説明

mRNA結合プローブを用いる生存細胞の選択および単離

【課題】少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成すること。
【解決手段】本発明は、生細胞におけるmRNA並びにその他のRNAの、信頼度の高い、効率的な検出法と、所望の特性に応じて細胞を特定し、要すれば細胞を分離するための用法に向けられる。この方法は、従来の処理過程を格段に簡単化し、その実行に必要な時間を短縮し、かつ、新規の研究法、例えば、ある特定のタンパク またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを生成する細胞の選択、複数タンパクを発現する細胞系統の生成、一つ以上のタンパクをノックアウトされた細胞系統の生成等の新規研究法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、1999年11月23日出願の仮出願第60/166,987号に対する優先権を主張する。なお、この出願の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0002】
発明の背景
分子ビーコンは、ある特定の核酸配列の存在を認識し伝える核酸プローブである。このプローブは、標的配列に相補的なヌクレオチドの中央直線部と、短い相互に相補的な配列を含む末端部を備えるヘアピン型配列である。一方の末端はフルオロフォアに共有的に結合し、他方の末端は消光基に共有的に結合する。ハイブ リダイズした末端を有する天然の状態である場合には、フルオロフォアと消光分子の近接性は、蛍光が全く発せられない程度のものとなっている。このビーコンは、標的核酸にハイブリダイズした場合に、自然に蛍光発光性の立体構造変化を受ける。例えば、米国特許第5,925,517号を参照されたい。
【0003】
この性質により、研究者達は、主にインビトロ反応において、ある場合には生細胞においても特定の核酸を検出することが可能になった。リポソーム中の生細胞に輸送された分子ビーコンを用いて、メッセンジャーRNAの生体内視覚化が実現された(Matsuo,1998、 Biochem.Biophys.Acta 1379:178−184)。これまでのところ細胞を扱う研究は、極めて弱いフルオロフォアEDANSによって発生されるビーコンを用いていた。なぜなら、この分子が、消光分子EDACによって消光されるものとして知られている唯一のものだったからである。その 結果は、識別はつくもののかろうじてできるという体のもので、この方向の研究をインビボ検出へ応用することは有望ではなかった。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1)
少なくとも一つのRNAを発現する細胞を単離する方法であって、
a)前記少なくとも一つのRNAをコードするDNAを細胞中に導入する工程;
b)前記細胞を、前記少なくとも一つのRNAにハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および、
c)蛍光を発する前記細胞を単離する工程
を含む方法。
(項目2)
二つ以上のRNAの少なくとも一つを発現する細胞を単離する方法であって、
a)第1RNAをコードする第1DNAを細胞中に導入する工程;
b)少なくとも一つの第2RNAをコードする第2DNAを前記細胞に導入する工程;
c)前記細胞を、前記第1RNAにハイブリダイズすると蛍光を発する第1分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第1RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;
d)前記細胞を、前記少なくとも第2RNAにハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第2分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第2RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および、
e)前記分子ビーコンの少なくとも一つが、その対応RNAにハイブリダイズした際に蛍光を示す細胞を単離する工程、
を含む方法。
(項目3)
少なくとも一つのRNAを発現する細胞を単離する方法であって、
a)前記少なくとも一つのRNAおよび少なくとも一つのタグ配列をコードするDNAを細胞中に導入する工程;
b)前記細胞を、前記タグ配列のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および、
c)蛍光を発する前記細胞を単離する工程
を含む方法。
(項目4)
二つ以上のRNAの少なくとも一つを発現する細胞を単離する方法であって、
a)第1RNAおよび少なくとも一つの第1タグ配列をコードする第1DNAを細胞中に導入する工程;
b)少なくとも一つの第2RNAおよび少なくとも一つの第2タグ配列をコードする第2DNAを前記細胞に導入する工程;
c)前記細胞を、第1タグ配列にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第1分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第1タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;
d)前記細胞を、第2タグ配列にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第2分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、前記第2タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および、
e)前記分子ビーコンの少なくとも一つが、前記タグ配列の対応RNA転写物にハイブリダイズした際に蛍光を示す細胞を単離する工程、
を含む方法。
(項目5)
少なくとも一つのRNAを過剰発現する細胞を単離する方法であって、
a)前記少なくとも一つのRNAと少なくとも一つの第1タグ配列とをコードする少なくとも一つの第1DNA、および、前記少なくとも一つのRNAと少なくとも一つの第2タグ配列とをコードする少なくとも一つの第2DNAを細胞中に導入し、前記第1タグ配列は前記第2タグ配列とは異なるものとする工程;
b)前記細胞を、前記少なくとも第1タグ配列のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第1分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第1タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;
c)前記細胞を、前記少なくとも第2タグ配列のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第2分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第2タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および
d)前記分子ビーコンの少なくとも一つが、前記タグ配列の対応RNA転写物にハイブリダイズした際に蛍光を示す細胞を単離する工程、
を含む方法。
(項目6)
少なくとも一つの第1タンパク質を過剰発現するが、少なくとも一つの第2タンパク質については機能的ゼロ発現またはその発現が低下している細胞を単離する方法であって、
a)前記少なくとも一つの第1タンパク質をコードする少なくとも一つのRNAと、少なくとも一つの第1タグ配列とをコードする少なくとも一つの第1DNA、および、前記少なくとも一つのRNAと、少なくとも一つの第2タグ配列とをコードする少なくとも一つの第2DNAを細胞中に導入し、前記第1お よび第2タグ配列とは異なるものとする工程;
b)前記少なくとも第2タンパク質のmRNA転写物に結合する少なくとも一つのアンチセンスRNAをコードする少なくとも一つの第3DNAを細胞中に導入する工程;
c)前記細胞を、前記少なくとも第1タグ配列のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第1分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第1タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;
d)前記細胞を、前記少なくとも第2タグ配列のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第2分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第2タグ配列のRNA転写物に対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;
e)前記細胞を、前記少なくとも一つのアンチセンスRNAにハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第3分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、アンチセンスRNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および、
f)前記分子ビーコンが、それぞれのRNAにハイブリダイズした際に発する蛍光を発する細胞を単離する工程、
を含む方法。
(項目7)
少なくとも一つの第1RNAを発現する細胞を単離する方法であって、
a)前記少なくとも第1RNAを発現する能力を有する細胞を供給する工程;
b)前記細胞を、前記少なくとも第1RNAにハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第1分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第1RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;
c)蛍光を発する前記細胞を単離する工程、
を含む方法。
(項目8)
前記細胞はさらに少なくとも一つの第2RNAを発現する能力を有しており、
a)前記細胞を、前記少なくとも第2RNAにハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの第2分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第2RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含むものとする工程;および、
b)前記分子ビーコンが、前記第2RNAにハイブリダイズした際に蛍光を示す細胞を単離する工程、
をさらに含むことを特徴とする、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記タンパク質は、細胞表面局在タンパク質および細胞内タンパク質からなる群から選ばれることを特徴とする、項目7に記載の方法。
(項目10)
前記第2タグ配列は、第1タグ配列と同じか、または、異なることを特徴とする、項目2または4に記載の方法。
(項目11)
前記第2分子ビーコンは、第1分子ビーコンのものと同じか、または、異なる蛍光物質を有する、項目2、4、5および8のいずれか1項に記載の方法。
(項目12)
前記第1、第2および第3の分子ビーコンが、同じか、別々の蛍光物質、または、それらの組み合わせを有する、項目6に記載の方法。
