説明

pn接合型太陽電池およびその製造方法

【課題】 禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ半導体を光吸収層とする変換効率の高い太陽電池、及び、その製造方法を提供すること。
【解決手段】p型光吸収層の光入射側に、前記光吸収層よりも禁制帯幅の大きいn型半導体が積層したヘテロ接合型のpn接合の形成により、前記光吸収層は禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ太陽電池構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、禁制帯中に形成される局在準位、又は中間準位(中間バンドともいう。)を介した光吸収により、禁制帯幅よりも小さいエネルギーの光も有効に利用可能なpn接合型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の変換効率は、太陽光を吸収して生成されるキャリアの密度によって決定される光電流と、禁制帯幅によって決定される起電力に依存し、光電流と起電力のそれぞれが大きいほど、その変換効率は高くなる(非特許文献1)。
禁制帯幅よりも小さなエネルギーの光は吸収できないので、光電流を多くするためには禁制帯幅を小さくする必要があるが、逆に起電力を高くするためには、禁制帯幅を大きくする必要がある。したがって両者はトレードオフの関係となる。
【0003】
異なる禁制帯幅をもつ複数の半導体を積層したタンデム構造型太陽電池では、太陽光スペクトルにおいて有効に吸収できる波長範囲が増加するが、積層数は少数キャリアがpn接合を移動できる範囲内に限られること、および界面の増加によるキャリア捕獲の問題がある。
【0004】
禁制帯幅よりも小さいエネルギーの光も吸収して、光電変換に利用できる太陽電池材料として、禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ半導体が提案されている。図15は局在準位または中間バンドをもつ半導体のバンド図と、光吸収過程を示す図である。価電子帯から伝導帯への電子励起だけでなく、価電子帯から局在準位または中間バンド、および局在準位または中間バンドから伝導帯への電子励起が可能であるため、禁制帯幅よりも小さいエネルギーの光も吸収して自由キャリアを生成することができる。
禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ半導体を太陽電池としての利用した場合の光電変換は、2接合タンデム型太陽電池よりも高いことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
上記の禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ半導体として、バルクZn1-yMnyTe(y=0および0.12)に酸素原子(O)をイオン注入した後、KrFレーザー(波長248nm)を用いたパルスレーザーアニールによって混晶化させたZn1-yMnyTe1-xOx混晶(y=0および0.12、x=0〜0.0125)が作製され、O組成の増加によって中間バンドは1.77eVまで低エネルギー化、禁制帯幅は2.7eVまで高エネルギー化できることが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
上記のZn1-yMnyTe1-xOx(y=0および0.12、x=0〜0.0125)混晶作製技術は、バルク表面の組成を変化させる方法であるが、本発明者らにより、ZnTe基板上にZnTe1-xOx(x=0〜0.002)混晶薄膜が分子線エピタキシー法で作製され、O組成の増加とともに中間準位の低エネルギー化および禁制帯幅の高エネルギー化が観測されている(非特許文献4)。
【0007】
本発明者らにより、分子線エピタキシー法でZnTe1-xOx(x=0〜0.002)混晶薄膜を成長する際に、Nをアクセプターとしてドーピングすることにより、キャリア密度が1 ×1018cm-3、抵抗率が0.2Ωcmの低抵抗なp型化ができることが報告されている(非特許文献5)。
【非特許文献1】WILLIAM. SHOCKLEY 他1名、「Detailed Balance Limit of Efficiency of p-n Junction Solar Cells」Journal of Applied Physics(米国)、American Institute of Physics、1961年、Vol. 32、p.510-519
