説明

pH調節済みの常温乾燥無機塗料組成物とその製造方法及びその使用

【課題】アルコキシシランを加水分解した無機塗料組成物の可使時間を増やし、硬化時間を減らし、常温乾燥が可能となるに加え、特別な制約なしに一般に誰でもコート作業を行える常温乾燥無機塗料組成物とその製造方法及びその使用を提供する。
【解決手段】一般式RSi(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは0〜3である)で表わされるオルガノアルコキシシラン1〜40重量%と、水または有機溶媒を分散媒とするコロイド酸化物を固形分に換算した0.5〜20重量%と、脂肪族低級アルコール0.1〜70重量%と、有機酸または無機酸0.1〜3重量%と、無機充填剤0.01〜20重量%と、無機顔料0.01〜40重量%と、アルカリ溶液、緩衝溶液を単独または併用したpH安定化剤0.1〜3重量%とを含有する常温乾燥無機塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH調節済みの常温乾燥塗料組成物とその製造方法及びその使用に係り、より詳しくは、金属、非金属、ガラス、プラスチック、コンクリート、スレートなどの表面を被覆して優れた建築用内外装材塗膜を形成する無機塗料組成物とその製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属、コンクリート、ガラス、プラスチック、紙などの製品の表面を被覆、硬化して綺麗な美装性、耐熱性、耐候性、耐汚染性、高硬度、耐水性、密着性、耐食性、耐久性、耐冷熱性などを与える機能性無機塗料が、普及して様々な分野に適用されており、既に特開昭51−2736号公報、特開昭53−130732号公報、特開昭64−168号公報、韓国特許公開第2000−0010246号公報などに開示されている。
【0003】
しかし、上記開示の無機塗料組成物の場合、無機塗膜として完全な物性を得るためには熱処理(最小50℃以上)を必要とし、このため、焼付(熱処理)作業に必要な別途の施設拡充、装備の制約及び製造コストの増大が避けられない。
【0004】
有機酸または無機酸を投与してコロイドpHを変えて加水分解する金属アルコキシド系無機塗料組成物は、韓国特許公開第1990−0009898号公報にも開示されている。しかしながら、この方法は、有機酸または無機酸投与に局限されていることから、主剤と硬化剤が混合された熟成液塗料が酸性であるため、縮重合反応により可使時間が短くなり、アルカリ性を有する顔料や充填剤のpH影響により数日内にゲル化しやすくなり、変質してしまうという欠点がある。また、硬化剤に有機酸または無機酸を加えて主剤を加水分解する方法であるので、別途の熟成時間と攪拌を必要とし、一般初心者が熟成、使用するには不適当である。
【0005】
特開平10−268772号公報にもシリコンアルコキシドを主成分とする室温付近で硬化するコート剤が提案されている。しかし、これは、単に硬化触媒のみを使用するため、塗料貯蔵安定性に劣り、コート膜に亀裂が生じやすい。なお、僅かな湿度変化によっても硬化時間が大きく左右されるという欠点がある。
【0006】
韓国特許公開第1999−0007963号公報にも室温硬化と加熱硬化の両方とも可能なコート組成物が提案されていて、アルコキシシランを加水分解したオリゴマー溶液とアクリレートエステル及びメタクリレートエステルの共重合体であるアクリル樹脂を用いる方法が開示されている。この方法は、pH変化により可使時間が短くなり、多量の有機物質が含まれていて硬度、耐候性、耐熱性に劣る。
【0007】
上記のような無機塗料組成物のうちアルコキシシランを加水分解した塗料のほとんどは、酸性−弱酸性領域のpHを有するが、この点から、縮重合反応が起こり続けて塗料の可使時間が短くなるため、施用に困難が生ずる。
【特許文献1】特開昭51−2736号公報
【特許文献2】特開昭53−130732号公報
【特許文献3】特開昭64−168号公報
【特許文献4】韓国特許公開第2000−0010246号公報
【特許文献5】韓国特許公開第1990−0009898号公報
【特許文献6】特開平10−268772号公報
