Chem. 277 (2002), 6153-6161; Zheng et al., Am. J. Pathol. 160 (2002), 1609-1617; Antoniv et al., J. Biol. Chem. 276 (2001), 21754-21764; 更に Finer, et al., J. Biol. Chem. 262 (1987), 13323-13333; Bou-Gharios et al., J. Cell. Biol. 134 (1996), 1333-1344 ; Zheng et al., Am. J. Pathol. 160 (2002), 1609-1617; Metsaranta et al., J. Biol. Chem. 266 (1991), 16862-16869も参照されたい。
【0072】
更なる細胞種は、前に概略的に解説したベクターコンストラクトをトランスフェクトしたES細胞から得ることのできる内皮細胞であり、この場合の前記細胞種特異的調節配列は内皮細胞特異的プロモータである;例えばGory et al., Blood 93(1999), 184-192に解説された血管内皮-カドヘリンプロモータ;Schlaeger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997), 3058-3063によるTie-2プロモータ/エンハンサ; Kappel et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 276 (2000), 1089-1099によるFlk-1プロモータ/エンハンサ。
【0073】
更なる細胞及び組織種特異的プロモータが公知である;例えばZhou et al., J. Cell Sci. 108 (1995), 3677-3684に解説された軟骨細胞特異的pro-アルファ1 (II)コラーゲン鎖(コラーゲン2)プロモータ断片フラグメント;Gloster et al., J Neurosci 14 (1994); 7319-7330 に解説された神経アルファ-1-チューブリ特異的プロモータン及びBesnard et al., J. Biol. Chem. 266 (1991), 18877-18883に解説された神経膠線維酸性蛋白質(GFAP)プロモータ。組織特異的プロモータの更なる例は、グリア細胞、造血系の細胞、ニューロンの細胞、好ましくは胚性のニューロンの細胞、軟骨細胞又は上皮細胞や、インシュリン分泌性β細胞で活性なものである。「組織特異的」は、用語「細胞特異的」に包含される。
【0074】
非心臓特異的プロモータの更なる例は:PECAM1, FLK-1(内皮)、ネスチン(ニューロン前駆細胞)、チロシン-ヒドロキシラーゼ-1-プロモータ(ドーパミン作動性ニューロン)、平滑筋α-アクチン、平滑筋ミオシン(平滑筋)、α-1フェトタンパク質(内皮)、平滑筋重鎖(SMHC最小プロモータ(平滑筋に特異的、(Kallmeier et al., J. Biol. Chem. 270 (1995), 30949-30957)である。
【0075】
発生特異的プロモータという用語は、発生中の特定の時点で活性になるプロモータを言う。このようなプロモータの例は、マウスの心室で胚発生中に発現し、出生前段階ではα-MHCプロモータに取って代わられるβ-MHCプロモータ、初期中胚葉/心臓発生中のプロモータであり、心房性ナトリウム利尿因子であって、ペースメーカを除く初期胚心臓のマーカであり、後期発生段階ではやはり下方調節されるNKx2.5、初期血管形成中に活性になる内皮特異的プロモータであるFlk-1、ニューロン前駆細胞(胚性ニューロン及びグリア細胞)及び成体グリア細胞(部分的にはまだ分裂可能)なネスチン遺伝子の2-セグメント(Lothian and Lendahl, Eur. J. Neurosci. 9 (1997), 452-462U)、である。
【0076】
前述した実施態様の場合、前記耐性遺伝子及び前記レポータ遺伝子は、好ましくは二シストロン性のベクターに含有させるとよく、そして好ましくはIRESで分離されているとよい。特に好適なのは、前記耐性遺伝子がピューロマイシンに耐性をもたらすものであり、前記マーカがEGFPであり、そして前記プロモータが心臓α-MHCプロモータであるようなコンストラクトの利用である;実施例も参照されたい。
【0077】
全ての組織が、支援する細胞種(例えば線維芽細胞、間質、内皮、グリア細胞等)と一緒にその機能上の役割を決定する主たる特異的細胞種から成ることが、組織の三次元構造、その栄養上の機能、そして当該生物全体の他の組織系との相互接続を維持するために重要であることが知られている。従って、本発明の方法のある実施態様では、ある一つの細胞種のin vitro分化細胞を、第二の細胞種の少なくとも一個の細胞と同時培養する、及び/又は、ここで前述したもののいずれか一つなど、少なくとも一つの第二細胞種を含む組織又は組織様構造内に含める。前記第二細胞種は、例えば胚性の第二細胞種であってもよい。好ましくは、前記組織又は組織様構造内のin vitro分化細胞を、胚性幹(ES)細胞由来の第一細胞種を少なくとも一つの胚性第二細胞種の存在下で培養し、前記少なくとも二つの細胞種を一体化又は整列させて組織又は組織様構造にすることにより、得るとよい。前記少なくとも第二細胞種はまた、第一細胞種として、即ち、対応するマーカ遺伝子で遺伝子操作してあるES細胞のin vitro分化により、作製してもよい;適した方法及び材料については上記も参照されたい。多種の組織もしくは組織様構造や同様のin vitro分化細胞及び組織を提供する対応する方法が、引用をもってその開示内容をここに援用することとする国際出願WO2004/113515に詳述されている。
【0078】
従って、用語「in vitro分化細胞」には、同じ又は異なる細胞種の複数のin vitro分化細胞や、in vitro分化組織及び器官、並びに、例えば胚起源など、他の細胞種とのin vitro分化細胞の同時培養株、も含まれるものと意図されている。このように、用語「in vitro分化細胞」は、もとの幹細胞が分化した先以外の細胞又は細胞種の存在を必ずしも除外するものではない。しかしながら、大半の実施態様では、in vitro分化細胞の実質的に純粋な培養株か、又は更には単個細胞の使用が好ましい。
【0079】
前記in vitro分化細胞が心筋細胞であるある実施態様では、前記少なくとも第二細胞種は、好ましくは、内皮細胞及び/又は線維芽細胞に相当するとよい。例えば、ブラジキニンはアンジオテンシンII誘導性肥大症を内皮細胞の存在下で遮断することが報告されている;Ritchie et al., Hypertension 31 (1998), 39-44を参照されたい。それらの実験では、成体及び新生児ラット心臓由来の摘出された心室心筋に対するブラジキニンの効果や、ブラジキニンが肥大症を遮断する程度がin vitroで判定されている。ブラジキニンは、タンパク質合成や心房性ナトリウム利尿ペプチド分泌及び発現の増加で定義する限り、肥大症アゴニストであることが判明している。しかしながら、内皮細胞と同時培養された心筋細胞では、ブラジキニンはタンパク質合成を増加させなかった。結論的には、ブラジキニンは、心室心筋細胞に対して直接的な肥大症効果を有するのである。内皮細胞の存在が、ブラジキニンの抗肥大症効果には必要なのである。このように、調査対象の疾患の性質や罹患組織又は器官の種類によっては、本発明の方法において、分化細胞又はin vitro分化細胞の同時培養株の使用を考慮に入れてもよいであろう。
【0080】
上述したように、検査対象のin vitro分化細胞は、好ましくは、異なる細胞種が自己集合して、哺乳動物、好ましくはヒト、のうちで所定の化合物に暴露されると思われる組織又は器官を反映しているはずの所望の組織又は組織様構造などになることのできる方法で得られる。当該の幹細胞は、本発明のある好適な実施態様では、胚様体(EB)として公知の凝集体の形で入手可能であるとよい。WO02/051987は、胚様体を得るプロトコルを解説している。その製造は、好ましくは、「ハンギングドロップ」法か、あるいはメチルセルロース培養(Wobus et al., Differentiation 48 (1991), 172-182)により、行われるとよい。
【0081】
従って、特に好適な実施態様では、本発明の機能的組織検定は、胚様体(EB)で行われる。
【0082】
上述したように、胚様体は、異なる組織に分化している細胞の複雑なグループである。ある実施態様では、胚様体内の細胞は、それらの分化の点で実質的に同調している。従って、この同調した細胞の大半が公知の間隔で三つの胚葉層に分化し、更に分化して、軟骨、骨、平滑及び横紋筋などの複数の組織種や、胚性神経節を含む神経組織になる。更にSnodgrass et al., ”Embryonic Stem Cells: Research and Clinical Potentials” in Smith and Sacher, eds. Peripheral Blood Stem Cells American Association of Blood Banks, Bethesda MD (1993)も参照されたい。このように、胚様体内の細胞は、伝統的な単個細胞又は酵母による検定よりも、生物全体の複雑さにとって遥かに近いモデルを提供しながらも、マウス及びより大型の哺乳動物に伴うコスト及び難題を避けるものである。更に、最近、ヒト胚様体が入手できるようになったことで、ヒト生物系及びヒトの心臓の異常を治療するために有用な薬物の毒性をモデリングしたり、また同定したりするためのより近い媒体を提供することで、本発明の予測性が向上している。
【0083】
これに代わるものとして、スピナーフラスコを培養法として用いることができる。こうして、未分化のES細胞が、攪拌中の培養株に導入され、確立された方法で永久に混合される。従って1000万個のES細胞が20%のFCSを加えた150mlの培地に導入され、20rpmの速度で一定に攪拌されるが、この場合の攪拌運動の方向は、規則的に変更される。ES細胞の導入から24時間後に、更に血清を加えた更に100mlの培地を添加し、その上で100乃至150mlの培地を毎日取り替える(Wartenberg et al., FASEB J. 15 (2001), 995-1005)。これらの培養条件下で、大量のES細胞由来細胞、即ち心筋細胞、内皮細胞、ニューロン等を、培地の組成に応じて得ることができる。これらの細胞は、それぞれ攪拌培養株に未だ残っているか、あるいはプレート後のいずれかの耐性遺伝子を利用することにより、選抜される。
【0084】
この代わりに、ハンギングドロップ中に分化したEBをプレートせずに、単に懸濁液中に維持してもよいだろう。これらの条件下でも、分化の進行は実験により観察することができよう。所望でない細胞種の洗浄は、機械的洗浄のみと、低濃度の酵素(例えばコラゲナーゼ、トリプシン)によって行うことができる;単個細胞懸濁液は、所望でない細胞種を簡単に洗い流すだけで得られる。
【0085】
本発明のある特に好適な実施態様では、付属の請求項で用いられ、国際出願WO2005/005621に解説された最近開発された「大量培養」系で胚様体が調製される。
【0086】
本発明の方法のある好適な実施態様では、前記罹患表現型が相当する疾患は、心不全又は心筋症などの心疾患である。最も好ましくは、誘導及び評価しようとする罹患表現型は心臓肥大症の表現型である;更に実施例も参照されたい。
【0087】
心不全は、心臓が、対象の組織及び細胞の代謝上の必要に見合う充分な酸化血液を提供できないことである。これには、例えば肺又は全身の静脈のうっ血などの循環上のうっ血が伴う場合がある。ここで用いられる場合の心不全という用語は、あらゆる原因から起きる心不全を包含するものであり、「うっ血性心不全」、「前方心不全」、「後方心不全」、「高心拍出量心不全」、「低心拍出量心不全」等の用語を包含することが意図されている;詳細な議論については更にBraunwaldのChapters 13-17を参照されたい。心不全に結び付きかねない状態には、限定はしないが、冠状動脈疾患、心筋症、又はうっ血性心不全がある。
【0088】
心筋症は、心臓が異常に肥大、肥厚及び/又は硬化する、あらゆる心筋(心臓の筋肉)の疾患又は機能不全である。その結果、血液を拍出する心臓の能力が通常、弱まる。この疾患又は異常は、例えば炎症性、代謝上、毒性、浸潤性、線維形成性、造血系上であったり、原因が遺伝的、又は未知であったりする。大きく二つの種類の心筋症がある:虚血性(酸素不足から起きる)及び非虚血性である。虚血性心筋症は、冠状動脈疾患、即ち、心臓表面の冠状動脈にアテローム硬化性の狭窄又は閉塞がある疾患、により引き起こされる慢性の異常である。冠状動脈疾患はしばしば、酸素に富む充分な血液が心臓に供給されない心臓虚血のエピソードにつながる。最終的には、心筋は、充分に酸素に富む血液がないために余分な働きをしなければならないため、肥大する。非虚血性心筋症は、一般に、臨床的及び病理学的特徴に主に基づいて三つのグループに分類される:
(1)拡張型心筋症、心臓の肥大と、一方又は両方の心室の収縮機能不全を特徴とする症候群;
(2)肥大型心筋症、ここでは(a)心室壁又は心室間中隔のいずれかの厚さの全体的又は局部的増加、又は(b)例えば遺伝性疾患、高血圧、又は心臓弁機能不全などで起き得る、心室壁又は心室間中核のいずれかの厚さの全体的又は局部的増加の易罹患性上昇、と定義しておく;あるいは
(3)限定的及び浸潤性心筋症、主たる臨床上の特徴が、通常、心臓の弛緩能障害(弛緩機能不全)であり、しばしば、アミロイド線維、鉄、又は糖脂質などの外来物質の心筋浸潤を特徴とする一群の疾患;更にWynne and Braunwald, The cardiomyopathies and myocarditides, Braunwald et al., eds., Harrison's principles of internal medicine, 15th ed. New York, McGraw-Hill (2001), 1359-1365も参照されたい。
【0089】
本発明の方法に従ってin vitro分化細胞として心筋細胞を用いる場合、前記表現型は、好ましくは、細胞のサイズ、細胞の形状、タンパク質合成、アクチン/ミオシンフィラメントの組織化、心筋症の細胞に特徴的な遺伝子発現パターンの活性化、及び/又は、初期胚発生で発現する遺伝子の活性化、から成る群より選択されるパラメータを含むとよい;更に下記も参照されたい。
【0090】
もちろん、肝細胞などの他の細胞種も、本発明に従って評価することができ、その場合、表現型変化を判定するのに適したパラメータは、当業で公知である。例えばWO01/81549は、多分化能幹細胞を由来とし、肝細胞の形態学的特徴を持つと共に、肝細胞に特徴的であり、肝機能にとって重要な酵素及び生合成活性を有する表面マーカを発現する、in vitro分化細胞の作製を解説している。この細胞を、多数の表現型上の基準に従って特徴付けることができる。その基準には、限定はしないが、発現した細胞マーカ及び酵素活性の検出又は定量や、形態学的特徴及び細胞間シグナリングの特徴付けがある。当該の特徴は、このようなものに熟練した当業者であれば容易に理解され、またその中には、以下のうちのいずれか又は全部がある:多角細胞形状、二核表現型、分泌タンパク質合成のための粗面小胞体の存在、細胞内タンパク質ソーティングのためのゴルジ-小胞体リゾチーム複合体の存在、ペルオキシソーム及びグリコーゲン顆粒の存在、相対的に豊富なミトコンドリア、及び、密な細胞間接合部を形成できるために、胆細管空間ができること。肝臓前駆細胞、肝細胞、及び胆管上皮を識別する際に有用な細胞マーカがWO01/81549の表1に示されている。対象となる他のマーカには、この国際出願の実施例1、2及び6で例示されたものがある。例えば、チトクロームp450の発現を、例えばウェスタンブロットで特異的抗体を用いてタンパク質レベルで測定することもでき、あるいはノーザンブロット又はRT-PCRで特異的プローブ及びプライマを用いてmRNAレベルで測定することもできる;Borlakoglu et al., Int. J. Biochem. 25 (1993), 1659を参照されたい。p450系の具体的な活性を測定することもできる:7-エトキシクマリンO-デ-エチラーゼ活性、アロキシレゾルフィン(原語:aloxyresorufin)O-デ-アルキラーゼ活性、クマリン7-ヒドロキシラーゼ活性、p-ニトロフェノールヒドロキシラーゼ活性、テストステロン水酸化、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼ活性、グルタチオンS-トランスフェラーゼ活性、及び他のもの:例えばGomes-Lechon et al. in ”In vitro Methods in Pharmaceutical Research” Academic Press (1997), 411-431によるレビューを参照されたい。
