説明

pH標的化薬剤送達のための組成物及び方法

本発明は、哺乳類における医薬活性薬剤の標的化、特にpH標的化送達のための組成物及び方法を提供する。本組成物は、pHが特定値より高い環境にさらすと、医薬活性薬剤の放出を可能にするpH感受性ジブロックコポリマーを含む。本組成物は、水不溶性医薬活性薬剤の経口送達に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
この出願は、開示内容を参照によって本明細書に組み込んだものとする2006年9月22日に提出された米国特許出願第60/846,355号の利益及び優先権を主張する。
〔発明の分野〕
本発明は、一般的に医薬活性薬剤の標的化送達のための組成物及び方法に関し、さらに詳細には、本発明は、医薬活性薬剤のpH標的化送達のための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類における医薬活性薬剤の送達のためいくつかのアプローチが開発されている。その目的は、医薬活性薬剤を、その薬理作用を与え得る哺乳類の部位に送達することである。しかし、一定の薬剤では、周囲のpHによって媒介され得る部位特異的送達に利益があることが認めらる。これは、例えば、活性成分を胃の酸性環境から保護する必要があるが、該薬剤が胃を出て大腸の中に移動したら吸収できるようにする必要がある、経口投与に役立ち得る。例えば、1つのアプローチとして、pH感受性ポリマー、例えばEudragit(登録商標)を用いたコーティングカプセル剤又は錠剤が挙げられ、このpH感受性ポリマーは、カプセル剤又は錠剤の完全性を維持しながら胃を通過するが、腸内でpHが上昇するにつれて溶解する。しかし、これらのコーティングは、カプセル剤又は錠剤内に含まれる水不溶性薬剤の溶解度を改善しない。
結果として、未だに他のpH標的化薬剤送達システムが要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
〔発明の概要〕
本発明は部分的に、水不溶性医薬活性薬剤の溶解度を高め、かつpH依存様式で活性薬剤を送達するpH感受性ジブロックコポリマーを含む組成物を製造して、哺乳類における該活性薬剤のバイオアベイラビリティーを高めることができるという発見に基づく。pH随意の環境、例えば、約4より高いpHに組成物をさらすと、組成物は哺乳類内での吸収のため医薬活性薬剤を放出する。組成物は特に経口薬剤送達に有用である。胃内に組成物があるとき、組成物は実質的な量の医薬活性薬剤を放出しない(例えば、10%未満)。しかし、組成物が胃を離れて大腸に入ると、pHの上昇の結果として、pH依存様式で組成物が医薬活性薬剤を放出し始める。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一局面では、本発明は、水不溶性医薬活性薬剤のpH標的化送達用組成物を提供する。本組成物は、(a)複数のpH感受性ジブロックコポリマー;及び(b)ジブロックコポリマーと会合した水不溶性医薬活性薬剤を含む。本組成物は、さらに、pH約2の水溶液と接触する際には約10%未満の医薬活性薬剤が組成物から2時間後に放出されるが、少なくとも6又はそれより高いpHを有する同一若しくは類似組成物の水溶液においては少なくとも60%の医薬活性薬剤が組成物から2時間以内に放出されることを特徴とする。本組成物を乾燥形態、例えば、錠剤、又は生理学的に許容しうる溶液又は懸濁液で投与できるものと解釈する。
【0005】
別の局面では、本発明は、水不溶性医薬活性薬剤のpH標的化送達用のpH感受性ミセル組成物を提供する。この組成物は、(a)複数のpH感受性ジブロックコポリマーを含むミセル;及び(b)ミセル内に配置された水不溶性医薬活性薬剤を含む。活性薬剤はpH約2の水溶液と接触すると約10%未満の医薬活性薬剤がミセルから2時間後に放出される。しかし、少なくとも6又はそれより高いpHの同一若しくは類似の水溶液内にあるときは、少なくとも60%の医薬活性薬剤がミセルから2時間以内に放出される。特定の環境下では、少なくとも70%、又は少なくとも80%の医薬活性薬剤がミセルから2時間以内に放出される。
【0006】
ジブロックコポリマーは第1ブロックと第2ブロックを含む。一実施形態では、ジブロックコポリマーの第1ブロックは、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(ビニルピロリドン)からなる群より選ばれるモノマーを含む。ジブロックコポリマーの第2ブロックは、(i)メタクリル酸及びアクリル酸からなる群より選ばれるイオン性モノマー、並びに(ii)メタクリレート及びそれらの誘導体、アクリレート及びそれらの誘導体、メタクリルアミド及びアクリルアミドからなる群より選ばれる疎水性モノマーを含む。
一実施形態において、好ましいポリマーは、第1ブロックがエチレングリコールモノマーサブユニットを含み、かつ第2ブロックがメタクリル酸とn−ブチルメタクリレートの両方のモノマーサブユニットを含む、ブロックコポリマーである。第2ブロックにおいて、モノマーサブユニットは一般的にランダムに組織されている。例えば、メタクリル酸モノマーサブユニット又はメタクリル酸モノマーサブユニットのストリングがn−ブチルメタクリレートモノマーサブユニット又はn−ブチルメタクリレートモノマーサブユニットのストリング間に散在するように、又はその逆になるようにモノマーサブユニットが配置され得る。典型的なジブロックコポリマーは以下の式(I)によって表される。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である。)
【0009】
別の局面では、本発明は、
(a)以下の式(I):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である)により表される複数のpH感受性ジブロックコポリマー;及び
(b)ジブロックコポリマーと会合したカンプトセシン誘導体、例えば、SN-38
を含む組成物を提供する。特定の実施形態では、組成物は治療的に有効な量のカンプトセシン誘導体を含む。
【0012】
