p53阻害剤およびその治療用途
【課題】 p53活性を有効に阻害する化合物を用いた治療用途を提供する。
【解決手段】 p53活性の阻害が有効な疾患を患った個体に対して、治療上有効な量のp53阻害剤を投与する。
【解決手段】 p53活性の阻害が有効な疾患を患った個体に対して、治療上有効な量のp53阻害剤を投与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一時的なp53阻害剤および治療におけるその使用、例えば癌の処置での、ストレスに対する組織応答の修飾での、そして、細胞加齢の修飾での使用に関する。 さらに詳細には、本発明は有効に且つ一時的にp53活性を阻害する能力を有し、そしてp53活性の一時的な阻害が利点をもたらす疾患または状態を処置するために、癌の処置の際の化学療法または放射線療法のような療法と組み合わせて、または単独で治療用に使用することができる化合物に関する。 p53活性を一時的に阻害し、そして治療用に使用することができる化合物の例には、以下の一般構造式(I)から(IV):
【0002】
【化1】
【0003】
【化2】
【0004】
【化3】
【0005】
【化4】
、ならびに医薬上容認され得るこれらの塩および水和物が含まれる。
【背景技術】
【0006】
p53遺伝子は最も研究され、そしてよく知られた遺伝子の一つである。 p53は、種々の異なる刺激、例えば、DNA損傷、転写または複製の調節解除、および発癌遺伝子の形質転換を、細胞成長停止またはアポトーシスへと変換することによって、細胞性のストレス応答機構における重量な役割を果たす(T.M. Gottlieb et al., Biochem. Biophys. Acta, 1287, p. 77 (1996))。
【0007】
p53は短い半減期を有しており、したがって細胞において継続的に合成および分解されている。 しかしながら、細胞がストレスにさらされると、p53は安定化される。 p53の安定化を誘導する細胞ストレスの例は、
a)UV(紫外線)照射、細胞変異、化学療法および放射線療法による損傷などといった、DNA損傷;
b)高熱症;ならびに
c)いくつかの化学療法剤によって惹起される(例えば、タキソールまたはビンカアルカロイド類を用いた処置)微小管の調節解除などでである。
【0008】
p53は活性化されると、細胞成長停止、またはプログラムされた自殺的細胞死を引き起こし、これは次いでゲノムの安定性に対する重要な制御機構として作用する。 特に、p53は、遺伝的に損傷を受けた細胞を細胞集団から排除することによってゲノムの安定性を制御し、その主要な機能の一つは腫瘍形成を防止することである。
【0009】
p53は、ヒトの癌の大部分において不活性化されている(A.J. Levine et al., Br. J. Cancer, 69, p.409 (1994)およびA.M. Thompson et al., Br. J. Surg., 85, p. 1460 (1998))。 p53が不活性化されると、異常な腫瘍細胞は細胞集団から排除されず、増殖することができる。 例えば、p53欠損マウスはゲノムの安定性を維持できる遺伝子を欠いているので、ほぼ普遍的に癌に罹病することが観察されている(L.A. Donehower et al., Nature, 356, p.215 (1990)およびT. Jacks et al., Curr. Biol, 4, p. 1 (1994))。 したがって、p53の損失または不活性化は、高速度での腫瘍の進行と癌治療に対する耐性を伴う。
【0010】
p53はまた、遺伝毒性のストレスに付された正常組織の様々な型に対して高度の感受性も付与する。 特に放射線療法および化学療法は、リンパおよび造血系上皮への重篤な損傷など、これらの療法の有効性を極限する重篤な副作用を呈する。 脱毛のような他の副作用もまた、p53が媒介するものであり、癌治療のさらなる悪評の原因となる。 これらの副作用は、p53によって媒介されるアポトーシスによって惹起され、これが癌治療の副作用に見舞われる組織の位置を割り出すのである。 したがって、癌の処置に伴う有害な副作用を排除または低減するためには、p53欠損腫瘍の処置に際して正常組織におけるp53活性を阻害し、それによって正常組織を保護することが有益なはずである。
【0011】
しかしながら、腫瘍におけるp53活性の喪失は、腫瘍の進行の迅速化と癌処置に対する耐性を伴う。 したがって、従来の理論では、p53の抑制によって疾患の進行と癌治療からの腫瘍の保護とが導かれるであろうと言われていた。 その結果、以前の研究者らは、癌の予防または処置におけるp53の機能を修復または模倣するよう試みていたのである。
【0012】
p53の不活性化は、望ましくなく、且つ不要な事象であると考えられてきており、p53機能を修復することによって癌の処置を促進するために、かなりの努力が費やされてきた。 しかしながら、p53の修復または模倣は、化学療法または放射線療法の際の正常組織細胞の損傷に関して、前記のごとき問題を引き起こすのである。 これらの正常細胞は、癌治療に際してストレスにさらされ、これによって細胞内のp53が、プログラム死を起こすように導くのである。 次いで癌の処置により、腫瘍細胞および正常細胞の双方が殺傷される。 様々な治療法におけるp53の抑制に関する議論は、本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用するE.A. Komorova and A.V. Gudkov, "Could p53 be a target for therapeutic suppression?," Seminers in Cancer Biology, Vol. 8(5), 389-400頁 (1998)の出版物に示されている。
【0013】
要約すると、p53は癌の治療において二重の役割を果たしている。 一方で、様々なストレスに応答してアポトーシスおよび成長停止を媒介すること、ならびに細胞老化を制御することによって、p53は腫瘍サプレッサーとして作用する。 他方で、p53は癌治療の際の正常な組織に対する重篤な損傷の原因となる。 本明細書に開示するとおり、p53によって正常組織に惹起される損傷のため、p53が治療的抑制の標的となった。
【0014】
加えて、ヒト腫瘍の50%より多くが機能性のp53を欠いているので、p53の抑制はかかる腫瘍に対する処置の効率に影響しないはずであり、また正常なp53含有組織を保護するはずなのである。
【0015】
臓器に対するp53活性の有害な効果は、癌の治療に限るものでない。 p53は、癌治療だけでなく、傷害(例えば熱傷)、自然発生的疾患(例えば発熱に関連する高熱症、および血液供給の遮断、卒中、および虚血に関連する局所的低酸素の状態)ならびに細胞の加齢(例えば線維芽細胞の老化)に関連する種々のストレスの結果として活性化される。 したがって一時的なp53の阻害は、例えば、(a)中枢神経系でのp53依存性の神経死(すなわち、脳および脊髄傷害)の低減または排除、(b)移植に先駆けた組織および臓器の保存、(c)骨髄移植のための宿主の準備、ならびに(d)発作の際の神経損傷の低減または排除においても、治療上有効であり得る。
【0016】
活性化されたp53は、成長停止(これは不可逆的であることが多い)、またはアポトーシスを誘導し、しかして付されたストレスに応答した正常組織の損傷を媒介するのである。 このような損傷は、p53の活性化事象の直前、最中、または直後に、p53活性が一時的に抑制されれば低減され得るのである。 これらの、そして他のp53依存性疾患および状態はしたがって、一時的なp53阻害剤の治療的投与に対するさらなる領域を提供するものである。
【0017】
p53はまた、細胞の加齢においても、したがって生物の加齢にも役割を果たしている。 特に、加齢に伴う正常組織の形態学的および生理学的変化は、p53活性に関連しているのかもしれない。 長い間に組織内に蓄積する老化細胞は、非常に高レベルのp53依存性転写を保っていることが知られている。 老化細胞による、成長阻害剤のp53依存性の分泌は、加齢組織に集積している。 この蓄積は、増殖している細胞に影響を及ぼし得、年齢に伴う組織の全体的な増殖能力の漸減をもたらし得るのである。 したがって、p53活性の抑制は組織加齢の抑制方法として想定される。
【0018】
しかしながら、p53の抑制を包含する治療が実施される前に満たされるべき、いくつかの重要な、例えば、以下のような事柄がある。
【0019】
(i)治療薬としての実際的な投与のために、インビボで充分に有効な(すなわち、ミクロモル(μm)範囲の濃度にて、p53活性を阻害する)p53阻害剤を準備すること;
(ii)治療用途で、充分に低い毒性を有するものであって、p53活性を阻害するのに充分な濃度で望ましくない副作用を起こすこともないこと;
(iii)長期のp53不活性化は、癌の危険性を有意に高め得るので、可逆的なp53阻害を呈すること;
(iv)一時的なp53阻害の際に、細胞は付されたストレスから回復すべきであり、そしてp53を活性化するシグナルは排除または低減されるべきである、さもなければ、p53活性化シグナルが活性化されている間のp53活性の復旧が、細胞損傷を惹起する可能性がある;
(v)p53抑制療法は、癌発生の頻度の劇的な増大に関わるものでなく、すなわち、治療的阻害剤は、ストレスに対する細胞性応答の、p53によって媒介される制御を標的としているが、p53によって媒介される発癌遺伝子の形質転換の制御に影響を及ぼすものではない。
【0020】
本発明より以前は、治療のための適用に有用なp53阻害剤は開示されていなかった。
【0021】
p53の、潜在性を有する治療用の阻害剤は、p53シグナル伝達系路のいずれかの段階で作用し、p53によって媒介される応答の機能的な不活性化(すなわち、p53依存性の成長停止、アポトーシス、または双方の阻止)をもたらす化合物である。 治療上のp53抑制は、癌腫瘍の増殖の開始へと導く不利益を導くものと考えられていたので、これまでの研究者が治療用のp53阻害剤を考慮することはなかった。 したがって、本発明はp53活性の治療的且つ一時的阻害、ならびにかかる阻害をすることができる化合物に関するものである。
【発明の開示】
【0022】
本発明は、治療上の適用におけるp53活性の阻害に関する。 本発明はまた、p53活性を有効に且つ一時的に阻害する化合物と、かかる一時的なp53阻害化合物の治療上の使用にも関するものである。
【0023】
したがって、本発明の一つの要旨は、p53活性を可逆的に阻害し、そして治療上に使用することができるp53阻害剤を提供することにあり、その阻害剤は例えば、以下の(I)〜(IV)までの一般構造式:
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
[式中、XはO、S、またはNHであり、
mは0または1であり、
nは1〜4であり、
R1およびR2は独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、アルカリール、複素環、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、ハロアルキル、ハロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アラルコキシアルキル、ハロ、(アルキルチオ)アルキル、(アリールチオ)アルキル、および(アラルキルチオ)アルキルよりなる群から選択され、
または、R1およびR2は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成し、
R3は、水素、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ハロアリール、ヘテロアラルキル、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、ハロ、NR4R5、NHSO2R4R5、NHSO2R4、およびSO2NR4R5よりなる群から選択され、そして
R4およびR5は独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、および複素環よりなる群から選択され、
または、R4およびR5は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成するものである]を有する化合物、ならびに医薬上容認され得るこれらの塩および水和物である。
【0028】
本発明の別の要旨は、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を、p53活性を可逆的に阻害するために哺乳動物に投与する工程を含む、疾患または状態の処置に起因する正常細胞の死を低減または排除する方法を提供することにある。
【0029】
本発明のさらなる要旨は、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を、p53活性を可逆的に阻害するために哺乳動物に投与する工程を含む、外傷または疾患の縮小に起因する正常細胞の死を低減または排除する方法を提供することにある。
【0030】
本発明の別の要旨は、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を、p53活性を可逆的に阻害するために哺乳動物に投与する工程を含む、p53欠損癌に対する処置に起因する正常組織への損傷を低減または排除する方法を提供することにある。
【0031】
本発明のさらに別の要旨は、改善された癌処置用組成物であって、
(a)化学療法剤;および
(b)一時的なp53阻害剤
を含む組成物を提供することにある。
【0032】
本発明の別の要旨は、癌の改善された処置方法であって、癌を処置するために、充分な放射線量を哺乳動物に投与することと、p53活性を可逆的に阻害するために一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を哺乳動物に投与することを含む方法を提供することにある。
【0033】
本発明の別の要旨は、細胞に影響を与える、ストレスを誘発する事象に起因する細胞死を防止する方法を提供することにあり、当該方法は、細胞におけるp53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量で当該細胞を処理する工程を含む。
【0034】
本発明の別の要旨は、疾患を処置するための医薬組成物であって、
(a)該疾患を処置することができる薬物;および
(b)一時的なp53阻害剤
を含む組成物を提供することにある。
【0035】
本発明の別の要旨は、医薬組成物であって、
(a)一時的なp53阻害剤、および
(b)担体
を含む組成物を提供することにある。
【0036】
本発明の別の要旨は、組織加齢の調節方法であって、p53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量で組織を処理することを含む方法を提供することにある。
【0037】
本発明の別の要旨は、所定の放射線量を当てられた哺乳動物を処置する方法であって、照射された哺乳動物を保護するために、p53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量を当該哺乳動物に投与することを含む方法を提供することにある。
【0038】
本発明のさらに別の要旨は、p53欠損細胞を癌治療に対して高感度ならしめる方法であって、癌治療と組み合わせて、p53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量を動物に投与する工程を含み、そうしなければ癌治療による影響を受けない細胞を破壊する方法を提供することにある。
【0039】
本発明の別の要旨は、癌の改善された処置方法であって、癌を処置するために化学療法剤の治療上有効な量を哺乳動物に投与することと、p53活性を可逆的に阻害するために、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を当該哺乳動物に投与することを含み、その化学療法剤の用量は、p53阻害剤を投与せずに癌の処置をするために必要とされるのと同じ化学療法剤の用量よりも多量である方法を提供することにある。
【0040】
本発明のこれらの要旨およびその他の要旨は、以下の非限定的な発明の実施態様の詳細な説明から明らかになるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
前記のとおり、化学療法および放射線療法の有効性は、造血およびリンパ系、腸上皮、ならびに精巣細胞への傷害を含めた、正常組織への重篤な副作用によって制限されている。 p53はこのような傷害の誘導に関与しているので、正常組織への損傷を低減するための治療上での抑制に対する潜在的な標的として、p53を研究した。 p53抑制療法は、機能性p53を欠損し、したがって付加的なp53抑制による利点を受けることができない腫瘍の処置において特に有用であり得る。
【0042】
生物の全細胞社会の利点のために自信の生命を与えることを細胞に強いることによって、損傷を受け潜在的に危険な細胞を排除することにより、p53は重要な機能を果たしている。 癌治療の際にp53活性を阻害することは、遺伝的に変化した細胞の生存へとつながり得、これはそうでない場合にはp53依存性の成長停止またはアポトーシスによって排除されるはずのものである。 したがって、p53抑制は、損傷を受けた細胞が自己破壊しない、したがって増殖することができるという、本来の危険性を有している。
【0043】
このことが、p53活性の抑制によって誘導される新しい癌の危険性を増大させ得るのである。
【0044】
この本来の危険性は、一時的な、あるいは可逆的なp53活性の阻害を提供することによって相殺され、これで損傷を受けた正常細胞がp53阻害の間に自己を修復することが可能となることが見出されている。 p53阻害剤の効果が低減または終了すると、その後p53は、その正常な機能を遂行することができる。 この機構は癌の処置において、特にp53欠損癌の急性期処置の際に、正常細胞が例えば化学療法や放射線療法などの処置の際に影響を受けている場合に有益である。 換言すると、癌の処置に起因する重篤な副作用が、低減または排除されるのである。
【0045】
やはり前記したとおり、治療において有用なp53阻害剤は、低濃度で有効であり、毒性が低く、治療上有効な濃度で望ましくない副作用を起こさず、可逆的な、すなわち一時的なp53阻害を呈し、付されたストレスから正常細胞を回復させることができるのに充分な時間でp53を阻害し、そして癌の発生の有意な増大を惹起しないものである。
【0046】
本明細書において使用する場合、p53活性の「一時的な」または「可逆的な」阻害は、p53阻害剤の投与後短時間、例えば投与後約5分乃至後約1時間の阻害であって、且つp53阻害剤の投与の完遂後約24時間乃至約96時間の間継続するものを意味する。
【0047】
有用な治療用p53阻害剤を同定する上で重要な考慮すべき事柄は、p53の活性化がp53応答性遺伝子のトランス活性化につながり、そしていくつかの細胞型では結果的にアポトーシスが引き起こされることである。 これらの効果の抑制を、治療用p53阻害剤を同定するために使用することができる。
【0048】
特に、p53は特異的なDNA配列に結合することによって、数多くのp53応答性遺伝子を活性化または抑制する核転写因子として作用する。 トランスジェニックマウスにおけるp53応答性レポーター・ベータ−ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)の転写活性化は、癌治療の副作用を受ける組織の位置付けを行う。 したがって、p53応答性プロモーターの制御下でレポーター遺伝子(例えば、LacZ、ルシフェラーゼ、GFP、および分泌因子)を発現している細胞は、p53転写調節の活性化または抑制のいずれかをすることができる化合物をスクリーニングするために使用できる。
【0049】