【0091】
既に上述したように、前記の罹患表現型は好ましくは、in vitro分化細胞の培養中に誘導されるとよい。なぜなら、その罹患表現型は、分化に用いた幹細胞にとって致命的であるかも知れないからである。更に、罹患表現型を誘導する可能性により、ある化合物が、その罹患表現型の誘導前に添加された場合に罹患発症を妨げることができるかどうかを調べる調査が可能になるからである。この実施態様は、心疾患の予防を考えたときに特に価値のある予防手段として用いることができる薬物を同定及び得るために、特に有用である。しかしながら、実施例2で実証するように、例えば罹患関連遺伝子を構成的に発現させることなどにより、罹患表現型を構成的にもたらすことも、本発明では可能であり、また想到するところである。
【0092】
ある好適な実施態様では、本発明における前記表現型は、生理活性化合物の存在下でin vitro分化細胞を培養することにより、誘導される。実施例1及び3で実証するように、これは、好ましくはエンドセリン-1、アンジオテンシンII、又はα1-アドレナリン作動性アゴニストなどの肥大症アゴニストで心筋細胞に対して行うことができ、最も好ましくは前記α1-アドレナリン作動性アゴニストはフェニレフリンである。
【0093】
前述し、また実施例2で解説したように、別の実施態様では、当該のin vitro分化細胞は、前記表現型を示すように遺伝子操作される。遺伝子操作は多様な手段により行うことができる。例えば、当該のin vitro分化細胞に、この細胞内に目的の核酸分子を導入するために分子生物学で公知の標準的手法を用いて形質導入することができる。ある実施態様では、当該の核酸分子は、発現すると罹患表現型をもたらすようなポリペプチドをコードするものである。当該核酸分子にコードされたポリペプチドは、当該細胞と同じ種を由来としても(同種)、あるいは異なる種を由来としても(異種)よい。更に、当該ポリペプチドは、そのいずれも罹患表現型を担うと思われば、野生型に相当するものでも、又は変異対立遺伝子に相当するものでもよい。当該のポリペプチドは、例えば酵素、構造タンパク質又は転写調節因子など、いずれの種類のものでもよい。
【0094】
通常は、目的の核酸配列を、例えば転写及び/又は翻訳調節因子などの調節因子に作動的に連結させる;更に上記も参照されたい。調節因子には、プロモータ、開始コドン、停止コドン、mRNA安定性調節因子、及びポリアデニレーションシグナルなどの因子がある。プロモータは、構成的プロモータでも、又は誘導性プロモータでもよい。プロモータの具体的な非限定的例には、CMVプロモータ、心房性ナトリウム利尿因子プロモータ、及び、導入遺伝子の誘導性発現のためのTET応答性因子を含むプロモータ、がある。別の実施態様では、目的の核酸配列を、発現ベクターなどのベクターに挿入する。発現ベクターを調製する手法は、当業者に公知であり、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)に見ることができる。前記表現型は、前記in vitro分化細胞中の(変異した)遺伝子の(過剰)発現を原因とするものでも、遺伝子のノックアウト(例えばRNA干渉;RNAiによる)を原因とするものでも、遺伝子のノックアウトもしくはノックインを原因とするものでもよい。
【0095】
ある実施態様では、in vitro分化細胞又はその基になるES細胞に、目的の遺伝子を機能的に欠失又は「ノックアウト」するようにデザインされた核酸分子をトランスフェクトする。この方法では、目的の核酸分子は、相同組換えを起こすと共に当該細胞のゲノム中に挿入された核酸分子である。ES細胞で「ノックアウト」を作製する方法は当業者に公知である(例えば米国特許No.5,939,598を参照されたい)。この例によると、細胞はここで解説された通りにin vitroで培養され、外因性の核酸がこの細胞に、例えばトランスフェクション又はエレクトロポレーションなど、当業者に公知のいずれかの方法により導入される。こうしてトランスフェクト後の培養細胞をin vitroで研究することができる。核酸配列を幹細胞に導入する方法は当業者に公知である(例えば米国特許No.6,110,743を参照されたい)。しかしながら、分化細胞を、アデノウィルス遺伝子移入法などを用いてトランスフェクトすることもできる;例えばLarbig et al., Circulation 107 (2003), 485-489を参照されたい。
【0096】
カルシウムは、心臓の収縮性、成長及び遺伝子発現の調節において中心である。カルシウムシグナルの振幅、周波数及び区画化の変動はカルシウム/カルモジュリン依存的酵素、イオンチャネル及び転写因子で解読される。カルシウムシグナリングの回路により、心臓機能の薬理的修飾の機会が生ずるため、本発明の方法で用いられる複数の推定上の標的遺伝子が提供される;レビューに関しては例えばFrey et al., Nature Med. 6 (2000), 1221-1227を参照されたい。
【0097】
肥大型心筋症の表現型上の多様性や、心臓肥大症に至る分子経路、そしてこれらのプロセスを修飾する因子が、Arad et al., Hum. Mol. Gen. 11 (2002), 2499.2506に論じられており、この文献は、かつては「特発性」と考えられ、今では心臓ミオシン重鎖(βMHC)、心臓ミオシン結合タンパク質C (MyBPC)、心臓トロポニンT (TnT)、心臓トロポニンI (TnI)、αトロポミオシン(αTM)、必須及び調節軽鎖、及び心臓アクチンをコードする遺伝子の変異など、収縮器官のタンパク質をコードする遺伝子のドミナント変異が原因で起きると認識されている肥大型心筋症(HCM)を解説したものである。これらの遺伝子は、前記罹患表現型に関して評価すべきパラメータや、ある罹患表現型、特に肥大性の表現型を誘導する標的遺伝子として、役立てることができる。
【0098】
単一遺伝子変異が原因で起きる拡張型心筋症の臨床上の特徴の不均質性を含め、拡張型心筋症の遺伝的特質がSchonberger et., Am. J. Hum. Genet. 69 (2001), 249.260に解説されている。Schonbergerらの文献の表1は、拡張型心筋症が主表現型となる遺伝子座を概観している。これらの遺伝子は、前記罹患表現型に関して評価すべきパラメータや、ある罹患表現型、特に拡張型心筋症表現型を誘導する標的遺伝子として、役立てることができる。
【0099】
心筋症を担うと考えられる具体的な候補遺伝子の一つがホスホランバンである;ヒトホスホランバン遺伝子の構造及び発現に関する情報についてはMcTiernan et al., J. Mol. Cell. Cardiol. 31 (1999), 679-692を参照されたい。ホスホランバンは、筋小胞体カルシウムATPaseの内因性の阻害剤であり、心筋の収縮及び弛緩において主たる役割を果たす。最近、ヒトホスホランバンがヌルになると致命的な拡張型心筋症になることから、マウスとヒトの間で大きな違いが明らかになったことが報告されている;Haghighi et al., J. Clin. Invest. 111 (2003), 869-876を参照されたい。従って、本発明のin vitro 分化細胞ベースの検定を用いて、ホスホランバンを更に調査してもよい。ホスホランバン遺伝子及びその変異体の発現又は抑制を媒介する手段及び方法は、当業者に公知である;上記と、例えば心臓収縮機能不全を改善する方法としてのアデノウィルスベースのホスホランバンアンチセンス発現や、構成的、対、ウィルスによるエンドセリン-1-応答性心臓プロモータについて報告したEizema et al., Circulation 101 (2000), 2193-2199を参照されたい。更に、ここでトランスジェニック動物モデルの作製及び心疾患の治療について考察されてきた遺伝子を利用してもよい。例えば、ベータ1-アドレナリン作動性受容体をコードするDNAを含むコーディング配列に作動的に連結させたアルファ-ミオシン重鎖プロモータが米国特許No.6,218,597に解説されている。Gsalpha及びベータ-アドレナリン作動性受容体アンタゴニストの過剰発現が、心不全のトランスジェニック動物モデルの樹立のために、国際出願WO97/36477で用いられている。
【0100】
更に、ヒト心筋症誘導因子を心筋特異的調節配列の制御下でコードしているヌクレオチド配列を含む心筋特異的発現カセットがドイツ特許出願No.198 151 28に解説されている。
【0101】
カルシニューリン、カルシウム依存的キナーゼIV(CaMKIV)、又はカルシニューリンもしくはCaMKIVの機能的断片をコードするコーディング領域を、心筋細胞で優先的に活性であるプロモータに作動的に連結させたものが、トランスジェニックマウスで心筋肥大症を生むことが解説されている;米国特許No.6,657,104及び実施例2を参照されたい。更に、正常な心臓組織に比べて肥大症心臓組織で示差的に発現している遺伝子が、米国特許出願US2003/148296で解説されている。「良い」(運動で誘発された)心臓肥大症と「悪い」(高血圧で誘発された)心臓肥大症に区別された心臓肥大症状態で示差的に発現する一群の遺伝子が解説されている;例えば20個の心臓肥大症マーカ遺伝子に関する表2を参照されたい。更なる心臓肥大症マーカ遺伝子は国際出願WO99/24571に解説されている。
【0102】
本発明の方法のある好適な実施態様では、前記in vitro分化細胞は、(変異型)トロポニン、ミオシン重鎖、カルシニューリン、カルモジュリン、プロテインキナーゼC、ホスホランバン又はカルシウムカルモジュリン依存的キナーゼIV(CaMKIV)から成る群より選択されるポリペプチドを(過剰)発現する。
【0103】
別の例は、天然内向き整流IK1をドミナント-ネガティブな態様で抑制するKCNJ2のアンダーソン変異により提供される。アンダーソン症候群は遺伝性疾患であり、心臓の不整脈、周期性麻痺及び異形態を特徴とする。内向き整流カリウムチャネルサブユニットKir2.1をコードするKCNJ2遺伝子の変異が罹患した個体で判明している。当該疾患変異体KCNJ2-S136Fを新生児ラット心筋細胞でアデノウィルス遺伝子移入法を用いて発現させることで、I(K1)密度が、KCNJ2-S136F感染細胞で実際に有意に減少していること、そして天然細胞でI(K1)がドミナント-ネガティブに抑制されていることが、アンダーソン症候群と病態生理学的関係があると示すことができた;Lange et al., Cardiovasc. Res. 59 (2003), 321-327を参照されたい。
【0104】
更に、本発明の検定系を用いて、潜在的薬物標的遺伝子を調査することも可能である。例えば、本発明に従って、幹細胞に、罹患細胞、組織又は器官でその示差的発現の関係が判明した遺伝子のcDNA配列を含むプラスミドベクターをトランスフェクトすることができる。分化時、標的遺伝子の発現が誘導され、その結果の表現型が、標的遺伝子を発現しないか、標的遺伝子を正常なレベルで発現するコントロールと比較して分析される。標的遺伝子の発現が誘導された結果、例えば亢進した罹患表現型などの罹患表現型が顕れるのであれば、これを、この標的遺伝子が、疾患発生を担うか、あるいは少なくとも関与している証拠とみなしてよく、こうして治療的介入の焦点としてよい。従って、本発明のある実施態様では、前記in vitro分化細胞を遺伝子操作して、潜在的な薬物ターゲットをコードする遺伝子を発現させるか、又は抑制する;下記も参照されたい。
【0105】
生理学的に活性な物質を、罹患表現型の誘導に使用することを含む実施態様について既述したように、罹患表現型を示すように遺伝子操作されたin vitro分化細胞が、例えば、誘導性プロモータの制御下で前記表現型を担う遺伝子を発現させることなどにより誘導可能であることが、同様に好ましい。誘導性プロモータは当業者に公知である;上記も参照されたい。用いられるプロモータは、好ましくは、誘導性であり、かつ、標的遺伝子の高レベルの発現を命令するために適した条件下で、有用であるとよい。本発明において誘導性プロモータを使用すると、作動的に連結したポリヌクレオチド配列の発現を、このような発現が望ましいときにスイッチオンし、あるいは発現が望ましくないときに発現をスイッチオフすることのできる分子スイッチを提供できる。誘導性プロモータの例には、限定はしないが、メタロチオネインプロモータ、糖質コルチコイドプロモータ、プロゲステロンプロモータ及びテトラサイクリンプロモータ、がある。本発明で用いることのできる数多くの発現ベクター系がある。例えば、Stratagene社の完全コントロールは、合成エクジソン誘導性プロモータを含む誘導性哺乳動物発現系に関係する。誘導性発現系のもう一つの例は、Invitrogen社から入手可能な、T-REXTM(テトラサイクリンにより調節される発現)系という、完全長CMVプロモータを用いた誘導性哺乳動物発現系である。トランスジェニックマウスで遺伝子発現を調節するためのこのテトラサイクリン誘導性の系は、Grill et al., Transgenic Res. 12 (2003), 33-43に解説されている。更に、複製インコンピテント単純疱疹ウィルスベクターにおけるテトラサイクリン調節型遺伝子発現が、Schmeisser et al., Hum. Gene Ther. 13 (2002), 2113-2124に解説されている。加えて、一個の自己調節性レトロウィルスカセットを用いたテトラサイクリン誘導性BCR-ABL欠陥レトロウィルスの迅速な作製が、Dugray et al., Leukemia 15 (2001), 1658-1662に紹介されている。誘導性過剰発現トランスジェニックマウスにおける導入遺伝子リークをなくすためのテトラサイクリン制御性転写サイレンサ(tTS)の使用はZhu et al., J. Biol. Chem. 276 (2001), 25222-25229に解説されている。膵臓ベータ細胞でアンチセンスRNAを発現させることによりマウスpdx-1遺伝子活性の阻害するための、トランスジェニックマウスにおけるTet-On系はLottmann et al., J. Mol. Med. 79 (2001), 321-328に報告されている。ドキシサイクリン誘導性遺伝子発現に関しては、例えばLindeberg et al., J. Neurosci. Res. 68 (2002), 248-253 及びKim et al., Am. J. Pathol. 162 (2003), 1693-1707を参照されたい。更に、ドキシサイクリン制御性の遺伝子発現を用いてトランスジェニックマウスで乳タンパク質の組成を可逆的に変える方法がSoulier et al., Eur. J. Biochem. 260 (1999), 533-539で解説されている。これらの誘導性発現系はすべて、本発明のベクター及び方法に従って利用することができる。
【0106】
更に、前記表現型を担う遺伝子は、RNAをコードするcDNAなどの遺伝子であってももよく、このRNAも、リボゾームのようにそれ自体で機能的な、あるいは、前記表現型を担う機能的ポリペプチドをコードしている、のいずれでもよいことは、もちろん理解されているはずである。代替的には、前記表現型の誘導を担う遺伝子は、内因性の標的遺伝子の抑制、あるいは、前記標的遺伝子にコードされた産物の活性の阻害、を媒介することができる。この場合、標的遺伝子の発現とその遺伝子産物の活性の不足が、罹患表現型を担うものであろう。更に、発現させよう、又は抑制しようとする標的遺伝子は野生型でも、又は変異対立遺伝子でもよいことも理解されたい。遺伝子の発現又は抑制をもたらす手段及び方法は当業者に公知である;更に上記を参照されたい。
