説明

pH感受性金属ナノ粒子およびその製造方法

本発明は、pH感受性粒子、その製造方法および用途に関し、より詳しくは、pH感受性金属ナノ粒子、その製造方法、および光熱治療による細胞死滅を活用した治療用用途を提供する。本発明に係るpH感受性金属ナノ粒子は、pHによって電荷が変化するpH感受性リガンド化合物が表面に形成されているから、癌細胞などの非正常的なpH環境にある細胞で凝集できる。本発明に係るpH感受性金属ナノ粒子は、凝集の後に光熱過程を通じて細胞の死滅を誘導することができるから、細胞死滅を活用した治療、例えば癌細胞の治療などが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH感受性粒子(pH-sensitive particle)、その製造方法および用途に関し、より詳しくは、pH感受性金属ナノ粒子(pH-sensitive metal nonoparticle)、その製造方法、および光熱治療による細胞死滅を活用した治療用用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞などの異常細胞の周辺環境は、pH7.2〜7.4を示す体内のpH環境とは異なり、pH6.0〜7.2の弱酸性を示すものと知られている。このような癌細胞の特性を用いて癌を治療しようとする方法が研究されている。
【0003】
成均館大学校産学協力団に許与された韓国特許第802080号では、共重合体は、pH感受性(pH-sensitive)を有する生分解性ポリ(β−アミノエステル)化合物と親水性のポリエチレングリコール系化合物とを共重合させて形成されることにより、自体内に保有する両親媒性およびpHによって変化するイオン化特性を用いてミセル構造を形成し、これを通じて体内のpH変化による標的指向的に癌細胞へ薬物を伝達して癌細胞を死滅させる方法を開示している。
【0004】
WO2002/20510号では、酸感受性の環状オルトエステルおよび少なくとも1種の親水性置換体を含んでなる酸感受性化合物およびその塩を開示している。この化合物は、治療性分子と接合体(リポソーム、複合体、ナノ粒子など)を形成した後、pHが酸性の細胞組織または区域へその治療性分子を放出する。
【0005】
金属ナノ粒子は、特有の表面プラズモン特性により独特な光学的性質を有する。表面プラズモン(plasmons)とは、導体たる金属ナノ粒子の表面と空気、水などの誘電体との間に光が入射すると、光が持つ特定エネルギーの電磁場との共鳴により金属表面の電子が集団的に振動する現象をいう。このような光と金属ナノ粒子との相互作用は非常に強いため、一般的な有機染料に比べて共鳴周波数における吸光係数が非常に大きい。また、粒子の大きさ、粒子の形態、または分散している溶媒などによって共鳴周波数が変化するので、多様な大きさ、形態および表面特性を有する金属ナノ粒子を作って光学センサーまたは集光装置へ応用するための努力が進行中である。
【0006】
最近では、生物学的な応用として、金ナノ粒子の集光効果を用いた光熱治療に対する可能性が台頭している。光熱治療は、光エネルギーを熱エネルギーに変えて癌細胞を攻撃する治療方法である。金ナノ粒子の表面に集光した光は多様な経路を経て放出されるが、それらの中でも、特に電子−格子振動、電子−電子散乱などは熱を伴う放出過程である。この際、局所的に放出される熱エネルギーは、金ナノ粒子の優れた集光効果と広い体積に対する表面積により細胞を死滅させるのに十分なエネルギーである。また、一般に、癌細胞が正常細胞に比べて熱に弱い特性を持っているので、金ナノ粒子に集光する光の量を調節して局所的な熱量を制御すると、正常細胞に損傷を与えずに癌細胞のみを選択的に治療することができる。
【0007】
韓国特許出願第2006−102604号には、50〜500nmサイズのシリカ粒子に磁性体粒子を内包する金コーティング層を形成し、癌細胞標的指向型リガンド(cancer cell-target ligand)が形成された粒子が開示されている。癌細胞標的指向型リガンドが癌細胞に結合すると、癌を診断し或いは磁性体の磁性を用いて磁気共鳴画像を得ることができ、かつ、近赤外線領域の電磁気波パルスを放射してエネルギーを吸収した金ナノ粒子の外郭が放出する熱を用いて癌細胞のみを選択的に壊死させる。ところが、このような方式は、特定の癌細胞を認識することのできる効率的な生物学的リガンド(biological ligands)を開発し、これを金属に接合しなければならないという問題がある。
【0008】
このように各種癌細胞に対する選択的認識が可能な金属ナノ粒子に対する要求が続けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規なpH感受性粒子を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、pH感受性金属ナノ粒子を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、pH感受性金属ナノ粒子を製造する方法を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、pH感受性粒子を用いて異常細胞を死滅させる方法を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、新規なpH感受性化合物を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、新規なpH感受性化合物の合成方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、pH感受性粒子のセンサーとしての用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[技術的解決方法]
上記目的を達成するために、本発明は、pHによって電荷(charge)が変化する化合物が表面に形成されたことを特徴とする金属ナノ粒子(metal nanoparticles)を提供する。
【0017】
本発明において、前記金属ナノ粒子は、金属粒子またはシリカなどの物質に金属がコートされた粒子であってもよい。前記金属は、単一金属または合金であってもよく、pHによって電荷が変化する化合物が結合(bond)できる物質であって、好ましくは金(gold)である。
【0018】
本発明の化合物は、pHによってその化合物の電荷が変化し、露出した金属ナノ粒子の原子に結合することができる。
【0019】
本発明において、前記化合物は、好ましくはpH7.0を基準として化合物の電荷が変化する化合物である。本発明の一実施において、前記化合物はpHがアルカリ性(alkaline)または中性(neutral)から酸性(acidic)に変化するとき、負(negative)電荷から正(positive)電荷へと電荷が変化する。
【0020】
本発明において、前記化合物は、下記化学式(I)で表現できる。
【化1】

