n型半導体薄膜、ホモpn接合素子及び薄膜太陽電池並びにn型半導体薄膜及びホモpn接合素子の製造方法
【課題】現在の薄膜太陽電池で吸収しきれていない光を有効に利用するために、バンドギ
ャップが2eV以上3eV未満でありpn両極性に電気特性を制御できる半導体を提供する。
【解決手段】酸化第一錫(SnO)にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価
の陽イオンを不純物として含有し、n型伝導性を示すSnOからなるn型半導体薄膜。こ
のn型半導体薄膜とSnOからなるp型半導体薄膜とを積層したホモpn接合素子。この
ホモpn接合素子を用いた薄膜太陽電池。SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+
から選ばれる3価の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結したSnOターゲットを
用いて物理的成膜法によりSnOからなるn型半導体薄膜を製造する。また、SnO粉末
を焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法により成膜したp型SnO薄膜と、上
記の方法で製造したn型SnO薄膜とを積層してホモpn接合素子を製造する。
ャップが2eV以上3eV未満でありpn両極性に電気特性を制御できる半導体を提供する。
【解決手段】酸化第一錫(SnO)にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価
の陽イオンを不純物として含有し、n型伝導性を示すSnOからなるn型半導体薄膜。こ
のn型半導体薄膜とSnOからなるp型半導体薄膜とを積層したホモpn接合素子。この
ホモpn接合素子を用いた薄膜太陽電池。SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+
から選ばれる3価の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結したSnOターゲットを
用いて物理的成膜法によりSnOからなるn型半導体薄膜を製造する。また、SnO粉末
を焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法により成膜したp型SnO薄膜と、上
記の方法で製造したn型SnO薄膜とを積層してホモpn接合素子を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化第一錫(SnO)からなるn型伝導性半導体薄膜、該n型伝導性半導体薄
膜を活性層に用いたホモpn接合素子、及び該ホモpn接合素子を用いた薄膜太陽電池、
並びにn型半導体膜及びホモpn接合素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の軽減のためにクリーンエネルギーである太陽光を発電に利用する太陽電
池が活発に研究されている。太陽電池の更なる発電効率向上のため、互いに異なる吸収帯
を有する半導体材料を積層し、pn接合した薄膜太陽電池の開発がなされている(特許文
献1,2,3)。薄膜太陽電池に用いられる半導体材料の代表例はCu(InGa)Se2
であるが、そのバンドギャップは約1.2eVである。
【0003】
したがって、2eV以上のバンドギャップを有する半導体を用いてCu(InGa)Se2等に
積層したpn接合を形成することで、現在は発電に寄与していない波長の太陽光を発電に
用いることができるようになる。そこで、ワイドギャップ半導体を作ることが容易な酸化
物半導体の中から2eV以上3eV未満のバンドギャップを有するpn制御可能な半導体材料の
探索が行われている。
【0004】
本発明者らは、2001年にpn制御可能な酸化物半導体CuInO2を発表した(非特許文
献1,2)。しかし、そのバンドギャップは約3.9eVと大きく、太陽電池の活性層とする
のは適当ではない。
【0005】
また、1998年から2003年にかけて、本発明者らは、SrCu2O2やLaCuOCh(Ch=S,
Se,Te)等のp型酸化物半導体を報告してきた(非特許文献3〜5)。しかし、これらのp型
酸化物半導体に対する電子ドーピングは報告されていない。
【0006】
本発明者らは、2008年にSnOをチャネル層とした薄膜トランジスタを報告し(非特許文
献6)、さらに、気相法において、SnOをターゲットとして用いて、基板上に堆積する
Snの酸化度合いを基板温度及び雰囲気酸素分圧により制御し、SnO中のSn4+及びS
n0(錫金属)の含有量が合計で10原子%未満、すなわちSn2+イオンの含有量が90
原子%以上のp型SnO薄膜を成膜する方法、及び該p型SnO薄膜をチャネル層とした
薄膜トランジスタに関する発明を特許出願した(特許文献4)。
【0007】
酸化第一錫(SnO)については、p型半導体であることが知られており(非特許文献7
、特許文献5)、非特許文献7では、SnO2原料を電子ビーム蒸発させてサファイア基
板に成膜すると基板温度に応じてアモルファス又は準安定多結晶SnOx薄膜が形成され
ることが報告されている。SnOを半導体材料として利用したデバイス例としては、Pb
O-SnOの傾斜組成膜によるヘテロ接合を利用した光電池とその製法に関するものがあ
る(特許文献6,7)程度で、導電膜や半導体材料として用いられるSnO2に比較して
SnOの利用や研究開発は殆どなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-181345号公報
【特許文献2】特開平11-87750号公報
【特許文献3】特開2008-235794号公報
【特許文献4】PCT/JP2009/62196
【特許文献5】特開2002-235177号公報
【特許文献6】米国特許第4099199号明細書
【特許文献7】米国特許第4199383号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Yanagi et al., Appl. Phys. Lett. 78, (2001) 1583-1585
【非特許文献2】H. Yanagi et al., Sol. State Comm. 121, (2002) 15-18
【非特許文献3】A. Kudo, Appl. Phys. Lett. 73, (1998) 220
【非特許文献4】K. Ueda, Appl. Phys. Lett. 77, (2000) 2701-2703
