説明

p65媒介シグナル伝達の調節剤及びそのスクリーニング方法

【課題】免疫細胞において、ユビキチン/プロテアソーム依存性分解経路を介してp65媒介シグナル伝達を調節するメカニズムをさらに解析し、この経路を担う因子を同定すること、並びにこれらの知見を創薬等に応用すること。
【解決手段】
SLIMの発現又は機能を調節する物質を含む、p65媒介シグナル伝達の調節剤;被験物が、SLIMの発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、p65媒介シグナル伝達の調節剤のスクリーニング方法;TLRリガンドが投与された、SLIM欠損非ヒト動物;TLRリガンドで処理された、SLIM欠損細胞;SLIM及びHSP90を含む複合体など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p65媒介シグナル伝達の調節剤及びそのスクリーニング方法、並びに所定のSLIM欠損動物・細胞などを提供する。
【背景技術】
【0002】
転写因子のNF−κB(nuclear factor-κB)/Relファミリーは、5つのメンバー、即ちp65/RelA、RelB、c−Rel、p50及びp52から構成される。マクロファージ、樹状細胞及び線維芽細胞等の自然免疫細胞では、p65とp50のヘテロダイマーが、TLRリガンド及びサイトカイン(例、TNFα、IL−1)の刺激により活性化され得る(Canonical NF−κB経路と呼ばれる)。細胞を刺激すると、IκB(inhibitor of κB)タンパク質(細胞質中のNF−κBタンパク質に結合し、それを細胞質内に隔離している)が先ず分解され、次いでNF−κBタンパク質が核内に移行して、微生物性病原体に対する宿主防御に必須である一連の遺伝子群(炎症性サイトカイン及びケモカインを含む)の発現を協調的に誘導する。一方、これらの細胞におけるNF−κBの調節異常(NF−κBシグナル伝達の構成的活性化を生じる)は、幾つかのヒト免疫疾患(例、喘息、関節炎及び炎症性腸疾患)を引き起こすことが報告されている。このことは、NF−κBシグナル伝達が、適切な時点で終結することの重要性を示唆する。この調節を説明する幾つかのメカニズムが提唱されている。一つは、再合成されたIκBタンパク質が核内へと移行して、NF−κBを細胞質内へ戻す輸送経路である。もう1つの重要なメカニズムは、核内におけるNF−κB・p65タンパク質のユビキチン/プロテアソーム依存性分解であり、これは、IκBと相乗的にNF−κBシグナル伝達を不活性化する。
【0003】
しかしながら、NF−κBが核内で分解され、その活性化を終結させる様式については未だ十分に理解されてはいない。さらに、核内p65タンパク質のユビキチン化を媒介するユビキチンリガーゼは未だ同定されていない。
【0004】
なお、本発明者らの今回の研究成果に関連する技術分野における先行技術としては、以下が挙げられる。
非特許文献1には、a)p65がPML (Promyelocytic leukemia protein) と会合し得ること、b)PMLの過剰発現がPML Nuclear body(PMLを始めとする幾つかの蛋白質を含む核内の隔離された構造で、核内に点状に分布する)へのp65のトランスロケーションを誘導し得ること、c)PMLの過剰発現がp65のDNAへの結合を阻害することによりその転写活性を抑制すること、並びにd)PMLがこのp65に対する抑制作用を介してTNFαによる細胞のアポトーシスを促進することが記載されている。
非特許文献2〜4には、a)p53、Myc及びLEF−1等の幾つかのタンパク質が、PMLNuclear bodyへと輸送されること、b)PMLNuclear bodyが転写因子の活性化を正と負の両方向に制御する機能を有すること、並びにc)PMLNuclear bodyが核内での蛋白分解を担う特殊な分画であることが示唆されている。
非特許文献5には、a)SLIMが、CD4T細胞においてSTAT4及びSTAT1に対して作用する核内ユビキチンリガーゼとして同定されたこと、b)SLIMの強制発現により、STAT4とSTAT1のプロテアソーム依存性の蛋白分解およびチロシン脱リン酸化が促進されること、c)SLIMが、STAT4タンパク質のポリユビキチン化、及びその後の分解を、LIMドメインを介して媒介すること、d)SLIM(−/−)マウスが作製されたこと、並びにe)SLIM(−/−)マウス由来CD4T細胞においてTh1細胞分化が亢進し、STAT4タンパク質レベルが増加していることが記載されている。
非特許文献6には、SLIMがアクチン結合タンパク質であるα−アクチニンに結合し得ることが記載されている。
非特許文献7には、p65がユビキチン化されてプロテアソーム依存性に分解されることにより不活性化され得ることが記載されている。
【非特許文献1】Wu, W-S et al., J. Biol. Chem. 278: 12294-12304 (2003)
【非特許文献2】Zhong S. et al., Nature Cell Biol., 2: E85-90 (2000)
【非特許文献3】Smith KP et al., J. Cell Biochem. 93: 1282-1296 (2004)
【非特許文献4】Sachdev S. et al., Genes & Dev. 15: 3088-3013 (2001)
【非特許文献5】Tanaka T. et al., Immunity 22: 729-736 (2005)
【非特許文献6】Torrad M. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 45: 3955-3963 (2004)
【非特許文献7】Sccanti S. et al., J. Exp. Med., 200: 107-113 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、自然免疫細胞において、ユビキチン/プロテアソーム依存性分解経路を介してp65媒介シグナル伝達を調節するメカニズムをさらに解析し、この経路を担う因子を同定すること、並びにこれらの知見を創薬等に応用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ユビキチンE3リガーゼとして作用する核内PDZ/LIMタンパク質であるSLIM(STAT-interacting LIM protein)がNK−κB・p65媒介シグナル伝達を負に調節する因子であること、並びにこの調節系にはHSP90等の他の因子も関与することなどを見出した。NF−κBシグナル伝達の異常は炎症性疾患等の疾患と関連し得ることから、本発明者らの知見により、このような疾患の予防・治療薬の開発などが可能になると考えられる。
【0007】
以上の知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の発明などを提供する。
〔1〕SLIMの発現又は機能を調節する物質を含む、p65媒介シグナル伝達の調節剤;
〔2〕SLIMの発現又は機能を調節する物質が、SLIMの発現又は機能を促進する物質である、p65媒介シグナル伝達の阻害剤である、上記〔1〕の剤;
〔3〕SLIMの発現又は機能を促進する物質が、SLIM発現ベクター、又はHSPの発現又は機能を抑制する物質である、上記〔2〕の剤;
〔4〕p65媒介シグナル伝達の阻害剤が、炎症性疾患及び自己免疫疾患からなる群より選ばれる疾患に対する医薬である、上記〔2〕の剤;
〔5〕SLIMの発現又は機能を調節する物質が、SLIMの発現又は機能を抑制する物質である、p65媒介シグナル伝達の活性化剤である、上記〔1〕の剤;
〔6〕SLIMの発現又は機能を抑制する物質が、HSP発現ベクターである、上記〔5〕の剤;
〔7〕HSPがHSP90である、上記〔6〕の剤;
〔8〕p65媒介シグナル伝達の活性化剤が、感染症及び悪性腫瘍からなる群より選ばれる疾患に対する医薬である、上記〔5〕の剤;
〔9〕TLRリガンドが投与された、SLIM欠損非ヒト動物;
〔10〕TLRリガンドで処理された、SLIM欠損細胞;
〔11〕被験物が、SLIMの発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、p65媒介シグナル伝達を調節し得る物質のスクリーニング方法;
〔12〕1)SLIMの発現を測定可能な細胞を用いたSLIMの発現の測定、2)SLIMの機能を測定可能な再構成系を用いたSLIMの機能の測定、3)SLIMの機能を測定可能な細胞系を用いたSLIMの機能の測定、4)動物を用いたSLIMの発現又は機能の測定のいずれかにより行われる、上記〔11〕のスクリーニング方法;
〔13〕該評価が、被験物がSLIMによるp65のユビキチン化の調節能を有するか否か、あるいはSLIMによるp65のPML Nuclear Bodyへの隔離の調節能を有するか否かの評価に基づき行われる、上記〔11〕の方法;
〔14〕該評価が、被験物がSLIM及びHSP90を含む複合体の形成能を調節するか否か、あるいは被験物がSLIM及びアクチニンを含む複合体の形成能を調節するか否かの評価に基づき行われる、上記〔11〕のスクリーニング方法;
〔15〕TLRリガンド刺激下で行われる、上記〔11〕の方法;
〔16〕SLIM及びHSP90を含む、複合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の調節剤は、例えば、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患、例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患に対する医薬、並びにp65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患、例えば、感染症、悪性腫瘍に対する医薬として有用であり得る。
本発明の動物及び細胞は、例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患等の疾患のモデル動物及びモデル細胞として、並びにp65媒介シグナル伝達の解析、及び上記疾患の予防・治療剤の開発に有用であり得る。
本発明のスクリーニング方法は、例えば、p65媒介シグナル伝達の調節が所望される疾患に対する医薬の開発などに有用であり得る。
本発明の複合体は、例えば、本発明のスクリーニング方法に有用であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、SLIMの発現又は機能を調節する物質を含む、p65媒介シグナル伝達の調節剤を提供する。
【0010】
一実施形態では、SLIMの発現又は機能を調節する物質は、SLIMの発現又は機能を促進する物質であり得る。なお、本明細書で使用される場合、SLIMの発現の促進としては、SLIM(タンパク質)自体の補充をも含むものとする。SLIMの発現又は機能を促進する物質としては、例えば、SLIM又はアクチニン(タンパク質)、SLIM又はアクチニンをコードする核酸を含む発現ベクター(SLIM又はアクチニン発現ベクター)、HSP(例、HSP90)の発現又は機能を抑制する物質(例、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸(例、siRNA)、HSP90ドミナントネガティブ変異体、低分子化合物(例、ゲルダナマイシン、17−AAG(17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン)、17−AG(17−アミノ−ゲルダナマイシン)、ラジシコール (Radicicol)、ノボビオシン (Novobiocin))が挙げられる。これらの物質は、自体公知の方法により作製できる。なお、例えば、ヒトSLIMについては、GenBankアクセッション番号:AY007729を参照のこと。
