説明

o−アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との安定塩

【課題】本発明の課題は、o-アセチルサリチル酸と塩基性アミン酸との塩を含み、向上した安定性を有し、それゆえ貯蔵および/または滅菌性に関して、今まで知られているo-サリチル酸塩の欠点を有さない組成物を製造することである。
【解決手段】o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との塩を含んでなる組成物であって、塩が、160μmの粒度を超える平均粒度を有し、その粒子の60%を超える部分が、Malvern 2600D 装置を標準条件で使用して測定した粒度分布において100〜200μmの範囲の粒度を有する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との安定塩、その製造方法、および薬剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
o-アセチルサリチル酸(アスピリン(商標))の鎮痛作用は、長い間、治療に利用されている。即ちo-アセチルサリチル酸は、鎮痛薬、解熱剤、抗リウマチ剤、およびまた非ステロイド系消炎剤として、例えば関節炎、神経痛および筋肉痛の処置のために使用される。
【0003】
しかしながらo-アセチルサリチル酸は、限られた程度でしか溶解せず、従って経口投与にしか適さない。しかしながら、o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との塩が、非経口投与に適していることが開示されている(JP-A-48056815 参照)。塩基性アミノ酸として、特に L-リシン、D,L-リシンおよびアルギニンが使用される。グリシンの一定割合も、添加され得る。
【0004】
o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との塩は、長い間、様々な適応症、例えば上記の適応症に使用されている。このo-アセチルサリチル酸塩の良好な溶解性は、o-アセチルサリチル酸と比べて、特に非経口投与の場合に有利である。その上、比較的長期の経口投与の場合、o-アセチルサリチル酸塩の良好な許容性が強調される。
【0005】
今までのo-アセチルサリチル酸塩の欠点は、その不充分な安定性であった。これにより、一方でこの塩から製造された薬剤の、制限された貯蔵寿命が生ずる。他方で、必要であり得る活性化合物の滅菌は、この塩の不充分な熱安定性の故に、熱滅菌により行うことができず、他の方法、例えばエチレンオキシドガスの導入により行わなければならない。
【0006】
o-アセチルサリチル酸塩の低安定性は、当業者に知られているo-アセチルサリチル酸および対応アミノ酸への生成物の逆反応に帰される。次いでそのアミノ酸は、o-アセチルサリチル酸と反応してアセチル基を取り出し(アミドリシス)、サリチル酸を解離させる。しかしながら、薬剤中のサリチル酸の存在は望ましくなく、それゆえその存在は、低い許容値に制限すべきである。この分解反応は、pH依存性であることが知られている(F. Moll, Arch. Pharm. 318 (1985年), 第120〜127頁)。pHの低下は、解離アミノ酸の増加したプロトン化につながり、それによりこれは、o-アセチルサリチル酸とのその後の反応に、全くまたは非常に限定された程度でのみしか利用されない。アミドリシス、従ってサリチル酸の解離は、それにより抑制される。
【0007】
それゆえo-アセチルサリチル酸塩を含有する薬剤の安定性を向上させるために、「酸性」安定剤、例えば塩化カルシウムの添加が、過去に提案されている(US-A-4 265 888 参照)。しかしながら生成物中のCaイオンの存在は、心臓血管疾患の処置に対して許容できない。
【0008】
同様に、o-アセチルサリチル酸塩生成物の水分は、その安定性に対してかなり影響を及ぼすことが主張されている。それゆえo-アセチルサリチル酸塩の安定性を向上させる別の方法は、高温での乾燥により残留水分を削減することにある。しかしながら高温での強力な乾燥は、それに必要な温度において既に記載した塩の不安定性の故に、限られた程度のみでしかまたは全く、望ましい目標に達しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
それゆえ本発明の課題は、o-アセチルサリチル酸と塩基性アミン酸との塩を含んでなる利用可能な組成物を製造することであり、該組成物は、向上した安定性を有し、それゆえ貯蔵および/または滅菌性に関して、今まで知られているo-サリチル酸塩の欠点を有さない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明に従い、o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との塩を含んでなる組成物であって、塩が、160μmの粒度を超える平均粒度を有し、その粒子の60%を超える部分が、Malvern 2600D 装置を標準条件で使用して測定した粒度分布において100〜200μmの範囲の粒度を有する組成物により達成される。
