説明

n型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンの製造方法

【課題】本発明の目的は、アルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンを提供することである。また、アルミニウムを含有するシリコンから精製されたリン添加シリコンを経済的に製造する方法を提供する。
【解決手段】質量濃度が、0.001〜1.0ppmのアルミニウムおよび0.0011〜1.1ppmのリンを含有し、かつリン/アルミニウム質量濃度比が1.1以上であるn型太陽電池用シリコンを提供する。また、アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物にリンを添加することにより、又は、アルミニウムを含有するシリコンにリンを添加して混合物を得、得られた混合物を加熱溶融することによって、アルミニウム、リン及びシリコンを含有する溶融混合物を調製した後、鋳型内において一方向の温度勾配の下で、前記溶融混合物を凝固させるリン添加シリコンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一にn型太陽電池用シリコン、および第二にリン添加シリコンの製造方法に関し、詳しくは特定濃度でアルミニウム及びリンを含有し、n型太陽電池用途に適したシリコン、およびリン添加シリコンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンにリンを添加して得られたリン添加シリコンは、n型半導体であって、太陽電池の原材料として有用である。かかるリン添加シリコンは、加熱溶融状態のシリコンにリンを添加することにより製造することができる。また、シリコンにリンを添加して混合物を得、得られた混合物を加熱溶融させても製造することができる。
【0003】
一方、シリコンの製造方法として、ハロゲン化ケイ素を金属アルミニウムにより還元する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる方法により得られる還元シリコンには、不純物としてアルミニウムが含まれる可能性がある。また、還元シリコンがアルミニウムを含有する場合、かかるアルミニウムを含有する還元シリコンはp型の特性を示し、太陽電池特性も良好とは言えず、このままでは太陽電池の原材料として用いるのは困難である。そのため、例えば前記アルミニウムを含有する還元シリコンを加熱溶融し、鋳型内で温度勾配を一方向に設けた状態で凝固させた後、アルミニウムが偏析し、濃縮した領域を除去する、いわゆる方向凝固法により精製してから用いることが考えられる。
【0004】
また、方向凝固法で製造されるアルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンは知られていない。精製された還元シリコンにリンを添加する方法も、知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−64006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの課題は、アルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンを提供することである。
本発明の他の課題は、アルミニウムを含有するシリコンから精製されたリン添加シリコンを経済的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を見出した。(a)アルミニウムを含有する加熱溶融したシリコンを方向凝固法により精製する前または後のいずれかにリンを添加すると、精製されたリン添加シリコンが得られる。
(b)特に、リンを添加した後にリン添加シリコンを一方向に凝固させると、凝固後のシリコンにおいて、アルミニウム等の不純物は冷却過程で温度勾配の低温側に位置していた領域から高温側に位置していた領域に向かって偏析するのに対し、リンの分布には偏析が比較的少ない。
(c)アルミニウムを含有する加熱溶融したシリコンを方向凝固法により精製する際に、シリコン中のリン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加すると、方向凝固法による精製後はn型太陽電池用シリコンが得られる。
(d)特に、質量濃度が、0.001〜1.0ppmのアルミニウムおよび0.0011〜1.1ppmのリンを含有し、かつ、リン/アルミニウム質量濃度比が1.1以上であるn型太陽電池用シリコンは、太陽電池の原材料として有用である。
本発明は、これらの知見により完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明のn型太陽電池用シリコンは、以下の構成からなる。
(1)質量濃度が、0.001〜1.0ppmのアルミニウムおよび0.0011〜1.1ppmのリンを含有し、かつリン/アルミニウム質量濃度比が1.1以上であることを特徴とするn型太陽電池用シリコン。
(2)アルミニウムを含有するシリコンに、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加して混合物を得、得られた混合物を加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物を鋳型内において一方向の温度勾配の下で凝固させることにより得られた前記(1)記載のシリコン。
(3)アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物に、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加して溶融混合物を得、得られた溶融混合物を、鋳型内において一方向の温度勾配の下で凝固させることにより得られた前記(1)記載のシリコン。