【0011】
本発明の剤に含まれ得るSLIM又はアクチニンは、上述の動物由来の天然SLIM又はアクチニンあるいはそれらの変異体であり得るが、好ましくはヒト由来の天然SLIM又はアクチニンあるいはそれらの変異体であり得る。SLIMは、p65のユビキチン化を担うLIMドメイン、及びPML Nuclear bodyへのp65の隔離(sequestration)を担うPDZドメインを併有する限り、あるいはそれらの機能を保持する限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい。アクチニンは、SLIMへの結合を担うドメイン、アクチンへの結合を担うドメインを併有する限り、あるいはそれらの機能を保持する限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい。
【0012】
本発明の剤に含まれ得るSLIM及びアクチニンはまた、天然のSLIM又はアクチニン発現細胞から回収され得るタンパク質、又は組換えタンパク質であり得る。SLIMは、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)天然のSLIM発現細胞(例、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞、T細胞、B細胞)からSLIMを回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にSLIM発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるSLIMを回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりSLIMを合成してもよい。アクチニンもまた同様に調製できる。SLIM及びアクチニンは、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、SLIM抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
【0013】
別の実施形態では、SLIMの発現又は機能を調節する物質は、SLIMの発現又は機能を抑制する物質であり得る。SLIMの発現又は機能を抑制する物質としては、例えば、SLIM又はアクチニンに対するアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸(例、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びHSP(例、HSP90)、並びにこれらをコードする核酸を含む発現ベクター、低分子化合物が挙げられる。これらの物質は、自体公知の方法により作製できる。
【0014】
SLIMの発現又は機能を調節する物質が、核酸分子又はタンパク質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子又はタンパク質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また、使用されるプロモーターとしては、SLIM発現細胞(例、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞、T細胞、B細胞)に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターは、SLIM発現細胞に特異的に発現している任意の遺伝子のプロモーターであり得る。
【0015】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0016】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、レンチウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0017】
本発明の剤は、SLIMの発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0019】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0020】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
【0021】
本発明の剤は、例えば、医薬、試薬又は食品として有用である。
【0022】
詳細には、本発明の剤は、SLIMの発現又は機能を調節する物質として、例えばSLIMの発現又は機能を促進する物質を含む場合、p65媒介シグナル伝達を抑制し得る。本発明者らは、SLIMがp65を基質とするE3リガーゼとして作用し、p65媒介シグナル伝達を負に調節し得る、即ち、抑制し得る因子であることを見出した。この場合、本発明の剤は、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患の予防・治療、あるいは該シグナル伝達が抑制された疾患モデル(例、細胞、動物)の作製のために使用され得る。p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患としては、例えば、炎症性疾患(例、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性気管支喘息、アトピー性皮膚炎、成人型および小児型呼吸窮迫症候群、インフルエンザ脳症)、自己免疫疾患(例、慢性関節リウマチ、川崎病、結節性多発動脈炎、I型糖尿病、全身性エリテマトーシス)などが挙げられる。p65媒介シグナル伝達が抑制された疾患モデルにおけるp65媒介シグナル伝達が抑制された疾患は、p65媒介シグナル伝達の促進が所望される後述の疾患と同様であり得る。
【0023】
一方、本発明の剤は、SLIMの発現又は機能を調節する物質として、例えばSLIMの発現又は機能を抑制する物質を含む場合、p65媒介シグナル伝達を促進し得る。本発明者らは、SLIMがp65を基質とするE3リガーゼとして作用し、p65媒介シグナル伝達を負に調節し得る、即ち、抑制し得る因子であることを見出した。従って、本発明の剤は、SLIMの発現又は機能を抑制する物質を含む場合、p65媒介シグナル伝達を促進し得る。この場合、本発明の剤は、p65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患の予防・治療、あるいはp65媒介シグナル伝達が促進された疾患モデル(例、細胞、動物)の作製に使用され得る。p65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患としては、例えば、感染症(例、細菌、ウイルス、真菌感染症)、悪性腫瘍が挙げられる。p65媒介シグナル伝達が促進された疾患モデルにおけるp65媒介シグナル伝達が促進された疾患は、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される上述の疾患と同様であり得る。
【0024】
(動物及び細胞)
本発明は、TLRリガンドが投与されたSLIM欠損非ヒト動物を提供する。
【0025】
TLR(Toll−like receptor)リガンドとしてはTLRを介して刺激シグナルを細胞内に導入可能なものである限り特に限定されず、例えば、LPS、CpG DNA、1本鎖又は2本鎖RNA、抗ウイルス薬(イミダゾキノリン)、フラジェリン、ペプチドグリカン、細菌由来リポペプチド、マイコプラズマ由来リポペプチドが挙げられる。
【0026】
本発明の動物の種としては特に限定されず、例えば、げっ歯類(例、マウス、ラット)等の哺乳動物、ゼブラフィッシュ等の魚類が挙げられる。なお、SLIM欠損動物としては、例えば、SLIM欠損マウスが公知である(Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005) 参照)。
【0027】
本発明の動物は、上記SLIM欠損動物にTRLリガンドを投与することにより作製できる。TRLリガンドとしては上述のものが用いられ得る。SLIM欠損動物に対するTRLリガンドの投与は自体公知の方法により行われ得る。
【0028】
本発明はまた、TLRリガンドで処理されたSLIM欠損細胞を提供する。
【0029】
本発明の細胞は、ヒトを含む任意の動物(ヒト以外の動物については、例えば、上述の動物を参照)に由来する細胞であり得る。本発明の細胞はまた、任意の組織に由来する細胞であり得るが、好ましくは免疫細胞(例、マクロファージ、樹状細胞、T細胞、B細胞)、線維芽細胞、骨髄細胞、脾細胞、血管内皮細胞であり得る。本発明の細胞はまた、初代培養細胞、細胞株のいずれであってもよい。
【0030】
本発明の細胞は、例えば、SLIM欠損動物から単離された細胞をTLRリガンドで処理することにより作製できる。SLIM欠損動物由来の細胞は、遺伝子工学的手法等の方法により改変された細胞であってもよい。細胞の単離及び改変は、自体公知の方法により行うことができる(例えば、Current Protocols in Cell Biology, John Wiley & Sons, Inc.(2001);機能細胞の分離と培養,丸善書店 (1987) 参照)。TLRリガンドによる細胞の処理は、自体公知の方法により行われ得る。
【0031】
本発明の動物は、TLRリガンドによる処置の致死的効果について、野生型動物に比し、より感受性が高いという特徴を有し得る。本発明の細胞は、TLRリガンドによる処理により、野生型細胞に比し、より高量の炎症性サイトカインを産生し得る。従って、本発明の動物及び細胞は、例えば、炎症性疾患、自己免疫疾患のモデル動物及びモデル細胞として有用である。本発明の動物及び細胞はまた、p65媒介シグナル伝達の解析、並びに上記疾患の予防・治療剤の開発などに有用である。例えば、本発明の動物における遺伝子発現を網羅的に解析することで、炎症性疾患、自己免疫疾患を始めとする病的表現型に関与する他の遺伝子の同定が可能となる。この場合、例えば、本発明の動物及び細胞において、遺伝子発現の網羅的解析を可能にする手段(例えば、マイクロアレイ)により遺伝子発現プロフィールが測定され、野生型動物又は他の疾患モデル動物等のコントロール動物(同種又は異種動物)の遺伝子発現プロフィールと比較される。また、本発明の動物及び細胞(必要に応じて被験物が投与又は接触され得る)の発現プロフィールを経時的に追跡し、疾患の状態と発現プロフィールの変化との連動性を評価することもできる。
【0032】
(スクリーニング方法)
本発明は、被験物がSLIMの発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、医薬、試薬又は食品として有効であり得る、p65媒介シグナル伝達を調節し得る物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、及び当該物質を含む剤を提供する。
【0033】
スクリーニング方法に供される被験物は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
【0034】
本発明のスクリーニング方法は、被験物がSLIMの発現又は機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、1)SLIMの発現を測定可能な細胞を用いたSLIMの発現の測定、2)SLIMの機能を測定可能な再構成系を用いたSLIMの機能の測定、3)SLIMの機能を測定可能な細胞系を用いたSLIMの機能の測定、4)動物を用いたSLIMの発現又は機能の測定などに基づき行われ得る。なお、本発明のスクリーニング方法は、TLRリガンドによる刺激下で行われてもよい。