詳細には、p53結合性DNAコンセンサス配列からなるp53応答性エレメントの制御下にあるLacZ遺伝子、最小熱ショック遺伝子プロモーターと組み合わせてリボソームタンパク質プロモーター由来のp53結合部位を含むp53野生型Balb 3T3細胞系ConAを使用した。 ガンマ線照射、UV光、または種々の化学療法剤を用いた処理による、これらの細胞におけるp53活性化は、常法のX−gal染色によって容易に検出され得るベータ−ガラクトシダーゼの蓄積をもたらす。
【0050】
この系はこれまでに、サリチル酸ナトリウムによるp53活性の阻害を同定するために使用されている。 しかしながら、サリチル酸ナトリウムは、20mM(ミリモル濃度)から始まる高濃度のみで治療的に有効であるので、サリチル酸ナトリウムは治療上有用なp53阻害剤として適切な候補物質といえない。 この治療上有効な濃度では、たとえ有効濃度の半分ででも、サリチル酸ナトリウムの注射は処理した被検動物のすべてに対して致死的であった。
【0051】
化合物を治療上の適用において有用ならしめる性質を保有するものとして、p53阻害剤を検出するためのスクリーニングプログラムによって、以下の化合物のクラスが同定された。 詳細には、以下のクラスの化合物が、有効に且つ可逆的にp53活性化を阻害する。 以下にさらに詳説するとおり、癌の処置、または疾患もしくは外傷によって加えられたストレスに起因するp53プログラム細胞死から正常細胞を保護するために、それら化合物は単独で、または例えば癌の処置の際に化学療法または放射線療法と組み合わせて使用することができるのである。 加えて、化学療法の際に、腫瘍と正常細胞の双方ともが破壊されてしまう。 腫瘍細胞は、正常細胞に比べて優先的に殺され、これが化学療法が成功する基礎となっている。 治療用p53阻害剤を投与することによって正常細胞が保護され、しかして化学療法剤の用量を増加させて、癌をより効率的に処置することができるのである。
【0052】
治療上有効な、一時的p53阻害剤の例には、以下の一般構造式(I)〜(IV):
【0053】
【化9】
【0054】
【化10】
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
[式中、XはO、S、またはNHであり、
mは0または1であり、
nは1〜4であり、
R1およびR2は独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、アルカリール、複素環、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、ハロアルキル、ハロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アラルコキシアルキル、ハロ、(アルキルチオ)アルキル、(アリールチオ)アルキル、および(アラルキルチオ)アルキルよりなる群から選択され、
または、R1およびR2は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成し、
R3は、水素、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルカリール、アラルキル、ハロアリール、ヘテロアラルキル、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、ハロ、NR4R5、NHSO2R4R5、NHSO2R4、およびSO2NR4R5よりなる群から選択され、そして
R4およびR5は独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、および複素環よりなる群から選択され、
または、R4およびR5は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成するものである]を有するもの、ならびに医薬上容認され得るこれらの塩および水和物が含まれる。
【0057】
式(I)から(IV)までの化合物には、置換されていないか、または1以上、典型的には1〜3の置換基で置換された、R1からR5までの基が含まれる。 好適な置換基には、アルキル、アリール、OH、NR4R5、CN、C(=O)NR4R5、SR4、SO2R4、CO2R6[R6は水素またはアルキルである]、OC(=O)R6、OR6、CF3、ハロ、およびNO2が包含されるが、これらに限定されることはない。
【0058】
本明細書中で使用する場合、「アルキル」なる語は単独または組み合わせで、C1〜C8からの直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を含むものとして定義される。 「低級アルキル」の語は本明細書中、C1〜C4として定義される。 アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、イソブチル、n−ブチル、n−ヘキシル等が包含されるが、これらに限定されることはない。 「アルキル」なる語にはまた、「シクロアルキル」も含まれ、この語は本明細書中、C3〜C7からの環状炭化水素基を包含する。 シクロアルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、およびシクロペンチルが包含されるが、これらに限定されることはない。 「アルケニル」および「アルキニル」の語は、「アルキル」と同様であるが、少なくとも1つの炭素間二重結合または三重結合をそれぞれ含むものとして定義される。
【0059】
「アリール」なる語は単独または組み合わせて、単環式または多環式芳香族基として定義され、好ましくは、例えば、ハロ、アルキル、フェニル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニルから選択される1以上の、特に1乃至3の置換基で置換されているか、または置換されていないのもののいずれかであることができる、例えば、フェニルまたはナフチルなどといった単環式または多環式の芳香族基である。 アリール基の例には、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2−メチルフェニル、4−メチルフェニル、ビフェニル、4−ヨードフェニル、4−メトキシフェニル、3−トリフルオロメチルフェニル、4−ニトロフェニル等が包含される。
【0060】
「ハロアリール」および「ハロアルキル」なる語は、本明細書中において、前記のごとき定義のアルキルまたはアリール基で、少なくとも1つの水素原子が本明細書において定義されるごとき「ハロ」基で置換されているものとして定義される。
【0061】
「ヘテロアリール」なる語は、本明細書中で、例えば、チエニル、フリル、またはピリジルなどの5員または6員の複素環芳香族基として定義され、これらは融合したベンゼン環を任意に有し、そして、例えば、ハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニルのような、1以上の、特に1乃至3の置換基で置換されているか、または置換されていないのもののいずれかであることができる。 ヘテロアリール基の例には、チエニル、フリル、ピリジル、ベンズオキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズイソキサゾリル、オキサゾリル、キノリル、イソキノリル、トリアゾリル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、イミダゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、チアゾリル、チアジアゾリル、ベンズイミダゾリル、インドリル、ベンゾフリル、およびベンゾチエニルが包含されるが、これらに限定されることはない。
【0062】
「アラルキル」なる語は、本明細書において、前記のごときに定義されたアルキル基であって、水素原子の1つが本明細書にて定義されるごときアリール基、例えば、ハロ、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ等の1以上の置換基を任意に有するフェニル基などで置換されているものとして定義される。 アラルキル基の例は、ベンジルである。
【0063】
「ヘテロアラルキル」なる語は、「アラルキル」なる語と同様に定義されるが、水素がヘテロアリール基で置換されたものである。
【0064】
「アルカリール」なる語は、本明細書中ににおいて、前記のごとく定義されたアリール基で、水素原子の1つが本明細書中にて定義されるごときアルキル基により置換されているものとして定義され、このアルキル基は、置換されているものか非置換のもののいずれかである。 アルカリール基の例には、4−メチルフェニルが挙げられる。
【0065】
「アルコキシアルキル」および「アリールオキシアルキル」の語は、水素がそれぞれ、アルコキシ基またはアリールオキシ基で置換されているアルキル基として定義される。 「アラルコキシアルキル」は同様に、アルキル基の水素にアラルコキシ基が置換されているものとして定義される。 「(アルキルチオ)アルキル、」「(アリールチオ)アルキル、」および「(アラルキルチオ)アリル」は酸素原子でなくイオウ原子が存在することを除いて、前記3種の基と同様のものとして定義される。
【0066】
「ハロゲン」または「ハロ」なる語は本明細書において、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を含むものとして定義される。
【0067】
「複素環」なる語は、酸素、イオウ、および窒素よりなる群から選択される、1乃至3の原子を含み、残余の原子は炭素であるC4〜C8の脂肪族環式、好ましくはC5〜C6の脂肪族環式として定義される。 複素環の例には、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、ジオキサン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリドン、およびモルホリンが包含されるが、これらに限定されることはない。
【0068】
「アルコキシ」および「アリールオキシ」は、−OR[Rはアルキルまたはアリールである]として定義される。
【0069】
「ヒドロキシ」なる語は、−OHとして定義される。
【0070】
「ヒドロキシアルキル」なる語は、アルキル基に付加されたヒドロキシ基として定義される。
【0071】
「アミノ」なる語は−NH2として定義され、そして「アルキルアミノ」なる語は−NR2[少なくとも1つのRはアルキルであり、第2のRはアルキルまたは水素である]として定義される。
【0072】
「アシルアミノ」なる語は、RC(=O)N[Rはアルキルまたはアリールである]として定義される。
【0073】
「ニトロ」なる語は、−NO2として定義される。
【0074】
「アルキルチオ」なる語は−SR[Rはアルキルである]として定義される。
【0075】
「アルキルスルフィニル」なる語は、R−SO2[Rはアルキルである]として定義される。
【0076】
「アルキルスルホニル」なる語は、R−SO3[Rはアルキルである]として定義される。
【0077】
好ましい実施態様において、XはSまたはNHであり;mは1であり;nは1または2であり;R1およびR2は独立して、水素、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリールであるか、または共に5員もしくは6員の炭素環もしくは複素環を形成し;そしてR3は、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、ハロアリール、または複素環であり、そしてこれらの塩および溶媒和物を含む。
【0078】
より好ましい実施態様において、化合物は、構造式(I)または(III)を有し、XはSであり;mは1であり;nは1であり;R1およびR2は共に5員または6員の脂肪族炭素環を形成し;そしてR3は、アルキル、フェニルであって、好ましくはハロ(例えば、ヨード)、アルキル(例えば、メチル)、またはアリール(例えば、フェニル)で置換されている。
【0079】
治療用のp53阻害剤は、構造式(I)から(IV)までの化合物の幾何異性体の可能性あるものすべてを包含する。 p53阻害剤はまた、ラセミ化合物だけでなく光学活性異性体をも含めて、構造式(II)および(IV)の化合物の立体異性体の可能性あるものすべても包含する。 構造式(II)または(IV)の化合物が単一の鏡像異性体として所望される場合、最終産物の分割によるか、または、異性体的に純粋な出発物質か、もしくは何らかの至便な中間体のいずれかからの立体特異的合成によるかのいずれかにて、入手することができる。 最終産物、中間体、または出発物質の分割は、当該技術分野において知られている好適な方法のいかなるものによっても成し遂げることができる。 加うるに、構造式(I)から(IV)までの化合物の互変異性体が可能な場合、本発明はその化合物の互変異性体すべてを包含することが意図される。 例えば、構造式(I)の化合物[mおよびnはそれぞれ1である]は、以下の互変異性体の形態で存在し得る。
【0080】
【化13】
酸部分を含む構造式(I)から(IV)までの化合物は、好適な陽イオンと共に医薬上容認され得る塩を形成することができる。 好適な医薬上容認され得る陽イオンには、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)陽イオンが包含される。 塩基性中心を有する構造式(I)から(IV)までの化合物の医薬上容認され得る塩は、医薬上容認され得る酸とで形成される酸付加塩である。 例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩または重硫酸塩(ビサルフェート)、リン酸塩またはリン酸化水素、酢酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、およびp−トルエンスルホン酸塩が包含される。 前記を考慮して、本明細書に記載せる本発明の化合物についての言及はすべて、構造式(I)から(IV)までの化合物だけでなく、それらの医薬上容認され得る塩および溶媒和物を含めることが意図される。
【0081】
構造式(I)から(IV)までの化合物は、p53遺伝子を保有する生物のいずれにおいてでも、p53を阻害するために使用することができる。 典型的には、可逆的なp53の阻害は、ヒトを含めた哺乳動物において実施することができる。 治療的には、構造式(I)から(IV)までの化合物などの可逆的p53阻害剤は、p53活性の阻害によって利点がもたらされる疾患、状態、または傷害のいずれかを処置するために、治療上有効な量にて哺乳動物に投与することができる。
【0082】
以下に述べるとおり、哺乳動物への本発明のp53阻害剤の投与は、例えば、癌の処置および高熱症において起こる細胞ストレスによって惹起される死から、損傷を受けた細胞を救出すること;潜在的に有害な放射線量にさらされる、原子力発電所での作業従事者、および放射性医薬品にかかる作業に従事している人などといった個体を処置する方法を提供すること;ならびに老化細胞に起因する組織加齢を調節することを含め、様々な潜在的利点を有している。
【0083】
構造式(I)から(IV)までの化合物のような一時的p53阻害剤は、化学品そのままで治療用に投与することができるが、医薬組成物または製剤として、構造式(I)から(IV)の化合物を投与することが好ましい。 したがって、本発明はさらに、例えば、構造式(I)から(IV)までの化合物、またはその医薬上容認され得る塩を、1以上の医薬上容認され得る担体と、そして任意に他の治療用および/または予防用成分と共に含む医薬製剤を提供する。 担体は、製剤の他の成分との適合性があり、そしてそのレシピエントに有害でないという意味において「容認され得る」ものである。
【0084】
治療での使用のために必要とされる一時的p53阻害剤の量は、処置されるべき状態の性質、p53の抑制が望まれる時間の長さ、ならびに患者の年齢および状態によって変動し、最終的には担当医によって決定される。 しかしながら一般的に、成人したヒトの処置のために使用される用量は、典型的には1日あたり、.001mg/kgから約200mg/kgの範囲にある。 好ましい用量は、1日あたり約1μg/kgから約100μg/kgである。 所望の用量は、単回投与で、または、例えば、1日あたり2、3、または4以上の副用量として、適切な間隔をもって複数回投与で、都合がよいように投与することができる。 p53活性の抑制が一時的であるため、複数回投与が望ましいこと、またはこれが必要であることが多い。
【0085】
本発明の製剤は、経口、非経口、舌下、経皮、直腸内、経粘膜、局所、吸入による、または口腔内投与などの標準法で投与することができる。 非経口投与には静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、くも膜下腔内、および関節内が包含されるが、これに限定されることはない。
【0086】
獣医師が使用するためには、p53阻害剤、特に式(I)から(IV)までの化合物またはその無毒性の塩が、通常の獣医師の実務にしたがって、好適な容認可能製剤として投与される。 獣医師は、特定の動物に対して最も適切な投薬計画および投与経路を容易に決定することができる。
【0087】
本発明のp53阻害剤を含有する医薬組成物は、従来の方法にて調剤された錠剤またはトローチ剤(lozenge)の形状とすることができる。 例えば、経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム(accacia)、ゼラチン、ソルビトール、トランガント、デンプンまたはポリビニルピロリドンのゴム糊(mucilage))、充填剤(例えば、ラクトース、砂糖、微結晶性セルロース、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、またはソルビトール)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール、またはシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはグリコール酸デンプンナトリウム)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの従来の賦形剤を含有することができる。 錠剤は、当該技術分野でよく知られた方法によって被覆することができる。
【0088】
あるいは、本発明の化合物は、例えば、水性または油性懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、エリキシル剤などの経口用液剤に組み入れることができる。 さらに、これらの化合物を含有する製剤は、使用前に水または他の好適な溶媒(vehicle)で構成させるための乾燥産物として提供することができる。 このような液剤は、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/砂糖シロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、および水素化可食性脂肪などの懸濁化剤;レシチン、モノオレイン酸ソルビタン、またはアラビアゴムなどの乳化剤;アーモンド油、分画化ココナッツ油、油性エステル、プロピレングリコール、およびエチルアルコールなどの非水性溶媒(可食性油を包含し得る);ならびにメチルまたはプロピルp−ヒドロキシベンゾエートおよびソルビン酸などの保存剤のような従来の添加剤を含有することができる。
【0089】
かかる製剤は、例えば、ココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐薬用基剤を含有する坐剤として調剤することもできる。 吸入用の組成物は典型的には、乾燥粉末として投与することができる、溶液、懸濁化剤もしくはエマルジョンの形態にて、またはジクロロジフルオロメタンもしくはトリクロロフルオロメタンなどの従来の噴霧剤を使用したエアロゾルの形態にて提供することができる。 典型的な経皮製剤は、クリーム、軟膏、ローション、およびペーストなどの水性または非水性媒体を含み、あるいは、医薬用の硬膏剤、パッチ、または膜の形態とされる。
【0090】
加えて、本発明の組成物は、注射または継続注入による非経口投与のために製剤化することができる。 注射または継続注入が、投与の好ましい方法であることが想像される。