【0021】
本発明は、一側面において、金属ナノ粒子の表面に、pHによって電荷が変化する化合物を付着させ、pH感受性金属ナノ粒子(pH-sensitive metal nanoparticle)を製造する方法を提供する。
【0022】
本発明において、前記金属ナノ粒子はpHによって電荷が変化する化合物が付着できる多様な製品に使用でき、発明の一実施において、前記金属粒子は化合物に含まれている硫黄原子が結合できる金粒子(gold-particle)または金コーティング粒子(gold-coated particle)である。本発明の好適な実施例において、pHによって電荷が変化する化合物は下記化学式(I)で表現できる。
【化2】

【0023】
本発明において、前記pHによって電荷が変化する化合物は、金属ナノ粒子の表面に付着しているリガンド(ligand)、例えば金ナノ粒子を安定化(stabilizing)させるために表面に付着しているクエン酸塩(citrate)を置換する形で付着できる。
【0024】
本発明は、一側面において、pH感受性金属ナノ粒子を投与(administering)して凝集させ、凝集した金属ナノ粒子に光を照射(irradiating)して異常細胞(abnormal cells)を死滅(destroy)させることを特徴とする光熱治療方法を提供する。
【0025】
本発明において、前記異常細胞は、非正常的なpH環境を示す細胞であって、例えば酸性のpH環境(acidic pH environment)を示す癌細胞(cancer cells)である。
【0026】
本発明において、pH感受性金属ナノ粒子は、細胞の外部から照射される光を受光して光熱作用によって細胞を死滅させることが可能な金属を使用することが好ましい。光熱治療に用いられる通常の金属を使用することができ、好ましくは金粒子である。
【0027】
本発明において、前記金属ナノ粒子は、異常細胞へ浸透しうる大きさにすることが好ましい。発明の実施において、前記金属ナノ粒子の直径は20nm以下、好ましくは約5〜15nm程度の大きさである。
【0028】
本発明において、前記金属ナノ粒子は、異常細胞に接近および/または浸透した後、酸性のpH環境で凝集し、細胞外部への排出が抑制された状態で光熱治療が行われることにより、細胞が死滅する。
【0029】
本発明において、前記金属ナノ粒子は、異常細胞、例えば癌細胞などの低いpHを感知して凝集することができるようにpH感受性の粒子である。
【0030】
本発明の実施において、前記金属ナノ粒子は、酸性のpH環境で凝集(aggregate)することが可能な化合物が表面に形成された形であってもよい。
【0031】
発明の実施において、金属ナノ粒子は、化合物の粒子環境がアルカリ性のpHから酸性のpHに変化すると、表面に形成された化合物が加水分解(hydrolyzed)などの反応を経ながら電荷が変化する。化合物の電荷が変化すると、理論的に限定されるのではないが、電荷が変化する過程で粒子が静電気的引力によって互いに凝集する。
【0032】
驚くべきことに、前記pH感受性金属ナノ粒子は、凝集するにつれて吸収(absorbed)する光の波長が長くなる。よって、透過力の良い赤外光などの長波長(long-wavelength)の光を用いる場合、皮膚または皮下近傍だけでなく、身体または臓器の内部で凝集している金属ナノ粒子を加熱することができる。よって、癌細胞の発生部位を問わず光熱治療が可能なので、光熱治療の範囲が画期的に増える。
【0033】
本発明は、一側面において、下記化学式(I)で表されるpH感受性化合物(pH-sensitive compound)を提供する。
【化3】