【特許文献7】韓国特許公開第1999−0007963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題点を解消するためのもので、その目的は、アルコキシシランを加水分解した無機塗料組成物にアルカリ溶液又は緩衝溶液の中から選ばれた1種以上のpH安定化剤を添加して塗料のpHを保持及び調節することにより、可使時間を増やし、硬化時間を減らし、常温乾燥が可能となるに加え、特別な制約なしに使用者は誰でもコート作業を行える常温乾燥無機塗料組成物とその製造方法及びその使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式RSi(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基であり、nは0〜3である)で表わされるオルガノアルコキシシラン1〜40重量%と、水または有機溶媒を分散媒とするコロイド酸化物を固形分に換算した0.5〜20重量%と、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールよりなる群から選ばれた1種以上の脂肪族低級アルコール0.1〜70重量%と、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸よりなる群から選ばれた1種以上の有機酸または無機酸0.1〜3重量%と、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウムウィスカー、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、シリカ−アルミナのウィスカー、ガラス繊維、炭素繊維の微粉末、多孔性無機抗菌微粉末、無機防錆剤よりなる群から選ばれた1種以上の無機充填剤0.01〜20重量%と、ルチル型酸化チタン顔料および雲母−酸化チタン系の無毒性パール顔料の中から選ばれた1種以上の無機顔料0.01〜40重量%と、pHを中性領域に変換固定するpH安定化剤0.1〜3重量%とを含有する常温乾燥無機塗料組成物よりなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無機塗料組成物は、非金属、金属、コンクリート、スレートなどの表面を被覆して綺麗な美装性、耐熱性、耐候性、耐汚染性、高硬度、耐水性、密着性、耐食性、耐久性、耐冷熱性などを付与する機能性塗料であって、優れた建築用内外装材塗膜を形成でき、使用者なら誰でも特別な装備なしに開封後、即時そのままで使用できる。
【0011】
本発明では最終反応物がセラミック化して無機質塗膜を形成し、該無機質塗膜は、物理的、化学的に安定であるだけではなく、有機塗料とは異なり、人体に害を与える環境ホルモンや揮発性有機物(VOCs)をほとんど発散しない、環境にやさしい要件を備えている。
【0012】
また、本発明の無機塗料組成物は、2005年1月27日(社)韓国空気清浄協会の“親環境建築資材認証”において総揮発性有機化合物(TVOC:Total Volatile Organic Compounds)(mg/mh):0.007 ホルムアルデヒド(HCHO)(mg/mh)で表わされて最優秀等級を獲得し(認証番号:HB165F05−01)、遠赤外線放射率0.916、放射エネルギー(W/m)7.79×10を有して有益な遠赤外線を多量放出し、韓国原糸織物試験研究院から、塗料の耐黴試験(KS M 5000、試験方法3431)において最優秀等級の10等級を公認され、難燃試験においても難燃1等級を認められるなど優れた物性及び特性を備えている。
【0013】
さらに、本発明の無機塗料組成物は、緩衝溶液を添加して該組成物のpHを安定化し、貯蔵能力を大幅に向上させることができ、さらに常温乾燥が可能であるため、既存の無機組成物の塗膜を得るための熱硬化(焼付)過程が不要になる。その結果、消費者は安価で高効率な塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の無機塗料組成物の製造工程を示すブロック図である。
同図に示すように、本発明の無機塗料組成物は、アルコキシシランにコロイド酸化物と有機酸または無機酸を入れて反応させ、前記反応液にアルコール、充填剤及び顔料を入れ、平均粒度10μm以下になるようにボールミル(Ball Mill)、サンドミル(Sand Mill)などの粉砕機を用いて攪拌した後、反応混合物をアルコールで洗浄し、アルカリ溶液、緩衝溶液を入れて塗料のpHを安定化し、その後、沈殿物の発生を防止するようにそれを攪拌することにより製造される。
【0016】
このように本発明の無機塗料組成物は、1液型を基本とするが、必要に応じては顔料部と樹脂部とよりなる2液混合型無機塗料であって、金属アルコキシシランを加水分解し、pH安定化剤としてpH7.5〜10のアルカリ溶液または、共役酸(conjugate acid)とその共役塩基(conjugate base)とよりなるpH6.5〜7.3の緩衝溶液(buffer solution)を単独または併用して0.1〜5重量%添加することにより、pHを安定化することができる。すなわち、充填剤及び顔料を、アルコール類を溶剤としてボールミル、サンドミルを用いて攪拌した顔料部と、アルコキシシランとコロイド酸化物に有機酸または無機酸を添加して反応させた後、アルカリ溶液及び緩衝溶液を入れた樹脂部とよりなる2液混合型として用いることができる。このような2液混合型無機塗料は、貯蔵期間が一層長くなる。