【0091】
注射用の製剤は、油性または水性溶媒中の懸濁剤、溶液、またはエマルジョンの形態とすることができ、そして懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの配合剤を含有することができる。 あるいは主成分を、使用前に好適な媒体(例えば、無菌の発熱物質不含水)で再構成するための粉末の形態とすることができる。
【0092】
本発明の組成物は、デポ製剤として調剤することもできる。 かかる長時間作用性の製剤は、埋め込み(例えば、皮下または筋肉内へ)によって、または、筋肉内注射によって投与することができる。 本発明の化合物はしかるべく、好適なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、容認され得る油中のエマルジョンとして)、イオン交換樹脂を用いて、または、やや溶けにくい誘導体として(例えば、やや溶けにくい塩として)製剤化することができる。
【0093】
式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤はまた、癌およびその他の状態つまり疾患状態の処置において有用となり得るその他の治療剤と組み合わせて使用することもできる。 かくして本発明は他の要旨において、治療用の一時的なp53阻害剤と第2の治療用活性薬剤との組み合わせを提供する。
【0094】
式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤は、p53活性の阻害が有益である状態の処置における、第2の治療用活性薬剤との同時投与のための医薬の調製において使用することができる。 加うるに、一時的なp53阻害剤は、かかる状態を処置するための第2の治療用活性化合物との付加療法として使用するための医薬の調製において使用することができる。 一時的なp53阻害剤と組み合わせて使用するための、既知の第2の治療薬剤の適切な用量は、当業者によって容易に認識されるものである。
【0095】
例えば、治療用の一時的なp53阻害剤は、放射線療法または化学療法などの癌治療と組み合わせて使用することができる。 特にp53阻害剤は、例えば、シスプラチン、ドキソルビシン、ビンカアルカロイド類、タキソール、シクロホスファミド、イフォスファミド、クロランブシル、ブスルファン、メクロレタミン、マイトマイシン、ダカルバジン、カルボプラチン、チオテパ、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、エスペラマイシンA1、ダクチノマイシン、プリカマイシン、カルムスチン、ロムスチン、タウロムスチン、ストレプトゾトシン、メルファラン、ダクチノマイシン、およびプロカルバジンなどの化学療法剤と組み合わせて使用することができる。 治療用p53阻害剤はまた、卒中、虚血、または血液供給遮断を処置するために使用される薬物と組み合わせて、または関節炎もしくは高熱症を起こす疾患を処置するために使用される薬物と組み合わせて使用することもできる。
【0096】
以上参照した組み合わせは、単一の医薬製剤の形態での使用目的で提供することができ、かように、医薬上容認され得る希釈剤または担体と共に、前記のごとく定義された組み合わせを含んでなる医薬組成物が、本発明のさらなる要旨に含まれる。
【0097】
前記のごとき組み合わせの個々の成分はしたがって、同じかまたは別々の医薬製剤から、連続的または同時のいずれかにて投与することができる。 本発明の治療用p53阻害剤の場合と同様に、第2の治療剤は、例えば、経口、口腔内、吸入、舌下、直腸内、腟内、経尿道、経鼻、局所、経皮(すなわち、経皮膚)、または非経口(静脈内、筋肉内、皮下、および冠動脈内を含む)投与などの、好適な経路のいずれによってでも投与することができる。
【0098】
いくつかの実施態様において、式(I)から(IV)の化合物などの一時的なp53阻害剤、および第2の治療剤は、同じ経路によって、同じかまたは異なる医薬組成物より投与される。 しかしながら、他の実施態様においては、治療用p53阻害剤と第2の治療剤に対して同じ投与経路を使用することは不可能か、または好ましくない場合がある。 当業者は、単独、または組み合わせのいずれかでの、各治療剤に対する投与の最良の態様を了知している。
【0099】
一般的に、構造式(I)から(IV)までの化合物は、A. Andreani et al., J. Med. Chem., 38, pp. 1090-1097 (1995)(本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用する)に開示された以下の合成スキームにしたがって、調製することができる。 構造式(I)または(II)[式中、nは1である]の化合物は次いで、構造式(III)または(IV)の化合物へと変換することができる。 Andreani et al.の出版物に開示されたスキームで、合成化学の一般的な原理に従い、必要とあれば保護基を用いることができることが当該技術分野において理解される。 これらの保護基は、当業者に知られ、且つ容易に明らかとなる塩基性、酸性、または水素化分解条件下に、合成の最終段階で除去される。 いずれかの化学官能基の適切な操作および保護を採用することによって、構造式(I)から(IV)までの化合物の合成は、本明細書に特記しないが、以下に示すスキームと類似の方法によって成し遂げることができる。 特に断りのない限り、すべての出発物質は、市販品であり、さらに精製することなく使用した。
【0100】
Andreani et al.の出版物に開示されるとおり、一般構造式(I)または(II)の化合物[式中、XはSである]は、2−アミノチアゾールをモル当量のブロモケトン化合物と、アセトン中で還流下に約30分間反応させることによって調製することができる。 次いで反応混合物は冷却され、そして産物が臭化水素酸塩として単離される。 式(I)の他の化合物は、2−アミノイミダゾール(X=NH)または2−アミノオキサゾール(X=O)をブロモケトンと反応させることによって同様に調製することができる。 構造式(I)の化合物[式中、XはSである]を提供するための反応は、以下の式によって示される。
【0101】
【化14】
同じ反応を、例えば、2−アミノイミダゾリジンをブロモケトンと反応させることにより、構造式(II)の化合物を提供するために使用することができる。 あるいは、構造式(I)の化合物を、構造式(II)の化合物へ変換することができる。
【0102】
構造式(I)または(II)の化合物[式中、mおよびnはそれぞれ1である]は、それぞれ構造式(III)または(IV)の化合物へと変換することができる。 この変換は、メタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールなどの溶媒中の構造式(I)または(II)の組成物を、例えば約1乃至約10時間程度の充分な時間加熱して化合物を環化し、構造式(III)または(IV)の化合物を得ることによって成し遂げられる。 場合によっては、構造式(I)または(II)の化合物は溶液中で、室温下において構造式(III)または(IV)の化合物へとゆっくり環化される。 構造式(I)および(II)の化合物からの、構造式(III)および(IV)の化合物の調製は、以下に示すとおりである。
【0103】
【化15】
【0104】
【化16】
構造式(I)および(III)の特定の化合物を、以下の手順によって調製した。
【0105】
【化17】
40mlのベンゼン中に、シクロヘキサノン(1.96g、20mMol)、チオ尿素(1.52g、20mMol)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)(3.56g、20mMol)、および過酸化ベンゾイル(100mg)を含有する反応混合液を調製し、次いで還流下に終夜加熱した。 その後ベンゼンを、減圧下に除去した。 残渣を水に溶解し、次いで炭酸ナトリウムで中和した。 得られた沈澱を濾取して、減圧乾燥し、そしてヘキサンから再結晶して2−アミノアゾール誘導体A(1.81g、収率59%)を得た。
【0106】
50mlのベンゼン中、化合物A(1.54g、10mMol)および臭化パラ−メチルフェナシル(2.34g、11mMol)の溶液を調製し、その後、室温にて48時間撹拌した。 その反応混合液から沈澱した産物(V)(構造式(I)の化合物[式中、X=Sであり、n=1である])を濾取し、次いでベンゼンで洗浄して2.42g(収率66%)の構造式(V)の化合物を得た。 構造式(V)の化合物は、安定で水溶性の化合物であった。
【0107】
30mlのエタノール中、化合物(V)(1.10g、3.0mMol)の溶液を6時間還流した。 次いで反応混合液を冷却し、水と混合して炭酸ナトリウムで中和した。 得られた固形産物を混合液から濾取し、減圧乾燥してエタノールから再結晶させ、化合物(VI)(すなわち、構造式(III)の化合物)の0.45g(収率56%)を得た。
【0108】
構造式(I)および(III)に包含される、これらの、そして他の特定の(これらに限定されることはない)、以下の構造を有する化合物を合成した。
【0109】
【化18】
【0110】
【化19】
【0111】
【化20】
【0112】
【化21】
【0113】
【化22】
【0114】
【化23】
【0115】
【化24】
構造式(V)〜(XI)の化合物はそれぞれ、
(V)−−2−[2−イミノ−4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ベンゾチアゾール−3(2H)−イル]−1−(4−メチルフェニル)−1−エタノン;
(VI)−−2−(4−メチルフェニル)−5,6,7,8−テトラヒドロベンゾ[d]イミダゾ[2,1−b]チアゾール;
(VII)−−2−[2−イミノ−4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ベンゾチアゾール−3(2H)−イル]−1−(4−ヨードフェニル)−1−エタノン;
(VIII)−−2−[2−イミノ−4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ベンゾチアゾール−3(2H)−イル]−1−(ビフェニル)−1−エタノン;
(IX)−−2−フェニル−5,6,7,8−テトラヒドロベンゾ[d]イミダゾ[2,1−b]チアゾール;
(X)−−3−メチル−6−フェニルイミダゾ[2,1−b]−チアゾール;および
(XI)−−2,3−ジメチル−6−フェニルイミダゾ[2,1−b]チアゾールと命名される。 構造式(V)の化合物は、ピフィスリン−アルファおよびPFT−αの慣用名でも知られている。 構造式(VI)の化合物は、ピフィスリン−ベータおよびPFT−βの慣用名でも知られている。 構造式(VII)の化合物は、化合物86B10としても知られている。
【0116】
構造式(V)および(VI)の化合物は、Balse et al., Indian J. Chem., Vol. 19B, pp.293-295(1980年4月)に開示されている。 構造式(IX)の化合物は、Singh et al., Indian J. Chem., Vol. 14B, pp.997-998(1976年12月)、およびS. Naito et al., J. Heterocyclic Chem., 34, pp.1763-1767(1997)に開示されている。 構造式(X)および(XI)の化合物は、P.M. Kochergin et al., J. Gen. Chem. U.S.S.R., 26, pp.483-489(1956)に開示されている。
【0117】
構造式(VII)および(VIII)の化合物は、適切なα−ブロモケトンすなわち、ブロモメチル4−(フェニル)ケトンおよびブロモメチル4−ヨードフェニルケトンをそれぞれ使用することによって、化合物(V)と同じスキームにて調製した。 構造式(I)および(II)のその他の化合物は、適切なチアゾール、イミダゾール、またはオキサゾール誘導体とブロモケトンを使用して、同様の方法で調製することができる。
【0118】
構造式(I)〜(IV)の化合物はまた、前記したBalse et al.およびSingh et al.の出版物に開示せる方法によっても調製した。 したがって、構造式(XII)〜(XV)の以下の化合物も、一時的なp53阻害剤として利用することができる。
【0119】
【化25】
【0120】
【化26】
【0121】
【化27】
【0122】
【化28】
[式中、R7は水素またはアルキルであり、R8はCO2R6または水素であり、そして、R3はフェニル、4−クロロフェニル、4−ニトロフェニル、3−ニトロフェニル、4−メチルフェニル、4−フェニルフェニル、および4−ブロモフェニルよりなる群から選択される]3−ニトロフェニル誘導体は、WO 98/17267に開示されている。
【0123】
さらなる、構造式(I)〜(IV)の一時的なp53阻害剤は、以下の構造[式中、R1およびR2は共に、6員芳香環を形成する]を有する。
【0124】
【化29】
構造式(III)を有するさらなる化合物[式中、XはSである]は、本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用するJP11−106340およびJP7−291976に開示されている。
【実施例】
【0125】
構造式(I)から(IV)の化合物が効果的且つ可逆的の双方にてp53活性を阻害する能力と、治療剤としてのそれらの有用性を、以下の試験および実験で立証した。
【0126】
構造式(I)から(IV)の化合物のような一時的なp53阻害剤がp53活性を阻害する能力を立証するために、p53活性化因子(例えば、ドキソルビシンまたはガンマ線照射)をConA細胞に直接付し、その後X−gal染色を行った。 次いで、p53活性化因子の存在下に、1μMから20μMの濃度で被検細胞にp53阻害剤を適用した。 標準的なアッセイによって、p53阻害剤の細胞毒性も調べた。 p53阻害剤化合物の抗アポトーシス活性の評価は、p53依存性のアポトーシスに感受性の標準細胞系(すなわち、S.W. Lowe et al., Cell, 74, pp.957-968 (1993)に記載の、Ela+rasで形質転換されたマウス胚線維芽細胞、C8系)においてアポトーシス細胞死を抑制する能力に基づくものであった。 化合物活性のp53依存性は、p53欠損細胞への効果(すなわち、Lowe et al., 1993に記載の、Ela+rasで形質転換されたp53−/−マウス胚線維芽細胞、A4系の放射線感受性または薬物感受性)を試験することによって分析した。
【0127】
これらの試験の結果を、添付の図面(図1〜図16)に示す。 これらの図面はおしなべて、構造式(V)および(VI)の化合物について実施した試験に基づくものである。 以下の図面において化合物(V)すなわち、PFT−αについて示した試験結果を、化合物(VI)すなわち、PFT−βについて繰り返した。 PFT−βを用いた試験結果は、PFT−αを用いた試験結果と基本的に同様であった。
【0128】
図1には、p53依存性の転写活性化の抑制についての、化学ライブラリーのスクリーニングを示す。 スクリーニング試験において、ConA細胞(E.A. Komorova et al., EMBO J., 16, pp. 1391-1400 (1997)に記載されるごときp53応答性プロモーターの制御下にある細菌lacZ遺伝子を発現しているマウスBalb 3T3細胞)を96ウェルプレートに播種し、そして0.2μg/mlのドキソルビシン(すなわち、p53を活性化する化学療法剤、アドリアマイシンとしても知られている)と共に、約10乃至約20μMの濃度の被検化合物と組み合わせて24時間処理した。 DMSO(ジメチルスルホキシド)およびサリチル酸ナトリウムをそれぞれ陰性および陽性対照として使用した(左のカラム)。 細胞を固定してlacZ発現をモニターするために標準的なX−gal法によって染色した。 ピフィスリン−アルファを含有するウェルは、図1の矢印によって同定され、p53を阻害するうえでのPFT−αの有効性が示されている。
【0129】
PFT−αは図2に示すように、用量依存的に紫外(UV)光によって誘発されるConA細胞におけるp53応答性のlacZの活性化も阻止した。 詳細には、図2(a)は、UV照射された(25J/m2)ConA細胞におけるβ−Gal活性に対し、PFT−αが10、20、および30μMで影響を及ぼすことを示している。 細胞をUV処理から8時間後に集めて、抽出物中のβ−Gal発現を標準比色アッセイによって評価した。 (例えば、V.A. Tron et al., Am. J. Pathol., 153, p. 597 (1998)を参照されたい。)
【0130】
図2(b)は、p53応答性遺伝子として知られているサイクリンG、p21/waf1、mdm2、およびGAPDHの、UVで誘発されたトランス活性化をPFT−αが阻害することを示している。 図2(b)は、以下のようなConA細胞からのRNAのノザンブロットを含むものである:u/t,未処理;PFT,10mMのPFT−αと8時間インキュベートされたもの;UV,UV処理(25J/m2)後8時間;UV+PFT,PFT処理(10mM)とUV処理との組み合わせ。
【0131】
しかしながら、治療上有用であるためには、p53阻害剤は(a)低濃度での有効性、(b)低毒性、(c)副作用がない、(d)可逆的なp53阻害、(e)付されたストレスからの細胞の回復を許容するのに充分な時間のp53阻、害、ならびに(f)癌の発生の劇的な増大を引き起こすことがないという特性を保有していなければならない。
【0132】
図3は、ドキソルビシンによって引き起こされたp53依存性のアポトーシスを、ピフィスリン−アルファが抑制することを示している。 Ela+rasで形質転換されたマウス胚線維芽細胞(C8系、p53依存性のアポトーシスに対する感受性が高い)の同数を、0、0.4、および0.8μg/mlのドキソルビシンを含む6ウェルのプレートに播種し、DMSOおよびPFT−α(10μM)で48時間処理し、メタノールで固定し、そしてクリスタルバイオレットで染色して、その後1%SDSを用いて色素を溶出した。 光学密度(530μM)を、BioTek EL311マイクロプレートリーダーを使用して定量した。 染色の強度は生存細胞の数を反映する。 その結果は、ドキソルビシンによって誘発されたC8細胞のアポトーシス死を、10μMのPFT−αが阻害したことを示すものである。
【0133】
同様の試験を実施して、エトポシド、タキソール、シトシンアラビノース、UV光、およびガンマ線放射によって引き起こされるp53依存性のアポトーシスをピフィスリン−アルファが抑制することを示した(図10を参照されたい)。 結果は、ドキソルビシンについて図3に示したものと同様であった。
【0134】
ガンマ線照射を用いた試験に関しては、驚くべきことに、構造式(I)または(II)の化合物、例えば、ピフィスリン−アルファは照射からp53欠損細胞(A4)を保護しないが、これと反対に、20μMの濃度ではp53欠損細胞の放射線感受性を高めることが見出された。 したがって、PFT−αは、p53を含有する細胞におけるp53活性を阻害し、それにより放射の効果からかかる細胞を保護する一方で、p53欠損癌細胞に関しては放射を増強するという、二重の予期せざる利点を示すのである。 図10には、タキソールおよびAraC(シトシンアラビノシド)で処理したp53欠損細胞へのピフィスリン−アルファの選択的な毒性を示す。 このデータは、図3に関連して前記した、PFT−αによって立証された予期せざる二重の効果を裏付けるものである。
【0135】
図4は、PFT−αの抗アポトーシス活性がp53依存性であること、すなわち、PFT−αがp53野生型細胞に特異的に発効することを示している。 UV照射に対するC8細胞の感受性は、ピフィスリン−アルファの存在に左右され、一方GSE56によって不活性化されたp53を有するC8(優性の負の変異)の感受性は、PFT−αの存在に左右されることはなかった。 したがって、PFT−αは、遺伝毒性ストレス後のp53欠損細胞の生存に対しては効果を有しない。
【0136】
