説明

pH感受性ブロックコポリマーおよび疎水性薬物を含む医薬品組成物

本発明は生物学的活性物質と、親水部分を形成するポリ(エチレンオキシド)および好ましい条件下で超分子集成体あるいはミセルを形成することができるポリ(アクリル酸ブチル(アルキル)−co−(アルキル)アクリル酸)より構成されるブロックコポリマーとの医薬組成物に関する。前記ポリマーより形成される超分子集成体あるいはミセルは、環境pHが変化すると可逆的に会合あるいは解離する。本発明の医薬組成物は疎水性薬物、陽イオンあるいはポリ陽イオン化合物を含み、経口あるいは他の投与経路より体内に送達されることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましい条件下においてナノメーターサイズ範囲で超分子集成体あるいはミセルを形成する刺激反応性両親媒性ポリマーに関する。これらの超分子集成体あるいはミセルは、疎水性あるいは陽イオン性医薬品の経口あるいは非経口送達に有用となりうる。
【背景技術】
【0002】
最適な親水および疎水部分を有する両親媒性ブロックコポリマーは、水性環境において自然に自己集成してミセルあるいは超分子集成体を形成する。これらの超分子集成体は、疎水性部分がコアを形成しかつ親水性部分がコロナを形成するコア−シェル構造を示す。最近、ポリマーミセルは非経口投与用薬物送達担体として幅広く使用されている。ミセル薬物送達担体は、生体適合性、コアにおける疎水性薬物の可溶化、炎症部位における薬物担体の溢出を促進するナノメートルサイズ範囲、部位特異性送達などを含むいくつかの長所を有する(例えばTorchilin VP, J Controlled Release, 2001, 73, 137-172; Kataoka他Adv Drug Deliv Rev, 2001, 47, 113-131; Jones他Eur J Pharm Biopharm, 1999,48, 101-111などを参照)。
【0003】
ミセルを形成する非イオン性および/あるいは荷電した疎水および親水部分を有する多数の両親媒性ブロックコポリマーは、文献中に報告されている。非経口送達に幅広く使用されているいくつかのブロックコポリマーの例は、ポリ(エチレンオキシド)−b−ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(エチレンオキシド)−b-ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(エチレンオキシド)−b−ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン)−b−ポリ(D,L−ラクチド)などを含む。
【0004】
米国特許第6,322,805号は、親水性ポリ(アルキレンオキシド)成分、およびポリ(酪酸)、ポリ(酪酸−co−グリコール酸)、ポリ(ε−カプロラクトン)およびその誘導体からなる群から選択される生体分解性疎水性成分より調製されるポリマー薬物担体ミセルを記載する。これらのミセルは、親水性環境において疎水性薬物を可溶化することができる。
【0005】
米国特許第6,338,859号は、親水性成分がポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)を含み、かつ疎水性部分がポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物およびその誘導体からなる群から選択されるポリマーミセル組成物を記載する。ポリエステル基は、ポリ(D,L−酪酸)、ポリ(グリコール酸)、ラクチド/グリコライドコポリマー、ポリ(ε−カプロラクトン)およびその誘導体から選択することができる。ミセル組成物は、抗腫瘍化合物、疎水性抗生物質、疎水性抗真菌剤、免疫調節物質、抗ウイルス薬などとすることができる治療薬を含む。
【0006】
米国特許第6,383,811号は、ポリ両性電解質を有するDNAなどのポリイオン複合体、すなわち陽イオン部分と陰イオン部分の両者を有するポリマー、および複合体の細胞への送達を記載する。
【0007】
米国特許第6,210,717号は、核酸の標的宿主細胞への送達を目的とした両親媒性ポリエステル−ポリ陽イオンコポリマーおよび両親媒性ポリエステル−糖コポリマーより生成される混合ポリマーミセルより構成される組成物を記載する。ポリエステル−ポリ陽イオンは、ポリ陰イオン核酸と静電的相互作用を形成し、かつポリエステル−糖コポリマーはin vivoでミセル−核酸複合体を細胞に誘導する。