別の局面では、本発明は、pH標的化薬剤送達用のpH感受性組成物の製造方法を提供する。1つのアプローチでは、この方法は、(a)pH感受性ジブロックコポリマー、例えば、上述したコポリマー、及び水不溶性医薬活性薬剤を含む溶液を製造する工程;及び(b)工程(a)の溶液を乾燥させて、乾燥品を製造する工程を含む。
一実施形態では、工程(a)で製造した溶液のpHが約7より高い。特定の環境下では、溶液を乾燥させて乾燥品を製造する前に、溶液のpHを約5〜約7に調整することが有利であり得る。さらに、1つのアプローチでは、医薬活性薬剤及びジブロックコポリマーを混合して工程(a)の溶液を製造する前に、医薬活性薬剤及びジブロックコポリマーを、異なる溶媒に溶解する。別のアプローチでは、医薬活性薬剤及びジブロックコポリマーを混合して工程(a)の溶液を製造する前に、医薬活性薬剤及びジブロックコポリマーを、同一溶媒の別々かつ離れた部分に溶解する。
別の局面では、本発明は、有効量の水不溶性医薬活性薬剤を、医薬活性薬剤を必要とする哺乳類、例えば、ヒトに対して投与する方法を提供する。この方法は、本明細書で述べる1種以上の組成物を、有効量の医薬活性薬剤を投与するように投与することを含む。組成物を経口又は非経口投与できるものと解釈する。しかし、本組成物は、水不溶性医薬活性薬剤が胃酸から保護されるが、組成物を出てpHが胃内より高い腸内に移動したら、優先的に送達かつ吸収される、経口投与に特に有用であることが認められる。また、組成物を乾燥形態で、又は懸濁液として、又は溶液で投与できることも認められる。
本発明のこれら及び他の局面及び特徴を以下の図面、詳細な説明及び特許請求の範囲で記述する。
本発明を添付図面によって説明するが、本発明はこれらの図面によって限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】典型的なpH感受性ミセル組成物の概略図である。
【図2】本発明の組成物がpHに応じてどのように変化するかを示す概略図である。
【図3】pH1.2の水性媒体中にカンプトセシン誘導体SN-38を含有する本発明のミセル組成物の溶解プロファイルのグラフである。
【図4】SN-38のみ(−■−)又はpH6.8の水性媒体中の本発明のミセル組成物由来のSN-38(−●−)の溶解プロファイルのグラフである。
【図5】SN-38のみ(−●−)又はSN-38含有組成物として(−○−)投与したSN-38のCD1マウスにおける薬物速度論を示すグラフである。
【図6】マウスにおけるSN-38の最大耐量を示すグラフであり、−●−はリン酸緩衝液を表し、−■−は25mg/kgのSN-38含有ミセルを表し、−▲−は50mg/kgのSN-38含有ミセルを表す。
【図7】スイスヌードマウスにおける腫瘍量に対するSN-38含有ミセル組成物の効力を示すグラフであり、−●−はリン酸緩衝液を表し、−■−は25mg/kgのSN-38含有ミセルを表し、−▲−は50mg/kgのSN-38含有ミセルを表し、−◆−は100mg/kgのSN-38含有ミセルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔詳細な説明〕
本発明は部分的に、pH感受性ミセルを用いて標的化送達システムを製造して、水不溶性医薬活性薬剤を哺乳類、例えばヒトに送達できるという発見に基づく。本組成物は、水不溶性医薬活性薬剤、例えば、カンプトセシン誘導体、SN-38の送達に特に有用である。
pH標的化送達システムは低いpH、例えば、約1〜約4の範囲のpHで安定であり、かつこのpH範囲内では長時間、例えば1又は2時間後まで有意な量の医薬活性薬剤を放出せず、例えば10%未満の医薬活性薬剤を放出する。哺乳類の胃のpHは約1〜約4の範囲であり得る。従って、本発明の組成物は胃内で安定なので、組成物が胃を通過するときには有意な量の医薬活性薬剤を放出しない。組成物が胃を離れて、腸上部及び腸下部に入ると、周囲環境のpHが上昇する。pH約4〜pH約6の範囲では、本発明の組成物は組成物内に配置された医薬活性薬剤を放出し始める。結果として、薬剤が組成物から放出されて腸内での吸収を可能にする。
【0015】
典型的なミセル組成物を図1に概略的に示す。特に、典型的ミセル10は、複数のpH感受性ポリマー20を含み、これら各ポリマー20は疎水性部分30と親水性部分40を含む。特定の実施形態では、親水性部分40はpH感受性(例えば、アニオン性)ポリマーによって表される。疎水性部分30が一緒にミセル10の疎水性コアを表す。親水性部分40が一緒にミセル10の親水性外部を表す。水不溶性医薬活性薬剤50は、ミセル10の疎水性コア内に優先的に分布するのが分かる。
pHに応じた本発明の組成物の動作を図2に概略的に示す。pH1〜pH4の範囲では、溶液中でミセルが凝集し、これらの条件下では、凝集したミセルは典型的に、ミセル内に配置された10質量%未満の薬剤を2時間で放出する。pH4〜pH6の範囲では、凝集ミセルが脱凝集して離散ミセルを生成し、これらの条件下で、離散ミセルは、ミセル内に配置された約40質量%〜約60質量%の薬剤を2時間で放出する。6より高いpHでは、離散ミセルが分解してジブロックコポリマーと医薬活性薬剤を放出し、これらの条件下では、分解ミセルは60質量%を超える量の薬剤を2時間以内で放出する。図2に示すように、3つの形態状態はそれぞれ相互にpHに応じて可逆的に交換可能である。これらの特性の結果として、pH標的化送達システムは低いpH、例えば1〜2のpH(胃内で見られる)では安定な集塊であり、有意な量の医薬活性薬剤を放出せず、例えば、2時間後に10%未満の医薬活性薬剤を放出する。組成物が胃を離れて腸上部に入ると、周囲環境のpHが上昇する。pH4〜6の範囲では、凝集ミセルが単ミセルに脱凝集し始め、単ミセルが胃腸管壁の粘膜に付着し得る。この時点で有意な薬剤放出が起こると考えられる。pHがさらに上昇するにつれて、腸内で起こり得るように、ミセルが分解して、腸壁を横切る吸収に最も適した分子形態で残りの薬剤を放出する。
本発明の適切な医薬活性薬剤、ジブロックコポリマー、組成物の製造方法の選択、及び本発明の組成物の投薬と投与について以下のセクションで論じる。
【0016】
I.医薬活性薬剤
本発明の組成物を用いて1種以上の水不溶性医薬活性薬剤を送達できるものと解釈する。