【非特許文献5】K. Ueda, Chem. Mater. 15, (2003) 3692-3695
【非特許文献6】Y. Ogo, Appl. Phys. Lett. 93, 032113 (2008)
【非特許文献7】X.Q.Pan et al.,J.Electroceram.,7,(2001) 35-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ZnOやCuInO2がpn接合を作製できる酸化物半導体として報告されているが、こ
れらの酸化物半導体は3eVを超えるワイドバンドギャップ半導体材料である。積層型の太
陽電池への酸化物の応用を考えた場合、2eV以上3eV未満のバンドギャップをもつ半導体材
料によるpn接合を作製する必要がある。
【0011】
酸化物において3eV以上のワイドバンドギャップ材料が多い理由は、価電子帯が電気陰性
度の強い酸素の2p軌道で形成されるためである。酸素2p軌道は電子を強く束縛するため結
合エネルギーが大きくなり、結果として真空準位からの価電子帯上端の位置が深くなるた
めにバンドギャップが大きくなる。
【0012】
一般に、太陽電池において、同一種類の半導体のp型薄層とn型薄層とが直接面接触して
pn接合を形成していることが望ましい。ホモ接合では、原理的に結晶格子間のミスマッ
チが存在しないために、格子歪のない良質な接合を形成することができる。しかし、その
ようなホモpn接合構造をもつ薄膜太陽電池は、その吸収係数の大きさにも関わらず、II
-VI族化合物半導体であるCdTe等ごく一部の材料に限られる。
【0013】
さらに、薄膜太陽電池のpn接合材料は、バンドギャップと太陽光のスペクトルとの整合
性をよくすることにより発電効率を向上することができ、薄膜化が容易であり、高温での
変換効率の低下が少なく、光吸収係数が大きく、薄膜でも太陽光を十分吸収できるなどの
特性が必要であるとともに、材料コスト及び成膜方法が安価である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
酸化第一錫(SnO)のバンドギャップは間接遷移で0.7eV、直接遷移で2.7eVであり、直
接遷移により2.7eV以上のエネルギーを持つ光を吸収する。よって、SnOのpn制御が
でき、ホモ接合ができれば半導体材料として太陽電池への応用が期待できる。本発明では
、3eV以下のバンドギャップを有するpn制御可能な酸化物半導体を実現するために間接
遷移で0.7eVのバンドギャップ、直接遷移で2.7eVのバンドギャップを有するp型酸化物半
導体SnOに対して電子ドーピングを行うことを特徴とする。
【0015】
SnOの結晶構造は、空間群P42/mnmであるSnO2とは異なり、空間群P4/nm
mである。SnOは酸化物であるが、その価電子帯上端は酸素2p軌道ではなくSn5s
軌道によって形成されていることが理論的、実験的に確かめられている(非特許文献8、
9)。
【0016】
【非特許文献8】G. W. Watson, J. Chem. Phys. 114, (2001) 758
【非特許文献9】Y. Ogo et al., Phys. Stat. Solidi (A) 206, (2009) 2187-2191
【0017】
本発明者らは、このSnOにAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオ
ンをドーピングすることによって、n型伝導性を示すSnOからなるn型半導体薄膜が得
られることを見出した。これにより、2eV以上3eV未満のバンドギャップを有し、かつpn
制御可能な酸化物半導体を提供することが可能になり、SnOからなるp型とn型のホモ
pn接合素子を実現した。
【0018】
ドーピングの方法は、SnOのSn2+イオンの一部をSb3+、Al3+、Ga3+、In3+か
ら選ばれる3価の陽イオンで置換することにより行う。置換のための3価陽イオンのドーピ
ング方法としては、例えば、これらの3価陽イオンをドナーとして添加したターゲットを
用いてパルスレーザ堆積法(PLD法)やスパッタ法等の物理的成膜法によってSnO薄膜を
作製する方法が挙げられる。ターゲットは、例えば、SnO粉末にAl3+、Ga3+、In
3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結することによ
り得られる。
【0019】
ホモpn接合素子は、SnO粉末を焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法によ
り成膜したp型SnO薄膜と、SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれ
る3価の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結したSnOターゲットを用いて物理
的成膜法により成膜したn型SnO薄膜とを積層することによって製造できる。
【0020】
なお、本明細書において、ターゲット中の添加物濃度を陽イオン中の添加物元素の割合で
表すものとする。つまり、Sbを加えた場合には、Sbの濃度は、100×nSb/(nSn+
nSb)%の式で表す。ここで、nSnとnSbはそれぞれSn原子とSb原子の数である
。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ホモpn接合をSnOを用いて形成できる。Cu(InGa)Se2を用
いた太陽電池上にSnOによるpn接合を作製することで2.7eV以上のエネルギーを持つ
光を発電に利用できるようになり、発電効率の向上がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Sb濃度0%、1%、5%、8%、10%のターゲットを使用して成膜したSnO薄膜のXRDパターン。図1(a)は、基板面に平行な結晶面からの回折を観測する通常の2θ-θスキャンによるXRDパターン。図1(b)は、入射角を0.5°に固定して検出器の角度2θを走査した場合のXRDパターン。
【図2】Sb濃度0%、1%、5%、8%、10%のターゲットを使用して成膜したSnO薄膜の室温から77Kまでの温度域でのキャリア濃度の温度依存性を示すグラフ。
【図3】SbをドープしたSnO薄膜につてのO1s、Sb3d3/2内殻準位のXPS測定スペクトル。
【図4】p型SnOとn型SnOによるホモ接合ダイオードの積層断面概念図。