(項目13)
前記第1RNAの前記工程が、前記第2RNAの対応工程と同時に、継時的に、またはその両方のいずれかで実行される、項目2、4および8のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
前記第1タグ配列および第2タグ配列の前記工程が、同時に、継時的に、またはその両方のいずれかで実行される、項目5に記載の方法。
(項目15)
前記第1タグ配列、第2タグ配列およびアンチセンスRNAの前記工程が、同時に、継時的に、またはその両方のいずれかで実行される、項目6に記載の方法。
(項目16)
前記第1DNAおよび前記第2DNAが、同じ構築体、または、異なる構築体上に存在する、項目2,4および5のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
前記第1DNA、第2DNAおよび第3DNAが、同じ構築体、異なる構築体、またはそれらの組み合わせの上に存在する、項目6に記載の方法。
(項目18)
前記二つ以上のRNAが同じか、または異なる、項目2または4に記載の方法。
(項目19)
蛍光を発する前記細胞を単離する工程が、蛍光活性化細胞ソーター技術または蛍光顕微鏡法によって実行される、項目1から8のいずれか1項に記載の方法。
(項目20)
前記RNAはアンチセンスRNAである、項目1から8のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
前 記単離された細胞は、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質の発現が機能的にゼロであるか、または発現が低下しており、前記アンチセンスRNAは、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質の、事実上全てのmRNA,またはその転写物の実質的部分に結合する、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記DNAは、条件付プロモーターに作動可能に結合される、項目1から6のいずれか1項に記載の方法。
(項目23)
前記プロモーターは誘導可能であり、前記細胞を分子ビーコンに曝露する前にインデューサーが適用される、項目22に記載の方法。
(項目24)
工程a)の後に、ただし、前記細胞を前記分子ビーコンに曝露する前に細胞を選択する工程をさらに含む、項目1から6のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
前記少なくとも一つのDNAは少なくとも一つの薬剤耐性マーカーをさらにコードし、前記方法は、前記マーカーによって耐性を付与されて、少なくとも一つの薬剤に対して耐性を持つようになった細胞を選択する工程をさらに含む、項目1から6のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
項 目1から6のいずれか1項によるRNAを発現するトランスジェニック動物を作製する方法であって、項目1から6のいずれか1項による工程を実行すること、胚幹細胞を利用すること、前記幹細胞の生存率を決定すること、および、前記生存胚幹細胞を用いて、前記トランスジェニック動物を生産することを含む方法。
(項目27)
前 記RNAはアンチセンスRNAであり、前記トランスジェニック動物は、アンチセンスRNAが、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質のmRNA転写物の、事実上全て、またはその実質的部分に結合することによって、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質の発現が機能的にゼロであ るか、または発現が低下する、項目26に記載の方法。
(項目28)
生物学的サンプルにおける少なくとも一つの第1RNA発現のレベルを定量するための方法であって、
a)前記生物学的サンプルを、前記第1RNAとハイブリダイズすると蛍光を発する第1分子ビーコンに曝露し、前記分子ビーコンは、第1RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的な配列とを含むものとする工程;
b)前記生物学的サンプルにおける蛍光レベルを定量する工程;および、
c)前記蛍光レベルを、前記少なくとも第1RNAの前記レベルと相関させる工程、
を含む方法。
(項目29)
前記生物学的サンプルは、細胞サンプルおよび組織サンプルからなる群から選ばれる、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記生物学的サンプルは固定されている、項目28に記載の方法。
(項目31)
前記蛍光は、蛍光顕微鏡法または蛍光活性化細胞ソーター技術によって定量される、項目28に記載の方法。
(項目32)
少 なくとも一つの第2RNAの発現のレベルが、前記生物学的サンプルにおいて、前記第2RNAにハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンによって定量され、前記第2分子ビーコンは、第2RNAに対して相補的なヌクレオチドと、互いに相補的なヌクレオチドとを含む、項目28に記載の方法。
(項目33)
前記第2RNAの前記工程が、前記少なくとも第1RNAの対応工程と同時に、継時的に、またはその両方のいずれかで実行される、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記第2分子ビーコンが、第1分子ビーコンのものと同じか、または、異なる蛍光物質を有する、項目32に記載の方法。
(項目35)
前記細胞サンプルは細胞である、項目28または32に記載の方法。
(項目36)
前記少なくとも第1RNAまたは第2RNAまたはその両方の発現レベルに基づいて、前記細胞を単離する工程をさらに含む、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記細胞は、蛍光活性化細胞ソーター技術または蛍光顕微鏡法を用いて単離される、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記細胞を育成する工程をさらに含む、項目1から8および36のいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
一つの細胞系統、または、複数の細胞系統が生成される、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記RNAは、タンパク質をコードするRNA、構造的RNA、アンチセンスRNA、ペプチドをコードするRNA、リボソームRNA、hnRNAおよびsnRNAの一つ以上である、項目1から8および28から32のいずれか1項に記載の方法。
(項目41)
タンパク質分解活性を生成する単一ハイブリダイゼーションプローブであって、
標的配列に対して相補的な1本鎖標的相補配列;
標的相補配列を両側挟持する、一対のオリゴヌクレオチドアームであって、5‘末端に共有的に結合する5’アーム配列と、3‘末端に共有的に結合する3’アーム配列とから成り、ステム2本鎖を形成する前記一対のオリゴヌクレオチドアーム;
タンパク質分解酵素と前記タンパク質分解酵素の阻害剤とを含む相互作用ペアであって、各ペアの一方のメンバーは5‘アーム配列にコンジュゲートされ、他方のメンバーは3’アーム配列にコンジュゲートされ、前記阻害剤は、前記タンパク質分解酵素と相互作用を持つと、前記タンパク質分解酵素のタンパク質分解活 性を少なくとも部分的に不活性化することが可能である相互作用ペア、
を含むハイブリダイゼーションプローブ。
(項目42)
項 目41に記載のプローブであって、前記標的配列不在のアッセイ条件下では、そのタンパク質分解活性レベルは、前記タンパク質分解酵素と前記阻害剤との相互作用の程度を表す関数となるという特徴的なタンパク質分解活性を有し、前記標的配列が過剰に存在する条件下では、標的相補配列の標的配列へのハイブリダイ ゼーションが、前記特徴的タンパク質分解活性のレベルを上昇させる、プローブ。
(項目43)
前記アッセイ条件は、標的配列を検出するための検出温度を有する、項目42に記載のプローブ。
(項目44)
前記タンパク質分解酵素阻害剤はペプチドである、項目41に記載のプローブ。
(項目45)
前記タンパク質分解酵素、および前記タンパク質分解酵素の前記阻害剤は、
ア ミノペプチダーゼとアマスタチン、トリプシン様システインプロテアーゼとアンチパイン、アミノペプチダーゼとベスタチン、キモトリプシン様システインプロテアーゼとキモスタチン、アミノペプチダーゼとジプロチンAまたはB、カルボキシペプチダーゼAとEDTA、エラスターゼ様セリンプロテアーゼとエラスチ ナール、および、テルモリシンまたはアミノペプチダーゼMと1,10−フェナントロリンからなる群から選ばれる、項目41に記載のプローブ。
【0005】
発明の大要
一つの局面では、本発明は、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成する方法であって、
a)少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質と少なくとも一つの薬剤耐性マーカーとをコードする少なくとも一つのDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有するようになった細胞を選択し、前記細胞は少なくとも一つの薬剤耐性マーカーを転写している工程;
c)選択された細胞を、第1分子ビーコンに曝露し、第1分子ビーコンは、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発するものとする工程;
d)蛍光を発する細胞を単離する工程;
e)単離された細胞を培養することによって少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成する工程;
を含む方法に向けられる。
【0006】
前述の方法は、蛍光活性化細胞ソーター技術を用いて実行することが可能である。さらに別の局面では、細胞系統は、第2のあらかじめ選択されたタンパク質を発現するように仕向けることも可能である。すなわち、第2のあらかじめ選択されたタンパク質と第2の薬剤耐性マーカーとをコードする第2のDNA構築体に よって前記細胞系統をトランスフェクトすること;第2マーカーを発現する細胞を選択すること;その細胞を、第2のあらかじめ選択されたタンパク質のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに曝露すること;および、少なくとも一つのmRNA転写物および第2mRNA転写物それぞれに おいて蛍光を示す細胞を単離する工程をさらに実行する。前記工程を繰り返すことによって、二つを越えるタンパク質を発現する細胞系統を供給することも可能である。第2タンパク質を導入する方法は同時にまたは継時的に実行してもよい。第1および第2薬剤耐性マーカーが同じである場合は、同時選択は、薬剤濃度 を増すことによって実現が可能である。
【0007】
本発明の別の局面では、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成するための方法であって、
a)少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質、少なくとも一つの薬剤耐性マーカー、および、少なくとも一つの第1エピトープタグをコードする少なくとも一つのDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)前記マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有するようになった細胞を選択し、前記細胞は少なくとも一つの薬剤耐性マーカーを転写している工程;