【0017】
前記アルコキシシランは、一般式RSi(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは0〜3である)で表わされるもので、アルコキシシランの代表的な例としてメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、 n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどが挙げられる。前記アルコキシシランは、前記物質から選ばれた1種以上を併用できる。
【0018】
前記コロイド酸化物は、アルコキシシランを加水分解するために添加されるもので、水および/または有機溶媒を分散媒としており、耐磨耗性を与え、酸性コロイドと塩基性コロイドとに大別される。
【0019】
前記酸性コロイドを用いると、別量の有機酸または無機酸の添加なしにアルコキシシランの加水分解が行われるため、加水分解後、アルカリ溶液又は緩衝溶液の1種以上を用いて組成物のpHを安定化し、硬化速度を調節することができる。代表的な酸性コロイドには、日産化学のST−O、O−33、Alzol−100、Alzol−200、NAYCOL 2034DI、LUDOX SK、TMA、CL、日本触媒化成化学(株)のSNなどがある。
【0020】
このような酸性コロイドを用いる場合、塗料組成物は酸性となる。酸性、弱酸性の加水分解されたアルコキシシラン塗料組成物は、縮重合反応が起こり続けて、塗料の可使時間が短くなるという欠点がある。また、顔料、無機充填剤などによりpHが変わりやすいため、加水分解後の組成物は、可使時間が一層短くなる。塗料の可使時間後には、塗膜が硬化しにくくなり、塗装性低下、光沢低下、物性低下などの様々な問題が生じる。かかる問題点は、アルカリ溶液又は緩衝溶液の中から選ばれた1種以上を添加してpHを調節することにより解消することができる。
【0021】
前記塩基性コロイドは、酸性コロイドとは異なり、有機酸または無機酸を添加してアルコキシシランを加水分解する必要がある。このとき、添加される有機酸または無機酸には、酢酸、ギ酸、炭酸、リン酸、シュウ酸、硫酸、硝酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸などがあり、これらのうち揮発性に優れた酢酸、ギ酸が好ましい。添加量は0.01〜3重量%である。0.01%以下にすると、加水分解反応が起こりにくくなり、3%以上にすると、急激な反応が起こって、可使時間が低下し、有機酸の独特な匂いで刺激的なものになる。前記のような塩基性コロイドには、日産化学のST−20、ST−30、ST−40、LUDOX HS−30、HS−40、日本触媒化成工業(株)SI−45P、SI−80などがある。
【0022】
前記塩基性コロイドに有機酸または無機酸を入れて強制的に酸性コロイドにした後、アルコキシシランを加水分解し、アルカリ溶液、緩衝溶液を入れる。アルカリ溶液、緩衝溶液による安定化、常温乾燥化作業は、酸性コロイドの場合と同様にして行う。
【0023】
前記緩衝溶液は、組成物全体に対する安定化、常温硬化を目指して添加するものであって、弱酸とその塩の混合溶液または弱塩基とその塩の混合溶液などは、少量の酸やアルカリを加えてもまたは水を加えて希釈するとしても、溶液のpH変化はほとんどないという特性を有している。かかる緩衝溶液は、中性または中性に近いものであり、塗料のそれ以上の縮重合反応を防止して、塗料の可使時間を大幅に増やす。また、組成物の塗布時には、緩衝溶液中の有機酸が塗膜から急激に揮発してしまい、塗膜がアルカリ性となり、常温乾燥が可能になる。
【0024】
前記緩衝溶液は、pH6.5〜7.3、好ましくはpH6.8〜7.0を有する。pH6.5未満になると、塗料の縮重合反応が起こり続けて、塗料の可使時間が短くなり、pH7.3以上になると、反応が粒子形態で起こってゲル化しやすくなるという不具合がある。
【0025】
前記緩衝溶液を用いる理由は二つある。一つは、前述した如くpHを安定化して塗料中のアルカリ性を有する顔料や充填剤、コロイド酸化物による塗料のpH変化による塗料の変質を防ぐためであり、もう一つは、組成物を塗装した場合、緩衝溶液の共役酸が揮発しやすくなるからである。共役酸が急激に揮発すると、緩衝溶液としてのpH安定化機能が喪失し、このため、塩基性塩または共役塩基のみが残ることになり、この塩基のために塗膜がアルカリ化される。アルカリ化された塗膜は、容易にゲル化して硬化することから、常温乾燥型塗料に向いている。別途の焼付装置なしでも常温(10〜30℃)下で塗装してから約30分が経過すると、手で触ることができる指触硬化状態となり、約5日が経つと、完全な硬化塗膜が得られる。
【0026】