ここで、o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との塩が、その中で、170μmの粒度を超える平均粒度を有し、その粒子の70%を超える部分が、Malvern 2600D 装置を標準条件で使用して測定した粒度分布において100〜200μmの範囲の粒度を有する組成物が、本発明にとって好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明を、添付図を用いて、より詳細に説明する。
【図1】市販のo-アセチルサリチル酸塩(Aspisol(商標))の粒度分布と比較した、実施例1により製造したo-アセチルサリチル酸塩の粒度分布のグラフ表示である。
【図2】本発明による実施例1および Aspisol(商標) について、図1で示した粒度分布曲線の積分を示す図である。
【図3】本発明の実施例1によるo-アセチルサリチル酸塩結晶の実例を示す図である。
【図4】本発明の実施例1によるo-アセチルサリチル酸塩結晶の実例を示す図である。
【図5】Aspisol(商標) の結晶の実例を示す図である。図1および2に示す粒度分析は、同じ結晶を使用して行った。
【図6】Aspisol(商標) の結晶の実例を示す図である。図1および2に示す粒度分析は、同じ結晶を使用して行った。
【図7】様々な温度での安定性のグラフ表示である。本発明の実施例3によるo-アセチルサリチル酸塩および Aspisol(商標) 中の、遊離サリチル酸の含有率(%)の変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、その粒度分析において、今まで知られているo-アセチルサリチル酸塩とは明らかにおよび有利に異なる。本発明のo-アセチルサリチル酸塩の場合の粒度分布はより狭く、その平均粒度は、より大きい粒子寸法にシフトしている(図1および図2参照)。これは、本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、より大きく、より均一に造形した(成長した)結晶からなることを意味する。より狭い粒度分布およびより大きい平均粒度に加えて、本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、非常にはっきりした結晶構造を示す(図3および4参照)。これに比べて、市販o-アセチルサリチル酸塩 Aspisol(商標) は、明らかに、より不明瞭な結晶構造を有する(図5および6参照)。
【0013】
上記のo-アセチルサリチル酸塩の有利な性質は、驚くべきことに、本発明のo-アセチルサリチル酸塩の残留水分を、極端に低く維持することができ、そうして、o-アセチルサリチル酸塩のo-アセチルサリチル酸および対応アミノ酸への上記逆反応を抑制することができることにつながる。これは、o-アセチルサリチル酸塩自体は吸湿性と記載されているので、いっそう驚くべきことである。本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、驚くべきことに、減少した吸湿性を有する。本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、既知のより高い残留水分を有するアセチルサリチル酸塩よりも、同じ温度で明らかにより安定である。
本発明の塩は、水0.4%未満、好ましくは0.3%未満、特に0.15%未満の残留水分を有する。
【0014】
図7に示されるように、0.3%未満の残留水分を有する本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、温度25℃で8週間の期間、遊離サリチル酸の割合についてほとんど未変化のままであるが、一方、例えば0.4%を超える残留水分を有するo-アセチルサリチル酸塩は、かなり分解し、遊離サリチル酸の割合が向上する。従って本発明のo-アセチルサリチル酸塩は、室温または冷却により、長期間安定であることが分かる。
【0015】
本発明のo-アセチルサリチル酸塩を、以下の方法で製造することができる。全ての出発化合物は、市販されている。本発明により使用し得るアミノ酸は、L配置若しくはD配置、またはその代わりにDおよびL形の混合物として存在し得る。本発明にとって用語「アミノ酸」は、特に天然で生ずるα-アミノ酸を示すが、さらにその同族体、異性体および誘導体を含む。エナンチオマーを、異性体の例として挙げることができる。誘導体は、例えば保護基を供されたアミノ酸であり得る。挙げることができる塩基性アミノ酸の典型例は、リシン、アルギニン、オルニチン、ジアミノ酪酸である。
【0016】