【図5】実施例3で製造したp型SnOとn型SnO によるホモ接合ダイオードの電流-電圧特性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。まず、本発明の第1の
実施形態として、p型SnOの成膜とSnOへの電子ドーピングを行ってn型SnOを成
膜する方法を、そして、第2の実施形態として、ホモ接合ダイオードについて説明する。
【0024】
電子ドーピングのための不純物にはAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の
陽イオンを用いる。これらの不純物は物理的成膜法に用いるターゲット作製の時点でSn
Oに添加する。具体的には、SnO粉末とSb2O3、Al2O3、Ga2O3、In2O3等の
上記の3価の陽イオン源の酸化物粉末を混合し焼結する。これらの酸化物粉末は市販品と
して入手できる。ターゲットに添加混合する必要量については成膜条件等により異なるの
で、成膜条件に応じてSnO薄膜がn型導電性を示すようになる適切な条件を選択する。
焼結中の雰囲気はSnO組成の焼結体が得られるように調整する。このような不純物元素
を所望量含有するターゲットを使用し、PLD法やスパッタ法などによりSnO薄膜を成膜
する。また、Sb、Al、Ga、In原子を含むガス雰囲気でスパッタして、成膜する方
法でもよい。
【0025】
ここで、電子ドープのための不純物となる3価の陽イオンはSn2+のアレニウスイオン半
径0.93Å未満のものとする。非特許文献10によると、Sb3+、Al3+、Ga3+、In3+
のイオン半径は、それぞれ0.76Å, 0.51Å, 0.62Å, 0.81Åであり、Sn2+イオンと置換
し得る。しかし、比較例1で用いたBi3+のイオン半径は0.96ÅとSn2+のイオン半径よ
りも大きく、SnOに対しては電子ドーパントとならない。
【0026】
【非特許文献10】R.D.Shannon and C.T.Prewitt,Acta Cryst.B25,(1969) 925
【0027】
PLD法の好ましい条件としては、p型SnOを成膜する場合も、n型SnOを成膜する場
合も、300℃以上600℃未満に保持した(001)YSZ単結晶基板上にSnOの焼結体をターゲッ
トとして用い、酸素分圧を1×10-2Pa以上1×10-1Pa未満として成膜する。酸素ガスの分圧
の制御は、流量計を通して、O2ガスを導入して行う。
【0028】
基板温度が300℃未満では、SnO相が得られず、基板温度が600℃以上では、SnO相は
得られるものの、配向性が悪くなりはじめ、基板温度700℃の場合には成長速度が0.1nmt/
min以下になりSnO膜が成長しなくなる。これはSnOの融点が700〜950℃であり、700
℃以上ではSnOが分解することが理由であると考えられる。成膜時の酸素分圧が1×10-
2Pa未満ではSnO相は存在するものの、膜内に金属Sn(Sn0)が含まれる。また、1
×10-1Pa以上の酸素分圧では無配向SnO層が成長する。このように、基板上に堆積する
Snの酸化度合いを基板温度及び雰囲気酸素分圧により制御することによって、SnO中
のSn4+及びSn0(錫金属)の含有量が合計で10原子%未満のSnO薄膜を成膜する
ことができる。
【0029】
図4に、SnOからなるp型半導体薄膜と上記のn型半導体薄膜とを積層したホモpn接
合素子からなるダイオードの積層構造の一例を示す。SnOホモ接合ダイオードは、p-S
nO層(1)、p−-SnO層(2)、n-SnO層(3)からなる積層を基板(4)に成
膜した背面電極層(5)の上に形成し、SnOホモ接合層にオーミック接触する最上部の
電極(6)と背面電極層(5)に接触する電極(7)を形成する。不純物濃度の小さいp
−-SnO層(2)は、整流特性を改善するために用いられる。図4に示す構造に限らず
、ホモpn接合を備えていれば、他の積層構造や異なるキャリア濃度で作製することも可
能である。
【0030】
背面電極層(5)としては、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、Alドープ酸
化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、又は、Bドープ酸化亜
鉛(ZnO:B)等に代表される透明導電性酸化物電極材料を用いることができる。電極
(6)、電極(7)に用いられる材料は、導電性を有していれば特に限定されないが、好
適には、Au/Niを用いる。
【0031】
p-SnO層(1)の正孔濃度範囲は1017cm-3以上1019cm-3未満、好ましい膜厚範囲は100n
m以上である。p−-SnO層(2)の正孔濃度範囲は1016cm-3未満、好ましい膜厚範囲は1
00nm以上200nm未満である。n-SnO層(3)の電子濃度範囲は1017cm-3以上1019cm-3未
満、好ましい膜厚範囲は50nm以上200nm未満である。
【0032】
ホモ接合層の製造方法としては、PLD法、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、
スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、ス
クリーン印刷法等の作製方法を用いることができる。
【実施例1】
【0033】
SnO粉末のみ、及びSnO粉末にSb2O3粉末を添加混合して作製したターゲットを用
いて、PLD法により(001)YSZ単結晶基板上にSnO薄膜を成膜した。ターゲット中のSb
濃度は、前記の濃度式で0%, 1%, 5%, 8%, 10%とした。
【0034】
SnO薄膜を作製した際の成膜条件は基板温度550℃、酸素分圧4×10-2Paである。図1に
、Sb濃度 0%, 1%, 5%, 8%, 10%のターゲットを使用した場合における薄膜のX線回折(XR
D)パターンを示す。Sb濃度にかかわらず、XRDパターンではSnOの00l (l = 自然数)
面に由来するピークのみが観測され、作製した薄膜がc軸配向していることを示している
。また、斜入射X線回折(GIXRD)パターンでは試料が配向膜であるために明瞭な回折は観測
されていない。微弱な回折線はSnOに帰属されるものであり、配向していないSnO結
晶子からの回折である。
【0035】
図2に、これらの薄膜についてのHAll測定結果を示す。HAll測定はvan der Pauw電極配置