【0008】
米国特許第6,429,200号は、開裂性逆相ミセルを用いた細胞へのポリヌクレオチドの送達を記載する。ポリマーおよびジスルフィド架橋を含む界面活性剤などのその他の分子は、送達を促進するためにミセル複合体に含めることができる。
【0009】
米国特許第5,510,103号は、ミセルを形成しかつ物理的方法により疎水性薬物を捕捉する親水性および疎水性部分を有するブロックコポリマーを記載する。親水性部分は好ましくはポリ(エチレンオキシド)であり、かつ疎水成分は好ましくはポリ(β−ベンジル−L−アスパラギン酸)である一方、好ましい薬剤はアドリアマシンである。
【0010】
米国特許第5,955,509号は、医薬製剤を含んだミセル状ポリ(ビニル−N−複素環)−b−ポリ(アルキレンオキシド)コポリマーを記載する。これらのコポリマーは、環境中のpHの変化に反応し、かつ低pH値において治療的化合物を送達するために使用することができる。これらのポリマーのミセルは、例えば生理学的pHなどの自然界のpHでは無変化であり続けるが、腫瘍内などの低pH環境に曝露されると成分を放出する。
【0011】
米国特許第6,497,895号は、疎水性分子をカプセル化するためのムチン酸エステルのコアを含む過分岐ミセルを記載する。これらのポリマーは、捕捉された薬物を調節された状態で経皮送達する上で有用である。
【0012】
米国特許第6,387,406号は、生物学的物質の経口送達を目的としたポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーの組成物を記載する。
【0013】
Nishiyama他(Pharm Res 2001, 18, 1035-1041; J Controlled Release 2001, 74, 83-94)は、抗腫瘍薬、特にシスプラチンとの相互作用によりミセルを形成するポリ(エチレンオキシド)−b−ポリ(α、β−アスパラギン酸)ブロックコポリマーの使用を記載する。
【0014】
これらのポリマーの大半は生物活性薬物の経口送達に使用することができるものの、現在欠けているのは、pH変化などの環境刺激に反応することにより、胃で支配的であるような低pHでミセルコアに成分を捕捉し、腸で支配的であるような高pHにおいて速やかに成分を放出する超分子集成体を形成することができる両親媒性性ポリマーである。
【0015】
出願人らが先に提出した米国特許明細書(出願番号第09/877,999号、2001年6月8日)は、生物活性薬物の送達に有用である一連のイオン性ジブロックコポリマーを記載する。本特許明細書における一連のコポリマーは、上記の条件を部分的に満たす。これらのポリマーは、低pHで超分子集成体を形成し、カルボキシル基のpKaを上回るpHに上昇すると解離することができる点で、米国特許第5,955,509号と異なっている。これらのポリマーの他の特徴は、イオン化の調節によって疎水性を変えることができる疎水性部分に非イオン性および可逆的イオン性基が存在することである。
【0016】
本明細書は、その全文が参照文献として本明細書に引用されている米国特許出願番号第09/877,999号として2001年6月8日に提出された係属出願の一部継続出願である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、少なくとも1つの生物学的活性物質を含む医薬組成物と組み合わせて有用であるポリマーに関する。より具体的には、本発明は経口薬物送達に適しているがこれに限定されない親水性および疎水性部分を有するブロックコポリマーに関する。より具体的には、ポリマーの親水性部分は非イオン性であり、かつ疎水性部分はポリマーにpH感受性を与える可逆的イオン性カルボキシル側基を少なくとも1つ含む。
【0018】
従って本明細書の主な目的は、ポリ(エチレンオキシド)より生成される親水性部分および少なくとも1つのカルボキシル側基を含むビニル単量体により構成される疎水性部分より構成されるコポリマーを提供することである。より具体的には、ポリマーに含まれるビニル単量体がカルボキシル側基およびアクリル酸ブチル(アルキル)を有するアクリル酸あるいはメタクリル酸であって、ブチル基が直鎖あるいは分岐鎖である。従って、疎水性部分はポリマーの疎水性を調節する非イオン性アクリル酸ブチル(アルキル)およびイオン性(アルキル)アクリル酸である。
【0019】