「医薬活性薬剤」という用語は、対象の局所的又は全身に作用する生物学的、生理学的、又は薬理学的に活性な物質であるいずれの化学的部分をも意味する。本明細書では「薬剤」とも称する医薬活性薬剤の例は周知な参考文献、例えばMerck Index、Physicians Desk Reference、及びThe Pharmacological Basis of Therapeuticsに記載されており、限定するものではないが、医薬;ビタミン;ミネラルサプリメント;疾患又は病気の治療、予防、診断、治癒又は緩和のために使用される物質;体の構造又は機能に作用する物質;又は生理学的環境内に置かれた後に生物学的に活性になるか又はさらに活性になるプロドラッグが挙げられる。本明細書で使用する場合、「水不溶性医薬活性薬剤」という用語は、水中で1mg/mL以下の溶解度を有する医薬活性薬剤を意味するものと解釈する。
本明細書で想定する組成物及び製剤は、1種以上の医薬活性薬剤を含んでよい。例えば、組成物は2、3又はそれより多くの異なる医薬活性薬剤を含んでよい。
医薬活性薬剤は組成物の目的によって広範に変化し得る。広い分類の有用な医薬活性薬剤の非限定例として以下の治療薬の分類が挙げられる:同化作用薬、抗癌剤、制酸剤、抗喘息薬、抗コレステロール血症薬、抗脂質薬、抗凝固剤、抗痙攣剤、抗下痢薬、制吐剤、抗感染薬、抗炎症薬、抗躁薬、抗催吐剤、抗腫瘍薬、抗肥満薬、解熱剤、鎮痛剤、鎮痙剤、抗血栓薬、抗尿酸血症薬、抗狭心症薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳剤、食欲抑制薬、大脳拡張剤、管状血管拡張剤、充血緩和剤、利尿剤、診断薬、高血糖症薬、催眠剤、低血糖症薬、神経筋薬、抹消血管拡張剤、向精神薬、鎮静剤、刺激剤、甲状腺剤、抗甲状腺剤、子宮弛緩薬、ビタミン、及びプロドラッグ。
特定の実施形態では、治療的に活性な薬剤は抗癌剤である。本明細書で述べる送達システムに組み入れることができる典型的な抗癌剤として、例えば、アムサクリン(amsacrine)、アナグレリン(anagreline)、アナストロゾール(anastrozole)、ビカルタミド(bicalutamide)、ブレオマイシン(bleomycin)、ブサルファン(busulfan)、カンプトセシン(camptothecin)、カンプトセシン誘導体、カルボプラチン(carboplatin)、カルムスチン(carmustine)、クロラムブシル(chlorambucil)、シスプラチン(cisplatin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、デキサメタゾン(dexamethasone)、エストラムスチン(estramustine)、エトポシド(etoposide)、フルドロコルチゾン(fludrocortisone)、メゲストロール(megestrol)、メルファラン(melphalan)、ミトマイシン(mitomycin)、テムシロリムス(temsirolimus)、テニポシド(teniposide)、タキサン(taxanes)、テストステロン(testosterone)、トレチノイン(tretinoin)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンクリスチン(vincristine)、ビンデシン(vindesine)及びビノレルビン(vinorelbine)が挙げられる。典型的なカンプトセシン誘導体として、例えば、10-ヒドロキシ-カンプトセシン、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトセシン(SN-38としても知られる)、トポテカン(topotecan)、9-アミノカンプトセシン、9-ニトロカンプトセシン、10,11-メチレンジオキシカンプトセシン、9-アミノ-10,11-メチレンジオキシカンプトセシン、9-クロロ-10,11-メチレン-ジオキシカンプトセシンが挙げられる。典型的なタキサンとして、例えば、パリタキセル(palitaxel)及びドセタキセル(docetaxel)が挙げられる。
【0017】
II.ジブロックコポリマー
本明細書で開示する薬剤送達システムは、述べたように、pH感受性であり、かつpH依存様式で医薬活性薬剤を放出する。pH感受性は、部分的に、組成物中で使用する特定のジブロックコポリマーに基づく。
ジブロックコポリマーは、第1ブロック及び第2ブロックを含む。一実施形態では、ジブロックコポリマーの第1ブロックは、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(ビニルピロリドン)からなる群より選ばれるモノマーを含む。ジブロックコポリマーの第2ブロックは、(i)メタクリル酸及びアクリル酸からなる群より選ばれるイオン性モノマーサブユニットと、(ii)メタクリレート及びそれらの誘導体、アクリレート及びそれらの誘導体、メタクリルアミド及びアクリルアミドからなる群より選ばれる疎水性モノマーとの組合せを含む。典型的なポリマー及びポリマーサブユニットは、米国特許第6,939,564号で開示されている。
一実施形態では、好ましいポリマーは、第1ブロックがエチレングリコールモノマーサブユニットを含み、かつ第2ブロックがメタクリル酸とn−ブチルメタクリレートの両方のモノマーサブユニットを含むブロックコポリマーである。第2ブロック中、モノマーサブユニットは通常、ランダムに組織されている。典型的なジブロックコポリマーは以下の式(I)で表される。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約75の範囲、さらに好ましくは約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である。)
さらに、典型的なジブロックコポリマーは、第1ブロックがエチレングリコールモノマーサブユニットを含み、かつ第2ブロックが、ランダムに配置されたメタクリル酸(Bと表す)及びn−ブチルメタクリレート(Cと表す)のモノマーサブユニットを含む、以下の式(II)によって表される。第2ブロック中のメタクリル酸(B)及びn−ブチルメタクリレート(C)のモノマーサブユニットは、例えば、BBCC、BCBC、BCCB、CBBC及びCCBBの形態でランダムに配置され得るものと解釈する。