c)選択された細胞を、第1分子ビーコンに曝露し、第1分子ビーコンは、第1エピトープタグのRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発するものとする工程;
d)蛍光を発する細胞を単離する工程;および
e)単離された細胞を培養することによって少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成する工程;
を含む方法が提供される。
【0008】
前述の方法は、蛍光活性化細胞ソーター技術を用いて実行することが可能である。エピトープタグをコードする構築体のDNA部分は、前記少なくとも一つのタンパク質をコードするDNA構築体部分を含むフレーム内であってもその外であってもよい。さらに別の実施態様では、細胞系統は、少なくとも第2のあらかじ め選択されたタンパク質を発現するように仕向けることも可能である。すなわち、その工程は、第2のあらかじめ選択されたタンパク質、第2の薬剤耐性マーカー、および、第2のエピトープタグをコードする第2のDNA構築体によって前記細胞系統をトランスフェクトすること;第2マーカーを転写する細胞を選択 すること;その細胞を、第2エピトープタグのRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに曝露すること;および、第1および第2エピトープタグそれぞれの蛍光を示す細胞を単離することをさらに含む。二種のタンパク質の場合、第2エピトープタグをコードするDNA配列の部分は、第2タ ンパク質をコードするDNA配列部分のフレーム内であってもその外であってもよい。第2のあらかじめ選択されたタンパク質は、第1のものと同時にまたは継時的にトランスフェクトされてもよい。本法を同時に実行し、かつ、両方の構築体に同じ薬剤耐性マーカーを使用する場合、薬剤の高い方の濃度を用いて、両構 築体を発現する細胞を選択することが可能である。さらに、前述の工程を反復することによって細胞系統中に二つを越えるタンパク質を供給することが可能である。
【0009】
本発明のさらに別の局面では、少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子を発現する細胞系統を生成するための方法であって、
a)少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子および少なくとも一つの薬剤耐性遺伝子をコードするDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)前記マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有するようになった細胞を選択し、前記細胞は少なくとも一つの薬剤耐性マーカーを転写している工程;
c)細胞を、アンチセンスRNA分子にハイブリダイズすると蛍光を発する分子ビーコンに曝露する工程;
d)蛍光を発する細胞を単離する工程;および、
e)単離された細胞を培養することによってあらかじめ選択されたアンチセンスRNA配列を発現する細胞系統を生成する工程;
を含む方法が提供される。
【0010】
蛍光を発する細胞の単離は、蛍光活性化細胞ソーター技術を用いて実行することが可能である。この細胞系統は、少なくとも一つの第2のあらかじめ選択されたアンチセンスRNAを発現するように仕向けることも可能である。すなわち、その工程は、第2のあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子と第2の薬剤耐 性マーカーとをコードする第2のDNA構築体によって細胞系統を同時にまたは継時的にトランスフェクトすること;第2マーカーを発現する細胞を選択すること;その細胞を、第2アンチセンスRNA分子にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに曝露すること;および、少なくとも一つのmRNA転写 物および第2mRNA転写物それぞれの蛍光を示す細胞を単離することをさらに含む。方法を同時に実行し、かつ、両構築体に同じ薬剤耐性マーカーを使用する場合、選択は高い方の薬剤濃度を用いることによって実現が可能である。前述の工程を別の構築体と共に反復することによって二つを越えるアンチセンスRNA 分子を供給することが可能である。
【0011】
本発明のさらに別の局面では、少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子を発現する細胞系統を生成するための方法であって、
a)少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子、少なくとも一つの薬剤耐性マーカー、および、第1エピトープタグヌクレオチド配列をコードするDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)前記マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有するようになった細胞を選択し、前記細胞は少なくとも一つの薬剤耐性マーカーを転写している工程;
c)選択された細胞を、第1エピトープタグのmRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第1分子ビーコンに曝露する工程;
d)蛍光を発する細胞を単離する工程;
e)単離された細胞を培養することによってあらかじめ選択された少なくとも一つのアンチセンスRNA分子を発現する細胞系統を生成する工程;
を含む方法が提供される。
【0012】
この細胞系統は、少なくとも一つの第2のあらかじめ選択された、エピトープタグ付きアンチセンスRNAを発現するように仕向けることも可能である。すなわち、その工程は、第2のあらかじめ選択された、エピトープタグ付きアンチセンスRNA分子と第2の薬剤耐性マーカーとをコードする第2のDNA構築体に よって前記細胞系統をトランスフェクトすること;第2マーカーを発現する細胞を選択すること;その細胞を、第2エピトープタグのRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに曝露すること;および、少なくとも一つのmRNA転写物および第2mRNA転写物の両方の蛍光を示す細胞を単離 することをさらに含む。これらの工程は、第1のものと同時にまたは継時的に実行してもよい。同じ薬剤耐性マーカーを持つ両構築体に基づく同時トランスフェクションによる選択は、薬剤の高い方の濃度を用いて実行することが可能である。追加工程を実行して二つを越えるエピトープタグ付きアンチセンス分子を導入 することが可能である。
【0013】
前述の方法は、アンチセンスRNA分子、または、rRNAの他にhnRNAおよびsnRNAを含めた構造的RNA−ただしそれらに限定されない−を含む全てのタイプのRNA分子を発現する細胞を調製するのに使用することが可能である。さらに、注意しなければならないことは、トランスフェクトされた構築体の 分子ビーコンによる検出のためにエピトープタグが供給されている方法の全てにおいて、エピトープタグ配列が分子ビーコンによって検出可能である限り、エピトープタグが、コードされたタンパク質のフレーム内であるかその外であるかは、重要ではないことである。
【0014】
本発明のさらに別の局面では、少なくとも一つのタンパク質またはRNAを発現する細胞を単離するための方法であって、
a)少なくとも一つのタンパク質を発現することが予想される細胞を供給する工程;
b)その少なくとも一つのタンパク質をコードするmRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する少なくとも一つの分子ビーコンに、前記細胞を曝露する工程;
c)蛍光を発する細胞を単離する工程、
を含む方法が提供される。
【0015】
蛍光を発する細胞を単離するには蛍光活性化細胞ソーター技術を用いることが可能である。非限定的例として挙げるのであるが、このタンパク質は、細胞表面の局在タンパク質であっても、または、細胞内タンパク質であってもよい。他にも任意のRNAの検出が可能である。この方法はまた、第2タンパク質または RNAを発現する細胞を特定するのに使用することが可能である。すなわち、標的RNAとハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに細胞を曝露させ、第1と第2分子ビーコンのそれぞれの蛍光を有する細胞を単離する。二つを越えるタンパク質の同時発現も実現可能である。
【0016】
本発明はまた、生物学的サンプルにおける少なくとも一つのRNA転写発現物のレベルを定量するための方法であって、
a)その生物学的サンプルを、前記RNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第1分子ビーコンに曝露する工程;
b)生物学的サンプルにおける蛍光レベルを定量する工程;および、
c)蛍光レベルを、前記少なくとも一つのRNA転写物のレベルと相関させる工程、
を含む方法に向けられる。
【0017】
この生物学的サンプルは、細胞サンプルまたは組織サンプルであってもよい。このサンプルは固定されていてもよい。このRNA転写物は、タンパク質をコードするRNA、構造的RNAまたはアンチセンスRNAであってもよいが、ただしそれらに限定されない。蛍光は、蛍光顕微鏡検査または蛍光活性化細胞ソーター 技術によって定量することが可能である。その生物学的サンプルにおける、少なくとも一つの第2RNA転写発現のレベルを、その第2のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンを用いて定量化することも可能である。
【0018】
本発明のさらに別の局面では、少なくとも一つのタンパク質を過剰発現する細胞系統を生成するための方法であって、
a)少なくとも二つのDNA配列であって、一方の配列は、前記タンパク質、少なくとも一つのエピトープタグ、および、少なくとも一つの薬剤耐性マーカーをコードする部分を有し、かつ、第2配列は、前記タンパク質、少なくとも一つの第2エピトープタグ、および、少なくとも一つの第2薬剤耐性マーカーをコード する部分を有する、そのような少なくとも二つのDNA配列によって細胞をトランスフェクトする工程;
b)第1および第2薬剤耐性マーカーの発現によって、前記少なくとも二つのDNA配列によってトランスフェクトされた細胞を選択する工程;
c)選択された細胞を第1および第2分子ビーコンに曝露し、それらの分子ビーコンは、それぞれ、第1および第2エピトープタグのRNA転写物のヌクレオチド配列にハイブリダイズすると蛍光を発するものとする工程;
d)第1および第2分子ビーコンそれぞれの蛍光を示す細胞を単離する工程;および、
e)単離した細胞を培養することによって、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を過剰発現する細胞系統を生成する工程、
を含む方法が提供される。
【0019】
本発明の前述の局面では、少なくとも二つのDNA配列は同じ構築体の上に局在してもよい。第1および第2エピトープタグは、それぞれ独立に、前記タンパク質のフレーム内であってもその外であってもよい。FACSを用い、もっとも強い蛍光を発現する細胞を単離することによって、両構築体を発現する細胞を単離 することが可能である。本明細書に前述した方法と同様、トランスフェクションは同時に、または、継時的に実行してもよい。同じ薬剤耐性マーカーが両構築体中に存在しており、かつ、同時トランスフェクションを行う場合、選択は薬剤レベルを増すことによって実現が可能である。