本発明の他の目的は、少なくとも1つの物質、好ましくは疎水性分子、陽イオン化合物、あるいは陽イオン残基を有するペプチドおよび蛋白質などの高分子物質により例示されるがこれに限定されない生物学的活性物質を捕捉することにより本明細書に開示されたポリマーに由来する医薬組成物を調製することである。捕捉は物理的(例:疎水性相互作用、静電相互作用など)であっても化学的(例:共有結合など)であってもよい。
【0020】
本発明の他の目的は、コア−シェル構造を有する超分子集成体であって、コアが疎水性部分によって形成され、疎水性部分の側基がカルボキシル基であるため環境pHの変化に反応して可逆的に解離および会合することのできる超分子集成体を調製することである。これらの超分子集成体のサイズは5〜1000ナノメートルとすることができるので、水中で溶液あるいはコロイド分散を形成する。これ以降の文中の用語「ミセル」および「超分子集成体」は互換的に用いられ、かつ本質的に5〜1000ナノメートルのサイズ範囲を有する構造を意味することに留意すること。
【0021】
本発明の他の目的は、疎水性物質および陽イオン分子を超分子集成体に捕捉し、高い組込み効率を与える方法を記述することである。
【0022】
本発明の他の目的は、これらの超分子集成体を用いて生物活性物質をこれに限定されない経路として経口経路により体内に送達することである。経口投与時には、超分子集成体のコアに捕捉された疎水性分子が胃の強酸性条件より保護され、腸内で高pHでのミセルの解離により放出される。
【0023】
本発明の他の目的および利点は、図解および例示により本発明のいくつかの実施形態が記述された添付図面を併用すれば、実験作業例を含む以下の記載より明らかになるであろう。図面は本明細書の一部を構成し、本明細書の例示的実地形態を含み、かつその多様な目的および特徴を例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、親水部分を形成するポリ(エチレンオキシド)と疎水性部分を形成するポリ(アクリル酸ブチル(アルキル)−co−(アルキル)アクリル酸)および少なくとも1つの生物学的活性物質より構成されるブロックポリマーより構成される医薬組成物を記載する。親水性部分の分子量は200から80,000Daの範囲内、より好ましくは500から10,000Daの範囲内、さらに好ましくは2,000から5,000の範囲内とすることができる。本発明のポリマーの疎水性部分は、包括的にはアルキル鎖が0から約10炭素原子、より好ましくは0から1炭素原子より構成されるアクリル酸ブチル(アルキル)および(アルキル)アクリル酸である。アクリル酸ブチル(アルキル)のブチル部分は、n−ブチルおよびtert−ブチル基を含むがこれに限定されない直鎖(線形)あるいは分岐鎖とすることができる。疎水性部分におけるアクリル酸ブチル(アルキル):(アルキル)アクリル酸のモル比は、約5:95から95:5の範囲内、より好ましくは約30:70から70:30の範囲内にある。疎水性部分の長さは約200から50,000、より好ましくは約500から80,000Daの範囲内とすることができる。
【0025】
両親媒性ブロックコポリマーは、水中で自己集成してミセルを形成する傾向を有する。ミセル化の際には、疎水性部分がコアを形成し、親水性部分がミセルのコロナを形成する。これらのミセルのコアは疎水性化合物を外部環境から保護するそのレザバーとして用いることができる。ポリマーの疎水性部分が可逆的にイオン化する基を含む場合、その基のイオン化を調節することによりその部分の疎水性を操作することが可能である。本発明のポリマーは、この点で他のブロックコポリマーと異なる。本発明のポリマーにおいては、疎水性部分は、一方がその部分に疎水性を与えるアクリル酸ブチル(アルキル)である2つの単量体の混合物より構成される。より好ましくは、アクリル酸ブチル(アルキル)単量体はアクリル酸ブチルあるいはメタクリル酸ブチルである。もう一方の単量体である(アルキル)アクリル酸は、環境pHの変化により可逆的にイオン化されることのできる側基を有する。従って、環境中のpHがカルボキシル基のpKaを下回る場合大半が非イオン化型にとどまり、その部分に疎水性を与えるであろう。これにより、ポリマー鎖は水性環境中で自然に凝集して安定な超分子集成体あるいはミセルを形成する。しかし、環境pHがカルボキシル基のpKaを上回ると、そのイオン化により疎水性部分に親水性が付与される。これによりミセルが解離することもある。より好ましくは、(アルキル)アクリル酸単量体はアクリル酸あるいはメタクリル酸である。