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、30〜約120の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、10〜約50の範囲の整数である。)
別の実施形態では、好ましいジブロックコポリマーは、30〜120(好ましくは40〜110)個のメタクリル酸モノマーサブユニット及び10〜50(好ましくは20〜40)個のn−ブチルメタクリレートモノマーサブユニットのランダム配置を含む第2ブロックに共有結合している20〜60(好ましくは40〜50、さらに好ましくは45)個のエチレングリコールモノマーサブユニットを含む第1ブロックを有する。本明細書では、このポリマーを[ポリ(エチレングリコール)]−ポリ[(メタクリル酸)−(n−ブチルメタクリレート)]又はPEG-PMAと称する。本発明の実施で有用な典型的ポリマーについては実施例1でさらに詳述する。
以下のスキーム1及び2に示す合成手順を利用して前述したポリマーを作製できる。
【0022】
【化5】

【0023】
要するに、ポリ(エチレングリコール)(PEG)(MW 2,000)をテトラヒドロフラン(THF)に溶かして水素化カリウム(KH)と反応させる。次に、tert-ブチルメタクリレート(t-BMA)及びn−ブチルメタクリレート(n-BMA)を反応混合物に加えてから20℃で2時間反応させる。結果として生じたPEG−ブロック-P(nBMA-co-tBMA)コポリマーを、溶媒蒸発後に収集してからスキーム2の加水分解に供する。
【0024】
【化6】

【0025】
例えば、スキーム1のPEG−ブロック−P(nBMA-co-tBMA)を1,4−ジオキサン及び塩酸(HCl)と混合して一晩還流させる。冷却後、溶媒を除去して生成物をTHFに溶かす。次に、生成物を冷却水で沈殿させて遠心分離で収集する。生成物をTHFに2回再懸濁、沈殿及び遠心分離で収集する。結果として生じた生成物を凍結乾燥器内で乾燥させる。
【0026】
III.pH感受性組成物の製造方法及び特徴づけ
述べたように、本発明は、pH標的化薬剤送達用のpH感受性組成物の製造方法を提供する。1つのアプローチでは、本方法は、(a)pH感受性ジブロックコポリマー、例えば、セクションIIで述べたコポリマー及び水不溶性医薬活性薬剤を含む溶液を製造する工程;及び(b)工程(a)の溶液を乾燥させて、乾燥品を製造する工程を含む。例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥及び流動床乾燥といった当該分野のいくつかの技術によって乾燥工程を促進することができる。
特定の実施形態では、工程(a)で製造された溶液は約7より高いpHを有する。従って、特定の環境下では、この方法は、工程(a)の後であるが、工程(b)の前に、溶液のpHを約5〜約7のpH、例えばpH約6に調整する工程をさらに含む。他の実施形態では、水不溶性医薬活性薬剤を添加する前にジブロックコポリマー含有溶液のpHをpH約5〜pH約7に調整する。
特定の実施形態では、工程(a)の前に、pH感受性ジブロックコポリマー及び水不溶性医薬活性薬剤を、別々に、同一溶媒の2つの別々かつ離れた部分に溶解する。可溶化後、溶液を混合して工程(a)の溶液を製造する。特定の他の実施形態では、工程(a)の前に、pH感受性ジブロックコポリマー及び水不溶性医薬活性薬剤を2種の別々の溶媒、例えば、有機溶媒と水性溶媒に溶解した後、それらを一緒に混合するものと解釈する。可溶化後、溶液を混合して工程(a)の溶液を製造する。
例えば、典型的な水性溶媒として、例えば、水、緩衝液、アルカリ性溶液、及び塩溶液、例えばNaClを含む溶液が挙げられる。さらに、典型的な有機溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール)、クロロホルム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、並びにクラスII及びクラスIII溶媒が挙げられる。
【0027】
結果として生じたミセルは、典型的に、動的光散乱によって測定した場合、約1000nm未満の平均径を有する。典型的に、ミセルは約20nm〜約950nm、約30nm〜約750nm、約40nm〜約600nm、約50nm〜約500nm、約50nm〜約950nm、約50nm〜約750nm、約50nm〜約600nm、約50nm〜約400nm、又は約50nm〜約200nmの範囲のサイズを有する。
さらに、pH感受性ミセルは、粒度分布を決定するための動的光散乱で測定した場合、約5質量%〜約80質量%の医薬活性薬剤を含む範囲の装填能力を有する。特定の実施形態では、本明細書で開示する組成物は、約5質量%超えの医薬活性成分、例えば約5質量%〜約80質量%、又は約10質量%〜約60質量%、又は約15質量%〜約40質量%の医薬活性成分を含む。装填プロセス中に使用する医薬活性薬剤とポリマーの相対量を変えることによって、異なる装填能力を達成することができる。
37℃でpH6.8のリン酸緩衝液中に放出された薬剤の量を通常の高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定することによって、薬剤放出の速度論を決定することができる。
【0028】
IV.投薬及び投与
特定の環境下では、セクションIIIで製造された乾燥組成物を直接哺乳類、例えばヒトに固体剤形として、例えば、粉末、ケーク又は錠剤の形態で投与することができる。或いは、使用前に、乾燥品を生理学的に許容可能な溶液、例えば水、食塩水又はデキストロース溶液中で再構成して、溶液又は懸濁液を製造することができる。
患者の必要とするニーズ、活性成分の薬物速度論及び治療医師の特有の要求に応じて広範に投与の用量と態様が変化し得るものと解釈する。例えば、本発明のいずれの組成物の用量も、患者の症状、年齢及び体重、治療又は予防すべき障害の性質及び重症度、投与の経路、並びに対象組成物の形態に応じて変わるだろう。