【0107】
ある検査化合物の予防上の効果を調査するためには、検査化合物を培地に加えるか、あるいは細胞に注射した後で初めて、罹患表現型を誘導することが好ましい;更に上記を参照されたい。他方、既に確立された疾患に対する推定上の薬物の治療効果又は治癒効果を判定することが狙いの場合には、罹患表現型を誘導してから検査化合物を添加し、その後で、それぞれ検査化合物の存在下及び非存在下で当該疾患の進行を観察してもよい。
【0108】
更なる実施態様では、前記方法をアレイで行う。本発明の検定で用いるためのアレイは通常、固体の支持体と、それに付着させた、又はその上に懸架させたin vitro分化細胞とを含む。バイオセンサとしての培養細胞及び細胞凝集体のために平面状の微小電極アレイを用いることが、特に興味深い。このようなアレイは一般に、その上に金、プラチナ、インジウム-スズ-酸化物、イリジウム等の導電体が蒸着され、パターン形成されたガラス製、プラスチック製またはケイ素製の基板から成る。光レジスト、ポリイミド、二酸化ケイ素、窒化ケイ素などの絶縁層が導電性の電極上に蒸着された後、記録部位を定義するために電極上の数領域で取り除かれる。細胞はこの表面上で直接、培養されて、絶縁を取り除かれた記録部位で露出する導電体に接触する。電極の大きさ及び細胞に応じて、電気活性の記録を、単個細胞から、あるいは、細胞凝集体を含む細胞集団から、行うことができる。各電極部位は、一般的には、AC結合コンデンサを付けて又は付けずに高入力インピーダンス低ノイズ増幅器の入力側に接続させて、比較的に微小な細胞外シグナルを増幅できるようにする。このようなバイオセンサの例はNovak et al. IEEE Transactions on Biomedical Engineering BME-33(2) (1986), 196-202; Drodge et al., J. Neuroscience Methods 6 (1986), 1583-1592; Eggers et al., Vac. Sci. Technol. B8(6) (1990), 1392-1398; Martinoia et al., J. Neuroscience Methods 48 (1993), 115-121; Maeda et al., J. Neuroscience 15 (1995), 6834-6845; and Mohr et al. Sensors and Actuators B-Chemical 34 (1996), 265-269に解説されている。
【0109】
この実施態様では、本発明の方法は、好ましくは、上述したものなどの多極管又は微小電極アレイ(MEA)を用いて行われるとよい。本発明のこの検定システムは、通常は大変時間がかかり、また高価な心臓への影響を調べる分析のための、動物検査に代わる特に有利な代替法である。従って、この機能的組織検定システムは、薬物開発や、ヒト又は動物が接触したいずれかの化合物の毒性検査において、特に有用である。微小電極アレイ(MEA)は、ES細胞由来心筋細胞内などでの活動電位生成及び伝播を多重的に細胞外で記録できるようにする装置である。この記録は、それが医師により用いられるという点で公知のECGと似ている。MEAのマトリックスは通常、特にデザインされた細胞培養装置の底面に一体化させた60本の金製電極から成る。ES細胞由来の胚様体(EB)をこのような装置で培養することができる。表面への付着及び展開後、心筋細胞を含有するEBの細胞は、電極と接触する。こうして、外に出て来る細胞外活動電位をすべて、短時間及び長時間の両方の観察実験中に、同時に記録することができる。その後、適したプログラムで周波数及び潜伏期を分析すると、拍動性クラスの精密な「電気的マップ」が顕れる。
【0110】
例えば、基板に一体化した60本の電極などから成る微小電極アレイ(MEA)で細胞外電位を記録することにより、心筋細胞への検査化合物の添加前、添加中及び添加後の電気生理的特性を追跡することができる;Banach et al. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 284 (2003), H2114-2123を参照されたい。タングステン製微小電極から成る多重アレイが、呼吸器モーターパターン生成に寄与する脳幹ニューロンの同時レスポンスを記録するために用いられた;Morris et al., Respir. Physiol. 121 (2000), 119-133を参照されたい。
【0111】
上記のパラメータを、本発明の細胞ベースの検定系で用いてもよく、前記電極アレイを通じて前記生物材料の電気活性を測定するほかに、前記更なるパラメータのいずれか1つとしてもよい。
【0112】
好ましくは、胚様体を本発明の検定で用いて、その化学的組成を検査するとよい;更に下記も参照されたい。胚様体を得るもととなる具体的な種の選択は、典型的には、いくつかの因子のバランスを反映することになるであろう。まず、研究の目的に応じ、1つ又は複数の種を関心の対象としてもよい。例えば、ヒト胚様体は、組成物を、潜在的ヒト治療薬として検査する場合の使用に特に対象となるが、工業用化学物質を含む物質の毒性検査について検査する場合にも、特に対象となり、他方、ウマ、ネコ、ウシ、ブタ、ヤギ、イヌ、又はヒツジ胚様体は、潜在的獣医学的治療薬の場合に、より対象となるであろう。例えばモルモット、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、及びイヌなど、他の臨床検査で通常用いられる他の種の胚様体も好ましい。典型的には、これらの種の胚様体は、「ファーストパス」スクリーニングのためか、あるいは、ヒトでの毒性に関する詳細な情報が必要でない場合、あるいは、マウス又はこれらの研究室用種のうちの他の一つでの結果が、ヒトでの公知の毒性又は他の効果に相関付けられたことがある場合に、用いられよう。更に、ヒト治療薬に関しては、規則機関は一般的に、ヒトでの治験を開始する前に、動物データを必要とするであろう;一般的には、前臨床動物研究で用いることになる種の胚様体を用いることが好ましいであろう。その後、この胚様体での検査結果は、動物での治験で予測される毒性の程度及び種類に関して、研究者の指針となることができる。いくつかの動物種が、他のものよりも、様々な種類のヒトでの毒性のより優れたモデルであることが当業で公知であり、種によって、薬物代謝能が異なる;例えばWilliams, Environ. Health Perspect. 22 (1978), 133-138; Duncan, Adv. Sci. 23 (1967), 537-541を参照されたい。このように、特定の前臨床毒性研究で用いるのに好適な特定の種は、薬物候補に意図される使用に応じて様々であろう。例えば、生殖系に影響を与えることが意図された薬物の場合に適したモデルとなる種は、神経系に影響することを意図した薬物の場合は適さないかも知れない。前臨床検査に適した種を選択する基準は当業者に公知である。
【0113】
胚様体培養を開始したら、それを化学的組成物に接触させることができる。当該の化学的組成物は適宜、水溶液、好ましくはDMSOなどの細胞培養で従来用いられる溶媒に入れるとよく、これを培地に導入する;更に実施例も参照されたい。導入はいずれの都合の良い手段によってもよく、通常はピペット、マイクロピペッタ、又はシリンジを利用するとよい。ハイスループットスクリーニングなどのいくつかの用途では、当該の化学的組成物を、自動ピペッティングシステムなどの自動化手段によって導入してもよく、この自動化手段はロボットアームに付いたものでもよい。化学的組成物は、粉末又は固形で、医薬品添加物、結合剤、及び、医薬組成物中に通常用いられる他の物質と一緒に、あるいは、目的の用途で用いてもよいであろう他の担体と一緒に、培地中に導入することができる。例えば、農薬として、又は、石油化学用薬剤としての使用を意図された化学的組成物を、その農薬又は薬剤の毒性を検査するために単独で培地に導入することも、あるいは、この農薬又は薬剤の組み合わせが相乗効果を有するかどうかを判定するために、一緒に用いられるであろう、又は、環境中で見られるであろう、他の物質と組み合わせて、導入することもできる。典型的には、組成物が培地全体に分散するように、少なくとも化学的組成物の導入直後に、培養物を震盪することになるであろう。
【0114】
化学的組成物を培養物に添加する時点は、医師の裁量の範囲内であり、特定の研究目的に応じて様々であろう。胚様体が幹細胞から発生して、胚様体の組織すべての発生時でのタンパク質又は遺伝子発現の変化を判定できるようになったら直ぐに、化学的組成物を適宜、添加することになるであろう。しかしながら、特定の組織種に対する組成物の効果の研究に焦点を当てることが関心かも知れない。前述したように、筋肉、神経、及び肝組織などの個々の組織は、胚様体が形成された後の特定の時点で発生することが公知である。従って、目的の組織で変化していく遺伝子又はタンパク質発現に対する効果を観察するために、当該の化学的組成物の添加を、目的の組織の発生が開始した時点、あるいは、その発生開始後の選択された時点、に行うように段階化することができる。
【0115】
当該組成物の毒性について公知の情報量、研究目的、利用可能な時間、及び医師の資源に応じて、様々な量の化学的組成物を、胚様体に接触するために用いることになるであろう。化学的組成物は、一種類のみの濃度で、当該化合物を用いた他の研究又は過去の研究又は分野での経験から、特定の濃度が、体内で最も普通に見られるものであると示唆されている場合には特に、投与することができる。より一般的には、遺伝子又はタンパク質発現に対する濃度差の効果、従って、異なる濃度のときの当該組成物の毒性の差の効果、を評価できるように、化学的組成物を、並行して行われる胚様体培養物に様々な濃度で、添加することになるであろう。典型的には、例えば、化学的組成物を、普通または中間濃度で添加し、望ましい精度に応じて2倍又は5倍の濃度増減で階層にすることになるであろう。当該組成物が未知の毒性のものである場合、まず予備研究を適宜、行って、組成物を検査することになる濃度範囲を決定する。濃度投薬量を決定する多様な手法が当業で公知である。よくある手法の一つは、例えば、薬剤が直接毒性になる投薬量を決定することである。次に医師は、2分の1にこの用量を減らし、典型的には目的の薬剤を5倍又は2倍の濃度希釈液にして、目的の種類の細胞の並行培養物に投与することにより、用量研究を行う。環境汚染物質の場合、当該組成物は通常、それが環境で見られる濃度でも検査されるであろう。食品に残留分が残る殺虫剤などの農薬の場合、薬剤は通常、残留分が見られる濃度で検査されるであろうが、好ましくは、他の濃度でも検査される可能性もあるであろう。このように、検査化合物の希釈は、別々の試験管内で、DMSOに化合物を50倍又は100倍に希釈した濃度の希釈液を作製することにより、行うことができる。細胞懸濁液を配分する前に、1又は2μlの各希釈液を各ウェルに配分する。
【0116】
化合物をEBに接触させることに関する上記の考慮点は、接触時間等は、該当する場合、例えばES細胞、組織及び非ヒト動物に対して行われる本発明の検定にも当てはまる。
【0117】
本発明の検定系によれば、好ましくは以下のパラメータのうちのいずれか1つ又は全部を分析する:
(i)Na+チャネル;
(ii)Ca2+/K+チャネル;
(iii)K+チャネル;
(iv)振幅及び/又は外界電位の期間(FDP),
(v)心臓細胞の周期変動及びニューロン細胞のバースト期間;
(vi)不整脈、EAD様現象;
(vii)pH値;
(viii)酸素分圧(pO2);
(ix)拍動停止;及び
(x)心房心室分離収縮、NO効果及び/形態上の変化の分析。
【0118】
生体細胞の分析におけるMEAおよびそれらの使用法は当業者に公知である。例えば、国際出願WO97/05922は、局所的分解能有りのリーキング、電気的細胞ポテンシャルのための微小電極の配置や、あるいは、細胞培養物、「in vitro」組織切片、又は「in vivo」の生体組織など、生体細胞のネットワークを電気的に刺激するための微小電極の配置を解説している。複数の微小素子を有し、微小電極として構成して基板上に配置してもよく、液体環境中にある細胞に接触するように適合させた、国際出願WO98/22819に解説されたものなどの微小素子装置を用いてもよい。細胞は微小電極上に案内されるか、絶縁されるか、あるいは微小電極に機械的に誘引される。細胞に負圧又は動圧を印加してもよい。加えて、国際出願WO01/65251に解説されたものなどの電極アレイの使用を、本発明の教示に従って適合させてもよい。多重電極データの解析には、常法で利用可能ないくつかのツールを用いてもよく、例えばEgert et al., ”MEA-tools: An open source toolbox for the analysis of multielectrode data with MATLAB. J. Neuroscience Methods 117 (2002), 33-42, 及び Banach et al., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 284 (2003), H2114-2123)を参照されたい。
【0119】
ある好適な実施態様では、検査試料は、心筋細胞、最も好ましくは、自律的に拍動して、心房及び心室心筋細胞やペースメーカ細胞の電気生理的特性を網羅する機能的心臓組織から成るEB、に分化させた胚様体(EB)を含む。
【0120】
ここで解説した方法及び検定は、多様な動物モデルに取って代わることができ、新規な哺乳動物ベースの検査及び極環境用バイオセンサを形成する。具体的には、本発明の方法は、毒性、変異原性、及び/又は催奇形性に関するin vitro検査でも用いることができる。これはなぜなら、疾患に罹患した人々は中毒を起こし易く、また薬剤、食物、又は、いずれか他の接触した化合物の副作用の影響を受け易いからである。本発明に従って得られる細胞及び組織は、in vivoでの状況に、より似ているため、本発明の毒性検定で得られる結果は、検査された化合物のin vivoでの毒性に相関すると予測できる。
【0121】
本発明のある特に有利な実施態様では、上記の検定を、大変時間がかかり、かつ高価である、化合物の心臓効果の動物検査に代わるシステムとして用いる。この実施貸与言うは、好ましくは国際出願WO2005/005621に解説されたものである、「心臓体」、即ち心筋細胞に分化した胚様体(EB)、に基づく。心臓体は、好ましくは、マウス、ラット又はヒトの胚性幹細胞を由来とするとよい。心臓体は、自律的には駆動して、心房及び心室心筋細胞やペースメーカ細胞の電気生理的特性を網羅する機能的心臓組織から成る。
【0122】
ある特に好適な実施態様では、マウス細胞株R1(Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 90 (1993), 8424-8428、ATCCから登録番号SCRC-1011で入手可能)のES細胞、又は、それに由来する細胞株を本発明の検定で用いる;更に実施例2を参照されたい。
【0123】
ある実施態様では、心臓体を多重電極アレイシステム(MEA、Multichannel systems、ドイツ、ロイツリンゲン)にプレートする。基板に一体化させた60本の電極から成る微小電極アレイによる細胞外外界電位の記録は、例えばBanach et al., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 284 (2003), H2114-2123などに解説された通りに行うことができる。外界電位の細胞外記録は、心臓体内の心筋細胞の励起中の電気生理学的変化を反映する。ある特に好適な実施態様では、ドイツのケルンのAxiogenesis AG社により開発されたAxioToolソフトウェアを用いて自動化分析を行う。
【0124】
ある特に好適な実施態様では、本発明は、
(a)上に定義した通りのin vitro分化心筋細胞を含む検査試料を、検査物質に、罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように前記細胞を誘導する前、誘導中、又は後に、接触させるステップと;
(b)ステップ(a)の心筋細胞中の心筋症パラメータを測定するステップと;