【0026】
これらの超分子集成体は約5から1000ナノメートルのサイズ範囲にある。疎水性薬物は、当業者に既知である方法によりこのような超分子集成体のコアに組込むことができる(例えばLavasanifar他J Controlled Release 2001, 77,155-60; Kohori他J Controlled Release 2002,78,155-63などを参照)。疎水性部分の組成の操作によりポリマーの疎水性が変化し、疎水性薬物の組込み効率の調節が可能になる。多様な薬物担持手順を用いて、0.1から50%w/wの範囲、より好ましくは1から20%w/wの範囲の疎水性薬物の担持が得られる。
【0027】
本発明のブロックコポリマーは、疎水性分子を含有する医薬組成物を調製するために用いられる。疎水性分子の限定されない例は、フェノフィブレートなどの高脂血症薬、ドキソルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、酢酸メゲステロール、テニポシド、エトポシドなどの抗癌薬、カンデサルタン、シレキセチルなどの抗高血圧薬、インドメタシン、セレコキシブなどの非ステロイド性抗炎症薬、レチノビル、アンプレナビル、インジナビル、エファビレンツなどの抗ウイルス薬、シクロスポリンA、シロリムス、タクロリムスなどの免疫抑制薬、および他の治療分類に所属する同様な薬物を含む。
【0028】
本発明の代替的な実施形態においては、ポリマーのポリ(アクリル酸ブチル(アルキル)−co−(アルキル)アクリル酸)部分はカルボキシル基のpKaを上回るpHにおいて負電荷を帯び、かつ静電相互作用によりポリ陽イオン、ペプチドおよび陽イオン残基を有するタンパク質などを制限なく含む陽イオン分子と複合体を形成する。これにより、ポリマーおよび/あるいは陽イオン分子の電荷が部分的にあるいは完全に中和されるので、超分子集成体あるいはミセルが形成される。陽イオンあるいはポリ陽イオン分子はこのような超分子集成体のコアに捕捉される。用語「陽イオン残基」は、例えばリジン、アルギニン、ヒスチジンなどの陽イオンアミノ酸、あるいは一級、二級、三級、四級アミン基など官能基のように分子中にあって分子に正電荷を付与する官能基を表す。
【0029】
ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(アクリル酸n−ブチル−co−メタクリル酸)とポリ−l−リジンの複合体は、pH7.4の緩衝液中で調製される。約20から50nmのサイズ範囲内の単峰形サイズ分布を有する超分子集成体は、ポリ−l−リジンの分子量とポリマーの組成に依存して得られる。その一方で、pH7.4の緩衝液中のポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(アクリル酸エチル−co−メタクリル酸)とポリ−l−リジンの複合体により、約200nmを上回る多峰形サイズ分布を有する凝集体が形成される。
【0030】
本発明の他の実施形態においては、ブロックコポリマーを用いてカルボニル基のpKaを上回るシスプラチン、カルボプラチンなどの金属化合物として例示される生物活性物質との安定した配位複合体を形成する。
【0031】
疎水性部分におけるアクリル酸ブチル(アルキル)の存在は、安定した超分子集成体を形成する上でいくつかの重要な役割を果たす。ポリマー鎖に対し、ポリマー鎖の重要な自己集成推進力の1つである疎水性を付与する。また、超分子集成体への疎水性薬物の取込みを増加させる。カルボン酸基がポリエチレンオキシド鎖に存在する酸素と分子内−および/あるいは水素結合複合体を形成することは周知である(例えばDonini他Int J Pharm, 2002,245, 83-91;Lele他J. Controlled Release, 2000, 69, 231-248などを参照)。これにより、巨大な凝集物、あるいは時に複合体の沈殿が生じることもある。この問題は、ポリ(エチレンオキシド)−ブロックーポリ(アスパラギン酸)ポリマーにおいて起こりうる(Nisbiyarna他Pharm Res 2001, 18, 1035-1041; Yokoyama他J. Controlled release 1996, 39, 351-356)。これまで報告されたように、ポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(メタクリル酸)組成物を有するポリマーにおいて顕著である(Ranger他J. Polymer Science: part A: Polymer Chemistry, 2001, 39, 3861-3874)。この問題を克服するための1つ方法は、出願人が先に米国特許明細書(09/877,999、2001年6月8日)で開示したように、アクリル酸エチルなどの疎水性単量体を疎水性部分に組込むことである。