本発明の組成物をデザインして、治療的に有効な量の医薬活性薬剤を与える。「治療的に有効な量」という表現は、いずれの治療にも適用できる合理的な利益/危険比で何らかの所望の局所作用又は全身作用を生じさせる該物質の量を意味する。例えば、該治療に適用できる合理的な利益/危険比の量を生じさせるのに十分な量で本発明の特定組成物を投与することができる。
一般に、活性成分の治療的に有効な投与量は、約0.1〜約100mg/kg(体重)/日、さらに好ましくは約1.0〜約50mg/kg(体重)/日の範囲内であろう。当業者に既知の技術で本発明の組成物の用量を容易に決定し得る。ある患者に最も有効な治療をもたらすであろういずれの個々の対象組成物の投与の正確な回数及び量も、対象組成物の活性、薬物速度論及びバイオアベイラビリティー、患者の生理学的条件(年齢、性別、疾患のタイプと段階、全身的な身体状態、所定用量に対する反応性及び薬剤治療のタイプが挙げられる)、投与経路などによって決まるだろう。
また、最大濃度を超えて初期投与量を増やして、迅速に所望の血中濃度又は組織中濃度を達成してもよく、或いは初期投与量を最適量より少なくして、個々の状況に応じて治療クール中に1日の用量を漸次増やしてもよいものと解釈する。所望により、1日の用量を複数の投与量、例えば、1日2〜4回に分割してもよい。
本発明の組成物を経口又は非経口投与できるものと解釈する。非経口投与態様として、例えば、局所、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、直腸、膣及び鼻腔内投与が挙げられる。単用量又は複数用量として投与することに加え、投与の態様に応じて、組成物をボーラスとして、又はインフュージョンとして投与できると考えられる。
本明細書で述べる組成物は医学的障害を治療するのに有用であるが、特に癌、例えば、腫瘍、新生物、リンパ腫又は白血病の治療に有効であるものと解釈する。本発明の組成物を用いて結腸、肺、前立腺、乳房、脳、皮膚、頭頚部、肝臓、膵臓、骨、精巣、卵巣、子宮頚部、腎臓、胃、食道の癌、並びに白血病及び肉腫の症状を治療又は改善できるものと解釈する。SN-38含有ミセルは、結腸直腸癌、例えば、転移性結腸直腸癌を治療するのに特に有効であると考えられる。
さて、以下の実施例を利用して本発明を説明するが、実施例は説明目的のためだけに与えられ、本発明の範囲を制限する如何なる意図もない。
【実施例】
【0029】
実施例1
(典型的なジブロックコポリマーの合成)
この実施例は、ポリエチレングリコール−b−[ポリ(n−ブチルメタクリレート)−コ−ポリ−(アクリル酸)](PEG-PMA)の製造手順を示す。
概括すると、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEG-ME)(Aldrich Chemicals, Oakville, Ontario)を使用直前にトルエンとの共沸蒸留によって乾燥させた。鉱油中水素化カリウム(KH)(Aldrich Chemicals, Oakville, Ontario)30wt.%、tert−ブチルメタクリレート(t-BMA)及びn−ブチルメタクリレート(n-BMA)を使用前に低温蒸留で精製した。
以下のスキーム1は、中間体PEG−ブロック−P(nBMA-co-tBMA)の合成を示す。
【0030】
【化7】

【0031】
20.0gのPEG(MW 2,000、10.0mmol)を150mLのトルエンとの共沸蒸留で乾燥させた(浴を135℃に設定した)。ポリマーをさらに真空下で4時間100℃で乾燥させた。ポリマーを室温に冷却した後、600mgのKH(15.00mmol、2000mg(2.0mL)、鉱油中30%のKH分散系)をアルゴン雰囲気下で添加した後、15分間真空下に置いた。700mLの蒸留したばかりのTHFを加えてポリマーを溶解した。KHとPEGとの間の反応を撹拌しながら2時間行った。次に、蒸留したばかりの64mLのt-BMA(56gのMW142.2、393.8mmol)及び36mLのn-BMA(28.6gのMW142.2、151.2mmol)を反応混合物に加え、ブロックの共重合のため溶液をさらに2時間20℃で撹拌した。結果として生じた中間体PEG−ブロック−P(nBMA-co-tBMA)ポリマーを、溶媒の蒸発後に収集した。
以下のスキーム2は中間体PEG−ブロック−P(nBMA-co-tBMA)のpH感受性PEG-PMAジブロックコポリマーへの変換を示す。
【0032】
【化8】

【0033】
概括すると、700mLの1,4−ジオキサンと4当量のHCl(≒1900mmolのHCl≒162mLのHCl)をスキーム1の生成物に加えた。添加後、混合物を一晩還流させた。溶液を室温に冷却した後、溶媒を除去した。結果の生成物をTHFに溶解して約200mLに濃縮した。混合物を冷却水(約2000mL)中の沈殿によって精製し、10,000rpmで10分間遠心分離した。白色粗生成物を得た。生成物をTHFに再び溶解し、水で沈殿させ、遠心分離で沈殿物を収集した。このサイクルをもう一度繰返した。最後に、結果の白色粗生成物を凍結乾燥によって乾燥させた。この手順に従って種々のバッチのPEG-PMAを製造した。結果のPEG-PMAポリマーを特徴づけた。
13の異なるバッチのポリマーの組成物を下表1に要約する。
【0034】

【0035】
1)結果のポリマーの構造をNMRで特徴づけた。PEG-PMAの各コモノマーの重合度(DP)を1H NMR分光法で決定した(Bruker 300MHz)。
2)結果のポリマーの分子量を1H NMR分光法によって誘導した(Bruker 300MHz)。
3)Zetasizer(Malvern、UK)を用いて、メタノール中に溶解したポリマーの静的光散乱(SLS)によっても結果のポリマーの分子量を誘導した。
【0036】
実施例2
(SN-38を含有するpH感受性組成物)
この実施例は、カンプトセシン誘導体、SN-38を送達するためのpH感受性薬剤送達ビヒクルの製造手順を示す。
実施例1で製造したPEG-PMAポリマーを0.1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)に溶かして50mg/mLという最終PEG-PMA濃度を得た。別に、SN-38を0.1MのNaOHに溶かして最終濃度を4mg/mLとすると、これらの条件下では黄色だった。次に、2つの溶液を一緒に混合した。結果の溶液も黄色だった。
