説明

pH測定用サンプル、pH測定装置及びpH測定方法

【課題】被検液のpHを簡便にかつ精度よく測定することができるpH測定装置と当該pH測定装置に用いるpH測定用サンプルを提供すること。
【解決手段】pH測定用サンプル200は、pH指示薬を吸着させたシート状の繊維体22と、繊維体22を収容する収容部26と、仕切部24により仕切られた空隙部23とを有する光透過性の外装袋21と、仕切部24に設けられ収容部26と空隙部23とを接続する誘導路25と、を備える。繊維体22に吸着されたpH指示薬が被検液に溶け込むと共に繊維体22に含まれる繊維により構成される空間で被検液が保持されることで、マイクロセルが形成される。このマイクロセルに光を入射した際の光透過率と被検液のpHには高い相関関係があるため、この相関関係に基づいて被検液のpHを測定することにより、精度の高い測定結果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH測定用サンプル、pH測定装置及びpH測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検液のpHを測定する一般的な方法として、水素イオン選択性の感応膜を有するpH測定電極を用いる方法や、pH指示薬の水溶液をろ紙に含浸し乾燥したpH試験紙を用いる方法がある(例えば、非特許文献1を参照)。pH測定電極を使用する場合、pHを精度よく求めることができるものの、被検液の数が多い場合などは測定毎に電極を洗浄する必要があるため作業が煩雑となり、迅速な測定が困難である。一方、pH試験紙を使用する場合、簡便かつ迅速に試験紙と色見本とを目視で比較することによりpHを求めることができる。
【非特許文献1】高木誠司、「定量分析の実験と計算」、p.508及びp.536、共立出版株式会社、昭和59年3月10日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のpH試験紙を用いた目視による測定では、誤差が生じやすく、被検液のpHを数値化するには不向きであり、精度の点で不十分となる場合が多かった。
【0004】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、被検液のpHを簡便にかつ精度よく測定することができるpH測定装置、当該pH測定装置に用いるpH測定用サンプル、及びpH測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るpH測定用サンプルは、pH指示薬を吸着させたシート状の繊維体と、繊維体を収容する収容部及び該収容部と仕切部により仕切られた空隙部を有する光透過性の外装袋と、仕切部に設けられ収容部と空隙部とを接続する誘導路と、を備えることを特徴とする。
【0006】
上記の構成を有するpH測定用サンプルによれば、外装袋により挟まれた繊維体に被検液を付着させることにより、繊維体に吸着されたpH指示薬が被検液に溶け込むと共に繊維体に含まれる繊維により構成される空間で被検液が保持され、マイクロセルが形成される。このpH指示薬が溶解した被検液を保持するマイクロセルに光を入射した際の光透過率と被検液のpHには高い相関関係があるため、この相関関係に基づいて被検液のpHを測定することにより、より精度の高い測定結果が得られる。また、繊維体を収容する収容部と仕切部により仕切られた空隙部を備えていることにより、pH測定用サンプルの繊維体に被検液が過剰に付着した場合には、その被検液を仕切部に設けられた誘導路を介して空隙部へ移動させることができ、被検液が過剰に付着した繊維体に光を照射してpHを測定することがなくpH測定の精度を一層高めることができる。
【0007】
また、本発明に係るpH測定用サンプルは、繊維体の吸水度が6.0〜30.0cmとすることが好ましい。繊維体の吸水度を上記の範囲とすることにより、繊維体へ被検液を効率よく付着させることができ、より簡便にpH測定を行うことができる。
【0008】
さらに、繊維体の繊維径が0.001〜500μmであり、空隙率が20〜99%であることが好ましい。繊維径及び空隙率を上記の範囲とすることにより、マイクロセルが好適に形成され、このマイクロセルに光を照射してpH測定を行うことにより、よりpH測定結果の精度を高めることができる。
【0009】
本発明に係るpH測定用サンプルの外装袋は、pH測定のために繊維体に照射する光の波長において、当該光の透過率が70%以上である態様とすることが好ましい。外装袋の光透過率が上記の範囲にあることで、pH測定用サンプルに照射する光をより損失なく繊維体に照射することができるため、pH測定結果の精度をより高めることができる。