【非特許文献2】Antonio Luque 他1名、「Increasing the Efficiency of Ideal Solar Cells by Photon Induced Transitions at Intermediate Levels」Physical Review Letters(米国)、American Physical Society、1997年、Vol. 78、No. 26、p.5014-5017
【非特許文献3】K.M. Yu 他7名、「Diluted II-VI Oxide Semiconductors with Multiple Band Gaps」Physical Review Letters(米国)、American Physical Society、2003年、Vol. 91、No. 24、p.246403-1 - 246403-4
【非特許文献4】Y. Nabetani 他5名、「Epitaxial growth and optical investigations of ZnTeO alloys」physica status solidi a(独国)、Wiley-VCH、2006年、Vol. 203、No. 11、p.2653-2657
【非特許文献5】青木和正 他4名、「ZnTe:Oへの窒素ドープとその光学的、電気的特性評価」第54回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 p.337、2007年3月27日発行。講演日2007年3月28日、講演番号28p-T-7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ半導体材料を太陽電池に応用することができれば高い変換効率が得られ、エネルギーの有効利用に適している。しかし局在準位または中間バンドをもつ半導体材料は、混ぜ合わせることの困難な結晶による混晶が多く、太陽電池として動作可能な局在準位または中間バンドをもつ結晶を得ることはこれまでが困難である。また、半導体太陽電池においては、光吸収によって生成したキャリア(自由電子および正孔)をpn接合付近の電界によって分離し、自由電子はn型に、正孔はp型に移動させることが必要である。しかし、ZnTeを基本結晶とする半導体では自己補償効果のためにn型化が困難という課題がある。ここで自己補償効果とは、伝導型制御のために不純物(ドナーまたはアクセプター)をドープする際、半導体全体のエネルギーが低くなるように欠陥が発生し、不純物が放出する電子または正孔を捕獲する現象のことである。
【0009】
非特許文献3では、ZnMnTeへのO添加による中間バンドの形成は報告されているが、その電気的特性に関しては報告されておらず、伝導型および伝導率に関しては不明である。
また、非特許文献3では、局在準位または中間バンドを介した光吸収による自由キャリア生成の検証が報告されておらず太陽電池への応用は未解決である。
以上のように、禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつZnTeOやZnMnTeOを用いた太陽電池が望まれているが実現されてはいない。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記課題に鑑み、局在準位または中間バンドをもつ半導体を光吸収層とする太陽電池、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは種々検討の結果、p型およびn型両方の伝導型を実現することが困難な局在準位または中間バンドをもつ半導体光吸収層に、n型結晶が得られる半導体を接合させることにより、pn接合が形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。ZnTeは禁制帯幅2.26eVの直接遷移型の半導体であり、光吸収係数が大きい。ZnTeにおいてTe原子の一部をO原子と置換したZnTe1-xOx混晶では、Oの電気陰性度(3.5)がTeの電気陰性度(2.1)よりも大きいために、O原子は電子を束縛し、ZnTeの禁制帯中に局在準位を形成する。局在準位は母体ZnTeの伝導帯と反発相互作用するので、O組成を増加させる伝導帯はより高エネルギーにシフトし、局在準位はより低エネルギーにシフトするとともにエネルギー幅をもつ。
【0012】