(c)ステップ(b)で得られた測定を、前記物質に暴露していない心筋細胞のそれと比較するステップであって、ステップ(a)の心筋細胞の心筋症パラメータの測定が、心筋肥大症の減少と一致する、ステップと;
を含む、心筋症の改善能について物質をスクリーニングする方法に関する。
【0125】
心筋細胞の特徴付けは、当業者に公知の多様なパラメータにより行うことができる。例えば、当該細胞を数多くの表現型上の基準に従って特徴付けることができる。心筋細胞は、しばしば形態上の特徴を有し、例えばそれらはスピンドル型、円形、三角形又は多角形である場合があり、免疫染色で検出可能なサルコメア構造に特徴的な線条を持つ;更に図2を参照されたい。これらは筋管様の構造を形成する場合があり、電子顕微鏡で調べたときには典型的なサルコメア及び心房顆粒を示す。
【0126】
適した状況下では、幹細胞由来心筋細胞はしばしば、自発的な収縮活動を示す。このことは、適切なCa2+濃度及び電解質バランスのある、適した組織培養環境でこれらを培養した場合には、これらの細胞が、細胞の一方の軸方向に収縮した後、この培地にいかなる付加的な成分を添加しなくとも収縮から解放される様子を観察できることを意味している。収縮は周期的であり、つまりこれらは1分間当り6乃至200回の収縮、そしてしばしば1分間当り20乃至90回の収縮の頻度で規則的又は不規則に繰り返すことを意味する。個々の細胞は自発的な周期的収縮活動を単独で示すこともあるが、あるいはこれらは、自発的な周期的収縮活動を、ある組織、細胞凝集体、又は培養細胞塊内の隣接細胞と協調して示すこともある。
【0127】
細胞の収縮活動は、培養条件が収縮の性質及び頻度に与える影響に従って特徴付けることができる。利用可能なCa2+濃度を減らしたり、あるいは、Ca2+の膜内外輸送に干渉したりするような化合物は、しばしば、収縮活動に影響する。例えばL型カルシウムチャネル遮断剤であるジルチアゼムは用量依存的に収縮活動を阻害する。
【0128】
他方、イソプレナリン及びフェニレフリンのようなアドレナリン受容体アゴニストは、正の周期変動性効果を有する。細胞の機能特性の更なる特徴付けには、Na+、K+、及びCa2+のチャネルの特徴付けを含めることができる。心筋細胞様の活動電位のパッチクランプ分析により電気生理を研究することができる;Igelmund et al., Pfluges Arch. 437 (1999), 669; Wobus et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 27 (1995), 752; 及びDoevendans et al., J. Mol. Cell Cardiol. 32 (2000), 839を参照されたい。
【0129】
心筋症パラメータは、ここで前述したもののいずれであってもよいが、好ましくは、心房性ナトリウム利尿因子遺伝子、ベータ型ナトリウム利尿ペプチド遺伝子、β-ミオシン重鎖遺伝子、α-骨格アクチン遺伝子、c-FOS、c-JUN、c-MYC、初期成長応答遺伝子、ヒートショックタンパク質70、アルファ-ミオシン重鎖、コラーゲンIII、プレプロエンドセリン-1、ミオシン軽鎖2、Na+/H+交換体、心臓アルファ-アクチン、Na+/Ca2+交換体、ホスファチジルイノシトール-3受容体、アンジオテンシン転化酵素、コラーゲンI、コラーゲンXV、筋小胞体Ca-ATPase-2アルファ、β-アドレナリン受容体、プロテインキナーゼC、及びホスホランバンから成る群より選択される遺伝子の発現又は遺伝子産物の活性であるとよい。
【0130】
ある実施態様では、in vitroで心臓肥大疾患の指標を示す培養細胞を本発明の治療薬に接触させ;本治療薬に接触させた細胞の前記指標のレベルを、そのように接触させていない細胞の前記指標のレベルに比較することにより、本治療薬を、心臓肥大症を治療又は防止する上での活性について、検定することができ、この場合、前記接触させた細胞のこのような指標のレベルの変化は、本治療薬が心臓肥大疾患の治療又は防止する上での活性を有することを示すものである。このような心臓肥大指標の具体的な例には、限定はしないが、心筋細胞サイズの増大(Simpson et al., J. Clin. Invest. 72 (1983), 732-738)、一個の収縮タンパク質(MLC-2)の組織化した収縮単位への集合の増加(Iwaki et al., J. Biol. Chem. 265 (1990), 13809-13817)、収縮タンパク質の蓄積(Lee et al., J. Biol. Chem. 263 (1988), 7352-7358)、細胞一個当りのタンパク質含有量の増加(Lai et al., Am. J. Physiol. 271 (1996), H1197-H2208)、[ベータ]-MHC 遺伝子の活性化及び[アルファ]-MHC遺伝子の抑制(Lompre et al., Int. Rev. Cytol. 124 (1991), 137-186)、[アルファ]-骨格イソアクチン遺伝子の一過性の上方調節(Izumo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 339-343); [アルファ]-平滑アクチンアイソフォームの永久的な再活性化(Black et al., J. Clin. Invest. 88 (1991), 1581-1588)、ミオシン軽鎖1及び2の発現増加(Cummins, Biochem. J. 205 (1982), 195-204)、[ベータ]アイソフォームのトロポミオシンの一過性の活性化(Izumo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 339-343)、クレアチンキナーゼ及びM-LDHアイソフォームの乳酸デヒドロゲナーゼの胎児型イソ酵素(BB+MB)の発現増加(Ingwall et al., N. Engl. J. Med. 313 (1985), 1050-1054)、ラットの大動脈狭窄後初期の冠状動脈壁面及び心筋の病巣部分への胎児型細胞内フィブロネクチンの蓄積(Samuel et al., J. Clin. Invest. 88 (1991), 1737-1746)、c-fos、c-myc、c-jun、junB、及びnur 77の一過性の上方調節(Komuro et al., Circ. Res. 62 (1988), 1075-1079; Izumo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988), 339-343; Rockman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991), 8277-8281)、三種類のヒートショックタンパク質(HSP70、HSP68、及びHSP58)の一過性及び早期発現(Delcayre et al, J. Clin. Invest. 82 (1988), 460-468)、形質転換成長因子[ベータ]1(TGF[ベータ]1)、インシュリン様成長因子-I、及び初期成長応答因子1(Egr-1)、血清誘導性ジンクフィンガータンパク質をコードするmRNAの蓄積(Schneider and Parker, Mol. Biol. Med. 8 (1991), 167-183; Chien et al., FASEB J. 5 (1991), 3037-3046)、心房性ナトリウム利尿因子(ANF)の心室内発現(Mercadier and Michael, In Swynghedauw B, ed. Research in Cardiac Hypertrophy and Failure. Paris, INSERM/John Libbey Eurotext (1990), 401-413)、及び遅い骨格/心臓型SERCA2aアイソフォームの筋小胞体Ca ATPaseの発現減少(Komuro et al., J. Clin. Invest. 83 (1989), 1102-1108; Nagai et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989), 2966-2970; De la Bastie et al., Circ. Res. 66 (1990), 554-564; Mercadier et al., J. Clin. Invest. 85 (1990), 305-309)、がある。
【0131】
従来のin vitro検定に比べたときの本発明のスクリーニング検定のこの実施態様の利点には、
•心臓体の高度に標準化された細胞培養モデル、均質かつ再現可能な作製;
•正常な生理学的挙動を持つ心房、心室、及びペースメーカ細胞の存在(例えばイオンチャネルの発現及び調節);
•全てのイオンチャネル、周期変動性及び不整脈の出現に対する効果を含む、心臓体の全ての電気生理的特性のECG様スクリーニング;
•完全にin vitroベースの系であり、面倒な細胞調製を必要としない
•時間及び経費が節約できる
がある。
【0132】
このように、本発明の多様な検定では、化合物、特に心臓活性化合物を、DE 195 25 285 A1; Seiler et al., ALTEX 19 Suppl 1 (2002), 55-63; Takahashi et al., Circulation 107 (2003), 1912-1916及びSchmidt et al., Int. J. Dev. Biol. 45 (2001), 421-429に記載された方法に従って検査することができる;後者は、ES細胞の心臓及び筋原性細胞への濃度依存的な分化を判定することによる、胚毒性物質のスクリーニングを行うための欧州連合評価研究で用いられるES細胞検査(EST)を解説したものである。CNSの細胞及び組織を、上述したような電極アレイを用いて分析してもよい。細胞及び組織培養物のニューロン活性の調節的相互作用を微小電極アレイ上で分析する手段及び方法は当業者に公知である;例えばvan Bergen et al., Brain Res. Brain Res. Protocol 2003/11 (2003), 123-133及び国際出願WO01/65251を参照されたい。同様に、肝臓に関する細胞及び組織を検査することができる;例えばUS2003/0003573を参照されたい。
【0133】
検査に好適な化合物製剤は、全体的製剤に有意な効果を有する保存剤などの付加的な成分を含まないものである;更に上記を参照されたい。このように、好適な調合物は、生物活性化合物と、水、エタノール、DMSO等の生理的に許容可能な担体とから基本的に成るものである。しかしながら、ある化合物が医薬品添加物のない液体である場合、当該の調合物は、基本的に当該化合物自体から成っていてもよい。更に、多様な濃度に対する示差的な応答を得るために異なる化合物濃度で複数の検定を並行して行ってもよい。当業で公知のように、ある化合物の有効濃度の決定には、典型的には、1:10、又は他の対数尺度の希釈から生じる濃度範囲を用いる。この濃度を、必要に応じて第二の連続する希釈で更に微細にしてもよい。典型的には、これらの濃度のうちの1つを負のコントロール、即ち、ゼロ濃度又は検出レベル未満、として役立てる。
【0134】
対象となる化合物は、数多くの化学的クラスを包含するが、典型的にはそれらは有機分子である;更に上記を参照されたい。候補物質は、タンパク質との構造的相互作用に必要な官能基、水素結合を含むものであり、そして典型的には少なくとも1つのアミン、カルボニル、ヒドロキシル又はカルボキシル基を含み、好ましくはこの官能性化学基のうちの少なくとも二つを含むとよい。候補物質は、しばしば、上記の官能基のうちの1つ以上で置換された環式炭素もしくは複素環式構造及び/又は芳香族又はポリ芳香族構造を含むものである。候補物質は、ペプチド、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、これらの誘導体、構造類似体もしくは組み合わせを含む生体分子中にも見られる。
【0135】
化合物及び候補物質は、合成又は天然化合物のライブラリを含む幅広い源から得られる;更に上記を参照されたい。例えば、ランダム化されたオリゴヌクレオチド及びオリゴペプチドの発現を含め、幅広い有機化合物及び生体分子のランダム及び定方向合成に、数多くの手段を利用することができる。代替的には、細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリが入手可能であるか、あるいは容易に作製される。例えば、胚様体と、伝統的な漢方医学で用いられる植物成分による腫瘍球体との対面培養において、腫瘍誘導性の血管新生及びマトリックス-メタロプロティナーゼ発現を阻害する方法が、Wartenberg et al. in Lab. Invest. 83 (2003), 87-98に解説されている。
【0136】
更に、天然又は合成で生じるライブラリ及び化合物は、従来の化学的、物理的及び生化学的手段を通じて容易に修飾され、コンビナトリアルライブラリを作製するために用いられよう。公知の薬理物質に、構造類似体を作製するために、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の定方向又はランダムな化学修飾を行ってもよい。
【0137】
更に、例えばイオン強度、pH、総タンパク質濃度等に影響する成分など、付加的な成分が添加してある流体を含む試料に当該化合物を含めてもよい。加えて、少なくとも部分的に画分又は濃縮を達成するために試料を処理してもよい。例えば窒素下におく、凍結させる、あるいはそれらの組み合わせなど、当該化合物の分解を減らすように留意するのであれば、生物試料を保存してもよい。用いる試料の量は、測定可能な検出が可能な十分なものであり、通常は約0.1μl乃至1mlの生物試料があれば十分である。
【0138】
検査化合物は上述したクラスの分子のすべてを含むが、更に、未知の含有量の試料を含んでいてもよい。多くの試料は化合物の溶液を含むであろうが、適した溶媒に溶解させることのできる固体試料も検定できよう。対象となる試料には、地下水、海水、採掘廃棄物等の環境試料;穀物、組織試料等から調製した生物試料;薬剤の調製時に結果など、製造試料;並びに分析用に調製された化合物のライブラリ;等がある。対象となる試料には、潜在的な治療上の価値について評価しようとする化合物、即ち薬物候補、もある。
【0139】
検査化合物は、付加的には、複数の化合物をスクリーニングするためのコンビナトリアルライブラリであってもよい。このような検査物質のコレクションは、約103乃至約105種の多用性を有する場合があるが、本方法の実施の際には連続的に減らされ、付加的には他のものと2回以上、組み合わされる。本発明の方法で同定された化合物を、更に、溶液中で、あるいは、固体の支持体に結合させた後で、例えばPCR、オリゴマー制限法(Saiki et al., Bio/Technology 3 (1985), 1008-1012、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO) プローブ分析(Conner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80 (1983), 278)、オリゴヌクレオチドライゲーション検定(OLAs) (Landegren et al., Science 241 (1988), 1077)等、特異的DNA配列を検出するために通常、適合されるいずれかの方法により、評価、検出、クローニング、配列決定等をすることができる。DNA解析のための分子技術がレビューされている(Landegren et al., Science 242 (1988), 229-237)。従って、本発明の方法を、in vitro分化細胞の転写プロファイリングに用いることもできる;例えばRamalho-Santos et al., Science 298 (2002), 597-600; Tanaka et al., Genome Res. 12 (2002), 1921-1928を参照されたい。
【0140】
本発明の細胞ベースの検定は、幅広い生物活性化合物に関するモジュレーション基準パターン及びモジュレーション基準パターンのデータベースを提供するために特に向いている。こうして、この基準パターンを、検査化合物の同定及び分類に用いる。検査化合物の評価を、異なる結果を達成するために用いてもよい。