【0032】
本発明の開示に従い、性質が改善されたポリマーは疎水性部分にアクリル酸ブチル(アルキル)を組み込むことにより得ることが可能と認められた。本発明に従ったポリマーの主な利点の1つは、アクリル酸ブチル(アルキル)中のブチル鎖の存在によって、このような水素結合複合体の形成を大幅に減少し、凝集体の形成を防止することができることである。これにより、均一なサイズ範囲を有する超分子複合体の形成が促進される。
【0033】
例えば、約5300Daの分子量を有し、アクリル酸n−ブチル:メタクリル酸のモル比が50:50であるポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(アクリル酸n−ブチル−co−メタクリル酸)は、pH5.0で30nmのミセルを形成するのに対し、5100Daの分子量を有するアクリル酸エチル:メタクリル酸のモル比が50:50であるポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(アクリル酸エチル−co−メタクリル酸)はpH5.0でいくつかのミセルの凝集体と思われる120nmのミセルを形成する。
【0034】
経口経路は、薬学的活性物質の投与にとって最も好ましい経路である。経口送達のためには、組成物を錠剤、カプセル剤、散剤、トローチ、溶液、懸濁剤、シロップ、エリキシルなどの形態で用いることができる。本発明の医薬組成物は経口投与される。また本発明の医薬組成物は、直腸、膣、局所、肺経路、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内あるいは皮下経路を含むがこれに限定されない非経口などを制限なく含む他の多くの経路によって投与することもできる。
【0035】
本発明のポリマーは、レクチン、抗体あるいは抗体のフラグメント、ペプチド、ビタミンあるいは糖分子などの標的リガンドに結合するために修飾することができる。
【実施例】
【0036】
これ以降の本文において、ポリマー組成の添え字として提示する数字は、その単量体がポリマーの疎水性部分において存在するモル比を表している。
【0037】
(実施例1)
(各pHにおけるPEO−b−poly(nBA50−co−MAA50)超分子集成体からのHプロゲステロンのin vitro放出)
プロゲステロンは、超分子集成体からの薬物放出に及ぼすpHの影響を評価するためのモデル疎水性薬物として使用した。フィルムキャスティング法により、分子量5300DaのPEO−b−ポリ(nBA50−co−MAA50)の超分子集成体にH−プロゲステロンを担持した。簡単に述べると、シンチレーションバイアル中で、ポリマー10mg、プロゲステロン1mgおよびH−プロゲステロン1μCiを、ジクロロメタン、エタノールおよび水の混合物に溶解した。溶液を減圧下で蒸発させ、ガラス面上でポリマーと薬物のフィルムを注型する。フィルムを水で水和させて超分子集成体を得たのち、この溶液を2μmフィルターで濾過して沈殿薬物を除去した。
【0038】
In vitro放出試験については、超分子集成体に担持したプロゲステロンの溶液を透析バッグに満たし(分子量カットオフ値6000〜8000Da)、さらに37℃に保たれたpH1.2のシミュレーション胃液200mLの入ったビーカー中にバッグを入れた。放出媒体をマグネチックスターラーで撹拌した。2時間後、媒体に水酸化ナトリウムおよびリン酸二水素カリウムを添加してpHを7.2に調節した。放出実験全体を通じて、放出媒体サンプル1mLを定期的に取り出し、H−プロゲステロンの比放射能を測定した。対照として、pH1.2,pH7.2における超分子集成体からのH−プロゲステロンの放出、およびポリマー非存在下でのpH1.2における放出も測定した。放出実験の結果を図1に示す。
【0039】