図5(a)および(b)は、ピフィスリン−アルファが、インビトロでラット胚線維芽細胞の加齢を遅延させること、すなわち、細胞成長の3日間における、示した濃度のピフィスリン−アルファによる前老化細胞の成長刺激を示している。 図5(a)には、播種された細胞の数に対する細胞成長が示されている。
【0137】
図6は、p53経路でのPFT−αの効果と、この経路におけるどの段階でPFT−αがp53を標的とするかが示されている。 図6(a)は、一過性にp53を発現しているSaos−2細胞でのアポトーシスをPFT−αが阻害することを示している。 野生型ヒトp53(中央および下部)を担持するか、またはインサートなし(上部)のいずれかのプラスミドの5倍過剰量と共に、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するDNAプラスミドで細胞をトランスフェクトした。 トランスフェクトされた細胞を、PFT−α添加(下部)または無添加(上部および中央)にて維持した。 p53を発現するプラスミドでトランスフェクトされた蛍光細胞の大部分は、トランスフェクション後48時間、アポトーシスを行う(中央)。 アポトーシスは、PFT−αの存在下に阻害された(下部)。
【0138】
図6(b)は、異なる濃度のPFT−α(0、10、20、および30μM)の存在下にUV照射された(25J/m2)ConA細胞の溶解物におけるp53タンパク質変異体のスペクトルを、二次元タンパク質ゲル電気泳動を用いて比較したものを示す。 図6(c)は、PFT−αは部分的に、そして用量依存的に、UV処理後のConA細胞におけるp53蓄積を阻害することを示している。 PFT−αはUV処理前に細胞に添加し、そして総細胞溶解物を18時間後に調製した。
【0139】
図6(d)は、PFT−αがp53の核および細胞質分布を変化させることを示している。 核および細胞質画分は、UV照射6時間後に、UV処理されたConA細胞から単離した。 p53およびp21waf1タンパク質をイムノブロッティングによって検出した。
【0140】
p53の核と細胞質の割合は、PFT−αで処理された細胞では有意に減少していたが、p21waf1についてはそのようなことがなかった。
【0141】
図6(e)は、PFT−αがp53のDNA結合活性に影響を及ぼさないことを示す。 詳細には、PFT−αを含有する培地において生育された、未処理またはUV照射されたConA細胞のいずれかからの細胞溶解液を使用したゲルシフトアッセイの結果を示す。
【0142】
ゲルの右半分は、モノクローナル抗体Pab421によるp53結合ドメインのスーパーシフトを示す。 結合されたDNAの量の減少は、PFT−αの存在下でのp53含量の全体的な減少に比例する。
【0143】
図6(a)における結果は、PFT−αがp53の下流で作用することを示している。 図6(b)〜(e)は、二次元タンパク質分析およびゲルシフトアッセイを組み合わせて行ったタンパク質イムノブロッティングによって判定したところ、DNA損傷処理後のConA細胞における、p53のリン酸化または配列特異的DNA結合を変化させなかったことを示している。 しかしながら、PFT−αはUV照射によって誘発される核p53のレベルを僅かに低下させたが、細胞質のものを低下させることはなかった。 対照的に、PFT−αはp53誘発可能p21waf1タンパク質の核−細胞質比に影響を及ぼさなかった。 これらの結果は、PFT−αが核のエクスポートもしくはインポートまたはその両方をモジュレートすることができるか、あるいは核p53の安定性を低下させることができることを示している。
【0144】
図7(a)〜(d)は、PFT−αの単回注射によるマウスの致死量の放射線に対する感受性へのインビボの効果を示すものである。 詳細には、図7はピフィスリン−アルファが、放射線によって誘発される死からマウスを保護することを示している。 この試験では、2つの異なる系のマウス(C57BLおよびBalb(c))を、全身へのガンマ線照射の致死および亜致死量で処理した。 (i)未処理未照射マウス、(ii)PFT−αの単回腹腔内(i.p.)注射を受けた未照射マウス、(iii)未処理ガンマ線照射マウス、および(iv)ガンマ線照射の直前にPFT−αで腹腔内注射されたマウスの間で比較を行った。
【0145】
PFT−α処理によって、双方の系のマウスがガンマ線照射の60%死滅用量(C57BLについては8Gy、そしてBalb/cについては6Gy)から完全に救出された。
【0146】
対照の動物に対しては致死的な、より高い量の放射でも有意な保護が認められた(図7(a)〜(c))。 PFT−αが注射されたマウスは、薬物で前処理されなかった照射マウスよりも体重減少が少なかった(図7(d))。 PFT−αは致死的な照射からp53のないマウスを保護しなかったので、PFT−αがインビボでp53依存性の機構を通じて作用することが確認された。
【0147】
図7のプロットにおいて、全身へガンマ線照射されたマウス(計60)を4群に分けた。
【0148】
各群からのマウスのうち10匹に、照射の5分前にピフィスリン−アルファ(2.2mg/kg)を腹腔内注射した。 各群の10匹にはPFT−αの注射を行わなかった。 図7に、前記3群の各々のマウスに対する生存曲線を示す。 図7のデータは、一時的p53阻害剤が、有効な放射線保護剤であることと、PFT−αが双方のマウス系で強い救出効果を有することを示している。 PFT−αの注射は、8Gyのガンマ線照射後にC57BL6マウスによる体重の漸減を抑止した(非照射マウスで観察された体重の増加は、若い5週齡の動物の正常な成長を反映するものである)。 実験は、各実験の部分群あたり10匹のマウスで少なくとも3回繰り返された。
【0149】
図8には、ピフィスリン−アルファがマウスにおいて、p53により媒介される成長停止をインビボで阻止することができる(単回腹腔内注射、2.2mg/kg)ことを示している。 4週齡のp53欠損マウスおよびp53野生型(wt)マウスの全身にガンマ線照射を行った(10Gy)。 ピフィスリン−アルファは、照射の5分前にp53野生型動物の1匹に注射した。 14C−チミジン(1匹あたり10mCi)を照射後8時間に、各マウスへ腹腔内注射した。 マウスを照射後24時間に屠殺し、クリオスタティックミクロトームを用いて薄切した全身(25μmの厚み)を調製し、そして組織における14Cの分布をモニターするためにX線フィルムに露光した。 図8は、代表的な切片のオートラジオグラムを示す。 矢印は、皮膚および腸における14C−チミジンの取り込みを示す。 試験の結果、PFT−αの注射がガンマ線照射されたマウスの皮膚および小腸におけるアポトーシスを阻害することが示された。
【0150】
図8は、皮膚、腸、および他の様々な組織の14C標識化が、p53+/+マウスでは有意に減少したが、p53-/-マウスではそのようなことがなく、この効果のp53依存性を反映していることを示す。 放射線で誘発される14C−チミジン取り込みの低下は、対照の照射マウスよりもPFT−α処理マウスにおいて明白さが劣り、p53活性のPFT−α阻害を反映していた。
【0151】
これらの結果は、全身へのガンマ線照射後に迅速に増殖している組織で、PFT−αがDNA複製のp53依存性の阻止を減弱することを示す。
【0152】
図9は、全身への10Gyのガンマ線照射後24時間での、C57BL6野生型マウス(PFT処理(+)および未処理(−))の小腸の上皮における組織形態およびアポトーシスを比較する写真を含むものである。 大規模なアポトーシスの領域を矢印で示す。 小腸の陰窩および絨毛において観察される広範囲にわたるアポトーシスは、照射前にPFT−αで処理されたマウスで抑止されていたが、これは図8に示すチミジン取り込みにおける変化に呼応するものである。
【0153】
図11は、UV照射後のC8細胞生存の、PFT−α適用の時間および期間への依存性を示す。 図11は、UV照射(25J/m2)で処理されたC8細胞に、異なる時間間隔で添加されたPFT−αの抗アポトーシス効果の比較を含むものである。 10μMのPFT−αを、異なる時間間隔で培地に添加した(図11(a))。 UV処理後48時間で、MTTアッセイを使用して生存細胞の比率を評価し、これを図11(b)に示している。
【0154】
図11(a)および(b)は、前もって(18時間まで)投与されて、C8細胞のUV処理直前に除去された場合、PFT−αは保護効果がないに等しいことを示す。 しかしながら、UV処理後にPFT−αと3時間という短時間インキュベーションすると、顕著な保護効果があり、24時間のインキュベーションで最高の保護が達成された。 PFT−αはUV照射後3時間で投与された場合、UV照射細胞をアポトーシスから救出することはなかった。 これらの結果は、PFT−αが効率的にp53依存性のアポトーシスを阻害すること、そしてその効果が可逆的で一時的p53阻害剤の存在を必要とすることを示す。
【0155】
PFT−αとインキュベートした後わずか3時間で多くの細胞は致死量のUV照射で生存したので、UVによって誘発されるアポトーシス死シグナルは数時間以内に優位に低減し、そして照射の24時間以内で完全に消失するものである。
【0156】
図12のプロットは、PFT−αがp53野生型細胞の長期間生存を可能とするもののガンマ線照射後のp53欠損細胞についてはそうでないことを示している。 野生型p53を有するヒトの二倍体線維芽細胞と、リー-フラウメニ癌症候群患者からのp53欠損線維芽細胞041系を、培地中に20μMのPFT−αを添加または非添加で、図示用量のガンマ線照射にて処理を行った(図12(b))。 PFT−αは照射後48時間で除去し、そして細胞をさらなる3日間成長させた。 その時までに、未照射細胞は完全な単層となるに至った。 クリスタルバイオレット染色アッセイを使用して、細胞数を概算した(100%は、集密的な細胞培養物に対応する)。 破線は播種された細胞の数を示す。 p53野生型およびEla+rasで形質転換されたp53欠損マウス胚線維芽細胞(MEF)、C8およびA4形質転換をそれぞれ、20μMのPFT−αの存在下および非存在下に指示量のガンマ線照射で処理して、照射後12時間に低密度にて(プレートあたり103細胞)再播種した(図12(a))。 成長コロニーの数を2週間で計数し、そして非照射対照について標準化した。
【0157】
図13(a)は、全身への照射に付したマウスの効果を示す。 野生型(wt)マウスおよびp53欠損マウスの双方を照射した。 野生型マウスの一群を、PFT−αで処理した。 図13(a)は、PFT−αで処理したマウスが照射後300日に生存したことを示す。 これに対して、15匹の未処理野生型マウスは100日以内に死亡した。 p53欠損型マウスは、約125日間影響を受けず、その後次なる25〜30日以内に死亡した。
【0158】
図13(b)は、PFT−βの同様の保護効果を示す。
【0159】
図14は、X−galで染色したConA細胞の顕微鏡写真を含み、そしてドキソルビシンで処理されたConA細胞での、p53抑制におけるピフィスリン-アルファおよび86B10についての結果を示す。 86B10はPFT−αと類似であるが弱いp53阻害効果を呈する。
【0160】
図15は、PFT−βの投与および非投与にて、シクロホスファミド(CTX)で処理したC57BLマウスについての、日数に対する腫瘍容量のプロットである。 マウスは第0、1、および2日にCTXで処理され、そして腫瘍容量を16日間モニターした。 PFT−βで処理されたマウスは、腫瘍成長に実質的な減少を呈した。
【0161】
前記したとおりPFT−αを用いて、図1〜図15に示す試験および実験を、PFT−βを用いて繰り返した。 PFT−βを使用した試験からの結果は、PFT−αを使用した試験からの結果と本質的に同様であった。 しかしながら、図16に示すように、PFT−βの毒性はPFT−αの毒性よりも実質的に低かったので、PFT−βは好ましい一時的なp53阻害剤である。
【0162】
前記の試験および実験は、PFT−αおよびPFT−βのような一時的なp53阻害剤が、p53活性化の下流で作用することを示す。 PFT−αおよびPFT−βはまた、p53の転写後修飾またはp53のDNA結合親和性のいずれかに影響することはない。
【0163】
重要なことは、PTF−αおよびPFT−β、ならびにその他の一時的なp53阻害剤は、p53の核での蓄積を減じることが試験から示されるものであり、このことが構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の治療における用途に対する基礎として役立つのである。
【0164】
p53の抑制は、典型的には細胞の生存を結果として引き起こし、これはそうでなければp53によって排除されたものであって、新しい癌の発生の危険性を高めることができるのである。 例えば、p53欠損マウスは、放射線によって誘発された腫瘍新生に対して極めて感受性が高い。 しかしながら、致死的なガンマ線照射から照射後7ヶ月でPFT−αによって救出された30匹の生存マウスの群において、腫瘍も他の病理学的傷害もまったく認められなかった。 このように、p53活性の一時的な抑制は、癌の素因という面からp53欠損と異なっている。
【0165】
構造式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤は、有効且つ可逆的にp53機能を阻害する。 したがって、ゲノムストレスによって惹起されるアポトーシス死または不可逆的成長停止から、p53を有する細胞を救出するために、一時的なp53阻害剤を適用することができるのである。 重要なことは、一時的なp53阻害剤の細胞効果は可逆的であって短時間継続するもので、したがって、p53抑制は、かかる阻害剤の定常的な存在を本質的に必要とするのである。 さらに、本発明の阻害剤のインビボの効果は、p53の存在に依存する。
【0166】
構造式(I)から(IV)までの化合物、特にPFT−αおよびPFT−βは、(a)迅速に増殖しているマウス組織におけるp53依存性の放射線誘発された成長停止を抑制し、(b)単回の腹腔内注射を使用したガンマ線照射の致死容量からマウスを救出し、(c)化学療法の毒性を減じ、(d)p53欠損マウス腫瘍の化学療法または放射線療法の効率を低減させることはなく、(e)照射された動物における腫瘍の発生率上昇をもたらさず、これらにより、一時的なp53阻害剤の治療用途を示すものである。
【0167】
PFT−αおよびPFT−βを使用した前記の試験は、機能的なp53を喪失しているヒト癌に対する放射線療法または化学療法の副作用を低減する、一時的なp53阻害剤の治療用途を示すものである。 PFT−αおよびPFT−βの効果はp53依存性であるので、これら化合物は、かかる腫瘍の処置に対する感受性に影響を及ぼさない。 事実、PFT−αの腹腔内注射は、p53+/+ヌードマウスにおけるp53欠損腫瘍異種移植の放射線応答を変化させることがなかった。
【0168】
したがって、構造式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤は、例えば、以下の適用において使用することができる。
【0169】
(a)p53活性に関連する種々のストレス(例えば、抗癌放射線療法および化学療法、虚血、卒中、高熱症等)に対する組織応答の病理学的な結果を低減するためにp53抑制を使用する治療;
(b)p53経路分析およびモジュレーションを研究するためのツールとしての、構造式(I)から(IV)までの化合物、例えば構造式(V)または(VI)の化合物などといった一時的なp53阻害剤の適用;
(c)種々のストレスの後の死亡から細胞を救出するための薬物としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(d)抗癌治療に対してp53欠損細胞を高感度にするための薬物としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(e)組織加齢を抑制するための潜在的抗老化薬物としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(f)p53経路分析およびモジュレーションのためのツールとしてp53依存性のトランス活性化を抑制するための、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の適用;
(g)インビボでの放射線保護剤としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(h)抗癌治療の副作用、急性炎症、傷害(例えば、熱傷および中枢神経系外傷)、細胞加齢、高熱症、発作、移植前の移植組織および臓器、骨髄移植のための宿主の準備、ならびに低酸素症(例えば、虚血および卒中)を含めた、異なる病理学的環境にて種々のストレスから細胞を保護するための、インビボでの、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与。
【0170】
明らかに、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、以上に述べた本発明の多くの修飾および変更をなすことが可能であり、したがって、添付の請求の範囲に示されるごとき限定しか、本発明に付されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】p53阻害剤に対する化学ライブラリーのスクリーニングを示す図である。
【図2】(a)および(b)は、UV照射されたConA細胞における10、20、および30μMのPFT−αでのβ−ガラクトシダーゼ活性の依存性、ならびにp53応答性遺伝子のPFT−α阻害をそれぞれ示す図である。
【図3】PFT−α投与による、p53依存性アポトーシスの抑制を示す図である。
【図4】p53野生型細胞に対するPFT−αの特異性を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、PFT−αがインビトロで、ラット胚線維芽細胞の加齢を遅延させることを示す図である。
【図6】(a)〜(e)は、p53経路に対するPFT−αの効果を示す図である。
【図7】(a)〜(d)は、ガンマ線照射に供されたマウス、ならびにPFT−αで処理したものもしくは処理しないものについての、照射後の日数に対する生存動物のプロットと、照射後の日数に対する重量(%)のプロットを含む図である。
【図8】インビボにおける、p53によって媒介される成長停止を阻止するPFT−αの効果を示すオートラジオグラムを含む図である。
【図9】全身へのガンマ線照射後24時間での、p53野生型マウスの小腸を示す図である。
【図10】タキソールおよびAraCで処理したp53欠損細胞に対する、PFT−αの選択的な毒性を示す図である。
【図11】(a)および(b)は、UV照射後のC8細胞の生存に対する、PFT−αの効果、および適用時間を示す図である。
【図12】(a)および(b)は、C8およびA4型細胞への照射量、ならびにヒト二倍体線維芽細胞への照射量に対する、コロニー数のプロットであり、PFT−αの効果を示す図である。
【図13】(a)および(b)は、照射後の日数に対する動物数のプロットであり、PFT−αおよびPFT−βで処理された動物では癌発生の促進を伴わないことを示す図である。
【図14】ドキソルビシンで処理したConA細胞における、PFT−αおよび86B10によるp53の抑制を示す図である。
【図15】PFT−βを投与して、および非投与にて、シクロホスファミドでの処理に付したC57BCマウスについての、日数に対する腫瘍容量のプロットを示す図である。
【図16】PFT−αとPFT−βの毒性を比較している図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一時的なp53阻害剤および治療におけるその使用、例えば癌の処置での、ストレスに対する組織応答の修飾での、そして、細胞加齢の修飾での使用に関する。 さらに詳細には、本発明は有効に且つ一時的にp53活性を阻害する能力を有し、そしてp53活性の一時的な阻害が利点をもたらす疾患または状態を処置するために、癌の処置の際の化学療法または放射線療法のような療法と組み合わせて、または単独で治療用に使用することができる化合物に関する。 p53活性を一時的に阻害し、そして治療用に使用することができる化合物の例には、以下の一般構造式(I)から(IV):