【0009】
また、本発明のリン添加シリコンの製造方法は、以下の構成からなる。
(4)アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物にリンを添加すること、又は、
アルミニウムを含有するシリコンにリンを添加して混合物を得、得られた混合物を加熱溶融することによって、
アルミニウム、リン及びシリコンを含有する溶融混合物を調製した後、
鋳型内において一方向の温度勾配の下で、前記溶融混合物を凝固させるリン添加シリコンの製造方法。
(5)前記溶融混合物の調製において、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加する前記(4)記載の方法。
(6)前記アルミニウムを含有するシリコンが、ハロゲン化ケイ素を金属アルミニウムにより還元して得られる還元シリコンである前記(4)または(5)記載の方法。
(7)前記アルミニウムを含有するシリコンを酸洗した後に、加熱溶融する前記(4)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記アルミニウムを含有するシリコンを減圧下で加熱溶融する前記(4)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記アルミニウムを含有するシリコンが、一方向凝固精製させたシリコンである前記(4)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンを簡単に製造することができる。すなわち、アルミニウムを含有するシリコンを方向凝固法により精製する際に、シリコン中のアルミニウム含有量に応じて決定された適量のリンを添加することで、p型の特性を示すアルミニウムを含有するシリコンからであっても、太陽電池の原材料として有用なn型太陽電池用シリコンを製造することができる。
【0011】
また、本発明によれば、精製されたリン添加シリコンを簡単に得ることができる。特に、アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物にリンを添加してから一方向に凝固させて精製する方法は、アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融し、これを一方向に凝固させて精製した後、得られた精製シリコンを再度加熱溶融してリンを添加する方法と比べて、加熱溶融の回数が減るため、経済的にリン添加シリコンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a),(b)は、本発明の一実施形態にかかる還元シリコンを得る工程を示す概略説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる方向凝固法を示す概略説明図である。
【図3】(a),(b)は、本発明の一実施形態にかかるアルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンを得る工程を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかるアルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンの製造方法の一実施形態について、アルミニウムを含有するシリコンに還元シリコンを用いる場合を例に挙げ、図1〜図3を参照して詳細に説明する。
【0014】
本実施形態にかかるアルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンは、アルミニウムを含有するシリコンにリンを添加して方向凝固により精製することによって得られる。アルミニウムを含有するシリコンとしては、例えばハロゲン化ケイ素を金属アルミニウムにより還元して得られる還元シリコンが挙げられる。該還元シリコンは、以下のようにして得ることができる。すなわち、図1(a)に示すように、ハロゲン化ケイ素(1)を金属アルミニウム(3)により還元して、図1(b)に示すように、還元シリコン(5)を得る。ハロゲン化ケイ素(1)としては、例えば下記一般式(i)で表される化合物等が挙げられる。
【0015】
【化1】


[式中、nは0〜3の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。]
【0016】
前記一般式(i)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、かかるハロゲン化ケイ素化合物(i)としては、例えば四フッ化ケイ素、三フッ化ケイ素、二フッ化ケイ素、一フッ化ケイ素、四塩化ケイ素、三塩化ケイ素、二塩化ケイ素、一塩化ケイ素、四臭化ケイ素、三臭化ケイ素、二臭化ケイ素、一臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素、三ヨウ化ケイ素、二ヨウ化ケイ素、一ヨウ化ケイ素等が挙げられる。
【0017】
ハロゲン化ケイ素(1)の純度としては、純度の高いn型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンを得る上で99.99質量%以上が好ましく、より好ましくは99.9999質量%以上、更により好ましくは99.99999質量%以上である。また、得られるリン添加シリコンをn型太陽電池用シリコンとして使用することを考慮すると、ホウ素含有量の少ないハロゲン化ケイ素(1)を用いるのが好ましい。具体的には、ハロゲン化ケイ素(1)のホウ素含有量としては、シリコンに対する質量比で0.3ppm以下が好ましく、より好ましくは0.1ppm以下、更により好ましくは0.01ppm以下である。前記ホウ素含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP質量分析法)により測定することができる。