【0020】
本発明のさらに別の局面では、少なくとも一つのアンチセンスRNA分子を過剰発現する細胞系統を生成するための方法であって、
a)少なくとも二つのDNA配列であって、一方の配列は、前記タンパク質、少なくとも一つのエピトープタグ、および、少なくとも一つの薬剤耐性マーカーをコードする部分を有し、かつ、第2配列は、前記タンパク質、少なくとも一つの第2エピトープタグ、および、少なくとも一つの第2薬剤耐性マーカーをコード する部分を有する、そのような二つのDNA配列によって細胞をトランスフェクトする工程;
b)第1および第2薬剤耐性マーカーの発現によって、前記少なくとも二つのDNA配列によってトランスフェクトされた細胞を選択する工程;
c)選択された細胞を第1および第2分子ビーコンに曝露し、それらの分子ビーコンは、それぞれ、第1および第2エピトープタグのRNA転写物のヌクレオチド配列にハイブリダイズすると蛍光を発するものとする工程;
d)第1および第2分子ビーコンそれぞれの蛍光を示す細胞を単離する工程;および、
e)単離した細胞を培養することによって、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子を過剰発現する細胞系統を生成する工程、
を含む方法が提供される。
【0021】
前記少なくとも二つのDNA配列は同じ構築体の上に局在してもよい。第1および第2エピトープタグは、それぞれ独立に、前記アンチセンスRNA分子のフレーム内であってもその外であってもよい。所望の産物を実現するための条件および別法は前述した通りである。さらに、どのような形のRNAを供給してもよ い。
【0022】
本発明の別局面では、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質またはRNAの発現に対して機能的にゼロである細胞を生成する方法であって、細胞において、前記あらかじめ選択されたタンパク質またはRNAに対し、複数のアンチセンスRNAを供給し、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク 質またはRNAに対する複数のアンチセンスRNAが、mRNAまたはその他のRNAからなる事実上全てのRNA転写物に結合し、除去されることからなる工程を含む方法が提供される。あるあらかじめ選択されたタンパク質に対して細胞をゼロとする場合、そのあらかじめ選択されるタンパク質は、特異的な唯一のタ ンパク質であってもよいし、あるいは、ある遺伝子産物の、別様にスプライスされた複数の形態からなるサブセットであってもよい。
【0023】
本発明のさらに別の局面では、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質について機能的ゼロ発現突然変異種であるトランスジェニック動物を生成する方法であって、前述の工程を胚幹細胞を用いて実行すること、前記あらかじめ選択されたタンパク質を機能的にゼロ発現する幹細胞の生存率を定量すること、お よび、生存胚幹細胞を用いてトランスジェニック動物を生成することを含む方法が提供される。
【0024】
さらに、少なくとも一つのタンパク質については機能的にゼロ発現し、少なくとも一つの別のタンパク質については過剰発現する細胞系統を生成する方法であって、本明細書で前述した方法を、同じ細胞に実行することを含む方法が提供される。さらに、前述の方法を実行し、その際工程(a)を極少量のインデューサー の存在下に実行することによって、誘発可能なプロモーターの制御下に致死的アンチセンスRNAを発現する細胞系統を生成する方法が提供される。
【0025】
生細胞において遺伝子組み換え事象を同定するための方法であって、
a)組み換え配列から転写されたRNA配列と非組み換え配列から転写されたRNA配列とからなる群から選ばれるRNA配列とハイブリダイズすると蛍光を発する分子ビーコンに細胞を曝露する工程;
b)前記細胞を検出または選択抽出する工程、
を含む方法である。
【0026】
前記細胞の検出および/または選択抽出は、FACSまたは顕微鏡によって実行が可能である。
【0027】
別局面では、本発明は、本明細書ではプローブプロテアーゼと呼ぶ、タンパク分解活性を生成させる単一ハイブリダイゼーションプローブに向けられる。このプローブプロテアーゼは分子ビーコンと同様に働くが、分子ビーコンが標的核酸配列と相互作用を持つと発する蛍光変化ではなく、このプロテアーゼは、標的の存 在下でタンパク分解性を帯びる。プローブプロテアーゼ組成物は、分子ビーコンタイプのオリゴヌクレオチドの一端にプロテアーゼを、他端に、相補的なプロテアーゼ阻害剤を設ける。このオリゴヌクレオチドが標的配列にハイブリダイズしていない場合は、オリゴヌクレオチドの両端が近接しているために、プロテアー ゼとプロテアーゼ阻害剤とは相互作用を持つことが可能となり、プロテアーゼのタンパク分解活性を抑制する。しかしながら、オリゴヌクレオチドの標的配列が標的にハイブリダイズすると、プロテアーゼとその阻害剤は分離されて、プロテアーゼを活性化する。このプロテアーゼの活性化は簡単に測定が可能であり、さ らに、ある特定の核酸標的配列の存在下で活性を有するプロテアーゼは、検出目的ばかりでなく、治療目的のためにも使用が可能である。すなわち、治療目的の場合、例えば、ある特定の遺伝子、例えば、細胞の形質転換、発ガン性、異常増殖等に関連する遺伝子が転写された場合、プローブプロテアーゼが送り込まれた 細胞はタンパク分解され、生きられなくなる。
【0028】
前述のプローブは、タンパク分解酵素を可逆的に不活性化することが可能なペプチドまたは別の分子であるタンパク分解酵素阻害剤を有していてもよい。酵素および阻害剤の、非限定的例としては、アミノペプチダーゼとアマスタチン、トリプシン様システインプロテアーゼとアンチパイン、アミノペプチダーゼとベスタ チン、キモトリプシン様システインプロテアーゼとキモスタチン、アミノペプチダーゼとジプロチンAまたはB、カルボキシペプチダーゼAとEDTA、エラスターゼ様セリンプロテアーゼとエラスチナール、および、テルモリシンまたはアミノペプチダーゼMと1,10−フェナントリンが挙げられる。
【0029】
本発明の上記局面およびその他の局面は、下記の詳細な説明から理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本明細書の発明は、分子プローブが、生細胞においてRNA配列の同定を可能とする能力と、一つ以上の波長において蛍光のある特定のレベル(単数または複数)を示す細胞を同定および/または分離する蛍光細胞ソーターまたは関連技術の使用に基づく。EDACが、通常使用される各種最強蛍光分子の発光を抑止可 能であることは今では既知である。生細胞においてmRNAのみならずその他のRNAをも安定的にかつ効率的に検出することが可能になったということは、所望の特性に基づいて、例えば、蛍光活性化細胞ソーター(FACS)を用いて、細胞を同定するために、要すればそのような細胞を分離するためにそれらの RNAを用いることが可能になったということである。本出願は、従来の既知の処理過程を格段に簡単化し、かつ、その実行に必要な時間を格段に短縮する方法を多数提供すると共に、新規方法をも提供する。ビーコンや生細胞を用いる従来の試験は、コントロールに対して際立った差を示さなかった。この問題は、先ず より強力な蛍光分子を用いることによって、さらに、ステムループ分子の内ステム部分を形成するヌクレオチドの数を、従来使用されていた5または6ヌクレオチド長よりも長くなるようにビーコンを修飾することによって取り除かれる。このように修飾することによって、ステムループ分子が、標的配列不在の場合に非 蛍光状態をより確実に維持できるようになるので、背景は低下されることになる。
【0031】
前述の方法論により、様々な役割を持つRNA、すなわち、タンパク質をコードすることもなければ、アンチセンスRNAとしても作動しないが、細胞によって発現されるRNA、メッセンジャーRNAとして作動するRNA、および既に挙げた二つのクラスのRNAに対するアンチセンスRNAであるRNAを発現す る、トランスフェクト細胞系統を安定的に生成することが可能になる。上述の他のRNAとしては、構造的RNA、例えば、リボソームRNA、hnRNA、snRNA等が挙げられる。
【0032】
1.タンパク質発現細胞系統の生成。 細胞系統生成に関わる工程の内もっとも退屈なもののいくつかが、本明細書に記述される通りに分子ビーコンを運用することによって除去される。所望の遺伝子に加えて、薬剤耐性をもコードするDNA構築体によってトランスフェクトされた細胞の薬剤性選択の後、対象遺伝子の メッセージを認識するように設計された分子ビーコンをその細胞中に導入する。前記遺伝子を転写した細胞は発光する。その後FACS分析をすることによって蛍光細胞が単離され、次にこれらを増殖させると、選択した遺伝子を発現する細胞系統が生成される。
【0033】
対象メッセージを認識するように設計されたビーコンが、内因的に存在する標的配列を検出することが可能な場合、トランスフェクトされた細胞によって生産される標的配列の割合と比べた場合の内因性配列の比率によって、ソーターがこの二つの細胞タイプを区別することができるようになる。別態様では、対象遺伝子 にエピトープタグを付け、このタグをコードするヌクレオチド配列を認識するようにビーコンを設計することによって、内因性蛍光の問題は取り除かれる。これらのヌクレオチドは、生産されるタンパク質にタグを付することが必要であるかどうかに応じて、遺伝子のメッセージと読み枠が合致していてもよいし、また は、読み枠が合致していなくともよい。
【0034】
さらに、任意の所定の細胞における対象遺伝子の発現レベルは変動してもよい。このような場合、発現レベルを評価するためにFACSが適用される。FACSは、同じ遺伝子を発現する個々の細胞を差次的に選択するのに使用される。
【0035】
2.アンチセンス発現細胞系統の生成。 タンパク質をコードするRNAではなく、遺伝子または遺伝子の一部のアンチセンスであるRNAを発現する細胞系統の生成について記載する研究がいくつかある。これらの方法は、所定の細胞における特異的タンパク質の量を下げることを目的とする。タンパク質発現細胞系統 の生成に関して前述した工程が、この場合にも同じく適用が可能であり、内容的には、ビーコンがアンチセンスRNAであるRNAを検出するように設計されることを除き、ほとんど同一である。
【0036】
安定的にトランスフェクトされたアンチセンス発現細胞系統を作成しようという試みの全てが、標的タンパク質の発現が十分な影響を受けている細胞系統をもたらすわけではない。この困難があるために、この種の細胞系統の生産を続行することの価値が低下する。一方、本明細書に記述される処理過程は簡単なので、活 性の高いアンチセンス発現細胞系統生成能力に関して、異なる多数の遺伝子配列について効力をアッセイすることが容易である。
【0037】
3.細胞表面局在抗原に基づく細胞の区別。 免疫学者やその他の研究者達は長い間細胞を仕分けするのにFACSを用いてきた。本発明によれば、細胞表面局在タンパク質の存在を検出するには、対象タンパク質をコードするmRNAを標的として持つビーコンを製造する。このビーコンをトランスフェクションによっ て細胞中に導入し、次に、細胞ソーターを用いてプラスの得点を挙げた細胞を単離する。
【0038】
さらに、FACSは最近では、最大3種の細胞表面局在タンパク質の発現に基づいて細胞を仕分けるように使用される。FACSのこの特性は、複数のビーコンの組み合わせであって、それぞれが対象タンパク質の内の一つのmRNAを標的とし、かつ、それぞれが別様に標識される複数のビーコンの組み合わせを用い、 本明細書で記述する通りに分子ビーコンを使用すれば実現される。三つよりも多い発現RNAに基づいて細胞を仕分けるには、仕分けを複数回実行する。