【0034】
本発明は、一側面において、リポ酸(lipoic acid)とエチレンジアミン(ethylene diamine)とを反応させて下記化学式(II)の化合物を製造する段階と、
【化4】

【0035】
前記化学式(II)の化合物を無水シトラコン酸(citraconic anhydride)と反応させて下記化学式(III)の化合物を製造する段階と、
【化5】

【0036】
前記化学式(III)の化合物を水素化ホウ素ナトリウム(sodium borohydride)と反応させて下記化学式(I)の化合物を製造する段階と、
【化6】

【0037】
を含んでなることを特徴とする、pH感受性化合物の製造方法を提供する。
【0038】
本発明に係るpH感受性粒子(pH-sensitive particles)は、癌細胞などの非正常的なpHを有する細胞でのみ凝集し、長波長の光を吸収し、このような特性を用いて多様な用途に使用することができる。一例として、本発明に係るpH感受性粒子は、癌診断用試薬(reagent for diagnosis of cancer)、造影剤(image contrast agent)、癌治療薬(cancer therapeutic agent)、光増感剤(photosensitizers)などの用途に使用することができる。また、pH感受性ナノ粒子をセンサーの表面に付着させて使用する場合、pHの変化を測定するセンサーとして使用することができる。
【0039】
本発明は、一側面において、赤外線を吸収する5〜20nmの金ナノ粒子が凝集した凝集体を提供する。前記凝集体は、クラスター形態(form of clusters)をし、前記クラスター(clusters)の直径は0.1〜10μmであり、好ましくは1〜3μmである。
【0040】
本発明は、一側面において、凝集した金ナノ粒子に赤外線を照射して金ナノ粒子を発熱させる方法を提供する。
【0041】
本発明に係るpH感受性金ナノ粒子は、中性または塩基性(basis)の条件ではよく分散しており、600nm以下の波長領域(band of wavelengths)のみを吸収する。ところが、酸性条件ではナノ粒子の表面電荷が変わり、このような過程で静電気的引力によって隣接のナノ粒子との凝集が起こる。こうして形成されたナノ粒子凝集体は、表面プラズモンの特性によりその吸収帯(absorption band)が600nm以上の可視光線長波長領域(longer wavelength band)と赤外線領域(infrared band)に移される。
【0042】
本発明の一実施において、癌細胞の死滅を誘導するための光熱治療への応用の場合、pH感受性金ナノ粒子を癌組織に投与すると、癌組織の特異的酸性環境によって癌組織で位置特異的に凝集体を形成することができる。また、癌細胞内に流入したナノ粒子は、エンドソームなどの細胞内酸性のpHを有することが可能な部分で急激に凝集体を形成するように誘導される。細胞内で凝集体を形成するので、エクソサイトーシス(exocytosis)を阻害して癌細胞内に誘導されたpH感受性金ナノ粒子の排出が抑制されて抗癌療法の効率が増加するものと期待される。pH感受性金ナノ粒子を用いた癌光熱治療の最も大きい利点は、pH感受性金ナノ粒子が癌組織内の癌細胞に誘導されながら凝集体をなし、この凝集体の吸収波長領域が表面プラズモンの特性により長波長領域へ移動するということである。よって、組織透過率に優れて皮膚から深いところに存在する癌組織にも応用可能な長波長光源の使用が可能となる。既存の光を用いた抗癌療法の限界は、光増感剤が反応する波長帯域が比較的短いため、比較的優れた組織透過率が要求されない癌、例えば皮膚癌などへの応用に限られるということである。したがって、本例のpH感受性金ナノ粒子はこのような制限を克服することができる。また、凝集体を成したpH感受性金ナノ粒子のみが長波長の光源からのエネルギーを吸収するので、より選択的な癌細胞の破壊が可能である。既存の光を用いた抗癌療法のための光感受剤は、周囲環境に応じて吸光帯を変えないので、本発明の粒子のような選択性を示すことができない。