図1に示すように、pH1.2でポリマーのない状態ではプロゲステロンは迅速に放出され、透析バッグは薬物放出の障壁を形成していないことを示唆した。さらに、PEO−b−ポリ(nBA50−co−MAA50)超分子集成体からのプロゲステロン放出はpH7.2では非常に迅速であるのに対し、pH1.2では緩慢であった。その一方で、2時間後に放出媒体のpHを1.2から7.2に変更すると、放出速度は著しく増加した。これは、超分子集成体のpH依存性解離のエビデンスとなる。pH1.2においてはカルボキシル基がイオン化しないためポリマーは超分子集成体の形態で存在し、薬物は超分子集成体のコアより緩慢に放出される。しかし、pHが7.2に上昇すると、カルボキシル基はイオン化して超分子集成体が解離し、薬物が迅速に放出される。
【0040】
このデータを裏付けるために、動的光散乱法を用いてPEO−b−ポリ(nBA50−co−MAA50)のpH依存性凝集挙動を試験した。クエン酸リン酸ユニバーサル緩衝液でポリマー溶液(0.5mg/mL)を調製し、pHを約2.2〜7.0に調節した。これらの溶液からの散乱光の強度を25℃において角度90℃で測定し、pHの関数としてプロットした。その結果を図2に示す。
【0041】
図2より、pH約5.5以上では散乱光の強度は無視できるほど小さいのに対し、pHが5.5未満に下がると強度は著しく上昇し、ポリマー鎖の会合を示唆した。このことは、pH5.5未満ではポリマーは超分子集成体の形態で存在することを示す。これらの超分子集成体のサイズは、環境pHに応じて30〜100nmの範囲内となっている。
【0042】
(実施例2)
(超分子集成体に捕捉されたフェノフィブレートをラットに経口投与する際のバイオアベイラビリティ試験)
フェノフィブレート(FNB)は、超分子集成体への薬物の取込みがラットへの経口投与時のバイオアベイラビリティに及ぼす影響を評価するための、水に溶けにくい疎水性薬物のモデルとして使用した。一連の実験では、乳化およびフィルムキャスティング法により各PEO−b−ポリ(EA−co−MAA)およびPEO−b−ポリ(nBA50−co−MAA50)ポリマーにおいてFNBの取込みを試験した。FNB担持はFEO−b−ポリ(nBA50−co−MAA50)ポリマーの方が高かった。従って、これらのポリマーを用いて、スプレーグ−ドーリーラットにおける超分子集成体に担持したFNBの相対的バイオアベイラビリティを評価した。
【0043】
試験は3種類のフェノフィブレート製剤、すなわちFNB超分子集成体、FNB標準製剤および再懸濁FNBに対して実施した。FNB担持超分子集成体は、分子量約5300DaのPEO−b−ポリ(nBA50−co−MAA50)を材料としてフィルムキャスティング法により調製した。超分子集成体のサイズは約100〜300nmの範囲内であった。FNB標準製剤は、リピディルマクロ(登録商標)(フルニエ)カプセルからの粉末を0.5%w/vカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC Na)溶液に懸濁し、均一な懸濁液を得ることによって調製した。FNB末(シグマ)も0.5%w/v CMC Na溶液に懸濁し、陰性対照の役割を果たす再懸濁FNB製剤を調製した。
【0044】
ラットを各群6匹の3群に分けた。ラットを一晩絶食させた後、試験期間を通じて標準飼料を給餌した。各製剤とも1群のラット6匹に対して7.5mg/kgの用量で経口投与した。各ラットより定期的に血液を採取し、血漿を分離して用時まで−80℃で保管した。血漿よりFNB含有量を測定し、時間に対してプロットし、その結果を表3に示す。
【0045】
結果は、超分子集成体に取り込まれたFNBはピーク血漿レベルの最高値を、すなわち標準製剤では8.4μg/mLに対して10.9μg/mLとなることが示す。また、FNB担持超分子集成体では、標準製剤よりも速やかにtmaxに達した。全般的に、超分子集成体への捕捉により、FNBの相対バイオアベイラビリティは標準FNB製剤と比較して19%上昇し、再懸濁FNB末に対するバイオアベイラビリティの上昇は133%であった。この相対バイオアベイラビリティの上昇は、おそらく超分子集成体からの薬物の放出がナノスコープ範囲内であり、薬物の溶解度を上昇させるためであるためと思われる。
【0046】
(実施例3)
(PEO−b−P(nBA50−co−MAA50)とポリ−l−リジンのポリイオン複合体ミセルの形成)