本発明により、反応体、即ちo-アセチルサリチル酸および対応するアミノ酸の溶液を、できる限り急速に、30℃未満、好ましくは20〜25℃の温度において標準圧力下で組合せおよびブレンドし、均一相を生じさせる。反応体のために適当な溶媒は、水または水混和性有機溶媒、例えばアルコール類、例えばメタノール、エタノールまたはイソプロパノール、特にエタノール、エーテル類、例えばテトラヒドロフラン(THF)、またはケトン類、例えばアセトンである。
【0017】
反応体を、塩基性アミノ酸がわずかに過剰に存在するような量で使用する。本発明にとって、1:1.05〜1:1.5のo-アセチルサリチル酸対アミノ酸の比が好ましく、1:1.05〜1:1.2のo-アセチルサリチル酸対アミノ酸の比が特に好ましい。
本発明によりo-アセチルサリチル酸溶液は、1〜10質量%のo-アセチルサリチル酸を含有すべきであり、好ましくは5〜10質量%、特に好ましくは6〜8質量%のo-アセチルサリチル酸を含有する。塩基性アミノ酸溶液は、10〜40質量%のアミノ酸を含有すべきであり、好ましくは15〜35質量%、特に好ましくは20〜30質量%のアミノ酸を含有する。
【0018】
次いで本発明の組成物の結晶化を、このようにして調製した均一混合物から、(所望により種結晶を添加し)、反応体と比較して明らかに過剰、例えば濃度20〜50%過剰、好ましくは濃度30〜40%過剰のアセトンを添加することにより行う。結晶相の温度は、できる限り狭い範囲内に維持することが、本発明にとって非常に重要である。その温度は、40℃を超えてはならず、好ましくは35℃未満で維持すべきである。本発明にとって、25℃未満、特に0℃の温度が好ましい。種結晶として、所望生成物の結晶、例えば Aspisol(商標) 結晶を使用することができる。結晶化を、標準圧力下で行う。
【0019】
本発明の方法において同様に重要なことは、結晶化中に特定の攪拌エネルギーを維持することである。出発生成物の均一混合物は、穏やかにのみ攪拌し得る。適用する攪拌エネルギーは、反応媒体1Lあたり0.1Wを超えるべきではない。本発明にとって、反応媒体1Lあたり0.04〜0.06Wの適用攪拌エネルギーが好ましい。可能な攪拌器は、あらゆる通常の、従って制御可能な攪拌器、例えばバッフル付き攪拌ユニットコンテナーである。
【0020】
結晶化のために溶液を、上記条件下で、20時間を超えない時間維持すべきである。本発明にとって、上記条件下において10時間未満の結晶化時間が好ましく、1〜8時間の時間が特に好ましい。
所望により本発明の組成物は、グリシンも含有し得る。グリシンの量は、自由に選択可能である。反応溶液中においてグリシン5〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%、特に好ましくは10質量%の割合が、本発明にとって好ましい。
【0021】
本発明によりグリシンを、反応体の反応混合物に、水または水混和性有機溶媒中の溶液として添加することができる。有機溶媒として、上記溶媒を使用することができる。グリシンは、これら反応体に対して不活性挙動を示す。それにより、本発明の上記条件下で、均一相からの2つの固体(o-アセチルサリチル酸塩およびグリシン)の結晶化方法を行うことができる(共晶化)。
【0022】
しかしながら、本発明によりグリシンを、o-アセチルサリチル酸塩の既に結晶化している懸濁液に、懸濁液の形態で添加することもできる。グリシン懸濁液を、通常の方法で調製することができる。本発明にとって、水およびアルコール、例えばエタノールの混合溶媒からグリシン懸濁液を調製することが、好ましい。
グリシンの添加方法は、本発明の組成物の性質に影響を及ぼさない。本発明の組成物へのグリシンの添加は、必要ではないことに注意すべきである。特にグリシンの存在は、本発明の組成物の安定性に影響を及ぼさない。
【0023】
次いで結晶物を、通常の方法、例えば濾過または遠心分離により単離する。固体を、有機溶媒で多くの回数洗浄する。本発明にとって、エタノールおよび/またはケトン類(例えばアセトン)、またはアルコール類若しくはケトン類の混合物、例えばエタノールおよびアセトンの混合物、あるいはこの種の様々な溶媒の使用が好ましい。
【0024】
次いで固体を、減圧下で乾燥する。この場合の温度は、50℃未満に維持すべきであり、好ましくは40℃未満、特に好ましくは35℃未満である。50mbar未満、好ましくは30mbarの圧力を、固体に適用すべきである。乾燥を、通常の条件下で、例えば乾燥装置内において行うことができる。
本発明の方法を、完全に滅菌条件下でも行うことができる。このために必要な、例えば出発化合物および使用装置の滅菌に関する上記手順との差異は、当業者にとって既知である。
【0025】
本発明の組成物を、鎮痛剤、解熱剤、抗リウマチ剤、およびまた非ステロイド系消炎剤として、例えばリューマチ型、神経痛、筋肉痛および片頭痛の疾患の処置のために使用することができる。しかしながら特にそれらを、血小板凝集阻害剤として心臓血管および脳血管疾患の予防および治療において(例えば虚血性心疾患、脳卒中、安定および不安定狭心症、急性心筋梗塞、バイパス手術、PTCA、ステント移植において)、使用することもできる。さらなる適用領域は、HIV患者の免疫系の刺激、腫瘍(例えば結腸癌、食道癌または肺癌)の予防、痴呆症候群(例えばアルツハイマー病)の認識悪化の遅延化、胆石形成の阻害および糖尿病の処置である。