次に、結果の溶液をHCl又は0.1Mのクエン酸で、黄色が消失するまで滴定した。次に、SN-38の最終濃度が1mg/mLになるまで水を加えた。pHを測定すると、典型的に約5.5〜7.0だった。薬剤装填レベルは約10質量%だったが、装填プロセスで使用する活性成分とポリマーの割合を変えることによって、5質量%〜80質量%の範囲の薬剤装填レベルで同様の製剤を調製できる。
結果の溶液をバイアルに分け(1バイアル当たり約1mLの溶液)、凍結させた。次に、凍結溶液を卓上マニホールド凍結乾燥器(FTSシステムからのFlexidry MP)内で約24時間凍結乾燥させた。凍結乾燥により乾燥ケークが生成した。これをpH6.8のリン酸緩衝液のような水性溶媒中の溶液又は懸濁液として容易に再構成することができた。再構成されると、SN-38溶液/懸濁液は、室温で4〜24時間溶液のままだった。
【0037】
実施例3
(SN-38含有組成物の放出速度論)
実施例2で述べた方法で製造したSN-38含有ミセルを以下の通りに特徴づけた。
実施例2に従って製造した、1mgのSN-38と9mgのPEG-PMAを含むミセル組成物を2mLのpH1.2のHCl水溶液に加えた。pH1.2はヒトの胃内のおおよそのpHである。通常のHPLCによって薬剤放出の速度を測定した。結果を図3に示す。図3は、SN-38(−●−)が8時間後でさえ、pH1.2の水性緩衝液内で実質的に放出されなかったことを示す。
より高いpH、具体的にはpH6.8の溶液で実験を繰返した。要するに、SN-38の溶解をSN-38のみとしてか又は実施例2で述べた通りに調製したSN-38含有ミセルから測定した。実施例2で製造された凍結乾燥ケークをpH6.8のリン酸緩衝液に加え、pH1.2のHCl水溶液を用いた実験と同じ条件下で薬剤濃度を測定した。結果を図4に要約する。
図4は、SN-38が1時間以内でミセル(−●−)から溶けて、500mg/LのSN-38を含有する溶液を生成し、約6時間当該濃度のままであることを示す。対照的に、SN-38のみ(−■−)では、同一条件下で溶液から急速に沈殿する。本発明のミセル組成物はpH6.8において、Zetasizer(Malvern、UK)を用いて静的光散乱によって測定した場合、約50〜200nmの平均粒径を有することが分かった。
【0038】
実施例4
(SN-38含有組成物を用いた薬物速度論、毒性及び効力の研究)
この実施例は、本発明のミセル組成物を利用してSN-38をin vivo送達できることを示す。10mg/kgのSN-38のみ又はSN-38含有ミセルを2グループのマウス(1グループ当たり6匹のマウス)に経口投与した。SN-38のみでは、SN-38を水中で投与した。SN-38ミセルでは、pH6.8のリン酸緩衝液中でSN-38ミセルを投与した。投与後種々の時点で血漿サンプルを収集して薬剤濃度を測定した。結果を図5に示す。図5では、ミセル組成物からのSN-38放出の濃度を−○−で表し、SN-38のみを−●−で表す。結果は、本発明のミセル組成物からSN-38を送達できたことを実証する。対照的に、単独で与えたSN-38は血漿に送達されないようだった。
HT-116腫瘍細胞(ヒト結腸癌細胞)を保有するスイスヌードマウスについて毒性研究を行った。3グループのマウス(1グループ当たり3匹の動物)にリン酸緩衝液、25mg/kgのSN-38含有ミセル、50mg/kgのSN-38含有ミセル又は100mg/kgのSN-38含有ミセルのいずれかを経口投与した。動物の相対体重を経時的に測定した。結果を図6に要約する。図6は、25mg/kg及び50mg/kgという投与量はHT-116腫瘍保有マウスによって良く耐えられたことを示す。100mg/kgの投与量は、マウスの体重が20%減少し、死亡するマウスもいたので、あまり良く耐えられなかった。
研究中のマウスの体重を経時的に記録しながら、腫瘍の大きさをも測定して、本発明の製剤の効力の指標を与えた。結果を図7に示す。図7は、SN38ミセルを含む全てのグループ(n=3)(−■−25mg/kgのSN-38ミセル;−▲−50mg/kgのSN-38ミセル;−◆−100mg/kgのSN-38ミセル)が、リン酸緩衝液(−●−)のみを受けたコントロールグループより遅い腫瘍進行を示したことを示す。
【0039】
実施例5
(ヒト結腸癌細胞の浸透性)
この実施例の目的は、ヒト結腸細胞(Caco-2結腸癌細胞)によるSN-38のin vitro取り込みを評価することだった。
Caco-2細胞の層を以下の通りに調製した。12ウェルTranswell(登録商標)プレート内で、コラーゲン被覆した微小孔のあるポリカーボネート膜上にCaco-2細胞を約60,000細胞/cm2の密度で接種した。加湿インキュベーター内で5%のCO2と共に37℃にて、10%のウシ胎児血清(FBS)、1%の可欠アミノ酸(NEAA)、1%のL−グルタミン、ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)で補充した高グルコース(4.5g/L)DMEM内で細胞を維持した。接種24時間後に培地を交換して細胞デブリと死亡細胞を除去した。その後3週間、1日おきに培地を交換した。輸送実験前に、経上皮電気抵抗(transepithelial electric resistance)(TEER)測定並びにコントロール化合物であるプロプラノロール(propranolol)(10μM)、ピンドロール(pindolol)(10μM)、アテノロール(atenolol)(10μM)及びジゴキシン(digoxin)(5μM)の浸透性決定によって、細胞単層の各バッチを認証した。浸透性アッセイ緩衝液I(pH7.4)は、15mMのD(+)グルコースと10mMのHEPESを含有し、pH7.4±0.1のハンクス緩衝液塩溶液(Hanks Buffer Salt Solution)(HBSSg)だった。アッセイ緩衝液II(pH6.5)は、15mMのD(+)グルコースと10mMのMESを含有し、pH6.5±0.1のHBSSgだった。アッセイ時間中、加湿インキュベーター内で5%のCO2と共に37℃にて装置をインキュベートした。Caco-2細胞を洗浄緩衝液(10mMのHEPESと15mMのグルコースを含有するHBSS、pH7.4)で2回洗浄した。