【0035】
上記1)において、SLIMの発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物とSLIMの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物を接触させた細胞におけるSLIMの発現量を測定し、該発現量を被験物を接触させない対照細胞におけるSLIMの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、SLIMの発現量を調節する被験物を選択する工程。
【0036】
上記方法の工程(a)では、被験物がSLIMの発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。SLIMの発現を測定可能な細胞に対する被験物の接触は、培地中で行われ得る。
【0037】
SLIMの発現を測定可能な細胞とは、SLIMの産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。SLIMの産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、SLIM発現細胞であり得、一方、SLIMの産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、SLIM遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。SLIMの発現を測定可能な細胞は、上述した動物の細胞であり得る。
【0038】
SLIM発現細胞は、SLIMを潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。また、SLIM発現細胞としては、マクロファージ等の免疫細胞を使用することもまた好ましい。また、炎症性疾患等の上述の疾患のモデル動物由来の細胞を用いてもよい。
【0039】
SLIM遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、SLIM遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。SLIM遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。SLIM遺伝子の転写調節領域は、SLIMの発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各SLIM遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのSLIMの転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0040】
SLIM遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、SLIM遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、SLIMに対する生理的な転写調節因子を発現し、SLIMの発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、SLIM発現細胞が好ましい。
【0041】
被験物とSLIMの発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0042】
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物を接触させた細胞におけるSLIMの発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、上述した自体公知の方法により行われ得る。また、SLIMの発現を測定可能な細胞として、SLIM転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0043】
次いで、被験物を接触させた細胞におけるSLIMの発現量が、被験物を接触させない対照細胞におけるSLIMの発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物を接触させない対照細胞におけるSLIMの発現量は、被験物を接触させた細胞におけるSLIMの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0044】
上記方法の工程(c)では、SLIMの発現量を調節する被験物が選択される。例えば、SLIMの発現量を増加させる(発現を促進する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患の予防・治療などに有用であり、SLIMの発現量を減少させる(発現を抑制する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患の予防・治療などに有用である。
【0045】
上記2)において、SLIMの機能を測定可能な再構成系とは、SLIM(タンパク質)及びその他の因子(例、タンパク質)を含む、被験物によるSLIMの機能調節能を評価可能な非培養細胞系をいう。
【0046】
一実施形態では、SLIMの機能を測定可能な再構成系を用いる本発明のスクリーニング方法は、被験物がSLIM及びその結合対(例、HSP90等のHSP、アクチニン)を含む複合体の形成能を調節するか否かを評価することにより行われ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a1)〜(c1)を含み得る:
(a1)被験物、ならびにSLIM及びその結合対を接触させる工程;
(b1)被験物を接触させた場合におけるSLIM及びその結合対を含む複合体量を測定し、該複合体量を被験物を接触させない場合の複合体量と比較する工程;
(c1)上記(b1)の比較結果に基づいて、SLIM及びその結合対を含む複合体量を調節する被験物を選択する工程。
【0047】
上記方法の工程(a1)では、SLIM及びその結合対を含む複合体の形成が可能であるアッセイ系において、被験物、SLIM及びその結合対が接触される。その結合対としては、HSP90等のHSP、アクチニンが挙げられる。なお、SLIM及びその結合対の一方又は双方は、それらの複合体の検出を容易にするため標識されていてもよい。標識としては、例えば、標識用物質(例、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質)による標識の他、レポーター遺伝子によりコードされ得るタンパク質との融合が挙げられる。また、本アッセイ系では、SLIM及び/又はその結合対等を含む細胞ホモジネート(例、SLIM発現ベクター及び/又はSLIM結合対の発現ベクターをトランスフェクトした細胞のホモジネート)も使用することができる。
【0048】
上記方法の工程(b1)では、先ず、被験物を接触させた場合における複合体量が測定される。複合体量の測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、免疫学的手法(例、免疫沈降法、ELISA)、表面プラズモン共鳴を利用する相互作用解析法(例、BiacoreTMの使用)が挙げられる。
【0049】
次いで、被験物を接触させた場合の複合体量が、被験物を接触させない場合の複合体量と比較される。複合体量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物を接触させない場合の複合体量は、被験物を接触させた場合の複合体量の測定に対し、事前に測定した複合体量であっても、同時に測定した複合体量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した複合体量であることが好ましい。
【0050】
上記方法の工程(c1)では、複合体量を調節する被験物が選択される。例えば、SLIM及びHSPを含む複合体量を増加させる(複合体の形成を促進する)、又はSLIM及びアクチニンを含む複合体量を減少させる(複合体の形成を抑制する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患の予防・治療などに有用であり、SLIM及びHSPを含む複合体量を減少させる、又はSLIM及びアクチニンを含む複合体量を増加させる被験物は、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患の予防・治療などに有用である。
【0051】
別の実施形態では、SLIMの機能を測定可能な再構成系を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、被験物がSLIMによるp65のユビキチン化の調節能を有するか否かを評価することにより行われ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a2)〜(c2)を含み得る:
(a2)被験物、ならびにSLIM及びユビキチン化反応に必要な因子を接触させる工程;
(b2)被験物を接触させた場合におけるユビキチン化SLIM量を測定し、該複合体量を被験物を接触させない場合のユビキチン化SLIM量と比較する工程;
(c2)上記(b2)の比較結果に基づいて、ユビキチン化SLIM量を含む複合体量を調節する被験物を選択する工程。
【0052】
上記方法の工程(a2)では、SLIMの自己ユビキチン化が可能であるアッセイ系において、被験物、SLIM及びユビキチン化反応に必要な因子が接触される。ユビキチン化反応に必要な因子としては、例えば、ユビキチン、E1、E2が挙げられる。また、本アッセイ系では、p65をさらに接触させることもできる。
【0053】
上記方法の工程(b2)では、先ず、被験物を接触させた場合におけるユビキチン化SLIM量が測定される。ユビキチン化SLIM量の測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、ウエスタンブロッティング法等の免疫学的手法が挙げられる。
【0054】
次いで、被験物を接触させた場合のユビキチン化SLIM量(又はp65をさらに接触させた場合には、ユビキチン化p65量。以下省略)が、被験物を接触させない場合のユビキチン化SLIM量と比較される。ユビキチン化SLIM量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物を接触させない場合のユビキチン化SLIM量は、被験物を接触させた場合のユビキチン化SLIM量の測定に対し、事前に測定したユビキチン化SLIM量であっても、同時に測定したユビキチン化SLIM量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したユビキチン化SLIM量であることが好ましい。
【0055】
上記方法の工程(c2)では、ユビキチン化SLIM量を調節する被験物が選択される。例えば、ユビキチン化SLIM量を減少させる(ユビキチン化を抑制する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患の予防・治療などに有用であり、ユビキチン化SLIM量を増加させる(ユビキチン化を促進する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患の予防・治療などに有用である。なお、本自己ユビキチン化アッセイの詳細については、例えば、Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005) を参照のこと。なお、再構成系におけるSLIMの自己ユビキチン化能は、SLIMのLIMドメインが、細胞内で実際の基質をユビキチン化する活性を反映していると考えられている。