【0043】
本発明は、一側面において、1〜500nmの平均粒径(average diameter)を有し、pH感受性化合物を含み、酸性のpHで凝集することを特徴とする金属ナノ粒子を提供する。
【0044】
本発明において、前記pH感受性化合物は、公知の高分子および/または低分子化合物(a polymer and/or a low-molecular weight compound)を使用することができ、前記化合物は、公知の方式、例えばスプレーコーティングなどのコーティング(coating)、リガンド置換(ligand substitution)などの置換(substitution)、金属粉末と化合物粉末との混合などの混合(mixing)によって金属粒子に導入(introduce)できる。pH感受性化合物の導入により、酸性のpHで金属粒子を凝集させることができる限りは制限なく使用することができる。
【0045】
[有利な効果]
本発明によれば、pH感受性金属ナノ粒子およびその製造方法を提供する。本発明に係るpH感受性粒子は、異常なpH環境で存在する細胞内で凝集できるから、癌の治療および診断を含む種々の分野に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るpH感受性金ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。(右上方から時計方向に)pH7.3水溶液状態に分散したpH感受性金ナノ粒子、pH5.5水溶液状態に分散してからそれぞれ10分、30分、120分、90分、60分経過したpH感受性金ナノ粒子(サイズバーは、pH7.3の場合には50nm、pH5.5の場合には500nm)。
【図2】本発明に係るpH感受性金ナノ粒子のpHおよび時間による吸光スペクトルである。黒色はpH7.3条件で分散させた後、24時間経過したときに測定した吸光スペクトル結果であり、青色、緑色および赤色はpH5.5の酢酸緩衝溶液に分散させた後、それぞれ10分、30分、90分経過したときに測定した吸光スペクトルである。
【図3】本発明に係るpH感受性金ナノ粒子を子宮頸癌細胞に捕獲させた後に観察した暗視野顕微鏡写真(dark-field microphotograph)である。細胞内で凝集体を形成した金ナノ粒子によって赤色で標識される。
【図4】本発明に係るpH感受性金ナノ粒子と共に培養した子宮頸癌細胞の実験群(左側の列)と比較群(右側の列)の光学顕微鏡写真である。660nm波長を発光するレーザー(laser)を用いて10分間照射した後、トリパンブルー(trypan blue)で染色して観察した光学顕微鏡写真。上方の項から下方にそれぞれ140mW、85mWおよび55mWのレーザー出力を用いた。pH感受性金ナノ粒子の光熱効果により死滅した細胞は染色法によって青色に見える。
【発明を実施するための形態】
【0047】
実施例
〈pH感受性リガンドの合成〉
リポ酸(1)を無水クロロホルム(anhydrous chloroform)に溶かした後、常温、真空環境で1.3当量のカルボニルジイミダゾール(carbonyldiimidazole)に添加して5分間攪拌し、残っているカルボニルジイミダゾールを除いた反応溶液層を分離する。リポ酸の5当量に相当するエチレンジアミンを窒素環境で無水クロロホルムに溶かした後、氷浴で温度を低めた状態で上述の溶液を添加して1時間攪拌する(結果物質は(2))。反応溶液を10% NaCl水溶液で3回、3次蒸留水で1回抽出して精製し、無水シトラコン酸を添加して常温で24時間攪拌した後、生成された固体を濾過する(結果物質(3))。この固体を、2NのNaOHを用いてpH9に調整した水溶液に溶かした後、1当量のNaBH4を添加して4時間常温で攪拌する。合成したpH感受性リガンド(4)は精製過程なしで直ちに使用した。
【化7】