【0039】
4.特異的RNAの発現について細胞をアッセイし、細胞におけるRNA発現レベルを定量すること。 細胞中に導入された分子ビーコンの標的RNAが存在する場合、その細胞は蛍光を発する。この情報は、蛍光顕微鏡またはFACSを用いることによって定量的に評価されるが、これはどちらの方法でも定量が可能で ある。例えば、ある特定のRNAについて発現パターンを確定するのに、組織スライスについてインサイチュ逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行ってきたが、これを実施せず、代わりにビーコンを使用しても同じ実験ができる。さらに、それぞれが異なる蛍光を発する複数のビーコンであって、それぞれ が特異的RNAを標的とする複数のビーコンの組み合わせを用いることによって、いくつかの対象RNAの存在または量が一工程でアッセイされる。
【0040】
5.細胞および組織中のRNA検出と組み合わせた抗原の局在。 固定細胞または組織スライスを使用し、免疫細胞化学を利用することによって、認識されたタンパク質抗原の局在を記述し、特異的RNAを標的とする分子ビーコンを用いることによって、同じサンプル中で対象RNAを同時に局在化する。RNAに対し て標的された分子ビーコンは固定細胞においても機能することが示されている。
【0041】
6.複数タンパク質を発現する細胞系統の生成。 本発明の方法を用いて、任意の数のタンパク質を発現する形質転換細胞系統が、多数の選択的薬剤からなる混合物の存在下にそれらの細胞を維持する必要もなく、非常に速やかに、安定的に生成される。遺伝子トランスフェクションおよび薬剤選択の後、それぞれが各タ ンパク質メッセージに対する複数の分子ビーコンの組み合わせを、細胞内に導入する。各ビーコンのループ配列を、メッセージがそれと関連する可能性のある、複数の遺伝子の内のただ一つのもののmRNA、または、複数のエピトープタグの内(前記参照)ただ一つのもののヌクレオチド配列にハイブリダイズするよう に設計することによって、各ビーコンは、複数の遺伝子の内ただ一つによってコードされるmRNAを認識するように設計される。次に、細胞をFACSによって仕分ける。一つ、二つまたは三つ全部の蛍光信号を選ぶことによって、単一の運用で様々の細胞系統が生成される。
【0042】
三つを越える対象RNAを発現する細胞系統を生産する必要のある場合がある。例えば、ある特定の複合体の形成に関わっていると考えられるタンパク質およびRNA配列の全てが過剰発現される細胞系統を持つことができたならば、それは極めて豊かな情報をもたらすであろう。このことを実現するためには、既に複数 のRNAの組み合わせを発現している細胞を宿主細胞として用い、さらに別のRNAをコードする追加の構築体をこれらの細胞にトラスフェクトさせることによって、前述の工程を繰り返す。
【0043】
発現されるべき複数のRNAが皆、細胞に同じ薬剤に対する耐性を付与する構築体においてクローン化される場合、FACSを用いて、所望のRNA全てを発現する細胞を単離する。これらの配列は安定にゲノムに組み込まれるので、細胞は、どの配列の発現も欠如させることはない。しかしながら、配列の内の1個以上 が失われることがあり得る。このような場合には、細胞が増殖する培養液中の選択薬剤の濃度を増すと、このような可能性はより少なくなる。別態様として、それぞれが別々の薬剤に対する耐性を付与する複数の構築体を用い、細胞を適当な薬剤の混合物中に維持する。また、安定に細胞にトランスフェクトされる構築体 サブセットを、一つの薬剤に対する耐性遺伝子をコードするように選出し、かつ、別の薬剤に対する耐性遺伝子をコードする別のサブセットを選出する。
【0044】
さらに、ある細胞系統においていくつかの細胞が対象RNAを失った場合は、一つの救済策として、細胞系統を単離するために行われた前述の第1実験を繰り返して新しい細胞を得る。別法として、前述の細胞混合物を、所望のRNAの全てを発現する細胞を再度単離する目的でFACSによって分析する。これは極めて 有用な処置である。なぜなら、これによって、元の選ばれた細胞系統と同じ遺伝的構成を持つ細胞系統を生成する細胞が再び得られるからである。
【0045】
前述の方法は、ほとんど無限の分析法に対して適用可能な、複数のタンパク質およびRNA配列の任意の組み合わせを発現する細胞の無制限な供給を実現する。それでもなお、過剰発現されるタンパク質がその細胞にとって有毒である可能性があるが、後に論ずるように、この可能性については速やかに対処することが可 能である。
【0046】
細胞集団がもはや所望のRNA全てを発現することのない細胞をいくつか含んでいる細胞系統クローンから、所望のRNA全てを発現する細胞を簡単に再度単離することができるということは、細胞系統を、薬剤の不在下に、または、極小濃度の薬剤の存在下に維持することを可能とするということに注意されたい。
【0047】
7.一つ以上のタンパク質を目覚しく過剰発現する細胞系統の生成。 各遺伝子を高度に過剰発現させるためには、例えば、同じ遺伝子の二つ以上の配列を、先ず、薬剤耐性を付与するDNA構築体にクローン化する。各遺伝子の複数の配列はそれぞれ、異なるエピトープタグをコードする配列を含むように設計される。 このDNA構築体を細胞にトランスフェクトさせ、次に薬剤選択した後、複数の分子ビーコンで、それぞれがただ一つのエピトープタグを標的とし、かつ、別様に蛍光標識された複数の分子ビーコンを細胞に導入し、細胞ソーターを用いて、それらの信号に対して陽性である細胞を単離する。これらの細胞は、そのゲノム の中に、各々別々のエピトープ配列タグ付き遺伝子の少なくとも1コピーを組み込んでいるのであるから、対象配列の発現は、事実上同じ対象配列の、漸増する複数コピーから生じる。この方法をFACSの使用と組み合わせて使用し、各蛍光分子信号についてもっとも高得点を挙げた細胞を選択する。
【0048】
8.複数のアンチセンスRNAを発現する細胞系統の生成。 複数のアンチセンスメッセージを発する、安定にトランスフェクトされる細胞系統は下記のように形成される。このアンチセンスメッセージは、mRNAまたはその他のRNAを標的とする。トランスフェクトされた複数のアンチセンス配列の内の任意の一つ について様々なレベルで発現する細胞を選択する。安定なトランスフェクションを繰り返すことによって、無制限な数のRNAのアンチセンスメッセージを発現する、安定にトランスフェクトされる細胞系統を生じる可能性のある細胞が簡単に選出される。
【0049】
もちろん、アンチセンスRNA以外のRNAを発現する細胞も、本明細書に記載される方法によって調製が可能である。そのようなRNAとしてはmRNA、rRNA、その他の構造的RNA、hnRNAまたはsnRNAが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0050】
9.一つ以上のタンパク質について機能的にノックアウトされた細胞系統の生成。 本発明の方法は、培養細胞において機能的ノックアウトを調製する手段を提供する。これによって、酵母またはマウスにおいてヒトのタンパク質のノックアウト特徴を調べることによって、そのヒトのタンパク質の役割を解読するという 必要がなくなる。ほとんど同じアンチセンスRNAから一意のRNA配列までを、複数の座位から発現する細胞を生成することにより、対象任意のタンパク質を機能的にノックアウトさせた細胞系統が生成される。例えば、複数の構築体であって、それぞれが、ある特定の遺伝子のアンチセンスRNAをコードする構築体 を、細胞中に安定にトランスフェクトする。この場合、各アンチセンスRNA配列は、それぞれが、一意のエピトープタグのヌクレオチド配列によってタグ化されている点でのみ異なる。様々にタグ化されたアンチセンスRNAの全てを発現する細胞を選択する。前述したように、FACSを用いて蛍光を定量すると、こ の有利な特典により、前記アンチセンス配列の内の任意の一つ以上をもっとも高度に発現する細胞を選択することが可能である。
【0051】
重要なことであるが、この方法では、同じ遺伝子を標的とする異なるアンチセンス配列が用いられる。例えば、前記複数のアンチセンスRNAの内のいくつかについて、その発現に関して分子ビーコンとFACSを用いて選出しておいたものを、遺伝子のメッセンジャーRNAの特定領域を標的とするように設計し、一 方、別のアンチセンスRNAを、同じメッセンジャーの別部分を標的とするように設計する。対象タンパク質の機能的ノックアウトである細胞系統を生成するためには、その対象タンパク質を検出可能なレベルでは発現しない、または、別態様として受容可能なほどの低レベルでしか発現しない細胞系統の形成に必要な、 同じ対象遺伝子に対する類似のまたは異なるアンチセンスRNAをコードする遺伝子配列のできるだけ多数を安定に細胞にトランスフェクトする。
【0052】
さらに、複数の細胞系統であって、そこにおいて、アンチセンスによって機能的にノックアウトされる任意の数の配列を標的としながら、前述の処理過程を反復することによって複数のタンパク質が機能的にノックアウトされる複数の細胞系統を生成する。例えば、複数のタンパク質からなる複合体の機能を調べるため に、その複合体を構成する複数のタンパク質の内の全て、または、任意の組み合わせをノックアウトする。
【0053】
10.一つ以上の遺伝子の唯一の選択された形態、または、選択的スプライシング形態の機能的ノックアウトである細胞系統の生成。 ある単一遺伝子の、様々にスプライスされた変種は、異なる機能を持つタンパク質に翻訳されることが多い。本発明の方法を用いて、一つ以上のタンパク質の、複数の選択的スプライシ ング形態の内選択されたもののみの機能的ノックアウトである細胞系統が生成される。例えば、遺伝子のメッセンジャーRNAの、複数の選択的スプライシング変種の内、細胞から取り除きたいと思うもののみを標的とするアンチセンスを設計することによって、対象選択的スプライシングメッセージを除き、対象遺伝子 の選択的スプライシングRNAの全てが機能的にノックアウトされる。
【0054】
11.一つ以上のタンパク質を発現し、もう一方で、他の、一つ以上のタンパク質の発現を機能的にノックアウトされた細胞系統の生成。 前述の方法論を用いて、様々の役割を持つ複数のRNA、すなわち、あるRNAはタンパク質をコードもしないし、アンチセンスRNAとして活動することもしないが、細胞によっ て発現され、一方、他のあるものはメッセンジャーRNAとして活動し、また、別のあるものは、前述した二つのものに対してアンチセンスRNAとなる、そのような複数のRNAを発現する、安定にトラスフェクトされた細胞系統を生成することが可能である。このような複数のRNAとしては、リボソームRNAのよ うな構造的RNA、hnRNA、snRNAおよびその他の非mRNAが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0055】
例えば、互いに相互作用を持つと考えられる、1群のタンパク質がある場合、対象タンパク質の一つ以上を、アンチセンスRNAの細胞発現によって機能的にノックアウトさせた、安定にトランスフェクトされた細胞系統を生成することによって、それらの相互作用を調べることが可能である。次に、細胞中の、残りの 対象タンパク質の機能を調べることが、しかもより興味深く調べることが可能となる。すなわち、今度は、残りの、一つ以上の対象タンパク質を過剰発現するようにさらに操作して細胞を変えることが可能である。このような一連の思考を無限に進めることが可能であり、これによって、細胞においてさらに別のタンパク 質を発現させたり、または、その発現を取り除いたりすることが可能となる。
【0056】