【0056】
上記3)において、SLIMの機能を測定可能な細胞系を用いたSLIMの機能を測定するスクリーニング方法は、例えば、i)被験物がSLIMによるp65のユビキチン化の調節能を有するか否か、ii)SLIMによるp65のPML Nuclear Bodyへの隔離の調節能を有するか否か、あるいはiii)SLIM及びその結合対(例、HSP、アクチニン)を含む複合体量を調節するか否かの評価により行われ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物とSLIM発現細胞とを接触させる工程;
(b)被験物を接触させた細胞におけるSLIMの機能レベルを測定し、該機能レベルを、被験物を接触させない対照細胞における機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、SLIMの機能レベルを調節する被験物を選択する工程。
【0057】
上記方法の工程(a)では、被験物がSLIM発現細胞と接触条件下におかれる。SLIM発現細胞に対する被験物の接触は、培地中で行われ得る。ここで用いられるSLIM発現細胞は、タンパク質レベルでのSLIMのアッセイが可能な程度にSLIMを発現し得る細胞であり得る。このようなSLIM発現細胞の好ましい例としては、SLIM発現ベクター及び/又はHSP発現ベクターがトランスフェクトされた細胞(例、肥満細胞、T細胞)、SLIM及びHSPの天然発現細胞(例、マクロファージ等の免疫細胞)が挙げられる。SLIM発現細胞に対する被験物の接触は、培地中で行われ得る。本工程はまた、TLRリガンド処理(刺激)下で行われ得る。
【0058】
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物を接触させた細胞におけるSLIMの機能レベルが測定される。例えば、i)については、ユビキチン化p65量の測定(例、実施例及びTanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005) 参照)により行われ得る。ii)については、核の不溶性画分(PML Nuclear Bodyに対応)中のp65量の測定(例、実施例参照)により、あるいはマーカータンパク質(例、GFP等の蛍光タンパク質、Flag、His等のタグ付加タンパク質)と融合させたp65の核内局在の測定により行われ得る。iii)については、上記2)の(b1)の方法の他、ツーハイブリッドシステムにより測定できる。なお、本工程(b)における機能レベルの比較は、上記方法2)と同様に行われ得る。
【0059】
上記方法の工程(c)では、SLIMの機能レベルを調節する被験物が選択される。例えば、SLIMの機能レベルを増加させる(機能を促進する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の抑制が所望される疾患の予防・治療などに有用であり、SLIMの機能レベルを減少させる(機能を抑制する)被験物は、p65媒介シグナル伝達の促進が所望される疾患の予防・治療などに有用である。
【0060】
上記4)において、動物を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物を動物に投与する工程;
(b)被験物を投与した動物におけるSLIMの発現量又は機能レベルを測定し、該発現量を被験物を投与しない対照動物におけるSLIMの発現量又は機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、SLIMの発現量又は機能レベルを調節する被験物を選択する工程。
なお、本方法論は、(b)及び(c)の工程のみを必須とすることもできる。
【0061】
上記方法の工程(a)では、動物として、任意の動物、例えば、本発明の動物(TLRリガンドが投与された動物)、疾患モデル動物が使用され得る。被験物の動物への投与は自体公知の方法により行われ得る。
【0062】
上記方法の工程(b)では、SLIMの発現量又は機能レベルの測定は自体公知の方法により測定され得る。例えば、動物から単離又は採取された免疫細胞におけるSLIMの発現量又は機能レベルが、上記1)〜3)の方法の工程(b)と同様の方法論により測定され得る。本工程(b)における発現量の比較及び上記方法の工程(c)もまた、上記1)〜3)の方法論と同様に行われ得る。
【0063】
(その他)
本発明は、SLIM及びHSP(例、HSP90)を含む複合体、並びにその作製方法及び検出方法を提供する。このような複合体の作製は、精製タンパク質又は組換えタンパク質を用いる自体公知の方法により行われ得る。このような複合体の検出は、抗SLIM抗体及び/又は抗HSP抗体を用いる抗体免疫学的手法により行われ得る。本発明の複合体は、本発明のスクリーニング方法に有用である。
【0064】
本発明はまた、SLIM発現ベクターが導入されたHSP天然発現細胞、HSP発現ベクターが導入されたSLIM天然発現細胞、SLIM及びHSPを発現する1又は2個のベクター(例、発現ベクターの組合せ、共発現ベクター)が導入された細胞を提供する。本発明のこのような細胞は、本発明のスクリーニングに有用である。
【0065】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0066】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0067】
材料及び方法
1.プラスミド、試薬及び抗体
p65発現プラスミド(Flag−タグ及びp65のコーディング領域)をpCDNA3(Invtorgen)に挿入した。Flag−p65をpCII−CMV−MCS−IRES−Venus(H.Miyoshi及びA.Miyawakiから快くご提供頂いた)に挿入することにより、Flag−p65−IRES−GFPを作製した。C−Myc−SLIMは、M.Grusbyから頂いた。SLIM変異体のΔLIM及びΔPDZについては、マウスSLIMのアミノ酸80−350又は1−280をpCMV−Myc(Clontech)にそれぞれサブクローニングした(M.Grusbyより快くご提供頂いた)。ELAM−1プロモーター領域を含むルシフェラーゼレポーター構築物は、D.Golenbockから頂いた。LPS(Salmonella enterica)は、Sigmaから購入した。CpGオリゴヌクレオチド(ODN1668)は、Hokkaido System Scienceから購入した。ポリ(I:C)は、Amersham Biosciencesから購入した。ヒトTNFαは、R&D systemsから購入した。MG132は、Calbiochemから購入した。D−ガラクトサミン、ラトランクリンA(Latrunculin A)、サイトカラシンD及びノコダゾール(nocodazole)は、Sigmaから購入した。ゲルダナマイシンは、WAKO Chemicalsから購入した。抗p65、p50、Sp1、HSP90、PKC、LaminB、I−κBα及びPML抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。抗Flag、SC−35、及びα−アクチニン抗体は、Sigmaから購入した。抗ユビキチン抗体は、Zymedから購入した。抗20Sプロテアソーム抗体は、Affiniti Research Productsから購入した。抗ホスホp65(Ser536)及びホスホI−κBα(Ser32)抗体は、Cell Signalingから購入した。
【0068】
2.細胞、トランスフェクション、レポーターアッセイ
293T、RAW267.4、COS7、3T3細胞は、10%FCSを補充したDMEM中で維持した。SLIM欠損マウスでの実験に用いた常在性マクロファージは、マウス腹腔よりPBSで回収した。腹腔マクロファージ(PM)は、4%チオグリコレート(thioglycolate)の腹腔内注射から4日後に腹腔より採取した。マウス胎児性線維芽細胞(MEF)は、既報記載の通り13.5dpc胚より調製した。トランスフェクションについては、示された細胞に、Effectene(QIAGEN)を用いて一過的にトランスフェクトした。レポーターアッセイについては、RAW267.4細胞又はMEFに、ELAM−1ルシフェラーゼ構築物(0.1μg)を、SLIM又はその変異体(0.6μg)およびp65(0.1μg)と共に、又はそれを伴わずにトランスフェクトした。細胞をトランスフェクション24時間後に溶解し、ルシフェラーゼ活性を、製造業者のプロトコル(Promega)の通りに測定した。
【0069】
3.細胞内(subcellular)分画
細胞質、核可溶性、及び核不溶性抽出液は、以下の通り調製した。先ず、細胞を低張バッファー(20mM HEPES、10mM KCl、1mM MgCl、0.1% Triton X−100、20%グリセロール)を用いて氷上で10分間溶解した。遠心分離(5000rpm、1分)後、上清を回収し、細胞質画分として使用した。次いで、ペレットに高張バッファー(20mM HEPES、1mM EDTA、20%グリセロール、0.1% Triton X−100、400mM NaCl)を加えて、短時間ボルテックスした後、氷上で20分間溶解させた。遠心分離(15000rpm、5分)後、上清を回収し、核可溶性画分として使用した。次いで、ペレットに不溶性バッファー(20mM Tris pH8.0、150mM NaCl、1%SDS、1%NP−40、10mMヨードアセトアミド)を加えて50分間ボルテックスにて抽出した。遠心分離(15000rpm、5分)後の上清を、核不溶性画分として用いた。
【0070】
4.免疫沈降
全細胞抽出液は、250mM NaCl、50mM Tris(pH8.0)、0.5% NP−40、及びプロテアーゼインヒビター中において細胞を溶解することにより調製した。抽出液を、示された抗体及びプロテインG−セファロース(Amersham Bioscience)とともにインキュベートし、4回洗浄し、示された抗体による免疫ブロット解析に供した。
【0071】
5.ユビキチン化アッセイ
内因性p65のユビキチン化アッセイについては、10mM N−エチルアミドを含有するRIPAバッファーを用いて調製された全細胞抽出液、あるいは細胞質・核抽出液を、抗p65抗体による免疫沈降及び抗ユビキチン抗体による免疫ブロットに供した。過剰発現させたp65のユビキチン化アッセイについては、293T細胞に、p65、ヒスチジンタグのユビキチン及びSLIM又はその変異体をトランスフェクトし、ヒスチジン標識されたタンパク質を、既報記載の通り精製し、抗p65抗体による免疫ブロットに供した。
【0072】
6.免疫蛍光及び共焦点顕微鏡
293T細胞又はMEFを、ポリLリジンでコーティングしたスライド上に播種した。293T細胞については、一過的にトランスフェクトした細胞を、4%パラホルムアルデヒドを用いて15分間固定し、0.5% Triton X−100で10分間透過処理(permeabilize)した。MEFについては、細胞を、既報記載の通りスライド上において異なった3種類のバッファーで順番に抽出し、続いて4%パラホルムアルデヒドを用いて15分間固定した。細胞を10%FCSによりブロックし、一次及び二次抗体(それぞれTBSTで1:100及び1:500に希釈)と共にインキュベートした。AlexaFluorシリーズ結合体化二次抗体は、Molecular Probeから購入した。DAPI(4’,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドールヒドロクロリド,Vector Laboratories,Inc.)を用いて核を染色した。画像は、Leica共焦点顕微鏡で得た。