【0141】
細胞内電位に惹起された変化のスペクトル密度シグネイチャーに基づいて生物学的物質を分類する方法が当業者に公知である;例えば米国特許No.6,377,057を参照されたい。このように、生物活性化合物は、膜電位のイオンチャネル変化及びイオン電流に対するそれらの効果や、励起可能な細胞で当該化合物が惹起する活動電位の周波数分に基づいて分類される。このような惹起された膜電位又は活動電位のスペクトル密度変化は、検査化合物により変調される各チャネルタイプに特徴的である。膜電位のスペクトル変化のパターンは、応答性の細胞を化合物に接触させ、膜電位又はイオン電流を経時的に観察することにより、判定される。これらの変化は、応答性細胞のイオンチャネルに対するその化合物の効果、又は、クラスの化合物の効果と相関する。スペクトル変化のこのようなパターンは、当該化合物に固有のシグナチャーとなり、チャネル変調物質の特徴付けの有用な方法を提供するものである。生存細胞のイオンチャネルに対する、そして活動電位に対する、ある化合物の効果は、この化合物の分類及び種類に関する有用な情報を提供する場合がある。このような情報を抽出する方法及び手段は、生物活性化合物の分析にとって特に重要であり、その具体的な用途は、薬学的スクリーニング、薬物発見、環境モニタリング、生物戦争の検出及び分類等にある。全細胞ベースのバイオセンサの例はGross et al., Biosensors and Bioelectronics 10 (1995), 553-567; Hickman et al. Abstracts of Papers American Chemical Society 207 (1994), BTEC 76; 及び Israel et al. American Journal of Physiology: Heart and Circulatory Physiology 27 (1990), H1906-H1917に解説されている。Connolly et al., Biosens. Biores. 5 (1990), 223-234は、培養細胞中の電気活性を観察するために開発された微小電極の平面状のアレイを解説している。この装置は、電極上方の絶縁層に表面トポロジ特徴を取り入れることを可能にするものである。半導体の技術が、金電極の製造や、窒化ケイ素の絶縁層の蒸着及びパターン形成に利用される。これらの電極は、ニワトリ胚の筋細胞の心臓細胞培養物を用いて検査され、この培養細胞の物理的拍動が得られた同時細胞外電圧測定値と相関付けられた。心臓イオンチャネルの分子制御がClapham, Heart Vessels Suppl 12 (1997), 168-169でレビューされている。Oberg and Samuelsson, J. Electrocardiol. 14 (1981), 13942は、心臓活動電位の再分極相に関するフーリエ解析を行う。Rasmussen et al. American Journal of Physiology 259 (1990), H370-H389は、アメリカ食用カエルの心房における電気生理的活動の数学的モデルを解説する。
【0142】
膨大な文献がイオンチャネルの全体的分野に関して存在する。この文献のレビューは、一連の書籍”The Ion Channel Factsbook”, volumes 1-4, by Edward C. Conley and William J. Brammar, Academic Pressに見られよう。概観が、細胞外リガンド依存性イオンチャネル(ISBN: 0121844501)、細胞内リガンド依存性チャネル(ISBN: 012184451X)、内向き整流及び細胞間チャネル(ISBN: 0121844528)、電圧依存性チャネル(ISBN: 0121844536)に関して提供されている。Hille, B. (1992) ”Ionic channnel of Excitable Membranes”, 2.sup.nd Ed. Sunderland MA:Sinauer Associatesは、カリウムチャネルもレビューしている。
【0143】
ある一例では、外部刺激に応答した細胞内の電気生理的変化を、例えば対生物活性物質のハイスループットのスクリーニングとして用いることなどのために測定できるように、細胞に基質を接触させる。更に細胞に、この細胞内で特定の遺伝子又は遺伝子産物を標的とするDNA、発現させるDNA、又はノックアウトするDNAをトランスフェクトすることができる。コンピュータなどの測定装置に接続させたこのようなチップ搭載細胞を提供することにより、数多くの化合物を高速かつ精確にスクリーニングすることができる。該細胞又はチップを、大規模並列スクリーニングのためにアレイになった測定装置に接続することもできよう。
【0144】
本発明の検定法は、従来の研究室用フォーマットの形でも、あるいは、ハイスループット用に適合させることもできる。用語「ハイスループット」(HTS)とは、複数の試料を同時に簡単に分析できるようにし、ロボット操作能を持つような検定デザインを言う。ハイスループット検定の別の望ましいデザインは、試薬の使用量を減らすように最適化された、あるいは、必要な分析を達成するための操作数を抑えた、検定デザインである。
【0145】
別の好適な実施態様では、本発明の方法は、2個、3個、4個、5個、7個、10個又はそれ以上の測定を、付加的にはアレイ内の異なる位置で採取するステップを含む。いくつかの検査物質を配合し、考えられる亢進又は停止効果に関する情報を得るために同時又は順次のいずれかで添加することができる。このように、本発明の更なる局面は、前記接触させるステップが、更に、前記検査試料を少なくとも一つの第二の検査物質に、前記第一検査物質の存在下で接触させるステップを含むような前述の方法に関する。二種類以上の物質を組み合わせて検査すると、一般的なそれらの相互作用に関する情報が得られるであろう。本発明のスクリーニング法のある実施態様では、疾患プロセスを活性化する又は阻害することが既知の化合物を、試料又は細胞培地に添加する。
【0146】
更に、もちろん上記の方法を、上記のスクリーニング法又は当業で公知の他のスクリーニングのいずれかの一つ以上のステップと組み合わせることもできる。臨床用化合物発見の方法は、例えば、リード特定のための超ハイスループットのスクリーニング(Sundberg, Curr. Opin. Biotechnol. 11 (2000), 47.53)、及びリード最適化のための構造ベースの薬物デザイン(Verlinde and Hol, Structure 2 (1994), 577.587)及びコンビナトリアル化学法(Salemme et al., Structure 15 (1997), 319.324)を含む。薬物が選択されたら、当該の方法は、合理的な薬物デザインを行うために用いられた方法を、改変された薬物を用いて反復して、前記改変された薬物が、例えば相互作用/エネルギ分析によるとより良好な親和性を示すかどうかを評価するという更なるステップを含むことができる。本発明の方法を、前記化合物のコレクションの多様性が連続的に減らされるように、一回以上、反復してもよい。
【0147】
物質は、排出か、あるいは、一種以上の活性又は不活性な代謝産物になる代謝のいずれかにより、除去されるために、in vivo投与後に代謝される(Meyer, J. Pharmacokinet. Biopharm. 24 (1996), 449-459)。従って、本発明の方法に従って同定され、得られた実際の化合物又は薬物を用いるのではなく、患者代謝により患者体内でその活性型に転化するプロドラッグとしての対応する調合物を用いることができる。プロドラッグ及び薬物の投与に関して払うべき注意上の方策は文献に解説されている;例えばOzama, J. Toxicol. Sci. 21 (1996), 323-329を参照されたい。
【0148】
更に、本発明は、損傷組織又は異常な組織又は器官の形成、心臓の機能不全等に関する異常の治療用組成物の調製のための、これらの方法のいずれかにより同定された、単離された及び/又は作製された化合物の使用に関する;好ましくは、当該の単離された化合物又は対応する薬物が、心筋症の治療に有用であるとよい。治療法としては、同定された物質又はそれを含有する組成物を、このような異常に罹患した対象に投与することができる。上記の方法により同定された、単離された、及び/又は、作製された化合物を、薬物発見時や、薬物又はプロドラッグの調製時のリード化合物として用いることもできる。これは通常、上述したようなリード化合物又はその誘導体又は単離された化合物を、例えば前記物質を修飾して、毒性を起こすこと、並びに、生物学的利用能、可溶性及び/又は半減期を増すと考えられる部分を変更すること、除去すること及び/又は誘導体化することなどを含む。本方法には、更に、単離された又は修飾された物質を、薬学的に許容可能な担体と混合するステップを含めてもよい。上に挙げた多様なステップは一般に当業で公知である。例えば、これらの技術を実施するためのコンピュータプログラムを利用することができる;例えば,Rein, Computer-Assisted Modeling of Receptor-Ligand Interactions (Alan Liss, New York, 1989)。化学的誘導体及び類似体の調製法は、当業者に公知であり、例えばBeilstein, Handbook of Organic Chemistry, Springer edition New York Inc., 175 Fifth Avenue, New York, N.Y. 10010 U.S.A.及びOrganic Synthesis, Wiley, New York, USAに解説されている。更に、適した誘導体及び類似体のペプチドミメティック及び/又はコンピュータ支援デザインを、例えば上記の方法に従って用いることができる。薬物発見におけるリード作製の方法には、タンパク質の使用や、質量分析法(Cheng et al. J. Am. Chem. Soc. 117 (1995), 8859.8860)及びいくつかの核磁気共鳴(NMR)法(Fejzo et al., Chem. Biol. 6 (1999), 755.769; Lin et al., J. Org. Chem. 62 (1997), 8930.8931)などの検出法も含まれる。それらは、更に、定量構造−作用関係(QSAR)解析(Kubinyi, J. Med. Chem. 41 (1993), 2553-2564, Kubinyi, Pharm. Unserer Zeit 23 (1994), 281-290)コンビナトリアル生化学法、伝統的な化学法及び他のもの(例えばHolzgrabe and Bechtold, Pharm. Acta Helv. 74 (2000), 149-155を参照されたい)を含むか、又はこれらに依拠する場合がある。更に、調合物の担体及び方法の例は、Remington's Pharmaceutical Sciencesに見られよう。
【0149】
ある薬物を、本発明の上記の方法のいずれか一つに従って選択したら、該薬物又はそのプロドラッグを、治療上有効量、合成することができる。ここで用いる場合の用語「治療上有効量」とは、意味のある患者にとっての利益、即ち、損傷した組織の治療、治癒、防止又は改善、あるいは、このような状態の治療、治癒、防止又は改善の速度上昇、を示すのに十分な、薬物又はプロドラッグの総量を意味する。加えて又は代替的に、特に薬物の前臨床検査に関すると、用語「治療上有効量」には、非ヒト動物検査で生理的応答を惹起するのに十分な薬物又はプロドラッグの総量が含まれる。ある実施態様では、本発明の方法は、更に、単離された又は修飾された物質を、薬学的に許容可能な担体と混合するステップを含む。調合物の担体及び方法の例はRemington's Pharmaceutical Sciencesに見られよう。
【0150】
更に本発明は、例えば上述したものなどの本発明の上記の方法のいずれかを行うために有用な特異的試薬を含有し、前述したベクター又はベクターの組成物、多能もしくは多分化能細胞、及び付加的に培地、組換え核酸分子、生理活性物質、標準化合物等を含有するキット組成物にも関する。このようなキットは、典型的には、少なくとも一つの容器を密に規定された区画に保持するのに適した区画化された担体を含むであろう。該担体は、更に、前記方法を行うために有用な試薬を含むであろう。該担体は、更に、標識された酵素基質等の検出手段も含有するかも知れない。例えば書面による指示、ビデオ映像、又は、コンピュータで開くことのできるフォーマット(例えばミニディスク、CD-ROMディスクなど)による指示など、本キットの構成要素の使用を詳述するための指示を提供することもできる。これらの指示には、例えば、目的の検査物質(例えば変力作用性の薬物)をスクリーニングするためにどのように細胞を使用するかなどを示すものである。
【0151】
加えて、本発明は、それぞれここで解説した本発明の方法及び検定で用いるための装置及びアレイに関する。例えば、複数の微小電極を有し、本発明の教示に従って用いる、及び/又は、適合させてもよい細胞電位測定装置がヨーロッパ特許出願EP 0 689 051 A3に解説されている。更に、国際出願WO98/54294は、細胞を観察するための装置及び方法と、細胞の環境に分析物を添加したときの細胞の変化を観察する方法であって、細胞の一部分がその上の微小電極の表面に接着する、細胞培養チャンバに配された微小電極のアレイを含む装置を含む方法を解説している。細胞の直径は、微小電極の直径よりも大きい。電圧シグナルが、微小電極及び基準電極のそれぞれ全体に印加される。この電圧シグナルの印加で生じるシグナルを検出及び観察すると、インピーダンス(細胞膜のキャパシタンス及びコンダクタンスの合計)、活動電位パラメータ、細胞膜キャパシタンス、細胞膜コンダクタンス、及び細胞/基質シール抵抗を含め、個々の細胞の電気的特徴に関する情報が得られる。
【0152】
本発明の教示に従って実施できると思われる更なる手段及び方法は、文献に見ることができ、例えばEgert et al., Brain Res. Brain Res. Protoc. 2 (1998), 229-242; Duport et al., Biosens. Bioelectron. 14 (1999), 369-376及びドイツ特許出願DE 195 29 371 A1を参照されたい。
【0153】
推定上の薬物のスクリーニングのための本発明の検定系の関係で既に論じたように、本発明に従ってなされた観察を、ある疾患の治療における治療的介入のための推定上の標的遺伝子を同定する新規な方法を確立するためにも、応用することができる。従って、更なる局面では、本発明は、ある疾患に関与する遺伝子又は遺伝子産物を薬物ターゲットとして同定する及び/又は得る方法に関し、本方法は、前記表現型の誘導前及び誘導後に、上に定義した通りのin vitro分化細胞の発現プロファイリングを行うステップであって、ある遺伝子又は遺伝子産物の示差的な発現は、潜在的薬物ターゲットの指標である、ステップと、付加的に、この同定された遺伝子又は対応するcDNA又はその断片をクローニングするステップとを含む。前記罹患表現型は、例えば上述した通りの生理活性化合物を添加することにより、誘導することができる。示差的発現を検定する技術は当業者に公知である;更にここで引用された文献も参照されたい。同様に、同定された配列のクローニングは、Sambrook et al.及び他の文献に解説されたものなど、標準的な方法に従って行うことができる;更に上記も参照されたい。
【0154】