【0002】
【化1】
【0003】
【化2】
【0004】
【化3】
【0005】
【化4】
、ならびに医薬上容認され得るこれらの塩および水和物が含まれる。
【背景技術】
【0006】
p53遺伝子は最も研究され、そしてよく知られた遺伝子の一つである。 p53は、種々の異なる刺激、例えば、DNA損傷、転写または複製の調節解除、および発癌遺伝子の形質転換を、細胞成長停止またはアポトーシスへと変換することによって、細胞性のストレス応答機構における重量な役割を果たす(T.M. Gottlieb et al., Biochem. Biophys. Acta, 1287, p. 77 (1996))。
【0007】
p53は短い半減期を有しており、したがって細胞において継続的に合成および分解されている。 しかしながら、細胞がストレスにさらされると、p53は安定化される。 p53の安定化を誘導する細胞ストレスの例は、
a)UV(紫外線)照射、細胞変異、化学療法および放射線療法による損傷などといった、DNA損傷;
b)高熱症;ならびに
c)いくつかの化学療法剤によって惹起される(例えば、タキソールまたはビンカアルカロイド類を用いた処置)微小管の調節解除などでである。
【0008】
p53は活性化されると、細胞成長停止、またはプログラムされた自殺的細胞死を引き起こし、これは次いでゲノムの安定性に対する重要な制御機構として作用する。 特に、p53は、遺伝的に損傷を受けた細胞を細胞集団から排除することによってゲノムの安定性を制御し、その主要な機能の一つは腫瘍形成を防止することである。
【0009】
p53は、ヒトの癌の大部分において不活性化されている(A.J. Levine et al., Br. J. Cancer, 69, p.409 (1994)およびA.M. Thompson et al., Br. J. Surg., 85, p. 1460 (1998))。 p53が不活性化されると、異常な腫瘍細胞は細胞集団から排除されず、増殖することができる。 例えば、p53欠損マウスはゲノムの安定性を維持できる遺伝子を欠いているので、ほぼ普遍的に癌に罹病することが観察されている(L.A. Donehower et al., Nature, 356, p.215 (1990)およびT. Jacks et al., Curr. Biol, 4, p. 1 (1994))。 したがって、p53の損失または不活性化は、高速度での腫瘍の進行と癌治療に対する耐性を伴う。
【0010】
p53はまた、遺伝毒性のストレスに付された正常組織の様々な型に対して高度の感受性も付与する。 特に放射線療法および化学療法は、リンパおよび造血系上皮への重篤な損傷など、これらの療法の有効性を極限する重篤な副作用を呈する。 脱毛のような他の副作用もまた、p53が媒介するものであり、癌治療のさらなる悪評の原因となる。 これらの副作用は、p53によって媒介されるアポトーシスによって惹起され、これが癌治療の副作用に見舞われる組織の位置を割り出すのである。 したがって、癌の処置に伴う有害な副作用を排除または低減するためには、p53欠損腫瘍の処置に際して正常組織におけるp53活性を阻害し、それによって正常組織を保護することが有益なはずである。
【0011】
しかしながら、腫瘍におけるp53活性の喪失は、腫瘍の進行の迅速化と癌処置に対する耐性を伴う。 したがって、従来の理論では、p53の抑制によって疾患の進行と癌治療からの腫瘍の保護とが導かれるであろうと言われていた。 その結果、以前の研究者らは、癌の予防または処置におけるp53の機能を修復または模倣するよう試みていたのである。
【0012】
p53の不活性化は、望ましくなく、且つ不要な事象であると考えられてきており、p53機能を修復することによって癌の処置を促進するために、かなりの努力が費やされてきた。 しかしながら、p53の修復または模倣は、化学療法または放射線療法の際の正常組織細胞の損傷に関して、前記のごとき問題を引き起こすのである。 これらの正常細胞は、癌治療に際してストレスにさらされ、これによって細胞内のp53が、プログラム死を起こすように導くのである。 次いで癌の処置により、腫瘍細胞および正常細胞の双方が殺傷される。 様々な治療法におけるp53の抑制に関する議論は、本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用するE.A. Komorova and A.V. Gudkov, "Could p53 be a target for therapeutic suppression?," Seminers in Cancer Biology, Vol. 8(5), 389-400頁 (1998)の出版物に示されている。
【0013】
要約すると、p53は癌の治療において二重の役割を果たしている。 一方で、様々なストレスに応答してアポトーシスおよび成長停止を媒介すること、ならびに細胞老化を制御することによって、p53は腫瘍サプレッサーとして作用する。 他方で、p53は癌治療の際の正常な組織に対する重篤な損傷の原因となる。 本明細書に開示するとおり、p53によって正常組織に惹起される損傷のため、p53が治療的抑制の標的となった。
【0014】
加えて、ヒト腫瘍の50%より多くが機能性のp53を欠いているので、p53の抑制はかかる腫瘍に対する処置の効率に影響しないはずであり、また正常なp53含有組織を保護するはずなのである。
【0015】
臓器に対するp53活性の有害な効果は、癌の治療に限るものでない。 p53は、癌治療だけでなく、傷害(例えば熱傷)、自然発生的疾患(例えば発熱に関連する高熱症、および血液供給の遮断、卒中、および虚血に関連する局所的低酸素の状態)ならびに細胞の加齢(例えば線維芽細胞の老化)に関連する種々のストレスの結果として活性化される。 したがって一時的なp53の阻害は、例えば、(a)中枢神経系でのp53依存性の神経死(すなわち、脳および脊髄傷害)の低減または排除、(b)移植に先駆けた組織および臓器の保存、(c)骨髄移植のための宿主の準備、ならびに(d)発作の際の神経損傷の低減または排除においても、治療上有効であり得る。
【0016】
活性化されたp53は、成長停止(これは不可逆的であることが多い)、またはアポトーシスを誘導し、しかして付されたストレスに応答した正常組織の損傷を媒介するのである。 このような損傷は、p53の活性化事象の直前、最中、または直後に、p53活性が一時的に抑制されれば低減され得るのである。 これらの、そして他のp53依存性疾患および状態はしたがって、一時的なp53阻害剤の治療的投与に対するさらなる領域を提供するものである。
【0017】
p53はまた、細胞の加齢においても、したがって生物の加齢にも役割を果たしている。 特に、加齢に伴う正常組織の形態学的および生理学的変化は、p53活性に関連しているのかもしれない。 長い間に組織内に蓄積する老化細胞は、非常に高レベルのp53依存性転写を保っていることが知られている。 老化細胞による、成長阻害剤のp53依存性の分泌は、加齢組織に集積している。 この蓄積は、増殖している細胞に影響を及ぼし得、年齢に伴う組織の全体的な増殖能力の漸減をもたらし得るのである。 したがって、p53活性の抑制は組織加齢の抑制方法として想定される。
【0018】
しかしながら、p53の抑制を包含する治療が実施される前に満たされるべき、いくつかの重要な、例えば、以下のような事柄がある。
【0019】
(i)治療薬としての実際的な投与のために、インビボで充分に有効な(すなわち、ミクロモル(μm)範囲の濃度にて、p53活性を阻害する)p53阻害剤を準備すること;
(ii)治療用途で、充分に低い毒性を有するものであって、p53活性を阻害するのに充分な濃度で望ましくない副作用を起こすこともないこと;
(iii)長期のp53不活性化は、癌の危険性を有意に高め得るので、可逆的なp53阻害を呈すること;
(iv)一時的なp53阻害の際に、細胞は付されたストレスから回復すべきであり、そしてp53を活性化するシグナルは排除または低減されるべきである、さもなければ、p53活性化シグナルが活性化されている間のp53活性の復旧が、細胞損傷を惹起する可能性がある;
(v)p53抑制療法は、癌発生の頻度の劇的な増大に関わるものでなく、すなわち、治療的阻害剤は、ストレスに対する細胞性応答の、p53によって媒介される制御を標的としているが、p53によって媒介される発癌遺伝子の形質転換の制御に影響を及ぼすものではない。
【0020】
本発明より以前は、治療のための適用に有用なp53阻害剤は開示されていなかった。
【0021】
p53の、潜在性を有する治療用の阻害剤は、p53シグナル伝達系路のいずれかの段階で作用し、p53によって媒介される応答の機能的な不活性化(すなわち、p53依存性の成長停止、アポトーシス、または双方の阻止)をもたらす化合物である。 治療上のp53抑制は、癌腫瘍の増殖の開始へと導く不利益を導くものと考えられていたので、これまでの研究者が治療用のp53阻害剤を考慮することはなかった。 したがって、本発明はp53活性の治療的且つ一時的阻害、ならびにかかる阻害をすることができる化合物に関するものである。
【発明の開示】
【0022】
本発明は、治療上の適用におけるp53活性の阻害に関する。 本発明はまた、p53活性を有効に且つ一時的に阻害する化合物と、かかる一時的なp53阻害化合物の治療上の使用にも関するものである。
【0023】
したがって、本発明の一つの要旨は、p53活性を可逆的に阻害し、そして治療上に使用することができるp53阻害剤を提供することにあり、その阻害剤は例えば、以下の(I)〜(IV)までの一般構造式:
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
[式中、XはO、S、またはNHであり、
mは0または1であり、
nは1〜4であり、
R1およびR2は独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、アルカリール、複素環、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、ハロアルキル、ハロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アラルコキシアルキル、ハロ、(アルキルチオ)アルキル、(アリールチオ)アルキル、および(アラルキルチオ)アルキルよりなる群から選択され、
または、R1およびR2は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成し、
R3は、水素、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ハロアリール、ヘテロアラルキル、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、ハロ、NR4R5、NHSO2R4R5、NHSO2R4、およびSO2NR4R5よりなる群から選択され、そして
R4およびR5は独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、および複素環よりなる群から選択され、
または、R4およびR5は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成するものである]を有する化合物、ならびに医薬上容認され得るこれらの塩および水和物である。
【0028】
本発明の別の要旨は、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を、p53活性を可逆的に阻害するために哺乳動物に投与する工程を含む、疾患または状態の処置に起因する正常細胞の死を低減または排除する方法を提供することにある。
【0029】
本発明のさらなる要旨は、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を、p53活性を可逆的に阻害するために哺乳動物に投与する工程を含む、外傷または疾患の縮小に起因する正常細胞の死を低減または排除する方法を提供することにある。
【0030】
本発明の別の要旨は、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を、p53活性を可逆的に阻害するために哺乳動物に投与する工程を含む、p53欠損癌に対する処置に起因する正常組織への損傷を低減または排除する方法を提供することにある。
【0031】
本発明のさらに別の要旨は、改善された癌処置用組成物であって、
(a)化学療法剤;および
(b)一時的なp53阻害剤
を含む組成物を提供することにある。
【0032】
本発明の別の要旨は、癌の改善された処置方法であって、癌を処置するために、充分な放射線量を哺乳動物に投与することと、p53活性を可逆的に阻害するために一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を哺乳動物に投与することを含む方法を提供することにある。
【0033】
本発明の別の要旨は、細胞に影響を与える、ストレスを誘発する事象に起因する細胞死を防止する方法を提供することにあり、当該方法は、細胞におけるp53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量で当該細胞を処理する工程を含む。
【0034】
本発明の別の要旨は、疾患を処置するための医薬組成物であって、
(a)該疾患を処置することができる薬物;および
(b)一時的なp53阻害剤
を含む組成物を提供することにある。
【0035】
本発明の別の要旨は、医薬組成物であって、
(a)一時的なp53阻害剤、および
(b)担体
を含む組成物を提供することにある。
【0036】
本発明の別の要旨は、組織加齢の調節方法であって、p53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量で組織を処理することを含む方法を提供することにある。
【0037】
本発明の別の要旨は、所定の放射線量を当てられた哺乳動物を処置する方法であって、照射された哺乳動物を保護するために、p53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量を当該哺乳動物に投与することを含む方法を提供することにある。
【0038】
本発明のさらに別の要旨は、p53欠損細胞を癌治療に対して高感度ならしめる方法であって、癌治療と組み合わせて、p53活性を可逆的に阻害することができる化合物の治療上有効な量を動物に投与する工程を含み、そうしなければ癌治療による影響を受けない細胞を破壊する方法を提供することにある。
【0039】
本発明の別の要旨は、癌の改善された処置方法であって、癌を処置するために化学療法剤の治療上有効な量を哺乳動物に投与することと、p53活性を可逆的に阻害するために、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を当該哺乳動物に投与することを含み、その化学療法剤の用量は、p53阻害剤を投与せずに癌の処置をするために必要とされるのと同じ化学療法剤の用量よりも多量である方法を提供することにある。
【0040】
本発明のこれらの要旨およびその他の要旨は、以下の非限定的な発明の実施態様の詳細な説明から明らかになるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
前記のとおり、化学療法および放射線療法の有効性は、造血およびリンパ系、腸上皮、ならびに精巣細胞への傷害を含めた、正常組織への重篤な副作用によって制限されている。 p53はこのような傷害の誘導に関与しているので、正常組織への損傷を低減するための治療上での抑制に対する潜在的な標的として、p53を研究した。 p53抑制療法は、機能性p53を欠損し、したがって付加的なp53抑制による利点を受けることができない腫瘍の処置において特に有用であり得る。
【0042】
生物の全細胞社会の利点のために自信の生命を与えることを細胞に強いることによって、損傷を受け潜在的に危険な細胞を排除することにより、p53は重要な機能を果たしている。 癌治療の際にp53活性を阻害することは、遺伝的に変化した細胞の生存へとつながり得、これはそうでない場合にはp53依存性の成長停止またはアポトーシスによって排除されるはずのものである。 したがって、p53抑制は、損傷を受けた細胞が自己破壊しない、したがって増殖することができるという、本来の危険性を有している。
【0043】
このことが、p53活性の抑制によって誘導される新しい癌の危険性を増大させ得るのである。
【0044】
この本来の危険性は、一時的な、あるいは可逆的なp53活性の阻害を提供することによって相殺され、これで損傷を受けた正常細胞がp53阻害の間に自己を修復することが可能となることが見出されている。 p53阻害剤の効果が低減または終了すると、その後p53は、その正常な機能を遂行することができる。 この機構は癌の処置において、特にp53欠損癌の急性期処置の際に、正常細胞が例えば化学療法や放射線療法などの処置の際に影響を受けている場合に有益である。 換言すると、癌の処置に起因する重篤な副作用が、低減または排除されるのである。
【0045】
やはり前記したとおり、治療において有用なp53阻害剤は、低濃度で有効であり、毒性が低く、治療上有効な濃度で望ましくない副作用を起こさず、可逆的な、すなわち一時的なp53阻害を呈し、付されたストレスから正常細胞を回復させることができるのに充分な時間でp53を阻害し、そして癌の発生の有意な増大を惹起しないものである。
【0046】
本明細書において使用する場合、p53活性の「一時的な」または「可逆的な」阻害は、p53阻害剤の投与後短時間、例えば投与後約5分乃至後約1時間の阻害であって、且つp53阻害剤の投与の完遂後約24時間乃至約96時間の間継続するものを意味する。
【0047】
有用な治療用p53阻害剤を同定する上で重要な考慮すべき事柄は、p53の活性化がp53応答性遺伝子のトランス活性化につながり、そしていくつかの細胞型では結果的にアポトーシスが引き起こされることである。 これらの効果の抑制を、治療用p53阻害剤を同定するために使用することができる。
【0048】
特に、p53は特異的なDNA配列に結合することによって、数多くのp53応答性遺伝子を活性化または抑制する核転写因子として作用する。 トランスジェニックマウスにおけるp53応答性レポーター・ベータ−ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)の転写活性化は、癌治療の副作用を受ける組織の位置付けを行う。 したがって、p53応答性プロモーターの制御下でレポーター遺伝子(例えば、LacZ、ルシフェラーゼ、GFP、および分泌因子)を発現している細胞は、p53転写調節の活性化または抑制のいずれかをすることができる化合物をスクリーニングするために使用できる。
【0049】
詳細には、p53結合性DNAコンセンサス配列からなるp53応答性エレメントの制御下にあるLacZ遺伝子、最小熱ショック遺伝子プロモーターと組み合わせてリボソームタンパク質プロモーター由来のp53結合部位を含むp53野生型Balb 3T3細胞系ConAを使用した。 ガンマ線照射、UV光、または種々の化学療法剤を用いた処理による、これらの細胞におけるp53活性化は、常法のX−gal染色によって容易に検出され得るベータ−ガラクトシダーゼの蓄積をもたらす。
【0050】
この系はこれまでに、サリチル酸ナトリウムによるp53活性の阻害を同定するために使用されている。 しかしながら、サリチル酸ナトリウムは、20mM(ミリモル濃度)から始まる高濃度のみで治療的に有効であるので、サリチル酸ナトリウムは治療上有用なp53阻害剤として適切な候補物質といえない。 この治療上有効な濃度では、たとえ有効濃度の半分ででも、サリチル酸ナトリウムの注射は処理した被検動物のすべてに対して致死的であった。
【0051】
