説明

pH指示薬およびその製造方法

【課題】高感度にpHを測定可能な蛍光化合物を含むpH指示薬を提供する。
【解決手段】一般式(1a)で表される第1の蛍光化合物、または、一般式(2a)で表される第2の蛍光化合物であるpH指示薬である。



[一般式(1a)および一般式(2a)中、Rは水素原子または置換基を表し、Rは置換基を表す。RおよびRは水素原子、アルキル基等を表す。nは0〜4の整数を表わし、nが2以上のとき隣り合う2つのRは互いに連結して環を形成してもよい。Zは−NR基に変換可能な官能基または−NR基から誘導可能な官能基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH指示薬およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞や組織のpHを測定する技術として、pHに感受性を有する種々の蛍光化合物が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの蛍光物質においてはpHに依存して主にその蛍光強度が変化する。
一方、シクロメタレート型イリジウム(III)錯体は、優れた発光特性を持ち、有機EL基材等として汎用されている。特にIr(tpy)やIr(ppy)、Ir(piq)などのイリジウム(III)錯体(tpy=2−トリルピリジン、ppy=2−フェニルピリジン、piq=1−フェニルイソキノリン)は、マイクロ秒単位の長い蛍光寿命と高い発光量子収率を有している。例えば有機EL基材として、アミノ基やカルボキシ基を有するシクロメタレート型イリジウム(III)錯体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−207112号公報
【特許文献2】国際公開第08/059910号パンフレット
【特許文献3】特開2004−103547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に記載のpH感受性蛍光化合物では、pHに依存して蛍光強度が変化するため、充分な感度を得ることが難しい場合があった。また、特許文献3にはアミノ基を有するシクロメタレート型イリジウム(III)錯体が形式的に記載されているにすぎず、その発光特性や製造方法等については実質的に開示されていないに等しい。
【0005】
本発明は、高感度にpHを測定可能な蛍光化合物を含むpH指示薬、および、その製造方法、ならびに、該pH指示薬を用いたpH測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(1)で表される配位子とを有する第1の蛍光化合物、または、8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(2)で表される配位子とを有する第2の蛍光化合物であるpH指示薬。
【0007】
【化1】

【0008】
[一般式(1)および一般式(2)中、Rは水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表す。nは0〜4の整数を表わし、nが2以上のとき隣り合う2つのRは互いに連結して環を形成してもよい。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。Zは−NR基に変換可能な官能基または−NR基から誘導可能な官能基を表す。#は遷移金属との配位結合位置を表す]
【0009】
<2> 前記第1の蛍光化合物は下記一般式(1a)で表され、前記第2の蛍光化合物は下記一般式(2a)で表される、前記<1>に記載のpH指示薬。
【0010】
【化2】

【0011】
[一般式(1a)および一般式(2a)中、R〜R、Zおよびnは前記一般式(1)および一般式(2)におけるR〜R、Zおよびnとそれぞれ同一である]
【0012】
<3> 前記Zが下記一般式(a)〜一般式(h)のいずれかで表される官能基である、前記<1>または<2>に記載のpH指示薬。
【0013】
【化3】

【0014】
[一般式(a)〜(h)中、RおよびRは、一般式(1)におけるRおよびRとそれぞれ同一である。R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基を表す。]
【0015】
<4> 前記Rが水素原子またはアルキル基であって、前記nが0である、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のpH指示薬。
【0016】
<5> 前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のpH指示薬を測定対象である媒体に接触させることと、前記pH指示薬に含まれる蛍光化合物を励起する波長の光を照射することと、前記励起された蛍光化合物に由来する蛍光スペクトルを得ることと、得られた蛍光スペクトルから前記媒体のpHを求めることと、を含むpH測定方法。
【0017】
<6> 下記一般式(3)で表される化合物をニトロ化して下記一般式(4)で表される化合物を得ることと、下記一般式(4)で表される化合物のニトロ基を還元することと、を含む下記一般式(5)で表される蛍光化合物の製造方法。
【0018】
【化4】

【0019】
[一般式(2)、一般式(4)、および一般式(5)中、Rは水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表す。nは0〜4の整数を表わし、nが2以上のとき、隣り合う2つのRは互いに連結して環を形成してもよい。]
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高感度にpHを測定可能な蛍光化合物を含むpH指示薬、および、その製造方法、ならびに、該pH指示薬を用いたpH測定方法を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例にかかる蛍光化合物の蛍光スペクトルのpH感受性の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例にかかる蛍光化合物の蛍光強度のpH感受性の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例にかかる蛍光化合物の蛍光スペクトルのpH変化に対する可逆性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
【0023】
本発明のpH指示薬は、8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(1)で表される配位子とを有する第1の蛍光化合物、または、8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(2)で表される配位子とを有する第2の蛍光化合物である。
【0024】
【化5】