分析用のミセルサンプルを以下の通りに調製した。実施例2で述べた通りにSN-38ミセル組成物を調製し、HBSS緩衝液(緩衝液I−pH7.4又は緩衝液II−pH6.5のどちらか)に溶かして1.0mg/LのSN-38又は10mg/LのSN-38を含有する溶液を作製した。単層に隣接する第1レザバー(ドナーレザバー)に溶液を適用し、単層に隣接する第2レザバー(レシピエントレザバー)内にHBSS緩衝液を置いた。エンドセリン-12抵抗計(World Precisions、Boston、MA)を用いてSN-38の輸送を測定した。結果を下表2に要約する。
【0040】

【0041】
結果は、SN-38がpH感受性ミセル内で配合されている場合、SN-38がCaco-2細胞層を貫いて浸透できることを示す。このデータに基づき、SN-38はin vivoでも吸収されると考えられ、実施例4のげっ歯類の研究と一致する。
【0042】
実施例6
(ドセタキセル(docetaxel)を含有する組成物)
この実施例は、pH感受性ドセタキセル含有製剤の調製について述べる。要するに、実施例1で調製したPEG-PMAを0.1MのNaOHに溶かして最終濃度を50mg/mLとした。別に、ドセタキセルをt−ブタノールに20mg/mLの濃度で溶かした。無色溶液を得た。2つの溶液を一緒に混合して1つの無色溶液を得た。
結果の混合物を0.1Mのクエン酸でpHが約5.8〜約6.5になるまで滴定した。ドセタキセルの最終濃度が1mg/mLになるまで水を加えた。pHが5.5〜7.0であることが分かり、かつ薬剤装填レベルは5%〜20%の範囲だった。
溶液をバイアルに分割してから(1〜18mLの溶液を含有)、凍結乾燥器内で-60℃にて凍結させた。凍結溶液を3日にわたって凍結乾燥させた。乾燥ケークを得、リン酸緩衝(pH6.8)中で再構成できた。37℃で6時間より長くドセタキセルが溶液中に留まることが分かった。
【0043】
実施例7
(パクリタキセル(paclitaxel)を含有する組成物)
この実施例は、pH感受性パクリタキセル含有製剤の調製について述べる。要するに、実施例1で調製したPEG-PMAを0.1MのNaOHに溶かして最終濃度を50mg/mLとした。別に、パクリタキセルをt−ブタノールに溶かして8mg/mLの最終濃度を得た。2つの溶液を一緒に混合して1つの無色溶液を得た。結果の溶液を0.1Mのクエン酸でpHが5.8〜6.5になるまで滴定した。パクリタキセルの最終濃度が1mg/mLになるまで水を加え、溶液のpHが約5.5〜約7.0であることが分かった。薬剤含量は、5%〜40質量%の間で変化した。
溶液をバイアルに分割し(1〜18mLの溶液を含有)、凍結乾燥器内で-60℃にて凍結させた。凍結溶液を3日にわたって凍結乾燥させた。乾燥ケークを得、容易に水中で再構成できた。試験した条件下で、パクリタキセルは室温で6時間より長く溶液中に留まった。
【0044】
(参照による組み込み)
本明細書で参照した各特許及び科学文献の全開示は、全ての目的のため、参照によって本明細書に組み込まれる。
(均等物)
本発明をその好ましい実施形態を用いて説明したが、本発明は、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の広い局面を包含することを意図するものと解釈する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性医薬活性薬剤のpH標的化送達用組成物であって、pH約2の水溶液と接触する際には約10%未満の医薬活性薬剤が組成物から2時間後に放出されるが、pH約6以上の水溶液においては少なくとも60%の医薬活性薬剤が組成物から2時間以内に放出されるように、
(a)複数のpH感受性ジブロックコポリマー;及び
(b)ジブロックコポリマーと会合した水不溶性医薬活性薬剤
を含む組成物。
【請求項2】
ジブロックコポリマーの第1ブロックが、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(ビニルピロリドン)からなる群より選ばれるモノマーを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ジブロックコポリマーの第2ブロックが、(i)メタクリル酸及びアクリル酸からなる群より選ばれるイオン性モノマーサブユニット、並びに(ii)メタクリレート及びそれらの誘導体、アクリレート及びそれらの誘導体、メタクリルアミド及びアクリルアミドからなる群より選ばれる疎水性モノマーを含む、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ジブロックコポリマーが、以下の式(I):
【化1】

(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である)により表される、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
水不溶性医薬活性薬剤のpH標的化送達用のpH感受性ミセル組成物であって、
(a)複数のpH感受性ジブロックコポリマーを含むミセル;及び
(b)ミセル内に配置された水不溶性医薬活性薬剤
を含み、pH約2の水溶液においては約10%未満の医薬活性薬剤がミセル組成物から2時間後に放出されるが、pH約6以上では少なくとも60%の医薬活性薬剤がミセル組成物から2時間以内に放出される、前記組成物。
【請求項6】
ジブロックコポリマーが、以下の式(I):
【化2】

(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である)により表される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
pH約6以上においては少なくとも70%の医薬活性薬剤が組成物から2時間以内に放出される、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