【0018】
ハロゲン化ケイ素(1)のリン含有量としては、シリコンに対する質量比で3ppm以下、好ましくは1ppm以下が好ましい。リン含有量が3ppmを超えると、後述するn型太陽電池用シリコンにおけるリンの含有量が、太陽電池特性を考慮した許容含有量を超える可能性がある。前記リン含有量は、ICP質量分析法またはグロー放電質量分析法(GDMS)により測定することができる。
【0019】
金属アルミニウム(3)としては、通常、アルミニウムとして市販されている電解還元アルミニウムや、電解還元アルミニウムを偏析凝固法、三層電解法等の方法で精製して得られる高純度アルミニウム等が好適である。
【0020】
また、金属アルミニウム(3)の純度としては、不純物による汚染の少ないn型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンを得る上で99.9質量%以上が好ましく、より好ましくは99.95質量%以上である。金属アルミニウムの純度とは、金属アルミニウム100質量%から、鉄、銅、ガリウム、チタン、ニッケル、ナトリウム、マグネシウムおよび亜鉛の合計含有量を差引いて求められる値であり、これらの不純物元素の合計含有量は、GDMSにより測定することができる。金属アルミニウムとして、比較的低い含有量でシリコンを含む金属アルミニウムを用いることもできる。
【0021】
ハロゲン化ケイ素(1)を金属アルミニウム(3)で還元するには、例えばハロゲン化ケイ素(1)を加熱溶融状態の金属アルミニウム(3)中に吹き込めばよい。この方法でハロゲン化ケイ素(1)を金属アルミニウム(3)で還元すれば、目的とするアルミニウムを含有するシリコンを得ることができる。具体的に説明すると、気体状態のハロゲン化ケイ素(1)を図1(a)に示すように、吹込パイプ(2)を通じて加熱溶融状態の金属アルミニウム(3)中に吹き込む。
【0022】
吹込パイプ(2)としては、加熱溶融状態の金属アルミニウム(3)に対して不活性であり、耐熱性を有するものが好ましい。具体的には、黒鉛等の炭素、炭化ケイ素、炭化窒素、アルミナ(酸化アルミニウム)、石英等のシリカ(酸化ケイ素)等で構成されていることが好ましい。
【0023】
加熱溶融状態の金属アルミニウム(3)は、容器(4)に保持される。該容器(4)としては、加熱溶融状態の金属アルミニウム(3)、ハロゲン化ケイ素(1)およびシリコンに対して不活性であり、耐熱性を有するものが好ましい。具体的には、黒鉛等の炭素、炭化ケイ素、炭化窒素、アルミナ(酸化アルミニウム)、石英等のシリカ(酸化ケイ素)等で構成されていることが好ましい。
【0024】
ハロゲン化ケイ素(1)を、吹込パイプ(2)を通じて、容器(4)に保持された加熱溶融状態の金属アルミニウム(3)中に吹き込むと、ハロゲン化ケイ素(1)が金属アルミニウム(3)によってシリコンに還元されるとともに、生成したシリコンが金属アルミニウム(3)に溶解する。これにより、シリコンを含むアルミニウム融液(30)が得られる。アルミニウム融液(30)におけるシリコン含有量は、ハロゲン化ケイ素(1)の吹込み量により調整することができる。
【0025】
ハロゲン化ケイ素(1)を吹き込んだ後のアルミニウム融液(30)を冷却すると、これに溶解したシリコンが還元シリコン(5)として、図1(b)に示すように、冷却後の固形物(30')の上面に晶出する。この晶出した還元シリコン(5)を冷却後の固形物(30')から、例えばダイヤモンドカッター等を用いて切り出すことにより、目的の還元シリコン(5)を、アルミニウムを含有するシリコンとして得ることができる。
【0026】
得られた還元シリコン(5)の純度としては、94質量%以上が好ましく、より好ましくは99.9質量%以上、更により好ましくは99.99質量%以上である。また、アルミニウム含有量は、シリコンに対する質量比で52000ppm以下が好ましく、より好ましくは1100ppm以下、更により好ましくは12ppm以下である。ホウ素含有量は、シリコンに対する質量比で0.15ppm以下が好ましく、より好ましくは0.01ppm以下である。リン含有量は、シリコンに対する質量比で3ppm以下が好ましく、より好ましくは1ppm以下である。炭素含有量は、シリコンに対する質量比で9ppm以下が好ましく、より好ましくは1ppm以下である。このような純度の還元シリコン(5)は、例えば比較的遅い冷却速度でアルミニウム融液(30)を冷却することにより、得ることができる。前記アルミニウムおよびホウ素の含有量は、ICP質量分析法により測定することができる。前記リン含有量は、ICP質量分析法またはGDMSにより測定することができる。前記炭素含有量は、フーリエ変換赤外分光光度計法(FT−IR)により測定することができる。
【0027】
特に、n型太陽電池用シリコンとして使用することを考慮すると、還元シリコン(5)の純度としては、98質量%以上が好ましく、より好ましくは99.9質量%以上、更により好ましくは99.999質量%以上である。また、アルミニウム含有量は、シリコンに対する質量比で1質量%以下が好ましく、より好ましくは1000ppm以下、更により好ましくは10ppm以下である。リン含有量は、シリコンに対する質量比で3ppm以下が好ましく、より好ましくは1ppm以下である。還元シリコン(5)の純度が低くなるほど、n型太陽電池用シリコンの作製までに実施する方向凝固による精製の回数が増加することがある。そのため、還元シリコン(5)の純度が98質量%未満であったり、アルミニウム含有量がシリコンに対する質量比で1質量%を超えたり、リン含有量が3ppmを超えたりすると、工業的、かつ経済的に方向凝固法による精製の適用が困難になることがある。