【0073】
7.RT−PCR
総RNAは、Sepasol(nacalai tesque)を用いて調製し、cDNAは、SuperScript II逆転写酵素(Invitrogen)により増幅した。PCRに用いたプライマー対は、以下の通りである;Flag−p65,5’−GACTACAAAGACGATGACGAC−3’(配列番号1)及び5’−GTCAGCCTCATAGTAGCCATC−3’(配列番号2);ヒトアクチン,5’−CTCACCATGGATGATGATATCGCC−3’(配列番号3)及び5’−TTCATGAGGTAGTCAGTCAGGTCC−3’(配列番号4)。
【0074】
8.SLIM(−/−)マウスによる実験
SLIM(−/−)マウスの作製は、既報に記載されている(Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005))。全てのマウスは、特定の病原体がフリーな条件下で維持し、Balb/cと7回バッククロスした後に用いた。常在性マクロファージは、PBSで洗浄することにより腹腔内から回収し、LPSで24時間刺激した。上清中へのIL−12p40及びIL−6の産生をELISAによりアッセイした。エンドトキシンショック実験については、図に示す用量のLPS単独またはLPSとD−ガラクトサミンをマウスに腹腔内注射し、生存をモニターした。
【0075】
実施例1:TLRリガンド刺激後におこる核内p65のユビキチン化・分解、およびアクチン依存性の核不溶性区画へのトランスロケーション
本発明者らは最初に、内因性NF−κB・p65タンパク質がTLRリガンド刺激に対する応答によりユビキチン化され得るか否かについて調べた。RAW264.7細胞を、プロテアソームインヒビターMG132の不在又は存在下においてLPSにより刺激した。全細胞抽出液を、抗p65で免疫沈降し、抗ユビキチンでブロッティングした。p65タンパク質のポリユビキチン化が、MG132の存在下で検出され、LPS刺激によりさらに増強された(図1a)。同様の結果が、LPSで刺激した初代培養腹腔マクロファージ及び初代培養胎児性線維芽細胞(MEF)を使用した場合に得られた。さらに、p65は、他のTLRリガンドであるCpG及びポリI:Cの刺激によってもユビキチン化された(図1b)。p65タンパク質のユビキチン化が生じる細胞内部位を決定するため、本発明者らはさらに、LPS及び/又はMG132で刺激した細胞から細胞質・核抽出液を調製した。図1cは、細胞質ではなく核のp65がユビキチン化されたことを明確に示す。ユビキチン化タンパク質はプロテアソーム依存性経路を介して分解される傾向があるので、本発明者らは次に、核内におけるp65タンパク質の定常状態レベルについて調べた(図1d)。細胞をLPSで刺激した場合、p65は可溶性核画分中に容易に検出された。さらに、p65は、同時に、より少ない量ではあったが、不溶性核画分中にも検出された。次いで、細胞を洗浄して培地からLPSを除去したところ、可溶性画分中の核p65は、2時間で最初のレベルに減少した。興味深いことに、これらの細胞をMG132処理すると、不溶性画分でのみp65タンパク質レベルを回復させ、可溶性画分では回復させなかった。これらのデータは、LPS刺激により核へと進入するp65タンパク質の一部が核の可溶性区画から不溶性区画へとトランスロケートされ、さらにこの分画においてp65タンパク質がプロテアソーム依存性に分解されていることを示唆する。核不溶性区画中のp65タンパク質を可視化するため、細胞をLPSで刺激し、次いで界面活性剤、高塩(high salt)、及びDNaseIで連続的に抽出し、蛍光共焦点顕微鏡により観察した(図1e)。これらの抽出により、本発明者らは、核内の分離された巣(foci)として不溶性p65タンパク質を検出することができた。それらの形態及びp65がPMLタンパク質と会合し得ることを示す従来の研究(Wu, W-S et al., J. Biol. Chem. 278: 12294-12304 (2003))に基づくと、これらの巣は、タンパク質分解部位として働く核内における隔離された区画であるPML Nuclear bodyであり得ると考えられた。最近の研究は、アクチンが核内にも局在し、転写調節に関与することを実証している(Torrad M. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 45: 3955-3963 (2004))。次いで、本発明者らはアクチン線維形成インヒビターがp65のNuclear bodyへのトランスロケーションに影響するか否かを試験した。核アクチンの特異的インヒビターであるラトランクリンAは、LPSに対する応答においてp65タンパク質のトランスロケーションを傷害したが、アクチン形成の一般的インヒビターであるサイトカラシンD、又は微小管インヒビターであるノコダゾールは傷害しなかった(図1f)。このことは、Nuclear bodyへのp65の核内トラフィッキングが核アクチン線維に依存することを暗示する。
【0076】
実施例2:SLIMのp65への結合および、SLIMの強制発現によるp65の転写活性の抑制
本発明者らは次いで、核内におけるp65タンパク質のユビキチン化を媒介するユビキチンE3リガーゼの探索を試みた。SLIMは、N末端にPDZドメイン、C末端にLIMドメインを含む核タンパク質である。SLIMは、CD4T細胞においてSTAT4及びSTAT1に対して作用する核ユビキチンリガーゼとして最初に同定された(Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005))。本発明者らは、SLIMがp65に対する核ユビキチンE3リガーゼである得る可能性について調べた。SLIMは、他のタイプの細胞においてmRNAレベルで発現していることが報告されている(Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005))ので、本発明者らは先ず、SLIMが自然免疫細胞においてタンパク質レベルで発現しているか否かを試験した。SLIMは、LPS刺激とは無関係に、マクロファージ、樹状細胞及び線維芽細胞の核に発現しており、細胞質には発現していなかった(図2a)。これらの結果により、本発明者らは、SLIMがp65に対する核ユビキチンリガーゼの候補である可能性を予測した。SLIM及びp65の相互作用を試験するため、293T細胞に、c−mycタグ化SLIMをコードする発現プラスミドを、p65と共に一過的にトランスフェクトした。トランスフェクタントを未処理のまま、又はTNFαで30分間処理し、共免疫沈降に供した。刺激しない場合でも、SLIM及びp65の相互作用が弱く検出され、TNFα刺激によりさらに増強された(図2b)。本発明者らはさらに、c−mycタグ化SLIM及び内因性p65の相互作用を調べた。図2cに示されるように、SLIMは、p65と会合できるが、p50とは会合できない。p65媒介シグナル伝達に対するSLIMの効果を解明するため、細胞に、ELAM1遺伝子プロモーター由来のNF−κB結合部位を含むルシフェラーゼレポーター構築物を、SLIM発現プラスミドと共にトランスフェクトした。LPS刺激又はp65発現プラスミドの共トランスフェクタトのいずれもレポーター活性を活性化したが、SLIMはこれらのレポーターの活性化をいずれも著明に阻害した。このことは、SLIMがp65の活性を直接的に阻害することを示唆する(図2d)。さらに、同様の結果が、LPSの代わりにTNFαで細胞を刺激した場合にも得られた(図2e)。
【0077】
実施例3:SLIMによる核内p65のユビキチン化・分解、および核不溶性分画へのトランスロケーション
SLIMは、STAT4タンパク質のポリユビキチン化、及びその後の分解を、LIMドメインを介して媒介することが報告されている(Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005))。本発明者らは、SLIMがp65タンパク質に対して同様の活性を有するか否かを調べた。図3aに示されるように、p65タンパク質のユビキチン化が、p65及びヒスチジン標識したユビキチンの共発現により最小限ながら検出され、SLIM共発現により劇的に増強した。ユビキチンE3リガーゼ活性を有するLIMドメインの欠失は、SLIMがp65をユビキチン化する活性、及びSLIM自体の自己ユビキチン化活性を傷害した(図3b)。本発明者らは次に、SLIMがp65分解を誘導し得るか否かを調べた。p65の定常状態レベルは、核でのみSLIMにより著明に低減し、細胞質では低減しなかった(図3c)。一方、p65 mRNAレベルは、SLIMの共発現により変化しなかった(図3d)。さらに、これらのトランスフェクタントの核の可溶性・不溶性画分を使用する免疫ブロット解析は、SLIMがp65タンパク質を核不溶性画分へとトランスロケートする活性を有することを実証した(図3e)。これらの細胞をMG132処理すると、不溶性画分でのみp65タンパク質レベルが回復し、可溶性画分では回復しなかった。さらに、ラトランクリンAによるこれらの細胞の処理は、p65タンパク質のSLIM誘導性核内トランスロケーションを傷害した(図3f)。これらのデータは、SLIMが核内のp65タンパク質をユビキチン化し、次いでアクチン依存性様式により、それらを核不溶性区画(ここでp65タンパク質の分解が引き続いて生じる)へとトランスロケートする活性を有することを暗示する。
【0078】
実施例4:SLIMのLIMドメインによるp65のユビキチン化・分解、およびPDZドメインによるp65のPML Nuclear bodyへの隔離
SLIMのどの領域がSLIMのこれらの活性を担うかを決定するため、本発明者らは次に、PDZドメインを欠くSLIM変異体の発現プラスミド(ΔPDZ)又はLIMドメインを欠くSLIM変異体の発現プラスミド(ΔLIM)を作製し、それらをp65発現プラスミドと共にSLIM欠損MEFにトランスフェクトした。図4aに示されるように、ΔPDZは、不溶性画分にp65タンパク質をトランスロケートする活性を損なった。このことは、PDZドメインが、p65タンパク質の核内トラフィッキングに関与することを示唆する。一方、ΔLIMによるp65のトランスロケーションは、野生型SLIMと同程度であった。このことは、p65の核内トラフィッキングが単にそのユビキチン化に依存するわけではないことを暗示する。なぜなら、図3bに示されるように、ΔLIMは、p65タンパク質をユビキチン化する活性が傷害されているからである。しかし、ΔLIMトランスフェクタントの不溶性画分におけるp65タンパク質レベルは、ΔLIMのE3リガーゼ活性の傷害を反映して、有意に増強した。ELAM1プロモーターレポーターをSLIM変異体と共に使用するルシフェラーゼアッセイは、ΔLIMではなくΔPDZがp65媒介遺伝子活性化を阻害できないことを示した。このことは、不溶性区画へのp65の隔離が、p65活性化を終結するのに十分であることを示唆する(図4b)。p65の核内における局在(subnuclear localization)に対するSLIM変異体の効果をさらに調べるため、本発明者らは次に、Flagタグ化p65及びGFPタンパク質の双方が発現するFlag−p65−IRES−GFP発現プラスミドを作製した。293T細胞に、このコンストラクトをSLIM変異体プラスミドと共にトランスフェクトし、共焦点顕微鏡を使用する免疫蛍光実験に供した(図4c)。本発明者らは、Flag−p65及びGFP二重陽性細胞/総GFP陽性細胞の百分率を算定することにより各変異体の効果を評価した(表1)。
【0079】
【表1】