【0010】
本発明に係るpH測定装置は、上記のpH測定用サンプルを用いて被検液のpHを測定するpH測定装置であって、pH測定用サンプルに測定光を照射する光源と、光源から出力された測定光のうちpH測定用サンプルを透過した光を受光する受光部と、光源から出力された測定光と受光部で受光した測定光との関係から光透過率を測定する測定部と、光源と受光部との間にpH測定用サンプルを配置するためのpH測定用サンプルホルダと、を備え、空隙部が収容部に対して下方となるようにpH測定用サンプルホルダ内にpH測定用サンプルを収容したとき、光源と受光部とが収容部に対向した位置にあることを特徴とする。なお、ここでいう「空隙部が収容部に対して下方となるように」とは、pH測定用サンプルにおける空隙部と収容部との相対的な位置関係をいい、例えば空隙部が収容部に対して横方向の位置に設けられている場合であっても、pH測定用サンプルホルダにpH測定用サンプルを収容した際に、空隙部が収容部に対して下方の位置となるような構造であればよい。
【0011】
上記のpH測定装置のように、pH測定用サンプルホルダにより支持されたpH測定用サンプルの被検液が付着された繊維体の一方の面へ光源から出力した光を入射させ、他方の面から出射した光を測定部において検出することにより光透過率を測定することで、繊維体中の繊維とpH指示薬が溶解した被検液とから形成されるマイクロセルに光を効率よく照射し、当該マイクロセルの光透過率から被検液のpHを精度よく測定することができる。また、光源とpH測定用サンプルホルダと測定部とを有することでpH測定装置を構成することができるため、測定装置のコンパクト化が図られ、より簡便に当該測定装置を用いてpHを測定することができる。
【0012】
pH測定用サンプルホルダは、当該pH測定用サンプルホルダが支持するpH測定用サンプルの空隙部に開孔を設ける開孔手段を備える態様とすることが好ましい。開孔手段によってpH測定用サンプルの空隙部に開孔を設けることによって、繊維体に付着した被検液をより効率よく拡散できると共に、繊維体に過剰に付着した被検液を誘導路を介して空隙部へ移動させることができ、被検液が過剰に付着した繊維体に光を照射してpHを測定することがないため、より高い精度でpHを測定することができる。
【0013】
また、本発明に係るpH測定装置では、光源とpH測定用サンプルとの間に、光源から出力された光のうち特定の波長域の光のみを透過させるフィルタを備える態様とすることができる。上記のように、フィルタにより、特定波長域の光のみを透過させることにより、光源の出射する波長を限定する必要がなくなり、例えば白色光源をpH測定装置の光源として用いることができ、簡便にpH測定装置を構成することができる。また、繊維体に吸着させるpH指示薬の呈色がより明確な波長をあらかじめ求めておき、当該波長の光を選択してpH測定用サンプルに照射することが可能となるので、pH測定装置による測定精度を高めることが可能となる。
【0014】
本発明に係るpH測定方法は、上記のpH測定用サンプルを用い、外装袋の収容部を開封し、繊維体に被検液を付着させ、繊維体に光を照射した際の光透過率を測定することにより被検液のpHを測定するpH測定方法であって、外装袋の空隙部に開孔を設ける開孔工程を備えることを特徴とする。これによれば、上記の作用と同様に被検液のpHを簡便にかつ精度よく測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被検液のpHを簡便にかつ精度よく測定することができるpH測定装置、当該pH測定装置に用いるpH測定用サンプル、及びpH測定方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の好適な実施形態に係るpH測定方法に用いられるpH測定用サンプルの正面図、図2は、図1のII−II矢視図、図3は、図1の分解斜視図、図4は、pH測定用サンプルの変形例を示す分解斜視図、図5は、pH測定装置の概略構成図、図6は、図3のpH測定用サンプルへの被検液の付着方法の説明図、図7は、被検液を付着させたpH測定用サンプルのpH測定装置への収容方法を説明する図、図8は、pH測定時のpH測定装置及びpH測定用サンプルを示す概略構成図、図9は、本実施形態に係るpH測定用サンプルを用いた場合の効果の説明図である。
【0018】