【0025】
一般式(1)および一般式(2)中、Rは水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表す。nは0〜4の整数を表わし、nが2以上のとき、隣り合う2つのRは互いに連結して環を形成してもよい。またRおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。さらにZは−NR基に変換可能な官能基または−NR基から誘導可能な官能基を表す。尚、#は遷移金属との配位結合位置を表す。
【0026】
本発明における第2の蛍光化合物は、例えば、それが含まれる媒体のpHに応じて第1の蛍光化合物に変換可能である。また例えば、前記第2の蛍光化合物における官能基Zが第1の蛍光化合物におけるアミノ基と比べて電子供与性が低い官能基である場合、第1の蛍光化合物の蛍光スペクトルにおける発光波長は、第2の蛍光化合物の蛍光スペクトルにおける発光波長に比べて、長波長に大きくシフトする。そのため、第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物の少なくとも一方に由来する蛍光スペクトルを得ることで、第1の蛍光化合物または第2の蛍光化合物と接触した媒体のpHを高感度に測定することができる。
【0027】
具体的には例えば、第1の蛍光化合物(1b)および第2の蛍光化合物(2b)が下記構造式で表される化合物である場合、図1に示すようにこれらの蛍光化合物が含まれる媒体のpHに応じて、蛍光スペクトルにおける発光波長が大きく変化する。
【0028】
【化6】

【0029】
本発明における第1の蛍光化合物は、8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(1)で表される配位子とを有し、第2の蛍光化合物は、8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(2)で表される配位子とを有する。
【0030】
【化7】

【0031】
一般式(1)および一般式(2)中、Rは水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表す。RおよびRにおける置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン原子、カルボニル基等を挙げることができる。また前記置換基は可能であればさらに置換基を有していてもよい。
【0032】
またnは0〜4の整数を表わし、nが2以上の場合、隣り合う2つのRは互いに結合して環を形成してもよい。前記環としては脂肪族環であっても芳香族環であってもよいが、芳香族環であることが好ましい。隣り合う2つのRが互いに結合して環を形成する場合の一般式(1)または一般式(2)で表される配位子としては、例えば下記一般式(1’)または一般式(2’)で表される配位子を挙げることができる。
【0033】
【化8】

【0034】
一般式(1’)および一般式(2’)中、R〜R、Zおよびnは一般式(1)および一般式(2)におけるR〜R、Zおよびnと同一である。
【0035】
本発明においては、測定感度の観点から、Rが水素原子、アルキル基、またはアリール基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。またRは、測定感度の観点から、アルキル基またはアリール基であることが好ましい。さらにnは0〜2の整数であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0036】
また一般式(1)におけるRおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。本発明においてRおよびRは、測定するpH範囲に応じて適宜選択することができる。例えば、後述する一般式(2)におけるZが一般式(a)で表されるアンモニウム基である場合、RおよびRとしてアルキル基を選択することで、水素原子を選択した場合に比べて、より高いpH範囲を測定することができる。
【0037】
前記RおよびRがアルキル基またはアリール基である場合、これらはさらに置換基を有していてもよい。置換基としては特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、一般式(2)におけるZが一般式(a)で表されるアンモニウム基である場合、RおよびRで表されるアルキル基またはアリール基が電子供与性の置換基を有することで、無置換の場合に比べて、より高いpH範囲を測定することができる。
本発明におけるR、Rとしては、測定感度の観点から、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。
【0038】
本発明において一般式(2)におけるZは、一般式(1)における置換基である−NR基に変換可能な官能基または−NR基から誘導可能な官能基を表す。前記Zで表される官能基は、第2の蛍光化合物が置かれたpH環境に応じて−NR基に変換可能な官能基であることが好ましい。またこの変換は可逆的な変換であっても、不可逆的な変換であってもよいが、可逆的な変換であることが好ましい。
Zで表される官能基が例えば、pH環境に応じて可逆的に−NR基に変換可能である場合、第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物の少なくとも一方を含む媒体のpH変化を経時的に測定することができる。
【0039】
また前記Zで表される官能基は、第2の蛍光化合物が置かれたpH環境以外の環境変化に応じて−NR基に変換可能な官能基であってもよい。例えば、溶媒の極性変化等に応じて−NR基に変換可能であることで溶媒の極性等を観測することができる。
【0040】
さらに前記Zで表される−NR基から誘導可能な官能基としては、−NR基の窒素原子とともに共役系を構成する官能基であることが好ましく、−NR基の窒素原子とともに共役系を構成する塩基性官能基であることがより好ましい。これにより第2の蛍光化合物の蛍光スペクトルが変化するpH範囲を所望のpH範囲に変更することができる。
【0041】
Zで表される官能基として具体的に例えば、下記一般式(a)〜一般式(h)で表される官能基を挙げることができる。
【0042】
【化9】