【0080】
コントロールトランスフェクタントのうち93%のトランスフェクタントは、核p65について均一のパターンを示し、細胞質染色は弱かった。これは、Flag−p65が、過剰発現によりそれ自体で核内に移行できるためである(図4c、左パネル)。一方、SLIMトランスフェクタントの多くにおいては、核内のp65が消失した(図4c、左−中段パネル)。興味深いことに、細胞質のp65の発現は、これらの細胞において影響されなかった。ΔPDZトランスフェクタントでは、p65の核内ターゲティング活性が部分的ではあるが傷害されており(図4c、右パネル)、一方、ΔLIMトランスフェクタントは、SLIMトランスフェクタントと同レベルの、p65の核内トランスロケーションを示した(図4c、右の中段パネル)。しかし、ΔLIMトランスフェクタントにおける二重陽性細胞の中の約17.2%の細胞では、p65タンパク質は著明なpuncture構造(これは、不十分な分解に起因するp65タンパク質の凝集物であると思われる)を示した。さらに、これらの構造物は、PML及び20Sプロテアソームと共局在したが、スプライシング因子SC35とは共局在しなかった(図4d)。これらのデータは、SLIMが、PML Nuclear bodyへのp65のターゲティングを増強する活性を有していること、さらにはこの分画において、集積してきたプロテアソームによりp65タンパク質の分解が実際に生じることを示している。最近の研究は、SLIMがアクチン結合タンパク質であるα−アクチニンに結合できることを報告した(Torrad M. et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 45: 3955-3963 (2004))。本発明者らはさらに、SLIMがそのPDZドメインを介してα−アクチニンと会合できることを実証した(図4e)。α−アクチニンもまた核に局在するので、SLIMは、PDZドメインを介してα−アクチニンに結合することにより、核アクチンと間接的に会合し、核アクチン線維に沿うp65タンパク質の核内トラフィッキングを媒介していると考えられる。
【0081】
実施例5:SLIM欠損マウスにおけるLPSに対する反応性の亢進、および核内p65タンパク質レベルの増加
本発明者はさらに、SLIM欠損マウスを用いて個体レベルでのp65媒介シグナル伝達を調べた。エンドトキシンショックに対するマウスモデルを解析するため、マウスに、低用量のLPS(1及び0.1μg)とD−ガラクトサミン又は高用量のLPS(600μg)単独を腹腔内注射した(表2)。
【0082】
【表2】