本実施形態に係るpH測定方法に用いられるpH測定用サンプル200は、図1及び図2に示すように、光透過性の外装袋21と、外装袋21の収容部26に収容されpH指示薬が吸着させたシート状の繊維体22と、中空の空隙部23と、繊維体22と空隙部23との間に設けられた仕切部24と、仕切部24に設けられ繊維体22が収容された収容部26と空隙部23とを接続する誘導路25と、を有する。このpH測定用サンプル200の繊維体22にpH測定対象の被検液を付着させてpH測定装置100に保持させてpH測定を行う。pH測定用サンプル200は、取扱い性、少量の被検液であっても測定できること、精度よくpHを測定することなどを考慮して、矩形のシート状であることが好ましい。また、pH測定用サンプル200の大きさは特に限定されないが、取扱い性が高いことが好ましく、例えば、厚み:0.1mm〜5.0mm、長辺長さ:5mm〜150mm、短辺長さ:5mm〜100mmとすると好適である。
【0019】
外装袋21は、pH測定時に照射する測定光の波長における光透過率が70%以上であることが好ましい。光透過率が上記の範囲にある材料を外装袋21として用いることで、繊維体22に付着した被処理液に好適に測定光を照射することができると同時に、繊維体22を透過した光の光量を減衰させることなくpH測定用サンプル200から出射させることができる。
【0020】
上記の外装袋21としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ナイロン(登録商標)などのラミネートフィルムから形成されるものや、ガラスが挙げられるが、pHの安定性及び精度の点から、被検液に対して耐性を有している材料を選択することが好ましい。また、外装袋21を構成する際の熱融着による白化等により光透過性が低下しない材料を選択することがpH測定精度の点から好ましい。なお、上記の材料から複数種類を選択して外装袋21を構成してもよい。例えば、繊維体22の一方の面のみにガラス板を用いて、pH測定用サンプル200の強度を保つような構造にすることもできる。また、外装袋21の外側に、ガスバリア防止性膜等を備える構造としてもよい。
【0021】
被検液を付着させる繊維体22としては、JIS P8140に準じて測定した吸水度が6.0cm〜30.0cm(さらに好ましくは7.0〜20.0cm)であることが好ましい。吸水度が上記の範囲であることにより、例えば唾液のように粘性のある被検液について測定を行う場合であっても、繊維体22に被検液を好適に付着させることができる。吸水度は、具体的には、幅15±1mm、長さが200mm以上の試験片を準備し、その下端を23±1℃の水の中に鉛直に10分間浸漬させたときに、試験片の毛細管現象により水が上昇した高さにより測定される。
【0022】
また、繊維体22の繊維径は、0.001μm〜500μm(さらに好ましくは0.01μm〜100μm)であることが好ましく、空隙率が20%〜99%(さらに好ましくは50%〜99%)であることが好ましい。繊維径及び空隙部が上記の範囲である場合、繊維体22の内部に被検液が良好に付着されるため、pH測定結果の精度を高めることができる。空隙部は、具体的には、ポロシーメーターを用いて繊維体からなる試料の細孔への水銀侵入量を検出することにより測定される。
【0023】
繊維体22に好適に用いられる材料としては、例えば、ろ紙、メンブレン、ろ過板、ガラス繊維が混在するろ紙などが挙げられる。これらのうち、ろ紙は、pH0〜12の範囲で安定であるとともに、優れた吸水性を有していることから好ましく使用できる。繊維体22としてろ紙を使用することにより、被検液を付着させた繊維体22が適度な光透過性を示すようになるとともに、繊維体22の吸水性及びpH安定性が向上し、pHを更に精度よく、迅速に測定することが可能となる。また、繊維体22としてメンブレンを用いる場合には、メンブレンの材料としてセルロース系(ニトロセルロースなど)が好適に用いられる。
【0024】
繊維体22上に吸着させるpH指示薬としては、被検液の水素イオン濃度(pH)により変色する公知の色素(酸塩基指示薬)を用いることができる。なお、色素の変色機構は次の式によるものである。
HIn ⇔ H + In
HInは分子形を示し、Inはイオン形を示す。分子形(HIn)とイオン系(In)では吸収する光の波長が異なるため、変色が生じる。なお、変色域においては、両者が混ざった状態となるため、溶液の色は中間の色調になる。
【0025】
本実施形態において好適に用いられるpH指示薬としては、例えば、表1〜4に示されるpH指示薬1〜70が挙げられる。また、表1〜4には、各pH指示薬1〜70のpH変色域及び色の変化、並びに、pH指示薬水溶液の吸収ピークの波長を合わせて示す。
【0026】
【表1】



【0027】
【表2】



【0028】
【表3】



【0029】
【表4】



【0030】