【0026】
本発明は、非毒性で不活性の薬剤に適当なキャリヤに加えて本発明の組成物を含有する薬剤、および該薬剤の製造方法も包含する。
本発明の組成物は、任意に、1種またはそれ以上の上記キャリヤ中にマイクロカプセル封入された形態でも存在し得る。
本発明の組成物は、上記薬剤中に、全混合物の約0.1〜99.5質量%、好ましくは約0.5〜95質量%の濃度で存在すべきである。
【0027】
本発明の特定の実施態様において上記薬剤は、本発明の組成物以外に、特に1種またはそれ以上のADPレセプター拮抗物質(例えばチクロピジンおよびクロピドグレル(Clopidogrel))、GPIIb/IIIaレセプター拮抗物質(例えばアブシキマブ、エプチファビチド(Eptifabitide)、チロフィバン(Tirofiban)、オロフィバン(Orofiban)、ゼミロフィバンおよびシブラフィバン(Sibrafiban))、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えばジピリダモール)、トロンビンレセプター拮抗物質(例えばヒルジン、ヒルローグ(Hirulog) およびアルガトロバン(Argatroban))、Xa因子阻害剤(例えばアンチスタチン(Antistatin)、DX-9065 および五糖類)、HMG-CoAレセプター拮抗物質(例えばシンバスタチンおよびセリバスタチン(Cerivastatin))および/またはカルシウム拮抗物質(例えばニフェジピン)のような、1種またはそれ以上のさらなる薬剤活性化合物の有効量も含有し得る。
【0028】
望ましい結果を得るために、投与する人および動物用医薬中の両方において本発明の活性化合物は、所望により数回の個々の用量の形態で、24時間毎に全部で約0.5〜約500mg/体重kg、好ましくは5〜100mg/体重kgの量に達することが、一般に有利であることが分かっている。個々の用量は、本発明の活性化合物を、好ましくは約1〜約80mg/体重kg、特に3〜30mg/体重kgの量で含有する。
【0029】
活性化合物は、系統的におよび/または局所的に作用し得る。この目的のために、適当な方法、例えば経口的または非経口的に投与することができる。これらの適用経路のために活性化合物を、適当な投与形態で投与することができる。
経口投与のために、活性化合物を急速および/または緩和的に放出する、既知の投与形態、例えばタブレット(未被覆および被覆タブレット、例えば腸溶性コーティング、FDT(急速溶解性タブレット)、発泡性タブレット、咀嚼性タブレット)、カプセル、糖衣錠、顆粒、ペレット、粉末、エマルション、懸濁液および溶液が適当である。
【0030】
非経口投与は、吸収段階の回避(静脈、動脈、心臓内、脊髄内または腰椎内)または吸収物の装入(筋内、皮下、皮内または腹腔内)により行うことができる。非経口投与のために適当な投与形態は、とりわけ、溶液、懸濁液、エマルション、凍結乾燥物および滅菌粉末の形態の注射および注入調剤である。
坐薬または経皮系の形態(例えばパッチ、ETS系)で、およびまたクリーム、軟膏、ゲル、スプレー中における、または有機若しくは無機溶媒中に溶解させた局所適用は、さらなる適用可能手段である。
【0031】
活性化合物を、既知の方法で上記投与形態に転換することができる。これは、不活性で非毒性の薬剤に適当な付形剤を使用して行われる。これらは、とりわけキャリヤ(例えば微結晶セルロース)、溶媒(例えば液状ポリエチレングリコール)、乳化剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム)、分散剤(例えばポリビニルピロリドン)、合成および天然バイオポリマー(例えばアルブミン)安定剤(例えばアスコルビン酸のような酸化防止剤)、着色剤(例えば鉄酸化物のような無機顔料)または味および/若しくは臭気用矯正剤を含む。
【実施例】
【0032】
本発明を、非限定の好ましい実施例を使用して、以下でより詳細に説明する。他の記載が無い限り、全ての量のデータは、質量%に関する。
実施例1:リシンアセチルサリチル酸塩
エタノール120kg中o-アセチルサリチル酸9.9kgの発熱物質無含有溶液を、無菌フィルターを通して、無菌および発熱物質無含有のバッフル付き攪拌ユニットコンテナーに添加する。発熱物質無含有水26.5kg中リシン水和物9.0kgの無菌濾過発熱物質無含有溶液を、20〜25℃で短時間で添加し、溶液を、30℃の温度を超えないように混合する。種結晶50gを添加し、既に結晶化している混合物を、無菌濾過アセトン120kgと、0℃に冷却しながら混合する。混合物を、0℃で穏やかに攪拌しながら1〜8時間結晶化させる。結晶を、無菌状態でフィルターまたは遠心機で単離する。湿った生成物を、別の装置内でエタノールを用いて数多く洗浄する。湿った生成物を、無菌状態の乾燥機に移し、その中で40℃を超えない温度において30mbar未満の圧力で乾燥する。