【0048】
生成された化合物(4)は、酸性条件でアミド結合が加水分解されて、下記の経路を介して1級アミン(primary amine)とシトラコン酸(citraconic acid)となる。生成された1級アミンは酸性のpH条件で正電荷を帯びる。
【化8】

【0049】
〈クエン酸塩で安定化された金ナノ粒子の合成〉
金の前駆体であるHAuCl4を蒸留水に溶かし、120℃で30分間加熱および攪拌した後、クエン酸三ナトリウム(trisodium citrate)を添加してさらに2時間120℃で加熱および攪拌する。この際、クエン酸三ナトリウムが還元剤および表面リガンド(surface ligand)として作用するが、数分内に溶液の色が黄色から赤色に変化することにより、金ナノ粒子が作られたことが分かる。その後、常温で攪拌して冷やす(Ind. Eng. Chem. Res. 2007, 46, 3128-3136)。
【化9】

【0050】
〈pH感受性金ナノ粒子の合成〉
合成したpH感受性リガンドが過量で溶解されている水溶液に、クエン酸塩で安定化された金ナノ粒子を入れ、8時間常温で攪拌する。pH感受性リガンドのジチオール基は、クエン酸塩のカルボキシル基に比べて金ナノ粒子との強い表面結合力を持っているので、クエン酸塩がpH感受性リガンドでリガンド交換される。その後、透析して余分なリガンドを除去する。
【化10】