前述の方法は、組織培養で維持が可能な哺乳類細胞およびその他の細胞に関する科学を、従来不可能であった多数の遺伝的操作を可能とするように変質させる。初めて、ヒト細胞において機能的ノックアウトを生成すること、さらにヒト細胞にタンパク質を過剰発現させることも可能になった。この場合も、ある種のタン パク質を過剰発現すること、または、ある種のタンパク質を機能的にノックアウトすることは、細胞にとって致命的な可能性がある。これは、下記で向き合う問題である。
【0057】
12.トランスジェニックマウスの生成。 目的によっては、培養細胞の研究では十分ではないことがある。しかしながら、前述の方法論は、胚幹細胞の操作にも応用される。前述の処理過程を順守することによって、複数のタンパク質を発現する、あるいは、複数のタンパク質を、または、複数のタンパク質の選択的ス プライシング形態のサブセットを機能的にノックアウトさせた胚幹細胞を入手することが可能である。次に、この胚幹細胞を、ノックアウト動物の形成基盤として利用する。ノックアウト動物を形成するという試みを実行する前に、この処理過程を用いてその実験が致死的表現形をもたらすかどうかが判断される。例え ば、必須タンパク質が、胚幹細胞において機能的にノックアウトされた場合、その細胞は、FACSによる単離後生存することができない。
【0058】
13.誘導可能な、安定にトランスフェクトされた細胞系統を生成すること。 細胞において、ある種のタンパク質またはRNAの過剰発現または発現不足が致命的となる場合がある。それでいて、有害なタンパク質またはRNAを過剰発現する細胞、または、それなしでは生存できないタンパク質またはRNAを機能的 にノックアウトさせた細胞を調べることが、決定的に重要である場合がある。この目的のために、安定にトランスフェクトされた細胞であって、その細胞では、細胞に対して有害な作用を持つ選択されたRNAは誘導可能なプロモーターの制御下にある、そのような細胞を生成する。このような細胞系統を単離するには、 トランスフェクトされ、薬剤選択された細胞に、先ず、極小の誘導を施し、誘導性遺伝子の転写に影響を及ぼし、次に、適当なRNAを認識するように設計された分子ビーコンをその細胞にトランスフェクトさせた後に、FACS分析を行う。得られた細胞は、有毒なRNAが誘導されず、必要な時にのみ転写されるよう にして維持される。
【0059】
誘導システムは、有毒RNAの発現以外の用途にも好都合である。例えば、細胞中に安定的にトランスフェクトされた遺伝子配列の発現を、同期化された細胞系統の細胞サイクルのある時点で誘導する。別態様として、1組の、一つ以上の、安定にトランスフェクトされた遺伝子配列の発現産物が、別の組の発現産物に作 用を及ぼすことが想定される場合、第1の組の遺伝子配列を、一つの誘導性プロモーターの制御下にクローン化し、かつ、第2の組のものを、第2の誘導性プロモーターの制御下にクローン化したならば興味深いものがある。誘導を変えることによって、どちらかの組の遺伝子配列によってコードされる発現産物が、もう 一方の組の発現産物の不在下に、または、存在下に調べられる。
【0060】
14.生細胞における遺伝子組み換え事象の検出、および、それに続く、組み換えされない、または、様々に組み換えされた細胞の単離。 安定な細胞系統に導く、組み換え事象検出のための分子ビーコンの使用と平行して、様々の生細胞の混合物から、別様の、特異的組み換え事象を経験した細胞を検出・単離するため にビーコンが使用される。同じ原理を、例えば、VDJ組み換え、転位、および、ウィルスゲノム取り込みのアッセイに使用することが可能である。
【0061】
細胞の組み換え事象では、例えば、ゲノムDNAの一つの配列が別物と交換される。組み換え事象の起こった領域をコードするDNA配列がRNAに転写された場合、このような事象の存在は、組み換えされないDNA配列から転写されるRNA、または、組み換え配列から転写されるRNAを認識するように設計された 分子ビーコンによって検出される。このアッセイは、蛍光顕微鏡によっても実行される。組み換えられた細胞と、組み換えを受けていない細胞とを互いに分離したい場合には、これらの細胞をFACSに適用して、仕分ける。さらに、FACSを用いて、細胞における多数の組み換え事象の有無に基づいて細胞を仕分け る。
【0062】
15.発現RNAに基づく細胞の仕分け。 本明細書に前述した分子ビーコンの使用法によって、内部局在のタンパク質の発現に基づいてばかりでなく、抗体を形成させることができないようなタンパク質に対して細胞を仕分けることが可能となる。例えば、様々な細胞からなる混合集団から出発して、対象内部局在性タ ンパク質を発現する細胞が、そのタンパク質をもたらすmRNAを認識する分子ビーコンを設計することによって単離される。この分子ビーコンを、前記細胞混合物にトランスフェクトさせ、FACSを用いて細胞を適当に仕分けする。仕分けを複数回実施してもよい。
【0063】
さらに、研究者は、例えば、サイトカインで刺激されて、一つ以上の特異的タンパク質のmRNAを発現するように誘導される細胞を、同様のやり方によって誘導されない細胞から分離することに興味を覚える場合がある。このために、先ず、細胞混合物をサイトカインで誘導し、次に、複数のビーコンであって、それぞ れが、対象タンパク質の内の一つをもたらすmRNAを認識するように設計されたビーコンによってトランスフェクトする。次に、FACSを用いて、対象mRNAに対してプラスの得点を挙げた細胞を単離する。別の実施態様では、例えば、ウィルスに感染された細胞がまた、ある特定の遺伝子の発現の有無に関し てアッセイされる。
【0064】
本明細書に上述された方法論を用いて、様々の役割を持つ複数のRNA、すなわち、あるRNAはタンパク質をコードもしないし、アンチセンスRNAとして活動することもしないが、細胞によって発現され、一方、他のあるものはメッセンジャーRNAとして活動し、また、別のあるものは、前述した二つのものに対し てアンチセンスRNAとなるような複数のRNAの存在に関して陽性な細胞を検出することが可能である。このような複数のRNAとしては、リボソームRNAのような構造的RNA、hnRNA、snRNAおよびその他の非mRNAが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0065】
16.その後の細胞選択と組み合わせた、核酸のインビボ検出。必要とされる化学的詳細が十分に明らかにされているので、様々のやり方で分子ビーコンを修飾して新しい可能性を生み出すことが可能である。例えば、その発現が、細胞の悪性形質転換をもたらす、ある特異的mRNAを発現する細胞は選択的に破壊さ れ、一方、このmRNAを発現しない細胞は、後述のように大なり小なり放置される。分子ビーコンは、細胞混合物の一部において転写される、対象遺伝子に含まれる核酸の特異的配列を認識し、その特異的配列にハイブリダイズするように設計されたオリゴヌクレオチドからなるように選択される。このオリゴヌクレオ チドは、その一端にはプロテアーゼを、他端には、1分子以上の、プロテアーゼ阻害剤、例えば、ペプチド阻害剤を共有結合させる。使用されるこのオリゴヌクレオチドについては、分子ビーコンの場合と同様、互いにハイブリダイズすることが可能な両端を持つようなビーコンを合成することが重要であることに注意さ れたい。上述の分子がそのステムループ構造を維持している限り、分子の一端のペプチド阻害剤は、他端のプロテアーゼと十分に近接するので、抑制を実行する。議論をやり易くするために、上述の分子をプローブプロテアーゼと呼ぶことにする。
【0066】
プローブプロテアーゼを、プローブプロテアーゼによって認識されるRNAを発現する細胞にトランスフェクトさせると、このプローブプロテアーゼは、標的にハイブリダイズする。これによってプロテアーゼは活性化される。なぜなら、ハイブリダイズ状態では、プロテアーゼはもはやペプチド阻害剤の近傍にはいない からである。このようなプローブプロテアーゼの標的が存在し、かつ、認識される細胞は破壊され、従って、間引かれる。
【0067】
さらに、プローブプロテアーゼは、他の各種用途においても有用である。例えば、細胞の内のあるものがある特定のウィルスによって感染されるような細胞を含む細胞集団がある場合、特定のウィルスmRNAを標的とするプローブプロテアーゼを細胞中に導入する。そのようなmRNAを有する細胞は、自らの含むプ ローブプロテアーゼのタンパク質分解活性を活性化し、これによって、この細胞は破壊される。
【0068】
本明細書に上述された方法論を用いて、様々の役割を持つ複数のRNA、すなわち、あるRNAはタンパク質をコードもしないし、アンチセンスRNAとして活動することもしないが、細胞によって発現され、一方、他のあるものはメッセンジャーRNAとして活動し、また、別のあるものは、前述した二つのものに対し てアンチセンスRNAとなるような複数のRNAを発現する、安定にトランスフェクトされた細胞系統を生成することが可能である。
【0069】
前述の記載に基づいて、下記の方法の実施が可能である。
【0070】
少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成する方法であって、
a)前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質と少なくとも一つの薬剤耐性マーカーとをコードする少なくとも一つのDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有するようになった細胞を選択する工程であって、前記細胞は少なくとも一つのDNA構築体と少なくとも一つの薬剤耐性マーカーとを転写している、工程;
c)選択された細胞を、第1分子ビーコンに曝露し、第1分子ビーコンは、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する、工程;
d)蛍光を発する前記細胞を単離する工程;
e)前記単離された細胞を増殖させることによって少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成する工程;
を含む方法。
【0071】
この方法では、蛍光を発する前記細胞の単離は、蛍光活性化細胞ソーター技術を用いて実行してもよい。細胞系統はさらに、第2のあらかじめ選択されたタンパク質を、同時にまたは継時的に発現するように調製されてもよい。すなわち、追加の工程は、第2のあらかじめ選択されたタンパク質と第2の薬剤耐性マーカー とをコードする第2のDNA構築体によって前記細胞系統をトランスフェクトする工程;前記第2マーカーを発現する細胞を選択する工程;その細胞を、第2のあらかじめ選択されたタンパク質のRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに曝露する工程;および、前記少なくとも一つの mRNA転写物および第2mRNA転写物それぞれにおいて蛍光を示す細胞を単離する工程を含む。現在、最近の技術では、仕分け過程において、最大3種までの異なるフルオロフォアを検出することが可能であり、今のところ、上記過程を同時に反復することによって、最大3種までの異なるタンパク質の発現を得るこ とが可能である。必要であれば、次に、三つの異なるタンパク質を発現する細胞系統を、この過程の実行後に、さらに沢山のタンパク質の導入のための開始点として使用してもよい。
【0072】
トランスフェクションのために用いられるDNA構築体は、単一遺伝子と薬剤耐性マーカーとをコードしてもよいし、対応するマーカーを備えたさらに別の遺伝子をコードしていてもよい。各遺伝子のトランスフェクションの成功は、対応する薬剤による選択によって達成され得る。前述したように、新たな遺伝子の導入 を同時にするか継時的にするかに拘わらず、一時に検出可能な発現メッセージの数は、蛍光技術によって制限される可能性があるが、本法は、さらに多くの遺伝子を加えるよう反復実行することが可能である。最大三つまでのフルオロフォアが検出可能である場合、一時に三つの遺伝子を導入することが可能である。