非特許文献1から3に記載されている計算方法を用いると、O組成が2%のとき、図15において価電子帯から伝導帯への電子励起を生じさせる光吸収301は2.70eV、価電子帯から局在準位または中間バンドへの電子励起を生じさせる光吸収302は1.68eV、局在準位または中間バンドから伝導帯への電子励起を生じさせる光吸収303は1.02eVと見積もられる。非特許文献2に記載されている計算方法を用いると、これら3種類の光吸収を利用した太陽電池の理論変換効率は58%と見積もられる。
【0013】
本発明者らは、非平衡度が高い分子線エピタキシー技術および反応性の高い活性酸素を用いることにより、上述した混ぜ合わせることが困難なZnTe1-xOx混晶を成長し、局在準位または中間バンドをもつ半導体の作製を可能にした。しかしこの混晶はp型の電気伝導制御は可能であるが、n型化が困難である。種々検討の結果、局在準位または中間バンドをもつp型半導体光吸収層に、n型結晶が得られる半導体を接合させることにより、pn接合が形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明の太陽電池構造は、光吸収層の光入射側に、光吸収層よりも禁制帯幅の大きいn型層を積層したヘテロ接合型のpn接合であって、光吸収層は禁制帯中に局在準位または中間バンドをもっていることを特徴とする。上記のpn界面にバッファ層が挿入されてもよい。上記構成において、光吸収層はZnTeを母体としてOを含んだZnTe1-xOx混晶であって、O組成xは0〜5%であればよい。またn型層はZnOであればよい。上記の光吸収層においてZnTe1-xOx混晶に硫黄(S)やセレン(Se)を含んでもよい。
【0015】
この構造によれば、p型ZnTe1-xOx光吸収層は、それよりも禁制帯幅の大きなn型ZnO層に覆われているため、入射光はn型層で吸収されることなく、ZnTe1-xOx光吸収層に到達することができる。また、ZnTe1-xOx光吸収層で生成された自由キャリア(自由電子および正孔)はpn接合付近の電界によって分離し、自由電子はn型に、正孔はp型に移動させることができる。
【0016】
ヘテロ接合のpn界面では、界面準位によって自由キャリアがトラップされ、効率の低下につながる。これを抑制するために、界面にバッファ層を挿入することが望ましい。バッファ層はZnSやCdSなどが使用できる。
【0017】
本発明はp型ZnTe基板の表面を有機溶媒により洗浄、および/又はエッチングし、前記p型ZnTe基板の表面に気相状態の亜鉛、気相状態のテルル(Te)、及びラジカル酸素を分子線エピタキシー法(MBE)により反応させ、p型ZnTe1-xOx光吸収層を成膜し、次に、気相状態の亜鉛とラジカル酸素とを分子線エピタキシー法(MBE)により反応させ、前記p型ZnTe1-xOx光吸収層上にn型ZnO層を積層することを特徴とする。p型ZnTe1-xOx光吸収層を成膜する工程において、ラジカル窒素(N)を導入し、前記ラジカル窒素(N)が前記p型ZnTe1-xOx光吸収層のアクセプターとなることは好適である。また、前記n型ZnO層を形成する工程において、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、及び/又はインジウム(In)を導入し、前記ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)が前記n型ZnO層のドナーとなることは好ましい。前記ZnTe1-xOx光吸収層の成膜後、分子線エピタキシー法(MBE)により、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛(Zn)を原料とし硫化亜鉛(ZnS)のバッファ層を形成し、前記バッファ層上に分子線エピタキシー法(MBE)により、n型ZnO層を積層させることは好ましい。また、p型のオーミック電極を金(Au)、n型のオーミック電極をAlとすることは好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、局在準位または中間バンドをもつ半導体を光吸収層とする太陽電池、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の太陽電池を図面を参照して説明する。図1は、本発明に関わる第1の実態の形態による太陽電池のpn接合の断面を示す模式図である。本発明の第1の実態の形態である太陽電池のpn接合1は、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2が、それよりも禁制帯幅の大きいn型層3と接合しているヘテロ型のpn接合を有している。
【0020】