を用いて、温度は室温から77Kの範囲で行った。表1に、550℃で成膜した薄膜の室温での
電気特性を示している。
【0036】
【表1】
【0037】
550℃で成膜した薄膜の場合、ターゲット中のSbの添加量の増加とともに正孔濃度が減
少し、8%以上のSb濃度を有するターゲットを使った場合にn型電子伝導性を示すSnO
薄膜が得られた。また、図2のキャリア濃度の温度変化に示すとおり、キャリア濃度は熱
活性化型を示し、8%以上のSb濃度を有するターゲットを使った場合には室温から77Kの
温度範囲でn型を示した。以上の結果からSnOはSbを不純物として含有させることに
より導電型をp型からn型に制御できることが分かる。
【0038】
ここで、ターゲット中のSb添加量が1%から5%の時にp型伝導性を示した理由は、Sbの
蒸気圧が高いために550℃の高温成膜によってSbが蒸発してドーピングが進行していな
いためである。
【実施例2】
【0039】
Sb濃度5%のターゲットを使用して、基板温度を400℃とした以外は実施例1と同じ条件
でSnO薄膜を成膜した。図3に、Sbを5%添加したターゲットを用いて400℃で成膜し
た薄膜中の、XPSによるSbの分析結果を示す。Sb3d3/2のピーク面積から、薄膜中には約
7×1019cm-3のSbが含まれていたと考えられる。この薄膜はHAll測定の結果、n型伝導
性を示し、電子濃度は9.9×1018cm-3、移動度は0.4cm2/Vsであった。
[比較例1]
【0040】
比較例として、電子ド―プのための不純物にBi3+を用いた場合について示す。Sb3+
の場合と同様に、Bi2O3粉末とSnO粉末をBi濃度が10%になるように混合して焼結
しターゲットを作製した。このターゲットを用いてPLD法によりSnO薄膜を作製した。
その際の成膜条件は基板温度550℃、酸素分圧4×10-2Paとし、実施例1と同じ条件とした
。
【0041】
しかし、HAll測定の結果、得られたSnO薄膜はp型伝導を示し、正孔濃度1.7×1017cm-
3、移動度1.2cm2/Vsであった。Biをターゲットに添加した場合の正孔濃度は、何も添加
しないSnOターゲットを使用した場合のSnOの正孔濃度2.5×1017cm-3とほとんど変
化がないことから、物理的成膜法では、電子ドープのための不純物として働かないことを
意味する。これは、Bi3+は、Sn2+のアレニウスイオン半径0.93Å未満という要件を満
たしていないことが原因と考えられる。
【実施例3】
【0042】
図4に示す構造のSnOホモ接合によるダイオードを作製した。本実施例で作製したホモ
接合は、3×1017cm-3の正孔濃度を有するp-SnO層(1)と、1016cm-3以下の正孔濃度
を有するp−-SnO層(2)と、1019cm-3の電子濃度を有するn-SnO:Sb層(3)を
備える。p−-SnO層のみでは直列抵抗が増加するため、100nmのp-SnO層(1)と15
0nmのp−-SnO層(2)を用いてp-p−-n接合ダイオードを作製した。
【0043】
1016cm-3以下の小さい正孔濃度を有するp−-SnO層(2)を用いることにより空乏層の
厚さが増加し整流特性が改善される。n-SnO:Sb層(3)の電子濃度は1019cm-3と高
濃度であるため、n層側の空乏層は2nm未満であり、pn接合の空乏層の大半はp層側に
伸びる。3×1017cm-3の正孔濃度を有するp-SnO層(1)をn-SnO層(3)と接合さ
せた場合、p層側の空乏層は約60nmである。ここで、正孔濃度1016cm-3程度のp−-Sn
O層を導入することにより空乏層は250nmまで増加し、ダイオードの整流性が向上する。
【0044】
基板にはYSZ001単結晶基板(4)を用いた。PLD法により、まず、下部背面電極とするた
めに透明導電膜であるSnドープIn2O3(ITO)層(5)を成膜した。その後、100nm
のp-SnO層(1)、150nmのp−-SnO層(2)、100nmのn-SnO:Sb層(3)の
順に積層した。ここで、各層の成膜条件は以下のとおりである。p-SnO層(1)は、不
純物を添加しないSnO粉末の焼結体をターゲットとして、基板温度550℃、酸素分圧4×
10-2Paとした。p-SnO層(1)を成膜後に、p−-SnO層(2)は、不純物を添加しな
いターゲットをそのまま用い、基板温度550℃、酸素分圧4×10-1Paとして成膜した。n層
(3)は、不純物を添加しないターゲットに取り替えて、前記の濃度式で5%のSb濃度と
なるようにSb2O3粉末を添加したSnO粉末の焼結体をターゲットとして基板温度400
℃、 酸素分圧4×10-2Paの条件で成膜した 。
【0045】
図4に示すメサ構造を作製するために、積層膜上にフォトリソグラフィによりエッチング
のための保護膜を作製した。その後、Arイオンによる反応性イオンエッチング装置を用い
て不要な部分のSnO層を削り取り、ITO層を露出させた。最後に電子線加熱蒸着法を
用いて、最上部のn型SnO層とITO層の上にそれぞれAu/Ni電極(6、7)を形
成した。
【0046】
図5に,SnO薄膜によるホモ接合ダイオードの電流電圧特性を示す。-2Vの逆バイアス
時には1mA以下の電流しか流れていないのに対して、+2Vの順方向バイアス時には10mA以上
の電流が得られることからダイオードとして動作していることが分かる。以上により、S
nO薄膜に対する電子ドーピングが成されていること、及びSnO薄膜を用いてホモ接合
ダイオードが作製できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
SnO薄膜によるpn接合が作製できたことで、薄膜太陽電池にSnO層による約2.7eV
以上のエネルギーを持つ光を吸収する発電層を追加することが可能になり、発電効率の向
上が期待できる。また、安価な材料を用いてホモ接合を作成できるので、製造コストの低
い、薄膜太陽電池を提供できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化第一錫(SnO)からなるn型伝導性半導体薄膜、該n型伝導性半導体薄
膜を活性層に用いたホモpn接合素子、及び該ホモpn接合素子を用いた薄膜太陽電池、
並びにn型半導体膜及びホモpn接合素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の軽減のためにクリーンエネルギーである太陽光を発電に利用する太陽電
池が活発に研究されている。太陽電池の更なる発電効率向上のため、互いに異なる吸収帯