前記緩衝溶液に用いる酸には、酢酸、ギ酸、炭酸、リン酸、シュウ酸、硫酸、硝酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸などがあり、できる限り弱酸(pH3〜6.5)を用いたほうが良い。強酸(pH1〜3)を用いる場合は、本発明が必要とするpH6.5〜7.3の緩衝溶液が得られにくく、緩衝領域(buffer region)から外れやすいので、塗料の安定性を確保しにくい。また、強酸のほとんどは、少量であっても人体に有害で且つ刺激的であるため、避けたほうが良い。つまり、人体に刺激的ではなく揮発しやすい酢酸またはギ酸を用いるのが好ましい。
【0027】
緩衝溶液の製造の際、酸と共に添加するアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩には、酢酸カルシウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸カリウム、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウムなどがある。これらのうち揮発しやすく、中性の緩衝溶液を製造しやすい酢酸金属塩とギ酸金属塩が好ましい。硫酸塩や硝酸塩類は共役酸として硫酸、硝酸を使用するが、有害性があるので好ましくない。
【0028】
最も好ましくは、アルキル基の少ない酢酸(CHCOOH)とその共役塩基である酢酸カリウム(CHCOOK)塩を混合し、それをイオン水に溶解させて用いるか、ギ酸(HCOOH)とその共役塩基であるギ酸ナトリウム(HCOONa)またはギ酸カリウム(HCOOK)塩を混合し、それをイオン水に溶解させて得る。緩衝溶液は、塗料組成物全体のうち0.1〜5重量%の範囲内で添加し、好ましくは0.1〜3重量%の量で添加する。0.1重量%未満になると、pHを安定化、固定化せず、顔料や充填剤のアルカリ性のために塗料の全体pHが変わりやすくなり、5重量%を超えると、塗膜の耐水性が劣化し、独特な有機酸の匂いで作業時に不快になるおそれがある。
【0029】
実際緩衝溶液は、数え切れないほどの種類があるが、このような緩衝溶液を実施例によって例示的に説明すると、下記のとおりである。
【0030】
実施例1
約pKa6.1のHCO(炭酸)でpH6.8の緩衝溶液を製造する場合、炭酸はpKa6.1を基準としてHCOとHCOの二つの形で存在し、HCOは共役酸、HCOは共役塩基である。
【0031】
酸⇔塩基+H(陽子)
【0032】
このような関係にある酸は共役酸、塩基は共役塩基という。共役酸(陽子を塩基に与える化学種(イオンまたは中性分子))と共役塩基(陽子を受け取る化学種(中性分子またはイオン))が同量混ぜているときのバッファpHは、pKa値と同一である。すなわち、HCOとHCOが同量であれば、pHはpKaと同様に6.1となり、pH6.8の緩衝溶液を得るためには、当然共役塩基が共役酸よりも多くある必要がある。その量は、ヘンデルソン・ハッセルバッハの式(Henderson Hassellbach equation)により求めることができる。
【0033】
pH=pka+log(共役塩基/共役酸)
pKa=6.1、所望のpH=6.8であることから、6.8=6.1+log(共役塩基/共役酸)
log(共役塩基/共役酸)=0.7、(共役塩基/共役酸)=5程度である。
【0034】
よって、炭酸からは、共役塩基(HCO):共役酸(HCO)=5:1の割合で混合し、所望のpH6.8の炭酸緩衝溶液を得ることができる。
【0035】
実施例2
他の緩衝溶液として有機酸+アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いることができる。酢酸とその塩を用いてpH6.8の緩衝溶液を製造するとき、共役酸である0.1M酢酸溶液100mlとその塩である0.1M酢酸ナトリウム溶液100mlを製造し、どちらか一方の溶液を基準溶液とし、他方の溶液を徐々に注ぎながらpH6.8に合わせることができる。
【0036】
この二つの物質を含有する溶液は、塗料から徐々に放出される顔料や充填剤の酸や塩基を中和することができる。
【0037】
CHCOOH+HO⇔CHCOO+H(イオン化平衡)
【0038】
もし、緩衝溶液が加えられた塗料に酸が添加されると、添加HはCHCOOと反応してCHCOOHとなり、溶液のpHがほとんど変わらない。
【0039】
CHCOO+H→CHCOOH
【0040】
万が一塩基が緩衝溶液に添加されると、添加OHはHと中和反応してHが減少することになり、平衡が右の方に移動して溶液のpHがほとんど変わらない。
【0041】
CHCOOH+OH→CHCOO+H
【0042】