ここで、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2は例えばZnTeを母体として、そのTe原子をO原子で5%程度以下のO組成になるように置換したZnTeO混晶を用いることができる。母体のZnTeには、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)などを含んでもよい。また、p型光吸収層2よりも禁制帯幅の大きいn型層3は、例えばZnOを用いることができる。
【0021】
上記の第1の実態の太陽電池のpn接合は、図2に示すように、p型半導体基板5上に製造し太陽電池とする。p型半導体基板5としては、ZnTe、GaAs、GaP、Siなどが挙げられる。また、n型層3には、オーミックにn型層3と接続する電極6が形成されている。また、p型半導体基板5には、同様にオーミック電極7が形成されている。
【0022】
次に、本発明の太陽電池の第1の実態の形態の変形例を示す。図3は、本発明に関わる第2の実態の形態による太陽電池のpn接合の断面を示す模式図である。図において、図1で示した構造と異なる点は、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2と、それよりも禁制帯幅の大きいn型層3とのヘテロ界面に薄いバッファ層9が挿入されている点である。
【0023】
このバッファ層9は、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2よりも禁制帯幅が大きい層で形成しても良い。またこのバッファ層9は不純物を添加しない高抵抗層または不純物を添加したn型層で形成されてもよい。さらに、バッファ層9の格子定数は、p型光吸収層2の格子定数とそれよりも禁制帯幅の大きいn型層3の格子定数の間にあることが望ましい。
ここで、バッファ層9は、例えばZnSを用いることができる。またZnOSやZnOSeのような混晶を用いてもよい。またn型電気伝導をもたせるために、ドナーを添加してもよい。ドナーとしては、Ga、Al、Inなどが挙げられる。
【0024】
上記の第2の実態の太陽電池のpn接合は、図4に示すように、p型半導体基板5上に製造し太陽電池とする。p型半導体基板5としては、ZnTe、GaAs、GaP、Siなどが挙げられる。また、n型層3には、オーミックにn型層3と接続する電極6が形成されている。また、p型半導体基板5には、同様にオーミック電極7が形成されている。
【0025】
次に、上記構成の実施の形態1の太陽電池構造の作用を説明する。図5は本発明に関わる第1の実態の形態による太陽電池のpn接合のバンド図を示す。局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2とn型層3の伝導帯および価電子帯のエネルギー差をそれぞれΔEcおよびΔEvとする。ここで、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2がZnTe1-xOx、n型層3がZnOであれば、xが0.05以下のとき、ΔEcは1.3eV、ΔEvは2.3eVである。
【0026】
n型層3側からその禁制帯幅よりも大きいエネルギーをもつ光が入射すると、n型層3では吸収されず、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2まで到達して吸収される。光吸収によって生成された自由キャリアは、pn接合による電界によって分離されて、自由電子はn型に、正孔はp型に移動し、太陽電池としての動作を行うことができる。
ここで、局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2では、価電子帯から伝導帯への電子励起だけでなく、価電子帯から局在準位または中間バンド、および局在準位または中間バンドから伝導帯への電子励起が可能であるため、禁制帯幅よりも小さいエネルギーの光も吸収して自由キャリアを生成することができる。
【0027】
次に、上記構成の実施の形態2の太陽電池構造の作用を説明する。図6は本発明に関わる第2の実態の形態による太陽電池のpn接合のバンド図を示す。基本的な構造および各部の動作は実施の形態1の太陽電池と同様である。またバッファ層9は100nm以下と薄いため、生成されたキャリアはトンネルによって移動できるため、キャリアの分離を抑制することはない。
【0028】
局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層2とそれよりも禁制帯幅の大きいn型層3は、格子定数や結晶構造が異なるため、実施の形態1の太陽電池構造ではpn接合部に結晶欠陥による界面準位によって発生し、自由キャリアがトラップされ、効率の低下につながる。バッファ層9は、p型光吸収層2とn型層3の直接接合による結晶欠陥の抑制を緩和する効果をもつ。