を有する半導体材料を積層し、pn接合した薄膜太陽電池の開発がなされている(特許文
献1,2,3)。薄膜太陽電池に用いられる半導体材料の代表例はCu(InGa)Se2
であるが、そのバンドギャップは約1.2eVである。
【0003】
したがって、2eV以上のバンドギャップを有する半導体を用いてCu(InGa)Se2等に
積層したpn接合を形成することで、現在は発電に寄与していない波長の太陽光を発電に
用いることができるようになる。そこで、ワイドギャップ半導体を作ることが容易な酸化
物半導体の中から2eV以上3eV未満のバンドギャップを有するpn制御可能な半導体材料の
探索が行われている。
【0004】
本発明者らは、2001年にpn制御可能な酸化物半導体CuInO2を発表した(非特許文
献1,2)。しかし、そのバンドギャップは約3.9eVと大きく、太陽電池の活性層とする
のは適当ではない。
【0005】
また、1998年から2003年にかけて、本発明者らは、SrCu2O2やLaCuOCh(Ch=S,
Se,Te)等のp型酸化物半導体を報告してきた(非特許文献3〜5)。しかし、これらのp型
酸化物半導体に対する電子ドーピングは報告されていない。
【0006】
本発明者らは、2008年にSnOをチャネル層とした薄膜トランジスタを報告し(非特許文
献6)、さらに、気相法において、SnOをターゲットとして用いて、基板上に堆積する
Snの酸化度合いを基板温度及び雰囲気酸素分圧により制御し、SnO中のSn4+及びS
n0(錫金属)の含有量が合計で10原子%未満、すなわちSn2+イオンの含有量が90
原子%以上のp型SnO薄膜を成膜する方法、及び該p型SnO薄膜をチャネル層とした
薄膜トランジスタに関する発明を特許出願した(特許文献4)。
【0007】
酸化第一錫(SnO)については、p型半導体であることが知られており(非特許文献7
、特許文献5)、非特許文献7では、SnO2原料を電子ビーム蒸発させてサファイア基
板に成膜すると基板温度に応じてアモルファス又は準安定多結晶SnOx薄膜が形成され
ることが報告されている。SnOを半導体材料として利用したデバイス例としては、Pb
O-SnOの傾斜組成膜によるヘテロ接合を利用した光電池とその製法に関するものがあ
る(特許文献6,7)程度で、導電膜や半導体材料として用いられるSnO2に比較して
SnOの利用や研究開発は殆どなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-181345号公報
【特許文献2】特開平11-87750号公報
【特許文献3】特開2008-235794号公報
【特許文献4】PCT/JP2009/62196
【特許文献5】特開2002-235177号公報
【特許文献6】米国特許第4099199号明細書
【特許文献7】米国特許第4199383号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Yanagi et al., Appl. Phys. Lett. 78, (2001) 1583-1585
【非特許文献2】H. Yanagi et al., Sol. State Comm. 121, (2002) 15-18
【非特許文献3】A. Kudo, Appl. Phys. Lett. 73, (1998) 220
【非特許文献4】K. Ueda, Appl. Phys. Lett. 77, (2000) 2701-2703
【非特許文献5】K. Ueda, Chem. Mater. 15, (2003) 3692-3695
【非特許文献6】Y. Ogo, Appl. Phys. Lett. 93, 032113 (2008)
【非特許文献7】X.Q.Pan et al.,J.Electroceram.,7,(2001) 35-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ZnOやCuInO2がpn接合を作製できる酸化物半導体として報告されているが、こ
れらの酸化物半導体は3eVを超えるワイドバンドギャップ半導体材料である。積層型の太
陽電池への酸化物の応用を考えた場合、2eV以上3eV未満のバンドギャップをもつ半導体材
料によるpn接合を作製する必要がある。
【0011】
酸化物において3eV以上のワイドバンドギャップ材料が多い理由は、価電子帯が電気陰性
度の強い酸素の2p軌道で形成されるためである。酸素2p軌道は電子を強く束縛するため結
合エネルギーが大きくなり、結果として真空準位からの価電子帯上端の位置が深くなるた
めにバンドギャップが大きくなる。
【0012】
一般に、太陽電池において、同一種類の半導体のp型薄層とn型薄層とが直接面接触して
pn接合を形成していることが望ましい。ホモ接合では、原理的に結晶格子間のミスマッ
チが存在しないために、格子歪のない良質な接合を形成することができる。しかし、その
ようなホモpn接合構造をもつ薄膜太陽電池は、その吸収係数の大きさにも関わらず、II
-VI族化合物半導体であるCdTe等ごく一部の材料に限られる。
【0013】
さらに、薄膜太陽電池のpn接合材料は、バンドギャップと太陽光のスペクトルとの整合
性をよくすることにより発電効率を向上することができ、薄膜化が容易であり、高温での
変換効率の低下が少なく、光吸収係数が大きく、薄膜でも太陽光を十分吸収できるなどの
特性が必要であるとともに、材料コスト及び成膜方法が安価である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
酸化第一錫(SnO)のバンドギャップは間接遷移で0.7eV、直接遷移で2.7eVであり、直
接遷移により2.7eV以上のエネルギーを持つ光を吸収する。よって、SnOのpn制御が
でき、ホモ接合ができれば半導体材料として太陽電池への応用が期待できる。本発明では
、3eV以下のバンドギャップを有するpn制御可能な酸化物半導体を実現するために間接
遷移で0.7eVのバンドギャップ、直接遷移で2.7eVのバンドギャップを有するp型酸化物半
導体SnOに対して電子ドーピングを行うことを特徴とする。
【0015】
SnOの結晶構造は、空間群P42/mnmであるSnO2とは異なり、空間群P4/nm
mである。SnOは酸化物であるが、その価電子帯上端は酸素2p軌道ではなくSn5s
軌道によって形成されていることが理論的、実験的に確かめられている(非特許文献8、
9)。
【0016】