【0028】
得られた還元シリコン(5)の表面には、金属アルミニウムが付着していることがある。また、用いたハロゲン化ケイ素(1)や金属アルミニウム(3)の純度等によっては、得られた還元シリコン(5)にアルミニウム以外の不純物も含まれることがある。このような場合には、還元シリコン(5)を酸洗してアルミニウム等の不純物を除去してから、後述する次の加熱溶融工程に進むのが好ましい。
【0029】
還元シリコン(5)の酸洗は、例えば還元シリコン(5)を酸に浸漬することにより行うことができる。酸洗に用いる酸としては、例えば濃硝酸、濃塩酸、王水等が挙げられる。酸洗温度としては、通常、20〜90℃、酸洗時間としては、通常、5時間〜24時間、好ましくは5時間〜12時間が適当である。
【0030】
次に、アルミニウムを含有するシリコンである得られた還元シリコン(5)を加熱溶融する。還元シリコン(5)の加熱溶融は、大気圧下で行ってもよいが、減圧下に行うのが好ましい。これにより、揮発性の不純物元素を還元シリコン(5)から揮発させて除去することができる。減圧下に加熱溶融する際の圧力(絶対圧)としては、通常、400Pa以下、好ましくは100Pa以下、より好ましくは0.5Pa以下である。還元シリコン(5)を加熱溶融する際の加熱温度としては、還元シリコン(5)の溶融温度以上であればよく、通常は1410〜1650℃である。
【0031】
次に、加熱溶融した還元シリコン(5)にリンを添加する。リンの添加量は、還元シリコン(5)に含まれるリンの含有量や、後述する次の凝固工程でのリンの偏析の程度、目的とするリン添加シリコンのリン含有量に応じて適宜選択すればよいが、ホウ素の含有量よりも多く、かつシリコンに対する質量比で、通常、0.02〜3ppm、好ましくは0.03〜1ppmとなるように添加するのが好ましい。なお、リンの添加は加熱溶融前であってもよい。
【0032】
特に、n型太陽電池用シリコンとして使用することを考慮すると、リンの添加量は、アルミニウムを含有するシリコンに含まれるアルミニウムの含有量に応じて、シリコン中のリン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上、好ましくは0.009〜1.5になるように添加する。リンの添加量がリン/アルミニウム質量濃度比において0.009未満になると、得られる精製シリコンはn型の特性を示し難くなり、かつ得られるn型太陽電池用シリコンの歩留りも低下するため好ましくない。
【0033】
リンは、通常、純度99.99999質量%(7ナイン)以上の高純度シリコンと、99.9999質量%(6ナイン)以上の高純度リンとの合金であるシリコン−リンの母合金として添加する。シリコン−リンの母合金としては、例えば抵抗率2mΩ・cmでリンの含有量がシリコンに対する質量比で700〜770ppm程度のものが挙げられる。
【0034】
次に、リンを添加した後の加熱溶融状態にある還元シリコン(5)を、方向凝固法で精製する。本実施形態にかかる方向凝固法は、図2に示すように、加熱溶融状態にある還元シリコン(5)の冷却を、鋳型(6)内で、温度勾配(T)を一方向に設けた状態で行う。
【0035】
具体的に説明すると、鋳型(6)としては、加熱溶融状態にある還元シリコン(5)に対して不活性であり、耐熱性を有することが好ましい。具体的には、鋳型(6)は、黒鉛等の炭素、炭化ケイ素、炭化窒素、アルミナ(酸化アルミニウム)、石英等のシリカ(酸化ケイ素)等で構成されることが好ましい。
【0036】
温度勾配(T)は、図2の例では低温側(51)が下方に、高温側(52)が上方になるよう重力方向に設けられている。なお、温度勾配(T)は一方向に設けられていればよく、例えば水平方向に設けられていて低温側(51)と高温側(52)とが同じ高さになっていてもよいし、重力方向に設けられていて低温側(51)が上方に、高温側(52)が下方になるよう設けられてもよい。温度勾配(T)は、過大な設備を必要とせず、実用的である点で、通常は0.2〜2.5℃/mm、好ましくは0.5〜1.5℃/mmである。
【0037】
温度勾配(T)は、例えば以下のようにして設けることができる。すなわち、炉(8)は、その下部(8')の中央部が開放されており、この下部(8')の中央部から昇降自在となるように、鋳型(6)を炉(8)内に配置する。この鋳型(6)の上方および左右に位置する炉(8)内に3つのヒーター(7)を配置する。各ヒーター(7)で鋳型(6)の上部を加熱しつつ、炉(8)の下部(8')で鋳型(6)の下部を冷却する。これにより、低温側(51)が下方に、高温側(52)が上方になるよう重力方向に温度勾配(T)を設けることができる。
【0038】
鋳型(6)の下部を冷却する方法としては、例えば空冷等の他、温度勾配(T)に応じて水冷プレート(9)を用いる方法等が挙げられる。すなわち、炉(8)の下方に、鋳型(6)を介して一対の水冷プレート(9)を対向配置する。各水冷プレート(9)は、ステンレス鋼等からなる本体内部に循環流路が設けられており、該循環流路に水を循環させて、鋳型(6)の下部を冷却する。
【0039】
加熱溶融状態にある還元シリコン(5)の冷却は、これを収容した鋳型(6)を矢印Aに示す下方向に移動させ、該鋳型(6)を炉(8)の下部(8')から炉(8)の外へ導くことにより行う。これにより、還元シリコン(5)は、低温側(51)から固相(54)を形成しつつ凝固し、図3(a)に示すように、シリコン方向凝固物(10)となる。
【0040】