pH約6以上においては少なくとも80%の医薬活性薬剤が組成物から2時間以内に放出される、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
医薬活性薬剤が抗癌剤である、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
抗癌剤がカンプトセシン誘導体である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
カンプトセシン誘導体がSN-38である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ミセルの平均直径が約20nm〜約950nmの範囲にある、請求項5又は6記載の組成物。
【請求項13】
ミセルの平均直径が約50nm〜約200nmの範囲にある、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
以下の(a)及び(b)を含む組成物:
(a)以下の式(I):
【化3】

(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である)により表される、複数のpH感受性ジブロックコポリマー、及び
(b)ジブロックコポリマーと会合したカンプトセシン誘導体。
【請求項15】
カンプトセシン誘導体がSN-38である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
水不溶性医薬活性薬剤のpH標的化送達用組成物の製造方法であって、
(a)pH感受性ジブロックコポリマー及び医薬活性薬剤を含む溶液を製造する工程;及び
(b)工程(a)の溶液を乾燥させて、乾燥品を製造する工程
を含む方法。
【請求項17】
工程(a)で製造した溶液のpHが約7より高い、請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(a)の後であって工程(b)の前に、溶液のpHを約5〜約7に調整する工程をさらに含む、請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
pHを約6に低減させる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
工程(a)で製造した溶液のpHが約5〜約7である、請求項16記載の方法。
【請求項21】
工程(a)の前に、pH感受性ジブロックコポリマー及び医薬活性薬剤を、別々に、同一溶媒の2つの離れた部分に溶解する、請求項16〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
工程(a)の前に、pH感受性ジブロックコポリマー及び医薬活性薬剤を、異なる溶媒に溶解する、請求項16〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
工程(a)における医薬活性薬剤が抗癌剤である、請求項16〜22のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
抗癌剤がカンプトセシン誘導体である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
カンプトセシン誘導体がSN-38である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
pH感受性ジブロックコポリマーサブユニットが、以下の式(I):
【化4】

(式中、
Rは、H、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル又はハロゲンであり、
aは、約20〜約60の範囲の整数であり、
bは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
dは、各々の存在に関して独立して、0〜約20の範囲の整数であり、
eは、約10〜約50の範囲の整数であり、
但し、少なくとも1つのbが>0であり、かつ少なくとも1つのdが>0である)により表される、請求項16〜25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
乾燥品を生理学的に許容可能な溶液中で再構成する工程をさらに含む、請求項16〜26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
請求項16〜27のいずれか1項記載の方法により製造した組成物。
【請求項29】
水不溶性医薬活性薬剤を、医薬活性薬剤を必要とする哺乳類に対して投与する方法であって、哺乳類に対して、請求項1〜15及び28のいずれか1項記載の組成物中の有効量の医薬活性薬剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項30】
組成物が経口投与される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
組成物が非経口投与される、請求項29記載の方法。
【請求項32】
哺乳類の癌を治療する方法であって、哺乳類に対して、請求項9〜11、14又は15のいずれか1項記載の組成物中の有効量の抗癌剤を投与することを含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−504318(P2010−504318A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528813(P2009−528813)
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004171
【国際公開番号】WO2008/035229
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(507176404)ラボファーム インコーポレイテッド (8)
【出願人】(507175050)ラボファーム ユーロープ リミテッド (8)
【出願人】(507175142)ラボファーム (バルバドス) リミテッド (6)
【Fターム(参考)】