【0083】
野生型(+/+)及びSLIM欠損(−/−)マウスに、LPS単独、又はLPSとD−ガラクトサミンの両者を、示された用量で腹腔内注射した。生存をモニターし、致死百分率を算定した。
【0084】
表2は、SLIM(−/−)マウスが、野生型マウスに比し、LPS処置の致死的効果に対してより感受性が高いことを示す。さらに、SLIM(−/−)マクロファージは、野生型マクロファージに比し、LPS刺激に対する応答において、より高量の炎症性サイトカイン(IL−12p40及びIL−6)を産生した(図5a)。本発明者らは次に、SLIM(−/−)細胞におけるp65のタンパク質レベルを調べた。LPS刺激SLIM(−/−)マクロファージにおける核p65タンパク質のレベルは、野生型細胞のものに比し、優位に高かったが、細胞質p65レベルは影響されなかった(図5b)。同様に、p65活性化につながる細胞質成分の活性化に特徴的である、p65及びI−κBαのセリンリン酸化は、SLIM(−/−)細胞において、LPSに対する応答として正常に誘導された(図5c)。これらのデータは、SLIMが個体レベルにおいてもE3リガーゼとして機能し、p65媒介シグナル伝達を負に調節することを示唆する。
【0085】
実施例6:HSP90のSLIMへの結合、およびHSP90によるSLIMのユビキチンE3リガーゼ活性の負の調節
最後に、本発明者らは、SLIM自身の活性がどのように制御されているのかを調べた。SLIM mRNAの発現レベルは、本発明らが試験した如何なる刺激でも変化しなかった。従って、本発明者らは、SLIMと相互作用し、その活性を修飾する分子の存在を検討した。組換えSLIMの精製過程において、本発明者らは、シャペロンがSLIMに強力に結合し得ることを見出した。SLIMの活性の制御に対するシャペロンの役割を明確にするため、本発明者らは先ず、主要な哺乳動物シャペロンの一つであるHSP90とのSLIMの会合を調べた。図6a(左パネル)に示されるように、SLIMは、内因性HSP90に結合できる。本発明者らは次に、SLIM誘導性p65ユビキチン化に対するHSP90の効果を調べた。HSP90のインヒビターであるゲルダナマイシンによる細胞の処理は、p65のSLIM誘導性ポリユビキチン化及びSLIMの自己ユビキチン化の双方を増強した(図6a、中段及び右パネル)。このことは、HSP90がSLIMのE3リガーゼ活性を負に調節することを示唆する。さらに、細胞のゲルダナマイシン処理により、内因性p65タンパク質のポリユビキチン化及びその後の分解も増強された(図6b左及び上段右)。また、この細胞にMG132を加えると、核不溶性画分のp65タンパク質レベルが回復した(図6b下−右)。このことは、ゲルダナマイシンによる核p65タンパク質レベルの低下が、p65の細胞質から核への移行の傷害によるものではなく、核内でのプロテアソーム依存性分解の増強に起因するものであることを示唆する。本発明者らはさらに、HSP90がp65により媒介される遺伝子活性化を制御する様式を試験した。ゲルダナマイシン処理は、LPS誘導性及びp65活性化ELAM1レポーター活性の双方を阻害した(図6c)。これらのデータより、HSP90は、p65タンパク質のユビキチン化/プロテアソーム依存性分解を、おそらくSLIMのユビキチンE3リガーゼ活性の阻害を介して、負に調節すると考えられる。
【0086】
以上の結果より、本発明者らは、SLIMが以下の2つのメカニズムにより、p65活性化を終結させる核ユビキチンE3リガーゼであると結論付ける:LIMドメインを介するp65のユビキチン化、及びPDZドメインを介するPML核小体へのp65の隔離。p53、Myc及びLEF−1等の幾つかのタンパク質は、PML Nuclear bodyへと輸送されることが報告されている(Zhong S. et al, Nature Cell Biol., 2: E85-90 (2000); Smith KP et al, J. Cell Biochem. 93: 1282-1296 (2004); Sachdev S. et al, Genes & Dev. 15: 3088-3013 (2001))。これらの因子の機能は、この区画において正又は負のいずれかに調節される。本発明者らのデータは、この区画にターゲティングされたユビキチン化p65がプロテアソーム依存性様式で分解され、次いでp65媒介シグナル伝達を最終的に終結させることを実証した。従来の研究は、PMLの過剰発現がPML Nuclear bodyへのp65のトランスロケーションを誘導できることを示した(Wu, W-S et al., J. Biol. Chem. 278: 12294-12304 (2003))。本発明者らの予備的データは、SLIMがPMLとヘテロダイマーを形成することを示す。このことは、これらの因子がp65タンパク質の隔離を相乗的に媒介することを示唆するが、さらなる研究が必要である。本研究により明らかされた、p65活性化を終結させる経路は、ヒト炎症性疾患の臨床治療のための有用な標的であり得る。特に、SLIMに対するHSP結合の特異的阻害は、p65媒介シグナル伝達の活性化を終結させるための良好なツールであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1a】図1a〜1fは、核p65のユビキチン化、及びアクチン依存性様式によるNuclear bodyへの核p65のトランスロケーションを示す図である。 RAW264.7細胞、PM(腹腔マクロファージ)及びMEF(マウス胎児性線維芽細胞)を1μg/ml LPSで3時間刺激し、続いて10μM MG132で1時間処理した。全細胞抽出液を、抗p65抗体による免疫沈降及び抗Ub又は抗p65抗体による免疫ブロットに供した。
【図1b】RAW264.7細胞を、1μM CpG、50μg/mlポリ(I:C)又は1μg/ml LPSにより3時間刺激し、続いて10μM MG132により1時間処理した。全細胞抽出液を、抗p65抗体による免疫沈降及び抗Ub又は抗p65抗体による免疫ブロットに供した。
【図1c】細胞質・核抽出液を、図1aの通り刺激されたRAW264.7細胞から調製し、抗p65抗体による免疫沈降及び抗Ub又は抗p65抗体による免疫ブロットに供した。
【図1d】MEFを、10ng/ml LPSで1時間刺激し、洗浄してLPSを除去し、次いで、未処理のまま放置するか、又は10μM MG132で2時間処理した。核の可溶性・不溶性画分を調製し、抗p65抗体で免疫ブロットした。Sp1(核可溶性画分中のタンパク質)及びラミンB(核不溶性画分中のタンパク質)に対する抗体を用いて、各抽出液の分画を確認した。
【図1e】MEFを、1μg/ml LPSで1時間刺激し、これを未処理のまま、または、連続して、CSKバッファー(界面活性剤)、抽出バッファー(高塩)、及びDNaseIバッファー(DNase)を用いて抽出し、抗p65抗体、続いてAlexaFluor 594標識抗ウサギIgGにより染色して間接的免疫蛍光に供した。
【図1f】MEFを、2μg/ml ラトランクリンA(Lat.A)、10μMサイトカラシンD(Cyt.D)、又は10μMノコダゾール(NCZ)で1時間予備処理し、続いて100ng/ml LPSで30分間刺激した。核の可溶性・不溶性画分を調製し、示された抗体で免疫ブロットした。
【図2a】図2a〜eは、p65へのSLIMの結合、及びp65媒介トランス活性化のSLIMによる阻害を示す図である。 細胞質・核抽出液を腹腔マクロファージ(PM)又は胎児性線維芽細胞(MEF)から調製し、抗SLIM抗血清で免疫ブロットした。抗PKC又はHSP90(細胞質用)及び抗Sp1(核用)抗体を用いて、各抽出液の純度をチェックした。
【図2b】COS7細胞に、Flagタグp65と共に、c−myc−SLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。未処理の、又はヒトTNFα(20ng/ml)で30分間処理した全細胞抽出液を、抗c−Myc抗体で免疫沈降し、抗Flag抗体で免疫ブロットした。
【図2c】293T細胞に、c−myc−SLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体をトランスフェクトした。全細胞抽出液を抗c−Myc抗体で免疫沈降し、抗p65又は抗p50抗体で免疫ブロットした。
【図2d】MEFに、ELAM−1レポーター構築物を、SLIM発現プラスミド(左パネル)を伴わずに、又はそれと共にトランスフェクトした。MEFに、ELAM−1レポーター構築物を、p65を伴わずに、又はそれと共に、かつSLIM発現プラスミドを伴わずに、又はそれと共にトランスフェクトした(右パネル)。ルシフェラーゼ活性は、LPS刺激せずに(右パネル)、又はLPS刺激(100ng/ml、5時間)(左パネル)して測定した。
【図2e】RAW264.7細胞に、ELAM−1ルシフェラーゼレポーターをSLIM発現プラスミドを伴わずに、又はそれと共にトランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性を、TNFα刺激(10ng/ml,5時間)せずに、又はTNFα刺激(10ng/ml,5時間)して測定した。
【図3a】図3a〜fは、SLIMによる、p65のユビキチン化、核内トランスロケーション及び分解の促進を示す図である。 293T細胞に、His−ユビキチン、p65及びSLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。ヒスチジン標識されたタンパク質は、Ni−NTAビーズにより精製し、抗p65抗体により免疫ブロットした。
【図3b】293T細胞に、His−ユビキチン、p65及びSLIM(WT)、フレームシフト(FS)又はLIMドメイン欠失(ΔLIM)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。ヒスチジン標識されたタンパク質を、Ni−NTAビーズにより精製し、抗p65(左パネル)又は抗c−Myc抗体(右パネル)により免疫ブロットした。
【図3c】293T細胞に、Flagタグ化p65及びSLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。細胞質・核抽出液を、示された抗体による免疫ブロットに供した。
【図3d】総RNAを図3cと同じトランスフェクタントから抽出した。cDNAを作製し、示されたプライマー対を用いてPCRに供した。