【0073】
トランスフェクトされる遺伝子と結合するエピトープタグを、分子ビーコンの標的として用いる、関連法が開示される。この方法により、分子ビーコンがごく近縁のRNA種を検出する場合のような、そのmRNAをバックグラウンドの中から同定することが困難である可能性のあるタンパク質を発現する細胞の選択が可 能になる。従って、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成するための方法であって、
a)前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質、少なくとも一つの薬剤耐性マーカー、および、少なくとも一つの第1エピトープタグをコードする少なくとも一つのDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)前記マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有する細胞を選択する工程であって、前記細胞は少なくとも一つのDNA構築体と少なくとも一つの薬剤耐性マーカーとを転写している、工程;
c)前記細胞を、第1分子ビーコンに曝露し、第1分子ビーコンは、第1エピトープタグのRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する、工程;
d)蛍光を発する前記細胞を単離する工程;および
e)前記単離された細胞を増殖させることによって前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を発現する細胞系統を生成する工程;
を含む方法が提供される。
【0074】
この方法は、使用される分子ビーコンが、所望の導入タンパク質のRNA転写物ではなく、エピトープタグを認識するように設計されることを除いては、前述のものと事実上同じである。この処理過程が、前述のものに優る利点は、一つ以上のタンパク質を発現する、多数の、異なる細胞系統を調製するのに、異なるエピ トープタグの数に対応した、ごく少数の分子ビーコンしか要求されない点である。現在、蛍光ソーター技術は、三つの蛍光分子に制限されるので、この方法では僅か三つの異なるビーコンしか必要ではない。もしも技術が今後、さらに多数のフルオロフォアの同時検出を可能とするようになった場合には、この必要数も増 大させてよい。しかしながら、一時に最大三つまでの導入タンパク質の添加が可能である場合であっても、三つの遺伝子を上手くトランスフェクトさせた細胞を、さらに新たな遺伝子添加のための開始点として用いることも可能である。
【0075】
本発明に使用が可能であり、それに対してビーコンを調製することが可能なエピトープタグの例としては、HA(インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質)、myc、his、プロテインC、VSV−G,FLAGまたはFLUが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。上記のものおよびその他のエピトープタグ は当業者には既知である。本明細書で使用する場合、エピトープタグとは、分子ビーコンで認識される、独自の核酸配列である。この核酸配列が、構築体のコードされたタンパク質と読み枠が一致するか否かは、決定的には重要ではない。決定的には重要ではない。すなわち、分子ビーコンはいずれの場合でも認識が可能 である。従って、エピトープタグ核酸配列を有する転写RNAは、分子ビーコンによる転写物の検出のためだからといって翻訳される必要はない。
【0076】
もちろん、前述の方法を用いて、一つ以上のタンパク質を細胞に導入してもよい。すなわち、追加の実行工程は、同時に、または、継時的におこなわれる:第2のあらかじめ選択されたタンパク質、第2薬剤耐性マーカー、および、第2エピトープタグをコードする第2のDNA構築体で細胞系統をトランスフェクトする 工程;前記第2マーカーを発現する細胞を選択する工程;前記細胞を、前記第2エピトープタグのRNA転写物にハイブリダイズすると蛍光を発する第2分子ビーコンに曝露すること;および、前記第1および第2エピトープタグそれぞれの蛍光を示す前記細胞を単離すること、を含む。第2エピトープタグは、前記第 2タンパク質をコードするDNA配列の部分と読み枠が一致していても、一致していなくともよい。
【0077】
上手くトランスフェクトされた細胞の選択は、標準法によって実行される。すなわち、薬剤の存在下で、それに対抗するように薬剤耐性マーカーが供給された細胞を増殖させることである。選択が二つの異なるマーカーについて行われる場合は、細胞は、同時にでも、継時的にでも選択が可能である。二つの異なるトラス フェクトされた構築体に対して同じ薬剤耐性マーカーを使用している場合には、両構築体によってトランスフェクトされた細胞を選出するには、用量効果を考慮して、高い方の薬剤濃度が必要とされる。
【0078】
一つ以上のタンパク質を発現する細胞系統を調製するための前述の方法は、一つ以上のアンチセンスRNA分子を発現する細胞系統を生成する方法に簡単に応用が可能である。その方法は、
a)少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子、および、少なくとも一つの薬剤耐性マーカーをコードするDNA構築体によって細胞系統をトランスフェクトする工程;
b)前記マーカーによって耐性を付与され薬剤に対して耐性を有する細胞を選択する工程であって、前記細胞は少なくとも一つのDNA構築体と、少なくとも一つの薬剤耐性マーカーとを転写している、工程;
c)前記アンチセンスRNA分子にハイブリダイズすると蛍光を発する分子ビーコンに、前記細胞を曝露する工程;
d)蛍光を発する前記細胞を単離する工程;および
e)前記単離された細胞を増殖させることによって前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたRNA配列を発現する細胞系統を生成する工程、
を含む。
【0079】
これらの方法の全ての詳細は前述した通りである。ビーコンが特定のmRNAを検出できない場合には、エピトープタグ法、すなわち、
a)少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子、少なくとも一つの薬剤耐性マーカー、および第1エピトープタグヌクレオチド配列をコードするDNA構築物を用いて細胞株をトランスフェクトする工程;
b)前記マーカーが耐性を与えるような薬物に対する細胞耐性について選択する工程であって、前記細胞は、少なくとも一つのDNA構築物と少なくとも一つの薬物耐性マーカーとを転写している、工程;
c)前記選択された細胞を、前記第1エピトープタグのmRNA転写物にハイブリダイズする際に蛍光を発する第1分子ビーコンに曝露する工程;
d)蛍光を発する前記細胞を単離する工程;および
e)前記単離された細胞を増殖させることによってあらかじめ選択された少なくとも一つのアンチセンスRNA分子を発現する細胞株を生成する工程
を包含する方法が使用され得る。
【0080】
既述のように、エピトープタグ検出法の利点は、各アンチセンスRNAに対して様々なビーコンを調製する必要がないことである。ビーコンはごく少数のエピトープタグに対して必要であるだけで、これらのタグは、多数のアンチセンス分子、または、1分子の過剰発現を細胞株に導入する連続工程において使用が可能 である。もちろん、前記方法は、所定の細胞株における二つ以上のアンチセンスRNA分子を導入するために、同時にまたは連続的に繰り返してもよい。
【0081】
さらに、ある特定の一つのタンパクまたは複数のタンパクを発現するようにされた細胞を、複数のタンパクおよびアンチセンスRNA分子を発現する細胞を作成するための開始点として用いてもよい。もちろんこの複数のアンチセンス分子を発現する細胞は、本明細書の方法を用いて発現タンパクを加えるための開始点と して用いることも可能である。対応するビーコンと、またもし要すればエピトープタグと一緒に、タンパクとアンチセンス分子の同時トランスフェクションを実行してもよい。前述の過程の各種組み合わせも本明細書の中に包摂される。
【0082】
同様に、少なくとも一つのタンパク質を発現する細胞を単離するための方法であって、
a)前記少なくとも一つのタンパクを発現することが予想される細胞を提供する工程;
b)前記少なくとも一つのタンパクをコードするmRNA転写物にハイブリダイズする際に蛍光を発する少なくとも一つの分子ビーコンに、前記細胞を曝露する工程;
c)蛍光を発する前記細胞を単離する工程、
を含む方法が提供される。
【0083】
この方法は、細胞表面局在タンパクまたは細胞内タンパクであるタンパクに対して特に有用である。この方法は、タンパク自体に対するプローブの使用を必要としないが、このプローブの使用はより困難であるか、あるいは、それ以上の実験が不可能となるほどに細胞に影響を及ぼし得る。複数の分子ビーコンを用いて、 単離のために使用される技術で同時に検出可能な数まで、一つより多くのタンパクが同定され得る。
【0084】
もちろん、前述の手順は、生物学的サンプルにおける少なくとも一つのRNA転写発現のレベルを定量するために使用され得、その手順は、
a)その生物学的サンプルを、前記RNA転写物にハイブリダイズする際に蛍光を発する第1分子ビーコンに曝露する工程;
b)生物学的サンプルにおける蛍光レベルを定量する工程;および、
c)蛍光レベルを、少なくとも一つのmRNA転写物の前記レベルと相関させる工程、
を含む。
【0085】
生物学的サンプルは細胞サンプルまたは組織サンプルであり得る。これらは、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、または、分子ビーコンを用いるRNAの検出を妨げない任意の数の公知の細胞固定剤によって固定され得る。
【0086】
検出されたRNA転写物は、タンパク、構造RNA、および、アンチセンスRNAをコードするRNAであり得る。蛍光は、蛍光顕微鏡検査、または、蛍光活性化細胞ソーター技術によって定量化され得る。さらなるRNA種が、第2RNA転写物にハイブリダイズする際に蛍光を発する第2分子ビーコンを用いて同時に 定量され得る。
【0087】
前記方法の別の用途として、少なくとも一つのタンパクを過剰発現する細胞株を生成する方法が提供される。これは、同じタンパクをコードする二つ以上の配列によって細胞をトランスフェクトし、転写物の様々なコピーと関連するエピトープタグによって発現を
選択し、そして同定することによって達成される。この工程は、
a)少なくとも二つのDNA配列によって細胞をトランスフェクトする工程であって、前記配列はそれぞれ、タンパク、少なくとも一つのエピトープタグ、および、少なくとも一つの薬剤耐性マーカーをコードする部分;ならびに同じタンパク、少なくとも一つの第2エピトープタグ、および、少なくとも一つの第2薬剤 耐性マーカーをコードする部分を有する、工程;
b)第1および第2薬剤耐性マーカーの発現によって、前記少なくとも二つのDNA配列によってトランスフェクトされた細胞を選択する工程;
c)選択された細胞を、第1および第2分子ビーコンに曝露する工程であって、各分子ビーコンは、それぞれ、前記第1および第2エピトープタグのRNA転写物のヌクレオチド配列にハイブリダイズする際に蛍光を発する、工程;
d)前記第1および第2分子ビーコンのそれぞれの蛍光を示す細胞を単離する工程;および、
e)単離した細胞を増殖させることによって、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質を過剰発現する細胞株を生成する工程、