【非特許文献8】G. W. Watson, J. Chem. Phys. 114, (2001) 758
【非特許文献9】Y. Ogo et al., Phys. Stat. Solidi (A) 206, (2009) 2187-2191
【0017】
本発明者らは、このSnOにAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオ
ンをドーピングすることによって、n型伝導性を示すSnOからなるn型半導体薄膜が得
られることを見出した。これにより、2eV以上3eV未満のバンドギャップを有し、かつpn
制御可能な酸化物半導体を提供することが可能になり、SnOからなるp型とn型のホモ
pn接合素子を実現した。
【0018】
ドーピングの方法は、SnOのSn2+イオンの一部をSb3+、Al3+、Ga3+、In3+か
ら選ばれる3価の陽イオンで置換することにより行う。置換のための3価陽イオンのドーピ
ング方法としては、例えば、これらの3価陽イオンをドナーとして添加したターゲットを
用いてパルスレーザ堆積法(PLD法)やスパッタ法等の物理的成膜法によってSnO薄膜を
作製する方法が挙げられる。ターゲットは、例えば、SnO粉末にAl3+、Ga3+、In
3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結することによ
り得られる。
【0019】
ホモpn接合素子は、SnO粉末を焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法によ
り成膜したp型SnO薄膜と、SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれ
る3価の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結したSnOターゲットを用いて物理
的成膜法により成膜したn型SnO薄膜とを積層することによって製造できる。
【0020】
なお、本明細書において、ターゲット中の添加物濃度を陽イオン中の添加物元素の割合で
表すものとする。つまり、Sbを加えた場合には、Sbの濃度は、100×nSb/(nSn+
nSb)%の式で表す。ここで、nSnとnSbはそれぞれSn原子とSb原子の数である
。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ホモpn接合をSnOを用いて形成できる。Cu(InGa)Se2を用
いた太陽電池上にSnOによるpn接合を作製することで2.7eV以上のエネルギーを持つ
光を発電に利用できるようになり、発電効率の向上がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Sb濃度0%、1%、5%、8%、10%のターゲットを使用して成膜したSnO薄膜のXRDパターン。図1(a)は、基板面に平行な結晶面からの回折を観測する通常の2θ-θスキャンによるXRDパターン。図1(b)は、入射角を0.5°に固定して検出器の角度2θを走査した場合のXRDパターン。
【図2】Sb濃度0%、1%、5%、8%、10%のターゲットを使用して成膜したSnO薄膜の室温から77Kまでの温度域でのキャリア濃度の温度依存性を示すグラフ。
【図3】SbをドープしたSnO薄膜につてのO1s、Sb3d3/2内殻準位のXPS測定スペクトル。
【図4】p型SnOとn型SnOによるホモ接合ダイオードの積層断面概念図。
【図5】実施例3で製造したp型SnOとn型SnO によるホモ接合ダイオードの電流-電圧特性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。まず、本発明の第1の
実施形態として、p型SnOの成膜とSnOへの電子ドーピングを行ってn型SnOを成
膜する方法を、そして、第2の実施形態として、ホモ接合ダイオードについて説明する。
【0024】
電子ドーピングのための不純物にはAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の
陽イオンを用いる。これらの不純物は物理的成膜法に用いるターゲット作製の時点でSn
Oに添加する。具体的には、SnO粉末とSb2O3、Al2O3、Ga2O3、In2O3等の
上記の3価の陽イオン源の酸化物粉末を混合し焼結する。これらの酸化物粉末は市販品と
して入手できる。ターゲットに添加混合する必要量については成膜条件等により異なるの
で、成膜条件に応じてSnO薄膜がn型導電性を示すようになる適切な条件を選択する。
焼結中の雰囲気はSnO組成の焼結体が得られるように調整する。このような不純物元素
を所望量含有するターゲットを使用し、PLD法やスパッタ法などによりSnO薄膜を成膜
する。また、Sb、Al、Ga、In原子を含むガス雰囲気でスパッタして、成膜する方
法でもよい。
【0025】
ここで、電子ドープのための不純物となる3価の陽イオンはSn2+のアレニウスイオン半
径0.93Å未満のものとする。非特許文献10によると、Sb3+、Al3+、Ga3+、In3+
のイオン半径は、それぞれ0.76Å, 0.51Å, 0.62Å, 0.81Åであり、Sn2+イオンと置換
し得る。しかし、比較例1で用いたBi3+のイオン半径は0.96ÅとSn2+のイオン半径よ
りも大きく、SnOに対しては電子ドーパントとならない。
【0026】
【非特許文献10】R.D.Shannon and C.T.Prewitt,Acta Cryst.B25,(1969) 925
【0027】
PLD法の好ましい条件としては、p型SnOを成膜する場合も、n型SnOを成膜する場
合も、300℃以上600℃未満に保持した(001)YSZ単結晶基板上にSnOの焼結体をターゲッ
トとして用い、酸素分圧を1×10-2Pa以上1×10-1Pa未満として成膜する。酸素ガスの分圧
の制御は、流量計を通して、O2ガスを導入して行う。
【0028】
基板温度が300℃未満では、SnO相が得られず、基板温度が600℃以上では、SnO相は
得られるものの、配向性が悪くなりはじめ、基板温度700℃の場合には成長速度が0.1nmt/
min以下になりSnO膜が成長しなくなる。これはSnOの融点が700〜950℃であり、700
℃以上ではSnOが分解することが理由であると考えられる。成膜時の酸素分圧が1×10-
2Pa未満ではSnO相は存在するものの、膜内に金属Sn(Sn0)が含まれる。また、1
×10-1Pa以上の酸素分圧では無配向SnO層が成長する。このように、基板上に堆積する