【0029】
次に、本発明の太陽電池構造の製造方法である第3の実態の形態を示す。図7は製造方法に用いるMBEの構成を示す図である。MBE装置101は成長室102および試料交換室103の2室によって構成され、成長室102および試料交換室103はゲートバルブ104によって接続されている。半導体基板105は基板ホルダーおよび基板ヒーター106によって支持され、トランスファーロッド107によって成長室102および試料交換室103の間を移動できる。成長室102および試料交換室103はそれぞれターボ分子ポンプ108、109および油回転ポンプまたはドライポンプ110、111によって高真空に維持されている。また、成長室102には、電子銃112およびスクリーン113が備えられており、成膜中の結晶表面からの電子線回折像を観察することによって結晶表面の状態を調べることができる。
【0030】
成長室には、原料供給のために、OおよびN供給用プラズマセル114、Zn供給用クヌーセンセル115、Te供給用クヌーセンセル116、S用のZnS供給用クヌーセンセル117が備わっている。S原料としては、S単体よりも蒸気圧が低いZnS化合物原料を用いたほうが原料供給量の制御が容易である。また、各セルの原料噴出部にはシャッター118〜121が備わっており、各原料を独立して基板に供給することができる。さらに、半導体基板105の直前にメインシャッター122が備わっている。また、図7ではOおよびN供給用のプラズマセルは1つであるが、O用とN用にそれぞれにプラズマセルを設置してもよい。
【0031】
次に図8に示すOおよびN供給用プラズマセルへのガス供給ラインについて説明する。ガスボンベ202、203から出たO2およびN2ガスは、流量調整バルブ204、205を通して精密に流量を調整するためのマスフローコントローラー206、207に入る。マスフローコントローラー206、207を出たガスを、プラズマセル114に供給する場合はバルブ208またはバルブ209を開、バルブ210または211を閉にする。逆に、プラズマセル114に供給しない場合はバルブ208またはバルブ209を閉、バルブ210または211を開にする。このようにすれば、瞬時にしてプラズマセルに流入させるガスの種類および流量を制御することができる。
【0032】
プラズマセル114には、RF高周波(13.56MHz)電源212がインピーダンス整合器213を介して接続されており、セル内で誘導結合または容量結合させることにより、OまたはNプラズマを発生させ、成膜に有効なOラジカルまたはNラジカルを生成することができる。
また、プラズマセル底部にはビューポート214が備わっており、ビューポート214を通してセル内のプラズマ発光を分光することにより、生成している活性種やイオンを知ることができる。
【実施例】
【0033】
実施例としてMBE装置101により作成した太陽電池例について説明する。先ず、厚さが500μmで正孔密度が1×1018cm-3のp型ZnTe(001)面基板をアセトン、メタノールでそれぞれ5分ずつ超音波洗浄した後、臭素1.5%を含むメタノール中に浸し、30秒間エッチングを行った。その後、メタノールで洗浄し、フッ化水素酸3.0%を含む水中に浸し、30秒間エッチングを行った。エッチングが終了すると直ちに、試料交換室103に移して、高真空にする。なお、フッ化水素酸3.0%を含む水によるエッチング後は可能な限り素早く基板をMBE中で高真空にしないと、基板表面が酸化し、良質なZnTe1-xOx層を得ることができない。
【0034】
半導体基板105を試料交換室103から成長室102にトランスファーロッド107によって移動し、高真空中で基板ホルダー106に配置する。次に、シャッター118〜121およびメインシャッター122を閉じた状態で、半導体基板105を成膜温度である300〜350℃、Zn供給用クヌーセンセル115を309℃、Te供給用クヌーセンセル116を310℃、ZnS供給用クヌーセンセル117を920℃に昇温し、原料を加熱する。また、O2ガスボンベ202、N2ガスボンベ203から各ガスを供給し、バルブ204、205、210、211を開けて、排気側に流す。このとき、マスフローコントローラー206、207によりO2ガスは0.04ccm、N2ガスは0.06ccmになるように流量を制御しておく。
【0035】