化合物を治療上の適用において有用ならしめる性質を保有するものとして、p53阻害剤を検出するためのスクリーニングプログラムによって、以下の化合物のクラスが同定された。 詳細には、以下のクラスの化合物が、有効に且つ可逆的にp53活性化を阻害する。 以下にさらに詳説するとおり、癌の処置、または疾患もしくは外傷によって加えられたストレスに起因するp53プログラム細胞死から正常細胞を保護するために、それら化合物は単独で、または例えば癌の処置の際に化学療法または放射線療法と組み合わせて使用することができるのである。 加えて、化学療法の際に、腫瘍と正常細胞の双方ともが破壊されてしまう。 腫瘍細胞は、正常細胞に比べて優先的に殺され、これが化学療法が成功する基礎となっている。 治療用p53阻害剤を投与することによって正常細胞が保護され、しかして化学療法剤の用量を増加させて、癌をより効率的に処置することができるのである。
【0052】
治療上有効な、一時的p53阻害剤の例には、以下の一般構造式(I)〜(IV):
【0053】
【化9】
【0054】
【化10】
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
[式中、XはO、S、またはNHであり、
mは0または1であり、
nは1〜4であり、
R1およびR2は独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、アルカリール、複素環、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル、ハロアルキル、ハロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アラルコキシアルキル、ハロ、(アルキルチオ)アルキル、(アリールチオ)アルキル、および(アラルキルチオ)アルキルよりなる群から選択され、
または、R1およびR2は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成し、
R3は、水素、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルカリール、アラルキル、ハロアリール、ヘテロアラルキル、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、ハロ、NR4R5、NHSO2R4R5、NHSO2R4、およびSO2NR4R5よりなる群から選択され、そして
R4およびR5は独立して、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、および複素環よりなる群から選択され、
または、R4およびR5は共に、脂肪族または芳香族の5乃至8員環で、炭素環または複素環のいずれかを形成するものである]を有するもの、ならびに医薬上容認され得るこれらの塩および水和物が含まれる。
【0057】
式(I)から(IV)までの化合物には、置換されていないか、または1以上、典型的には1〜3の置換基で置換された、R1からR5までの基が含まれる。 好適な置換基には、アルキル、アリール、OH、NR4R5、CN、C(=O)NR4R5、SR4、SO2R4、CO2R6[R6は水素またはアルキルである]、OC(=O)R6、OR6、CF3、ハロ、およびNO2が包含されるが、これらに限定されることはない。
【0058】
本明細書中で使用する場合、「アルキル」なる語は単独または組み合わせで、C1〜C8からの直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を含むものとして定義される。 「低級アルキル」の語は本明細書中、C1〜C4として定義される。 アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、イソブチル、n−ブチル、n−ヘキシル等が包含されるが、これらに限定されることはない。 「アルキル」なる語にはまた、「シクロアルキル」も含まれ、この語は本明細書中、C3〜C7からの環状炭化水素基を包含する。 シクロアルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、およびシクロペンチルが包含されるが、これらに限定されることはない。 「アルケニル」および「アルキニル」の語は、「アルキル」と同様であるが、少なくとも1つの炭素間二重結合または三重結合をそれぞれ含むものとして定義される。
【0059】
「アリール」なる語は単独または組み合わせて、単環式または多環式芳香族基として定義され、好ましくは、例えば、ハロ、アルキル、フェニル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニルから選択される1以上の、特に1乃至3の置換基で置換されているか、または置換されていないのもののいずれかであることができる、例えば、フェニルまたはナフチルなどといった単環式または多環式の芳香族基である。 アリール基の例には、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2−メチルフェニル、4−メチルフェニル、ビフェニル、4−ヨードフェニル、4−メトキシフェニル、3−トリフルオロメチルフェニル、4−ニトロフェニル等が包含される。
【0060】
「ハロアリール」および「ハロアルキル」なる語は、本明細書中において、前記のごとき定義のアルキルまたはアリール基で、少なくとも1つの水素原子が本明細書において定義されるごとき「ハロ」基で置換されているものとして定義される。
【0061】
「ヘテロアリール」なる語は、本明細書中で、例えば、チエニル、フリル、またはピリジルなどの5員または6員の複素環芳香族基として定義され、これらは融合したベンゼン環を任意に有し、そして、例えば、ハロ、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルキル、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、およびアルキルスルホニルのような、1以上の、特に1乃至3の置換基で置換されているか、または置換されていないのもののいずれかであることができる。 ヘテロアリール基の例には、チエニル、フリル、ピリジル、ベンズオキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズイソキサゾリル、オキサゾリル、キノリル、イソキノリル、トリアゾリル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、イミダゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、チアゾリル、チアジアゾリル、ベンズイミダゾリル、インドリル、ベンゾフリル、およびベンゾチエニルが包含されるが、これらに限定されることはない。
【0062】
「アラルキル」なる語は、本明細書において、前記のごときに定義されたアルキル基であって、水素原子の1つが本明細書にて定義されるごときアリール基、例えば、ハロ、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ等の1以上の置換基を任意に有するフェニル基などで置換されているものとして定義される。 アラルキル基の例は、ベンジルである。
【0063】
「ヘテロアラルキル」なる語は、「アラルキル」なる語と同様に定義されるが、水素がヘテロアリール基で置換されたものである。
【0064】
「アルカリール」なる語は、本明細書中ににおいて、前記のごとく定義されたアリール基で、水素原子の1つが本明細書中にて定義されるごときアルキル基により置換されているものとして定義され、このアルキル基は、置換されているものか非置換のもののいずれかである。 アルカリール基の例には、4−メチルフェニルが挙げられる。
【0065】
「アルコキシアルキル」および「アリールオキシアルキル」の語は、水素がそれぞれ、アルコキシ基またはアリールオキシ基で置換されているアルキル基として定義される。 「アラルコキシアルキル」は同様に、アルキル基の水素にアラルコキシ基が置換されているものとして定義される。 「(アルキルチオ)アルキル、」「(アリールチオ)アルキル、」および「(アラルキルチオ)アリル」は酸素原子でなくイオウ原子が存在することを除いて、前記3種の基と同様のものとして定義される。
【0066】
「ハロゲン」または「ハロ」なる語は本明細書において、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を含むものとして定義される。
【0067】
「複素環」なる語は、酸素、イオウ、および窒素よりなる群から選択される、1乃至3の原子を含み、残余の原子は炭素であるC4〜C8の脂肪族環式、好ましくはC5〜C6の脂肪族環式として定義される。 複素環の例には、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、ジオキサン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリドン、およびモルホリンが包含されるが、これらに限定されることはない。
【0068】
「アルコキシ」および「アリールオキシ」は、−OR[Rはアルキルまたはアリールである]として定義される。
【0069】
「ヒドロキシ」なる語は、−OHとして定義される。
【0070】
「ヒドロキシアルキル」なる語は、アルキル基に付加されたヒドロキシ基として定義される。
【0071】
「アミノ」なる語は−NH2として定義され、そして「アルキルアミノ」なる語は−NR2[少なくとも1つのRはアルキルであり、第2のRはアルキルまたは水素である]として定義される。
【0072】
「アシルアミノ」なる語は、RC(=O)N[Rはアルキルまたはアリールである]として定義される。
【0073】
「ニトロ」なる語は、−NO2として定義される。
【0074】
「アルキルチオ」なる語は−SR[Rはアルキルである]として定義される。
【0075】
「アルキルスルフィニル」なる語は、R−SO2[Rはアルキルである]として定義される。
【0076】
「アルキルスルホニル」なる語は、R−SO3[Rはアルキルである]として定義される。
【0077】
好ましい実施態様において、XはSまたはNHであり;mは1であり;nは1または2であり;R1およびR2は独立して、水素、アルキル、アリール、アラルキル、アルカリールであるか、または共に5員もしくは6員の炭素環もしくは複素環を形成し;そしてR3は、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、ハロアリール、または複素環であり、そしてこれらの塩および溶媒和物を含む。
【0078】
より好ましい実施態様において、化合物は、構造式(I)または(III)を有し、XはSであり;mは1であり;nは1であり;R1およびR2は共に5員または6員の脂肪族炭素環を形成し;そしてR3は、アルキル、フェニルであって、好ましくはハロ(例えば、ヨード)、アルキル(例えば、メチル)、またはアリール(例えば、フェニル)で置換されている。
【0079】
治療用のp53阻害剤は、構造式(I)から(IV)までの化合物の幾何異性体の可能性あるものすべてを包含する。 p53阻害剤はまた、ラセミ化合物だけでなく光学活性異性体をも含めて、構造式(II)および(IV)の化合物の立体異性体の可能性あるものすべても包含する。 構造式(II)または(IV)の化合物が単一の鏡像異性体として所望される場合、最終産物の分割によるか、または、異性体的に純粋な出発物質か、もしくは何らかの至便な中間体のいずれかからの立体特異的合成によるかのいずれかにて、入手することができる。 最終産物、中間体、または出発物質の分割は、当該技術分野において知られている好適な方法のいかなるものによっても成し遂げることができる。 加うるに、構造式(I)から(IV)までの化合物の互変異性体が可能な場合、本発明はその化合物の互変異性体すべてを包含することが意図される。 例えば、構造式(I)の化合物[mおよびnはそれぞれ1である]は、以下の互変異性体の形態で存在し得る。
【0080】
【化13】
酸部分を含む構造式(I)から(IV)までの化合物は、好適な陽イオンと共に医薬上容認され得る塩を形成することができる。 好適な医薬上容認され得る陽イオンには、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)陽イオンが包含される。 塩基性中心を有する構造式(I)から(IV)までの化合物の医薬上容認され得る塩は、医薬上容認され得る酸とで形成される酸付加塩である。 例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩または重硫酸塩(ビサルフェート)、リン酸塩またはリン酸化水素、酢酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、およびp−トルエンスルホン酸塩が包含される。 前記を考慮して、本明細書に記載せる本発明の化合物についての言及はすべて、構造式(I)から(IV)までの化合物だけでなく、それらの医薬上容認され得る塩および溶媒和物を含めることが意図される。
【0081】
構造式(I)から(IV)までの化合物は、p53遺伝子を保有する生物のいずれにおいてでも、p53を阻害するために使用することができる。 典型的には、可逆的なp53の阻害は、ヒトを含めた哺乳動物において実施することができる。 治療的には、構造式(I)から(IV)までの化合物などの可逆的p53阻害剤は、p53活性の阻害によって利点がもたらされる疾患、状態、または傷害のいずれかを処置するために、治療上有効な量にて哺乳動物に投与することができる。
【0082】
以下に述べるとおり、哺乳動物への本発明のp53阻害剤の投与は、例えば、癌の処置および高熱症において起こる細胞ストレスによって惹起される死から、損傷を受けた細胞を救出すること;潜在的に有害な放射線量にさらされる、原子力発電所での作業従事者、および放射性医薬品にかかる作業に従事している人などといった個体を処置する方法を提供すること;ならびに老化細胞に起因する組織加齢を調節することを含め、様々な潜在的利点を有している。
【0083】
構造式(I)から(IV)までの化合物のような一時的p53阻害剤は、化学品そのままで治療用に投与することができるが、医薬組成物または製剤として、構造式(I)から(IV)の化合物を投与することが好ましい。 したがって、本発明はさらに、例えば、構造式(I)から(IV)までの化合物、またはその医薬上容認され得る塩を、1以上の医薬上容認され得る担体と、そして任意に他の治療用および/または予防用成分と共に含む医薬製剤を提供する。 担体は、製剤の他の成分との適合性があり、そしてそのレシピエントに有害でないという意味において「容認され得る」ものである。
【0084】
治療での使用のために必要とされる一時的p53阻害剤の量は、処置されるべき状態の性質、p53の抑制が望まれる時間の長さ、ならびに患者の年齢および状態によって変動し、最終的には担当医によって決定される。 しかしながら一般的に、成人したヒトの処置のために使用される用量は、典型的には1日あたり、.001mg/kgから約200mg/kgの範囲にある。 好ましい用量は、1日あたり約1μg/kgから約100μg/kgである。 所望の用量は、単回投与で、または、例えば、1日あたり2、3、または4以上の副用量として、適切な間隔をもって複数回投与で、都合がよいように投与することができる。 p53活性の抑制が一時的であるため、複数回投与が望ましいこと、またはこれが必要であることが多い。
【0085】
本発明の製剤は、経口、非経口、舌下、経皮、直腸内、経粘膜、局所、吸入による、または口腔内投与などの標準法で投与することができる。 非経口投与には静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、くも膜下腔内、および関節内が包含されるが、これに限定されることはない。
【0086】
獣医師が使用するためには、p53阻害剤、特に式(I)から(IV)までの化合物またはその無毒性の塩が、通常の獣医師の実務にしたがって、好適な容認可能製剤として投与される。 獣医師は、特定の動物に対して最も適切な投薬計画および投与経路を容易に決定することができる。
【0087】
本発明のp53阻害剤を含有する医薬組成物は、従来の方法にて調剤された錠剤またはトローチ剤(lozenge)の形状とすることができる。 例えば、経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム(accacia)、ゼラチン、ソルビトール、トランガント、デンプンまたはポリビニルピロリドンのゴム糊(mucilage))、充填剤(例えば、ラクトース、砂糖、微結晶性セルロース、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、またはソルビトール)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール、またはシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはグリコール酸デンプンナトリウム)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの従来の賦形剤を含有することができる。 錠剤は、当該技術分野でよく知られた方法によって被覆することができる。
【0088】
あるいは、本発明の化合物は、例えば、水性または油性懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、エリキシル剤などの経口用液剤に組み入れることができる。 さらに、これらの化合物を含有する製剤は、使用前に水または他の好適な溶媒(vehicle)で構成させるための乾燥産物として提供することができる。 このような液剤は、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/砂糖シロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、および水素化可食性脂肪などの懸濁化剤;レシチン、モノオレイン酸ソルビタン、またはアラビアゴムなどの乳化剤;アーモンド油、分画化ココナッツ油、油性エステル、プロピレングリコール、およびエチルアルコールなどの非水性溶媒(可食性油を包含し得る);ならびにメチルまたはプロピルp−ヒドロキシベンゾエートおよびソルビン酸などの保存剤のような従来の添加剤を含有することができる。
【0089】
かかる製剤は、例えば、ココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐薬用基剤を含有する坐剤として調剤することもできる。 吸入用の組成物は典型的には、乾燥粉末として投与することができる、溶液、懸濁化剤もしくはエマルジョンの形態にて、またはジクロロジフルオロメタンもしくはトリクロロフルオロメタンなどの従来の噴霧剤を使用したエアロゾルの形態にて提供することができる。 典型的な経皮製剤は、クリーム、軟膏、ローション、およびペーストなどの水性または非水性媒体を含み、あるいは、医薬用の硬膏剤、パッチ、または膜の形態とされる。
【0090】
加えて、本発明の組成物は、注射または継続注入による非経口投与のために製剤化することができる。 注射または継続注入が、投与の好ましい方法であることが想像される。
【0091】
注射用の製剤は、油性または水性溶媒中の懸濁剤、溶液、またはエマルジョンの形態とすることができ、そして懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの配合剤を含有することができる。 あるいは主成分を、使用前に好適な媒体(例えば、無菌の発熱物質不含水)で再構成するための粉末の形態とすることができる。
【0092】
本発明の組成物は、デポ製剤として調剤することもできる。 かかる長時間作用性の製剤は、埋め込み(例えば、皮下または筋肉内へ)によって、または、筋肉内注射によって投与することができる。 本発明の化合物はしかるべく、好適なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、容認され得る油中のエマルジョンとして)、イオン交換樹脂を用いて、または、やや溶けにくい誘導体として(例えば、やや溶けにくい塩として)製剤化することができる。