分子量16,100のポリ−l−リジン(PLL)を、分子量がそれぞれ5100および5700DaであるPEO−b−P(EA50−co−MAA50)とPEO−b−P(nBA50−co−MAA50)のコポリマーによるポリイオンミセル形成のためのモデル陽イオン化合物として用いた。1:1および2:1のポリマー:PLL(−/+)電荷比(モル:モル)を複合体形成に用いた。リン酸緩衝液(pH7.4)中で濃度2.5mg/mLのポリマー保存液とPLL(分子量16,100)保存液を調製し、室温で混合して最終ポリマー濃度1mg/mLを得た。溶液を0.2μmフィルターで濾過し、動的光散乱法(DLS)を用いて25℃でサイズ測定を実施した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果より、各電荷比におけるPLLとPEO−b−P(EA50−co−MAA50)との複合体形成は、相対的に大きな凝集の形成をもたらし、これはポリ(エチレンオキシド)鎖とカルボキシル基との水素結合が原因である可能性がある。対照的に、同様の比率におけるPLLとPEO−b−P(nBA50−co−MAA50)との複合体形成は、単峰形サイズ分布と低い多分散性指数を示すミセルの形成をもたらす。同様な複合体は分子量が異なるPLLによっても得られる。
【0049】
(実施例4)
(PEO−b−P(nBA50−co−MAA50)と塩酸ベラパミルとの複合体形成)
塩酸ベラパミルはモデル陽イオン薬物として使用した。PEO−b−P(nBA50−co−MAA50)および塩酸ベラパミルのユニバーサル緩衝液溶液を混合し、最終ポリマー濃度0.5mg/mLおよび塩酸ベラパミル濃度0.8mg/mLを得た。溶液のpHを6.1に調節し、DLS法を用いてサイズを測定した。38±10.3nmのポリイオン複合体ミセルを得た。
【0050】
本明細書中で言及した全ての特許および出版は、本発明が属する分野における当業者のレベルであることを示唆している。全ての特許および出版は、各出版が具体的にかつ個別に参照文献として組み入れられていることが示されている場合と同程度に、本明細書に参照文献として組み入れられている。
【0051】
本発明の一定の形態が例示されていても、本明細書に記載され、かつ示されている具体的な形態あるいは配置に限定されるものでないことを理解すべきである。当業者にとっては、本発明の範囲を離れずに様々な変更を行うことができ、かつ本発明は明細書および図面に示されかつ記載されたものに限定されると見なすべきでないことは明白である。
【0052】
当業者は、本発明は目的を遂行し、かつ結果および言及された利点の他それに固有のものを得るために良好に適合されていることを速やかに認めるであろう。本明細書に記載された化合物、組成物、生物学的関連化合物、方法、手順および技術は、現時点で好ましい実施形態の代表であり、例示を意図しており、かつ範囲の限定を意図してはいない。本発明の趣旨に包含され、かつ添付の請求項の範囲によって定義されるその変更と他の用途が当業者に考案されるであろう。
【0053】
本発明は具体的な好ましい実施形態と共に記載されているが、請求された本発明はこのような具体的実施形態に過度に限定されるべきでないことを理解すべきである。実際に、当業者に明白である本発明を実施するための記載されたモデルの多様な変更は、以下の請求項の範囲内にあることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】pHの機能としてのPEO−b−poly(nBA50−co−MAA50)超分子集成体からのin vitroプロゲステロン放出を示す。
【図2】PEO−b−poly(nHA50−co−MAA50)の溶液により散乱される光の強度に対するpHの影響を示す。
【図3】スプレーグ−ドーリーラットに対して各フェノフィブレート製剤を経口投与したときの時間に対する血漿濃度のプロットである。
【符号の説明】
【0055】
nBA−アクリル酸n−ブチル、
MAA−メタクリル酸、
EA−アクリル酸エチル、
PEO−ポリ(エチレンオキシド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(エチレンオキシド)とポリ(アクリル酸ブチル(アルキル)−co−(アルキル)アクリル酸)のジブロックコポリマーおよび少なくとも1つの生物学的活性物質を含む医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリマーであって、前記ポリ(エチレンオキシド)部分が約200〜80,000Daの範囲の分子量を有するポリマー。
【請求項3】
請求項1に記載のポリマーであって、前記ポリ(アクリル酸ブチル(アルキル)−co−(アルキル)アクリル酸)部分が約200〜80,000Daの範囲の分子量を有するポリマー。
【請求項4】