【0051】
〈pH感受性金ナノ粒子の凝集特性(aggregation characteristics)の確認〉
pH感受性金ナノ粒子をpH7.3水溶液とpH5.5水溶液状態にそれぞれ分散させ、分散してからそれぞれ10分、30分、120分、90分、60分経過した後、透過電子顕微鏡画像によってpH感受性金ナノ粒子の凝集有無を観察した。観察結果を図1に示した。図1に示すように、pH5.5の酸性条件で凝集体をなすことを直接観察した。pH感受性金ナノ粒子がpH7.3条件では経過時間を問わず平均15nmサイズでよく分散している。このようなpH感受性金ナノ粒子水溶液をpH5.5条件に変化させると、時間が経つにつれて凝集体を成しながら、このような凝集体が数μmサイズまで徐々に大きくなることが分かる。
【0052】
〈金ナノ粒子の凝集による吸光特性〉
合成したpH感受性金ナノ粒子を、正常細胞と同様のpH7.3環境、および癌細胞の周囲と同様のpH5.5環境に露出させた後、時間経過による吸収スペクトルを観測して測定した。pH7.3条件で分散させた後、24時間経過したときに吸光スペクトルを測定し、pH5.5のアセテート緩衝溶液に分散させてからそれぞれ10分、30分、90分経過したときに吸光スペクトルを測定して、その測定結果を図2に示した。
【0053】
pH感受性金ナノ粒子が一般的な生物学的環境のpH7.3では600nm以下の可視光領域の光のみを強く吸収するが、pH5.5に調整したとき、時間が経つにつれて吸収波長が長波長へ移動して赤色−近赤外線領域(red-near infrared ranges)の光を吸収することが分かる。これは、pH感受性金ナノ粒子の表面リガンドの加水分解が起こって負電荷から正電荷へと電荷が変化する過程で粒子が静電気的引力によって結合して凝集体を形成するためである。
【0054】
正常細胞はpH7.3〜7.4程度の中性環境を持っているので、正常細胞周辺のpH感受性金ナノ粒子は600nm以下の可視光領域の光のみを吸収する。しかし、pH5.5程度の酸性環境を示す癌細胞周辺のpH感受性金ナノ粒子の場合、凝集体を形成しながら赤色−赤外線領域(red-infrared range)の光を吸収することができる。赤色−赤外線領域の光は、癌細胞に対する選択的な光熱治療と共に皮膚および血液などの生体物質による吸収、散乱の度合いが小さくて体内透過性が高いので、光熱効果を高めることができるという利点を持っている。
【0055】
〈暗視野顕微鏡による観察〉
子宮頸癌細胞にpH感受性金ナノ粒子を処理した後、暗視野顕微鏡で撮影した。撮影された写真を図3に示した。凝集体を形成しながら吸収波長が長波長へ移動して赤色−近赤外線領域の光を吸収するので、暗視野顕微鏡で赤く見えることが分かる。
【0056】
エンドソーム(endosomes)によるエンドサイトーシス(endocytosis)を介してpH感受性ナノ粒子が細胞内に引き込まれると、エンドソームがリソソームに変化する過程で酸性の環境に露出されるので、pH感受性金ナノ粒子が凝集体を形成する。
【0057】
〈光熱治療試験〉
インビトロ(in vitro)条件でpH感受性金ナノ粒子の癌光熱治療試験を行った。実験群は子宮頸癌細胞とpH感受性金ナノ粒子を共に培養して癌細胞内にpH感受性ナノ粒子の捕獲を誘導した。比較群は、培養の際にpH感受性金ナノ粒子を入れていないサンプルである。実験群と比較群の各サンプルに、660nm波長を発光するレーザーを用いて10分間140mW、85mWおよび55mWのように互いに異なる出力のエネルギーで照射した。レーザー照射の後、実験群と比較群をトリパンブルー(trypan blue)溶液を用いて染色し、光学顕微鏡で観察した。撮影された写真を図4に示した。レーザーが照射された部分は図4に丸印で表示されている。
【0058】
トリパンンブルー染色法は、死んだ細胞のみを選択的に青色に染色する。まず、閾値レーザー出力以下と思料される55mWのレーザー出力で照射された実験群と比較群のサンプルの場合、両方とも死んだ細胞が発見されない。これは光照射閾値以下の条件でpH感受性金ナノ粒子が毒性を示さないことを意味する。すなわち、抗癌治療用光増感剤の要件である暗条件の非毒特性をpH感受性金ナノ粒子が持っていることを意味する。85mW出力のレーザーを用いて光照射を行った場合、実験群のサンプルにのみ選択的に細胞の死滅が起こっていることが分かる。140mW出力のレーザーを用いて光照射を行った場合も、実験群のサンプルにのみ選択的に細胞の死滅が起こっていることが分かる。また、実験群は、140mW出力で光照射した場合が、85mW出力で光照射した場合に比べてさらに多くの細胞の死滅が起こったことが分かる。これは、光出力に比例して細胞の死滅を誘導する光熱治療反応が起こったことを意味するとともに、pH感受性金ナノ粒子が癌の光熱治療に効果的に使用できることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に化合物を有する金属ナノ粒子であって、
前記化合物の電荷がpHによって変化することを特徴とする、金属ナノ粒子。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子は、金属粒子または金属コーティング粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の金属ナノ粒子。
【請求項3】
前記金属は、金であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【請求項4】
前記化合物は、中性およびアルカリ性環境では負電荷であり、酸性環境では正電荷に変化することを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【請求項5】
前記化合物の加水分解によって前記化合物の電荷が変化することを特徴とする、請求項4に記載の金属ナノ粒子。
【請求項6】
前記化合物は下記化学式(I)で表されることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【化1】

【請求項7】
前記金属ナノ粒子は、前記化合物の電荷が変化することによって凝集することを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子は凝集すると長波長の光を吸収することを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【請求項9】
前記化合物が金属のリガンドに結合することを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【請求項10】
pH感受性金属ナノ粒子を製造する方法であって、
pHによって電荷が変化するpH感受性化合物を金属ナノ粒子の表面に結合させることを特徴とする、pH感受性金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子は、金粒子または金コーティング粒子であることを特徴とする、請求項10に記載のpH感受性金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記化合物は下記化学式(I)で表されることを特徴とする、請求項10または11に記載のpH感受性金属ナノ粒子の製造方法。
【化2】

