説明

pH応答性シランカップリング剤およびそれで処理した表面処理物

【課題】粉体に対して優れた疎水性を付与するとともに、その洗い流し性を改善することを可能とるシランカップリング剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)および(2)で示されるシランカップリング剤。


(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数2または3のアルキレン基、Xは−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCO−から選ばれる基、Rは炭素数1〜11のアルキレン基、アルケニレン基、一般式(2)で示される基のいずれかから選ばれる基、Rは炭素数0〜2のアルキレン基またはアルケニレン基、Mは水素原子または1価の金属原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシランカップリング剤およびそれで処理された表面処理物、特にpHにより親水性、疎水性の調整を可能とするシランカップリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料、特にメーキャップ化粧料においては、人を美しく見せる美的効果は当然ながら、その効果の持続性、すなわち化粧持ちも極めて重要な性能の一つとして要求される。このため、化粧料基剤の開発にあたって、化粧持ちの向上は重要な課題の一つとなっている。メーキャップ化粧料の分野においては、汗や涙、あるいは唾液等の水分によって化粧崩れが起こることのないように油性の基剤が用いられることが多いが、このような油性基剤中に親水性の粉体を配合した場合には、基剤との分離が生じやすく、また水分によって親水性粉体が流れ出してしまうため、化粧崩れの大きな原因となる。このような問題点から、従来、化粧料中に粉体を配合する場合には、粉体に予め疎水化処理を施した疎水化粉体を配合することが広く行われてきた。
【0003】
化粧料用粉体の疎水化に関しては、多くの方法が知られており、例えば、高級脂肪酸、高級アルコール、炭化水素、トリグリセライド、エステル、シリコーンオイル、シリコーン樹脂等のシリコーン類、あるいはフッ素化合物等を用いて、親水性粉体の表面を被覆して、粉体に疎水性を付与する方法が挙げられる。中でも、シリコーン類を表面処理剤として用いた粉体の疎水化処理は、特に優れた疎水性を付与することができることから、現在までに多くの方法が確立されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、近年では、アクリル酸やアクリル酸エステルのコポリマーを粉体の表面処理剤として用いる方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、化粧料においてはその洗い流し性も重要な性能の一つとして要求される。しかしながら、前述した従来の疎水化処理粉体を配合した場合には、化粧持ちを向上することはできても、その優れた疎水性のため石鹸等を用いたとしても水では容易に洗い流すことができないという問題があった。このため、油性の洗い流し用製剤が広く用いられているが、この油性製剤をさらに石鹸等で洗い流す必要があり、使用者に対する負担が大きい。また、洗い流しを容易にする目的で親水性粉体を配合した場合には、前述したように化粧崩れが生じやすく、化粧持ちに劣る結果となる。このため、化粧をしている間にはその効果を長時間持続することができ、一方で化粧を落とす際には容易に洗い流すことができるという両者の性能を同時に満たすことは非常に困難な課題であった。
【0005】
無機粉体の表面処理に関し、カルボン酸エステル基含有のアルコキシシラン化合物を用いて粉体表面を被覆して疎水性を付与し、次いで被覆を加水分解または熱分解反応条件下で処理してカルボン酸エステル基をカルボン酸基に変化させて塩基性を捕捉し、親水性を持たせる方法が知られている(例えば、特許文献4、5参照)。ただし、カルボン酸エステル基の加水分解反応には、強酸または強アルカリが使用され、また熱分解反応では180℃〜300℃の高温での反応が必要とされる。このような反応条件下ではシランカップリング剤の構造に含まれる他の官能基も同時に変化する恐れがあり、良質な表面処理粉体を得るうえで課題が残るものとなる。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−163973号公報
【特許文献2】特開昭62−177070号公報
【特許文献3】特開平8−337514号公報
【特許文献4】特開平8−325276号公報
【特許文献5】特開平8−325555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、前述した従来の技術における問題点を解決した、粉体等の素材の疎水性、親水性を調整することが可能であるpH応答性シランカップリング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが前述の課題に鑑み鋭意研究を行った結果、pH応答性の疎水性―親水性変化に着目し、特定構造のアルコキシシラン誘導体を表面処理剤として用いたところ、処理粉体の疎水性―親水性がpH変化に対して劇的に変化することが明らかとなった。すなわち、前記表面処理剤により処理した粉体は、一般的な化粧料が用いられる酸性〜中性領域では優れた疎水性を示す一方で、石鹸水等によって適度な塩基性環境とした場合には粉体の表面が親水性へと変化する。そして、この結果、化粧料中に当該処理粉体を配合した場合、化粧持ちに優れているにもかかわらず、石鹸等を用いて水で容易に洗い流すことが可能となる。このように、本発明者らは、前記表面処理剤によって粉体の表面を処理することにより、粉体に優れた疎水性が付与されるとともに、その洗い流し性が著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる表面処理剤であるシランカップリング剤は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【化1】