冷却により低温側(51)から形成される固相(54)と、高温側(52)に位置し未だ凝固していない液相(55)との界面(56)の移動速度として表わされる凝固速度(R)は、通常、0.05〜2mm/分、好ましくは0.4〜1.2mm/分である。凝固速度(R)は、例えば鋳型(6)を炉(8)の外へ移動させる際の鋳型(6)の移動速度によって調整することができる。
【0041】
還元シリコン(5)は、低温側(51)から徐々に凝固するが、この凝固過程における凝固率(Y)は、用いた還元シリコン(5)のうち、固相(54)になった還元シリコンの割合(%)で表わされる。
【0042】
前記凝固過程において、還元シリコン(5)に含まれるアルミニウム等の不純物は、高温側(52)に偏析して移動する。このため、凝固後のシリコン方向凝固物(10)では、温度勾配(T)の低温側(51)から高温側(52)に向かって一方向に不純物含有量(C)が増加する。これに対し、還元シリコン(5)に含まれるリンは、高温側(52)に偏析することが少なく、固相(54)および液相(55)に比較的均一に分布する。
【0043】
図3(a),(b)は、本発明の一実施形態にかかるアルミニウムを含有するn型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンを得る工程を示す概略説明図である。図3(a)に示すように、得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、冷却過程で温度勾配(T)の低温側(51)に位置していた領域が、不純物含有量の少ない精製シリコン領域(10A)となり、高温側(52)に位置していた領域が、偏析した不純物を多く含む粗シリコン領域(10B)となる。このシリコン方向凝固物(10)から粗シリコン領域(10B)を除去すると、図3(b)に示すように、精製シリコン領域(10A)からなる目的のリン添加シリコン(11)を得ることができる。
【0044】
粗シリコン領域(10B)を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、例えばダイヤモンドカッター等を用いる通常の方法を採用することができる。すなわち、精製シリコン領域(10A)と粗シリコン領域(10B)との界面に沿って、粗シリコン領域(10B)からなる粗シリコン(12)を切除すればよい。得られたリン添加シリコン(11)は、例えば太陽電池の原材料として有用である。
【0045】
特に、リン添加シリコン(11)がn型太陽電池用シリコンである場合には、該n型太陽電池用シリコン中のアルミニウムの含有量は、シリコンに対する質量比で0.001〜1.0ppm、好ましくは0.03〜0.3ppm、より好ましくは0.03〜0.1ppmである。アルミニウムの含有量が0.001ppm未満であると、経済的に不利となる。また、アルミニウムの含有量が1.0ppmを超えると、太陽電池としての特性が低下する。
【0046】
また、リンの含有量は、シリコンに対する質量比で0.0011〜1.1ppm、好ましくは0.3〜0.8ppmである。リンの含有量が0.0011ppm未満となるか、1.1ppmを超えると、太陽電池としての特性が低下する。
【0047】
更に、n型太陽電池用シリコン中のリン/アルミニウム質量濃度比は1.1以上、好ましくは1.1〜20である。リン/アルミニウム質量濃度比が1.1未満になると、得られるシリコンがn型の特性を示し難くなり、かつ得られるn型太陽電池用シリコンの歩留りも低下する。なお、本発明にかかるリン添加シリコンの用途は、前記で例示した用途に限定されない。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲内において、種々の改善や変更が可能である。例えば前記した一実施形態では、アルミニウムを含有するシリコンに還元シリコンを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、還元シリコンに代えて、他のアルミニウムを含有するシリコンを原料として用いることもできる。
【0049】
また、前記した一実施形態では、得られた還元シリコンを加熱溶融し、これにリンを添加する場合について説明したが、前記還元シリコンを方向凝固法により精製してから加熱溶融し、これにリンを添加してもよい。すなわち、アルミニウムを比較的多く含有する場合、一回の方向凝固法による精製では、アルミニウムを十分に除去できないことがある。そこで、一回の方向凝固法でアルミニウムを十分に除去できない場合、つまり方向凝固法による精製が複数回必要な場合には、アルミニウムを含有するシリコンに、一方向凝固精製させたシリコンを用いればよい。これにより、最終的にアルミニウムが適度に精製除去されたn型太陽電池用シリコンおよびリン添加シリコンが得られる。
【0050】
また、前記した一実施形態では、アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融し、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加した後、鋳型内で温度勾配を一方向に設けた状態で凝固させる場合について説明したが、アルミニウムを含有するシリコンに、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加した後、加熱溶融し、鋳型内で温度勾配を一方向に設けた状態で凝固させてもよい。
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
<n型半導体用シリコンの作製>