【0093】
式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤はまた、癌およびその他の状態つまり疾患状態の処置において有用となり得るその他の治療剤と組み合わせて使用することもできる。 かくして本発明は他の要旨において、治療用の一時的なp53阻害剤と第2の治療用活性薬剤との組み合わせを提供する。
【0094】
式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤は、p53活性の阻害が有益である状態の処置における、第2の治療用活性薬剤との同時投与のための医薬の調製において使用することができる。 加うるに、一時的なp53阻害剤は、かかる状態を処置するための第2の治療用活性化合物との付加療法として使用するための医薬の調製において使用することができる。 一時的なp53阻害剤と組み合わせて使用するための、既知の第2の治療薬剤の適切な用量は、当業者によって容易に認識されるものである。
【0095】
例えば、治療用の一時的なp53阻害剤は、放射線療法または化学療法などの癌治療と組み合わせて使用することができる。 特にp53阻害剤は、例えば、シスプラチン、ドキソルビシン、ビンカアルカロイド類、タキソール、シクロホスファミド、イフォスファミド、クロランブシル、ブスルファン、メクロレタミン、マイトマイシン、ダカルバジン、カルボプラチン、チオテパ、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、エスペラマイシンA1、ダクチノマイシン、プリカマイシン、カルムスチン、ロムスチン、タウロムスチン、ストレプトゾトシン、メルファラン、ダクチノマイシン、およびプロカルバジンなどの化学療法剤と組み合わせて使用することができる。 治療用p53阻害剤はまた、卒中、虚血、または血液供給遮断を処置するために使用される薬物と組み合わせて、または関節炎もしくは高熱症を起こす疾患を処置するために使用される薬物と組み合わせて使用することもできる。
【0096】
以上参照した組み合わせは、単一の医薬製剤の形態での使用目的で提供することができ、かように、医薬上容認され得る希釈剤または担体と共に、前記のごとく定義された組み合わせを含んでなる医薬組成物が、本発明のさらなる要旨に含まれる。
【0097】
前記のごとき組み合わせの個々の成分はしたがって、同じかまたは別々の医薬製剤から、連続的または同時のいずれかにて投与することができる。 本発明の治療用p53阻害剤の場合と同様に、第2の治療剤は、例えば、経口、口腔内、吸入、舌下、直腸内、腟内、経尿道、経鼻、局所、経皮(すなわち、経皮膚)、または非経口(静脈内、筋肉内、皮下、および冠動脈内を含む)投与などの、好適な経路のいずれによってでも投与することができる。
【0098】
いくつかの実施態様において、式(I)から(IV)の化合物などの一時的なp53阻害剤、および第2の治療剤は、同じ経路によって、同じかまたは異なる医薬組成物より投与される。 しかしながら、他の実施態様においては、治療用p53阻害剤と第2の治療剤に対して同じ投与経路を使用することは不可能か、または好ましくない場合がある。 当業者は、単独、または組み合わせのいずれかでの、各治療剤に対する投与の最良の態様を了知している。
【0099】
一般的に、構造式(I)から(IV)までの化合物は、A. Andreani et al., J. Med. Chem., 38, pp. 1090-1097 (1995)(本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用する)に開示された以下の合成スキームにしたがって、調製することができる。 構造式(I)または(II)[式中、nは1である]の化合物は次いで、構造式(III)または(IV)の化合物へと変換することができる。 Andreani et al.の出版物に開示されたスキームで、合成化学の一般的な原理に従い、必要とあれば保護基を用いることができることが当該技術分野において理解される。 これらの保護基は、当業者に知られ、且つ容易に明らかとなる塩基性、酸性、または水素化分解条件下に、合成の最終段階で除去される。 いずれかの化学官能基の適切な操作および保護を採用することによって、構造式(I)から(IV)までの化合物の合成は、本明細書に特記しないが、以下に示すスキームと類似の方法によって成し遂げることができる。 特に断りのない限り、すべての出発物質は、市販品であり、さらに精製することなく使用した。
【0100】
Andreani et al.の出版物に開示されるとおり、一般構造式(I)または(II)の化合物[式中、XはSである]は、2−アミノチアゾールをモル当量のブロモケトン化合物と、アセトン中で還流下に約30分間反応させることによって調製することができる。 次いで反応混合物は冷却され、そして産物が臭化水素酸塩として単離される。 式(I)の他の化合物は、2−アミノイミダゾール(X=NH)または2−アミノオキサゾール(X=O)をブロモケトンと反応させることによって同様に調製することができる。 構造式(I)の化合物[式中、XはSである]を提供するための反応は、以下の式によって示される。
【0101】
【化14】
同じ反応を、例えば、2−アミノイミダゾリジンをブロモケトンと反応させることにより、構造式(II)の化合物を提供するために使用することができる。 あるいは、構造式(I)の化合物を、構造式(II)の化合物へ変換することができる。
【0102】
構造式(I)または(II)の化合物[式中、mおよびnはそれぞれ1である]は、それぞれ構造式(III)または(IV)の化合物へと変換することができる。 この変換は、メタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールなどの溶媒中の構造式(I)または(II)の組成物を、例えば約1乃至約10時間程度の充分な時間加熱して化合物を環化し、構造式(III)または(IV)の化合物を得ることによって成し遂げられる。 場合によっては、構造式(I)または(II)の化合物は溶液中で、室温下において構造式(III)または(IV)の化合物へとゆっくり環化される。 構造式(I)および(II)の化合物からの、構造式(III)および(IV)の化合物の調製は、以下に示すとおりである。
【0103】
【化15】
【0104】
【化16】
構造式(I)および(III)の特定の化合物を、以下の手順によって調製した。
【0105】
【化17】
40mlのベンゼン中に、シクロヘキサノン(1.96g、20mMol)、チオ尿素(1.52g、20mMol)、N−ブロモスクシンイミド(NBS)(3.56g、20mMol)、および過酸化ベンゾイル(100mg)を含有する反応混合液を調製し、次いで還流下に終夜加熱した。 その後ベンゼンを、減圧下に除去した。 残渣を水に溶解し、次いで炭酸ナトリウムで中和した。 得られた沈澱を濾取して、減圧乾燥し、そしてヘキサンから再結晶して2−アミノアゾール誘導体A(1.81g、収率59%)を得た。
【0106】
50mlのベンゼン中、化合物A(1.54g、10mMol)および臭化パラ−メチルフェナシル(2.34g、11mMol)の溶液を調製し、その後、室温にて48時間撹拌した。 その反応混合液から沈澱した産物(V)(構造式(I)の化合物[式中、X=Sであり、n=1である])を濾取し、次いでベンゼンで洗浄して2.42g(収率66%)の構造式(V)の化合物を得た。 構造式(V)の化合物は、安定で水溶性の化合物であった。
【0107】
30mlのエタノール中、化合物(V)(1.10g、3.0mMol)の溶液を6時間還流した。 次いで反応混合液を冷却し、水と混合して炭酸ナトリウムで中和した。 得られた固形産物を混合液から濾取し、減圧乾燥してエタノールから再結晶させ、化合物(VI)(すなわち、構造式(III)の化合物)の0.45g(収率56%)を得た。
【0108】
構造式(I)および(III)に包含される、これらの、そして他の特定の(これらに限定されることはない)、以下の構造を有する化合物を合成した。
【0109】
【化18】
【0110】
【化19】
【0111】
【化20】
【0112】
【化21】
【0113】
【化22】
【0114】
【化23】
【0115】
【化24】
構造式(V)〜(XI)の化合物はそれぞれ、
(V)−−2−[2−イミノ−4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ベンゾチアゾール−3(2H)−イル]−1−(4−メチルフェニル)−1−エタノン;
(VI)−−2−(4−メチルフェニル)−5,6,7,8−テトラヒドロベンゾ[d]イミダゾ[2,1−b]チアゾール;
(VII)−−2−[2−イミノ−4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ベンゾチアゾール−3(2H)−イル]−1−(4−ヨードフェニル)−1−エタノン;
(VIII)−−2−[2−イミノ−4,5,6,7−テトラヒドロ−1,3−ベンゾチアゾール−3(2H)−イル]−1−(ビフェニル)−1−エタノン;
(IX)−−2−フェニル−5,6,7,8−テトラヒドロベンゾ[d]イミダゾ[2,1−b]チアゾール;
(X)−−3−メチル−6−フェニルイミダゾ[2,1−b]−チアゾール;および
(XI)−−2,3−ジメチル−6−フェニルイミダゾ[2,1−b]チアゾールと命名される。 構造式(V)の化合物は、ピフィスリン−アルファおよびPFT−αの慣用名でも知られている。 構造式(VI)の化合物は、ピフィスリン−ベータおよびPFT−βの慣用名でも知られている。 構造式(VII)の化合物は、化合物86B10としても知られている。
【0116】
構造式(V)および(VI)の化合物は、Balse et al., Indian J. Chem., Vol. 19B, pp.293-295(1980年4月)に開示されている。 構造式(IX)の化合物は、Singh et al., Indian J. Chem., Vol. 14B, pp.997-998(1976年12月)、およびS. Naito et al., J. Heterocyclic Chem., 34, pp.1763-1767(1997)に開示されている。 構造式(X)および(XI)の化合物は、P.M. Kochergin et al., J. Gen. Chem. U.S.S.R., 26, pp.483-489(1956)に開示されている。
【0117】
構造式(VII)および(VIII)の化合物は、適切なα−ブロモケトンすなわち、ブロモメチル4−(フェニル)ケトンおよびブロモメチル4−ヨードフェニルケトンをそれぞれ使用することによって、化合物(V)と同じスキームにて調製した。 構造式(I)および(II)のその他の化合物は、適切なチアゾール、イミダゾール、またはオキサゾール誘導体とブロモケトンを使用して、同様の方法で調製することができる。
【0118】
構造式(I)〜(IV)の化合物はまた、前記したBalse et al.およびSingh et al.の出版物に開示せる方法によっても調製した。 したがって、構造式(XII)〜(XV)の以下の化合物も、一時的なp53阻害剤として利用することができる。
【0119】
【化25】
【0120】
【化26】
【0121】
【化27】
【0122】
【化28】
[式中、R7は水素またはアルキルであり、R8はCO2R6または水素であり、そして、R3はフェニル、4−クロロフェニル、4−ニトロフェニル、3−ニトロフェニル、4−メチルフェニル、4−フェニルフェニル、および4−ブロモフェニルよりなる群から選択される]3−ニトロフェニル誘導体は、WO 98/17267に開示されている。
【0123】
さらなる、構造式(I)〜(IV)の一時的なp53阻害剤は、以下の構造[式中、R1およびR2は共に、6員芳香環を形成する]を有する。
【0124】
【化29】
構造式(III)を有するさらなる化合物[式中、XはSである]は、本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用するJP11−106340およびJP7−291976に開示されている。
【実施例】
【0125】
構造式(I)から(IV)の化合物が効果的且つ可逆的の双方にてp53活性を阻害する能力と、治療剤としてのそれらの有用性を、以下の試験および実験で立証した。
【0126】
構造式(I)から(IV)の化合物のような一時的なp53阻害剤がp53活性を阻害する能力を立証するために、p53活性化因子(例えば、ドキソルビシンまたはガンマ線照射)をConA細胞に直接付し、その後X−gal染色を行った。 次いで、p53活性化因子の存在下に、1μMから20μMの濃度で被検細胞にp53阻害剤を適用した。 標準的なアッセイによって、p53阻害剤の細胞毒性も調べた。 p53阻害剤化合物の抗アポトーシス活性の評価は、p53依存性のアポトーシスに感受性の標準細胞系(すなわち、S.W. Lowe et al., Cell, 74, pp.957-968 (1993)に記載の、Ela+rasで形質転換されたマウス胚線維芽細胞、C8系)においてアポトーシス細胞死を抑制する能力に基づくものであった。 化合物活性のp53依存性は、p53欠損細胞への効果(すなわち、Lowe et al., 1993に記載の、Ela+rasで形質転換されたp53−/−マウス胚線維芽細胞、A4系の放射線感受性または薬物感受性)を試験することによって分析した。
【0127】
これらの試験の結果を、添付の図面(図1〜図16)に示す。 これらの図面はおしなべて、構造式(V)および(VI)の化合物について実施した試験に基づくものである。 以下の図面において化合物(V)すなわち、PFT−αについて示した試験結果を、化合物(VI)すなわち、PFT−βについて繰り返した。 PFT−βを用いた試験結果は、PFT−αを用いた試験結果と基本的に同様であった。
【0128】
図1には、p53依存性の転写活性化の抑制についての、化学ライブラリーのスクリーニングを示す。 スクリーニング試験において、ConA細胞(E.A. Komorova et al., EMBO J., 16, pp. 1391-1400 (1997)に記載されるごときp53応答性プロモーターの制御下にある細菌lacZ遺伝子を発現しているマウスBalb 3T3細胞)を96ウェルプレートに播種し、そして0.2μg/mlのドキソルビシン(すなわち、p53を活性化する化学療法剤、アドリアマイシンとしても知られている)と共に、約10乃至約20μMの濃度の被検化合物と組み合わせて24時間処理した。 DMSO(ジメチルスルホキシド)およびサリチル酸ナトリウムをそれぞれ陰性および陽性対照として使用した(左のカラム)。 細胞を固定してlacZ発現をモニターするために標準的なX−gal法によって染色した。 ピフィスリン−アルファを含有するウェルは、図1の矢印によって同定され、p53を阻害するうえでのPFT−αの有効性が示されている。
【0129】
PFT−αは図2に示すように、用量依存的に紫外(UV)光によって誘発されるConA細胞におけるp53応答性のlacZの活性化も阻止した。 詳細には、図2(a)は、UV照射された(25J/m2)ConA細胞におけるβ−Gal活性に対し、PFT−αが10、20、および30μMで影響を及ぼすことを示している。 細胞をUV処理から8時間後に集めて、抽出物中のβ−Gal発現を標準比色アッセイによって評価した。 (例えば、V.A. Tron et al., Am. J. Pathol., 153, p. 597 (1998)を参照されたい。)
【0130】
図2(b)は、p53応答性遺伝子として知られているサイクリンG、p21/waf1、mdm2、およびGAPDHの、UVで誘発されたトランス活性化をPFT−αが阻害することを示している。 図2(b)は、以下のようなConA細胞からのRNAのノザンブロットを含むものである:u/t,未処理;PFT,10mMのPFT−αと8時間インキュベートされたもの;UV,UV処理(25J/m2)後8時間;UV+PFT,PFT処理(10mM)とUV処理との組み合わせ。
【0131】
しかしながら、治療上有用であるためには、p53阻害剤は(a)低濃度での有効性、(b)低毒性、(c)副作用がない、(d)可逆的なp53阻害、(e)付されたストレスからの細胞の回復を許容するのに充分な時間のp53阻、害、ならびに(f)癌の発生の劇的な増大を引き起こすことがないという特性を保有していなければならない。
【0132】
図3は、ドキソルビシンによって引き起こされたp53依存性のアポトーシスを、ピフィスリン−アルファが抑制することを示している。 Ela+rasで形質転換されたマウス胚線維芽細胞(C8系、p53依存性のアポトーシスに対する感受性が高い)の同数を、0、0.4、および0.8μg/mlのドキソルビシンを含む6ウェルのプレートに播種し、DMSOおよびPFT−α(10μM)で48時間処理し、メタノールで固定し、そしてクリスタルバイオレットで染色して、その後1%SDSを用いて色素を溶出した。 光学密度(530μM)を、BioTek EL311マイクロプレートリーダーを使用して定量した。 染色の強度は生存細胞の数を反映する。 その結果は、ドキソルビシンによって誘発されたC8細胞のアポトーシス死を、10μMのPFT−αが阻害したことを示すものである。
【0133】
同様の試験を実施して、エトポシド、タキソール、シトシンアラビノース、UV光、およびガンマ線放射によって引き起こされるp53依存性のアポトーシスをピフィスリン−アルファが抑制することを示した(図10を参照されたい)。 結果は、ドキソルビシンについて図3に示したものと同様であった。
【0134】
ガンマ線照射を用いた試験に関しては、驚くべきことに、構造式(I)または(II)の化合物、例えば、ピフィスリン−アルファは照射からp53欠損細胞(A4)を保護しないが、これと反対に、20μMの濃度ではp53欠損細胞の放射線感受性を高めることが見出された。 したがって、PFT−αは、p53を含有する細胞におけるp53活性を阻害し、それにより放射の効果からかかる細胞を保護する一方で、p53欠損癌細胞に関しては放射を増強するという、二重の予期せざる利点を示すのである。 図10には、タキソールおよびAraC(シトシンアラビノシド)で処理したp53欠損細胞へのピフィスリン−アルファの選択的な毒性を示す。 このデータは、図3に関連して前記した、PFT−αによって立証された予期せざる二重の効果を裏付けるものである。
【0135】
図4は、PFT−αの抗アポトーシス活性がp53依存性であること、すなわち、PFT−αがp53野生型細胞に特異的に発効することを示している。 UV照射に対するC8細胞の感受性は、ピフィスリン−アルファの存在に左右され、一方GSE56によって不活性化されたp53を有するC8(優性の負の変異)の感受性は、PFT−αの存在に左右されることはなかった。 したがって、PFT−αは、遺伝毒性ストレス後のp53欠損細胞の生存に対しては効果を有しない。
【0136】
図5(a)および(b)は、ピフィスリン−アルファが、インビトロでラット胚線維芽細胞の加齢を遅延させること、すなわち、細胞成長の3日間における、示した濃度のピフィスリン−アルファによる前老化細胞の成長刺激を示している。 図5(a)には、播種された細胞の数に対する細胞成長が示されている。
【0137】
図6は、p53経路でのPFT−αの効果と、この経路におけるどの段階でPFT−αがp53を標的とするかが示されている。 図6(a)は、一過性にp53を発現しているSaos−2細胞でのアポトーシスをPFT−αが阻害することを示している。 野生型ヒトp53(中央および下部)を担持するか、またはインサートなし(上部)のいずれかのプラスミドの5倍過剰量と共に、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するDNAプラスミドで細胞をトランスフェクトした。 トランスフェクトされた細胞を、PFT−α添加(下部)または無添加(上部および中央)にて維持した。 p53を発現するプラスミドでトランスフェクトされた蛍光細胞の大部分は、トランスフェクション後48時間、アポトーシスを行う(中央)。 アポトーシスは、PFT−αの存在下に阻害された(下部)。