(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数2または3のアルキレン基、Xは−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCO−から選ばれる基、Rは炭素数1〜11のアルキレン基、アルケニレン基、下記一般式(2)で示される基のいずれかから選ばれる基、Rは炭素数0〜2のアルキレン基またはアルケニレン基、Mは水素原子又は1価の金属原子を表す。)
【化2】

【0010】
また、本発明にかかるシランカップリング剤において、Xが−NHCOO−基であることが好適である。
【0011】
また、本発明にかかるシランカップリング剤において、式中のRが前記一般式(2)で示される基であることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤によって粉体等の素材の表面を処理することにより、pH変化に伴い表面処理物の疎水性、親水性を調整することが可能となる。特に前記表面処理粉体を化粧料に用いた場合には、化粧持ちに優れているとともに、その洗い流し性を著しく改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳述する。
本発明にかかるシランカップリング剤は、前記一般式(1)で示されることを特徴とする。一般式(1)に示されるアルコキシシラン誘導体は、3−イソシアネートアルコキシシラン化合物とアミノカルボン酸、またはヒドロキシカルボン酸とをカップリングして得られる。
【0014】
前記3−イソシアネートアルコキシシラン化合物としては、例えば3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0015】
また、前記アミノカルボン酸としては、例えば、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ―アミノ酸及びω−アミノ酸等が挙げられる。また、本発明の効果を阻害しない範囲でこれ以外のアミノカルボン酸を用いてもよい。
【0016】
β−アミノ酸の具体例としてはβ−アラニンを、γ−アミノ酸の具体例としてはγ−アミノ酪酸を、δ−アミノ酸の具体例としてはδ―アミノ吉草酸を、その他に6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0017】
また、前記ヒドロキシカルボン酸としては、分岐鎖を有さないδ−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、9−ヒドロキシノナン酸、12−ヒドロキシドデカン酸等が挙げられる。さらに、分岐鎖を有するものとしては2−ヒドロキシイソ酪酸などが挙げられる。
【0018】
さらにヒドロキシカルボン酸として、その構造中に芳香環を含むサリチル酸、4−ヒドロキシけい皮酸等が挙げられる。また、芳香環を含むヒドロキシカルボン酸に関し、カルボキシル基含有鎖の結合位置はオルト位、パラ位、メタ位のいずれでもよい。
【0019】
本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤の製法は特に制限されるものではないが、例えば上記3−イソシアネートアルコキシシラン化合物とアミノカルボン酸、またはヒドロキシカルボン酸とを既知の反応を利用してカップリングさせて合成することができる。例えば、3−イソシアネートアルコキシシラン化合物をアセトニトリルに溶解し、次いでアミノカルボン酸、またはヒドロキシカルボン酸を添加し、加熱還流しながら2〜6時間混合攪拌した後、得られた溶液をエバポレーターを用いて溶媒を留去することで目的とするシランカップリング剤を得ることができる。
【0020】
一般にシランカップリング剤はR−Si−Xの構造を持つ化合物であり、ここでXはエトキシ基などのアルコキシ基を表すものである。このアルコキシ基が加水分解されることにより、シラノール基(Si−OH)となる。このシラノール基は重合しながら粉体の表面と化学的に結合して安定化され、粉体表面に酸性〜中性環境では疎水性を、塩基性環境では親水性の特徴を示すことに寄与するR−の重合物を形成することになる。
【0021】
本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤は、カルボキシル基を有することを特徴とし、このカルボキシル基は、酸性〜中性の条件下では疎水性のカルボン酸(−COOH)、塩基性条件下では親水性のカルボキシレートイオン(−COO)に変化する。このため、上記pH応答性シランカップリング剤によって粉体等の素材の表面を処理した処理物は、例えば、酸性〜中性環境において疎水性、また塩基性環境において親水性といったように、pH応答性の疎水性−親水性変化を示すようになると考えられる。