上記アルカリ溶液は、塗料のpHを中性に合わせて可使時間を増やすために添加するものである。酸性コロイドを用いて組成物を製造する場合、少量の緩衝溶液のみでは中性(pH6.5〜7.3)になりにくい場合(強酸性)が発生し、この場合は別途(0.01〜5重量%、好ましくは0.01〜2重量%)のアルカリ溶液(pH7.5〜10)を添加して中性化することにより、可使時間を増やす。前記代表的なアルカリ溶液としては、アンモニア水、炭酸ナトリウム溶液、炭酸カルシウム溶液、水酸化マグネシウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、水酸化バリウム溶液、水酸化リチウム溶液などが挙げられる。このとき、強アルカリ性溶液は、人体に害を及ぼすばかりでなく、極少量の添加でpHが変わることから、塗料を中性領域に合わせることが容易ではないというという問題点がある。このため、弱アルカリ溶液であるアンモニア水または炭酸ナトリウム溶液を用いるのが好ましい。
【0043】
前記アルカリ溶液や緩衝溶液は、両方とも無機塗料組成物のpHを安定化するものであるが、緩衝溶液のほうが更に好ましい。なぜなら、組成物中の顔料や充填剤の影響をうけ、塗料のpHが変わる可能性が高いが、緩衝溶液はこのような顔料や充填剤の影響をほとんど受けずにpHを保持できるからである。
【0044】
前記アルコールは分散溶媒として用いられるもので、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどよりなる群から選ばれた1種または2種以上が用いられる。
【0045】
前記無機充填剤は、塗膜硬度の向上、塗膜亀裂の防止、塗料沈降の防止などの理由で添加されるもので、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウムウィスカー、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、シリカ−アルミナなどのウィスカー、ガラス繊維、炭素繊維などの微粉末、多孔性無機抗菌微粉末(韓国特許第145990号参照)、無機防錆剤などよりなる群から選ばれた1種または2種以上が用いられる。
【0046】
通常、前記無機顔料は、幅広く市販されている平均粒径0.03〜20μmのルチル(Rutile)型酸化チタンなどの無機顔料、雲母−酸化チタン系などの無毒性パール顔料、アルミニウムペースト、ステンレスペーストなどよりなる群から選ばれた1種または2種以上が用いられる。
【0047】
本発明の無機塗料組成物は、金属、非金属、コンクリート、セメント2次製品、ガラス、プラスチック、紙などの被塗物に塗装して、耐熱、耐候、耐水、耐食、高硬度、耐久、耐汚染、美装効果を必要とするすべての材料に適用でき、金属の代表的な例としては、アルミニウム及びアルミニウム合金、ステンレス鋼合金、亜鉛溶融/メッキ鋼板、アルミニウム溶融/メッキ鋼板、チタン鋼板などが挙げられる。
【0048】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0049】
実施例3
アルコキシシランにコロイドシリカ、コロイドアルミナ及び有機酸を入れた後加水分解反応し、次いで、アルコール(メタノール、イソプロピルアルコール、エタノール)全量の1/2を添加し、充填剤(無機抗菌剤、無機防錆剤、その他充填剤)、顔料を入れてボールミル、サンドミルなどを用いて平均粒径10μm以下になるように攪拌し、反応混合物を残りの1/2のアルコールで洗浄した後、緩衝溶液を入れ、沈殿物が生じないように充分攪拌する。平均粒径が10μm以上になると、美装性及び耐汚染性が劣る。塗料組成物を塗装するときは、沈殿物が生じないようにかき混ぜるか攪拌して用いる。
【0050】
実施例4
アルコキシシランにコロイドシリカ、コロイドアルミナ及び酸を入れた後加水分解反応し、次いで、アルコール全体の1/3を添加した後、緩衝溶液を入れて樹脂部を形成する。次に、アルコール全体の1/3に充填剤(無機抗菌剤、無機防錆剤、その他充填剤)、顔料を入れ、粒度10μmになるようにボールミル、サンドミルなどを用いて攪拌し、混合物を残りの1/3のアルコールで洗浄して顔料部を生成する。次いで、塗装作業時に前記樹脂部と顔料部を混合して一様にかき混ぜた上で塗装する。
【0051】
前記実施例3及び実施例4によって形成された無機塗料被膜形成組成物の組成比を表1に示し、かかる組成物のpHによる可使時間と硬化時間に対する実験結果を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表中の各符号はそれぞれ、*a)日本日産化学工業(株)Alzol−100
*b)ギ酸(Formic Acid)(HCOOH=46.03)
*c)大韓民国特許第145990号、多孔性無機抗菌微粉末
*d)GERMANY NYCO MINERALS,INC.Wollastonite
*e)日本大塚化学薬品(株)ティスモD及びGERMANY Degussa Aloxcide-C