【0138】
図6(b)は、異なる濃度のPFT−α(0、10、20、および30μM)の存在下にUV照射された(25J/m2)ConA細胞の溶解物におけるp53タンパク質変異体のスペクトルを、二次元タンパク質ゲル電気泳動を用いて比較したものを示す。 図6(c)は、PFT−αは部分的に、そして用量依存的に、UV処理後のConA細胞におけるp53蓄積を阻害することを示している。 PFT−αはUV処理前に細胞に添加し、そして総細胞溶解物を18時間後に調製した。
【0139】
図6(d)は、PFT−αがp53の核および細胞質分布を変化させることを示している。 核および細胞質画分は、UV照射6時間後に、UV処理されたConA細胞から単離した。 p53およびp21waf1タンパク質をイムノブロッティングによって検出した。
【0140】
p53の核と細胞質の割合は、PFT−αで処理された細胞では有意に減少していたが、p21waf1についてはそのようなことがなかった。
【0141】
図6(e)は、PFT−αがp53のDNA結合活性に影響を及ぼさないことを示す。 詳細には、PFT−αを含有する培地において生育された、未処理またはUV照射されたConA細胞のいずれかからの細胞溶解液を使用したゲルシフトアッセイの結果を示す。
【0142】
ゲルの右半分は、モノクローナル抗体Pab421によるp53結合ドメインのスーパーシフトを示す。 結合されたDNAの量の減少は、PFT−αの存在下でのp53含量の全体的な減少に比例する。
【0143】
図6(a)における結果は、PFT−αがp53の下流で作用することを示している。 図6(b)〜(e)は、二次元タンパク質分析およびゲルシフトアッセイを組み合わせて行ったタンパク質イムノブロッティングによって判定したところ、DNA損傷処理後のConA細胞における、p53のリン酸化または配列特異的DNA結合を変化させなかったことを示している。 しかしながら、PFT−αはUV照射によって誘発される核p53のレベルを僅かに低下させたが、細胞質のものを低下させることはなかった。 対照的に、PFT−αはp53誘発可能p21waf1タンパク質の核−細胞質比に影響を及ぼさなかった。 これらの結果は、PFT−αが核のエクスポートもしくはインポートまたはその両方をモジュレートすることができるか、あるいは核p53の安定性を低下させることができることを示している。
【0144】
図7(a)〜(d)は、PFT−αの単回注射によるマウスの致死量の放射線に対する感受性へのインビボの効果を示すものである。 詳細には、図7はピフィスリン−アルファが、放射線によって誘発される死からマウスを保護することを示している。 この試験では、2つの異なる系のマウス(C57BLおよびBalb(c))を、全身へのガンマ線照射の致死および亜致死量で処理した。 (i)未処理未照射マウス、(ii)PFT−αの単回腹腔内(i.p.)注射を受けた未照射マウス、(iii)未処理ガンマ線照射マウス、および(iv)ガンマ線照射の直前にPFT−αで腹腔内注射されたマウスの間で比較を行った。
【0145】
PFT−α処理によって、双方の系のマウスがガンマ線照射の60%死滅用量(C57BLについては8Gy、そしてBalb/cについては6Gy)から完全に救出された。
【0146】
対照の動物に対しては致死的な、より高い量の放射でも有意な保護が認められた(図7(a)〜(c))。 PFT−αが注射されたマウスは、薬物で前処理されなかった照射マウスよりも体重減少が少なかった(図7(d))。 PFT−αは致死的な照射からp53のないマウスを保護しなかったので、PFT−αがインビボでp53依存性の機構を通じて作用することが確認された。
【0147】
図7のプロットにおいて、全身へガンマ線照射されたマウス(計60)を4群に分けた。
【0148】
各群からのマウスのうち10匹に、照射の5分前にピフィスリン−アルファ(2.2mg/kg)を腹腔内注射した。 各群の10匹にはPFT−αの注射を行わなかった。 図7に、前記3群の各々のマウスに対する生存曲線を示す。 図7のデータは、一時的p53阻害剤が、有効な放射線保護剤であることと、PFT−αが双方のマウス系で強い救出効果を有することを示している。 PFT−αの注射は、8Gyのガンマ線照射後にC57BL6マウスによる体重の漸減を抑止した(非照射マウスで観察された体重の増加は、若い5週齡の動物の正常な成長を反映するものである)。 実験は、各実験の部分群あたり10匹のマウスで少なくとも3回繰り返された。
【0149】
図8には、ピフィスリン−アルファがマウスにおいて、p53により媒介される成長停止をインビボで阻止することができる(単回腹腔内注射、2.2mg/kg)ことを示している。 4週齡のp53欠損マウスおよびp53野生型(wt)マウスの全身にガンマ線照射を行った(10Gy)。 ピフィスリン−アルファは、照射の5分前にp53野生型動物の1匹に注射した。 14C−チミジン(1匹あたり10mCi)を照射後8時間に、各マウスへ腹腔内注射した。 マウスを照射後24時間に屠殺し、クリオスタティックミクロトームを用いて薄切した全身(25μmの厚み)を調製し、そして組織における14Cの分布をモニターするためにX線フィルムに露光した。 図8は、代表的な切片のオートラジオグラムを示す。 矢印は、皮膚および腸における14C−チミジンの取り込みを示す。 試験の結果、PFT−αの注射がガンマ線照射されたマウスの皮膚および小腸におけるアポトーシスを阻害することが示された。
【0150】
図8は、皮膚、腸、および他の様々な組織の14C標識化が、p53+/+マウスでは有意に減少したが、p53-/-マウスではそのようなことがなく、この効果のp53依存性を反映していることを示す。 放射線で誘発される14C−チミジン取り込みの低下は、対照の照射マウスよりもPFT−α処理マウスにおいて明白さが劣り、p53活性のPFT−α阻害を反映していた。
【0151】
これらの結果は、全身へのガンマ線照射後に迅速に増殖している組織で、PFT−αがDNA複製のp53依存性の阻止を減弱することを示す。
【0152】
図9は、全身への10Gyのガンマ線照射後24時間での、C57BL6野生型マウス(PFT処理(+)および未処理(−))の小腸の上皮における組織形態およびアポトーシスを比較する写真を含むものである。 大規模なアポトーシスの領域を矢印で示す。 小腸の陰窩および絨毛において観察される広範囲にわたるアポトーシスは、照射前にPFT−αで処理されたマウスで抑止されていたが、これは図8に示すチミジン取り込みにおける変化に呼応するものである。
【0153】
図11は、UV照射後のC8細胞生存の、PFT−α適用の時間および期間への依存性を示す。 図11は、UV照射(25J/m2)で処理されたC8細胞に、異なる時間間隔で添加されたPFT−αの抗アポトーシス効果の比較を含むものである。 10μMのPFT−αを、異なる時間間隔で培地に添加した(図11(a))。 UV処理後48時間で、MTTアッセイを使用して生存細胞の比率を評価し、これを図11(b)に示している。
【0154】
図11(a)および(b)は、前もって(18時間まで)投与されて、C8細胞のUV処理直前に除去された場合、PFT−αは保護効果がないに等しいことを示す。 しかしながら、UV処理後にPFT−αと3時間という短時間インキュベーションすると、顕著な保護効果があり、24時間のインキュベーションで最高の保護が達成された。 PFT−αはUV照射後3時間で投与された場合、UV照射細胞をアポトーシスから救出することはなかった。 これらの結果は、PFT−αが効率的にp53依存性のアポトーシスを阻害すること、そしてその効果が可逆的で一時的p53阻害剤の存在を必要とすることを示す。
【0155】
PFT−αとインキュベートした後わずか3時間で多くの細胞は致死量のUV照射で生存したので、UVによって誘発されるアポトーシス死シグナルは数時間以内に優位に低減し、そして照射の24時間以内で完全に消失するものである。
【0156】
図12のプロットは、PFT−αがp53野生型細胞の長期間生存を可能とするもののガンマ線照射後のp53欠損細胞についてはそうでないことを示している。 野生型p53を有するヒトの二倍体線維芽細胞と、リー-フラウメニ癌症候群患者からのp53欠損線維芽細胞041系を、培地中に20μMのPFT−αを添加または非添加で、図示用量のガンマ線照射にて処理を行った(図12(b))。 PFT−αは照射後48時間で除去し、そして細胞をさらなる3日間成長させた。 その時までに、未照射細胞は完全な単層となるに至った。 クリスタルバイオレット染色アッセイを使用して、細胞数を概算した(100%は、集密的な細胞培養物に対応する)。 破線は播種された細胞の数を示す。 p53野生型およびEla+rasで形質転換されたp53欠損マウス胚線維芽細胞(MEF)、C8およびA4形質転換をそれぞれ、20μMのPFT−αの存在下および非存在下に指示量のガンマ線照射で処理して、照射後12時間に低密度にて(プレートあたり103細胞)再播種した(図12(a))。 成長コロニーの数を2週間で計数し、そして非照射対照について標準化した。
【0157】
図13(a)は、全身への照射に付したマウスの効果を示す。 野生型(wt)マウスおよびp53欠損マウスの双方を照射した。 野生型マウスの一群を、PFT−αで処理した。 図13(a)は、PFT−αで処理したマウスが照射後300日に生存したことを示す。 これに対して、15匹の未処理野生型マウスは100日以内に死亡した。 p53欠損型マウスは、約125日間影響を受けず、その後次なる25〜30日以内に死亡した。
【0158】
図13(b)は、PFT−βの同様の保護効果を示す。
【0159】
図14は、X−galで染色したConA細胞の顕微鏡写真を含み、そしてドキソルビシンで処理されたConA細胞での、p53抑制におけるピフィスリン-アルファおよび86B10についての結果を示す。 86B10はPFT−αと類似であるが弱いp53阻害効果を呈する。
【0160】
図15は、PFT−βの投与および非投与にて、シクロホスファミド(CTX)で処理したC57BLマウスについての、日数に対する腫瘍容量のプロットである。 マウスは第0、1、および2日にCTXで処理され、そして腫瘍容量を16日間モニターした。 PFT−βで処理されたマウスは、腫瘍成長に実質的な減少を呈した。
【0161】
前記したとおりPFT−αを用いて、図1〜図15に示す試験および実験を、PFT−βを用いて繰り返した。 PFT−βを使用した試験からの結果は、PFT−αを使用した試験からの結果と本質的に同様であった。 しかしながら、図16に示すように、PFT−βの毒性はPFT−αの毒性よりも実質的に低かったので、PFT−βは好ましい一時的なp53阻害剤である。
【0162】
前記の試験および実験は、PFT−αおよびPFT−βのような一時的なp53阻害剤が、p53活性化の下流で作用することを示す。 PFT−αおよびPFT−βはまた、p53の転写後修飾またはp53のDNA結合親和性のいずれかに影響することはない。
【0163】
重要なことは、PTF−αおよびPFT−β、ならびにその他の一時的なp53阻害剤は、p53の核での蓄積を減じることが試験から示されるものであり、このことが構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の治療における用途に対する基礎として役立つのである。
【0164】
p53の抑制は、典型的には細胞の生存を結果として引き起こし、これはそうでなければp53によって排除されたものであって、新しい癌の発生の危険性を高めることができるのである。 例えば、p53欠損マウスは、放射線によって誘発された腫瘍新生に対して極めて感受性が高い。 しかしながら、致死的なガンマ線照射から照射後7ヶ月でPFT−αによって救出された30匹の生存マウスの群において、腫瘍も他の病理学的傷害もまったく認められなかった。 このように、p53活性の一時的な抑制は、癌の素因という面からp53欠損と異なっている。
【0165】
構造式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤は、有効且つ可逆的にp53機能を阻害する。 したがって、ゲノムストレスによって惹起されるアポトーシス死または不可逆的成長停止から、p53を有する細胞を救出するために、一時的なp53阻害剤を適用することができるのである。 重要なことは、一時的なp53阻害剤の細胞効果は可逆的であって短時間継続するもので、したがって、p53抑制は、かかる阻害剤の定常的な存在を本質的に必要とするのである。 さらに、本発明の阻害剤のインビボの効果は、p53の存在に依存する。
【0166】
構造式(I)から(IV)までの化合物、特にPFT−αおよびPFT−βは、(a)迅速に増殖しているマウス組織におけるp53依存性の放射線誘発された成長停止を抑制し、(b)単回の腹腔内注射を使用したガンマ線照射の致死容量からマウスを救出し、(c)化学療法の毒性を減じ、(d)p53欠損マウス腫瘍の化学療法または放射線療法の効率を低減させることはなく、(e)照射された動物における腫瘍の発生率上昇をもたらさず、これらにより、一時的なp53阻害剤の治療用途を示すものである。
【0167】
PFT−αおよびPFT−βを使用した前記の試験は、機能的なp53を喪失しているヒト癌に対する放射線療法または化学療法の副作用を低減する、一時的なp53阻害剤の治療用途を示すものである。 PFT−αおよびPFT−βの効果はp53依存性であるので、これら化合物は、かかる腫瘍の処置に対する感受性に影響を及ぼさない。 事実、PFT−αの腹腔内注射は、p53+/+ヌードマウスにおけるp53欠損腫瘍異種移植の放射線応答を変化させることがなかった。
【0168】
したがって、構造式(I)から(IV)までの化合物のような一時的なp53阻害剤は、例えば、以下の適用において使用することができる。
【0169】
(a)p53活性に関連する種々のストレス(例えば、抗癌放射線療法および化学療法、虚血、卒中、高熱症等)に対する組織応答の病理学的な結果を低減するためにp53抑制を使用する治療;
(b)p53経路分析およびモジュレーションを研究するためのツールとしての、構造式(I)から(IV)までの化合物、例えば構造式(V)または(VI)の化合物などといった一時的なp53阻害剤の適用;
(c)種々のストレスの後の死亡から細胞を救出するための薬物としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(d)抗癌治療に対してp53欠損細胞を高感度にするための薬物としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(e)組織加齢を抑制するための潜在的抗老化薬物としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(f)p53経路分析およびモジュレーションのためのツールとしてp53依存性のトランス活性化を抑制するための、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の適用;
(g)インビボでの放射線保護剤としての、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与;
(h)抗癌治療の副作用、急性炎症、傷害(例えば、熱傷および中枢神経系外傷)、細胞加齢、高熱症、発作、移植前の移植組織および臓器、骨髄移植のための宿主の準備、ならびに低酸素症(例えば、虚血および卒中)を含めた、異なる病理学的環境にて種々のストレスから細胞を保護するための、インビボでの、構造式(I)から(IV)までの化合物などの一時的なp53阻害剤の投与。
【0170】
明らかに、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、以上に述べた本発明の多くの修飾および変更をなすことが可能であり、したがって、添付の請求の範囲に示されるごとき限定しか、本発明に付されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】p53阻害剤に対する化学ライブラリーのスクリーニングを示す図である。
【図2】(a)および(b)は、UV照射されたConA細胞における10、20、および30μMのPFT−αでのβ−ガラクトシダーゼ活性の依存性、ならびにp53応答性遺伝子のPFT−α阻害をそれぞれ示す図である。
【図3】PFT−α投与による、p53依存性アポトーシスの抑制を示す図である。
【図4】p53野生型細胞に対するPFT−αの特異性を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、PFT−αがインビトロで、ラット胚線維芽細胞の加齢を遅延させることを示す図である。
【図6】(a)〜(e)は、p53経路に対するPFT−αの効果を示す図である。
【図7】(a)〜(d)は、ガンマ線照射に供されたマウス、ならびにPFT−αで処理したものもしくは処理しないものについての、照射後の日数に対する生存動物のプロットと、照射後の日数に対する重量(%)のプロットを含む図である。
【図8】インビボにおける、p53によって媒介される成長停止を阻止するPFT−αの効果を示すオートラジオグラムを含む図である。
【図9】全身へのガンマ線照射後24時間での、p53野生型マウスの小腸を示す図である。
【図10】タキソールおよびAraCで処理したp53欠損細胞に対する、PFT−αの選択的な毒性を示す図である。
【図11】(a)および(b)は、UV照射後のC8細胞の生存に対する、PFT−αの効果、および適用時間を示す図である。
【図12】(a)および(b)は、C8およびA4型細胞への照射量、ならびにヒト二倍体線維芽細胞への照射量に対する、コロニー数のプロットであり、PFT−αの効果を示す図である。
【図13】(a)および(b)は、照射後の日数に対する動物数のプロットであり、PFT−αおよびPFT−βで処理された動物では癌発生の促進を伴わないことを示す図である。
【図14】ドキソルビシンで処理したConA細胞における、PFT−αおよび86B10によるp53の抑制を示す図である。
【図15】PFT−βを投与して、および非投与にて、シクロホスファミドでの処理に付したC57BCマウスについての、日数に対する腫瘍容量のプロットを示す図である。
【図16】PFT−αとPFT−βの毒性を比較している図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p53活性の阻害が利点をもたらす疾患または状態を処置する方法であって、当該疾患または状態に見舞われている個体に、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を投与する工程を含む方法。
【請求項1】
p53活性の阻害が利点をもたらす疾患または状態を処置する方法であって、当該疾患または状態に見舞われている個体に、一時的なp53阻害剤の治療上有効な量を投与する工程を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−265321(P2010−265321A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185868(P2010−185868)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2000−595668(P2000−595668)の分割
【原出願日】平成12年1月28日(2000.1.28)
【出願人】(501281847)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2000−595668(P2000−595668)の分割
【原出願日】平成12年1月28日(2000.1.28)
【出願人】(501281847)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (1)
【Fターム(参考)】
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