【0043】
一般式(a)〜一般式(h)におけるRおよびRは、前記一般式(1)におけるRおよびRとそれぞれ同一である。
〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基を表す。
【0044】
本発明においてZで表される官能基は、測定感度の観点から、一般式(a)、一般式(b)、一般式(c)および一般式(d)のいずれかで表されることが好ましく、一般式(a)、一般式(c)および一般式(d)のいずれかで表されることがより好ましい。
【0045】
前記8族から10族の遷移金属としては例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウムおよびイリジウムを挙げることができる。中でもイリジウム、ルテニウムであることが好ましく、イリジウムであることがより好ましい。
【0046】
第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物は中心金属として8族から10族の遷移金属を含む錯体化合物であって、一般式(1)で表される配位子および一般式(2)で表される配位子をそれぞれ少なくとも1つ有する。
本発明の蛍光化合物における配位子の総数は、中心金属に応じて適宜選択される。
【0047】
例えば、前記中心金属がイリジウムである場合、第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物における配位数は一般的には6であり、一般式(1)で表される配位子および一般式(2)で表される配位子はそれぞれ2座配位子である。従って、本発明における第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物は、一般式(1)で表される配位子および一般式(2)で表される配位子に加えて、一般式(1)で表される配位子および一般式(2)で表される配位子以外のその他の配位子を有することができる。その他の配位子としては特に限定されないが、測定感度と蛍光化合物の製造適性の観点から、アリールピリジン構造を有する配位子であることが好ましい。
【0048】
すなわち、本発明における第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物は、それぞれ下記一般式(1b)および一般式(2b)で表される化合物であることが好ましい。尚、一般式(1b)および一般式(2b)におけるiは1〜3の整数を表わし、R〜R、Zおよびnは一般式(1)および一般式(2)におけるR〜R、Zおよびnとそれぞれ同一である。
【0049】
【化10】

【0050】
第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物に含まれる上記一般式(1)および上記一般式(2)で表される配位子数はそれぞれ1以上であればよいが、測定感度の観点から、2または3であることが好ましく、3であることがより好ましい。すなわち本発明における第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物は、それぞれ下記一般式(1a)および一般式(2a)で表されることが好ましい。
【0051】
【化11】

【0052】
一般式(1a)および一般式(2a)におけるR〜RおよびZは、一般式(1)および一般式(2)におけるR〜RおよびZとそれぞれ同一である。
【0053】
<pH測定方法>
本発明のpH測定方法は、既述のpH指示薬を測定対象である媒体に接触させることと、前記pH指示薬に含まれる蛍光化合物を励起する波長の光を照射することと、前記励起された蛍光化合物に由来する蛍光スペクトルを得ることと、得られた蛍光スペクトルからpHを求めることと、を含む。
媒体のpHに応じて蛍光スペクトルにおける発光波長が大きく変化する蛍光化合物を用いることで高感度にpHを測定することができる。
【0054】
本発明のpH測定方法における媒体には特に制限はなく、水や有機溶剤等の一般的な媒体に加えて例えば、細胞質等であってもよい。一般にガン細胞においては正常細胞に比べて細胞質のpHが低下していることが知られている。そのため、本発明のpH測定方法はガン細胞およびガン組織の検出に好適に用いることができる。
また、媒体と接触させる前記第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物の量は、第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物の少なくとも一方に由来する蛍光スペクトルが検出できれば特に制限はなく、例えば、0.001μM〜100μMとすることができる。
【0055】
本発明のpH測定方法は、本発明のpH指示薬を媒体と接触させる方法は、測定対象である媒体に応じて適宜選択することができる。例えば、pH指示薬を含む溶液を媒体に添加する方法等を挙げることができる。
【0056】
また本発明のpH測定方法は、pH指示薬に含まれる蛍光化合物に応じて選択される励起波長の光を照射することと、励起された蛍光化合物に由来する蛍光スペクトルを得ることとを含む。
本発明において、第1の蛍光化合物と第2の蛍光化合物とでは、その発光波長が大きく異なる。従って励起された蛍光化合物に由来する蛍光スペクトルを得ることは、第1の蛍光化合物および第2の蛍光化合物に応じて選択される発光波長における光をそれぞれ検出することであることが好ましい。
尚、蛍光スペクトルは、例えば一般的な蛍光スペクトル測定装置を用いて測定することができる。
【0057】
得られた蛍光スペクトルから媒体のpHを求める方法としては、例えば、第1の蛍光化合物の発光波長における蛍光強度と、第2の蛍光化合物の発光波長における蛍光強度とを比較することでpHを求める方法を挙げることができる。また蛍光強度の比較方法はその差をとる方法であっても、その比をとる方法であっても、両者を組み合わせる方法であってもよい。
【0058】
<蛍光化合物の製造方法>
本発明の下記一般式(5)で表される化合物の製造方法は、下記一般式(3)で表される化合物をニトロ化して下記一般式(4)で表される化合物を得る工程と、下記一般式(4)で表される化合物のニトロ基を還元する工程と、を含み、必要に応じてその他の工程を含んで構成される。かかる製造方法であることで、一般式(5)で表される化合物を効率的に製造することができる。
【0059】
【化12】