図2および図3に示すようにして、n型半導体用シリコンを得た。具体的には、先ず、高純度シリコン〔純度99.99999%以上〕10kgと、10ppm相当の高純度アルミニウム〔純度99.999%、住友化学(株)製〕0.1gとを、図2に示す黒鉛製の鋳型(6)〔内寸法18cm×18cm×深さ28cm、内容積約9L〕に入れ、アルゴンガス雰囲気の電気炉(8)内にて1540℃に加熱して溶解させ、融液深さ130mmのアルミニウムを含有するシリコン融液を作製した。
【0053】
次いで、シリコン中のリン/アルミニウム質量濃度比が0.03になるように、かつシリコン融液中にシリコンに対する質量比で0.3ppmとなるようにリンを添加した。前記リンは、純度99.99999質量%(7ナイン)以上の高純度シリコンと、99.9999質量%(6ナイン)以上の高純度リンとの合金であるシリコン−リンの母合金として添加した。このシリコン−リンの母合金は、抵抗率2mΩ・cmでリンの含有量がシリコンに対する質量比で770ppmである。
【0054】
次いで、温度勾配(T)1℃/mm、凝固速度(R)0.4mm/分の条件で鋳型(6)を矢印A方向に移動させる方向凝固法により、アルミニウムを含有するシリコン融液を一方向に凝固させて、図3に示すシリコン方向凝固物(10)を得た。なお、温度勾配(T)は、低温側(51)が下方に、高温側(52)が上方になるよう重力方向に設けた。
【0055】
得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が20%、50%および80%であったときの固相(54)と液相(55)との界面(56)に相当する部分をダイヤモンドカッターで切り出し、それぞれの部分のアルミニウムおよびリンの含有量をICP質量分析法により定量した。その結果を、表1に示す。表1から明らかなように、各凝固率(Y)におけるシリコン方向凝固物(10)中のリン/アルミニウム質量濃度比が1.1以上であることがわかる。
【0056】
【表1】

【実施例2】
【0057】
先ず、前記実施例1と同様にして、融液深さ130mmのアルミニウムを含有するシリコン融液を作製した。次いで、シリコン中のリン/アルミニウム質量濃度比が0.07になるように、かつシリコン融液中にシリコンに対する質量比で0.7ppmとなるようにリンを添加した以外は、前記実施例1と同様にして方向凝固法を行い、シリコン方向凝固物(10)を得た。
【0058】
得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が20%、50%および80%であったときの固相(54)と液相(55)との界面(56)に相当する部分をダイヤモンドカッターで切り出し、それぞれの部分のアルミニウムおよびリンの含有量をICP質量分析法により定量した。その結果を、表2に示す。表2から明らかなように、各凝固率(Y)におけるシリコン方向凝固物(10)中のリン/アルミニウム質量濃度比が1.1以上であることがわかる。
【0059】
【表2】

【0060】
[比較例1]
先ず、前記実施例1と同様にして、融液深さ130mmのアルミニウムを含有するシリコン融液を作製した。次いで、シリコン中のリン/アルミニウム質量濃度比が0.003になるように、かつシリコン融液中にシリコンに対する質量比で0.03ppmとなるようにリンを添加した以外は、前記実施例1と同様にして方向凝固法を行い、シリコン方向凝固物(10)を得た。
【0061】
得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が20%、50%および80%であったときの固相(54)と液相(55)との界面(56)に相当する部分をダイヤモンドカッターで切り出し、それぞれの部分のアルミニウムおよびリンの含有量をICP質量分析法により定量した。その結果を、表3に示す。表3から明らかなように、各凝固率(Y)におけるシリコン方向凝固物(10)中のリン/アルミニウム質量濃度比が1.1未満であることがわかる。
【0062】
【表3】

【0063】
[比較例2]
先ず、前記実施例1と同様にして、融液深さ130mmのアルミニウムを含有するシリコン融液を作製した。シリコン融液に対してリンの添加はしていない。次いで、前記実施例1と同様にして方向凝固法を行い、シリコン方向凝固物(10)を得た。
【0064】
得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が20%、50%および80%であったときの固相(54)と液相(55)との界面(56)に相当する部分をダイヤモンドカッターで切り出し、それぞれの部分のアルミニウムおよびリンの含有量をICP質量分析法により定量した。その結果を、表4に示す。表4から明らかなように、各凝固率(Y)におけるシリコン方向凝固物(10)中のリン/アルミニウム質量濃度比が1.1未満であることがわかる。
【0065】
【表4】

【0066】
<評価>
上記実施例1,2および比較例1,2で得られた各シリコン方向凝固物(10)のうち、凝固率(Y)が80%までの部分を太陽電池用シリコンとし、その太陽電池特性として抵抗率、ライフタイムおよび拡散長を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表5に併せて示す。
【0067】
(抵抗率およびライフタイム)
先ず、シリコン方向凝固物(10)からワイヤーソーを用いて、50mm×50mm、厚さ0.35mmの方形のウェハーを切出した。次いで、該ウェハーをフッ硝酸でエッチングした後、ウェハーの抵抗率およびライフタイムを測定した。ウェハーの抵抗率は、QSSPC(Quasi-Steady-State Photoconductance)法で測定した。測定機器は、Textronix社製の「TDS210」を用いた。ウェハーのライフタイムは、ヨウ素−エタノール溶液に浸してQSSPC法で測定した。測定機器は、Textronix社製の「TDS210」を用いた。光源には白色光源を使用し、局所的ではなく、ウェハー全体の平均的なライフタイムを測定した。