を含む。
【0088】
既述のように、遺伝子の各コピーに対して同じ薬剤耐性マーカーを用いた場合、両配列によってトランスフェクトされた細胞を選択するには、より高いレベルの薬剤が必要とされ得る。前記の方法のように、その少なくとも二つのDNA配列は、同じ構築物に存在し得る。第1および第2エピトープタグは、それぞれ独立 に、前記タンパクと読み枠が一致していても、一致していなくともよい。
【0089】
前述の手順は、少なくとも一つのアンチセンスRNA分子で過剰発現する細胞の生成に容易に運用することが可能である。その方法は、
a)少なくとも二つのDNA配列によってトランスフェクトする工程であって、その配列は、前記アンチセンスRNA分子、少なくとも一つのエピトープタグ、および、少なくとも一つの薬剤耐性マーカーをコードする部分;ならびに前記アンチセンスRNA分子、少なくとも一つの第2エピトープタグ、および、少なく とも一つの第2薬剤耐性マーカーをコードする部分を有する、工程;
b)前記第1および第2薬剤耐性マーカーの発現によって、前記少なくとも二つのDNA配列によってトランスフェクトされた細胞を選択する工程;
c)前記選択された細胞を第1および第2分子ビーコンに曝露する工程であって、各分子ビーコンは、それぞれ、前記第1および第2エピトープタグのRNA転写物のヌクレオチド配列にハイブリダイズす際に蛍光を発する、工程;
d)前記第1および第2分子ビーコンのそれぞれの蛍光を示す細胞を単離する工程;および、
e)前記単離した細胞を増殖させることによって、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたアンチセンスRNA分子を過剰発現する細胞株を生成する工程、
を含む。
【0090】
詳細は前述したものと同様である。
【0091】
細胞にアンチセンスRNA分子を導入することは、細胞から一つ以上のタンパクを機能的に除去するのに有用である。前述の方法に従って、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパク質の発現に対して機能的にヌルである細胞を生成する方法が提供され、この方法は、前記細胞において、前記あらかじめ選択された タンパクに対し、複数のアンチセンスRNAを提供する工程を含み、各アンチセンスRNAは前述の方法に従って提供され、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパクに対する前記複数のアンチセンスRNAは、前記少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパクの実質的に全てのmRNA転写物に結合す る。このあらかじめ選択されたタンパクは、の遺伝子産物の、代替的スプライシング形であってもよい。同様の概略に従って、少なくとも一つのあらかじめ選択されたタンパクに関して機能的にヌル発現変異体であるトランスジェニック動物を生成するための方法が提供され、この方法は、胚幹細胞を用いて前述の工程を 実行すること、前記あらかじめ選択されたタンパクを機能的にヌル発現する前記幹細胞の生存率を決定すること、および、前記生存胚幹細胞を用いて前記トランスジェニック動物を産生することを含むる。
【0092】
同様に、少なくとも一つのタンパク質については機能的にヌル発現し、少なくとも一つの別のタンパク質については過剰発現する細胞株を生成する方法が提供されこの方法は、本明細書で前述した方法を、同じ細胞に実行することを含む方法が提供される。同様の様式で、本明細書の方法を実行することによって、誘発可 能なプロモーターの制御下で致死的アンチセンスRNAを発現する細胞株を生成する方法が提供され、ここで、前記トランスフェクト工程は、最少量のインデューサーの存在下で行われる。
【0093】
生細胞において遺伝子組み換え事象を同定するための方法であって、
a)組み換え配列から転写されたRNA配列と非組み換え配列から転写されたRNA配列とからなる群から選ばれるRNA配列とハイブリダイズする際に蛍光を発する分子ビーコンに、細胞を曝露する工程;
b)前記RNA配列を発現する前記細胞を検出する工程、
を含む方法が提供される。
【0094】
本発明はまた、標的核酸への結合において従来技術によって示される蛍光特性とは異なる新しい形態の分子ビーコンに関する。このようなタンパク分解活性は、検出目的に使用され得るだけでなく、そのタンパクをコードするmRNAが細胞中に存在するはずの細胞において、特定のタンパク配列を変性させるために使用 され得る。例えば、ウィルスタンパクを特異的に切断するプロテアーゼが、潜伏感染の場合のようにウィルスの転写が活性化されると、活性化され得る。
【0095】
好ましくは、阻害剤との相互作用によって酵素の可逆的阻害を提供するために、タンパク分解酵素阻害剤はペプチドであるが、ただし、金属および金属キレート剤を含むその他の分子も同様に有用である。タンパク分解酵素およびタンパク分解酵素阻害剤の有用なペアの例としては、アミノペプチダーゼとアマスタチン、 トリプシン様システインプロテアーゼとアンチパイン、アミノペプチダーゼとベスタチン、キモトリプシン様システインプロテアーゼとキモスタチン、アミノペプチダーゼとジプロチンAまたはB、カルボキシペプチダーゼAとEDTA、エラスターゼ様セリンプロテアーゼとエラスチナール、および、テルモリシンまた はアミノペプチダーゼMと1,10−フェナントロリンが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0096】
本発明は、本発明の例示のために提供される、下記の、非限定的実施例を参照することによってさらによく理解され得る。下記の実施例は、本発明のより好ましい実施態様をより十分に具体的に示すために提示されるものである。これらの実施例は、決して本発明の広範な範囲を限定するものと思量されない。
【実施例】
【0097】
実施例1
全体的なプロトコール。開始材料:分子ビーコンは、プラスミド由来のRNAを全く発現しない細胞に導入され得るか、または、プラスミドでコードされたRNAメッセージを検出するのに使用され得る。ビーコンを、これら2種類の細胞に導入する方法は同一である。下記のプロトコールは、分析される細胞が互い に分離可能であり、その分離がFACS分析に従うことのみを必要とする。
【0098】
1)本明細書により詳細に記述されているように、組織細胞を、細胞内における特定のRNAの発現または発現欠如に基づいて分類するために、ビーコンがFACSと組み合わせて用いられ得る。このためには、細胞を先ず、ホモジェニゼーションおよびさらなる化学的処理のような、標準的で十分に確立された方法 によって互いに分離しなければならない。次に、適当なビーコンを、下記のプロトコールに従って、この細胞に導入し得る。
【0099】
2)第二に、細胞集団にトランスフェクトさせたプラスミドによってコードされる特定のRNAを発現する細胞について選択するために、ビーコンを使用し得る。このためには、先ず、所望のRNAをコードする単一の、または、複数のプラスミドを細胞培養物にトランスフェクトさせなければならない。次に、本明細 書においてさらに詳細に記述されているように、これらのRNAを認識するためにビーコンが作成される。プラスミドの細胞へのトランスフェクションは、所有の試薬を用いるか、または、生化学系の会社(Qiagen、Promega、Geneporter、Invitrogen、Stratagene等)から 入手したキットをメーカーの指示に従って用いるかのいずれかで、多種多様な方法によって達成され得る。プラスミドは、それぞれが一つの抗生物質に対する耐性を付与するように選ぶべきである。これらのプラスミドを細胞に導入し、短時間(24時間)で細胞を回収した後、細胞を適当な抗生物質に供し、プラスミド によって抗生物質耐性を得た細胞のみが生き延びられるようにする。これは、細胞の型および使用される抗生物質の両方に依存して、一般的に3日から4日を要する。
【0100】
結果として、ある一塊の細胞が残存するが、これらは全て抗生物質に対して耐性を示すものの、そのほんの小部分しか対象RNAを発現しない。所望のRNAを発現する細胞を選出するために、下記のプロトコールを守ってもよい。
【0101】
実施例2
ビーコンによる細胞の選択
1)ビーコンを細胞にトランスフェクトさせる。ビーコンは、RNAに内在する配列にハイブリダイズするか、または、天然のRNA配列に添加されたタグにハイブリダイズするかのいずれかによって、所望のRNAを認識するように設計されていなければならない。ビーコンの設計は、本明細書において詳細に論じられ ている。
【0102】
トランスフェクションは、プラスミドの細胞に対するトランスフェクションと同様、多種多様な方法によって実行が可能である。採用する方法は、使用する細胞型に基づいて選択すべきである。なぜなら、細胞によって、よりよく反応するトランスフェクション法が異なるからである。トランスフェクションは、使用する トランスフェクション試薬のメーカーの指示に従って実行するべきである。
【0103】
細胞に対するビーコンのトランスフェクションは、使用するトランスフェクション試薬に応じて、懸濁細胞で行っても、固相表面で成長する細胞で行ってもよい。
【0104】
2)ビーコンの細胞に対するトランスフェクションの後、細胞をFACS分析に供する。FACSは、使用した複数のビーコンの内の任意の一つ以上に対して陽性の細胞を分類するために使用され得る。FACSはまた、ビーコン信号の強度に基づいて細胞を分類するために使用され得、これによって、研究者は、様々な 程度でRNAを発現する細胞を選択することが可能となる。
【0105】
実施例3
一つ以上のRNAを発現する細胞株の生成
FACS選択の後、ポジティブと記録した細胞を、本明細書においてさらに詳細に記述されるように、適当な培養液中に維持することが可能である。この細胞は、目的のRNAを発現する細胞株となる。
【0106】
ビーコンの濃度:使用されるビーコンの濃度は、いくつかの要因に左右される。例えば、細胞内における、検出されるRNAの量、および、このRNAとビーコンとの接触機会を考慮しなければならない。例えば、検出されるRNAがごく少量しか存在しない場合、または、そのRNAが、RNAの3次元折り畳みによっ て簡単には接触機会の無いRNA部分の中に存在する場合は、検出されるRNAが多量にある場合、および、ビーコンによって認識される部位が完全に接触可能な場合と比べて、より多量のビーコンを用いなければならない。使用されるビーコンの正確な量は、各用途毎に経験的に決められなければならない。
【0107】
このことは、様々な量のビーコンを、様々な細胞群に導入し、バックグラウンドの蛍光が低度で、かつ、信号が高度である条件(細胞の内の全てではなくいくつかが、そのビーコンに対してポジティブを記録する条件)を選択することによって達成され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。



【公開番号】特開2009−72198(P2009−72198A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274958(P2008−274958)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【分割の表示】特願2004−532540(P2004−532540)の分割
【原出願日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願人】(505069085)クロモセル コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】