そして、本発明にかかるシランカップリング剤によって表面処理された粉体を化粧料中に配合した場合、化粧料が通常用いられる酸性〜中性領域においては疎水性を示すために化粧持ちに優れているにもかかわらず、石鹸等を用いて適度に塩基性環境とした場合には粉体の表面が親水性へと変化するため、水によって容易に洗い流すことが可能となる。
【0022】
本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤はどのようなものに対して用いても構わないが、特に化粧料用粉体に対して好適に用いることができる。このような粉体としては、例えば、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、タルク、カオリン、雲母、ベントナイト、チタン被覆雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック及びこれらの複合体等の無機粉体、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体、上記化合物の単量体の2種以上からなる共重合体、セルロイド、アセチルセルロース、セルロース、多糖類、タンパク質、CIピグメントイエロー、CIピグメントオレンジ、CIピグメントグリーン等の有機粉体が挙げられる。また、粉体の形状についても、例えば、板状、塊状、鱗片状、球状、多孔性球状等、どのような形状のものでも用いることができ、粒径についても特に制限されない。
【0023】
本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤を用いて粉体等を表面処理する場合、通常の処理方法によって実施されればよく、その方法は特に限定されるものではない。例えば、本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤によって粉体を処理する場合には、pH応答性シランカップリング剤をエチルアルコール等の適当な溶媒中に溶解し、この溶液中に粉体を混合、加熱攪拌した後、溶媒を留去および加熱乾燥する方法、あるいはpH応答性シランカップリング剤を高級アルコール等の不揮発性油分に溶解したものを直接混合攪拌する方法等が挙げられる。また、本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤により処理した粉体を化粧料中に配合する場合には、化粧料の製造過程において、pH応答性シランカップリング剤を粉体基剤中に直接混合攪拌してもよい。
【0024】
なお、本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤で表面処理をする粉体として、予め疎水化処理を施したものを用いることも可能である。疎水化処理法としては、例えばシリコーン処理、金属石鹸処理、脂肪酸処理、界面活性剤処理、さらにはこれらの複合処理等の通常公知である疎水化処理法が挙げられる。このような疎水化処理を予め施した粉体を本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤で表面処理することにより、酸性〜中性環境における疎水性が確実なものとなり、化粧料中に配合した場合には化粧持ちの効果を上げることができる。また、前記予め疎水化処理を施した粉末の1種のみを、本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤で表面処理することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0025】
本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤を粉体に処理する場合、粉体に対するpH応答性シランカップリング剤の被覆量は、重量比で、pH応答性シランカップリング剤:粉体=3:97〜30:70、より好ましくは5:95〜25:75である。3:97よりもpH応答性シランカップリング剤の粉体に対する重量比が小さいと、粉体に対して所望の性能を付与することができない場合があり、30:70よりもシランカップリング剤の粉体に対する重量比が大きいと、化粧料として用いた場合の使用感等について悪影響を与える場合がある。
【0026】
なお、本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤として、前記一般式(1)および(2)で示されるものを1種または2種以上を用いて粉体を処理してもよい。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず最初に、本発明のpH応答性シランカップリング剤の合成方法について説明する。
【0028】
<シランカップリング剤合成例>
合成例1
【化3】