89〜94%の所望生成物が得られ、該生成物は、0.10〜0.15%の残留水分を有した。
【0033】
実施例2:グリシン10%を含有する D,L-リシンアセチルサリチル酸塩
エタノール145kg中o-アセチルサリチル酸9.9kgの発熱物質無含有溶液を、無菌フィルターを通して、無菌および発熱物質無含有のバッフル付き攪拌ユニットコンテナーに添加する。発熱物質無含有水35kg中 D,L-リシン水和物9.0kgおよびグリシン2.4kgの無菌濾過発熱物質無含有溶液を、20〜25℃で短時間で添加し、溶液を、30℃の温度を超えないように混合する。種結晶50gを添加し、既に結晶化している混合物を、無菌濾過アセトン120kgと、0℃に冷却しながら混合する。混合物を、0℃で穏やかに攪拌しながら1〜8時間結晶化させる。結晶を、無菌状態でフィルターまたは遠心機で単離する。湿った生成物を、別の装置内でエタノールおよびアセトンを用いて連続的に洗浄する。湿った生成物を、無菌状態の乾燥機に移し、その中で40℃を超えない温度において30mbar未満の圧力で乾燥する。
90〜95%の所望生成物が得られ、該生成物は、0.10〜0.15%の残留水分を有した。
【0034】
実施例3:グリシン10%を含有する D,L-リシンアセチルサリチル酸塩
エタノール120kg中o-アセチルサリチル酸9.9kgの発熱物質無含有溶液を、無菌フィルターを通して、無菌および発熱物質無含有のバッフル付き攪拌ユニットコンテナーに添加する。発熱物質無含有水26.5kg中リシン水和物9.0kgの無菌濾過発熱物質無含有溶液を、20〜25℃で短時間で添加し、溶液を、30℃の温度を超えないように混合する。種結晶50gを添加し、既に結晶化している混合物を、無菌濾過アセトン120kgと、0℃に冷却しながら混合する。混合物を、0℃で穏やかに攪拌しながら1〜8時間結晶化させる。発熱物質無含有水8kgおよびエタノール25kg中グリシン2.1kgの無菌懸濁液を、別の無菌および発熱物質無含有の攪拌ユニットコンテナー内で調製する。これを、サリチル酸塩懸濁液に添加する。結晶混合物を、無菌状態でフィルターまたは遠心機で単離する。湿った生成物を、別の装置内でエタノールを用いて数多く洗浄する。湿った生成物を、無菌状態の乾燥機に移し、その中で40℃を超えない温度において30mbar未満の圧力で乾燥する。
89〜94%の所望生成物が得られ、該生成物は、0.10〜0.15%の残留水分を有した。
【0035】
粒度分布測定
本発明の組成物および市販 Aspisol(商標)(Bayer AG より販売)を、以下の標準条件において Malvern からの Malvern 2600 D 測定装置で調べた。
Malvern 2600 測定装置は、He/Neレーザー、調温リザーバー系を有する測定キュベット、フーリエーレンズおよび多素子検出器からなる。測定した光強度は、粒度分布に転換される。レーザーおよびレンズのアラインメントを、各測定の前に手動で調節し、測定装置を、ブランク測定によりチェックする。ブランクパルスは、検出素子1つあたり20の最高値を超えてはならない。
【0036】
測定する試料を、手動で約15秒振り動かす。次いで試料を、スパチュラで採取する。試料の量は、測定装置の許容オブスキュレーション領域(0.1−0.3)に依存する。採取試料を、通例の分散剤、例えば Baysilon M10(商標)(Bayer AG)を使用してビーカー内で(ガラス棒で攪拌することにより)、穏やかに予備分散させ、次いで測定装置のリザーバーに充填する。リザーバーを、同様に分散剤でも充填する。ビーカーを、典型的なサンプリングを保証するために分散剤で完全にすすぎ落す。
【0037】
測定を、設定焦点距離300mm、調温20℃および許容オブスキュレーション領域0.1−0.3を使用して行う。
生成物を、0、15および60秒の超音波処理時間後に測定する。このために、超音波フィンガーを、生成物循環のリザーバー内に位置させる。懸濁液を、測定キュベットを通して密閉循環内にポンプ注入する。検出器により記録するシグナルを、分析し、粒度分布に転換する。
こうして得られた結果を、図1および2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
o-アセチルサリチル酸と塩基性アミノ酸との塩を含んでなる組成物であって、塩が、160μmの粒度を超える平均粒度を有し、その粒子の60%を超える部分が、Malvern 2600D 装置を標準条件で使用して測定した粒度分布において100〜200μmの範囲の粒度を有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
塩が、170μmの粒度を超える平均粒度を有し、その粒子の70%を超える部分が、Malvern 2600D 装置を標準条件で使用して測定した粒度分布において100〜200μmの範囲の粒度を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