このように、本発明のin vitro分化細胞は、ある疾患状態に特徴的な転写産物及び新たに合成されたタンパク質の発現パターンを特定する際にも関心がもたれる。分化細胞の発現パターンを得、疾患表現型を誘導するように処理してある、分化細胞などのコントロール細胞株と比較する。遺伝子発現解析時のマイクロアレイの使用は、概略的に、Fritz et al., Science 288 (2000), 316; Microarray Biochip Technology, www.Gene-Chips.com.にレビューされている。方法の一例は、Genetic Microsystemsアレイ作製器及びAxon GenePix Scannerを用いて行われる。マイクロアレイは、まず分析しようとするマーカ配列をコードするcDNA断片を増幅し、ガラス製スライドに直接スポットすることにより、調製される。関心のある二種の細胞からのmRNAプレパラートを比較するには、一方のプレパラートをCy3-標識されたcDNAに転化させ、他方をCy5で標識されたcDNAに転化させる。この2つのcDNAプレパラートをマイクロアレイスライドに同時にハイブリダイズさせた後、洗浄して非特異的結合をなくす。次にこのスライドを標識の各々に適した波長でスキャンし、その結果の蛍光を定量し、その結果をフォーマットにして、アレイ上の各マーカについてmRNAの相対的豊富度の指標を出す。更に、サブトラクティブハイブリダイゼーション(SSH)を用いることができる。SSH検定及びその使用法は例えば国際出願WO03/093501に解説されている。具体的には、特定の細胞、組織又は生物に固有の核酸配列を同定及び単離する方法が提供されるが、この場合、前記固有の核酸配列を、例えば罹患遺伝子に関連付ける。サブトラクティブハイブリダイゼーションをどのように行うかは、Diatchenko et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93 (1996), 6025-6030; Diatchenko et al., Meth. Enzym. 303 (1999), 349-380;及び国際出願WO96/23079に解説されている。
【0155】
上記から、例えば罹患表現型の誘導中にin vitro分化細胞中の標的遺伝子の発現を誘導し、この標的遺伝子の発現がその疾患の進行を抑制するか、又は亢進するかを観察することなどにより、潜在的薬物ターゲットを評価するように本発明の方法を適合させることができることも明白である。従って、更なる局面では、本発明は、潜在的薬物ターゲットを評価する方法であって、(a)上述した通りのin vitro分化細胞中の標的遺伝子の発現及び/又は前記標的遺伝子産物の活性を、ある罹患細胞、組織又は器官の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように前記細胞を誘導する前、誘導中、又は誘導後に、変化させるステップと;(b)前記細胞の表現型の応答性変化を判定するステップであって、(i)罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、活性化させるべき薬物ターゲットの指標であり、そして(ii)罹患表現型の発現又は進行を亢進させる応答性変化は、前記疾患の治療のために阻害すべき薬物ターゲットの指標である、ステップとを含む。
【0156】
本発明のこの局面は、多因子疾患、例えば複数の遺伝子の変異で決定される疾患、及び/又は、遺伝的素因や環境因子に基づく疾患など、の構成成分の相乗効果を判定するために特に有用である。
【0157】
本発明の更に別の局面は、薬物発見事業を行う方法に関し、本方法は:
・薬物候補を同定するために、ここに解説された通りの一つ以上の検定系又はその成分を提供するステップ;及び/又は
・本発明の検定に従って、効験及び毒性に関して、前記のステップで同定された薬物、又は更にその類似体、の治療上のプロファイリングを行うステップ;及び
・許容可能な治療的プロファイルを有するとして前のステップで同定された一つ以上の約部を含む医薬製剤を調合するステップ、
を含む。上記の方法を用いると、薬物の種類を決定することができる。作用物質は、例えばMEAについて記載されたものなど、ここで前述したものなどの特定のパラメータを変化させる能力により、同定される。同定された、適したリード化合物に関して、当該作用物質又はその類似体の治療上の更なるプロファイリングを、動物での効験及び毒性を評価するために、行うことができる。動物検査後に治療的プロファイルを有する化合物を調合して、ヒトで用いるように、又は、獣医学的使用に向けて、医薬製剤にすることができる。当該の事業法には、販売に向けて当該医薬製剤を流通させる流通システムを確立する付加的なステップを含めることができ、また付加的には、当該医薬製剤を市販する販売グループを確立するステップを含めてもよい。
【0158】
同定された薬物を社内で開発する代わりに、更なる薬物開発を異なる企業で行うこともできる。このように、本発明の更なる局面は、標的発見事業を行う方法に関し、本方法は:
・薬物を同定するために、ここに解説された一つ以上の検定系又はその成分を提供するステップ;
・代替的に又は加えて、本発明の検定に従って、効験及び毒性に関して、薬物の治療上のプロファイリングを行うステップ;及び
・第三者に対し、更なる薬物開発の権利、並びに/若しくは、同定された、又はプロファイリングされた薬物、あるいはその類似体の販売の権利、を許諾するステップ、
を含む。同定された、適したリード化合物については、各第三者との協議の様式によっては、当該作用物質、又はその更なる類似体、のプロファイリングを、動物での効験及び毒性を評価するために、行うことができる。こうして、ヒト又は獣医学用途で用いるような化合物の更なる開発は、第三者によって行われるであろう。当該の事業法は、通常、前記化合物の開発権の販売又は許諾を含むであろうが、薬物開発企業に有料で提供される役務として行われてもよい。
【0159】
本発明は、上述した方法及び検定に従って同定された薬物や、このような薬物を含む、治療用の医薬組成物にも関する。本発明による薬物を、適した希釈剤又は担体、好ましくは薬学的に許容可能なもの、に配合することができる。このような担体、希釈剤や、調合法の例は、Remington's Pharmaceutical Sciencesに見られよう。有効な投与に適した薬学的に許容可能な組成物を形成するためには、このような組成物は、有効量のモジュレータを含有するであろう。担体又は希釈剤は通常、無菌かつ無毒性であり、動物又はヒトへの投与に向けた医薬組成物を調合するために通常用いられる賦形剤として定義される。希釈剤は、組み合わせの生物活性に影響を与えないように選択される。このような希釈剤の例は、蒸留水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、及びハンクス溶液である。加えて、本医薬組成物又は調合物には、他の担体、アジュバント、又は無毒性、非治療的、非免疫原性、の安定化剤等を含めてもよい。治療上有効量とは、標的細胞の分化に対する所望の効果を達成するために十分である量のモジュレータを言う。適した医薬用担体の更なる例は当業で公知であり、その中には、リン酸緩衝生理食塩水、乳濁液、例えば油/水乳濁液、多様な種類の湿潤剤、無菌の溶液等がある。このような担体を含む組成物は、公知の常法により調合することができる。従って、本発明は、本発明の方法に従って同定された、細胞分化のモジュレータを、適した希釈剤又は担体と混合するステップを含む、細胞分化を調節する際に使用する医薬組成物を作製する方法も提供するものである。
【0160】
治療薬の適した濃度は、その特定の物質に依るであろう。治療上有効な用量は、毒性濃度と比較されねばならない;クリアランス速度や代謝産物は、可溶性及び処方と同様に役割を果たす。化合物の治療上の効験及び毒性は、例えばED50(集団の50%で治療上有効な用量)及びLD50(集団の50%にとって致命的な用量)など、細胞培養又は実験動物における標準的な医学的手法により、判定することができる。治療効果と毒性効果との間の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50で表すことができる。
【0161】
ある好適な実施態様では、本発明の治療薬は、心臓肥大症、好ましくは圧負荷心臓肥大症に罹患した又は危険性のある、以前に組織高血圧又は大動脈狭窄事象に罹患した、あるいは心臓肥大症の「リスク因子」の一つ以上(即ち、心臓肥大症の発生率増加に相関付けられた特徴、挙動又は異常)又は心臓肥大症に関連する一つ以上の状態を示す、患者に、治療上投与されるが、好ましくは、予防的に投与されるとよい;Hutter, ”Congestive Heart Failure”, in Scientific American: Medicine, Volume 1(1:II), eds. Dale and Federman (Scientific American, Inc. 1994) and ”Hypertrophic Cardiomyopathy”, in The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, Chapter 27, 519-522, eds. Berkow et al. (Merck Sharp & Dohme Research Laboratories 1987)を参照されたい。心臓肥大症の素因の主たる指標は、胸部痛、失神、動悸、労作性呼吸困難、又は、大動脈狭窄もしくは冠状動脈疾患の症状、あるいは前記の指標のいずれかの組み合わせ、である。胸部痛は通常、労作に関係する典型的な狭心症である。失神は通常、労作性であり、原因とは不整脈、排出路の閉塞、及び心室の拡張期充満の組み合わせが原因である。労作時呼吸困難は左心室の拡張期コンプライアンス不良の結果であり、排出量が増加したときのLVEDPの急速な上昇につながる。動悸は心室又は心房の不整脈により生じる。心不全に罹患した患者は、心臓肥大症を起こす傾向もあるであろう。限定ではなく、例を挙げるが、冠状動脈疾患、心筋症、心筋炎、大動脈狭窄、高血圧、大動脈の縮窄、大動脈弁閉鎖不全、僧坊弁逆流、左右短絡、収縮性心筋症、虚血性心疾患、心膜タンポナーデ、収縮性心膜炎、又は収縮性心筋症は、患者が心臓肥大に罹患する可能性を増大させる場合がある。本発明の治療薬を、心臓肥大症の特定のリスク因子の効果を治療又は改善する薬物と一緒に投与してもよい。ある好適な実施態様では、本発明の治療薬を、例えば、しかし限定はしないが、[ベータ]-アドレナリン受容体遮断剤及びCa-チャネル遮断剤などの一つ以上の抗心臓肥大症薬と一緒に投与するか、あるいは、抗不整脈治療法、抗生物質による予防、又は、中隔筋切開術、筋腫切除術、又は僧坊弁置換術の形の外科的治療と併用する。当業者であれば、心臓肥大疾患を治療又は防止する治療及び予防計画を観察及び調節しつつ、組織性高血圧などの他の潜在的に関連する疾患又は異常を治療又は防止することは、その技術範囲内である。
【0162】
これらの、そして他の実施態様は、本発明の解説及び実施例により開示及び包含される。本発明に従って用いられる材料、方法、用途及び化合物のいずれかに関する文献を、公共の図書館及びデータベースから、電子装置などを用いて検索してもよい。例えば、米国国立保健研究所のナショナルセンターフォーバイオテクノロジーインフォメーション、及び/又は、ナショナルライブラリーオブメディスンが主催する公共のデータベース「Medline」を用いてもよい。例えばヨーロッパモラキュラーバイオロジーラボラトリー(EMBL)の一部であるヨーロピアンバイオインフォーマティクスインスティテュート(EBI)のものなど、更なるデータベース及びウェブアドレスが当業者に公知であり、インターネット検索エンジンを用いても得ることができる。遡及的検索及び現在のアウェアネスに有用なバイオテクノロジーの特許情報の概観や、特許情報の関連原の調査は、Berks, TIBTECH 12 (1994), 352-364に取り上げられている。
【0163】
上記の開示は本発明を概略的に解説するものである。いくつかの書類が、本明細書の本文全体で引用されている。完全な書誌的引用は、請求項直前の明細書末尾に見られよう。(本明細書及びメーカの仕様書、指示等を通じて引用された文献、発行済み特許、公開済み特許出願を含む)全引用文献の内容を、引用をもってここに援用することを明示しておく;しかしながら、引用された文献が本発明にとって実際に従来技術であるとの承諾はない。
【0164】
上記の開示は本発明を概略的に解説するものである。より完全な理解は、描写のみを目的としてここに提供された、本発明の範囲を限定することは意図していない以下の具体的な実施例を参照することにより、得ることができる。
【実施例】
【0165】
以下に続く実施例は、本発明を更に描写するものだが、いずれの態様でも、本発明の範囲を限定するとみなされてはならない。ここで用いられたものなどの常法の詳細な解説は、引用された文献に見ることができる;更に「The Merck Manual of Diagnosis and Therapy」Seventeenth Ed. ed by Beers and Berkow (Merck & Co., Inc. 2003)を参照されたい。
【0166】
本発明の実施にあたっては、そうでないと明示しない限り、当業者の技術範囲内にある細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学の常法を用いることになるであろう。分子遺伝学及び遺伝操作の方法は、現行版のMolecular Cloning: A Laboratory Manual, (Sambrook et al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press); DNA Cloning, Volumes I and II (Glover ed., 1985); Oligonucleotide Synthesis (Gait ed., 1984); Nucleic Acid Hybridization (Hames and Higgins eds. 1984); Transcription And Translation (Hames and Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells (Freshney and Alan, Liss, Inc., 1987); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (Miller and Calos, eds.); Current Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology, 3rd Edition (Ausubel et al., eds.); and Recombinant DNA Methodology (Wu, ed., Academic Press). Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (Miller and Calos, eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155 (Wu et al., eds.); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); the treatise, Methods In Enzymology (Academic Press, Inc., N.Y.); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV Weir and Blackwell, eds., 1986)に概略的に解説されている。本開示で言及された遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、及びキットは、市販の販売業者、例えばBioRad、Stratagene、Invitrogen、及びClontechから入手することができる。細胞培養及び培地収集における一般的技術はLarge Scale Mammalian Cell Culture (Hu et al., Curr. Opin. Biotechnol. 8 (1997), 148); Serum-free Media (Kitano, Biotechnology 17 (1991), 73); Large Scale Mammalian Cell Culture (Curr. Opin. Biotechnol. 2 (1991), 375); and Suspension Culture of Mammalian Cells (Birch et al., Bioprocess Technol. 19 (1990), 251); Extracting information from cDNA arrays, Herzel et al., CHAOS 11 (2001), 98-107に概要が述べられている。