【0029】
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2.47gと2−ヒドロキシイソ酪酸0.52gをアセトニトリル50mLに溶解した。加熱還流しながら2時間攪拌した後、得られた溶液を30℃の湯浴中でエバポレーターを用いて減圧濃縮し、溶媒を留去して上記化学式(3)で示されるシランカップリング剤(以下、KBEHI−1と記載)を得た。
【0030】
合成例2
【化4】

【0031】
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2.47gとサリチル酸1.38gをアセトニトリル50mLに溶解した。加熱還流しながら3時間攪拌した後、得られた溶液を30℃の湯浴中でエバポレーターを用いて減圧濃縮し、溶媒を留去して上記化学式(4)で示されるシランカップリング剤(以下、KBESA−3と記載)を得た。
【0032】
合成例3
【化5】

【0033】
上記化学式(5)で示される化合物のうち、n=7であるカルボキシウレアは以下のように合成される。
窒素雰囲気下、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2.47gと8−アミノオクタン酸1.59gを脱水アセトニトリル20mLに溶解した。加熱還流しながら1.3時間攪拌し、カルボキシウレアC7カップリング剤(濃度20%)を得た。
H−NMRのチャートを図1に示す。
【0034】
合成例4
また、上記化学式(5)で示される化合物のうち、n=11であるカルボキシウレアは以下のように合成される。
窒素雰囲気下、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2.47gと12−アミノドデカン酸2.15gを脱水アセトニトリル20mLに溶解した。加熱還流しながら1時間攪拌した。反応後、冷却すると不溶物が析出したので、アセトニトリルと同量の無水エタノールを添加し溶解させ、カルボキシウレアC11カップリング剤(濃度13%)を得た。H−NMRのチャートを図2に示す。
【0035】
次に、本発明のpH応答性シランカップリング剤による粉体の表面処理方法について説明する。
粉体処理例
エタノール14.4g中に前記合成例2により製造したシランカップリング剤(KBESA−3)0.6gを溶解し、4%カップリング剤溶液を調製した。この溶液中に酸化チタン2.4gと5%酢酸5gを加え3時間攪拌しながら加熱還流した。その後エバポレーターによりエタノールを留去し、得られた粉体の残存溶液を105℃にて加熱乾燥して除き、表面処理粉体を得た。得られた粉体について、元素分析により表面処理剤の被覆割合を測定したところ、粉体の仕込み量の94%がシランカップリング剤によって処理されていることが確認された。
【0036】
また、予め脂肪酸により疎水化処理した粉体の合成例について以下に説明する。
疎水化処理粉体の調製例
エタノール50g中にステアリン酸3gを分散させた。この溶液を90℃の湯浴中にてステアリン酸を完全に溶解させた後、酸化チタン17gを加えて分散させた。その後60℃の湯浴中でエバポレーターを用いて減圧濃縮し溶媒を留去した。得られた粉体を105℃で乾燥、粉砕して脂肪酸処理酸化チタンを得た。
【0037】
上記疎水化処理粉体に対して、本発明にかかるシランカップリング剤を用いて前記の粉体処理例のように表面処理を施し、表面処理粉体を得ることも可能である。
【0038】
本発明者らは、本発明にかかるシランカップリング剤による表面処理を行った表面処理粉体の特性について検討を行うため、前記合成例および前記粉体処理例に準じて各種シランカップリング剤、またはシランカップリング剤および疎水化処理剤の両者により表面処理した酸化チタン粉体を製造し、酸性(pH5)及び塩基性(pH10)の各条件における当該処理粉体の水溶性の評価を行った。また、比較例として従来の疎水化表面処理剤である、シリコーン類、アクリル酸/アクリル酸エステルコポリマー、を用いて同様の試験を行った。評価結果を表1および図1、図2に示す。なお、評価方法および評価基準は以下の通りである。
【0039】
処理粉体の水溶性
(1)評価方法
各種表面処理剤により表面処理した酸化チタン粉体0.1gを、pH6及びpH10の各種pH緩衝水溶液30mLともにバイアル中にいれ、マグネチックスターラーにより1分間混合攪拌した後静置して溶液の状態を確認した。
(2)評価基準
○:粉体が水中に均一に溶解し、白濁溶液となった。
△:粉体が一部溶解し、若干の分離がみられる。
×:粉体が水と溶解せず、水面上に分離した。
【0040】
【表1】