これらのpH指示薬は、pH測定用サンプル200を用いて測定されるpHの範囲に応じて適宜選択して使用される。例えば、pH5.0〜7.0を測定範囲とするpH測定用サンプル200を作製する場合には、p−Nitrophenol(pH変色域:(淡黄色)5.0−7.6(黄色)、吸収ピーク波長:420nm)などを用いることができる。また、上記の指示薬は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、pH指示薬溶液の吸収ピーク波長は、溶液の溶媒組成、指示薬の溶解状態、温度など、様々な要因でシフトし、その範囲は±100nmに至ることがある。そのため、測定の際の各種条件(溶媒組成、pH指示薬の濃度、支持体の種類など)が決定された後に、この条件で分光光度計などを用いて吸収ピーク波長を測定し、測定の際に有効となる波長を確認することが好ましい。
【0031】
また、例えばニトロフェノール類等のように、吸収ピークが1つであり、且つ、pH変色域がより広範囲にあるpH指示薬を用いれば、後述するpH測定装置における光源及びフィルタを一種類のみ設けてpH変色域に対応する吸収ピーク波長の光強度の増減を測定することが可能となるため、測定系の簡素化及びデータ処理の単純化を図ることができ、pH測定装置の低コスト化を実現することができる。ニトロフェノール類のpH指示薬は、上記のほかにも、溶液中でも光に対して安定であり、比色標準が長期保管可能できるため、本実施形態に係るpH測定用サンプル200で用いるpH指示薬として好適である。
【0032】
pH指示薬を吸着させた繊維体22は、例えば、pH指示薬を水またはアルコールに溶解させた溶液を、ろ紙などの支持体に含浸させ、これを5〜150℃で乾燥することにより作製することができる。
【0033】
上記の構成を有するpH測定用サンプル200は、例えば、図3に示すように2枚のシート状のフィルム21aと、繊維体22よりも薄い仕切部材24aをあらかじめ表面に設けたフィルム21bとによって、繊維体22を挟み、フィルム21a及びフィルム21bの周縁部を熱融着することにより作成することができる。このとき、繊維体22が外装袋21の収容部26に収容された構造となり、繊維体22より薄い仕切部材24aとフィルム21aとの間が誘導路25となり、繊維体22及び仕切部材24aのいずれも設けていない部分が空隙部23となる。
【0034】
pH測定用サンプル200の変形例として、図4のpH測定用サンプル201のように誘導路25を2つの仕切部材24b及び24cの間に設けることもできる。この場合、2枚のシート状のフィルム21a及び21cで、繊維体22と、繊維体22よりも薄く、仕切部材24b及び24cを設けた中間部材21bを挟んで周縁部及び仕切部材24b及び24cを熱融着することにより、作成することができる。
【0035】
次に、本実施形態で好適に用いられるpH測定装置100について説明する。
【0036】
pH測定装置100は、図5に示すように、所定の波長の光を含む光Eを出射する光源12と、光源12に対向して設けられ、光源12から出射された光Eに対して感度を有する受光素子を有する受光部15と、光源12と受光部15との間で被検液を付着させたpH測定用サンプルを保持するためのpH測定用サンプルホルダ110と、光源12及び受光部15が電気的に接続された制御部18と、を備える。
【0037】
制御部18は、CPU及び外部記憶装置から構成され、CPUは、所定の演算処理を行なう演算プログラムが記憶されたROMと演算処理の際に各種データを記憶するRAMとを有している。このCPUは、光源12から出力された測定光の強度と、受光部15で検出された光強度とに基づいて算出されたpH指示部材についての光透過率から、外部記憶装置に記憶させた予め得られているpH指示部材についての光透過率とpHとの相関(検量線)に基づいて被検液のpHを算出し、得られた結果をディスプレイ(図示省略)に出力する。
【0038】
pH測定用サンプルホルダ110は、被検液を繊維体22に付着させたpH測定用サンプル200を収容するためのものであり、第一の支持部材10と、第二の支持部材11とから構成される。第一の支持部材10と第二の支持部材11とは、ヒンジ16を介して接続されていて、ヒンジ16を支点として第一の支持部材10は図1中の点線のように回動することができる。第一の支持部材10は、pH測定用サンプルホルダ110に収容するpH測定用サンプルの一方の面に対向するように設けられ、pH測定用サンプルを固定するための固定治具13と、固定治具13上に設けられた開孔針14とが具備されている。また、第二の支持部材11は、第一の支持部材10と対向して設けられ、pH測定用サンプルホルダ110に収容されるpH測定用サンプルの他方の面と接するように構成されていると共に、pH測定用サンプルの底面を下方から支持する底面部を備えている。