【0167】
実施例1: 胚性幹細胞からの肥大性心筋細胞の作製
現在のところ、げっ歯類心臓から調製される心筋細胞が、分子レベルで肥大性心筋細胞を研究するための標準的なin vitroモデルとして用いられている(Chlopcikova et al., Biomed. Pap. Med. Fac. Univ. Palacky Olomouc Czech. Repub. 145 (2001), 49-55)。これらの細胞は、刺激時にin vivoの肥大性心筋細胞の数多くの特徴を示す(Chien et al., FASEB J. 5 (1991, 3037-3046)。エンドセリン (Shubeita et al., J. Biol. Chem. 265 (1990), 20555-20562; Suzuki et al., FEBS Lett. 268 (1990), 149-151; Ito et al., Circ. Res. 69 (1991), 209-215)、1-アドレナリン作動性アゴニスト (Simpson, Circ. Res. 56 (1985), 884-894; Meidell et al., Am. J. Physiol. 251 (1986), H1076-H1084; Henrich and Simpson, J. Mol. Cell Cardiol. 20 (1988), 1081-1085);及びアンジオテンシン II (Sadoshima and Izumo, Circulation Research 73 (1993), 413-423)を含め、多様な物質をこの系の肥大刺激として用いることができる。更に、機械的刺激がこのモデルで肥大表現型を誘導することができる(Komuro et al., J. Biol. Chem. 265 (1990), 3595-3598; Sadoshima et al., J. Biol. Chem. 267 (1992), 10551-10560)。この細胞培養系で肥大性心筋細胞サイズ増大、タンパク質合成増加、筋小胞体の集合の増加及び胎児性遺伝子プログラムの再発現、例えばANF(心房性ナトリウム利用因子)遺伝子の発現亢進など、により特徴付けられる。胚性幹(ES)細胞由来心筋細胞が刺激時に同様の特徴を示すかどうかを検査するために、以下の実験を行った。緑色蛍光心筋細胞を、国際出願WO99/01552及びWO02/051987の教示に従って以下の方法で作製した。緑色蛍光タンパク質(GFP)及びピューロマイシン耐性の遺伝子を2-ミオシン重鎖プロモータ(WO02/051987を参照されたい)の転写制御下に含有する2シストロン性のベクターをトランスフェクトしたES細胞(株D3、ATCC、CRL1934)を誘導して、LIFの非存在下で凝集体(胚様体、EB)をそれぞれWO99/01552及びWO02/051987の方法か、又はヨーロッパ特許出願03015401.7に従って、形成させた。20%FCS(Invitrogen社、バッチコントロールしたもの)を添加したIMDM(Invitrogen社)で、37℃、5%CO2及び95%の湿度にして10cm細菌用皿(Greiner社)で9日間、EBを培養した。次に、ピューロマイシン(Sigma社、2.5μg/ml)をこの細胞培地に加え、細胞を更に10日間、培養した。次に細胞を24ウェルプレート(Costar社)にいれた不活性化したマウス胚線維芽細胞の層上に移し、ピューロマイシン(IMDM、20%FCS)の非存在下で2日間、培養した。2日後、血清含有培地を無血清培地(Medium199、Invitrogen社)に取り替えた。24時間後、エンドセリン-1(100nM、Sigma社)又はフェニレフリン(200μM、Sigma社)を添加することにより、血清飢餓細胞を24時間、刺激した。
【0168】
図1で示すように、ES細胞由来心筋細胞は、エンドセリン-1又はフェニレフリンによる刺激でサイズが増大する。筋小胞体-アクチニンの免疫染色(クローンEA-53、Sigma社)をすると、これらの刺激が、筋小胞体の組織化の増加につながることが分かる(図2)。このように、ES細胞由来心筋細胞は、これらの刺激に対し、心臓プレパラートから得られるげっ歯類心筋細胞に関して解説したのと同様な方法で反応する(例えばYanazume et al., Mol. Cell Biol. 23 (2003), 3593-3606; Vara et al., J. Biol. Chem. 278 (2003), 21388-21394; Pikkarainen et al., J. Biol. Chem. 278 (2003), 3969-3975; Molkentin et al., Cell 93 (1998), 215-228)。
【0169】
更なる実験では、エンドセリン-1、アンジオテンシンII、又はフェニレフリンによる刺激時の、早期胚遺伝子プログラムの可能な誘導を分析した。この目的のために、ピューロマイシン耐性ES細胞由来心筋細胞を上述したように得た;しかしながら、ピューロマイシン含有培地での最後の9日目の後に、細胞をフィーダ層に移さず、懸濁培養に維持した。Medium 199内で培養による24時間の血清飢餓後、エンドセリン-1、フェニレフリン、又はアンジオテンシンII(Sigma社)の添加により細胞を24時間、刺激した。RNAを抽出し、標準的な方法を用いて逆転写した。ANF及び脳内ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の発現を各cDNAのPCR増幅により分析した。
【0170】
図3は、エンドセリン-1又はフェニレフリンで刺激を受けた細胞が、コントロールに比較したときにANF及びBNP発現の増加を示すことを実証している。アンジオテンシンIIによる刺激では、ANFおよびBNP発現が中程度、増加する。ANF及びBNPの発現増加は、肥大性心筋細胞の証明であり、げっ歯類心臓プレパラートから採ったエンドセリン-1、アンジオテンシンII及びフェニレフリン処理心筋細胞でも観察された(Day et al., Hypertension 9 (1987), 485-491; Saito et al., J. Clin. Invest. 83 (1989), 298-305; Kawakami et al., Clin. Sci. 90 (1996), 197-204; Cameron and Ellmers, Endocrinology 144 (2003), 2191-2194)。
【0171】
要約すると、この項で解説された実験は、ES細胞由来心筋細胞は、エンドセリン-1、アンジオテンシンII、及びフェニレフリンによる刺激に関して、げっ歯類心臓プレパラートから採った心筋細胞と同様な特徴を示すのである。
【0172】
実施例2:構成的に活性なカルシニューリンについてトランスジェニックなマウスES細胞由来心筋細胞におけるANF発現の上方調節
心臓肥大症は、様々な刺激に対する心臓の適合的応答であり、分子レベルで様々な心筋細胞変化が伴う。このプロセスの特徴を分析した研究では、Ca2+が中心的な役割を果たしていることが示されているため、Ca2+恒常性の調節に関与しているタンパク質、又はCa2+により調節されているタンパク質が、肥大性応答において重要な役割を果たすと考えられる(McLennan, Eur. J. Biochem. 267 (2000), 5291-5297; Frey et al., Nat. Med. 6 (2000), 1221-1227にレビュー)。接続するCa2+の変動及び遺伝子調節の変更に関与するタンパク質の一つが、Ca2+-カルモジュリン依存性タンパク質ホスファターゼ-2B、カルシニューリンである(Rao et al., Annu. Rev. Immunol. 15 (1997), 707-747にレビュー)。細胞内のカルシウムが上昇すると、カルシニューリンの活性化が増すが、このカルシニューリンは、その活性化型では、活性化T細胞の核内因子(NFAT)を脱リン酸化することにより、それを活性化する(Okamura et al., Mol. Cell 6 (2000), 539-550; reviewed in Crabtree, J. Biol. Chem. 276 (2001), 2313-2316にレビュー)。カルシニューリンと心臓肥大症との間の直接的な関係が、活性化型のカルシニューリンを発現するトランスジェニックマウスで示されている。これらのマウスは、ヒトの心疾患に似て、心臓肥大症及び心不全を発症する(Molkentin et al., Cell 93 (1998), 215-228)。in vitro研究用に遺伝子改変された心筋細胞は、対応する改変動物から得られるか、あるいは、初代心筋細胞の遺伝子操作により、得られよう。両方の方法とも時間及び費用がかかる。従って、本発明では、トランスジェニックES細胞を直接、由来とし、活性化型カルシニューリンをin vitroで発現する心筋細胞の作製を狙いとした。この目的のために、構成的活性型のカルシニューリンA触媒サブユニット((O’Keefe et al., Nature 357 (1992), 692-694)遺伝子を心筋細胞特異的MHCプロモータの制御下に含有するトランスジェニックES細胞株を作製した。まず、pcDNA3ベクター(Invitrogen社)のNruI-BamHI 部位の間にあるCMVプロモータをMHCプロモータ(Genebank: U71441)に置換することにより、MHC-pcDNA3ベクターを作製した。構成的に活性なカルシニューリンをコードするcDNAを得るために、RNAを成体マウス心臓から抽出し、それぞれTRIzol試薬(Invitrogen社)及びSuperscriptTMII RNaseH-リバーストランスクリプターゼ(Invitrogen社)をメーカのプロトコルに従って用いたcDNA作製法に用いた。aa1-398に相当する、C末端の自己阻害性ドメインを欠いた構成的活性カルシニューリンA触媒性サブユニットをコードする配列(OfKeefe et al., Nature 357 (1992), 692-694)をPCRにより全マウス心臓cDNAから増幅した。増幅に用いられたプライマは、それぞれSpeI部位及びNotI部位を持つ5-GGACTAGTCCAGCCACCATGTCCGAGCCCAAGGC-3’(SEQ ID NO:1)及び5’-ATAAGAATGCGGCCGCTAAACTATTCAGTTTCTGATGACTTCCTTCCGG-3’ SEQ ID NO:2)だった。そのPCR産物をMHC-pcDNA3に、このMHC-pcDNA3ベクターのSpeI及びNotI部位間にクローニングした。その結果できたベクターをHC-Calci*-pcDNA3と呼んだ。構成的活性カルシニューリンをコードする配列を、以下のプライマ(ベクター内の正方向5’-CACCAGAAATGACAGAC-3'、(SEQ ID NO: 3)逆方向5’-AAAGGACAGTGGGAGTG-3’ (SEQ ID NO: 4)、正方向5’-CACTCGCTACCTCTTCT-3’(SEQ ID NO: 5)、逆方向5’-TCGTACTTCAACACTGC-3’、(SEQ ID NO:6)逆方向5’-AAATGTTCCTGAGTCTT-3’ SEQ ID NO: 7))を用いてこのコンストラクトを配列決定することにより確認した。ES細胞からの分化後の心筋細胞の選抜が可能なように、ピューロマイシン耐性遺伝子-IRES-EGFPコンストラクトの発現を調節するMHCプロモータを持つPIGベクター(WO02/051987を参照されたい)を、MHCCalci* pcDNA3ベクターと一緒に同時トランスフェクトした。分化後にピューロマイシンを添加することにより、心筋細胞を選抜し、EGFP発現で特定することができた。MHC-Calci*-pcDNA3及びPIGをそれぞれPvuI及びSacIで直線化し、エレクトロポレーションによりR1 ES細胞に同時トランスフェクトした(Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 90 (1993), 8424-8428)。負のコントロールとして、PIGコンストラクトのみを持つ第二のR1 ES細胞株を作製した。トランスフェクト後の細胞をネオマイシン耐性で選抜した。MHC-Calci*-pcDNA3及びPIGベクターの両方を同時トランスフェクトした場合、両方のコンストラクトを持つクローンを特定するためのPCRスクリーニングを、以下のプライマ:正方向5’-CCTCACCCCCTGGCTTGT-3’(SEQ ID NO:8)及び逆方向5’-TTCCAGCCTGCCCTCCTT-3’(SEQ ID NO:9)を用い、MHC-Calci*-pcDNA3についてアニーリング温度を57℃にして行うと676bpの産物が得られ;正方向5’-CAAGGACGACGGCAACTAC-3’(SEQ ID NO:10)及び逆方向5’-CGCTTCTCGTTGGGGTCT-3’(SEQ ID NO:11)、PIGコンストラクトの検出のためにアニーリング温度を57℃にして行うと、345bpの断片が得られた。
【0173】
MHC-Calci*-pcDNA3及びPIGベクターの両方を持つ細胞の分化を、以下の通りに行わせた:15%のFCS(Invitrogen社)を加えた1,5 x 106未分化ES細胞/mlイスコーブ培地(Invitrogen社)を細菌用皿(Greiner社)で震盪(50rpm、37℃、5%CO2)させながら培養し、6時間後に、この培養物を1:10に希釈し、更に12時間、培養して、胚様体(EB)の形成を誘導した。次に、このEBを、15%のFCSで更に希釈して濃度250EB/30mlイスコーブ培地にし、更にこれらの条件下で、分化9日目まで培養した。RT-PCRを、構成的活性カルシニューリン転写産物を発現するクローンを特定するために、以下のプライマ:正方向5’-CTGCTCCGACGATGAACT-3’(SEQ ID NO: 12)及び逆方向5’-AAAGGACAGTGGGAGTGG-3’(SEQ ID NO: 13)、アニーリング温度57℃で、産物サイズは258bpとなった。構成的活性カルシニューリン転写産物を発現しているクローンを、更なる分析に向けて選抜した。構成的活性カルシニューリン転写産物を発現しているMHC-Calci*-PIGクローンと、コントロールクローン(PIGベクターのみを持つ)を、実施例1で解説した通りに分化させた。分化9日目にEGFP発現に基づく蛍光顕微鏡検査により、心筋細胞を特定できたが、心筋細胞のこの選抜を、2mg/mlのピューロマイシンを培地に添加することにより、開始した。選抜を4日間、続けた後、15%のFCSを加えたイスコーブ培地で更に5日間、ピューロマイシンの非存在下で培養を行った。分化18日目に、細胞をFCSのない培地199(Invitrogen社)で枯渇させるか、又はコントロールとして、15%のFCSを加えたイスコーブ培地で更に48時間、培養した。RNeasyミニキット(Qiagen社)を用いてRNAを調製し、RT-PCR分析を行った。ANF RT-PCRに用いられたプライマは、正方向5’-CTCCTTCTCCATCACCCTG-3’(SEQ ID NO:14)及び逆方向5’-TTTCCTCCTTGGCTGTTATC-3’(SEQ ID NO:15)であり、アニーリング温度を56℃でPCRを行うと、468bpの産物が得られた。投入されるRNA及びcDNA合成を調節するために、gapdh cDNAを以下のプライマ:正方向5’-GTGTTCCTACCCCCAATGTG-3’(SEQ ID NO:16)及び逆方向5’-CTTGCTCAGTGTCCTTGCTG-3’(SEQ ID NO:17)、アニーリング温度60℃を用いて増幅すると、349bpのPCR産物が得られた。肥大表現型の指標として、ANF RNAレベルの増加が、RT-PCR分析により、コントロールクローンに比較して、構成的活性型のカルシニューリンを発現しているクローンで示されるであろう(図4)。心筋細胞でのANF発現増加は心筋細胞肥大の証拠であり、構成的活性カルシニューリンの発現時に起きたことがin vivoのトランスジェニックマウス(Molkentin et al., 1998)やin vitroの初代ラット心筋細胞(De Windt et al., 2000)で報告されている。このように、構成的活性カルシニューリンについてトランスジェニックなES細胞をin vitroで由来とする心筋細胞は、既述した、従来の心筋細胞肥大実験系と同様な特徴を示す。