※1:
【化6】


※2:
【化7】


※3:
【化8】

【0041】
実施例1−1〜1−4の調製法
前記シランカップリング剤の合成例のようにして得られた各種表面処理剤を前記粉体処理例にならい酸化チタンを表面処理し、処理粉体を得た。
【0042】
実施例1−5および1−6の調製法
前記シランカップリング剤の合成例のようにして得られた各種表面処理剤を、前記疎水化処理粉体の調製例に示した脂肪酸処理酸化チタンに表面処理をし、処理粉体を得た。
【0043】
比較例1−1の調製法
アセトン14.4g中にメチルハイドロジェンポリシロキサン0.6gを溶解し、4%メチルハイドロジェンポリシロキサン溶液を調製した。この溶液中に酸化チタン2.4gを加えて混合・分散した後、エバポレーターにてアセトンを留去した。得られた粉体の残存溶液を105℃で加熱乾燥して除くと同時に、メチルハイドロジェンの焼付け処理を行い、表面処理粉体を得た。
【0044】
比較例1−2の調製法
エタノール14.4g中にデシルトリメトキシシラン0.6gを溶解し、4%カップリング剤溶液を調製した。この溶液中に酸化チタン2.4gと5%酢酸5gを加え3時間攪拌しながら加熱還流した。その後エバポレーターによりエタノールを留去し、得られた粉体の残存溶液を105℃にて加熱乾燥して除き、表面処理粉体を得た。
【0045】
比較例1−3の調製法
エタノール14.4g中にオクチルアクリルアミド・アクリル樹脂0.6gを溶解し、4%オクチルアクリルアミド・アクリル樹脂溶液を調製した。この溶液中に酸化チタン2.4gを加え混合・分散した後、エバポレーターにてエタノールを留去した。得られた粉体の残存溶液を105℃にて加熱乾燥して除き、表面処理粉体を得た。
【0046】
比較例1−4の調製法
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン2.47gとジメチルヘキシルアミン1.29gをアセトニトリル50mLに溶解した。加熱還流しながら2時間攪拌し、得られた溶液を30℃の湯浴中でエバポレーターを用いて減圧濃縮し、溶媒を除去して上記化学式(7)で示されるシランカップリング剤を得た。これを前記粉体処理例にならい酸化チタンを表面処理し、表面処理粉体を得た。
【0047】
上記表1に示すように、本発明にかかるシランカップリング剤により表面処理された実施例1−1〜1−4の粉体はpH6の酸性〜中性条件下では水溶性ではなく疎水性を示し、pH10の塩基性条件下では水溶性を示しpHにより粉体の親水性が変化することが明らかになった。特に実施例1−2ではその変化が顕著であった(図3を参照)。実施例1−3および1−4では、pH6での疎水性が若干劣ったため、予め脂肪酸による疎水化処理された粉体に対してシランカップリング剤による表面処理を行ったところ、実施例1−5および1−6に示されるように、pH応答性が確認された(実施例1−5に関し、図4を参照)。
以上のように、pH応答性が確認された本発明にかかる表面処理剤で処理した粉体に関し、これを化粧料に配合した場合には、酸性〜中性領域では優れた疎水性を示すため化粧持ちが良好であり、石鹸水等を用いて塩基性環境とすると容易に洗い流すことが可能になると考えられる。
【0048】
これに対し、従来品のような化粧料粉体に疎水化処理剤として用いられているシリコーン類、及びアクリル酸/アクリル酸エステルコポリマーにより表面処理された比較例1−1および比較例1−2の処理粉体は、pH6の酸性〜中性条件下、pH10の塩基性条件下ともに、水中に溶解することが出来なかった。これとは反対に、比較例1−3の処理粉体はpH6、pH10の両条件下において水に分散した。また、カルボン酸基を有しない比較例1−4のシランカップリング剤による表面処理粉体では、pH10の塩基性条件下で水中に溶解することができず、pH応答性が確認されなかった。
【0049】
以上の結果より、従来の表面処理剤により処理した粉体、またはカルボン酸基を有しないシランカップリング剤で表面処理した粉体を化粧料に配合した場合には、化粧持ちを向上することができたとしても、塩基性条件下においても優れた疎水性が保持されているため、石鹸水等で洗い流すことが困難である、もしくは塩基性条件においては親水性が得られたとしても中性領域において疎水性が得られず、化粧料として用いた場合に化粧持ちが良好でないものとなることが考えられる。