【0039】
また、本実施形態のpH測定用サンプルホルダ110では、光源12が第一の支持部材10上に設けられ、受光部15が第二の支持部材11上に設けられる構成となっている。
【0040】
光源12としては、例えば、LED、半導体レーザー、EL、蛍光灯、電球などが挙げられる。本実施形態においては、pH測定用サンプル200の繊維体22に含まれるpH指示薬の吸収ピークの波長に応じて光源を選択することが好ましい。具体的には、例えば、表1〜4に示されるpH指示薬を用いる場合、吸収ピーク波長は指示薬の溶解状態によって約±100nmの範囲でシフトすることがあるため、pH測定用サンプル(例えば、繊維体22にpH指示薬を染み込ませた状態や、pH指示薬を吸着させた繊維体22を外装袋21に収容させた状態など)ごとに分光光度計で吸収ピーク波長を確認し、この波長に基づいて使用する光源を設定することが好ましい。本実施形態においては、上記のようにして確認された吸収ピーク波長の好ましくは±70nm、より好ましくは±30nmの範囲内の光を出射できる光源12を使用することが好ましい。例えば、pH指示薬として、p−Nitrophenol(pH変色域:(淡黄色)5.0−7.6(黄色)、吸収波長:420nm)を含む繊維体22を備えるpH測定用サンプル200を用いてpHの測定を行う場合には、波長が350nm〜490nmの範囲にある光を出射できるLEDを光源12とする場合に好適にpH測定を行うことができ、例えば波長428nmの光を出射するLED(ローム社製、商品名:SML010BA TT86)を光源12として用いることが好ましい。
【0041】
さらに、本実施形態においては、フィルタ等を用いて光源12から出射される光の波長を調節してもよい。図5の破線で示すように、測定に用いる波長範囲の光を透過することのできるフィルタ17を設け、光源12から出力された光のうちフィルタ17を透過した光がpH測定用サンプルに到達する態様とした場合、測定に用いる波長範囲を含む波長範囲の光を出射する光源をpH測定装置100の光源12として用いることができる。この場合、例えば光源12として白色光源を用いることもできるため、pH測定装置100をより低コストで作成することが可能となる。また、pH測定に十分な光量である場合には、外部光を集光・導入する機構を更に設けることにより、外部光を測定光として用いてもよい。
【0042】
受光部15としては、所定の波長の光としてpH測定用サンプル200の繊維体22に含まれるpH指示薬の吸収波長域の光に対して感度を有するものであればよく、例えば、フォトダイオード、太陽電池及び光電変換素子が挙げられる。
【0043】
上記の光源12と受光部15とは、pH測定用サンプル200を空隙部23を下にしてpH測定用サンプルホルダ110に配置した際に繊維体22を収容する収容部26の高さの位置となるように設けられる。
【0044】
なお、本実施形態のpH測定装置100においては、一対の光源12及び受光部15が設けられているが、光源及び受光素子をそれぞれ複数設け、pH測定用サンプル200に含まれるpH指示薬の種類に応じて光源及び受光部を選定できるようにしてもよい。また、測定精度を更に向上させる観点から、2種以上の波長の光に対して光透過率を測定してもよい。この場合、より広範囲のpH測定に対応させることが容易となる。
【0045】
次に、上記のpH測定装置100と被検液を付着させたpH測定用サンプル200とを用いたpH測定方法について図6〜図8を用いて説明する。
【0046】
本実施形態では、pH測定用サンプル200の外装袋21の収容部26を開封し、収容部26に収容された繊維体22に被検液を付着させ、外装袋21の空隙部23に開孔を設けた後に、繊維体22に光を照射した際の光透過率を測定することにより、pH測定が行われる。なお、pH測定用サンプル200の再利用は行わない。
【0047】
本実施形態に係るpH測定装置100でpH測定を行う被検液は、吸水性の観点から粘度10P(1Pa・S)以下の水溶液であることが好ましい。また、被検液がタンパク質を含むものである場合、pH指示薬との吸着反応を回避する目的からタンパク質除去フィルタ等を用いて被検液からタンパク質を除去した後に測定に供することが好ましい。
【0048】