【0060】
一般式(3)、一般式(4)および一般式(5)中、R、Rおよびnは前記一般式(1)におけるR、Rおよびnとそれぞれ同義であり、好ましい態様も同様である。
【0061】
一般式(3)で表される化合物をニトロ化する方法としては、通常用いられる芳香族化合物のニトロ化剤を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、発煙硝酸、硝酸銅(II)等を挙げることができる。
反応条件としては、目的化合物が得られる限り特に制限はなく、例えば、米国特許出願公開第2005/0253135号明細書に記載の反応条件を用いることができる。
【0062】
本発明における一般式(3)で表される化合物をニトロ化して上記一般式(4)で表される化合物を得る工程は、必要に応じて、後処理工程、精製工程等をさらに含んでいてもよい。
【0063】
一般式(4)で表される化合物のニトロ基を還元する方法としては、芳香族ニトロ基を還元してアミノ基に変換可能な方法であれば、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、接触水素添加反応や、塩化スズ(II)、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム等の還元剤を用いる方法等を挙げることができる。中でも反応効率の観点から、塩化スズ(II)、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム等の還元剤を用いる方法であることが好ましい。
またニトロ基を還元する反応条件は、用いる還元方法に応じて適宜選択することができる。
【0064】
一般式(4)で表される化合物のニトロ基を還元する工程は、精製工程をさらに含むことが好ましい。精製工程としては塩基性化合物の精製方法として通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。例えば、イオン交換カラムを用いた精製方法や、ニトロ基を還元して得られたアミノ基に保護基を導入する工程と、アミノ基が保護された化合物を精製する工程と、アミノ基の保護基を脱保護する工程とを含む精製方法を挙げることができる。
【0065】
前記保護基としては、アミノ基の保護に通常用いられる保護基を特に制限なく用いることができ、例えば、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル、およびアリールスルホニル基等を挙げることができる。
【0066】
アミノ基が保護された化合物の精製方法としては、例えば、再結晶、シリカゲルカラムクロマト等の通常用いられる精製方法を特に制限なく用いることができる。
また脱保護する方法は、目的とする一般式(5)で表される化合物が得られる限り特に制限はなく、用いる保護基に応じて適宜選択することができる。
【0067】
本発明の製造方法で得られる一般式(5)で表される化合物およびその誘導体は、既述のpH測定方法に好適に適用することができるほか、例えば、特開2004−103547号公報等に記載されているように、有機発光素子や有機トランジスタにも好適に適用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0069】
(実施例1)
fac−トリス[2−(4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)48mg(69μmol)を無水酢酸2mlに溶解した溶液に、0℃で硝酸銅(II)3水和物25mg(103μmol)を加えた後、室温で1日間攪拌した。水5mlを加えた後、クロロホルムにて抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で脱水し、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトにて精製し、fac−トリス[2−(5’−ニトロ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を56mg(収率98%)得た。
mp.>300℃
IR(KBr):ν= 2803, 1591, 1563, 1547, 1489, 1422, 1364, 1283, 1199, 1161, 1069, 1023, 918, 822, 786, 759, 719, 699, 637 cm−1.
H NMR(300 MHz, CDCl3/TMS): δ = 8.44 (s, 3H), 8.04 (d, J = 8.2 Hz, 3H), 7.79 (t, J = 7.7 Hz, 3H), 7.45 (d, J = 5.0 Hz, 3H), 7.05 (t, J = 6.8 Hz, 3H), 6.71 (s, 3H), 2.44 (s, 3H).
MS(m/z):Calcd for C36H27IrN6O6(M+): 832.1629. Found: 832.1616.
元素分析:Calcd for C36H27IrN6O6: C, 51.98; H, 3.27; N, 10.10%. Found: C, 48.38; H, 2.89; N, 8.96%.
【0070】
上記で得られたfac−トリス[2−(5’−ニトロ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)60mgおよび塩化スズ(II)2水和物244mgをエタノール10ml中50℃で5分攪拌した後、水素化ホウ素ナトリウム82mgを加えた。還流温度で30分間攪拌した後、さらに室温で30分間攪した。次いでジ(t-ブチル)ジカーボネート157mgを加え、還流温度で3時間攪拌した。室温まで放冷した後、不溶物を濾去し、濾液に水5mlを加えてクロロホルムにて抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で脱水し、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトにて精製し、fac−トリス[2−(5’−t−ブチルオキシカルボニルアミノ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を67mg(収率93%)得た。
mp.>300℃
H NMR(300 MHz, CDCl3/TMS):δ = 8.08 (s, 3H), 7.84 (d, J = 7.8 Hz, 3H), 7.48 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 7.40 (d, J = 5.1 Hz, 3H), 6.75 (t, J = 6.3 Hz, 3H), 6.61 (s, 3H), 6.11 (s, 3H), 2.02 (s, 9H), 1.51 (s, 27H).