各セルの温度およびガス流量が安定になると、バルブ210、211を閉じて、バルブ208、209を開けて、O2およびN2ガスをプラズマセル114に流す。RF高周波電源212より高周波50Wをプラズマセル114に供給し、プラズマを生成する。
上記の状態で、シャッター118〜120およびメインシャッター122を開けて、NドープZnTe1-xOxの成膜を行う。上記のセル温度および流量設定において、ZnTe1-xOxの成膜速度は1000nm/h、O組成xは0.001であった。ZnTe1-xOx層の厚さは1,000nmとした。
【0036】
上述した太陽電池4を作成する場合は、ZnTe1-xOx(x=0.001)の成膜後、Teのシャッター120およびバルブ209を閉じ、バルブ211を開け、Nの供給を停止する。マスフローコントローラー206によりO2の流量を0.7ccm、RF高周波(13.56MHz)電源212の電力を200Wにそれぞれ増加させ、ZnOの成膜を行う。上記の条件で成膜したZnO単層の成膜速度は100nm/h であった。またZnO層の厚さは200nmとした。
【0037】
上述した太陽電池10を作成する場合は、ZnTe1-xOx層を成膜した後、Teのシャッター120およびバルブ208、209を閉じ、バルブ210、211を開け、OおよびNの供給を停止する。また、RF高周波(13.56MHz)電源212からの電力供給を停止する。その後、ZnSのシャッター121を開けてZnSの成膜を行った。上記のセル温度において、ZnSの成膜速度は1000nm/h であった。ZnS層の厚さは50nmとした。所定の厚さの成膜が終了すると、ZnSのシャッター121を閉じ、バルブ210を閉じ、バルブ208を開けて、マスフローコントローラー206によりO2の流量を0.7ccm、RF高周波(13.56MHz)電源212の電力を200Wにして、ZnOの成膜を行った。
【0038】
半導体基板上へのZnTe1-xOx(x=0.001)、ZnOの成膜、またはバッファ層を挿入する場合はZnTe1-xOx (x=0.001)、ZnS、ZnOの成膜の後、MBE装置から製作した構造を取り出し、オーミック電極として裏面に金、表面にAlをそれぞれ真空蒸着により形成し、窒素雰囲気中で300℃の熱処理をすることにより、所定の太陽電池構造を作製した。
【0039】
ZnTe1-xOx(x=0.001)/ZnOやZnTe1-xOx(x=0.001)/ZnS/ZnOのような積層構造では、p型層およびn型層それぞれの電気的特性を調べることができないため、上記の条件で、ZnTe1-xOx(x=0.001)単層およびZnO単層をそれぞれ成膜し、それぞれの伝導型およびキャリア密度を室温において調べた。その結果、ZnTe1-xOx(x=0.001)はp型の電気伝導を示し、キャリア濃度は3×1018cm-3であった。ZnOはn型の電気伝導を示し、キャリア濃度は3×1019cm-3であった。
【0040】
上述した太陽電池4のX線回折測定スペクトルを図9に示す。X線源にはCuのkα1(波長1.5405Å)を用いた。ZnTe(002)面、(004) 面の回折とZnO(0002) 面の回折が生じていることから、ZnOは[0001]方向を向いて成膜していることがわかる。なお、ZnTe1-xOx(x=0.001)はO組成が極めて小さく、格子定数が基板であるZnTeとほぼ同じであるため、基板からの回折ピークと分離して見えていない。
【0041】
図10は、ZnTe1-xOx(x=0.001)のフォトルミネセンス(PL)を15Kで測定したスペクトルである。励起光源にはHe-Cdレーザー(波長325nm)を用いた。ZnTeの9Kにおける禁制帯幅に対応する2.39eV付近以外の発光に加えて、1.84eVから2.0eVおよび1.6から1.84eVにそれぞれ発光帯が観測された。これらは非特許文献4に記すように、それぞれZnTe中で孤立したO原子に捕獲された励起子の発光、およびZnTe中で3つ以上のO原子に捕獲された励起子の発光である。このことから、上記の成膜方法により、局在準位をもつ半導体が作製できることがわかる。
【0042】
図11は、ZnTe1-xOx(x=0.001)の光吸収スペクトルを室温で測定した結果である。ZnTeの室温における禁制帯幅2.26eVよりも低いエネルギーである1.8eVから2.1eVにおいて光吸収が生じていることが分かる。このことから、上記の成膜方法により、ZnTeの室温における禁制帯幅2.26eVよりも低いエネルギーの光も吸収する半導体が作製できることがわかる。
【0043】