まず、pH測定用サンプル200に被検液を付着させる方法について説明する。図6(A)に示すように、pH測定用サンプル200の外装袋21の収容部26を開封する。このとき、仕切部24とは反対側の端部近傍の切断線Cの部分を開封することが好ましい。これによって、図6(B)に示すように、切断面から収容部26に収容されている繊維体22の一部が露出された形状とすることができ、被検液を繊維体22に付着させやすくなる。次に、図6(C)に示すように、被検液Lを入れた容器に外装袋21から露出された繊維体22を浸して、繊維体22に被検液Lを付着させる。このとき、繊維体22を構成する繊維の毛細管現象により、被検液Lに浸された繊維体22の端部から空隙部23側へ被検液Lが上昇する。このようにして、被検液Lは繊維体22の全体に付着される。このとき、繊維体22に付着した被検液Lに繊維体22に吸着されていたpH指示薬が溶け出すことにより、被検液LのpHに応じた色を呈する。
【0049】
一方、pH測定装置100では、被検液を付着させたpH測定用サンプル200のpH測定を行う前に、ゼロ点補正を行う。ゼロ点補正は、例えば、光に対する透過率が既知の2つのサンプルについて測定し、得られた結果からゲインとオフセットを調整する方法や、暗くした状態での光源からの光強度を測定し、オフセットを補正する方法等により行われる。
【0050】
上記のようにゼロ点補正が行われたpH測定装置100のpH測定用サンプルホルダ110に、被検液Lを付着させたpH測定用サンプル200をセットする。図7に示すように、光源12、固定治具13及び開孔針14を備えた第一の支持部材10を、ヒンジ16を介して回動させることにより第二の支持部材11から離した開放状態にしておいて、pH測定用サンプル200を、収容部26に対して空隙部23が下方となるように、第二の支持部材11の底部及び側壁に沿って配置する。このように配置することで、光源12と受光部15とが繊維体22が収容される収容部26に対向した位置となるようにpH測定用サンプル200を簡便に配置することができる。
【0051】
続いて、図8に示すように、第一の支持部材10を開放状態から元に戻して、固定治具13によりpH測定用サンプル200を測定位置に固定させる。このとき、第一の支持部材10の固定治具13に設けられた開孔針14により、pH測定用サンプル200の空隙部23の外側の外装袋21に開孔27を設ける。これにより、繊維体22の繊維による毛細管現象がさらに進行し、繊維体22に付着した被検液をさらに繊維体22の内部にまで進入させることができる。また、繊維体22に被検液Lが過剰に付着している場合は、このように空隙部23に開孔27が設けられることにより、過剰な被検液Lが繊維体22から空隙部23へ誘導路25を伝って落下する。
【0052】
上記のようにpH測定用サンプル200をpH測定用サンプルホルダ110に収容した後に、光源12から測定光を照射し、pH測定用サンプル200の外装袋21及び繊維体22を通過した光を受光部15で受光する。光源12から照射した光強度及び受光部15で受光した光強度をそれぞれ制御部18に送り、制御部18においてpH測定用サンプル200の光透過率を算出する。そして、その結果から、外部記憶装置に記憶させた予め得られているpH測定用サンプル200についての光透過率とpHとの相関(検量線)に基づいて被検液LのpHを算出することにより、被検液LのpHを算出することができる。このときの光透過率は、ゼロ点補正された関数を基準にして受光部15で受光した光強度を光透過率に変換することにより算出してもよい。
【0053】
上記のpH測定方法によれば、外装袋21中の繊維体22に付着された被検液Lが、繊維体22に含まれる繊維により構成された空間で保持され、マイクロセルが構成されることにより、繊維体22を透過する光を増やすことができる。この効果について図9を用いて説明する。図9(A)に示すように、繊維体22が乾燥している状態では、光源の入射光を散乱する散乱光が多いために透過光は少なくなる。これに対して、繊維体22に被検液Lが付着している状態では、図9(B)に示すように、繊維体22中の繊維22a間に被検液Lが保持されてマイクロセルを構成するため、透過光が増加する。また、繊維体22中に保持された被検液Lには、繊維体22に吸着されていたpH指示薬が溶出するため、マイクロセルを構成する被検液は、被検液LのpHに応じた色に変色する。本実施形態に係るpH測定方法では、このマイクロセルを構成する被検液Lの変色を、測定光の光透過率によって評価することによりpHを測定するため、被検液LのpHの違いによる呈色を、目視よりも精度よく測定する。このマイクロセルは、繊維体22の繊維径が0.001μm〜500μm(さらに好ましくは0.01μm〜100μm)であり、空隙率が20%〜99%(さらに好ましくは50%〜99%)であるときに好適に形成される。
【0054】