MS(m/z):Calcd for C51H57IrN6O6(M+): 1040.3938 Found: 1040.3940.
【0071】
アセトニトリル5mlにトリメチルシリルクロリド31mgおよびヨウ化ナトリウム43mgを加えて室温で15分間攪拌した。そこへ上記で得られたfac−トリス[2−(5’−t−ブチルオキシカルボニルアミノ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)50mgを加えて室温で12時間攪拌した。クロロホルム20mlを加えて不溶物を濾取し、クロロホルムとヘキサンで洗浄した。得られた緑色の化合物をイオン交換カラムクロマト(IRA−400,OH型)で精製し、fac−トリス[2−(5’−アミノ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を34mg(収率98%)得た。
mp.>300℃
IR(KBr):ν = 3319, 1596, 1542, 1468, 1427, 1393, 1294, 1264, 1181, 1061, 781, 747 cm−1.
H NMR(300 MHz, DMSO-d6/TMS):ν = 7.76 (d, J = 7.8 Hz, 3H), 7.67 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 7.31 (d, J = 4.8 Hz, 3H), 7.03 (s, 3H), 6.95 (t, J = 6.0 Hz, 3H), 6.33 (s, 3H), 4.09 (br, 6H). 1.81 (s, 9H).
MS(m/z):Calcd for C36H27IrN6O6(M+): 740.2365, Found: 740.2367.
元素分析:Calcd for C36H27IrN6O6: C, 58.28; H, 4.48; N, 11.33%, Found: C, 55.16; H, 4.86; N, 11.47%.
【0072】
(実施例2)
fac−トリス[2−フェニルピリジン]イリジウム(III)40mgを無水酢酸2mlに溶解した溶液に、0℃で硝酸銅(II)3水和物22mgを加えた後、室温で1日間攪拌した。水5mlを加えた後、クロロホルムにて抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で脱水し、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトにて精製し、fac−トリス[2−(5’−ニトロフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を50mg(収率100%)得た。
mp.>300℃
IR(KBr):ν =2923, 2854, 1563, 1492, 1322, 1106, 1047, 1027, 881, 786, 754 cm−1.
H NMR(300 MHz, CDCl3/TMS):ν = 8.54 (d, J = 2.4 Hz, 3H), 8.12 (d, J = 7.9 Hz, 3H), 7.84 (t, J = 7.7 Hz, 3H), 7.67 (dd, J = 8.4, 2.0 Hz, 3H), 7.51 (d, J = 5.5 Hz, 3H), 7.12 (t, J = 5.7 Hz, 3H), 6.90 (d, J = 8.2 Hz, 3H).
MS(m/z):Calcd for C33H21IrN6O6(M+): 790.1177, Found: 790.1146.
元素分析:Calcd for C33H21IrN6O6: C, 50.19; H, 2.68; N, 10.64%, Found: C, 49.84; H, 2.61; N, 10.37%.
【0073】
上記で得られたfac−トリス[2−(5’−ニトロフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてfac−トリス[2−(5’−アミノフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を得た。
【0074】
(実施例3)
上記で得られたfac−トリス[2−(5’−アミノ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)および脱気したDMSO/100mM緩衝液を用いて、pH4〜9の錯体溶液(錯体濃度100μM)をそれぞれ調製した。尚、錯体溶液のpH(20℃)は通常のpHメーターで測定した。また緩衝液としてはGood’s緩衝液(同仁化学研究所社製)を用いた。
調製した錯体溶液それぞれについて、励起波長366nmにおける発光スペクトル(20℃)を測定した。得られた発光スペクトルを図1に示す。また発光スペクトルから得られたpHと発光強度の関係を図2に示す。尚、図2において「○」は531nmにおける発光強度を、「●」は590nmにおける発光強度を示す。
【0075】
図1、図2から分かるように、本発明にかかる蛍光化合物の蛍光スペクトルは、pHに依存して発光波長が大きく変化することが分かる。すなわち本発明にかかる蛍光化合物の蛍光スペクトルを得ることで、蛍光化合物を含む媒体のpHが測定できる。
【0076】
(実施例4)
上記で得られたfac−トリス[2−(5’−アミノ−4’−メチルフェニル)ピリジン]イリジウム(III)を脱気したDMSOに溶解して、錯体溶液(錯体濃度10μM)を調製した。得られた錯体溶液に、塩化水素の1,4−ジオキサン溶液(1M)、DBUの1,4−ジオキサン溶液(1M)を交互に添加して得られるそれぞれの錯体溶液について、励起波長366nmにおける発光スペクトル(20℃)を測定した。得られた発光スペクトルを図3に示す。尚、図3には508nmにおける蛍光強度の変化を示すグラフも併せて示した。
【0077】
図3から、本発明にかかる蛍光化合物においては、pH変化に依存して可逆的にその蛍光スペクトルが変化することがわかる。すなわち、本発明にかかる蛍光化合物を用いることで、これを含む媒体のpH変化を経時的に測定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(1)で表される配位子とを有する第1の蛍光化合物、または、8族から10族の遷移金属と該遷移金属に配位結合している下記一般式(2)で表される配位子とを有する第2の蛍光化合物であるpH指示薬。
【化1】