【0174】
実施例3: 肥大した心筋細胞に対する化合物の効果
実施例1で解説したようにES細胞から得られた肥大した心筋細胞が、薬物スクリーニング目的の適したツールとなるかどうかを検査するために、これらの細胞を、肥大性成長に影響することが既知の化合物で処理した。ピューロマイシン耐性ES細胞由来心筋細胞を、実施例1で解説した通りに得、懸濁培養に維持した。この細胞を24時間、培地199(Invitrogen社)で培養した後、100nMのエンドセリン-1(ET-1)または100μMのフェニレフリン(PE)と、多様な検査物質(表1)で24時間、処理することで、肥大表現型を誘導した。その後、RNeasyミニキット(Qiagen社)を用いてRNAを抽出し、次にRT-PCRを行って、肥大した心筋細胞で上方調節されている2つの遺伝子であるANF及びBNPの発現を分析した(上記を参照されたい)。cDNAを合成し、ANF及びBNP cDNAsをPCR(24PCRサイクル)で増幅した。ANF増幅に用いたプライマを実施例2で示した通りであり、そしてBNP増幅用のプライマは、正方向5’-CAGCTCTTGAAGGACCAAGG-3’(SEQ ID NO:20)及び逆方向5’-AGACCCAGGCAGAGTCAGAA-3’(SEQ ID NO:21)であり、アニーリング温度56℃でPCRを行うと、242bpの産物が得られた。gapdh cDNAを増幅して、実施例2で解説したように投入されたRNA及びcDNA合成を調節した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動法で分離し、バンドの輝度BioDocAnalyzeシステム(Biometra社)を用いて分析した。
【0175】
それぞれET-1又はPEと、検査化合物(表1)とで処理してある試料中のANF及びBNPの発現レベルを、それぞれET-1又はPEで刺激してあるが、検査化合物では処理していない試料中の二つの遺伝子の発現レベル(これらの発現レベルを100%に設定した)と比較して判定した。
【0176】
プラゾシンはアルファ(1)-アドレナリン作動性アンタゴニストである。それは、アルファ(1)-アドレナリン作動性刺激に応答した肥大性応答を遮断することが、ラット新生児心筋細胞(Barron et al., Biochem J. 371 (PT 1) (2003), 71-79)及び成体ラット心室筋細胞(Xiao et al., J. Mol. Cell. Cardiol. 33 (2001), 779-787)で示されており、そしてハムスターモデルでは心筋症の表現型発現を防ぐことが示されている(Sole and Liew, Am. J. Cardiol. 62 (1988), 20G-24G)。ET-1での心筋細胞処理によって肥大症を誘導する(ANF誘導で測定される)と、プラゾシンは何の効果も有さなかった(Barron et al., Biochem. J. 371 (PT 1) (2003), 71-79)。これらの結果は、表1でプラゾシンについて示されたデータと一致し、ES細胞由来心筋細胞のPE処理時のANF及びBNP誘導の阻害があったこと、そして心筋細胞をET-1で刺激したときのANF及びBNPの誘導の阻害がなかったことを実証している。
【0177】
BQ-123及びBQ-788は、それぞれエンドセリン受容体A(ETA)及びB(ETB)の選択的遮断剤である。予想通り、これらはET-1刺激時のANF及びBNP誘導を阻害したが、PE刺激時では阻害しなかった(表1)。
【0178】
ニフェジピン及びベラパミルはCa2+チャネルアンタゴニストであり、ヒトにおいて、他の疾患の中でもとりわけ高血圧及び肥大性心筋症の治療に用いられてきた。心筋細胞をET-1で刺激した場合、両方の化合物ともBNPの上方調節を阻害したが、ANPの上方調節は阻害しなかった。PE刺激時では、ANF及びBNPの上方調節はニフェジピンでもベラパミルでも阻害された(表1)。このことは多様な報告と適合する(Sole and Liew, Am. J. Cardiol. 62 (1988), 20G-24G; Pignier et al., Receptors チャネル. 7 (2000), 173-187; Lubic et al., J. Mol. Cell. Cardiol. 27 (1995), 917-925)。
【0179】
カルシウム/カルモジュリン依存的タンパク質ホスファターゼであるカルシニューリンは、心臓肥大症の重要な媒介物質として関与が示唆されてきた(Wilkins and Molkentin, Biochem. Biophys. Res. Commun. 322 (2004), 1178-1191)。カルシニューリンは、転写因子NFAT、MEF2、及びNF-カッパBや、アポトーシス因子Badを含む数多くの下流の標的の活性を調節する(Pu et al., Circ. Res. 92 (2003), 725-731)。シクロスポリンAはカルシニューリンの阻害剤であり、培養心筋細胞及びトランスジェニック動物モデルで心臓肥大症を防ぐことができる(Zhang, Cardiovasc. Res. 53 (2002), 294-303)。ES細胞由来心筋細胞においては、シクロスポリンAは、ET-1やPEで心筋細胞を処理したときのANF及びBNP発現の上方調節を阻害する(表1)。
【0180】
プロテインキナーゼC阻害剤であるスタウロスポリンは、ET-1(Wu et al., Sheng Li Xue Bao. 150 (1998), 87-93)及びPE(Gaughan et al., Am. J. Physiol. 275 (1998), H577-H590)により誘導される、培養新生児ラット心筋細胞での心筋細胞肥大性応答を遮断することが示されている。これらの発見では、スタウロスポリンは、ET-1またはPEで刺激を受けたES細胞由来心筋細胞のANF及びBNP発現上方調節を阻害した(表1)。
【0181】
要約すると、表1で挙げたデータは、検査された化合物が、心疾患を持つ実験動物に関して、あるいは、ex vivoの単離された肥大性心筋細胞に関する公開されたデータと一致する態様で、ES細胞由来心筋細胞で誘導される肥大表現型に干渉することを実証している。従って、肥大表現型を得るようにin vitroで誘導されるこれらのES細胞由来心筋細胞は、心疾患における心筋細胞の病的肥大を改善する薬物を狙いとする薬物発見系で用いるのに適している。
【0182】
【表1】

表1: ES細胞由来心筋細胞の肥大症への化合物による干渉
【0183】
ES細胞由来心筋細胞を、100nMエンドセリン-1(ET-1)又は100μMのフェニレフリン(PE)のいずれかで、示した化合物の存在下で刺激した。24時間後、ANF及びBNP mRNAの発現をRT-PCRで分析した。ANF及びBNPの発現レベルを、ET-1又はPEで刺激したが、検査化合物では処理されていないコントロール試料中のこの2つの遺伝子の発現レベルと比較して、判定した(これらの発現レベルを100%と設定した)。
【0184】
本解説に提供した組成物及び手法は、以下に続く請求項に実施例を挙げた本発明の範囲から逸脱することなく、当業者には効果的に改良できるものであることは認識されよう。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】

【図2C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)in vitro分化細胞を含む検査試料を、スクリーニング対象の検査物質と接触させるステップであって、前記細胞が、ある罹患細胞、組織又は器官の細胞の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように誘導される、ステップと;
(b)前記検査試料の表現型の応答性変化を判定するステップであって、
(i)前記罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、有用な薬物の指標であり、そして、
(ii)前記罹患表現型の発現又は進行を亢進する応答性変化は、前記化合物の毒性の指標である、
ステップと、
を含む、
ある疾患の改善又は治療のための薬物を同定する及び/又は得るための、あるいは、ある化合物の毒性を判定するための、方法。
【請求項2】
前記in vitro分化細胞が多分化能細胞を由来とし、好ましくは前記多分化能細胞がマウス又はラットを由来とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記in vitro分化細胞が、細胞種特異的調節配列に作動的に連鎖した選択マーカと、細胞種特異的調節配列に作動的に連鎖したレポータ遺伝子とを含み、好ましくは前記選択マーカがピューロマイシンに耐性をもたらすものであり、及び/又は、前記レポータが、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の種々のカラーバージョンから選択され、好ましくは前記レポータ遺伝子の前記細胞種特異的調節配列が、前記マーカ遺伝子の前記細胞種特異的調節配列と実質的に同じである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記in vitro分化細胞が心筋細胞であり、好ましくは前記細胞種特異的調節配列が心房及び/又は心室特異的であり、好ましくは前記プロモータが、α-MHC、MLC2v、MLC1a、MLC2a及びβMHCから成る群より選択される心臓特異的調節配列であり、及び/又は好ましくは前記疾患が心疾患、好ましくは心不全又は心筋症である、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記in vitro分化細胞が胚様体(EB)中に存在する、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記表現型が、細胞のサイズ、細胞の形状、タンパク質合成、アクチン/ミオシンフィラメントの組織化、心筋症の細胞に特徴的な遺伝子発現パターンの活性化、及び/又は、初期胚発生で発現する遺伝子の活性化、から成る群より選択されるパラメータを含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記表現型が、生理活性化合物の存在下で前記in vitro分化細胞を培養することにより誘導され、好ましくは前記化合物が、肥大アゴニストであり、好ましくは該肥大アゴニストが、エンドセリン-1、アンジオテンシンII、又はα1-アドレナリン作動性アゴニストから成る群より選択され、好ましくは該α1-アドレナリン作動性アゴニストがフェニレフリンである、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記in vitro分化細胞が、前記表現型を示すように、及び/又は潜在的薬物ターゲットをコードする遺伝子を発現又は抑制するように遺伝子操作されている、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
電極アレイを通じて電気活性、及び付加的に更なるパラメータを測定するステップを含み、好ましくは以下のパラメータ:
(i)Na+チャネル;
(ii)Ca2+/K+チャネル;
(iii)K+チャネル;
(iv)振幅及び/又は外界電位の期間 (FDP);
(v)心臓細胞の周期変動及びニューロン細胞のバースト期間;
(vi)不整脈、EAD様現象;
(vii)pH値;
(viii)酸素分圧(pO2);
(ix)拍動停止;及び
(x)心房心室分離収縮、NO効果及び/形態上の変化の分析、
のうちのいずれか一つ又は全部が分析される、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記接触させるステップが、前記検査試料を、前記第一の検査物質の存在下で少なくとも一つの第二の検査物質に接触させるステップを更に含み、及び/又は分化プロセス及び/又は組織構造形成を活性化又は阻害することが既知の化合物が培養液に添加される、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の方法のステップを含む、薬物の毒性及び/又は治療的プロファイリングの方法であって、
(a)in vitroでスクリーニングのための検査物質により識別された細胞であって、該細胞は、羅患した細胞、組織又は器官の細胞の表現型に実質的に相当する、所定の罹患表現型を示すように誘導される細胞、を含む試験試料を接触させるステップと、
(b)前記試料の前記表現型への応答性変化を判定するステップであって、
(i)前記罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、有効な薬物のための指標であり、
(ii)前記罹患表現型の発現又は進行を亢進させる応答性変化は、指標である、
ステップと、
(c)ステップ(b)で得られたプロファイルに関する情報を第三者に提供するステップと、
を含む、
方法。
【請求項12】
多分化能細胞、in vitro分化細胞、及び付加的に培養液、組換え核酸分子、及び/又は標準化合物を含有する、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法を行うために有用なキット又は組成物の使用。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかに記載の方法において、前記表現型のパラメータを分析するための装置の使用。
【請求項14】
ターゲット評価、薬物発見又は薬物動態学的もしくは薬理学的プロファイリングにおける、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法に従って、所定の罹患表現型を示すように誘導されるin vitro分化細胞の使用。
【請求項15】
ある疾患に関与する遺伝子又は遺伝子産物を、薬物ターゲットとして同定する及び/又は得る方法であって、前記表現型の誘導前及び誘導後に、請求項1乃至10のいずれかに定義した通りに、in vitro分化細胞の発現プロファイリングを行うステップであって、ある遺伝子又は遺伝子産物の示差的な発現は、潜在的な薬物ターゲットの指標である、ステップと、付加的に、同定された遺伝子又はその対応するcDNA又は断片をクローニングするステップと、を含む、方法。
【請求項16】
(a)請求項1乃至10のいずれかに定義された通りに、in vitro分化細胞中の標的遺伝子の発現及び/又は前記標的遺伝子産物の活性を、ある罹患細胞、組織又は器官の細胞の表現型に実質的に相当する所定の罹患表現型を示すように前記細胞を誘導する前、誘導中、又は誘導後に、変化させるステップと;
(b)前記細胞の表現型の応答性変化を判定するステップであって、
(i)前記罹患表現型の発現又は進行を妨げる又は遅らせる応答性変化は、活性化させるべき薬物ターゲットの指標であり;そして
(ii)前記罹患表現型の発現又は進行を亢進させる応答性変化は、前記疾患の治療のために阻害すべき薬物ターゲットの指標である、
ステップと、を含む、
潜在的薬物ターゲットを評価する方法。

【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−10701(P2012−10701A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157310(P2011−157310)
【出願日】平成23年7月18日(2011.7.18)
【分割の表示】特願2007−512085(P2007−512085)の分割
【原出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(505460260)
【氏名又は名称原語表記】AXIOGENESIS AG
【住所又は居所原語表記】Nattermannallee 1,Gebaude S20,50829 Koln,Germany
【Fターム(参考)】