Snの酸化度合いを基板温度及び雰囲気酸素分圧により制御することによって、SnO中
のSn4+及びSn0(錫金属)の含有量が合計で10原子%未満のSnO薄膜を成膜する
ことができる。
【0029】
図4に、SnOからなるp型半導体薄膜と上記のn型半導体薄膜とを積層したホモpn接
合素子からなるダイオードの積層構造の一例を示す。SnOホモ接合ダイオードは、p-S
nO層(1)、p−-SnO層(2)、n-SnO層(3)からなる積層を基板(4)に成
膜した背面電極層(5)の上に形成し、SnOホモ接合層にオーミック接触する最上部の
電極(6)と背面電極層(5)に接触する電極(7)を形成する。不純物濃度の小さいp
−-SnO層(2)は、整流特性を改善するために用いられる。図4に示す構造に限らず
、ホモpn接合を備えていれば、他の積層構造や異なるキャリア濃度で作製することも可
能である。
【0030】
背面電極層(5)としては、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、Alドープ酸
化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、又は、Bドープ酸化亜
鉛(ZnO:B)等に代表される透明導電性酸化物電極材料を用いることができる。電極
(6)、電極(7)に用いられる材料は、導電性を有していれば特に限定されないが、好
適には、Au/Niを用いる。
【0031】
p-SnO層(1)の正孔濃度範囲は1017cm-3以上1019cm-3未満、好ましい膜厚範囲は100n
m以上である。p−-SnO層(2)の正孔濃度範囲は1016cm-3未満、好ましい膜厚範囲は1
00nm以上200nm未満である。n-SnO層(3)の電子濃度範囲は1017cm-3以上1019cm-3未
満、好ましい膜厚範囲は50nm以上200nm未満である。
【0032】
ホモ接合層の製造方法としては、PLD法、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、
スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、ス
クリーン印刷法等の作製方法を用いることができる。
【実施例1】
【0033】
SnO粉末のみ、及びSnO粉末にSb2O3粉末を添加混合して作製したターゲットを用
いて、PLD法により(001)YSZ単結晶基板上にSnO薄膜を成膜した。ターゲット中のSb
濃度は、前記の濃度式で0%, 1%, 5%, 8%, 10%とした。
【0034】
SnO薄膜を作製した際の成膜条件は基板温度550℃、酸素分圧4×10-2Paである。図1に
、Sb濃度 0%, 1%, 5%, 8%, 10%のターゲットを使用した場合における薄膜のX線回折(XR
D)パターンを示す。Sb濃度にかかわらず、XRDパターンではSnOの00l (l = 自然数)
面に由来するピークのみが観測され、作製した薄膜がc軸配向していることを示している
。また、斜入射X線回折(GIXRD)パターンでは試料が配向膜であるために明瞭な回折は観測
されていない。微弱な回折線はSnOに帰属されるものであり、配向していないSnO結
晶子からの回折である。
【0035】
図2に、これらの薄膜についてのHAll測定結果を示す。HAll測定はvan der Pauw電極配置
を用いて、温度は室温から77Kの範囲で行った。表1に、550℃で成膜した薄膜の室温での
電気特性を示している。
【0036】
【表1】
【0037】
550℃で成膜した薄膜の場合、ターゲット中のSbの添加量の増加とともに正孔濃度が減
少し、8%以上のSb濃度を有するターゲットを使った場合にn型電子伝導性を示すSnO
薄膜が得られた。また、図2のキャリア濃度の温度変化に示すとおり、キャリア濃度は熱
活性化型を示し、8%以上のSb濃度を有するターゲットを使った場合には室温から77Kの
温度範囲でn型を示した。以上の結果からSnOはSbを不純物として含有させることに
より導電型をp型からn型に制御できることが分かる。
【0038】
ここで、ターゲット中のSb添加量が1%から5%の時にp型伝導性を示した理由は、Sbの
蒸気圧が高いために550℃の高温成膜によってSbが蒸発してドーピングが進行していな
いためである。
【実施例2】
【0039】
Sb濃度5%のターゲットを使用して、基板温度を400℃とした以外は実施例1と同じ条件
でSnO薄膜を成膜した。図3に、Sbを5%添加したターゲットを用いて400℃で成膜し
た薄膜中の、XPSによるSbの分析結果を示す。Sb3d3/2のピーク面積から、薄膜中には約
7×1019cm-3のSbが含まれていたと考えられる。この薄膜はHAll測定の結果、n型伝導
性を示し、電子濃度は9.9×1018cm-3、移動度は0.4cm2/Vsであった。
[比較例1]
【0040】
比較例として、電子ド―プのための不純物にBi3+を用いた場合について示す。Sb3+
の場合と同様に、Bi2O3粉末とSnO粉末をBi濃度が10%になるように混合して焼結
しターゲットを作製した。このターゲットを用いてPLD法によりSnO薄膜を作製した。
その際の成膜条件は基板温度550℃、酸素分圧4×10-2Paとし、実施例1と同じ条件とした
。
【0041】
しかし、HAll測定の結果、得られたSnO薄膜はp型伝導を示し、正孔濃度1.7×1017cm-
3、移動度1.2cm2/Vsであった。Biをターゲットに添加した場合の正孔濃度は、何も添加
しないSnOターゲットを使用した場合のSnOの正孔濃度2.5×1017cm-3とほとんど変
化がないことから、物理的成膜法では、電子ドープのための不純物として働かないことを
意味する。これは、Bi3+は、Sn2+のアレニウスイオン半径0.93Å未満という要件を満
たしていないことが原因と考えられる。
【実施例3】
【0042】
図4に示す構造のSnOホモ接合によるダイオードを作製した。本実施例で作製したホモ
接合は、3×1017cm-3の正孔濃度を有するp-SnO層(1)と、1016cm-3以下の正孔濃度
を有するp−-SnO層(2)と、1019cm-3の電子濃度を有するn-SnO:Sb層(3)を
備える。p−-SnO層のみでは直列抵抗が増加するため、100nmのp-SnO層(1)と15
0nmのp−-SnO層(2)を用いてp-p−-n接合ダイオードを作製した。
【0043】
1016cm-3以下の小さい正孔濃度を有するp−-SnO層(2)を用いることにより空乏層の