【0068】
(拡散長)
シリコン方向凝固物(10)から幅180mm×長さ130mm×厚さ5mmの凝固方向に平行な断面を有する基板を切出し、フッ硝酸でエッチングした後、酸化処理し、基板の拡散長を測定した。基板の拡散長は、SPV(Surface Photo Voltage)法で測定した。測定機器は、SDi社製の「CMS4010」を用いた。
【0069】
【表5】

【0070】
表5から明らかなように、実施例1は、抵抗率が0.8〜1.8Ω・cmでn型、ライフタイムは方向凝固物の端部を除き50μs、拡散長は方向凝固物の端部を除き300μmを示した。これらの結果より、実施例1はn型太陽電池用シリコンとして使用できると判断した。また、実施例2は、抵抗率が0.3〜0.9Ω・cmでn型、ライフタイムは方向凝固物の端部を除き30μs、拡散長は方向凝固物の端部を除き120μmを示した。これらの結果より、実施例2はn型太陽電池用シリコンとして使用できると判断した。
【0071】
一方、比較例1は、抵抗率が3〜23Ω・cmでp型、ライフタイムは方向凝固物の端部を除き50μs、拡散長は方向凝固物の端部を除き40μmを示した。これらの結果より、比較例1はn型太陽電池用シリコンとしての使用は困難であると判断した。また、比較例2は、抵抗率が2〜12Ω・cmでp型、ライフタイムは方向凝固物の端部を除き50μs、拡散長は方向凝固物の端部を除き40μmを示した。これらの結果より、比較例2はn型太陽電池用シリコンとしての使用は困難であると判断した。
【実施例3】
【0072】
図1〜図3に示すようにして、リン添加シリコン(11)を得た。具体的には、先ず、図1に示すようにして、還元シリコン(5)を得た。用いた各部材は、以下の通りである。
【0073】
ハロゲン化ケイ素(1):純度99.99質量%以上、ホウ素含有量0.1ppm、リン含有量0.3ppmの四塩化ケイ素ガスを用いた。前記ホウ素含有量およびリン含有量は、いずれもシリコンに対する質量比である。
金属アルミニウム(3):純度99.9質量%以上の市販の電解還元アルミニウムを用いた。
吹込パイプ(2):内径8mm、アルミナ製のパイプを用いた。
容器(4):内径180mm、深さ200mm、黒鉛製の容器を用いた。
【0074】
図1に示すように、ハロゲン化ケイ素(1)を、吹込パイプ(2)から、1020℃で加熱溶融状態にある金属アルミニウム(3)中に吹き込むことにより還元した。なお、ハロゲン化ケイ素(1)の吹込み量は、0.2L/分とした。
【0075】
得られたアルミニウム融液(30)を冷却し、晶出したシリコンをダイヤモンドカッターで切り出し、還元シリコン(5)を得た。この還元シリコン(5)のアルミニウム含有量をICP質量分析法により定量したところ、シリコンに対する質量比で1080ppmであった。
【0076】
この還元シリコン(5)を80℃で8時間、36%塩酸に浸漬して酸洗を行った。酸洗後の還元シリコン(5)中のアルミニウムおよびホウ素の含有量をICP質量分析法により定量し、リンの含有量をGDMSにより定量したところ、シリコンに対する質量比でアルミニウム含有量は10.1ppm、リン含有量は0.08ppm、ホウ素含有量は0.015ppm(検出下限)未満であった。酸洗後の還元シリコン(5)の純度は、99.99質量%以上であった。
【0077】
次に、図2に示す鋳型(6)に、酸洗後の還元シリコン(5)を投入し、これを1510℃に加熱して溶融させ、この状態で1Pa(絶対圧)の減圧下に12時間保持した。なお、鋳型(6)は、内径40mm、深さ200mm、黒鉛製のものを用いた。
【0078】
その後、還元シリコン(5)の加熱溶融状態を保持したまま、炉(8)内にアルゴンガスを導入して大気圧とし、シリコンに対する質量比で0.6ppmとなるようにリンを添加した。前記リンは、純度99.99999質量%(7ナイン)以上の高純度シリコンと、99.9999質量%(6ナイン)以上の高純度リンとの合金であるシリコン−リンの母合金として添加した。このシリコン−リンの母合金は、抵抗率2mΩ・cmでリンの含有量がシリコンに対する質量比で700ppmである。
【0079】
次いで、温度勾配(T)1℃/mm、凝固速度(R)0.4mm/分の条件で鋳型(6)を矢印A方向に移動させる方向凝固法により、還元シリコン(5)を一方向に凝固させて、図3に示すシリコン方向凝固物(10)を得た。なお、温度勾配(T)は、低温側(51)が下方に、高温側(52)が上方になるよう重力方向に設けた。
【0080】
得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が20%、50%および80%であったときの固相(54)と液相(55)との界面(56)に相当する部分をダイヤモンドカッターで切り出し、それぞれの部分のアルミニウムおよびホウ素の含有量をICP質量分析法により定量し、リンの含有量をGDMSにより定量した。その結果を、表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
表6から明らかなように、加熱溶融した還元シリコン(5)にリンを添加した後、一方向に凝固させても、凝固後のシリコン中におけるリンの分布に偏析が比較的少ないことがわかる。そして、凝固過程における凝固率(Y)が80%であったときの界面(56)に相当する部分で得られたシリコン方向凝固物(10)を切断し、粗シリコン領域(10B)を切除することで、精製シリコン領域(10A)からなる目的のリン添加シリコン(11)が得られているのがわかる。
【実施例4】
【0083】