請求項1に記載のポリマーであって、前記アルキルが0から約10の炭素原子を有するアルキル鎖であるポリマー。
【請求項5】
請求項1に記載のポリマーであって、アクリル酸ブチル(アルキル)の前記ブチル部分が直鎖または分岐鎖であるポリマー。
【請求項6】
請求項1に記載のポリマーであって、前記アクリル酸ブチル(アルキル):(アルキル)アクリル酸が約5:95〜95:5の範囲のモル比にあるポリマー。
【請求項7】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記ジブロックポリマーが約50:50のアクリル酸n―ブチル:メタクリル酸モル比を有するポリ(エチレンオキシド)−ブロック−ポリ(アクリル酸n−ブチル−co−メタクリル酸)である医薬組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の医薬組成物であって、超分子集成体あるいはミセルの形態にある医薬組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の医薬組成物であって、前記超分子集成体あるいはミセルが約5から1000ナノメートルのサイズ範囲にある医薬組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の医薬組成物であって、前記超分子集成体が環境pHの変化に反応して可逆的に会合あるいは解離する医薬組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記生物学的活性物質の放出速度がpHの上昇と共に上昇する医薬組成物。
【請求項12】
請求項8に記載の医薬組成物であって、前記生物学的活性物質が物理的あるいは化学的方法により前記超分子集成体に組込まれた疎水性薬物である医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記疎水性薬物がフェノフィブレートである医薬組成物。
【請求項14】
請求項8に記載の医薬組成物であって、前記生物学的活性物質が陽イオンあるいはポリ陽イオンである医薬組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の医薬組成物であって、前記ポリ陽イオンが陽イオン残基を有するペプチドあるいは蛋白質である医薬組成物。
【請求項16】
請求項14に記載の医薬組成物であって、前記陽イオンあるいはポリ陽イオンが静電的に前記(アルキル)アクリル酸単位と相互作用する医薬組成物。
【請求項17】
請求項14に記載の医薬組成物であって、前記陽イオンが塩酸ベラパミルである医薬組成物。
【請求項18】
請求項8に記載の医薬組成物であって、前記生物学的活性物質が前記(アルキル)アクリル酸単位との金属配位複合体を形成する医薬組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の医薬組成物であって、前記生物学的活性物質がシスプラチンである医薬組成物。
【請求項20】
請求項18に記載の医薬組成物であって、前記生物学的活性物質がカルボプラチンである医薬組成物。
【請求項21】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記超分子集成体への疎水性薬物の組込みが前記疎水性薬物の経口投与時のバイオアベイラビリティを高める医薬組成物。
【請求項22】
請求項8に記載の医薬組成物であって、経口、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、直腸、膣あるいは局所経路で投与される医薬組成物。
【請求項23】
請求項8に記載の医薬組成物であって、その表面に標的リガンドを有する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−505029(P2007−505029A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515571(P2006−515571)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000561
【国際公開番号】WO2004/112757
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505474876)ウニベルシテ デュ モントリオール (1)
【Fターム(参考)】