厚さが増加し整流特性が改善される。n-SnO:Sb層(3)の電子濃度は1019cm-3と高
濃度であるため、n層側の空乏層は2nm未満であり、pn接合の空乏層の大半はp層側に
伸びる。3×1017cm-3の正孔濃度を有するp-SnO層(1)をn-SnO層(3)と接合さ
せた場合、p層側の空乏層は約60nmである。ここで、正孔濃度1016cm-3程度のp−-Sn
O層を導入することにより空乏層は250nmまで増加し、ダイオードの整流性が向上する。
【0044】
基板にはYSZ001単結晶基板(4)を用いた。PLD法により、まず、下部背面電極とするた
めに透明導電膜であるSnドープIn2O3(ITO)層(5)を成膜した。その後、100nm
のp-SnO層(1)、150nmのp−-SnO層(2)、100nmのn-SnO:Sb層(3)の
順に積層した。ここで、各層の成膜条件は以下のとおりである。p-SnO層(1)は、不
純物を添加しないSnO粉末の焼結体をターゲットとして、基板温度550℃、酸素分圧4×
10-2Paとした。p-SnO層(1)を成膜後に、p−-SnO層(2)は、不純物を添加しな
いターゲットをそのまま用い、基板温度550℃、酸素分圧4×10-1Paとして成膜した。n層
(3)は、不純物を添加しないターゲットに取り替えて、前記の濃度式で5%のSb濃度と
なるようにSb2O3粉末を添加したSnO粉末の焼結体をターゲットとして基板温度400
℃、 酸素分圧4×10-2Paの条件で成膜した 。
【0045】
図4に示すメサ構造を作製するために、積層膜上にフォトリソグラフィによりエッチング
のための保護膜を作製した。その後、Arイオンによる反応性イオンエッチング装置を用い
て不要な部分のSnO層を削り取り、ITO層を露出させた。最後に電子線加熱蒸着法を
用いて、最上部のn型SnO層とITO層の上にそれぞれAu/Ni電極(6、7)を形
成した。
【0046】
図5に,SnO薄膜によるホモ接合ダイオードの電流電圧特性を示す。-2Vの逆バイアス
時には1mA以下の電流しか流れていないのに対して、+2Vの順方向バイアス時には10mA以上
の電流が得られることからダイオードとして動作していることが分かる。以上により、S
nO薄膜に対する電子ドーピングが成されていること、及びSnO薄膜を用いてホモ接合
ダイオードが作製できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
SnO薄膜によるpn接合が作製できたことで、薄膜太陽電池にSnO層による約2.7eV
以上のエネルギーを持つ光を吸収する発電層を追加することが可能になり、発電効率の向
上が期待できる。また、安価な材料を用いてホモ接合を作成できるので、製造コストの低
い、薄膜太陽電池を提供できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化第一錫(SnO)にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオンを
不純物として含有し、n型伝導性を示すことを特徴とするSnOからなるn型半導体薄膜
。
【請求項2】
SnOからなるp型半導体薄膜と請求項1記載のn型半導体薄膜とを積層したホモpn接
合素子。
【請求項3】
請求項2記載のホモpn接合素子を用いた薄膜太陽電池。
【請求項4】
SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオン源の酸化物粉
末を添加混合して焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法により成膜することを
特徴とする請求項1に記載のSnOからなるn型半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
酸化第一錫(SnO)粉末を焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法により成膜
したp型SnO薄膜と、SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価
の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜
法により成膜したn型SnO薄膜とを積層してホモpn接合を形成することを特徴とする
請求項2に記載のホモpn接合素子の製造方法。
【請求項1】
酸化第一錫(SnO)にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオンを
不純物として含有し、n型伝導性を示すことを特徴とするSnOからなるn型半導体薄膜
。
【請求項2】
SnOからなるp型半導体薄膜と請求項1記載のn型半導体薄膜とを積層したホモpn接
合素子。
【請求項3】
請求項2記載のホモpn接合素子を用いた薄膜太陽電池。
【請求項4】
SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価の陽イオン源の酸化物粉
末を添加混合して焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法により成膜することを
特徴とする請求項1に記載のSnOからなるn型半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
酸化第一錫(SnO)粉末を焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜法により成膜
したp型SnO薄膜と、SnO粉末にAl3+、Ga3+、In3+、Sb3+から選ばれる3価
の陽イオン源の酸化物粉末を添加混合して焼結したSnOターゲットを用いて物理的成膜
法により成膜したn型SnO薄膜とを積層してホモpn接合を形成することを特徴とする
請求項2に記載のホモpn接合素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2011−119547(P2011−119547A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276867(P2009−276867)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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