*f)日本日産化学工業(株) Alzol−200
*g)酢酸(Acetic Acid)(CHCOOH=60.05)
*1)日本日産化学(株)SNOWTEX −30
*2)日本日産化学(株)SNOWTEX −40
*3)USA DuPont Ludox collidal silica HS−40
*4)USA DuPont Ludox collidal silica CL−X
*5)日本触媒化成工業(株)SN
*6)日本触媒化成工業(株)OSCAL IPA−ST
*A)HCOOH+HCOOK+HO緩衝溶液
*B)CHCOOH+CHCOOK+HO緩衝溶液
*C)NHOH 3% アルカリ溶液
*D)NaCO3% アルカリ溶液
を表す。
【0054】
【表2】

【0055】
前記表2から、塗料のpHにより塗料の可使時間と硬化時間が大きく左右されることがわかる。種類によって異なるが、表2に示すようにアルカリ溶液、緩衝溶液を添加した組成物は、冷暗所において2.5ヶ月、最大3ヶ月まで貯蔵可能であり、それ以上の貯蔵期間を必要とする場合、前述した樹脂部と顔料部とに分けて保管すると、6ヶ月以上貯蔵することができる。一方、緩衝溶液を入れないM、N、O、Rの組成物の場合、可使時間が短いことはもとより、硬化時間が長いことがわかる。他方、アルカリ溶液だけを入れた組成物の場合、塗料のpHは安定化されているが、緩衝溶液またはアルカリ溶液を入れた組成物の場合に比べ、常温下での乾燥時間が長いことがわかる。
【0056】
また、前記表1の組成物を表3のように塗膜化して物性実験を行った。その結果を表4に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表中の各符号はそれぞれ、○:塗膜美観異常なし、△:微細な亀裂または微々たる腐食、
×:亀裂、剥離、腐食の発生(不良)、−:試験不可あるいは意味なし、を表す。
【0060】
*試験方法及び関連規格
−鉛筆硬度:鉛筆硬度試験(JIS K 5600 8.4.1(5)(b))
−光沢度試験:60°鏡面光沢度(JIS H 4001.6.6、JIS K 5400 8.4)
−接着力試験:1mm間隔の100/100厚テープで剥離(KS D 6711 6.3、JIS K 4001 6.3)
−屈曲性:7/16ψ 180°曲げ後、塗膜表面テープ剥離(JIS H 4001 6.4)
−耐衝撃性:500gの鋼球を高さ50cmのところから塗膜面へ落下(KS D 6711 6.5、JIS H 4001 6.5)
−耐熱性:電気炉に200℃/1時間(JIS K 5400 8.13)
−耐汚染性:[カーボン/水]塗布80℃/24時間後に流れ水で洗浄
−耐汚染性:[カーボン/ヴァスライン(vassline)/BC]溶液を塗布した後に流れ水で洗浄
−耐アルカリ性:5%の炭酸ナトリウムに24時間浸漬(JIS K 5600 8.21)
−耐酸性:5%の硫酸に24時間浸漬(JIS K 5600 8.22)
−CASS: 塩水噴霧(Salt spray)NaCl5%、CuCl0.26g/l、酢酸0.1ml連続噴霧48時間(JIS H 8681)
−耐塩水性:5%のNaClに240時間浸漬(JIS K 5600 8.23)
−ピンホール(pin hole):25℃、RH60±5%のピンホール溶液滴下(drop)/1時間、
−耐候性:Sunshine Weather Meter 1,000時間(JIS K 5600 9.8)
−難燃性:プロパンガス350cc/minの10分発煙係数(CA)電熱1.5kW(KS F 2271)
−耐沸騰水性:沸騰水(蒸留水)4時間浸漬(JIS 5600 8.20)
−耐水性:水道水に浸漬/720時間(JIS K 5600 8.19)
−耐溶剤性:ベンゼン、トルエンに12/15浸漬240時間
【0061】
このように物性は可使時間、塗料のpHとは大きく関係なく優れている。すなわち、塗料のpHの安定化のために添加されたアルカリ溶液や緩衝溶液は、物性にほとんど影響を及ぼさず、塗料の可使時間と塗膜乾燥時間にのみ影響を与えることがわかった。
【0062】
本発明は、上述した特定の好適な実施例に限定されるものではなく、請求範囲に請求される本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、当該発明の属する分野において通常の知識を有する者であれば、様々な変形実施が可能であることはもとより、このような変形が請求の範囲に含まれるということは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の製造工程を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式RSi(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは0〜3である)で表わされるオルガノアルコキシシラン1〜40重量%と、