塩基性アミノ酸が、リシン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチンおよびジアミノ酪酸からなる群から選択されていることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
塩基性アミノ酸が、リシンであることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
5〜15質量%の割合のグリシンをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
10質量%の割合のグリシンをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
水または水混和性有機溶媒中のo-アセチルサリチル酸および塩基性アミノ酸の溶液を、アミノ酸が反応溶液中でわずかに過剰に存在するように、標準圧力下30℃未満の温度で急速に組み合わせること、アセトンおよび所望により種結晶を、40℃未満の温度において標準圧力で添加すること、反応媒体1Lあたり0.1Wを超えない攪拌エネルギーで20時間を超えない時間攪拌すること、固体を単離すること、有機溶媒により洗浄すること、50℃未満の温度において50mbar未満の圧力で乾燥すること、および所望により5〜30質量%のグリシンを、水または水混和性有機溶媒中の溶液として反応溶液に添加するか、または懸濁液としてo-アセチルサリチル酸塩の結晶化懸濁液に添加することを含んでなる、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
o-アセチルサリチル酸および塩基性アミノ酸の溶液を、標準圧力下20〜25℃の温度で組み合わせることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
反応溶液中のo-アセチルサリチル酸対塩基性アミノ酸の比が、1:1.05〜1:1.2であることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
濃度30〜40%過剰のアセトンを、添加することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
アセトンの添加中およびその後の温度が、0℃であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
アセトン添加後に混合物を、1〜8時間攪拌することを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
攪拌エネルギーが、反応媒体1Lあたり0.04〜0.06Wであることを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
乾燥を、35℃未満の温度で行うことを特徴とする請求項7〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
乾燥を、30mbar未満の圧力で行うことを特徴とする請求項7〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
10質量%のグリシンを、添加することを特徴とする請求項7〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
方法を、滅菌条件下で行うことを特徴とする請求項7〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれかに記載の少なくとも1種の組成物を含んでなる薬剤。
【請求項19】
1種またはそれ以上のさらなる薬剤活性成分、特に1種またはそれ以上のADPレセプター拮抗物質、GPIIb/IIIaレセプター拮抗物質、ホスホジエステラーゼ阻害剤、トロンビンレセプター拮抗物質、Xa因子阻害剤、HMG-CoAレセプター拮抗物質および/またはカルシウム拮抗物質を含んでなることを特徴とする、請求項18に記載の薬剤。
【請求項20】
関節炎、神経痛、筋肉痛および/または片頭痛の処置用の薬剤を製造するための、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項21】
心筋梗塞、脳卒中、虚血性心疾患、狭心症、バイパス手術、PTCAおよび/またはステント移植の処置用の薬剤を製造するための、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131824(P2012−131824A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72662(P2012−72662)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2002−511715(P2002−511715)の分割
【原出願日】平成13年7月5日(2001.7.5)
【出願人】(507113188)バイエル・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】