図12は、本発明の実施の形態1の太陽電池構造4の光電流スペクトルを室温で測定した結果である。ZnTeの室温における禁制帯幅2.26eVよりも低いエネルギーである1.8eVから2.1eVにおいて光電流が生じていることが分かる。この光電流スペクトルにおいて、ZnTeの禁制帯幅2.26eVよりも低いエネルギーでのピークは、図11の光吸収スペクトルとほぼ一致する。このことから、上記の成膜方法により、ZnTeの室温における禁制帯幅2.26eVよりも低いエネルギーの光も吸収し、自由キャリアを生成する半導体が作製できることがわかる。
【0044】
図13(a)は、本発明の実施の形態1の太陽電池構造4(受光面積は6mm×6mm)の電圧と電流の関係を室温で測定した結果である。同図において、電圧は図2のZnO側のオーミック電極6に対するZnTe基板のオーミック電極7の電位である。順方向、逆方向ともにpn接合の特性を示し、整流性が得られていることがわかる。図13(b)は図13(a)の電圧および電流のゼロ付近を拡大したものである。光を照射しない場合には、電圧がゼロVのときに電流が流れないが、Xeランプ(150W)からの光を50cm離して照射した場合には、開放起電力68mV、短絡電流23μAが得られていることから、太陽電池としての動作をしていることがわかる。
【0045】
図14(a)は、本発明の実施の形態2の太陽電池構造10(受光面積は6mm×6mm)の電圧と電流の関係を室温で測定した結果である。同図において、電圧は図2のZnO側のオーミック電極6に対するZnTe基板のオーミック電極7の電位である。順方向、逆方向ともにpn接合の特性を示し、整流性が得られていることがわかる。図14(b)は図14(a)の電圧および電流のゼロ付近を拡大したものである。光を照射しない場合には、電圧がゼロVのときに電流が流れないが、Xeランプ(150W)からの光を50cm離して照射した場合には、開放起電力245mV、短絡電流40μAが得られていることから、太陽電池としての動作をしていることがわかる。またこの結果は、図13(b)と比較すると、開放起電力、短絡電流ともに増加していることがわかる。これは、ZnTe1-xOx(x=0.001)とZnO によって構成されるpn界面に形成される界面準位がZnSバッファ層を挿入することにより低減したためだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつ半導体材料を光吸収層に用いた高効率の太陽電池を製造することができる。
また、ヘテロ接合であるpn界面に薄いバッファ層を挿入することにより、界面準位の影響を低減して、開放起電力および短絡電流を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1の実態の形態による太陽電池のpn接合の断面を示す模式図
【図2】第1の実態の形態による太陽電池構造の断面を示す模式図
【図3】第2の実態の形態による太陽電池のpn接合の断面を示す模式図
【図4】第2の実態の形態による太陽電池構造の断面を示す模式図
【図5】第1の実態の形態による太陽電池のpn接合のバンド図
【図6】第2の実態の形態による太陽電池のpn接合のバンド図
【図7】太陽電池構造製造用MBE装置
【図8】OおよびN供給用プラズマセルへのガス供給ライン
【図9】第1の実態の形態による太陽電池構造のX線回折スペクトル
【図10】15Kで測定したZnTe1-xOx(x=0.001)のフォトルミネセンス(PL)スペクトル
【図11】室温で測定したZnTe1-xOx(x=0.001)の光吸収スペクトル
【図12】室温で測定した第1の実態の形態による太陽電池構造の光電流スペクトル
【図13】室温で測定した第1の実態の形態による太陽電池構造の電流−電圧の関係の光照射依存性 (b)は(a)の原点付近を拡大したもの
【図14】室温で測定した第2の実態の形態による太陽電池構造の電流−電圧の関係の光照射依存性 (b)は(a)の原点付近を拡大したもの
【図15】局在準位または中間バンドを介した光吸収
【符号の説明】
【0048】
1,8 太陽電池のpn接合の断面を示す模式図
2 局在準位または中間バンドをもつp型光吸収層
3 p型光吸収層よりも禁制帯幅の大きいn型層
4,10 太陽電池構造の断面を示す模式図
5 p型半導体基板
6 オーミック電極
7 オーミック電極
9 バッファ層
101 MBE装置
102 成長室
103 試料交換室
104 ゲートバルブ
105 半導体基板
106 基板ホルダーおよび基板ヒーター
107 トランスファーロッド
108,109 ターボ分子ポンプ
110,111 油回転ポンプまたはドライポンプ
112 電子銃
113 スクリーン
114 OおよびN用プラズマセル
115 Zn供給用クヌーセンセル
116 Te供給用クヌーセンセル