水または有機溶媒を分散媒とするコロイド酸化物を固形分に換算した0.5〜20重量%と、
脂肪族低級アルコール0.1〜70重量%と、
有機酸または無機酸0.1〜3重量%と、
無機充填剤0.01〜20重量%と、
無機顔料0.01〜40重量%と、
アルカリ溶液、緩衝溶液を単独または併用したpH安定化剤0.1〜3重量%とを含むことを特徴とするpH調整済みの常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項2】
前記緩衝溶液は、共役酸とその共役塩基よりなるpH6.5〜7.3の範囲の溶液であることを特徴とする請求項1に記載のpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項3】
前記アルカリ溶液は、pH7.5〜10であることを特徴とする請求項1に記載のpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項4】
前記低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールよりなる群から選ばれた1種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項5】
前記有機酸または無機酸としては、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸よりなる群から選ばれた1種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項6】
前記無機充填剤としては、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウムウィスカー、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、シリカ−アルミナのウィスカー、ガラス繊維、炭素繊維の微粉末、多孔性無機抗菌微粉末、無機防錆剤よりなる群から選ばれた1種以上を添加することを特徴とする請求項1に記載のpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項7】
前記無機顔料としては、ルチル型酸化チタン顔料および雲母−酸化チタン系の無毒性パール顔料の中から選ばれた1種以上を添加することを特徴とする請求項1に記載のpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物。
【請求項8】
一般式RSi(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは0〜3である)で表わされるアルコキシシランにコロイド酸化物と有機酸または無機酸を入れて加水分解反応させる段階と、
前記反応液にアルコール、充填剤及び顔料を入れ、平均粒度10μm以下になるように粉砕機で攪拌する段階と、
前記攪拌後、反応混合物をアルコールで洗浄する段階と、
前記アルコール洗浄後、アルカリ溶液、緩衝溶液を単独または併用したpH安定化剤を入れて塗料のpHを安定化する段階とよりなることを特徴とするpH調整済み常温乾燥無機塗料組成物の製造方法。
【請求項9】
一般式RSi(OR4−n(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基を示し、nは0〜3である)で表わされるアルコキシシランにコロイド酸化物と有機酸または無機酸を入れてから加水分解反応を行い、前記加水分解された反応液にアルコールを添加し、アルカリ溶液、緩衝溶液を単独または併用したpH安定化剤を入れて樹脂部を形成する段階と、
アルコールに無機充填剤、顔料を入れ、粒度10μm以下になるように粉砕機で攪拌し、その後、アルコールで洗浄して顔料部を形成する段階と、
前記樹脂部と顔料部を混合する段階とよりなることを特徴とするpH調節済み常温乾燥無機塗料組成物の製造方法。
【請求項10】
前記無機塗料組成物の塗布により建築用内外装材の表面に塗膜を形成することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のpH調節済み常温乾燥無機塗料組成物の使用。


【図1】
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【公開番号】特開2006−265557(P2006−265557A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80904(P2006−80904)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(506097601)
【Fターム(参考)】