【請求項13】
前記化合物はリガンド置換により前記金属ナノ粒子に結合されることを特徴とする、請求項12に記載のpH感受性金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記金ナノ粒子の表面は、クエン酸塩で安定化されていることを特徴とする、請求項13に記載のpH感受性金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
異常細胞を死滅させる方法であって、
pH感受性金属ナノ粒子を投与して凝集させ、凝集した金属ナノ粒子に光を照射することを特徴とする、異常細胞の死滅方法。
【請求項16】
前記異常細胞は、酸性のpHを示す細胞であることを特徴とする、請求項15に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項17】
前記異常細胞は、癌細胞であることを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項18】
前記金属ナノ粒子は、細胞内に導入されて前記細胞内で凝集することを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子は、金粒子または金コーティング粒子であることを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項20】
前記化合物の少なくとも一部の電荷が、酸性のpH環境で変化することを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項21】
前記化合物の電荷が、加水分解によって変化することを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項22】
酸性のpH環境で前記化合物が加水分解すると、前記化合物の電荷が負電荷から正電荷に変化することを特徴とする、請求項21に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項23】
前記化合物は下記化学式(I)で表されることを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【化3】

【請求項24】
前記金属ナノ粒子の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項25】
前記光は、赤色光または赤外光であることを特徴とする、請求項15または16に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項26】
前記光は、レーザーであることを特徴とする、請求項25に記載の異常細胞の死滅方法。
【請求項27】
前記化学式(I)で表されるpH感受性化合物またはその塩。
【化4】

【請求項28】
pH感受性化合物を製造する方法であって、
リポ酸とエチレンジアミンとを反応させて下記化学式(II)の化合物を生成し、
【化5】

前記化学式(II)の化合物を無水シトラコン酸と反応させて下記化学式(III)の化合物を生成し、
【化6】

前記化学式(III)の化合物と水素化ホウ素ナトリウムと反応させて下記化学式(I)の化合物を生成する、
【化7】

ことを特徴とする、pH感受性化合物の製造方法。
【請求項29】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のpH感受性粒子を含むセンサー。
【請求項30】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のpH感受性粒子を投与し、前記ナノ粒子の暗視野顕微鏡写真を撮影して癌を診断することを特徴とする、癌診断方法。
【請求項31】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のpH感受性粒子を含む造影剤。
【請求項32】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のpH感受性粒子を含む癌診断用試薬。
【請求項33】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のpH感受性粒子を含む癌治療剤。
【請求項34】
金ナノ粒子に赤外線を照射して粒子を発熱させることを特徴とする、粒子発熱方法。
【請求項35】
前記金ナノ粒子の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする、請求項34に記載の粒子発熱方法。
【請求項36】
平均粒径が20nm以下の金属ナノ粒子からなり、平均粒径が0.5〜2μmの金属ナノ粒子クラスター。
【請求項37】
赤外線を吸収することを特徴とする、請求項36に記載の金属ナノ粒子クラスター。
【請求項38】
1〜500nmの平均粒径を有し、pH感受性化合物を含み、酸性のpH環境で前記ナノ粒子を凝集することを特徴とする、金属ナノ粒子。
【請求項39】
前記pH感受性化合物は、pH感受性高分子および/または低分子化合物であることを特徴とする、請求項38に記載の金属ナノ粒子。
【請求項40】
前記化合物は、コーティング、置換、または混合によって金属ナノ粒子に導入されることを特徴とする、請求項38または39に記載の金属ナノ粒子。
【請求項41】
下記化学式(III)で表される化合物。
【化8】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526883(P2011−526883A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516156(P2011−516156)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003640
【国際公開番号】WO2010/002217
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(509021122)ポステック アカデミー−インダストリー ファンデーション (7)
【Fターム(参考)】