117 ZnS供給用クヌーセンセル
118〜121 シャッター
122 メインシャッター
201 OおよびN供給用プラズマセルへのガス供給ライン
202 O2ガスボンベ
203 N2ガスボンベ
204,205 流量調整バルブ
206,207 マスフローコントローラー
208〜211 バルブ
212 RF高周波(13.56MHz)電源
213 インピーダンス整合器
214 ビューポート
301 価電子帯から伝導帯への電子励起を生じさせる光吸収
302 価電子帯から局在準位または中間バンドへの電子励起を生じさせる光吸収
303 局在準位または中間バンドから伝導帯への電子励起を生じさせる光吸収

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型光吸収層の光入射側に、前記光吸収層よりも禁制帯幅の大きいn型半導体が積層されたpn接合型太陽電池であって、前記光吸収層は禁制帯中に局在準位または中間バンドをもつことを特徴とするpn接合型太陽電池。
【請求項2】
前記pn界面に前記光吸収層よりも禁制帯幅が大きいバッファ層が存在することを特徴とする請求項1に記載のpn接合型太陽電池。
【請求項3】
前記光吸収層はZnTe1-xOxであり、前記n型半導体はZnOであることを特徴とする請求項1又は2に記載のpn接合型太陽電池。
【請求項4】
前記光吸収層はZnTe1-xOxのXは0から1の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載のpn接合型太陽電池。
【請求項5】
前記バッファ層は、硫化亜鉛(ZnS)であることを特徴とする請求項2に記載のpn接合型太陽電池。
【請求項6】
前記光吸収層はアクセプターとして窒素(N)がドープされていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のpn接合型太陽電池。
【請求項7】
p型ZnTe基板の表面を有機溶媒により洗浄、および/又はエッチングし、前記p型ZnTe基板の表面に気相状態の亜鉛、気相状態のテルル(Te)、及びラジカル酸素を分子線エピタキシー法(MBE)により反応させ、p型ZnTe1-xOx光吸収層を成膜し、次に、気相状態の亜鉛とラジカル酸素とを分子線エピタキシー法(MBE)により反応させ、前記p型ZnTe1-xOx光吸収層上にn型ZnO層を積層することを特徴とするpn接合型太陽電池の製造方法。
【請求項8】
p型ZnTe1-xOx光吸収層を成膜する工程において、ラジカル窒素(N)を導入し、前記ラジカル窒素(N)が前記p型ZnTe1-xOx光吸収層のアクセプターとなることを特徴とする請求項7に記載のpn接合型太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記n型ZnO層を形成する工程において、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、及び/又はインジウム(In)を導入し、前記ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)が前記n型ZnO層のドナーとなることを特徴とする請求項7又は8に記載のpn接合型太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記ZnTe1-xOx光吸収層の成膜後、分子線エピタキシー法(MBE)により、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛(Zn)を原料とし硫化亜鉛(ZnS)のバッファ層を形成し、前記バッファ層上に分子線エピタキシー法(MBE)により、n型ZnO層を積層させることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のpn接合型太陽電池の製造方法。
【請求項11】
p型のオーミック電極を金(Au)、n型のオーミック電極をAlであることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のpn接合型太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−117431(P2009−117431A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285684(P2007−285684)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】