【図3e】MEFに、p65及びSLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。未処理の、又はMG132(10μM)により5時間処理された核の可溶性・不溶性画分を抽出し、抗Flag又は抗c−Myc抗体による免疫ブロットに供した。
【図3f】MEFに、p65及びSLIM(WT)又はフレームシフト(SF)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。未処理の、又はラトランクリンA(Lat.A)(0.2μM)により20時間処理された核の可溶性・不溶性画分を抽出し、示されたAbによる免疫ブロットに供した。
【図4a】図4a〜eは、SLIMのLIMドメインとPDZドメインのそれぞれの役割を示す図である。 293T細胞に、p65及びSLIM(WT)、フレームシフト(FS)、LIMドメイン欠失(ΔLIM)又はPDZドメイン欠失(ΔPDZ)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。未処理の、又はMG132(10μM)で5時間処理された、核の可溶性・不溶性画分を抽出し、示されたAbによる免疫ブロットに供した。
【図4b】SLIM(−/−)MEFに、ELAM−1ルシフェラーゼレポータープラスミド及びSLIM(WT)、フレームシフト(FS)、LIMドメイン欠失(ΔLIM)又はPDZドメイン欠失(ΔPDZ)変異体をトランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性を、100ng/ml LPSにより5時間刺激せずに、又は刺激して測定した。
【図4c】293T細胞に、Flag−p65−IRES−GFP、及びSLIM(WT)、フレームシフト(FS)、LIMドメイン欠失(ΔLIM)又はPDZドメイン欠失(ΔPDZ)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。細胞を、ビオチン化抗Flag抗体、続いてAlexaFluor 594標識ストレプトアビジン(上段パネル)により染色した。中段パネルは、GFPの発現を示し、低段パネルは、DAPIによるDNA染色を示す。
【図4d】293T細胞に、p65及びSLIMのLIMドメイン欠失(ΔLIM)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。細胞をビオチン抗Flag抗体、続いてAlexaFluor594標識ストレプトアビジン、及び抗PML、SC35又は20Sプロテアソーム抗体により、その後AlexaFluor488標識抗マウスIgGにより染色した。
【図4e】293T細胞に、SLIM(WT)、フレームシフト(FS)、LIMドメイン欠失(ΔLIM)又はPDZドメイン欠失(ΔPDZ)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。全細胞抽出液を調製し、抗c−myc抗体による免疫沈降及び抗α−アクチニン抗体による免疫ブロットに供した。
【図5a】図5a〜cは、SLIM欠損マクロファージにおけるサイトカイン産生の増強及び核p65タンパク質レベルの増加を示す図である。なお、図5a〜cに示される実験で用いた常在性腹腔マクロファージは、野生型(+/+)及びSLIM欠損(−/−)マウスから調製した。 細胞を、示されるようにLPSを用いずに、又はそれを用いて24時間刺激した。培養上清中へのIL−12p40及びIL−6産生をELISAにより測定した。
【図5b】細胞を、示されるようにLPSを用いずに、又はそれを用いて2時間刺激した。細胞質・核抽出液を調製し、抗p65抗体による免疫ブロットに供した。画分を抗HSP90(細胞質用)又は抗Sp1(核用)抗体により確認した。
【図5c】細胞を、示されるようにLPSを用いずに、又はそれを用いて2時間刺激した。細胞質抽出液を調製し、示された抗体による免疫ブロットに供した。
【図6a】図6a〜cは、HSP90によるSLIM媒介p65ユビキチン化及び分解の負の調節を示す図である。 (左パネル)293T細胞に、SLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体をトランスフェクトし、抗c−myc抗体による免疫沈降及び抗HSP Abによる免疫ブロットに供した。(中心及び右パネル)293T細胞に、His−ユビキチン、p65及びSLIM(WT)又はフレームシフト(FS)変異体の発現プラスミドをトランスフェクトした。未処理の、又はゲルダナマイシン(10μM、5時間)で処理した細胞より、ヒスチジン標識されたタンパク質を、Ni−NTAビーズにより精製し、抗p65又は抗c−Myc抗体により免疫ブロットした。
【図6b】左パネル;RAW264.7細胞を処理せずに、又はゲルダナマイシン(GA)(10μM)及び/又はMG132(10μM)で6時間処理した。全細胞抽出液を調製し、抗p65抗体による免疫沈降及び抗ユビキチン又は抗p65抗体による免疫ブロットに供した。右パネル;MEFを、MG132(10μM)の不在下(右、上)及び存在下(右、下)においてゲルダナマイシン(GA)(10μM)で6時間予備処理し、次いでLPS(100ng/ml)で30分間刺激した。核の可溶性(上−右)及び不溶性(下−右)画分を抗p65抗体により免疫ブロットした。
【図6c】左パネル;MEFに、ELAM−1ルシフェラーゼレポータープラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクタントを、ゲルダナマイシン(GA)(10μM、6時間)の不在下又は存在下において、LPSを用いずに、又はLPS(200ng/ml、4時間)を用いて刺激し、ルシフェラーゼ活性を測定した。右パネル;MEFに、ELAM−1ルシフェラーゼレポータープラスミドを、p65発現ベクターを伴わずに、又はそれと一緒にトランスフェクトした。未処理の、又はゲルダナマイシン(GA)(10μM)で6時間処理したルシフェラーゼ活性を測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SLIMの発現又は機能を調節する物質を含む、p65媒介シグナル伝達の調節剤。
【請求項2】
SLIMの発現又は機能を調節する物質が、SLIMの発現又は機能を促進する物質である、p65媒介シグナル伝達の阻害剤である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
SLIMの発現又は機能を促進する物質が、SLIM発現ベクター、又はHSPの発現又は機能を抑制する物質である、請求項2記載の剤。
【請求項4】
p65媒介シグナル伝達の阻害剤が、炎症性疾患及び自己免疫疾患からなる群より選ばれる疾患に対する医薬である、請求項2記載の剤。
【請求項5】
SLIMの発現又は機能を調節する物質が、SLIMの発現又は機能を抑制する物質である、p65媒介シグナル伝達の活性化剤である、請求項1記載の剤。
【請求項6】
SLIMの発現又は機能を抑制する物質が、HSP発現ベクターである、請求項5記載の剤。
【請求項7】
HSPがHSP90である、請求項6記載の剤。
【請求項8】
p65媒介シグナル伝達の活性化剤が、感染症及び悪性腫瘍からなる群より選ばれる疾患に対する医薬である、請求項5記載の剤。
【請求項9】
TLRリガンドが投与された、SLIM欠損非ヒト動物。
【請求項10】
TLRリガンドで処理された、SLIM欠損細胞。
【請求項11】
被験物が、SLIMの発現又は機能を調節し得るか否かを評価することを含む、p65媒介シグナル伝達を調節し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
1)SLIMの発現を測定可能な細胞を用いたSLIMの発現の測定、2)SLIMの機能を測定可能な再構成系を用いたSLIMの機能の測定、3)SLIMの機能を測定可能な細胞系を用いたSLIMの機能の測定、4)動物を用いたSLIMの発現又は機能の測定のいずれかにより行われる、請求項11記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
該評価が、被験物がSLIMによるp65のユビキチン化の調節能を有するか否か、あるいはSLIMによるp65のPML Nuclear Bodyへの隔離の調節能を有するか否かの評価に基づき行われる、請求項11記載の方法。
【請求項14】
該評価が、被験物がSLIM及びHSP90を含む複合体の形成能を調節するか否か、あるいは被験物がSLIM及びアクチニンを含む複合体の形成能を調節するか否かの評価に基づき行われる、請求項11記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
TLRリガンド刺激下で行われる、請求項11記載の方法。
【請求項16】
SLIM及びHSP90を含む、複合体。

【図2d】
image rotate

【図2e】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図6c】
image rotate

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図1c】
image rotate

【図1d】
image rotate

【図1e】
image rotate

【図1f】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図3d】
image rotate

【図3e】
image rotate

【図3f】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4c】
image rotate

【図4d】
image rotate

【図4e】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図5c】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate


【公開番号】特開2007−254465(P2007−254465A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67609(P2007−67609)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(505028576)プレジデント アンド フェロウズ オヴ ハーヴァード カレッジ (2)
【Fターム(参考)】