【0050】
以下に、本発明にかかるpH応答性シランカップリング剤により表面処理した粉体を化粧料に配合した例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
表面処理粉体2−1の合成
エタノール500g中に、前記合成例2に準じて製造したpH応答性シランカップリング剤20gを溶解し、4%カップリング剤溶液を調製した。この溶液中に酸化チタン14.1部、タルク22.5部、マイカ57.5部、ベンガラ1.5部、黄酸化鉄4.2部、黒酸化鉄0.2部を混合した粉末200gと5%酢酸100gを加え6時間攪拌しながら加熱還流した。その後エバポレーターによりエタノールおよび水分を留去し、得られた粉体の残存溶液を105℃にて加熱乾燥して除き、表面処理粉体を得た。
【0051】
処方例1:パウダー型ファンデーション
配合量(質量%)
(1)表面処理粉体2−1 78.25
(2)球状ポリエチレン 10.0
(3)流動パラフィン 6.0
(4)酢酸ラノリン 1.0
(5)ミリスチン酸オクチルドデシル 2.0
(6)ジイソオクタン酸ネオペンチルグリコール 2.0
(7)モノオレイン酸ソルビタン 0.5
(8)防腐剤 0.1
(9)酸化防止剤 0.1
(10)香料 0.05
(製法)(3)〜(8)を加熱溶解した。これに(1)〜(2)を加えて、ヘンシェルミキサーにて混合した。最後に(9)および(10)を加えヘンシェルミキサーで混合後、粉砕、成型してパウダー型ファンデーションを得た。このファンデーションは、化粧持ちに優れており、さらに石鹸を用いて容易に水で洗い流すことが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかるシランカップリング剤(カルボキシウレアC7カップリング剤、(化5)でn=7)のH−NMRチャート図である。
【図2】本発明にかかるシランカップリング剤(カルボキシウレアC11カップリング剤、(化5)でn=11)のH−NMRチャート図である。
【図3】本発明にかかるシランカップリング剤(KBESA−3)により処理した粉体のpH6およびpH10の溶液の写真図である。
【図4】本発明にかかるシランカップリング剤(カルボキシウレアC11カップリング剤、(化5)でn=11)により、脂肪酸処理粉体を表面処理した粉体のpH6およびpH10の溶液の写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とするシランカップリング剤。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数2または3のアルキレン基、Xは−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCO−から選ばれる基、Rは炭素数1〜11のアルキレン基、アルケニレン基、下記一般式(2)で示される基のいずれかから選ばれる基、Rは炭素数0〜2のアルキレン基またはアルケニレン基、Mは水素原子または1価の金属原子を表す。)
【化2】

【請求項2】
請求項1に記載のシランカップリング剤において、前記一般式(1)で示される化合物の式中のXが−NHCOO−基であることを特徴とするシランカップリング剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシランカップリング剤において、前記一般式(1)で示される化合物の式中のRが前記一般式(2)で示される基であることを特徴とするシランカップリング剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−197399(P2007−197399A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20394(P2006−20394)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】