また、pH測定用サンプル200は繊維体22の両側から外装袋21により挟まれた構造となっていることから、マイクロセルを構成した場合に繊維体22中の繊維の移動等によりマイクロセルが崩れることが防止され、精度よくpH測定を行うことができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係るpH測定方法では、他の測定法と比較して少量の被検液でpH測定を行うことができるため、pH測定を簡便に行うことができる。
【0056】
また、繊維体22に照射する測定光の散乱光(反射光)を測定する場合には複雑な光学系や演算処理が必要となるのに比して、本実施形態のように透過光を測定する場合には光学系や演算部を単純化することができるため、pH測定装置100を低コストで簡便に作成することができる。
【0057】
また、本実施形態のpH測定方法では、空隙部23に開孔27を設けた後にpH測定を行うことにより、毛細管現象による付着効果を一層高めることができ、被検液を繊維体22に満遍なく付着させることができると共に被検液が開封部分に逆流することを防ぐことができる。また、繊維体22に過剰に付着している場合には過剰な被検液を取り除くことができるため、繊維体22に付着させる被検液の量を一定に保つことができるため、より高い精度でpH測定を行うことができる。
【0058】
さらに、本実施形態のpH測定用サンプル200及びこのpH測定用サンプル200を用いたpH測定方法によれば、繊維体22に被検液を付着させるために外装袋21の収容部26を開封するまでは、繊維体22は外装袋21により密封されている。このため、繊維体22にあらかじめ吸着されているpH指示薬の劣化を防ぐことができ、pH測定用サンプル200を予め十分量作成しておいた場合にも、使用時に高い精度でpH測定を行うことができる。したがって、本実施形態のpH測定用サンプル200及びpH測定装置100を、本実施形態に係るpH測定方法に適用するpH測定用キットとして提供することができる。
【0059】
以上、本発明を実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態に係るpH測定方法では、pH測定用サンプル200をpH測定用サンプルホルダ110に収容した後に開孔針14により開孔を設けたが、pH測定用サンプル200を収容する前に開孔を設ける態様としてもよい。
【0060】
また、上記実施形態のpH測定装置100では、pH測定用サンプルホルダ110が第一の支持部材10と第二の支持部材11とからなり、ヒンジ16を回動させてpH測定用サンプル200を収容する構成について説明したが、他の機構によりpH測定用サンプル200をpH測定用サンプルホルダ110に収容する構成としてもよい。この場合、例えば、開孔針14を固定治具13に出没可能にし、pH測定用サンプル200をpH測定用サンプルホルダ110にセットした後に、開孔針14を動かすことによりpH測定用サンプルホルダ110に保持されたpH測定用サンプル200の空隙部23に開孔を設けるという構成にすることもできる。
【0061】
さらに、上記実施形態のpH測定用サンプル200では繊維体22として1枚のシートからなる繊維体を用いたが、複数枚のシートを互いに接するように外装袋21の収容部26に配置する構成としてもよい。この場合、例えば、外装袋21の開封時に外部に露出されるシートにはpH指示薬を吸着させずに他方のシートにのみpH指示薬を吸着させておき、pH指示薬を吸着させたシートへ測定光を照射することによりpHを測定する構成とすることにより、被検液を繊維体22に付着させる際に外部の被検液に繊維体からpH指示薬が溶出することを防ぐことができる。これによれば、例えば、人体の口腔内の唾液を被検液として、口腔内の唾液をpH測定用サンプル200の繊維体22に直接付着させてpH測定を行う場合に、口腔内へのpH指示薬の溶出を防ぐことができる。
【0062】
また、上記実施形態のpH測定用サンプル200は、pH測定用サンプルホルダ110に収容した際に空隙部23の上部に収容部26が配置されるような構造であるが、pH測定用サンプルホルダ110に収容した際に空隙部23が収容部26に対して下方となるような構造を有する他の構造としてもよい。図10は、pH測定用サンプルの別の変形例を示す平面図である。図10のpH測定用サンプル202のように、繊維体22が収容される収容部26の横方向に仕切部24により仕切られた空隙部23を設け、収容部26に対して空隙部23が下方となるような構成とすることもできる。このpH測定用サンプル202用いてpH測定を行う場合には、pH測定装置100のpH測定用サンプルホルダ110にpH測定用サンプル202を収容した際に、pH測定用サンプル202の空隙部23に開孔を設けることができるように、開孔針14を移動させることが好ましい。また、その場合には、例えばヒンジ16をpH測定装置100の側面(図5の紙面手前側又は紙面奥側)に設けてpH測定用サンプル202をpH測定装置100の側面からpH測定用サンプルホルダ110に収容する構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の好適な実施形態に係るpH測定方法に用いられるpH測定用サンプルの正面図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】図1の分解斜視図である。