先ず、前記実施例1と同様にして酸洗前の還元シリコン(5)を得た。次に、この還元シリコン(5)を、図2に示す鋳型(6)に投入し、1540℃に加熱して溶融させ、温度勾配(T)1℃/mm、凝固速度(R)0.4mm/分の条件で鋳型(6)を矢印A方向に移動させる方向凝固法により、還元シリコン(5)を一方向に凝固させて、シリコン方向凝固物(10)を得た。なお、温度勾配(T)は、低温側(51)が下方に、高温側(52)が上方になるよう重力方向に設けた。
【0084】
次に、得られた方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が80%であったときの界面(56)に相当する部分で粗シリコン領域(10B)を切除して、還元シリコン(5)を精製した。精製シリコン領域(10A)として得られた精製後の還元シリコン(5)中のアルミニウムおよびホウ素の含有量をICP質量分析法により定量し、リンの含有量をGDMSにより定量したところ、シリコンに対する質量比でアルミニウム含有量は6.3ppm、リン含有量は0.03ppm、ホウ素含有量は0.015ppm(検出下限)未満であった。
【0085】
次に、図2に示す鋳型(6)に、上記で精製した後の還元シリコン(5)を投入し、1540℃に加熱して溶融させ、シリコンに対する質量比で0.03ppmとなるようにリンを添加した。次いで温度勾配(T)1℃/mm、凝固速度(R)0.4mm/分の条件で鋳型(6)を矢印A方向に移動させる方向凝固法により、還元シリコン(5)を一方向に凝固させて、図3に示すシリコン方向凝固物(10)を得た。なお、温度勾配(T)は、低温側(51)が下方に、高温側(52)が上方になるよう重力方向に設けた。
【0086】
得られたシリコン方向凝固物(10)のうち、凝固過程における凝固率(Y)が20%、50%および80%であったときの界面(56)に相当する部分をダイヤモンドカッターで切り出し、それぞれの部分のアルミニウムおよびホウ素の含有量をICP質量分析法により定量し、リンの含有量をGDMSにより定量した。その結果を、表7に示す。
【0087】
【表7】

【0088】
表7から明らかなように、凝固過程における凝固率(Y)が80%であったときの界面(56)に相当する部分で得られたシリコン方向凝固物(10)を切断し、粗シリコン領域(10B)を切除することで、精製シリコン領域(10A)からなる目的のリン添加シリコン(11)が得られているのがわかる。
【符号の説明】
【0089】
1 ハロゲン化ケイ素
2 吹込パイプ
3 金属アルミニウム
4 容器
5 還元シリコン
6 鋳型
7 ヒーター
8 炉
9 水冷プレート
10 シリコン方向凝固物
10A 精製シリコン領域
10B 粗シリコン領域
11 リン添加シリコン
12 粗シリコン
30 アルミニウム融液
51 低温側
52 高温側
54 固相
55 液相
56 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量濃度が、0.001〜1.0ppmのアルミニウムおよび0.0011〜1.1ppmのリンを含有し、かつリン/アルミニウム質量濃度比が1.1以上であるn型太陽電池用シリコン。
【請求項2】
アルミニウムを含有するシリコンに、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加して混合物を得、得られた混合物を加熱溶融して溶融混合物を得、得られた溶融混合物を鋳型内において一方向の温度勾配の下で凝固させることにより得られた請求項1記載のシリコン。
【請求項3】
アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物にリン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加して溶融混合物を得、得られた溶融混合物を、鋳型内において一方向の温度勾配の下で凝固させることにより得られた請求項1記載のシリコン。
【請求項4】
アルミニウムを含有するシリコンを加熱溶融して溶融物を得、得られた溶融物にリンを添加すること、又は、
アルミニウムを含有するシリコンにリンを添加して混合物を得、得られた混合物を加熱溶融することによって、
アルミニウム、リン及びシリコンを含有する溶融混合物を調製した後、
鋳型内において一方向の温度勾配の下で、前記溶融混合物を凝固させるリン添加シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記溶融混合物の調製において、リン/アルミニウム質量濃度比が0.009以上になるようにリンを添加する請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記アルミニウムを含有するシリコンが、ハロゲン化ケイ素を金属アルミニウムにより還元して得られる還元シリコンである請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウムを含有するシリコンを酸洗した後に、加熱溶融する請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記アルミニウムを含有するシリコンを減圧下で加熱溶融する請求項4〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記アルミニウムを含有するシリコンが、一方向凝固により精製させたシリコンである請求項4〜8のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−84455(P2011−84455A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273265(P2009−273265)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】