[一般式(1)および一般式(2)中、Rは水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表す。nは0〜4の整数を表わし、nが2以上のとき、隣り合う2つのRは互いに連結して環を形成してもよい。RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。Zは−NR基に変換可能な官能基または−NR基から誘導可能な官能基を表す。#は遷移金属との配位結合位置を表す]
【請求項2】
前記第1の蛍光化合物は下記一般式(1a)で表され、かつ、前記第2の蛍光化合物は下記一般式(2a)で表される、請求項1に記載のpH指示薬。
【化2】



[一般式(1a)および一般式(2a)中、R〜R、Zおよびnは前記一般式(1)および一般式(2)におけるR〜R、Zおよびnとそれぞれ同一である]
【請求項3】
前記Zが下記一般式(a)〜一般式(h)のいずれかで表される官能基である、請求項1または請求項2に記載のpH指示薬。
【化3】



[一般式(a)〜(h)中、RおよびRは、一般式(1)におけるRおよびRとそれぞれ同一である。R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基を表す]
【請求項4】
前記Rが水素原子またはアルキル基であって、前記nが0である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のpH指示薬。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のpH指示薬を測定対象である媒体に接触させることと、
前記pH指示薬に含まれる蛍光化合物を励起する波長の光を照射することと、
前記励起された蛍光化合物に由来する蛍光スペクトルを得ることと、
得られた蛍光スペクトルから前記媒体のpHを求めることと、
を含むpH測定方法。
【請求項6】
下記一般式(3)で表される化合物をニトロ化して下記一般式(4)で表される化合物を得ることと、
下記一般式(4)で表される化合物のニトロ基を還元することと、を含む下記一般式(5)で表される蛍光化合物の製造方法。
【化4】


[一般式(3)、一般式(4)、および一般式(5)中、Rは水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表す。nは0〜4の整数を表わし、nが2以上のとき、隣り合う2つのRは互いに連結して環を形成していてもよい。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−242372(P2011−242372A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117412(P2010−117412)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】