【図4】pH測定用サンプルの変形例を示す分解斜視図である。
【図5】本発明の好適な実施形態に係るpH測定装置の概略構成図である。
【図6】図1のpH測定用サンプルへの被検液の付着方法の説明図である。
【図7】被検液を付着させたpH測定用サンプルのpH測定用サンプルホルダへの収容方法を説明する図である。
【図8】pH測定時のpH測定装置及びpH測定用サンプルを示す概略構成図である。
【図9】本実施形態に係るpH測定用サンプルを用いた場合の効果の説明図である。
【図10】pH測定用サンプルの別の変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0064】
10…第一の支持部材、11…第二の支持部材、12…光源、13…固定治具、14…開孔針、15…受光部、21…外装袋、22…繊維体、23…空隙部、24…仕切部、25…誘導路、26…収容部、27…開孔、100…pH測定装置、110…pH測定用サンプルホルダ、200…pH測定用サンプル。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH指示薬を吸着させたシート状の繊維体と、
前記繊維体を収容する収容部及び該収容部と仕切部により仕切られた空隙部を有する光透過性の外装袋と、
前記仕切部に設けられ前記収容部と前記空隙部とを接続する誘導路と、
を備えることを特徴とするpH測定用サンプル。
【請求項2】
前記繊維体の吸水度が6.0〜30.0cmであることを特徴とする請求項1記載のpH測定用サンプル。
【請求項3】
前記繊維体の繊維径が0.001〜500μmであり、空隙率が20〜99%であることを特徴とする請求項1又は2記載のpH測定用サンプル。
【請求項4】
前記外装袋は、pH測定のために前記繊維体に照射する光の波長において、当該光の透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のpH測定用サンプル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のpH測定用サンプルを用いて被検液のpHを測定するpH測定装置であって、
前記pH測定用サンプルに測定光を照射する光源と、
前記光源から出力された測定光のうち前記pH測定用サンプルを透過した光を受光する受光部と、
前記光源から出力された測定光と前記受光部で受光した測定光との関係から光透過率を測定する測定部と、
前記光源と前記受光部との間に前記pH測定用サンプルを配置するためのpH測定用サンプルホルダと、
を備え、
前記空隙部が前記収容部に対して下方となるように前記pH測定用サンプルホルダ内に前記pH測定用サンプルを収容したとき、前記光源と前記受光部とが前記収容部に対向した位置にあることを特徴とするpH測定装置。
【請求項6】
前記pH測定用サンプルホルダは、前記pH測定用サンプルの前記空隙部に開孔を設ける開孔手段を備えることを特徴とする請求項5記載のpH測定装置。
【請求項7】
前記光源と前記pH測定用サンプルとの間に、前記光源から出力された光のうち特定の波長域の光のみを透過させるフィルタを備えることを特徴とする請求項5又は6記載のpH測定装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のpH測定用サンプルを用い、前記外装袋の前記収容部を開封し、前記繊維体に前記被検液を付着させ、前記繊維体に光を照射した際の光透過率を測定することにより被検液のpHを測定するpH測定方法であって、
前記外装袋の前記空隙部に開孔を設ける開孔工程を備えることを特徴とするpH測定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−244047(P2009−244047A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90053(P2008−90053)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】